説明

振盪機

【課題】高湿度雰囲気での長時間の使用にも耐えることができ、恒温槽等の内部に収納された状態でも振盪数の変更等を行うことができるとともに、マグネットの脱調を抑制することができる振盪機を提供する。
【解決手段】作動手段を収納したケーシング14の天板上方にガイドベアリング16を介して振盪手段17を配設し、振盪手段17をマグネット26の吸引力によって作動手段に従動させて往復動させる振盪機において、ケーシング14を気密状態に形成し、作動手段の動作を制御する制御手段13をケーシング14とは別体に形成してケーブル12で接続することにより、振盪機本体11を恒温槽等の庫内に設置して制御手段13を庫外に設置できるようにした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、振盪機に関し、詳しくは、振盪手段に保持した試料を振盪させて細胞の培養や、試料の反応、溶解、混合等を行う振盪機に関する。
【背景技術】
【0002】
細胞の培養等に用いる振盪機として、振盪手段と作動手段とを固定テーブルを挟んで上下に分離して配設し、これら振盪手段と作動手段とにそれぞれマグネットを配設するとともに、前記振盪手段にキャスターを付設して該振盪手段を前記マグネットの吸引力によって前記作動手段に従動させることにより、作動手段にて振盪手段を往復動又は回転動させ、振盪手段に保持した試料を振盪させるように形成した振盪機が知られている(例えば、特許文献1参照。)。
【特許文献1】特開2003−304861号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
動物細胞を培養する際に、CO2インキュベータと呼ばれる恒温槽を使用することがある。このCO2インキュベータは、細胞と培地とを入れたシャーレを振盪機で撹拌しながら培養するためのもので、シャーレの周囲を炭酸ガスで覆い、かつ、高湿度で適温の環境を作り出す。したがって、CO2インキュベータの中で使用する振盪機には、高湿度の環境に耐える必要がある。
【0004】
しかしながら、従来の振盪機は、振盪手段の動作を制御する制御部が振盪機に一体に設けられているため、高湿度の環境では電気部品に異常が発生してしまうことがあった。また、CO2インキュベータ内に入れた後は、制御部を操作することができないため、培養途中で撹拌条件を変更することができなかった。
【0005】
さらに、マグネットを介して振盪手段を往復動又は回転動させる場合、作動手段の動きを振盪手段に伝達できるのは、マグネットの磁力の範囲内であるため、例えば負荷重量が大きい場合や振盪数が大きい場合等に、その伝達限界を超えてしまい、マグネットが脱調することがあった。一旦脱調域に入ると、負荷を減少させたり、振盪数を小さくしたりしない限り回復しないため、CO2インキュベータ内のように、目視で確認できない状態で振盪機を運転することは不安が残る。
【0006】
そこで本発明は、高湿度雰囲気での長時間の使用にも耐えることができ、恒温槽等の内部に収納された状態でも振盪数の変更等を行うことができるとともに、マグネットの脱調を抑制することができる振盪機を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するため、本発明の振盪機は、作動手段を収納したケーシングの天板上方にガイドベアリングを介して振盪手段を配設し、前記作動手段と前記振盪手段とに複数のマグネットをそれぞれ配設するとともに、該振盪手段を前記マグネットの吸引力によって前記作動手段に従動させて往復動させる振盪機において、前記ケーシングを気密状態に形成し、前記作動手段の動作を制御する制御手段を前記ケーシングとは別体に形成し、該制御手段と前記作動手段とをケーシングを気密に貫通したケーブルで接続したことを特徴としている。
【0008】
さらに、本発明の振盪機は、前記作動手段が、前記制御手段により制御される回転駆動手段と、鉛直方向の固定軸に回転可能に保持されて前記回転駆動手段により駆動される回転体と、前記固定軸に固着された固定歯車と、前記回転体の偏心位置に回転可能に保持され、前記固定軸の周囲を自転しながら公転する出力軸と、該出力軸に設けられて前記固定歯車に歯合する遊星歯車と、前記出力軸の上端部に設けられた偏心カムと、前記振盪手段の往復動方向に対して平行な方向に往復動可能に設けられたマグネット保持部材と、該マグネット保持部材に設けられて前記偏心カムを回転可能かつ前記振盪手段の往復動方向に対して直交する方向に移動可能に係合する長孔とを備え、前記偏心カムは、少なくとも前記マグネット保持部材の往復動両端部で、該偏心カムの軸線が前記出力軸の軸線に対して前記固定軸の軸線側に位置する状態で前記出力軸に設けられ、前記振盪手段の往復動両端部で移動方向が逆転する際の加速度を小さくしたことを特徴としている。
【発明の効果】
【0009】
本発明の振盪機によれば、作動手段を気密状態に形成したケーシング内に収納し、制御手段はケーシングと別体に形成してケーブルにて接続したので、振盪手段及び作動手段を有するケーシング部を恒温器等の高湿度環境に設置した場合でも、作動手段、特に作動手段中のモータが湿気によって損傷することがなく、制御手段は恒温器等の外部に設置できるので、制御手段の電気部品等に不具合を生じることもない。
【0010】
さらに、マグネット保持部材に設けた長孔と駆動軸との間に偏心カムを設けたことにより、振盪手段の往復動両端部における移動方向逆転時の加速度を小さくすることができ、マグネットの脱調限界を向上させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
図は本発明の振盪機の一形態例を示すもので、図1は制御手段を含む振盪機の使用例を示す説明図、図2は振盪機本体の一部切り欠き正面図、図3は同じく平面図、図4は図2のIV−IV断面図、図5は図2のV−V断面図、図6は図5のVI−VI断面図、図7は出力軸の公転角度と振盪手段の変位との関係を示す図である。
【0012】
まず、振盪機は、非磁性体で形成された振盪機本体11と、該振盪機本体11にケーブル12を介して接続された制御手段13とで構成されており、制御手段13を操作することによって振盪数を調節できるように形成されている。振盪機本体11は、ケーシング14に収納した作動手段15と、該ケーシング14の上方にガイドベアリング16を介して往復動可能に設けられた振盪手段17とで形成されている。
【0013】
ケーシング14は、基板18、側板19及び天板20からなる箱状のものであって、各板18,19,20の接合部は気密状態に形成され、側板19の一つには、前記ケーブル12が気密状態で貫通するケーブル貫通孔21が設けられている。また、基板18上には、4個のベアリング支持部材22が設けられており、このベアリング支持部材22の上部に、前記ガイドベアリング16が、軸線を同一方向に向けてそれぞれ保持されている。
【0014】
振盪手段17は、ガイドベアリング16上に載置される振盪テーブル23と、細胞等の被振盪物を載せたシャーレ24等の試験容器を保持する試料テーブル25とを有しており、振盪テーブル23の下面には、4箇所に従動側マグネット26が設けられている。また、振盪テーブル23の対向する一対の側縁には、試料テーブル25を挟むようにして突片27がそれぞれ設けられており、両突片27には、振盪テーブル23に試料テーブル25を固定するための板バネ28と固定レバー29とがそれぞれ対向配置されている。
【0015】
前記作動手段15は、前記制御手段13により制御される回転駆動手段であるモータ31と、前記基板18に設けられた軸受32から鉛直方向に立設した固定軸33と、該固定軸33に回転可能に保持された回転体である大径の従動プーリ34と、前記モータ31の駆動軸に設けられた小径の駆動プーリ35の回転力を前記従動プーリ34に伝達して回転させる駆動ベルト36と、従動プーリ34より上方位置で前記固定軸33に固着された固定歯車37と、固定軸33の上端部に回転可能に設けられた円盤状の上部支持部材38と、該上部支持部材38の外周部と従動プーリ34とを連結する複数の支柱39と、従動プーリ34と上部支持部材38とに回転可能に設けられて上部支持部材38の上方に突出した出力軸40と、該出力軸40に設けられて前記固定歯車37に歯合する遊星歯車41と、出力軸40の上端部に固着された偏心カム42と、2本の平行なロッド43にガイドされて前記振盪手段17の往復動方向に対して平行な方向に往復動可能に設けられたマグネット保持部材44と、該マグネット保持部材44に前記振盪手段17の往復動方向に対して直交する方向に設けられて前記偏心カム42が係合する長孔45と、マグネット保持部材44に設けられた4個の駆動側マグネット46とで形成されている。なお、各回転部材の軸受部にはそれぞれベアリングを配設し、各回転部材が円滑に回転するようにしている。
【0016】
前記従動側マグネット26と駆動側マグネット46とは、互いに異極を向けた状態で、天板20を挟んで上下に対向するように配置されており、両マグネット26,46の吸引力によってマグネット保持部材44の往復動が振盪テーブル23に伝達され、作動手段15の作動に伴って振盪手段17が従動することにより、試料テーブル25上に載置したシャーレ24等を振盪させる。
【0017】
図6に示すように、前記出力軸40は、その軸線C1が、固定軸33の軸線C2に対して偏心した位置に設けられており、前記遊星歯車41が前記固定歯車37と歯合していることにより、従動プーリ34の回転に伴って出力軸40が固定軸33の周囲を自転しながら公転する状態となる。
【0018】
前記偏心カム42は、出力軸40の公転及び自転に伴って前記長孔45内を回転しながら移動し、この長孔45内の偏心カム42の移動により、マグネット保持部材44がロッド43にガイドされて直線的に往復動するとともに、マグネット保持部材44を介して振盪手段17が直線的に往復動する。このとき、従来のような出力軸40の公転のみでは、出力軸40の公転角度に対する振盪手段17の変位は、図7に細線Sで示すサインカーブを描く状態となる。
【0019】
一方、出力軸の軸線C1に対する偏心カム42の軸線C3の位置を、マグネット保持部材44の往復動両端部において、偏心カム42の軸線C3が出力軸40の軸線C1に対して前記固定軸33の軸線C2側に位置する状態に設定することにより、偏心カム42の公転による前記サインカーブに、偏心カム42の自転による小さなサインカーブが重なった状態となり、振盪手段17の変位は、図7に太線Hで示すようなやや偏平な状態となったサインカーブを描くことになる。
【0020】
例えば、遊星歯車41と固定歯車37のギア比を1:2に設定すると、遊星歯車41が固定歯車37に対して1公転する間に、遊星歯車41は3自転することになる。この状態で、図6に示すように、振盪手段17の一方の移動端で軸線C3が軸線C1と軸線C2との間に位置するように偏心カム42の向きを設定すると、一方の移動端から他方の移動端に出力軸40が半回転公転したときに、出力軸40の自転によって偏心カム42が1回半回転し、軸線C3が軸線C1と軸線C2との間に位置することになるので、前述のように、振盪手段17の往復動の軌跡は、図7に太線Hで示す偏平なサインカーブを描くことになる。
【0021】
出力軸40の公転角度に対する振盪手段17の変位は、軸線C1と軸線C2との距離L1、軸線C2と軸線C3との距離L2及び遊星歯車41と固定歯車37のギア比を調整することによって変化させることができ、振盪手段17の往復動両端部で移動方向が逆転する瞬間、すなわち、前記サインカーブS,Hの頂点部分における移動速度の変化量(加速度)を小さくすることができる。
【0022】
このように形成した振盪機は、図1に示すように、CO2インキュベータ等の恒温槽をはじめとする各種試験器51の庫内に振盪機本体11を設置し、扉52のパッキン部分を通してケーブル12を引き出すことにより、制御手段13を庫外に設置することができる。これにより、庫内を高湿度や高温度に保持した状態で振盪機を作動させても、制御手段13の電気部品が湿気や熱によって誤作動したり、故障したりすることがなくなる。また、振盪数の調節も、庫外から容易かつ確実に行うことができる。
【0023】
また、ケーシング13を気密構造に形成したことにより、庫内が高湿度状態であっても、モーター31をはじめとするケーシング13内の作動手段15を湿気から保護することができ、振盪作動の安定化を図れる。なお、恒温槽等の庫内圧力が常圧の場合は、ケーシング13における内外の気流はほとんど発生しないので、ケーシング13を厳密な気密構造に形成しなくてもよく、各板18,19,20を突き当てた程度でも十分である。ケーシング13を十分な気密構造や耐圧構造とする場合は、各板18,19,20の接合部やケーブル貫通孔21にゴム等のパッキンを用いたり、コーキング剤を用いたりしてシールすればよい。
【0024】
さらに、前述のように、直線的に往復動する振盪手段17の往復動両端部における加速度を小さくしたことにより、マグネット26,46の脱調限界を上げることができ、振盪機としての信頼性を向上させることができる。同時に、往復振盪の反作用として生じる反動が減少し、作動時の振盪機本体11の振動も減ることになるので、振盪機本体11を設置する恒温槽等に与える振動も減少する。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】制御手段を含む振盪機の使用例を示す説明図である。
【図2】振盪機本体の一部切り欠き正面図である。
【図3】同じく平面図である。
【図4】図2のIV−IV断面図である。
【図5】図2のV−V断面図である。
【図6】図5のVI−VI断面図である。
【図7】出力軸の公転角度と振盪手段の変位との関係を示す図である。
【符号の説明】
【0026】
11…振盪機本体、12…ケーブル、13…制御手段、14…ケーシング、15…作動手段、16…ガイドベアリング、17…振盪手段、18…基板、19…側板、20…天板、21…ケーブル貫通孔、22…ベアリング支持部材、23…振盪テーブル、24…シャーレ、25…試料テーブル、26…従動側マグネット、27…突片、28…板バネ、29…固定レバー、31…モータ、32…軸受、33…固定軸、34…従動プーリ、35…駆動プーリ、36…駆動ベルト、37…固定歯車、38…上部支持部材、39…支柱、40…出力軸、41…遊星歯車、42…偏心カム、43…ロッド、44…マグネット保持部材、45…長孔、46…駆動側マグネット、51…試験器、52…扉

【特許請求の範囲】
【請求項1】
作動手段を収納したケーシングの天板上方にガイドベアリングを介して振盪手段を配設し、前記作動手段と前記振盪手段とに複数のマグネットをそれぞれ配設するとともに、該振盪手段を前記マグネットの吸引力によって前記作動手段に従動させて往復動させる振盪機において、前記ケーシングを気密状態に形成し、前記作動手段の動作を制御する制御手段を前記ケーシングとは別体に形成し、該制御手段と前記作動手段とをケーシングを気密に貫通したケーブルで接続したことを特徴とする振盪機。
【請求項2】
前記作動手段は、前記制御手段により制御される回転駆動手段と、鉛直方向の固定軸に回転可能に保持されて前記回転駆動手段により駆動される回転体と、前記固定軸に固着された固定歯車と、前記回転体の偏心位置に回転可能に保持され、前記固定軸の周囲を自転しながら公転する出力軸と、該出力軸に設けられて前記固定歯車に歯合する遊星歯車と、前記出力軸の上端部に設けられた偏心カムと、前記振盪手段の往復動方向に対して平行な方向に往復動可能に設けられたマグネット保持部材と、該マグネット保持部材に設けられて前記偏心カムを回転可能かつ前記振盪手段の往復動方向に対して直交する方向に移動可能に係合する長孔とを備え、前記偏心カムは、少なくとも前記マグネット保持部材の往復動両端部で、該偏心カムの軸線が前記出力軸の軸線に対して前記固定軸の軸線側に位置する状態で前記出力軸に設けられていることを特徴とする請求項1記載の振盪機。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2007−124944(P2007−124944A)
【公開日】平成19年5月24日(2007.5.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−320367(P2005−320367)
【出願日】平成17年11月4日(2005.11.4)
【出願人】(591245543)東京理化器械株式会社 (36)
【Fターム(参考)】