説明

排ガスの処理方法

【課題】本発明は排ガスに含まれる臭化メチルを除去する手法において、排ガスを燃焼することなく、経済面で有利な手法で臭化メチルを除去する方法を提供することを課題とする。
【解決手段】臭化メチルを含有する排ガスを、4級アンモニウム基を有する化合物の溶液と接触させることで、排ガス中の臭化メチルを吸収分解させることを特徴とする排ガスの処理方法である。4級アンモニウム基を有する化合物は、テトラアルキルアンモニウムヒドロキシドおよびトリアルキルアリールアンモニウムヒドロキシドから選択される一種以上であることが好ましく、4級アンモニウム基を有する化合物の溶媒としては水またはアルコールを用いることが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、臭化メチルを含む排ガスの処理方法に関する。より詳しくは、臭化メチルを含む排ガスを、4級アンモニウム基を有する化合物の溶液と接触させることで、排ガス中の臭化メチルを吸収分解する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ハロゲン化アルキルの一種である臭化メチルは、農産物の病害虫駆除や、一年生雑草の防除などを目的として、燻蒸処理用の農薬として使用されている。また、臭化メチルを含む排ガスの発生源としては、不可欠用途として用いられる穀物の燻蒸後の排ガスや、芳香族カルボン酸製造工程の排ガスがあるが、燃焼処理以外の手法(排ガススクラバーなど)では臭化メチルの除去が困難である。
【0003】
芳香族カルボン酸製造工程より排出される排ガスに含まれる臭化メチルを除去する方法としては、貴金属を含む金属触媒と接触させて酸化することで、臭化メチルを燃焼除去する方法(特許文献1)が提案されている。臭化メチルを含む排ガスを吸着処理する方法としては、ジビニルベンゼンとビニルアミンの共重合体からなる吸着剤に、酸性ガスを含む気体を接触させて酸性ガスを吸着させる手法(特許文献2)およびイオン交換樹脂を用いて排ガス中の臭化メチルを吸着分解させる方法(特許文献3)が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平8−268953号公報
【特許文献2】特開平6−190235号公報
【特許文献3】特開平01−003860号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、特許文献1に開示された方法では、燃焼設備および貴金属触媒が必要であることから、多くの費用が必要となり、さらに臭素による被毒のため、触媒活性の低下と共に除去率も低下するという問題がある。
【0006】
特許文献2に開示された方法では、共重合体への吸着のみでは臭化メチルを除去できず、燃焼処理が必要となり、多くの費用が必要となるという上記の問題は解決されていない。さらに共重合体の吸着性能劣化に伴い除去率が低下するという問題がある。
【0007】
特許文献3に開示された方法では、長時間のガス流通によりイオン交換樹脂が乾燥し、樹脂の細孔構造が破壊されるおそれがある。またイオン交換樹脂は再生により再使用が可能となるが、再生後のイオン交換樹脂に付着する水分により、臭化メチルの除去率が大幅に低下するという問題がある。さらに水分が付着したイオン交換樹脂は圧力損失が非常に大きく、装置へのガス流通が困難であるという問題がある。
【0008】
このように、排ガスに含まれる臭化メチルを除去する手法としては、燃焼や吸着による処理方法が一般的である。しかし、燃焼処理では多量の熱エネルギーや分子状酸素を含む気体が必要となる、燃焼後の排ガスに含まれる臭化水素の処理が必要となる、多量の貴金属触媒が必要となる、などの問題点があるため、経済面で工業的に不利である。
【0009】
また、イオン交換樹脂を用いた吸着分解処理では、樹脂乾燥に伴う細孔構造の破砕や、再生後の樹脂付着水による臭化メチル除去率悪化・圧損増大といった問題があるため、工業化が困難である。
【0010】
したがって、本発明は排ガスに含まれる臭化メチルを除去する手法において、排ガスの燃焼・吸着処理を要することなく、経済面で有利な手法で臭化メチルを除去する方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記につき鋭意検討を行った結果、臭化メチルを含有する排ガスを、4級アンモニウム基を有する化合物の溶液と接触させることで、排ガス中の臭化メチルを吸収分解させ、燃焼・吸着処理を行うことなく、排ガス中の臭化メチルが処理可能であることを見いだした。
【0012】
上記目的を達成するために、本発明は以下の構成を採用する。
【0013】
(1)臭化メチルを含有する排ガスを、第4級アンモニウム基を有する化合物の溶液と接触させることで、排ガス中の臭化メチルを吸収分解させることを特徴とする排ガスの処理方法。
【0014】
(2) 第4級アンモニウム基を有する化合物が、テトラアルキルアンモニウムヒドロキシドおよびトリアルキルアリールアンモニウムヒドロキシドから選択される一種以上であることを特徴とする、(1)に記載の排ガスの処理方法。
【0015】
(3)第4級アンモニウム基を有する化合物の溶媒が水又はアルコールであることを特徴とする、(1)または(2)に記載の排ガスの処理方法。
【0016】
(4) 排ガスが芳香族カルボン酸製造工程より発生する排ガスであることを特徴とする(1)〜(3)のいずれかに記載の排ガスの処理方法。
【発明の効果】
【0017】
本発明により、排ガス中の臭化メチルの吸着・燃焼処理を要することなく、簡便かつ低コストで分解することが可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明は、臭化メチルを含有する排ガスを、乾燥状態の4級アンモニウム基を有する化合物の溶液と接触させることで、排ガス中の臭化メチルを吸収分解する手法である。
【0019】
4級アンモニウム基を有する化合物としては、臭化メチルを吸収分解可能であれば特に限定はされないが、OH型の4級アンモニウム基を有する化合物を用いることが好ましく、テトラアルキルアンモニウムヒドロキシドまたはトリアルキルアリールアンモニウムヒドロキシドを用いることがより好ましい。テトラアルキルアンモニウムヒドロキシドとしては、テトラメチルアンモニウムヒドロキシド、コリン、テトラエチルアンモニウムヒドロキシド 、テトラプロピルアンモニウムヒドロキシド、テトラブチルアンモニウムヒドロキシド、ヘキサデシルトリメチルアンモニウムヒドロキシドを用いることが好ましく、なかでもテトラメチルアンモニウムヒドロキシドを用いることが好ましい。トリアルキルアリールアンモニウムヒドロキシドとしては、ベンジルトリメチルアンモニウムヒドロキシド、ベンジルトリエチルアンモニウムヒドロキシド、トリメチルフェニルアンモニウムヒドロキシドを用いることが好ましく、なかでもベンジルトリメチルアンモニウムヒドロキシドを用いることがより好ましい。これら4級アンモニウム基を有する化合物は、一種以上で用いることができる。
【0020】
4級アンモニウム基を有する化合物に臭化メチルを吸収分解させるために、4級アンモニウム基を有する化合物は溶液の状態で使用する必要がある。4級アンモニウム基を有する化合物の溶媒としては、4級アンモニウム化合物を溶解可能な溶媒であれば特に限定はされないが、水またはアルコールを用いることが好ましい。アルコールとしては、メタノールを用いることがより好ましい。
【0021】
4級アンモニウム基を有する化合物溶液の濃度については、1〜60重量%の範囲にあることが好ましく、10〜50重量%の範囲にあることがより好ましい。濃度が上記を超えて高くなると、4級アンモニウム基を有する化合物が析出するおそれがある。濃度が上記を超えて低くなると、臭化メチル分解効率が低下するおそれがある。
【0022】
本発明においては、臭化メチルを含有する排ガスを、4級アンモニウム基を有する化合物の溶液と接触させて排ガス中の臭化メチルを分解させるが、その方法を、以下に説明する。
【0023】
臭化メチルを吸収分解させる手法としては、4級アンモニウム基を有する化合物の溶液を満たした反応器に、臭化メチルを含む排ガスを流通させることで、臭化メチルと4級アンモニウム基を有する化合物の溶液とを接触させる手法が好ましい。臭化メチルが4級アンモニウム基を有する化合物の溶液と接触することで、水酸化物イオン(OH)と臭素イオン(Br)の交換反応が起こり、臭化メチルはメタノールと臭素イオンに分解される。
【0024】
吸収分解温度は、5〜60℃の範囲にあることが好ましく、10〜40℃の範囲にあることがより好ましい。温度が上記を越えて高くなると、溶媒の蒸気圧が高くなるため、溶媒の蒸発量が増加し、4級アンモニウム基を有する化合物の濃度上昇に伴う析出のおそれがある。反応温度が上記を越えて低くなると、溶媒凍結により臭化メチルの吸収分解活性が大幅に低下する場合がある。
【0025】
本発明の方法の適用対象となる排ガスの種類は、臭化メチルを含む排ガスであれば特に限定はされないが、穀物や種子の燻蒸の際に発生する臭化メチルを含む排ガスおよび芳香族カルボン酸製造工程より発生する臭化メチルを含む排ガスを処理する場合、大規模な排ガス燃焼装置などを導入することなく臭化メチルを処理可能という点から有効であり、テレフタル酸製造工程より発生する排ガスを処理することが、大量の排ガスに含まれる濃度の希薄な臭化メチルを高効率で処理可能という点からより有効である。
【0026】
排ガス中の臭化メチル濃度は特に限定はされないが、10000ppm以下であることが好ましい。臭化メチル濃度が10000ppmを超えて高くなると、短時間で4級アンモニウム基を有する化合物の最大吸収容量まで達し、排ガス処理が非効率的になる。したがって、排ガス中の臭化メチル濃度が高い場合には、必要に応じて空気・窒素・酸素等のガスで予め希釈した後、反応装置へ導入してもよい。
【0027】
排ガスと4級アンモニウム基を有する化合物溶液の接触方法については特に限定はされないが、4級アンモニウム基を有する化合物溶液と排ガスの接触効率が高く、4級アンモニウム基を有する化合物溶液に対する接触時間が長い装置に排ガスを流通させることが好ましく、排ガススクラバーの吸収液として4級アンモニウム基を有する化合物溶液を用いた装置がより好ましい。
【実施例】
【0028】
以下、実施例に基づいて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例により限定されるものではない。
【0029】
実施例1(ベンジルトリメチルアンモニウムヒドロキシド水溶液による吸収分解)
内容積30mlのシリンジバイアルに、ベンジルトリメチルアンモニウムヒドロキシド40重量%水溶液(東京化成製)10gを投入し、バイアルの蓋を閉めた後、バイアル中の臭化メチル濃度が約3000ppmとなるよう、マイクロシリンジを用いて臭化メチル90μlを注入し、振とう器(ヤマト科学製 SA300)を用いて250rpmの速度で垂直振とうを実施した。振とう開始から5分後、マイクロシリンジを用いてバイアル中のガスを採取し、ガスクロマトグラフ(島津製作所製 GC−14Bカラム:PEG−20M chromosorb W AW−DMCS)を用いてガス中の臭化メチル濃度を測定した結果、臭化メチル濃度は682ppmであり、臭化メチル除去率は77%であった。振とう時間を10分間とする以外は同様のテストを実施した結果、ガス中の臭化メチル濃度は162ppmであり、臭化メチルの除去率は95%であった(表1)。
【0030】
臭化メチル除去後のベンジルトリメチルアンモニウムヒドロキシド水溶液に濃度1Nの硝酸銀1mlを滴下したところ、臭化銀の白色固体生成が確認された。すなわち排ガス中の臭化メチルがベンジルトリメチルアンモニウムヒドロキシド水溶液との反応により臭素イオンに分解され、硝酸銀の反応により臭化銀を形成したと解される。したがって、臭化メチルはベンジルトリメチルアンモニウムヒドロキシド水溶液により、分解されるものと解される。
【0031】
実施例2(ベンジルトリメチルアンモニウムヒドロキシドメタノール溶液による吸収分解)
内容積30mlのシリンジバイアルに、ベンジルトリメチルアンモニウムヒドロキシド40重量%メタノール溶液(東京化成製)10gを投入し、バイアルの蓋を閉めた後、バイアル中の臭化メチル濃度が約3000ppmとなるよう、マイクロシリンジを用いて臭化メチル90μlを注入し、振とう器(ヤマト科学製 SA300)を用いて250rpmの速度で垂直振とうを実施した。注入から5分後、マイクロシリンジを用いてバイアル中のガスを採取し、ガスクロマトグラフを用いてガス中の臭化メチル濃度を測定した結果、臭化メチル濃度は検出限界以下であり、臭化メチル除去率は100%であった(表1)。
【0032】
実施例3(テトラメチルアンモニウムヒドロキシド水溶液による吸収分解)
内容積30mlのシリンジバイアルに、テトラメチルアンモニウムヒドロキシド25重量%水溶液(東京化成製)10gを投入し、バイアルの蓋を閉めた後、バイアル中の臭化メチル濃度が約3000ppmとなるよう、マイクロシリンジを用いて臭化メチル90μlを注入し、振とう器(ヤマト科学製 SA300)を用いて250rpmの速度で垂直振とうを実施した。振とう開始から5分後、マイクロシリンジを用いてバイアル中のガスを採取し、ガスクロマトグラフを用いてガス中の臭化メチル濃度を測定した結果、臭化メチル濃度は802ppmであり、臭化メチル除去率は73%であった。振とう時間を10分間とする以外は同様のテストを実施した結果、ガス中の臭化メチル濃度は264ppmであり、臭化メチルの除去率は88%であった(表1)。
【0033】
比較例1(メタノール単独による吸収分解)
内容積30mlのシリンジバイアルに、メタノール10gを投入し、バイアルの蓋を閉めた後、バイアル中の臭化メチル濃度が約3000ppmとなるよう、マイクロシリンジを用いて臭化メチル90μlを注入し、振とう器(ヤマト科学製 SA300)を用いて250rpmの速度で垂直振とうを実施した。振とう開始から5分後、マイクロシリンジを用いてバイアル中のガスを採取し、ガスクロマトグラフを用いてガス中の臭化メチル濃度を測定した結果、臭化メチル濃度は2888ppmであり、臭化メチル除去率は4%であった。振とう時間を10分間とする以外は同様のテストを実施した結果、ガス中の臭化メチル濃度は2784ppmであり、臭化メチルの除去率は7%であった(表1)。
【0034】
比較例2(非水溶性の4級アンモニウム基を有する化合物による吸収分解)
内容積30mlのシリンジバイアルに、強塩基性イオン交換樹脂(三菱化学製“ダイヤイオン”PA308)2gおよび水8gを投入し、バイアルの蓋を閉めた後、バイアル中の臭化メチル濃度が約3000ppmとなるよう、マイクロシリンジを用いて臭化メチル90μlを注入し、振とう器(ヤマト科学製 SA300)を用いて250rpmの速度で垂直振とうを実施した。振とう開始から10分後、マイクロシリンジを用いてバイアル中のガスを採取し、ガスクロマトグラフを用いてガス中の臭化メチル濃度を測定した結果、臭化メチル濃度は1189ppmであり、臭化メチル除去率は60%であった(表1)。
【0035】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0036】
本発明により、大量の排ガスに含まれる濃度の希薄な臭化メチルを、大規模な燃焼処理装置などを導入することなく処理可能となり、穀物や種子を燻蒸する際の排ガスや、テレフタル酸製造工程より発生する排ガスに含まれる臭化メチルを、低コストで処理可能となる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
臭化メチルを含有する排ガスを、第4級アンモニウム基を有する化合物の溶液と接触させることで、排ガス中の臭化メチルを吸収分解させることを特徴とする排ガスの処理方法。
【請求項2】
第4級アンモニウム基を有する化合物が、テトラアルキルアンモニウムヒドロキシドおよびトリアルキルアリールアンモニウムヒドロキシドから選択される一種以上であることを特徴とする、請求項1に記載の排ガスの処理方法。
【請求項3】
第4級アンモニウム基を有する化合物の溶媒が水又はアルコールであることを特徴とする、請求項1または請求項2に記載の排ガスの処理方法。
【請求項4】
排ガスが芳香族カルボン酸製造工程より発生する排ガスであることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の排ガスの処理方法。