説明

排ガス浄化触媒及びその使用方法

【発明の詳細な説明】
(産業上の利用分野)
本発明は、例えば、自動車エンジン等の内燃機関から排出される排ガス中の窒素酸化物、一酸化炭素及び炭化水素を除去する排ガス浄化触媒に関し、特に、酸素過剰の燃料排ガスを浄化する方法に関するものである。
(従来の技術)
内燃機関から排出される排ガス中の有害物質である窒素酸化物、一酸化炭素及び炭化水素は、例えばPt,Rh,Pd等を担体上に担持させた三元触媒により除去されている。しかしながら、ディーゼルエンジン排ガスについては、排ガス中に酸素が多く含まれているために、窒素酸化物については有効な触媒がなく、触媒による排ガス浄化は行われていない。
また近年のガソリンエンジンにおいては、低燃費化や排出炭酸ガスの低減の目的で気薄燃焼させることが必要となってきている。しかしながら、この希薄燃焼ガソリンエンジンの排ガスは、酸素過剰雰囲気であるため、上記のような従来の三元触媒は使用できず、有害成分を除去する方法は実用化されていない。
このような酸素過剰の排ガス中の特に窒素酸化物を除去する方法としては、アンモニア等の還元剤を添加する方法、窒素酸化物をアルカリに吸収させて除去する方法等も知られているが、これらの方法は移動発生源である自動車に用いるには有効な方法ではなく、適用が限定される。
遷移金属をイオン交換したゼオライト触媒は、従来の三元触媒と同様に使用出来ることが知られている。例えば特開平1-130735号公報には、未燃焼の一酸化炭素及び炭化水素等の還元剤が微量に含まれている酸素過剰な排ガス中でも窒素酸化物を選択的に還元させることが出来る触媒が提案されている。
しかしながらこの従来提案に係わる触媒は、長時間の高温下での使用による活性の劣化が著しく、耐久性、触媒性能等の点で更に改善すべき点があり、未だ実用化されるに至っていない。
(発明が解決しようとする課題)
本発明の目的は、以上のような従来技術の問題点を解消するためになされたものであり、自動車等の内燃機関から排出される排ガスから、窒素酸化物、一酸化炭素及び炭化水素を同時に除去する熱劣化を起こしにくい、耐久性に優れた、触媒活性の高い触媒を提供するところにある。
また本発明の別の目的は、このような触媒を用いた排ガスの浄化方法を提供することにある。
(課題を解決するための手段)
本発明者等は、上記問題点について鋭意検討した結果、本発明を完成するに至った。
すなわち本発明は、窒素酸化物、一酸化炭素及び炭化水素を含む酸素過剰の排ガスから、窒素酸化物、一酸化炭素及び炭化水素を除去するゼオライト触媒であって、SiO2/Al2O3モル比が少なくとも15以上のゼオライトであり、かつコバルトおよびアルカリ土類金属を含有することを特徴とする排ガス浄化触媒、及び該排ガス浄化触媒に、窒素酸化物、一酸化炭素及び炭化水素を含む燃焼排ガスを接触させることを特徴とする排ガス中の窒素酸化物、一酸化炭素及び炭化水素を除去する方法を提供するものである。
以下、本発明を詳細に説明する。
上記ゼオライトは一般的にはxM2/nO・Al2O3・ySiO2・zH2O (ただしnは陽イオンの原子価、xは0.8〜2の範囲の数、yは2以上の数、zは0以上の数である)
の組成を有するものであるが、本発明において用いられるゼオライトはこのうち、SiO2/Al2O3モル比が15以上のものであることを必須とする。SiO2/Al2O3モル比はその上限は特に限定されるものではないが、SiO2/Al2O3モル比が15未満であるとゼオライト自体の耐熱性、耐久性が低いため、触媒の十分な耐熱性、耐久性が得られない。一般的にはSiO2/Al2O3モル比が10〜1000程度のものが用いられる。
本発明の触媒を構成するゼオライトは天然品、合成品の何れであってもよく、これらゼオライトの製造方法は特に限定されるものではないが、代表的にはフェリエライト、Y、ZSM-5、ZSM-11、ZSM-12、ZSM-20、モルデナイト等のゼオライトが使用できる。また、これらのゼオライトは、そのままあるいはアンモニウム塩、鉱酸等で処理してNH4+型あるいはH型にイオン交換してから本発明の触媒として使用することもできる。
本発明で用いるゼオライトは、コバルトおよびアルカリ土類金属を含有することが必須である。コバルトおよびアルカリ土類金属を含有させる方法としては特に限定はされず、イオン交換、含浸担持等が使用できるが、イオン交換が最も好ましい。
アルカリ土類金属のイオン交換で用いる塩類は水溶性であれば良く、好ましくは溶解度の大きい硝酸塩及び塩化物である。アルカリ土類金属としてはBe,Mg,Ca,Sr,Ba,Raが使用できる。
イオン交換方法としては、ゼオライトのスラリーへアルカリ土類金属の塩類を投入し攪拌する、または、アルカリ土類金属塩の水溶液にゼオライトを投入し攪拌する、などの一般的なイオン交換方法でよい。しいて言うならば液温は20〜100℃、好ましくは40〜90℃が良い。水溶液中のアルカリ土類金属塩の濃度は、0.01〜5mol/L、好ましくは0.1〜2mol/Lが良い。ゼオライトと水溶液の固液比は特に限定されないが、攪拌が充分に行なわれれば良く、スラリーの固形分濃度は5〜50%が好ましい。
コバルトのイオン交換では、塩類としては水溶液塩類であれば良く、好ましくは2価の酢酸塩である。コバルトのイオン交換では、交換回数に特に制限はなく、交換率が高くなればよいが、低い場合には2回以上イオン交換を繰り返しても良い。イオン交換回数の上限は特に定めないが、2〜5回で良い。
イオン交換方法としては、アルカリ土類金属と同様な方法で良い。水溶液中のコバルト酢酸塩の濃度は、0.01〜1mol/L、好ましくは0.1〜1mol/Lが良い。0.01mol/L未満では大量の溶液を必要とするため、操作性が低下する。また、1mol/Lより大きい場合では、イオン交換率が投入した試薬量に見合うほど向上しない。
アルカリ土類金属およびコバルトの含有順序について特に制限はないが、イオン交換を用いて含有させる場合には、アルカリ土類金属、コバルトの順が好ましい。
アルカリ土類金属及びコバルトの含有量としては、ゼオライト中のアルミナモル数に対してモル比でアルカリ土類金属は0.1〜1倍、コバルトは0.5〜1.7倍、好ましくはアルカリ土類金属量とコバルト量を合計して1.0〜2.5倍である。アルカリ土類金属量が0.1未満であると耐久性・触媒活性の向上効果が小さい恐れがあり、また1倍より大であると添加量にみあうだけの効果が得られにくい。コバルト量が0.5倍未満であると触媒としての使用に適合しない恐れがあり、また1.7倍より大であると添加量にみあうだけの耐久性・活性が得られにくい。
また、アルカリ土類金属やコバルトを蒸発乾固等で担持して使用することもできる。蒸発乾固の方法としては通常の方法でよく、ゼオライトをアルカリ土類金属あるいはコバルトを含む水溶液に投入し、乾燥器等で、溶媒である水を蒸発させる等の方法でよい。水溶液中のアルカリ土類金属およびコバルト塩の濃度は特に定めないが、アルカリ土類金属或いはコバルトを均一に付着させればよく、通常0.01〜1mol/Lでよい。
イオン交換した試料は、固液分離、洗浄、乾燥した後、触媒として使用される。また必要に応じて焼成してから用いることもできる。
本発明の排ガス浄化触媒のSiO2/Al2O3モル比は、使用したゼオライト基材のSiO2/Al2O3モル比と実質的に変らない。また、排ガス浄化触媒の結晶構造もイオン交換前後で本質的に異なるものではない。
本発明の排ガス浄化触媒は、粘度鉱物等のバインダーと混合し成形して使用することもできるし、また予めゼオライトを成形し、その成形体にコバルトをイオン交換して含有させることもできる。このゼオライトを成形する際に用いられるバインダーとしては、例えばカオリン、アタパルガイト、モンモリロナイト、ベントナイト、アロフェン、セピオライト等の粘土鉱物又はシリカゾル、アルミナゾルなどを例示することができる。あるいはバインダーを用いずに直接合成したバインダレスゼオライト成形体であっても良い。
またさらに、コージェライト製あるいは金属製等のハニカム状基材にゼオライトをウォッシュコートして用いることもできる。
酸素過剰排ガス中の窒素酸化物、一酸化炭素及び炭化水素の除去は、本発明の排ガス浄化触媒と、窒素酸化物、一酸化炭素及び炭化水素を含む酸素過剰排ガスを接触させることにより行うことができる。本発明が対象とする酸素過剰の排ガスとは、排ガス中に含まれる一酸化炭素、炭化水素及び水素を完全に酸化するのに必要な酸素量よりも過剰な酸素が含まれている排ガスをいい、このような排ガスとしては例えば、自動車等の内燃機関から排出される排ガス、特に空燃比が大きい状態(所謂リーン領域)での排ガス等が具体的に例示される。
なお上記排ガス触媒は、一酸化炭素、炭化水素及び水素を含み酸素過剰でない排ガスの場合に適用されても、何等その性能が変化することはない。
以下、本発明を実施例により更に詳細に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
(実施例)
実施例1<触媒1の調製> SiO2/Al2O3モル比が40のアンモニウム型ZSM-5、20gを、濃度1.09mol/Lの塩化バリウムの水溶液180gに投入し、80℃で16時間攪拌した。固液分離後、充分水洗し、続けて0.23mol/Lの酢酸コバルト(II)4水和物の水溶液180gに投入し、80℃で16時間攪拌した。スラリーを固液分離後、ゼオライトケーキを再度調製した上記組成の水溶液に投入して同様な操作を行った。固液分離後、充分水洗し、110℃で10時間乾燥し、触媒1とした。この触媒のバリウムおよびコバルト含有量を化学分析で調べたところ、ゼオライトのAl2O3モル数に対してバリウムは0.44倍およびコバルトは2価として1.13倍含まれていた。
実施例2<触媒2の調製> 実施例1と同様な操作でイオン交換を行ったが、アルカリ土類金属をストロンチウムとした。この触媒を触媒2とし、この触媒のストロンチウムおよびコバルト含有量を化学分析で調べたところ、ゼオライトのAl2O3モル数に対して、ストロンチウムは0.23倍およびコバルトは2価として1.12倍含まれていた。
実施例3<触媒3の調製> 実施例1と同様な操作でイオン交換を行ったが、アルカリ土類金属をマグネシウムとした。この触媒を触媒3とし、この触媒のマグネシウムおよびコバルト含有量を化学分析で調べたところ、ゼオライトのAl2O3モル数に対して、マグネシウムは0.18倍およびコバルトは2価として1.08倍含まれていた。
実施例4<触媒4の調製> 実施例1と同様な操作でイオン交換を行ったが、アルカリ土類金属をカルシウムとした。この触媒を触媒4とし、この触媒のカルシウムおよびコバルト含有量を化学分析で調べたところ、ゼオライトのAl2O3モル数に対して、カルシウムは0.16倍およびコバルトは2価として1.04倍含まれていた。
実施例5<触媒5の調製> SiO2/Al2O3モル比が40のアンモニウム型ZSM-5、20gを、濃度1.23mol/Lの酢酸コバルト(II)4水和物の水溶液180gに投入し、80℃で16時間攪拌した。スラリーを固液分離後、ゼオライトケーキを再度調製した上記組成の水溶液に投入して同様な操作を行った。続けて濃度1.09mol/Lの塩化バリウムの水溶液180gに投入し、80℃で16時間攪拌した。固液分離後、充分水洗し、110℃で10時間乾燥し、この触媒を触媒5とした。この触媒のバリウムおよびコバルト含有量を化学分析で調べたところ、ゼオライトのAl2O3モル数に対してバリウムは0.58倍、コバルトは2価として1.22倍含まれていた。
実施例6<触媒6の調製> SiO2/Al2O3モル比が40のアンモニウム型ZSM-5、20gを、濃度0.23mol/Lの酢酸コバルト(II)4水和物の水溶液180gに投入し、80℃で16時間攪拌した。スラリーを固液分離後、ゼオライトケーキを再度調製した上記組成の水溶液に投入して同様な操作を行った。固液分離後、充分水洗し、110℃で10時間乾燥し、このゼオライトのコバルト含有量を化学分析で調べたところ、ゼオライトのAl2O3モル数に対してコバルト2価として1.40倍含まれていた。更に該ゼオライト20gを、金属バリウムとして1wt%に相当するバリウム量を含む0.05mol/Lの硝酸バリウム水溶液29mlに投入し、85℃で10時間、つづけて110℃で10時間乾燥させることによって、蒸発乾固を行った。この触媒を触媒6とした。
比較例1<比較触媒1の調製> SiO2/Al2O3モル比が40のアンモニウム型ZSM-5、20gを、濃度0.23mol/Lの酢酸コバルト(II)4水和物の水溶液180gに投入し、80℃で16時間攪拌した。スラリーを固液分離後、ゼオライトケーキを再度調製した上記組成の水溶液に投入して同様な操作を行った。固液分離後、充分水洗し、110℃で10時間乾燥し、この触媒を比較触媒1とした。この触媒のコバルト含有量を化学分析で調べたところ、ゼオラトのAl2O3モル数に対して、コバルト2価として1.39倍含まれていた。
比較例2<比較触媒2の調製> SiO2/Al2O3モル比が40のアンモニウム型ZSM-5、20gを、その中に含まれているアルミナモル数に対して2倍となるように秤量された濃度0.1mol/Lの酢酸銅(II)水和物の水溶液に投入し、直ちに2.5%アンモニア水を加えて水溶液のpHを10.5とし、室温で16時間攪拌した。固液分離後、充分水洗し、110℃で10時間乾燥し、この触媒を比較触媒2とした。この触媒の銅含有量を化学分析で調べたところ、ゼオライトのAl2O3モル数に対して銅2価として1.04倍含まれていた。
比較例3<比較触媒3の調製> SiO2/Al2O3モル比が40のアンモニウム型ZSM-5、20gを、濃度1.09mol/Lの塩化バリウムの水溶液180gに投入し、80℃で16時間攪拌した。固液分離後、充分水洗し、110℃で10時間乾燥し、比較触媒3とした。この触媒のバリウム含有量を化学分析で調べたところ、ゼオライトのAl2O3モル数に対して、バリウムは0.76倍含まれていた。
実施例7<触媒の活性評価> 実施例1〜6で調製した触媒1〜6をプレス成形後破砕して12〜20メッシュに整粒し、その0.65グラムを常圧固定床反応管に充填した。以下に示す組成のガス(以下、反応ガスという)を600ml/min.で流通し、500℃まで昇温し、0.5時間保持し前処理とした。その後、200℃まで降温し、5℃/min.の昇温速度で800℃まで昇温した(反応1)。そまま続けて800℃で5時間保持し、流通ガスを窒素にかえて、放冷した。室温まで冷却し、流通ガスを反応ガスとし、200℃まで昇温、0.5時間保持し前処理とした。その後、5℃/min.の昇温速度800℃まで昇温した(反応2)。反応ガス中の有害成分である窒素酸化物をNOとし、反応1及び反応2での最高活性値の変化によって触媒の耐久性を評価した結果を表1に示す。NO浄化率とは、次式で示される。
NO浄化率(%)
=(NOin‐NOout)/NOin×100NOin:固定床反応管入口NO濃度NOout:固定床反応管出口NO濃度反応ガス組成 NO 700ppm O2 4% CO 1000ppm C3H6 400ppm H2O 3% N2 バランス比較例4<比較触媒活性評価> 比較例1〜3で得られた比較触媒1〜3を、実施例7と同じ方法を用いて活性を評価した結果を表1に示す。


(発明の効果)
表1より、本発明の触媒は、初期および反応ガス中800℃5時間保持後の活性ともに、比較触媒より酸素過剰排ガス中での排ガス浄化能が高く、非常に優れた耐熱性、耐久性を示すと言う効果がある。
従って、本発明の触媒を排ガスと接触させることにより、酸素過剰状態であっても、窒素酸化物、一酸化炭素及び炭化水素の浄化を行うことができると言う効果が得られる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】窒素酸化物、一酸化炭素及び炭化水素を含む酸素過剰の排ガスから、窒素酸化物、一酸化炭素及び炭化水素を除去するゼオライト触媒であって、SiO2/Al2O3モル比が少なくとも15以上のゼオライトであり、かつコバルトおよびアルカリ土類金属を含有することを特徴とする排ガス浄化触媒。
【請求項2】請求項1の排ガス浄化触媒に、窒素酸化物、一酸化炭素および炭化水素を含む燃焼排ガスを接触させることを特徴とする排ガス中の窒素酸化物、一酸化炭素及び炭化水素を除去する方法。

【特許番号】第2901295号
【登録日】平成11年(1999)3月19日
【発行日】平成11年(1999)6月7日
【国際特許分類】
【出願番号】特願平1−337249
【出願日】平成1年(1989)12月26日
【公開番号】特開平3−196842
【公開日】平成3年(1991)8月28日
【審査請求日】平成8年(1996)10月1日
【出願人】(999999999)東ソー株式会社
【出願人】(999999999)トヨタ自動車株式会社
【出願人】(999999999)株式会社豊田中央研究所
【参考文献】
【文献】特開 平1−130735(JP,A)