説明

排培養液の回収装置、排培養液の回収方法および水耕栽培装置

【課題】植物の水耕栽培を行なうために使用した排培養液に含まれるNaをより効率よく除去し、排培養液の回収を行なう排培養液の回収装置等を提供する。
【解決手段】植物の水耕栽培を行なうために使用したNaを含有する排培養液を透過液と濃縮液とに分離するナノ濾過装置24と、ナノ濾過装置24により分離された透過液に含まれるNaを除去し脱塩水とするイオン交換装置26と、脱塩水と濃縮液とを混合する培養液原液槽28と、を備えることを特徴とする排培養液回収ユニット20。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、排培養液の回収装置等に係り、より詳しくは、例えば植物の水耕栽培を行なうために使用した排培養液の回収装置等に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、光、温度、湿度、培養液等をコントロールすることで、季節や天候の影響を受けにくくして野菜などの植物を栽培、育苗する植物工場が注目されている。
【0003】
植物工場において植物を栽培、育苗するには、例えば、植物を栽培床あるいは育苗床に配列させ、培養液を植物の根付近に流通させることで養分を供給する水耕栽培により行なうことができる。そして植物が生育し所定の品質に達すると収穫あるいは移植される。
【0004】
また植物の収穫あるいは移植を終えた後に栽培床、育苗床に残存する培養液は、排培養液として外部に廃棄される場合が多い。排培養液中には窒素やリンなど閉鎖系水域の富栄養化を招く物質や、亜硝酸イオンなど健康に悪影響を与える物質が含まれる。そのため環境中への多量の廃棄は好ましくない。よって、排培養液を回収して再利用することが求められているが、特に排培養液中に含まれるNa(ナトリウムイオン)は、植物に対し生育阻害物質である。そのためNaを植物の育成に支障がない程度にまで除去することが好ましい。
【0005】
ここで、特許文献1には、原水を脱塩装置で脱塩し、得られた処理水を混合タンクに供給し、そこで肥料成分を添加して養液を調整し、そしてその養液は栽培床に供給され、栽培床からの余剰の養液排水は排液タンクを経て除菌装置で除菌された後、混合タンクに戻される養液栽培方法が開示されている。
【0006】
また特許文献2には、培養液を供給循環して植物を栽培するに当たり、培養液供給循環路に前処理フィルターと限外濾過膜を備えた濾過装置を設け、濾過液は培養液供給循環路に戻し、植物の成長に弊害のある物質は定期的に水耕栽培装置系外に排出するようにした水耕栽培装置および水耕栽培方法が開示されている。
【0007】
更に特許文献3には、光触媒として、金属アルコキシドを含有する光反応性半導体を多孔質基材に塗工し、乾燥凝固させた膜を焼成して、微細孔性の膜を形成した光触媒担持体を用い、かつ、光触媒の光反応用光として太陽光のみを用いて、農業用液体を浄化処理することを特徴とする、農業用液体の処理方法および装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2001−299116号公報
【特許文献2】特開平9−107826号公報
【特許文献3】特開2004−82095号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、原水を脱塩装置で脱塩し、得られた処理水を混合タンクに供給し、そこで肥料成分を添加して養液を調整する方法では、原水に含まれるNaの脱塩は可能であるが、肥料に含まれるNaの除去は行なうことができない。
また培養液供給循環路に前処理フィルターと限外濾過膜を備えた濾過装置を設ける方法では、Naは限外濾過膜を透過するため除去を行なうことができない。
更に、光触媒の光反応用光として太陽光を用いて、農業用液体を浄化処理する方法でもNaの除去を行なうことができない。
【0010】
本発明は、従来の技術が有する上記の問題点に鑑みてなされたものである。
即ち、本発明の目的は、植物の水耕栽培を行なうために使用した排培養液に含まれるNaをより効率よく除去し、排培養液の回収を行なう排培養液の回収装置等を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
かくして本発明によれば、植物の水耕栽培を行なうために使用した排培養液の回収装置であって、Naを含有する排培養液を透過液と濃縮液とに分離する分離手段と、分離手段により分離された透過液に含まれるNaを除去し脱塩水とする脱塩手段と、脱塩水と濃縮液とを混合する混合手段と、を備えることを特徴とする排培養液の回収装置が提供される。
【0012】
ここで、分離手段は、逆浸透膜またはナノ濾過膜の少なくとも一方であることが好ましい。そして脱塩手段は、イオン交換装置であることが好ましく、イオン交換装置は、非再生式カートリッジを使用するものであることが更に好ましい。
そして、排培養液を殺菌するための殺菌手段を更に備え、排培養液は、殺菌手段を通水した後に分離手段に導入することが好ましく、排培養液の一部を分岐する分岐手段を更に備え、分岐手段により分岐された排培養液は、脱塩手段に導入することが好ましい。
【0013】
また本発明によれば、植物の水耕栽培を行なうために使用した排培養液の回収方法であって、Naを含有する排培養液を透過液と濃縮液とに分離し、分離された透過液に含まれるNaを除去して脱塩水とし、脱塩水と濃縮液とを混合することで排培養液の回収を行なうことを特徴とする排培養液の回収方法が提供される。
【0014】
ここで、排培養液の一部を分岐させ、分岐させた排培養液は、透過液と共に脱塩することが好ましい。
【0015】
更に本発明によれば、培養液を循環供給することで植物の水耕栽培を行なう水耕栽培部と、水耕栽培部で使用した排培養液を回収する排培養液回収部と、を備え、排培養液回収部は、Naを含有する排培養液を透過液と濃縮液とに分離する分離手段と、分離手段により分離された透過液に含まれるNaを除去して脱塩水とする脱塩手段と、を備え、水耕栽培部は、脱塩水および濃縮液を使用して培養液を調製する培養液供給手段を備えることを特徴とする水耕栽培装置が提供される。
【0016】
ここで、培養液を作成するのに使用する原水に含まれるNaを除去する第2の脱塩手段を更に有することが好ましい。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、植物の水耕栽培を行なうために使用した排培養液に含まれるNaをより効率よく除去し、排培養液の回収を行なう排培養液の回収装置等を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本実施の形態による排培養液の回収装置を含む植物の水耕栽培装置の一例を示す図である。
【図2】植物の水耕栽培を行なう手順を示したフローチャートである。
【図3】排培養液を回収する手順を示したフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明を実施する形態について詳細に説明する。尚、本発明は、以下の実施の形態に限定されるものではなく、その要旨の範囲内で種々変形して実施することが出来る。また、使用する図面は本実施の形態を説明するためのものであり、実際の大きさを表すものではない。
【0020】
(排培養液)
本実施の形態で処理する排培養液は、植物の水耕栽培を行なうために使用したものであり、植物を育成するための肥料として加えられた成分が含まれる。具体的には、植物の育成に必要な多量成分として窒素、リン、カリウム、カルシウム、マグネシウム、硫黄、塩素等がイオンとして含まれる。また同様に植物の育成に必要な微量成分として鉄、マンガン、亜鉛、銅、モリブデン、ホウ素等がイオンとして含まれる。そして更に、ナトリウムイオンが含まれる。このナトリウムイオンは、主として培養液を調製する際に使用する原水中に含まれていたものである。そして植物によりほとんど吸収されないためそのまま培養液中に蓄積され、植物からの水分の蒸散によりその濃度は上昇していく。その結果、植物の生育を阻害するおそれがある程度にまで濃縮される場合がある。
【0021】
(分離手段)
本実施の形態の分離手段は、Naを含有する排培養液を透過液と濃縮液とに分離するものである。
具体的には、分離膜を備えた装置であり、更に具体的には、逆浸透膜またはナノ濾過膜の少なくとも一方を備えた装置である。これらの分離膜は二価イオン等の多価イオンより一価イオンの方が透過しやすいため、一価イオンであるNaを優先的に透過させることができる。なお一価イオンとしてはNaの他にK、NO、Clが挙げられる。また多価イオンとしてはCa2+、Mg2+、SO2−、PO3−等が挙げられる。よって例えば、排培養液中の一価イオンClもNaと同様に分離される。なお一価イオンの阻止率が低いという観点から、逆浸透膜よりナノ濾過膜を使用する方がより好ましい。また本実施の形態では、植物に対し生育阻害物質であるNa以外の肥料成分の濃度が高いという関係から、分離手段により分離された液のうち多価イオンの濃度が高い方の液を濃縮液と呼ぶ。また分離手段により分離された液のうち多価イオンの濃度が低い方の液を透過液と呼ぶ。
【0022】
(脱塩手段)
本実施の形態の脱塩手段は、上記分離手段により分離された透過液に含まれるNa等の塩類を除去するためのものである。
具体的には、陽イオン交換樹脂や陰イオン交換樹脂などを充填した純水器等のイオン交換装置であり、このイオン交換装置に透過液を通水することでNa等の塩類を除去し脱塩水とすることができる。
なお脱塩手段としては、イオン交換装置に限られるものではなく、例えば、逆浸透膜装置や電気脱塩装置などを使用することができる。ただし、乾燥地帯のように水資源が逼迫しているエリアにおいては、水回収率が高いという観点からイオン交換装置を使用することが好ましい。また同様の観点からイオン交換装置の中でも非再生式カートリッジを使用するものであることが更に好ましい。非再生式カートリッジ式の純水器等を使用すると、植物工場内での水回収率をほぼ100%とすることができる。
【0023】
(殺菌手段)
培養液の管理が不十分になると、培養液中でバクテリアが繁殖し、植物の病気を招くおそれがある。これを防ぐ手段として、培養液を調製する際に使用する原水の殺菌を行なうことや植物工場をクリーンルーム化して外部からの細菌の侵入を防ぐことなどが考えられる。しかし管理を厳密に行なう必要がある他、大掛かりな設備が必要であるなどの問題が生じる。そのため本実施の形態では、排培養液を殺菌するための殺菌手段を別途設け、排培養液は殺菌手段を通水した後に分離手段に導入することが好ましい。
殺菌手段としては、排培養液に紫外線を照射することにより殺菌を行なう紫外線殺菌器を使用することが好ましい。また本実施の形態では、培養液中に含まれる鉄、マンガン、亜鉛等の存在により紫外線透過率が低くなりやすい。そのためこれを補うために二酸化チタン等からなる光触媒を紫外線殺菌器に内蔵させることが更に好ましい。
【0024】
次に、図面に基づき、本実施の形態の排培養液の回収装置および排培養液の回収方法について具体的に説明する。
図1は、本実施の形態による排培養液の回収装置を含む植物の水耕栽培装置の一例を示す図である。また図2は、植物の水耕栽培を行なう手順を示したフローチャートである。更に図3は、排培養液を回収する手順を示したフローチャートである。以下、図1〜図3を使用して説明を行なう。
【0025】
図1に示す植物の水耕栽培装置1は、植物の水耕栽培を行なう水耕栽培部の一例である水耕栽培ユニット10と、排培養液回収部の一例であり排培養液の回収装置の一例でもある排培養液回収ユニット20とからなる。
水耕栽培ユニット10は、培養液の調製および供給を行なう培養液供給手段の一例としての培養液供給装置12と、植物の育成を行なう栽培床14と、培養液の貯留を行なう培養液槽16とを備える。また排培養液回収ユニット20は、排培養液中に含まれる細菌の殺菌を行なう紫外線殺菌器22と、排培養液を透過液と濃縮液に分離する分離手段の一例としてのナノ濾過装置24と、透過液に含まれるNaを除去し脱塩水とする脱塩手段の一例としてのイオン交換装置26と、ナノ濾過装置24によりNaが除去された透過液と濃縮液とを混合する混合手段の一例としての培養液原液槽28とを備える。
また水耕栽培ユニット10において、培養液供給装置12、栽培床14、培養液槽16は、配管32a,32bによって直列に接続し、培養液槽16と栽培床14とは配管32cにより接続している。
そして排培養液回収ユニット20において、紫外線殺菌器22とナノ濾過装置24とは配管32eにより接続し、ナノ濾過装置24と培養液原液槽28とは濃縮液を移送する配管32hにより接続する。更にナノ濾過装置24とイオン交換装置26とは透過液を移送する配管32gにより接続し、イオン交換装置26と培養液原液槽28とは脱塩水を移送する配管32iにより接続する。そして配管32eの途中には分岐手段の一例としての分岐部36があり、この分岐部36により紫外線殺菌器22により殺菌された排培養液の一部が分岐しイオン交換装置26に接続する配管32fにより移送される。
また水耕栽培ユニット10と排培養液回収ユニット20とを接続する配管として、排培養液を培養液槽16から紫外線殺菌器22へ移送するための配管32dと、培養液原液を培養液原液槽28から培養液供給装置12に移送するための配管32kと、培養液原液槽28から配管32eに接続する配管32jとを備えている。
そして、配管32b、配管32d、配管32e、配管32kの途中には、排培養液等を移送するための移送ポンプ34b、移送ポンプ34d、移送ポンプ34e、移送ポンプ34kがそれぞれ設置されている。
【0026】
以下、このように構成された水耕栽培装置1を使用して、植物の水耕栽培を行なう方法および排培養液を回収する方法について説明を行なう。
【0027】
植物の水耕栽培を行なうためには、まず水耕栽培ユニット10の培養液供給装置12で培養液を調製する(ステップ101)。この培養液は、後述する培養液原液に植物を育成させるために必要な養分を含む肥料を添加することにより調製する。培養液に含まれる養分の濃度は、培養液供給装置12に設けられた図示しない導電率計やpH計により計測することができ、図示しない制御装置によりその濃度および供給量をコントロールすることができる。
【0028】
次に、培養液を、配管32aを使用して培養液供給装置12から栽培床14に供給する(ステップ102)。そして栽培床14に予め配列した植物に対し、培養液を供給すると共に、図示しない照明装置により光を照射することにより植物を育成させる。このとき、温度や湿度が図示しない制御装置により制御される。
栽培床14に供給され、栽培床14に流通した植物培養液は、栽培床14の底部より抜き取られ、配管32bおよび移送ポンプ34bにより培養液槽16に導入され貯留される。また培養液槽16に貯留した培養液は,配管32cにより再び栽培床14に供給される。即ち、培養液供給装置12により供給された培養液は、栽培床14と培養液槽16との間を配管32b、配管32c、移送ポンプ34bにより循環供給され、それにより植物の生育に必要な水分や養分を供給することができる(ステップ103)。また培養液中の養分の濃度は、培養液槽16や配管32b、配管32cに設けられた図示しない導電率計やpH計により計測することができる。更に、培養液槽16の水位により培養液全体の量を計測することができる。そして、この計測の結果により植物に吸収された養分や植物から蒸散する水分は、培養液供給装置12により随時補給され、循環する培養液中の養分の濃度や培養液の全体の量をコントロールする。一方、培養液に含まれる成分のうち植物に吸収されない成分は、蓄積され、その濃度は上昇する。
【0029】
培養液の循環供給は、植物が十分生育し、予め定められた品質になるまで続けられる。植物が予め定められた品質に達した場合(ステップ104でYesの場合)、植物は収穫される(ステップ105)。
【0030】
植物を収穫した後の培養液は、排培養液として排培養液回収ユニット20に送られ、回収が行なわれる。
それにはまず排培養液を培養液槽16にいったん集める(ステップ201)。
そして排培養液は、配管32dおよび移送ポンプ34dを使用して、紫外線殺菌器22に送られる。この紫外線殺菌器22には、紫外線照射を行なう紫外線ランプが備えられている。そして紫外線ランプより出射する紫外線により、排培養液中のバクテリア等の細菌を殺菌すると共に植物から分泌された有機物も併せて分解することができる(ステップ202)。また上述した通り、二酸化チタン等からなる光触媒を紫外線殺菌器22内に内蔵させることが好ましい。これにより殺菌、有機物分解をより促進させることができる。なお配管32dの途中に図示しないフィルタを設け、紫外線殺菌器22で殺菌を行なう前に排培養液中に含まれる懸濁物質や根毛などの固形分を除去してもよい。更に、殺菌処理や有機物分解処理をより確実に行なうため、排培養液を循環させる配管や移送ポンプ等からなるラインを別途設け、それにより排培養液が、紫外線殺菌器22中を複数回通過するようにしてもよい。
【0031】
次に殺菌された排培養液は、配管32e、移送ポンプ34eを使用して、所定の圧力に加圧された後、分岐部36を通過する。この分岐部36により排培養液の大部分は、ナノ濾過装置24に送られるが、一部は分流され、後述するイオン交換装置26に送られる(ステップ203)。ここでナノ濾過装置24に送られる排培養液は、本実施の形態では、全体の約90%である。また分岐部36で分流されてイオン交換装置26に送られる排培養液は、本実施の形態では、全体の約10%である。
【0032】
ナノ濾過装置24には上述したナノ濾過膜が備えられている。そしてこのナノ濾過膜によりNaを含有する排培養液を、透過液と濃縮液とに分離することができる(ステップ204)。ここで透過液は、本実施の形態では、排培養液全体に対し約20%である。また濃縮液は、残りの約70%である。
【0033】
ナノ濾過装置24にて分離された透過液は、配管32gによりイオン交換装置26に送られる。イオン交換装置26には陽イオン交換樹脂や陰イオン交換樹脂が充填されており、透過液がイオン交換装置26内を流通する際に、Na等の塩類である陽イオン、および陰イオンを除去し脱塩することができる(ステップ205)。また、イオン交換装置26には上述の通り、分岐部36により分流された排培養液が導入される。そのため、排培養液中に含まれるCa2+、Mg2+等の多価イオンも併せて除去することができる。そしてこれによりナノ濾過装置24にリン酸カルシウム等が析出することを抑制することができる。
【0034】
イオン交換装置26により脱塩された後の脱塩水は、配管32iにより培養液原液槽28に送られる。また培養液原液槽28には、ナノ濾過装置24に分離された濃縮液も配管32hにより送られる。即ち、培養液原液槽28において、脱塩水と濃縮液が混合する(ステップ206)。そしてこの混合液は、Naが除去されているが、養分である他のイオンについては大部分残存する。そして原水である井戸水や水道水を補充することで、培養液原液として利用することができる。なおこの際に第2の脱塩装置としてのイオン交換装置(図示せず)を別途設け、原水中に含まれるNaを除去することが好ましい。
【0035】
以上のようにして排培養液から回収された培養液原液は、配管32kおよび移送ポンプ34kにより培養液供給装置12に送られ(ステップ207)、肥料を補充することで、再び培養液として再生、利用することができる。
【0036】
なお、ナノ濾過装置24やイオン交換装置26を1回通過させただけでは、Naを十分に除去できないときがある。この場合は、配管32jを用いて、培養液原液槽28から、配管32eに脱塩水と濃縮液の混合液を移送することで、混合液をナノ濾過装置24、イオン交換装置26、培養液原液槽28の間で循環させることができる。この場合、ナノ濾過装置24、イオン交換装置26により複数回相当の処理が行なわれることになる。そしてNaの濃度が所定の濃度になるまで循環した後、原水を補充し、培養液原液として利用する。
【0037】
以上詳述した本実施の形態による排培養液の回収装置により排培養液を回収する方法では、排培養液中に濃縮された植物の生育阻害物質であるNaを除去しつつ、他の養分としての成分の多くは残存させることができる。そのため添加した肥料および使用した水の大部分が回収でき、運転コストを低くすることができる。更に排培養液を廃棄することによって生じる閉鎖系水域での富栄養化や地下水等の汚染による健康被害を抑制することができる。
【実施例】
【0038】
以下、本発明を実施例を用いてより詳細に説明するが、本発明は、その要旨を越えない限りこれらの実施例により限定されるものではない。
【0039】
(実施例1)
本実施例では、排培養液の回収装置として図1に示した水耕栽培装置1中の排培養液回収ユニット20を用いた。
そして、排培養液として表1に示した各イオンが含まれるものを使用した。ナノ濾過装置24としては、東レ株式会社製NF膜(ナノ濾過膜)SU−610を備えたものを使用した。またイオン交換装置26としては、日本錬水株式会社製カートリッジ純水器クラスピュアC10SにH形陽イオン交換樹脂とOH形陰イオン交換樹脂のミックス品5L(リットル)を充填したものを用いた。
【0040】
そして排培養液1mを培養液槽16に準備し、これを配管32dおよび移送ポンプ34dを使用して排培養液回収ユニット20に1m/hで移送した。この際、分岐部36において、ナノ濾過装置24に送られる水量は、0.9m/hであり、イオン交換装置26に送られる水量は、0.1m/hとなるように調整した。また、ナノ濾過装置24において分離される透過水は0.2m/hであり、濃縮水は、0.7m/hであった。また配管32jを使用して循環処理を行ない、処理時間は3時間とした。よってこの循環処理により排培養液は、ナノ濾過装置24、イオン交換装置26、培養液原液槽28の間を3回相当循環したことになる。
【0041】
このようにして回収処理を行なった後の培養液原液槽28における培養液原液と、これに肥料を加えて、成分を調整した後の培養液供給装置12における再利用培養液に含まれる各イオンの濃度を表1に示す。なお併せて標準的な培養液の各イオンの濃度を示す。
【0042】
【表1】

【0043】
表1からわかるように排培養液に対し、培養液原液は、Naの濃度が大きく低下していることがわかる。また再利用培養液のNaの濃度は、標準的な培養液の濃度と同程度に抑えられていることがわかる。
そしてこの再利用培養液を用いてレタスの栽培を行なったところ、再利用を行なっていない培養液を使用した場合に比べ、成長速度、および味等の品質においてほぼ同等の結果を得ることができた。
【符号の説明】
【0044】
1…水耕栽培装置、10…水耕栽培ユニット、12…培養液供給装置、14…栽培床、16…培養液槽、20…排培養液回収ユニット、22…紫外線殺菌器、24…ナノ濾過装置、26…イオン交換装置、28…培養液原液槽

【特許請求の範囲】
【請求項1】
植物の水耕栽培を行なうために使用した排培養液の回収装置であって、
Naを含有する前記排培養液を透過液と濃縮液とに分離する分離手段と、
前記分離手段により分離された前記透過液に含まれるNaを除去し脱塩水とする脱塩手段と、
前記脱塩水と前記濃縮液とを混合する混合手段と、
を備えることを特徴とする排培養液の回収装置。
【請求項2】
前記分離手段は、逆浸透膜またはナノ濾過膜の少なくとも一方であることを特徴とする請求項1に記載の排培養液の回収装置。
【請求項3】
前記脱塩手段は、イオン交換装置であることを特徴とする請求項1または2に記載の排培養液の回収装置。
【請求項4】
前記イオン交換装置は、非再生式カートリッジを使用するものであることを特徴とする請求項3に記載の排培養液の回収装置。
【請求項5】
前記排培養液を殺菌するための殺菌手段を更に備え、
前記排培養液は、前記殺菌手段を通水した後に前記分離手段に導入することを特徴とする請求項1乃至4の何れか1項に記載の排培養液の回収装置。
【請求項6】
前記排培養液の一部を分岐する分岐手段を更に備え、
前記分岐手段により分岐された前記排培養液は、前記脱塩手段に導入することを特徴とする請求項1乃至5の何れか1項に記載の排培養液の回収装置。
【請求項7】
植物の水耕栽培を行なうために使用した排培養液の回収方法であって、
Naを含有する前記排培養液を透過液と濃縮液とに分離し、
分離された前記透過液に含まれるNaを除去して脱塩水とし、
前記脱塩水と前記濃縮液とを混合することで前記排培養液の回収を行なうことを特徴とする排培養液の回収方法。
【請求項8】
前記排培養液の一部を分岐させ、
分岐させた前記排培養液は、前記透過液と共に脱塩することを特徴とする請求項7に記載の排培養液の回収方法。
【請求項9】
培養液を循環供給することで植物の水耕栽培を行なう水耕栽培部と、
前記水耕栽培部で使用した排培養液を回収する排培養液回収部と、
を備え、
前記排培養液回収部は、Naを含有する前記排培養液を透過液と濃縮液とに分離する分離手段と、当該分離手段により分離された透過液に含まれるNaを除去して脱塩水とする脱塩手段と、を備え、
前記水耕栽培部は、前記脱塩水および前記濃縮液を使用して前記培養液を調製する培養液供給手段を備えることを特徴とする水耕栽培装置。
【請求項10】
前記培養液を作成するのに使用する原水に含まれるNaを除去する第2の脱塩手段を更に有することを特徴とする請求項9に記載の水耕栽培装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−78332(P2011−78332A)
【公開日】平成23年4月21日(2011.4.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−231464(P2009−231464)
【出願日】平成21年10月5日(2009.10.5)
【出願人】(000232863)日本錬水株式会社 (75)
【出願人】(505302502)株式会社フェアリーエンジェル (11)
【Fターム(参考)】