説明

排気ガス用フィルタの製造方法及びフィルタ

【課題】フィルタの円錐状の変形を防止することができると共に、フィルタの密度を均一に精度良く調整することができる排気ガス用フィルタの製造方法及びフィルタを提供する。
【解決手段】帯状のワイヤメッシュ1を長尺方向へ引張力5を付与しながら渦巻き状に巻いた後に、成型型7内で短尺方向に圧縮する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ディーゼルエンジンの排気ガスを浄化するためのフィルタの製造方法及びフィルタに関し、更に詳しくは排気ガス中に含まれるパティキュレートを除去するためのフィルタの製造方法及びフィルタに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、バスやトラックなどの大型車両のディーゼルエンジンから大量に排出される排気ガスに含まれるパティキュレートによる大気汚染が問題となっている。このパティキュレートは、炭素の微粒子(スス)と未燃焼の燃料物質を主成分とし、健康に悪影響を及ぼすことから、環境への排出量を抑制することが緊急の課題となっている。そのため、パティキュレートを捕集して除去するフィルタをディーゼルエンジンの排気管に設けて、パティキュレートの排出量を低減する技術が開発されている。
【0003】
このようなフィルタの一例として、特許文献1は、パティキュレートを付着させて捕集するワイヤメッシュ構造のフィルタを提案している。このフィルタは、一般的には帯状のワイヤメッシュを渦巻き状に巻くことにより製造されるが、排気ガスの圧力によりフィルタの中央部が下流側に円錐状に突出し変形してしまうという問題があった。
【0004】
このような問題を解決するため、特許文献2は、ワイヤメッシュを長尺方向に2つ折りしてから渦巻き状に巻いたフィルタを提案している。
【0005】
しかし、上記のフィルタでは、隣接するワイヤメッシュ層同士は単に接触しているため強度が低くなり、フィルタの円錐状の変形を完全に防止することができないという問題があった。また、フィルタの密度を均一に精度良く調整することが困難であるため、パティキュレートを効率よく捕集することができないという問題もあった。
【特許文献1】特開2002−336627号公報
【特許文献2】特開2004−105954号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、フィルタの円錐状の変形を防止することができると共に、フィルタの密度を均一に精度良く調整することができる排気ガス用フィルタの製造方法及びフィルタを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の目的を達成する本発明の排気ガス用フィルタの製造方法は、帯状のワイヤメッシュを長尺方向へ引張力を付与しながら渦巻き状に巻いた後に、成型型内で短尺方向に圧縮することを特徴とするものである。
【0008】
この引張力は1×10〜5×10N/mとし、巻かれたワイヤメッシュを成型型内で短尺方向に圧縮する際の短尺方向の圧縮率は30〜50%減とすることが望ましい。
【0009】
帯状のワイヤメッシュは、金属製のワイヤを袋状に編み込んでなるか、又は金属製のワイヤを袋状にメリヤス編みしてウェーブを付けることが望ましい。
【0010】
また、帯状のワイヤメッシュは、長尺方向に沿って2つ折り、3つ折り、又は断面がC字状になるように折り曲げられることが望ましい。
【0011】
上記の目的を達成する本発明の排気ガス用フィルタは、帯状のワイヤメッシュを渦巻き状に巻いてなる排気ガス用フィルタであって、前記ワイヤメッシュが長尺方向へ1×10〜5×10N/mの大きさの引張力を付与されながら渦巻き状に巻かれ、前記巻かれたワイヤメッシュが前記ワイヤメッシュの短尺方向の圧縮率が30〜50%減となるように圧縮されたことを特徴とするものである。
【0012】
この排気ガス用フィルタの見かけ密度は1〜3g/cmであることが望ましい。
【0013】
本発明の排気ガス用フィルタは、ディーゼルエンジンの排気ガス浄化装置に好ましく用いられる。
【0014】
なお、見かけ密度とは、フィルタの重量(g)をその外形寸法(cm)で除した値をいう。
【発明の効果】
【0015】
本発明の排気ガス用フィルタの製造方法によれば、帯状のワイヤメッシュを長尺方向へ引っ張りながら渦巻き状に巻いた後に、成型型内で短尺方向に圧縮するので、ワイヤメッシュを型くずれすることなく一定の形状に巻くことができ、かつ圧縮により隣接するワイヤメッシュ層が互いに絡み合うので強度が高くなるため、フィルタの円錐状の変形を防止することができる。また、圧縮の程度を変えることができるため、フィルタのみかけ密度をフィルタ全体にわたって均一に精度良く調整することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下に、本発明の実施の形態について、図面を参照して説明する。
【0017】
本発明に係る排気ガス用フィルタの製造方法においては、図1に示すような、帯状のワイヤメッシュ1が用いられる。このワイヤメッシュ1は、極細の金属製のワイヤ2を筒状に編み込むことにより製作される。ワイヤ2の材質には耐熱性と耐蝕性に優れた材料であるステンレス鋼を用い、その太さは0.1〜0.5mmの範囲とすることが好ましい。また、既存の製造装置を用いて製造コストを低減するために、ワイヤメッシュ1の網目の間隔は1〜4mmの範囲とすることが望ましい。
【0018】
本発明の排気ガス用フィルタの製造方法を以下に説明する。
【0019】
まず、図2に示すように、テーブル3上の固定軸4にワイヤメッシュ1の一端部を固定して、テーブル3を回転させることによりワイヤメッシュ1を渦巻き状に巻く。このときワイヤメッシュ1の長尺方向へ所定の大きさの引張力5を加えながら巻くことにより、ワイヤメッシュ1を型くずれすることなく均一に巻くことが可能となる。この引張力5の大きさは、ワイヤメッシュ1の形状を安定させる上から、1×10〜5×10N/mの範囲とするのがよく、好ましくは1×10〜4×10N/m、より好ましくは2×10〜3×10N/mの範囲とするのがよい。
【0020】
ワイヤメッシュ1は、図3に示すように、メリヤス状に編んであらかじめウェーブ6を付けておくことにより、ワイヤメッシュ1同士のズレを防ぐことができる。また、図4及び図5にそれぞれ示すように、ワイヤメッシュ1を長尺方向に2つ折り又は3つ折りにしてから巻くことにより、巻き数を減らして製造工程の合理化を図ることができる。このとき、隣接する折り曲げ部が重なることによる型くずれを避けるため、例えば2つ折りの場合には、図6のように断面がC字形となるように折ったり、図7のように2つ折りのワイヤメッシュ1を互いに折り曲げ部が逆になるように交互に巻いたりしてもよい。
【0021】
次に、所定の外径になるまで巻いたワイヤメッシュ1を、図8に示すような上面が開口した成型型7に収納して、プレス機等に接続するピストン8で上方から圧縮・成型することによりフィルタ9を製造する。このとき図9(a)に示すワイヤメッシュ1は、図9(b)のように全体的に上下方向に蛇腹状に潰れて、隣接するワイヤメッシュ層10が互いに絡み合うように変形する。そして、フィルタ9の接線方向への動きが拘束されるため、ワイヤメッシュ1が一様に圧縮されることとなる。このようにして、フィルタ9の密度を均一かつ精度良く調整することができる。更に、隣接するワイヤメッシュ層10同士が絡み合うことで強度が高くなるため、排気ガスによるフィルタの円錐状の変形を従来よりも防止することができる。
【0022】
このときの圧縮率は、製造工程を容易なものとする観点から、巻かれたワイヤメッシュ1の高さの10〜90%減、好ましくは30〜50%減とするのがよく、最終的な成型後の圧縮率は10〜50%減となるようにするのがよい。
【0023】
上記の製造方法により製造したフィルタを適用したディーゼルエンジンの排気ガス浄化装置の一例を図10に示す。
【0024】
この排気ガス浄化装置11は、白金等の触媒を備えた有害ガス浄化装置12とフィルタ9を、筒形のケーシング13内に上流側から順に脱着可能に取り付けたものである。図示しないディーゼルエンジンから排気ガス浄化装置11に流入する排気ガス14は、有害ガス浄化装置11により一酸化炭素(CO)と炭化水素(HC)が酸化されて除去されるとともに、窒素酸化物(NO)である一酸化窒素(NO)が二酸化窒素(NO)に酸化される。そして、排気ガス14中のパティキュレートはフィルタ9に衝突して付着することにより捕集され、上流で発生した二酸化窒素(NO)により酸化されて燃焼することにより除去される。このときフィルタ9においては、隣接するワイヤメッシュ層10間の強度が高いため、排気ガス圧力による円錐状の変形を防止することができる。また、見かけ密度が均一であるため、圧力損失を大きく増加させることなくフィルタ9全面で効果的にパティキュレートを捕集することができる。
【0025】
なお、ディーゼルエンジンが、排気ガス温度が250〜450℃、パティキュレート濃度が1mg/m以上となるような大型ディーゼルエンジンである場合には、フィルタ9の見かけ密度を1〜3g/cmとすることが望ましい。フィルタ9の見かけ密度が1 g/cm未満になると捕集率が低下してしまい、3g/cmを超えると差圧が大きくなる。
【実施例】
【0026】
ステンレス鋼304製の線径が0.12mmであるワイヤ6本をメリヤス編みして、図1に示す形状で60mm幅の帯状のワイヤメッシュを製作した。そのワイヤメッシュを2枚重ねにして、図2に示す方法で引張力を加えながら外径が360mmになるまで渦巻き状に巻いた。引張力はフィルタの外径の大きさにより、表1のように変化させた。
【0027】
【表1】

【0028】
このようにして巻いたワイヤメッシュを、図8に示す成型型内において上方より40tの圧力を加えてワイヤメッシュ高さが60%になるまで圧縮することにより、見かけ密度が1.35g/cmとなるフィルタを製造した。このフィルタを、図10に示すような排気ガス浄化装置に取り付けて、出力が300kWのディーゼルエンジンからの排気ガスの浄化試験を実施した。
【0029】
その結果、25%負荷運転時において、大気中へ放出されるパティキュレート量は0.49g/hp・hrから0.25g/hp・hrへ減少することが確認され、約49%という極めて高いパティキュレート除去率が得られることが分かった。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】ワイヤメッシュの構造を示す立体面である。
【図2】本発明の排気ガス用フィルタの製造方法を説明する斜視図である。
【図3】本発明の排気ガス用フィルタの製造方法における第1の実施形態の斜視図である。
【図4】本発明の排気ガス用フィルタの製造方法における第2の実施形態の斜視図である。
【図5】本発明の排気ガス用フィルタの製造方法における第3の実施形態の斜視図である。
【図6】本発明の排気ガス用フィルタの製造方法における第4の実施形態の一部拡大図である。
【図7】本発明の排気ガス用フィルタの製造方法における第5の実施形態の一部拡大図である。
【図8】巻かれたワイヤメッシュを圧縮・成型してフィルタを製造する説明図である。
【図9】圧縮・成型時におけるフィルタ断面の概念図であり、(a)は圧縮・成型による変形前、(b)は変形後である。
【図10】本発明の排気ガス用フィルタを適用した排気ガス浄化装置の断面図である。
【符号の説明】
【0031】
1 ワイヤメッシュ
2 ワイヤ
3 テーブル
4 固定軸
5 引張力
6 ウェーブ
7 成型型
8 ピストン
9 フィルタ
10 ワイヤメッシュ層
11 排気ガス浄化装置
12 有害ガス浄化装置
13 ケーシング
14 排気ガス

【特許請求の範囲】
【請求項1】
帯状のワイヤメッシュを長尺方向へ引張力を付与しながら渦巻き状に巻いた後に、成型型内で短尺方向に圧縮する排気ガス用フィルタの製造方法。
【請求項2】
前記引張力が、1×10〜5×10N/mである請求項1に記載の排気ガス用フィルタの製造方法。
【請求項3】
前記巻かれたワイヤメッシュを成型型内で短尺方向に圧縮する際の前記短尺方向の圧縮率が30〜50%減である請求項1又は2に記載の排気ガス用フィルタの製造方法。
【請求項4】
前記帯状のワイヤメッシュが、金属製のワイヤを袋状に編み込んでなる請求項1〜3のいずれかに記載の排気ガス用フィルタの製造方法。
【請求項5】
前記帯状のワイヤメッシュが、金属製のワイヤを袋状にメリヤス編みしてウェーブを付けてなる請求項1〜3のいずれかに記載の排気ガス用フィルタの製造方法。
【請求項6】
前記帯状のワイヤメッシュが、長尺方向に沿って2つ折りにされている請求項1〜5のいずれかに記載の排気ガス用フィルタの製造方法。
【請求項7】
前記帯状のワイヤメッシュが、長尺方向に沿って3つ折りにされている請求項1〜5のいずれかに記載の排気ガス用フィルタの製造方法。
【請求項8】
前記帯状のワイヤメッシュが、断面がC字状になるように折り曲げられている請求項1〜5のいずれかに記載の排気ガス用フィルタの製造方法。
【請求項9】
帯状のワイヤメッシュを渦巻き状に巻いてなる排気ガス用フィルタであって、前記ワイヤメッシュが長尺方向へ1×10〜5×10N/mの大きさの引張力を付与されながら渦巻き状に巻かれ、前記巻かれたワイヤメッシュが前記ワイヤメッシュの短尺方向の圧縮率が30〜50%減となるように圧縮されたことを特徴とする排気ガス用フィルタ。
【請求項10】
見かけ密度が1〜3g/cmである請求項9に記載の排気ガス用フィルタ。
【請求項11】
請求項9又は10に記載のディーゼルエンジンの排気ガス用フィルタを備えた排気ガス浄化装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2008−272746(P2008−272746A)
【公開日】平成20年11月13日(2008.11.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−94306(P2008−94306)
【出願日】平成20年3月31日(2008.3.31)
【出願人】(000005902)三井造船株式会社 (1,723)
【出願人】(504383999)株式会社奥谷金網製作所 (2)
【Fターム(参考)】