説明

排水の処理方法

【課題】ポリカーボネート樹脂の製造工程から生じるフェノール性化合物を含む排水を、経済的で且つ効率的にフェノール性化合物や有機溶媒を低濃度まで処理する方法を提供する。
【解決手段】二価フェノールとホスゲンとを用いて界面重合法でポリカーボネート樹脂を製造する工程において、(A)発生するフェノール性化合物を含む排水を、pH調整剤と混合してpH5〜10の溶液とし、この水溶液と有機溶媒とを混合し、水溶液中の該フェノール性化合物を有機溶媒相に抽出する工程(A工程)、(B)A工程で得られた有機溶媒相と水溶液相とを分離して、得られた水溶液1容量部に対し有機溶媒0.2〜2.0容量部を接触させて、フェノール性化合物を除去する工程(B工程)、(C)B工程で得られた排水を水蒸気蒸留する工程(C工程)を含むことを特徴とする排水の処理方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリカーボネート樹脂を製造する際に生じる排水の処理方法に関する。さらに詳しくは、ポリカーボネート樹脂を製造する際に生じるフェノール性化合物を含む排水と有機溶媒とを接触させ効率よく処理する排水の処理方法に関する。さらに、排水中に含まれるフェノール性化合物を効率的に回収する排水の処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリカーボネート樹脂の製造工程から生じる排水の処理方法としては、(1)微生物による活性汚泥法、及び(2)活性炭等への吸着法等が一般的に用いられている。
周知の通り、(1)活性汚泥法は有機物の分解に長時間を要し、しかも微生物の生育に適した濃度に排水を希釈することが必要であるために、活性汚泥処理施設の設置面積が広大になる欠点がある。(2)活性炭等への吸着法は逆洗等の処理操作が繁雑であり、吸着寿命が短いために、設備や処理経費が高価になる問題がある。
【0003】
また、近年、ポリカーボネート樹脂の生産量が増え、それに伴いフェノール性化合物を含む排水が増加し、廃棄されるフェノール性化合物が増大し、環境保全の面からも経済的な面からも好ましくない。したがって、経済的で、且つ、効率的に排水中のフェノール性化合物を極めて低濃度にまで分解、処理できる工業的な方法が望まれている。
【0004】
その様な方法として、フェノール類を含有する排水から、特定のケトン類または脂肪族高級アルコールを抽出剤として用いて、抽出処理を行なってフェノール類を除去する方法が示されている(特許文献1参照)。しかしながら、かかる方法は、排水中に抽出剤がある程度残存し、抽出剤の分離回収を行なう必要があり、また、抽出塔や抽出剤のリサイクル設備などが必要となり抽出処理が煩雑でコスト的にも不利になるという欠点がある。
【0005】
また、特許文献2には、フェノール性化合物を含有する反応排水をイオン交換樹脂と接触させて除去する方法が示されている。しかしながら、かかる方法では、イオン交換樹脂は使用するにしたがってフェノール性化合物の吸着能力が低下し、吸着能力が低下したイオン交換樹脂は、再生して繰り返し使用する必要がある。再生にはアルカリ水溶液と酸性水溶液を用いる方法、例えば、イオン交換樹脂を4%のNaOH溶液と4%の硫酸溶液を用いて再生し、繰り返し使用することができるが、コストがかかり経済的ではない。
【0006】
【特許文献1】特開平11−347536号公報
【特許文献2】特開2004−160356号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、ポリカーボネート樹脂の製造工程から生じるフェノール性化合物を含む排水を、経済的で且つ効率的にフェノール性化合物や有機溶媒を低濃度まで処理する方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記目的を達成するために鋭意研究を重ねた結果、ポリカーボネート樹脂の製造工程から生じるフェノール性化合物を含む排水の処理方法において、多段階で有機溶媒と接触させ、さらに水蒸気蒸留処理することにより、上記目的を達成できることを見出し、本発明に至った。
【0009】
すなわち、本発明によれば、
1.二価フェノールとホスゲンとを用いて界面重合法でポリカーボネート樹脂を製造する工程において、(A)発生するフェノール性化合物を含む排水を、pH調整剤と混合してpH5〜10の溶液とし、この水溶液と有機溶媒とを混合し、水溶液中の該フェノール性化合物を有機溶媒相に抽出する工程(A工程)、(B)A工程で得られた有機溶媒相と水溶液相とを分離して、得られた水溶液1容量部に対し有機溶媒0.2〜2.0容量部を接触させて、フェノール性化合物を除去する工程(B工程)、(C)B工程で得られた排水を水蒸気蒸留する工程(C工程)を含むことを特徴とする排水の処理方法、
2.前記排水の処理方法で処理された排水中の有機溶媒の濃度が0.2mg/l以下である前項1記載の排水の処理方法、
3.前記排水の処理方法で処理された排水中のフェノール性化合物の濃度が2mg/l以下である前項1記載の排水の処理方法、
4.A工程で得られるフェノール性化合物を含有する有機溶媒をポリカーボネート樹脂の製造工程の反応工程で再利用する前項1記載の排水の処理方法、および
5.B工程で得られるフェノール性化合物を含有する有機溶媒をポリカーボネート樹脂の製造工程の反応工程および/またはA工程で再利用する前項1記載の排水の処理方法、
が提供される。
【0010】
本発明で対象とするポリカーボネート樹脂は、二価フェノールとカーボネート前駆体とを界面重合法で反応させて得ることができる。
【0011】
ここで使用される二価フェノールの代表的な例としては、ハイドロキノン、レゾルシノール、4,4′−ジヒドロキシジフェニル、1,4−ジヒドロキシナフタレン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)メタン、ビス{(4−ヒドロキシ−3,5−ジメチル)フェニル}メタン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)エタン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−1−フェニルエタン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン(通称ビスフェノールA)、2,2−ビス{(4−ヒドロキシ−3−メチル)フェニル}プロパン、2,2−ビス{(4−ヒドロキシ−3,5−ジメチル)フェニル}プロパン、2,2−ビス{(3,5−ジブロモ−4−ヒドロキシ)フェニル}プロパン、2,2−ビス{(3−イソプロピル−4−ヒドロキシ)フェニル}プロパン、2,2−ビス{(4−ヒドロキシ−3−フェニル)フェニル}プロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ブタン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−3−メチルブタン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−3,3−ジメチルブタン、2,4−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−2−メチルブタン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ペンタン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−4−メチルペンタン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−4−イソプロピルシクロヘキサン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−3,3,5−トリメチルシクロヘキサン、9,9−ビス(4−ヒドロキシフェニル)フルオレン、9,9−ビス{(4−ヒドロキシ−3−メチル)フェニル}フルオレン、α,α′−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−o−ジイソプロピルベンゼン、α,α′−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−m−ジイソプロピルベンゼン、α,α′−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−p−ジイソプロピルベンゼン、1,3−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−5,7−ジメチルアダマンタン、4,4′−ジヒドロキシジフェニルスルホン、4,4′−ジヒドロキシジフェニルスルホキシド、4,4′−ジヒドロキシジフェニルスルフィド、4,4′−ジヒドロキシジフェニルケトン、4,4′−ジヒドロキシジフェニルエーテルおよび4,4′−ジヒドロキシジフェニルエステル等が挙げられる。
【0012】
これらの二価フェノール化合物のなかでも、ビスフェノールA、2,2−ビス{(4−ヒドロキシ−3−メチル)フェニル}プロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ブタン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−3−メチルブタン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−3,3−ジメチルブタン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−4−メチルペンタン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−3,3,5−トリメチルシクロヘキサン、9,9−ビス{(4−ヒドロキシ−3−メチル)フェニル}フルオレンおよびα,α′−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−m−ジイソプロピルベンゼンからなる群より選ばれた少なくとも1種の二価フェノール化合物より得られる単独重合体または共重合体が好ましく、特に、ビスフェノールAの単独重合体、ビスフェノールAと9,9−ビス{(4−ヒドロキシ−3−メチル)フェニル}フルオレンとの共重合体および1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−3,3,5−トリメチルシクロヘキサンとビスフェノールA、2,2−ビス{(4−ヒドロキシ−3−メチル)フェニル}プロパンまたはα,α′−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−m−ジイソプロピルベンゼンとの共重合体が好ましく使用される。
【0013】
カーボネート前駆体としてはカルボニルハライド、炭酸ジエステルまたはハロホルメート等が使用され、具体的にはホスゲン、ジフェニルカーボネートまたは二価フェノールのジハロホルメート等が挙げられる。
【0014】
上記二価フェノールとカーボネート前駆体を界面重合法によってポリカーボネート樹脂を製造するに当っては、必要に応じて触媒、末端停止剤、二価フェノールの酸化防止剤等を使用してもよい。またポリカーボネート樹脂は三官能以上の多官能性芳香族化合物を共重合した分岐ポリカーボネート樹脂であっても、芳香族または脂肪族の二官能性カルボン酸を共重合したポリエステルカーボネート樹脂であってもよく、また、得られたポリカーボネート樹脂の2種以上を混合した混合物であってもよい。
【0015】
界面重合法による反応は、通常二価フェノールとホスゲンとの反応であり、酸結合剤および有機溶媒の存在下に反応させる。酸結合剤としては例えば水酸化ナトリウムや水酸化カリウム等のアルカリ金属水酸化物、ピリジン等が用いられる。
有機溶媒としては例えば塩化メチレン、クロロベンゼン等のハロゲン化炭化水素が用いられる。
【0016】
また、反応促進のために例えばトリエチルアミン、テトラ−n−ブチルアンモニウムブロマイド、テトラ−n−ブチルホスホニウムブロマイド等の第三級アミン、第四級アンモニウム化合物、第四級ホスホニウム化合物等の触媒を用いることもできる。反応温度は通常0〜40℃、反応時間は10分〜5時間程度、反応中のpHは9以上に保つのが好ましい。
【0017】
また、末端停止剤として、単官能フェノール類が好ましく使用される。末端停止剤を使用して得られたポリカーボネート樹脂は、末端が単官能フェノール類に基づく基によって封鎖されているので、そうでないものと比べて耐熱性に優れている。
【0018】
かかる単官能フェノール類の具体例としては、フェノール、p−クレゾール、p−エチルフェノール、p−イソプロピルフェノール、p−tert−ブチルフェノール、p−クミルフェノール、p−シクロヘキシルフェノール、p−オクチルフェノール、p−ノニルフェノール、2,4−キシレノール、p−メトキシフェノール、p−ヘキシルオキシフェノール、p−デシルオキシフェノール、o−クロロフェノール、m−クロロフェノール、p−クロロフェノール、p−ブロモフェノール、ペンタブロモフェノール、ペンタクロロフェノール、p−フェニルフェノール、p−イソプロペニルフェノール、2,4−ジ(1’−メチル−1’−フェニルエチル)フェノール、β−ナフトール、α−ナフトール、p−(2’,4’,4’−トリメチルクロマニル)フェノール、2−(4’−メトキシフェニル)−2−(4’’−ヒドロキシフェニル)プロパン等のフェノール類等が挙げられ、好ましくはフェノール、p−tert−ブチルフェノール、p−クミルフェノールであり、特に好ましくはp−tert−ブチルフェノールである。
【0019】
これらの末端停止剤は、得られたポリカーボネート樹脂の全末端に対して少なくとも5モル%、好ましくは少なくとも10モル%末端に導入されることが望ましく、また、末端停止剤は単独でまたは2種以上混合して使用してもよい。
【0020】
本発明で処理される排水中に含まれるフェノール性化合物としては、前記ポリカーボネート樹脂の原料として用いられる二価フェノール成分、末端停止剤として用いられる単官能フェノール成分及びこれらの分解物あるいは不純物として含まれるフェノール性化合物が挙げられる。
【0021】
本発明の排水の処理方法は、特に上記界面重合法の製造過程で生じる排水が好適であるが精製工程、造粒工程、乾燥工程、溶融押出工程等の工程から発生する排水を用いても特に問題はない。
【0022】
具体的には、重合工程からは重合終了後の水相、精製工程では水洗に用いられた水、造粒工程ではポリカーボネート溶液を温水に添加する方法が通常行なわれ、その際に使用される温水、乾燥工程では乾燥時に蒸発した水、溶融押出工程では押出機のベント用真空ポンプの液封水が排水となる。その中でも重合工程から発生する重合終了後の水相および溶融押出工程のベント用真空ポンプの液封水が代表的に処理され、特に重合工程から発生する重合終了後の水相が好適に処理される。
【0023】
本発明の排水の処理方法は、二価フェノールとホスゲンとを用いて界面重合法でポリカーボネート樹脂を製造する工程において、(A)発生するフェノール性化合物を含む排水を、pH調整剤と混合してpH5〜10の溶液とし、この水溶液と有機溶媒とを混合し、水溶液中の該フェノール性化合物を有機溶媒相に抽出する工程(A工程)、A工程で得られた有機溶媒相と水溶液相とを分離して、得られた水溶液1容量部に対し有機溶媒0.2〜2.0容量部を接触させて、フェノール性化合物を除去する工程(B工程)、B工程で得られた排水を水蒸気蒸留する工程(C工程)を含むことを特徴とする排水の処理方法である。
【0024】
A工程において、フェノール性化合物を含む排水とpH調整剤とを混合してpH5〜10の溶液とする。ここで使用するpH調整剤としては、有機酸や鉱酸が使用され、塩酸または硫酸が好ましく使用される。pH調節剤を添加した排水のpHは5〜10の範囲であり、好ましくは6〜9の範囲である。反応排水のpHを5より低くすると使用する機器が腐蝕し易くなり好ましくなく、10より高くなるとフェノール性化合物を十分に抽出できず好ましくない。
【0025】
A工程において、上記pH調節剤を添加した水溶液(排水)と有機溶媒とを混合する。混合する方法としては、撹拌型混合槽、静止型混合器などが用いられ、回分式または連続式であってもよく、あるいはこれらを組み合わせて用いることも出来る。有機溶媒は、水溶液1容量部に対して有機溶媒を0.05容量部以上、好ましくは0.05〜2.0容量部、より好ましくは0.2〜2.0容量部の割合、特に0.5〜1.5容量部の割合で混合させることが好ましく、0.05容量部に達しない量ではフェノール性化合物を充分に抽出し難い。2.0容量部を超えると有機溶媒使用量に対するフェノール性化合物の抽出効率が劣り、また、装置も極大化する。また、該有機溶媒は複数回に分けて混合させてもよい。
【0026】
有機溶媒としては、ポリカーボネート樹脂の製造時に使用される有機溶媒が好ましく、例えば塩化メチレン、クロロベンゼン等のハロゲン化炭化水素が好ましく、特に塩化メチレンが好ましい。
【0027】
水溶液と有機溶媒とを混合した後の排水(水溶液)中のフェノール性化合物の濃度は好ましくは30〜500mg/lであり、より好ましくは30〜100mg/lであり、さらに好ましくは30〜50mg/lである。500mg/lより多いとB工程後の排水(水溶液)中のフェノール性化合物の濃度を2mg/l以下にすることができない場合がある。
【0028】
また、A工程で得られたフェノール性化合物を含む有機溶媒は、ポリカーボネート樹脂の製造工程の反応工程に循環し再利用できる。
B工程において、A工程で得られた有機溶媒相と水溶液相(排水)とを遠心分離機やデカンター等で分離して、分離して得られた水溶液(排水)は、そのまま有機溶媒と接触することができる。特にpHを調節する必要は無いがpH調節剤を添加して調節してもよい。水溶液(排水)のpHは5〜11が好ましく、pH6〜10がより好ましく、特にpH6.5〜9.5が好ましい。pH5未満の場合は耐食性の装置が必要となり、設備コストが高くなるので好ましくない。またpH11を越える場合は、フェノール性化合物の抽出率が低下するので好ましくない。
【0029】
水溶液と有機溶媒とを接触させる方法としては、向流接触型の洗浄塔、撹拌型混合槽、静止型混合器などが用いられ、回分式または連続式であってもよく、あるいはこれらを組み合わせて用いることも出来る。水溶液と接触させる有機溶媒は、水溶液1容量部に対して有機溶媒を0.2〜2.0容量部の割合、好ましくは0.5〜1.5容量部の割合、より好ましくは0.7〜1.5容量部の割合で接触させる。この割合であれば、フェノール性化合物濃度を十分に低下させることができ、かつ洗浄塔を使用した場合その塔長が短くできる等の効果がありより経済的である。該有機溶媒は複数回に分けて接触させてもよい。水溶液(排水)と有機溶媒とを分割して接触させる際の有機溶媒の合計量は、水溶液1容量部に対して有機溶媒0.2〜2.0容量部が好ましい。0.2容量部未満の場合はフェノール性化合物を十分に抽出できない。また、分割回数は4回以下が好ましく、2〜3回が特に好ましい。分割回数が4回を超えると装置が煩雑となる。
【0030】
水溶液と有機溶媒とを接触させた後の排水(水溶液)中のフェノール性化合物の濃度は2mg/l以下が好ましく、0.2mg/l以下がより好ましく、0.05mg/l以下がさらに好ましく、0.02mg/l以下が特に好ましい。2mg/lより多いと工場排水として放流できない場合がある。
【0031】
また、B工程で得られたフェノール性化合物を含む有機溶媒は、ポリカーボネート樹脂の製造工程の反応工程および/またはA工程に循環し再利用できる。A工程および/またはB工程で得られるフェノール性化合物を含む有機溶媒溶液を反応工程で再利用することにより、フェノール性化合物のポリマーへの転化率が高くなるので経済的にも有効である。
【0032】
C工程においては、B工程で得られた水溶液(排水)を水蒸気蒸留して排水中の有機溶媒を除去する。
C工程で得られた排水中の有機溶媒の濃度は、0.2mg/l以下が好ましく、0.02mg/l以下がより好ましい。0.2mg/lを超えると、そのまま工場排水として放流することができない場合がある。
【0033】
また、C工程で得られた排水中のフェノール性化合物の濃度は、2mg/l以下が好ましく、0.2mg/l以下がより好ましく、0.05mg/l以下がさらに好ましく、0.02mg/l以下が特に好ましい。2mg/lより多いとそのまま工場排水として放流することができない場合がある。
【0034】
C工程で水蒸気蒸留した後の排水は、さらにフェノール性化合物を除去するために特別な処理する必要はなく、pH調整をしたあとで、そのまま塩水環境中に排出することができるが、活性炭処理やオゾン処理による処理を併用して用いたほうが環境にまったく負荷をかけることなく処理できるので好ましい。特に、有機溶媒を接触させる処理の後に活性炭処理および/またはオゾン処理を行なうことにより、排水中に含まれるフェノール性化合物をごく微量にまで低減することができる。
【0035】
また、A工程とB工程の間、B工程とC工程の間、もしくはC工程の後で排出する地域の排出基準に合わせてpH調整することが好ましい。
【発明の効果】
【0036】
本発明の排水の処理方法は、ポリカーボネート樹脂を製造する際に生じるフェノール性化合物を含む排水から、経済的に且つ効率的にフェノール性化合物や有機溶媒を極めて低濃度まで低減でき、且つ抽出したフェノール性化合物を再利用することができるため、その奏する工業的効果は格別なものである。
【実施例】
【0037】
以下に、実施例を挙げて、本発明を詳述するが、本発明はその要旨を超えない限り、以下の実施例により限定されるものではない。なお、評価は下記の方法で行った。
【0038】
(1)フェノール性化合物の濃度
フェノール性化合物を含有する反応排水の一定量をメスフラスコに取り、そのpHが13〜14になるように水酸化ナトリウムと水で100倍に希釈した溶液の294.0nmにおけるフェノール性化合物のナトリウム塩の吸光度を紫外線吸収スペクトロメーター(日立製作所製U3200型)によって測定し、下記式に代入して求めた。
A=100×W/(22.02×L)
A:フェノール性化合物濃度(g/l)
W:294.0nmでの吸光度
L:セル光路長(cm)
【0039】
(2)塩化メチレン濃度
水相中の塩化メチレン濃度は、水相の一定量をサンプル瓶に取って密栓し、60℃で2時間加熱した気相中の塩化メチレン濃度をガスクロマトグラフ(日立G6000)を用いて測定した。
【0040】
[参照例1]
攪拌機を備えた7mの反応器に、25重量%の水酸化ナトリウム水溶液755l、水2340l、ハイドロサルファイト1.4kg、ビスフェノールA717kg及び塩化メチレン1988lを投入して攪拌溶解した。溶解後攪拌下液温を25±2℃の範囲に保ちながらホスゲン350kgを90分間で吹き込んで反応させた。吹き込み終了後p−tert−ブチルフェノール32kg及び25重量%水酸化ナトリウム水溶液318lを加え、液温を32±2℃の範囲に保ち150分間攪拌して重合を終了した。重合終了後塩化メチレン1800lを加え5分間攪拌後静置して塩化メチレン相と水相(反応排水)とを分離した。分離した塩化メチレン溶液を水洗し、塩化メチレンを除去して粘度平均分子量15,000のポリカーボネート樹脂の粉体を得た。
【0041】
(A工程)
一方、分離した反応排水中のフェノール性化合物の濃度は2320mg/lであった。得られた反応排水1200mlと塩化メチレン600mlを還流冷却器及び攪拌機を備えたセパラブルフラスコに投入し、30秒間300rpmで攪拌後、98重量%濃硫酸8.8mlを加え更に1分間、300rpmで攪拌した。攪拌を停止し2分間静置した後、塩化メチレン相と水相(排水A)とを分離した。この時水相及び塩化メチレン相とも透明であり、フェノール性化合物の析出物の分散は認められなかった。水相のpHは8.9であった。水相中のフェノール性化合物濃度を測定したところ38.7mg/lで、塩化メチレン濃度は5081mg/lあった。
【0042】
[実施例1]
(B工程)
参照例1で得られた水相(排水A)1200mlを別のセパラブル容器に移し替え、さらに塩化メチレン1800mlを加えて30秒間300rpmで攪拌後、攪拌を停止し2分間静置した後、塩化メチレン相と水相(排水B)とを分離した。水相(排水B)中のフェノール性化合物濃度を測定したところ0.001mg/l以下であった。
(C工程)
この水溶液(排水B)を、テラレットを充填した充填塔を用いて塔頂温度100℃で水蒸気蒸留し、有機溶媒を除去した後の水相中のフェノール性化合物濃度は0.001mg/l以下、塩化メチレン濃度は0.02mg/lであった。この水相(排水)は瀬戸内海排出基準(塩化メチレン濃度0.2mg/l以下)を満たした。この結果を表1に示した。
【0043】
[実施例2]
(B工程)
実施例1において、加える塩化メチレンの量を1200mlとした以外は実施例1と同様の操作を行った。水相中のフェノール性化合物濃度を測定したところ0.02mg/lであった。
(C工程)
この水溶液を、テラレットを充填した充填塔を用いて塔頂温度100℃で水蒸気蒸留し、有機溶媒を除去した後の水相中のフェノール性化合物濃度は0.02mg/l、塩化メチレン濃度は0.03mg/lであった。この水相(排水)は瀬戸内海排出基準(塩化メチレン濃度0.2mg/l以下)を満たした。この結果を表1に示した。
【0044】
[実施例3]
(B工程)
実施例1において、加える塩化メチレンの量を600mlとした以外は実施例1と同様の操作を行った。水相中のフェノール性化合物濃度を測定したところ0.04mg/lであった。
(C工程)
この水溶液を、テラレットを充填した充填塔を用いて塔頂温度100℃で水蒸気蒸留し、有機溶媒を除去した後の水相中のフェノール性化合物濃度は0.04mg/l、塩化メチレン濃度は0.02mg/lであった。この水相(排水)は瀬戸内海排出基準(塩化メチレン濃度0.2mg/l以下)を満たした。この結果を表1に示した。
【0045】
[実施例4]
(B工程)
実施例1において、加える塩化メチレンの量を240mlと水相中のフェノール性化合物濃度を測定したところ1.80mg/lであった。
(C工程)
この水溶液を、テラレットを充填した充填塔を用いて塔頂温度100℃で水蒸気蒸留し、有機溶媒を除去した後の水相中のフェノール性化合物濃度は1.74mg/l、塩化メチレン濃度は0.02mg/lであった。この水相(排水)は瀬戸内海排出基準(塩化メチレン濃度0.2mg/l以下)を満たした。この結果を表1に示した。
【0046】
[実施例5]
(B工程)
実施例1において、加える塩化メチレンの量を120mlとした以外は実施例1と同様の操作を行い、水相を分離し(1回目)、その後、得られた水相に更に塩化メチレンを120ml加えて、実施例1と同様に再度処理し、水相を分離した(2回目)。得られた水相中のフェノール性化合物濃度を測定したところ1.06mg/lであった。
(C工程)
この水溶液を、テラレットを充填した充填塔を用いて塔頂温度100℃で水蒸気蒸留し、有機溶媒を除去した後の水相中のフェノール性化合物濃度は1.03mg/l、塩化メチレン濃度は0.02mg/lであった。この水相(排水)は瀬戸内海排出基準(塩化メチレン濃度0.2mg/l以下)を満たした。
【0047】
[比較例1]
実施例1において、加える塩化メチレンの量を120mlとした以外は実施例1と同様の操作を行った。水相中のフェノール性化合物濃度を測定したところ3.00mg/lであった。この水溶液を、テラレットを充填した充填塔を用いて塔頂温度100℃で水蒸気蒸留し、有機溶媒を除去した後の水相中のフェノール性化合物濃度は2.95mg/l、塩化メチレン濃度は0.01mg/lであった。この結果を表1に示した。
【0048】
[比較例2]
実施例1において、加える塩化メチレンの量を12mlとした以外は実施例1と同様の操作を行った。水相中のフェノール性化合物濃度を測定したところ35.8mg/lであった。この水溶液を、テラレットを充填した充填塔を用いて塔頂温度100℃で水蒸気蒸留し、有機溶媒を除去した後の水相中のフェノール性化合物濃度は34.2mg/l、塩化メチレン濃度は0.02mg/lであった。この結果を表1に示した。
【0049】
[比較例3]
参照例1で得られた水溶液(排水A)を、そのままテラレットを充填した充填塔を用いて塔頂温度100℃で水蒸気蒸留した。水相中のフェノール性化合物濃度は37.9mg/l、塩化メチレン濃度0.03mg/lであった。この結果を表1に示した。
【0050】
【表1】

【0051】
[参照例2]
攪拌機を備えた7mの反応器に、25重量%の水酸化ナトリウム水溶液630l、水2260l、ハイドロサルファイト1.5kg、ビスフェノールA712kg及び塩化メチレン1685lを投入して攪拌溶解した。溶解後攪拌下液温を25±2℃の範囲に保ちながらホスゲン350kgを40分間で吹き込んで反応させた。吹き込み終了後p−tert−ブチルフェノール19kg及び25重量%水酸化ナトリウム水溶液113lを加え、撹拌を始め、乳化後市販の純度99.9%のトリエチルアミン0.7kgを加え、さらに液温を32±2℃の範囲に保ち120分間攪拌して重合を終了した。重合終了後塩化メチレン3700lを加え5分間攪拌後静置して塩化メチレン相と水相(反応排水)とを分離した。分離した塩化メチレン溶液を水洗し、塩化メチレンを除去して粘度平均分子量23,500のポリカーボネート樹脂の粉体を得た。
【0052】
(A工程)
一方、分離した反応排水中のフェノール性化合物の濃度は990mg/lであった。得られた反応排水1200mlと塩化メチレン600mlを還流冷却器及び攪拌機を備えたセパラブルフラスコに投入し、30秒間300rpmで攪拌後、98重量%濃硫酸8.8mlを加え更に1分間、300rpmで攪拌した。攪拌を停止し2分間静置した後、塩化メチレン相と水相(排水C)とを分離した。この時水相及び塩化メチレン相とも透明であり、フェノール性化合物の析出物の分散は認められなかった。水相のpHは9.0であった。水相中のフェノール性化合物濃度を測定したところ40.7mg/lで、塩化メチレン濃度は8214mg/lあった。
【0053】
[実施例6]
(B工程)
参照例2で得られた水相(排水C)1200mlを別のセパラブル容器に移し替え、さらに塩化メチレン1200mlを加えて30秒間300rpmで攪拌後、攪拌を停止し2分間静置した後、塩化メチレン相と水相(排水D)とを分離した。水相(排水D)中のフェノール性化合物濃度を測定したところ0.01mg/lであった。
(C工程)
この水溶液(排水D)を、テラレットを充填した充填塔を用いて塔頂温度100℃で水蒸気蒸留し、有機溶媒を除去した後の水相中のフェノール性化合物濃度は0.01mg/l、塩化メチレン濃度は0.02mg/lであった。この水相(排水)は瀬戸内海排出基準(塩化メチレン濃度0.2mg/l以下)を満たした。この結果を表2に示した。
【0054】
[実施例7]
(B工程)
実施例6において、加える塩化メチレンの量を600mlとした以外は実施例6と同様の操作を行った。水相中のフェノール性化合物濃度を測定したところ0.18mg/lであった。
(C工程)
この水溶液を、テラレットを充填した充填塔を用いて塔頂温度100℃で水蒸気蒸留し、有機溶媒を除去した後の水相中のフェノール性化合物濃度は0.11mg/l、塩化メチレン濃度は0.02mg/lであった。この水相(排水)は瀬戸内海排出基準(塩化メチレン濃度0.2mg/l以下)を満たした。この結果を表2に示した。
【0055】
[比較例4]
実施例6において、加える塩化メチレンの量を120mlとした以外は実施例6と同様の操作を行った。水相中のフェノール性化合物濃度を測定したところ3.35mg/lであった。この水溶液を、テラレットを充填した充填塔を用いて塔頂温度100℃で水蒸気蒸留し、有機溶媒を除去した後の水相中のフェノール性化合物濃度は3.21mg/l、塩化メチレン濃度は0.01mg/lであった。この結果を表2に示した。
【0056】
[比較例5]
参照例2で得られた水溶液(排水C)を、そのままテラレットを充填した充填塔を用いて塔頂温度100℃で水蒸気蒸留した。水相中のフェノール性化合物濃度は40.2mg/l、塩化メチレン濃度0.02mg/lであった。この結果を表2に示した。
【0057】
【表2】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
二価フェノールとホスゲンとを用いて界面重合法でポリカーボネート樹脂を製造する工程において、(A)発生するフェノール性化合物を含む排水を、pH調整剤と混合してpH5〜10の溶液とし、この水溶液と有機溶媒とを混合し、水溶液中の該フェノール性化合物を有機溶媒相に抽出する工程(A工程)、(B)A工程で得られた有機溶媒相と水溶液相とを分離して、得られた水溶液1容量部に対し有機溶媒0.2〜2.0容量部を接触させて、フェノール性化合物を除去する工程(B工程)、(C)B工程で得られた排水を水蒸気蒸留する工程(C工程)を含むことを特徴とする排水の処理方法。
【請求項2】
前記排水の処理方法で処理された排水中の有機溶媒の濃度が0.2mg/l以下である請求項1記載の排水の処理方法。
【請求項3】
前記排水の処理方法で処理された排水中のフェノール性化合物の濃度が2mg/l以下である請求項1記載の排水の処理方法。
【請求項4】
A工程で得られるフェノール性化合物を含有する有機溶媒をポリカーボネート樹脂の製造工程の反応工程で再利用する請求項1記載の排水の処理方法。
【請求項5】
B工程で得られるフェノール性化合物を含有する有機溶媒をポリカーボネート樹脂の製造工程の反応工程および/またはA工程で再利用する請求項1記載の排水の処理方法。