説明

排水処理装置および排水処理方法

【課題】処理水への不純物の混入がなく、効率よく有機物を分解できる排水処理装置および排水処理方法の提供。
【解決手段】貯水部と、該貯水部に離間して配置した2つの電極と、該2つの電極に接続する通電手段とを備え、前記電極が表面に酸化物半導体を配してなることを特徴とする排水処理装置、およびかかる排水処理装置によって排水中の有機物を分解する排水処理方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機物を含んだ排水を処理するための排水処理装置および排水処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
排水中の有機物の分解による排水処理方法として、光触媒を利用した排水処理方法が挙げられる。例えば、二酸化チタンなどの光触媒を担持した活性炭、またはゼオライトなどの吸着剤を投入した反応槽に紫外線および/または可視光線を照射する方法が知られている(特許文献1参照)。
【0003】
また、ガラスやプラスチックなどからなる成形体に光触媒を塗布した成型組成物を分散させた多孔質パネルも知られている(例えば、特許文献2)。更に、管壁に複数の貫通微細孔と光触媒を有する中空管を備えた浄化装置も知られている(例えば、特許文献3参照)。これらの方法により、光触媒を使用して排水中の有機物を二酸化炭素と水とに分解し、水を浄化することができる。
【0004】
また、有機物を含有する排水中にオゾンを添加して紫外光を照射する排水処理方法が知られている(特許文献4参照)。
【0005】
また、数ボルト〜数十ボルトの電圧を電極間に印加することで電解質水溶液を電気分解し、生成する活性酸素によって排水中の有機物を分解する電解酸化法が知られている(特許文献5参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平11−10136号公報
【特許文献2】特開2000−354762号公報
【特許文献3】特開平11−290656号公報
【特許文献4】特開平11−104618号公報
【特許文献5】特公昭56−37874公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1の方法では、排水中で光触媒を担持した吸着剤が互いに接触することで破砕するため、連続使用が困難であるという問題がある。
【0008】
特許文献2に記載の方法では、光触媒と排水との接触面積を十分上げるためには、多孔質の空孔率を上げたり、パネルを厚くする必要があり、強度低下、コストアップ、大型化などの問題がある。特許文献3に記載の方法では、光触媒と排水との接触面積を十分上げるために、中空管の本数増大や延長が必要となり、特許文献4に記載の方法で用いるオゾンは腐食性、毒性が高く、特殊な設備が必要なため、排水処理装置のコストアップや大型化につながるという問題がある。特許文献5の方法は、電解質水溶液による電極等の劣化の問題がある。
【0009】
しかして、本発明の目的は、処理水への不純物の混入がなく、効率よく有機物を分解できる簡易な排水処理装置および排水処理方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明によれば、上記目的は、
[1]貯水部と、該貯水部に離間して配置した2つの電極と、該2つの電極に接続する通電手段とを備え、前記電極が表面に酸化物半導体を配してなることを特徴とする排水処理装置;
[2]前記酸化物半導体が酸化チタンである上記[1]の排水処理装置;
[3]前記電極が炭素材料の表面に酸化物半導体を備えてなる上記[1]または[2]の排水処理装置;
[4]前記炭素材料が繊維状活性炭である上記[3]の排水処理装置;および
[5]上記[1]から[4]のいずれかの排水処理装置を用いて前記排水中の有機物を分解する排水処理方法;
を提供することにより達成される。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、処理水への不純物の混入がなく、効率よく有機物を分解できる排水処理装置および排水処理方法を提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の排水処理装置を構成する貯水部は、その形状に特に制限はない。貯水部の材質としては、金属、ガラスおよびプラスチックが挙げられ、耐久性の観点からは金属またはプラスチックが好ましい。
【0013】
本発明の排水処理装置の貯水部に離間して配置する2つの電極間の距離は、通常0.1〜1000mmの範囲であり、電解を円滑に促進する観点からは、1〜500mmの範囲とするのが好ましく、5〜200mmの範囲とするのがさらに好ましい。
【0014】
前記電極の形状としては、例えば糸状、棒状、シート状、筒状が挙げられるが、排水との接触効率を高める観点からは、棒状、シート状、筒状の形態が好ましい。シート状の電極を筒状に変形したものでもよい。
【0015】
前記電極の材料としては、アルミニウム、銅、鉄、ニッケルなどの金属および炭素材料が挙げられるが、排水のpHによる腐食を抑制する観点からは炭素材料が好ましい。かかる炭素材料は、軟質炭素を焼成して硬化成形する方法、硬化させた炭素材料を削るなどの方法などによって所望の形状とできる。
【0016】
排水との接触効率を高めるために、前記電極の表面積を高めることが有効である。表面積を高める方法として電極の表面に凹凸を設ける方法が挙げられ、具体的には、表面に凹凸のある電極に酸化物半導体を配することが有効である。表面に凹凸のある電極材料として、活性炭が挙げられる。また、繊維状の電極材料を用いると微細な凸凹を表面に形成できるので好ましい。かかる繊維状の電極材料は、織編物としてシート状にすることで簡便に用いることができる。かかる繊維状の電極材料として炭素繊維が挙げられ、特に活性炭繊維が好ましい。
【0017】
前記電極の表面に配する酸化物半導体としては、酸化チタン、酸化亜鉛、酸化ジルコニウムおよび酸化スズが挙げられ、導電性、排水処理効率の観点からは、酸化チタンが特に好ましい。これらは単独、または2種以上を複合して用いることができる。
【0018】
電極の表面に酸化物半導体を配する方法としては、電極材料に酸化物半導体を練りこむ方法、電極の表面に酸化物半導体を層状に配する方法が挙げられ、溶射により電極の表面に酸化物半導体を層状に配する方法が好ましい。
【0019】
電極の表面に酸化物半導体を配する方法として溶射を用いる場合、溶射方法としては、フレーム溶射、爆発溶射、電気式溶射、ガス溶射、コールドスプレーなどが挙げられ、操作性と、材料の選択の幅広さの観点から、電気式溶射が好ましい。電気式溶射の方式としては、アーク溶射、減圧プラズマ式溶射、大気プラズマ溶射、水プラズマ式溶射などが挙げられ、操作性と、酸化物半導体からなる層の緻密性を均一化する観点から大気プラズマ溶射が好ましい。
【0020】
電気式溶射によって酸化物半導体を配する場合、溶射ガンで発生したプラズマ炎の中に酸化チタン粉末、酸化亜鉛粉末などの酸化物半導体粉末を、供給口よりアルゴンあるいは窒素ガス圧により投入し、電極の表面に吹き付ける。かかる電気式溶射は、通常、出力1〜80kW、溶射距離100〜500mmの条件で行われる。高すぎる出力や近すぎる溶射距離では、溶融した酸化物半導体が電極上に密着して、表面積が著しく低下する傾向となる。低すぎる出力や遠すぎる溶射距離では酸化物半導体層が十分形成されず、酸化物半導体が粒子として表面を被覆した状態となるため、酸化物半導体層が剥離しやすくなる。
【0021】
本発明の通電手段の一部として、電極に集電極を設けてもよい。集電極の材料としては、金、銅、白金、アルミニウムなどの金属が挙げられる。この場合、排水処理装置で排水を処理するにあたって、集電極が排水に浸漬しないことが好ましく、通常電極の上部に集電極を設け、かかる集電極の位置よりも低い水位まで排水を添加して処理を行う。
【0022】
上記2つの電極間には必要に応じて、不導体からなる隔壁を配することで電極同士の接触を防ぐことができる。隔壁の材料としては、セルロース、セラミックス、ガラス、プラスチックなどが挙げられる。かかる隔壁はシート状であることが好ましく、排水の移動を妨げないために両面が連通した多孔質シート状であることがより好ましい。両面が連通した多孔質シート状の隔壁としては、織布状、不織布状のものが好ましい。
【0023】
通電する際の電圧は、直流、交流のいずれを印加してもよい。操作性、電圧の制御の観点から直流を印加することが好ましい。またかかる電圧は連続的であっても、パルスであってもよい。印加する電圧は、通常0.1〜100Vの範囲であり、電解効率の観点から、好ましくは0.2〜30Vの範囲、より好ましくは0.3〜10Vの範囲である。
【0024】
本発明において、貯水部に流す電流としては、印加する電圧に依存するが、通常1mA〜10Aの範囲であり、電解の効率の観点から、好ましくは10mA〜8Aの範囲、より好ましくは100mA〜5Aの範囲が好ましい。
【0025】
本発明の排水処理装置は、バッチ式、連続式いずれの方式でも構わないが、排水処理量を高めるためには連続式であることが好ましい。
【実施例】
【0026】
以下に実施例に基づいて本発明を詳細に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されない。下記実施例、比較例では本発明の排水処理装置で1質量%イソプロパノール水溶液を用いて有機物の処理性能を評価した。
【0027】
[イソプロパノール残存率の定量方法]
装置:ガスクロマトグラフィー(GC14B 島津製作所製)
カラム:G−100(カラム長 10m)
キャリアガス:He 10ml/min
昇温条件:70℃ 一定
内部標準:デカン
【0028】
[実施例1]
炭素板(ニラコ製、C-073518(1mm×50mm×50mm))の両面に、プラズマ溶射ガン(日本ユテク社製、テロダインシステム2000)に、平均粒子径1〜1.5μmの酸化チタン粒子を供給しながら、プラズマ投入電力 30KW、窒素流量 40リットル/min、酸化チタン粒子の供給量 1g/min、プラズマ溶射ガン先端と炭素板との距離を120mmとし、20秒間溶射処理を行い、導電体である炭素板の表面に酸化物半導体である酸化チタンを層状に配した電極を得た。
貯水部となる100mm×10mm×100mmの貯水槽に、上記電極2枚の間にアドバンテック東洋製ろ紙5Cを鋏んで配置した。通電手段である直流電源菊水電子製PMC18-5Aから2枚の電極にそれぞれリード線でつなぎ、本発明の排水処理装置とした。貯水槽に80mlの1質量%イソプロパノール水溶液を電極が浸漬するように添加したのち、通電手段から10V、400mAを印加した。試験開始時、30分後、1時間、4時間後にサンプリングを行い、水溶液中のイソプロパノールの残存率を定量した。
【0029】
[実施例2]
炭素板に代えて活性炭布(クラレケミカル製、クラクティブCH(3mm×50mm×50mm))を用いた以外は実施例1と同様にして、本発明の排水処理装置を作成し、実施例1と同様の試験を行って、水溶液中のイソプロパノールの残存率を定量した。
【0030】
[比較例1]
実施例1と同様の操作を行い、電極を得た。
100mm×10mm×100mmの貯水槽に、上記電極2枚の間にアドバンテック東洋製ろ紙5Cを鋏んで配置した。貯水槽に80mlの1質量%イソプロパノール水溶液を電極が浸漬するように添加したのち、紫外線ランプ(テックジャム製、ハンディ紫外線ランプ4W J124)を用いて紫外線を照射した。試験開始時、30分後、1時間、4時間後にサンプリングを行い、水溶液中のイソプロパノールの残存率を定量した。
【0031】
[比較例2]
実施例2と同様の操作を行い、電極を得た。
100mm×10mm×100mmの貯水槽に、上記電極2枚の間にアドバンテック東洋製ろ紙5Cを鋏んで配置した。貯水槽に80mlの1質量%イソプロパノール水溶液を電極が浸漬するように添加した直後、30分後、1時間、4時間後にサンプリングを行い、水溶液中のイソプロパノールの残存率を定量した。
【0032】
実施例、比較例における各サンプリング時間ごとのイソプロパノールの残存率を表1に示す。
【0033】
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
貯水部と、該貯水部に離間して配置した2つの電極と、該電極に接続する通電手段とを備え、前記電極の表面に酸化物半導体を配してなることを特徴とする排水処理装置。
【請求項2】
前記酸化物半導体が酸化チタンである請求項1に記載の排水処理装置。
【請求項3】
前記電極が炭素材料の表面に酸化物半導体を備えてなる請求項1または2に記載の排水処理装置。
【請求項4】
前記炭素材料が繊維状活性炭である請求項3に記載の排水処理装置。
【請求項5】
請求項1から4のいずれかに記載の排水処理装置を用いて排水中の有機物を分解する排水処理方法。

【公開番号】特開2012−206049(P2012−206049A)
【公開日】平成24年10月25日(2012.10.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−74774(P2011−74774)
【出願日】平成23年3月30日(2011.3.30)
【出願人】(000001085)株式会社クラレ (1,607)
【Fターム(参考)】