説明

排泄物収容装具用パウチのための潤滑性組成物及び排泄物収容装具用パウチ

【課題】排泄物収容装具用のパウチの内壁等に排泄物を残留させることなく容易に短時間で、排泄物を排出することができるパウチを提供する。また、上記排泄物収容装具用パウチのための潤滑性組成物を提供する。
【解決手段】少なくとも1種の潤滑成分と皮膜形成性の高分子化合物とを含有してなる、排泄物収容装具用パウチ2のための潤滑性組成物。潤滑成分としては、界面活性剤、水溶性高分子化合物又は油が好ましい。皮膜形成性高分子化合物としては、疎水性高分子化合物又は非水溶性親水性高分子化合物が好ましい。この潤滑性組成物から形成された皮膜からなる被覆20を有する排泄物収容装具用パウチ2。この排泄物収容装具用パウチ2は、オストミー装具用パウチとして好適である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生体の表面に形成された開孔や傷の周囲に固定し、生体内又は生体表面からの排泄物、排泄液、ガス、滲出液、分泌液等(以下、これらを総称して「排泄物」という。)を一時的に収容するために用いる排泄物収容装具に装備するためのパウチ(以下、「排泄物収容装具用パウチ」という。)に関する。特に、本発明は、その内壁等に排泄物を残留させることなく容易に短時間で、排泄物を排出することができる排泄物収容装具用パウチに関する。
また、本発明は、上記排泄物収容装具用パウチのための潤滑性組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
便や尿の排泄を自らの意志により制御できない場合や、消化器系又は泌尿器系器官の疾患がある場合に、外科的手術を行い腸管や尿管を体表まで導き体表面にストーマを造設した人は、ストーマからの排泄物を一時的に貯留できるオストミー装具をストーマに装着する必要がある。
また、その他の疾患で体表面に開孔や傷を有する人も、ドレナージ等により排出された排泄物を処理するために、ドレナージパウチを開孔や傷の周囲に装着する必要がある。
これらの排泄物収容装具には、ストーマの周囲の皮膚表面に貼り付けて固定する面板に排泄物を受け入れて収納するパウチを直接取り付けた単品系のものと、上記面板に係合部材を介して着脱可能にパウチを取り付ける多品系のものが知られている。いずれの場合にも、排泄物収容装具を再利用又は、廃棄するために、パウチから排泄物を取り出す必要がある。
しかしながら、排泄物には粘性があるものが多く、これがパウチの内表面にべったりと付着し、短時間で容易には排出できないという問題がある。特に排出口に付着すると排出口を完全に封止することが不可能となり、漏れやこれに伴う臭気が発生して、使用者や使用者の介護者等に非常な不快感を与えることとなる。
従って、パウチには、排泄物を容易に短時間で排出することができることが求められている。
【0003】
この要請を満足させるためにこれまでに提案されている手法は、パウチの材質の変更又はパウチ内表面の改質である。
特許文献1には、メタロセン触媒を用いて製造したポリオレフィン系プラスチックフィルムで形成したパウチが開示されている。
特許文献2には、鉱油、植物油、動物油及び合成油から選ばれる1種以上を含有する特定粘度の潤滑剤組成物をストーマ装具用のパウチ内部に塗布又は噴霧しておく方法が開示されている。しかしながら、この潤滑剤組成物は、均一にパウチ内面を処理できない恐れが高いという問題がある。その上、塗布又は噴霧された潤滑剤組成物は、流動性を有するので内容物と共に排出されてしまう。従って、頻繁に塗布又は噴霧しなければならず、使用者や介護者の負担が大きい。
特許文献3には、パウチの内面に非ヒートシール性の表面を有するインサートを積層して、パウチ製造時にパウチの壁同士がヒートシールされないようにしたパウチが開示されている。この非ヒートシール性材料として、シリコーンが用いられる。シリコーンインサートによりパウチ内面の摩擦係数が低下するので、固形内容物がパウチ下部に重力で移動しやすくなるという副次的効果が得られることが報告されている。しかしながら、この手法では、内容物がパウチ内面に固着するのを十分に防止することができない。
【0004】
特許文献4には、オストミー装具(パウチ)を構成する前後両面の壁が相互に固着して排泄物が収納されにくくなるのを防ぐために、少なくとも開口部の周囲に表面摩擦係数を低下させる被覆を設けることが開示されている。親水性表面を有する接着剤のほか、特にカルボキシメチルセルロース粉末等の親水性ポリマーの粉末が好適であるとされている。また、同文献には、被覆には、シリコーンポリマーやテトラフルオロエチレンポリマー等の疎水性被覆を用いてもよいとの記載がある。しかしながら、この方法も、また、内容物がパウチ内面に固着するのを十分に防止することができない。
特許文献5には、ヒドロキシエチルセルロース等のセルロース化合物の水溶液からなる潤滑剤を界面活性剤と共にパウチ内に投入して、パウチ内の排泄物が容易に排出されるようにすることが開示されている。しかしながら、この潤滑剤は、パウチ内容物の排出のつど、効果が低下するため、この潤滑剤を充填した瓶やチューブから補充しなければならず、煩雑である。
【0005】
【特許文献1】特開平11−19108号公報
【特許文献2】特開2004−81299号公報
【特許文献3】米国特許第4518388号明細書
【特許文献4】国際公開第03/026540号パンフレット
【特許文献5】国際公開第2005/004944号パンフレット
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従って、本発明の目的は、排泄物収容装具用のパウチの内壁等に排泄物を残留させることなく容易に短時間で、排泄物を排出することができるパウチを提供することにある。
また、本発明の他の目的は、上記排泄物収容装具用パウチのための潤滑性組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、上記目的を達成すべく鋭意検討を進めた結果、特定の潤滑成分と皮膜形成性高分子とからなる組成物が持続的に潤滑性を示すことを見出し、排泄物収容装具用パウチの内壁面に、上記特定の組成物の皮膜を形成すれば、短時間で容易に排泄物収容装具用パウチ内容物を排出することができ、しかも、排出後、パウチを再使用することを繰り返してもその潤滑効果が持続することを見出し、この知見に基づいて更に検討を進めて本発明を完成するに至った。
【0008】
かくして、本発明によれば、少なくとも1種の潤滑成分と皮膜形成性の高分子化合物とを含有してなる、排泄物収容装具用パウチのための潤滑性組成物が提供される。
本発明の潤滑性組成物において、潤滑成分が界面活性剤であることが好ましい。
上記潤滑性組成物は、その上に滴下した水との接触角が水滴を滴下した直後から5分経過した時に65°以下である皮膜を形成するものであることが好ましく、その上に滴下した水との接触角が、水滴を滴下した直後に65°以上であって、滴下した後に経時で次第に低下し、水滴の滴下直後の接触角と滴下5分後の接触角との差が10°以上である皮膜を形成するものであることが更に好ましい。
本発明の潤滑性組成物において、潤滑成分は鉱油、植物油、動物油及び合成油からなる群から選ばれる少なくとも1種の油であることが好ましい。
本発明の潤滑性組成物において、皮膜形成性の高分子化合物は、疎水性高分子化合物であるか、非水溶性親水性高分子化合物であることが好ましい。
本発明の潤滑性組成物において、皮膜形成性の高分子化合物は、ビニルモノマーとシロキサンモノマーとの共重合体であることが好ましい。
本発明の潤滑性組成物において、潤滑成分は、水溶性高分子であることが好ましい。このとき、皮膜形成性の高分子化合物が非水溶性親水性高分子化合物であることが好ましい。
【0009】
また、本発明によれば、排泄物収容装具用パウチであって、内面に上記の潤滑性組成物から形成された皮膜からなる被覆を有するパウチが提供される。
上記排泄物収容装具用パウチにおいて、被覆は、パウチ内面上に形成された潤滑性組成物の皮膜からなる被覆であることができる。
また、上記排泄物収容装具用パウチにおいて、被覆は、パウチ内面に積層された潤滑性組成物のフィルムからなる被覆であることができる。
また、本発明によれば、本発明の潤滑性組成物から形成されたフィルムにより構成されている排泄物収容装具用パウチパウチが提供される。
本発明の排泄物収容装具用パウチは、オストミー装具用パウチに好適に使用できる。
【発明の効果】
【0010】
本発明の排泄物収容装具用パウチは、排泄物を短時間で容易に排出することができ、しかも、排出後、パウチを再使用することを繰り返してもその効果が持続する。
従って、この排泄物収容装具用パウチを使用することにより、装具使用者は、煩雑な操作を必要とせず、パウチ内容物を排出することができ、また、排泄物を完全に排出することができるので、臭気等の問題を引き起こすことがなく、通常の生活に支障を来たすことがない。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明の排泄物収容装具用パウチのための潤滑性組成物は、少なくとも1種の潤滑成分と皮膜形成性高分子化合物とを含有してなる。
潤滑成分としては、界面活性剤、水溶性高分子化合物並びに鉱油、植物油、動物油及び合成油からなる群から選ばれる少なくとも1種の油を使用することができる。
【0012】
本発明において使用し得る界面活性剤は、非イオン界面活性剤、アニオン界面活性剤、カチオン界面活性剤及び両性界面活性剤のいずれでもよい。
非イオン界面活性剤の具体例としては、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレン2級アルコールエーテル、ポリオキシエチレンラノリン誘導体、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンブロックポリマー等のエーテル型;ポリオキシエチレングリセリン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビトール脂肪酸エステル等のエーテルエステル型;ポリエチレングリコール脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、プロピレングリコール脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル等のエステル型;脂肪酸アルカノールアミド、ポリオキシエチレン脂肪酸アミド、ポリオキシエチレンアルキルアミン等の含窒素型;等を挙げることができる。
【0013】
アニオン界面活性剤の具体例としては、脂肪酸石鹸、アルキルエーテルカルボン酸塩等のカルボン酸塩;アルキルベンゼンスルホン酸塩、ジアルキルスルホコハク酸エステル塩、α−オレフィンスルホン酸塩等のスルホン酸塩;高級アルコール硫酸エステル塩、第2級高級アルコール硫酸エステル塩、アルキルエーテル硫酸塩、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル硫酸塩等の硫酸エステル塩;アルキルエーテルリン酸エステル塩、アルキルリン酸エステル塩等のリン酸エステル塩;等を挙げることができる。
【0014】
カチオン界面活性剤の具体例としては、脂肪族アミン塩、脂肪族4級アンモニウム塩、ベンザルコニウム塩;等を挙げることができる。
両性界面活性剤の具体例としては、カルボキシベタイン型、アミノカルボン酸塩、レシチン;等を挙げることができる。
これらの界面活性剤は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
【0015】
潤滑成分として使用する水溶性高分子化合物は、天然親水性高分子、半合成親水性高分子及び合成親水性高分子のいずれであってもよい。
天然親水性高分子の例としては、アラビアガム、トラガカントガム、ガラクタン、グアガム、キャロブガム、カラヤガム、カラギーナン、ペクチン、カンテン、デンプン(コメ、トウモロコシ、バレイショ、コムギ)等の植物系高分子;キサンタンガム、デキストラン、サクシノグルカン、プルラン等の微生物系高分子;コラーゲン、カゼイン、アルブミン、ゼラチン等の動物系高分子等が挙げられる。
半合成親水性高分子の例としては、デンプン系高分子(例えば、カルボキシメチルデンプン、メチルヒドロキシプロピルデンプン等);セルロース系高分子(メチルセルロース、エチルセルロース、メチルヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、セルロース硫酸ナトリウム、ヒドロキシプロピルセルロース、カルボキシメチルセルロース、カルボキシメチルセルロースナトリウム、結晶セルロース等);アルギン酸系高分子(例えば、アルギン酸ナトリウム、アルギン酸プロピレングリコールエステル等)等が挙げられる。
合成親水性高分子の例としては、例えば、ビニル系高分子(例えば、ポリビニルアルコール、ポリビニルメチルエーテル、ポリビニルピロリドン、カルボキシビニルポリマー等);ポリオキシエチレン系高分子(例えば、ポリエチレングリコール、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレン共重合体等);アクリル系高分子(例えば、ポリアクリル酸ナトリウム、ポリアクリルアミド等);ポリエチレンイミン;等が挙げられる。
【0016】
本発明においては、潤滑成分として、鉱油、植物油、動物油及び合成油からなる群から選ばれる少なくとも1種の油を使用することができる。
鉱油としては、流動パラフィン、流動イソパラフィン、ナフテン油等を挙げることができる。
また、植物油としては、オリーブ油、オリーブスクワラン、マカデミアナッツ油、ホホバ油、スクワラン、アーモンド油、落花生油、ひまし油、やし油、パーム油、サフラワー油、ひまわり油、綿実油、硬化やし油、硬化パーム油、アボガド、杏仁油、グレープシード油等を挙げることができる。
動物油としては、ラノリン、タートル油、ミツロウ、スクワレン、プリスタン等を挙げることができる。
更に、合成油としては、グリセリントリ−2−エチルヘキサノエート等の脂肪酸トリグリセライド;ポリメチルフェニルシロキサン、ポリジメチルシロキサン、アミノシリコン等のシリコーンオイル;ミリスチン酸イソプロピル、ミリスチン酸オクチルドデシル、イソノナン酸イソノニル、パルミチン酸イソプロピル、パルミチン酸エチルヘキシル等のエステル類;等を挙げることができる。
【0017】
潤滑成分の使用量は、潤滑性組成物の全重量に対して、0.02〜50重量%であることが好ましく、0.02〜20重量%であることが更に好ましい。
潤滑成分の使用量は、潤滑性組成物から形成される皮膜中に、1〜50重量%であることが好ましく,1〜20重量%であることが更に好ましい。
潤滑成分の使用量は、潤滑性組成物を構成する皮膜形成性の高分子化合物100重量部に対しては、1〜100重量部が好ましく、1〜25重量部が更に好ましい。
【0018】
本発明において、潤滑性組成物を構成する皮膜形成性の高分子化合物は、上記潤滑成分との混合物として皮膜を形成することができるものであれば、特に限定されない。これらの皮膜形成性の高分子化合物は、1種を単独で使用しても、2種以上を併用してもよい。
皮膜形成性の高分子化合物は、非水溶性であることが好ましい。
皮膜形成性の高分子化合物は、それと併用する潤滑成分との組み合わせによって適宜選択すればよいが、潤滑成分が界面活性剤である場合には、疎水性高分子化合物又は非水溶性親水性高分子化合物であることが好ましく、潤滑成分が油である場合には、疎水性高分子化合物であることが好ましく、潤滑成分が水溶性高分子化合物である場合には、非水溶性親水性高分子化合物であることが好ましい。
皮膜形成性の疎水性高分子化合物は、好ましくはそれから形成した皮膜と水との接触角が65°以上、更に好ましくは90°以上のものである。
形成した皮膜の接触角が65°以上になる疎水性高分子化合物の例としては、アクリル樹脂、メタクリル樹脂、シリコーン樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、ポリ塩化ビニリデン樹脂、フッ素樹脂、オレフィン樹脂、ポリエステル樹脂、スチレン樹脂、ウレタン樹脂、ポリアミド樹脂、及びこれらの混合物等を挙げることができる。
形成した皮膜の接触角が90°以上になる疎水性高分子化合物の例としては、シリコーン樹脂、フッ素樹脂及びこれらの混合物が挙げられる。
【0019】
中でも、ビニルモノマーとシロキサンモノマーとの共重合体(以下、「ビニル/シリコーン共重合体」という。)が好ましい。この共重合体は、排泄物収容装具用パウチとして広く使用されているオレフィン樹脂フィルム又はオレフィン共重合体樹脂フィルムに対して、密着性が良く、柔軟な皮膜を形成できる点で優れている。
ビニル/シリコーン共重合体は、ラジカル重合性のシロキサン化合物(以下、「シロキサンモノマー」ということがある。)とこれと共重合可能なラジカル重合性ビニルモノマー(以下、単に「ビニルモノマー」ということがある。)との共重合体である。
ビニル/シリコーン共重合体において、ビニルモノマーとシロキサンモノマーとの重量比率(ビニルモノマー重量/シロキサンモノマー重量)は、60/40〜99/1であることが好ましく、80/20〜99/1であることが更に好ましい。
ビニル/シリコーン共重合体の重量平均分子量は、好ましくは、5,000〜500,000であり、更に好ましくは、10,000〜100,000である。
【0020】
ラジカル重合性のシロキサン化合物は、一分子内にシロキサン構造を有し、ラジカル重合性基を含有するモノマーである。
ラジカル重合性基としては、特に限定されないが、ビニル基、アクリロイルオキシ基、メタクリロイルオキシ基、スチリル基、アリル基、ビニルベンジル基、ビニルエーテル基、アクリルアミド基、ビニルアルキルシリル基、ビニルケトン基等を例示することができる。
【0021】
ラジカル重合性のシロキサン化合物の具体例としては、ラジカル重合性基含有アルキルポリジメチルシロキサン、ラジカル重合性基含有アルキルアルコキシシラン、ラジカル重合性基含有アルキルシロキシシランが挙げられる。
ラジカル重合性基含有アルキルポリジメチルシロキサンの具体例としては、一般式(1)で表されるものが挙げられる。
また、一般式(1)で表される化合物のポリジメチルシロキサン直鎖に結合しているメチル基の一部をフェニル基で置換したものを使用してもよい。
これらの中でも、特に、α−メチル−ω−アクリロイルオキシプロピルポリジメチルシロキサン、α−ブチル−ω−アクリロイルオキシプロピルポリジメチルシロキサン、α−メチル−ω−メタクリロイルオキシプロピルポリジメチルシロキサン、α−ブチル−ω−メタクリロイルオキシプロピルポリジメチルシロキサン、α−メチル−ω−アクリルアミドプロピルポリジメチルシロキサンが好ましい。
【0022】
【化1】

【0023】
一般式(1)中、Xはラジカル重合性基、nは1〜10の整数、mは3〜300の整数、Rは炭素数1〜20のアルキル基である。
【0024】
ラジカル重合性基含有アルキルアルコキシシランとしては、アクリロイルオキシアルキルアルコキシシラン類、メタクリロイルオキシアルキルアルコキシシラン類が挙げられる。
その具体例としては、3−アクリロイルオキシプロピルメチルジメトキシシラン、3−アクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン、3−アクリロイルオキシプロピルトリエトキシシラン、3−メタクリロイルオキシプロピルメチルジメトキシシラン、3−メタクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン、3−メタクリロイルオキシプロピルトリエトキシシラン等が挙げられる。
【0025】
ラジカル重合性基含有アルキルシロキシシランとしては、アクリロイルオキシアルキルシロキシシラン類、メタクリロイルオキシアルキルシロキシシラン類が挙げられる。
その具体例としては、3−アクリロイルオキシプロピルメチルビス(トリメチルシロキシ)シラン、3−アクリロイルオキシプロピルトリス(トリメチルシロキシ)シラン、3−メタクリロイルオキシプロピルトリス(トリメチルシロキシ)シラン、3−メタクリロイルオキシプロピルペンタメチルジシロキサン、3−メタクリロイルオキシプロピルメチルビス(トリメチルシロキシ)シラン等が挙げられる。
【0026】
ラジカル重合性のシロキサン化合物と共重合可能なラジカル重合性ビニルモノマーとしては、α,β−エチレン性不飽和カルボン酸及びその誘導体、芳香族ビニル化合物、カルボン酸ビニルエステル、共役ジエン、ハロゲン化ビニル、(メタ)アクリロニトリル、ビニルピロリドン等を例示することができる。
α,β−エチレン性不飽和カルボン酸及びその誘導体の具体例としては、(メタ)アクリル酸、クロトン酸、イタコン酸、フマル酸、マレイン酸等のモノカルボン酸及びポリカルボン酸;(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸プロピル、(メタ)アクリル酸n−ブチル、(メタ)アクリル酸イソブチル、(メタ)アクリル酸2−エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸オクチル、(メタ)アクリル酸ラウリル、(メタ)アクリル酸ステアリル等の(メタ)アクリル酸アルキルエステル;(メタ)アクリル酸シクロヘキシル等の(メタ)アクリル酸シクロアルキルエステル;(メタ)アクリル酸ベンジル等の(メタ)アクリル酸アラルキルエステル;(メタ)アクリル酸2−ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸2−ヒドロキシプロピル等の(メタ)アクリル酸ヒドロキシアルキルエステル;(メタ)アクリル酸グリシジル等のエポキシ基含有(メタ)アクリル酸エステル;マレイン酸エチル、マレイン酸ブチル、フマル酸エチル、フマル酸ブチル等のα,β−エチレン性不飽和ポリカルボン酸モノエステル;マレイン酸ジエチル、フマル酸ジエチル、マレイン酸ジブチル、フマル酸ジブチル等のα,β−エチレン性不飽和ポリカルボン酸ポリエステル;(メタ)アクリルアミド、N−メチロール(メタ)アクリルアミド、N−メトキシメチル(メタ)アクリルアミド、イソブトキシメトキシ(メタ)アクリルアミド等のアミド基含有モノマー;等を挙げることができる。
【0027】
芳香族ビニル化合物の具体例としては、スチレン、α−メチルスチレン、ビニルトルエン等を挙げることができる。
カルボン酸ビニルエステルの具体例としては、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、酪酸ビニル、カプロン酸ビニル、ラウリル酸ビニル、ステアリン酸ビニル等を挙げることができる。
ハロゲン化ビニルの具体例としては、塩化ビニル、塩化ビニリデン等を挙げることができる。
【0028】
ビニル/シリコーン共重合体は、その製法によって限定されないが、好適には、ラジカル重合開始剤を用いて、懸濁重合、溶液重合、乳化重合等によって製造することができる。製法の具体例としては、特許第2638612号に記載された製法を挙げることができる。中でも懸濁重合、乳化重合により製造されたビニル/シリコーン共重合体を使用することが好ましく、重合された共重合体の溶媒中での粒径は、好ましくは0.05〜20μm、更に好ましくは0.1〜2.0μmである。
【0029】
皮膜形成性の非水溶性親水性高分子化合物の具体例としては、架橋カルボキシメチルセルロース、デンプン−アクリルニトリルグラフト共重合体、スターチグリコール酸ナトリウム、架橋デキストラン、架橋ポリビニルピロリドン等が挙げられる。
【0030】
本発明の潤滑性組成物は、膜の柔軟性やパウチフィルムとの密着性等を改善する目的で、軟化剤、粘着付与剤、クラッキング防止剤、酸化防止剤、着色剤、消臭剤、香料等を含有していてもよい。
【0031】
本発明の潤滑性組成物は、固形、溶液、スラリー、エマルション、ディスパーション等のいずれの形態を有していてもよい。
排泄物収容装具用パウチの内面に被覆を形成する場合には、操作性の観点等から、溶液、スラリー、エマルション又はディスパーションであるのが好ましい。
潤滑性組成物が溶液の形態を有する場合に用いる溶媒としては、各種のシリコーンオイル、アルコール、エステル、エーテル、パラフィン系炭化水素、鉱酸、水等が挙げられる。
皮膜形成性の高分子化合物としてビニル/シリコーン共重合体を使用する場合には、揮発性のシリコーンオイルを使用するのが好ましく、その具体例として、ヘキサメチルジシロキサン、オクタメチルトリシロキサン、デカメチルテトラシロキサン、デカメチルシクロペンタシロキサン等の揮発性のポリジメチルシロキサンを挙げることができる。
【0032】
本発明の潤滑性組成物は、これを構成する少なくとも1種の潤滑成分と皮膜形成性の高分子化合物、及び必要に応じて溶媒やその他の調整剤とを任意の方法で混合して作製すればよい。
【0033】
本発明の潤滑性組成物において、界面活性剤を潤滑成分とする場合は、潤滑性組成物から形成した皮膜とその上に滴下した水との接触角が、水滴を滴下した直後(滴下してから数秒以内)から5分経過した時に65°以下であることが好ましく、更に好ましくは50°以下、更に好ましくは30°以下である。更に、この皮膜と水との接触角が、水滴を滴下した直後に65°以上であって、滴下した後に経時で次第に低下し、水滴の滴下直後の接触角と滴下直後から5分経過した時の接触角との差が10°以上であることが好ましく、水滴を滴下した直後に90°以上であって、滴下直後から5分経過したときの接触角との差が40°以上であることが更に好ましい。
接触角を上記範囲とするには、界面活性剤の種別や添加量、界面活性剤中の脂肪酸の炭素数、界面活性剤と皮膜形成性高分子化合物との相溶性等を適宜選択すればよい。
接触角が上記範囲にある場合に、本発明の潤滑性組成物から形成した皮膜からなる被覆を内面に有するパウチから、排泄物を非常に容易に短時間で排出することができる。
【0034】
本発明の排泄物収容装具用パウチは、生体表面に形成された開孔又は生体表面に生じた傷から排出される排泄物を受け入れて収納する排泄物収容装具のためのパウチであって、その内面に本発明の潤滑性組成物から形成された皮膜からなる被覆を有することを特徴とする。
【0035】
排泄物収容装具の基本的な構成は、排泄物収容装具がオストミー装具であってもドレナージパウチであっても同様であり、体表面の開孔の周囲に粘着固定する面板と、開口から排出される排泄物を収容するパウチとから構成される。
面板は、編布や不織布等の布帛、フィルム、発泡シート等からなる支持層の片面に、粘着層を設けた従来公知のものでよく、粘着層としては、水を吸着又は吸収する親水性物質を含有させた公知のハイドロコロイド粘着剤を使用することができる。
パウチの形状は、フィルムの外周縁をシールして形成される従来からのものであってよい。
【0036】
パウチを構成するフィルム材料の具体例としては、ポリエチレン、低密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン;エチレン・酢酸ビニル共重合体(EVA)、エチレン・エチルアクリレート共重合体(EEA)、エチレン・メチルアクリレート共重合体(EMA)、エチレン・メチルメタアクリレート共重合体(EMMA)、エチレン・メタクリル酸重合体(EMAA)、エチレン・アクリル酸共重合体(EAA)等のオレフィン共重合体;ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン;ナイロン6、ナイロン66等のポリアミド;ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート等のポリエステル;ポリビニルアルコール;ポリウレタン;等を挙げることができる。これらの材料は、単一で使用してもよく、二種類以上を混合して使用してもよい。
特にポリオレフィンもしくはその塩素化物、オレフィン共重合体、ポリ塩化ビニル又はポリ塩化ビニリデンを材料とするものが好ましい。
フィルムは単層であっても、複数枚を積層させた複合フィルムであってもよい。
また、排泄物を繰り返し排出できるように、パウチを構成するフィルムとしては、非水溶性で非水分解性のフィルムを選択することが好ましい。
【0037】
本発明において、潤滑性組成物から形成された皮膜からなる被覆として、パウチ内面上に形成された潤滑性組成物の皮膜を使用することができる。
皮膜は、パウチ内面全体に形成してもよく、排泄物導入孔や排泄物排出口等の周囲等に部分的に形成してもよい。皮膜形態としては、平滑な表面を有する膜、凸凹な表面を有する膜、メッシュ状の膜、ドットの集合からなる膜等のいずれの形態でもよい。
パウチ内面に潤滑性組成物からなる被覆を形成するには、従来、フィルム表面に重合体組成物の皮膜を形成するときに採用されている方法を採用すればよい。
具体的には、下記の(1)及び(2)の方法を示すことができる。
(1)潤滑性組成物の溶液、スラリー、エマルション、ディスパーション等を、パウチを構成するフィルム上に塗工し又はスプレーして、次いで溶媒又は分散媒を蒸発させる。
(2)潤滑成分と皮膜形成性の高分子化合物とを混練して得られた混練物を、パウチを構成するフィルム上に、溶融塗工又は圧延塗工する。
塗工装置は、特に限定されず、コンマコーター、グラビアコーター、スクリーンコーター、ロールコーター等のコーターやスプレーを利用できる。
次いで、潤滑性組成物の皮膜をその表面に形成したフィルムを、潤滑性組成物の皮膜が内面になるように、パウチを構成する。
また、パウチを構成した後に、その内面に皮膜を構成する方法によってもよい。
【0038】
本発明において、潤滑性組成物から形成された皮膜からなる被覆は、また、パウチ内面に積層された潤滑性組成物のフィルムであってもよい。本発明の潤滑性組成物をフィルム形成するには、潤滑性組成物を剥離シートに塗工、乾燥しフィルムを形成する方法、潤滑性組成物を押出成型しフィルムを形成する方法等が使用できる。
この潤滑性組成物のフィルムを、パウチを構成するフィルムの上に積層し、潤滑性組成物のフィルムがパウチ内面になるように(パウチを構成するフィルムが外面になるように)パウチを構成する。
【0039】
また、本発明において、パウチを構成するフィルムとして、前述したような潤滑性組成物から形成したフィルムそのものを使用することができる。
即ち、本発明の潤滑性組成物から形成したフィルムを適当な大きさ、形状にカットし、その外周縁をシールすることでパウチを構成することができる。
【0040】
このような構成を有する本発明の排泄物収容装具用パウチは、潤滑成分がパウチ内面に均一に分布しており、且つ、容易にはフィルムから脱離することがない。
従って、このパウチ内部に排泄物を収容したときに、排泄物がパウチ内面に固着することがなく、容易に排出することができる。また、このとき、潤滑成分が排泄物と共に排出されてしまうことがなく、パウチ内面の潤滑性が維持される。
従って、排泄物を排出した後、再度排泄物を収容するという操作を繰り返しても、その容易排出性が損なわれることがない。
【0041】
本発明の排泄物収容装具用パウチは、特に、オストミー装具のパウチとして使用するのが好適である。オストミー装具としては、面板とパウチとが分離しているツーピースタイプ(二品型装具)のもの及び面板とパウチとが一体になっているワンピースタイプ(一品型装具)のもののどちらも利用できる。また、パウチは、パウチの下部に排泄物の排出口を備えるドレインパウチ(下部開放型)であっても、そのような排出口を持たないクローズパウチ(下部閉鎖型)であってもよい。
また、本発明のパウチは、創傷治療のドレナージ用のパウチとしても使用できる。
【0042】
本発明の潤滑性組成物は、パウチの内表面に、パウチを使用する前又は繰り返しパウチを使用した後に、噴霧や塗布により適用し、パウチ内表面に皮膜を形成しておくことができる。噴霧方法としては、例えば、自然圧又は噴射剤を用いたスプレー容器による噴射が利用できる。塗布方法としては、潤滑性組成物を含ませた刷毛又はスポンジ等を用いた塗布が利用できる。
また、本発明の潤滑性組成物は、排泄物収容装具のパウチ以外にも、携帯便器やペットの便を収容するパウチや、おまる、差込便器等の簡易便器においても適用できる。
【0043】
本発明の潤滑性組成物の被覆を内面に形成したパウチを有するオストミー装具の一例を図1に示す。
このオストミー装具は、面板とパウチが一体になっているワンピースタイプで、且つパウチの下部に排泄物の排出口を備えるドレインパウチであり、(a)は正面図、(b)は(a)のB−B線に沿う縦断面図を示す。このオストミー装具において、潤滑性組成物の被覆20が、内側フィルム7の開口部6より下方の内面と、外側フィルム8の開口部6と対向する位置より下方の内面とに形成されている。
【実施例】
【0044】
以下に実施例及び比較例を挙げて本発明を更に具体的に説明する。なお、各例中の部及び%は特に断りのない限り、重量基準である。
なお、評価用パウチの作製、評価用擬似便の作製及び潤滑性組成物の評価は、以下のようにして行った。
【0045】
[パウチの作製]
ポリエチレン、ポリ塩化ビニリデン及びポリエチレンの3層を接着剤で積層した長方形のフィルムの片面の周縁から15〜20mmを除いた部分に、潤滑性組成物を、バーコーターを用いて塗工する。次いで、塗工部分を乾燥し溶媒を揮発させて、フィルム表面に膜が形成する。潤滑性組成物の皮膜を対向させるようフィルムを折り重ねて上記フィルム周縁部の未塗工周縁部をヒートシールしてパウチを作製する。
パウチの形状は、評価項目に応じて異なるものを使用した。
【0046】
[擬似便の作製]
大便を模した擬似便を以下のように作製する。
容器Aに片栗粉40gを採取し、そこに約40℃の温水100ミリリットルを入れて攪拌し、片栗粉を溶解する。別の容器Bにインスタントコーヒー2gを採取し、約90℃の熱水を400ミリリットル入れて攪拌し、均一な溶液を作製する。容器B中の溶液を撹拌しながら、容器Aの内容物を投入して、よく混合し、得られた混合物を容器ごと氷を入れた水浴中で2〜3時間ほど冷却し、作製されたゲル体を擬似便とする。
【0047】
[排出性試験]
全周囲をヒートシールした長方形のパウチ21のヒートシールされた一つのコーナーを切り取って擬似便投入孔22とする(図中、太線で示す部分がヒートシール部分である。)。対角線上のコーナーを切り口の長さが70mmとなるように印をつけ排出口23を設ける。(図2(a))。
次いで、排出口23部分を折り返してオストミークリップ24で固定した後、パウチ21内に約40℃に加温した擬似便25を約100g投入し、排出口23側を下にして吊下用器具26を用いて、パウチ21を吊す(図2(b))。
擬似便25を投入してから5分経過後に、オストミークリップ24を外しパウチのコーナーを切り取って排出口23から擬似便25を自重により落下させる(図2(c))。
パウチのコーナーを切り取った時から、擬似便25が出終わるまでの時間を計測し、これを落下所要時間とする。
また、擬似便の残存状態を目視で確認し、次の基準により評価する。
「○」:擬似便の残量が無いもの(投入量に対する残量目安:0〜2重量%)
「△」:若干残っているもの(投入量に対する残量目安:2〜8重量%)
「×」:残っているもの(投入量に対する残量目安:8重量%以上)
【0048】
[持続潤滑性試験]
幅70mm、長さ70mmの直線状の排出部が設けられた、図3(a)に示す形状のパウチ31(図中、太線で示す部分はヒートシール部分である。)の排出口33から30mm上を折り返してオストミークリップ34で固定し、パウチ31内に約40℃に加温した擬似便35を約100g投入し、排出口33側を下にして吊下用器具36を用いて、パウチ31を吊す(図3(b))。
擬似便35を投入してから5分経過後に、オストミークリップ34を外し、排出口から擬似便35を自重により落下させる(図3(c))。
擬似便35が残っているときは、これを絞り出し、その後、内面をティッシュペーパーで拭き取って、次の基準で評価する。
この試験を、評価が「×」となるまで繰り返し行う。
「○」:擬似便は残らず、綺麗に排出できる。
「△」:絞り出しにより若干残るが、拭き取れば付着するものがない。
「×」:擬似便がべったりとフィルムに付着する。
【0049】
[接触角の測定]
接触角計CA−A(協和界面科学社製)を使用して該接触角計の「接触角(液滴法)測定手順」を参考に以下の手順で、測定する。
(1)水滴を規定量(20目盛分)シリンジより排出する。
(2)測定表面を20目盛分の水滴に近づけ、測定表面に水滴を滴下する(測定表面に水滴を載せる)。
(3)水滴の滴下後から、所定時間後に、水滴の接触角を測定する。
【0050】
[実施例1]
アクリル酸2−エチルヘキシル、メタクリル酸メチル及びα−ブチル−ω−メタクリロイルオキシプロピルポリジメチルシロキサンを懸濁重合により共重合させたアクリル/シリコーン共重合体(アクリル酸誘導体又はメタクリル酸誘導体とラジカル重合性のシロキサン化合物との共重合体を「アクリル/シリコーン共重合体」という。「アクリル/シリコーン共重合体」は、その他のモノマーを共重合したものであってもよい。)92.6部と、ポリオキシエチレン−ミリスチルエーテルとポリオキシエチレン−パルミチルエーテルとの混合物を主成分とし、HLBが7.5の界面活性剤(以下、「ポリオキシエチレンアルキルエーテル」という。)7.4部とを、ヘキサメチルジシロキサン溶媒(沸点100℃)中に分散させて、濃度26.5%の潤滑性組成物1の塗工液を調製した。
この潤滑性組成物1の塗工液を用いて、表1に示す被覆を有する評価用パウチを作製し、水との接触角の測定及び擬似便の排出性試験を行った。結果を表1に示す。
【0051】
[実施例2]
アクリル/シリコーン共重合体と揮発溶媒としてのヘキサメチルジシロキサンとが配合された市販の膜形成溶液(3M社製、製品名「キャビロン 3346E」)5ミリリットルにポリオキシエチレンアルキルエーテル0.1ミリリットルを混合して、潤滑性組成物2の塗工液を調製した。
この潤滑性組成物2の塗工液を用いて、実施例1と同様に評価用パウチを作製し、水との接触角の測定及び擬似便の排出性試験を行った。結果を表1に示す。
【0052】
[実施例3]
アクリル/シリコーン共重合体及び界面活性剤の量を表1に示すように変更したほかは実施例1と同様にして、濃度51.0%の潤滑性組成物3の塗工液を作製した。
この潤滑性組成物3の塗工液を用いて、実施例1と同様に評価用パウチを作製し、擬似便の排出性試験を行った。結果を表1に示す。
【0053】
[実施例4]
アクリル/シリコーン共重合体及び界面活性剤の量を表1に示すように変更したほかは実施例1と同様にして、濃度50.5%の潤滑性組成物4の塗工液を作製した。
この潤滑性組成物4の塗工液を用いて、実施例1と同様に評価用パウチを作製し、擬似便の排出性試験を行った。結果を表1に示す。
【0054】
[比較例1]
パウチフィルム上への被覆形成を行わずに、実施例1と同様に評価用パウチを作製し、水との接触角の測定及び擬似便の排出性試験を行った。結果を表1に示す。
【0055】
[比較例2]
調整剤としてジメチコンを加え、ポリオキシエチレンアルキルエーテルを加えないほかは、実施例1と同様にして、塗工液C2を作製した。塗工液C2は、アクリル/シリコーン共重合体67.6部とジメチコン32.4部とからなる濃度7.4%の組成物である。
この組成物C2の塗工液を用いて、実施例1と同様に評価用パウチを作製し、水との接触角の測定及び擬似便の排出性試験を行った。結果を表1に示す。
【0056】
[比較例3]
ポリオキシエチレンアルキルエーテルを加えないほかは、実施例2と同様にして、塗工液C3を作製した。
この組成物C3の塗工液を用いて、実施例1と同様に評価用パウチを作製し、水との接触角の測定及び擬似便の排出性試験を行った。結果を表1に示す。
【0057】
【表1】

【0058】
(表1の注)
*1:アクリル酸2−エチルヘキシル/メタクリル酸メチル/α−ブチル−ω−メタクリロイルオキシプロピルポリジメチルシロキサン共重合体
*2:3M社製、製品名「キャビロン 3346E」
*3:ポリオキシエチレン−ミリスチルエーテルとポリオキシエチレン−パルミチルエーテルとの混合物
*4:ジメチコン
*5:ヘキサメチルジシロキサン
なお、実施例2において、アクリル/シリコーン共重合体(*2)及びポリオキシエチレンアルキルエーテル(*3)の使用量の単位は、ミリリットルである。
【0059】
表1の結果から、以下のことが分かる。
パウチ内面の処理を何ら行わなかったときは、擬似便落下所要時間が長く、擬似便が多量に残存している(比較例1)。また、パウチ内面上にアクリル/シリコーン共重合体の皮膜(比較例2又は比較例3)を形成しても、擬似便落下所要時間に若干の改善がみられる(比較例2)ものの、擬似便の残存量は多い。
これに対して、本発明の潤滑性組成物の皮膜からなる被覆をパウチ内面上に形成したときは、擬似便がパウチ内に残ることなく、擬似便落下所用時間も実用上問題のない範囲であった。
また、各実施例及び比較例で作製したパウチは、いずれも、静粛性及び柔軟性に優れたもので、パウチ内表面は固体状で非常に滑々しているため、内面のフィルム同士の付着がなく、耐ブロッキング性に優れたものであった。
【0060】
[実施例5]
アクリル酸2−エチルヘキシル、メタクリル酸メチル及び3−メタクリロイルオキシプロピルトリス(トリメチルシロキシ)シランを溶液重合により共重合させたアクリル/シリコーン共重合体(疎水性高分子化合物)82部と、両性界面活性剤のラウリルジメチルアミノ酢酸ベタイン18部とを、ヘキサメチルジシロキサン溶媒(沸点100℃)中に溶解させて、濃度10.0%の潤滑性組成物5の塗工液を調製した。
この潤滑性組成物5の塗工液を用いて、表2に示す被覆を有する評価用パウチを作製し、擬似便の排出性試験を行った。結果を表2に示す。
【0061】
[実施例6]
数平均分子量2,000のポリオキシプロピレンジオールとトリレンジイソシアネーとを反応させて得た末端イソシアネートのウレタンプレポリマー(疎水性高分子化合物)100部及びジオレイン酸ポリエチレングリコール(HLB10.4の非イオン界面活性剤)20部を均一に混合して潤滑性組成物6の塗工液を調製した。
この潤滑性組成物6の塗工液を用いて、実施例5と同様に擬似便の排出性試験を行った。結果を表2に示す。
【0062】
[実施例7]
トリメチルクロロシランを重合させて得た重量平均分子量2,500のオルガノシリルシリケート(疎水性高分子化合物)100部と、シリコーンオイル(沸点230℃。25℃における動粘度2.0mm/sのポリジメチルシロキサン)15部とを、テトラヒドロフラン80.7%と30%硫酸水溶液19.3%とからなる混合溶媒中に溶解させて、濃度8.0%の潤滑性組成物7の塗工液を調製した。
この潤滑性組成物7の塗工液を用いて、実施例5と同様に擬似便の排出性試験を行った。結果を表2に示す。
【0063】
[実施例8]
2−メチル−2−イソシアネートメタクリル酸プロピル、スチレン、メタクリル酸メチル、メタクリル酸2−エチルヘキシル及びアクリル酸2−エチルヘキシルを、重合開始剤の存在下に、乳化重合により共重合させたアクリル共重合体(疎水性高分子化合物)30部とアニオン界面活性剤のドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム2部とを、水溶媒中に分散させて、濃度30%の潤滑性組成物8の塗工液を調製した。
この潤滑性組成物8の塗工液を用いて、実施例5と同様に擬似便の排出性試験を行った。結果を表2に示す。
【0064】
【表2】

【0065】
(表2の注)
*5:ヘキサメチルジシロキサン
*6:アクリル酸2−エチルヘキシル/メタクリル酸メチル/3−メタクリロイルオキシプロピルトリス(トリメチルシロキシ)シラン共重合体
*7:ポリオキシプロピレンジオールとトリレンジイソシアネーとの反応物
*8:2−メチル−2−イソシアネートメタクリル酸プロピル/スチレン/メタクリル酸メチル/メタクリル酸2−エチルヘキシル/アクリル酸2−エチルヘキシル共重合体
*9:テトラヒドロフランと30%硫酸水溶液との混合液
*10:水
【0066】
表2の結果から、潤滑成分又は皮膜形成性の高分子化合物を別の種類のものに変えても、本発明の潤滑性組成物は、良好な擬似便の排出性を示すことが分かる。
また、実施例5〜8で作製したパウチは、いずれも、静粛性及び柔軟性に優れたもので、パウチ内表面は固体状で非常に滑々しているため、内面のフィルム同士の付着がなく、耐ブロッキング性に優れたものであった。
【0067】
[実施例9]
実施例1で使用した潤滑性組成物1の塗工液を用いて、持続潤滑性試験を行った。結果を表3に示す。
本発明の潤滑性組成物の被覆を内面に形成したパウチでは、収容・排出を繰り返しても排出5回目迄は擬似便の残存状態は良好で、潤滑効果が持続した。
【0068】
【表3】

【図面の簡単な説明】
【0069】
【図1】本発明の潤滑性組成物の皮膜からなる被覆を形成したオストミー装具の一実施形態を示す図。(a)は正面図、(b)は(a)のB−B線に沿う縦断面図である。
【図2】排出性試験の方法を説明する図
【図3】持続潤滑性試験の方法を説明する図
【符号の説明】
【0070】
1 面板、2 パウチ、3 支持層、4 粘着層、5 剥離フィルム、6 開口部、7 パウチの内側フィルム、8 パウチの外側フィルム、9 人体と袋体との接触を快適にするための不織布、10 袋体の内部空間、11 腸内ガスを排出するためのガス排出用通気口、12 脱臭フィルター、13 袋体の外周縁、14 筒状の排出部、15 排出口、16 排出部を巻上げるための補助部材、17及び18 排出口を閉鎖するための1対の互いに係合可能な面ファスナ、20 潤滑性組成物の皮膜からなる被覆
21 パウチ、22 擬似便投入孔、23 排出口、24 オストミークリップ、25 擬似便、26 吊下用器具
31 パウチ、32 擬似便投入孔、33 排出口、34 オストミークリップ、35 擬似便、36 吊下用器具

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも1種の潤滑成分と皮膜形成性の高分子化合物とを含有してなる、排泄物収容装具用パウチのための潤滑性組成物。
【請求項2】
潤滑成分が界面活性剤である請求項1に記載の潤滑性組成物。
【請求項3】
その上に滴下した水との接触角が水滴を滴下した直後から5分経過した時に65°以下である皮膜を形成する請求項2に記載の潤滑性組成物。
【請求項4】
その上に滴下した水との接触角が、水滴を滴下した直後に65°以上であって、滴下した後に経時で次第に低下し、水滴の滴下直後の接触角と滴下5分後の接触角との差が10°以上である皮膜を形成する請求項3に記載の潤滑性組成物。
【請求項5】
潤滑成分が鉱油、植物油、動物油及び合成油からなる群から選ばれる少なくとも1種の油である請求項1に記載の潤滑性組成物。
【請求項6】
皮膜形成性の高分子化合物が疎水性高分子化合物である請求項1〜5のいずれかに記載の潤滑性組成物。
【請求項7】
皮膜形成性の高分子化合物がビニルモノマーとシロキサンモノマーとの共重合体である請求項1〜6のいずれかに記載の潤滑性組成物。
【請求項8】
潤滑成分が水溶性高分子化合物である請求項1に記載の潤滑性組成物。
【請求項9】
皮膜形成性の高分子化合物が非水溶性親水性高分子化合物である請求項2又は8に記載の潤滑性組成物。
【請求項10】
排泄物収容装具用パウチであって、内面に請求項1〜9のいずれかに記載の潤滑性組成物から形成された皮膜からなる被覆を有するパウチ。
【請求項11】
被覆が、パウチ内面上に形成された潤滑性組成物の皮膜からなる被覆である請求項10に記載の排泄物収容装具用パウチ。
【請求項12】
被覆が、パウチ内面に積層された潤滑性組成物のフィルムからなる被覆である請求項10に記載の排泄物収容装具用パウチ。
【請求項13】
排泄物収容装具用パウチであって、請求項1〜9のいずれかに記載の潤滑性組成物から形成されたフィルムにより構成されている排泄物収容装具用パウチ。
【請求項14】
オストミー装具用パウチである請求項10〜13のいずれかに記載の排泄物収容装具用パウチ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2006−280843(P2006−280843A)
【公開日】平成18年10月19日(2006.10.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−108446(P2005−108446)
【出願日】平成17年4月5日(2005.4.5)
【出願人】(000151380)アルケア株式会社 (88)
【Fターム(参考)】