説明

排熱回収利用システム

【課題】 大型変圧器の排熱を有効利用する実用性の高い排熱回収利用システムの提供。
【解決手段】 電力機器の例えば変圧器1の排熱を給湯や暖房などに有効利用するシステムで、ヒートポンプ10と蓄熱器20を備える。ヒートポンプ10は、変圧器1の放熱部3を収納する膨張吸熱部10aと、蓄熱器20内の温水25中を蛇行する放熱凝縮部10cを有し、循環する冷媒を封入する。膨張吸熱部10aは放熱部3を収納する容器形状で、封入した冷媒と放熱部3との熱交換面積を大きくして、吸熱および放熱の熱交換効率を高くし、変圧器1の冷却効率と排熱有効利用率を上げる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、大型の変圧器や電力変換器の使用時に生じる電力ロスによる排熱を回収して有効利用する排熱回収利用システムに関する。
【背景技術】
【0002】
変圧器や交換器などの電力機器は、使用中に電流通電に伴うジュール熱や交流通電に伴う交流損などによるロスを生じ、これらロスが排熱として排出される。例えば、変圧器は使用中にコイルや鉄心部分で銅損や鉄損などによる熱が発生するため、この機器内部で発生した排熱を機器外部に放出して、使用中の変圧器が最高許容温度以下になるようにしている。変圧器の放熱構造は、排熱を発生する変圧器本体部の熱を冷却媒体(絶縁油、SFガスなどの絶縁媒体)で吸熱し、放熱器(熱交換器)で大気中に放熱する構造が一般的である。
【0003】
変圧器を最高許容温度以下で使用するため、使用時のロスを極力低減させる技術改変が行われているが、ロスの低減には既に極限に近付きつつあり、僅かなロスを低減させるために多大な対価を覚悟しなければならない状況になっている。また、大型ビルなどの変電室に設置される大型変圧器においては、ロスによる排熱量が大きいことから、この排熱をビルの給湯や暖房などに積極的に有効利用する排熱回収システムが知られている。この排熱回収システムとして、変圧器の放熱器と蓄熱材の間の熱交換をヒートパイプやヒートポンプで行うようにしたシステムが公知である(例えば、特許文献1、特許文献2参照)。
【0004】
上記ヒートパイプは、脱気して負圧にした容器(パイプ)内に蒸発冷媒(純水、アルコールなど)を封入している。この容器の一部を変圧器の排熱などで加温すると、内部の冷媒が吸熱し蒸発して、加熱されていない低温で蒸気圧の低い部分に高速移動し、この低温部分で結露して凝縮放熱を行う。この凝縮放熱で蓄熱器の蓄熱材を高温に加熱して、暖房や給湯などに利用する。
【特許文献1】特開昭59−158507号公報(第3図)
【特許文献2】特開平05−275245号公報(図1)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記ヒートパイプを使用した変圧器の排熱回収システムは、変圧器からの排熱の回収温度が低くて利用価値が低い。そのため、変圧器の排熱の利用効率を実用段階まで上げることが構造的に難しく、ほとんど実用化されていないのが現状である。また、変圧器のロスの低減化が極限に近付きつつあり、現状のロスは1%程度であることから、変圧器の排熱を有効利用する技術改良よりも、変圧器を小型軽量化するといった技術改良が優先されて、排熱回収システムの実質的な技術改良が遅れている。
【0006】
地球温暖化が極めて大きな問題となっている最近においては、冷暖房などで消費されるエネルギーに基づく二酸化炭素の発生、増大は憂慮するべき問題であり、二酸化炭素の発生を低減させる技術の開発がますます重要となっている。変圧器などの電力機器の排熱回収システムを効率と設備の両面で実用段階まで技術改良すれば、排熱を有効利用した分に相応する二酸化炭素の発生が削減されることになり、地球環境にやさしいシステムが構築できることが分かっている。
【0007】
本発明は、かかる実情に鑑みてなされたもので、効率と設備の両面で実用価値に優れた電力機器用排熱回収利用システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は上記目的を達成するため、電力機器の排熱をヒートポンプの膨張吸熱部で回収して電力機器を冷却すると共に、ヒートポンプの放熱凝縮部の放熱を利用して蓄熱器の蓄熱材を加熱昇温させ、同時に蓄熱材への放熱により冷媒を凝縮させ、この凝縮冷媒を電力機器側に循環させて電力機器の排熱回収を繰り返す排熱回収利用システムであって、電力機器は、排熱を発生する機器本体部と、この機器本体部の排熱を集熱して放熱する放熱部を有し、ヒートポンプの膨張吸熱部は、前記放熱部を収納する容器状で前記冷媒を封入する構造としたことを特徴とする。また、上記目的を達成するため、電力機器は、排熱を発生する機器本体部と、この機器本体部を収納するハウジングを有し、ヒートポンプの膨張吸熱部は、ハウジングに収納され、機器本体部の放熱で昇温する冷媒を封入する構造としたことを特徴とする。
【0009】
ここで、電力機器は、使用時のロス発生部位が集中し、定常的にロスが発生する大型電力機器で、例えば変電所や大型ビルの変電室などに設置される変圧器、変換器が有効に適用できる。ヒートポンプは電力機器と蓄熱器の間に設置し配管により接続されるもので、電力機器側に膨張吸熱部を有し、蓄熱器側に放熱凝縮部を有する。電力機器の放熱部は、排熱を発生する機器本体部を冷却する冷却媒体を機器本体部との間で循環させる独立した放熱器、または、機器本体部を収納するハウジングの一部に設けた放熱部位である。ヒートポンプは、真空引きされた負圧の系内に冷媒を封入したもので、その動作原理は既存のものと同じである。ヒートポンプの膨張吸熱部は、電力機器の放熱部を収納して冷媒を封入する容器状の熱交換器や、電力機器の放熱部に直結されて冷媒を封入する配管状の熱交換器など種々の熱交換器の適用ができる。容器状膨張吸熱部とは、電力機器の放熱部を全周から囲う密閉容器構造で、ヒートポンプの冷媒を膨張弁を通して膨張室に噴射して断熱膨張により低温環境を作り出し、もって放熱部からの放熱の全てを冷媒で吸収する。配管状膨張吸熱部とは、電力機器の冷却媒体中に直接吸熱部を挿入してここに冷媒を流すように吸熱する配管構造で、電力機器のハウジング内に収納される。ヒートポンプの冷媒は、常温常圧時の沸点が−10℃〜0℃のノルマルブタン、HCFC−142bなどが電力機器への過大な圧力負担を避ける上で望ましい。
【0010】
本発明においては、電力機器はその機器本体部とヒートポンプの膨張吸熱部を収納する共通のハウジングを有し、このハウジング内の最上位に膨張吸熱部を配設した構造とすることができる。ハウジング内の機器本体部より上位に膨張吸熱部を設けることで、機器本体部を冷却する冷却媒体が速やかに膨張吸熱部に移動し、膨張吸熱部に効率よく吸熱されて吸熱効率が良くなる。
【0011】
また、電力機器は、機器本体部を収納する第1ケース部と放熱部を収納する第2ケース部を一体にした放熱性ハウジングを有し、このハウジングの第2ケース部をヒートポンプの膨張吸熱部の外装部材として共用させた構造とすることができる。このように電力機器のハウジングの一部の第2ケース部をヒートポンプの膨張吸熱部の外装部材とすることで、ヒートポンプが放熱性ハウジングの熱をも吸収して吸熱効率が良くなると共に、ヒートポンプの膨張吸熱部に専用の外装部材が一部省略でき、小形コンパクト化できる。
【0012】
さらに本発明においては、蓄熱器は温水の蓄熱材を収納する蓄熱槽構造で、部分的に温水の過剰温度上昇により発生する蒸気を逃がす緊急用蒸気排出口を開閉可能に設置した構造にすることができる。ここでの蓄熱器の蓄熱材として使用する温水の蓄熱温度は、レジオネラ菌死滅温度である60℃以上の温度に設定することが望ましい。蓄熱器の蓄熱材に蓄熱された熱量は、必要に応じて暖房器などの排熱利用する負荷側で利用される。排熱利用する負荷側の使用熱量がヒートポンプで回収される回収熱量を下回り、回収熱量が過剰になると蓄熱器の緊急用蒸気排出口を自動または手動で開く。回収熱量過剰の状態が生じた場合に、蓄熱温水を沸騰させ、沸騰潜熱を利用して水蒸気として余剰熱量を排出口から大気中に排出することにより、電力機器からの熱回収に支障が生じるのを防止する。
【0013】
また、蓄熱器内に、蓄熱材を適宜に加熱する加温用ヒーターを配設することができる。この場合、排熱利用する負荷側の使用熱量がヒートポンプからの回収熱量を上回り、蓄熱器内部の蓄熱温度が所定の温度以下に低下したときに、緊急的に加温用ヒーターに通電して蓄熱材を所定の温度以上に加温する。このようにすることで排熱利用する負荷側の熱利用に支障をきたすことがなくなる。
【0014】
さらに、蓄熱器に、大気の熱を吸熱し、この吸熱で蓄熱材を適宜に加温する気中吸熱器を付設することができる。この気中吸熱器は、大気中の熱をヒートパイプ(上記のヒートポンプと区別するためにここではヒートパイプと称する)で吸熱し、吸熱した熱を放熱凝縮部で発熱して蓄熱材を加温するもので、上記の加温用ヒーターと同様にして使用される。この場合、蓄熱器内部の気中吸熱器の発熱部より上位に加温用ヒーターを配備することが望ましい。つまり、蓄熱器内部の気中吸熱器の発熱部より下位に加温用ヒーターを配備すると、気中吸熱器の発熱部がヒーターで加温された蓄熱材に対して熱を伝えることになり、ヒーターで加温された分だけ発熱部と蓄熱材の温度差が小さくなり、伝熱効率が下がる。この効率低下は、発熱部より上位にヒーターを配置することで回避される。
【0015】
また、本発明においては、電力機器の機器本体部と蓄熱器の一セットに対して、電力機器の放熱部とヒートポンプを含む一連の系列で、それぞれが単独に作動する複数の熱回収系列を並列状に配設して、複数の熱回収系列を選択的に作動させることができる。ここでの複数の熱回収系列のそれぞれは同一構造、性能のものが適用できる。複数の熱回収系列を定常的に作動させるものと、作動させずに待機させるものに分け、定常的に作動する熱回収系列が故障などで停止したり著しく性能低下をきたしたときに、待機させていた熱回収系列を作動させるようにして、システム全体の性能低下を回避する。実用上においては熱回収系列を二系列設けて、一方の一系列を定常的に作動させ、他方の一系列を待機させることができる。
【0016】
さらに、本発明においては、電力機器に、電力機器の放熱部とヒートポンプを含む一連の熱回収系列が正常に作動するときは、大気中の熱を回収して熱回収系列の排熱回収を補助し、熱回収系列の非作動時は機器本体部の排熱を吸収して大気に放熱する緊急用熱交換器を付設することができる。ここでの緊急用熱交換器は、熱回収系列が故障などで正常に作動しなくなったときに電力機器を所定の適温まで冷却して、電力機器の異常発生を回避する。
【発明の効果】
【0017】
本発明の排熱回収利用システムによれば、電力機器の放熱部からのヒートポンプによる吸熱効率を上げ、排熱回収率を実用段階まで上げることが容易にでき、変電所や大型ビルの変電室などに設置された電力機器を熱源とする排熱回収利用システムの効率と設備両面での実用化を容易にするという優れた効果を奏し得る。この排熱回収利用システムの実用化で、電力機器の排熱を有効利用した分に相応する二酸化炭素の発生が削減され、地球温暖化を少しでも抑制することで、地球環境保全に協働することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、本発明の実施の形態を、図1〜図8を参照して説明する。なお、全図は実施の形態の概要を示すものであり、全図を通じて同一または相当部分には同一符号を付して、詳細な説明の重複を避ける。
【0019】
図1に示す排熱回収利用システムは、変圧器1の排熱を給湯や暖房などに有効利用する本発明基本形態のシステムで、ヒートポンプ10と蓄熱器20を備える。変圧器1は、使用時に排熱を発生する鉄心と巻線の機器本体部2と、機器本体部2を収納するハウジング4と、ハウジング4に封入された冷却媒体(絶縁媒体)が循環する放熱部3を有する。放熱部3は、ハウジング4に外付けで連接された放熱器である。蓄熱器20は、蓄熱材例えば温水25を貯留する蓄熱槽21である。蓄熱槽21の槽壁下部に冷水入口22が形成され、槽壁上部に温水出口23が形成される。温水25は入口22から蓄熱槽21に入り、蓄熱槽21内で加温されて温湯となり、出口23から図示しない熱利用の負荷側へと給送される。
【0020】
ヒートポンプ10は、変圧器1の放熱部3と蓄熱器20の間で冷媒を循環させる。冷媒はCFC−12やCFC−11などの通常の冷媒が使用できる。また、冷媒に常温常圧時の沸点が−10℃〜0℃のノルマルブタン、HCFC−142bなどを使用すれば、通常の変圧器使用温度で使用する範囲では、膨張吸熱部10aでの蒸気圧が過大に上昇することがなく、機器側に過大な圧力負担をかける心配が軽減される。ヒートポンプ10は、放熱部3を収納する膨張吸熱部10aと、膨張吸熱部10aと蓄熱器20の間に配管された冷媒伝送部10bと、冷媒伝送部10bの先端から延在して蓄熱器20内の温水25中を蛇行する放熱凝縮部10cと、放熱凝縮部10cの先端から延在して膨張吸熱部10aに冷媒を戻す循環部10dを有する。循環部10dの一部に膨張弁11が連接される。膨張吸熱部10aは、放熱部3を収納する容器形状の外装部分12を有し、放熱部3との間に断熱膨張により温度低下した冷媒が噴射される。
【0021】
ヒートポンプ10の膨張吸熱部10a内は、常時冷媒が断熱膨張できるよう低圧に維持される。変圧器1が作動して機器本体部2が排熱を発生すると、この排熱でハウジング4内の絶縁油などの冷却媒体が加熱され、加熱された冷却媒体が放熱部3に流れる。加温された媒体が放熱部3で放熱して温度低下し、ハウジング4内に戻されて機器本体部2が冷却される。放熱部3で放出された排熱をヒートポンプ10の膨張吸熱部10a内の冷媒が吸収して加温される。加温されて蒸発した蒸発冷媒は、冷媒伝送部10bへと高速移動しヒートポンプで圧縮されてさらに温度を高め、放熱凝縮部10cに到達する。放熱凝縮部10cは、蓄熱器20に収容された温水25中を上位から下位へと蛇行する。したがって、放熱凝縮部10c内を移動する蒸発冷媒と温水25との間で熱交換が行われて、温水25が高温に加熱され、冷媒が温度低下して凝縮結露し凝縮液になる。この凝縮液の冷媒が循環部10d、膨張弁11を流れて膨張吸熱部10aに循環し、放熱部3で再加熱される。
【0022】
ヒートポンプ10の膨張吸熱部10aに送り込まれた断熱膨張により温度低下した冷媒蒸気は、変圧器1の排熱で速やかに加熱され、高温の蒸発冷媒となって速やかに放熱凝縮部10cに移動する。膨張吸熱部10aは変圧器1の放熱部3を収納する容器形状のため、放熱部3から放熱される熱のほとんどが冷媒蒸気の加熱に使用される。したがって、放熱部3に対する膨張吸熱部10aの吸熱効率が高く、変圧器1の排熱のほとんどがヒートポンプ10で温水25の加熱に使用されて、排熱の実質的な有効利用が行われ、実用価値の高い排熱回収利用システムが構築できる。
【0023】
図2に示す排熱回収利用システムは、図1システムと同様に変圧器1の排熱を給湯や暖房などに有効利用する。図2システムは、変圧器1のハウジング4の一部を放熱部3の全体を収納する外装部分12の一部にして、ハウジング4を第1ケース部4aと第2ケース部4bで構成する。第2ケース部4bをヒートポンプ10の膨張吸熱部10aの外装部材として使用する。第1ケース部4aと第2ケース部4bは仕切板4cで仕切られて、第2ケース部4b内に冷媒蒸気が噴出される。
【0024】
図2の場合、膨張吸熱部10aの外装部分12の一部がハウジング4と共用になり、この共用部分4cからハウジング4の熱を直接吸収できるため、膨張吸熱部10aの吸熱効率が増大して、排熱の吸収効率が増す。また、膨張吸熱部10aの外装部材が第2ケース部4bで構成されることで、外装部材が一部省略でき、その分、システムの小形コンパクト化が実現できる。
【0025】
図3に示す排熱回収利用システムは、図2システムに示す放熱部3を備えず、図2の放熱部3と同様の熱交換器を膨張吸熱部10aとして使用し、ハウジング4に収納する。図3システムは、ヒートポンプ10の膨張吸熱部10aを管形またはプレート形熱交換器にしてハウジング4内に収納している。膨張吸熱部10aに封入された冷媒が膨張吸熱部10a内の熱交換面を循環することで、機器本体部2から放熱される変圧器排熱で直接的に加熱されて冷媒蒸気が昇温される。この場合も、機器本体部2に対する膨張吸熱部10aの吸熱効率が高く、変圧器1の排熱のほとんどがヒートポンプ10で温水25の加熱に使用されて、排熱の実質的な有効利用が行われ、排熱回収利用システムの実質的な実現が可能となる。
【0026】
図4に示す排熱回収利用システムは、図3システムと同様に変圧器1の機器本体部2と膨張吸熱部10aを1つのハウジング4に収納している。図4システムの図3システムと相違するところは、ハウジング4内の最上位に膨張吸熱部10aを配置している。このようにすると機器本体部2の排熱が効率よく膨張吸熱部10aに伝送され、ハウジング4内の熱が吸収されて膨張吸熱部10aの吸熱効率をさらに上げる。また、ハウジング4内に上下に分けて機器本体部2と膨張吸熱部10aを配置することで、ハウジング4の幅、設置スペースの縮小が図れる。
【0027】
図5に示す排熱回収利用システムは、蓄熱器20に温水25の過剰温度上昇で発生した蒸気を逃がす緊急用蒸気排出口26を形成している。この蒸気排出口26には図示しない開閉弁が連接されて、蒸気排出口26は自動または手動で開閉制御される。蒸気排出口26は、蓄熱器20である蓄熱槽21の上端を塞ぐ天板部の任意箇所に形成される。また、図5システムにおける変圧器1とヒートポンプ10を図2と同様な構造にしているが、図1や図3、図4の構造のものであってもよい。このことは、図6〜図8の各排熱回収利用システムにおいても同様である。
【0028】
蒸気排出口26の開閉は、次のようにして行われる。蓄熱器20の温水25に蓄熱された熱量は、定常的あるいは必要に応じて非定常的に暖房器などの排熱利用する負荷側で利用される。排熱利用する負荷側の使用熱量とヒートポンプ10で回収される回収熱量の差が少ない場合は、蒸気排出口26は閉じたままであり、排熱利用が継続して行われる。負荷側の使用熱量がヒートポンプ10の回収熱量を下回り、回収熱量が過剰になると蒸気排出口26を開く。回収熱量過剰の状態が生じると、蓄熱温水25を沸騰させ、その沸騰潜熱を利用して水蒸気として余剰熱量を蒸気排出口26から大気中に排出する。このようにすることで、変圧器1の排熱回収と排熱有効利用の安全性が増す。
【0029】
図6は、蓄熱器20の内部に温水25を適宜に加熱する二種類の熱源である加温用ヒーター27と気中吸熱器用放熱器31を配設した排熱回収利用システムを示す。一方の熱源の加温用ヒーター27は、通電により温水25を加熱する電気ヒーターである。他方の熱源である放熱器31は、大気の熱を吸熱する気中吸熱器30に連接されたヒートポンプ32の放熱凝縮部である。ヒートポンプ32は、上記ヒートポンプ10と同様な構造で、気中吸熱器30に直結された膨張吸熱部32aから放熱器31に延びる冷媒伝送部32bと、放熱器31から気中吸熱器30に延びる循環部32dを有し、循環部32dに膨脹弁35を連結している。放熱器31が温水25に浸漬されて、温水25を適宜に加温する。これら二種類の熱源は、自動または手動で温水25を次のように加温する。
【0030】
排熱利用する負荷側の使用熱量とヒートポンプ10からの回収熱量の差が小さく、負荷側に給送する温水25の温度が許容範囲の適温を保つ場合は、ヒーター27と放熱器31は運転停止状態に保持されて温水加熱を行わない。排熱利用する負荷側の使用熱量がヒートポンプ10からの回収熱量を大きく上回り、負荷側に給送する温水25の温度が規定値以下に低下したときに、緊急的に加温用ヒーター27と放熱器31のいずれか一方または両方が運転開始して温水25を規定値以上の温度になるまで加熱する。ただし、この場合、ヒートポンプ32の方が効率が高いので、使用時はヒートポンプ32を優先し、ヒーター27は最終手段とする。このようにすることで排熱利用する負荷側の熱利用に支障をきたすことがなくなる。
【0031】
図6システムの場合、蓄熱器20の温水25の中に上記二つの熱源にヒートポンプ10の放熱凝縮部10cを加えた計三つの熱源が配置される。このような場合、優先順位の高い熱源を下位に置く。つまり、優先順位の高い放熱凝縮部10cを最下位に配置して、放熱凝縮部10cで加熱される温水25との温度差を大きく設定することで、放熱凝縮部10cの加熱効率を高める。また、優先順位の低いヒーター27を最上位に設置して、ヒーター27で加熱される温水25との温度差を小さく設定することで、ヒーター27の温水加熱量を少なくし、温水加熱に要する消費電力を少なくする。
【0032】
図7に示す排熱回収利用システムは、変圧器1の機器本体部2と蓄熱器20の一セットに対して、変圧器1の放熱部3とヒートポンプ10を含む一連の熱回収系列40を複数系列で配備している。例えば、熱回収系列40は、第1熱回収系列40aと第2熱回収系列40bの二系列を並列状に配置して構成される。この二系列40a、40bのそれぞれが単独に作動し、二系列40a、40bのいずれか一方が選択的に作動するようにしてある。
【0033】
図7システムの場合、例えば第1熱回収系列40aを定常的に作動させ、第2熱回収系列40bを運転停止状態に待機させて、変圧器1と蓄熱器20の間で排熱回収利用の運転を行う。この運転時に作動する第1熱回収系列40aが故障などで停止したり著しく性能低下をきたすと、待機させていた第2熱回収系列40bが作動するように運転を切り換えて、システム全体の機能停止、性能低下を回避する。
【0034】
なお、図7システムの場合、二熱回収系列40a、40bを同時に作動させることもできる。例えば、変圧器1の排熱量が増大して冷却効果を高める必要時や、利用熱量が増大するような場合に、二熱回収系列40a、40bを同時運転させて対処することができる。また、二熱回収系列40a、40bの性能を大小に相違させて、定常時は性能大の一方の熱回収系列で運転し、性能アップが要求される場合に性能小の他方の熱回収系列を補助的に運転させるようにしてもよい。この図7システムは、図1、図3、図4システムについても適用できる。
【0035】
次に、図8の排熱回収利用システムを説明する。このシステムは、変圧器1に緊急用の放熱器と吸熱器の両機能を備える熱交換器50を付設している。この熱交換器50は、変圧器1のハウジング4に外付けされる。熱交換器50は、大気中の熱を回収して熱回収系列の排熱回収を補助する吸熱器の機能と、機器本体部2の排熱を吸収して大気に放熱する放熱器の機能を備える。熱交換器50が吸熱器として機能するときは、変圧器1の放熱部3とヒートポンプ10を含む一連の熱回収系列が正常に作動して、変圧器1が冷却され、排熱が有効利用されているときである。熱交換器50が放熱器として機能するときは、変圧器1の放熱部3とヒートポンプ10を含む一連の熱回収系列が正常に作動しないときで、変圧器1を冷却して変圧器1の異常発生を防止する。
【0036】
なお、本発明の排熱回収利用システムは、上記した実施の形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々変更を加え得ることは勿論である。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】第1の実施の形態である排熱回収利用システムの概要を示す側面図である。
【図2】第2の実施の形態である排熱回収利用システムの概要を示す側面図である。
【図3】第3の実施の形態である排熱回収利用システムの概要を示す側面図である。
【図4】第4の実施の形態である排熱回収利用システムの概要を示す側面図である。
【図5】第5の実施の形態である排熱回収利用システムの概要を示す側面図である。
【図6】第6の実施の形態である排熱回収利用システムの概要を示す側面図である。
【図7】第7の実施の形態である排熱回収利用システムの概要を示す側面図である。
【図8】第8の実施の形態である排熱回収利用システムの概要を示す側面図である。
【符号の説明】
【0038】
1 変圧器
2 機器本体部
3 放熱部
4 ハウジング
4a 第1ケース部
4b 第2ケース部
10 ヒートポンプ
10a 膨張吸熱部
10b 冷媒伝送部
10c 放熱凝縮部
10d 循環部
11 膨張弁
12 外装部分
20 蓄熱器
21 蓄熱槽
22 蓄熱材入口
23 蓄熱材出口
25 蓄熱材、温水
26 緊急用蒸気排出口
27 加温用ヒーター
30 気中吸熱器
31 放熱器
32 ヒートポンプ
40 熱回収系列
40a、40b 複数の熱回収系列
50 緊急用熱交換器


【特許請求の範囲】
【請求項1】
電力機器の排熱をヒートポンプの膨張吸熱部で回収して前記電力機器を冷却すると共に、前記ヒートポンプの放熱凝縮部の放熱を利用して蓄熱器の蓄熱材を加熱昇温させ、同時に蓄熱材への放熱により冷媒を凝縮させ、この凝縮冷媒を前記電力機器側に循環させて電力機器の排熱回収を繰り返す排熱回収利用システムであって、
前記電力機器は、前記排熱を発生する機器本体部と、この機器本体部の排熱を集熱して放熱する放熱部を有し、前記ヒートポンプの膨張吸熱部は、前記放熱部を収納する容器状で前記冷媒を封入することを特徴とする排熱回収利用システム。
【請求項2】
前記電力機器は、前記機器本体部を収納する第1ケース部と前記放熱部を収納する第2ケース部を一体にしたハウジングを有し、このハウジングの前記第2ケース部を前記ヒートポンプの膨張吸熱部の外装部材の一部として共用させたことを特徴とする請求項1に記載の排熱回収利用システム。
【請求項3】
電力機器の排熱をヒートポンプの膨張吸熱部で回収して前記電力機器を冷却すると共に、前記ヒートポンプの放熱凝縮部の放熱を利用して蓄熱器の蓄熱材を加熱昇温させ、同時に蓄熱材への放熱により冷媒を凝縮させ、この凝縮冷媒を前記電力機器側に循環させて電力機器の排熱回収を繰り返す排熱回収利用システムであって、
前記電力機器は、前記排熱を発生する機器本体部と、この機器本体部を収納するハウジングを有し、前記ヒートポンプの膨張吸熱部は、前記ハウジングに収納され、前記機器本体部の放熱で昇温する前記冷媒を封入することを特徴とする排熱回収利用システム。
【請求項4】
前記ハウジング内の最上位に前記ヒートポンプの膨張吸熱部を配設したことを特徴とする請求項2に記載の排熱回収利用システム。
【請求項5】
前記蓄熱器は、温水の蓄熱材を収容する蓄熱槽で、一時的な前記蓄熱材の過剰温度上昇により発生する蒸気を逃がす緊急用蒸気排出口を開閉可能に設置したことを特徴とする請求項1〜4のいずれか一項に記載の排熱回収利用システム。
【請求項6】
前記蓄熱器内に、前記蓄熱材を適宜に加熱する加温用ヒーターを配設したことを特徴とする請求項1〜5のいずれか一項に記載の排熱回収利用システム。
【請求項7】
前記蓄熱器に、大気から吸収した吸熱で前記蓄熱材を適宜に加温する気中吸熱器を付設したことを特徴とする請求項1〜6のいずれか一項に記載の排熱回収利用システム。
【請求項8】
前記蓄熱器内の最上位に前記加温用ヒーターを配設したことを特徴とする請求項7に記載の排熱回収利用システム。
【請求項9】
前記電力機器の機器本体部と前記蓄熱器の一セットに対して、前記電力機器の放熱部と前記ヒートポンプを含む一連の系列で、それぞれが単独に作動する複数の熱回収系列を並列状に配設して、複数の熱回収系列を選択的に作動させることを特徴とする請求項1〜8のいずれか一項に記載の排熱回収利用システム。
【請求項10】
前記電力機器に、前記電力機器の放熱部と前記ヒートポンプを含む一連の熱回収系列が正常に作動するときは大気中の熱を回収して前記熱回収系列の排熱回収を補助し、前記熱回収系列の非作動時は前記機器本体部の排熱を吸収して大気に放熱する緊急用熱交換器を付設したことを特徴とする請求項1〜9のいずれか一項に記載の排熱回収利用システム。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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