説明

採取移植パイプ

【課題】 次の収穫期に子実体が発生する可能性が高いマツタケの菌糸及び/又は菌根の集まった部分から採取片を採取し、移植することができる器具及びその器具を使用した採取移植方法を提供すること。
【解決手段】 採取移植パイプ1は、上端3が閉塞し、下端4が開口し、側面5に開口窓51を形成した筒体2であって、筒体2を下端から土中の菌糸及び/又は菌根の集まった部分の縁部に差し込んで、筒体2の内部に菌糸及び/又は菌根の集まった部分の一部61を有する採取片6を収容し、筒体2を引き抜いて採取した採取片6を開口窓から取り出す。さらに、採取片6を移植したい場所の土中に、筒体2を差し込んで引き抜くことによって、採取片6と略同一形状の穴を形成し、その穴に採取片6を挿入する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、外生菌根菌の菌糸及び/又は菌根の採取及び移植に使用される器具並びにその器具を使用した採取・移植方法に関し、特にマツタケの菌糸及び/又は菌根の採取・移植に使用される器具並びにその器具を使用した採取・移植方法に関する。
【背景技術】
【0002】
食用の外生菌根菌の一つであるマツタケは、アカマツ等の細根に感染した菌根とその菌根の周辺に菌糸を伸ばす。このようなマツタケの菌根と菌糸の集まった部分はシロと呼ばれている。一般にマツタケと呼ばれているきのこはマツタケ菌の子実体であり、この子実体はシロから発生することが知られている。
【0003】
マツタケのシロを形成するためのマツタケの種菌作製法として、特許文献1に記載のマツタケの種菌作製法がある。このマツタケの種菌作製法では、シロと同一の土壌、水及び各種栄養成分を培地の基材として、マツタケの菌糸を植え付けて培養し、土壌の粒の間にまんべんなくマツタケの菌糸が増殖させることによって、マツタケの種菌を作製する。このマツタケの種菌をアカマツ山林に植え込むことによってシロが形成されることを期待するものである。
【特許文献1】特許第3777343号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、子実体はシロ全体から発生するのではなくシロの縁部に発生することが知られている。さらにそのシロが年々拡大していくため、子実体が発生するシロの縁部の位置が年々変わることが知られている。つまり、前年に子実体が発生したシロから拡大した部分のシロにおいて本年は子実体が発生する。特許文献1のマツタケの種菌をアカマツ山林に植え込んだとしても、植え込んだ年の収穫時期に子実体が発生するシロが形成される可能性が分からないという問題がある。
【0005】
上記点より本発明は、次の収穫期に子実体が発生する可能性が高いマツタケの菌糸及び/又は菌根の集まった部分から採取片を採取し、移植することができる器具及びその器具を使用した採取移植方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するため、請求項1の採取移植パイプは、上端が閉塞し、下端が開口し、側面に開口窓を形成した筒体であって、筒体を下端から土中の菌糸及び/又は菌根の集まった部分の縁部に差し込んで、筒体内部に菌糸及び/又は菌根の集まった部分の一部を有する採取片を収容し、筒体を引き抜いて、採取片を開口窓から取り出すようになっている。
【0007】
請求項2の採取移植パイプは、採取片を移植したい場所の土中に、筒体を差し込んで引き抜くことによって、採取片と略同一形状の穴を形成するようになっている。
【0008】
請求項3の採取移植パイプは、筒体の横断面が円形又は多角形となっている。
【0009】
請求項4の採取移植パイプは、筒体の上端が略ドーム状の蓋部によって閉塞されている。
【0010】
請求項5の採取移植パイプは、開口窓が横断面視で筒体の側面がなす外周の略半分を除去して形成されている。
【0011】
請求項6の採取移植パイプは、筒体の下端が刃口となっている。
【0012】
請求項7の採取移植パイプは、筒体の下端には、切削刃が取り付けられるようになっている。
【0013】
請求項8の採取移植方法は、上端が閉塞し、下端が開口し、側面に開口窓を形成した筒体を下端から土中の菌糸及び/又は菌根の集まった部分の縁部に差し込んで、筒体内部に菌糸及び/又は菌根の集まった部分の一部を有する採取片を収容し、筒体を引き抜いて採取した採取片を開口窓から取り出すことができる。
【0014】
請求項9の採取移植方法は、採取片を移植したい場所の土中に、筒体を差し込んで引き抜くことによって、採取片と略同一形状の穴を形成し、その穴に採取片を挿入することによって菌糸及び/又は菌根の移植を行うことができる。
【発明の効果】
【0015】
請求項1の採取移植パイプによれば、次の収穫期に子実体が発生する可能性が高い菌糸及び/又は菌根の集まった部分の縁部に筒体を差し込んで引き抜くことによって、筒体内部に採取片を収容した状態で容易に採取することができる。また、筒体の側面に開口窓を形成したことによって、容易に筒体内部の採取片を開口窓から取り出すことができるとともに、採取片の菌糸及び/又は菌根の状態を目視で確認することができる。
【0016】
請求項2の採取移植パイプによれば、採取片と略同一形状の穴を採取の際に使用した筒体で形成することが出来るので、採取及び移植を1つの器具で行うことができる。
【0017】
請求項3の採取移植パイプによれば、筒体の横断面の形状を選択することができる。
【0018】
請求項4の採取移植パイプによれば、筒体の上端は、略ドーム状の蓋部によって閉塞されているので、筒体を下端から土中の菌糸及び/又は菌根の集まった部分の縁部に差し込む際に、蓋部をカナヅチ等で叩いても充分な耐久性を確保することができる。
【0019】
請求項5の採取移植パイプによれば、開口窓は、横断面視で筒体の側面がなす外周の略半分を除去して形成されているので、筒体内部から採取片を取り出しやすいとともに、蓋部をカナヅチ等で叩いても充分な耐久性を確保することができる。
【0020】
請求項6の採取移植パイプによれば、筒体の下端は、刃口となっていることによって、筒体を土中の菌糸及び/又は菌根の集まった部分の縁部に容易に差し込むことができる。
【0021】
請求項7の採取移植パイプによれば、筒体の下端には、切削刃が取り付けられるようになっていることによって、筒体を土中の菌糸及び/又は菌根の集まった部分の縁部に容易に差し込むことができる。さらに切削刃がなまってきた場合には、容易に切削刃を交換することができる。
【0022】
請求項8の採取移植方法によれば、筒体を土中の菌糸及び/又は菌根の集まった部分の縁部に差し込んで、筒体内部に菌糸及び/又は菌根の集まった部分の一部を有する採取片を収容し、筒体を引き抜くことによって、次の収穫期に子実体が発生する可能性が高いマツタケの菌糸及び/又は菌根の集まった部分から採取片を採取することができる。
【0023】
請求項9の採取移植方法によれば、採取片と略同一形状の穴を採取の際に使用した筒体で形成することが出来るので、採取移植方法において採取及び移植を1つの器具で行うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
以下、本発明の一実施形態について図面に基づいて説明する。
図1は、本発明の採取移植パイプ1の斜視図であり、採取片6を採取した状態を示す。
図2は、本発明の採取移植パイプ1の縦断面図である。
図3は、本発明の採取移植パイプ1を土中の菌糸及び/又は菌根の集まった部分であるシロ7に差し込む様子を示す部分断面図である。
【0025】
採取移植パイプ1は、上端3が閉塞し、下端4が開口し、側面5に開口窓51を形成した筒体2からなる。本実施形態では、筒体2は鉄からなり、筒体2の横断面は円形となっている。
【0026】
筒体2の上端3は、略ドーム状の蓋部31によって閉塞されている。筒体2の上端3が略ドーム状の蓋部31によって閉塞されているので、筒体2を下端4から土中の菌糸及び/又は菌根の集まった部分であるシロ7の縁部73に差し込む際に、蓋部31をカナヅチ9で叩いても充分な耐久性を確保することができる(図3参照)。
【0027】
開口窓51は横断面視で筒体2の側面5がなす外周の略半分を除去して形成されている。本実施形態では、筒体2の横断面は円形となっているので、筒体2の内部から採取片6を取り出しやすいとともに、蓋部31をカナヅチ9で叩いても充分な耐久性を確保することができる。
【0028】
筒体2の下端4は、刃口41となっている。刃口41によって、筒体2を土中の菌糸及び/又は菌根の集まった部分であるシロの縁部73(図3参照)に容易に差し込むことができる。
【0029】
以下、上記説明した採取移植パイプ1を用いた採取及び移植の手順について説明する。
子実体は土中の菌糸及び/又は菌根の集まった部分であるシロ7全体から発生するのではなくシロ7の縁部に発生することが知られている。さらに、そのシロ7が年々拡大していくため、子実体が発生するシロ7の縁部の位置が年々変わることが知られている。図3は、土中のシロ7の様子を示す。シロ7は前々年に拡大した部分71と前年に拡大した部分72と本年拡大した部分である縁部73とを有する。前年の子実体8は前年に拡大した部分72から発生していた。
【0030】
筒体2を下端4から、土中の菌糸及び/又は菌根の集まった部分であるシロ7の縁部73に差し込んで、筒体2の内部にシロ7の縁部73の一部を有する採取片6を収容する。次いで、筒体2を引き抜いて、採取片6を開口窓51から取り出す。
【0031】
採取片6は、図1に示すように、シロ部61とシロ部61の上に積層している土部62と土部62の上にさらに積層している腐葉部63とを有する。
【0032】
次の収穫期に子実体が発生する可能性が高い菌根と菌糸の集まった部分であるシロ7の縁部73に筒体2を差し込んで引き抜くことによって、筒体2の内部に採取片6を収容した状態で容易に採取することができる。また、筒体2の側面5に開口窓51を形成したことによって、筒体2の内部の採取片6を開口窓51から容易に取り出すことができる。さらに、開口窓51から採取片6の菌糸及び/又は菌根の状態を目視で確認することができる。
【0033】
次いで、開口窓51から取り出された採取片6は、土部62と腐葉部63とが取り除かれ、別の容器に入れて運搬される。
【0034】
次いで、採取片6を移植したい場所の土中に、筒体2を差し込んで引き抜くことによって、採取片6と略同一形状の穴を形成する。採取片6を移植したい場所とは、具体的には、アカマツ、クロマツ、ハイマツ、ツガ及びコメツガなどの林がある尾根筋、頂上及び山の上層部の林床である。この林床は、南方向から西方向までの間の方角に向いており、風通しが良く、適度な日当たりがあることが望ましい。
【0035】
次いで、移植したい場所の土中に形成した穴に採取片6を挿入することによって菌糸及び/又は菌根の移植を行う。採取片6と略同一形状の穴を採取の際に使用した筒体2で形成することが出来るので、採取移植方法において、採取及び移植を1つの器具で行うことができる。採取片6はシロ7の縁部73から採取されたものなので、採取片6を移植して次の収穫期に子実体が発生する可能性が高いシロを移植することができる。
【0036】
本実施形態では、筒体2の横断面形状は円形だったが、これに限定されることなく、筒体の横断面形状が例えば三角形や四角形などの多角形であってもよい。
【0037】
本実施形態では、筒体2が鉄からなる場合について説明したが、これに限定されることなく、筒体の材料が例えば他の合金、樹脂等であってもよい。
【0038】
本実施形態では、開口窓51は横断面視で筒体2の側面5がなす外周の略半分を除去して形成されている場合について説明したが、これに限定されることなく、採取片の取り出し易さと蓋部をカナヅチ等で叩いても充分な耐久性とを両立できるのであれば、筒体2の断面形状に応じて、除去する外周の長さを自由に設定することができる。
【0039】
本実施形態では、筒体2の下端4が刃口41となっていたが、これに限定されることなく、例えば、筒体の下端に切削刃が取り付けられるようになっていてもよい。筒体の下端に切削刃が取り付けられるようになっていることによって、筒体を土中の菌糸及び/又は菌根の集まった部分の縁部に容易に差し込むことができる。さらに切削刃がなまってきた場合には、切削刃を容易に交換することができる。
【0040】
本実施形態では、採取片6を採取しそのまま移植したが、これに限定されることなく、例えば、採取と移植との間で、採取片6に含まれている菌糸及び/又は菌根の培養及び繁殖を行ってもよい。
【0041】
なお、本実施形態では、外生菌根菌を代表してマツタケの場合について説明したが、他の外生菌根菌の菌糸及び/又は菌根の採取及び移植にも、本発明の採取移植パイプの使用及び採取移植方法の採用が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0042】
【図1】本発明の採取移植パイプ1の斜視図であり、採取片6を採取した状態を示す。
【図2】本発明の採取移植パイプ1の縦断面図である。
【図3】本発明の採取移植パイプ1を土中の菌糸及び/又は菌根の集まった部分であるシロ7に差し込む様子を示す部分断面図である。
【符号の説明】
【0043】
1 採取移植パイプ
2 筒体
3 上端
4 下端
5 側面
6 採取片
7 シロ(菌糸及び/又は菌根の集まった部分)
8 前年の子実体
9 カナヅチ
31 蓋部
41 刃口
51 開口窓
61 シロ部
62 土部
63 腐葉層
71 前々年に拡大した部分
72 前年に拡大した部分
73 縁部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
上端が閉塞し、下端が開口し、側面に開口窓を形成した筒体であって、
筒体を下端から土中の菌糸及び/又は菌根の集まった部分の縁部に差し込んで、筒体内部に菌糸及び/又は菌根の集まった部分の一部を有する採取片を収容し、筒体を引き抜いて採取した採取片を開口窓から取り出すことを特徴とする採取移植パイプ。
【請求項2】
採取片を移植したい場所の土中に、筒体を差し込んで引き抜くことによって、採取片と略同一形状の穴を形成することを特徴とする請求項1に記載の採取移植パイプ。
【請求項3】
筒体の横断面は、円形又は多角形となっていることを特徴とする請求項1又は2に記載の採取移植パイプ。
【請求項4】
筒体の上端は、略ドーム状の蓋部によって閉塞されていることを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の採取移植パイプ。
【請求項5】
開口窓は、横断面視で筒体の側面がなす外周の略半分を除去して形成されていることを特徴とする請求項1乃至4のいずれかに記載の採取移植パイプ。
【請求項6】
筒体の下端は、刃口となっていることを特徴とする請求項1乃至5のいずれかに記載の採取移植パイプ。
【請求項7】
筒体の下端には、切削刃が取り付けられるようになっていることを特徴とする請求項1乃至5のいずれかに記載の採取移植パイプ。
【請求項8】
上端が閉塞し、下端が開口し、側面に開口窓を形成した筒体を下端から土中の菌糸及び/又は菌根の集まった部分の縁部に差し込んで、筒体内部に菌糸及び/又は菌根の集まった部分の一部を有する採取片を収容し、筒体を引き抜いて採取した採取片を開口窓から取り出すことを特徴とする採取移植方法。
【請求項9】
採取片を移植したい場所の土中に、筒体を差し込んで引き抜くことによって、採取片と略同一形状の穴を形成し、その穴に採取片を挿入することによって菌糸及び/又は菌根の移植を行えることを特徴とする請求項8に記載の採取移植方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2009−201370(P2009−201370A)
【公開日】平成21年9月10日(2009.9.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−44459(P2008−44459)
【出願日】平成20年2月26日(2008.2.26)
【出願人】(308003390)
【Fターム(参考)】