説明

採血キット

【課題】 所定量の血液等を簡単にかつ正確に採取できるとともに、気泡が混入せず、比較的安価な採血器と採血用ボトルとを含む採血キットを提供する。
【解決手段】 血液凝固防止液を含有し、スリットを有する円柱状の吸液体であって、所定量の血液を凝固することなく一時吸液する吸液体を先端に配置し、吸液体の後面を押して吸液体を分離する押圧体を設けた採血器である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は採血器と採血用ボトルとを含む採血キットに関する。一定量の血液、唾液、膿、体液、尿(以下「血液等」という。)を病院、自宅などで一人で採取するのに適した採血キットに関する。
【背景技術】
【0002】
図6は従来の使い捨て採血ピペットの概略図である。従来の使い捨てピペット11は、スポイト筒11aと蛇腹構造のキャップ11bとが連結してなり、スポイト筒11a及びキャップ11bは、いずれも透明または半透明で、可撓性を有する材料でできている。そして、スポイト筒11aには目印11c、11dが付けてある。目印11cは採取すべき血液等の量の下限を示し、目印11dは採取すべき血液等の量の上限を示している。そして、スポイト筒11aの先端は開放されているが、他の部分と同一の外径、内径である。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、目印11cと目印11dとの間に採取する血液等の量を合わせることは困難であり、キャップを何度も押したり放したりして、血液等の吸い込みと吐き出しを繰り返さないと、所定量の血液等を採取することはできない。
【0004】
また、ピペット中の血液等に気泡が混入しやすく、採取量が少なくなり、不正確となる。片手でスポイト筒5を指ではさみつつ、スポイト筒の先端を血液等の中へ入れ、毛細管現象によってスポイト筒の中へ血液等を採取するものである。しかし、親指でキャップを押したり放したりするため、未熟練者にとっては操作が難しく、誤って操作し空気を吸い込みやすい。混入した空気を従来のピペットでは取り除くことは困難である。その結果として、何度も血液等の吸い込みと吐き出しを繰り返さなければならない。また、気泡が混入した血液等では採取量が不足し正確な検査ができない。
【0005】
そこで、本発明の目的は、所定量の血液等を簡単にかつ正確に採取できるとともに、気泡が混入せず、比較的安価な採血器と採血用ボトルとを含む採血キットを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的は、請求項1に記載の本発明に係る採血器、すなわち、血液凝固防止液を含有し、スリットを有する円柱状の吸液体であって、所定量の血液を凝固することなく一時吸液する吸液体を先端に配置し、吸液体の後面を押して吸液体を分離する押圧体を設けた採血器によって、達成される。
【0007】
本発明に係る採血器の好ましい実施態様においては、請求項2に記載のように、その中心線を水平にして台の上に置いた時に先端が台の表面に接触しないように重心位置を設計するとともに、台の上でころがることを防止する突起が中央部に設けられている。
【0008】
また、本発明に係る採血器の別の好ましい実施態様においては、請求項3に記載のように、押圧体の移動を停止し、吸液体を押圧体が押すのをとめるとともに、解除し押圧体の移動を可能とする解除可能なロック手段を有する。
【0009】
さらに、本発明に係る採血用ボトルは、請求項4に記載のように、請求項3に記載の採血器を押し込み、はめ込むと、内壁に当接して採血器の解除可能なロック手段が解除され、続いて採血器の押圧体を押すと採血器の先端から吸液体が分離し、内蔵された薬液中に吸液体が浸漬され、吸液体に一時吸液されていた血液が薬液中に溶出する。
【発明の効果】
【0010】
本発明に係る採血器は吸液体を先端に取り付けているので、所定量(例えば、1μl、10μl、20μl、50μl、100μl)の血液等を正確かつ簡単に採取することができるという効果が得られる。
【0011】
本発明に係る採血器は吸液体の後面を押して吸液体を分離する押圧体を設けているので、所定量の血液等を一時吸液している吸液体を本発明に係る採血用ボトルの中へ分離して入れることができ、採血用ボトルの中の薬液の中へ血液等を浸漬し保存できるとともに血液等を処理することができるという効果が得られる。特に吸液体にスリットがあるので、吸液体を薬液中に浸漬すると、吸液体に一時吸液されている血液等がすべて薬液中へ短時間のうちに流出するという効果が得られる。
【0012】
本発明に係る採血器は、先端が台の表面に接触しないように重心位置を設計されているので、先端が台表面等に接触しにくく、衛生的であるという効果が得られる。
【0013】
本発明に係る採血器は中央に突起が設けてあるので、転がりにくく、落下しにくいという効果がある。
【0014】
本発明に係る採血器は押圧体の移動を一時停止するロック手段を有しているので、血液等を一時吸液している時に誤って吸液体を押圧し分離するという事故が生じないという効果が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明の採血器、採血用ボトルについて、添付図面を参照して、詳細に説明する。
【0016】
図1、2は、本発明に係る実施形態の採血器の概略図であり、図1は採血前及び採血中の状態を示す正面断面図であり、図2は底面図である。図5は本発明に係る実施形態の採血器に用いられている吸液体(フィルター)の斜視図である。図3、4は本発明に係る実施形態の採血器及び採血用ボトルの概略図であり、図3は採血器を採血用ボトルに差し込んだ状態を示す断面図であり、図4は採血器を採血用ボトルに差し込んだ後に、キャップを押し込んで吸液体を押し出し分離した状態を示す断面図である。
【0017】
実施形態の採血器の本体21の先端部21aは内面が円柱状であり、外面が先端部向かうにつれて径が小さくなるテーパー状である。そして、吸液体の1つの実施態様として円柱状の多孔質フィルター31が用いられ、本体21の先端部21aの内部に挿入され、多孔質フィルター31の1つの底面31aが先端部21aの端に位置するように配置されている。本体21の先端部21a近くの内部には、多孔質フィルター31の中心軸方向位置を決めるための小突起21bが中心軸のまわりに90°間隔で4か所設けてある(図1(c)参照)。
【0018】
多孔質フィルター31は商品名「ファイバーロッド」などの市販品の多孔質円柱体を用いることができ、毛細管現象を利用して所定量、例えば、1μl、2μl、5μl、10μl、20μl、50μl、60μl、70μl、80μl、100μlの血液を吸液するように長さを調整する。これによって、正確度の高い量の血液等を再現性良く、容易に採取することができる。また、血液の凝固を防止するために、ヘパリンなど抗凝血剤を多孔質フィルター31に予め含浸させておくのが好ましい。
【0019】
採取しようとする体液として、血液のほかに、膿、唾液、尿なども挙げることができるが、体液に応じてフィルターの種類、孔の大きさ、量を変えて用いるべきである。
【0020】
図5に示すように、多孔質フィルター31には、その一部分31dを残して、中心軸を通る1つの平面31b、31cによって切断され、スリット31eを形成している。スリットは他の形態に変更することができるが、例えば、中心軸へ向かう3つの平面によって切断され、そのうちの2つの平面は側面近くの内部でとどまり、他の1つの平面は側面まで至っている。
【0021】
本体の後端部21cはやや径の大きな円筒形であり、その内部には押圧ボタン体23が挿入されている。
【0022】
押圧ボタン体23は円筒部と半球殻部とが連続してなり、円筒部には押圧軸部22の後端部22dが挿入され固定されている。 押圧軸部22は、本体21の内部に、中心軸方向へ移動可能に配置されている。押圧軸部22の先端が押圧部22aであり、押圧軸部22の中央部にはキー溝部22b、22cが左右対称に形成されている。
【0023】
本体21の中央部にはロックキー24、25が左右対称に配置されている。ロックキー24、25は、それぞれ、係合部24a、25aと、支点部24b、25bと、力点部24c、25cとからなる樹脂あるいは硬質ゴムなど多少の可撓性を有する材料で作られている。
【0024】
図1(b)は図1(a)におけるA−A´断面図であるが、ロックキー24、25の支点部24b、25bの先端は押圧軸部22の側面に当接し、通常状態においては、ロックキー24、25の係合部24a、25aは押圧軸部22のキー溝部22b、22cに、それぞれ係合し、力点部24c、25c近くのロックキー外表面は、本体の中心軸に対してより外へ位置し、係合部24a、25a近くのロックキー外表面は、本体の中心軸に対してより内に位置し、ロックキー24、25の外表面は、本体の中心軸に対して、通常状態では、傾いて位置している。このように通常状態ではロックキーの係合部が押圧軸部のキー溝部に係合しているので、押圧軸部は本体の中心軸方向へ移動することはできない。
【0025】
実施形態の採血器の本体21の後端部21cには、ロックキー24に接する位置に外へ突出した突起26a、26bが中心軸のまわりに180°間隔で取り付けられている。そのため、採血器を机の上に置いても、転がりにくく、机のはじから落下しにくくなっている。
【0026】
また、実施形態の採血器の重心は、突起26a、26bの近く、あるいは後端部よりに位置している。そのため、採血器を机の上に置くと、採血器の先端部21aや多孔質フィルター31が机の表面に触れることはなく、衛生的に保たれる。
【0027】
本発明に係る実施形態の採血器を用いて所定量の血液を採取するのは極めて簡単である。皮膚に針等を刺して血を出し、その血液に採血器の先端部21aを接触させ、多孔質フィルター31に血液を吸液する。血液に多孔質フィルターを接触させつづけると、もはや多孔質フィルター31にこれ以上吸液できなくなる。その時に、多孔質フィルター31には所定量50μlの血液が精度良く採取されている。しかも、多孔質フィルター31の中の空孔に捉えられていた空気は、多孔質フィルター31の1つの底面31aから毛細管現象によって血液が吸液されるにしたがって、他の底面へ向かって追いやられ、他の底面から徐々に放出される。その結果、多孔質フィルター31の中に採取された血液の中には空気が混入されることがない。
【0028】
次に、図3に示すように、実施形態の採血用ボトル32は円筒状であり、側部32aと底部32bと脚部32cとからなる。採血用ボトルの中には所定の薬液が入っており、開口は不図示の密封キャップによって密封されている。
【0029】
採血用ボトル32の密封キャップを取り外し、開口を開いた後に、実施形態の採血器を採血用ボトル32の中に差し込む。すると、採血用ボトル32の側部32aの内面が採血器のロックキー24、25のそれぞれ力点部24c、25cに接触し、さらに差し込むにつれて力点部24c、25cが押されて、採血器の中心軸方向へ移動する。すると、支点部24b、25bをはさんで力点部24c、25cと反対側に位置する係合部24a、25aは採血器の中心軸から遠ざかる方向へ移動する。その結果、ロックキー24、25の係合部24a、25aと押圧軸部22のキー溝部22b、22cとの係合が解除され、押圧軸部22は自由に採血器の中心軸方向に直線移動できるようになる。なお、押圧軸部22が回転しないように直線状のガイド溝を本体21の内面に設けてもよい。
【0030】
続いて、ロック手段が解除された状態で押圧ボタン体23を本体21に対して押し込むと押圧軸部22が本体21の中心軸に沿って移動し、押圧軸部22の押圧部22aが多孔質フィルター31の後方の底面に当接して多孔質フィルター31を押圧して、多孔質フィルター31は押し出されて本体21の先端部21aから分離される。
【0031】
そして、分離された多孔質フィルター31は採血用ボトル中に収納されている薬液中に落下する。多孔質フィルター31にはスリット31eが形成されているので、薬液中で多孔質フィルター31は薬液に触れてスリット31eが沿って開く。すると、多孔質フィルター31に採取されている血液のうち表面近くの血液も中心近くの血液もいずれも迅速に薬液中に溶出する。したがって、採取した血液を均等に均一に薬液処理することができる。
【0032】
採血用ボトル32は安定して直立できるように脚部32cの形状・構造は設計されている。
【0033】
採血器の本体21の先端部21aは、多孔質フィルター31の有無を目視確認できるように、また、多孔質フィルター31への血液等の吸液状態を目視確認しやすいように透明あるいは半透明であるのが好ましい。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】本発明に係る実施形態の採血器の概略図である。
【図2】本発明に係る実施形態の採血器の概略図である。
【図3】本発明に係る実施形態の採血器及び採血用ボトルの概略図である。
【図4】本発明に係る実施形態の採血器及び採血用ボトルの概略図である。
【図5】本発明に係る実施形態の採血器に用いられている吸液体(フィルター)の斜視図である。
【図6】従来の使い捨て採血ピペットの概略図である。
【符号の説明】
【0035】
5 スポイト筒
11 使い捨てピペット
11a スポイト筒
11b キャップ
11c 目印
11d 目印
21 本体
21a 先端部
21b 小突起
21c 後端部
22 押圧軸部
22a 押圧部
22b キー溝部
22c キー溝部
22d 後端部
23 押圧ボタン体
24 ロックキー
24a 係合部
24b 支点部
24c 力点部
25 ロックキー
25a 係合部
25b 支点部
25c 力点部
26a 突起
26b 突起
31 多孔質フィルター
31a 底面
31b 平面
31c 平面
31d 一部分
31e スリット
32 採血用ボトル
32a 側部
32b 底部
32c 脚部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
血液凝固防止液を含有し、スリットを有する円柱状の吸液体であって、所定量の血液を凝固することなく一時吸液する吸液体を先端に配置し、吸液体の後面を押して吸液体を分離する押圧体を設けた採血器。
【請求項2】
その中心線を水平にして台の上に置いた時に先端が台の表面に接触しないように重心位置を設計するとともに、台の上でころがることを防止する突起が中央部に設けられていることを特徴とする請求項1に記載の採血器。
【請求項3】
押圧体の移動を停止し、吸液体を押圧体が押すのをとめるとともに、解除し押圧体の移動を可能とする解除可能なロック手段を有する請求項1または2に記載の採血器。
【請求項4】
請求項3に記載の採血器を押し込み、はめ込むと、内壁に当接して採血器の解除可能なロック手段が解除され、続いて採血器の押圧体を押すと採血器の先端から吸液体が分離し、内蔵された薬液中に吸液体が浸漬され、吸液体に一時吸液されていた血液が薬液中に溶出する採血用ボトル。


【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate


【公開番号】特開2006−288680(P2006−288680A)
【公開日】平成18年10月26日(2006.10.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−112990(P2005−112990)
【出願日】平成17年4月11日(2005.4.11)
【出願人】(390032528)株式会社エノモト (16)
【Fターム(参考)】