説明

採食性を改善する飼料添加物および飼料

【課題】 粗飼料の採食性を向上させ、それにより、牛、特に子牛や乳牛の生理を活性化し、その生産性を向上することのできる飼料添加物および飼料を提供すること。
【解決手段】 納豆粉末、クエン酸、褐藻およびゼオライトを必須成分とすることを特徴とする飼料添加物および飼料。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、飼料、さらに詳しくは、特に、粗飼料の採食性を向上させ、その摂取量を増やすことにより、牛の生理を活性化し、生産性の向上を図る飼料添加物およびそれを用いる飼料に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、家畜に濃厚飼料が安易に利用されるなかで、育成期から乳腺や生殖器への脂肪沈着が問題化され、乳牛や肉牛の生産能力を発揮する上で改めて反芻動物としての粗飼料給与の必要性が見直されてきている。特に、子牛から育成期にかけての粗飼料乾物摂取量の増大が、泌乳量の増加や疾病からの回復能力が増大するなど、牛の生産能力に大きく影響することが判明している(例えば、非特許文献1参照)。
したがって、粗飼料の採食性を向上させ、粗飼料摂取量を増やすことにより、家畜の生産性の向上を図ることができると考えられる。
【0003】
また、家畜の生理活性化および生産性の向上についての従来の研究によると、家畜飼料に褐藻やゼオライトを添加することが有効である。
褐藻はヨードを豊富に含有しており、それにより甲状腺ホルモンの生産が促進され、家畜や家禽の全身の細胞を活性化し、各種臓器の機能強化、内分泌器官における各種ホルモンの分泌調整作用および各種栄養物質の代謝促進作用等を生じるものと考えられる。ゼオライトもまた、その優れた吸着能および陽イオン交換能が家畜や家禽の消化器官の機能を増進し、主成分たるケイ酸アルミニウムの制酸作用等から、飼料の添加成分として用いることが提案されている。
例えば、褐藻およびゼオライトの相乗効果を狙って両者を必須成分とする飼料(例えば、特許文献1参照)や、ゼオライトに比し、褐藻を相対的に大量に用い、ビール酵母と併用することにより、特に子牛や子豚に対して優れた性能を発揮する飼料(例えば、特許文献2参照)が提案されている。
【0004】
しかしながら、今までに、粗飼料の採食性向上を目的とした飼料添加物および混合飼料類似品は全く見当たらなかった。
【特許文献1】特許第1686773号公報
【特許文献2】特許第3017235号公報
【非特許文献1】福岡県農業総合試験場研究報告C(畜産)、第9号、p.1−6(1989)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、牛、特に、子牛および乳牛の生産性を向上するために、飼料、特に、粗飼料の採食性を向上させることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、意外にも、従来の褐藻およびゼオライトを必須成分とする飼料に納豆粉末およびクエン酸を配合することにより、該飼料に対する牛の嗜好性が増し、特に粗飼料の採食性に今までにない顕著な効果を奏することを見出し、本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明は、納豆粉末、クエン酸、褐藻およびゼオライトを必須成分とすることを特徴とする飼料添加物および該添加物を含む飼料を提供するものである。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、本発明の飼料添加物を添加することにより、褐藻およびゼオライトの有する生理活性効果に加えて、飼料、特に、粗飼料に対する嗜好性が増し、その採食量が増大して、牛、特に、子牛および乳牛の生産能力を相乗的に向上させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
本発明において用いられる納豆粉末は、特に限定されるものではなく、一般に入手可能なものであればよいが、例えば、1mm以下程度の粒度に整粒された納豆粉末で、活性納豆菌数が1g中10個以上のものが好ましい。
【0009】
本発明において用いられるクエン酸は、特に限定されるものではなく、一般に入手可能なものであればよいが、例えば、クエン酸(C)を99.5%以上含む粒状または粉末状のものが好ましく、より好ましくは、匂いがなく強い酸味のあるものがよい。
【0010】
本発明において用いられる褐藻は、種類、産地等、特に限定されるものではなく、褐藻類に属するいずれの褐藻でもよい。一般に、褐藻はよく水洗後、乾燥し、粉砕して粉末として用いられる。取扱い上、あるいは家畜の摂食上等の理由から、200〜6メッシュ程度の粒度とすることが好ましい。例えば、神協産業株式会社より商標名「アルギット」または「アルガ」で市販されている褐藻を用いることができる。
【0011】
本発明において用いられるゼオライトは、種類、産地等、特に限定されるものではなく、通常、飼料に用いられるものいずれでもよい。ゼオライトもまた、200〜6メッシュ程度の粒度の粉末とすることが好ましい。
【0012】
本発明の飼料添加物においては、これらの納豆粉末、クエン酸、褐藻およびゼオライトを混合して用いる。その混合割合は、対象となる牛の種類、用途、年齢等により異なるが、一般に、納豆粉末:クエン酸:褐藻:ゼオライトの重量比が0.1〜5.0:0.1〜7.0:10〜50:30〜90の範囲、好ましくは、0.1〜2.0:0.1〜5.0:10〜40:30〜80の範囲、より好ましくは、0.1〜1.0:0.5〜2.0:10〜30:50〜80の範囲である。
【0013】
本発明の飼料添加物はさらに、糖蜜、ビール酵母、プロピオン酸、ビタミン類、カルシウム等の他の成分を適宜、含有していてもよい。好ましくは、ビール酵母およびプロピオン酸を例えば、本発明の飼料添加物に対し、各々、0.5〜5重量%程度の割合で含有していてもよい。
【0014】
本発明の飼料添加物は、常法に従って製造することができる。例えば、納豆粉末、クエン酸、褐藻粉末およびゼオライト粉末を常法により、所望の割合で混合して粉末状の飼料添加物とすることができ、さらに、常法により造粒して、細粒、顆粒、ペレット等の形態にしてもよい。その他、ゼオライト粉末にクエン酸を吸着させた後、納豆粉末および褐藻粉末と混合することによって製造される混合粉末であってもよい。
粉末状飼料添加物の製造法としては、例えば、攪拌混合等が挙げられる。細粒または顆粒状飼料添加物の製造法としては、例えば、攪拌造粒法、流動層造粒法、押し出し造粒法等が挙げられる。ペレット状飼料添加物の製造法としては、例えば、圧縮造粒法、押し出し造粒法等が挙げられる。
【0015】
本発明の飼料添加物は、牛用の飼料に添加して用いる。該飼料としては、濃厚飼料または粗飼料のいずれであってもよい。
該粗飼料としては、特に限定されないが、例えば、ライグラスストロー、バミューダ、チモシー、オーツヘイ、スーダンなどの乾燥牧草およびその牧草サイレージなどが挙げられる。
本発明の飼料添加物の使用量は、対象となる牛の種類、大きさ等にもよるが、一般に、納豆粉末、クエン酸、褐藻およびゼオライトの混合物として、濃厚飼料に対して0.1〜4重量%程度、好ましくは、0.5〜2重量%程度の割合で用いられる。
【0016】
本発明の飼料添加物の給餌方法としては、飼料にトップドレッシングとして添加する方法、または飼料とミキシングする方法などが挙げられる。
本発明の飼料添加物の給与時期は、特に限定されないが、子牛の場合、育成期および肥育の前中期が好ましい。また、乳牛の場合、四季を通じていつ給与してもよいが、特に、乾乳期から泌乳前期および夏場に給与すると、各々、泌乳能力および暑熱時において顕著な効果がある。
【0017】
次に、実施例を挙げて本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【実施例1】
【0018】
納豆粉末0.4重量部、クエン酸1重量部、褐藻粉末(神協産業株式会社よりアルギットまたはアルガの商品名で市販されている北大西洋産ヒバマタ目褐藻の60〜15メッシュ粉末)20重量部およびゼオライト粉末(60〜15メッシュ粉末)76.5重量部、ビール酵母2重量部およびプロピオン酸0.1重量部を常法に従ってよく混合し、本発明の飼料添加物を得た。
【試験例1】
【0019】
実施例1の飼料添加物を用い、以下に示す子牛への給与試験を行い、粗飼料の乾物摂取量(DMI)および発育増体に対する影響を調べた。
(1)試験場所:北海道立道央畜産試験場
(2)供試牛:ホルスタイン去勢牛12頭(試験区6頭、対照区6頭)
(3)試験期間:生後7ヶ月齢から12ヶ月齢までの6ヶ月間
(4)供試飼料:濃厚飼料として、市販の肥育前期用配合飼料を制限給餌し、粗飼料として、ライグラスストローを不断給餌した。試験区には、実施例1の飼料添加物を1日当たり150g(7〜10ヶ月齢)および100g(11〜12ヶ月齢)添加した。
【0020】
(5)結果:
1.粗飼料採食量
表1に示すように、粗飼料採食量累計は、試験区が対照区よりも多かった。月齢が増す毎に濃厚飼料が増給されたのに対し粗飼料採食量は減少したが、後半、試験区は対照区のそれより2倍の粗飼料採食能を示した。すなわち、濃厚飼料採食量が試験区と対照区で試験期間を通し同一であるとういう状況下(すなわち、同一の給与条件下)(表2)において、本発明の飼料添加物を添加することによって粗飼料採食能が2倍に向上した。
【0021】
【表1】

【表2】

【0022】
2.胃汁pH
表3に示すように、試験区の胃汁pHは、開始時点では低かったが、12ヶ月齢時点では反芻動物に最適な範囲に安定した。
【0023】
【表3】

【0024】
3.胃汁揮発性脂肪酸(VFA)
表4に示すように、胃汁VFAの酢酸モル比は、終始、試験区が対照区より高く安定していた。酢酸発酵が旺盛なことが窺えた。
【0025】
【表4】

【0026】
4.甲状腺ホルモン量
表5および表6に示すように、甲状腺ホルモン(T3、T4)は、試験区が対照区より開始時点では低かったが、12ヶ月齢時点では、対照区が開始時より低下したのに対し、試験区では上昇した。本発明の飼料の添加により、代謝を掌る甲状腺ホルモンが活性化したことが示された。
【0027】
【表5】

【表6】

【0028】
6.発育増体
発育増体の結果を表7に示す。育成期の発育においては、体重だけでなく、体高、体長、胸囲、腹囲、骨格の形成に重要な腰角幅、かん幅、座骨幅が将来の繁殖成績や泌乳能力および肉質・肉量に影響することは周知の事実である。これら全ての項目において、試験区の発育が対照区に勝ったことは、粗飼料のDMI向上と併せて、本発明の飼料の育成期からの使用が大きく貢献したものと考えられる。
また、試験区は対照区よりも牛個体の発育のバラツキが少なく、発育が斉一であった(図1および図2)ことも本発明の飼料給与による効果と考えられる。
【0029】
【表7】

【0030】
以上の結果から、本発明の飼料添加物を加えると、粗飼料摂取量が増大し、牛の生理活性および発育にも効果的であることがわかった。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】試験区の発育曲線を示す。
【図2】対照区の発育曲線を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
納豆粉末、クエン酸、褐藻およびゼオライトを必須成分とすることを特徴とする飼料添加物。
【請求項2】
納豆粉末:クエン酸:褐藻:ゼオライトの重量比が0.1〜5.0:0.1〜7.0:10〜50:30〜90である請求項1記載の飼料添加物。
【請求項3】
請求項1記載の飼料添加物を含む飼料。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate