説明

接ぎ木用樹脂フィルムおよび接ぎ木方法

【課題】穂木の活着や新梢の生育を向上させることができるので、新たに採用する品種への更新を効率的に行うことができる接ぎ木用袋を構成する接ぎ木用樹脂フィルム、該フィルムからなる接ぎ木袋および接ぎ木方法を提供する。
【解決手段】接ぎ木用樹脂フィルムは、台木12に穂木14を接ぎ木する際に、台木12と穂木14との接合部分16および穂木14を覆う接ぎ木用袋10を構成するフィルムであって、23℃における酸素透過量が3×10cc/m・day・atm以上であり、40℃、90%RHにおける水蒸気透過度が50g/m・day以下である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、接ぎ木用樹脂フィルムおよび接ぎ木方法に関する。
【背景技術】
【0002】
消費者の嗜好の多様化に伴って、果樹等において新品種の導入が盛んに行われている。新品種の繁殖には、挿し木や接ぎ木が行われている。新品種の導入に接ぎ木を採用する理由は、挿し木での繁殖が難しいこと、病害虫の回避(ブドウ、スイカ等)、樹勢のコントロール(柑橘類、リンゴ等)、収穫までの期間の短縮等である。接ぎ木の成功率を高めるためには、穂木の乾燥を防止することが重要なポイントとなる。このため、穂木を蝋やフィルム等で被覆したり、ミスト散水等で湿度低下を防止したりしている。
【0003】
従来の接ぎ木方法は、台木の切断面と穂木の切断面とを接合した後、接合部分を紐等で巻き回し、接合部を固定することにより行われている。さらに、穂木の活着率を向上させるためには、穂木や接合部分の乾燥を抑制することが必要である。そのため、近年では、パラフィンフィルム等で穂木と接合部分を巻くことが行われている。特許文献1には、接合部分に巻き付ける自己粘着性フィルムが記載されている。
【0004】
特許文献2、3には、台木に穂木を接ぎ木した後、その上方からビニール袋を被せ、接ぎ木近傍下部で袋を閉じる接ぎ木方法が記載されている。当該公報には、穂木や接合部分の乾燥を抑制することができると記載されている。
【0005】
また、特許文献4には、酸素透過量が120〜750[cc/(100g・day・atm)]であるブドウの鮮度保持用包装袋、およびそれを用いたブドウの保存方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平7−60884号公報
【特許文献2】特開2003−23862号公報
【特許文献3】特開2005−13198号公報
【特許文献4】特開2008−273627号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1に記載の自己粘着性フィルムは、フィルムを引っ張って均一に薄くし、これを台木に巻き付けて使用する必要があり、作業に熟練を要するとともに、作業を効率的に行うことができなかった。
【0008】
また、特許文献2、3の接ぎ木方法は、接合部分に単にビニール袋を被せて密閉しているのみであり、穂木の活着率や新梢の生育が十分でない場合があった。これは、気象条件等がビニール袋内部の環境に影響を与え、逆に穂木の活着や新梢の生育に悪影響を及ぼすと考えられた。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は上記の課題に鑑み鋭意研究したところ、袋内部における湿度および酸素量が穂木の活着や新梢の生育に影響を及ぼすことを見出し、本発明を完成するに至った。
【0010】
すなわち本発明は、以下に示される。
(1)台木に穂木を接ぎ木する際に、前記台木と前記穂木との接合部分および前記穂木を覆う接ぎ木用袋を構成する接ぎ木用樹脂フィルムであって、
23℃における酸素透過量が3×10cc/m・day・atm以上であり、40℃、90%RHにおける水蒸気透過度が50g/m・day以下であることを特徴とする接ぎ木用樹脂フィルム。
【0011】
(2)前記酸素透過量が3×10cc/m・day・atm以上、3×10cc/m・day・atm以下であることを特徴とする(1)に記載の接ぎ木用樹脂フィルム。
【0012】
(3)前記水蒸気透過度が10g/m・day以下であることを特徴とする(1)または(2)に記載の接ぎ木用樹脂フィルム。
【0013】
(4)微細孔を有することを特徴とする(1)乃至(3)のいずれかに記載の接ぎ木用樹脂フィルム。
【0014】
(5)前記微細孔の開口面積が7×10−5mm以上、8×10−1mm以下である(4)に記載の接ぎ木用樹脂フィルム。
【0015】
(6)引張伸度が400%以下(JIS K7127)である(1)乃至(5)のいずれかに記載の接ぎ木用樹脂フィルム。
【0016】
(7)延伸ポリプロピレンから構成された(1)乃至(6)のいずれかに記載の接ぎ木用樹脂フィルム。
【0017】
(8)前記穂木が果樹である(1)乃至(7)のいずれかに記載の接ぎ木用樹脂フィルム。
【0018】
(9)前記果樹が柑橘類である(8)に記載の接ぎ木用樹脂フィルム。
【0019】
(10)台木に穂木を接ぎ木する際に、前記台木と前記穂木との接合部分および前記穂木を覆うために用いられる、(1)乃至(9)のいずれかに記載の接ぎ木用樹脂フィルムから形成された接ぎ木用袋。
【0020】
(11)台木に形成された切断面と穂木に形成された切断面とを接合する工程と、
前記台木と前記穂木との接合部分および前記穂木を内包するように、(10)に記載の接ぎ木用袋を被せる工程と、
前記接ぎ木用袋の口を閉じ、該接ぎ木用袋で前記接合部分および前記穂木を覆う工程と、を有する接ぎ木方法。
【発明の効果】
【0021】
本発明の接ぎ木用樹脂フィルムを用いた接ぎ木用袋により、穂木の活着や新梢の生育を向上させることができるので、新たに採用する品種への更新を効率的に行うことができる。さらに、本発明の接ぎ木用樹脂フィルムを用いた接ぎ木用袋により、接ぎ木作業の効率が向上するので、作業の省力化を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】図1は本発明の接ぎ木用樹脂フィルムからなる接ぎ木用袋を用いた接ぎ木方法を説明するための概略正面図である。
【図2】図2は、実施例における、新梢の長さの合計を比較するためのグラフである。
【図3】図3は、実施例における、最も長い新梢の長さを比較するためのグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明の実施の形態について、図面を用いて説明する。尚、すべての図面において、同様な構成要素には同様の符号を付し、適宣説明を省略する。
【0024】
本実施形態の接ぎ木用樹脂フィルムからなる接ぎ木用袋10は、図1に示すように、台木12の切断面と、穂木14の切断面との接合部分16を密閉するものである。
【0025】
<接ぎ木用樹脂フィルム>
以下、接ぎ木用袋10を構成する接ぎ木用樹脂フィルムについて説明する。
本実施形態の接ぎ木用樹脂フィルムは、23℃における酸素透過量が、3×10cc/m・day・atm以上、好ましくは3×10cc/m・day・atm以上、3×10cc/m・day・atm以下、さらに好ましくは5×10cc/m・day・atm以上、2.5×10cc/m・day・atm以下、特に好ましくは5×10cc/m・day・atm以上、1.5×10cc/m・day・atm以下である。
【0026】
また、本実施形態の接ぎ木用樹脂フィルムは、JIS K7129に準拠した40℃、90%RHにおける水蒸気透過度が、50g/m・day以下、好ましくは30g/m・day以下、さらに好ましくは15g/m・day以下、特に好ましくは10g/m・day以下である。なお、下限値は特に限定されないが、袋内の湿度が非常に高くなると穂木に病気が発生するため、好ましくは3g/m・day以上、さらに好ましくは5g/m・day以上である。これらの上限値および下限値は任意に組み合わせることができる。
【0027】
酸素透過量および水蒸気透過度がいずれも上記範囲にあることにより、接ぎ木用樹脂フィルムからなる接ぎ木用袋10は、その内部の酸素量および湿度を最適の範囲に保持することができ、台木への穂木の活着や新梢の生育を向上させることができる。これにより、新たに採用する品種への更新を効率的に行うことができる。なお、上記の酸素透過量の数値範囲と、上記の水蒸気透過度の数値範囲とは、任意の組み合わせとすることができる。
【0028】
本実施形態の接ぎ木用樹脂フィルムの酸素透過量(cc/m・day・atm)は、該樹脂フィルムからなる接ぎ木用袋において計測された値を示したものである。具体的には、以下の式で算出される、23℃、1日当りの、接ぎ木用袋(樹脂袋)の有効表面積における内と外との酸素圧力差1気圧当りの酸素透過量Fである。
【0029】
F={1.143×(C−C)×V}/(t×S)
F:23℃における単位面積当りの酸素透過量[(cc/(m・day・atm)]
: 窒素ガス充填時から経時時間t時間後の樹脂袋内の酸素濃度(体積%)
: 窒素ガス充填直後の樹脂袋内の酸素濃度(体積%)
V : 充填した窒素ガスの量(cc)
t : 窒素ガス充填直後からの経過時間(時間)
S : 樹脂袋の内側の表面積(樹脂フィルムの有効表面積)(m
【0030】
ヒートシールで密封された樹脂袋内に、窒素ガス(純窒素ガス)を充填する(上記V)。窒素ガス充填直後に、樹脂袋内のガスをサンプリングし、1cc以下の一定量をガスクロマトグラフィーで測定する。これにより、樹脂袋内の酸素量を求め、酸素濃度C(体積%)を算出する。Cが0.2体積%超えている場合は、採用しない。
【0031】
初期酸素濃度を測定した樹脂袋を、23℃のインキュベーター中で保管する。窒素ガス充填直後からt(時間)経過後に、樹脂袋内の酸素濃度を測定する(上記C)。tは3時間以上の時間である。なお、樹脂袋内の酸素濃度が1%以上7%以下の範囲内から外れていた場合、あるいは、経時時間t(時間)と樹脂袋内の酸素濃度との間に比例関係が成り立たない場合は採用しない。
【0032】
なお、接ぎ木用袋の有効表面積とは、樹脂フィルムのうち、酸素透過に関与できる部分の表面積を指し、密封のために張り合わせられている部分のような、酸素透過に関与できない部分を除く表面積のことである。例えば、長方形の2枚の樹脂フィルムを、4辺をヒートシールされている場合、密封後の接ぎ木用袋の内側の表面積が、該樹脂フィルムの有効表面積である。
【0033】
本実施形態の接ぎ木用樹脂フィルムの材質自体の酸素透過性や水蒸気透過性が低い場合、該樹脂フィルムに少なくとも1つの微細孔を形成することができる。1つの微細孔の開口面積が7×10−5mm以上、8×10−1mm以下、好ましくは1×10−4mm以上、1×10−1mm以下、さらに好ましくは1×10−3mm以上、5×10−2mm以下である。酸素透過量および水蒸気透過度を上記範囲内に調整する観点から、1つの微細孔の開口面積を上記範囲とすることが好ましい。樹脂フィルムに微細孔を形成する方法は、通常の方法を採用することができる。
【0034】
また、該樹脂フィルムの材質やフィルム厚によっては、微細孔を開けなくても、酸素透過量および水蒸気透過量を上記範囲内に調整することができる。このような場合は、樹脂フィルムの材質およびフィルム厚を選択することによって、酸素透過量および水蒸気透過度を調整することができる。また、該樹脂フィルムの材質、フィルム厚および微細孔の大きさ又は数の選択によって、酸素透過量および水蒸気透過量を調整することもできる。なお、樹脂フィルムの袋の形状は、特に制限されない。
【0035】
本実施形態の接ぎ木用樹脂フィルムは、JIS K7127に準拠して測定された引張伸度が400%以下、好ましくは200%以下である。本実施形態の接ぎ木用樹脂フィルムは、引張伸度が上記範囲であることにより、穂木が成長した際に樹脂フィルムにくい込んだりひっかかったりせず、新たに採用する品種への更新を効率的に行うことができるため好ましい。
【0036】
本実施形態の接ぎ木用樹脂フィルムは、ポリエチレン、直鎖状低密度ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ塩化ビニル、ポリアミド、ポリエステル、ポリカーボネート等、あるいは、これらの複合材料等から構成される。本実施形態においては、ポリプロピレンが好ましく、引っ張り強度、引き裂き強度等の機械的強度に優れる延伸ポリプロピレンがより好ましい。接ぎ木用樹脂フィルムの厚さは、特に制限されないが、通常、15〜60μmであり、取り扱い及びコストの観点から、20〜40μmが好ましい。
【0037】
本実施形態の接ぎ木用袋10は、上述の接ぎ木用樹脂フィルムを用いて作成することができる。具体的には、長方形の2枚の樹脂フィルムを重ね合わせ、3辺をヒートシールすることにより作成することができる。また、長方形の1枚の樹脂フィルムを折り返して重ね合わせ、2辺をヒートシールすることにより作成することもできる。
【0038】
<接ぎ木方法>
本実施形態の接ぎ木方法は、以下の工程を有する。
工程(a):台木12に形成された切断面と穂木14に形成された切断面とを接合する。
工程(b):台木12と穂木14との接合部分16および穂木14を内包するように、本実施形態の接ぎ木用袋10を被せる。
工程(c):接ぎ木用袋10の口を閉じ、接ぎ木用袋10で接合部分16および穂木14を覆う。
【0039】
工程(a)においては、台木12に形成された切断面と、穂木14に形成された切断面とを合わせ、これらの切断面が密着するように、テープや紐等の固定手段18で台木12に巻き付ける。
【0040】
穂木14と台木12の組み合わせは、以下の例を挙げることができる。なお、穂木14/台木12として表記する。
組み合わせとしては、柑橘類/カラタチ、ブドウ/テレキ5BB、リンゴ/マルバカイドウ、カキ/法蓮坊、モモ/おはつもも、ナシ/マンシュウマメナシ、バラ/ノイバラ等を挙げることができる。本発明が適用できる植物として、樹木のほかに草本もあり、その場合の組み合わせとしては、スイカ/カンピョウ等を挙げることができる。
【0041】
また、穂木14として用いられる柑橘類としては、農間紅八朔、川野ナツダイダイ(甘夏)、紅甘夏、不知火、宮内イヨカン、日向夏、河内晩柑、清見、橋本早生、日南1号、リスボンレモン、マイヤーレモン、カボス等を挙げることができ、ブドウとしては、ピオーネ、巨峰、シャインマスカット等を挙げることができ、リンゴとしては、ふじ、ジョナゴールド、紅玉、つがる、陸奥、世界一、王林、シナノスイート、シナノゴールド等を挙げることができ、カキでは太秋、富有、次郎、平核無等を挙げることができ、モモでは、なつおとめ、白鳳、浅間白桃等を挙げることができ、ナシでは、豊水、幸水、新高等を挙げることができ、バラではピース、ローテローゼ等を挙げることができ、スイカでは縞王等を挙げることができる。なお、樹種(例えば柑橘類、ブドウ)、品種(例えば、カラタチ、農間紅八朔)とも接ぎ木できるものであれば良く、これらに限定されない。
【0042】
工程(b)において、台木12と穂木14との接合部分16および穂木14を内包するように、本実施形態の接ぎ木用袋10を被せる。
【0043】
そして、工程(c)において、接ぎ木用袋10の口を台木12の部分で閉じ、テープや紐等の固定手段20で外側から巻き付ける。これにより、接ぎ木用袋10内に、接合部分16および穂木14を密閉する。
工程(b)および(c)の作業は短時間で行うことができ、従来のパラフィンフィルム等で全ての接合部分を被覆する方法に比べ、作業効率に優れる。
【0044】
本実施形態の接ぎ木方法は、本実施形態の接ぎ木用樹脂フィルムを用いた接ぎ木用袋10を用いているので、従来の方法に比べ穂木14の活着や新梢の生育をより向上させることができる。したがって、当該方法により、新たに採用する品種への更新を効率的に行うことができる
【0045】
以上、図面を参照して本発明の実施形態について述べたが、これらは本発明の例示であり、上記以外の様々な構成を採用することもできる。
【0046】
たとえば、1本の台木に対して、複数本の穂木を接ぎ木することができる。さらに、1本の台木に複数本の穂木を接ぎ木した場合において、1つの接ぎ木用袋で、全ての穂木および接合部分を覆うことができる。したがって、従来のパラフィンフィルム等で穂木の露出部分と全ての接合部分を巻く方法に比べ、作業効率に非常に優れる。
【実施例】
【0047】
以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に何ら限定されるものではない。
【0048】
1.フィルムの物性測定方法
1.1.酸素透過量
(1)樹脂袋の製造
表1に記載された材質、厚みである樹脂フィルムに、熱針により、表1に示されるサイズおよび個数の微細孔を設けた。そして、4辺を10mm幅でヒートシールして、内寸が30mm×70mmの長方形の樹脂袋を作製した。このとき、ヒートシール後の樹脂袋の内側の表面積が、樹脂フィルムの有効表面積(4200mm=0.0042m)である。なお、以下全ての作業は、大気中で行う。
【0049】
(2)窒素ガスの封入
ヒートシールで樹脂袋を密封した後、アスピレーターを用いて樹脂袋内を脱気する。脱気は、樹脂袋内の両面が貼りつくまで行う。次に、この樹脂袋内に白硬注射筒を用いて窒素ガス(純窒素ガス)を充填する。窒素ガスの充填量は、袋サイズによるが、包装フィルムにテンションがかからない範囲で極力多く入れ、注射筒の目盛りを用いて、窒素ガスの注入量を測定する。なお、注射針を樹脂袋に突き刺して、ガスの出し入れを行う。針を刺す際は、樹脂フィルムに両面テープを貼り、この上からポリプロピレンフィルム製の粘着テープ(以下「PPテープ」という)を貼り付ける。また、針を抜いた後は、速やかにPPテープで針穴を塞ぐ。樹脂袋に貼るテープは、4.5cm以下の面積に収まるようにする。また、微細孔を開けた樹脂フィルムの場合は、微細孔を塞がないように注意する。
【0050】
(3)初期酸素濃度の測定
窒素ガス充填直後に、ガスクロマトグラフィーで測定して、樹脂袋内の酸素量を求め、酸素濃度C(体積%)を算出した。このとき、Cが0.2体積%超えている場合は、上記(1)及び(2)作業をやり直す。なお、酸素濃度は、ガスクロマトグラフィーに1cc以下の一定量を注入して測定された。
【0051】
(4)樹脂袋の保管
初期酸素濃度を測定した樹脂袋を、23℃のインキュベーター中で保管する。このとき、袋の上に物を載せたり、インキュベーターのファンの風が直撃したりしないように静置する。
【0052】
(5)保管中の樹脂袋内の酸素濃度の測定及び酸素透過量の計算
少なくとも2点以上経時時間を代えて、樹脂袋内のガスをサンプリングし、樹脂袋内の酸素濃度を測定する。このとき、経時時間は、窒素ガス充填直後から3時間以上経過後であり、且つ、樹脂袋内の酸素濃度が1%以上7%以下の範囲内でなれければならない。そして、経時時間t(時間)と樹脂袋内の酸素濃度との間に比例関係(相関係数が0.98以上)が成り立つ必要がある。もし、樹脂袋内の酸素濃度が1%以上7%以下の範囲内からはずれていた場合、あるいは、比例関係が成り立たない場合は再試験を行う。なお、樹脂フィルムの酸素透過量が大きすぎて樹脂袋内の酸素濃度の上昇が速すぎ、この条件をクリアできない場合は、樹脂フィルムの一部を酸素透過量が小さい既知である同じ材質のフィルムと張り合わせて袋を作成して同様に行えばよい。この際、袋の表面積は既知である別のフィルムと張り合わせた部分は除く。
【0053】
次いで、樹脂フィルムの単位面積当りの酸素透過量Fを、下記式により計算する。
F={1.143×(C−C)×V}/(t×S)
F:23℃における単位面積当りの酸素透過量[(cc/(m・day・atm)]
: 窒素ガス充填時から経時時間t時間後の樹脂袋内の酸素濃度(体積%)
: 窒素ガス充填直後の樹脂袋内の酸素濃度(体積%)
V : 充填した窒素ガスの量(cc)
t : 窒素ガス充填直後からの経過時間(時間)
S : 樹脂袋の内側の表面積(樹脂フィルムの有効表面積)(m
1)C及びtとしては、最も長い経時時間の値を用いて計算する。
【0054】
なお、樹脂フィルムの一部を酸素透過量が小さい既知である同じ材質のフィルムと張り合わせて袋を作成した場合は、上記測定により得られる単位面積当りの酸素透過量から、該既知のフィルムの単位面積当りの酸素透過量を減じた値が、対象となる樹脂フィルムの単位面積当りの酸素透過量である。
【0055】
1.2.水蒸気透過度
表1に記載の樹脂フィルムを用い、JIS K7129に準拠して、40℃、90%RHで測定した。
【0056】
1.3. 引張伸度
JIS K7127に準拠して行った。
【0057】
2.接ぎ木試験
以下の条件により、接ぎ木を行い、樹脂フィルムの違いが穂木の活着や新梢の生育に及ぼす影響、さらに本発明の方法が作業時間に及ぼす影響について確認した。
(1)試験場所
ガラス室内(温度:平均21.8℃(11.7〜33.4℃)、湿度:平均61.8%(22.4〜78.9%)
(2)供試材料
台木:5Lポット植えカラタチ3年生(幹直径約20mm)
穂木:レモン(品種マグレーン)の前年の春梢または夏梢
【0058】
被覆資材:接ぎ木用袋として、表1に記載の通気性の異なる樹脂フィルムから作成された樹脂製の袋を用いた。また、実験例13においては、接ぎ木用テープとしてメデール(パラフィルム、株式会社アグリス製)を用いた。
【0059】
[実験例1〜12]
2月に採取した長さ40cm程度の穂木の基部側1/5と先端側1/5を切除して、中央部分を利用した。1つの穂木当たり芽(節)が2つとなるようにハサミで調整した。台木は地上5cm程度で切除し、準備した穂木を接合し、テープで巻いて切り接ぎを行った。そして、表1に記載の通気性の異なる樹脂フィルム2枚(外寸50mm×100mm)を、三辺10mm幅でシールし接ぎ木用袋を作成した。そして、接ぎ木用袋を、穂木および台木と穂木との接合部分を覆うように被せ、テープで外側から台木に巻き付け、接ぎ木用袋内に穂木および接合部分を密閉した。これをn=5で行い、穂木の活着率、接ぎ木後に伸長した新梢の長さおよび作業時間を確認した。接ぎ木20日後において、穂木の活着率(接ぎ木後において穂木が緑色を維持している割合)は全て100%であった。新梢の長さの合計、最も長い新梢の長さを確認した。結果を表2に示す。図2および3に結果をグラフで示した。
【0060】
[実験例13]
実験例1〜12と同様に切り接ぎを行った後、接合部分および穂木を接ぎ木用テープで巻いた。これをn=5で行い、穂木の活着率、接ぎ木後に伸長した新梢の長さおよび作業時間を確認した。接ぎ木20日後において、穂木の活着率(接ぎ木後において穂木が緑色を維持している割合)は全て100%であった。新梢の長さの合計、最も長い新梢の長さを確認した。これらの長さの平均値を表2に示す。図2および3に結果をグラフで示した。
【0061】
その結果、接ぎ木用袋で穂木および接合部分を覆う時間は、実験例1〜12において平均17.5秒であったのに対し、実験例13では平均32.3秒であった。このように、本発明の接ぎ木用袋を用いた方法は、従来の方法に比べて作業時間が約45%短縮し、接ぎ木作業の効率が向上するので、作業の省力化を図ることができた。
【0062】
【表1】

【0063】
【表2】

【符号の説明】
【0064】
10 接ぎ木用袋
12 台木
14 穂木
16 接合部分
18,20 固定手段

【特許請求の範囲】
【請求項1】
台木に穂木を接ぎ木する際に、前記台木と前記穂木との接合部分および前記穂木を覆う接ぎ木用袋を構成する接ぎ木用樹脂フィルムであって、
23℃における酸素透過量が3×10cc/m・day・atm以上であり、40℃、90%RHにおける水蒸気透過度が50g/m・day以下であることを特徴とする接ぎ木用樹脂フィルム。
【請求項2】
前記酸素透過量が3×10cc/m・day・atm以上、3×10cc/m・day・atm以下であることを特徴とする請求項1に記載の接ぎ木用樹脂フィルム。
【請求項3】
前記水蒸気透過度が10g/m・day以下であることを特徴とする請求項1または2に記載の接ぎ木用樹脂フィルム。
【請求項4】
微細孔を有することを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の接ぎ木用樹脂フィルム。
【請求項5】
前記微細孔の開口面積が、7×10−5mm以上、8×10−1mm以下である請求項4に記載の接ぎ木用樹脂フィルム。
【請求項6】
引張伸度が400%以下(JIS K7127)である請求項1乃至5のいずれかに記載の接ぎ木用樹脂フィルム。
【請求項7】
延伸ポリプロピレンから構成された請求項1乃至6のいずれかに記載の接ぎ木用樹脂フィルム。
【請求項8】
前記穂木が果樹である請求項1乃至7のいずれかに記載の接ぎ木用樹脂フィルム。
【請求項9】
前記果樹が柑橘類である請求項8に記載の接ぎ木用樹脂フィルム。
【請求項10】
台木に穂木を接ぎ木する際に、前記台木と前記穂木との接合部分および前記穂木を覆うために用いられる、請求項1乃至9のいずれかに記載の接ぎ木用樹脂フィルムから形成された接ぎ木用袋。
【請求項11】
台木に形成された切断面と穂木に形成された切断面とを接合する工程と、
前記台木と前記穂木との接合部分および前記穂木を内包するように、請求項10に記載の接ぎ木用袋を被せる工程と、
前記接ぎ木用袋の口を閉じ、該接ぎ木用袋で前記接合部分および前記穂木を覆う工程と、
を有する接ぎ木方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−125257(P2011−125257A)
【公開日】平成23年6月30日(2011.6.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−286021(P2009−286021)
【出願日】平成21年12月17日(2009.12.17)
【出願人】(591079487)広島県 (101)
【出願人】(000002141)住友ベークライト株式会社 (2,927)