接合型光学素子の製造方法
【課題】高精度・高性能の接合型光学素子の安定的な製造を可能とする、接合型光学素子の製造方法を提供する。
【解決手段】接触工程(A)〜(C)では、熱硬化型接着剤HAを介して第1,第2プリズムP1,P2を互いに接触させ、位置決め工程(D)〜(G)では、互いに接触した状態の第1,第2プリズムP1,P2を位置決め治具3に接触させて第1,第2プリズムP1,P2を位置決めし、加熱工程(H)では、位置決めされた状態の第1,第2プリズムP1,P2を位置決め治具3に接触させたまま熱硬化型接着剤HAを加熱硬化させ、切断工程(I)では、加熱工程(H)で一体化した第1,第2プリズムP1,P2から成る接合プリズムブロックP3を切断して同一形状の5つの接合プリズムP4を得る。位置決め治具3と第1,第2プリズムP1,P2との接触部分の面積は、位置決めされた状態の第1,第2プリズムP1,P2全体の表面積の5%以下である。
【解決手段】接触工程(A)〜(C)では、熱硬化型接着剤HAを介して第1,第2プリズムP1,P2を互いに接触させ、位置決め工程(D)〜(G)では、互いに接触した状態の第1,第2プリズムP1,P2を位置決め治具3に接触させて第1,第2プリズムP1,P2を位置決めし、加熱工程(H)では、位置決めされた状態の第1,第2プリズムP1,P2を位置決め治具3に接触させたまま熱硬化型接着剤HAを加熱硬化させ、切断工程(I)では、加熱工程(H)で一体化した第1,第2プリズムP1,P2から成る接合プリズムブロックP3を切断して同一形状の5つの接合プリズムP4を得る。位置決め治具3と第1,第2プリズムP1,P2との接触部分の面積は、位置決めされた状態の第1,第2プリズムP1,P2全体の表面積の5%以下である。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は接合型光学素子の製造方法に関するものであり、例えば複数のプリズムが接合された構造を有する接合型光学素子の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
接合型光学素子として、ビームスプリッタプリズム,ダイクロイックプリズム等が知られている。ビームスプリッタプリズムは光ディスク(Blu−ray Disc,DVD等)用の光ピックアップ装置等に搭載され、ダイクロイックプリズムはプロジェクタ等に搭載される。これらの接合型光学素子は、光学薄膜のコーティングを介して2つの光学部品(例えば、2つの三角プリズム)が接着剤で貼り合わされた構造になっている。
【0003】
2つの光学部品を接着剤で貼り合わせて接合面を構成する際には、所望の寸法精度を達成するために、位置決めを行いながら接着剤を硬化させる必要がある。光ピックアップ装置用のビームスプリッタプリズムに要求される外形寸法精度(一般的な公差)は、接合面で屈曲する光軸を含む平面上での縦横の各方向について、DVD/CD用の場合±0.1mmであり、Blu−ray Disc用の場合±0.05mmである。このため、Blu−ray Disc用のビームスプリッタプリズムのように高い寸法精度が要求される場合には、接合工程において確実な位置決めが必要となる。特許文献1に記載されているように、2つの光学部品を位置決め治具で固定しながら接着剤を硬化させる方法を採用すれば、確実な位置決めにより接合面を高い寸法精度で構成することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2008−116777号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1記載の方法では、2つの光学部品の接合に紫外線硬化型接着剤が用いられている。紫外線硬化型接着剤には、コスト上のメリットがあり、また、透光性材料の外から貼り合わせ面に紫外線を照射するだけで速やかに接着強度が得られるという、製造上のメリットもある。しかし、紫外線硬化型接着剤のように光硬化性樹脂から成る接着剤(以下「光硬化型接着剤」ともいう。)には、いくつかの問題がある。例えば、被接着物である2つの光学部品(例えば、ガラスプリズム)の光吸収性が高いと、硬化に必要な量の光が接着剤に届かない、という問題がある。また、硬化用の光を照射すると、その光によって被接着物に付属する他の部材が劣化する等の悪影響が生じる、という問題もある。
【0006】
熱硬化性樹脂から成る接着剤(以下「熱硬化型接着剤」ともいう。)を使用すれば、光硬化型接着剤が有する上記問題点を解消することが可能である。つまり、光硬化型接着剤を用いた場合に比べて、優れた特性(例えば、耐高温・耐湿度・耐光劣化における耐久性等)を得ることができる。しかし、特許文献1に記載されているように位置決め治具を用いた場合、熱硬化性樹脂を硬化させる際に被接着物を治具ごと加熱すると、被接着物が治具に接する部分と接しない部分とにおいて、被接着物への熱の伝わりが異なるために、被接着物の内部に熱的な歪みが発生してしまう。その結果、被接着物内部の歪みにより接着面の樹脂部分に気泡が吸い込まれてしまったり、接着剤が剥がれてしまったり、歪んだまま硬化が進むこと(つまり不均一な硬化)により精度を要求される内部反射面(接着面)が歪んで、反射波面精度が要求の仕様を満たさなくなったりする等、光学素子として成立しなくなってしまう。この状態を避けるために、被接着物の全面に治具を均等に接触させながら位置決めを確実に行おうとすると、治具の構造が複雑になったり、硬化条件の調整や安定性の確保が難しくなったりする。したがって、その実現は困難とされている。
【0007】
本発明はこのような状況に鑑みてなされたものであって、その目的は、簡易な治具構造を用いながら接着剤硬化時の熱的な歪みの発生を抑制して、高精度・高性能の接合型光学素子の安定的な製造を可能とする、接合型光学素子の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために、第1の発明の接合型光学素子の製造方法は、熱硬化性樹脂から成る接着剤を介して複数の光学部品を互いに接触させる接触工程と、互いに接触した状態の各光学部品を位置決め治具に接触させることにより、各光学部品の位置決めを行う位置決め工程と、位置決めされた状態の各光学部品を前記位置決め治具に接触させたまま、前記接着剤を加熱硬化させる加熱工程と、を含む接合型光学素子の製造方法であって、前記位置決め治具と全光学部品との接触部分の面積が、位置決めされた状態の光学部品全体の表面積の5%以下であることを特徴とする。
【0009】
第2の発明の接合型光学素子の製造方法は、上記第1の発明において、前記位置決め治具と全光学部品との接触部分の面積が、位置決めされた状態の光学部品全体の表面積の3%以下であることを特徴とする。
【0010】
第3の発明の接合型光学素子の製造方法は、上記第1又は第2の発明において、さらに、前記加熱工程での接着剤の硬化により一体化した複数の光学部品を切断して、同一形状の複数の接合型光学素子を得る切断工程を含むことを特徴とする。
【0011】
第4の発明の接合型光学素子の製造方法は、上記第1〜第3のいずれか1つの発明において、各光学部品に対する前記位置決め治具の接触位置が、接合型光学素子の光学的な有効範囲の外側にあることを特徴とする。
【0012】
第5の発明の接合型光学素子の製造方法は、上記第1〜第4のいずれか1つの発明において、前記位置決めにおいて前記位置決め治具が全光学部品に対して線状又は点状に接触することを特徴とする。
【0013】
第6の発明の接合型光学素子の製造方法は、上記第5の発明において、前記位置決め治具が、全光学部品に対して線状に接触する多角柱の稜線部分、又は全光学部品に対して線状に接触する円柱の母線部分を有することを特徴とする。
【0014】
第7の発明の接合型光学素子の製造方法は、上記第5の発明において、前記位置決め治具が、全光学部品に対して点状に接触する球面部分を有することを特徴とする。
【0015】
第8の発明の接合型光学素子の製造方法は、上記第1〜第7のいずれか1つの発明において、前記複数の光学部品が2つの直角プリズムであり、前記接着剤を介して互いに接触させる面の少なくとも一方に光学薄膜のコーティングが施されていることを特徴とする。
【0016】
第9の発明の接合型光学素子の製造方法は、上記第8の発明において、前記光学薄膜が偏光分離膜,ハーフミラー膜又はダイクロイック膜であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0017】
第1の発明によれば、位置決め治具と全光学部品との接触部分の面積が、位置決めされた状態の光学部品全体の表面積の5%以下になっているため、簡易な治具構造を用いた場合であっても、接着剤硬化時の熱的な歪みの発生を抑制することができる。したがって、高精度・高性能の接合型光学素子を安定的に製造することが可能である。第2の発明によれば、上記接触部分の面積比率が3%以下にまで低く設定されているため、上記熱的な歪みの発生を更に効果的に抑制することが可能となる。
【0018】
第3の発明によれば、一体化した複数の光学部品を切断して同一形状の複数の接合型光学素子を得る構成になっているため、同一特性の複数の接合型光学素子を効率良く得ることができる。
【0019】
第4の発明によれば、各光学部品に対する位置決め治具の接触位置が、接合型光学素子の光学的な有効範囲の外側にあるため、位置決め治具の接触位置で熱的な歪みが発生しても、接合型光学素子の光学的な有効範囲が受ける影響を小さくすることができる。
【0020】
第5の発明によれば、位置決めにおいて位置決め治具が全光学部品に対して線状又は点状に接触する構成になっているため、光学部品に対する位置決め治具の接触面積が極力低減され、その結果、接着剤硬化時の熱的な歪みの発生が効果的に抑制される。例えば、第6の発明では、全光学部品に対して線状に接触する多角柱の稜線部分、又は全光学部品に対して線状に接触する円柱の母線部分を、位置決め治具が有する構成になっており、第7の発明では、全光学部品に対して点状に接触する球面部分を位置決め治具が有する構成になっているため、光学部品に対する位置決め治具の接触面積は略ゼロにまで抑えられる。したがって、接着剤の熱硬化に起因する歪みの発生を効果的に防止することができる。
【0021】
第8の発明に係る接合型光学素子では、複数の光学部品が2つの直角プリズムであり、熱硬化型接着剤を介して互いに接触させる面の少なくとも一方に光学薄膜のコーティングが施された構成になっているため、光学薄膜の特性を活かした高精度・高性能の接合型光学素子を安定的に製造することが可能である。例えば第9の発明に係る接合型光学素子では、光学薄膜が偏光分離膜,ハーフミラー膜又はダイクロイック膜であるため、光ピックアップ装置やプロジェクタに搭載される偏光ビームスプリッタ,半透過プリズム又はダイクロイックプリズムの製造を高精度・高性能で安定的に行うことが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】第1の実施の形態の製造方法に用いる位置決め治具を示す斜視図。
【図2】第1の実施の形態の製造方法を示す製造工程図。
【図3】第2の実施の形態の製造方法に用いる位置決め治具を示す斜視図。
【図4】第2の実施の形態の製造方法を示す製造工程図。
【図5】第3の実施の形態の製造方法に用いる位置決め治具を示す外観図。
【図6】第3の実施の形態の製造方法を示す製造工程図。
【図7】第4の実施の形態の製造方法に用いる位置決め治具を示す外観図。
【図8】第5の実施の形態の製造方法に用いる位置決め治具を示す外観図。
【図9】面精度の測定を説明するための図。
【図10】第1の比較例の製造方法に用いる位置決め治具を示す斜視図。
【図11】第2の比較例の製造方法に用いる位置決め治具を示す斜視図。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明を実施した接合型光学素子の製造方法を、図面を参照しつつ説明する。なお、各実施の形態等の相互で同一の部分や相当する部分には同一の符号を付して重複説明を適宜省略する。
【0024】
本発明に係る接合型光学素子の製造方法は、複数の光学部品が接合された構造(例えば、透光性材料から成る複数のプリズムが光学薄膜を介して熱硬化型接着剤で接合された構造)を有する接合型光学素子の製造方法である。そして、以下に説明する各実施の形態では、複数の光学部品として2つの長尺三角プリズムを用いており、それらを接合して接合プリズムブロックとし、それを所定幅で切断して複数の接合プリズムを製造する。したがって、接合型光学素子としての接合プリズムを得るためには切断工程が必要となるが、切断工程は必ずしも必要ではない。つまり、接着剤で一体化した2つの三角プリズムを切断せず、そのまま1つの接合型光学素子として使用してもよい。
【0025】
〈第1の実施の形態(図1,図2)〉
図1に位置決め治具1を示し、図2にその位置決め治具1を用いた接合プリズムP4の製造方法の第1の実施の形態を示す。この製造方法は、図2(A)及び(B)の断面図に示す接触工程と、図2(C)及び(D)の断面図に示す位置決め工程と、図2(E)の外観図に示す加熱工程と、図2(F)の外観図に示す切断工程と、を有している。
【0026】
まず、図2(A)に示すように、同一形状の長尺三角プリズムから成る第1,第2プリズムP1,P2のうち、第2プリズムP2の傾斜面に熱硬化型接着剤HAを適量塗布する。次に、図2(B)に示すように、第1,第2プリズムP1,P2の傾斜面同士を、熱硬化型接着剤HAを介して互いに接触させる。第1プリズムP1の傾斜面には、例えば、偏光分離膜,ハーフミラー膜,ダイクロイック膜等の光学薄膜SC(図2(A))が設けられている。
【0027】
互いに接触した状態の第1,第2プリズムP1,P2を、図2(C)に示すように、V溝を有する位置決め治具1にセットし、図2(D)に示すようにその上端部(頂点)を加圧治具1Aの平面で加圧して揃える。これにより、互いに接触した状態の第1,第2プリズムP1,P2が位置決め治具1に密着するように接触して、その位置決め治具1のV溝により、更には第1,第2プリズムP1,P2の稜線部(45度形状の突き合わせ部分)の当たりにより、第1,第2プリズムP1,P2同士の相対的な位置が決定され、第1,第2プリズムP1,P2の位置決めが完了する。
【0028】
第1,第2プリズムP1,P2は、図1に示す位置決め治具1の接触部分SAでのみ接触するため、接触部分SA以外の部分での位置決め治具1との接触は生じない。なお、加圧治具1Aでの加圧により接着剤厚が薄くなるため、接着面間に入ってしまった気泡が余分な熱硬化型接着剤HAと共にはみ出して排出された場合には、はみ出した熱硬化型接着剤HAを適宜取り除く清掃を行ってもよい。
【0029】
位置決めされた状態の第1,第2プリズムP1,P2を、図2(E)に示すように、位置決め治具1に接触させたまま加熱炉7に投入して、熱硬化型接着剤HAを加熱硬化させる。このとき、熱の急激な流入を避けるために、加熱温度をステップ的に上げてもよい。例えば、100℃×30分加熱し、120℃×60分加熱し、180℃×60分加熱する、といったステップ的な加熱硬化を行うようにしてもよい。
【0030】
加熱工程での熱硬化型接着剤HAの硬化により、第1,第2プリズムP1,P2は一体化して接合面PJを有する接合プリズムブロックP3となる。その接合プリズムブロックP3を加熱炉7から取り出し、適宜清掃を行う。接合プリズムブロックP3の切断を図2(F)に示すように行うと、同一形状の複数(ここでは5個)の接合プリズムP4が得られる。その後、適宜洗浄を行ってもよい。
【0031】
位置決め治具1と第1,第2プリズムP1,P2との接触部分SAの面積(図1,図2(D)〜(F))は、位置決めされた状態の第1,第2プリズムP1,P2全体の表面積の5%以下となっている。ここで接触部分SAの面積比率をαとすると、例えば、三角柱状ガラスから成る第1,第2プリズムP1,P2を熱硬化型接着剤HAで接着して、□3mm×長さ70mmの四角柱とした場合、位置決め治具1と第1,第2プリズムP1,P2との接触部分SAを両端3mm幅とすると、α=(3mm×3mm×両端2箇所×V形状2箇所)÷(3mm×70mm×4面+3mm×3mm×2面)≒4%となる。
【0032】
上記のように、位置決め治具1と第1,第2プリズムP1,P2との接触部分SAの面積を、位置決めされた状態の第1,第2プリズムP1,P2全体の表面積の5%以下(α≦5%)にすると、簡易な治具構造であるにもかかわらず、熱硬化型接着剤HAを加熱硬化したときの熱的な歪みの発生を抑制することができる。したがって、高精度・高性能の接合プリズムP4を安定的に製造することが可能である。さらに、接触部分SAの面積比率αを3%以下にまで低く設定すれば(α≦3%)、上記熱的な歪みの発生を更に効果的に抑制することが可能となる。また、第1,第2プリズムP1,P2に対する位置決め治具1の接触位置が、接合プリズムP4の光学的な有効範囲の外側にあるため、位置決め治具1の接触位置で熱的な歪みが発生しても、接合プリズムP4の光学的な有効範囲が受ける影響を小さくすることができる。
【0033】
図10に、接触部分SAの面積が大きい位置決め治具11を示す。この位置決め治具11を用いて三角柱状ガラスから成る第1,第2プリズムP1,P2を熱硬化型接着剤HAで接着して、□3mm×長さ70mmの四角柱とした場合(第1の比較例)、位置決め治具1と第1,第2プリズムP1,P2との接触部分SAをV溝面の全幅とすると、α=(3mm×70mm×V形状2箇所)÷(3mm×70mm×4面+3mm×3mm×2面)≒49%となる。
【0034】
位置決め治具11(図10)を用いると、接触部分SAの面積比率αが大きくなる。しかも、第1,第2プリズムP1,P2に対する位置決め治具1の接触位置が、接合プリズムP4の光学的な有効範囲内にある場合には、加熱硬化時に第1,第2プリズムP1,P2の「位置決め治具11に接触している部分SA」と「位置決め治具11に接触していない部分」とで、それぞれ接触した位置決め治具11から第1,第2プリズムP1,P2に流入する伝熱量と空気から第1,第2プリズムP1,P2に流入する伝熱量とが異なってしまうため、第1,第2プリズムP1,P2の内部に温度勾配が発生することになる。この温度勾配によって第1,第2プリズムP1,P2の内部に歪みが発生してしまう。この歪みにより、第1,第2プリズムP1,P2の光学的な有効範囲内において接着面の樹脂部分に気泡を吸い込んでしまったり、内部反射面(接合面)PJが歪んで、反射波面精度が要求の仕様を満たさなくなったりする等、接合型光学素子として成立しなくなってしまう。
【0035】
図1に示す位置決め治具1のように、第1,第2プリズムP1,P2に対する位置決め治具1の接触位置が、接合プリズムP4の光学的な有効範囲外になるように設計すれば、第1,第2プリズムP1,P2の位置決めの状態を容易に保持することができる。しかも、第1,第2プリズムP1,P2は光学有効範囲内において空中に浮いた状態となるため、光学有効範囲内では熱が全方位の空気から第1,第2プリズムP1,P2に流入することになる。したがって、伝熱量の空間的な不均一性を低減することができる。また、両端部の第1,第2プリズムP1,P2と位置決め治具1との接触部分において熱的な歪みが発生しても、光学有効範囲の外側であるために光学製品としての性能には影響を及ぼすことはない。
【0036】
〈第2の実施の形態(図3,図4)〉
図3に位置決め治具2を示し、図4にその位置決め治具2を用いた接合プリズムP4の製造方法の第2の実施の形態を示す。この製造方法は、図4(A)及び(B)の断面図に示す接触工程と、図4(C)の断面図に示す位置決め工程と、図4(D)の外観図に示す加熱工程と、図4(E)の外観図に示す切断工程と、を有している。
【0037】
まず、図4(A)に示すように、同一形状の長尺三角プリズムから成る第1,第2プリズムP1,P2のうち、第2プリズムP2の傾斜面に熱硬化型接着剤HAを適量塗布する。次に、図4(B)に示すように、第1,第2プリズムP1,P2の傾斜面同士を、熱硬化型接着剤HAを介して互いに接触させる。第1プリズムP1の傾斜面には、例えば、偏光分離膜,ハーフミラー膜,ダイクロイック膜等の光学薄膜SC(図4(A))が設けられている。
【0038】
互いに接触した状態の第1,第2プリズムP1,P2を、図4(C)に示すように位置決め治具2にセットする。位置決め治具2は、図4(A)に示すように、押さえ板2a,2cと精度板2bから成っている。図4(C)に示すように、位置決め治具2にセットした第1,第2プリズムP1,P2をその上方から加圧すると、精度板2bと押さえ板2a,2cで第1,第2プリズムP1,P2が3方向から挟み込まれて、互いに接触した状態の第1,第2プリズムP1,P2が位置決め治具2に密着するように接触する。その結果、第1,第2プリズムP1,P2同士の相対的な位置が決定され、第1,第2プリズムP1,P2の位置決めが完了する。
【0039】
第1,第2プリズムP1,P2は、図3に示す位置決め治具2の接触部分SAでのみ接触するため、接触部分SA以外の部分での位置決め治具2との接触は生じない。なお、加圧により接着剤厚が薄くなるため、接着面間に入ってしまった気泡が余分な熱硬化型接着剤HAと共にはみ出して排出された場合には、はみ出した熱硬化型接着剤HAを適宜取り除く清掃を行ってもよい。
【0040】
位置決めされた状態の第1,第2プリズムP1,P2を、図4(D)に示すように、位置決め治具2に接触させたまま加熱炉7に投入して、熱硬化型接着剤HAを加熱硬化させる。このとき、熱の急激な流入を避けるために、加熱温度をステップ的に上げてもよい。例えば、100℃×30分加熱し、120℃×60分加熱し、180℃×60分加熱する、といったステップ的な加熱硬化を行うようにしてもよい。
【0041】
加熱工程での熱硬化型接着剤HAの硬化により、第1,第2プリズムP1,P2は一体化して接合面PJを有する接合プリズムブロックP3となる。その接合プリズムブロックP3を加熱炉7から取り出し、適宜清掃を行う。接合プリズムブロックP3の切断を図4(E)に示すように行うと、同一形状の複数(ここでは5個)の接合プリズムP4が得られる。その後、適宜洗浄を行ってもよい。
【0042】
位置決め治具2と第1,第2プリズムP1,P2との接触部分SAの面積(図3,図4)は、位置決めされた状態の第1,第2プリズムP1,P2全体の表面積の5%以下となっている。ここで接触部分SAの面積比率をαとすると、例えば、三角柱状ガラスから成る第1,第2プリズムP1,P2を熱硬化型接着剤HAで接着して、□3mm×長さ70mmの四角柱とした場合、位置決め治具2と第1,第2プリズムP1,P2との接触部分SAを両端3mm幅とすると、α=(3mm×3mm×両端2箇所+3mm×2mm×両端2箇所×挟み込み形状2箇所)÷(3mm×70mm×4面+3mm×3mm×2面)≒4.9%となる。
【0043】
上記のように、位置決め治具2と第1,第2プリズムP1,P2との接触部分SAの面積を、位置決めされた状態の第1,第2プリズムP1,P2全体の表面積の5%以下(α≦5%)にすると、簡易な治具構造であるにもかかわらず、熱硬化型接着剤HAを加熱硬化したときの熱的な歪みの発生を抑制することができる。したがって、高精度・高性能の接合プリズムP4を安定的に製造することが可能である。さらに、接触部分SAの面積比率αを3%以下にまで低く設定すれば(α≦3%)、上記熱的な歪みの発生を更に効果的に抑制することが可能となる。また、第1,第2プリズムP1,P2に対する位置決め治具2の接触位置が、接合プリズムP4の光学的な有効範囲の外側にあるため、位置決め治具2の接触位置で熱的な歪みが発生しても、接合プリズムP4の光学的な有効範囲が受ける影響を小さくすることができる。
【0044】
図11に、接触部分SAの面積が大きい位置決め治具12を示す。この位置決め治具12を用いて三角柱状ガラスから成る第1,第2プリズムP1,P2を熱硬化型接着剤HAで接着して、□3mm×長さ70mmの四角柱とした場合(第2の比較例)、位置決め治具12と第1,第2プリズムP1,P2との接触部分SAを挟み込み面の全幅とすると、α=(3mm×70mm+2mm×70mm×挟み込み形状2箇所)÷(3mm×70mm×4面+3mm×3mm×2面)≒57.1%となる。
【0045】
位置決め治具12(図11)を用いると、接触部分SAの面積比率αが大きくなる。しかも、第1,第2プリズムP1,P2に対する位置決め治具12の接触位置が、接合プリズムP4の光学的な有効範囲内にある場合には、加熱硬化時に第1,第2プリズムP1,P2の「位置決め治具12に接触している部分SA」と「位置決め治具12に接触していない部分」とで、それぞれ接触した位置決め治具12から第1,第2プリズムP1,P2に流入する伝熱量と空気から第1,第2プリズムP1,P2に流入する伝熱量とが異なってしまうため、第1,第2プリズムP1,P2の内部に温度勾配が発生することになる。この温度勾配によって第1,第2プリズムP1,P2の内部に歪みが発生してしまう。この歪みにより、第1,第2プリズムP1,P2の光学的な有効範囲内において接着面の樹脂部分に気泡を吸い込んでしまったり、内部反射面(接合面)PJが歪んで、反射波面精度が要求の仕様を満たさなくなったりする等、接合型光学素子として成立しなくなってしまう。
【0046】
図3に示す位置決め治具2のように、第1,第2プリズムP1,P2に対する位置決め治具2の接触位置が、接合プリズムP4の光学的な有効範囲外になるように設計すれば、第1,第2プリズムP1,P2の位置決めの状態を容易に保持することができる。しかも、第1,第2プリズムP1,P2は光学有効範囲内において空中に浮いた状態となるため、光学有効範囲内では熱が全方位の空気から第1,第2プリズムP1,P2に流入することになる。したがって、伝熱量の空間的な不均一性を低減することができる。また、両端部の第1,第2プリズムP1,P2と位置決め治具2との接触部分において熱的な歪みが発生しても、光学有効範囲の外側であるために光学製品としての性能には影響を及ぼすことはない。
【0047】
〈第3の実施の形態(図5,図6)〉
図5に位置決め治具3を示し、図6にその位置決め治具3を用いた接合プリズムP4の製造方法の第3の実施の形態を示す。図5は位置決め治具3(設置された状態の第1,第2プリズムP1,P2を破線で示す。)の三面図であり、図5において、(A)は上面図、(B)は側面図、(C)は正面図である。ただし、描画されている位置決め治具3の形状は、位置決め治具3としての本質的な特徴を示す部分のみである。この製造方法は、図6(A)〜(E)の断面図に示す接触工程と、図6(F)及び(G)の断面図に示す位置決め工程と、図6(H)の断面図に示す加熱工程と、図6(I)の断面図に示す切断工程と、を有している。
【0048】
まず、図6(A)に示すように、同一形状の長尺三角プリズムから成る第1,第2プリズムP1,P2のうち、第1プリズムP1を台板6のコの字形状の溝にセットし、その傾斜面に熱硬化型接着剤HAを適量塗布する。次に、図6(B)及び(C)に示すように、第1,第2プリズムP1,P2の傾斜面同士を、熱硬化型接着剤HAを介して互いに接触させる。第2プリズムP2の傾斜面には、例えば、偏光分離膜,ハーフミラー膜,ダイクロイック膜等の光学薄膜SC(図6(B))が設けられている。なお、接触時の加圧により接着剤厚が薄くなるため、接着面間に入ってしまった気泡が余分な熱硬化型接着剤HAと共にはみ出して排出された場合には、はみ出した熱硬化型接着剤HAを適宜取り除く清掃を行ってもよい。
【0049】
互いに接触した状態の第1,第2プリズムP1,P2を、図6(D)及び(E)に示すように位置決め治具3にセットする。位置決め治具3は、4本の円柱状のロッド3aとそれらを支持する台板3bとから成っている。図6(F)及び(G)に示すように、第1,第2プリズムP1,P2の上端部(頂点)を加圧治具1Aの平面で加圧して揃えると、互いに接触した状態の第1,第2プリズムP1,P2がロッド3aに対して直線状に接触する。このとき、第1,第2プリズムP1,P2は、図5(B)に示すようにロッド3aの母線である接触部分SAでのみ接触するため、接触部分SA以外の部分での位置決め治具2との接触は生じない。そして、ロッド3aが成すV形状により、更には第1,第2プリズムP1,P2の稜線部(45度形状の突き合わせ部分)の当たりにより、第1,第2プリズムP1,P2同士の相対的な位置が決定され、第1,第2プリズムP1,P2の位置決めが完了する。
【0050】
位置決めされた状態の第1,第2プリズムP1,P2を、図6(H)に示すように、位置決め治具3のロッド3aに接触させたまま加熱炉7に投入して、熱硬化型接着剤HAを加熱硬化させる。このとき、熱の急激な流入を避けるために、加熱温度をステップ的に上げてもよい。例えば、100℃×30分加熱し、120℃×60分加熱し、180℃×60分加熱する、といったステップ的な加熱硬化を行うようにしてもよい。
【0051】
加熱工程での熱硬化型接着剤HAの硬化により、第1,第2プリズムP1,P2は一体化して接合面PJを有する接合プリズムブロックP3となる。その接合プリズムブロックP3を加熱炉7から取り出し、適宜清掃を行う。接合プリズムブロックP3の切断を図6(I)に示すように行うと、同一形状の複数(ここでは5個)の接合プリズムP4が得られる。その後、適宜洗浄を行ってもよい。
【0052】
位置決め治具3と第1,第2プリズムP1,P2との接触部分SAの面積(図5(B))は、位置決めされた状態の第1,第2プリズムP1,P2全体の表面積の約0%となっている。つまり、円柱形状3のロッド3aは、その円筒面の母線部分で第1,第2プリズムP1,P2と線状に接触するため、接触部分SAの面積は極めて小さく略ゼロにまで抑えられる。したがって、第1,第2プリズムP1,P2に対する熱流入量の空間的な不均一性を効果的に低減することができるため、熱硬化型接着剤HAの熱硬化に起因する歪みの発生を防止することができる。
【0053】
上記のように、位置決め治具3のロッド3aと第1,第2プリズムP1,P2との接触部分SAの面積を、位置決めされた状態の第1,第2プリズムP1,P2全体の表面積の略0%(α≒0)にすると、簡易な治具構造であるにもかかわらず、熱硬化型接着剤HAを加熱硬化したときの熱的な歪みの発生を効果的に抑制することができる。したがって、高精度・高性能の接合プリズムP4を安定的に製造することが可能である。
【0054】
図5に示す位置決め治具3のように、第1,第2プリズムP1,P2に対するロッド3aの接触位置が、接合プリズムP4の光学的な有効範囲外になるように設計すれば、第1,第2プリズムP1,P2の位置決めの状態を容易に保持することができる。しかも、第1,第2プリズムP1,P2は光学有効範囲内において空中に浮いた状態となるため、光学有効範囲内では熱が全方位の空気から第1,第2プリズムP1,P2に流入することになる。したがって、伝熱量の空間的な不均一性を低減することができる。また、両端部の第1,第2プリズムP1,P2と位置決め治具3との接触部分において熱的な歪みが発生しても、光学有効範囲の外側であるために光学製品としての性能には影響を及ぼすことはない。
【0055】
〈第4の実施の形態(図7)〉
図7に、第4の実施の形態に用いる位置決め治具4を示す。図7は位置決め治具4(設置された状態の第1,第2プリズムP1,P2を破線で示す。)の三面図であり、図7において、(A)は上面図、(B)は側面図、(C)は正面図である。ただし、描画されている位置決め治具4の形状は、位置決め治具4としての本質的な特徴を示す部分のみである。
【0056】
この第4の実施の形態は、前述した円柱状のロッド3a(図5,図6)の代わりに三角柱状のロッド4aを用いたほかは、第3の実施の形態と同様の構成になっている。位置決め治具4は、4本の三角柱状のロッド4aとそれらを支持する台板4bとから成っており、台板4bは前述した台板3bと同じものである。したがって、第4の実施の形態の製造方法は、第3の実施の形態と同様、接触工程(図6(A)〜(E))と、位置決め工程(図6(F)及び(G))と、加熱工程(図6(H))と、切断工程(図6(I))と、を有するものである。
【0057】
図6及び図7を用いて各工程を説明する。接触工程(図6(A)〜(E))では、まず、同一形状の長尺三角プリズムから成る第1,第2プリズムP1,P2のうち、第1プリズムP1を台板6のコの字形状の溝にセットし、その傾斜面に熱硬化型接着剤HA(図6(A))を適量塗布する。次に、第1,第2プリズムP1,P2の傾斜面同士を、熱硬化型接着剤HAを介して互いに接触させる。第2プリズムP2の傾斜面には、例えば、偏光分離膜,ハーフミラー膜,ダイクロイック膜等の光学薄膜SC(図6(B))が設けられている。なお、接触時の加圧により接着剤厚が薄くなるため、接着面間に入ってしまった気泡が余分な熱硬化型接着剤HAと共にはみ出して排出された場合には、はみ出した熱硬化型接着剤HAを適宜取り除く清掃を行ってもよい。
【0058】
互いに接触した状態の第1,第2プリズムP1,P2を、位置決め治具4(図7)にセットする。第1,第2プリズムP1,P2の上端部(頂点)を加圧治具1A(図6(F),(G))の平面で加圧して揃えると、互いに接触した状態の第1,第2プリズムP1,P2がロッド4aに対して直線状に接触する。このとき、第1,第2プリズムP1,P2は、図7(B)に示すようにロッド4aの稜線である接触部分SAでのみ接触するため、接触部分SA以外の部分での位置決め治具4との接触は生じない。そして、ロッド4aが成すV形状により、更には第1,第2プリズムP1,P2の稜線部(45度形状の突き合わせ部分)の当たりにより、第1,第2プリズムP1,P2同士の相対的な位置が決定され、第1,第2プリズムP1,P2の位置決めが完了する。
【0059】
位置決めされた状態の第1,第2プリズムP1,P2を、位置決め治具4のロッド4aに接触させたまま加熱炉7に投入して、熱硬化型接着剤HAを加熱硬化させる(図6(H))。このとき、熱の急激な流入を避けるために、加熱温度をステップ的に上げてもよい。例えば、100℃×30分加熱し、120℃×60分加熱し、180℃×60分加熱する、といったステップ的な加熱硬化を行うようにしてもよい。
【0060】
加熱工程での熱硬化型接着剤HAの硬化により、第1,第2プリズムP1,P2は一体化して接合面PJを有する接合プリズムブロックP3となる。その接合プリズムブロックP3を加熱炉7から取り出し、適宜清掃を行う。接合プリズムブロックP3の切断を行うと(図6(I))、同一形状の複数(ここでは5個)の接合プリズムP4が得られる。その後、適宜洗浄を行ってもよい。
【0061】
位置決め治具4と第1,第2プリズムP1,P2との接触部分SAの面積(図7(B))は、位置決めされた状態の第1,第2プリズムP1,P2全体の表面積の約0%となっている。つまり、円柱形状4のロッド4aは、その多角柱の稜線部分で第1,第2プリズムP1,P2と線状に接触するため、接触部分SAの面積は極めて小さく略ゼロにまで抑えられる。したがって、第1,第2プリズムP1,P2に対する熱流入量の空間的な不均一性を効果的に低減することができるため、熱硬化型接着剤HAの熱硬化に起因する歪みの発生を防止することができる。
【0062】
上記のように、位置決め治具4のロッド4aと第1,第2プリズムP1,P2との接触部分SAの面積を、位置決めされた状態の第1,第2プリズムP1,P2全体の表面積の略0%(α≒0)にすると、簡易な治具構造であるにもかかわらず、熱硬化型接着剤HAを加熱硬化したときの熱的な歪みの発生を効果的に抑制することができる。したがって、高精度・高性能の接合プリズムP4を安定的に製造することが可能である。
【0063】
図7に示す位置決め治具4のように、第1,第2プリズムP1,P2に対するロッド4aの接触位置が、接合プリズムP4の光学的な有効範囲外になるように設計すれば、第1,第2プリズムP1,P2の位置決めの状態を容易に保持することができる。しかも、第1,第2プリズムP1,P2は光学有効範囲内において空中に浮いた状態となるため、光学有効範囲内では熱が全方位の空気から第1,第2プリズムP1,P2に流入することになる。したがって、伝熱量の空間的な不均一性を低減することができる。また、両端部の第1,第2プリズムP1,P2と位置決め治具4との接触部分において熱的な歪みが発生しても、光学有効範囲の外側であるために光学製品としての性能には影響を及ぼすことはない。
【0064】
〈第5の実施の形態(図8)〉
図8に、第5の実施の形態に用いる位置決め治具5を示す。図8(A)は位置決め治具5の上面図、図8(B)は位置決め治具5の側面図であり(設置された状態の第1,第2プリズムP1,P2を破線で示す。)、図8(C)は位置決め治具5と第1,第2プリズムP1,P2の拡大図である。ただし、描画されている位置決め治具5の形状は、位置決め治具5としての本質的な特徴を示す部分のみである。
【0065】
位置決め治具5は、6個の球面部分5aを台板5bのV溝に有する構成になっている。また第5の実施の形態は、V溝に球面部分5aが形成されているほかは、第1の実施の形態(図1,図2)と同様の構成になっている。したがって、第5の実施の形態の製造方法は、第1の実施の形態と同様、接触工程(図2(A)及び(B))と、位置決め工程(図2(C)及び(D))と、加熱工程(図2(E))と、切断工程(図2(F))と、を有するものである。
【0066】
図2及び図8を用いて各工程を説明する。接触工程(図2(A)及び(B))では、まず、同一形状の長尺三角プリズムから成る第1,第2プリズムP1,P2のうち、第2プリズムP2の傾斜面に熱硬化型接着剤HA(図2(A))を適量塗布する。次に、第1,第2プリズムP1,P2の傾斜面同士を、熱硬化型接着剤HAを介して互いに接触させる(図2(B))。第1プリズムP1の傾斜面には、例えば、偏光分離膜,ハーフミラー膜,ダイクロイック膜等の光学薄膜SC(図2(A))が設けられている。
【0067】
互いに接触した状態の第1,第2プリズムP1,P2を、V溝を有する位置決め治具5にセットし(図8,図2(C))、その上端部(頂点)を加圧治具1Aの平面で加圧して揃える(図2(D))。これにより、互いに接触した状態の第1,第2プリズムP1,P2が位置決め治具5の各球面部分5aに対して点状に接触して、その位置決め治具5の球面部分5aにより、更には第1,第2プリズムP1,P2の稜線部(45度形状の突き合わせ部分)の当たりにより、第1,第2プリズムP1,P2同士の相対的な位置が決定され、第1,第2プリズムP1,P2の位置決めが完了する。
【0068】
第1,第2プリズムP1,P2は、図8(C)に示すように各球面部分5aの接触部分SAでのみ接触するため、接触部分SA以外の部分での位置決め治具5との接触は生じない。なお、加圧治具1Aでの加圧により接着剤厚が薄くなるため、接着面間に入ってしまった気泡が余分な熱硬化型接着剤HAと共にはみ出して排出された場合には、はみ出した熱硬化型接着剤HAを適宜取り除く清掃を行ってもよい。
【0069】
位置決めされた状態の第1,第2プリズムP1,P2を、位置決め治具5の球面部分5aに接触させたまま加熱炉7に投入して、熱硬化型接着剤HAを加熱硬化させる(図1(E))。このとき、熱の急激な流入を避けるために、加熱温度をステップ的に上げてもよい。例えば、100℃×30分加熱し、120℃×60分加熱し、180℃×60分加熱する、といったステップ的な加熱硬化を行うようにしてもよい。
【0070】
加熱工程での熱硬化型接着剤HAの硬化により、第1,第2プリズムP1,P2は一体化して接合面PJを有する接合プリズムブロックP3となる。その接合プリズムブロックP3を加熱炉7から取り出し、適宜清掃を行う。接合プリズムブロックP3の切断を行うと(図2(F))、同一形状の複数(ここでは5個)の接合プリズムP4が得られる。その後、適宜洗浄を行ってもよい。
【0071】
位置決め治具5と第1,第2プリズムP1,P2との接触部分SAの面積(図8(C))は、位置決めされた状態の第1,第2プリズムP1,P2全体の表面積の約0%となっている。つまり、球体の一部から成る球面部分5aは、その表面で第1,第2プリズムP1,P2と点状に接触するため、接触部分SAの面積は極めて小さく略ゼロにまで抑えられる。したがって、第1,第2プリズムP1,P2に対する熱流入量の空間的な不均一性を効果的に低減することができるため、熱硬化型接着剤HAの熱硬化に起因する歪みの発生を防止することができる。
【0072】
上記のように、位置決め治具5の球面部分5aと第1,第2プリズムP1,P2との接触部分SAの面積を、位置決めされた状態の第1,第2プリズムP1,P2全体の表面積の略0%(α≒0)にすると、簡易な治具構造であるにもかかわらず、熱硬化型接着剤HAを加熱硬化したときの熱的な歪みの発生を効果的に抑制することができる。したがって、高精度・高性能の接合プリズムP4を安定的に製造することが可能である。
【0073】
図8に示す位置決め治具5のように、第1,第2プリズムP1,P2に対する球面部分5aの接触位置が、接合プリズムP4の光学的な有効範囲外になるように設計すれば、第1,第2プリズムP1,P2の位置決めの状態を容易に保持することができる。しかも、第1,第2プリズムP1,P2は光学有効範囲内において空中に浮いた状態となるため、光学有効範囲内では熱が全方位の空気から第1,第2プリズムP1,P2に流入することになる。したがって、伝熱量の空間的な不均一性を低減することができる。また、両端部の第1,第2プリズムP1,P2と位置決め治具5との接触部分において熱的な歪みが発生しても、光学有効範囲の外側であるために光学製品としての性能には影響を及ぼすことはない。
【実施例】
【0074】
以下、本発明を実施した接合型光学素子の製造方法等をデータを挙げて更に具体的に説明する。
【0075】
位置決め治具1(図1)を用いて得られた□3mmの接合プリズムP4の接合面(内部反射面)PJの面精度を評価した。測定位置p[mm]は、正四角柱(サイズ:3mm×3mm×70mm)から成る接合プリズムブロックP3の端部から長手方向に沿って等間隔に設定し、有効径Φ2.5mmの範囲を平行光の反射波面で測定した(干渉計8:ZYGO、測定波長λ:633nm)。面精度の測定には、図9に示す面精度測定装置(干渉計8と平面原器9から成る。)を使用した(図9(A)は上面図、図9(B)は側面図である。)。接触部分SAの面積比率をαとし、評価基準は、◎:RMS値≦0.010λ、○:0.010λ<RMS値≦0.020λ、×:0.020λ<RMS値とし、◎と○を良品とした。表1から、接触面積が少ないほど良品であり、α≦5%が好ましく、α≦3%が更に好ましいことが分かる。
【0076】
【表1】
【符号の説明】
【0077】
P1 第1プリズム(光学部品)
P2 第2プリズム(光学部品)
P3 接合プリズムブロック
P4 接合プリズム(接合型光学素子)
PJ 接合面
SA 接触部分
SC 光学薄膜
HA 熱硬化型接着剤
1,2,3,4,5 位置決め治具
1A 加圧治具
2a,2c 押さえ板
2b 精度板
3a,4a ロッド
5a 球面部分
3b,4b,5b 台板
6 台板
7 加熱炉
8 干渉計
9 平面原器
【技術分野】
【0001】
本発明は接合型光学素子の製造方法に関するものであり、例えば複数のプリズムが接合された構造を有する接合型光学素子の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
接合型光学素子として、ビームスプリッタプリズム,ダイクロイックプリズム等が知られている。ビームスプリッタプリズムは光ディスク(Blu−ray Disc,DVD等)用の光ピックアップ装置等に搭載され、ダイクロイックプリズムはプロジェクタ等に搭載される。これらの接合型光学素子は、光学薄膜のコーティングを介して2つの光学部品(例えば、2つの三角プリズム)が接着剤で貼り合わされた構造になっている。
【0003】
2つの光学部品を接着剤で貼り合わせて接合面を構成する際には、所望の寸法精度を達成するために、位置決めを行いながら接着剤を硬化させる必要がある。光ピックアップ装置用のビームスプリッタプリズムに要求される外形寸法精度(一般的な公差)は、接合面で屈曲する光軸を含む平面上での縦横の各方向について、DVD/CD用の場合±0.1mmであり、Blu−ray Disc用の場合±0.05mmである。このため、Blu−ray Disc用のビームスプリッタプリズムのように高い寸法精度が要求される場合には、接合工程において確実な位置決めが必要となる。特許文献1に記載されているように、2つの光学部品を位置決め治具で固定しながら接着剤を硬化させる方法を採用すれば、確実な位置決めにより接合面を高い寸法精度で構成することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2008−116777号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1記載の方法では、2つの光学部品の接合に紫外線硬化型接着剤が用いられている。紫外線硬化型接着剤には、コスト上のメリットがあり、また、透光性材料の外から貼り合わせ面に紫外線を照射するだけで速やかに接着強度が得られるという、製造上のメリットもある。しかし、紫外線硬化型接着剤のように光硬化性樹脂から成る接着剤(以下「光硬化型接着剤」ともいう。)には、いくつかの問題がある。例えば、被接着物である2つの光学部品(例えば、ガラスプリズム)の光吸収性が高いと、硬化に必要な量の光が接着剤に届かない、という問題がある。また、硬化用の光を照射すると、その光によって被接着物に付属する他の部材が劣化する等の悪影響が生じる、という問題もある。
【0006】
熱硬化性樹脂から成る接着剤(以下「熱硬化型接着剤」ともいう。)を使用すれば、光硬化型接着剤が有する上記問題点を解消することが可能である。つまり、光硬化型接着剤を用いた場合に比べて、優れた特性(例えば、耐高温・耐湿度・耐光劣化における耐久性等)を得ることができる。しかし、特許文献1に記載されているように位置決め治具を用いた場合、熱硬化性樹脂を硬化させる際に被接着物を治具ごと加熱すると、被接着物が治具に接する部分と接しない部分とにおいて、被接着物への熱の伝わりが異なるために、被接着物の内部に熱的な歪みが発生してしまう。その結果、被接着物内部の歪みにより接着面の樹脂部分に気泡が吸い込まれてしまったり、接着剤が剥がれてしまったり、歪んだまま硬化が進むこと(つまり不均一な硬化)により精度を要求される内部反射面(接着面)が歪んで、反射波面精度が要求の仕様を満たさなくなったりする等、光学素子として成立しなくなってしまう。この状態を避けるために、被接着物の全面に治具を均等に接触させながら位置決めを確実に行おうとすると、治具の構造が複雑になったり、硬化条件の調整や安定性の確保が難しくなったりする。したがって、その実現は困難とされている。
【0007】
本発明はこのような状況に鑑みてなされたものであって、その目的は、簡易な治具構造を用いながら接着剤硬化時の熱的な歪みの発生を抑制して、高精度・高性能の接合型光学素子の安定的な製造を可能とする、接合型光学素子の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために、第1の発明の接合型光学素子の製造方法は、熱硬化性樹脂から成る接着剤を介して複数の光学部品を互いに接触させる接触工程と、互いに接触した状態の各光学部品を位置決め治具に接触させることにより、各光学部品の位置決めを行う位置決め工程と、位置決めされた状態の各光学部品を前記位置決め治具に接触させたまま、前記接着剤を加熱硬化させる加熱工程と、を含む接合型光学素子の製造方法であって、前記位置決め治具と全光学部品との接触部分の面積が、位置決めされた状態の光学部品全体の表面積の5%以下であることを特徴とする。
【0009】
第2の発明の接合型光学素子の製造方法は、上記第1の発明において、前記位置決め治具と全光学部品との接触部分の面積が、位置決めされた状態の光学部品全体の表面積の3%以下であることを特徴とする。
【0010】
第3の発明の接合型光学素子の製造方法は、上記第1又は第2の発明において、さらに、前記加熱工程での接着剤の硬化により一体化した複数の光学部品を切断して、同一形状の複数の接合型光学素子を得る切断工程を含むことを特徴とする。
【0011】
第4の発明の接合型光学素子の製造方法は、上記第1〜第3のいずれか1つの発明において、各光学部品に対する前記位置決め治具の接触位置が、接合型光学素子の光学的な有効範囲の外側にあることを特徴とする。
【0012】
第5の発明の接合型光学素子の製造方法は、上記第1〜第4のいずれか1つの発明において、前記位置決めにおいて前記位置決め治具が全光学部品に対して線状又は点状に接触することを特徴とする。
【0013】
第6の発明の接合型光学素子の製造方法は、上記第5の発明において、前記位置決め治具が、全光学部品に対して線状に接触する多角柱の稜線部分、又は全光学部品に対して線状に接触する円柱の母線部分を有することを特徴とする。
【0014】
第7の発明の接合型光学素子の製造方法は、上記第5の発明において、前記位置決め治具が、全光学部品に対して点状に接触する球面部分を有することを特徴とする。
【0015】
第8の発明の接合型光学素子の製造方法は、上記第1〜第7のいずれか1つの発明において、前記複数の光学部品が2つの直角プリズムであり、前記接着剤を介して互いに接触させる面の少なくとも一方に光学薄膜のコーティングが施されていることを特徴とする。
【0016】
第9の発明の接合型光学素子の製造方法は、上記第8の発明において、前記光学薄膜が偏光分離膜,ハーフミラー膜又はダイクロイック膜であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0017】
第1の発明によれば、位置決め治具と全光学部品との接触部分の面積が、位置決めされた状態の光学部品全体の表面積の5%以下になっているため、簡易な治具構造を用いた場合であっても、接着剤硬化時の熱的な歪みの発生を抑制することができる。したがって、高精度・高性能の接合型光学素子を安定的に製造することが可能である。第2の発明によれば、上記接触部分の面積比率が3%以下にまで低く設定されているため、上記熱的な歪みの発生を更に効果的に抑制することが可能となる。
【0018】
第3の発明によれば、一体化した複数の光学部品を切断して同一形状の複数の接合型光学素子を得る構成になっているため、同一特性の複数の接合型光学素子を効率良く得ることができる。
【0019】
第4の発明によれば、各光学部品に対する位置決め治具の接触位置が、接合型光学素子の光学的な有効範囲の外側にあるため、位置決め治具の接触位置で熱的な歪みが発生しても、接合型光学素子の光学的な有効範囲が受ける影響を小さくすることができる。
【0020】
第5の発明によれば、位置決めにおいて位置決め治具が全光学部品に対して線状又は点状に接触する構成になっているため、光学部品に対する位置決め治具の接触面積が極力低減され、その結果、接着剤硬化時の熱的な歪みの発生が効果的に抑制される。例えば、第6の発明では、全光学部品に対して線状に接触する多角柱の稜線部分、又は全光学部品に対して線状に接触する円柱の母線部分を、位置決め治具が有する構成になっており、第7の発明では、全光学部品に対して点状に接触する球面部分を位置決め治具が有する構成になっているため、光学部品に対する位置決め治具の接触面積は略ゼロにまで抑えられる。したがって、接着剤の熱硬化に起因する歪みの発生を効果的に防止することができる。
【0021】
第8の発明に係る接合型光学素子では、複数の光学部品が2つの直角プリズムであり、熱硬化型接着剤を介して互いに接触させる面の少なくとも一方に光学薄膜のコーティングが施された構成になっているため、光学薄膜の特性を活かした高精度・高性能の接合型光学素子を安定的に製造することが可能である。例えば第9の発明に係る接合型光学素子では、光学薄膜が偏光分離膜,ハーフミラー膜又はダイクロイック膜であるため、光ピックアップ装置やプロジェクタに搭載される偏光ビームスプリッタ,半透過プリズム又はダイクロイックプリズムの製造を高精度・高性能で安定的に行うことが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】第1の実施の形態の製造方法に用いる位置決め治具を示す斜視図。
【図2】第1の実施の形態の製造方法を示す製造工程図。
【図3】第2の実施の形態の製造方法に用いる位置決め治具を示す斜視図。
【図4】第2の実施の形態の製造方法を示す製造工程図。
【図5】第3の実施の形態の製造方法に用いる位置決め治具を示す外観図。
【図6】第3の実施の形態の製造方法を示す製造工程図。
【図7】第4の実施の形態の製造方法に用いる位置決め治具を示す外観図。
【図8】第5の実施の形態の製造方法に用いる位置決め治具を示す外観図。
【図9】面精度の測定を説明するための図。
【図10】第1の比較例の製造方法に用いる位置決め治具を示す斜視図。
【図11】第2の比較例の製造方法に用いる位置決め治具を示す斜視図。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明を実施した接合型光学素子の製造方法を、図面を参照しつつ説明する。なお、各実施の形態等の相互で同一の部分や相当する部分には同一の符号を付して重複説明を適宜省略する。
【0024】
本発明に係る接合型光学素子の製造方法は、複数の光学部品が接合された構造(例えば、透光性材料から成る複数のプリズムが光学薄膜を介して熱硬化型接着剤で接合された構造)を有する接合型光学素子の製造方法である。そして、以下に説明する各実施の形態では、複数の光学部品として2つの長尺三角プリズムを用いており、それらを接合して接合プリズムブロックとし、それを所定幅で切断して複数の接合プリズムを製造する。したがって、接合型光学素子としての接合プリズムを得るためには切断工程が必要となるが、切断工程は必ずしも必要ではない。つまり、接着剤で一体化した2つの三角プリズムを切断せず、そのまま1つの接合型光学素子として使用してもよい。
【0025】
〈第1の実施の形態(図1,図2)〉
図1に位置決め治具1を示し、図2にその位置決め治具1を用いた接合プリズムP4の製造方法の第1の実施の形態を示す。この製造方法は、図2(A)及び(B)の断面図に示す接触工程と、図2(C)及び(D)の断面図に示す位置決め工程と、図2(E)の外観図に示す加熱工程と、図2(F)の外観図に示す切断工程と、を有している。
【0026】
まず、図2(A)に示すように、同一形状の長尺三角プリズムから成る第1,第2プリズムP1,P2のうち、第2プリズムP2の傾斜面に熱硬化型接着剤HAを適量塗布する。次に、図2(B)に示すように、第1,第2プリズムP1,P2の傾斜面同士を、熱硬化型接着剤HAを介して互いに接触させる。第1プリズムP1の傾斜面には、例えば、偏光分離膜,ハーフミラー膜,ダイクロイック膜等の光学薄膜SC(図2(A))が設けられている。
【0027】
互いに接触した状態の第1,第2プリズムP1,P2を、図2(C)に示すように、V溝を有する位置決め治具1にセットし、図2(D)に示すようにその上端部(頂点)を加圧治具1Aの平面で加圧して揃える。これにより、互いに接触した状態の第1,第2プリズムP1,P2が位置決め治具1に密着するように接触して、その位置決め治具1のV溝により、更には第1,第2プリズムP1,P2の稜線部(45度形状の突き合わせ部分)の当たりにより、第1,第2プリズムP1,P2同士の相対的な位置が決定され、第1,第2プリズムP1,P2の位置決めが完了する。
【0028】
第1,第2プリズムP1,P2は、図1に示す位置決め治具1の接触部分SAでのみ接触するため、接触部分SA以外の部分での位置決め治具1との接触は生じない。なお、加圧治具1Aでの加圧により接着剤厚が薄くなるため、接着面間に入ってしまった気泡が余分な熱硬化型接着剤HAと共にはみ出して排出された場合には、はみ出した熱硬化型接着剤HAを適宜取り除く清掃を行ってもよい。
【0029】
位置決めされた状態の第1,第2プリズムP1,P2を、図2(E)に示すように、位置決め治具1に接触させたまま加熱炉7に投入して、熱硬化型接着剤HAを加熱硬化させる。このとき、熱の急激な流入を避けるために、加熱温度をステップ的に上げてもよい。例えば、100℃×30分加熱し、120℃×60分加熱し、180℃×60分加熱する、といったステップ的な加熱硬化を行うようにしてもよい。
【0030】
加熱工程での熱硬化型接着剤HAの硬化により、第1,第2プリズムP1,P2は一体化して接合面PJを有する接合プリズムブロックP3となる。その接合プリズムブロックP3を加熱炉7から取り出し、適宜清掃を行う。接合プリズムブロックP3の切断を図2(F)に示すように行うと、同一形状の複数(ここでは5個)の接合プリズムP4が得られる。その後、適宜洗浄を行ってもよい。
【0031】
位置決め治具1と第1,第2プリズムP1,P2との接触部分SAの面積(図1,図2(D)〜(F))は、位置決めされた状態の第1,第2プリズムP1,P2全体の表面積の5%以下となっている。ここで接触部分SAの面積比率をαとすると、例えば、三角柱状ガラスから成る第1,第2プリズムP1,P2を熱硬化型接着剤HAで接着して、□3mm×長さ70mmの四角柱とした場合、位置決め治具1と第1,第2プリズムP1,P2との接触部分SAを両端3mm幅とすると、α=(3mm×3mm×両端2箇所×V形状2箇所)÷(3mm×70mm×4面+3mm×3mm×2面)≒4%となる。
【0032】
上記のように、位置決め治具1と第1,第2プリズムP1,P2との接触部分SAの面積を、位置決めされた状態の第1,第2プリズムP1,P2全体の表面積の5%以下(α≦5%)にすると、簡易な治具構造であるにもかかわらず、熱硬化型接着剤HAを加熱硬化したときの熱的な歪みの発生を抑制することができる。したがって、高精度・高性能の接合プリズムP4を安定的に製造することが可能である。さらに、接触部分SAの面積比率αを3%以下にまで低く設定すれば(α≦3%)、上記熱的な歪みの発生を更に効果的に抑制することが可能となる。また、第1,第2プリズムP1,P2に対する位置決め治具1の接触位置が、接合プリズムP4の光学的な有効範囲の外側にあるため、位置決め治具1の接触位置で熱的な歪みが発生しても、接合プリズムP4の光学的な有効範囲が受ける影響を小さくすることができる。
【0033】
図10に、接触部分SAの面積が大きい位置決め治具11を示す。この位置決め治具11を用いて三角柱状ガラスから成る第1,第2プリズムP1,P2を熱硬化型接着剤HAで接着して、□3mm×長さ70mmの四角柱とした場合(第1の比較例)、位置決め治具1と第1,第2プリズムP1,P2との接触部分SAをV溝面の全幅とすると、α=(3mm×70mm×V形状2箇所)÷(3mm×70mm×4面+3mm×3mm×2面)≒49%となる。
【0034】
位置決め治具11(図10)を用いると、接触部分SAの面積比率αが大きくなる。しかも、第1,第2プリズムP1,P2に対する位置決め治具1の接触位置が、接合プリズムP4の光学的な有効範囲内にある場合には、加熱硬化時に第1,第2プリズムP1,P2の「位置決め治具11に接触している部分SA」と「位置決め治具11に接触していない部分」とで、それぞれ接触した位置決め治具11から第1,第2プリズムP1,P2に流入する伝熱量と空気から第1,第2プリズムP1,P2に流入する伝熱量とが異なってしまうため、第1,第2プリズムP1,P2の内部に温度勾配が発生することになる。この温度勾配によって第1,第2プリズムP1,P2の内部に歪みが発生してしまう。この歪みにより、第1,第2プリズムP1,P2の光学的な有効範囲内において接着面の樹脂部分に気泡を吸い込んでしまったり、内部反射面(接合面)PJが歪んで、反射波面精度が要求の仕様を満たさなくなったりする等、接合型光学素子として成立しなくなってしまう。
【0035】
図1に示す位置決め治具1のように、第1,第2プリズムP1,P2に対する位置決め治具1の接触位置が、接合プリズムP4の光学的な有効範囲外になるように設計すれば、第1,第2プリズムP1,P2の位置決めの状態を容易に保持することができる。しかも、第1,第2プリズムP1,P2は光学有効範囲内において空中に浮いた状態となるため、光学有効範囲内では熱が全方位の空気から第1,第2プリズムP1,P2に流入することになる。したがって、伝熱量の空間的な不均一性を低減することができる。また、両端部の第1,第2プリズムP1,P2と位置決め治具1との接触部分において熱的な歪みが発生しても、光学有効範囲の外側であるために光学製品としての性能には影響を及ぼすことはない。
【0036】
〈第2の実施の形態(図3,図4)〉
図3に位置決め治具2を示し、図4にその位置決め治具2を用いた接合プリズムP4の製造方法の第2の実施の形態を示す。この製造方法は、図4(A)及び(B)の断面図に示す接触工程と、図4(C)の断面図に示す位置決め工程と、図4(D)の外観図に示す加熱工程と、図4(E)の外観図に示す切断工程と、を有している。
【0037】
まず、図4(A)に示すように、同一形状の長尺三角プリズムから成る第1,第2プリズムP1,P2のうち、第2プリズムP2の傾斜面に熱硬化型接着剤HAを適量塗布する。次に、図4(B)に示すように、第1,第2プリズムP1,P2の傾斜面同士を、熱硬化型接着剤HAを介して互いに接触させる。第1プリズムP1の傾斜面には、例えば、偏光分離膜,ハーフミラー膜,ダイクロイック膜等の光学薄膜SC(図4(A))が設けられている。
【0038】
互いに接触した状態の第1,第2プリズムP1,P2を、図4(C)に示すように位置決め治具2にセットする。位置決め治具2は、図4(A)に示すように、押さえ板2a,2cと精度板2bから成っている。図4(C)に示すように、位置決め治具2にセットした第1,第2プリズムP1,P2をその上方から加圧すると、精度板2bと押さえ板2a,2cで第1,第2プリズムP1,P2が3方向から挟み込まれて、互いに接触した状態の第1,第2プリズムP1,P2が位置決め治具2に密着するように接触する。その結果、第1,第2プリズムP1,P2同士の相対的な位置が決定され、第1,第2プリズムP1,P2の位置決めが完了する。
【0039】
第1,第2プリズムP1,P2は、図3に示す位置決め治具2の接触部分SAでのみ接触するため、接触部分SA以外の部分での位置決め治具2との接触は生じない。なお、加圧により接着剤厚が薄くなるため、接着面間に入ってしまった気泡が余分な熱硬化型接着剤HAと共にはみ出して排出された場合には、はみ出した熱硬化型接着剤HAを適宜取り除く清掃を行ってもよい。
【0040】
位置決めされた状態の第1,第2プリズムP1,P2を、図4(D)に示すように、位置決め治具2に接触させたまま加熱炉7に投入して、熱硬化型接着剤HAを加熱硬化させる。このとき、熱の急激な流入を避けるために、加熱温度をステップ的に上げてもよい。例えば、100℃×30分加熱し、120℃×60分加熱し、180℃×60分加熱する、といったステップ的な加熱硬化を行うようにしてもよい。
【0041】
加熱工程での熱硬化型接着剤HAの硬化により、第1,第2プリズムP1,P2は一体化して接合面PJを有する接合プリズムブロックP3となる。その接合プリズムブロックP3を加熱炉7から取り出し、適宜清掃を行う。接合プリズムブロックP3の切断を図4(E)に示すように行うと、同一形状の複数(ここでは5個)の接合プリズムP4が得られる。その後、適宜洗浄を行ってもよい。
【0042】
位置決め治具2と第1,第2プリズムP1,P2との接触部分SAの面積(図3,図4)は、位置決めされた状態の第1,第2プリズムP1,P2全体の表面積の5%以下となっている。ここで接触部分SAの面積比率をαとすると、例えば、三角柱状ガラスから成る第1,第2プリズムP1,P2を熱硬化型接着剤HAで接着して、□3mm×長さ70mmの四角柱とした場合、位置決め治具2と第1,第2プリズムP1,P2との接触部分SAを両端3mm幅とすると、α=(3mm×3mm×両端2箇所+3mm×2mm×両端2箇所×挟み込み形状2箇所)÷(3mm×70mm×4面+3mm×3mm×2面)≒4.9%となる。
【0043】
上記のように、位置決め治具2と第1,第2プリズムP1,P2との接触部分SAの面積を、位置決めされた状態の第1,第2プリズムP1,P2全体の表面積の5%以下(α≦5%)にすると、簡易な治具構造であるにもかかわらず、熱硬化型接着剤HAを加熱硬化したときの熱的な歪みの発生を抑制することができる。したがって、高精度・高性能の接合プリズムP4を安定的に製造することが可能である。さらに、接触部分SAの面積比率αを3%以下にまで低く設定すれば(α≦3%)、上記熱的な歪みの発生を更に効果的に抑制することが可能となる。また、第1,第2プリズムP1,P2に対する位置決め治具2の接触位置が、接合プリズムP4の光学的な有効範囲の外側にあるため、位置決め治具2の接触位置で熱的な歪みが発生しても、接合プリズムP4の光学的な有効範囲が受ける影響を小さくすることができる。
【0044】
図11に、接触部分SAの面積が大きい位置決め治具12を示す。この位置決め治具12を用いて三角柱状ガラスから成る第1,第2プリズムP1,P2を熱硬化型接着剤HAで接着して、□3mm×長さ70mmの四角柱とした場合(第2の比較例)、位置決め治具12と第1,第2プリズムP1,P2との接触部分SAを挟み込み面の全幅とすると、α=(3mm×70mm+2mm×70mm×挟み込み形状2箇所)÷(3mm×70mm×4面+3mm×3mm×2面)≒57.1%となる。
【0045】
位置決め治具12(図11)を用いると、接触部分SAの面積比率αが大きくなる。しかも、第1,第2プリズムP1,P2に対する位置決め治具12の接触位置が、接合プリズムP4の光学的な有効範囲内にある場合には、加熱硬化時に第1,第2プリズムP1,P2の「位置決め治具12に接触している部分SA」と「位置決め治具12に接触していない部分」とで、それぞれ接触した位置決め治具12から第1,第2プリズムP1,P2に流入する伝熱量と空気から第1,第2プリズムP1,P2に流入する伝熱量とが異なってしまうため、第1,第2プリズムP1,P2の内部に温度勾配が発生することになる。この温度勾配によって第1,第2プリズムP1,P2の内部に歪みが発生してしまう。この歪みにより、第1,第2プリズムP1,P2の光学的な有効範囲内において接着面の樹脂部分に気泡を吸い込んでしまったり、内部反射面(接合面)PJが歪んで、反射波面精度が要求の仕様を満たさなくなったりする等、接合型光学素子として成立しなくなってしまう。
【0046】
図3に示す位置決め治具2のように、第1,第2プリズムP1,P2に対する位置決め治具2の接触位置が、接合プリズムP4の光学的な有効範囲外になるように設計すれば、第1,第2プリズムP1,P2の位置決めの状態を容易に保持することができる。しかも、第1,第2プリズムP1,P2は光学有効範囲内において空中に浮いた状態となるため、光学有効範囲内では熱が全方位の空気から第1,第2プリズムP1,P2に流入することになる。したがって、伝熱量の空間的な不均一性を低減することができる。また、両端部の第1,第2プリズムP1,P2と位置決め治具2との接触部分において熱的な歪みが発生しても、光学有効範囲の外側であるために光学製品としての性能には影響を及ぼすことはない。
【0047】
〈第3の実施の形態(図5,図6)〉
図5に位置決め治具3を示し、図6にその位置決め治具3を用いた接合プリズムP4の製造方法の第3の実施の形態を示す。図5は位置決め治具3(設置された状態の第1,第2プリズムP1,P2を破線で示す。)の三面図であり、図5において、(A)は上面図、(B)は側面図、(C)は正面図である。ただし、描画されている位置決め治具3の形状は、位置決め治具3としての本質的な特徴を示す部分のみである。この製造方法は、図6(A)〜(E)の断面図に示す接触工程と、図6(F)及び(G)の断面図に示す位置決め工程と、図6(H)の断面図に示す加熱工程と、図6(I)の断面図に示す切断工程と、を有している。
【0048】
まず、図6(A)に示すように、同一形状の長尺三角プリズムから成る第1,第2プリズムP1,P2のうち、第1プリズムP1を台板6のコの字形状の溝にセットし、その傾斜面に熱硬化型接着剤HAを適量塗布する。次に、図6(B)及び(C)に示すように、第1,第2プリズムP1,P2の傾斜面同士を、熱硬化型接着剤HAを介して互いに接触させる。第2プリズムP2の傾斜面には、例えば、偏光分離膜,ハーフミラー膜,ダイクロイック膜等の光学薄膜SC(図6(B))が設けられている。なお、接触時の加圧により接着剤厚が薄くなるため、接着面間に入ってしまった気泡が余分な熱硬化型接着剤HAと共にはみ出して排出された場合には、はみ出した熱硬化型接着剤HAを適宜取り除く清掃を行ってもよい。
【0049】
互いに接触した状態の第1,第2プリズムP1,P2を、図6(D)及び(E)に示すように位置決め治具3にセットする。位置決め治具3は、4本の円柱状のロッド3aとそれらを支持する台板3bとから成っている。図6(F)及び(G)に示すように、第1,第2プリズムP1,P2の上端部(頂点)を加圧治具1Aの平面で加圧して揃えると、互いに接触した状態の第1,第2プリズムP1,P2がロッド3aに対して直線状に接触する。このとき、第1,第2プリズムP1,P2は、図5(B)に示すようにロッド3aの母線である接触部分SAでのみ接触するため、接触部分SA以外の部分での位置決め治具2との接触は生じない。そして、ロッド3aが成すV形状により、更には第1,第2プリズムP1,P2の稜線部(45度形状の突き合わせ部分)の当たりにより、第1,第2プリズムP1,P2同士の相対的な位置が決定され、第1,第2プリズムP1,P2の位置決めが完了する。
【0050】
位置決めされた状態の第1,第2プリズムP1,P2を、図6(H)に示すように、位置決め治具3のロッド3aに接触させたまま加熱炉7に投入して、熱硬化型接着剤HAを加熱硬化させる。このとき、熱の急激な流入を避けるために、加熱温度をステップ的に上げてもよい。例えば、100℃×30分加熱し、120℃×60分加熱し、180℃×60分加熱する、といったステップ的な加熱硬化を行うようにしてもよい。
【0051】
加熱工程での熱硬化型接着剤HAの硬化により、第1,第2プリズムP1,P2は一体化して接合面PJを有する接合プリズムブロックP3となる。その接合プリズムブロックP3を加熱炉7から取り出し、適宜清掃を行う。接合プリズムブロックP3の切断を図6(I)に示すように行うと、同一形状の複数(ここでは5個)の接合プリズムP4が得られる。その後、適宜洗浄を行ってもよい。
【0052】
位置決め治具3と第1,第2プリズムP1,P2との接触部分SAの面積(図5(B))は、位置決めされた状態の第1,第2プリズムP1,P2全体の表面積の約0%となっている。つまり、円柱形状3のロッド3aは、その円筒面の母線部分で第1,第2プリズムP1,P2と線状に接触するため、接触部分SAの面積は極めて小さく略ゼロにまで抑えられる。したがって、第1,第2プリズムP1,P2に対する熱流入量の空間的な不均一性を効果的に低減することができるため、熱硬化型接着剤HAの熱硬化に起因する歪みの発生を防止することができる。
【0053】
上記のように、位置決め治具3のロッド3aと第1,第2プリズムP1,P2との接触部分SAの面積を、位置決めされた状態の第1,第2プリズムP1,P2全体の表面積の略0%(α≒0)にすると、簡易な治具構造であるにもかかわらず、熱硬化型接着剤HAを加熱硬化したときの熱的な歪みの発生を効果的に抑制することができる。したがって、高精度・高性能の接合プリズムP4を安定的に製造することが可能である。
【0054】
図5に示す位置決め治具3のように、第1,第2プリズムP1,P2に対するロッド3aの接触位置が、接合プリズムP4の光学的な有効範囲外になるように設計すれば、第1,第2プリズムP1,P2の位置決めの状態を容易に保持することができる。しかも、第1,第2プリズムP1,P2は光学有効範囲内において空中に浮いた状態となるため、光学有効範囲内では熱が全方位の空気から第1,第2プリズムP1,P2に流入することになる。したがって、伝熱量の空間的な不均一性を低減することができる。また、両端部の第1,第2プリズムP1,P2と位置決め治具3との接触部分において熱的な歪みが発生しても、光学有効範囲の外側であるために光学製品としての性能には影響を及ぼすことはない。
【0055】
〈第4の実施の形態(図7)〉
図7に、第4の実施の形態に用いる位置決め治具4を示す。図7は位置決め治具4(設置された状態の第1,第2プリズムP1,P2を破線で示す。)の三面図であり、図7において、(A)は上面図、(B)は側面図、(C)は正面図である。ただし、描画されている位置決め治具4の形状は、位置決め治具4としての本質的な特徴を示す部分のみである。
【0056】
この第4の実施の形態は、前述した円柱状のロッド3a(図5,図6)の代わりに三角柱状のロッド4aを用いたほかは、第3の実施の形態と同様の構成になっている。位置決め治具4は、4本の三角柱状のロッド4aとそれらを支持する台板4bとから成っており、台板4bは前述した台板3bと同じものである。したがって、第4の実施の形態の製造方法は、第3の実施の形態と同様、接触工程(図6(A)〜(E))と、位置決め工程(図6(F)及び(G))と、加熱工程(図6(H))と、切断工程(図6(I))と、を有するものである。
【0057】
図6及び図7を用いて各工程を説明する。接触工程(図6(A)〜(E))では、まず、同一形状の長尺三角プリズムから成る第1,第2プリズムP1,P2のうち、第1プリズムP1を台板6のコの字形状の溝にセットし、その傾斜面に熱硬化型接着剤HA(図6(A))を適量塗布する。次に、第1,第2プリズムP1,P2の傾斜面同士を、熱硬化型接着剤HAを介して互いに接触させる。第2プリズムP2の傾斜面には、例えば、偏光分離膜,ハーフミラー膜,ダイクロイック膜等の光学薄膜SC(図6(B))が設けられている。なお、接触時の加圧により接着剤厚が薄くなるため、接着面間に入ってしまった気泡が余分な熱硬化型接着剤HAと共にはみ出して排出された場合には、はみ出した熱硬化型接着剤HAを適宜取り除く清掃を行ってもよい。
【0058】
互いに接触した状態の第1,第2プリズムP1,P2を、位置決め治具4(図7)にセットする。第1,第2プリズムP1,P2の上端部(頂点)を加圧治具1A(図6(F),(G))の平面で加圧して揃えると、互いに接触した状態の第1,第2プリズムP1,P2がロッド4aに対して直線状に接触する。このとき、第1,第2プリズムP1,P2は、図7(B)に示すようにロッド4aの稜線である接触部分SAでのみ接触するため、接触部分SA以外の部分での位置決め治具4との接触は生じない。そして、ロッド4aが成すV形状により、更には第1,第2プリズムP1,P2の稜線部(45度形状の突き合わせ部分)の当たりにより、第1,第2プリズムP1,P2同士の相対的な位置が決定され、第1,第2プリズムP1,P2の位置決めが完了する。
【0059】
位置決めされた状態の第1,第2プリズムP1,P2を、位置決め治具4のロッド4aに接触させたまま加熱炉7に投入して、熱硬化型接着剤HAを加熱硬化させる(図6(H))。このとき、熱の急激な流入を避けるために、加熱温度をステップ的に上げてもよい。例えば、100℃×30分加熱し、120℃×60分加熱し、180℃×60分加熱する、といったステップ的な加熱硬化を行うようにしてもよい。
【0060】
加熱工程での熱硬化型接着剤HAの硬化により、第1,第2プリズムP1,P2は一体化して接合面PJを有する接合プリズムブロックP3となる。その接合プリズムブロックP3を加熱炉7から取り出し、適宜清掃を行う。接合プリズムブロックP3の切断を行うと(図6(I))、同一形状の複数(ここでは5個)の接合プリズムP4が得られる。その後、適宜洗浄を行ってもよい。
【0061】
位置決め治具4と第1,第2プリズムP1,P2との接触部分SAの面積(図7(B))は、位置決めされた状態の第1,第2プリズムP1,P2全体の表面積の約0%となっている。つまり、円柱形状4のロッド4aは、その多角柱の稜線部分で第1,第2プリズムP1,P2と線状に接触するため、接触部分SAの面積は極めて小さく略ゼロにまで抑えられる。したがって、第1,第2プリズムP1,P2に対する熱流入量の空間的な不均一性を効果的に低減することができるため、熱硬化型接着剤HAの熱硬化に起因する歪みの発生を防止することができる。
【0062】
上記のように、位置決め治具4のロッド4aと第1,第2プリズムP1,P2との接触部分SAの面積を、位置決めされた状態の第1,第2プリズムP1,P2全体の表面積の略0%(α≒0)にすると、簡易な治具構造であるにもかかわらず、熱硬化型接着剤HAを加熱硬化したときの熱的な歪みの発生を効果的に抑制することができる。したがって、高精度・高性能の接合プリズムP4を安定的に製造することが可能である。
【0063】
図7に示す位置決め治具4のように、第1,第2プリズムP1,P2に対するロッド4aの接触位置が、接合プリズムP4の光学的な有効範囲外になるように設計すれば、第1,第2プリズムP1,P2の位置決めの状態を容易に保持することができる。しかも、第1,第2プリズムP1,P2は光学有効範囲内において空中に浮いた状態となるため、光学有効範囲内では熱が全方位の空気から第1,第2プリズムP1,P2に流入することになる。したがって、伝熱量の空間的な不均一性を低減することができる。また、両端部の第1,第2プリズムP1,P2と位置決め治具4との接触部分において熱的な歪みが発生しても、光学有効範囲の外側であるために光学製品としての性能には影響を及ぼすことはない。
【0064】
〈第5の実施の形態(図8)〉
図8に、第5の実施の形態に用いる位置決め治具5を示す。図8(A)は位置決め治具5の上面図、図8(B)は位置決め治具5の側面図であり(設置された状態の第1,第2プリズムP1,P2を破線で示す。)、図8(C)は位置決め治具5と第1,第2プリズムP1,P2の拡大図である。ただし、描画されている位置決め治具5の形状は、位置決め治具5としての本質的な特徴を示す部分のみである。
【0065】
位置決め治具5は、6個の球面部分5aを台板5bのV溝に有する構成になっている。また第5の実施の形態は、V溝に球面部分5aが形成されているほかは、第1の実施の形態(図1,図2)と同様の構成になっている。したがって、第5の実施の形態の製造方法は、第1の実施の形態と同様、接触工程(図2(A)及び(B))と、位置決め工程(図2(C)及び(D))と、加熱工程(図2(E))と、切断工程(図2(F))と、を有するものである。
【0066】
図2及び図8を用いて各工程を説明する。接触工程(図2(A)及び(B))では、まず、同一形状の長尺三角プリズムから成る第1,第2プリズムP1,P2のうち、第2プリズムP2の傾斜面に熱硬化型接着剤HA(図2(A))を適量塗布する。次に、第1,第2プリズムP1,P2の傾斜面同士を、熱硬化型接着剤HAを介して互いに接触させる(図2(B))。第1プリズムP1の傾斜面には、例えば、偏光分離膜,ハーフミラー膜,ダイクロイック膜等の光学薄膜SC(図2(A))が設けられている。
【0067】
互いに接触した状態の第1,第2プリズムP1,P2を、V溝を有する位置決め治具5にセットし(図8,図2(C))、その上端部(頂点)を加圧治具1Aの平面で加圧して揃える(図2(D))。これにより、互いに接触した状態の第1,第2プリズムP1,P2が位置決め治具5の各球面部分5aに対して点状に接触して、その位置決め治具5の球面部分5aにより、更には第1,第2プリズムP1,P2の稜線部(45度形状の突き合わせ部分)の当たりにより、第1,第2プリズムP1,P2同士の相対的な位置が決定され、第1,第2プリズムP1,P2の位置決めが完了する。
【0068】
第1,第2プリズムP1,P2は、図8(C)に示すように各球面部分5aの接触部分SAでのみ接触するため、接触部分SA以外の部分での位置決め治具5との接触は生じない。なお、加圧治具1Aでの加圧により接着剤厚が薄くなるため、接着面間に入ってしまった気泡が余分な熱硬化型接着剤HAと共にはみ出して排出された場合には、はみ出した熱硬化型接着剤HAを適宜取り除く清掃を行ってもよい。
【0069】
位置決めされた状態の第1,第2プリズムP1,P2を、位置決め治具5の球面部分5aに接触させたまま加熱炉7に投入して、熱硬化型接着剤HAを加熱硬化させる(図1(E))。このとき、熱の急激な流入を避けるために、加熱温度をステップ的に上げてもよい。例えば、100℃×30分加熱し、120℃×60分加熱し、180℃×60分加熱する、といったステップ的な加熱硬化を行うようにしてもよい。
【0070】
加熱工程での熱硬化型接着剤HAの硬化により、第1,第2プリズムP1,P2は一体化して接合面PJを有する接合プリズムブロックP3となる。その接合プリズムブロックP3を加熱炉7から取り出し、適宜清掃を行う。接合プリズムブロックP3の切断を行うと(図2(F))、同一形状の複数(ここでは5個)の接合プリズムP4が得られる。その後、適宜洗浄を行ってもよい。
【0071】
位置決め治具5と第1,第2プリズムP1,P2との接触部分SAの面積(図8(C))は、位置決めされた状態の第1,第2プリズムP1,P2全体の表面積の約0%となっている。つまり、球体の一部から成る球面部分5aは、その表面で第1,第2プリズムP1,P2と点状に接触するため、接触部分SAの面積は極めて小さく略ゼロにまで抑えられる。したがって、第1,第2プリズムP1,P2に対する熱流入量の空間的な不均一性を効果的に低減することができるため、熱硬化型接着剤HAの熱硬化に起因する歪みの発生を防止することができる。
【0072】
上記のように、位置決め治具5の球面部分5aと第1,第2プリズムP1,P2との接触部分SAの面積を、位置決めされた状態の第1,第2プリズムP1,P2全体の表面積の略0%(α≒0)にすると、簡易な治具構造であるにもかかわらず、熱硬化型接着剤HAを加熱硬化したときの熱的な歪みの発生を効果的に抑制することができる。したがって、高精度・高性能の接合プリズムP4を安定的に製造することが可能である。
【0073】
図8に示す位置決め治具5のように、第1,第2プリズムP1,P2に対する球面部分5aの接触位置が、接合プリズムP4の光学的な有効範囲外になるように設計すれば、第1,第2プリズムP1,P2の位置決めの状態を容易に保持することができる。しかも、第1,第2プリズムP1,P2は光学有効範囲内において空中に浮いた状態となるため、光学有効範囲内では熱が全方位の空気から第1,第2プリズムP1,P2に流入することになる。したがって、伝熱量の空間的な不均一性を低減することができる。また、両端部の第1,第2プリズムP1,P2と位置決め治具5との接触部分において熱的な歪みが発生しても、光学有効範囲の外側であるために光学製品としての性能には影響を及ぼすことはない。
【実施例】
【0074】
以下、本発明を実施した接合型光学素子の製造方法等をデータを挙げて更に具体的に説明する。
【0075】
位置決め治具1(図1)を用いて得られた□3mmの接合プリズムP4の接合面(内部反射面)PJの面精度を評価した。測定位置p[mm]は、正四角柱(サイズ:3mm×3mm×70mm)から成る接合プリズムブロックP3の端部から長手方向に沿って等間隔に設定し、有効径Φ2.5mmの範囲を平行光の反射波面で測定した(干渉計8:ZYGO、測定波長λ:633nm)。面精度の測定には、図9に示す面精度測定装置(干渉計8と平面原器9から成る。)を使用した(図9(A)は上面図、図9(B)は側面図である。)。接触部分SAの面積比率をαとし、評価基準は、◎:RMS値≦0.010λ、○:0.010λ<RMS値≦0.020λ、×:0.020λ<RMS値とし、◎と○を良品とした。表1から、接触面積が少ないほど良品であり、α≦5%が好ましく、α≦3%が更に好ましいことが分かる。
【0076】
【表1】
【符号の説明】
【0077】
P1 第1プリズム(光学部品)
P2 第2プリズム(光学部品)
P3 接合プリズムブロック
P4 接合プリズム(接合型光学素子)
PJ 接合面
SA 接触部分
SC 光学薄膜
HA 熱硬化型接着剤
1,2,3,4,5 位置決め治具
1A 加圧治具
2a,2c 押さえ板
2b 精度板
3a,4a ロッド
5a 球面部分
3b,4b,5b 台板
6 台板
7 加熱炉
8 干渉計
9 平面原器
【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱硬化性樹脂から成る接着剤を介して複数の光学部品を互いに接触させる接触工程と、互いに接触した状態の各光学部品を位置決め治具に接触させることにより、各光学部品の位置決めを行う位置決め工程と、位置決めされた状態の各光学部品を前記位置決め治具に接触させたまま、前記接着剤を加熱硬化させる加熱工程と、を含む接合型光学素子の製造方法であって、
前記位置決め治具と全光学部品との接触部分の面積が、位置決めされた状態の光学部品全体の表面積の5%以下であることを特徴とする接合型光学素子の製造方法。
【請求項2】
前記位置決め治具と全光学部品との接触部分の面積が、位置決めされた状態の光学部品全体の表面積の3%以下であることを特徴とする請求項1記載の接合型光学素子の製造方法。
【請求項3】
さらに、前記加熱工程での接着剤の硬化により一体化した複数の光学部品を切断して、同一形状の複数の接合型光学素子を得る切断工程を含むことを特徴とする請求項1又は2記載の接合型光学素子の製造方法。
【請求項4】
各光学部品に対する前記位置決め治具の接触位置が、接合型光学素子の光学的な有効範囲の外側にあることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の接合型光学素子の製造方法。
【請求項5】
前記位置決めにおいて前記位置決め治具が全光学部品に対して線状又は点状に接触することを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の接合型光学素子の製造方法。
【請求項6】
前記位置決め治具が、全光学部品に対して線状に接触する多角柱の稜線部分、又は全光学部品に対して線状に接触する円柱の母線部分を有することを特徴とする請求項5記載の接合型光学素子の製造方法。
【請求項7】
前記位置決め治具が、全光学部品に対して点状に接触する球面部分を有することを特徴とする請求項5記載の接合型光学素子の製造方法。
【請求項8】
前記複数の光学部品が2つの直角プリズムであり、前記接着剤を介して互いに接触させる面の少なくとも一方に光学薄膜のコーティングが施されていることを特徴とする請求項1〜7のいずれか1項に記載の接合型光学素子の製造方法。
【請求項9】
前記光学薄膜が偏光分離膜,ハーフミラー膜又はダイクロイック膜であることを特徴とする請求項8記載の接合型光学素子の製造方法。
【請求項1】
熱硬化性樹脂から成る接着剤を介して複数の光学部品を互いに接触させる接触工程と、互いに接触した状態の各光学部品を位置決め治具に接触させることにより、各光学部品の位置決めを行う位置決め工程と、位置決めされた状態の各光学部品を前記位置決め治具に接触させたまま、前記接着剤を加熱硬化させる加熱工程と、を含む接合型光学素子の製造方法であって、
前記位置決め治具と全光学部品との接触部分の面積が、位置決めされた状態の光学部品全体の表面積の5%以下であることを特徴とする接合型光学素子の製造方法。
【請求項2】
前記位置決め治具と全光学部品との接触部分の面積が、位置決めされた状態の光学部品全体の表面積の3%以下であることを特徴とする請求項1記載の接合型光学素子の製造方法。
【請求項3】
さらに、前記加熱工程での接着剤の硬化により一体化した複数の光学部品を切断して、同一形状の複数の接合型光学素子を得る切断工程を含むことを特徴とする請求項1又は2記載の接合型光学素子の製造方法。
【請求項4】
各光学部品に対する前記位置決め治具の接触位置が、接合型光学素子の光学的な有効範囲の外側にあることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の接合型光学素子の製造方法。
【請求項5】
前記位置決めにおいて前記位置決め治具が全光学部品に対して線状又は点状に接触することを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の接合型光学素子の製造方法。
【請求項6】
前記位置決め治具が、全光学部品に対して線状に接触する多角柱の稜線部分、又は全光学部品に対して線状に接触する円柱の母線部分を有することを特徴とする請求項5記載の接合型光学素子の製造方法。
【請求項7】
前記位置決め治具が、全光学部品に対して点状に接触する球面部分を有することを特徴とする請求項5記載の接合型光学素子の製造方法。
【請求項8】
前記複数の光学部品が2つの直角プリズムであり、前記接着剤を介して互いに接触させる面の少なくとも一方に光学薄膜のコーティングが施されていることを特徴とする請求項1〜7のいずれか1項に記載の接合型光学素子の製造方法。
【請求項9】
前記光学薄膜が偏光分離膜,ハーフミラー膜又はダイクロイック膜であることを特徴とする請求項8記載の接合型光学素子の製造方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2012−237876(P2012−237876A)
【公開日】平成24年12月6日(2012.12.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−106813(P2011−106813)
【出願日】平成23年5月12日(2011.5.12)
【出願人】(303000408)コニカミノルタアドバンストレイヤー株式会社 (3,255)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年12月6日(2012.12.6)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年5月12日(2011.5.12)
【出願人】(303000408)コニカミノルタアドバンストレイヤー株式会社 (3,255)
【Fターム(参考)】
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