説明

接合方法

【課題】高品質の摩擦攪拌接合を行えるようにすること。
【解決手段】突合部Jの一端側から突合部Jの途中までに設けた第一の点までの第一接合範囲R21に摩擦攪拌を行う第一の摩擦攪拌接合工程と、第一の摩擦攪拌接合工程により生じた第一接合範囲R21に属する塑性化領域内に設けた第二の点から突合部Jの他端側までの第二接合範囲R22に摩擦攪拌を行う第二の摩擦攪拌接合工程と、を含み、第一の摩擦攪拌接合工程では、第一接合範囲R21に対する摩擦攪拌のスタート位置が突合部Jの途中に設けた第一の点として設定され、かつ、第一接合範囲R21のエンド位置が突合部Jの一端側に設定され、第二の摩擦攪拌接合工程では、第二接合範囲R22に対する摩擦攪拌のスタート位置が突合部Jの他端側に設定され、かつ、第二接合範囲R22のエンド位置が第一接合範囲R21に属する塑性化領域内に設けた第二の点として設定されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、摩擦攪拌を利用した金属部材の接合方法に関する。
【背景技術】
【0002】
金属部材(金属要素)同士を接合する方法として、摩擦攪拌接合(FSW=Friction Stir Welding)が知られている。摩擦攪拌接合は、回転させた回転ツールを金属部材同士の突合部に沿って移動させ、回転ツールと金属部材との摩擦熱により突合部の金属を塑性流動させることで、金属部材同士を固相接合させるものである(例えば、特許文献1参照)。なお、回転ツールは、円柱状を呈するショルダ部の下端面に攪拌ピン(プローブ)を突設してなるものが一般的である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2003−164980号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来、特許文献1に示されているように、金属要素同士の突合部の全長に渡って連続して摩擦攪拌接合を行って金属要素同士を接合している。そのため、長尺な金属要素同士の突合部に摩擦攪拌接合を行うためには、金属要素や回転ツールを相対移動させて、回転ツールが金属要素の突合部の端から端まで移動するようにしなければならず、大型の装置が必要になってしまう。
【0005】
一般に、長尺な金属要素同士の突合部に摩擦攪拌接合を行う場合には、所定長さまで摩擦攪拌接合を行った後に、その際に生じた塑性化領域の末端から残りの摩擦攪拌接合を行うようにしている。ところが、この場合、攪拌ピンの挿抜の際には十分に攪拌されないため、金属要素の表面に存在していた酸化皮膜が、その周辺の塑性化領域に巻き込んで残したり、接合欠陥等を生じたりしてしまう虞がある。
【0006】
そこで、本発明は、高品質の摩擦攪拌接合を行えるようにすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
このような課題を解決する本発明の請求項1に係る接合方法は、金属要素同士の突合部を回転ツールで摩擦攪拌を行う接合方法であって、前記突合部の一端側から前記突合部の途中までに設けた第一の点までの第一接合範囲に摩擦攪拌を行う第一の摩擦攪拌接合工程と、前記第一の摩擦攪拌接合工程により生じた第一接合範囲に属する塑性化領域内に設けた第二の点から前記突合部の他端側までの第二接合範囲に摩擦攪拌を行う第二の摩擦攪拌接合工程と、を含み、前記第一の摩擦攪拌接合工程では、前記第一接合範囲に対する摩擦攪拌のスタート位置が前記突合部の途中に設けた前記第一の点として設定され、かつ、前記第一接合範囲のエンド位置が前記突合部の一端側に設定され、前記第二の摩擦攪拌接合工程では、前記第二接合範囲に対する摩擦攪拌のスタート位置が前記一端側とは反対の前記突合部の他端側に設定され、かつ、前記第二接合範囲のエンド位置が前記第一接合範囲に属する塑性化領域内に設けた前記第二の点として設定されている、ことを特徴とする。
【0008】
この構成では、第一接合範囲の端部が第二接合範囲にも含まれ、第二接合範囲の端部が第一接合範囲に含まれている。そのため、第一の摩擦攪拌接合工程により第一接合範囲の端部(摩擦攪拌の開始位置または終了位置)に酸化皮膜が巻き込まれていたり、接合欠陥等が発生していたりしたとしても、第二の摩擦攪拌接合工程では第二接合範囲に含まれる第一接合範囲の端部も再度摩擦攪拌を行うから、その端部に巻き込まれて残っている酸化皮膜が分断され、接合欠陥等が修復される。したがって、摩擦攪拌接合の品質が向上する。また、一度の摩擦攪拌工程で摩擦攪拌できない程長い突合部の場合にも、摩擦攪拌を分けて行うことにより、酸化皮膜を分断し接合欠陥等を修復するため、種々の長さの突合部に対して高品質な摩擦攪拌を行うことができるようになる。
【0009】
また、請求項2に係る接合方法は、金属要素同士の突合部を回転ツールで摩擦攪拌を行う接合方法であって、前記突合部の一端側から前記突合部の途中までに設けた第一の点までの第一接合範囲に摩擦攪拌を行う第一の摩擦攪拌接合工程と、前記第一の摩擦攪拌接合工程により生じた第一接合範囲に属する塑性化領域内に設けた第二の点から前記突合部の他端側までの第二接合範囲に摩擦攪拌を行う第二の摩擦攪拌接合工程と、を含み、記第一の摩擦攪拌接合工程では、前記第一接合範囲に対する摩擦攪拌のスタート位置が前記金属要素同士の前記突合部の一端側に設定され、かつ、前記第一接合範囲のエンド位置が前記突合部の途中に設けた前記第一の点として設定され、記第二の摩擦攪拌接合工程では、前記第二接合範囲に対する摩擦攪拌のスタート位置が前記一端側とは反対の前記突合部の他端側に設定され、かつ、前記第二接合範囲のエンド位置が前記第一接合範囲に属する塑性化領域内に設けた前記第二の点として設定されている、ことを特徴とする。
【0010】
この構成では、第一接合範囲の端部が第二接合範囲にも含まれ、第二接合範囲の端部が第一接合範囲に含まれている。そのため、第一の摩擦攪拌接合工程により第一接合範囲の端部(摩擦攪拌の開始位置または終了位置)に酸化皮膜が巻き込まれていたり、接合欠陥等が発生していたりしたとしても、第二の摩擦攪拌接合工程では第二接合範囲に含まれる第一接合範囲の端部も再度摩擦攪拌を行うから、その端部に巻き込まれて残っている酸化皮膜が分断され、接合欠陥等が修復される。したがって、摩擦攪拌接合の品質が向上する。また、一度の摩擦攪拌工程で摩擦攪拌できない程長い突合部の場合にも、摩擦攪拌を分けて行うことにより、酸化皮膜を分断し接合欠陥等を修復するため、種々の長さの突合部に対して高品質な摩擦攪拌を行うことができるようになる。
【0011】
また、前記第一の摩擦攪拌接合工程では、前記突合部の一端側の側方に配置された第一タブ部上に前記第一接合範囲に対する摩擦攪拌のエンド位置が設定され、前記第二の摩擦攪拌接合工程では、前記一端側とは反対の前記突合部の他端側の側方に配置された第二タブ部上に前記第二接合範囲に対する摩擦攪拌のスタート位置が設定されている、ことが好ましい。
また、前記第一の摩擦攪拌接合工程では、前記突合部の一端側の側方に配置された第一タブ部上に前記第一接合範囲に対する摩擦攪拌のスタート位置が設定され、前記第二の摩擦攪拌接合工程では、前記一端側とは反対の前記突合部の他端側の側方に配置された第二タブ部上に前記第二接合範囲に対する摩擦攪拌のスタート位置が設定されている、ことが好ましい。
【0012】
この構成では、タブ部において回転ツールの挿入や引き抜きが可能となる。
【0013】
また、さらに、前記回転ツールの攪拌ピンを前記金属要素の塑性化領域から抜き出した際に生じる抜き穴に金属部材を充填する充填工程を含むことが好ましい。
【0014】
この構成によれば、先の摩擦攪拌のエンド位置が金属要素の突合部上に設定されているときに、そのエンド位置に生じた抜け穴を埋めた後に摩擦攪拌を行えば、金属部材をも含めて塑性流動化するため、摩擦攪拌接合の品質が向上する。また、最後の摩擦攪拌のエンド位置が突合部上に設定されているときには、その位置に生じた抜け穴を塞ぐことができるため、摩擦攪拌接合の品質が向上する。
【0015】
また、さらに、前記充填工程でした前記金属部材と塑性化領域とを跨ぐように接合して前記金属部材を抜け穴に仮止めする仮止め工程を含むことが好ましい。
【0016】
この構成によれば、金属部材を抜け穴に仮止めして、抜け穴内での攪拌ピンの空回りを防ぐため、抜け穴に充填された金属部材を塑性流動化させることができる。
【0017】
また、請求項1又は請求項2に記載の接合方法において、前記金属要素を中空部材としたことが好ましい。また、請求項7に記載の接合方法において、前記中空部材の突合面に凹部を成形し、前記中空部材同士の突合部に前記凹部による隙間を形成することが好ましい。
【0018】
したがって、本発明によれば、金属要素同士の突合部であった塑性化領域内に残存する酸化皮膜を分断し、接合欠陥等を修復することができるため、摩擦攪拌接合の品質が向上する。そのため、一度の摩擦攪拌工程で摩擦攪拌できない程長い突合部の場合にも、摩擦攪拌を分けて行うことにより、種々の長さの突合部に対して高品質な摩擦攪拌を行うことができる。
【発明の効果】
【0019】
本発明に係る接合方法によれば、高品質な摩擦攪拌接合を行うことができるようになる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明の好適な実施形態の接合方法に係る金属部材の固定状況を示す斜視図である。
【図2】図1に示す金属部材の固定状況の正面図である。
【図3】(a)および(b)は、接合工程を説明するための断面図である。
【図4】接合工程の工程例1を説明する図である。(a)は第一工程を説明するための平面図、(b)は第二工程を説明するための平面図である。
【図5】工程例1での突合部Jにおける断面図を示す。(a)は第一工程における回転ツールの攪拌ピンを挿入する直前の様子を示す図、(b)は第一工程の終了時の攪拌ピンを抜き出す前の様子を示す図、(c)は第一工程での攪拌ピンの抜き出し後および第二工程の攪拌ピンの挿入直前の様子を示す図、(d)は第二工程の終了時の攪拌ピンを抜き出したときの様子を示す図である。
【図6】接合工程の工程例2を説明する図である。(a)は第一工程の様子を説明するための平面図、(b)は第二工程の様子を説明するための平面図である。
【図7】接合工程の工程例3を説明する図である。(a)は第一工程の様子を説明するための平面図、(b)は第二工程の前半の様子を説明するための平面図、(c)は第二工程の後半の様子を説明するための平面図である。
【図8】接合工程の工程例4を説明する図である。(a)は第一工程の様子を説明するための平面図、(b)は第二工程の様子を説明するための平面図である。
【図9】図8のII-II断面相当図である。(a)は第一工程における回転ツールの攪拌ピンを挿入する直前の様子を示す図、(b)は第一工程の終了時の攪拌ピンを抜き出した後の様子を示す図、(c)は第一工程での攪拌ピンの抜き出し後に生じた抜き穴を充填する充填工程を示す図、(d)は第二工程の攪拌ピンの挿入直前の様子を示す図、(e)は第二工程の終了時の攪拌ピンを抜き出したときの様子を示す図である。
【図10】接合工程の工程例5を説明する図である。(a)は第一工程の様子を説明するための平面図、(b)は第二工程の前半の様子を説明するための平面図、(c)は第二工程の後半の様子を説明するための平面図である。
【図11】接合工程の工程例6を説明する図である。(a)は第一工程の様子を説明するための平面図、(b)は第二工程の様子を説明するための平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本実施形態では、図1に示すように、3つの金属部材10(第一金属部材11、第二金属部材12、第三金属部材13)を摩擦攪拌接合により接合する場合について説明する。なお、説明における各方向は、図1に示す方向に統一するものとする。
【0022】
各金属部材10の形状寸法は限定されるものではなく、適宜設定することが可能である。本実施形態では、断面矩形の中空押出形材からなる第一金属部材11と、外形断面略T字の中空押出形材からなる第二金属部材12および第三金属部材13を使用する。そして、本実施形態では、第一金属部材11の左右に、断面略T字の第二金属部材12および第三金属部材13を接合する場合について説明する。
【0023】
なお、金属部材10を構成する材料は限定されるものではなく、適宜公知の材料から選定して使用すればよいが、本実施形態では、アルミニウム合金製の金属部材10を使用する。
【0024】
また、図1および図2に示すように、各金属部材10同士の突合部Jに対応する個所には、上下に突出する凸部11b,12b,13bがそれぞれ形成されている。凸部11b,12b,13bの断面形状は限定されるものではないが、摩擦攪拌接合により接合されることで、完成部材として必要な強度を発現することが可能な高さと厚みを有している。
なお、各凸部11b,12b,13bは、凸部11bと凸部12bおよび凸部11bと凸部13bを付き合わせた際の幅寸法が、回転ツールAのショルダ径(ショルダ部A1の外径)よりも大きくなるようになっている(図3(a)および(b)参照)。
【0025】
第一金属部材11の突合面11a,11aは、図2に示すように、平面を呈している。一方、第二金属部材12と第三金属部材13の突合面12a,13aは、第一金属部材11の突合面11aと突き合せたときに隙間が形成されるように、中間部分に予め凹み(凹部)が形成されている。このように、第二金属部材12と第三金属部材13の突合面12a,13aの中間部分に凹みが形成されていることで、突合面12a,13aの上下(凸部12b,13bも含む)が第一金属部材11の突合面11a,11aに密着する。平面からなる突合面同士を突き合わせると、突合面の不陸により密着せずに、高品質な摩擦攪拌接合ができない場合があるが、本実施形態に係る金属部材10は、互いの突合部Jに隙間が形成されていることで、この隙間が突合面の不陸を吸収し、隙間の上方の摩擦攪拌接合を行う接合部分に関しては金属部材10同士が隙間なく密着し、高品質に摩擦攪拌接合を行うことを可能としている。
【0026】
なお、本実施形態では、第二金属部材12と第三金属部材13の突合面12a,13aに凹みを形成するものとしたが、第一金属部材11の突合面11aに凹みを形成してもよい。また、金属部材10同士の突合面11a,12a,13aの形状は前記の形状に限定されないことはいうまでもない。また、各金属部材10の突合面11a,12a,13aの厚さ寸法も限定されるものではないが、本実施形態では、全て同一である。また、突合面12a,13aに形成された凹みの深さ(隙間の幅)は、限定されるものではなく適宜設定すればよい。なお、図面上(図1、図2および図3)では、突合面12a,13aに形成された凹みの深さが大きく表示されているが、凹みの深さはわずかな隙間が形成される程度であればよい。
【0027】
本実施形態に係る接合方法は、金属部材10同士を突き合せる突合工程と、これらの金属部材10,10,10を支持台20に拘束する拘束工程と、金属部材10同士の突合部Jに対して連続して熱加工としての摩擦攪拌接合を施す接合工程と、を含んでいる。
【0028】
突合工程では、図1に示すように、接合される金属部材10同士の突合面11a,12a,13aを突き合わせた状態で、これらの金属部材10,10,10を支持台20に載置する。具体的には、左右の第二金属部材12および第三金属部材13の間に、中央の第一金属部材11を配置して、互いの突合面11a,12a,13aを突き合せた状態で支持台20に載置する。
【0029】
なお、支持台20は、図1および図2に示すように、中央に間隔を有した状態で、左右に配置された台座22,23と、台座22,23の間隔において、左右の台座22,23に挟持された支持板24と、これらの台座22,23、支持板24を下方から支持する支持台本体21により構成されている。
【0030】
図2に示すように、支持板24の上面の両端には、支持台20に載置された金属部材11,12,13同士の突合部Jを、下面から支持するための接合ライン支持部材25,25が配設されている。また、支持板24の上面の中央には、第一金属部材11を支持するための支持部材26が配設されている。
【0031】
拘束工程では、図1および図2に示すように、金属部材10,10,10をボルト30、治具40、万力50等を介して、支持台20に移動不能に拘束する。このとき、ボルト30の頭部30aと、第一金属部材11との間には、押え板31が介在されており、ボルト30による押え付け力を押え板31により分散させることで、第一金属部材11を面的に押え付けるように構成されている。
【0032】
金属部材10の横方向の押え付けは、左側の台座22に固定された万力50と、右側の台座23に固定された受部材51により、把持することにより行う。なお、万力50と第二金属部材12および受部材51と第三金属部材13の間には、それぞれ補助板52,52が介在されており、万力50による押え付け力を分散させて、突合部J,Jの全面が、密着するように構成されている。
【0033】
接合工程では、突合部Jに対して2回の工程(後記「第一工程」および「第二工程」)で摩擦攪拌を行う。具体的には、図3の(a)に示すように、1回の工程ごとに、回転させた回転ツールAの攪拌ピンA2を、凸部11b,13b(12b)の上から凸部11b,13b(12b)の上面に設けた開始位置Sに挿入(圧入)するとともに、挿入した攪拌ピンA2を途中で離脱させることなく突合部Jを含むように設定した摩擦攪拌のルートに沿って相対移動させることで摩擦攪拌を行ったうえで、終了位置で攪拌ピンA2を上方に離脱させればよい。
回転ツールAを回転させつつ突合部Jに沿って移動させると、図3の(b)に示すように、回転ツールAと金属との摩擦熱により突合部Jの金属が塑性流動化し、突合部Jが固相接合される。本実施形態では、突合面11a,13a(12a)同士の間に形成された隙間の上方において、接合後も各金属部材10の凸部11b,12b,13bが残るように摩擦攪拌接合がなされる。
【0034】
回転ツールAの形態等に特に制限はないが、本実施形態では、図3の(a)に示すものを使用している。図3の(a)に示す回転ツールAは、工具鋼など接合対象よりも硬質の金属材料からなり、円柱状を呈するショルダ部A1と、このショルダ部A1の下端面A11に突設された攪拌ピン(プローブ)A2とを備えて構成されている。ショルダ部A1の下端面A11は、塑性流動化した金属を押えて周囲への飛散を防止する役割を担う部位であり、本実施形態では、凹面状に成形されている。攪拌ピンA2は、ショルダ部A1の下端面A11の中央から垂下しており、本実施形態では、先細りの円錐台状に成形されている。また、攪拌ピンA2の周面には、螺旋状に刻設された攪拌翼が形成されている。
【0035】
回転ツールAの移動速度(送り速度)は、攪拌ピンA2の寸法・形状、摩擦攪拌される金属部材10等の材質や肉厚等に応じて設定される。回転ツールAを移動させると、その攪拌ピンA2の周囲にある金属が順次塑性流動化するとともに、攪拌ピンA2から離れた位置では、塑性流動化していた金属が再び硬化する。
【0036】
この接合工程は、各金属部材10が長尺体であることから、各突合部Jを摩擦攪拌する手順に特徴があり、第一の摩擦攪拌接合工程(以下「第一工程」と称する)と第二の摩擦攪拌接合工程(以下「第二工程」と称する)との二つの特徴的な工程を含んでいる。第一工程は、突合部Jの一端側から突合部Jの途中までに設けた第一の点までの第一接合範囲に摩擦攪拌を行う手順である。第二工程は、第一工程により生じた第一接合範囲に属する塑性化領域内に設けた第二の点から突合部Jの他端側までの第二接合範囲に摩擦攪拌を行う手順である。以下、第一工程および第二工程についての工程例について説明する。
【0037】
[工程例1]
図4は、実施形態における接合工程の工程例1を説明する図である。なお、この図4は図1の凸部11b,13bの突合部Jのところを主に示す平面図であり、タブ部2,3を突合部Jの側方に配置した場合を示している。図4の(a)に第一工程の様子を説明するための平面図を示す。図4の(b)に第二工程の様子を説明するための平面図を示す。
【0038】
図4の(a)に示すように、第一工程では、第一接合範囲R11に対する摩擦攪拌のスタート位置S11が突合部Jの途中に第一の点として設定され、かつ、第一接合範囲R11に対する摩擦攪拌のエンド位置E11が突合部Jの一端側に配置されたタブ部3上に設定されている。つまり、第一工程では、回転ツールAの攪拌ピンA2(図3参照)がスタート位置S11に回転しつつ挿入され、金属を塑性流動化しつつタブ部3のエンド位置E11に向かって、金属材料10に対して相対的に移動し、タブ部3から抜き出される。この第一工程によって、突合部Jに塑性化領域W11が形成され、第一接合範囲R11において、第一金属部材11と第三金属部材13とが接合される。
【0039】
また、図4の(b)に示すように、第二工程では、第二接合範囲R12に対する摩擦攪拌のスタート位置S12が第一接合範囲S11に属する塑性化領域W11内の第二の点として設定され、かつ、第二接合範囲R12に対する摩擦攪拌のエンド位置E12が突合部Jの一端側に配置されたタブ部3とは反対の突合部Jの他端側に配置されたタブ部2上に設定されている。
【0040】
つまり、第二工程では、回転ツールAの攪拌ピンA2(図3参照)が、塑性化領域W11内に設定されたスタート位置S12に回転しつつ挿入され、塑性化領域W11の金属を再び塑性流動化して塑性化領域W12を形成しつつスタート位置S11に向かって、金属材料10に対して相対的に移動する。さらに、その回転ツールAの攪拌ピンA2は、スタート位置S11を過ぎると、突合部Jの金属を塑性流動化して塑性化領域W12を形成しつつタブ部2のエンド位置E12に向かって、金属材料10に対して相対的に移動する。そして、その回転ツールAの攪拌ピンA2は、タブ部2で抜き出される。この第二工程によって、突合部Jには塑性化領域W12が形成され、第二接合範囲R12において、第一金属部材11と第三金属部材13とが接合される。
【0041】
図5に、工程例1での突合部Jにおける断面図を示す。なお、この図5は図1の凸部11b,13bの突合部Jのところを主に示す断面図であり、タブ部2,3を突合部Jの側方に配置した場合を示している。(a)には、第一工程における回転ツールの攪拌ピンを挿入する直前の様子が示されている。(b)には、第一工程の終了時の攪拌ピンを抜き出す前の様子が示されている。(c)には、第一工程での攪拌ピンの抜き出し後、および、第二工程の攪拌ピンの挿入直前の様子が示されている。(d)には、第二工程の終了時の攪拌ピンを抜き出したときの様子が示されている。
【0042】
図5の(a)に示すように、回転ツールAは突合部J上のスタート位置S11の上方に相対移動され、回転する攪拌ピンA2がスタート位置S11に挿入される。
次に、図5の(b)に示すように、回転ツールAは、攪拌ピンA2を回転させたままエンド位置E11に向かって相対移動され、金属を塑性流動化させて塑性化領域W11を形成して、各凸部11b,13b同士、つまり、第一金属部材11(図1等参照)と第二金属部材13(図1等参照)を接合する。
【0043】
続いて、図5の(c)に示すように、回転ツールAは、エンド位置E11から引き抜かれ、スタート位置S12の上方に相対移動され、回転する攪拌ピンA2がスタート位置S12に挿入され、エンド位置E12に向かって第二接合範囲R12を相対移動される。
そして、図5の(d)に示すように、回転ツールAは、突合部Jに塑性化領域W12を形成してエンド位置E12から引き抜かれて摩擦攪拌を終了する。
【0044】
このように、工程例1においては、第一工程のスタート位置S11は、第二工程で再度塑性流動化され、塑性化領域W12に含まれることになる。そのため、第一工程の際にスタート位置S11の塑性化領域W11に酸化皮膜が残っていたとしても、第二工程により酸化皮膜を分断することができるようになる。また、スタート位置S11に接合欠陥等が生じていたとしても、第二工程により再び塑性流動化するため、接合欠陥等を修復することができる。
【0045】
[工程例2]
図6は、実施形態における接合工程の工程例2を説明する図である。なお、この図6は図1の凸部11b,13bの突合部Jのところを主に示す平面図であり、タブ部2,3を突合部Jの側方に配置した場合を示している。図6の(a)に第一工程の様子を説明するための平面図を示す。図6の(b)に第二工程の様子を説明するための平面図を示す。
【0046】
図6の(a)に示すように、第一工程では、第一接合範囲R21に対する摩擦攪拌のスタート位置S21が突合部Jの途中に第一の点として設定され、かつ、第一接合範囲R21のエンド位置E21が突合部Jの一端側のタブ部3に設定されている。つまり、第一工程は、工程例1の第一工程と同じである。そのため、この第一工程によって、突合部Jには、塑性化領域W21が形成され、第一金属部材11と第三金属部材13とが第一接合範囲R21で接合される。
【0047】
また、図6の(b)に示すように、第二工程では、第二接合範囲R22のスタート位置S22がタブ3(一端側)とは反対のタブ2(他端側)に設定され、かつ、第二接合範囲R22のエンド位置E22が第一接合範囲R21に属する塑性化領域W21内の第二の点として設定されている。
【0048】
つまり、第二工程では、工程例1の場合とは異なるスタート位置S22およびエンド位置E22が設定されている。この第二工程では、回転ツールAの攪拌ピンA2(図3参照)が、タブ部2に設定されたスタート位置S22に回転しつつ挿入され、突合部Jの金属を塑性流動化して塑性化領域W22を形成しつつ塑性化領域W21に向かって、金属材料10に対して相対的に移動する。さらに、その回転ツールAの攪拌ピンA2は、塑性化領域W21に設定されたエンド位置E22に向かって、金属材料10に対して相対的に移動し、塑性化領域W21を再び塑性流動化して塑性化領域W22を形成する。そして、その回転ツールAの攪拌ピンA2は、エンド位置E22で抜き出される。この第二工程によって、突合部Jには塑性化領域W22が形成され、第二接合範囲S22において、第一金属部材11と第三金属部材13とが接合される。
【0049】
なお、突合部Jの深さ方向の様子は、工程例1の場合と略同一であるため、図示を省略するが、第二工程の回転ツールAと金属部材10との相対移動方向が異なっている。そのため、回転ツールAの攪拌ピンA2(図3参照)の最終の引き抜き箇所が、塑性化領域W22の端部であるため、抜き穴(図示省略)が形成されている。そこで、この抜き穴には、肉盛り溶接などを行うことが好ましい。
【0050】
このように、工程例2においては、第一工程のスタート位置S21は、第二工程で再度塑性流動化され、塑性化領域W22に含まれることになる。そのため、第一工程の際にスタート位置S21に酸化皮膜が残っていたとしても、第二工程により酸化皮膜を分断することができるようになる。また、スタート位置S21に接合欠陥等が生じていたとしても、第二工程により再び塑性流動化するため、第一工程での接合欠陥等を修復することができる。
【0051】
[工程例3]
図7は、実施形態における接合工程の工程例3を説明する図である。なお、この図7は図1の凸部11b,13bの突合部Jのところを主に示す平面図であり、タブ部2,3を突合部Jの側方に配置した場合を示している。図7の(a)に第一工程の様子を説明するための平面図を示す。図7の(b)に第二工程の前半の様子を説明するための平面図を示す。図7の(c)に第二工程の後半の様子を説明するための平面図である。
【0052】
図7の(a)に示すように、第一接合範囲R31に対する摩擦攪拌のスタート位置S31が突合部Jの途中に第一の点として設定され、かつ、第一接合範囲R31のエンド位置E31が突合部Jの一端側のタブ部3に設定されている。つまり、第一工程は、工程例1,2の第一工程の場合と同じであり、塑性化領域W31が突合部Jの第一接合範囲R31に形成される。
【0053】
次に、図7の(b)に示すように、第二工程では、まず、第二接合範囲R32に対する摩擦攪拌のスタート位置S32が、第一接合範囲R31に属する塑性化領域W31の端部に第二の点(スタート位置S31)として設定されている。また、第二接合範囲R32のエンド位置E33がタブ部2に設定されている。さらに、スタート位置S32からタブ部3(突合部Jの一端側)に向かって第一接合範囲R31に属する塑性化領域W31に折り返し位置T32が設定されている。
【0054】
そして、第二工程では、回転ツールAの攪拌ピンA2(図3参照)が、スタート位置S32に回転しつつ挿入され、塑性化領域W31の金属を再び塑性流動化して塑性化領域W32を形成しつつ折り返し位置T32に向かって、金属部材10に対して相対的に移動する。その回転ツールAの攪拌ピンA2は、折り返し位置T32に達すると、再び塑性化領域W32を塑性流動化して塑性化領域W33を形成しつつ折り返して、スタート位置S32に向かって金属部材10に対して相対的に移動する。さらに、その回転ツールAの攪拌ピンA2は、スタート位置S32を通過して、突合部Jに沿ってタブ部2まで移動し、金属を塑性流動化して塑性化領域W33を形成しつつエンド位置E33に到達し、引き抜かれる。そのため、この第二工程によって、突合部Jには塑性化領域W33が形成され、第二接合範囲R32において、第一金属部材11と第三金属部材13とが接合される。
【0055】
このように、工程例3においては、第一工程のスタート位置S31は、第二工程で再度塑性流動化され、塑性化領域W33に含まれることになる。そのため、第一工程の際にスタート位置S31に酸化皮膜が残っていたとしても、第二工程により酸化皮膜を分断することができるようになる。また、スタート位置S31に接合欠陥等が生じていたとしても、第二工程により再び塑性流動化するため、接合欠陥等を修復することができる。
【0056】
[工程例4]
図8は、実施形態における接合工程の工程例4を説明する図である。なお、この図8は図1の凸部11b,13bの突合部Jのところを主に示す平面図であり、タブ部2,3を突合部Jの側方に配置した場合を示している。図8の(a)に第一工程の様子を説明するための平面図を示す。図8の(b)に第二工程の様子を説明するための平面図を示す。
【0057】
図8の(a)に示すように、第一工程では、第一接合範囲R41に対する摩擦攪拌のスタート位置S41がタブ部3に設定され、かつ、第一接合範囲R41のエンド位置E41が突合部Jの途中に第一の点として設定されている。この第一工程は、工程例1の場合と相対移動方向が逆である。つまり、第一工程では、回転ツールAの攪拌ピンA2(図3参照)が、タブ部3のスタート位置S41に回転しつつ挿入され、金属を塑性流動化しつつ金属部材10に対して相対的に移動し、エンド位置E41で引き抜かれる。この第一工程によって、突合部Jには塑性化領域W41が形成され、第一接合範囲R41において、第一金属部材11と第三金属部材13とが接合される。
【0058】
図8の(b)に示すように、第二工程では、第二接合範囲R42に対する摩擦攪拌のスタート位置S42が第一接合範囲R41に属する塑性化領域W41内の第二の点として設定され、かつ、第二接合範囲R42に対する摩擦攪拌のエンド位置E42がタブ部2に設定されている。つまり、第二工程では、回転ツールAの攪拌ピンA2(図3参照)が、スタート位置S42に回転しつつ挿入され、塑性化領域W41の金属を再び塑性流動化しつつスタート位置S41に向かって、金属材料10に対して相対的に移動する。さらに、その回転ツールAの攪拌ピンA2は、スタート位置S41を通過すると、突合部Jの金属を塑性流動化しつつタブ部2に向かって、金属材料10に対して相対的に移動し、エンド位置E42から引き抜かれる。この第二工程によって、突合部Jには塑性化領域W42が形成され、第二接合範囲R42において、第一金属部材11と第三金属部材13とが接合される。
【0059】
ところで、第一工程の終了後、回転ツールAの攪拌ピンA2(図3参照)は突合部Jから引き抜かれるため、引き抜かれた後の塑性化領域W41の端部には、引き抜き穴が形成されている。そこで、第二工程を行う前に、その引き抜き穴に金属部材を充填する充填工程を経て、金属を補うようにすることが好ましい。以下、この工程例4の変形例として充填工程を実施する場合について説明する。
【0060】
図9は、工程例4の接合方法を説明するための断面を示す、図8のII-II断面相当図である。(a)には、第一工程における回転ツールの攪拌ピンを挿入する直前の様子が示されている。(b)には、第一工程の終了時の攪拌ピンを抜き出した後の様子が示されている。(c)には、第一工程での攪拌ピンの抜き出し後に生じた抜き穴を充填する充填工程が示されている。(d)には、第二工程の攪拌ピンの挿入直前の様子が示されている。(e)には、第二工程の終了時の攪拌ピンを抜き出したときの様子が示されている。
【0061】
図9の(a)に示すように、工程例4では、まず、回転ツールAはタブ3に設定されたスタート位置S41に挿入される。
次に、図9の(b)に示すように、回転ツールAは、攪拌ピンA2を回転させたままエンド位置E41に向かって相対移動され、金属を塑性流動化させて塑性化領域W41を形成して、各金属部材10同士を接合する。このとき、攪拌ピンA2がエンド位置E41から引き抜かれると、塑性流動化していた金属は直ぐに塑性化領域W41に変化し、抜け穴Hが形成される。
【0062】
図9の(c)に示すように、抜け穴Hには、金属部材Zが充填される。この金属部材Zは、例えば、肉盛り溶接によって充填してもよい。また、攪拌ピンA2と略同一の金属部材を用意しておき、その金属部材を抜け穴Hに充填するようにしてもよい。この場合、金属部材が動かないように、周囲の塑性化領域W41に仮接合することが好ましい。この接合は、溶接によっても、摩擦攪拌接合を行ってもよい。なお、摩擦攪拌接合の場合には、攪拌ピンA2の径よりも細い径の攪拌ピン(不図示)を備えた回転ツール(不図示)によって、周囲の塑性化領域W41に仮止めすればよい。
【0063】
続いて、図9の(d)に示すように、回転ツールAは、第二工程のスタート位置S42の上方に相対移動され、回転する攪拌ピンA2がスタート位置S42に挿入され、エンド位置E42に向かって相対移動される。
そして、図9の(e)に示すように、回転ツールAは、エンド位置E42から引き抜かれて摩擦攪拌を終了する。これによって、第二接合範囲R42では、塑性化領域W42が形成されることで、凸部11bと凸部13bとを接合する。つまり、第一金属部材11(図1等参照)と第二金属部材13(図1等参照)とが接合される。
【0064】
このように、工程例4においては、第一工程のエンド位置E41は、第二工程で再度塑性流動化され、塑性化領域W42に含まれることになる。そのため、第一工程の際にエンド位置E41に酸化皮膜が残っていたとしても、第二工程により酸化皮膜を分断することができるようになる。また、エンド位置E41に接合欠陥等が生じていたとしても、第二工程により再び塑性流動化するため、接合欠陥等を修復することができる。
【0065】
[工程例5]
図10は、実施形態における接合工程の工程例5を説明する図である。なお、この図10は図1の凸部11b,13bの突合部Jのところを主に示す平面図であり、タブ部2,3を突合部Jの側方に配置した場合を示している。図10の(a)に第一工程の様子を説明するための平面図を示す。図10の(b)に第二工程の前半の様子を説明するための平面図を示す。図10の(c)に第二工程の後半の様子を説明するための平面図である。
【0066】
この工程例5は、工程例3(図7参照)の変形例に相当する。工程例3では、第一工程が、突合部Jの途中にスタート位置S31を設定し、タブ部3にエンド位置E31を設定した場合を説明したが、この工程例5は、工程例3とは反対に、タブ部3にスタート位置S51を設定し、突合部Jの途中にエンド位置E51を設定した場合である。なお、(a)に示す第一工程以外((b)(c)の第二工程)は、工程例3と同じであるため、同一符号を付し、説明を省略する。
【0067】
このように、工程例5においては、第一工程のエンド位置E51は、第二工程で再度塑性流動化され、塑性化領域W33に含まれることになる。そのため、第一工程の際にエンド位置E51の酸化皮膜が残っていたとしても、第二工程により酸化皮膜を分断することができるようになる。また、エンド位置E51に接合欠陥等が生じていたとしても、第二工程により再び塑性流動化するため、接合欠陥等を修復することができるようになる。
【0068】
[工程例6]
図11は、実施形態における接合工程の工程例6を説明する図である。なお、この図11は図1の凸部11b,13bの突合部Jのところを主に示す平面図であり、タブ部2,3を突合部Jの側方に配置した場合を示している。図11の(a)に第一工程の様子を説明するための平面図を示す。図11の(b)に第二工程の様子を説明するための平面図を示す。
【0069】
図11の(a)に示すように、第一工程は、工程例4の第一工程と同じである。つまり、攪拌ピンA2が、タブ部3に設定されたスタート位置S61から突合部Jに設定されたエンド位置E61までの第一接合範囲R61の摩擦攪拌を行って、塑性化領域W61を形成して第一金属部材11と第三金属部材13とを接合する。
【0070】
図11の(b)に示すように、第二工程は、工程例2の第二工程と同じである。
つまり、回転ツールAの攪拌ピンA2(図3参照)は、タブ部2に設定されたスタート位置S62から塑性化領域W61内に設定されたエンド位置E62までの第二接合範囲R62の摩擦攪拌を行って、塑性化領域W62を形成して第一金属部材11と第三金属部材13とを接合する。このとき、工程例2と同様に、その回転ツールAの攪拌ピンA2の最終の引き抜き箇所が、塑性化領域W62の端部であるため、抜き穴(図示省略)が形成されている。そこで、この抜き穴には、肉盛り溶接などを行うことが好ましい。
【0071】
以上説明した各工程例のように回転ツールを移動させれば、高品質な摩擦攪拌接合を行うことができるようになる。特に、大型な装置を用いなくても、長尺な金属要素同士の高品質な摩擦攪拌接合を行うことができるようになる。
【0072】
以上、本発明について、好適な実施形態について説明したが、本発明は前記の各実施形態に限られず、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で適宜設計変更が可能である。
例えば、前記実施形態では、3つの金属部材を接合する場合について説明したが、本発明の接合方法において接合される金属部材の数量は限定されるものではない。
【0073】
この実施形態では、第一接合範囲を各図中右側とし、第二接合範囲を各図中左側として説明したが、反対に、第一接合範囲を図中左側とし、第二接合範囲を図中右側としてもよい。
【0074】
この実施形態では、突合部Jの側方にタブ材2,3を配置したものとして説明したが、タブ材2,3を配置しなくてもよい。
【0075】
この実施形態では、金属要素が、第一金属部材11、第二金属部材12、第三金属部材13の中空部材の場合を説明したが、板材であってもよい。
【符号の説明】
【0076】
10 金属部材
11 第一金属部材
12 第二金属部材
13 第三金属部材
J 突合部
S スタート位置
E エンド位置
R 接合範囲(第一接合範囲、第二接合範囲)
W 塑性化領域

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属要素同士の突合部を回転ツールで摩擦攪拌を行う接合方法であって、
前記突合部の一端側から前記突合部の途中までに設けた第一の点までの第一接合範囲に摩擦攪拌を行う第一の摩擦攪拌接合工程と、
前記第一の摩擦攪拌接合工程により生じた第一接合範囲に属する塑性化領域内に設けた第二の点から前記突合部の他端側までの第二接合範囲に摩擦攪拌を行う第二の摩擦攪拌接合工程と、を含み、
前記第一の摩擦攪拌接合工程では、前記第一接合範囲に対する摩擦攪拌のスタート位置が前記突合部の途中に設けた前記第一の点として設定され、かつ、前記第一接合範囲のエンド位置が前記突合部の一端側に設定され、
前記第二の摩擦攪拌接合工程では、前記第二接合範囲に対する摩擦攪拌のスタート位置が前記一端側とは反対の前記突合部の他端側に設定され、かつ、前記第二接合範囲のエンド位置が前記第一接合範囲に属する塑性化領域内に設けた前記第二の点として設定されている、
ことを特徴とする接合方法。
【請求項2】
金属要素同士の突合部を回転ツールで摩擦攪拌を行う接合方法であって、
前記突合部の一端側から前記突合部の途中までに設けた第一の点までの第一接合範囲に摩擦攪拌を行う第一の摩擦攪拌接合工程と、
前記第一の摩擦攪拌接合工程により生じた第一接合範囲に属する塑性化領域内に設けた第二の点から前記突合部の他端側までの第二接合範囲に摩擦攪拌を行う第二の摩擦攪拌接合工程と、を含み、
前記第一の摩擦攪拌接合工程では、前記第一接合範囲に対する摩擦攪拌のスタート位置が前記金属要素同士の前記突合部の一端側に設定され、かつ、前記第一接合範囲のエンド位置が前記突合部の途中に設けた前記第一の点として設定され、
前記第二の摩擦攪拌接合工程では、前記第二接合範囲に対する摩擦攪拌のスタート位置が前記一端側とは反対の前記突合部の他端側に設定され、かつ、前記第二接合範囲のエンド位置が前記第一接合範囲に属する塑性化領域内に設けた前記第二の点として設定されている、
ことを特徴とする接合方法。
【請求項3】
前記第一の摩擦攪拌接合工程では、前記突合部の一端側の側方に配置された第一タブ部上に前記第一接合範囲に対する摩擦攪拌のエンド位置が設定され、
前記第二の摩擦攪拌接合工程では、前記一端側とは反対の前記突合部の他端側の側方に配置された第二タブ部上に前記第二接合範囲に対する摩擦攪拌のスタート位置が設定されている、
ことを特徴とする請求項1に記載の接合方法。
【請求項4】
前記第一の摩擦攪拌接合工程では、前記突合部の一端側の側方に配置された第一タブ部上に前記第一接合範囲に対する摩擦攪拌のスタート位置が設定され、
前記第二の摩擦攪拌接合工程では、前記一端側とは反対の前記突合部の他端側の側方に配置された第二タブ部上に前記第二接合範囲に対する摩擦攪拌のスタート位置が設定されている、
ことを特徴とする請求項2に記載の接合方法。
【請求項5】
さらに、前記回転ツールの攪拌ピンを前記金属要素の塑性化領域から抜き出した際に生じる抜き穴に金属部材を充填する充填工程を含むことを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の接合方法。
【請求項6】
さらに、前記充填工程でした前記金属部材と塑性化領域とを跨ぐように接合して前記金属部材を抜け穴に仮止めする仮止め工程を含むことを特徴とする請求項5に記載の接合方法。
【請求項7】
請求項1又は請求項2に記載の接合方法において、
前記金属要素を中空部材としたことを特徴とする接合方法。
【請求項8】
請求項7に記載の接合方法において、
前記中空部材の突合面に凹部を成形し、前記中空部材同士の突合部に前記凹部による隙間を形成することを特徴とする接合方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2012−223822(P2012−223822A)
【公開日】平成24年11月15日(2012.11.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−160238(P2012−160238)
【出願日】平成24年7月19日(2012.7.19)
【分割の表示】特願2007−154243(P2007−154243)の分割
【原出願日】平成19年6月11日(2007.6.11)
【出願人】(000004743)日本軽金属株式会社 (627)
【Fターム(参考)】