接合方法
【課題】ボビンツールを用いて一対の金属板を接合する際に、化粧面に凹溝が発生するのを防ぐか、又は、凹溝が形成されたとしてもその凹溝の深さを小さくすることができる接合方法を提供する。
【解決手段】板状端部材102の端面同士を突き合わせる突き合せ工程と、突き合せ部Nに、第一ショルダ11と板状端部材102の表面(化粧面)Saとを対向させ、スライド軸4側から見て右回転させたボビンツール5のピン13を移動させて端面同士を摩擦攪拌接合する接合工程と、を含み、ショルダ間の距離を板状端部材102の板厚以下に設定するとともに、ピン13の外周面には、第一ショルダ11側に右ネジの上部螺旋溝13aが形成されており、この右ネジの螺旋溝がショルダ間の距離に対して25%以上の割合で形成されていることを特徴とする。
【解決手段】板状端部材102の端面同士を突き合わせる突き合せ工程と、突き合せ部Nに、第一ショルダ11と板状端部材102の表面(化粧面)Saとを対向させ、スライド軸4側から見て右回転させたボビンツール5のピン13を移動させて端面同士を摩擦攪拌接合する接合工程と、を含み、ショルダ間の距離を板状端部材102の板厚以下に設定するとともに、ピン13の外周面には、第一ショルダ11側に右ネジの上部螺旋溝13aが形成されており、この右ネジの螺旋溝がショルダ間の距離に対して25%以上の割合で形成されていることを特徴とする。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ボビンツールを用いて一対の金属板を接合する接合方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、金属板の端面同士を摩擦攪拌接合するツールとしてボビンツールが知られている。ボビンツールは、一対のショルダとこのショルダの間に形成されたピンとを備えている。一対の金属板を接合する際には、金属板を移動不能に拘束した上で、金属板の一端側から高速回転させたボビンツールを挿入し、突き合せ部に沿ってピンを移動させる。これにより、端面同士の周囲の金属が摩擦攪拌されて金属板同士を接合することができる。
【0003】
ボビンツールによれば、金属板の裏側にもショルダが配置されるため、通常、金属板の裏側に配置する裏当部材を省略することができる。特に、中空形材の端部同士を接合する際には、裏当部材を設置する作業が煩雑になるため、作業手間を大幅に省略することができる。また、ピンの外周面に例えば螺旋溝を設けることが知られており、この螺旋溝があることで摩擦攪拌の攪拌効率を向上させることができる。
【0004】
ボビンツールを用いた摩擦攪拌接合においては、ピンの軸方向の中心と、金属板の高さ方向の中心とを合わせつつ接合することが好ましいが、金属板が摩擦熱によって変形する場合がある。摩擦熱によって金属板が変形すると、ピンの中心と金属板の中心とが合わなくなり、接合不良になる場合がある。そこで、摩擦攪拌中において、ピンの軸方向の中心と金属板の中心とが極力合うように、金属板の変形に追従してボビンツールが軸方向に移動するように摩擦攪拌装置を構成すればよい。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第2712838号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ここで、ピンの外周面に螺旋溝を形成する場合、塑性流動化された金属はその螺旋溝によって導かれて移動する。前記したように、摩擦攪拌中にボビンツールを軸方向に移動可能に構成すると、この金属の移動によってボビンツールのショルダが力を受けるため、このボビンツールが軸方向にわずかに移動する可能性がある。これにより、金属板の表面にボビンツールが入り込み、凹溝が形成されるという問題がある。摩擦攪拌接合後に金属板の表面を平滑にするための仕上げ処理等を考慮すると、金属板の化粧面側には、凹溝の発生を極力回避したいという要望がある。
【0007】
このような観点から、本発明は、ボビンツールを用いて一対の金属板を接合する際に、金属板の化粧面に凹溝が発生するのを防ぐか、又は、凹溝が形成されたとしてもその凹溝の深さを小さくすることができる接合方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
このような課題を解決するために本発明は、第一ショルダと第二ショルダと前記第一ショルダと前記第二ショルダの間に形成されたピンとを備えたボビンツールと、前記第一ショルダに連結されたスライド軸と、を備え、摩擦攪拌によって金属板が変形して前記金属板の位置が前記ボビンツールの軸方向にずれた際に、そのずれに追従して前記ボビンツールが軸方向に移動するように構成された摩擦攪拌装置を用いて一対の金属板を接合する接合方法であって、前記金属板の端面同士を突き合わせる突き合せ工程と、前記第一ショルダと前記金属板の化粧面とを対向させ、かつ、前記ピンの軸方向の中心と前記金属板の板厚方向の中心とを合わせた後、前記端面同士を突き合せて形成された突き合せ部に前記スライド軸側から見て右回転させた前記ボビンツールのピンを移動させて摩擦攪拌接合する接合工程と、を含み、ショルダ間の距離を前記金属板の板厚以下に設定するとともに、前記ピンの外周面の前記第一ショルダ側に右ネジの螺旋溝が形成されており、この右ネジの螺旋溝が前記ショルダ間の距離に対して25%以上の割合で形成されていることを特徴とする。
【0009】
かかる接合方法によれば、第一ショルダ側の右ネジは25%以上の割合で形成されているため、右ネジの螺旋溝による金属の移動によってボビンツールがスライド軸側に押され、金属板の化粧面にボビンツールが深く入り込むのを防ぐことができる。これにより、化粧面に凹溝が発生するのを防ぐか、又は、凹溝が形成されたとしてもその凹溝の深さを小さくすることができる。
【0010】
また、前記外周面のうち前記右ネジの螺旋溝が形成された部分から前記第二ショルダまでの間に、左ネジの螺旋溝が形成されていることが好ましい。かかる接合方法によれば、摩擦攪拌の攪拌効率を高めることができる。
【0011】
また、本発明は、第一ショルダと第二ショルダと前記第一ショルダと前記第二ショルダの間に形成されたピンとを備えたボビンツールと、前記第一ショルダに連結されたスライド軸と、を備え、摩擦攪拌によって金属板が変形して前記金属板の位置が前記ボビンツールの軸方向にずれた際に、そのずれに追従して前記ボビンツールが軸方向に移動するように構成された摩擦攪拌装置を用いて一対の金属板を接合する接合方法であって、前記金属板の端面同士を突き合わせる突き合せ工程と、前記第一ショルダと前記金属板の化粧面とを対向させ、かつ、前記ピンの軸方向の中心と前記金属板の板厚方向の中心とを合わせた後、前記端面同士を突き合せて形成された突き合せ部に前記スライド軸側から見て左回転させた前記ボビンツールのピンを移動させて摩擦攪拌接合する接合工程と、を含み、ショルダ間の距離を前記金属板の板厚以下に設定するとともに、前記ピンの外周面の前記第一ショルダ側に左ネジの螺旋溝が形成されており、この左ネジの螺旋溝が前記ショルダ間の距離に対して25%以上の割合で形成されていることを特徴とする。
【0012】
かかる接合方法によれば、第一ショルダ側の左ネジは25%以上の割合で形成されているため、左ネジの螺旋溝による金属の移動によってボビンツールがスライド軸側に押され、金属板の化粧面にボビンツールが深く入り込むのを防ぐことができる。これにより、化粧面に凹溝が発生するのを防ぐか、又は、凹溝が形成されたとしてもその凹溝の深さを小さくすることができる。
【0013】
また、前記外周面のうち前記左ネジの螺旋溝が形成された部分から前記第二ショルダまでの間に、右ネジの螺旋溝が形成されていることが好ましい。かかる接合方法によれば、摩擦攪拌の攪拌効率を高めることができる。
【0014】
また、本発明は、第一ショルダと第二ショルダと前記第一ショルダと前記第二ショルダの間に形成されたピンとを備えたボビンツールと、前記第一ショルダに連結されたスライド軸と、を備え、摩擦攪拌によって金属板が変形して前記金属板の位置が前記ボビンツールの軸方向にずれた際に、そのずれに追従して前記ボビンツールが軸方向に移動するように構成された摩擦攪拌装置を用いて一対の金属板を接合する接合方法であって、前記金属板の端面同士を突き合わせる突き合せ工程と、前記第二ショルダと前記金属板の化粧面とを対向させ、かつ、前記ピンの軸方向の中心と前記金属板の板厚方向の中心とを合わせた後、前記端面同士を突き合せて形成された突き合せ部に前記スライド軸側から見て右回転させた前記ボビンツールのピンを移動させて摩擦攪拌接合する接合工程と、を含み、ショルダ間の距離を前記金属板の板厚以下に設定するとともに、前記ピンの外周面の前記第二ショルダ側に左ネジの螺旋溝が形成されており、この左ネジの螺旋溝が前記ショルダ間の距離に対して25%以上の割合で形成されていることを特徴とする。
【0015】
かかる接合方法によれば、第二ショルダ側の左ネジは25%以上の割合で形成されているため、左ネジの螺旋溝による金属の移動によってボビンツールがスライド軸とは反対側に押され、金属板の化粧面にボビンツールが深く入り込むのを防ぐことができる。これにより、化粧面に凹溝が発生するのを防ぐか、又は、凹溝が形成されたとしてもその凹溝の深さを小さくすることができる。
【0016】
また、前記外周面のうち前記左ネジの螺旋溝が形成された部分から前記第一ショルダまでの間に、右ネジの螺旋溝が形成されていることが好ましい。かかる接合方法によれば、摩擦攪拌の攪拌効率を高めることができる。
【0017】
また、本発明は、第一ショルダと第二ショルダと前記第一ショルダと前記第二ショルダの間に形成されたピンとを備えたボビンツールと、前記第一ショルダに連結されたスライド軸と、を備え、摩擦攪拌によって金属板が変形して前記金属板の位置が前記ボビンツールの軸方向にずれた際に、そのずれに追従して前記ボビンツールが軸方向に移動するように構成された摩擦攪拌装置を用いて一対の金属板を接合する接合方法であって、前記金属板の端面同士を突き合わせる突き合せ工程と、前記第二ショルダと前記金属板の化粧面とを対向させ、かつ、前記ピンの軸方向の中心と前記金属板の板厚方向の中心とを合わせた後、前記端面同士を突き合せて形成された突き合せ部に前記スライド軸側から見て左回転させた前記ボビンツールのピンを移動させて摩擦攪拌接合する接合工程と、を含み、ショルダ間の距離を前記金属板の板厚以下に設定するとともに、前記ピンの外周面の前記第二ショルダ側に右ネジの螺旋溝が形成されており、この右ネジの螺旋溝が前記ショルダ間の距離に対して25%以上の割合で形成されていることを特徴とする。
【0018】
かかる接合方法によれば、第二ショルダ側の右ネジは25%以上の割合で形成されているため、右ネジの螺旋溝による金属の移動によってボビンツールがスライド軸とは反対側に押され、金属板の化粧面にボビンツールが深く入り込むのを防ぐことができる。これにより、化粧面に凹溝が発生するのを防ぐか、又は、凹溝が形成されたとしてもその凹溝の深さを小さくすることができる。
【0019】
また、前記外周面のうち前記右ネジの螺旋溝が形成された部分から前記第一ショルダまでの間に、左ネジの螺旋溝が形成されていることが好ましい。かかる接合方法によれば、摩擦攪拌の攪拌効率を高めることができる。
【0020】
また、前記接合工程では、前記金属板の化粧面側を冷却しながら接合することが好ましい。かかる接合方法によれば、流動化された金属の温度の上昇を抑えることにより、凹溝の発生をより抑えることができる。
【発明の効果】
【0021】
本発明に係る接合方法によれば、ボビンツールを用いて一対の金属板を接合する際に、化粧面に凹溝が発生するのを防ぐか、又は、凹溝が形成されたとしてもその凹溝の深さを小さくすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】第一実施形態に係るボビンツールと中空形材を示す斜視図である。
【図2】金属部材の突き合せ状態を示す図であって(a)は突き合せ前、(b)は突き合せ後を示す。
【図3】第一実施形態に係るボビンツールを示す一部透過斜視図である。
【図4】第一実施形態に係るボビンツールを示す斜視図である。
【図5】第一実施形態に係るボビンツールを示す側面図を示す。
【図6】第一実施形態に係る接合方法を示す側断面図である。
【図7】第二実施形態に係る接合方法を示す側断面図である。
【図8】実施例において、金属板の段差に及ぼすネジ比率の影響(突き合せ部の隙間0mm)を示したグラフである。
【図9】実施例において、金属板の段差に及ぼすネジ比率の影響(突き合せ部の隙間1.5mm)を示したグラフである。
【図10】実施例に係る条件Aの金属板の塑性化領域を突き合せ部の隙間別に示す図である。
【図11】実施例に係る条件Bの金属板の塑性化領域を突き合せ部の隙間別に示す図である。
【図12】実施例に係る条件Cの金属板の塑性化領域を突き合せ部の隙間別に示す図である。
【図13】実施例に係る条件Dの金属板の塑性化領域を突き合せ部の隙間別に示す図である。
【図14】実施例に係る条件Eの金属板の塑性化領域を突き合せ部の隙間別に示す図である。
【図15】実施例の結果をまとめた表である。
【図16】ボビンツールを左回転させた場合の概念をまとめた表である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
[第一実施形態]
本発明の第一実施形態について、図面を参照して詳細に説明する。図1に示すように、本実施形態に係る摩擦攪拌装置1は、突き合わされた一対の金属板の突き合せ部Nを摩擦攪拌接合する装置である。摩擦攪拌装置1の先端にはボビンツール5が装着されている。まずは、接合する一対の金属板の説明をする。説明における上下前後左右は図1の矢印に従う。
【0024】
<中空形材>
図2の(a)に示すように、本実施形態では中空形材100Aと中空形材100Bとを接合する場合を例示する。中空形材100Aは、アルミニウム合金製の押出形材であって、断面視矩形の中空部100aを有する長尺部材である。中空形材100Aは、中空部100aを備えた本体部101と、本体部101の左側面の上下端からそれぞれ左側(中空形材100B側)に張り出した板状端部材102,103とを有する。
【0025】
本体部101は、4つの板状部材104,105,106,107で構成され、断面視矩形を呈するように形成されている。板状端部材102,103は、板状を呈し板状部材105に対して垂直になっている。板状端部材102,103の左右方向の長さは、板状部材104の半分程度になっている。また、板状端部材102,103は、板状部材104,105,106,107と同等の厚さになっている。板状端部材102,103は、特許請求の範囲の「金属板」に相当する部位である。
【0026】
中空形材100Bは、中空形材100Aと同等の形状を呈する金属部材である。中空形材100Bは、中空形材100Aと同等の符号を付して詳細な説明は省略する。
【0027】
中空形材100Aと中空形材100Bとを突き合わせる際には、中空形材100Aの板状端部材102,103と中空形材100Bの102,103とをそれぞれ突き合わせる。より詳しくは、中空形材100Aの板状端部材102の端面102aと中空形材100Bの板状端部材102の端面102aとを突き合わせるとともに、中空形材100Aの板状端部材103の端面103aと中空形材100Bの板状端部材103の端面103aとをそれぞれ突き合わせる。図2の(b)に示すように、中空形材100Aと中空形材100Bとを突き合わせると、端面102a,102aの高さ方向の中心同士が重なるとともに、板状端部材102,102の上面と下面とがそれぞれ面一になる。
【0028】
図2の(b)に示すように、端面102a,102a、端面103a,103aがそれぞれ突き合わされた部分を「突き合せ部N」とする。突き合せ部Nを接合する際には、端面102a,102aが密接していることが好ましいが、中空形材100A,100Bの公差や、接合時における摩擦熱によって板状端部材102,102が変形し、端面102a,102aとの間に微細な隙間が生じる場合がある。突き合せ部Nとは、端面102a,102aに微細な隙間が生じている場合も含む概念とする。
【0029】
また、図2の(b)に示すように、中空形材100A,100Bを突き合わせた際に、表側に露出する面を表面Sa、表面Saと反対側の面を裏面Sbとする。
【0030】
なお、本実施形態では接合する対象として中空形材の板状端部材を例示しているが、接合する対象は、摩擦攪拌可能な金属で形成されており、板状を呈する部材であれば特に制限されるものではない。
【0031】
<摩擦攪拌装置>
図3及び図4に示すように、摩擦攪拌装置1は、外部ホルダー2と、外部ホルダー2の内部に配設される内部ホルダー3と、内部ホルダー3内に挿通されるスライド軸4と、スライド軸4の先端に取り付けられたボビンツール5とを有する。
【0032】
外部ホルダー2は、円筒状を呈する部材であって内側に内部ホルダー3を収容する。外部ホルダー2は、摩擦攪拌装置1のチャック部(図示省略)に固定される部位であって、摩擦攪拌装置1の回転駆動に伴って上下方向軸回りに回転する。図4に示すように、内部ホルダー3は、円筒状を呈する部材であって、その外周面には径方向に貫通する長孔3aが形成されている。内部ホルダー3は、外部ホルダー2に固定されることにより外部ホルダー2と一体的に回転する。
【0033】
スライド軸4は、内部ホルダー3の内部に挿通される軸部材である。スライド軸4の側面には、外側に向けて突出する突部4aが形成されている。突部4aと内部ホルダー3の長孔3aとが係合することで、内部ホルダー3とスライド軸4とが一体的に回転する。スライド軸4は、内部ホルダー3に対して長孔3aの範囲内において、上下方向に移動可能になっている。
【0034】
ボビンツール5は、例えば工具鋼で形成されておりスライド軸4に連結されている。ボビンツール5は、スライド軸4の回転に伴って上下方向の軸周りに回転する。ボビンツール5は、第一ショルダ11と、第一ショルダ11の下方に間をあけて配設された第二ショルダ12と、第一ショルダ11と第二ショルダ12とを連結するピン13とを有する。
【0035】
図5に示すように、第一ショルダ11及び第二ショルダ12は、円柱状を呈し、同等の外径を備えている。第一ショルダ11は、スライド軸4に連結されている。ピン13は、円柱状を呈し、第一ショルダ11と第二ショルダ12とを連結する。第二ショルダ12にはピン13が貫通しており、ピン13と第二ショルダ12の下端とがナットで固定されている。
【0036】
ピン13の外径Yは、第一ショルダ11及び第二ショルダ12の外径Xよりも小さくなっている。ピン13の外周面には、上半分に形成された右ネジの上部螺旋溝13aと、下半分に形成された左ネジの下部螺旋溝13bとが刻設されている。つまり、上部螺旋溝13aは上から下に向けて右回りに巻回されるように刻設されており、下部螺旋溝13bは、上から下に向けて左回りに巻回されるように刻設されている。
【0037】
ボビンツール5のショルダ間距離Z(ピン13の長さ)は、中空形材100Aの板状端部材102の板厚T以下になっていることが好ましい。例えば、本実施形態では、ショルダ間距離Zは、中空形材100Aの板状端部材102の板厚Tよりも0.4mm小さくなっている。上部螺旋溝13a、下部螺旋溝13bの溝の深さや、ピッチ等は摩擦攪拌する金属板の材料や板厚T、ショルダ間距離Z等に応じて適宜設定すればよい。
【0038】
第一実施形態では、上部螺旋溝13aと下部螺旋溝13bとはショルダ間距離Zに対して50:50の割合で形成されているが、ボビンツール5を右回転する場合、第一ショルダ11側の右ネジの上部螺旋溝13aと第二ショルダ12側の左ネジの下部螺旋溝13bとがショルダ間距離Zに対して25:75〜100:0の割合で形成されていることが好ましい。つまり、右ネジの上部螺旋溝13aは、第一ショルダ11側において、ショルダ間距離Zに対して25%以上の部分に形成され、上部螺旋溝13a以外の部分の全てが左ネジの下部螺旋溝13bとなるように形成されていてもよい。ボビンツール5を右回転させる場合は、左ネジを設けずに、ピン13の軸方向の全長にわたって右ネジを設けてもよい。
【0039】
ここで、摩擦攪拌接合を行うと、摩擦熱によって板状端部材102,102の温度が上昇し、板状端部材102,102が上方又は下方に反ってしまい、ボビンツール5がその反りに応じて上向き又は下向きの力を受ける。また、摩擦攪拌によって塑性流動化した金属の移動に応じてボビンツール5が上向き又は下向きの力を受ける。
【0040】
本実施形態に係る摩擦攪拌装置1は、スライド軸4が内部ホルダー3内を移動可能に形成されているため、板状端部材102が例えば上方に反った場合や塑性流動化された金属が上向きに流れている場合に、その反りや移動に追従してボビンツール5が所定の距離だけ上方に移動するように構成されている。一方、摩擦攪拌装置1は、板状端部材102が例えば下方に反った場合や塑性流動化された金属が下向きに流れている場合に、その反りや移動に追従してボビンツール5が所定の距離だけ下方に移動するように構成されている。
【0041】
なお、螺旋溝に基づく上下方向への金属の移動は、ボビンツール5のピン13の回転による周方向での金属の移動に比べて微量に止まるものである。したがって、塑性流動化された金属に基づくボビンツール5の移動も微量に止まるものである。
【0042】
次に、第一実施形態のボビンツール5を用いた接合方法について説明する。
第一実施形態の接合方法では、ボビンツール5を右回転させて接合を行う。具体的には、この接合方法では、中空形材同士を突き合わせる突き合せ工程と、突き合せ部Nにボビンツール5を挿入する接合工程と、を行う。ここでは、表面Saを化粧面として設定する。
【0043】
突き合せ工程では、図2に示すように、中空形材100Aと中空形材100Bとを板状端部材102同士で対向させ、端面102a,102a同士及び端面103a,103a同士を面接触させる。より詳しくは、一方の端面102aの中点と、他方の端面102aの中点とが重なるように面接触させる。なお、突き合わせた後は、中空形材100A,100Bが離間しないように、突き合せ部Nに沿って溶接などで仮付けを行ってもよい。中空形材100Aと中空形材100Bとを突き合わせたら、両者を移動不能に拘束する。
【0044】
接合工程では、突き合せ部Nの外部において、ピン13の中心13cが、突き合せ部Nの中心Ncと重なるように位置させる。そして、図6に示すように、右回転させたボビンツール5を突き合せ部Nに沿って移動させる。ボビンツール5が突き合せ部Nに挿入されると、高速回転するピン13によってピン13の周囲の金属が摩擦攪拌され板状端部材102同士が一体化される。ピン13の軌跡には塑性化領域Wが形成される。
【0045】
この接合方法によれば、摩擦攪拌されて流動化された金属は、ピン13の右ネジの上部螺旋溝13aと、左ネジの下部螺旋溝13bに導かれて板状端部材102の中心Ncから表面Sa側及び裏面Sb側にそれぞれ移動する。右ネジの上部螺旋溝13aは25%以上の割合で形成されているため、この螺旋溝による金属の移動によってボビンツール5が板状端部材102に対してスライド軸4側に押され、表面(化粧面)Saに深く入り込むのを防ぐことができる。これにより、化粧面に凹溝が発生するのを防ぐか、又は、凹溝が形成されたとしてもその凹溝の深さを小さくすることができる。凹溝の発生を防ぐか又は凹溝を小さくすることで、表面(化粧面)Saを平滑にする仕上げ処理が容易になる。
【0046】
また、第一実施形態では、上部螺旋溝13aと下部螺旋溝13bの割合が50:50であるため、移動する金属量を均等にすることができる。これにより、ピン13の中心13cと突き合せ部Nの中心Ncとの位置ずれを防ぐことができる。また、上部螺旋溝13a及び下部螺旋溝13bが刻設されているため、摩擦攪拌の攪拌効率を高めることができる。
【0047】
板状端部材102の板厚T(mm)、ショルダ間距離Z(mm)の関係は板状端部材102同士の隙間、板厚、その他の各条件に基づいて下記の式(1)の範囲で適宜設定すればよい。
0≦(T−Z)≦0.8・・・(式1)
【0048】
T−Zの値が0より小さくなると、ボビンツール5の第一ショルダ11の下面及び第二ショルダ12の上面で塑性流動化した金属を十分に押圧することができなくなるため塑性化領域Wの金属が不足して接合欠陥が生じやすい。一方、T−Zの値が0.8を超えると摩擦攪拌装置1への負荷が大きくなるため不適切である。
【0049】
接合工程を行う際には、板状端部材102の表面(化粧面)Saに対して、例えば冷却された気体や液体等を供給可能な冷却装置によって、冷却しながら行うことが好ましい。これにより、板状端部材102の変形を抑制して接合精度を向上させることができる。なお、板状端部材102の裏面Sb側を冷却しながら接合を行ってもよい。
【0050】
[第二実施形態]
第二実施形態に係る接合方法では、ボビンツールの螺旋溝の構成及び回転方向が第一実施形態と相違する。第二実施形態の説明においては、第一実施形態と共通する点については、詳細な説明を省略する。
【0051】
図7は、第二実施形態に係る接合方法を示す側断面図である。ボビンツール5Aのピン13の外周面には、上半分に形成された左ネジの上部螺旋溝13aと、下半分に形成された右ネジの下部螺旋溝13bとが刻設されている。つまり、上部螺旋溝13aは上から下に向けて左回りに巻回されるように刻設されており、下部螺旋溝13bは上から下に向けて右回りに巻回されるように刻設されている。
【0052】
ボビンツール5Aのショルダ間距離(ピン13の長さ)Zは、中空形材100Aの板状端部材102の板厚T以下になっていることが好ましい。例えば、本実施形態では、ショルダ間距離Zは、中空形材100Aの板状端部材102の板厚Tよりも0.4mm小さくなっている。
【0053】
第二実施形態では、上部螺旋溝13aと下部螺旋溝13bとはショルダ間距離Zに対して50:50の割合で形成されているが、ボビンツール5Aを左回転する場合、第一ショルダ11側の左ネジの上部螺旋溝13aと第二ショルダ12側の右ネジの下部螺旋溝13bとがショルダ間距離Zに対して25:75〜100:0の割合で形成されていることが好ましい。つまり、左ネジの上部螺旋溝13aは、第一ショルダ11側において、ショルダ間距離Zに対して25%以上の部分に形成され、上部螺旋溝13a以外の部分の全てが右ネジの下部螺旋溝13bとなるように形成されていてもよい。ボビンツール5Aを左回転させる場合は、右ネジを設けずに、ピン13の軸方向の全長にわたって左ネジを設けてもよい。
【0054】
次に、第二実施形態のボビンツール5Aを用いた接合方法ついて説明する。
第二実施形態の接合方法では、ボビンツール5Aを左回転させて接合を行う。具体的には、この接合方法では、中空形材同士を突き合わせる突き合せ工程と、突き合せ部Nにボビンツール5Aを挿入する接合工程と、を行う。ここでは、表面Saを化粧面として設定する。突合工程は、第一実施形態と同等であるため、説明を省略する。
【0055】
接合工程では、突き合せ部Nの外部において、ピン13の中心13cが、突き合せ部Nの中心Ncと重なるように位置させる。そして、図7に示すように、左回転させたボビンツール5Aを突き合せ部Nに沿って移動させる。ボビンツール5Aが突き合せ部Nに挿入されると、高速回転するピン13によってピン13の周囲の金属が摩擦攪拌され板状端部材102同士が一体化される。ピン13の軌跡には塑性化領域Wが形成される。
【0056】
この接合方法によれば、摩擦攪拌されて流動化された金属は、ピン13の左ネジの上部螺旋溝13aと、右ネジの下部螺旋溝13bに導かれて板状端部材102の中心Ncから表面Sa側及び裏面Sb側にそれぞれ移動する。左ネジの上部螺旋溝13aは25%以上の割合で形成されているため、この螺旋溝による金属の移動によってボビンツール5Aが板状端部材102に対してスライド軸4側に押され、表面(化粧面)Saに深く入り込むのを防ぐことができる。これにより、化粧面に凹溝が発生するのを防ぐか、又は、凹溝が形成されたとしてもその凹溝の深さを小さくすることができる。
【0057】
また、第二実施形態では、上部螺旋溝13aと下部螺旋溝13bの割合が50:50であるため、移動する金属量を均等にすることができる。これにより、ピン13の中心13cと突き合せ部Nの中心Ncとの位置ずれを防ぐことができる。また、上部螺旋溝13a及び下部螺旋溝13bが刻設されているため、摩擦攪拌の攪拌効率を高めることができる。
【実施例】
【0058】
次に、本発明の実施例について説明する。実施例では、第一実施形態のように、ボビンツール5の回転方向をスライド軸4側から見て右回転に設定した。また、右ネジの上部螺旋溝13aと左ネジの下部螺旋溝13bとの割合を変化させて5種類の条件A〜Eを設定し摩擦攪拌接合を行った。
【0059】
条件A(比較例)では、右ネジの上部螺旋溝13aと左ネジの下部螺旋溝13bとの割合を0:100に設定した(右ネジ無し)。
条件Bでは、右ネジの上部螺旋溝13aと左ネジの下部螺旋溝13bとの割合を25:75に設定した。
条件Cでは、右ネジの上部螺旋溝13aと左ネジの下部螺旋溝13bとの割合を50:50に設定した。
条件Dでは、右ネジの上部螺旋溝13aと左ネジの下部螺旋溝13bとの割合を75:25に設定した。
条件Eでは、右ネジの上部螺旋溝13aと左ネジの下部螺旋溝13bとの割合を100:0に設定した(左ネジ無し)。
【0060】
また、実施例では、板厚Tが6.2mmのアルミニウム合金の金属板(A6063−T5)を一対用意して接合した。ボビンツール5の第一ショルダ11及び第二ショルダ12の外径Xは20mm、ピン13の外径Yは12mm、ショルダ間距離Zは5.8mmに設定した。螺旋溝の深さは0.81mmに設定した。ボビンツール5の回転数は800rpm、接合速度は600mm/minに設定した。また、各条件において、突き合せ部Nの隙間との関係を調査するために、隙間を0mm、1.25mm、1.50mm、1.75mm、2.00mmと変えて試験を行った。
【0061】
図8は、実施例において、金属板の段差に及ぼすネジ比率の影響(突き合せ部の隙間0mm)を示したグラフである。図9は、実施例において、金属板の段差に及ぼすネジ比率の影響(突き合せ部の隙間1.5mm)を示したグラフである。「Ad側」とは、ボビンツールの回転方向と進行方向が同一側=右回転の場合進行方向左側、を意味する。「Re側」とは、ボビンツールの回転方向と進行方向が相違する側=右回転の場合進行方向右側を意味する。段差は、接合前の金属板を基準(基準=0)として、接合後の各所の高さ位置を示している。段差がプラス値である場合は凸状になっており、マイナス値である場合は凹状(凹溝)になっていることを示している。
【0062】
図8に示すように、「▲」で示す表面SaのRe側は、条件A〜Eにおいて、プラスの値を示している。つまり、表面SaのRe側は、常に凸状になっている。
【0063】
一方、「◆」で示す表面SaのAd側は、条件Aにおいて、大きなマイナス値を示している。つまり、条件Aにおいて、表面SaのAd側は、大きく凹状になっている。そして、「◆」で示す表面SaのAd側は、右ネジの割合が大きくなるにつれて、表面SaのAd側の凹みが徐々に小さくなり、条件Eでは凸状になっている。
【0064】
他方、「■」で示す裏面SbのAd側は、条件Aにおいて、大きなプラス値を示している。つまり、条件Aにおいて、裏面SbのAd側は、大きく凸状になっている。そして、「■」で示す裏面SbのAd側は、右ネジの割合が大きくなるにつれて、裏面SbのAd側の凹みが徐々に大きくなり、条件D、条件Eでは凹状になっている。つまり、「◆」で示す表面SaのAd側と、「■」で示す裏面SbのAd側は、右ネジの割合に応じて相反する関係にある。また、「◆」で示す表面SaのAd側と、「■」で示す裏面SbのAd側は、条件C(50:50)でもわずかに凹状になっている。
【0065】
図8と図9とを対比すると、突き合せ部の隙間を1.5mmにしても、突き合せ部の隙間が0mmである場合とさほど段差の傾向は変わらないことがわかる。図9の「▲」で示す表面SaのRe側の値及び「●」で示す裏面SbのRe側の値は、図8と比べると全体的に小さくなっていることがわかる。
【0066】
図10は、実施例に係る条件Aの塑性化領域を突き合せ部の隙間別に示す図である。図11は、実施例に係る条件Bの塑性化領域を突き合せ部の隙間別に示す図である。図12は、実施例に係る条件Cの塑性化領域を突き合せ部の隙間別に示す図である。図13は、実施例に係る条件Dの塑性化領域を突き合せ部の隙間別に示す図である。図14は、実施例に係る条件Eの塑性化領域を突き合せ部の隙間別に示す図である。図10〜14における各図の左欄は塑性化領域Wのマクロ組織観察を行った断面図を示し、中欄は塑性化領域Wの表面(化粧面)Sa側の平面図を示し、右欄は塑性化領域Wの裏面Sb側の平面図を示す。
【0067】
図10の左欄に示すように、条件A(比較例)の場合、表面(化粧面)Sa側には大きな凹溝Vが形成されているが、裏面Sb側には凹溝Vが無い。突き合せ部の隙間が1.75mm、2.00mmでは表面Sa側に接合欠陥Qが形成されている。塑性化領域Wは、裏面Sbに向けて徐々に幅広になるようになっている。塑性化領域Wの縞模様は、左右非対称になっている。塑性化領域WのRe側よりもAd側の方が縞模様が濃くなっている。また、図10では、金属板の表面Sa側に比べて裏面Sb側の方がバリPが少ない。
【0068】
図11の左欄に示すように、条件Bの場合、表面(化粧面)Sa側には条件Aに比べて小さな凹溝Vが形成されているが、裏面Sb側には凹溝Vが無い。突き合せ部の隙間が2.00mmでは金属板の内部に接合欠陥Qが形成されている。塑性化領域Wの縞模様は、左右非対称になっている。塑性化領域WのRe側よりもAd側の方が縞模様が濃くなっている。図11の条件Bの裏面Sbと図10の条件Aの裏面Sbとを対比すると、条件Bの方がバリPが多く発生し面が荒くなっている。
【0069】
図12の左欄に示すように、条件Cの場合、表面(化粧面)Sa側には小さな凹溝Vが形成されており、裏面Sb側にも小さな凹溝Vが形成されている。突き合せ部の隙間が2.0mmでは金属板の内部に接合欠陥Qが形成されている。塑性化領域Wの上下の縞模様及び左右の縞模様はそれぞれ略対称になっている。図12の条件Cの表面Saと図11の条件Bの表面Saとを対比すると、条件Cの表面Saの方が凹溝Vの深さが若干小さい。また、条件Cの表面Saには、バリPがほぼ無い。また、条件Cの裏面Sbには、Ad側よりもRe側の方がバリPが多く発生している。
【0070】
図13の左欄に示すように、条件Dの場合、表面(化粧面)Sa側には凹溝Vが形成されておらず、裏面Sb側には小さな凹溝Vが形成されている。突き合せ部の隙間2.00mmでは、金属板の内部に接合欠陥Qが形成されている。また、表面Saよりも裏面Sbの方がバリPが多く発生している。
【0071】
図14の左欄に示すように、条件Eの場合、表面(化粧面)Sa側には凹溝Vが形成されておらず、Sb側には大きな凹溝Vが形成されている。突き合せ部の隙間1.75mm、隙間2.00mmでは、金属板の内部に接合欠陥Qが形成されている。塑性化領域Wは裏面Sbに向けて徐々に幅狭になるようになっている。裏面SbにはバリPが多く発生しているのに対し、表面SaにはバリPが発生していない。
【0072】
図15は、実施例の結果をまとめた表である。符号は、第一実施形態の符号をそのまま参照するものとする。図15の条件A(比較例)の概念図に示すように、右回転で左ネジを100%の範囲で設けると、流動化した金属は螺旋溝に導かれて裏面Sb側に移動する。この金属の移動によって、ボビンツール5の第二ショルダ12が押され、金属板に対してボビンツール5がスライド軸4とは反対側(裏面Sb側)に移動する。これにより、ボビンツール5が表面(化粧面)Sa側に深く入り込むため表面Sa側には大きな凹溝Vが形成される。
【0073】
一方、図15の条件B〜Eに示すように、上部螺旋溝13aとして右ネジ部分を25%以上設ける場合には、右ネジの螺旋溝による金属の移動によってボビンツール5がスライド軸4側に押され、金属板の表面Sa(化粧面)にボビンツール5が深く入り込むのを防ぐことができる。これにより、表面Sa(化粧面)に凹溝Vが発生するのを防ぐか、又は、凹溝Vが形成されたとしてもその凹溝Vの深さを小さくすることができる。これにより、接合後の金属板の表面Saを平滑にするための仕上げ処理の手間を少なくすることができる。ただし、条件B、条件Cにおいては突き合せ部の隙間2.00mmの場合、条件D、条件Eにおいては突き合せ部の隙間1.75mm、隙間2.00mmの場合は接合欠陥Qが発生するため不適切である。これは、突き合せ部の隙間が大きいと接合部分の金属材料が減少するためと考えられる。
【0074】
なお、例えば条件Eのように、右回転で右ネジが100%刻設されている場合において、ボビンツール5が板状端部材102に対して上方に移動して第一ショルダ11の下面の高さ位置が板状端部材102の摩擦攪拌前の表面(化粧面)Saよりも上方に位置し、第一ショルダ11の下面の高さ位置と板状端部材102の摩擦攪拌前の表面Saとの隙間が大きい場合は金属の押さえが不十分になるが、第一ショルダ11の下面の高さ位置と板状端部材102の摩擦攪拌前の表面Saとの隙間が微小である場合は、金属を十分に押えることができる。
【0075】
また、第一ショルダ11の下面の高さ位置と板状端部材102の摩擦攪拌前の表面Saとの隙間が微小である場合は、塑性化領域Wが摩擦攪拌前の表面Saよりもわずかに突出することになる。しかし、板状端部材102の表面Saを平滑にする処理は摩擦攪拌前の表面Saの高さに合わせてその突出した部分を切削すればよいため仕上げ処理が容易になる。
【0076】
また、実施例では、表面Sa側を化粧面として設定したが、裏面Sb側を化粧面として設定してもよい。この場合は、図15を参照するように、ボビンツール5の回転方向、螺旋溝の巻回方向を条件A,B,C,Dのように設定することで、裏面Sb(化粧面)側の凹溝Vが発生するのを防ぐか、又は、凹溝Vが形成されたとしてもその凹溝Vの深さを小さくすることができる。
【0077】
つまり、ボビンツール5を右回転させつつ裏面Sb側を化粧面として設定する場合は、金属板の端面同士を突き合わせる突き合わせ工程と、第二ショルダ12と金属板の化粧面とを対向させ、かつ、ピン13の軸方向の中心と金属板の板厚方向の中心とを合わせた後、突き合せ部Nに右回転させたボビンツール5のピン13を移動させて摩擦攪拌接合する接合工程と、を含み、ショルダ間の距離Zを金属板の板厚以下に設定するとともに、ピン13の外周面の第二ショルダ12側に左ネジの螺旋溝が形成されており、この左ネジの螺旋溝がショルダ間距離Zに対して25%以上の割合で形成されていることが好ましい。
【0078】
かかる接合方法によれば、第二ショルダ12側の左ネジは25%以上の割合で形成されているため、左ネジの螺旋溝による金属の移動によってボビンツール5がスライド軸4とは反対側に押され、金属板の裏面(化粧面)Sbにボビンツールが深く入り込むのを防ぐことができる。これにより、化粧面に凹溝が発生するのを防ぐか、又は、凹溝が形成されたとしてもその凹溝の深さを小さくすることができる。
【0079】
図16は、ボビンツールを左回転させる場合の概念をまとめた表である。
条件F(比較例)では、左ネジの上部螺旋溝13aと右ネジの下部螺旋溝13bとの割合を0:100に設定した(左ネジ無し)。
条件Gでは、左ネジの上部螺旋溝13aと右ネジの下部螺旋溝13bとの割合を25:75に設定した。
条件Hでは、左ネジの上部螺旋溝13aと右ネジの下部螺旋溝13bとの割合を50:50に設定した。
条件Iでは、左ネジの上部螺旋溝13aと右ネジの下部螺旋溝13bとの割合を75:25に設定した。
条件Jでは、左ネジの上部螺旋溝13aと右ネジの下部螺旋溝13bとの割合を100:0に設定した(右ネジ無し)。
【0080】
第二実施形態で示したように、左回転させる場合は、上部螺旋溝13aに左ネジを設け、下部螺旋溝13bに右ネジを設けたボビンツール5Aを用いる。ボビンツール5Aを左回転させる場合は、第一実施形態のボビンツール5とはネジの巻回方向が異なるため、結果的に実施例1と同等の作用効果を示す。つまり、条件G〜条件Jに示すように、摩擦攪拌されて流動化された金属は、ピン13の左ネジの上部螺旋溝13aに導かれて第一ショルダ11側に移動し、右ネジの下部螺旋溝13bに導かれて第二ショルダ12側に移動する。左ネジは25%以上の割合で形成されているため、左ネジの螺旋溝による金属の移動によってボビンツール5Aがスライド軸4側に押され、金属板の表面(化粧面)Saにボビンツール5Aが深く入り込むのを防ぐことができる。これにより、表面(化粧面)Saに凹溝Vが発生するのを防ぐか、又は、凹溝Vが形成されたとしてもその凹溝Vの深さを小さくすることができる。これにより、接合後の金属板の表面Saを平滑にするための仕上げ処理の手間を少なくすることができる。
【0081】
なお、例えば条件Jのように、左回転で左ネジが100%刻設されている場合において、ボビンツール5が板状端部材102に対して上方に移動して第一ショルダ11の下面の高さ位置が板状端部材102の摩擦攪拌前の表面Saよりも上方に位置し、第一ショルダ11の下面の高さ位置と板状端部材102の摩擦攪拌前の表面Saとの隙間が大きい場合は金属の押さえが不十分になるが、第一ショルダ11の下面の高さ位置と板状端部材102の摩擦攪拌前の表面Saとの隙間が微小である場合は、金属を十分に押えることができる。
【0082】
また、第一ショルダ11の下面の高さ位置と板状端部材102の摩擦攪拌前の表面Saとの隙間が微小である場合は、塑性化領域Wが摩擦攪拌前の表面Saよりもわずかに突出することになる。しかし、板状端部材102の表面Saを平滑にする処理は摩擦攪拌前の表面Saの高さに合わせてその突出した部分を切削すればよいため仕上げ処理が容易になる。
【0083】
なお、表面Sa側を化粧面として設定したが、裏面Sb側を化粧面として設定してもよい。この場合は、図16を参照するように、ボビンツール5の回転方向、螺旋溝の巻回方向を条件F,G,H,Iのように設定することで、裏面Sb(化粧面)側の凹溝Vが発生するのを防ぐか、又は、凹溝Vが形成されたとしてもその凹溝Vの深さを小さくすることができる。
【0084】
つまり、ボビンツール5Aを左回転させつつ裏面Sb側を化粧面として設定する場合は、金属板の端面同士を突き合わせる突き合わせ工程と、第二ショルダ12と金属板の化粧面とを対向させ、かつ、ピン13の軸方向の中心と金属板の板厚方向の中心とを合わせた後、突き合せ部Nに左回転させたボビンツール5のピン13を移動させて摩擦攪拌接合する接合工程と、を含み、ショルダ間の距離Zを金属板の板厚以下に設定するとともに、ピン13の外周面の第二ショルダ12側に右ネジの螺旋溝が形成されており、この右ネジの螺旋溝がショルダ間距離Zに対して25%以上の割合で形成されていることが好ましい。
【0085】
かかる接合方法によれば、第二ショルダ12側の右ネジは25%以上の割合で形成されているため、右ネジの螺旋溝による金属の移動によってボビンツール5がスライド軸とは反対側に押され、金属板の裏面(化粧面)Sbにボビンツールが深く入り込むのを防ぐことができる。これにより、化粧面に凹溝が発生するのを防ぐか、又は、凹溝が形成されたとしてもその凹溝の深さを小さくすることができる。
【符号の説明】
【0086】
1 摩擦攪拌装置
2 外部ホルダー
3 内部ホルダー
4 スライド軸
5 ボビンツール
11 第一ショルダ
12 第二ショルダ
13 ピン
13a 上部螺旋溝
13b 下部螺旋溝
100A中空形材
100B中空形材
N 突き合せ部
T 金属板の厚さ
P バリ
V 凹溝
W 塑性化領域
X ショルダの外径
Y ピンの外径
Z ショルダ間距離(ピンの長さ)
【技術分野】
【0001】
本発明は、ボビンツールを用いて一対の金属板を接合する接合方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、金属板の端面同士を摩擦攪拌接合するツールとしてボビンツールが知られている。ボビンツールは、一対のショルダとこのショルダの間に形成されたピンとを備えている。一対の金属板を接合する際には、金属板を移動不能に拘束した上で、金属板の一端側から高速回転させたボビンツールを挿入し、突き合せ部に沿ってピンを移動させる。これにより、端面同士の周囲の金属が摩擦攪拌されて金属板同士を接合することができる。
【0003】
ボビンツールによれば、金属板の裏側にもショルダが配置されるため、通常、金属板の裏側に配置する裏当部材を省略することができる。特に、中空形材の端部同士を接合する際には、裏当部材を設置する作業が煩雑になるため、作業手間を大幅に省略することができる。また、ピンの外周面に例えば螺旋溝を設けることが知られており、この螺旋溝があることで摩擦攪拌の攪拌効率を向上させることができる。
【0004】
ボビンツールを用いた摩擦攪拌接合においては、ピンの軸方向の中心と、金属板の高さ方向の中心とを合わせつつ接合することが好ましいが、金属板が摩擦熱によって変形する場合がある。摩擦熱によって金属板が変形すると、ピンの中心と金属板の中心とが合わなくなり、接合不良になる場合がある。そこで、摩擦攪拌中において、ピンの軸方向の中心と金属板の中心とが極力合うように、金属板の変形に追従してボビンツールが軸方向に移動するように摩擦攪拌装置を構成すればよい。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第2712838号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ここで、ピンの外周面に螺旋溝を形成する場合、塑性流動化された金属はその螺旋溝によって導かれて移動する。前記したように、摩擦攪拌中にボビンツールを軸方向に移動可能に構成すると、この金属の移動によってボビンツールのショルダが力を受けるため、このボビンツールが軸方向にわずかに移動する可能性がある。これにより、金属板の表面にボビンツールが入り込み、凹溝が形成されるという問題がある。摩擦攪拌接合後に金属板の表面を平滑にするための仕上げ処理等を考慮すると、金属板の化粧面側には、凹溝の発生を極力回避したいという要望がある。
【0007】
このような観点から、本発明は、ボビンツールを用いて一対の金属板を接合する際に、金属板の化粧面に凹溝が発生するのを防ぐか、又は、凹溝が形成されたとしてもその凹溝の深さを小さくすることができる接合方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
このような課題を解決するために本発明は、第一ショルダと第二ショルダと前記第一ショルダと前記第二ショルダの間に形成されたピンとを備えたボビンツールと、前記第一ショルダに連結されたスライド軸と、を備え、摩擦攪拌によって金属板が変形して前記金属板の位置が前記ボビンツールの軸方向にずれた際に、そのずれに追従して前記ボビンツールが軸方向に移動するように構成された摩擦攪拌装置を用いて一対の金属板を接合する接合方法であって、前記金属板の端面同士を突き合わせる突き合せ工程と、前記第一ショルダと前記金属板の化粧面とを対向させ、かつ、前記ピンの軸方向の中心と前記金属板の板厚方向の中心とを合わせた後、前記端面同士を突き合せて形成された突き合せ部に前記スライド軸側から見て右回転させた前記ボビンツールのピンを移動させて摩擦攪拌接合する接合工程と、を含み、ショルダ間の距離を前記金属板の板厚以下に設定するとともに、前記ピンの外周面の前記第一ショルダ側に右ネジの螺旋溝が形成されており、この右ネジの螺旋溝が前記ショルダ間の距離に対して25%以上の割合で形成されていることを特徴とする。
【0009】
かかる接合方法によれば、第一ショルダ側の右ネジは25%以上の割合で形成されているため、右ネジの螺旋溝による金属の移動によってボビンツールがスライド軸側に押され、金属板の化粧面にボビンツールが深く入り込むのを防ぐことができる。これにより、化粧面に凹溝が発生するのを防ぐか、又は、凹溝が形成されたとしてもその凹溝の深さを小さくすることができる。
【0010】
また、前記外周面のうち前記右ネジの螺旋溝が形成された部分から前記第二ショルダまでの間に、左ネジの螺旋溝が形成されていることが好ましい。かかる接合方法によれば、摩擦攪拌の攪拌効率を高めることができる。
【0011】
また、本発明は、第一ショルダと第二ショルダと前記第一ショルダと前記第二ショルダの間に形成されたピンとを備えたボビンツールと、前記第一ショルダに連結されたスライド軸と、を備え、摩擦攪拌によって金属板が変形して前記金属板の位置が前記ボビンツールの軸方向にずれた際に、そのずれに追従して前記ボビンツールが軸方向に移動するように構成された摩擦攪拌装置を用いて一対の金属板を接合する接合方法であって、前記金属板の端面同士を突き合わせる突き合せ工程と、前記第一ショルダと前記金属板の化粧面とを対向させ、かつ、前記ピンの軸方向の中心と前記金属板の板厚方向の中心とを合わせた後、前記端面同士を突き合せて形成された突き合せ部に前記スライド軸側から見て左回転させた前記ボビンツールのピンを移動させて摩擦攪拌接合する接合工程と、を含み、ショルダ間の距離を前記金属板の板厚以下に設定するとともに、前記ピンの外周面の前記第一ショルダ側に左ネジの螺旋溝が形成されており、この左ネジの螺旋溝が前記ショルダ間の距離に対して25%以上の割合で形成されていることを特徴とする。
【0012】
かかる接合方法によれば、第一ショルダ側の左ネジは25%以上の割合で形成されているため、左ネジの螺旋溝による金属の移動によってボビンツールがスライド軸側に押され、金属板の化粧面にボビンツールが深く入り込むのを防ぐことができる。これにより、化粧面に凹溝が発生するのを防ぐか、又は、凹溝が形成されたとしてもその凹溝の深さを小さくすることができる。
【0013】
また、前記外周面のうち前記左ネジの螺旋溝が形成された部分から前記第二ショルダまでの間に、右ネジの螺旋溝が形成されていることが好ましい。かかる接合方法によれば、摩擦攪拌の攪拌効率を高めることができる。
【0014】
また、本発明は、第一ショルダと第二ショルダと前記第一ショルダと前記第二ショルダの間に形成されたピンとを備えたボビンツールと、前記第一ショルダに連結されたスライド軸と、を備え、摩擦攪拌によって金属板が変形して前記金属板の位置が前記ボビンツールの軸方向にずれた際に、そのずれに追従して前記ボビンツールが軸方向に移動するように構成された摩擦攪拌装置を用いて一対の金属板を接合する接合方法であって、前記金属板の端面同士を突き合わせる突き合せ工程と、前記第二ショルダと前記金属板の化粧面とを対向させ、かつ、前記ピンの軸方向の中心と前記金属板の板厚方向の中心とを合わせた後、前記端面同士を突き合せて形成された突き合せ部に前記スライド軸側から見て右回転させた前記ボビンツールのピンを移動させて摩擦攪拌接合する接合工程と、を含み、ショルダ間の距離を前記金属板の板厚以下に設定するとともに、前記ピンの外周面の前記第二ショルダ側に左ネジの螺旋溝が形成されており、この左ネジの螺旋溝が前記ショルダ間の距離に対して25%以上の割合で形成されていることを特徴とする。
【0015】
かかる接合方法によれば、第二ショルダ側の左ネジは25%以上の割合で形成されているため、左ネジの螺旋溝による金属の移動によってボビンツールがスライド軸とは反対側に押され、金属板の化粧面にボビンツールが深く入り込むのを防ぐことができる。これにより、化粧面に凹溝が発生するのを防ぐか、又は、凹溝が形成されたとしてもその凹溝の深さを小さくすることができる。
【0016】
また、前記外周面のうち前記左ネジの螺旋溝が形成された部分から前記第一ショルダまでの間に、右ネジの螺旋溝が形成されていることが好ましい。かかる接合方法によれば、摩擦攪拌の攪拌効率を高めることができる。
【0017】
また、本発明は、第一ショルダと第二ショルダと前記第一ショルダと前記第二ショルダの間に形成されたピンとを備えたボビンツールと、前記第一ショルダに連結されたスライド軸と、を備え、摩擦攪拌によって金属板が変形して前記金属板の位置が前記ボビンツールの軸方向にずれた際に、そのずれに追従して前記ボビンツールが軸方向に移動するように構成された摩擦攪拌装置を用いて一対の金属板を接合する接合方法であって、前記金属板の端面同士を突き合わせる突き合せ工程と、前記第二ショルダと前記金属板の化粧面とを対向させ、かつ、前記ピンの軸方向の中心と前記金属板の板厚方向の中心とを合わせた後、前記端面同士を突き合せて形成された突き合せ部に前記スライド軸側から見て左回転させた前記ボビンツールのピンを移動させて摩擦攪拌接合する接合工程と、を含み、ショルダ間の距離を前記金属板の板厚以下に設定するとともに、前記ピンの外周面の前記第二ショルダ側に右ネジの螺旋溝が形成されており、この右ネジの螺旋溝が前記ショルダ間の距離に対して25%以上の割合で形成されていることを特徴とする。
【0018】
かかる接合方法によれば、第二ショルダ側の右ネジは25%以上の割合で形成されているため、右ネジの螺旋溝による金属の移動によってボビンツールがスライド軸とは反対側に押され、金属板の化粧面にボビンツールが深く入り込むのを防ぐことができる。これにより、化粧面に凹溝が発生するのを防ぐか、又は、凹溝が形成されたとしてもその凹溝の深さを小さくすることができる。
【0019】
また、前記外周面のうち前記右ネジの螺旋溝が形成された部分から前記第一ショルダまでの間に、左ネジの螺旋溝が形成されていることが好ましい。かかる接合方法によれば、摩擦攪拌の攪拌効率を高めることができる。
【0020】
また、前記接合工程では、前記金属板の化粧面側を冷却しながら接合することが好ましい。かかる接合方法によれば、流動化された金属の温度の上昇を抑えることにより、凹溝の発生をより抑えることができる。
【発明の効果】
【0021】
本発明に係る接合方法によれば、ボビンツールを用いて一対の金属板を接合する際に、化粧面に凹溝が発生するのを防ぐか、又は、凹溝が形成されたとしてもその凹溝の深さを小さくすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】第一実施形態に係るボビンツールと中空形材を示す斜視図である。
【図2】金属部材の突き合せ状態を示す図であって(a)は突き合せ前、(b)は突き合せ後を示す。
【図3】第一実施形態に係るボビンツールを示す一部透過斜視図である。
【図4】第一実施形態に係るボビンツールを示す斜視図である。
【図5】第一実施形態に係るボビンツールを示す側面図を示す。
【図6】第一実施形態に係る接合方法を示す側断面図である。
【図7】第二実施形態に係る接合方法を示す側断面図である。
【図8】実施例において、金属板の段差に及ぼすネジ比率の影響(突き合せ部の隙間0mm)を示したグラフである。
【図9】実施例において、金属板の段差に及ぼすネジ比率の影響(突き合せ部の隙間1.5mm)を示したグラフである。
【図10】実施例に係る条件Aの金属板の塑性化領域を突き合せ部の隙間別に示す図である。
【図11】実施例に係る条件Bの金属板の塑性化領域を突き合せ部の隙間別に示す図である。
【図12】実施例に係る条件Cの金属板の塑性化領域を突き合せ部の隙間別に示す図である。
【図13】実施例に係る条件Dの金属板の塑性化領域を突き合せ部の隙間別に示す図である。
【図14】実施例に係る条件Eの金属板の塑性化領域を突き合せ部の隙間別に示す図である。
【図15】実施例の結果をまとめた表である。
【図16】ボビンツールを左回転させた場合の概念をまとめた表である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
[第一実施形態]
本発明の第一実施形態について、図面を参照して詳細に説明する。図1に示すように、本実施形態に係る摩擦攪拌装置1は、突き合わされた一対の金属板の突き合せ部Nを摩擦攪拌接合する装置である。摩擦攪拌装置1の先端にはボビンツール5が装着されている。まずは、接合する一対の金属板の説明をする。説明における上下前後左右は図1の矢印に従う。
【0024】
<中空形材>
図2の(a)に示すように、本実施形態では中空形材100Aと中空形材100Bとを接合する場合を例示する。中空形材100Aは、アルミニウム合金製の押出形材であって、断面視矩形の中空部100aを有する長尺部材である。中空形材100Aは、中空部100aを備えた本体部101と、本体部101の左側面の上下端からそれぞれ左側(中空形材100B側)に張り出した板状端部材102,103とを有する。
【0025】
本体部101は、4つの板状部材104,105,106,107で構成され、断面視矩形を呈するように形成されている。板状端部材102,103は、板状を呈し板状部材105に対して垂直になっている。板状端部材102,103の左右方向の長さは、板状部材104の半分程度になっている。また、板状端部材102,103は、板状部材104,105,106,107と同等の厚さになっている。板状端部材102,103は、特許請求の範囲の「金属板」に相当する部位である。
【0026】
中空形材100Bは、中空形材100Aと同等の形状を呈する金属部材である。中空形材100Bは、中空形材100Aと同等の符号を付して詳細な説明は省略する。
【0027】
中空形材100Aと中空形材100Bとを突き合わせる際には、中空形材100Aの板状端部材102,103と中空形材100Bの102,103とをそれぞれ突き合わせる。より詳しくは、中空形材100Aの板状端部材102の端面102aと中空形材100Bの板状端部材102の端面102aとを突き合わせるとともに、中空形材100Aの板状端部材103の端面103aと中空形材100Bの板状端部材103の端面103aとをそれぞれ突き合わせる。図2の(b)に示すように、中空形材100Aと中空形材100Bとを突き合わせると、端面102a,102aの高さ方向の中心同士が重なるとともに、板状端部材102,102の上面と下面とがそれぞれ面一になる。
【0028】
図2の(b)に示すように、端面102a,102a、端面103a,103aがそれぞれ突き合わされた部分を「突き合せ部N」とする。突き合せ部Nを接合する際には、端面102a,102aが密接していることが好ましいが、中空形材100A,100Bの公差や、接合時における摩擦熱によって板状端部材102,102が変形し、端面102a,102aとの間に微細な隙間が生じる場合がある。突き合せ部Nとは、端面102a,102aに微細な隙間が生じている場合も含む概念とする。
【0029】
また、図2の(b)に示すように、中空形材100A,100Bを突き合わせた際に、表側に露出する面を表面Sa、表面Saと反対側の面を裏面Sbとする。
【0030】
なお、本実施形態では接合する対象として中空形材の板状端部材を例示しているが、接合する対象は、摩擦攪拌可能な金属で形成されており、板状を呈する部材であれば特に制限されるものではない。
【0031】
<摩擦攪拌装置>
図3及び図4に示すように、摩擦攪拌装置1は、外部ホルダー2と、外部ホルダー2の内部に配設される内部ホルダー3と、内部ホルダー3内に挿通されるスライド軸4と、スライド軸4の先端に取り付けられたボビンツール5とを有する。
【0032】
外部ホルダー2は、円筒状を呈する部材であって内側に内部ホルダー3を収容する。外部ホルダー2は、摩擦攪拌装置1のチャック部(図示省略)に固定される部位であって、摩擦攪拌装置1の回転駆動に伴って上下方向軸回りに回転する。図4に示すように、内部ホルダー3は、円筒状を呈する部材であって、その外周面には径方向に貫通する長孔3aが形成されている。内部ホルダー3は、外部ホルダー2に固定されることにより外部ホルダー2と一体的に回転する。
【0033】
スライド軸4は、内部ホルダー3の内部に挿通される軸部材である。スライド軸4の側面には、外側に向けて突出する突部4aが形成されている。突部4aと内部ホルダー3の長孔3aとが係合することで、内部ホルダー3とスライド軸4とが一体的に回転する。スライド軸4は、内部ホルダー3に対して長孔3aの範囲内において、上下方向に移動可能になっている。
【0034】
ボビンツール5は、例えば工具鋼で形成されておりスライド軸4に連結されている。ボビンツール5は、スライド軸4の回転に伴って上下方向の軸周りに回転する。ボビンツール5は、第一ショルダ11と、第一ショルダ11の下方に間をあけて配設された第二ショルダ12と、第一ショルダ11と第二ショルダ12とを連結するピン13とを有する。
【0035】
図5に示すように、第一ショルダ11及び第二ショルダ12は、円柱状を呈し、同等の外径を備えている。第一ショルダ11は、スライド軸4に連結されている。ピン13は、円柱状を呈し、第一ショルダ11と第二ショルダ12とを連結する。第二ショルダ12にはピン13が貫通しており、ピン13と第二ショルダ12の下端とがナットで固定されている。
【0036】
ピン13の外径Yは、第一ショルダ11及び第二ショルダ12の外径Xよりも小さくなっている。ピン13の外周面には、上半分に形成された右ネジの上部螺旋溝13aと、下半分に形成された左ネジの下部螺旋溝13bとが刻設されている。つまり、上部螺旋溝13aは上から下に向けて右回りに巻回されるように刻設されており、下部螺旋溝13bは、上から下に向けて左回りに巻回されるように刻設されている。
【0037】
ボビンツール5のショルダ間距離Z(ピン13の長さ)は、中空形材100Aの板状端部材102の板厚T以下になっていることが好ましい。例えば、本実施形態では、ショルダ間距離Zは、中空形材100Aの板状端部材102の板厚Tよりも0.4mm小さくなっている。上部螺旋溝13a、下部螺旋溝13bの溝の深さや、ピッチ等は摩擦攪拌する金属板の材料や板厚T、ショルダ間距離Z等に応じて適宜設定すればよい。
【0038】
第一実施形態では、上部螺旋溝13aと下部螺旋溝13bとはショルダ間距離Zに対して50:50の割合で形成されているが、ボビンツール5を右回転する場合、第一ショルダ11側の右ネジの上部螺旋溝13aと第二ショルダ12側の左ネジの下部螺旋溝13bとがショルダ間距離Zに対して25:75〜100:0の割合で形成されていることが好ましい。つまり、右ネジの上部螺旋溝13aは、第一ショルダ11側において、ショルダ間距離Zに対して25%以上の部分に形成され、上部螺旋溝13a以外の部分の全てが左ネジの下部螺旋溝13bとなるように形成されていてもよい。ボビンツール5を右回転させる場合は、左ネジを設けずに、ピン13の軸方向の全長にわたって右ネジを設けてもよい。
【0039】
ここで、摩擦攪拌接合を行うと、摩擦熱によって板状端部材102,102の温度が上昇し、板状端部材102,102が上方又は下方に反ってしまい、ボビンツール5がその反りに応じて上向き又は下向きの力を受ける。また、摩擦攪拌によって塑性流動化した金属の移動に応じてボビンツール5が上向き又は下向きの力を受ける。
【0040】
本実施形態に係る摩擦攪拌装置1は、スライド軸4が内部ホルダー3内を移動可能に形成されているため、板状端部材102が例えば上方に反った場合や塑性流動化された金属が上向きに流れている場合に、その反りや移動に追従してボビンツール5が所定の距離だけ上方に移動するように構成されている。一方、摩擦攪拌装置1は、板状端部材102が例えば下方に反った場合や塑性流動化された金属が下向きに流れている場合に、その反りや移動に追従してボビンツール5が所定の距離だけ下方に移動するように構成されている。
【0041】
なお、螺旋溝に基づく上下方向への金属の移動は、ボビンツール5のピン13の回転による周方向での金属の移動に比べて微量に止まるものである。したがって、塑性流動化された金属に基づくボビンツール5の移動も微量に止まるものである。
【0042】
次に、第一実施形態のボビンツール5を用いた接合方法について説明する。
第一実施形態の接合方法では、ボビンツール5を右回転させて接合を行う。具体的には、この接合方法では、中空形材同士を突き合わせる突き合せ工程と、突き合せ部Nにボビンツール5を挿入する接合工程と、を行う。ここでは、表面Saを化粧面として設定する。
【0043】
突き合せ工程では、図2に示すように、中空形材100Aと中空形材100Bとを板状端部材102同士で対向させ、端面102a,102a同士及び端面103a,103a同士を面接触させる。より詳しくは、一方の端面102aの中点と、他方の端面102aの中点とが重なるように面接触させる。なお、突き合わせた後は、中空形材100A,100Bが離間しないように、突き合せ部Nに沿って溶接などで仮付けを行ってもよい。中空形材100Aと中空形材100Bとを突き合わせたら、両者を移動不能に拘束する。
【0044】
接合工程では、突き合せ部Nの外部において、ピン13の中心13cが、突き合せ部Nの中心Ncと重なるように位置させる。そして、図6に示すように、右回転させたボビンツール5を突き合せ部Nに沿って移動させる。ボビンツール5が突き合せ部Nに挿入されると、高速回転するピン13によってピン13の周囲の金属が摩擦攪拌され板状端部材102同士が一体化される。ピン13の軌跡には塑性化領域Wが形成される。
【0045】
この接合方法によれば、摩擦攪拌されて流動化された金属は、ピン13の右ネジの上部螺旋溝13aと、左ネジの下部螺旋溝13bに導かれて板状端部材102の中心Ncから表面Sa側及び裏面Sb側にそれぞれ移動する。右ネジの上部螺旋溝13aは25%以上の割合で形成されているため、この螺旋溝による金属の移動によってボビンツール5が板状端部材102に対してスライド軸4側に押され、表面(化粧面)Saに深く入り込むのを防ぐことができる。これにより、化粧面に凹溝が発生するのを防ぐか、又は、凹溝が形成されたとしてもその凹溝の深さを小さくすることができる。凹溝の発生を防ぐか又は凹溝を小さくすることで、表面(化粧面)Saを平滑にする仕上げ処理が容易になる。
【0046】
また、第一実施形態では、上部螺旋溝13aと下部螺旋溝13bの割合が50:50であるため、移動する金属量を均等にすることができる。これにより、ピン13の中心13cと突き合せ部Nの中心Ncとの位置ずれを防ぐことができる。また、上部螺旋溝13a及び下部螺旋溝13bが刻設されているため、摩擦攪拌の攪拌効率を高めることができる。
【0047】
板状端部材102の板厚T(mm)、ショルダ間距離Z(mm)の関係は板状端部材102同士の隙間、板厚、その他の各条件に基づいて下記の式(1)の範囲で適宜設定すればよい。
0≦(T−Z)≦0.8・・・(式1)
【0048】
T−Zの値が0より小さくなると、ボビンツール5の第一ショルダ11の下面及び第二ショルダ12の上面で塑性流動化した金属を十分に押圧することができなくなるため塑性化領域Wの金属が不足して接合欠陥が生じやすい。一方、T−Zの値が0.8を超えると摩擦攪拌装置1への負荷が大きくなるため不適切である。
【0049】
接合工程を行う際には、板状端部材102の表面(化粧面)Saに対して、例えば冷却された気体や液体等を供給可能な冷却装置によって、冷却しながら行うことが好ましい。これにより、板状端部材102の変形を抑制して接合精度を向上させることができる。なお、板状端部材102の裏面Sb側を冷却しながら接合を行ってもよい。
【0050】
[第二実施形態]
第二実施形態に係る接合方法では、ボビンツールの螺旋溝の構成及び回転方向が第一実施形態と相違する。第二実施形態の説明においては、第一実施形態と共通する点については、詳細な説明を省略する。
【0051】
図7は、第二実施形態に係る接合方法を示す側断面図である。ボビンツール5Aのピン13の外周面には、上半分に形成された左ネジの上部螺旋溝13aと、下半分に形成された右ネジの下部螺旋溝13bとが刻設されている。つまり、上部螺旋溝13aは上から下に向けて左回りに巻回されるように刻設されており、下部螺旋溝13bは上から下に向けて右回りに巻回されるように刻設されている。
【0052】
ボビンツール5Aのショルダ間距離(ピン13の長さ)Zは、中空形材100Aの板状端部材102の板厚T以下になっていることが好ましい。例えば、本実施形態では、ショルダ間距離Zは、中空形材100Aの板状端部材102の板厚Tよりも0.4mm小さくなっている。
【0053】
第二実施形態では、上部螺旋溝13aと下部螺旋溝13bとはショルダ間距離Zに対して50:50の割合で形成されているが、ボビンツール5Aを左回転する場合、第一ショルダ11側の左ネジの上部螺旋溝13aと第二ショルダ12側の右ネジの下部螺旋溝13bとがショルダ間距離Zに対して25:75〜100:0の割合で形成されていることが好ましい。つまり、左ネジの上部螺旋溝13aは、第一ショルダ11側において、ショルダ間距離Zに対して25%以上の部分に形成され、上部螺旋溝13a以外の部分の全てが右ネジの下部螺旋溝13bとなるように形成されていてもよい。ボビンツール5Aを左回転させる場合は、右ネジを設けずに、ピン13の軸方向の全長にわたって左ネジを設けてもよい。
【0054】
次に、第二実施形態のボビンツール5Aを用いた接合方法ついて説明する。
第二実施形態の接合方法では、ボビンツール5Aを左回転させて接合を行う。具体的には、この接合方法では、中空形材同士を突き合わせる突き合せ工程と、突き合せ部Nにボビンツール5Aを挿入する接合工程と、を行う。ここでは、表面Saを化粧面として設定する。突合工程は、第一実施形態と同等であるため、説明を省略する。
【0055】
接合工程では、突き合せ部Nの外部において、ピン13の中心13cが、突き合せ部Nの中心Ncと重なるように位置させる。そして、図7に示すように、左回転させたボビンツール5Aを突き合せ部Nに沿って移動させる。ボビンツール5Aが突き合せ部Nに挿入されると、高速回転するピン13によってピン13の周囲の金属が摩擦攪拌され板状端部材102同士が一体化される。ピン13の軌跡には塑性化領域Wが形成される。
【0056】
この接合方法によれば、摩擦攪拌されて流動化された金属は、ピン13の左ネジの上部螺旋溝13aと、右ネジの下部螺旋溝13bに導かれて板状端部材102の中心Ncから表面Sa側及び裏面Sb側にそれぞれ移動する。左ネジの上部螺旋溝13aは25%以上の割合で形成されているため、この螺旋溝による金属の移動によってボビンツール5Aが板状端部材102に対してスライド軸4側に押され、表面(化粧面)Saに深く入り込むのを防ぐことができる。これにより、化粧面に凹溝が発生するのを防ぐか、又は、凹溝が形成されたとしてもその凹溝の深さを小さくすることができる。
【0057】
また、第二実施形態では、上部螺旋溝13aと下部螺旋溝13bの割合が50:50であるため、移動する金属量を均等にすることができる。これにより、ピン13の中心13cと突き合せ部Nの中心Ncとの位置ずれを防ぐことができる。また、上部螺旋溝13a及び下部螺旋溝13bが刻設されているため、摩擦攪拌の攪拌効率を高めることができる。
【実施例】
【0058】
次に、本発明の実施例について説明する。実施例では、第一実施形態のように、ボビンツール5の回転方向をスライド軸4側から見て右回転に設定した。また、右ネジの上部螺旋溝13aと左ネジの下部螺旋溝13bとの割合を変化させて5種類の条件A〜Eを設定し摩擦攪拌接合を行った。
【0059】
条件A(比較例)では、右ネジの上部螺旋溝13aと左ネジの下部螺旋溝13bとの割合を0:100に設定した(右ネジ無し)。
条件Bでは、右ネジの上部螺旋溝13aと左ネジの下部螺旋溝13bとの割合を25:75に設定した。
条件Cでは、右ネジの上部螺旋溝13aと左ネジの下部螺旋溝13bとの割合を50:50に設定した。
条件Dでは、右ネジの上部螺旋溝13aと左ネジの下部螺旋溝13bとの割合を75:25に設定した。
条件Eでは、右ネジの上部螺旋溝13aと左ネジの下部螺旋溝13bとの割合を100:0に設定した(左ネジ無し)。
【0060】
また、実施例では、板厚Tが6.2mmのアルミニウム合金の金属板(A6063−T5)を一対用意して接合した。ボビンツール5の第一ショルダ11及び第二ショルダ12の外径Xは20mm、ピン13の外径Yは12mm、ショルダ間距離Zは5.8mmに設定した。螺旋溝の深さは0.81mmに設定した。ボビンツール5の回転数は800rpm、接合速度は600mm/minに設定した。また、各条件において、突き合せ部Nの隙間との関係を調査するために、隙間を0mm、1.25mm、1.50mm、1.75mm、2.00mmと変えて試験を行った。
【0061】
図8は、実施例において、金属板の段差に及ぼすネジ比率の影響(突き合せ部の隙間0mm)を示したグラフである。図9は、実施例において、金属板の段差に及ぼすネジ比率の影響(突き合せ部の隙間1.5mm)を示したグラフである。「Ad側」とは、ボビンツールの回転方向と進行方向が同一側=右回転の場合進行方向左側、を意味する。「Re側」とは、ボビンツールの回転方向と進行方向が相違する側=右回転の場合進行方向右側を意味する。段差は、接合前の金属板を基準(基準=0)として、接合後の各所の高さ位置を示している。段差がプラス値である場合は凸状になっており、マイナス値である場合は凹状(凹溝)になっていることを示している。
【0062】
図8に示すように、「▲」で示す表面SaのRe側は、条件A〜Eにおいて、プラスの値を示している。つまり、表面SaのRe側は、常に凸状になっている。
【0063】
一方、「◆」で示す表面SaのAd側は、条件Aにおいて、大きなマイナス値を示している。つまり、条件Aにおいて、表面SaのAd側は、大きく凹状になっている。そして、「◆」で示す表面SaのAd側は、右ネジの割合が大きくなるにつれて、表面SaのAd側の凹みが徐々に小さくなり、条件Eでは凸状になっている。
【0064】
他方、「■」で示す裏面SbのAd側は、条件Aにおいて、大きなプラス値を示している。つまり、条件Aにおいて、裏面SbのAd側は、大きく凸状になっている。そして、「■」で示す裏面SbのAd側は、右ネジの割合が大きくなるにつれて、裏面SbのAd側の凹みが徐々に大きくなり、条件D、条件Eでは凹状になっている。つまり、「◆」で示す表面SaのAd側と、「■」で示す裏面SbのAd側は、右ネジの割合に応じて相反する関係にある。また、「◆」で示す表面SaのAd側と、「■」で示す裏面SbのAd側は、条件C(50:50)でもわずかに凹状になっている。
【0065】
図8と図9とを対比すると、突き合せ部の隙間を1.5mmにしても、突き合せ部の隙間が0mmである場合とさほど段差の傾向は変わらないことがわかる。図9の「▲」で示す表面SaのRe側の値及び「●」で示す裏面SbのRe側の値は、図8と比べると全体的に小さくなっていることがわかる。
【0066】
図10は、実施例に係る条件Aの塑性化領域を突き合せ部の隙間別に示す図である。図11は、実施例に係る条件Bの塑性化領域を突き合せ部の隙間別に示す図である。図12は、実施例に係る条件Cの塑性化領域を突き合せ部の隙間別に示す図である。図13は、実施例に係る条件Dの塑性化領域を突き合せ部の隙間別に示す図である。図14は、実施例に係る条件Eの塑性化領域を突き合せ部の隙間別に示す図である。図10〜14における各図の左欄は塑性化領域Wのマクロ組織観察を行った断面図を示し、中欄は塑性化領域Wの表面(化粧面)Sa側の平面図を示し、右欄は塑性化領域Wの裏面Sb側の平面図を示す。
【0067】
図10の左欄に示すように、条件A(比較例)の場合、表面(化粧面)Sa側には大きな凹溝Vが形成されているが、裏面Sb側には凹溝Vが無い。突き合せ部の隙間が1.75mm、2.00mmでは表面Sa側に接合欠陥Qが形成されている。塑性化領域Wは、裏面Sbに向けて徐々に幅広になるようになっている。塑性化領域Wの縞模様は、左右非対称になっている。塑性化領域WのRe側よりもAd側の方が縞模様が濃くなっている。また、図10では、金属板の表面Sa側に比べて裏面Sb側の方がバリPが少ない。
【0068】
図11の左欄に示すように、条件Bの場合、表面(化粧面)Sa側には条件Aに比べて小さな凹溝Vが形成されているが、裏面Sb側には凹溝Vが無い。突き合せ部の隙間が2.00mmでは金属板の内部に接合欠陥Qが形成されている。塑性化領域Wの縞模様は、左右非対称になっている。塑性化領域WのRe側よりもAd側の方が縞模様が濃くなっている。図11の条件Bの裏面Sbと図10の条件Aの裏面Sbとを対比すると、条件Bの方がバリPが多く発生し面が荒くなっている。
【0069】
図12の左欄に示すように、条件Cの場合、表面(化粧面)Sa側には小さな凹溝Vが形成されており、裏面Sb側にも小さな凹溝Vが形成されている。突き合せ部の隙間が2.0mmでは金属板の内部に接合欠陥Qが形成されている。塑性化領域Wの上下の縞模様及び左右の縞模様はそれぞれ略対称になっている。図12の条件Cの表面Saと図11の条件Bの表面Saとを対比すると、条件Cの表面Saの方が凹溝Vの深さが若干小さい。また、条件Cの表面Saには、バリPがほぼ無い。また、条件Cの裏面Sbには、Ad側よりもRe側の方がバリPが多く発生している。
【0070】
図13の左欄に示すように、条件Dの場合、表面(化粧面)Sa側には凹溝Vが形成されておらず、裏面Sb側には小さな凹溝Vが形成されている。突き合せ部の隙間2.00mmでは、金属板の内部に接合欠陥Qが形成されている。また、表面Saよりも裏面Sbの方がバリPが多く発生している。
【0071】
図14の左欄に示すように、条件Eの場合、表面(化粧面)Sa側には凹溝Vが形成されておらず、Sb側には大きな凹溝Vが形成されている。突き合せ部の隙間1.75mm、隙間2.00mmでは、金属板の内部に接合欠陥Qが形成されている。塑性化領域Wは裏面Sbに向けて徐々に幅狭になるようになっている。裏面SbにはバリPが多く発生しているのに対し、表面SaにはバリPが発生していない。
【0072】
図15は、実施例の結果をまとめた表である。符号は、第一実施形態の符号をそのまま参照するものとする。図15の条件A(比較例)の概念図に示すように、右回転で左ネジを100%の範囲で設けると、流動化した金属は螺旋溝に導かれて裏面Sb側に移動する。この金属の移動によって、ボビンツール5の第二ショルダ12が押され、金属板に対してボビンツール5がスライド軸4とは反対側(裏面Sb側)に移動する。これにより、ボビンツール5が表面(化粧面)Sa側に深く入り込むため表面Sa側には大きな凹溝Vが形成される。
【0073】
一方、図15の条件B〜Eに示すように、上部螺旋溝13aとして右ネジ部分を25%以上設ける場合には、右ネジの螺旋溝による金属の移動によってボビンツール5がスライド軸4側に押され、金属板の表面Sa(化粧面)にボビンツール5が深く入り込むのを防ぐことができる。これにより、表面Sa(化粧面)に凹溝Vが発生するのを防ぐか、又は、凹溝Vが形成されたとしてもその凹溝Vの深さを小さくすることができる。これにより、接合後の金属板の表面Saを平滑にするための仕上げ処理の手間を少なくすることができる。ただし、条件B、条件Cにおいては突き合せ部の隙間2.00mmの場合、条件D、条件Eにおいては突き合せ部の隙間1.75mm、隙間2.00mmの場合は接合欠陥Qが発生するため不適切である。これは、突き合せ部の隙間が大きいと接合部分の金属材料が減少するためと考えられる。
【0074】
なお、例えば条件Eのように、右回転で右ネジが100%刻設されている場合において、ボビンツール5が板状端部材102に対して上方に移動して第一ショルダ11の下面の高さ位置が板状端部材102の摩擦攪拌前の表面(化粧面)Saよりも上方に位置し、第一ショルダ11の下面の高さ位置と板状端部材102の摩擦攪拌前の表面Saとの隙間が大きい場合は金属の押さえが不十分になるが、第一ショルダ11の下面の高さ位置と板状端部材102の摩擦攪拌前の表面Saとの隙間が微小である場合は、金属を十分に押えることができる。
【0075】
また、第一ショルダ11の下面の高さ位置と板状端部材102の摩擦攪拌前の表面Saとの隙間が微小である場合は、塑性化領域Wが摩擦攪拌前の表面Saよりもわずかに突出することになる。しかし、板状端部材102の表面Saを平滑にする処理は摩擦攪拌前の表面Saの高さに合わせてその突出した部分を切削すればよいため仕上げ処理が容易になる。
【0076】
また、実施例では、表面Sa側を化粧面として設定したが、裏面Sb側を化粧面として設定してもよい。この場合は、図15を参照するように、ボビンツール5の回転方向、螺旋溝の巻回方向を条件A,B,C,Dのように設定することで、裏面Sb(化粧面)側の凹溝Vが発生するのを防ぐか、又は、凹溝Vが形成されたとしてもその凹溝Vの深さを小さくすることができる。
【0077】
つまり、ボビンツール5を右回転させつつ裏面Sb側を化粧面として設定する場合は、金属板の端面同士を突き合わせる突き合わせ工程と、第二ショルダ12と金属板の化粧面とを対向させ、かつ、ピン13の軸方向の中心と金属板の板厚方向の中心とを合わせた後、突き合せ部Nに右回転させたボビンツール5のピン13を移動させて摩擦攪拌接合する接合工程と、を含み、ショルダ間の距離Zを金属板の板厚以下に設定するとともに、ピン13の外周面の第二ショルダ12側に左ネジの螺旋溝が形成されており、この左ネジの螺旋溝がショルダ間距離Zに対して25%以上の割合で形成されていることが好ましい。
【0078】
かかる接合方法によれば、第二ショルダ12側の左ネジは25%以上の割合で形成されているため、左ネジの螺旋溝による金属の移動によってボビンツール5がスライド軸4とは反対側に押され、金属板の裏面(化粧面)Sbにボビンツールが深く入り込むのを防ぐことができる。これにより、化粧面に凹溝が発生するのを防ぐか、又は、凹溝が形成されたとしてもその凹溝の深さを小さくすることができる。
【0079】
図16は、ボビンツールを左回転させる場合の概念をまとめた表である。
条件F(比較例)では、左ネジの上部螺旋溝13aと右ネジの下部螺旋溝13bとの割合を0:100に設定した(左ネジ無し)。
条件Gでは、左ネジの上部螺旋溝13aと右ネジの下部螺旋溝13bとの割合を25:75に設定した。
条件Hでは、左ネジの上部螺旋溝13aと右ネジの下部螺旋溝13bとの割合を50:50に設定した。
条件Iでは、左ネジの上部螺旋溝13aと右ネジの下部螺旋溝13bとの割合を75:25に設定した。
条件Jでは、左ネジの上部螺旋溝13aと右ネジの下部螺旋溝13bとの割合を100:0に設定した(右ネジ無し)。
【0080】
第二実施形態で示したように、左回転させる場合は、上部螺旋溝13aに左ネジを設け、下部螺旋溝13bに右ネジを設けたボビンツール5Aを用いる。ボビンツール5Aを左回転させる場合は、第一実施形態のボビンツール5とはネジの巻回方向が異なるため、結果的に実施例1と同等の作用効果を示す。つまり、条件G〜条件Jに示すように、摩擦攪拌されて流動化された金属は、ピン13の左ネジの上部螺旋溝13aに導かれて第一ショルダ11側に移動し、右ネジの下部螺旋溝13bに導かれて第二ショルダ12側に移動する。左ネジは25%以上の割合で形成されているため、左ネジの螺旋溝による金属の移動によってボビンツール5Aがスライド軸4側に押され、金属板の表面(化粧面)Saにボビンツール5Aが深く入り込むのを防ぐことができる。これにより、表面(化粧面)Saに凹溝Vが発生するのを防ぐか、又は、凹溝Vが形成されたとしてもその凹溝Vの深さを小さくすることができる。これにより、接合後の金属板の表面Saを平滑にするための仕上げ処理の手間を少なくすることができる。
【0081】
なお、例えば条件Jのように、左回転で左ネジが100%刻設されている場合において、ボビンツール5が板状端部材102に対して上方に移動して第一ショルダ11の下面の高さ位置が板状端部材102の摩擦攪拌前の表面Saよりも上方に位置し、第一ショルダ11の下面の高さ位置と板状端部材102の摩擦攪拌前の表面Saとの隙間が大きい場合は金属の押さえが不十分になるが、第一ショルダ11の下面の高さ位置と板状端部材102の摩擦攪拌前の表面Saとの隙間が微小である場合は、金属を十分に押えることができる。
【0082】
また、第一ショルダ11の下面の高さ位置と板状端部材102の摩擦攪拌前の表面Saとの隙間が微小である場合は、塑性化領域Wが摩擦攪拌前の表面Saよりもわずかに突出することになる。しかし、板状端部材102の表面Saを平滑にする処理は摩擦攪拌前の表面Saの高さに合わせてその突出した部分を切削すればよいため仕上げ処理が容易になる。
【0083】
なお、表面Sa側を化粧面として設定したが、裏面Sb側を化粧面として設定してもよい。この場合は、図16を参照するように、ボビンツール5の回転方向、螺旋溝の巻回方向を条件F,G,H,Iのように設定することで、裏面Sb(化粧面)側の凹溝Vが発生するのを防ぐか、又は、凹溝Vが形成されたとしてもその凹溝Vの深さを小さくすることができる。
【0084】
つまり、ボビンツール5Aを左回転させつつ裏面Sb側を化粧面として設定する場合は、金属板の端面同士を突き合わせる突き合わせ工程と、第二ショルダ12と金属板の化粧面とを対向させ、かつ、ピン13の軸方向の中心と金属板の板厚方向の中心とを合わせた後、突き合せ部Nに左回転させたボビンツール5のピン13を移動させて摩擦攪拌接合する接合工程と、を含み、ショルダ間の距離Zを金属板の板厚以下に設定するとともに、ピン13の外周面の第二ショルダ12側に右ネジの螺旋溝が形成されており、この右ネジの螺旋溝がショルダ間距離Zに対して25%以上の割合で形成されていることが好ましい。
【0085】
かかる接合方法によれば、第二ショルダ12側の右ネジは25%以上の割合で形成されているため、右ネジの螺旋溝による金属の移動によってボビンツール5がスライド軸とは反対側に押され、金属板の裏面(化粧面)Sbにボビンツールが深く入り込むのを防ぐことができる。これにより、化粧面に凹溝が発生するのを防ぐか、又は、凹溝が形成されたとしてもその凹溝の深さを小さくすることができる。
【符号の説明】
【0086】
1 摩擦攪拌装置
2 外部ホルダー
3 内部ホルダー
4 スライド軸
5 ボビンツール
11 第一ショルダ
12 第二ショルダ
13 ピン
13a 上部螺旋溝
13b 下部螺旋溝
100A中空形材
100B中空形材
N 突き合せ部
T 金属板の厚さ
P バリ
V 凹溝
W 塑性化領域
X ショルダの外径
Y ピンの外径
Z ショルダ間距離(ピンの長さ)
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第一ショルダと第二ショルダと前記第一ショルダと前記第二ショルダの間に形成されたピンとを備えたボビンツールと、前記第一ショルダに連結されたスライド軸と、を備え、摩擦攪拌によって金属板が変形して前記金属板の位置が前記ボビンツールの軸方向にずれた際に、そのずれに追従して前記ボビンツールが軸方向に移動するように構成された摩擦攪拌装置を用いて一対の金属板を接合する接合方法であって、
前記金属板の端面同士を突き合わせる突き合せ工程と、
前記第一ショルダと前記金属板の化粧面とを対向させ、かつ、前記ピンの軸方向の中心と前記金属板の板厚方向の中心とを合わせた後、前記端面同士を突き合せて形成された突き合せ部に前記スライド軸側から見て右回転させた前記ボビンツールのピンを移動させて摩擦攪拌接合する接合工程と、を含み、
ショルダ間の距離を前記金属板の板厚以下に設定するとともに、
前記ピンの外周面の前記第一ショルダ側に右ネジの螺旋溝が形成されており、この右ネジの螺旋溝が前記ショルダ間の距離に対して25%以上の割合で形成されていることを特徴とする接合方法。
【請求項2】
前記外周面のうち前記右ネジの螺旋溝が形成された部分から前記第二ショルダまでの間に、左ネジの螺旋溝が形成されていることを特徴とする請求項1に記載の接合方法。
【請求項3】
第一ショルダと第二ショルダと前記第一ショルダと前記第二ショルダの間に形成されたピンとを備えたボビンツールと、前記第一ショルダに連結されたスライド軸と、を備え、摩擦攪拌によって金属板が変形して前記金属板の位置が前記ボビンツールの軸方向にずれた際に、そのずれに追従して前記ボビンツールが軸方向に移動するように構成された摩擦攪拌装置を用いて一対の金属板を接合する接合方法であって、
前記金属板の端面同士を突き合わせる突き合せ工程と、
前記第一ショルダと前記金属板の化粧面とを対向させ、かつ、前記ピンの軸方向の中心と前記金属板の板厚方向の中心とを合わせた後、前記端面同士を突き合せて形成された突き合せ部に前記スライド軸側から見て左回転させた前記ボビンツールのピンを移動させて摩擦攪拌接合する接合工程と、を含み、
ショルダ間の距離を前記金属板の板厚以下に設定するとともに、
前記ピンの外周面の前記第一ショルダ側に左ネジの螺旋溝が形成されており、この左ネジの螺旋溝が前記ショルダ間の距離に対して25%以上の割合で形成されていることを特徴とする接合方法。
【請求項4】
前記外周面のうち前記左ネジの螺旋溝が形成された部分から前記第二ショルダまでの間に、右ネジの螺旋溝が形成されていることを特徴とする請求項3に記載の接合方法。
【請求項5】
第一ショルダと第二ショルダと前記第一ショルダと前記第二ショルダの間に形成されたピンとを備えたボビンツールと、前記第一ショルダに連結されたスライド軸と、を備え、摩擦攪拌によって金属板が変形して前記金属板の位置が前記ボビンツールの軸方向にずれた際に、そのずれに追従して前記ボビンツールが軸方向に移動するように構成された摩擦攪拌装置を用いて一対の金属板を接合する接合方法であって、
前記金属板の端面同士を突き合わせる突き合せ工程と、
前記第二ショルダと前記金属板の化粧面とを対向させ、かつ、前記ピンの軸方向の中心と前記金属板の板厚方向の中心とを合わせた後、前記端面同士を突き合せて形成された突き合せ部に前記スライド軸側から見て右回転させた前記ボビンツールのピンを移動させて摩擦攪拌接合する接合工程と、を含み、
ショルダ間の距離を前記金属板の板厚以下に設定するとともに、
前記ピンの外周面の前記第二ショルダ側に左ネジの螺旋溝が形成されており、この左ネジの螺旋溝が前記ショルダ間の距離に対して25%以上の割合で形成されていることを特徴とする接合方法。
【請求項6】
前記外周面のうち前記左ネジの螺旋溝が形成された部分から前記第一ショルダまでの間に、右ネジの螺旋溝が形成されていることを特徴とする請求項5に記載の接合方法。
【請求項7】
第一ショルダと第二ショルダと前記第一ショルダと前記第二ショルダの間に形成されたピンとを備えたボビンツールと、前記第一ショルダに連結されたスライド軸と、を備え、摩擦攪拌によって金属板が変形して前記金属板の位置が前記ボビンツールの軸方向にずれた際に、そのずれに追従して前記ボビンツールが軸方向に移動するように構成された摩擦攪拌装置を用いて一対の金属板を接合する接合方法であって、
前記金属板の端面同士を突き合わせる突き合せ工程と、
前記第二ショルダと前記金属板の化粧面とを対向させ、かつ、前記ピンの軸方向の中心と前記金属板の板厚方向の中心とを合わせた後、前記端面同士を突き合せて形成された突き合せ部に前記スライド軸側から見て左回転させた前記ボビンツールのピンを移動させて摩擦攪拌接合する接合工程と、を含み、
ショルダ間の距離を前記金属板の板厚以下に設定するとともに、
前記ピンの外周面の前記第二ショルダ側に右ネジの螺旋溝が形成されており、この右ネジの螺旋溝が前記ショルダ間の距離に対して25%以上の割合で形成されていることを特徴とする接合方法。
【請求項8】
前記外周面のうち前記右ネジの螺旋溝が形成された部分から前記第一ショルダまでの間に、左ネジの螺旋溝が形成されていることを特徴とする請求項7に記載の接合方法。
【請求項9】
前記接合工程では、前記金属板の化粧面側を冷却しながら接合することを特徴とする請求項1、請求項3、請求項5又は請求項7に記載の接合方法。
【請求項1】
第一ショルダと第二ショルダと前記第一ショルダと前記第二ショルダの間に形成されたピンとを備えたボビンツールと、前記第一ショルダに連結されたスライド軸と、を備え、摩擦攪拌によって金属板が変形して前記金属板の位置が前記ボビンツールの軸方向にずれた際に、そのずれに追従して前記ボビンツールが軸方向に移動するように構成された摩擦攪拌装置を用いて一対の金属板を接合する接合方法であって、
前記金属板の端面同士を突き合わせる突き合せ工程と、
前記第一ショルダと前記金属板の化粧面とを対向させ、かつ、前記ピンの軸方向の中心と前記金属板の板厚方向の中心とを合わせた後、前記端面同士を突き合せて形成された突き合せ部に前記スライド軸側から見て右回転させた前記ボビンツールのピンを移動させて摩擦攪拌接合する接合工程と、を含み、
ショルダ間の距離を前記金属板の板厚以下に設定するとともに、
前記ピンの外周面の前記第一ショルダ側に右ネジの螺旋溝が形成されており、この右ネジの螺旋溝が前記ショルダ間の距離に対して25%以上の割合で形成されていることを特徴とする接合方法。
【請求項2】
前記外周面のうち前記右ネジの螺旋溝が形成された部分から前記第二ショルダまでの間に、左ネジの螺旋溝が形成されていることを特徴とする請求項1に記載の接合方法。
【請求項3】
第一ショルダと第二ショルダと前記第一ショルダと前記第二ショルダの間に形成されたピンとを備えたボビンツールと、前記第一ショルダに連結されたスライド軸と、を備え、摩擦攪拌によって金属板が変形して前記金属板の位置が前記ボビンツールの軸方向にずれた際に、そのずれに追従して前記ボビンツールが軸方向に移動するように構成された摩擦攪拌装置を用いて一対の金属板を接合する接合方法であって、
前記金属板の端面同士を突き合わせる突き合せ工程と、
前記第一ショルダと前記金属板の化粧面とを対向させ、かつ、前記ピンの軸方向の中心と前記金属板の板厚方向の中心とを合わせた後、前記端面同士を突き合せて形成された突き合せ部に前記スライド軸側から見て左回転させた前記ボビンツールのピンを移動させて摩擦攪拌接合する接合工程と、を含み、
ショルダ間の距離を前記金属板の板厚以下に設定するとともに、
前記ピンの外周面の前記第一ショルダ側に左ネジの螺旋溝が形成されており、この左ネジの螺旋溝が前記ショルダ間の距離に対して25%以上の割合で形成されていることを特徴とする接合方法。
【請求項4】
前記外周面のうち前記左ネジの螺旋溝が形成された部分から前記第二ショルダまでの間に、右ネジの螺旋溝が形成されていることを特徴とする請求項3に記載の接合方法。
【請求項5】
第一ショルダと第二ショルダと前記第一ショルダと前記第二ショルダの間に形成されたピンとを備えたボビンツールと、前記第一ショルダに連結されたスライド軸と、を備え、摩擦攪拌によって金属板が変形して前記金属板の位置が前記ボビンツールの軸方向にずれた際に、そのずれに追従して前記ボビンツールが軸方向に移動するように構成された摩擦攪拌装置を用いて一対の金属板を接合する接合方法であって、
前記金属板の端面同士を突き合わせる突き合せ工程と、
前記第二ショルダと前記金属板の化粧面とを対向させ、かつ、前記ピンの軸方向の中心と前記金属板の板厚方向の中心とを合わせた後、前記端面同士を突き合せて形成された突き合せ部に前記スライド軸側から見て右回転させた前記ボビンツールのピンを移動させて摩擦攪拌接合する接合工程と、を含み、
ショルダ間の距離を前記金属板の板厚以下に設定するとともに、
前記ピンの外周面の前記第二ショルダ側に左ネジの螺旋溝が形成されており、この左ネジの螺旋溝が前記ショルダ間の距離に対して25%以上の割合で形成されていることを特徴とする接合方法。
【請求項6】
前記外周面のうち前記左ネジの螺旋溝が形成された部分から前記第一ショルダまでの間に、右ネジの螺旋溝が形成されていることを特徴とする請求項5に記載の接合方法。
【請求項7】
第一ショルダと第二ショルダと前記第一ショルダと前記第二ショルダの間に形成されたピンとを備えたボビンツールと、前記第一ショルダに連結されたスライド軸と、を備え、摩擦攪拌によって金属板が変形して前記金属板の位置が前記ボビンツールの軸方向にずれた際に、そのずれに追従して前記ボビンツールが軸方向に移動するように構成された摩擦攪拌装置を用いて一対の金属板を接合する接合方法であって、
前記金属板の端面同士を突き合わせる突き合せ工程と、
前記第二ショルダと前記金属板の化粧面とを対向させ、かつ、前記ピンの軸方向の中心と前記金属板の板厚方向の中心とを合わせた後、前記端面同士を突き合せて形成された突き合せ部に前記スライド軸側から見て左回転させた前記ボビンツールのピンを移動させて摩擦攪拌接合する接合工程と、を含み、
ショルダ間の距離を前記金属板の板厚以下に設定するとともに、
前記ピンの外周面の前記第二ショルダ側に右ネジの螺旋溝が形成されており、この右ネジの螺旋溝が前記ショルダ間の距離に対して25%以上の割合で形成されていることを特徴とする接合方法。
【請求項8】
前記外周面のうち前記右ネジの螺旋溝が形成された部分から前記第一ショルダまでの間に、左ネジの螺旋溝が形成されていることを特徴とする請求項7に記載の接合方法。
【請求項9】
前記接合工程では、前記金属板の化粧面側を冷却しながら接合することを特徴とする請求項1、請求項3、請求項5又は請求項7に記載の接合方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図15】
【図16】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図15】
【図16】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【公開番号】特開2012−232341(P2012−232341A)
【公開日】平成24年11月29日(2012.11.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−42212(P2012−42212)
【出願日】平成24年2月28日(2012.2.28)
【出願人】(000004743)日本軽金属株式会社 (627)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年11月29日(2012.11.29)
【国際特許分類】
【出願日】平成24年2月28日(2012.2.28)
【出願人】(000004743)日本軽金属株式会社 (627)
【Fターム(参考)】
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