説明

接合装置、接合方法および金属接合体

【課題】 複数の金属材料を、塑性変形により接合させるための接合装置、接合方法、および金属接合体を提供すること。
【解決手段】 本発明の接合装置は、板状部分で重なり合う少なくとも2以上の金属部材32a,bを接合させるための接合装置であって、凹形状を有し、該凹形状の底部14aの外縁に溝部14bが形成されたダイ14と、ダイ14を背当てとして重なり合う板状部分32の一部を押し出すパンチ18と、パンチ18により押し出される一部の周辺部位に当接して、重なり合う板状部分32を押圧する突起部材22aとを含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、塑性加工技術に関し、より詳細には、複数の金属材料を、塑性変形により接合させるための接合装置、接合方法、および金属接合体に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、自動車などの軽量化を図るために、高張力鋼板やアルミニウム合金板の適用が進められており、これら金属材料からなる板同士を接合させる方法として、抵抗スポット溶接やレーザ溶接などの溶接接合、摩擦撹拌接合(FSW)、セルフピアシングリベット(SPR)やメカニカルクリンチなどの塑性接合といった、種々の接合方法が提案されている(非特許文献1、非特許文献2、非特許文献3)。
【0003】
メカニカルクリンチは、複数の板状部材を重ね、ダイを背当てとしてパンチにより局部的に押し込むことにより、これら板状部材を塑性変形させ、かしめ接合させる冷間塑性接合である。このため、上記接合方法の中でもメカニカルクリンチは、アルミニウム合金板など溶接の難しい材料を好適に締結できる点、異種材料を好適に締結できる点、リベットなどの他部材が不要であり低コスト性、リサイクル性、軽量性および環境調和性を有する点など種々の利点を有し、注目されている。
【0004】
特に、アルミニウム合金板は、鉄と比較して比重が3分の1程度と非常に軽量で、かつ高い強度を有する一方、その高い電気伝導度、熱伝導度、熱膨張係数および凝固収縮率のため、溶融接合の際の材料溶融エネルギーや放熱量が大きくなり、また歪みやクラックが増大してしまうため、結果として、溶接により得られる接合体の強度が不充分であり、設備コストおよび生産コストが増大してしまうという問題を抱えている。このような背景から、アルミニウム合金板などに好適に適用可能な接合方法の提供が望まれていた。アルミニウム合金板の接合方法に関連して、非特許文献4は、アルミニウム合金板と軟鋼板とをメカニカルクリンチにより異材接合する方法を開示する。
【非特許文献1】廣瀬明夫、小林紘二郎、「自動車用溶接・接合技術」、軽金属、第56巻、pp184〜188、2006年3月
【非特許文献2】町田輝史、「生産技術としての接合・複合の役割と最近の動向」、塑性と加工、第34巻、第391号、pp856〜pp859、1993年8月
【非特許文献3】稲葉隆、山下浩之、武林慶樹、箕浦忠行、笹部誠二、「自動車用アルミニウム材料とその周辺技術」、神戸製鋼技報、Vol.55、No.2、pp66〜pp74、2005年9月
【非特許文献4】加藤亨、安部洋平、森謙一郎、松田晃、「メカニカルクリンチングによるアルミニウム合金板と軟鋼板の接合」、第57回塑性加工連合講演会講演論文集、pp381〜pp382、2006年10月
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記メカニカルクリンチは、上述のような種々の利点を有するものの、抵抗スポット溶接などの溶接方法と比較して、得られる接合体の剥離強度が弱く、充分なものではなかった。すなわち、溶接の難しい材料を締結できる点、異種材料を締結できる点、低コストである点、リサイクル性、軽量性および環境調和性を有する点といったメカニカルクリンチの利点を生かしつつ、かつ、従来では不充分であった接合体の剥離強度を向上することを可能とする接合装置、接合方法、および高い接合強度を有する金属接合体の提供が望まれていた。
【0006】
本発明は、上記問題点に鑑みてなされたものであり、塑性変形により、複数の金属部材を高い剥離強度で接合させることを可能とする接合装置および接合方法を提供することを目的とする。また、本発明の他の目的は、高い剥離強度を有する金属接合体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、鋭意検討の結果、上記メカニカルクリンチにより複数の金属部材を塑性接合させた際に、接合部分に形成されるインターロックが成す角度が、得られる金属接合体の剥離強度に大きく影響し、インターロックが成す角度が増大するにつれて剥離強度が向上することを見出した。さらに、ダイおよびパンチの他に、突起部を有する板押さえ部材を用い、パンチにより金属部材を押し出す際に、その突起部を当接させつつ複数の金属部材を押圧することにより、上記インターロックが成す角度を好適に増大させることができることを見出し、本発明に至ったのである。
【0008】
すなわち本発明では、上記課題を解決するために、凹形状を有し該凹形状の底部の外縁に溝部が形成されたダイと、パンチとの間に、少なくとも2以上の金属部材の重なり合う板状部分を配置する。続いて、ダイを背当てとして、パンチによりこの重なり合う板状部分の一部を押し出す。またこれに前後して、パンチにより押し出される押出部位の周辺部位に突起部材を当接させつつ、この重なり合う板状部分を押圧する。
【0009】
上記構成により、パンチにより、上記重なり合う板状部分がダイの凹形状に局所的に押し込まれ、該板状部分の材料が底部の外縁に形成された溝部に流入し、また、該板状部分の押出部位の周辺部位が突起部材により押圧されることによって、凹形状の外側への材料流出が好適に抑制され、接合部分に形成されるインターロックが成す角度が好適に増大する。これにより、突起部材を用いて押圧しない場合のものと比較して、得られる金属接合体の剥離強度を好適に向上させることが可能となる。なお、上記インターロックとは、凹形状の側壁の開口側部分でその内側に湾出し、また底側部分でその外側に湾入する形状をいい、インターロックが成す角度は、凹陥および凸起の方向の軸に対する該形状の入り込みの傾き角度をいう。
【0010】
すなわち本発明によれば、板状部分で重なり合う少なくとも2以上の金属部材を接合させるための接合装置であって、前記接合装置は、
凹形状を有し、該凹形状の底部の外縁に溝部が形成されたダイと、
前記ダイを背当てとして前記重なり合う板状部分の一部を押し出すパンチと、
前記パンチにより押し出される前記一部の周辺部位に当接して、前記重なり合う板状部分を押圧する突起部材と
を含む、接合装置が提供される。
【0011】
前記突起部材は、前記ダイを背当てとして前記重なり合う板状部分を押圧する押さえ部材と一体にその前記パンチを挿通する開口部の周辺に形成されるか、または、前記ダイと一体にその前記凹形状の開口部の周辺に形成されるもとのすることができる。
【0012】
前記突起部は、前記重なり合う板状部分が配置される側の面の前記開口部まわりに周設され、内側に傾斜面、外側に傾斜面、または円弧状の断面の凸曲面を有することができる。
【0013】
またさらに本発明によれば、板状部分で重なり合う少なくとも2以上の金属部材を接合させる接合方法であって、前記接合方法は、
凹形状を有し該凹形状の底部の外縁に溝部が形成されたダイと、パンチとの間に、前記重なり合う板状部分を配置する工程と、
前記重なり合う板状部分を、前記パンチにより押し出される押出部位の周辺部位に突起部材を当接させて押圧し、また、前記ダイを背当てとして、前記パンチにより前記重なり合う板状部分の前記押出部位を押し出す工程と
を含む接合方法が提供される。
【0014】
前記押し出す工程では、前記突起部材を当接させて押圧した後に、前記パンチにより前記押出部位を押し出すことができる。また前記押し出す工程では、前記パンチにより前記押出部位を押し出した後に、前記突起部材を当接させて押圧することができる。前記押し出す工程では、塑性変形により、前記少なくとも2以上の金属部材間の接合界面がなす凹形状を拡底し、前記ダイの前記溝部に前記重なり合う板状部分の一部材料を流入させることができる。前記押し出す工程では、前記パンチの押圧面と、該押圧面に対向する前記ダイの底面との間の距離が所定距離となるまで、前記パンチを圧下させることができる。
【0015】
また前記突起部材は、前記ダイを背当てとして前記重なり合う板状部分を押圧する押さえ部材と一体に形成されるか、前記ダイと一体に形成されるか、または前記パンチと一体に形成されるものとすることができる。さらに前記突起部材は、前記パンチにより押し出される前記押出部位を取り囲み当接するように周設され、外側に傾斜面、内側に傾斜面、または円弧状の断面の凸曲面を有することができる。
【0016】
さらに本発明によれば、少なくとも2以上の金属部材が接合する金属接合体であって、前記金属接合体は、
前記少なくとも2以上の金属部材が、各々が有する板状部分で重なり合う部分と、
前記重なり合う部分の一部で、その一方の面で凸起し他方の面で凹陥する形状の押出部分とを含み、
前記重なり合う部分での前記金属部材間の接合界面がなす凹形状が拡底され、拡底された凹形状の側面が、凸起および凹陥の方向を軸として所定範囲の角度をなす、金属接合体が提供される。
【0017】
前記押出部分の凸起側の面の周辺部位に張出部を有し、前記重なり合う部分の凹陥側の面で該押出部分の周辺部位に窪み部を有することができる。拡底された凹形状の側面は、凸起および凹陥の方向を軸として、20°〜35°の角度をなすものとすることができる。前記少なくとも2以上の金属部材は、アルミニウム合金板、軟鋼板、高張力鋼板および超高張力鋼板からなる群から選択された少なくとも1種類の部材からなるものとすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、本発明を具体的な実施形態をもって説明するが、本発明は、後述する実施形態に限定されるものではない。
【0019】
以下、本発明の複数の金属板材を接合させるための塑性接合装置について説明する。図1は、本発明の特定の実施形態における塑性接合装置を示す概略図である。図1に示した塑性接合装置10は、プレス・ステージ12と、プレス・ステージ12上に配置されたダイ14と、該ダイ14を保持するダイホルダ16と、ダイ14に対向して配置されたパンチ18と、該パンチ18を保持するパンチホルダ20とを含んで構成される。また塑性接合装置10は、パンチ18の先端部分を挿通させるための開口部を備える板押さえ部材22と、該板押さえ部材22を埋設し、板押さえ部材22同様にパンチ18の先端部分を挿通させる開口部を備えた上ストリッパ・プレート24と、ダイ14を取り囲んで配置され、ストリッパ・スプリング(図示せず。)に接続され、ダイ14に引っかかった金属板材を取り外すための下ストリッパ・プレート26と、上ストリッパ・プレート24および下ストリッパ・プレート26の動きをガイドするストリッパ・ガイドピン28とを含んで構成される。また下ストリッパ・プレート26には、金属板材を入れて、該金属板材とダイ14とパンチ18との間の相対位置を決めるための溝26aが堀込まれている。
【0020】
上記パンチ18は、油圧シリンダなどの加圧手段により駆動され、図面上下方向に運動し、ダイ14を背当てとして、当該パンチ18とダイ14との間に配置された複数の金属板材に荷重をかけて押圧し、塑性変形させて接合させる。パンチ18による押圧の際は、油圧シリンダなどの加圧手段の加圧力と、パンチ18の押圧面とダイ底部14aの押圧面との間の距離とを制御して、複数の金属板材を所定の残留底板厚となるまで圧縮する。パンチ18およびダイ14の押圧面間の距離、すなわち接合後の金属板材の残留底板厚は、例えば図示しないストッパ等によりプレスストロークが規定され、所望の厚みとなるように制御される。
【0021】
上ストリッパ・プレート24は、パンチ18の加圧手段とは別に設けられた油圧シリンダ30により駆動され、図面上下方向に運動し、板押さえ部材22を複数の金属板材に押し当てる。板押さえ部材22は、上ストリッパ・プレート24に連動して図面上下方向に運動し、上ストリッパ・プレート24を介して伝達される荷重を、複数の金属板材のパンチ押圧面により押圧される部分の周辺部分にかけて、ダイ14を背当てとして押圧しつつ、複数の金属板材の板押さえをする。なお、他の実施形態では、パンチ18と板押さえ部材22とは、同一の加圧手段により駆動させることもできる。また、上述のダイホルダ16やパンチホルダ20には、圧電式のパワーセンサなどを設置して、ダイ14やパンチ18に印加される圧力を計測する構成としてもよい。
【0022】
図2は、本実施形態の塑性接合装置が備える接合治具の断面形状を示す図である。図2に示した接合治具34は、ダイ14と、パンチ18と、板押さえ部材22とを含んで構成される。ダイ14は、所定の直径dを有する円形状の底部14aと、該底部14aの外縁部位に周設され所定の溝深さeを有する環状の溝部14bとを含む凹形状とされる。また該凹形状は、所定のダイ直径cと、上面14cから底部14aまでの所定ダイ深さfとを有する構成とされる。パンチ18は、所定直径aの押圧面18aを有し、円柱形状とされている。板押さえ部材22は、所定直径bを有しパンチ18の先端部分を挿通させるための開口部22bと、該開口部22b周りに周設され、所定高さhでダイ側に突起する突起部22aとを含んで構成される。
【0023】
ダイ14と、パンチ18および板押さえ部材22との間には、各々所定厚みgを有する2枚の金属板材32a,bが配置され、ダイ14の上面14cにより金属板材32bの下面で支持されている。パンチ18は、その押圧面18aがダイ14の底部14aに対向するように配置され、図面下方向に移動して、2枚の金属板材32a,bを押し出し、ダイ14の底部14aとともに所定の残留底板厚となるまで圧縮し、塑性接合させて、2枚の金属板材32a,bが接合する金属接合体を与える。板押さえ部材22は、ダイ14を背板として、突起部22aを金属板材32aの上面に当接させつつ押圧して、突起部22aをめり込ませ、また、2枚の金属板材32の板押さえをする。
【0024】
本発明では、パンチ18を挿通する開口部22bの周りに周設された突起部22aを、金属板材32aのパンチ押圧部位の周辺部位に当接させつつ、2枚の金属板材32a,bを押圧することによって、突起部22aを備えない板押さえ部材を使用した場合に比較して、得られる金属接合体の金属板材間の接合強度、より具体的には剥離強度を向上させることができることが見出された。以下、得られる金属接合体の剥離強度を向上させるための板押さえ部材について、詳細を説明する。
【0025】
図3は、本発明の特定の実施形態で用いることができる板押さえ部材の断面図を示す。図3(A)に示した板押さえ部材22は、図2に示したものに対応し、高さhの突起部22aと、板部22dと、開口部22bとを含んで構成される。図3(A)に示した突起部22aは、開口部22b(および突起部22aがなす環)に対して外テーパとされており、突起部22aの開口部反対側には、傾斜面22cが形成されており、突起部22aの開口部側には、垂直面が形成されている。
【0026】
図3(B)は、板押さえ部材の他の実施形態を示す断面図である。図3(B)に示した板押さえ部材44は、高さhの突起部44aと、板部44dと、開口部44bとを含んで構成され、突起部44aは、開口部44b(および突起部44aがなす環)に対して内テーパとされており、突起部44aの開口部側には、傾斜面44cが形成されており、突起部44aの開口部反対側には、垂直面が形成されている。
【0027】
図3(C)は、板押さえ部材のさらに他の実施形態を示す断面図である。図3(C)に示した板押さえ部材46は、高さhの突起部46aと、板部46dと、開口部46bとを含んで構成され、突起部46aは、所定の曲率半径Rの円弧状の断面を有する凸曲面46cを含んで構成されている。本発明では、上記図3(A)〜(C)に示す板押さえ部材を用いることにより、好適に金属接合体の金属部材間の剥離強度を向上させることができることが見出された。また中でも特に、図3(C)に示す円弧状の断面を有し凸曲面cを有する板押さえ部材46を用いることが、与えられる金属接合体の金属部材間の剥離強度をより向上させるために好ましい傾向が見られた。
【0028】
なお、上記突起部22a,44a,46aの高さhは、接合させる金属板材の厚みに応じて適宜設計することができるが、金属接合体の剥離強度を向上させるという観点からは、金属板材の厚みに対して0.5割以上の高さを有することが好ましく、より好ましくは、0.6割以上の高さとすることができる。
【0029】
以下、本発明の塑性接合方法について図4を参照しながら説明する。図4は、本発明の塑性接合方法の各工程における接合治具および金属板材の様態を示す断面図である。なお図4においては、図4(A)から図4(D)へ、時系列の順序に並べてある。本発明の塑性接合方法では、まず、ダイ14とパンチ18および板押さえ部材22との間に、接合すべき金属板材32a,bを配置する。図4(A)は、塑性接合方法における初期状態を示し、2枚の金属板材32a,bがダイ14の上面に配置され、パンチ18および板押さえ部材22が、それぞれ、金属板材32aの上面に当接する位置まで下げられている様子を示す。本発明の塑性接合方法では、続いて、板押さえ部材22に荷重をかけて金属板材32aを押圧し、その後、板押さえ部材22による負荷を維持しながら、パンチ18を押し下げる。図4(B)は、板押さえ部材22およびパンチ18が押下され始めた状態を示し、金属板材32aにパンチ18がめり込み、2枚の金属板材32a,bがダイ底部に向けて押し出され、凹形状の空間に膨出している様子を示す。また図4(B)は、突起部22aが金属板材32aにめり込んでいる様子も示している。
【0030】
本発明の塑性接合方法では、続いて、パンチ18を所定の残留底板厚となる位置まで押し下げる。図4(C)は、パンチ18が所定の残留底板厚となる位置まで押下された状態を示し、パンチ18の押圧面とダイ14の底部押圧面とによって、金属板材32a,bが挟圧され、所定の残留底板厚となるまで圧縮されている様子を示す。また図4(C)に示した状態において、上方の金属板材32aと下方の金属板材32bとの接合界面は、ダイ14の凹形状に沿うように、ダイ側に凸、パンチ側に凹の形状とされ、該接合界面を凹形状と見たてた場合に、拡底した該凹形状とされている。図4(C)に示す断面図では、上記接合界面は、凹形状の側面部分でS字形状に湾曲し、インターロックを形成している。
【0031】
本発明の塑性接合方法では、パンチ18を所定の残留底板厚となる位置まで押し下げた後、パンチ18および板押さえ部材22を、図面上方向に引き上げる。図4(D)は、所定の残留底板厚となる位置まで押下された後、パンチ18および板押さえ部材22が引き上げられた状態を示し、2枚の金属板材32a,bが塑性変形し、得られた金属接合体が、所定の残留底板厚を有する押し出し部分と、突起部22aの圧下により形成された窪み部を含んでいる様子を示す。
【0032】
なお上述の説明では、まず板押さえ部材22に荷重をかけて金属板材32を押圧し、その後、板押さえ部材22による負荷を維持しながらパンチ18を押し下げる場合の実施形態を例として説明してきた。しかしながら、本発明の塑性接合方法における他の実施形態では、本発明の剥離強度の向上の効果が得られる限り、パンチ18により2枚の金属板材32を押し出してから、その後、板押さえ部材22に荷重をかけて金属板材32aを押圧する順序とすることもできる。また、板押さえ部材22による押圧と、パンチ18による押し出しとを並列して行なうことも、妨げられるものではない。以下、得られる金属接合体の構造の詳細を説明する。
【0033】
図5は、本発明の特定の実施形態の塑性接合装置および塑性接合方法により得られる金属接合体の断面図である。図5は、金属接合体の接合部分を拡大したものであり、図に示した金属接合体50は、上方の金属板材32aに対応する上層50aと、下方の金属板材32bに対応する下層50bとを含んで構成される。上層50aおよび下層50bは、ダイ14およびパンチ18の押圧により、パンチ18の凸形状およびダイ14の凹形状に沿うように塑性変形され、上層50aの上面側から凹陥し、下層50bの下面側に凸起した形状を有している。また、金属接合体50は、パンチ押圧面とダイ底部の押圧面との距離によって制御される残留底板厚Dを有している。
【0034】
より詳細には、下層50bは、ダイ14の溝部14bにその材料が流入し、底面50dの外縁部分に、高さHで張り出す張出部50cが形成されている。この下層50bの変形に伴って、上層50aの材料が塑性変形により溝部14b側に流れ、底部で広がった拡底部50eが形成されている。上層50aと下層50bとの接合界面50gは、底が広がった凹形状とされ、該凹形状の側壁の開口側部分でその内側に湾出し、また底側部分でその外側に湾入する形状を有している。該凹形状の開口側部位の内側に入り込む構造50fをインターロックといい、ここで、内側に入り込んだ量をインターロック量C、凹陥および凸起の方向の軸に対する該構造fの入り込みの傾きをインターロック角度θとして定義する。
【0035】
本発明では、インターロック角度θが増大するにつれて、得られる金属接合体の剥離強度が向上し、また上述の突起部を有する板押さえ部材を用いることにより、突起部を有さない板押さえ部材を用いた場合に比較して、該インターロック角度θが増大することが見出された。また、上記インターロック角度θは、金属接合体50の張出部50cの張り出し高さHと相関し、高さHが増大するにつれて、インターロック角度θが増大することが見出された。また該高さHは、制御される残留底板厚Dの大きさと相関し、残留底板厚Dを小さくするにつれて、ダイ14の溝部14bの溝深さeに対応する高さまで張り出し高さHが増大することが見出された。
【0036】
なお、本発明の特定の実施形態において用いることができる金属部材としては、純度99.0%以上の高純度アルミニウム(JIS1000系)、アルミニウム−銅系合金(JIS2000系)、アルミニウム−マンガン系合金(JIS3000系)、アルミニウム−ケイ素系合金(JIS4000系)、アルミニウム−マグネシウム系合金(JIS5000系)、アルミニウム−マグネシウム−ケイ素系合金(JIS6000系)、アルミニウム−亜鉛−マグネシウム系合金(JIS7000系)といったアルミニウム材料からなる部材、その他、軟鋼板、高張力鋼板、超高張力鋼板など、種々の金属材料を採用することができる。また金属部材は、その表面に、例えば接合強度を改善させるための樹脂コーティングなど、非金属材料層を含んでいても構わない。
【0037】
上記金属部材の形状としては、特に平板形状のものに限定されるものではなく、少なくとも接合治具に配置される部分で板形状を有し、複数の金属部材の板状部分が該治具内において重なり合うように配置できる限り、如何なる形状をとることができる。また、接合させる金属部材数は、各金属部材の厚み等にも依るが、2つに限定されるものではない。
【0038】
以下、接合治具の他の実施形態を説明する。図6は、他の実施形態の接合治具の断面形状を示す図である。図6に示した接合治具134は、ダイ114と、パンチ118と、板押さえ部材122とを含んで構成される。ダイ114は、突起部114dを有することを除き、図2に示すものと同様の構成とされる。ダイ114の突起部114dは、ダイ凹形状の開口周辺に周設され、所定高さhで金属板材132が配置される側に突起している。パンチ118は、図2に示すものと同様の構成とされる。板押さえ部材122は、パンチ118の先端部分を挿通させるための開口部122bを含んで構成され、図2に示した板押さえ部材22のような突起部を備えない平板とされている。
【0039】
ダイ114と、パンチ118および板押さえ部材122との間には、2枚の金属板材132a,bが配置され支持されている。パンチ118は、その押圧面118aがダイ底部114aに対向するように配置され、図面下方向に移動して2枚の金属板材132a,bを押し出し、塑性接合させる。板押さえ部材122は、少なくともダイ114の突起部114dが当接する部位に対向する金属板材132aの部位を押圧し、突起部114dを金属板材132bにめり込ませる。なお突起部114dの形状も、図3(A)〜(C)に示すような、外テーパ、内テーパまたは円弧状の断面の凸曲面を有するものを使用することができる。本発明では、突起部が金属板材132のパンチ押圧部位の周辺部位に当接するように形成され、インターロック角度θを増大させる効果を奏するものである限り、図6に示すような、ダイ側に突起部を備える接合治具を用いることもできる。また、さらに他の実施形態では、突起部が金属板材のパンチ押圧部位の周辺部位に当接するように形成され、インターロック角度θを増大させる効果を奏するものである限り、突起部をパンチ側に一体的に形成することもでき、また、板押さえ部材とダイとの両方に突起部を備える構成、パンチとダイとの両方に突起部を備える構成を採用することもできる。
【0040】
<有限要素法による数値解析>
上述の板押さえ部材が備える突起部が接合体のインターロック形状に与える影響を考察するために、有限要素法(FEM:Finite Element Method)により、塑性接合時の2次元構造の解析を行なった。その結果を図7に示す。FEM解析では、図2に示すダイおよびパンチと、図3(C)に示す板押さえ部材の2次元形状を数値化し、2枚の平板状部材が重なり合った状態を初期条件として、平板状部材の変位推移を数値解析した。接合治具の形状パラメータは、ダイ底部直径d=5.9mm、溝深さe=0.8mm、ダイ直径c=8.0mm、ダイ深さf=1.4mm、パンチ直径a=5.8mm、開口直径b=8mm、突起部高さ0.7=mm、突起部曲率半径R=0.4mmとした。なお、FEM解析は、軸対称モデルにおいて平板状部材を弾塑性体として計算した。
【0041】
図7(A)は、塑性変形前の平板状部材に相当するメッシュの断面図を示す。図7(B)および(C)は、図7(A)の断面図に示す追跡点(1)〜(6)の径方向(矢印Rで示す方向)についての変位の時間経過を示し、図7(B)は、突起部を備えない平板の板押さえ部材を用いた場合の解析結果を示し、図7(C)は、図3(C)に示す円弧形状の凸曲面を有する板押さえ部材を用いた場合の解析結果を示す。なお、解析では、図7(B)および(C)に示す時刻0から塑性変形を開始させ、各金属板の厚みを1mmとして残留底板厚が0.55mmとなるまで解析を行った。また径方向の変位は、矢印Rで示す方向を正として定義している。さらに図7(A)に示す追跡点は、板押さえ部材の突起部の頂点が当接する位置(1)から対向する位置(1)まで、図面縦方向に上方金属板3点、下側金属板3点の合計6点選択している。
【0042】
図7(B)と図7(C)とを比較すると、突起部を有する板押さえ部材を用いた場合(図7(C))の方が、突起部の無い場合のもの(図7(B))と比較して、外側に変位している追跡点(3)および(6)の変位が抑制され、内側に変位している追跡点(1)、(2)、(4)および(5)の変位が、より負側に増大していることがわかる。このことから、突起部を有する板押さえ部材を用いることにより、凹形状外側への材料流出が抑制され、また内側への材料流入が促進され、溝部への材料の充満のタイミングが早まり、その結果として、大きなインターロック角度θが得られるものと考えられる。
【0043】
以下、本発明の塑性接合装置および塑性接合方法について実施例を用いてより具体的に説明するが、本発明は特定の実施例に限定されるものではない。
【実施例】
【0044】
(実施例1)
<塑性接合装置>
それぞれ焼入れした高硬度のパンチ18およびダイ14と、HRC45〜48のSKD61製の板押さえ部材22とを用いて、図2に示す接合治具34を備えた図1に示す塑性接合装置10を構成した。塑性接合装置10を、万能試験機によりパンチ18を駆動し、パンチホルダ20によりパンチ18が図面縦方向に上下に移動するように構成した。また塑性接合装置10を、板押さえ部材22を上ストリッパ・プレート24の板押さえ部材を保持するための嵌合部に嵌め込み、パンチ18とは別系統の油圧シリンダにより駆動し、該板押さえ部材22が上ストリッパ・プレート24とともに、図面縦方向に上下に移動するように構成した。
【0045】
上記ダイ14として、ダイ深さ1.4mm、ダイ直径8mm、溝深さ0.8mm、溝幅0.7mm、底部直径5.9mmを有するものを用い、上記パンチ18として、直径5.8mmのものを用い、上記板押さえ部材22として、図3(A)に示す、直径8mmの開口部と、高さ0.7mm、先端の幅0.3mm、テーパ角度45度の外テーパ型の突起部とを有するものを用いて、接合治具を構成した。
【0046】
<塑性接合処理>
厚さ1mmのアルミニウム合金板A5182を75mm×25mm角に加工し、試験板を2枚作成した。なお、用いた該アルミニウム合金板は、板厚1mm、引張強さ270N/mm、耐力128N/mm、伸び31%の材料特性を有する。作成した2枚の試験板を十字状に重ね、十字状に重ねた試験板の略中央にパンチが当接するように、ダイおよび下ストリッパ・プレート上に配置した。続いて、突起部を有する板押さえ部材により、その突起部を試験板に当接させつつ、8.3kNの荷重で試験板を押圧し、その後、板押さえ部材の荷重を負荷したままで、所望の残留底板厚に応じた荷重でパンチにより試験板を押し出し、ダイの底面とともに圧縮し、所定の残留底板厚を有する接合体試験片を得た。上記操作を繰り返し、それぞれ残留底板厚が同一または相違する複数の接合体試験片を得た。
【0047】
<剥離試験用試験片の加工>
図8(A)は、得られた接合体試験片の外観を示す写真である。図8(A)には、十字状に重ねられた試験板の略中央に接合部分が形成されている様子が示されている。接合体試験片の剥離強度を評価するために、得られた試験片の一部を剥離試験用に加工した。まず、試験片を剥離試験装置へ取り付け可能とするために、試験板の4箇所に直径10mmのボルト用穴を形成した。図8(B)は、ボルト用穴が形成された試験片の概略を示す平面図である。図8(B)に示す試験片60は、上方の試験板62と下方の試験板64とが十字状に重ねられた状態で接合部分60aにより接合し、図に示すように試験板62および試験板64に、それぞれ2箇所づつボルト用穴62a、64aが形成されている。
【0048】
続いて、ボルト用穴62a、64aが形成された試験片を、上方の試験板62について、図8(B)に示す折り曲げ線62bに沿ってコの字状に折り曲げ、また下方の試験片64についても同様に折り曲げて、剥離試験用の試験片を得た。図8(C)は、剥離試験用試験片の外観を示す写真である。図8(C)には、各試験板がコの字状に折り曲げられ、試験板の背の部分で接合している剥離試験用試験片が示されている。図8(D)は、試験片60の正面図を示し、図面左右方向でコの字状に折り曲げられた試験板62と、図面垂直方向でコの字状に折り曲げられた試験板64が、背の部分において接合部60aにより接合されている様子が示されている。
【0049】
<剥離試験装置>
得られた試験片の剥離強度を測定して評価するために、図9に示す剥離試験装置を構成した。図9に示す剥離試験装置70を、上側引張治具74と、下側引張治具76と、これら上側引張治具74および下側引張治具76との間に生じる変位を計測するダイヤルゲージ式変位測定器72とを含んで構成した。上側引張治具74は、万能試験機の台座78に支持され、先端に試験片60の一方の試験板をボルト60bにより固定し、該試験片60を上側に引っ張るために用いた。下側引張治具76は、上記万能試験機の支持部80に支持され、先端に試験片60の他方の試験板をボルト60bにより固定し、試験片60を下側に引っ張るために用いた。さらに剥離試験装置70を、該ダイヤルゲージ式変位測定器72と上側引張治具74とを連結する連結部材82と、該ダイヤルゲージ式変位測定器72と下側引張治具76とを連結する連結部材84とを含んで構成した。
【0050】
<剥離強度評価>
加工された剥離試験用試験片を、剥離試験装置70の上側引張治具74と下側引張治具76とにボルト60bにより固定した。引張治具74,76により、5.0mm/minの引張速度一定条件で、固定された試験片を引っ張り、引張治具74,76の変位をダイヤルゲージ式変位測定器72により計測し、また上記万能試験機のロードセルにより、試験片が剥離した際の引張力を計測し、その最高荷重値を剥離強度とした。なお、試験片の剥離は、ロードセルの荷重がゼロになったことで判断した。上記操作を、各試験片について繰り返し、それぞれの試験片の剥離強度を求めた。なお、各試験片の剥離強度の測定結果については後述する。
【0051】
<断面形状評価>
塑性接合処理により得られた接合体試験片の一部を、ワイヤーカット放電加工により接合部中央を切断し、光学顕微鏡を用いて、その断面写真を撮影した。その断面写真から、目視にて残留底板厚D、インターロック量C、インターロック角度θ、張り出し高さHの形状パラメータを実測した。なお、各試験片の形状パラメータの実測結果については後述する。
【0052】
(実施例2)
実施例1と同様に、図1に示す塑性接合装置を構成した。塑性接合装置に取り付けた接合治具としては、図2に示すダイ14と、パンチ18と、図3(B)に示す内テーパ型の突起部44aを有する板押さえ部材44とを用い、それ以外の構成は、実施例1のものと同一とした。板押さえ部材44は、実施例1と同一素材を用い、直径8mmの開口部と、高さ0.7mm、幅0.7mm、テーパ角度45度の内テーパ型の突起部とを有する構成とした。
【0053】
塑性接合装置を用いて、実施例1と同一の工程により、2枚の試験板を塑性接合させ、それぞれ残留底板厚が同一または相違する複数の接合体試験片を得た。得られた接合体試験片の一部を、実施例1と同様に剥離用試験片に加工し、剥離強度を測定した。また、得られた接合体試験片の一部を、実施例1と同様に、その断面写真を撮影し、形状パラメータを実測した。なお、各試験片の剥離強度の測定結果、形状パラメータの実測結果については、後述する。
(実施例3)
実施例1と同様に、図1に示す塑性接合装置を構成した。塑性接合装置に取り付けた接合治具としては、図2に示すダイ14と、パンチ18と、図3(C)に示す円弧状の凸曲面型の突起部46aを有する板押さえ部材46とを用い、それ以外の構成は、実施例1のものと同一とした。板押さえ部材46は、実施例1と同一素材を用い、直径8mmの開口部と、高さ0.7mm、曲率半径0.4mmの円弧状の断面の凸曲面型の突起部とを有する構成とした。
【0054】
塑性接合装置を用いて、実施例1と同一の工程により、2枚の試験板を塑性接合させ、それぞれ残留底板厚が同一または相違する複数の接合体試験片を得た。得られた接合体試験片の一部を、実施例1と同様に剥離用試験片に加工し、剥離強度を測定した。また、得られた接合体試験片の一部を、実施例1と同様に、その断面写真を撮影し、形状パラメータを実測した。図10に、撮影された断面写真を示す。なお、各試験片の剥離強度の測定結果、形状パラメータの実測結果、断面形状については、後述する。
【0055】
(比較例1)
実施例1と同様に、図1に示す塑性接合装置を構成した。塑性接合装置に取り付けた接合治具としては、図2に示すダイ14と、パンチ18と、突起部を有さない平板状の板押さえ部材とを用い、それ以外の装置構成は、実施例1のものと同一とした。平板状の板押さえ部材は、実施例1と同一素材を用い、直径8mmの開口部を有する構成とした。
【0056】
塑性接合装置を用いて、実施例1と同一の試験板を用いて、2枚の試験板を十字状に重ね、十字状に重ねた試験板の略中央にパンチが当接するように、ダイおよび下ストリッパ・プレート上に配置した。続いて、平板状の板押さえ部材により、6.3kNの荷重で試験板を押圧し、その後、平板状の板押さえ部材の荷重を負荷したままで、所望の残留底板厚に応じた荷重でパンチにより試験板を押し出し、所定の残留底板厚を有する接合体試験片を得た。上記操作を繰り返し、それぞれ残留底板厚が同一または相違する複数の接合体試験片を得た。
【0057】
得られた接合体試験片の一部を、実施例1と同様に剥離用試験片に加工し、剥離強度を測定した。また、得られた接合体試験片の一部を、実施例1と同様に、その断面写真を撮影し、形状パラメータを実測した。なお、比較例1の各試験片の剥離強度の測定結果、形状パラメータの実測結果、断面形状については、後述する。
【0058】
(実施例1〜3および比較例1についての剥離強度の測定結果)
図11は、実施例1〜3および比較例1において得られた、種々の残留底板厚D(底部板厚)を有する各試験片の剥離強度を、その残留底板厚Dに対してプロットしたグラフである。図11を参照すると、実施例1〜3の試験片は、比較例1のものと比較して、図に示した残留底板厚の範囲にわたって、大きな値の剥離強度を有する傾向が示されている。また、残留底板厚Dが小さくなるにつれ、比較例1に対する剥離強度の相対的な増強量が増加する傾向がみられた。表1には、得られた試験片の剥離強度の評価結果を示す。表1は、実施例1〜3について、表中に示す範囲の底板厚を有する試験片の剥離強度を標本として、比較例1に対する相対的な剥離強度の増加率について、その平均値、最大値および最小値を示す。図11および表1によれば、実施例1〜3の中では、実施例3において得られた試験片の方が、より高い剥離強度を有する傾向が明瞭に確認された。
【0059】
【表1】

【0060】
(実施例3の断面形状と比較例1の断面形状との比較)
図10は、実施例3の試験片の断面形状の断面写真を示す。また図10は、白線により、比較例1の試験片の断面形状を重ね合わせて示す。図10に示す実施例3の試験片は、0.45mmの残留底板厚を有し、比較例1の試験片も、同程度の板厚を有するものを示している。図10に示す断面形状を観察すると、白線により示した比較例1の断面形状に比較して、実施例3の試験片の断面形状の方が、より試験板間の接合界面が拡底しており、より大きなインターロック角度θを有していることが明瞭に確認される。また、実施例3の試験片の張出部も、比較例1のものと比較して、大きな高さを有していることが明瞭に確認される。さらに、上板の凹形状のわきには、板押さえ部材の突起部によって形成された窪みが認められる。
【0061】
(実施例1〜3および比較例1についての形状パラメータと剥離強度の相関)
図12は、実施例1〜3および比較例1の各試験片のインターロック角度θを、その残留底板厚D(底部板厚)に対してプロットしたグラフである。図12を参照すると、実施例1〜3の点と、比較例1の点とは、明瞭に分離していることがわかる。また実施例1〜3の試験片は、比較例1の試験片と比較して、図に示した残留底板厚の範囲にわたって、より大きな値のインターロック角度θを有する傾向があり、比較例1が20°を越えない程度までしかインターロック角度を上昇させていないのに対し、実施例1〜3では、35°に達する程度までインターロック角度を上昇させていることが示されている。一方、インターロック角度θではなく、各試験片のインターロック量Cを、その残留底板厚Dに対してプロットした場合(図示せず)には、実施例1〜3の点と、比較例1の点とは、明瞭に分離しなかった。図13は、実施例1〜3および比較例1の各試験片の剥離強度を、インターロック角度θについて整理し、プロットしたグラフである。図13を参照すると、インターロック角度θと剥離強度との間には、明瞭な相関があり、インターロック角度θが増大するにつれ、剥離強度が向上する傾向が確認された。
【0062】
以上から、突起部のある板押さえ部材を用いることによって、同程度の残留底板厚としたときに、突起部の無いものに比較してより大きなインターロック角度θが得られ、もって、剥離強度を向上させることができることが示された。また、インターロック量Cよりも、インターロック角度を増大させる方が、剥離強度を向上させる観点からは、有効であることが示された。
【0063】
図14は、実施例1〜3および比較例1の各試験片のインターロック角度θを、張り出し高さHについて整理し、プロットしたグラフである。図14を参照すると、張り出し高さHが増加するにつれて、インターロック角度θが増大し、試験板厚1mmに対して張り出し高さ0.6mmとなる近傍から、インターロック角度θが顕著に増大している様子が示されている。張り出し高さHとインターロック角度θとの相関が確認された。なお、図14では、インターロック角度θは、20°近傍までは緩やかに増大し、20°近傍から35°程度まで顕著に増大しているようすが示されている。さらに図15は、実施例1〜3および比較例1の各試験片の張り出し高さHを、残留底板厚Dに対してプロットしたグラフである。図15を参照すると、実施例1〜3については、残留底板厚Dが増加するにつれて張り出し高さHが増加し、ダイの溝深さeに対応する値の近傍を最大値として飽和していることが示されている。また、図14においてインターロック角度θが顕著に増大し始める張り出し高さは、図15において飽和し始める近傍の値に対応し、残留底板厚Dの縮小は、張り出し高さがHがダイ溝深さeと同程度となった後、よりインターロック角度θの増大に寄与していることが示されている。一方、比較例1については、残留底板厚Dが増加するにつれ、張り出し高さHが増加するものの、図示した残留底板厚Dの範囲では、張り出し高さHがダイの溝深さに対応する値の近傍に達せず、残留底板厚Dの縮小に対する高さHの増加率も小さいことが示された。
【0064】
以上により、突起部を有する板押さえ部材を用いることにより、好適にダイ溝部への材料流入が促進され、張り出し高さHが増大し、結果として、インターロック角度θの増大に寄与し、もって剥離強度を向上させることが可能なことが確認された。この結果は、FEM解析の結果とも合致する。
【産業上の利用可能性】
【0065】
以上説明したように、本発明によれば、塑性変形により、複数の金属部材を高い剥離強度で接合させることを可能とする接合装置および接合方法、および高い剥離強度を有する金属接合体を提供することが可能となる。本発明の接合装置および接合方法は、例えば自動車ボディに用いる部材など、高い材料強度が求められる部分を担う部材間を接合する接合装置および接合方法としても適用可能であり、強度の高い自動車ボディ部材を提供することを可能とする。
【0066】
これまで本発明の実施形態について説明してきたが、本発明の実施形態は上述した実施形態に限定されるものではなく、他の実施形態、追加、変更、削除など、当業者が想到することができる範囲内で変更することができ、いずれの態様においても本発明の作用・効果を奏する限り、本発明の範囲に含まれるものである。
【図面の簡単な説明】
【0067】
【図1】本発明の特定の実施形態における塑性接合装置を示す概略図。
【図2】本実施形態の塑性接合装置が備える接合治具の断面図。
【図3】本発明の特定の実施形態で用いることができる板押さえ部材の断面図。
【図4】本発明の塑性接合方法の各工程における接合治具および金属板材の様態を示す断面図。
【図5】本発明の特定の実施形態の塑性接合装置および塑性接合方法により得られる金属接合体の断面図。
【図6】他の実施形態の接合治具の断面図。
【図7】FEM解析の結果を示す図。
【図8】接合体試験片を示す図。
【図9】剥離試験装置示す概略図。
【図10】実施例3の試験片について撮影された断面写真。
【図11】各試験片の剥離強度を底部板厚に対してプロットしたグラフ。
【図12】各試験片のインターロック角度θを底部板厚に対してプロットしたグラフ。
【図13】各試験片の剥離強度をインターロック角度θ対してプロットしたグラフ。
【図14】各試験片のインターロック角度θを張り出し高さHに対してプロットしたグラフ。
【図15】各試験片の張り出し高さHを残留底板厚Dに対してプロットしたグラフ。
【符号の説明】
【0068】
10…塑性接合装置、12…プレス・ステージ、14…ダイ、14a…底部、14b…溝部、14c…上面、16…ダイホルダ、18…パンチ、18a…押圧面、20…パンチホルダ、22…板押さえ部材、22a…突起部、22b…開口部、22c…傾斜面、22d…板部、24…上ストリッパ・プレート、26…下ストリッパ・プレート、28…ストリッパ・ガイドピン、30…油圧シリンダ、34…接合治具、44…板押さえ部材、44a…突起部、44b…開口部、44c…傾斜面、44d…板部、46…板押さえ部材、46a…突起部、46b…開口部、46c…凸曲面、46d…板部、50…金属接合体、50a…上層、50b…下層、50c…張出部、50d…底面、50e…拡底部、50f…構造、50g…接合界面、60…試験片、60b…ボルト、62…試験板、64…試験板、70…剥離試験装置、72…ダイヤルゲージ式変位測定器、74…上側引張治具、76…下側引張治具、78…台座、80…支持部、82…連結部材、84…連結部材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
板状部分で重なり合う少なくとも2以上の金属部材を接合させるための接合装置であって、前記接合装置は、
凹形状を有し、該凹形状の底部の外縁に溝部が形成されたダイと、
前記ダイを背当てとして前記重なり合う板状部分の一部を押し出すパンチと、
前記パンチにより押し出される前記一部の周辺部位に当接して、前記重なり合う板状部分を押圧する突起部材と
を含む、接合装置。
【請求項2】
前記突起部材は、前記ダイを背当てとして前記重なり合う板状部分を押圧する押さえ部材と一体にその前記パンチを挿通する開口部の周辺に形成されるか、または、前記ダイと一体にその前記凹形状の開口部の周辺に形成される、請求項1に記載の接合装置。
【請求項3】
前記突起部材は、前記重なり合う板状部分が配置される側の面の前記開口部まわりに周設され、内側に傾斜面、外側に傾斜面、または円弧状の断面の凸曲面を有する、請求項2に記載の接合装置。
【請求項4】
板状部分で重なり合う少なくとも2以上の金属部材を接合させる接合方法であって、前記接合方法は、
凹形状を有し該凹形状の底部の外縁に溝部が形成されたダイと、パンチとの間に、前記重なり合う板状部分を配置する工程と、
前記重なり合う板状部分を、前記パンチにより押し出される押出部位の周辺部位に突起部材を当接させて押圧し、また、前記ダイを背当てとして、前記パンチにより前記重なり合う板状部分の前記押出部位を押し出す工程と
を含む接合方法。
【請求項5】
前記押し出す工程では、前記突起部材を当接させて押圧した後に、前記パンチにより前記押出部位を押し出す、請求項4に記載の接合方法。
【請求項6】
前記押し出す工程では、前記パンチにより前記押出部位を押し出した後に、前記突起部材を当接させて押圧する、請求項4に記載の接合方法。
【請求項7】
前記押し出す工程では、塑性変形により、前記少なくとも2以上の金属部材間の接合界面がなす凹形状を拡底し、前記ダイの前記溝部に前記重なり合う板状部分の一部材料を流入させる、請求項4〜6のいずれか1項に記載の接合方法。
【請求項8】
前記押し出す工程では、前記パンチの押圧面と、該押圧面に対向する前記ダイの底面との間の距離が所定距離となるまで、前記パンチを圧下させる、請求項4〜7のいずれか1項に記載の接合方法。
【請求項9】
前記突起部材は、前記ダイを背当てとして前記重なり合う板状部分を押圧する押さえ部材と一体に形成されるか、前記ダイと一体に形成されるか、または前記パンチと一体に形成される、請求項4〜8のいずれか1項に記載の接合方法。
【請求項10】
前記突起部材は、前記パンチにより押し出される前記押出部位を取り囲み当接するように周設され、外側に傾斜面、内側に傾斜面、または円弧状の断面の凸曲面を有する、請求項4〜9のいずれか1項に記載の接合方法。
【請求項11】
少なくとも2以上の金属部材が接合する金属接合体であって、前記金属接合体は、
前記少なくとも2以上の金属部材が、各々が有する板状部分で重なり合う部分と、
前記重なり合う部分の一部で、その一方の面で凸起し他方の面で凹陥する形状の押出部分とを含み、
前記重なり合う部分での前記金属部材間の接合界面がなす凹形状が拡底され、拡底された凹形状の側面が、凸起および凹陥の方向を軸として所定範囲の角度をなす、金属接合体。
【請求項12】
前記押出部分の凸起側の面の周辺部位に張出部を有し、前記重なり合う部分の凹陥側の面で該押出部分の周辺部位に窪み部を有する、請求項11に記載の金属接合体。
【請求項13】
拡底された凹形状の側面は、凸起および凹陥の方向を軸として、20°〜35°の角度をなす、請求項11または12に記載の金属接合体。
【請求項14】
前記少なくとも2以上の金属部材は、アルミニウム合金板、軟鋼板、高張力鋼板および超高張力鋼板からなる群から選択された少なくとも1種類の部材からなる、請求項11〜13のいずれか1項に記載の金属接合体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【公開番号】特開2009−90354(P2009−90354A)
【公開日】平成21年4月30日(2009.4.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−265338(P2007−265338)
【出願日】平成19年10月11日(2007.10.11)
【出願人】(304021417)国立大学法人東京工業大学 (1,821)