説明

接木クリップ

【課題】 接木作業における作業工数の低減を図ると共に、接木苗の接合不良の低減を図る。
【解決手段】 接木苗の接合部位を把持する左右一対の把持部(102)と、該左右一対の把持部(102)を開閉するための左右一対の開閉部(103)を備え、把持部(102)と開閉部(103)の間に位置する回動支点回りに把持部(102)が回動して開閉する構成とし、左右の把持部(102)が閉じる側へ付勢する弾性部材(104)を設けた接木クリップにおいて、左右の把持部(102)には、該左右の把持部(102)間の把持空間を通って左右方向に貫通する貫通孔(126)を設けた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、接木クリップの技術分野に属する。
【背景技術】
【0002】
接木苗製造装置又は手作業により、台木苗の上部を切断して除去し、穂木苗の下部を切断して除去し、残った台木苗の下部と穂木苗の上部を各々の苗の切断面を合わせて接合して接木苗を製造する方法がある。
【0003】
そして、製造された接木苗の接合部位を把持する左右一対の把持部と、該左右一対の把持部を開閉するための左右一対の開閉部を備え、把持部と開閉部の間に位置する回動支点回りに把持部が回動して開閉する構成とし、左右の把持部が閉じる側へ付勢する弾性部材であるリング状のスプリングを設けた接木クリップがある。この接木クリップは、把持部と開閉部が左右各々で一体となった左右のクリップ片を構成し、左右のクリップ片が把持部と開閉部の間で互いに接触して回動支点を構成し、左右の開閉部を閉じると左右の把持部が開く構成となっている。また、左右の把持部間の把持空間内において最も左右幅が広くなる把持位置で、上下に苗の胚軸を通して台木苗及び穂木苗からなる接木苗の接合部位を把持する構成となっている。尚、左右の把持部には、左右の把持部間の把持空間を通って左右方向に貫通する貫通孔を備えていない。また、接木クリップの外形ひいては左右の把持部は上下対称に構成され、従って、把持部の上側の端縁は、左右の把持部で同じ位置で且つ同一平面上に構成されている(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平7−163236号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
接木クリップにより接木苗の接合部を把持したとき、接木苗の接合部及びその周辺は左右の把持部に覆われるので、台木苗の切断面と穂木苗の切断面の位置がずれて良好に接合されていなくても視認できず、接木苗から接木クリップを外して接合状態を確認しなければならないので、余分な手間を要すると共に、接木クリップを外すことにより台木苗及び穂木苗の切断面に空気が触れ易くなり、切断面が乾燥して良好な接合の妨げになるおそれがある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、次のような技術的手段を講じた。
すなわち、請求項1に係る発明は、接木苗の接合部位を把持する左右一対の把持部(102)と、該左右一対の把持部(102)を開閉するための左右一対の開閉部(103)を備え、把持部(102)と開閉部(103)の間に位置する回動支点回りに把持部(102)が回動して開閉する構成とし、左右の把持部(102)が閉じる側へ付勢する弾性部材(104)を設けた接木クリップにおいて、左右の把持部(102)には、該左右の把持部(102)間の把持空間(123)を通って左右方向に貫通する貫通孔(126)を設けた接木クリップとした。
【0007】
また、請求項2に係る発明は、貫通孔(126)を左右の把持部(102)の回動軸心方向となる上下方向に複数配列し、隣接する貫通孔(126)の間に配置される把持部材(125)を、把持部(102)の上下幅の中央位置で且つ左右に対向させるべく左右各々の把持部(102)に形成した請求項1に記載の接木クリップとした。
【0008】
また、請求項3に係る発明は、左右の把持部材(125)の外側に接触させて弾性部材(104)を配置した請求項2に記載の接木クリップとした。
また、請求項4に係る発明は、貫通孔(126)を、把持空間(123)内において最も左右幅が広くなる把持位置(127)に対して、前後にわたって連通させて形成した請求項1又は請求項2に記載の接木クリップとした。
【0009】
また、請求項5に係る発明は、左右一方側の把持部(102)の上側の少なくとも一部の端縁が、対向する左右他方側の把持部(102)の上側の端縁よりも低位となるよう形成した請求項1又は請求項2に記載の接木クリップとした。
【発明の効果】
【0010】
請求項1に係る発明によると、接木苗から接木クリップを外さなくても、貫通孔126を介して容易に接木苗の接合状態を判断することができると共に、貫通孔126に治具129等を挿入して接木苗の接合位置を修正することができ、接木作業における作業工数の低減が図れると共に、接木苗の接合不良の低減が図れる。また、確実な把持力が得られるように左右の把持部102の寸法を設定しながら、貫通孔126を形成することにより左右の把持部102を軽量化でき、接木クリップの重量低減により接木苗へかかる負荷を低減できるから、前記負荷に伴う接木苗の接合不良や接木苗の胚軸の曲がりの発生を抑えることができる。
【0011】
請求項2に係る発明によると、請求項1に係る発明の効果に加えて、左右の把持部102の上下幅の中央位置に接木苗の接合部位が位置するように該接木苗を把持すれば、対向する左右の把持部材125により接木苗の接合部位を確実に把持することができ、台木苗の切断面と穂木苗の切断面の位置ずれを防止して接木苗の接合を良好に維持できると共に、左右の把持部材125により台木苗の切断面と穂木苗の切断面に空気が触れ難くなり、切断面が乾燥して接合不良が発生するのを防止できる。また、把持部材125の上下各々に貫通孔126が位置することになるから、上下の貫通孔126で台木苗の胚軸と穂木苗の胚軸の位置を視認することができ、台木苗と穂木苗の位置関係を視認して判断し易くなり、接木苗の接合状態の判断を容易に行える。また、上下の貫通孔126により、台木苗の胚軸と穂木苗の胚軸の何れの位置も修正することができる。
【0012】
請求項3に係る発明によると、請求項2に係る発明の効果に加えて、弾性部材104の弾性力を確実に左右の把持部材125に作用させることができ、更に接木苗の接合部位の把持の確実化が図れる。また、弾性部材104の弾性力が左右の把持部102の上下幅の中央位置で作用するので、把持部102全体においてその上下幅方向位置での把持力を適切に得ることができ、把持部102の一部の把持力が強すぎて接木苗を損傷させるようなことを防止でき、接木苗の把持を適正に行える。
【0013】
請求項4に係る発明によると、請求項1又は請求項2に係る発明の効果に加えて、貫通孔126が把持位置127すなわち接木苗の胚軸の位置に対して前後にわたって形成されているから、接木苗の胚軸の前側から貫通孔126へ治具129等を挿入し胚軸の位置を後側へずらせたり、逆に接木苗の胚軸の後側から貫通孔126へ治具129等を挿入し胚軸の位置を前側へずらせたりすることができ、接木苗の胚軸の位置を前後何れの方向へも修正することができて接木苗の接合状態を適正にすることができる。
【0014】
請求項5に係る発明によると、請求項1又は請求項2に係る発明の効果に加えて、接合部位の近くで台木苗の子葉の片葉を切断して穂木苗と接合する場合、切断した片葉の反対側となる残った子葉側に、把持部102の上側の端縁が低位となる左右一方側の把持部102が位置するように接木苗を把持すれば、接木苗の接合部位を左右の把持部102で確実に把持しながら、前記残った子葉を上側の端縁が低位である把持部102の上側から左右方向外方に位置させることができ、残った子葉が把持部102で把持されることにより台木苗と穂木苗が位置ずれするのを抑えることができ、接木苗の接合精度を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】接木クリップを示す平面図
【図2】接木クリップを示す側面図
【図3】接木クリップを示す背面図
【図4】接木クリップを示す正面図
【図5】接木クリップを示す斜視図
【図6】治具を示す図
【図7】接木苗製造装置の要部を示す側面図
【図8】接木苗製造装置の要部を示す平面図
【図9】台木前処理部、穂木前処理部及び接着処理部を示す平面図
【図10】規制部材を示す平面図
【図11】規制部材を示す正面図
【図12】台木切断装置を示す側面図
【図13】穂木切断装置を示す側面図
【図14】一部省略した取込部を示す平面図
【図15】接木苗製造装置の要部拡大による平面図
【図16】接木苗製造装置の要部拡大による側面図
【図17】把持ハンドの拡大側面図
【図18】(a)上段の把持状態のハンド機構平面図、(b)中段の把持状態のハンド機構平面図
【図19】(a)カッタ機構の作動状態平面図、(b)図(a)のB一B線断面図
【図20】第一の持上げ具の動作平面図
【図21】第一の持上げ具の動作側面図
【図22】第一の持上げ具の起立動作の正面図
【図23】第一及び第二の持上げ具を示す平面図
【図24】異なる第二の持上げ具を示す平面図
【図25】中段ハンド機構のハンド先端部を示す平面図
【図26】穂木苗の取込動作の動作手順図
【図27】把持ハンドの(a)準備状態と(b)把持状態の動作平面図
【図28】苗分離具を示すハンド機構の平面図
【図29】移送行程における方向修正動作の平面図
【図30】整列保持手段の要部平面図
【図31】(a)整列保持手段の要部側面図、(b)図(a)のB一B線断面図
【図32】整列保持手段の受渡し動作の前後を示す側面図(a)(b)
【図33】穂木苗の受渡し動作の動作手順図
【図34】第一の整列動作の前後の平面図(a)(b)
【図35】第二の整列動作の前後の平面図(a)(b)
【図36】主整列部材及び副整列部材の整列動作の前後の平面図(a)(b)
【図37】操作パネルを示す図
【図38】異なる副整列部材を示す側面図
【図39】異なる副整列部材を示す平面図
【図40】異なる副整列部材を示す平面図
【図41】異なる主整列部材を示す平面図
【図42】台木苗供給装置を備える接木苗製造装置の第一例を示す平面図
【図43】台木苗供給装置を備える接木苗製造装置の第二例を示す平面図
【図44】苗仕分け機を示す平面図
【発明を実施するための形態】
【0016】
この発明の実施の一形態を、以下に説明する。
接木クリップ101は、接木苗の接合部位を把持する左右一対の把持部102と、左右一対の開閉部103を備え、この把持部102と開閉部103が左右各々で一体となった左右のクリップ片115を構成し、左右のクリップ片115が把持部102と開閉部103の間に位置する支点部116で互いに接触して回動支点を構成し、左右の開閉部103を閉じると左右の把持部102が開く構成となっている。以下、穂木苗が上側で台木苗が下側に位置する接木苗の上下位置関係に則り、該接木苗を把持する接木クリップ101において、回動支点の軸心方向を上下方向とし、把持部102側が前側で、開閉部103を後側として説明する。
【0017】
左右のクリップ片115は、樹脂成形された互いに共通する部品で構成されており、支点部116の左右方向内側には突出部117と凹み穴118を形成して上下に配列し、一方のクリップ片115の突出部117が他方のクリップ片115の凹み穴118に互いに入り合い、左右のクリップ片115が上下方向に位置ずれしないように構成している。支点部116における突出部117及び前記凹み穴118以外の部分となる左右方向内側の端縁119は、左右方向に緩やかに曲がる曲面に構成されており、前記端縁119どうしが互いに接触して回動支点を構成し、回動支点となる接触位置が接木クリップ101の開閉で前記端縁119上で変化する構成となっている。
【0018】
左右の把持部102は、金属製のリング状の一部を切り欠いたスプリングである弾性部材104により閉じる側に付勢されており、外力がない状態では閉じる構成となっている。尚、弾性部材104により、左右のクリップ片115が互いに左右内側に引き寄せられ、支点部116どうしが接触すると共に突出部117が凹み穴118に挿入される構成となっている。開閉部103には該開閉部103の後端から前側に延びる弾性部材用の溝120を形成し、この弾性部材用の溝120に弾性部材104を通して設けている。開閉部103の後端近くの位置には前記弾性部材用の溝120側に突出する突部121を形成し、該突部121により弾性部材104が弾性部材用の溝120から外れないようにしている。尚、突部121の前側面121aは傾斜面となっており、装着された弾性部材104を弾性部材用の溝120から外すとき、弾性部材104が突部121に前側から押圧されることにより開閉部103を撓ませて弾性部材用の溝120が広がり、弾性部材104を容易に外すことができる。尚、弾性部材用の溝120は、開閉部103の上下幅の中央に形成されている。
【0019】
左右の支点部116の左右外側面122は、上から見て左右方向内側に凹んだ構成となっており、左右の支点部116の左右幅は必要最小限度に小さく設定されている。左右の把持部102は、左右の支点部から連続する小さい左右幅で形成されている。尚、把持部102及び支点部116の上下幅は同じ幅となっており、開閉部103の上下幅は把持部102及び支点部116の上下幅よりも小さい幅(把持部102及び支点部116の上下幅の2分の1程度の幅)となっている。これにより、把持部102での接木苗の把持精度と、支点部116での左右のクリップ片115の位置関係の精度の維持を図りつつ、前後に長い開閉部103の厚みを極力小さくし、接木クリップ101全体の軽量化を図っている。これにより、接木苗へかかる負荷を低減できるから、前記負荷に伴う接木苗の接合不良や接木苗の胚軸の曲がりの発生を抑えることができる。尚、把持部102及び支点部116の上下幅方向の中央位置に開閉部103が位置している。この接木クリップ101の外形は上下対称であり、接木クリップは上下を逆にしても使用できる。
【0020】
把持部102は、左右内側に左右の把持部102間の把持空間123を形成するための凹み124を形成し、上下幅方向の中央に把持部材125が位置し、把持部材125の上下各々に左右方向に貫通する貫通孔126を設けている。上下各々の貫通孔126は、把持空間123内において最も左右幅が広くなる把持部102の前後中央辺りの把持位置127に対して、前後にわたって連通している。従って、貫通孔126は、左右の把持部102で対向して配置され、接木クリップ101は、貫通孔126の位置で左右方向から見て把持空間123を通って左右方向に貫通している。左右の把持部材125の左右方向外側には、弾性部材104を装着するための装着用突部128を形成している。装着用突部128の左右方向外側面には装着用穴128aを形成し、該装着用穴128aに弾性部材104の端部が挿入されて接触した構成となっている。把持部102の把持空間123側となる左右方向内側の面には、接木苗を確実に把持するための凹凸が施されている。接木苗を把持せずに左右の把持部102を閉じた状態では、左右の把持部102の前端において前記凹凸が噛み合う構成となっている。
【0021】
次に、貫通孔126に挿入して接木苗の胚軸の位置を修正する治具129について説明する。この治具129は、樹脂製の板材の先端部に複数(2箇所)の突起部130を備えた構成となっており、突起部130を貫通孔126に挿入して接木クリップ101の前後方向に移動させることにより接木苗の胚軸を前後方向に移動させて胚軸の位置を修正する構成となっている。突起部130は、基部から左右の把持部102全体の左右幅よりも長く突出し、貫通孔126の上下幅と略同じ幅で貫通孔126の上下幅よりも若干小さい幅に構成されている。複数の突起部130の配列ピッチは、上下の貫通孔126の配列ピッチと同一である。従って、接木クリップ101の左右一方側から上下の貫通孔126へ複数の突起部130を挿入して胚軸の位置を修正する構成となっており、治具129は、複数の突起部130が上下に配列される向きで貫通孔126へ挿入する構成となっている。
【0022】
接木クリップ101により接木苗を把持したとき、把持部102において台木苗の胚軸と穂木苗の胚軸が互いに前後反対側に傾斜していれば、上下の貫通孔126に上下の突起部130を同時に挿入して台木苗の胚軸と穂木苗の胚軸を共に前後方向に移動させて双方の胚軸の傾きを修正することができる。具体的にいえば、台木苗の胚軸が前上がり側に傾き、穂木苗の胚軸が後上がり側に傾いているときは、双方の胚軸の前側となる上下の貫通孔126の位置に上下の突起部130を挿入し、上下の突起部130を後側へ移動させることで、台木苗及び穂木苗の胚軸は共に鉛直方向に向くように修正される。逆に、台木苗の胚軸が後上がり側に傾き、穂木苗の胚軸が前上がり側に傾いているときは、双方の胚軸の後側となる上下の貫通孔126の位置に上下の突起部130を挿入し、上下の突起部130を前側へ移動させることで、台木苗及び穂木苗の胚軸は共に鉛直方向に向くように修正される。すなわち、台木苗の胚軸と穂木苗の胚軸が互いに傾き、台木苗の切断面と穂木苗の切断面が適切に合致していないとき、接木苗の接合部位を移動させて切断面どうしが適切に合致するように胚軸を移動させるのである。また、接木クリップ101に対して台木苗及び穂木苗のうちの一方の胚軸のみが傾いているときは、傾いている胚軸側の貫通孔126のみに一つの突起部130を挿入し、当該胚軸を鉛直方向に向くように修正すればよい。具体的にいえば、台木苗の胚軸が傾いているときは下側の貫通孔126に突起部130を挿入して台木苗の胚軸を修正し、穂木苗の胚軸が傾いているときは上側の貫通孔126に突起部130を挿入して穂木苗の胚軸を修正すればよい。胚軸が傾いているとき、胚軸を前側へ移動させて傾きを修正するか、胚軸を後側へ移動させて傾きを修正するかは、台木苗と穂木苗の各々の切断面の位置関係を鑑み、切断面どうしの前後方向の位置ずれがあって台木苗及び穂木苗の一方の切断面を移動させたい場合は、その位置ずれをも修正するように胚軸を移動させればよい。尚、胚軸の傾きはないが台木苗と穂木苗の各々の切断面の位置が前後方向にずれているときは、台木苗と穂木苗のうちの把持位置127から大きくずれている方の胚軸を移動させて切断面の位置ずれを修正すればよい。尚、台木苗及び穂木苗のうちの一方の胚軸のみを移動させるとき、当該胚軸の前後に位置するように二つの突起部130を同一の貫通孔126に挿入して胚軸を移動させれば、胚軸を安定して移動させることができて胚軸の位置を精度良く修正できる。
【0023】
また、治具129により胚軸を移動させるとき、接木クリップ101の把持力が抵抗となって胚軸を移動させにくいときは、接木クリップ101の開閉部103を操作して左右の把持部102の把持力を緩めながら胚軸を移動させればよい。これにより、左右の把持部102の把持を完全に解除せずに接木苗の接合部位の修正が行えるので、台木苗及び穂木苗の切断面に空気が触れて切断面が乾燥するのを抑えられ、接木苗の活着率の向上が図れるばかりでなく、接合部位の修正が容易になり、接木作業における作業工数の低減が図れると共に、接合状況をかえって悪化させるようなことが抑えられ、接木苗の接合率の向上が図れる。
【0024】
以上により、接木クリップ101は、接木苗の接合部位を把持する左右一対の把持部102と、該左右一対の把持部102を開閉するための左右一対の開閉部103を備え、把持部102と開閉部103の間に位置する回動支点回りに把持部102が回動して開閉する構成とし、左右の把持部102が閉じる側へ付勢する弾性部材104を設け、左右の把持部102には、該左右の把持部102間の把持空間123を通って左右方向に貫通する貫通孔126を設けている。
【0025】
よって、接木苗から接木クリップ101を外さなくても、貫通孔126を介して容易に接木苗の接合状態を判断することができると共に、貫通孔126に治具130等を挿入して接木苗の接合位置を修正することができ、接木作業における作業工数の低減が図れると共に、接木苗の接合不良の低減が図れる。また、確実な把持力が得られるように左右の把持部102の寸法を設定しながら、貫通孔126を形成することにより左右の把持部102を軽量化でき、接木クリップ101の重量低減により接木苗へかかる負荷を低減できるから、前記負荷に伴う接木苗の接合不良や接木苗の胚軸の曲がりの発生を抑えることができる。
【0026】
また、接木クリップ101は、貫通孔126を左右の把持部102の回動軸心方向となる上下方向に複数配列し、隣接する貫通孔126の間に配置される把持部材125を、把持部102の上下幅の中央位置で且つ左右に対向させるべく左右各々の把持部102に形成している。
【0027】
よって、左右の把持部102の上下幅の中央位置に接木苗の接合部位が位置するように該接木苗を把持すれば、対向する左右の把持部材125により接木苗の接合部位を確実に把持することができ、台木苗の切断面と穂木苗の切断面の位置ずれを防止して接木苗の接合を良好に維持できると共に、左右の把持部材125により台木苗の切断面と穂木苗の切断面に空気が触れ難くなり、切断面が乾燥して接合不良が発生するのを防止できる。また、把持部材125の上下各々に貫通孔126が位置することになるから、上下の貫通孔126で台木苗の胚軸と穂木苗の胚軸の位置を視認することができ、台木苗と穂木苗の位置関係を視認して判断し易くなり、接木苗の接合状態の判断を容易に行える。また、上下の貫通孔126により、台木苗の胚軸と穂木苗の胚軸の何れの位置も修正することができる。
【0028】
また、接木クリップ101は、左右の把持部材125の外側に接触させて弾性部材104を配置している。
よって、弾性部材104の弾性力を確実に左右の把持部材125に作用させることができ、更に接木苗の接合部位の把持の確実化が図れる。また、弾性部材104の弾性力が左右の把持部102の上下幅の中央位置で作用するので、把持部102全体においてその上下幅方向位置での把持力を適切に得ることができ、把持部102の一部の把持力が強すぎて接木苗を損傷させるようなことを防止でき、接木苗の把持を適正に行える。
【0029】
また、接木クリップ101は、貫通孔126を、把持空間123内において最も左右幅が広くなる把持位置127に対して、前後にわたって連通させて形成している。
よって、貫通孔126が把持位置127すなわち接木苗の胚軸の位置に対して前後にわたって形成されているから、接木苗の胚軸の前側から貫通孔126へ治具130等を挿入し胚軸の位置を後側へずらせたり、逆に接木苗の胚軸の後側から貫通孔126へ治具130等を挿入し胚軸の位置を前側へずらせたりすることができ、接木苗の胚軸の位置を前後何れの方向へも修正することができて接木苗の接合状態を適正にすることができる。
【0030】
そして、接木苗の修正方法として、隣接する貫通孔126に合わせて配列された複数の突起部129を備える治具130を設け、複数の突起部129を複数の貫通孔126へ同時に挿入して台木苗及び穂木苗の胚軸を同時に移動させて接木苗の接合状態を修正できる。また、一部の貫通孔126にのみ突起部129を挿入して台木苗及び穂木苗のうちの一方の胚軸のみを移動させて接木苗の接合状態を修正できる。
【0031】
ところで、左右一方側の把持部102の上面に切欠き部131を設けることができる。尚、左右のクリップ片115を共通の部品として接木クリップ101を上下逆にしても使用できるように構成しているため、左右他方側の把持部102の下面にも切欠き部131がある。切欠き部131は、把持部102の前後方向中央で把持位置127の側方に位置し、左右方向外側すなわち把持空間123から離れる側へいくほど上位に位置する傾斜面で構成されている。これに対し、左右他方側の把持部102の上面は、平面状になっている。従って、左右一方側の把持部102の上側の少なくとも一部の端縁が、対向する左右他方側の把持部102の上側の端縁よりも低位となるよう形成している。
【0032】
上述の構成によると、接合部位の近くで台木苗の子葉の片葉を切断して穂木苗と接合する場合、切断した片葉の反対側となる残った子葉側の把持部102の上面に切欠き部131が存在するように、すなわち、切断した片葉の反対側となる残った子葉側に、把持部102の上側の端縁が低位となる左右一方側の把持部102が位置するように接木苗を把持すれば、所望の上下幅を有する左右の把持部102で、且つ左右の把持部102の上下幅方向の中央又は中央近くで接木苗の接合部位を確実に把持しながら、前記残った子葉を上側の端縁が低位である把持部102の上側すなわち切欠き部131から左右方向外方に位置させることができ、残った子葉が把持部102で把持されることにより当該子葉が穂木苗を接木クリップ101の上側へ押し出して台木苗と穂木苗が位置ずれするのを抑えることができ、接木苗の接合精度を向上させることができる。
【0033】
接木クリップ101で把持される接木苗は、人手により台木苗及び穂木苗の切断並びに接合を行って手作業で製造することもできるが、以下に説明する接木苗製造装置1により製造することもできる。この接木苗製造装置1は、台木と穂木を接ぎ木する接木ロボット本体laを中心にその左側(図7の上側)に不図示の台木取込部(取込部)、同右側(図7の下側)に穂木取込部(取込部)2が配置され、接木ロボット本体laには、その前面の左右に台木取込部または穂木取込部2から台木、穂木としての苗をそれぞれ受ける台木前処理部(前処理部)3、穂木前処理部(前処理部)4、中央には、台木前処理部3または穂木前処理部4から受けた台木と穂木を接着する接着処理部7、この接着された接木苗を下方から送出する接木苗送出部8を配置して左右を略対称に構成し、穂木取込部2の手前側には操作パネルlpを設けたものである。
【0034】
台木前処理部3は、空気圧で作動する台木側のロータリーアクチュエータ60の駆動により回転作動する台木搬送アーム61を備え、該台木搬送アーム61により台木取込部からの台木苗を把持し、台木搬送アーム61が90度回転して台木苗を切断位置62に搬送し、その後台木搬送アーム61が更に90度回転して台木苗を接合位置63に搬送する。切断位置で台木切断装置64により台木苗を切断し、双子葉の片葉を切り落とす。尚、切断装置64で切断して切り落とすはずの切除部分が搬送する苗に付着して搬送されることがあるが、切断位置62から接合位置63への搬送経路上には、前記切除部分を取り除くための樹脂製のブラシ65を設けると共に、台木搬送アーム61にはエアを吹き付けるエアノズル66を設け、切除部分を確実に落として、接木苗の接合を適正に行えるようにしている。
【0035】
穂木前処理部4は、空気圧で作動する穂木側のロータリーアクチュエータ67の駆動により回転作動する穂木搬送アーム68を備え、該穂木搬送アーム68により穂木取込部2からの穂木苗を把持し、穂木搬送アーム68が90度回転して穂木苗を切断位置69に搬送し、その後穂木搬送アーム68が更に90度回転して穂木苗を接合位置63に搬送する。切断位置69で穂木切断装置70により穂木苗を切断し、胚軸の下側部を切り落とす。尚、切断装置69で切断して切り落とすはずの切除部分が搬送する苗に付着して搬送されることがあるが、切断位置69から接合位置63への搬送経路上には、前記切除部分を取り除くための樹脂製のブラシ71とエアを吹き付けるエアノズル72を設け、切除部分を確実に落として、接木苗の接合を適正に行えるようにしている。
【0036】
接着処理部7は、接木クリップ101を一つずつ繰り出すクリップフィーダ73と、台木苗及び穂木苗が接合位置63に到達した状態で該クリップフィーダ73で繰り出される接木クリップ101を一つずつ供給して台木苗及び穂木苗を固定するクリップ供給装置74を備えている。尚、台木搬送アーム61及び穂木搬送アーム68が接合位置63に到達したとき、台木苗と穂木苗の各々の切断面が合致して苗を接合した状態となる。
【0037】
クリップ供給装置74には接木クリップ101の移送経路となるガイドレール105を備えており、クリップフィーダ73による接木クリップ101の繰り出し作用によりガイドレール105内で把持部102が移送上手側となる姿勢で連続的に接木クリップ101が移送される。ガイドレール105の終端部は左右幅が狭くなっており、ガイドレール105の終端部へ接木クリップ101が移送されると該接木クリップ101が左右の開閉部を閉じて左右の把持部102を開く。そして、ガイドレール105の終端から接木クリップ101を受け継ぐクリップ開閉装置106の左右の開閉操作部材107が開くことで左右の開閉部103を開いて左右の把持部102を閉じる構成となっている。また、ガイドレール105の終端部に設けたクリップ押出装置108により、接合位置63へ順次接木クリップ101を供給する構成である。
【0038】
ガイドレール105の延長上の位置には、規制部材109を配置している。この規制部材109は、透明で樹脂製の上下方向に沿うプレートで形成され、接合位置63においてクリップ開閉装置106で開閉する接木クリップ101の前端(把持部102の先端)が接触する位置に配置されている。従って、接合位置63に移送される接木クリップ101は、左右の把持部102を開いた状態で前端が規制部材109に接触し、それ以上移送されないように規制される。規制部材109は、ロータリーアクチュエータからなる規制部材移動装置110により前後に回動する移動用アーム111の先端部に固着され、接合位置63の接木クリップ101に対向して接触する規制位置から、その下側で前側に移動して前記規制位置から退避する退避位置へ回動する構成となっている。
【0039】
従って、まず、退避位置にある規制部材109が、規制部材移動装置110により規制位置へ前側から移動する。台木搬送アーム61及び穂木搬送アーム68の伸張により台木苗及び穂木苗が左右から接合位置63へ供給され、苗を接合状態とする。このとき、規制部材109により苗を接合位置63の適正な位置へ案内される。尚、規制部材109の左右端部は、円弧状もしくはテーパ状に構成され、苗を引っ掛けずに円滑に案内し得る構成となっている。そして、クリップ押出装置108により接合位置63へ接木クリップ101が左右の把持部102を開いた状態で供給されるが、該接木クリップ101は規制部材109に接触して適正な位置に位置決めされる。この接木クリップ101の開いた左右の把持部102の間の空間が把持領域となるが、この把持領域内に、台木搬送アーム61及び穂木搬送アーム68により搬送された台木苗及び穂木苗の胚軸の接合部が位置する。つまり、台木苗及び穂木苗の胚軸の接合部は、左右の把持部102と規制部材109とで囲まれた空間内に位置する。その後、クリップ開閉装置106の左右の開閉操作部材107が開くことで左右の開閉部103を開いて左右の把持部102を閉じ、台木苗及び穂木苗を接木クリップ101で挟持して固定するが、このときも規制部材109が規制位置にあり接木クリップ101の飛び出しが規制されているので、左右の把持部を閉じる動作で接木クリップ101の姿勢や位置が不適正となるのを防止している。しかも、把持部102における所望の位置で苗を挟持することができる。左右の把持部102を閉じた後、規制部材109は規制部材移動装置110により退避位置に移動する。その後、クリップ押出装置108により接木クリップ101が押し出されて当該接木クリップ101ごと接木苗が接木苗送出部8へ放出され、該接木苗送出部8により接木苗をコンテナへ搬送する。規制部材109は、透明であるので、邪魔にならずに作業者が苗の接合状況を容易に視認することができ、各部の調整等が不適正で発生する不良な接木苗の多量発生を防止する。ひいては、台木前処理部3、穂木前処理部4及び接着処理部7の各部の調整作業が容易に行え、調整作業時間の短縮化が図れる。
【0040】
台木搬送アーム61による台木苗の切断位置62への搬送及び穂木搬送アーム68による穂木苗の切断位置69への搬送作動は、台木搬送アーム61及び穂木搬送アーム68がそれぞれの苗を共に把持するのに伴って同期して作動を開始するが、穂木側の速度調整装置(流量制御弁)を作動させて穂木側のロータリーアクチュエータ67へのエア流量を少なくして穂木搬送アーム68の作動速度を台木搬送アーム61の作動速度よりも若干遅くして、穂木搬送アーム68が切断位置69に到達するタイミングを台木搬送アーム61が切断位置62に到達するタイミングよりも遅らせる。そして、穂木搬送アーム68が切断位置69に到達したことを穂木側のローリングアクチュエータ67に設けた穂木側の回転位置検出センサ(リードスイッチ)により検出すると、台木切断装置64及び穂木切断装置70が切断動作を開始する。これにより、台木搬送アーム61及び穂木搬送アーム68が各々切断位置62,69に確実に到達した状態で各々の切断装置64,70を作動させることができ、適正に苗を切断することができると共に、台木側の切断位置検出用の回転位置検出センサ(リードスイッチ)を省略できてコストダウンが図れる。また、台木苗よりも軽い穂木苗をゆっくりと搬送させることにより、穂木苗のバランスが崩れて該苗の姿勢が悪化し、穂木苗における切断位置が不適正になって接木苗の接合状態が悪くなる不具合を防止できる。従来は、台木搬送アームと穂木搬送アームを同じ作動速度で作動させるようにしていたので、台木側と穂木側のエアホースの長さや屈曲度合や傷み具合の相違等により、台木搬送アームと穂木搬送アームの内の一方の作動速度が遅くなると、作動速度が速い側で切断位置に到達することを検出するようにしたとき、作動速度が遅い側が切断位置に到達する前に切断装置が作動して、苗の切断が不適正となるおそれがある。
【0041】
同様に、台木搬送アーム61による台木苗の接合位置62への搬送及び穂木搬送アーム68による穂木苗の接合位置69への搬送作動は、台木切断装置64及び穂木切断装置70の切断動作の完了に伴って同期して作動を開始するが、台木側の速度調整装置(流量制御弁)を作動させて台木側のロータリーアクチュエータ60へのエア流量を少なくして台木搬送アーム61の作動速度を穂木搬送アーム68の作動速度よりも若干遅くして、台木搬送アーム61が接合位置62に到達するタイミングを穂木搬送アーム68が切断位置69に到達するタイミングよりも遅らせる。そして、台木搬送アーム61が切断位置62に到達したことを台木側のローリングアクチュエータ60に設けた台木側の回転位置検出センサ(リードスイッチ)により検出すると、クリップ供給装置74がクリップ供給動作を開始する。これにより、台木苗及び穂木苗が各々接合位置63に確実に到達した状態でクリップを供給することができ、台木苗と穂木苗を適正に固定することができて接木苗の接合率の向上が図れると共に、穂木側の接合位置検出用の回転位置検出センサ(リードスイッチ)を省略できてコストダウンが図れる。また、片葉切断した状態の台木苗をゆっくりと搬送させることにより、台木苗のバランスが崩れて該苗の姿勢が悪化し、接木苗の接合状態が悪くなる不具合を防止できる。
【0042】
台木搬送アーム61の搬送作動は、台木搬送アーム61を伸長して苗受取位置132で台木取込部から台木苗を受け取って把持(第1ステップ)した後、先ず台木苗の切断位置62へ台木苗を搬送するべく台木搬送アーム61を短縮しながら90度回動し(第2ステップ)、台木切断装置64で台木苗を切断した後、接合位置63側へ90度回動(第3ステップ)してから、接合位置63へ台木苗を搬送するべく台木搬送アーム61を伸長する(第4ステップ)。そして、接木苗の接合が完了すると、次の台木苗を搬送するべく、先ず台木搬送アーム61を短縮しながら台木取込部側へ135度回動して台木苗の切断位置62と苗受取位置132の間の待機位置133で待機し(第5ステップ)、次の台木苗があれば苗受取位置132側へ45度回動(第6ステップ)した後、前記第1ステップを実行し、以下上述の作動を繰り返す。尚、動作確認のため、スイッチ操作によりステップ毎に作動させる場合も、上述のステップを順に作動させる。
【0043】
同様に、穂木搬送アーム68の搬送作動は、穂木搬送アーム68を伸長して苗受取位置132で穂木取込部2から穂木苗を受け取って把持(第1ステップ)した後、先ず穂木苗の切断位置69へ穂木苗を搬送するべく穂木搬送アーム68を短縮しながら90度回動し(第2ステップ)、穂木切断装置70で穂木苗を切断した後、接合位置63側へ90度回動(第3ステップ)してから、接合位置63へ穂木苗を搬送するべく穂木搬送アーム68を伸長する(第4ステップ)。そして、接木苗の接合が完了すると、次の穂木苗を搬送するべく、先ず穂木搬送アーム68を短縮しながら穂木取込部2側へ135度回動して穂木苗の切断位置69と苗受取位置132の間の待機位置133で待機し(第5ステップ)、次の穂木苗があれば苗受取位置132側へ45度回動(第6ステップ)した後、前記第1ステップを実行し、以下上述の作動を繰り返す。尚、動作確認のため、スイッチ操作によりステップ毎に作動させる場合も、上述のステップを順に作動させる。
【0044】
これにより、切断位置62、69と苗受取位置132の間の待機位置133で台木搬送アーム61及び穂木搬送アーム68が待機するので、台木取込部又は穂木取込部2により次の苗が苗受取位置に供給されてから、苗を受け取るのに要する時間を短くでき、接木作業の作業能率が向上する。また、台木切断装置64又は穂木切断装置70のメンテナンス作業(例えば切断刃75,82の交換等)を行うとき、台木搬送アーム61及び穂木搬送アーム68が待機位置133にあるので邪魔にならず、メンテナンスの作業性及び安全性が向上する。従来は、切断位置62,69で台木搬送アーム61及び穂木搬送アーム68が待機していたので、次の苗を受け取る時間を要すると共に、台木切断装置64及び穂木切断装置70の近くに台木搬送アーム61及び穂木搬送アーム68が位置し、台木切断装置64及び穂木切断装置70のメンテナンスの作業性及び安全性を向上させる余地があった。
【0045】
台木切断装置64は、切断刃75と、切断する側の子葉の葉柄を支える葉柄支え具76と、残す側の子葉を上側から押さえる子葉押さえ具77を備える。切断刃75と葉柄支え具76は、空気圧で作動する前後移動用シリンダ78により移動して、切断位置62にある台木苗に近づき、葉柄支え具76が葉柄に接触して保持する(図12(2)参照)。尚、前後移動シリンダ78は台木苗側が高位となるよう傾斜しており、切断刃75と葉柄支え具76が下側寄りの位置から台木苗に近づいて苗の子葉に干渉しないように構成している。その後、空気圧で作動する子葉押さえ用ロータリーアクチュエータ79により子葉押さえ具77が下側に回動し、子葉押さえ具77の先端部に設けた子葉押さえローラ80により子葉を上側から押さえる(図12(3)参照)。その状態で、空気圧で作動する切断用シリンダ81により斜め上方向に直線移動軌跡で切断刃75を移動させ、苗の胚軸及び片葉を切断して切り落とす(図12(4)参照)。苗を切断すると、前後移動シリンダ78により切断刃75及び葉柄支え具76を台木苗から退避させ(図12(5)参照)、その後、子葉押さえ具77を上側へ回動して元の位置に戻すと共に、切断用シリンダ81により切断刃75を斜め下方向に移動させて元の位置に戻す(図12(1)参照)。
【0046】
よって、直線移動軌跡で苗を切断するので、切断面が平面状となり、接木苗の接合率の向上が図れると共に、残す側の子葉の付け根をできるだけ切除しないようにでき、接木苗の成育を良好に維持できる。従来は、切断刃を回転移動軌跡で移動させて苗を切断するので、切断面が曲面状となって接木苗の接合率向上を阻害し、残す側の子葉の付け根を抉り取るように切断して接木苗の成育を阻害するおそれがある。また、葉柄支え具76と子葉押さえ具77により適正な位置で苗を切断することができ、更に、切断用シリンダ81の取付角度を調節することにより、回転移動軌跡で苗を切断する構成と比較して切断角度を容易に調節できる。
【0047】
穂木切断装置70は、切断刃82と、切り落とす側(下側部)の胚軸を支える胚軸支え具83を備える。切断刃82と胚軸支え具83は、空気圧で作動する前後移動用シリンダ84により移動して、切断位置69にある穂木苗に近づき、胚軸支え具83が胚軸に接触して保持する(図13(2)参照)。尚、前後移動シリンダ84は穂木苗側が高位となるよう傾斜しており、切断刃82と胚軸支え具83が下側寄りの位置から穂木苗に近づいて苗の子葉に干渉しないように構成している。尚、穂木苗に近づいた状態で、切断刃82は、子葉の裏側(下側)に位置する。そして、空気圧で作動する切断用シリンダ85により斜め下方向に直線移動軌跡で切断刃82を移動させ、苗の胚軸の下側部を切断して切り落とす(図13(3)参照)。苗を切断すると、前後移動シリンダ84により切断刃82及び胚軸支え具83を穂木苗から退避させ(図13(4)参照)、切断用シリンダ85により切断刃82を斜め上方向に移動させて元の位置に戻す(図13(1)参照)。
【0048】
よって、直線移動軌跡で苗を切断するので、切断面が平面状となり、接木苗の接合率の向上が図れると共に、穂木苗に近づいた状態で、切断刃82は子葉の裏側(下側)に位置するので子葉を切除しないようにでき、接木苗の成育を良好に維持できる。従来は、切断刃を回転移動軌跡で移動させて苗を切断するので、切断面が曲面状となって接木苗の接合率向上を阻害し、子葉が大きくて垂れ下がるような苗では切断刃が子葉に接触して子葉を切除したり子葉に傷を付けるおそれがあり、接木苗の成育を阻害するおそれがある。また、胚軸支え具83により適正な位置で苗を切断することができ、更に、切断用シリンダ85の取付角度を調節することにより、回転移動軌跡で苗を切断する構成と比較して切断角度を容易に調節できる。しかも、穂木搬送ハンド68と胚軸支え具83の中間位置で切断刃82が苗を切断するので、苗の切断位置が安定する。
【0049】
尚、台木切断装置64の切断刃75と穂木切断装置70の切断刃82は、平面視で互いに接合位置63側ほど苗から離れるように斜めに配置され、切断する苗に対し前進角を有して移動して苗を切断する。これにより、苗の切断抵抗を抑えて苗の切断を円滑に行えると共に、接木苗を固定するクリップの把持部における先端側(接合位置における前側(切断位置側))から各々の苗を切断することになるので、切断時に苗の切断位置が位置ずれし易い切断終端がクリップの把持部における奥側(接合位置63における後側(切断位置62,69と反対側))となるが、クリップの把持部における奥側で苗の保持精度が高まるため、接木苗の接合率向上が図れる。
【0050】
尚、前記台木取込部及び穂木取込部は互いに左右対称で同様の構成であるので、以下は、穂木取込部2について説明する。
穂木取込側については、穂木取込部2は、接木ロボット本体laの側方で苗ポットに育成した多数の穂木苗(苗)Wを格子配列したセルトレイを順次搬入移送する搬入機構11と、この搬入機構11上の穂木苗Wに対して進退機構12bにより進退動作可能に穂木苗Wを穂木として個々の把持しつつ胚軸をカットして把持動作する把持ハンド12と、この把持ハンド12を左右方向に横移動可能に支持する移送機構13と、その移送行程上に配した方向修正部材14等から構成する。また、穂木取込部2と穂木前処理部4との間の穂木受渡し位置(受渡し位置)Rには、穂木取込部2から移送された穂木苗Wを一時的に保持する受渡保持機構15を設ける。
【0051】
詳細には、上記搬入機構11は、接木ロボット本体laの側方に沿って移送動作するべルトコンベヤ等により構成し、横一列の苗が取り出される度にセルトレイの配列ピッチで順次移送動作することにより、穂木苗Wを所定位置に搬入する。移送機構13は、接木苗製造装置1の片側位置で搬入機構11を横断して受渡保持機構15までの範囲で把持ハンド12を左右に位置制御可能に構成し、セルトレイの横一列の苗において受渡保持機構15側から苗を取り出すべく、把持ハンド12が受渡保持機構15へ苗を供給した後に次に取り出す苗(苗があるセル)の左右位置に順次左右移動する構成となっている。この移送機構13による移送行程に干渉するように、棒状部材または回動抵抗を抑えた縦軸ローラによる方向修正部材14を下垂状に配置する。この方向修正部材14は、移送機構13の左右移送経路の終端の直前位置で、受渡保持機構15に対向する位置より若干搬入機構11側に配置されている。また、受渡保持機構15には、把持ハンド12から受けた穂木苗Wを保持した際にその子葉展開方向を規制する主整列部材16を設ける。これら受渡保持機構15と主整列部材16とにより整列保持手段を形成する。
【0052】
次に、穂木取込部2の把持ハンド12について詳細に説明する。
把持ハンド12は、拡大側面図を図17に示すように、穂木苗Wの胚軸Aの上段部と中段部を把持する上段のハンド機構21と中段のハンド機構22およびその下方に開閉動作により穂木苗Wの胚軸Aの下段部を切断するカッタ機構23を三段重ねに進退機構12bにより一体に進退動作可能に配置し、その側方に独立して上下動作可能に持上げ具24を備えて構成する。また、把持した胚軸Aの近傍で子葉Lと干渉しうる位置に回り止め用の棒状のストッパ25をカッタ機構23から立設する。上段のハンド機構21、中段のハンド機構22およびカッタ機構23からなる上下三段の各ハンドの上下間隔を調節可能に設けており、苗の胚軸の長さに応じて各ハンドの上下間隔を変更して、徒長苗や苗の品種に対応して苗を適正に把持できる構成としている。
【0053】
上段のハンド機構21は、把持状態の平面図を示す図18(a)のように、左右の開閉アーム21a,21aの先端の把持位置に穂木苗の肥軸Aの径寸法より大きく左右方向の切欠Bを形成して穂木苗の胚軸Aを遊嵌保持可能に構成し、その隙間限度設定用の調節ボルト21bを設ける。中段のハンド機構22は、その把持状態の平面図を示す図18(b)のように、左右の開閉アーム22a,22aのその先端の把持位置に穂木苗の肥軸Aの径寸法より大きく前後方向の切欠Cを形成して穂木苗の胚軸Aを遊嵌保持可能に構成する。これら両ハンド機構21,22により、穂木苗の把持位置精度を確保しつつ、穂木苗がその胚軸線で回動可能に把持する。
【0054】
カッタ機構23は、その作動状態平面図(a)とそのB−B線断面図(b)を図19に示すように、左右の開閉アーム23a,23aの先端部に穂木苗の胚軸Aを切断する刃23bを形成し、かつ、切断後の胚軸Aの移動を拘束するように外周縁を高く形成する。刃23bは、左右の開閉アーム23a,23aのうち、接木ロボット本体laとは左右方向で反対側の開閉アーム23aに取り付けられている。接木ロボット本体la側の開閉アーム23aには、胚軸Aが開閉アーム23a,23aの基端側に入り込むのを規制する規制ガイド114を設けている。この規制ガイド114で胚軸Aを規制することにより、胚軸Aの位置ずれを防止して刃23bで円滑に切断できるようにしている。尚、規制ガイド114は、左右の開閉アーム23a,23a及び刃23bの上方に配置され、刃23b側へ胚軸Aが案内されるように刃23b側ほど開閉アーム23a,23aの基端側に位置する構成となっている。
【0055】
上記の両ハンド機構21,22とカッタ機構23は、穂木苗を穂木としてその根側を切断しつつその胚軸を回動可能に緩く把持する遊嵌把持機構を形成する。
前記持上げ具24は、第一の持上げ具41と第二の持上げ具42とを備えて構成される。前記第一の持上げ具41は、穂木苗Wの根元位置まで前下がりに傾斜するとともに、受渡保持機構15側すなわち苗を取り出すために把持ハンド12が左右移動してくる側となる同穂木苗Wの側方から背後に達するように先端部41tを屈曲したロッドにより形成される。先端部41tとその基部に屈曲して延びる側部41sを略直角に設定することにより、図22の起立動作の正面図に示すように、持上げ具41の上行動作により倒れた胚軸Aを起立することができる。持上げ具41の支持部41bは、穂木苗に対する位置関係に合わせて前後位置と高さ位置を調節可能に構成する。
【0056】
また、苗Wに対して前記第一の持上げ具41と左右反対側に第二の持上げ具42を設けている。この第二の持上げ具42は、受渡保持機構15とは反対側で苗を取り出すために把持ハンド12が左右移動する側となる苗の側方に位置するべく屈曲したロッドにより形成され、前後移動シリンダ43により進退動作可能に設けられている。苗の側方に位置する第二の持上げ具42の先端部42aは、前記第一の持上げ具41の先端部41tと同様に水平で、第一の持上げ具41の先端部41tより若干高位で且つ前後移動シリンダ43により突出させた状態で平面視で交差するように設けられている。従って、第一の持上げ具41の上行動作で第二の持上げ具42が共に上動し、苗の左右両側方及び後方の三方から苗を持ち上げて直立させることができ、把持ハンド12による穂木苗の把持を適正に行える。特に、セルのピッチが狭いセルトレイにおいて、第二の持上げ具42により把持ハンド12が左右移動した側の隣接苗側に苗が傾いたまま把持ハンド12で把持して移送するようなことを防止でき、苗が隣接苗と絡んだまま把持ハンド12で移送されて苗の把持姿勢が不適正になるようなことを防止できる。また、一方の持上げ具41の上下動機構で他方の持上げ具42も上下動させる構成としたので、この上下動機構の簡素化が図れる。また、第二の持上げ具42を平面視で中途部が把持ハンド12側(隣接苗から離れる側)に突出するように屈曲させた構成としているので、該第二の持上げ具42に干渉しないように把持ハンド12の開閉量を所定に維持できると共に、第二の持上げ具42が隣接苗と干渉しにくくなり、苗取り出しの円滑化が図れる。尚、第二の持上げ具42は、図24に示すように平面視で斜めの部分を設けて構成してもよい。
【0057】
上記の持上げ具24では三方から苗を持ち上げる構成であるので、残りの一方側(把持ハンド12側)に倒れる苗を直立させることはできない。そこで、搬入機構11のセルトレイ上には、該セルトレイの左右幅にわたる倒れ規制具44を設けている。この倒れ規制具44は、セル内の培土を荒らしたり搬入機構11によるセルトレイの搬送抵抗になったりしないように回転自在のローラで構成され、把持ハンド12で取り出す苗の把持ハンド12側で適確に作用するようにセルの上方に位置する。
【0058】
また、把持ハンド12の両ハンド機構21,22に各々において、左右一対の開閉アーム21a,22aのうち受渡保持機構15側(右側)に位置する一方の開閉アーム21a,22aには、受渡保持機構15と左右反対側(左側、他方の開閉アーム21a,22a側)に延びる苗分離具45を固着して設けている。この苗分離具45は、棒材で構成され、左右方向(左側)に延びる基部45aと該基部45aから前側に屈曲して延びる先端部45bとを備え、開閉アーム21a,22aより若干上位に配置されている。苗分離具45の先端部45bは、一対の開閉アーム21a,22aが開いた状態では、前記他方の開閉アーム21a,22aの上方に位置し、略前後真直方向で若干把持方向内側に向かって延び左右の開閉アーム21a,22aの角度に対して把持方向内側に向く角度となる。一方、一対の開閉アーム21a,22aが閉じた状態では、他方の開閉アーム21a,22aより把持方向外側(左側)に位置し、先端へいくほど把持方向外側となる外向きの角度となる。従って、セルトレイの苗を把持するべく進退機構12bにより把持ハンド12が前進するときは、一対の開閉アーム21a,22aが開き、苗分離具45の先端部45bは把持しようとする苗に干渉しないように当該苗と隣接苗との間に挿入される。そして、一対の開閉アーム21a,22aを閉じると、苗分離具45の先端部45bは隣接苗側(左側)に回動して移動し、把持する苗と隣接苗とを離して苗の絡みを解くようになっている。
【0059】
上記構成の把持ハンド12による穂木苗の取込動作は、図26の動作手順図に従って行う。
まず、図27(a)の準備状態の動作平面図に示すように、後退位置で上段のハンド機構21と中段のハンド機構22およびカッタ機構23を閉状態に準備(S1)した上で、接木苗製造装置1の外側方向への移送機構13の横移動により、搬入機構11上の穂木苗Wの側方から第一の持上げ具41の先端部41tを穂木苗Wの背面位置に挿し入れ、その後前後移動シリンダ43を伸長し第二の持上げ具42を前側に突出させて平面視で先端部が苗の側方に位置させると共に第一の持上げ具41の先端部41tと交差させ、第一の持上げ具41及び第二の持上げ具42の上行動作(S2)により穂木苗Wの倒れを修正する。従って、把持ハンド12は、上段のハンド機構21と中段のハンド機構22およびカッタ機構23が閉状態で横移動するので、横移動の際にセルトレイの苗に干渉しにくく、また横移動で取り出す苗とは別の苗を懐に収めてしまうようなことを防止でき、苗の取出不良を防止できる。上段のハンド機構21と中段のハンド機構22は、前記横移動の上手側を曲面状に形成しており、横移動で苗と干渉しにくいように且つ苗を傷めないようにしている。尚、持上げ具24は、上行動作(S2)前において、カッタ機構23の略同じ高さに位置する。これにより、カッタ機構23をセルの上面に近づけることができて該カッタ機構23が苗の根元を切断でき、冬期に育苗されるような胚軸が短い苗でもハンド機構21,22で苗を適正に取り出すことができる。
【0060】
次いで、図27(b)の把持状態の動作平面図に示すように、ハンド機構21,22およびカッタ機構23を開いて前進(S3)した上で両ハンド機構21,22を閉じる(S4)ことによりハンド機構21,22の先端の切欠B、Cに穂木苗Wの胚軸Aが遊嵌保持され、その後にカッタ機構23を閉じる(S5)ことにより、胚軸Aの下段部が切断されて穂木苗Wは回動可能に同カッタ機構23により下端が支持される。ここで、ハンド機構21,22およびカッタ機構23を後退(S6)した上で接木苗製造装置1の中心方向に横移動(S7)することにより、搬入機構11から穂木苗を個別に取込むことができる。尚、S6におけるハンド機構21,22およびカッタ機構23の後退距離すなわち進退機構12bによる進退作動ストロークは、S6の行程によりセルトレイから取り出すべく把持する苗が隣接苗と完全に干渉しない長さに設定されている。
【0061】
尚、上段のハンド機構21と中段のハンド機構22の間、中段のハンド機構22とカッタ機構23の間には、各々苗ガイド112を設けている。この苗ガイド112は、苗ガイド用シリンダ113により、ハンド機構21,22およびカッタ機構23の前進に先立って前進し、これから取り出そうとする穂木苗Wが直立姿勢となるよう修正し、苗の取出し不良を防止するものである。苗ガイド112は、ハンド機構21,22およびカッタ機構23の後退と同時に後退する。
【0062】
また、移送機構13による移送行程においては、図29の方向修正動作の平面図に示すように、穂木苗を把持した把持ハンド12が把持位置Bから受渡し位置Cまで横移動する際に、その移送行程に干渉するように配置した方向修正部材14の近傍を通過することにより、穂木苗Wの子葉展開方向が移送方向に対して大きく傾斜していると子葉が方向修正部材14と干渉することにより子葉展開方向が略移送方向に揃うように穂木苗が回動される。このとき、穂木苗が過大に回動されても、受渡保持機構15と対向する位置に設けた山形で平板状に構成される整列部材となる副整列部材46に苗の子葉が当たってその回動範囲が規制される。この副整列部材46は、上下位置を調節可能に設けられ、移送機構13で移送されてくる苗の胚軸Aや子葉が直接当たることで苗の姿勢又は子葉展開方向がかえって不適正にならないようにでき、苗の大きさや種類に応じて位置調節できる。
【0063】
前記移送機構13は、コンプレッサからの空気圧により摺動するエアシリンダにより把持ハンド12を横移動させる構成であり、前記シリンダに備えるストロークセンサにより把持ハンド12が搬入機構11及び該搬入機構11上のセルトレイの上方から離れて方向修正部材14の直前位置まで到達したことを検出すると、シリンダへ供給するエアの流量が少なく制御されて移送速度が減速され、移送終端部での移送速度が低速となる構成となっている。この移送速度が減速される位置は、取り出す苗(苗があるセル)の左右位置となる移送始端位置に拘らず同じ位置に設定されている。尚、把持ハンド12が次の苗を把持するべく受渡保持機構15の受渡し位置から搬入機構11上のセルトレイ側へ移動する戻り行程では、通常の速い移送速度で把持ハンド12が横移動する。持上げ具24は、移送機構13の移送速度が移送終端部で減速されるまでの間、持上げ状態に上昇したままであり、苗の移送で他の苗と干渉する等して該苗の姿勢が悪化するようなことを防止している。尚、移送機構13の移送速度が減速するのと同時にカッタ機構23より下位に下降し、苗受渡し行程において邪魔にならないようにしている。
【0064】
尚、把持ハンド12が苗を取り出して上昇した状態で異常停止やオペレータによる中断操作等の停止状態となった後、リセット操作をすると、把持ハンド12が移送機構13により元の原点位置である受渡し位置Rに戻ろうとするが、把持ハンド12が上昇している状態であるので受渡し保持機構15に干渉することになってしまう。そこで、把持ハンド12が下降位置にあることを検出するセンサを設けており、リセット操作をしたときに、該センサにより把持ハンド12が下降位置にあることを検出したときのみ、移送機構13により把持ハンド12を受渡し位置Rに横移動させる構成となっている。
【0065】
次に、受渡し位置Rに構成される受渡保持機構15と整列部材とによる整列保持手段について説明する。
受渡保持機構15は把持ハンド12の進出位置で穂木苗を受けるべく、進出動作する把持ハンド12に対向して配置される。その構成は、要部平面図を図30に、要部側面図(a)とそのB一B線断面図(b)を図31に示すように、受けた穂木苗の胚軸Aの上段部を把持する上段ハンド機構31と、その下方で胚軸Aの中段部を把持する中段ハンド機構32と、両ハンド機構31、32の中間高さ位置で胚軸Aの過大な進入を規制するストッパ33と、これらを一体に高さ位置を調節する昇降機構34とを受渡し位置Rに備える。
【0066】
前記中段ハンド機構32は、下動シリンダ(下動機構)により苗を把持した状態で下降動作する構成となっている。これにより、把持した苗の胚軸Aを苗の上部にある子葉展開基部が上段ハンド機構31の上面に当接するまで下側へ引き下げ、苗の上下位置が所定位置となるように位置決めする。尚、上段ハンド機構31の把持力は中段ハンド機構32の把持力より小さく設定されており、中段ハンド機構32で苗の胚軸Aを引き下げるとき、胚軸Aが上段ハンド機構31内を滑って引き下げられる。また、中段ハンド機構32の下動途中で苗の子葉展開基部が上段ハンド機構31に接当して所定位置で支持された後の中段ハンド機構32の下動端までの下動では、苗が所定位置に保持されたままで苗の胚軸Aが中段ハンド機構32内を滑るようになっている。中段ハンド機構32の把持面は、一対のハンド32aの各々に前後2個の弾性体(スポンジ)47を固着して構成され、前記弾性体(スポンジ)47により苗の胚軸A位置を中心とする4方向から苗の胚軸Aを押圧して把持する構成となっている。この弾性体(スポンジ)47により、中段ハンド機構32の把持力を大きく設定できると共に、太い胚軸Aでは把持面の面積が大きくなり細い胚軸Aでは把持面の面積が小さくなるため、苗の大きさ(胚軸Aの太さ)に応じて中段ハンド機構32の把持力が設定され、該中段ハンド機構32による苗の引き下げを適正に行える。
【0067】
受渡保持機構15の上方で穂木苗の子葉を受ける位置に整列部材となる主整列部材16を配置する。主整列部材16は、双葉状の子葉展開方向を規制する平板状の部材であり、その中心位置に上下に延びる突条によるガイド部35を形成する。このガイド部35は受けた穂木苗の子葉を左右に振り分けるために、断面形状が山形でその表面を平滑に低摩擦に形成する。
【0068】
上記構成の整列保持手段における受渡し動作は、把持ハンド12の進出動作によって受渡保持機構15に穂木苗Wを渡す際に、穂木苗Wの子葉L,Lが主整列部材16に押し付けられるとともに、ガイド部35により子葉L,Lが左右に振り分けられて子葉展開軸線が主整列部材16に沿うように整列される。
【0069】
上記受渡し動作を図33の動作手順図に従って詳細に説明すると、搬入機構11から穂木苗を取込み、その胚軸を把持した把持ハンド12を受渡保持機構15の正面に位置を合わせた後、まず、図34(a)(b)の第一の整列動作の前後の平面図に示すように、カッタ機構23を含めて把持ハンド12を閉じた状態、すなわち、胚軸Aの下端をカッタ機構23上に受けつつ中段のハンド機構22の把持を緩めた状態で進退機構12bの進退動作により受渡保持機構15の位置まで往復する(S11)ことにより主整列部材16を介して子葉展開方向が整列される。
【0070】
次いで、図35(a)(b)の第二の整列動作の前後の平面図に示すように、カッタ機構23を開く(S12)ことにより把持ハンド12のハンド機構21に子葉L,Lを受けて穂木苗Wの高さ位置を合わせる。この状態で進退機構12bの進退動作により受渡保持機構15の位置まで往復する(S13)ことにより、主整列部材16に子葉が当たって子葉展開方向が整列される。
【0071】
上記のように進退機構12bの進退動作で把持ハンド12が往復すると、図36(a)の整列動作の前後の平面図に示すように、把持ハンド12の進出位置の主整列部材16と合わせて把持ハンド12側となる後退位置にも同様の副整列部材46を対向配置しているので、把持ハンド12の1往復につき苗の子葉が整列部材に2回接当することになり、進退動作により能率の良い整列動作が可能となる。尚、前記進退機構12bには、進退用シリンダと、把持ハンド12で把持された苗が主整列部材16に当たる位置に前記進退用シリンダが伸長したことを検出する伸長位置センサと、把持ハンド12で把持された苗が副整列部材46に当たる位置すなわち移送機構13で苗を移送するとき等の通常位置に前記進退用シリンダが収縮したことを検出する収縮位置センサとを備えている。従って、前記伸長位置センサと収縮位置センサとが交互に検出するべく進退用シリンダの伸縮作動を繰り返すことにより、把持ハンド12が往復作動する。
【0072】
把持ハンド12を複数回(2回)伸長させて主整列部材16へ苗を複数回(2回)接触させるにあたり、苗を主整列部材16側へ移動させる往行程1回目の把持ハンド12の伸長の作動ストローク(50〜60mm)と作動速度(290mm/s)に対し、その直後の主整列部材16から離れる復行程の把持ハンド12の作動ストロークを2分の1程度に小さくすると共に作動速度を2倍程度(500mm/s)に大きくし、これに伴って苗を主整列部材16側へ移動させる往行程2回目の把持ハンド12の伸長の作動ストロークを2分の1程度に小さくすると共に作動速度を同一にする。これにより、復行程の作動ストロークが小さく作動速度が大きく、また往行程2回目の作動ストロークが小さくなるので、作動時間の短縮が図れて作業能率が向上する。また、往行程では作動速度を比較的低速に抑えることで主整列部材16への双葉の子葉の接触を適切に行え、復行程では作動速度を高速にして仮に往行程1回目を行っても子葉展開方向が著しく不適切な苗がある場合に慣性力により苗の胚軸の回転を促すことができ、苗の整列の適正率を向上させることができる。尚、復行程では、作動ストロークが小さいので、作動速度を高速にしても子葉展開方向がかえって悪化することは極めて少ないが、500mm/sを超える作動速度であると子葉展開方向がかえって悪化する確率が高くなる。
【0073】
把持ハンド12が伸長したときすなわち苗が主整列部材16側に移動したとき、平面視で主整列部材16の突条によるガイド部35と苗の胚軸が重複する位置関係となるよう設定している。従って、苗を主整列部材16に確実に接触させることができると共に、苗の胚軸の上部は主整列部材16に押されて主整列部材16と反対側に撓むようになる。このように、苗が主整列部材16に押されるようにすることで、把持ハンド12の往復作動で苗の揺動が促され、苗は把持ハンド12に遊嵌された状態で下降しやすくなり、また、上下方向において主整列部材16と上段ハンド機構31の間に隙間があるので、苗の子葉展開基部が前記隙間に入り込もうとするため、苗の子葉展開基部が上段ハンド機構31に接当する位置まで苗を確実に下降させることができ、長い苗であっても苗の高さを確実に揃えることができる。従来は、把持ハンド12が伸長したときすなわち苗が主整列部材16側に移動したとき、平面視で主整列部材16の突条によるガイド部35に苗の胚軸の外面が接触する程度の位置関係であったので、苗の子葉展開方向の修正効果も小さく、苗を下降させる作用も小さかった。
【0074】
尚、図面では、副整列部材46を所望の子葉の整列方向と同一方向としたものについて示したが、前記整列方向に対して方向修正部材14で修正する前の子葉方向側に若干斜めに構成してもよい。これにより、主整列部材16に子葉を当てて整列させる前に、副整列部材46により段階的に所望の子葉方向に近づけることができ、無理に子葉の向きを修正しようとすることにより苗が損傷するようなことを防止でき、子葉の向きの修正を円滑に且つ安定しておこなうことができる。また、副整列部材46のガイド部35を無くしてもよい。これにより、苗が横移動して前記ガイド部35に当たることにより損傷するようなことを防止できると共に、苗の横移動で平板状の副整列部材46にならって子葉の向きを円滑に修正することができる。
【0075】
整列動作の後、把持ハンド12を受渡保持機構15まで進出(S14)した上でカッタ機構23を閉じる(S15)ことにより、胚軸Aが所定位置で切断されて長さが揃えられる。この時、胚軸Aの曲がりがあっても、両ハンド機構31、32の中間高さ位置のストッパ33が胚軸Aの過大な進入を規制することから、胚軸Aを確実に切断することができる。
【0076】
胚軸Aの切断の後にカッタ機構23を開くとともに穂木苗Wを受けた受渡保持機構15の両ハンド機構31、32を閉じ(S16)、次いで、把持ハンド12の上下のハンド機構21,22を開くとともに受側の受渡保持機構15の中段ハンド機構32の下動により苗を引き下げて所定の保持高さに合わせ(S17)、その後、把持ハンド12を後退(S18)する。
【0077】
このようにして受渡しの終了後に、把持ハンド12を搬入機構11側に戻すことにより、次の穂木苗についての取込みが可能となる。この一連の動作の繰返しにより、搬入機構11から穂木苗を順次取込んで接木ロボット本体1aにより接木処理することができる。尚、苗受渡し行程において、持上げ具24は、苗の受け渡しの邪魔にならないようにカッタ機構23より下位に下降している。
【0078】
ところで、苗取込部2の作動を制御する操作パネル1pには、苗取込部2の電源の入切を行う電源スイッチ48と、作動モードを設定するモードスイッチ49と、搬入機構11で搬入するセルトレイの種類を設定するトレイ選択スイッチ50と、作動を開始させるスタートスイッチ51と、作動を停止させるストップスイッチ52と、各作動部を初期状態に復帰させるリセットスイッチ53と、セルトレイ上の苗位置及びセルトレイの苗列の数を任意に設定できる設定変更部54とを設けている。前記モードスイッチ49は、前記スタートスイッチ51の操作での作動域を選択する作動域選択手段であり、ストップスイッチ52を操作するまで連続的に順次苗を前処理部3へ供給するべく作動する自動位置と、1株の苗を前処理部3へ供給するまで作動する手動位置と、前記S1〜S7並びにS11〜S18の各作動行程ごとに作動するステップ位置とに切替操作できる。前記トレイ選択スイッチ50は、把持ハンド12が苗を取り出す左右方向の位置及び搬入機構11の搬送ピッチを切り替えて設定する設定切替手段であり、72穴セルトレイ用の72穴位置と、128穴セルトレイ用の128穴位置と、前記設定変更部54により任意に設定する手動設定位置(MS)とに切替操作できる。尚、前記72穴セルトレイとはセルが縦12列、横6列設けられたセルトレイであり、前記128穴セルトレイとはセルが縦16列、横8列設けられたセルトレイである。従って、これらのセルトレイの種類によってセルの配列ピッチが異なるため、各セルトレイに応じて前記トレイ選択スイッチ50により切り替える構成となっている。把持ハンド12はセルトレイの横一列の苗を受渡保持機構15側から順次取り出すが、この苗取出回数を操作パネル1p内の制御装置でカウントし、トレイ選択スイッチ50の設定に基づく横一列の回数になると、搬入機構11によりセルトレイを搬送する。これにより、横一列の苗を全て取り出したことを判断するために、把持ハンド12が取り出す苗の左右位置を確認するべく、制御装置(PLC)から移送機構13のエアシリンダへ左右位置の確認命令出力を行って該エアシリンダからの入力で判断するのに比較して、制御のスピードが向上し、作業能率の向上が図れる。
【0079】
また、接木ロボット本体laには、該接木ロボット本体la、台木取込部及び穂木取込部2からなる接木苗製造装置1の全体を一括で制御する制御装置を備える制御パネル55を設けている。この制御パネル55に、接木ロボット本体la、台木取込部及び穂木取込部2の作動の入切を行える切替スイッチ等の作動切替手段を設けている。この作動切替手段により、接木ロボット本体la、台木取込部及び穂木取込部2のうち、全部を作動させたり一部を作動させたりすることができ、様々な作業形態で接木苗製造作業が行える。例えば、胚軸長が短い場合に苗接合のための切断位置の精度を要する台木を人手で台木前処理部3へ精度良く供給したいとき、接木ロボット本体la及び穂木取込部2を作動させて台木取込部の作動を停止させることができる。あるいは、苗をセルトレイで育苗しなかった場合にその苗の取込部2を停止させて人手で苗供給したり、苗の接合を人手で行いたいときに取込部2を作動させて接木ロボット本体laの作動を停止させたりできる。尚、台木、穂木共に人手で供給したいときは、接木ロボット本体laのみを作動させればよい。
【0080】
尚、図38から図40に示すように、前記副整列部材46を、移送機構13の移送方向(左右方向)へ向く平面状の板材で構成してもよい。このとき、移送機構13の移送終端部に移送された苗の胚軸からの距離lが苗の子葉の長さaより短くて子葉の幅bの2分の1と同等かそれより長くなるように副整列部材46の位置を設定すると、前後方向に向く子葉のみが副整列部材46に当たって子葉の向きを所望の左右方向へ向く状態に修正できる。尚、図40に示すように、この副整列部材46の平面状の板材を移送機構13の移送上手側(左側)ほど苗から離れる側(後側)となるように若干斜めに配置すると、移送機構13で移送される苗が副整列部材46の端部にひっかかるようなことを防止でき、苗を円滑に移送することができる。
【0081】
尚、上述では苗の子葉展開方向を精度良く揃えるためにローラで構成される方向修正部材14と板材で構成される副整列部材46とを共に設けた構成としたが、何れか一方のみを設けて苗の子葉展開方向を変更する構成としてもよい。尚、副整列部材46のみを設けた場合は、該副整列部材46が苗の子葉と干渉してその子葉展開方向を移送方向に合わせる方向修正部材となる。
【0082】
また、上述では主整列部材16と副整列部材46とを対向して複数設けた構成としたが、例えば主整列部材16のみを設ける等、一方の整列部材を設けた構成としてもよい。このとき、把持ハンド12の1往復につき苗の子葉が主整列部材16に半分の1回しか接当しないので、把持ハンド12を2倍の4往復作動させて苗の子葉が主整列部材16に4回接当させる構成とすればよい。このように把持ハンド12を進退機構12bにより複数回往復作動させる際、伸長位置センサが検出するまで進退用シリンダを伸長させて苗を主整列部材16へ接当させるが、戻り行程では、収縮位置センサが検出する手前で進退用シリンダの収縮作動を停止させるべく、タイマにより所定時間だけ進退用シリンダを作動させて停止し、再度進退用シリンダを伸長させて2回目以降の苗の主整列部材16への接当を行わせる構成とすることができる。これにより、進退用シリンダの収縮作動及び再度苗を主整列部材16に当てるべく進退用シリンダを伸長させる伸長作動において、これらの作動距離並びに作動時間を短縮することができ、所定回数の苗の整列動作に対してこの整列行程の時間短縮が図れ、苗供給作業ひいては接木苗製造作業の作業能率向上が図れる。
【0083】
尚、苗を育苗するべくセルトレイのセルに播種する際、所望の方向に苗の子葉が展開するように予め播種される種子の向きを設定すれば、取込部2で苗の子葉展開方向を揃える作業が円滑に行える。具体的には、楕円形の種子の長径方向がセルトレイの長手方向(前後方向)に向くように種子の向きを揃えて播種すれば、育苗される苗の子葉展開方向はセルトレイの長手方向(前後方向)になり、何れの苗も方向修正部材14又は副整列部材46で苗の胚軸を約90度回転させて子葉展開方向を揃えることになり、苗の子葉が方向修正部材14又は副整列部材46に確実に当たって修正されるため、苗の子葉展開方向が精度良く適正に修正できる。あるいは、楕円形の種子の長径方向がセルトレイの短手方向(左右方向)に向くように種子の向きを揃えて播種し、育苗される苗の子葉展開方向をセルトレイの短手方向(左右方向)へ向け、方向修正部材14又は副整列部材46による苗の胚軸の回転角度を小さくし、子葉展開方向の修正の円滑化を図ることもできる。いずれにしても、育苗される苗の子葉展開方向を所望の向きに設定できるので、取込部2で苗の子葉展開方向を揃える作業が円滑に行えるのである。尚、所望の方向に播種する手段としては、播種機の種子整列板を振動させて長径方向が所定の方向に向くように種子を揃え、その種子を種子吸着ノズルにより吸着する等して種子の向きが勝手に変わらないようにセルトレイへ播種することが考えられる。
【0084】
また、主整列部材16は、双葉状の子葉展開方向を規制する平板状の部材であるが、その左右中央部を谷状に折り曲げた凹条134とすることができる。これにより、例えばトマト苗等、子葉の上側に2〜3枚の本葉が展開した穂木苗の子葉展開方向を整列させる場合、本葉が主整列部材16に接触しにくくなって邪魔になりにくくなり、本葉が主整列部材16に接触することで苗が倒伏したり子葉が主整列部材16に確実に接触せずに適正に整列しなかったりすることを防止し、主整列部材16に子葉を的確に接触させて子葉展開方向を適正に整列させることができる。従って、製造される接木苗の接合精度も向上すると共に、種々の作物に適応させることができる。
【0085】
また、子葉展開方向を把持ハンド12の進退方向に整列させる場合、従来は、主整列部材16を上下方向の軸回りに90度回動させて切り替えるか、主整列部材16を交換していたが、凹条134を備えた主整列部材16であれば、子葉が凹条134へ向けて延びているため、主整列部材16が邪魔にならずに子葉の向きを凹条134で揃えることができ、従来のように主整列部材16の切替や交換が不要となり、接木作業の作業能率が向上する。
【0086】
また、子葉のない台木苗を用いて接木苗を製造する場合、台木苗の胚軸の根部側をも切断して断根し、台木苗を胚軸のみとして胚軸の両端に接合用の切断面を形成すれば、台木苗の上下向きを逆さまにしても接木できるので、接木作業の作業能率の向上が図れる。このとき、活着率向上を図るべく切断面を広くするために胚軸の軸心に対して該胚軸を斜めに切断するが、胚軸の両端共に斜めに切断すればよい。特に、例えばトマト苗の接木等、苗供給の容易化のために接合前に台木苗の断根をする場合、断根をした胚軸のみの台木苗は上下方向が判別しにくくなるが、台木苗の上下どちらでも接木できるようにすれば有用である。このように、台木苗の胚軸を上下逆さまにして接木をしてトマトの接木苗の育苗試験を行ってみたが、接木苗は下端部から発根し、発根に問題がなかった。
【0087】
また、胚軸のみの台木苗を、接木苗製造装置1を使用して、格別の台木苗供給装置135により受渡保持機構15へ1本ずつ供給し、台木前処理部3で切断し直して新たに切断面を形成し、穂木苗と接合することができる。台木苗供給装置135は、クリップ供給装置74と同様に台木苗用フィーダ136と台木苗用ガイドレール137を備え、台木苗用ガイドレール137の先端部に一本ずつ台木苗を供給する構成とし、台木苗用ガイドレール137の先端部を下り傾斜とし、この下り傾斜部分で台木苗の胚軸を滑らせて受渡保持機構15へ下降させて供給する構成とすればよい。これにより、台木苗の供給が容易になり、受渡保持機構15への台木苗の供給ミスが少なくなって台木苗の供給精度が向上すると共に、台木苗の供給を能率良く行えるので、接木作業の作業時間の短縮を図ることができる。また、胚軸のみの台木苗を供給する構成であるので、従来のように子葉が干渉することによる台木苗の供給ミスがなく、台木苗の供給精度が向上すると共に台木苗の供給を能率良く行える。尚、台木搬送アーム61により受渡保持機構15から台木苗が搬送されると、台木苗用ガイドレール137の下り傾斜部分にある次の台木苗が受渡保持機構15へ供給されることになる。また、前述のように、穂木前処理部4により穂木側の受渡保持機構15へ自動的に穂木苗を供給する構成とすればよい。あるいは、穂木苗を収容するセルトレイを台上に載せ、作業者がセルトレイから受渡保持機構15へ一株ずつ穂木苗を供給してもよい。
【0088】
接合率などの接木の精度を良好に維持するためには、台木苗と穂木苗の互いの胚軸の太さが同一又は近似していないと、接合面が合致しにくく、また接木後の接合部の活着も良好に行われない。そこで、事前に胚軸の軸径に応じて苗を仕分ける苗仕分け機138を構成する。この苗仕分け機138は、ベルト式の搬送コンベアを備えるセルトレイ搬送装置を複数備え、そのうちの一つのセルトレイ搬送装置は育苗後の苗を機体内に供給する苗供給装置139とし、残りの複数のセルトレイ搬送装置は仕分けられた苗を仕分け区分別で収容するための空のセルトレイを搬送する苗搬出装置140とする。苗供給装置139及び複数の苗搬出装置140は、左右に並列に配置されるが、苗供給装置139の搬送方向に対して複数の苗搬出装置140の搬送方向は逆方向に設定している。平面視で苗供給装置139及び複数の苗搬出装置140と交差し、左右方向で苗供給装置139及び複数の苗搬出装置140にわたるように苗横移動装置141を設けている。苗横移動装置141は、左右方向のスライドレール142に沿って苗把持ハンド143を左右移動させると共に、上下動シリンダ144からなる上下動機構により苗把持ハンド143を上下動させる構成となっている。また、苗把持ハンド143は、伸縮シリンダ145からなる伸縮機構によりセルトレイのセルの配列ピッチ程度の前後移動が行える構成となっている。
【0089】
そして、作業者が、苗供給装置139の搬送コンベア上に育苗後のセルトレイを載せると共に、複数の苗搬出装置140の各々の搬送コンベア上に苗を収容していない空のセルトレイを載せて始動操作すると、各々の搬送コンベア上のセルトレイの第一列が同じ前後位置で左右一直線上に位置して停止する。その後、苗把持ハンド143が、下動及び前側へ移動して苗供給装置139上のセルトレイの第一列の苗を左右一側から順に把持していくことになるのであるが、苗把持ハンド143が苗を把持するときに該苗把持ハンド143の開度に基づいて苗の胚軸の軸径を計測し、この軸径に対応する苗搬出装置140上のセルトレイの第一列の左右一側から順に苗を移植する。尚、胚軸の軸径の計測は、苗把持ハンド143が軽い所定の把持力で苗を把持するときの苗把持ハンド143の開度を検出するものである。その他、胚軸の軸径を計測する方法としては、別途設けた光電式の苗センサにより計測したり、胚軸を撮影する撮影装置(カメラ)により計測したりすることができる。また、苗の移植にあたっては、苗把持ハンド143は、苗供給装置139上の苗を把持して上動し、苗横移動装置141により仕分け区分に該当する苗搬出装置140上のセルトレイの所望の移植位置の上方に横移動し、下動して苗を移植する。移植が終わると、苗把持ハンド143が上動し、横移動し、下動して苗供給装置139上の次の苗を把持して取り出す。以下、この行程を繰り返していき、苗供給装置139上のセルトレイの横一列の苗が全てなくなると、順次セルの配列ピッチ分だけ当該セルトレイを搬送して次列の苗を取り出すようにし、苗搬出装置140上のセルトレイの横一列の全てのセルに苗が移植されると、順次当該セルトレイをセルの配列ピッチ分だけ搬送して次列のセルに苗を移植できるようにする。
【0090】
よって、育苗された苗を胚軸の軸径に応じて仕分けることができ、台木苗と穂木苗で軸径が略同じ苗を使用して接木の精度向上を図ることができる。特に、接木クリップ101を使用せずに、例えばトマト等の接木において台木苗の胚軸と穂木苗の胚軸を樹脂製のチューブで繋ぎ合わせて接合する場合は、台木苗と穂木苗の胚軸の軸径が大きく異なると接合不良となりやすいが、台木苗と穂木苗の胚軸の軸径を同一又は近似させることにより接合を良好に行える。また前記チューブは、胚軸の軸径に応じて異なる内径の複数種のものがあるが、胚軸の軸径ごとに予め苗が仕分けられているので、従来のような作業者が胚軸の軸径を見てチューブの種類を選定する必要がなくなり、接木作業の作業能率が向上する。
【0091】
尚、台木苗を仕分けする場合は、苗横移動装置141による苗供給装置139上から苗搬出装置140上への苗の移動経路に切断刃146を設け、苗横移動装置141による横移動に伴って接木用に苗を予め切断する構成とすることができる。この切断刃146は傾斜姿勢で取り付けられ、台木苗の胚軸を斜めに切断する。切断刃146の傾斜角度を調節できる調節機構を設けている。
【0092】
接木クリップ101で把持された接木苗は、養生室内で養生される。養生室には、室内へ温風や冷風を供給する冷暖房装置と、室内を加湿する加湿機と、室内を除湿する除湿機と、室内の温度を測定する温度センサと、室内の湿度を測定する湿度センサを設けている。そして、制御装置により、温度センサ及び湿度センサの測定値に基づき、所望の目標温度及び目標湿度の高温多湿状態となるよう冷暖房装置、加湿機及び除湿機を作動させる。尚、室内温度が目標温度よりも低く且つ室内湿度が目標温度よりも高いときは、冷暖房装置による温風の供給で加温し、除湿機による除湿は行わない。これにより、除湿による冷却効果が発生することなく、加温を優先的に行うことができ、室内温度を早く目標温度まで高めることができる。また、室内温度が目標温度よりも高く且つ室内湿度が目標温度よりも低いときは、加湿機による加湿を行い、冷暖房装置による冷風の供給での冷房は行わない。これにより、冷房による除湿効果が発生することなく、加湿を優先的に行うことができ、室内湿度を早く目標湿度まで高めることができる。すなわち、加温及び加湿が優先的に行われるようにして高温多湿状態を維持し、低温又は低湿により接木苗の養生において取り返しのつかない悪影響を与えてしまうようなことを防止している。尚、制御装置による制御において、暖房要求、冷房要求、加湿要求及び除湿要求のうちの何れか一つの要求のみが発生するときや、暖房要求と加湿要求が同時に発生するときや、冷房要求と除湿要求が同時に発生するときは、当該要求を実行する。
【0093】
また、養生室内には、室内の空気を対流させて室内の温度むら及び湿度むらを防止するための複数のファンを設けている。そして、室内の冷房が実行されていない間は、制御装置により、複数のファンのうちの一部のファンのみ駆動するか、ファンを低速回転で駆動させる等して、ファンの送風量を小さく設定する。一方、冷暖房装置の冷房による冷却能率が低くて冷房に時間を要するため、室内の冷房が実行されている間は、制御装置により、全てのファンを駆動するか、ファンを高速回転で駆動させる等して、ファンの送風量を大きく設定して室内の冷却を促すと共に、加湿機による加湿を行い、冷房による除湿効果を抑える。その後、冷房が停止されれば、ファンの送風量を小さくして元の設定に復帰させ、所定時間後に加湿を停止する。
【0094】
尚、室内の各所の温度を測定するべく温度センサを複数設け、通常は複数の温度センサの測定値の平均に基づいて冷暖房装置を作動させるが、複数の温度センサの測定値のうちの最大値と最小値の差が所定以上になると、前記最大値に基づいて冷暖房装置を作動させると共に警報を発する。これにより、温度センサの故障により室内の温度が必要以上に高温となるのを防止でき、異常な高温により接木苗にダメージを与えるようなことを防止できる。尚、比較的低温となっても、接木苗の生育遅れが生じて養生時間が長くなる程度であり、接木苗を駄目にしてしまうようなことはない。
【0095】
また、室内の各所の湿度を測定するべく湿度センサを複数設け、通常は複数の湿度センサの測定値の平均に基づいて加湿機及び除湿機を作動させるが、複数の湿度センサの測定値のうちの最大値と最小値の差が所定以上になると、前記最小値に基づいて加湿機及び除湿機を作動させると共に警報を発する。これにより、湿度センサの性質上、湿度センサが故障すると高湿度と誤検知するが、この誤検知に基づいて制御することにより室内の湿度が必要以上に低くなるのを防止でき、異常な低湿度により接木苗が萎れて接木苗にダメージを与えるようなことを防止できる。尚、高湿度となっても、接木苗へのダメージは、低湿度の場合と比較すればはるかに少ない。
【符号の説明】
【0096】
1:接木苗製造装置、3:台木前処理部、4:穂木前処理部、7:接着処理部、63:接合位置、74:クリップ供給装置、101:接木クリップ、102:把持部、109:規制部材、110:規制部材移動装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
接木苗の接合部位を把持する左右一対の把持部(102)と、該左右一対の把持部(102)を開閉するための左右一対の開閉部(103)を備え、把持部(102)と開閉部(103)の間に位置する回動支点回りに把持部(102)が回動して開閉する構成とし、左右の把持部(102)が閉じる側へ付勢する弾性部材(104)を設けた接木クリップにおいて、左右の把持部(102)には、該左右の把持部(102)間の把持空間(123)を通って左右方向に貫通する貫通孔(126)を設けた接木クリップ。
【請求項2】
貫通孔(126)を左右の把持部(102)の回動軸心方向となる上下方向に複数配列し、隣接する貫通孔(126)の間に配置される把持部材(125)を、把持部(102)の上下幅の中央位置で且つ左右に対向させるべく左右各々の把持部(102)に形成した請求項1に記載の接木クリップ。
【請求項3】
左右の把持部材(125)の外側に接触させて弾性部材(104)を配置した請求項2に記載の接木クリップ。
【請求項4】
貫通孔(126)を、把持空間(123)内において最も左右幅が広くなる把持位置(127)に対して、前後にわたって連通させて形成した請求項1又は請求項2に記載の接木クリップ。
【請求項5】
左右一方側の把持部(102)の上側の少なくとも一部の端縁が、対向する左右他方側の把持部(102)の上側の端縁よりも低位となるよう形成した請求項1又は請求項2に記載の接木クリップ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【図25】
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【図26】
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【図27】
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【図28】
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【図29】
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【図30】
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【図31】
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【図32】
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【図33】
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【図34】
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【図35】
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【図36】
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【図37】
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【図38】
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【図39】
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【図40】
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【図41】
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【図42】
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【図43】
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【図44】
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【公開番号】特開2012−205547(P2012−205547A)
【公開日】平成24年10月25日(2012.10.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−74262(P2011−74262)
【出願日】平成23年3月30日(2011.3.30)
【出願人】(000000125)井関農機株式会社 (3,813)