説明

接着促進剤を用いないポリアミドベースの高性能自己接着性粉末

【課題】シラン−タイプの接着促進剤またはエポキシ、アルコールおよび/またはカルボン酸またはその誘導体官能基を有する接着促進剤を含まない、自己接着性のある金属被覆用粉末組成物。
【解決方法】PA11およびPA12の中から選択されるホモポリアミド(A)と、コポリアミド(B)と、炭酸カルシウムとを含み、必要に応じてさらに顔料または色素、坑クレーター剤(anti-crater)または展着剤、還元剤、抗酸化剤、補強材、紫外線安定剤、流動化剤および腐食防止剤の中から選択される少なくとも一種の成分を含み、乾燥状態および/または湿潤状態でのモジュラスがNF EN ISO527規格で2200MPa以上である。2000時間、塩霧処理した後の、NFT 58−112規格の乾燥前後の金属基材へ被覆層の接着力が3以上である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリアミドベースの金属基材被覆用粉末組成物に関するものである。
本発明は金属を耐食保護するための高性能ポリアミド被覆、特に、流動床浸漬法によって塗布される、粉末ペイントの分野に関するものであるが、このプロセスに限定されるものではない。
【背景技術】
【0002】
ポリアミドはその優れた機械特性、特に耐摩耗性、耐衝撃強度、多くの化合物、例えば炭化水素、鉱酸、塩基に対する耐薬品性によって金属基材の被覆に一般的に使用されている。しかし、ポリアミドは金属に対する接着性が悪いということは知られている。
【0003】
この欠点を克服するために、金属支持体には一般に接着プライマーとよばれる下塗りを塗布してポリアミド粉末の機械的結合・投錨を確実にしている。一般に接着プライマーとして使用されるのは熱硬化性樹脂をベースにしたもので、粉末、有機溶剤または水溶液中に溶解または懸濁した形で塗布される。そのため追加の設備が必要になり、塗装操作時間が長くなり、生産コストが大幅に増加する。従って、接着プライマーを用いずに、基材上への被覆の直接接着力を改善することがますます望まれている。
【0004】
特許文献1(欧州特許第EP 0 412 288号公報)には接着プライマーの下塗りを使用せずに金属基材を被覆するのに用いるポリアミドとエポキシ/スルホンアミド樹脂との混合物が記載されている。このポリアミドとエポキシ/スルホンアミド樹脂粉末混合物は静電スプレーガンを用いて基材に塗布される。こうして塗布された基材をオーブンに通して粉末を溶融し、均一な皮膜にする。また、基材を粉末の融点以上の温度に予熱した後に粉末流動床中に浸漬することもできる。
【0005】
特許文献2(国際特許出願PCT/FR/95/01740号)にはポリアミドベースと、エチレンと不飽和カルボン酸またはそのビニルエステルとのコポリマーまたはエチレン/ビニールアルコールコポリマーとのコポリマーとをベースにした粉末組成物が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】欧州特許第EP0412288号公報
【特許文献2】国際特許出願PCT/FR/95/01740号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明者は、接着プライマー層を必要とせず、塩霧に対する耐久性に極めて優れた、金属基材の被覆に使用可能な接着促進剤フリーなポリアミドベースの粉末組成物を見出した。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の対象は、PA11およびPA12の中から選択されるホモポリアミド(A)と、コポリアミド(B)と、炭酸カルシウムとを含み、必要に応じてさらに顔料または色素、坑クレーター剤(anti-crater)または展着剤、還元剤、抗酸化剤、補強材、紫外線安定剤、流動化剤および腐食防止剤の中から選択される少なくとも一種の成分を含み、シラン−タイプの接着促進剤またはエポキシ、アルコールおよび/またはカルボン酸またはその誘導体官能基を有する接着促進剤は含まず、乾燥状態および/または湿潤状態でのモジュラスがNF EN ISO527規格で2200MPa以上であることを特徴とする自己接着性のある金属被覆用粉末組成物にある。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】実施例での湿潤モジュラスとCaCO3の量との対応を示すグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の一つの実施例では補強材はタルク、炭酸マンガン、珪酸カリウム、珪酸アルミニウム、分散されたナノフィラー(nanofillers)、例えばカーボン・ナノチューブおよびシリカの中から選択される。
【0011】
本発明の他の対象は、上記定義の組成物を溶融して得られる被膜層によって金属基材を直接被覆した複合材料にある。
本発明の一つの実施例の複合材料は、NFT 58-112規格の乾燥前後の金属基材への被覆層の接着力が、2000時間塩霧処理した後に、3以上である点に特徴がある。
本発明はさらに、上記組成物の金属基材の被膜製造での使用にも関するものである。本発明の使用の一つの実施例では上記被覆はペイントである。
【0012】
「コポリアミド(B)」という用語は、ラクタム、アミノ酸またはジアミンと二酸の縮合物を意味し、一般的にはアミド機能を介して結合した単位で形成される全てのポリマーを意味する。
【0013】
ラクタムの例としてラウリルラクタム(ラクタム-12)、カプロラクタム(ラクタム-6)、エナントラクタム(ラクタム-11)、カプロラクタムまたはこれらの混合物が挙げられる。α-ωアミノカルボン酸の例としては6-アミノヘキサン酸、7-アミノヘプタン酸、11-アミノウンデカン酸または12-アミノドデカン酸が挙げられる。
脂環式ジアミンの例としてはビス(4- アミノシクロヘキシル)メタン(BACM)、ビス(3- メチル-4- アミノシクロヘキシル)メタン(BMACM)そして、パラ−アミノジシクロヘキシルメタン(PACM)、イソホロンジアミン(IPDA)、2,2- ビス(3- メチル-4- アミノシクロヘキシル)プロパン(BMACP)、2,6- ビス(アミノメチル)−ノルボルナン(BAMN)そして、ピペラジンの異性体が挙げられる。非脂環式ジアミンの例としては直鎖脂肪族ジアミン、例えば1,4-テトラメチレンジアミン、1,6-ヘキサメチレンジアミン、1,9-ノーナメチレンジアミン、1,10-デカメチレンジアミン、1,12-ドデカメチレン−ジアミン、トリメチルヘキサメチレンジアミンが挙げられる。
【0014】
脂肪族ジカルボン酸の例としては6〜36個の炭素原子を有する脂肪族ジカルボン酸、特に1,5-ペンタンジオイック酸(グルタル酸)、1,6-ヘキサンジオイック酸(アジピン酸)、1,7-ヘペタンジオイック酸(ピメリン酸)、1,8-オクタンジオイック酸(スベリン酸)、1,9-ノナンジオイック酸(アゼライン酸)、1,10-デカンジオイック酸(セバシン酸)、1,12-ドデカンジカルボン酸、1,14-テトラデカンジカルボン酸、1,18-オクタデカンジカルボン酸およびイソステアリン酸が挙げられる。非脂肪族ジカルボン酸の例としては芳香剤ジカルボン酸、特にイソフタル酸(I)、テレフタル酸(T)およびこれらの混合物が挙げられる。
【0015】
ポリアミドの縮重合には任意の機器を使用できる。例えば、約50回転/分の撹拌器を備えた耐圧20バールの反応装置にすることができる。縮重合時間は5〜15時間、好ましくは4〜8時間である。縮重合プロセスの終了時に得られる固体生成物を粉砕して所望粒度にする。本発明の粉末の粒度は一般に5ミクロン〜1mmの間にある。
【0016】
「ホモポリアミド(A)」という用語は、11-アミノウンデカン酸またはラクタム-11の縮合で得られるポリアミド11(PA11)および12-アミノドデカン酸またはラクタム-12の縮合で得られるポリアミド12(PA-12)の中から選択される。
【0017】
本発明組成物は接着促進剤を含まない。例えば少なくとも一つのアルコール基、エポキシ基、カルボン酸基またはこれらの誘導体官能基(無水物、エステル、その他)を有する接着促進剤を含まない。また、本発明組成物は乾燥モジュラスおよび湿潤モジュラスが2200 MPa以上でなければならない。
【0018】
本発明組成物は湿潤状態の接着力が被膜を35℃の乾燥器中で乾燥した後に得られる接着力とほぼ同一であるということが一般に観察される。
本発明組成物には各種の他の成分、例えば添加剤および/または充填材、例えば顔料または色素、耐クレータ剤(凹凸防止剤)または展着剤、還元剤、抗酸化剤、補強材、紫外線安定剤、流動化剤または腐食防止剤を加えることができる。充填材の例としてはタルク、炭酸カルシウム、炭酸マンガン、珪酸カリウム、珪酸アルミニウム、ドロマイト、炭酸カルシウムおよび/または炭酸マグネシウム、石英、窒化硼素、カオリン、ウォラストナイト、酸化チタン、ガラスビーズ、マイカ、カーボンブラック、石英・マイカ・亜塩素酸塩混合物、長石、分散されたナノメータ充填材、例えばカーボン・ナノチューブおよびシリカを挙げることができる。
【0019】
顔料の例としては酸化チタン、カーボンブラック、酸化コバルト、チタン酸ニッケル、二硫化モリブデン、アルミニウム粉末、酸化鉄、酸化亜鉛、有機顔料、例えばフタロシアニンおよびアントラキノン誘導体、リン酸亜鉛を挙げることができる。
紫外線安定剤の例としてはレゾルシノール誘導体、ベンゾトリアゾール誘導体またはサリチル酸塩を挙げることができる。
抗酸化剤の例としては沃化カリウム、フェノール誘導体およびヒンダードアミンと沃化第一銅との組合せを挙げることができる。
腐食防止剤の例としては燐珪酸塩および硼珪酸塩を挙げることができる。
【0020】
本発明組成物は混合機中で各成分を150〜300℃、好ましくは180〜270℃の温度で溶融混合して作ることができる。マスターバッチまたは最終製品にすることができる。最終製品を通常の方法で所望粒度の粉末に粉砕する。アトマイザー(噴霧法)または沈殿法で粉末にすることもできる。粉砕は冷凍粉砕機、高圧空気吸引機(カッター粉砕機、ハンマーミル、ディスクミル、その他)で実行できる。得られた粉末粒子は適当な機器で分級して望ましくない粒度画分、例えば粗過ぎる粒子および/または細かすぎる粒子を除去する。
【0021】
本発明はさらに、上記定義の粉末の金属基材の被覆での使用と、こうして得られた被覆基材とにも関するものである。金属基材は広範囲の材料から選択でき、通常の鋼、メッキした鋼の部品、アルミニウムまたはアルミニウム合金の部品にすることができる。金属基材の厚さは任意で、例えば数十ミリメートルから数十センチメートルにすることができる。金属基材、特に炭素鋼、アルミニウムまたはアルミニウム合金の基材を公知の方法で表面処理してもよい。表面処理の例としては粗脱脂、アルカリ脱脂、ブラシ研摩、ショットピーニングまたは砂吹き、精密脱脂、加熱リンス、リン酸塩脱脂、鉄/亜鉛トリ−カチオンリン酸塩処理、クロメート処理、冷間リンス、クロミックリスンが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0022】
本発明組成物で被覆可能な金属基材の例としては脱脂し、平滑化された鋼;脱脂、燐酸処理した鋼;鉄リン酸塩または亜鉛メッキ処理した鋼板;センジミル(Sendzimir)亜鉛メッキ鋼;電気メッキ鋼;亜鉛浴メッキ鋼;反射(cataphoretically)処理鋼;クロメート処理鋼;陽極処理した鋼;コランダム処理した鋼;平滑化したアルミニウム;ショットブラスト処理したアルミニウム;クロメート処理したアルミニウムが挙げられる。
【0023】
本発明のポリアミドベースの組成物は粉末の形で金属基材上に塗布される。粉末組成物の塗布は通常使用される塗布方法に従って実行できる。粉末塗布方法の中では静電塗装、加熱粉末塗装、流動床浸漬法が好ましく、本発明の基材被覆法を実行するのに好適な方法が選択できる。
【0024】
静電塗装法では粉末はスプレーガンに送られ、そこから圧縮空気でノズルに送られ、一般に数十ボルト〜数キロボルトの高電位が加えられる。印加電圧は正または負に分極できる。そして、スプレーガンからの粉末の速度は一般に10〜200グラム/分、好ましくは50〜120グラム/分である。粉末はノズルに送られ静電的に荷電される。粉末粒子は圧縮空気で金属基材表面上に噴霧される。この金属基材自体は0電位のアースに接続されている。粉末粒子は金属基材の表面上に静電荷電によって保持される。この静電荷電力は粉末で被われた被処理物品を移動し、炉中で粉末を溶融温度に加熱するのに十分な強さである。
【0025】
本発明のポリアミドベースの組成物は既存の任意の極性の標準的な工業プラントで使用できるという利点がある。すなわち、単一の極性で粉末塗装するように設計された静電塗装で使用することができる。静電塗装で使用可能な粉末の平均粒度は5〜100ミクロン、好ましくは5〜65ミクロンである。
【0026】
流動床浸漬で塗装する場合には、先ず最初に、被塗装金属基材を注意深く用意する。例えば、上記の表面処理の一つまたは複数を行った後に、炉中に入れる。炉の温度は基材の種類、形状および塗膜の所望厚さに従って決定される。次に、加熱された基材は多孔な底を有するタンク中で循環気体によって懸濁状態に維持された本発明の粉末組成物中に浸漬される。粉末は加熱された金属表面と接触して溶け、塗膜が形成される。塗膜の厚さは基材の温度や粉末の浸漬時間に依存する。流動床で使用する粉末の粒度は10〜1000ミクロン、好ましくは80〜200ミクロンにすることができる。塗膜の厚さは一般に150〜1000ミクロン、好ましくは200〜700ミクロンである。
【0027】
特に、本発明の粉末状組成物は接着促進剤を含まないペイントを製造することができ、接着プライマー層を使用しなくても35℃で2000時間、塩水を噴霧した後も接着力は同じである。
【実施例】
【0028】
以下、本発明の実施例を示すが、本発明が下記実施例に限定されるものではない。
実施例および比較例で使用した組成物は[表1]に示してある。
1.1. 粉末組成物の製造
本発明の実施例と比較例は[表1]に示す各成分を溶融混合し、得られた生成物を粉砕したものである。
【0029】
【表1】

【0030】
1.2. 実施
1.1で得た比較例/実施例の組成物の粉末を流動床浸漬法で金属プレート上に塗装して塗装金属プレートを得た。
【0031】
1.3. 結果
1.2で得られた塗装属プレートを塩霧処理(brouillard Salin)した。すなわち、NFT 58-112規格に従って2000時間、塩霧に曝した後、塗膜と金属プレートとの間の接着力を測定した。次に、塩霧に曝した金属プレートを35℃で72時間乾燥した後、接着力を再度測定した。それと同時に実施例/比較例の組成物(各実施例/比較例で少なくとも2つのサンプル)を用いて作ったフィルム(金属基材上の塗膜と同じ厚さの)から引張り試験用テストサンプルを切り出した。このテストサンプルを1週間、塩霧処理に曝した後、テストサンプルの半分で各実施例/比較例の湿潤状態での引張りモジュラス(縦弾性係数)を測定した。
テストサンプルの残り半分は72時間、35℃で乾燥した後、乾燥状態での引張りモジュラスを測定した。測定値は[表2]に示してある。
【0032】
【表2】

【0033】
実施例4'として、750重量部のPA11と、80重量部のTiO2と、250重量部のプラタミド(Platamid、登録商標)HX2507と、X重量部のCaCO3とから成る組成物を作った。この組成物のCaCO3の量を関数とする湿潤モジュラスを測定した。測定点は[図1]に示してある。図から分かるように湿潤モジュラスは約270重量部のCaCO3で2200MPa以上になるということを確認した[NF EN ISO 527規格]。
【0034】
プラタミド(Platamid、登録商標)を含まない比較例7の組成物についても750重量部のPA11と、80重量部のTiO2と、X重量部のCaCO3とから成る組成物を作った。この組成物のCaCO3の量を関数とする湿潤モジュラスも測定した。結果は[図1]に示してある。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
PA11およびPA12の中から選択されるホモポリアミド(A)と、コポリアミド(B)と、炭酸カルシウムとを含み、必要に応じてさらに顔料または色素、坑クレーター剤(anti-crater)または展着剤、還元剤、抗酸化剤、補強材、紫外線安定剤、流動化剤および腐食防止剤の中から選択される少なくとも一種の成分を含み、シラン−タイプの接着促進剤またはエポキシ、アルコールおよび/またはカルボン酸またはその誘導体官能基を有する接着促進剤は含まず、乾燥状態および/または湿潤状態でのモジュラスがNF EN ISO527規格で2200MPa以上であることを特徴とする自己接着性のある金属被覆用粉末組成物。
【請求項2】
上記補強材がタルク、炭酸マンガン、珪酸カリウム、珪酸アルミニウム、分散したナノフィラー、例えばカーボンナノチューブおよびシリカの中から選択される請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
請求項1または2に記載の組成物を溶融して得られる被膜で金属基材が直接被覆されている複合材料。
【請求項4】
2000時間、塩霧処理した後の、NFT 58−112規格の乾燥前後の金属基材へ被覆層の接着力が3以上である請求項3に記載の複合材料。
【請求項5】
請求項1または2に記載の組成物の、金属基材の被覆製造での使用。
【請求項6】
被覆がペイントである請求項5に記載の使用。

【図1】
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【公表番号】特表2010−502805(P2010−502805A)
【公表日】平成22年1月28日(2010.1.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−527184(P2009−527184)
【出願日】平成19年9月7日(2007.9.7)
【国際出願番号】PCT/FR2007/051893
【国際公開番号】WO2008/029070
【国際公開日】平成20年3月13日(2008.3.13)
【出願人】(505005522)アルケマ フランス (335)
【Fターム(参考)】