説明

接着剤

【課題】 常態接着強度、耐煮沸接着強度に優れ、また、多価イソシアネート化合物配合後の経時的な接着物性低下が少ない接着剤、とくに木工用接着剤を提供すること。
【解決手段】 けん化度80〜95モル%、重合度400〜2000のビニルアルコール系重合体を分散剤とし、アクリル酸エステル系単量体単位およびメタクリル酸エステル系単量体単位から選ばれる少なくとも一種の単量体単位からなる重合体を分散質とするエマルジョンであって、エマルジョン粒子径分布幅を示す[尺度a]が0.3以上である(メタ)アクリル樹脂系エマルジョン(A)および多価イソシアネート化合物(B)からなる接着剤。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、常態接着強度、耐煮沸接着強度に優れ、また、多価イソシアネート化合物配合後の経時的な接着物性低下が少ない接着剤、とくに木工用接着剤に関する。
【背景技術】
【0002】
水溶性高分子,水性エマルジョンおよびイソシアネート系化合物を主成分とする接着剤は、従来のアミノプラスト系接着剤とは異なりホルマリンの発生がなく、常温で比較的短時間圧締するだけで、極めて高い接着強度および耐水性が得られることから、木質材用接着剤として賞用されている(例えば特許文献1,特許文献2、特許文献3、特許文献4)。また、同様の接着剤として、ポリビニルアルコールを分散剤(保護コロイド)としたポリ酢酸ビニルエマルジョンおよび多価イソシアネート化合物よりなる耐水性接着剤組成物(特許文献5)が提案されている。さらに、ポリビニルアルコールで安定化されたエマルジョンポリマーからなり、該エマルジョンポリマーが、第一段階が10〜40℃の範囲内のガラス転移温度を有する酢酸ビニルコポリマーを製造し、第二段階が50〜120℃のガラス転移温度を有するメチルメタクリレートコポリマーを製造することからなる2段階重合法によって製造され、酢酸ビニルコポリマーとメチルメタクリレートコポリマーとの比率が10:1〜10:6の範囲である接着剤が報告されている(特許文献6)。
ポリビニルアルコールを分散剤(保護コロイド)とした(メタ)アクリル系樹脂エマルジョンに関しては、ポリビニルアルコールおよび連鎖移動剤の存在下に乳化重合する手法、(メタ)アクリル酸エステル系単量体、ジエン系単量体等の単量体及び水溶性高分子の保護コロイドを連続的または断続的に添加して重合する手法(特許文献7、特許文献8)が提案されているが、後述する比較例7、比較例8に示す様に、該エマルジョンをベースとした木工用接着剤はその物性に満足しうるものではなかった。
また、接着する対象の拡大とともに、場合によっては現在の接着剤の接着性能レベルあるいはハンドリング性をさらに向上する必要も生じてきている。具体的には、初期接着力および常態における接着強度の向上と、経時的な接着強度の低下の抑制が強く求められている。
【0003】
【特許文献1】特開昭48−94739号公報(特許請求の範囲)
【特許文献2】特開昭49−26346号公報(特許請求の範囲)
【特許文献3】特開昭49−26346号公報(特許請求の範囲)
【特許文献4】特開昭50−69139号公報(特許請求の範囲)
【特許文献5】特開平3−33178号公報(特許請求の範囲)
【特許文献6】特開平2−302485号公報(特許請求の範囲)
【特許文献7】特開平11−335490号公報(特許請求の範囲)
【特許文献8】特開平4−185606号公報(特許請求の範囲)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、このような事情のもとで、常態接着強度、耐煮沸接着強度に優れ、また、多価イソシアネート化合物配合後の経時的な接着物性低下が少ない接着剤、とくに木工用接着剤を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、上記の実情に鑑み、鋭意検討した結果、けん化度80〜95モル%、重合度400〜2000のビニルアルコール系重合体を分散剤とし、アクリル酸エステル系単量体単位およびメタクリル酸エステル系単量体単位から選ばれる少なくとも一種の単量体単位からなる重合体を分散質とするエマルジョンであって、エマルジョン粒子径分布幅を示す[尺度a]が0.3以上である(メタ)アクリル樹脂系エマルジョン(A)および多価イソシアネート化合物(B)からなる接着剤、とくに木工用接着剤が、上記課題を解決するものであることを見出し、本発明を完成するに至った。
【発明の効果】
【0006】
本発明により、常態接着強度、耐煮沸接着強度に優れ、また、多価イソシアネート化合物配合後の経時的な接着物性低下が少ない接着剤、とくに木工用接着剤を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
本発明に用いる(メタ)アクリル樹脂系エマルジョン(A)は、エマルジョン粒子径分布幅を示す[尺度a]が0.3以上であることが必須である。さらに好適には0.5以上、最適には0.6以上である。該[尺度a]が0.3未満の場合、エマルジョンの粒子径分布幅が広くなり、接着剤、とくに木工用接着剤の多価イソシアネート化合物配合後の経時的な接着物性が低下する。
[尺度a]は、動的光散乱法によりエマルジョンの粒子径分布を測定したときの、粒子径および散乱強度から算出される。具体的には、X軸にエマルジョン粒子径を、Y軸に散乱強度の積算値をプロットし、最小二乗法によりXとYの一次式を求め、得られた一次式の傾きを示す係数を[尺度a]とする。得られた一次式の傾きが大きいほど、粒子径分布幅が小さいことを示す。
(メタ)アクリル樹脂系エマルジョン(A)の平均粒子径は特に制限されないが、通常、動的光散乱法による測定値が2μm以下であることが、皮膜透明性、皮膜強度の点から好ましく、より好ましくは1.5μm以下、さらに好ましくは1μm以下である。動的光散乱法による平均粒子径の測定は、例えば、大塚電子(株)製のレーザーゼータ電位計ELS−8000等により行うことができる。
【0008】
(メタ)アクリル樹脂系エマルジョン(A)は、次の様な方法により好適に得られる。
まず分散剤としてけん化度80〜95モル%、重合度400〜2000のビニルアルコール系重合体(以下、PVAと略記することがある)を使用することは、本発明の目的とする、常態接着強度および耐煮沸接着強度に優れる接着剤、とくに木工用接着剤を得る上で重要である。ビニルアルコール系重合体の製造方法としては特に制限はなく、公知の方法によりビニルエステルを重合し、けん化することにより得ることができる。ここで、ビニルエステルとしては、蟻酸ビニル、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、ピバリン酸ビニルなどが挙げられるが、酢酸ビニルが好ましく用いられる。
【0009】
本発明において、PVA系重合体として、分子内に炭素数4以下のα−オレフィン単位を1〜20モル%含有するビニルアルコール系重合体(α−オレフィン変性PVAと略記することがある)を用いることは好ましい態様のひとつである。該PVAを用いることで(メタ)アクリル樹脂系エマルジョンの耐アルカリ性が向上する。α−オレフィン変性PVAは、ビニルエステルと炭素数4以下のα−オレフィンとの共重合体をけん化することにより得ることができる。ここで炭素数4以下のα−オレフィン単位としては、エチレン、プロピレン、ブチレン、イソブチレン単位が挙げられるが、エチレン単位が好ましく用いられる。
エチレン単位を代表とするα−オレフィン単位の含有量は、1〜20モル%であることが好適であり、より好ましくは1.5モル%以上、さらに好ましくは2モル%以上であり、また好ましくは15モル%以下、さらに好ましくは12モル%以下である。エチレン単位を代表とするα−オレフィン単位がこの範囲にある時、常態接着強度および耐煮沸接着強度により優れる接着剤、とくに木工用接着剤が得られる。
【0010】
また、α−オレフィン単位を1〜20モル%含有するビニルアルコール系重合体としては、α−オレフィン単位をXモル%とするとき、1,2−グリコール結合を(1.7−X/40)モル%以上有するビニルアルコール系重合体も本発明の好ましい態様の一つであり、この重合体を使用することにより、接着剤、とくに木工用接着剤の経時的な接着物性低下がより抑制される。
この重合体の製法としては、例えば、1,2−グリコール結合量が上記の範囲内の値になるように、ビニレンカーボネートをビニルエステルおよびエチレンと共重合した後、けん化する方法、エチレンとビニルエステル系単量体を共重合する際に、重合温度を通常の条件より高い温度、例えば75〜200℃として加圧下に重合した後、けん化する方法などが挙げられる。後者の方法において、重合温度は特に制限されないが、通常95〜190℃、好ましくは100〜160℃である。
【0011】
この場合、1,2−グリコール結合の含有量は、(1.7−X/40)モル%以上であることが好ましく、より好ましくは(1.75−X/40)モル%以上、さらに好ましくは(1.8−X/40)モル%以上であり、最適には(1.9−x/40)モル%以上である。また、1,2−グリコール結合の含有量は4モル%以下であることが好ましく、さらに好ましくは3.5モル%以下、最適には3.2モル%以下である。ここで1,2−グリコール結合の含有量はNMRスペクトルの解析から求められる。
【0012】
さらに、本発明においては、PVA系重合体として、1,2−グリコール結合を1.9モル%以上有するビニルアルコール系重合体(高1,2−グリコール結合含有PVAと略記することがある)を用いることも好ましい態様のひとつである。該PVAを用いることで、木工用接着剤の経時的な接着物性低下がより抑制される。
高1,2−グリコール結合含有PVAの製造方法としては特に制限はなく、公知の方法が使用可能である。一例として、1,2−グリコール結合量が上記の範囲内の値になるようにビニレンカーボネートをビニルエステルと共重合する方法、ビニルエステルの重合温度を通常の条件より高い温度、例えば75〜200℃として加圧下に重合する方法などが挙げられる。後者の方法においては、重合温度は95〜190℃であることが好ましく、100〜180℃であることが特に好ましい。また加圧条件としては、重合系が沸点以下になるように選択することが重要であり、好適には0.2MPa以上、さらに好適には0.3MPa以上である。また上限は5MPa以下が好適であり、さらに3MPa以下がより好適である。上記の重合はラジカル重合開始剤の存在下、塊状重合法、溶液重合法、懸濁重合法、乳化重合法などいずれの方法でも行うことができるが、溶液重合、とくにメタノールを溶媒とする溶液重合法が好適である。このようにして得られたビニルエステル重合体を通常の方法によりけん化することにより高1,2−グリコール結合含有ビニルアルコール系重合体が得られる。ビニルアルコール系重合体の1,2−グリコール結合の含有量は1.9モル%以上であることが好適であり、より好ましくは1.95モル%以上、さらに好ましくは2.0モル%以上、最適には2.1モル%以上である。また、1,2−グリコール結合の含有量は4モル%以下であることが好ましく、さらに好ましくは3.5モル%以下、最適には3.2モル%以下である。ここで、1,2−グリコール結合の含有量はNMRスペクトルの解析から求められる。
【0013】
また、該PVA系重合体は本発明の効果を損なわない範囲で共重合可能なエチレン性不飽和単量体を共重合したものでも良い。このようなエチレン性不飽和単量体としては、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、フマル酸、(無水)マレイン酸、イタコン酸、アクリロニトリル、メタクリロニトリル、アクリルアミド、メタクリルアミド、トリメチル−(3−アクリルアミド−3−ジメチルプロピル)−アンモニウムクロリド、アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸およびそのナトリウム塩、エチルビニルエーテル、ブチルビニルエーテル、塩化ビニル、臭化ビニル、フッ化ビニル、塩化ビニリデン、フッ化ビニリデン、テトラフルオロエチレン、ビニルスルホン酸ナトリウム、アリルスルホン酸ナトリウム、N−ビニルピロリドン、 N−ビニルホルムアミド、 N−ビニルアセトアミド等のN−ビニルアミド類が挙げられる。
また、チオール酢酸、メルカプトプロピオン酸などのチオール化合物の存在下で、酢酸ビニルなどのビニルエステル系単量体を重合し、それをけん化することによって得られる末端変性物を用いることもできる。
【0014】
本発明において分散剤として用いられるPVA系重合体の重合度(粘度平均重合度)は、400〜2000であることが重要であり、より好ましくは400〜1300である。また、PVA系重合体のけん化度は、80〜95モル%であることが重要であり、より好ましくは83〜93モル%である。前記の重合度およびけん化度を満足するPVA系重合体を使用することにより、常態接着強度および耐煮沸接着強度に優れる接着剤、とくに木工用接着剤を得ることが出来る。
【0015】
また、分散剤として用いられる該PVA系重合体の使用量は特に制限されないが、用いる単量体100重量部に対して、1〜20重量部、好ましくは2〜15重量部、より好ましくは2.5〜10重量部である。該PVA系重合体の使用量が1重量部未満であると、重合安定性が低下する恐れがあり、一方、20重量部を越える場合には得られる水性エマルジョンの粘度が高くなり、高濃度のエマルジョンを得にくい場合がある。
【0016】
本発明に用いる(メタ)アクリル樹脂系エマルジョン(A)の分散質を構成する重合体は、アクリル酸エステル系単量体およびメタクリル酸エステル系単量体から選ばれる少なくとも1種の単量体を(共)重合したものである。該単量体としてはアクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸n−プロピル、アクリル酸i−プロピル、アクリル酸n−ブチル、アクリル酸i−ブチル、アクリル酸t−ブチル、アクリル酸2−エチルヘキシル、アクリル酸ドデシル、アクリル酸オクタデシル等のアクリル酸エステル類、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸n−プロピル、メタクリル酸i−プロピル、メタクリル酸n−ブチル、メタクリル酸i−ブチル、メタクリル酸t−ブチル、メタクリル酸2−エチルヘキシル、メタクリル酸ドデシル、メタクリル酸オクタデシル等のメタクリル酸エステル類などが挙げられる。
また、本発明においては、上記の(メタ)アクリル酸エステル系単量体に、(メタ)アクリル酸ヒドロキシエチル等の1級水酸基を含有する単量体を共重合させたエマルジョンを用いることは好ましい態様の一つである。1級水酸基を含有する単量体を共重合させたエマルジョンを用いることにより、木工用接着剤の経時的な接着物性低下がより抑制される。1級水酸基を含有する単量体の使用量は、(メタ)アクリル酸エステル系単量体に対して、0.1〜10重量%が好ましく、さらに好ましくは0.5〜5重量%である。
さらに、上記分散質を構成する重合体は、上記(メタ)アクリル酸エステルの(共)重合体であることが好適であるが、本発明の効果を損なわない範囲で共重合可能な他の単量体を共重合したものでも構わない。これら他の単量体の使用量は全単量体に対し20重量%以下が好ましく、さらには10重量%以下が好ましい。
【0017】
本発明に用いる、エマルジョン粒子径分布幅を示す[尺度a]が0.3以上である(メタ)アクリル樹脂系エマルジョン(A)は、好適には次の方法により得られる。
すなわち、けん化度80〜95モル%、重合度400〜2000のビニルアルコール系重合体を分散剤とし、過酸化物と還元剤からなるレドックス系重合開始剤を用い、アクリル酸エステル系単量体およびメタクリル酸エステル系単量体から選ばれる少なくとも一種の単量体を乳化(共)重合する際に、(1)鉄化合物、(2)前記単量体および、(3)前記ビニルアルコール系重合体、を初期に仕込み、前記過酸化物を重合系中に連続的または断続的に添加して乳化(共)重合することにより得られる。
【0018】
本発明に用いる(メタ)アクリル樹脂系エマルジョン(A)の製造においては、重合初期に、鉄化合物を、特にその全量を添加することが、乳化重合操作性、重合安定性をより優れたものにし、さらに、本発明の[尺度a]が0.3以上の水性エマルジョンを得る上で好適である。鉄化合物としては特に制限されないが、塩化第一鉄、硫酸第一鉄、塩化第二鉄、硝酸第二鉄および硫酸第二鉄から選ばれる少なくとも1種の鉄化合物が好ましく用いられ、中でも塩化第一鉄および硫酸第一鉄が特に好ましく用いられる。
【0019】
鉄化合物の使用量は特に制限されないが、通常使用する全単量体に対して1〜50ppm、より好ましくは5〜30ppmである。鉄化合物の使用量がこの範囲内にあるとき、重合の操作性が良好である。
【0020】
本発明に用いる(メタ)アクリル樹脂系エマルジョン(A)の製造においては、過酸化物と還元剤からなるレドックス系重合開始剤を用いる。過酸化物としては特に制限されないが、過酸化水素、過硫酸アンモニウム、過硫酸カリウムおよびt−ブチルヒドロパーオキシドなどが用いられ、特に過酸化水素が好ましく用いられる。過酸化物は、連続的または断続的に添加することが必要である。連続的または断続的に添加することにより、重合操作性、重合安定性が良好となり、また本発明の目的とする、優れた特性を有する接着剤、とくに木工用接着剤が得られる。
【0021】
過酸化物として過酸化水素が用いられる場合、過酸化水素の0.1〜5重量%水溶液、好ましくは0.2〜3重量%水溶液、さらに好ましくは0.25〜2重量%水溶液を用いることにより、重合の操作性が向上する。また、単量体100重量部に対して、過酸化水素を純分で0.01〜1重量部用いた場合、重合操作性、重合安定性が良好となり、また本発明の目的とする、優れた特性を有する接着剤、とくに木工用接着剤が得られる。
【0022】
また、過酸化物として過酸化水素が用いられる場合、還元剤としては、酒石酸、L−アスコルビン酸、ロンガリットまたはこれらの金属塩が好適に用いられる。また、過酸化物として過硫酸アンモニウム、過硫酸カリウムが用いられる場合、還元剤としては、亜硫酸水素ナトリウム、炭酸水素ナトリウムが好適に用いられる。還元剤の添加方法は特に制限されず、逐次添加、あるいは重合初期添加のいずれでもよいが、重合初期に全還元剤の70重量以上、好適には80重量%以上、さらには90重量%以上、最適には実質的に100重量%を添加する方法が、重合操作性の観点から好適である。
還元剤の使用量は特に限定されないが、通常、重合開始剤(過酸化物)に対して、0.05〜3当量、好ましくは0.1〜2当量、より好ましくは0.3〜1.5当量である。
上記還元剤のうち、酒石酸系が好ましく用いられ、詳しくは酒石酸および/またはその金属塩である。酒石酸としては右旋性のL(+)酒石酸、左旋性のD(−)酒石酸、これら対掌体のラセミ化合物であるDL酒石酸があり、特に制限されないが、これらの中でもL(+)酒石酸を用いた場合、重合操作性が顕著に良好であり、好ましく用いられる。また、酒石酸の金属塩を用いることも可能であり、金属の種類は特に制限されないが、酒石酸ナトリウムが好適に用いられる。中でもL(+)酒石酸ナトリウムが好ましく用いられる。L(+)酒石酸ナトリウムを用いた場合、重合操作性が最適となる。
【0023】
また、本発明に用いる(メタ)アクリル樹脂系エマルジョン(A)の製造においては、鉄化合物のみならず、単量体、PVA系重合体を重合初期に仕込むことが重要である。特にこれらのそれぞれの70重量%以上、好適には80重量%以上、さらには90重量%、最適には実質的に100重量%を重合初期に仕込むことが好適である。該手法をとることにより、重合の操作性が向上するのみならず、乳化重合の安定性が顕著に向上し、かつ、本発明の目的とする、優れた特性を有する接着剤、とくに木工用接着剤が得られる。なお、ここで重合初期とは、重合開始直前または直後をいう。
【0024】
本発明に用いる(メタ)アクリル樹脂系エマルジョン(A)の製造においては、連鎖移動剤を実質的に使用しないで重合することが、得られるエマルジョン中のグラフトポリマー(分散剤および分散質が化学的に結合したもの;測定法は後述)の割合を50重量%以上とすることができ、常態接着強度および耐煮沸接着強度を向上させることから好適である。グラフトポリマーの割合は好適には55重量%、さらに好適には60重量%以上、最適には65重量%以上である。
【0025】
また、本発明においては、重合安定性をより向上させるためには、必要に応じ、連鎖移動剤を重合初期にすることもできる。ここで、連鎖移動剤としては、乳化重合時に連鎖移動をおこす化合物であれば特に制限されないが、例えば、メタノール、エタノール、n−プロパノール、i−プロパノール、n−ブタノール、i−ブタノールなどのアルコール類、アセトン、メチルエチルケトン、シクロヘキサノン、アセトフェノン等のケトン類、アセトアルデヒド、プロピオンアルデヒド、n−ブチルアルデヒド、フルフラール、ベンズアルデヒド等のアルデヒド類、2−メルカプトエタノール、3−メルカプトプロピオン酸、n−ドデシルメルカプタン、t−ドデシルメルカプタン、ラウリルメルカプタン、n−ブチルメルカプタン、t−ブチルメルカプタン、2−エチルヘキシルチオグリコレート、チオグリコール酸オクチル等のメルカプタン類などが挙げられる。このうちメルカプタン系の連鎖移動剤が好適である。連鎖移動剤の添加量は特に制限されないが、全単量体100重量部に対して、0.01〜50重量部、好ましくは0.1〜30重量部である。
【0026】
また、本発明に用いる(メタ)アクリル樹脂系エマルジョン(A)の製造においては、従来使用されてきたノニオンまたはアニオン界面活性剤を使用しないで重合することが、重合安定性をより向上させ、またグラフトポリマーの割合を増加させることができ、耐溶剤性を向上させることから好適である。
本発明では、エマルジョンの固形分濃度は特に制限されないが、通常、20〜70重量%、好ましくは30〜65重量%、さらに好ましくは40〜60重量%である。固形分濃度が20重量%未満の場合、接着剤、とくに木工用接着剤の放置安定性が低下し、2相に分離する恐れがあり、70重量%を越える場合、重合時の安定性が低下する懸念が生じる。
【0027】
本発明に用いる多価イソシアネート化合物(B)は、分子中に2個以上のイソシアネート基を有するものであり、例えば、トリレンジイソシアネート(TDI);水素化TDI;トリメチロールプロパン−TDIアダクト(例えばバイエル社製,商品名:Desmodur L);トリフェニルメタントリイソシアネート;メチレンビスジフェニルイソシアネート(MDI);水素化MDI;重合MDI;ヘキサメチレンジイソシアネート;キシリレンジイソシアネート;4,4−ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート;イソホロンジイソシアネート等があげられる。その他、ポリオールに過剰のポリイソシアネートで予めポリマー化した末端基がイソシアネート基を持つプレポリマーを用いてもよい。
【0028】
(メタ)アクリル樹脂系エマルジョン(A)と多価イソシアネート化合物(B)との配合割合は、(A)/(B)=100/5〜100/100(固形分換算)が好ましく、さらに好ましくは、100/7〜100/70である。多価イソシアネート化合物がこの範囲より少ない場合、常態接着強度、耐煮沸接着強度が低くなり、また、この範囲を越えて多くなると、多価イソシアネート配合後のポットライフが短くなり実用的ではないという問題がある。
【0029】
本発明の接着剤、とくに木工用接着剤は、上記の方法で得られる組成物をそのまま用いることができるが、必要があれば、本発明の効果を損なわない範囲で、従来公知の各種エマルジョンを添加して用いることができる。
なお、本発明に用いるポリビニルエステル系樹脂エマルジョンにおける分散剤としては、前述のビニルアルコール系重合体が用いられるが、必要に応じて、従来公知のアニオン性、ノニオン性あるいはカチオン性の界面活性剤や、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース等の水溶性高分子を併用しても構わない。
【0030】
本発明の接着剤は、とくに木工用接着剤として有用であり、ここで木工用接着剤としては、フラッシュパネル、集成材、ツキ板、合板加工用、合板二次加工用(練り合わせ)、一般木工等の木工用接着剤が挙げられる。
以下、実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらによって何等限定されるものではない。なお、実施例中、「部」および「%」はいずれも重量基準を意味する。また、得られた木工用接着剤の評価を、下記の要領で評価した。
【0031】
(木工用接着剤の評価)
接着試験
各実施例、比較例で調整する組成物の調製直後および1時間後のものを用いて、以下の条件で接着試験を行った。
被着材:カバ/カバ(マサ目)含水量8%
塗布量:250g/ m(両面塗布)
堆積時間:1分
圧締条件:20℃,24時間,圧力10kg/cm
(常態強度、煮沸繰返し試験片のみ)
JIS K−6852による圧縮剪断接着強度を測定
常態強度 :20℃、7日間養生後そのままの状態で測定
煮沸繰返し:20℃で7日間養生後、試験片を煮沸水中に4時間浸漬した後、60℃の空気中で20時間乾燥し、更に煮沸水中に4時間浸漬してから、室温の水中に冷めるまで浸し、濡れたままの状態で試験に供した。
【実施例1】
【0032】
還流冷却器、温度計、窒素吹込口、イカリ型攪拌翼を備えた2リットルガラス製重合容器に、イオン交換水750g、PVA−1{重合度500、けん化度88モル%、(株)クラレ製PVA−205}40gを仕込み、95℃で完全に溶解した。60℃に冷却後、メタクリル酸メチル(MMA)266g、アクリル酸ブチル(アクリル酸n−ブチル)(BA)266gを仕込み、120rpmで攪拌しながら窒素置換を行った。その後、塩化第一鉄0.0058g、L(+)酒石酸ナトリウム(TAS)の10%水溶液25gを添加した。次に、過酸化水素(HPO)の0.5%水溶液100gを3時間かけて添加し、乳化重合を行った。過酸化水素の添加開始から5分後に発熱が見られ、乳化重合の開始を確認した。その後、外温を50〜55℃に保って重合を進めたところ、重合温度は58〜62℃で推移し、操作性良く重合が進行した。過酸化水素水溶液の添加終了後、1時間熟成し、重合反応を完結したのち冷却した。その結果、固形分濃度39.8%のエマルジョンを得た。得られたエマルジョンのグラフトポリマー割合など、エマルジョンの評価を以下の方法により実施した。結果を表1に示す。次にエマルジョンの100g(固形分)に対して25gのポリメチレンポリフェニルイソシアネート(日本ポリウレタン社製,商品名:ミリオネートMR−100)を配合し木工用接着剤を調製した。この木工用接着剤の物性を前述の方法により測定した。結果を併せて表1に示す。
【0033】
(エマルジョンの評価)
(1)重合操作性
重合開始からの重合温度の推移を測定し、重合熱による温度上昇の程度を観察し、重合のコントロールが容易か否かで判断した。重合推移温度の幅が小さいほど重合のコントロールが容易であることを示す。
(2)重合安定性
得られたエマルジョンを、60メッシュ(ASTM式標準フルイ)のステンレス製金網を用いろ過した。ろ過後、金網上の残渣を採取し、重量を測定した。エマルジョン(固形分)1kgあたりの残渣量を表1に示す。
なお、固形分濃度およびろ過残渣重量の測定は次のとおりである。
固形分濃度測定法
得られたエマルジョン約3gをアルミ皿にとり、精秤後、105℃の乾燥機で24時間乾燥し、水分を揮発させた。その後の乾燥物の重量を測定し、重量比から固形分濃度を算出した。
ろ過残渣重量の測定法
ろ過残渣を105℃の乾燥機で24時間乾燥し、水分を揮発させ、乾燥物の重量をろ過残渣重量とした。
(3)エマルジョンの粒子径分布(尺度a)
得られたエマルジョンを0.05%の濃度に希釈し、動的光散乱法により、平均粒子径および散乱強度の測定を行った{大塚電子(株)製;レーザーゼータ電位計ELS−8000}。得られた散乱強度を用い、本文中に記載の方法により、粒子径分布幅を示す尺度aを求めた。
(4)グラフトポリマー割合(重量%)
得られたエマルジョンを20℃、65%RH下で、ポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム上に流延し、7日間乾燥させて厚さ500μmの乾燥皮膜を得た。この皮膜を直径2.5cmに打ち抜き、それを試料として、アセトンにて24時間ソックスレー抽出し、さらに煮沸水中で24時間抽出を行い、抽出後の皮膜の不溶分(グラフトポリマー分)を求めた。
グラフトポリマー分(%)=(抽出後の皮膜絶乾重量/抽出前の皮膜絶乾重量)×100
抽出前の皮膜絶乾重量=抽出前の皮膜重量(含水)−{抽出前の皮膜重量(含水)×皮膜含水率(%)/100}
*皮膜含水率:皮膜(アセトンおよび煮沸水で抽出する試料とは別の試料)を、105℃、4時間で絶乾し、皮膜の含水率をあらかじめ求める。
*抽出後の皮膜絶乾重量:抽出後の皮膜を105℃、4時間で絶乾した重量。
【0034】
比較例1
還流冷却器、滴下ロート、温度計、窒素吹込口、イカリ型攪拌翼を備えた2リットルガラス製重合容器に、イオン交換水を750g、PVA−1を40g仕込み、95℃で完全に溶解した。次に窒素置換を行い、120rpmで撹拌しながら、60℃に調整した後、塩化第一鉄0.0058g、L(+)酒石酸ナトリウムの10%水溶液25gを添加した。その後、メタクリル酸メチル266gとアクリル酸ブチル266gの混合液を滴下ロートから2時間目標で連続的に添加し、併せて0.5%過酸化水素水溶液100gを3時間目標で連続的に添加を開始した。外温を55℃に保って重合を行っていたところ、1時間後、重合系がゲル化したため、試験を中止した。
【0035】
比較例2
実施例1において塩化第一鉄を用いなかった他は、実施例1と同様の仕込みで過酸化水素水溶液の添加を開始した。過酸化水素の添加開始から15分後に発熱、乳化重合が開始したため、外温を50℃に調整し、過酸化水素の添加を続けたところ、重合温度が65℃に達したため、過酸化水素の添加を中断した。しかし、発熱は止まらず、重合温度が70℃に達したため、重合のコントロールが出来ないと判断し、試験を中止した。
【実施例2】
【0036】
実施例1において、さらにn−ドデシルメルカプタンを1.3g重合初期に仕込んだ他は、実施例1と同様に乳化重合を行った。得られたエマルジョンの評価および木工用接着剤としての評価結果を併せて表1に示す。
【0037】
比較例3
比較例1において、さらにn−ドデシルメルカプタンを1.3g重合初期に仕込んだ他は、比較例1と同様に乳化重合を試みた。しかし、重合開始1時間30分後に重合系がゲル化し、試験を中止した。
【0038】
比較例4
比較例2において、さらにn−ドデシルメルカプタンを1.3g重合初期に仕込んだ他は、比較例2と同様に乳化重合を試みた。しかし、比較例2と同様、発熱をコントロールすることが不可能であり、試験を中止した。
【実施例3】
【0039】
実施例2においてPVA−1の代わりに、PVA−2{重合度1000、けん化度88モル%、(株)クラレ製PVA−210}を用いた他は、実施例2と同様に乳化重合を行った。得られたエマルジョンの評価および木工用接着剤としての評価結果を併せて表1に示す。
【0040】
比較例5
比較例3においてPVA−1の代わりに、PVA−2を用いた他は、比較例3と同様に乳化重合を試みた。しかし、重合開始1時間40分後に重合系がゲル化し、試験を中止した。
【実施例4】
【0041】
実施例2においてPVA−1の代わりに、PVA−3(重合度500、けん化度80モル%)を用いた他は、実施例2と同様に乳化重合を行った。得られたエマルジョンの評価および木工用接着剤としての評価結果を併せて表1に示す。
【実施例5】
【0042】
実施例2においてPVA−1の代わりに、PVA−4(重合度500、けん化度93モル%)を用いた他は、実施例2と同様に乳化重合を行った。得られたエマルジョンの評価および木工用接着剤としての評価結果を併せて表1に示す。
【実施例6】
【0043】
還流冷却器、温度計、窒素吹込口、イカリ型攪拌翼を備えた2リットルガラス製重合容器に、イオン交換水を750g、PVA−1を40g仕込み、95℃で完全に溶解した。60℃に冷却後、メタクリル酸メチル266g、アクリル酸ブチル266gを仕込み、120rpmで攪拌しながら窒素置換を行った。その後、塩化第一鉄0.0058g、亜硫酸水素ナトリウム(SHS)溶液10gを添加した。次に、過硫酸カリウム(KPS)水溶液50gを3時間かけて添加し、乳化重合を行った。過硫酸カリウムの添加開始から10分後に発熱が見られ、乳化重合の開始を確認した。その後、外温を50〜55℃に保って重合を進めたところ、重合温度は56〜65℃で推移した。過硫酸カリウム水溶液の添加終了後、1時間熟成し、重合反応を完結したのち冷却した。その結果、固形分濃度39.7%のエマルジョンを得た。得られたエマルジョンの評価および木工用接着剤としての評価結果を併せて表1に示す。
【実施例7】
【0044】
還流冷却器、温度計、窒素吹込口、イカリ型攪拌翼を備えた2リットルガラス製重合容器に、イオン交換水を750g、PVA−1を40g仕込み、95℃で完全に溶解した。60℃に冷却後、メタクリル酸メチル399g、アクリル酸ブチル133g、n−ドデシルメルカプタン1.3gを仕込み、120rpmで攪拌しながら窒素置換を行った。その後、塩化第一鉄0.0058g、L(+)酒石酸ナトリウムの10%水溶液25gを添加した。次に、過酸化水素の0.5%水溶液100gを3時間かけて添加し、乳化重合を行った。過酸化水素の添加開始から5分後に発熱が見られ、乳化重合の開始を確認した。その後、外温を50〜55℃に保って重合を進めたところ、重合温度は58〜62℃で推移し、操作性良く重合が進行した。過酸化水素水溶液の添加終了後、1時間熟成し、重合反応を完結したのち冷却した。その結果、固形分濃度39.8%のエマルジョンを得た。得られたエマルジョンの評価および木工用接着剤としての評価結果を併せて表1に示す。
【0045】
比較例6
還流冷却器、滴下ロート、温度計、窒素吹込口、イカリ型攪拌翼を備えた2リットルガラス製重合容器に、イオン交換水を750g、PVA−5(重合度500、けん化度88モル%、末端にメルカプト基1.5×10-5当量/gを含有)を40g、n−ドデシルメルカプタンを1.3g仕込み、95℃で完全に溶解した。次に窒素置換を行い、120rpmで撹拌しながら、60℃に調整した後、塩化第一鉄0.0058g、L(+)酒石酸ナトリウムの10%水溶液25gを添加した。その後、メタクリル酸メチル399gとアクリル酸ブチル133gの混合液を滴下ロートから2時間で連続的に添加、併せて0.5%過酸化水素水溶液100gを3時間で連続的に添加を行った。添加後、1時間熟成を行った後、系を冷却していたところ、系がゲル化したため、試験を中止した。
【実施例8】
【0046】
還流冷却器、温度計、窒素吹込口、イカリ型攪拌翼を備えた2リットルガラス製重合容器に、イオン交換水を750g、PVA−1を40g仕込み、95℃で完全に溶解した。60℃に冷却後、メタクリル酸メチル133g、アクリル酸ブチル399g、n−ドデシルメルカプタン1.3gを仕込み、120rpmで攪拌しながら窒素置換を行った。その後、塩化第一鉄0.0058g、L(+)酒石酸ナトリウムの10%水溶液25gを添加した。次に、過酸化水素の0.5%水溶液100gを3時間かけて添加し、乳化重合を行った。過酸化水素の添加開始から5分後に発熱が見られ、乳化重合の開始を確認した。その後、外温を50〜55℃に保って重合を進めたところ、重合温度は58〜62℃で推移し、操作性良く重合が進行した。過酸化水素水溶液の添加終了後、1時間熟成し、重合反応を完結したのち冷却した。その結果、固形分濃度39.7%のエマルジョンを得た。得られたエマルジョンの評価および木工用接着剤としての評価結果を併せて表1に示す。
【0047】
比較例7(特開平11−335490号公報の手法)
PVA−1の40gをイオン交換水400gに添加して、95℃に加熱、溶解した水溶液を20℃に冷却し、メタクリル酸メチル266gおよびアクリル酸ブチル266gからなる単量体混合物を混合、撹拌して、単量体乳化物を得た。別途、還流冷却器、滴下ロート、温度計、窒素吹込口、3段パドル型撹拌翼を備えた2リットルガラス製重合容器に、イオン交換水350gおよびエタノール10gを装入して温度を80℃に昇温し、80℃を維持した状態で、過硫酸アンモニウム0.5gをイオン交換水10gに溶解した開始剤溶液を添加した。2分後に重合容器に前記単量体乳化物の添加を開始し、4時間かけて添加を終了した。添加終了後、さらに2時間撹拌を継続し、熟成を行った後、冷却してエマルジョンを得た。得られたエマルジョンの評価および木工用接着剤としての評価結果を併せて表1に示す。
【0048】
比較例8(特開平4−185606号公報の手法)
温度計、イカリ型攪拌翼、還流冷却器、窒素吹き込み口および滴下ロートを備えた内容量2リットルの重合容器中でPVA−6(重合度100、けん化度88モル%)80gをイオン交換水680gに添加して、95℃に加熱、攪拌して溶解し、その後70℃に冷却、窒素置換を行った。別の容器にメタクリル酸メチル200g、アクリル酸ブチル200g、アクリル酸6gを混合し、窒素置換を行った。0.5%過硫酸カリウム水溶液10gと混合単量体の40gを重合容器に添加して初期重合を行い、ついで残りの混合単量体を3時間にわたって滴下した。その間、0.5%過硫酸カリウム水溶液15gを同時に連続添加した。滴下終了後、さらに1時間熟成を行った後、冷却、10%アンモニア水でpH7.5に調整した。得られたエマルジョンの評価および木工用接着剤としての評価結果を併せて表1に示す。
【実施例9】
【0049】
実施例2においてPVA−1の代わりに、PVA−7(エチレン単位含有量3モル%、重合度500、けん化度93モル%)を用いた他は、実施例2と同様に乳化重合を行った。得られたエマルジョンの評価および木工用接着剤としての評価結果を併せて表1に示す。
【実施例10】
【0050】
実施例2においてPVA−1の代わりに、PVA−8(1,2−グリコール結合量2.5モル%、重合度500、けん化度88モル%)を用いた他は、実施例2と同様に乳化重合を行った。得られたエマルジョンの評価および木工用接着剤としての評価結果を併せて表1に示す。
【実施例11】
【0051】
実施例2においてPVA−1の代わりに、PVA−9(エチレン単位含有量2モル%、1,2−グリコール結合量2.2モル%、重合度500、けん化度88モル%)を用いた他は、実施例2と同様に乳化重合を行った。得られたエマルジョンの評価および木工用接着剤としての評価結果を併せて表1に示す。
【実施例12】
【0052】
還流冷却器、温度計、窒素吹込口、イカリ型攪拌翼を備えた2リットルガラス製重合容器に、イオン交換水750g、PVA−1 40gを仕込み、95℃で完全に溶解した。60℃に冷却後、メタクリル酸メチル(MMA)266g、アクリル酸ブチル(アクリル酸n−ブチル)(BA)266g、アクリル酸ヒドロキシエチル5.2g、n−ドデシルメルカプタン1.3gを仕込み、120rpmで攪拌しながら窒素置換を行った。その後、塩化第一鉄0.0058g、L(+)酒石酸ナトリウム(TAS)の10%水溶液25gを添加した。次に、過酸化水素(HPO)の0.5%水溶液100gを3時間かけて添加し、乳化重合を行った。過酸化水素の添加開始から5分後に発熱が見られ、乳化重合の開始を確認した。その後、外温を50〜55℃に保って重合を進めたところ、重合温度は58〜62℃で推移し、操作性良く重合が進行した。過酸化水素水溶液の添加終了後、1時間熟成し、重合反応を完結したのち冷却した。得られたエマルジョンの評価および木工用接着剤としての評価結果を併せて表1に示す。
【0053】
比較例9
実施例1で用いた(メタ)アクリル樹脂系エマルジョンの替わりにエチレン−酢酸ビニル共重合樹脂系エマルジョン((株)クラレ製OM−4200NT)を用い、木工用接着剤としての評価を行った。結果を併せて表1に示す。
【0054】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0055】
本発明の接着剤は、常態接着強度および耐煮沸接着強度に優れ、さらに接着物性の経時的な低下の少ない特長を有しており、フラッシュパネル、集成材、ツキ板、合板加工用、合板二次加工用(練り合わせ)、一般木工等の木工用接着剤の分野で好適に用いられる。
【図面の簡単な説明】
【0056】
【図1】エマルジョンの粒子径および散乱強度を動的光散乱法により測定した結果である。棒線グラフは、横軸はエマルジョンの粒子径を示し、縦軸はエマルジョンの散乱強度を示す。また、直線グラフは、横軸はエマルジョンの粒子径を示し、縦軸はエマルジョンの散乱強度の積算値を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
けん化度80〜95モル%、重合度400〜2000のビニルアルコール系重合体を分散剤とし、アクリル酸エステル系単量体単位およびメタクリル酸エステル系単量体単位から選ばれる少なくとも一種の単量体単位からなる重合体を分散質とするエマルジョンであって、エマルジョン粒子径分布幅を示す[尺度a]が0.3以上である(メタ)アクリル樹脂系エマルジョン(A)および多価イソシアネート化合物(B)からなる接着剤。
【請求項2】
分散質が、さらに1級水酸基含有単量体単位を有する重合体である請求項1記載の接着剤。
【請求項3】
ビニルアルコール系重合体が、分子内に炭素数4以下のα−オレフィン単位を1〜20モル%含有するビニルアルコール系重合体である請求項1あるいは2記載の接着剤。
【請求項4】
ビニルアルコール系重合体が、1,2−グリコール結合を1.9モル%以上含有するビニルアルコール系重合体である請求項1あるいは2記載の接着剤。
【請求項5】
ビニルアルコール系重合体が、分子内に炭素数4以下のα−オレフィン単位を1〜20モル%含有し、かつα−オレフィン単位の含有量をXモル%とするとき、1,2−グリコール結合を(1.7−X/40)〜4モル%含有するビニルアルコール系重合体である請求項1あるいは2記載の接着剤。
【請求項6】
接着剤が、木工用接着剤である請求項1〜5のいずれかに記載の接着剤。

【図1】
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【公開番号】特開2006−104275(P2006−104275A)
【公開日】平成18年4月20日(2006.4.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−291001(P2004−291001)
【出願日】平成16年10月4日(2004.10.4)
【出願人】(000001085)株式会社クラレ (1,607)
【Fターム(参考)】