説明

接続管の劣化判定方法

【課題】電線及び接続管を流れる電流値の大小に関わりなく接続管の劣化を判定する。
【解決手段】圧縮接続管21及び電線10に交流電流が流れた状態で電線10の周囲のうち少なくとも圧縮接続管21を含む複数箇所における電線10の軸方向と垂直な平面上に存在する電流成分によって励起される誘導電圧を同時に測定する誘導電圧測定を圧縮接続管21の劣化判定時に行い、劣化判定時の誘導電圧測定で得られた各誘導電圧の位相差と基準値とに基づいて圧縮接続管21の劣化を判定する。これにより、圧縮接続管21及び電線10を流れる電流値の大小に関わりなく圧縮接続管21の劣化を判定することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、接続管の劣化判定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、架空送電線を鉄塔に引き留めるための部材として、圧縮接続管を備える引き留めクランプが用いられている。この圧縮接続管の内面と電線表面との接触部分は経年劣化により抵抗値が増大し、電流に流れる潮流によって接触部分が過熱することが知られている。そのため、赤外線カメラにより圧縮接続管の温度測定を行い、過熱の状況により劣化の有無を判定することが行われている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平11−196509号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、このような赤外線カメラでの温度測定による劣化判定方法では、送電線及び圧縮接続管を流れる電流値の大小によって接触部分の発熱量が異なるため、劣化の判定が難しいという問題があった。例えば、劣化している圧縮接続管であっても測定時の電流値が小さければそれほど温度が上昇しないため、接触部分の過熱の有無を判定できない。そのため、赤外線カメラでの温度測定による劣化判定は、送電線の電流値が大きくなる夏期など重負荷期に行う必要が生じていた。
【0005】
本発明は、上述した課題に鑑みなされたものであり、電線及び接続管を流れる電流値の大小に関わりなく接続管の劣化を判定することを主目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、接続管及び電線に交流電流が流れた状態で接続管又は電線の周囲のうち少なくとも接続管の周囲を含む複数箇所における電線の軸方向と垂直な平面上に存在する電流成分によって励起される誘導電圧を同時に測定する誘導電圧測定を行ったときに、誘導電圧測定で得られた各誘導電圧の位相差が、接続管が劣化しているほど増大することを発見した。また、この劣化により位相差が増大する現象は、接続管及び電線に流れる交流電流の電流値の大小に関わらず現れることがわかった。
【0007】
すなわち、本発明の接続管の劣化判定方法は、
電線に接続されている接続管の劣化判定方法であって、
前記接続管及び前記電線に交流電流が流れた状態で該接続管又は該電線の周囲のうち少なくとも該接続管の周囲を含む複数箇所における該電線の軸方向と垂直な平面上に存在する電流成分によって励起される誘導電圧を同時に測定する誘導電圧測定を該接続管の劣化判定時に行い、該劣化判定時の誘導電圧測定で得られた各誘導電圧の位相差と基準値とに基づいて前記接続管の劣化を判定する、
ものである。
【0008】
このように、劣化判定時の誘導電圧測定で得られた各誘導電圧の位相差と基準値とに基づいて劣化を判定することで、電線及び接続管を流れる電流値の大小に関わりなく接続管の劣化を判定することができる。また、電流値の大小に関わりなく接続管の劣化を判定できるため、赤外線カメラによる劣化判定と比較して、劣化判定時の測定時期の制限が少ない。なお、誘導電圧を測定する箇所は、少なくとも接続管の周囲における誘導電圧の測定を含んでいればよく、例えば電線の周囲における誘導電圧を行わずに接続管の周囲における誘導電圧を複数箇所で同時に測定してもよい。また、基準値は、例えば予め定めた閾値としてもよい。
【0009】
本発明の接続管の劣化判定方法において、前記判定は、前記劣化判定時の誘導電圧測定で得られた各誘導電圧の位相差のうち最大の値と前記基準値とを比較することにより行うものとしてもよい。こうすれば、位相差に基づく劣化の判定がしやすくなる。
【0010】
本発明の接続管の劣化判定方法において、前記基準値は、前記接続管及び前記電線に交流電流が流れた状態で前記複数箇所における前記誘導電圧を同時に測定する誘導電圧測定を前記接続管の健全時に行い、該健全時の誘導電圧測定で得られた各誘導電圧の位相差に基づいて定められる値としてもよい。こうすれば、接続管の個体差により生ずる位相差など接続管の劣化以外の要因による位相差が相殺されより確実に劣化を判定することができる。また、この場合において、前記基準値は、前記健全時の誘導電圧測定で得られた各誘導電圧の位相差のうち最大の値としてもよい。こうすれば、基準値に基づく劣化の判定がしやすくなる。
【0011】
本発明の接続管の劣化判定方法において、前記複数箇所は、前記接続管の周囲と前記電線の周囲とを共に含む複数箇所としてもよい。電線の周囲は接続管の劣化の有無による位相の変動が起こりにくいため、電線の周囲の誘導電圧と接続管の周囲の誘導電圧との位相差には特に劣化による位相差の増大が現れやすく、この位相差を判定に用いることで、劣化の判定精度を向上させることができる。
【0012】
本発明の接続管の劣化判定方法において、前記接続管の周囲における前記誘導電圧の測定は、前記接続管が貫通するように配置したコイルに発生する誘導電圧を測定することにより行い、前記電線の周囲における前記誘導電圧の測定は、前記電線が貫通するように配置したコイルに発生する誘導電圧を測定することにより行うものとしてもよい。こうすれば、接続管及び電線の周囲における誘導電圧を確実に測定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】引き留めクランプ20及び測定装置30の構成の概略を示す構成図。
【図2】電線の電流成分と貫通コイルとの位置関係の一例を示す説明図。
【図3】実施例の圧縮スリーブ121の構成の概略を示す構成図。
【図4】試料1における各誘導電圧の波形を示す説明図。
【図5】試料2における各誘導電圧の波形を示す説明図。
【図6】試料3における各誘導電圧の波形を示す説明図。
【図7】試料1における各誘導電圧の位相を示す説明図。
【図8】試料2における各誘導電圧の位相を示す説明図。
【図9】試料3における各誘導電圧の位相を示す説明図。
【発明を実施するための形態】
【0014】
次に本発明の実施の形態を図面を用いて説明する。図1は劣化の判定対象となる引き留めクランプ20及び誘導電圧を測定する測定装置30の構成の概略を示す構成図である。
【0015】
図1に示すように、引き留めクランプ20は、電線10が内部に挿入されておりこの電線10を圧縮して保持している圧縮接続管21と、電線10を架線するための鉄塔に図示しない絶縁碍子装置を介して接続される接続端子22と、圧縮接続管21を保持するクランプ本体23と、ジャンパー線11を圧縮して保持するジャンパーソケット24と、を備えている。クランプ本体23とジャンパーソケット24とはボルト25,26により電気的・機械的に接続されている。なお、電線10はACSRをはじめとする鋼心アルミ撚り線系の電線で構成された架空送電線である。また、ジャンパー線11は、図示しない他の引き留めクランプへ接続されている。この引き留めクランプ20では、電線10を流れる交流電流は圧縮接続管21の接触面21aから圧縮接続管21に流れ、クランプ本体23,ジャンパーソケット24を経由してジャンパーソケット24の接触面24aからジャンパー線11に流れていくようになっている。
【0016】
測定装置30は、電線10の周囲における誘導電圧を測定するためのコイル31aと、圧縮接続管21の周囲における誘導電圧を測定するためのコイル31b,31cと、コイル31a〜31cの各巻線の両端とリード線で接続され各コイルに発生する誘導電圧を同時に検出する電圧検出部32と、電圧検出部32で検出した誘導電圧をA/D変換したりコイル31a〜31cの誘導電圧の位相差を算出したりする演算部33と、演算部33がA/D変換したコイル31a〜31cの誘導電圧や演算部33が算出した位相差を記憶する記憶部34と、を備えている。なお、コイル31a〜31cは、巻線を絶縁物からなる枠体で覆った円環状の部材であり、内径は電線10及び圧縮接続管21の外径よりも大きく、電線10及び圧縮接続管21が内部を貫通するように配置されている。また、コイル31a〜31cは円環の1箇所に分離・接続可能な開閉構造を備えており、これにより電線10及び圧縮接続管21が電力供給路として使用されている最中であっても、電線10及び圧縮接続管21が内部を貫通するようにコイル31a〜31cを取り付けることができるようになっている。
【0017】
次に、こうして構成された本実施形態の測定装置30により圧縮接続管21の劣化を判定する方法について説明する。まず、電線10及び圧縮接続管21の使用開始直後など、圧縮接続管21の健全時において、電線10及び圧縮接続管21に交流電流が流れている状態で、図1のようにコイル31a〜31cを配置する。すると、電線10及び圧縮接続管21を流れる電流によりコイル31a〜31cに誘導電圧が発生し、この誘導電圧を電圧検出部32が検出し、演算部33がA/D変換や位相差の算出を行って記憶部34に誘導電圧の電圧波形のデータや各誘導電圧の位相差のデータを記憶する。具体的には、健全時のコイル31a〜31cの電圧波形Va1〜Vc1,Va1とVb1との位相差θab1,Vb1とVc1との位相差θbc1,Va1とVc1との位相差θac1が記憶される。次に、使用開始から所定期間経過後など電線10及び圧縮接続管21の劣化判定時においても、電線10及び圧縮接続管21に交流電流が流れている状態で健全時と同様に図1のようにコイル31a〜31cを配置して誘導電圧及び位相差を記憶部34に記憶させる。具体的には、劣化判定時のコイル31a〜31cの電圧波形Va2〜Vc2,Va2とVb2との位相差θab2,Vb2とVc2との位相差θbc2,Va2とVc2との位相差θac2が記憶される。
【0018】
そして、記憶部34に記憶された健全時のコイル31a〜31cの各誘導電圧の位相差のデータを基準値として、基準値と劣化判定時のコイル31a〜31cの各誘導電圧の位相差のデータとを比較することにより圧縮接続管21の劣化を判定する。具体的には、θab1,θbc1,θac1のうちの最大値とθab2,θbc2,θac2のうちの最大値との差が、所定の閾値以上であるときには圧縮接続管21が劣化していると判定する。ここで、所定の閾値は、例えば、予め測定した健全な圧縮接続管と劣化した圧縮接続管とにおける各誘導電圧の位相差などに基づいて設定することができる。なお、圧縮接続管21が劣化するほど各誘導電圧の位相差が増大する現象は圧縮接続管21及び電線10に流れる交流電流の電流値の大小に関わらず現れるため、健全時と劣化判定時とで電流値が異なっていてもよい。
【0019】
ここで、電線10及び圧縮接続管21が内部を貫通しているコイル(以下、貫通コイル)に発生する誘導電圧について説明する。貫通コイルは、電線10の軸方向に垂直な平面、すなわち電線10を法線とする面(以下、法線面)上に巻き付けられている。そのため、電線10の軸方向に流れる主たる電流から発生する磁束ベクトルは貫通コイルを横切ることはなく、誘導電圧発生の原因とはならない。一方、法線面上に存在する電流成分から発生する磁束ベクトルは貫通コイルを横切ることから、交流電流によって生じるこの磁束ベクトルの時間変化により、貫通コイルに誘導電圧が発生する。また、この誘導電圧の向きは、法線面に存在する電流の渦度(ローテーション)に依存する。例えば、電流の進行する軸方向から見て反時計回りの渦度を持つ電流成分が存在した場合、磁束ベクトルが電流の進行する軸方向に発生し、この磁束ベクトルを打ち消すように電流の進行する軸方向からみて時計回りの渦度を持つ誘導電圧が貫通コイルに発生する。このような渦度を持つ電流成分が発生する要因は、電線10のような通常の送電線においては、撚り線に沿った電流が持つ渦度であり、接触面21aのような接続部においては劣化した接続部を通る電流の持つ渦度である。
【0020】
図2は、電線の軸方向の法線面上に存在する電流成分と貫通コイルとの位置関係の一例を示す説明図である。図2に示すように、電線の軸方向の法線面上に存在する交流の電流成分が半径r1の円周をなしており、貫通コイルが半径r2のN2巻きであり、電流成分
と貫通コイルとが距離dだけ離れているとすると、相互インダクタンスMは以下の式(1)で表すことができる。なお、式(1)においてφは磁束,Iは電流,μ0は真空の透磁率を表す。また、半径r1は、送電線を構成する各撚り線の半径となり,電線の半径以下となる。そして、このような法線面上に存在する電流成分は電線上の各位置に存在すると考えられることから、貫通コイルに発生する誘導電圧Eは、式(1)の軸方向の積分値となる。そこで、軸方向の単位長さあたりの電流密度をρ(A・m-1)とすると磁束φの原始関数は以下の式(2)のように表される。この式(2)から半無限に続く電線上の磁束φを求めると、以下の式(3)が得られ、周波数fの交流電流で貫通コイルに励起される誘導電圧Eaは以下の式(4)と表される。また、電線を保持する圧縮接続管がある場合、圧縮接続管の軸方向端部から長さhだけ圧縮接続管側に位置する貫通コイルに発生する誘導電圧Ebは、以下の式(5)で表される。一方、圧縮接続管と電線との接続部において、圧縮接続管の劣化に起因して電線の軸方向の法線面上に存在する電流が存在した場合、圧縮接続管側に位置する貫通コイルに発生する誘導電圧Eは、式(5)にこれらの寄与が付加された値となる。局所的な電流による磁束は、式(2)で表されることから、圧縮接続管の各劣化部により誘導される各誘導電圧Ecはそれぞれ以下の式(6)となり、上述した各コイル31a〜31cに発生する誘導電圧Eは、この式(5)の誘導電圧Ebに各劣化部からの寄与である式(6)の誘導電圧Ecを合計した値となる。圧縮接続管での劣化に起因する電流が複数ある場合は、各々の劣化部からの寄与を合計した値となる。また電線との接続部から離れた位置では、式(5)で表される電線からの誘導電圧Ebの寄与が小さくなるため、圧縮接続管での各劣化部からの寄与が主となる。
【0021】
【数1】

【0022】
【数2】

【0023】
【数3】

【0024】
【数4】

【0025】
【数5】

【0026】
【数6】

【0027】
以上詳述した本実施形態によれば、圧縮接続管21及び電線10に交流電流が流れた状態で圧縮接続管21及び電線10の周囲を含む複数箇所における電線10の軸方向と垂直な平面上に存在する電流成分によって励起される誘導電圧を同時に測定する誘導電圧測定を圧縮接続管21の劣化判定時に行い、劣化判定時の誘導電圧測定で得られた各誘導電圧の位相差と基準値とに基づいて圧縮接続管21の劣化を判定する。これにより、圧縮接続管21及び電線10を流れる電流値の大小に関わりなく圧縮接続管21の劣化を判定することができる。また、電流値の大小に関わりなく圧縮接続管21の劣化を判定できるため、赤外線カメラによる劣化判定と比較して、劣化判定時の測定時期の制限が少ない。また、劣化の判定は、劣化判定時の誘導電圧測定で得られた各誘導電圧の位相差のうち最大の値と基準値とを比較することにより行うため、位相差に基づく劣化の判定がしやすい。
【0028】
さらに、基準値は、圧縮接続管21及び電線10に交流電流が流れた状態で複数箇所における誘導電圧を同時に測定する誘導電圧測定を圧縮接続管21の健全時に行い、健全時の誘導電圧測定で得られた各誘導電圧の位相差に基づいて定められる値としているため、圧縮接続管21の個体差により生ずる位相差など圧縮接続管21の劣化以外の要因による位相差を相殺してより確実に劣化を判定することができる。また、基準値を健全時の誘導電圧測定で得られた各誘導電圧の位相差のうち最大の値としているため、基準値に基づく劣化の判定がしやすい。
【0029】
さらにまた、圧縮接続管21の周囲と電線10の周囲とを共に含む複数箇所において誘導電圧測定を行っている。電線10の周囲は圧縮接続管21の劣化の有無による位相の変動が起こりにくいため、電線10の周囲の誘導電圧と圧縮接続管21の周囲の誘導電圧との位相差には特に劣化による位相差の増大が現れやすく、この位相差を判定に用いることで、劣化の判定精度を向上させることができる。
【0030】
そしてまた、圧縮接続管21の周囲における誘導電圧の測定は、圧縮接続管21が貫通するように配置したコイル31b〜31cに発生する誘導電圧を測定することにより行い、電線10の周囲における誘導電圧の測定は、電線10が貫通するように配置したコイル31aに発生する誘導電圧を測定することにより行うため、圧縮接続管21及び電線10の周囲における電線10の軸方向と垂直な平面上に存在する電流成分によって励起される誘導電圧を確実に測定することができる。
【0031】
なお、本発明は上述した実施形態に何ら限定されることはなく、本発明の技術的範囲に属する限り種々の態様で実施し得ることはいうまでもない。
【0032】
例えば、上述した実施形態では、θab1,θbc1,θac1のうちの最大値とθab2,θbc2,θac2のうちの最大値との差が、所定の閾値以上であるときには圧縮接続管21が劣化していると判定したが、他の手法により判定しても良い。例えば、θab1とθab2との差,θbc1とθbc2との差,θac1とθac2との差のうちいずれかが所定の閾値以上となったときに劣化していると判定してもよい。また、隣り合うコイルの位相差(上述した実施形態ではθab1,θbc1)のみに基づいて劣化の判定を行ってもよい。さらにまた、健全時の誘導電圧の測定は行わず所定の閾値を基準値として、θab2,θbc2,θac2のうちの最大値がこの基準値以上であったときに劣化していると判定したり、θab2,θbc2,θac2のうち値が基準値以上であるものが所定数(例えば2個)あったときに劣化していると判定したりしてもよい。こうすれば、健全時の誘導電圧の測定が不要となる。なお、このような閾値も、例えば実験により予め定めることができる。
【0033】
上述した実施形態では、コイル31a〜31cにより誘導電圧を測定するものとしたが、誘導電圧の測定は少なくとも圧縮接続管21の周囲における誘導電圧の測定を含むように行えばよく、例えば測定装置30がコイル31a〜31cのいずれかを備えないものとしても良い。また、圧縮接続管21や電線10の周囲における誘導電圧を測定するコイルをさらに複数備えるものとしても良い。誘導電圧を測定する箇所を増やすことで、測定の信頼度を高めることができる。また、各コイルの配置間隔には特に制限はなく、均等に配置しなくともよいが、コイルの間隔は電線10の半径程度にすることが好ましい。この理由は以下による。例えば、上述した式(6)において、距離dが値0のときの誘導電圧EcをE0とすると、距離dが半径r1と等しいときの誘導電圧Ecは約0.7E0,距離dが半径r1の2倍のときの誘導電圧Ecは約0.45E0となる。このように、電線上のある位置における法線面上の電流成分とコイルとの距離が離れるほど、電流成分からの磁束が減衰することでコイルに発生する誘導電圧は小さくなる。0.7倍程度に小さくなった電圧でもコイルに発生する誘導電圧の強度としては十分なため、圧縮接続管21のうちコイルからの軸方向の距離が電線10の半径程度以下の領域は、1つのコイルに発生する誘導電圧によりその状態を検出可能と考えられる。そのため、各コイルを電線10の半径程度の間隔で配置すれば、コイルとコイルとの間に状態を検出できない領域が存在しなくなり、好ましい劣化検出精度が得られる。また、各コイルを電線10の半径よりも狭い間隔で配置しても、各コイルが状態を検出する領域が重複するだけで、劣化の検出精度の向上にはそれほど寄与しないと考えられる。
【0034】
上述した実施形態では、コイル31a〜31cを電線10や圧縮接続管21が貫通するように配置して誘導電圧を測定するものとしたが、電線10の軸方向と垂直な平面上に存在する電流成分によって励起される誘導電圧を測定可能であればどのようにコイルを配置してもよい。例えば、貫通させずにコイル31a〜31cを電線10や圧縮接続管21の周囲に配置して誘導電圧を測定するものとしてもよい。
【0035】
上述した実施形態では、電線10に接続された引き留めクランプ20の圧縮接続管21の劣化を判定するものとしたが、劣化を判定する対象は電線に接続された接続管であればよい。例えば圧縮スリーブであってもよい。
【実施例】
【0036】
実施例として、劣化状態の異なる旭電機株式会社製の圧縮スリーブ(CS−AC410)を試料1〜3とし、上述した劣化判定を行った。図3に試料1〜3の圧縮スリーブ121を示す。圧縮スリーブ121は、図1の圧縮接続管21における接触面21aと同様の接触面121a,121bを備えており、それぞれACSR410mm2の電線110,111を圧縮接続している。圧縮スリーブ121の左口元部(図3の位置B)から中央(図3の位置D)までの抵抗値及び同長電線抵抗比をそれぞれ試料1〜3について測定した結果を表1に示す。
【0037】
【表1】

【0038】
表1から、試料1が最も抵抗値が小さく健全な状態であり、試料3が最も抵抗値が大きく最も劣化した状態であることがわかる。次に、素線径0.2mm,内径58mm,巻数5ターンのコイルを20個用意し、図3の位置Bに1個、図3の位置Bから位置Cまで20mm間隔で計15個、図3の位置Bから位置Aまで20mm間隔で計4個を図1のコイル31a〜31cように電線10及び圧縮スリーブ121を貫通させて配置した。そして、電線110及び電線121aに60Hz,300Aの交流電流を流した状態で、各コイルの両端の誘導電圧をNational Instrument製のAD変換器NIUSB−6218により測定した。測定した試料1〜3における各誘導電圧の波形を図4〜6に示し、各誘導電圧の位相を図7〜9に示す。図4〜9における−80〜300mmの数値は、位置Bを0mmとして位置Bから位置Cへ向かう方向を正とした場合のコイルの位置を表している。また、図4〜5では、20個のコイルの誘導電圧のうち0mm,40mm,80mm,120mm,160mm,200mmの位置にあるコイルの誘導電圧の波形のみ示し、図6では、20個のコイルの誘導電圧のうち−40mm,0mm,20mm,60mm,80mm,120mm,160mm,200mmの位置にあるコイルの誘導電圧の波形のみ示している。なお、図7〜9における位相は、測定に用いたAD変換器の電源(60Hz,100V)の位相を基準として示している。
【0039】
図4〜9からわかるように、抵抗値の高い試料ほどコイルの位置による誘導電圧の位相差が大きくなっている。また、電線110の周囲(−80mm〜−20mmの位置)の誘導電圧間の位相差は抵抗値の高い試料でも比較的小さくなっている。ここで、試料1〜3の各誘導電圧の位相差の最大値θmax1〜θmax3は、図7〜9に示すように、θmax1=0.25rad,θmax2=0.45rad,θmax3=πradであった。なお、図9に示すように試料3では各コイルの位相がπrad以上に渡って分布しており、位相差は一般に0〜πradで表すため、θmax3は位相差のとりうる最大値であるπradとした。このように劣化している圧縮スリーブほど各誘導電圧の位相差が増大するため、この位相差と基準値とを比較することで劣化の判定を行うことができる。例えば、健全な状態の試料1のθmax1の値0.25radを基準値としておき、基準値と試料1の劣化判定時の各誘導電圧の位相差の最大値が所定の閾値以上であるときに劣化していると判定することができる。また、例えば劣化の程度が試料2以上であるときに劣化したと判定したいときには、θmax2の値を基準値としておき、劣化判定時の各誘導電圧の位相差の最大値が基準値以上のときに劣化したと判定することもできる。
【0040】
なお、このような劣化の程度により誘導電圧の位相差が増大する現象が発生する理由は明確にはなっていないが、例えば次のような理由により発生していると考えることができる。圧縮接続管が劣化すると、電線と圧縮接続管との接触面において酸化が起こり、圧縮接続管や電線を構成する金属(例えばアルミニウム)の酸化物が発生する。この酸化物が絶縁物である場合、電流路における容量成分として働くため、接触面を流れる電流に位相差が生じる。これがコイルの発生電圧の位相差となって測定されるものと考えられる。また、通電下でアルミニウムが酸化する場合、圧縮接続管と電線との界面の溶媒の影響により陽極酸化が進む可能性があり、これにより界面は水酸化アルミニウム(Al(OH3))と酸化アルミナとの2重層になる。一般にアルミニウムの陽極酸化膜はダイオード特性を持つことが知られており、抵抗が非線形となってある一定以上に電圧がかからないと電流が流れない場合が生じる。そのため、この電圧に依存して界面近傍での電流分布が経時的に変化する。この電流分布の乱れがコイルの発生電圧の位相差となって測定されるとも考えられる。
【符号の説明】
【0041】
10,110,111 電線、20 引き留めクランプ、21 圧縮接続管、21a 接触面、22 接続端子、23 クランプ本体、24 ジャンパーソケット、24a 接触面、25,26 ボルト、30 測定装置、31a〜31c コイル、32 電圧検出部、33 演算部、34 記憶部、121 圧縮スリーブ、121a,121b 接触面。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電線に接続されている接続管の劣化判定方法であって、
前記接続管及び前記電線に交流電流が流れた状態で該接続管又は該電線の周囲のうち少なくとも該接続管の周囲を含む複数箇所における該電線の軸方向と垂直な平面上に存在する電流成分によって励起される誘導電圧を同時に測定する誘導電圧測定を該接続管の劣化判定時に行い、該劣化判定時の誘導電圧測定で得られた各誘導電圧の位相差と基準値とに基づいて前記接続管の劣化を判定する、
接続管の劣化判定方法。
【請求項2】
前記判定は、前記劣化判定時の誘導電圧測定で得られた各誘導電圧の位相差のうち最大の値と前記基準値とを比較することにより行う、
請求項1に記載の接続管の劣化判定方法。
【請求項3】
前記基準値は、前記接続管及び前記電線に交流電流が流れた状態で前記複数箇所における前記誘導電圧を同時に測定する誘導電圧測定を前記接続管の健全時に行い、該健全時の誘導電圧測定で得られた各誘導電圧の位相差に基づいて定められる値である、
請求項1又は2に記載の接続管の劣化判定方法。
【請求項4】
前記基準値は、前記健全時の誘導電圧測定で得られた各誘導電圧の位相差のうち最大の値である、
請求項3に記載の接続管の劣化判定方法。
【請求項5】
前記複数箇所は、前記接続管の周囲と前記電線の周囲とを共に含む複数箇所である、
請求項1〜4のいずれか1項に記載の接続管の劣化判定方法。
【請求項6】
前記接続管の周囲における前記誘導電圧の測定は、前記接続管が貫通するように配置したコイルに発生する誘導電圧を測定することにより行い、
前記電線の周囲における前記誘導電圧の測定は、前記電線が貫通するように配置したコイルに発生する誘導電圧を測定することにより行う、
請求項1〜5のいずれか1項に記載の接続管の劣化判定方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2011−109744(P2011−109744A)
【公開日】平成23年6月2日(2011.6.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−259606(P2009−259606)
【出願日】平成21年11月13日(2009.11.13)
【出願人】(000213297)中部電力株式会社 (811)
【出願人】(304026696)国立大学法人三重大学 (270)