説明

接触温冷感測定方法および接触温冷感測定装置

【課題】 衣類等の接触温冷感を構成部材が少なく安価で構成でき、定量的な測定結果が得られると共に簡単に測定できる測定方法および測定装置を提供すること。
【構成】 一定温度雰囲気内において、一定温度に加熱保温した焦電体センサーを、被測定物方向に移動し、一定押し込み圧力で接触停止させた時の焦電体センサー出力より接触温冷感を得る事を特徴とする接触温冷感測定法。ならびに、焦電体センサー部と該焦電体センサー部を一定温度に加熱保持する温度制御部と、前記焦電体センサー部を測定対象物に接触させ、一定押し込み圧力で停止させる駆動部と、焦電体センサー部の出力であるセンサー信号を処理するデータ処理部からなることを特徴とする、接触温冷感測定装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、布や衣類の「風合い」や「肌触り感」の測定に関し、特に、接触温冷感の測定装置と測定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の触覚センサーは圧力を中心とした力学的物理量を検出するものが大部分であり、ヒトの触感を測定するセンサーおよび評価する方法は未だ十分に開発されていない。また、衣服の快適性には、衣服圧、衣服内圧、肌触り感があり、特に「肌触り感」には、接触感と接触温冷感が深く関係しているが、布や衣類の触感の特性評価には、職業熟練者の用いる「風合い」という用語で判断されており、それは主観的な評価で曖昧である。
現在、布や衣類の触感の特性評価の定量化には主として、KES法(Kawabata Evaluation System)が用いられ、布の表面粗さや硬さ等を測定しているが、これらの測定値と「風合い」や「肌触り感」との間に十分な対応は確認されていないのが実情である。
また、KES法の従来の接触温冷感の測定装置の構成外略図を図4に示す。この装置は、温度検出・貯熱板24、熱源板25、試料台26、加熱温度制御・温度測定用装置27から構成される。温度検出・貯熱板24には、白金抵抗センサー28および純銅板29が組み込まれている。また、熱源板25には、白金抵抗センサー28、純銅板29、メインヒーター30およびガードヒーター31が組み込まれ、加熱温度制御・温度測定用装置27により温度制御されている。測定対象物2は試料台26の上に置かれている。温度検出・貯熱板24から衣服材料への瞬時の熱伝導現象を接触温冷感として捉えるもので、温度検出板として白金抵抗センサー28を用いて測定するものである。測定者が図4中の破線矢印方向に温度検出・貯熱板24を移動し測定するもので、測定が煩雑で、かつ装置が高価であるという問題点がある。
衣類などの表面の性状を、KES法に替わり定量的に測定する装置および測定方法に関しては既に報告がある。(例えば、特許文献1参照)この特許文献1は、表面の凹凸感を圧電素子を受感材として、定量的に測定するものであり、衣類に圧接した受感材を相対的に移動した時、受感材が受ける圧力の変化を、圧電効果で電圧に変換して測定するものである。しかし、表面の凹凸感は接触感の一つではあるが、接触時の暖かさや冷たさに関する接触温冷感の情報は得ることが出来ない。
【特許文献1】特開2002−181693
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
本発明は衣類等の接触温冷感を構成部材が少なく安価で、定量的にかつ簡単に測定できる測定装置および測定方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明によれば、一定温度雰囲気内において、一定温度に加熱保温した焦電体センサーを、被測定物方向に移動し、一定押し込み圧力で接触停止させた時の焦電体センサー出力より接触温冷感を得る事を特徴とする接触温冷感測定法が得られる。
また、本発明によれば、前記焦電体センサー出力において、測定で得られる焦電体センサー出力と、一定温度雰囲気内温度と加熱保持温度を同一としたときに得られる焦電体センサー出力との差分より、接触温冷感測定結果を得ることを特徴とする接触温冷感測定が得られる。
また、本発明によれば、焦電体センサー部と、該焦電体センサー部を一定温度に加熱保持する温度制御部と、前記焦電体センサー部を測定対象物に接触させ、一定押し込み圧力で停止させる駆動部と、前記焦電体センサー部の出力であるセンサー信号を処理するデータ処理部からなることを特徴とする接触温冷感測定装置がえられる。
また、本発明によれば、前記焦電体センサー部は、焦電体センサー基体を中心として、その周囲に、加熱複合膜、焦電体センサー、センサー保護膜を積層したことを特徴とする接触温冷感測定装置が得られる。
また、本発明によれば、前記焦電体センサー部にサーミスタを付加し、前記焦電体センサー部の温度を一定に保つよう制御できることを特徴とする接触温冷感測定装置が得られる。
また、本発明によれば、前記加熱複合膜は、前記焦電体センサー基体より近い順に、加熱基膜、ニクロム線、熱分散フィルムと積層され構成されることを特徴とする接触温冷感測定装置が得られる。
また、本発明によれば、前記ニクロム線は、耐熱フィルムにて挟まれて構成されることを特徴とする接触温冷感測定装置が得られる。
また、本発明によれば、前記耐熱フィルムは、ポリイミドフィルムで構成されたことを特徴とする接触温冷感測定装置が得られる。
また、本発明によれば、前記加熱基膜は、合成ゴムで構成されることを特徴とする接触温冷感測定装置が得られる。
また、本発明によれば、前記熱分散フィルムは、金属箔で構成されることを特徴とする接触温冷感測定装置が得られる。
また、本発明によれば、前記焦電体センサーは、有機圧電膜であるポリフッ化ビニリデン(PVDF)膜であることを特徴とする接触温冷感測定装置が得られる。
また、本発明によれば、前記センサー保護膜は、前記焦電体センサーを挟む形に積層配置されることを特徴とする接触温冷感測定装置が得られる。
また、本発明によれば、前記センサー保護膜は、アセテートフィルムで構成されたことを特徴とする接触温冷感測定装置が得られる。
また、本発明によれば、前記一定温度は、30℃から36℃であることを特徴とする接触温冷感測定装置が得られる。

【発明の効果】
【0005】
本発明によれば、衣類等の接触温冷感を構成部材が少なく安価で、定量的にかつ簡単に測定できる測定装置および測定方法を提供することが可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0006】
焦電効果を利用し、焦電体を加熱,一定温度に保ち測定対象物と接触させることで温度変化の出力を得ることができる接触温冷感の測定装置を製作し、ナイロン、木綿、ウールの3種類の異なる温冷感を有する布に対して測定を行った結果、焦電体センサー出力とヒトの温冷感に相関関係が認められ、本発明の接触温冷感の測定装置を用いての温冷感取得が可能となった。
図1は本発明による接触温冷感測定装置である。焦電体センサー部1は、測定対象物2の温度変化を測定するもので、温度制御部10で一定温度に制御されると共に、測定対象物2との接触時の温度変化をデータ処理部12に伝える。温度制御部10は、焦電体センサー部1に対して、サーミスタ信号6を得、ニクロム線信号7を送ることにより温度制御を行う。また、測定対象物2は、スポンジゴム3上に配置され、第2Z軸テーブル5によりそのZ軸方向の位置が調整される。
次に、測定対象物2を測定するための動作について説明する。
焦電体センサー部1を第1Z軸テーブル4に取り付け,移動テーブルコントローラ9を用いて、図1中の矢印方向に移動し、焦電体センサー部1を測定対象物2に一定押し込み圧力で接触させる。この時、焦電体センサー部1から得られたセンサー信号8はA/Dカード11を通してデータ処理部12に送られるが、予め得られている圧電効果による出力と比較されデータ処理される。このデータ処理により、所望の接触温冷感データが得られる。
また、周辺環境の温度変化の影響を受けてはいけないため、測定は一定の温度に保つことのできる保温箱13の中で行なわれる。
図2は本発明による焦電体センサー部1の構成図及び断面図である。図2(a)は構成図、図2(b)は図2内AB間の断面図である。焦電体センサー部1は、主に焦電体センサー基体14、加熱複合膜15、焦電体センサー16によって構成されている。焦電体センサー基体14は、例えば20mm×15mm×高さ10mmのほぼ立方体のアルミブロックであり、その周囲に、加熱複合膜15、焦電体センサー16が順に巻きつけられた構成となっている。加熱複合膜15は、加熱基膜20、ニクロム線21、耐熱フィルム22および熱分散フィルム23より構成される多層膜であり、その積層の順番は焦電体センサー基体14側より数えて加熱基膜20、耐熱フィルム22、ニクロム線21、耐熱フィルム22、熱分散フィルム23である。次に、加熱複合膜15の機能について説明する。加熱複合膜15はニクロム線21の発熱により加熱されるが、ニクロム線21部位の発熱が局所的に周囲部位に接触することを避けるために、ニクロム線21は耐熱フィルム22により挟まれている。ニクロム線21は、焦電体センサー部1の小型化を図るため、例えば直径0.05mmのニクロム線で構成される。耐熱フィルム22は、ニクロム線21の局所発熱に耐える必要があり、例えば厚さ12μmのポリイミドフィルムで構成される。
この耐熱フィルム22に挟まれたニクロム線21は、加熱基膜20の上に巻きつけられるが、この加熱基膜20は焦電体センサー部1を測定対象物2に当接したときの圧力軽減用クッションの役目を負う。加熱基板20は、例えば1mm厚の合成ゴムで構成され、アルミブロック等金属で作られた焦電体センサー基体14と測定対象物2との接触圧から、ニクロム線21、焦電体センサー16等を保護する。
また、加熱複合膜15最上層には、熱分散フィルム23が配され、ニクロム線21の発する熱分布を平坦にし、加熱複合膜15上に巻かれた焦電体センサー16に熱を伝える。熱分散フィルム23は、熱伝導率が良く、かつ薄い物がよく、例えば、厚さ100μmの銅箔テープで構成される。
焦電体センサー16はセンサー保護膜17に挟まれ、加熱複合膜15の上層部に巻きつけられる。焦電体センサー16は、例えば有機圧電膜であるポリフッ化ビニリデン(PVDF)膜であるPVDFフィルムを用い厚さは28μmである。また、焦電体センサー16の表面の保護を目的としたセンサー保護膜17は厚さ60μmのアセテートフィルムである。
センサー保護膜17を通じて焦電体センサー16が測定対象物2に接触することにより焦電体センサー16に温度変化が生じ、焦電効果によるセンサー出力であるセンサー信号8を得ることができる。
前記焦電体センサ−部1の焦電体センサー16からのセンサー信号8である出力電圧波形には、圧電効果と焦電効果の両効果の電圧成分が含まれる。焦電効果によるセンサー出力の抽出のためには、予め焦電体センサー16を加熱しない状態で測定を行い、これを圧電効果による出力とみなし、測定対象物2による測定結果との差分を求めれば良い。このことにより、実際の測定で得られたセンサー出力波形から圧電効果のみの波形を引いて、焦電効果によるセンサー出力波形を求めることが出来る。図3は加熱した場合と加熱しない場合のセンサー出力電圧波形の一例である。圧電効果による成分は接触が静かなため焦電効果による成分と比べかなり微小である。
【実施例1】
【0007】
本発明の効果を、測定に基づいて詳細に説明する。本発明の接触温冷感測定装置を用いて、接触温冷感の異なる布としてナイロン、木綿、ウールの3種類の試料の測定を行った。測定環境と測定条件を表1に示した。また、比較のため、予め各試料に対し一対比較法を用いたSD法(Semantic Differential method)による、温冷感に関する5段階評価を行った。実際には、目隠しをした11名の被験者に、それぞれ試料を触ってもらい,「ヒヤッとする」から「あったかい」とした各状態に応じ−2、−1、0、+1、+2の5段階で配点し、平均点をSD法の評価値とした。測定結果とSD法の評価値を表2に示す。
【0008】
【表1】

【0009】
【表2】

表2から、本発明の測定値とSD法の評価値では負の相関が認められ、その結果、本測定法の有用性が確認された。本発明の接触温冷感測定装置では、接触温冷感として「ヒヤッとする」と感じるものほど、焦電体センサー部1から被測定物への熱移動が早く、焦電体センサー部1の温度変化が大きいために、焦電効果による出力電圧が大きいことが容易に理解できる。
更に、焦電体センサー部1の焦電体センサー16(PVDFフィルム)の加熱温度を30℃から36℃まで変化させ測定を行った結果、加熱温度が上がるにつれて出力波形のピークが大きくなり、加熱温度とセンサー出力のピーク値の変化は線形関係があるが、試料間のピーク値の大きさの大小関係は変化しないことが確認された。加熱温度が30℃未満では、環境温度を一定に保つことが困難で、測定精度や測定時間が問題となり、また、人間の肌の温度は30℃から36℃程度であることから36℃を超える加熱温度は、正しい評価の範囲を超えることとなるので、加熱温度は30℃から36℃の範囲が適当である。

【産業上の利用可能性】
【0010】
以上述べたように、本発明による接触温冷感測定方法を用いれば、布や衣類の「風合い」や「肌触り感」を接触温冷感として定量的に測定することが可能となる。また、本発明による接触温冷感測定装置を用いれば、簡便な作業で素早く、また、熟練した作業を伴わずに接触温冷感を測定することが可能となる。 布や衣類の開発において、その接触温冷感は重要な開発ファクターであり、定量的で迅速な測定法ならびに測定値入手は開発推進において必要不可欠なものである。また、衣料品の品質判定現場においては、定量的で値を簡便な方法で得られることは、その作業効率を大幅に向上することができる利点がある。
また、焦電体センサー部を構成する材料のうち焦電体センサー基体を除くすべての材料においてフィルム状のものを使用することで、フレキシブルなセンサーを実現している。これにより今回実施例1で示した布のように、柔らかい物に対しても対象の状態に影響なく測定が可能であり、その他医療の診断および治療器具やロボットへの応用等、ヒトの指の代替が有効であるような分野で利用可能である。医療や産業等ヒトの主観に頼っている様々な分野に応用することで、客観的な診断の実現や、作業の安全性および高効率化を大幅に向上することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明による接触温冷感測定装置
【図2】本発明による接触温冷感測定装置の焦電体センサー部 図2(a)は構成図、図2(b)は断面図
【図3】加熱した場合と加熱しない場合のセンサー出力電圧波形の一例
【図4】KES法の接触温冷感の測定装置の構成概略図
【符号の説明】
【0012】
1:焦電体センサー部
2:測定対象物
3:スポンジゴム
4:第1Z軸テーブル
5:第2Z軸テーブル
6:サーミスタ信号
7:ニクロム線信号
8:センサー信号
9:移動テーブルコントローラ
10:温度制御部
11:A/Dカード
12:データ処理部
13:保温箱
14:焦電体センサー基体
15:加熱複合膜
16:焦電体センサー
17:センサー保護膜
18:電極
19:サーミスタ
20:加熱基膜
21:ニクロム線
22:耐熱フィルム
23:熱分散フィルム
24:温度検出・貯熱板
25:熱源板
26:試料台
27:加熱温度制御・温度測定用装置
28:白金抵抗センサー
29:純銅板
30:メインヒーター
31:ガードヒーター







【特許請求の範囲】
【請求項1】
一定温度雰囲気内において、一定温度に加熱保温した焦電体センサーを、被測定物方向に移動し、一定押し込み圧力で接触停止させた時の焦電体センサー出力より接触温冷感を得る事を特徴とする接触温冷感測定法。
【請求項2】
前記焦電体センサー出力において、測定で得られる焦電体センサー出力と、一定温度雰囲気内温度と加熱保持温度を同一としたときに得られる焦電体センサー出力との差分より、接触温冷感測定結果を得ることを特徴とする請求項1記載の接触温冷感測定
【請求項3】
焦電体センサー部と、該焦電体センサー部を一定温度に加熱保持する温度制御部と、前記焦電体センサー部を測定対象物に接触させ、一定押し込み圧力で停止させる駆動部と、前記焦電体センサー部の出力であるセンサー信号を処理するデータ処理部からなることを特徴とする接触温冷感測定装置。
【請求項4】
前記焦電体センサー部は、焦電体センサー基体を中心として、その周囲に、加熱複合膜、焦電体センサー、センサー保護膜を積層したことを特徴とする請求項3記載の接触温冷感測定装置。
【請求項5】
前記焦電体センサー部にサーミスタを付加し、前記焦電体センサー部の温度を一定に保つよう制御できることを特徴とする請求項3記載の接触温冷感測定装置。
【請求項6】
前記加熱複合膜は、前記焦電体センサー基体より近い順に、加熱基膜、ニクロム線、熱分散フィルムと積層され構成されることを特徴とする請求項4記載の接触温冷感測定装置。
【請求項7】
前記ニクロム線は、耐熱フィルムにて挟まれて構成されることを特徴とする請求項6記載の接触温冷感測定装置。
【請求項8】
前記耐熱フィルムは、ポリイミドフィルムで構成されたことを特徴とする請求項7記載の接触温冷感測定装置。
【請求項9】
前記加熱基膜は、合成ゴムで構成されることを特徴とする請求項6記載の接触温冷感測定装置。
【請求項10】
前記熱分散フィルムは、金属箔で構成されることを特徴とする請求項6記載の接触温冷感測定装置。
【請求項11】
前記焦電体センサーは、有機圧電膜であるポリフッ化ビニリデン(PVDF)膜であることを特徴とする請求項3記載の接触温冷感測定装置。
【請求項12】
前記センサー保護膜は、前記焦電体センサーを挟む形に積層配置されることを特徴とする請求項4記載の接触温冷感測定装置。
【請求項13】
前記センサー保護膜は、アセテートフィルムで構成されたことを特徴とする請求項12記載の接触温冷感測定装置。
【請求項14】
前記一定温度は、30℃から36℃であることを特徴とする請求項3記載の接触温冷感測定装置。





【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2006−52956(P2006−52956A)
【公開日】平成18年2月23日(2006.2.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−232864(P2004−232864)
【出願日】平成16年8月10日(2004.8.10)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 2004年(平成16年)3月22日 社団法人日本機械学会発行の「IIP2004情報・知能・精密機器部門講演会講演論文集」に発表
【出願人】(504157024)国立大学法人東北大学 (2,297)