説明

提げ手

【課題】肉厚を厚くすることなく充分な強度を得ることができ、紐掛け荷物の紐に取り付けた際に、転倒せずに自立可能な提げ手を提供する。
【解決手段】提げ手は、水平方向に伸長した握り部と、握り部の伸長方向の両端に連続してそれぞれ設けられ、下方向に曲がって伸長している第1及び第2の下がり部と、第1及び第2の下がり部の下端部に連続してそれぞれ設けられ、水平方向に伸長している第1及び第2の紐乗せ部と、第1及び第2の下がり部から離れた位置において第1及び第2の紐乗せ部に連続してそれぞれ設けられており、上方向に立ち上がっている中空の第1及び第2の上がり部と、これら第1及び第2の上がり部の第1及び第2の下がり部に対向する面から第1及び第2の下がり部の方向にそれぞれ突出した第1及び第2の紐止め突出部と、第1及び第2の紐乗せ部にそれぞれ設けられた上下方向の第1及び第2の貫通孔とを備えており、中空の第1及び第2の上がり部の底面が開口することにより第1及び第2の挿入孔がそれぞれ形成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、荷物の周囲に巻回された紐や買い物袋等に取り付けて持ち手として使用することができる提げ手に関する。
【背景技術】
【0002】
紐掛け荷物の紐に取り付ける提げ手として、本願出願人は、金型の型別れ方向を上下方向として射出成型されてなり、上方向を開放したほぼ半円筒形を呈し中央が細長い水平な握り部と、この握り部の両端をそれぞれ下方へ曲げた下がり部と、この下がり部の下端に水平に設けた紐乗せ部と、この紐乗せ部の下がり部と離れた位置から上方向に立ち上げた紐止め角と、この紐乗せ部の下がり部と離れた位置から上方向に立ち上がり、両方の下がり部の中心を通る面に対して互い違いに傾斜している紐止め角とを備えた提げ手を提案している(特許文献1)。
【0003】
このような構成の提げ手によれば、紐止め角の傾斜を利用して紐を掛け易く、傾斜を利用して提げ手を上下方向に積み重ねることができるので、保管運搬の際の占有体積を低減することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第3598146号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に記載されている従来の提げ手によると、力が集中する紐止め角の強度を充分に高めることが難しく、破断が発生し易かった。特に、紐止め角が傾いていることにより、紐による力が紐乗せ部近傍に横又は斜め方向に集中的に掛かり、この部分が破損するのみならず、紐乗せ部及び下がり部の紐止め角の傾いた側に多くの力が掛かるため、その破損対策が必要であった。さらに、この偏った荷重は握り部にも捩れを発生させていた。この偏った荷重は、荷物から印加される場合もあるが、紐に提げ手を取り付ける際、作業者が提げ手を傾けて取り付けたり、紐が紐止め角に充分沈み込む前に斜めに力を入れたりすると、特に破損することが多かった。さらにまた、近年、普及している機械締めPPバンド(ポリプロピレン製バンド)はその強度が強く結束力が大きく、作業者はこれに抗して取り付けを行うため、大きな力が印加される。このため、これに耐えられる強度を有することも要求されている。
【0006】
強度を高めるためには、必要とされる部分の肉厚を厚くすれば良いが、射出成型の特性上から、肉厚を厚くすることは難しい。即ち、例えばポリプロピレンを射出成型して提げ手を作製する場合、肉厚が4mmを超えると、冷却に多くの時間を要し、生産性が低下するのみならず、引けが多くなったり最悪の場合には内部に空洞が形成されてしまう可能性があった。
【0007】
また、特許文献1に記載されている提げ手は、紐止め角が両方の下がり部の中心を通る面に対して傾斜しているため、紐に取り付けた状態で手を離すと、提げ手が転倒して持ちにくくなったり、荷物や包装紙に傷が付いたりする不都合の生じるおそれがあった。
【0008】
従って本発明の目的は、肉厚を厚くすることなく充分な強度を得ることができる提げ手を提供することにある。
【0009】
本発明の他の目的は、紐掛け荷物の紐に取り付けた際に、転倒せずに自立可能な提げ手を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明によれば、水平方向に伸長した握り部と、握り部の伸長方向の両端に連続してそれぞれ設けられ、下方向に曲がって伸長している第1及び第2の下がり部と、第1及び第2の下がり部の下端部に連続してそれぞれ設けられ、水平方向に伸長する第1及び第2の紐乗せ部と、第1及び第2の下がり部から離れた位置において第1及び第2の紐乗せ部に連続してそれぞれ設けられており、上方向に立ち上がっている中空の第1及び第2の上がり部と、これら第1及び第2の上がり部の第1及び第2の下がり部に対向する面から第1及び第2の下がり部の方向にそれぞれ突出した第1及び第2の紐止め突出部と、第1及び第2の紐乗せ部にそれぞれ設けられた上下方向の第1及び第2の貫通孔とを備えており、中空の第1及び第2の上がり部の底面が開口することにより第1及び第2の挿入孔がそれぞれ形成されている提げ手が提供される。
【0011】
第1及び第2の紐乗せ部に上下方向の第1及び第2の貫通孔がそれぞれ形成されているため、これら紐乗せ部の強度をより高くできると共に、第1及び第2の上がり部が中空となっており底面が開口することにより第1及び第2の挿入孔がそれぞれ形成されているため、集中する荷重をその周囲壁で分散して負担することができる。このため、肉厚を厚くしなくとも、充分な強度を確保することができる。従って、射出成型によって製造した場合にも、冷却に時間がかからず、生産性が低下することもなく、引けが多くなったり内部に空洞が形成されてしまうような不都合も生じない。しかも、中空であり、紐を2カ所の周囲壁で支持するため、破損し難い。また、斜め方向の荷重に対しても、周囲壁で分散して負担するため、充分対応可能である。さらにまた、第1及び第2の紐乗せ部に上下方向の第1及び第2の貫通孔がそれぞれ設けられているため、射出成型時の金型の一部がこれら第1及び第2の貫通孔をそれぞれ貫き、第1及び第2の紐止め突出部の下面まで伸ばすことができるから、これら第1及び第2の紐止め突出部のアンダーカット部を容易に作製することができる。
【0012】
第1及び第2の挿入孔が、上下方向に重畳される他の提げ手における第1及び第2の上がり部がそれぞれ挿入されるように構成されていることが好ましい。このように、多数の提げ手を上下方向に積み重ねることができるので、保管運搬が容易であり、また、その際の占有体積を低減することができる。
【0013】
第1及び第2の挿入孔の第1及び第2の紐乗せ部側の壁面の一部に、第1及び第2の切り欠き開口がそれぞれ設けられていることも好ましい。重畳される他の提げ手における第1及び第2の紐止め突出部がこれら第1及び第2の切り欠き開口にそれぞれ入り込むので、提げ手の上下方向への積み重ねがより容易となる。
【0014】
第1及び第2の上がり部が、握り部の伸長方向の軸を通る垂直平面に関して左右対称に構成されていることも好ましい。左右対称とすることで、荷重を均等に分散負担することができるから、強度もより高くなり、捩れも少なくなる。
【0015】
第1及び第2の紐乗せ部並びに第1及び第2の上がり部の下端が、幅広の底面を構成していることも好ましい。大きな面積の底面により荷物に接するため、荷物表面や包装紙に傷が付いたりする不都合が生じない。さらに、提げ手を紐に取り付けた状態で手を離しても、転倒せず自立するため、扱いが非常に容易となる。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、第1及び第2の紐乗せ部に上下方向の第1及び第2の貫通孔がそれぞれ形成されているため、これら紐乗せ部の強度をより高くできると共に、第1及び第2の上がり部が中空となっており底面が開口することにより第1及び第2の挿入孔がそれぞれ形成されているため、集中する荷重をその周囲壁で分散して負担することができる。このため、肉厚を厚くしなくとも、充分な強度を確保することができる。従って、射出成型によって製造した場合にも、冷却に時間がかからず、生産性が低下することもなく、引けが多くなったり内部に空洞が形成されてしまうような不都合も生じない。しかも、中空であり、紐を2カ所の周囲壁で支持するため、破損し難い。また、斜め方向の荷重に対しても、周囲壁で分散して負担するため、充分対応可能である。さらにまた、第1及び第2の紐乗せ部に上下方向の第1及び第2の貫通孔がそれぞれ設けられているため、射出成型時の金型の一部がこれら第1及び第2の貫通孔をそれぞれ貫き、第1及び第2の紐止め突出部の下面まで伸ばすことができるから、これら第1及び第2の紐止め突出部のアンダーカット部を容易に作製することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の提げ手の一実施形態における外部構成を概略的に示す斜視図である。
【図2】図1の提げ手の外部構成を概略的に示す立面図であり、(A)は単一の提げ手、(B)は2つの提げ手を積み重ねた状態を示している。
【図3】図1の提げ手の外部構成を概略的に示す平面図である。
【図4】図1の提げ手の内部構成を概略的に示す中心断面図であり、(A)は単一の提げ手、(B)は2つの提げ手を積み重ねた状態を示している。
【図5】図1の提げ手の一部の構成を拡大して概略的に示す底面図である。
【図6】図1の提げ手を製造する際の部分的に雄型のキャビティ金型及び提げ手の部分構造を概略的に示す斜視図であり、(A)はその金型の一部の構造、(B)はその金型及び提げ手の一部を組み合わせた構造、(C)は作製された提げ手の一部の構造、(D)は(C)のD−D線による断面構造を示している。
【図7】図1の提げ手を使用する状態を示す斜視図である。
【図8】図1の提げ手を使用する状態を示す斜視図である。
【図9】図1の提げ手を使用した際の荷重を説明するための側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
図1〜図5に示すように、本実施形態における提げ手10は、水平方向に伸長しており上方向が開放された略半筒形状(軸断面がU字形状)の握り部11と、この握り部11の伸長方向(軸方向)の両端に連続してそれぞれ設けられ、下方向に曲がって伸長している第1及び第2の下がり部12a及び12bと、第1及び第2の下がり部12a及び12bの下端に連続してそれぞれ設けられ、水平方向に伸長する第1及び第2の紐乗せ部13a及び13bと、第1及び第2の下がり部12a及び12bから離れた位置において第1及び第2の紐乗せ部13a及び13bに連続してそれぞれ設けられており、上方向に立ち上がっている中空の第1及び第2の上がり部14a及び14bとから主として構成されている。
【0019】
なお、本明細書において、「水平方向」とは提げ手10を紐掛け荷物に取り付けた際にその荷物表面と平行な方向であって握り部11の伸長方向(図1における矢印H方向)であり、「上方向」とは提げ手10を紐掛け荷物に取り付けた際にその荷物表面から離れる方向(図1における矢印U方向)であり、「下方向」とは提げ手10を紐掛け荷物に取り付けた際にその荷物表面に向かう方向(図1における矢印L方向)であり、「頂面」とは上方向の端面であり、「底面」とは下方向の端面である。
【0020】
提げ手10は、第1及び第2の上がり部14a及び14bの第1及び第2の下がり部12a及び12bに対向する面からこれら第1及び第2の下がり部12a及び12bの方向にそれぞれ突出した第1及び第2の紐止め突出部15a及び15bと、第1及び第2の紐乗せ部13a及び13bにそれぞれ設けられた上下方向の第1及び第2の貫通孔16a及び16bとをさらに備えている。
【0021】
中空の第1及び第2の上がり部14a及び14bにおける底面が開口していることにより第1及び第2の挿入孔17a及び17bがそれぞれ形成されている。これら第1及び第2の挿入孔17a及び17bの第1及び第2の紐乗せ部13a及び13b側の壁面の一部に、第1及び第2の切り欠き開口18a及び18bがそれぞれ設けられている。
【0022】
握り部11の内面には、その伸長方向(軸方向)と垂直の方向に延びており軸方向から見た面が三日月形状である、複数の横方向リブ19と、中央に伸長方向(軸方向)に沿って伸びる単一の縦方向リブ20とが一体的に形成されている。これら横方向リブ19及び縦方向リブ20を設けることにより、半筒形状の握り部11が補強され、荷重と、それに対する手の握力とによって変形されることを防止できる。なお、縦方向リブ20を設けることにより、成型時の樹脂の流れが促進される。また、握り部11は、その下面に尖った部分がなく荷重が使用者の手に広く平均して掛かるため、手が痛くならない。
【0023】
第1及び第2の下がり部12a及び12bは、この握り部11の伸長方向(軸方向)の両端に一体的に連続し、下方向に曲がって伸長するようにそれぞれ形成されている。より具体的には、握り部11の半筒形状の周壁に連続した半漏斗形状の側壁が下方向に曲がって伸長しており、その下端部が角錐筒状に狭まって閉止されている第1及び第2の下がり部12a及び12bが設けられている。これら第1及び第2の下がり部12a及び12bにおける側壁の縁部分の厚さは、握り部11の厚さより厚く形成されている。これにより、第1及び第2の紐乗せ部13a及び13bに印加される荷重による力と、この部分に起きる曲げモーメントの引っ張り応力とが合成された力に対抗する強度を得ることに貢献している。
【0024】
第1及び第2の紐乗せ部13a及び13bは、第1及び第2の下がり部12a及び12bの下端部に一体的に連続し、水平方向に伸長するようにそれぞれ形成されている。より具体的には、第1及び第2の紐乗せ部13a及び13bは、第1及び第2の下がり部12a及び12bに一体的に連続し水平方向に伸長する頂面部と、この頂面部の端縁から下方に伸長する側壁部とをそれぞれ備えており、これら頂面部には上下方向に貫通する第1及び第2の貫通孔16a及び16bがそれぞれ設けられている。さらに、これら第1及び第2の紐乗せ部13a及び13bの内部は、第1及び第2の挿入孔17a及び17bに設けられた第1及び第2の切り欠き開口18a及び18bによって、第1及び第2の挿入孔17a及び17bに連通する空間をそれぞれ形成している。
【0025】
第1及び第2の上がり部14a及び14bは、中空構造となっており、第1及び第2の下がり部12a及び12bから離れた位置において第1及び第2の紐乗せ部13a及び13bに一体的に連続し、上方向に立ち上がるようにそれぞれ形成されている。より具体的には、第1及び第2の上がり部14a及び14bは、第1及び第2の紐乗せ部13a及び13bの下端部に一体的に連続し、上方向に立ち上がる角錐筒形状にそれぞれ形成されている。これら第1及び第2の上がり部14a及び14bの底面は開口しており、これにより、第1及び第2の挿入孔17a及び17bがそれぞれ形成されている。一方、第1及び第2の上がり部14a及び14bの頂部は紐すくい用の鋭部となっており、本実施形態においては閉止されている。しかしながら、これら第1及び第2の上がり部14a及び14bの頂部を開口させても良い。第1及び第2の上がり部14a及び14bの頂部からやや下がった位置には、その側面から突出する第1及び第2の紐止め突出部15a及び15bが設けられている。これら第1及び第2の紐止め突出部15a及び15bは、第1及び第2の下がり部12a及び12bに向かってそれぞれ突出している。これら突出部の下面は第1及び第2の上がり部14a及び14bの側面に対して垂直の面又は上方若しくは下方に傾斜した面を有している。下方への傾斜の角度が鋭角となればなるほど、紐止めの効果が大きくなる。
【0026】
本実施形態における提げ手10は、即ち、第1及び第2の下がり部12a及び12b、第1及び第2の紐乗せ部13a及び13b、第1及び第2の上がり部14a及び14b、第1及び第2の紐止め突出部15a及び15b、第1及び第2の貫通孔16a及び16b、並びに第1及び第2の切り欠き開口18a及び18bは、握り部11の伸長方向の軸を通る垂直平面に関して左右対称に構成されている。このように左右対称とすることで、荷重を均等に分散負担することができるから、強度もより高くなり、捩れも少なくなる。また、紐の破断がし難くなる。
【0027】
第1及び第2の紐乗せ部13a及び13bの下端並びに第1及び第2の上がり部14a及び14bの下端が幅広となっており、これら下端と第1及び第2の下がり部12a及び12bの下端とから構成される大きな面積の底面21a及び21bにより荷物に接するため、荷物表面や包装紙に傷が付いたりする不都合が生じない。さらに、提げ手10を紐に取り付けた状態で手を離しても、転倒せず自立するため、扱いが非常に容易となる。即ち、荷物に掛けた紐に取り付けた提げ手は、手を離すと荷物に沿って倒れ易く、再度持つ時には提げ手を起こさなければならないが、大きな面積の底面21a及び21bを有することにより、このような転倒を回避することができる。また、後述するように、握り部11の上面である凹部に縦紐を掛けた場合、提げ手が更に転倒し易くなり、転倒した際にこの縦紐が握り部11の凹部から外れてしまうおそれがあるため、大きな面積の底面21a及び21bにより転倒しないように構成することは非常に重要である。さらに、第1及び第2の紐乗せ部13a及び13bの下端並びに第1及び第2の上がり部14a及び14bの下端は、幅が有るだけでなく略矩形状の広い内面積の周壁で構成されているため、荷物の上面に対して力が分散し、包み紙やダンボールを破損するおそれが非常に少なくなる。
【0028】
特に、本実施形態における提げ手10は、第1及び第2の紐乗せ部13a及び13bに上下方向に貫通する第1及び第2の貫通孔16a及び16bがそれぞれ形成されているため、紐乗せ部の強度をより高くすることができる。即ち、これら第1及び第2の紐乗せ部13a及び13bの各々は、貫通孔によって、頂面部が単一の平面から分割された2つの平面となりこの頂面部の端縁から側壁部が下方に伸長する2ピース構成となっている。このように2ピース構成とする方が、1ピース構成の場合よりも、曲げモーメントと捻りとに対抗する剛性が大きくなり、紐乗せ部に大きな曲げモーメントと捻り力とが働いてもあまり変形しない。このため、肉厚を厚くしなくとも、充分な強度を確保することができるし、成形性も向上する。
【0029】
さらに、本実施形態における提げ手10においては、第1及び第2の上がり部14a及び14bが中空となっており底面が開口することにより第1及び第2の挿入孔17a及び17bがそれぞれ形成されているため、集中する荷重をその周囲壁で分散して負担することができる。このため、肉厚を厚くしなくとも、充分な強度を確保することができるから、射出成型によって製造した場合にも、冷却に時間がかからず、生産性が低下することもなく、引けが多くなったり内部に空洞が形成されてしまうような不都合も生じない。しかも、後述するように、第1及び第2の上がり部14a及び14bの周囲壁は、第1及び第2の紐乗せ部13a及び13bの頂面部の高さ位置において、その水平断面がコ字状ではなく、コ字状先端から内側に回り込むリップ部14a(図6(C)及び(D)参照)を有する形状となっているため、第1及び第2の紐乗せ部13a及び13bに印加される荷重による力と、これによって起きる曲げモーメントの引っ張り応力とが合成された力に充分対抗する強度が得られている。また、斜め方向の荷重に対しても、周囲壁で分散して負担するため、充分対応可能である。
【0030】
さらにまた、本実施形態における提げ手10は、第1及び第2の紐乗せ部13a及び13bに上下方向の第1及び第2の貫通孔16a及び16bがそれぞれ設けられているため、後述するように、射出成型時の金型の一部がこれら第1及び第2の貫通孔16a及び16bをそれぞれ貫き、第1及び第2の紐止め突出部15a及び15bの下面まで伸ばすことができるから、これら第1及び第2の紐止め突出部15a及び15bの下面(アンダーカット部)を容易に作製することができる。
【0031】
さらに、本実施形態における提げ手10は、第1及び第2の上がり部14a及び14bには第1及び第2の挿入孔17a及び17bが形成されており、しかも、これら第1及び第2の挿入孔17a及び17bの壁面に第1及び第2の切り欠き開口18a及び18bがそれぞれ形成されているので、多数の提げ手を上下方向に積み重ねることができる。即ち、図2(B)及び図4(B)に示すように、上側の提げ手10における握り部11と、第1及び第2の下がり部12a及び12bと、第1及び第2の貫通孔16a及び16b並びに第1及び第2の切り欠き開口18a及び18bと、第1及び第2の挿入孔17a及び17bと、下側の提げ手10′における握り部11′と、第1及び第2の下がり部12a′及び12b′と、第1及び第2の上がり部14a′及び14b′並びに第1及び第2の紐止め突出部15a′及び15b′とが互いにそれぞれ挿入されることにより、上下方向に複数の提げ手を容易に積み重ねることができ、その結果、保管運搬が容易であり、また、その際の占有体積を低減することができる。即ち、保管や輸送のコストが下がるだけでなく、店舗のレジ回りの貴重な空間を無駄にしない。また、単一の提げ手だけでは荷重に負ける時、複数の提げ手を上下方向に積み重ねて使うことができ、その場合、握り部、下がり部、紐乗せ部、上がり部等それぞれの部分が荷重に対し共同で働くので、荷重に対して非常に強くなる。
【0032】
本実施形態における提げ手10は、型別れ方向が上下方向である金型を用いた射出成型によって製造される。使用材料としては、射出成型が可能であり、ある程度の強度を有する樹脂材料であればいかなるものであっても良いが、多くの場合、例えば、ポリプロピレンが使用される。厚さとしては、最も厚い部分で4mm以下としている。この厚さであれば、射出成型によって製造した場合にも、冷却に時間がかからず、生産性が低下することもなく、引けが多くなったり内部に空洞が形成されてしまうような不都合も生じない。もちろん、前述したように、荷重を分散負担するように構成しているため、肉厚を厚くしなくとも、充分な強度を確保することができる。
【0033】
そこで、本実施形態では、第1及び第2の紐乗せ部13a及び13bを上下方向に貫通する第1及び第2の貫通孔16a及び16bを形成して、第1及び第2の紐止め突出部15a及び15bの下面を成型可能な部分的に雄型のキャビティ金型を使用している。図6(A)はその金型の一部の構造、図6(B)はその金型及び提げ手の一部を組み合わせた構造、図6(C)は作製された提げ手の一部の構造、図6(D)は図6(C)のD−D線による断面構造をそれぞれ示している。これらの図において、60は第1の上がり部14aの第1の挿入孔17aを成型するための金型部分、61は第1の切り欠き開口18aを成型するための金型部分、62は第1の紐乗せ部13aの第1の貫通孔16aを成型するための金型部分、63は第1の紐止め突出部15aの下面を成型するための金型部分、14aは第1の上がり部14aの周壁に形成されているリップ部をそれぞれ示している。このような金型を利用し、紐乗せ部に貫通孔を形成することで、水平方向を含む自由な角度に傾斜した下面(アンダーカット部)を有する紐止め突出部を形成できるのである。なお、ムリ抜き構造でこのようなアンダーカット部分を作ろうとすると、アンダーカット部分を限定角度に傾斜した面にしなくてはならず、しかも大きなアンダーカット部を作製することが難しい。このため、紐が抜け難い紐止め突出部を作製することができないこととなる。また、ムリ抜きによる下面が紐乗せ部や上がり部の弾力性による変形で金型から外れるため、この紐乗せ部や上がり部の部分に剛性を高めることができず、最大の強度が求められるこの部分を堅牢に作製することが出来なかったが、本実施形態の方法によればそのような不都合が生じない。さらに、本実施形態では、第1及び第2の上がり部14a及び14bの周壁水平断面がコ字状ではなく、コ字状先端から内側に回り込むリップ部14a(第1の上がり部14aの場合)を有する形状となっているため、第1及び第2の紐乗せ部13a及び13bに印加される荷重による力と、これによって起きる曲げモーメントの引っ張り応力とが合成された力に充分対抗する強度が得られる。
【0034】
次に、本実施形態における提げ手10の実際の使用方法について、図7を用いて説明する。なお、以下の使用方法は、紐掛け荷物へ提げ手10を取り付ける場合であるが、本実施形態の提げ手10は、買い物袋、レジ袋又はその他の袋に取り付けて持ち手として使用することもできる。
【0035】
第1の方法として、荷物70に巻き付けた平行な2束の紐71に、提げ手10の第1及び第2の上がり部14a及び14bをくぐらせ、第1及び第2の紐乗せ部13a及び13bにこれら紐71を通す方法、第2の方法として、荷物70の上に提げ手10を載置し、紐71を第1及び第2の紐乗せ部13a及び13bを通るように荷物70に巻き付ける機械締めに適した方法、第3の方法として、紐71の一端を提げ手10の第1の貫通孔16a又は第2の貫通孔16bを通してあらかじめ結んでおき、その状態で紐71を荷物70の回りに順次巻き付ける方法、第4の方法として、紐71の一端を第1の紐乗せ部13a又は第2の紐乗せ部13b上にあてがい、その部分に紐71を2〜3回巻き付けて紐71の一端を固定し、その状態で紐71を荷物70の回りに順次巻き付ける方法がある。
【0036】
第1の一般的な方法によれば、荷物70に巻き付けられている紐71に提げ手10を引っ掛ける初期の時点で、第1及び第2の上がり部14a及び14bの先端に紐71の張力が掛かり、特にその方向が上下方向と直角の横方向であると、第1及び第2の紐乗せ部13a及び13bには大きな曲げモーメントと捻り力が働くが、本実施形態の提げ手は、第1及び第2の紐乗せ部13a及び13bの各々が分割された2つの平面となった頂面部及びこの頂面部の端縁から側壁部が下方に伸長する2ピース構成となっているため、曲げモーメントと捻りとに対抗する剛性が大きく、また、第1及び第2の上がり部14a及び14bが中空となっており周囲壁で構成されているため、集中する荷重をその周囲壁で分散して負担することができる。このため、曲げモーメントや捻れ力に対する剛性が充分であり、破断等は生じない。また、左右対称であるため、荷重を均等に分散負担することができるから、その意味からも強度がより高く、捩れも少ない。
【0037】
第2の方法によれば、曲げモーメントや捻れ力がさほど印加されないため、破損の生じるおそれはない。この場合、本実施形態の提げ手10によれば、第1及び第2の紐乗せ部13a及び13bの下端並びに第1及び第2の上がり部14a及び14bの下端が幅広となっており、これら下端と第1及び第2の下がり部12a及び12bの下端とから大きな面積の底面21a及び21bが構成されているため、提げ手10を紐に取り付けた状態で手を離しても、転倒せず自立するため、扱いが非常に容易となる。最近の結束機ではこの方法が多く採用されているため、提げ手10が自立することは非常に好都合である。
【0038】
第3の方法によれば、使用者は紐と提げ手を別々に用意すること無く、紐と提げ手とを同時に荷物に取り付けることができ、結束機械を使わずにしっかりと結ぶことができ、また、結束する箇所も一箇所のみで済むから、紐掛け作業が容易となる。
【0039】
第4の方法について、図8を用いて説明する。同図に示すように、この方法によれば、紐71の始端71aを一方の紐乗せ部上にあてがい、その部分に紐71を2〜3回巻き付けて絞ることにより、上側の紐71bが下側の紐を押さえてその始端部分が提げ手10にしっかりと止められる。この状態の提げ手10を荷物70の上面中央に置き、紐71を矢印A及びBの順に荷物70に巻き付けて提げ手10の一方の上がり部に絡ませ、さらに矢印C及びDの順に荷物70に巻き付けて反対側の上がり部に絡ませ、矢印E及びFの順に荷物70に巻き付け、最後に紐71の終端71cを下にして輪71dを作り、この反対側の上がり部に掛けて引き絞る。この終端処理を3回以上行えば、紐71の終端部分は確実に止まり、紐の残りを短く切っても外れることはない。この第4の方法によれば、紐を縛るのは最後の1回のみであり、しかも、結わえ難い紐同士の場合と異なり、起立している棒状の上がり部に紐を引っ掛けるのみであるため、作業がし易い。なお、紐71を、矢印Fに次いで上がり部に引っ掛けた後、矢印F、E、D、C、B及びAの逆方向に逆順で再度荷物70に巻き付ければ、より堅固に縛ることが可能である。この第4の方法は、結束機の無いところで作業する場合に非常に容易に行うことができ、例えば家庭において、新聞や雑誌の結束に用いて大きな利便が得られる。紐71としては、種々の紐を使用できるが、安価であり一般に広く出回っている帯状PP(ポリプロピレン)フィルムの紐は、この提げ手10に使用して好適である。その場合、紐かけ及び提げ手取り付けを同時にかつ安価に行うことができる。この帯状PPフィルムの紐は、非常に滑りが良く結わえる際にも滑るので、二度結わえを行おうとした場合に一度目の結わえが滑って緩んでしまうことから、結束作業が難しいとされていた。しかしながら、本実施形態の提げ手を用いたこの第4の方法によれば、提げ手を用いて紐を要所、要所で上がり部に絡ませ、その摩擦力を利用して引き絞ることが出来るので、紐を適宜の強さで緊張させた状態で縛ることが可能となる。また、帯状PPフィルムの紐は撚りがなくかつ裂けやすくまとまりがないが、この第4の方法によれば、各段階で紐乗せ部に拘束されるので、その欠点も補われる。さらにまた、本実施形態における提げ手10は、幅広の底面21aを有しているため、転倒しにくく安定しているので、この第4の方法を実施する際にも非常に好都合である。
【0040】
輪を荷物70に2重に巻き付け、その中間部分の紐を紐乗せ部を通るように巻き付ける方法も使用可能である。同様に3重、4重と複数回巻き付けるようにしても良い。
【0041】
次に、紐71による提げ手への荷重と破損との関係について説明する。
【0042】
図9(A)に示すように、紐乗せ部93を通る紐71に荷重を加えると、握り部91が弓なりに湾曲する。図9(B)に示すように、荷重を増大させていくと、握り部91の湾曲変形度は増大し、最終的に、図9(C)に示すように、上がり部94の紐乗せ部93に連結される位置72において白化現象(素材が荷重に降伏し白くなって変形する現象)が起こり、伸びが生じてついには破断する。また、荷物に巻き付けた紐71に提げ手を取り付ける際、上がり部94の先端部までしか紐71に通してないのに、この紐71をすくい上げるように提げ手に力をかけると、位置72に対して非常に大きな荷重がかかる。
【0043】
このため、従来の提げ手では、この位置72の部分で破断することが多かった。ポリプロピレンによって成型された従来の提げ手においては、上がり部94の幅Wが6mm、厚さが4mmの場合、40kg程度の荷重が印加されると、位置72において破断が生じていた。これを防止するためには、幅Wを大きくするか、厚さを厚くすれば良い。しかしながら、幅Wを大きくすると提げ手全体の寸法が大きくなり、厚さを4mmを超えるように厚くすると、前述したように、射出成型時に引けが生じたり内部に空洞が生じたりして不都合が多く発生し、さらに、成型サイクルも長くなって製造コストが上昇してしまう。ムリ抜きでは、この部分の柔軟性が必要となるため、強度を充分に備えることができない。
【0044】
これに対して、本実施形態では、上がり部94を中空とし、挿入孔を設けることにより、この上がり部94の紐乗せ部93との取り合い部分に集中する荷重をその周囲壁で分散して負担するように構成している。これにより、提げ手をポリプロピレンによって成型し、上がり部94の幅Wを6mm、厚さを4mmとした場合、2箇所で分担することになり、80kg程度の荷重に耐えられることとなる。
【0045】
実際の使用において、提げ手で持ち運ぶ荷物の重量は最大でも20kg程度である。しかしながら、運搬中の振動や衝撃を考慮すると共に、紐に取り付ける際に印加される強い力をも考慮し、さらに製品のばらつきに対する安全率を考慮すると、50〜60kgの荷重に耐えられることが望ましい。本実施形態の提げ手によれば、幅Wや厚さを増大させることなく、これを実現することができる。
【0046】
なお、上述の実施形態においては、第1及び第2の紐乗せ部13a及び13bの各々における頂面部の平面形状を、矩形として説明したが、台形、三角形、又はその他の形状であっても良く、さらに、面の取れた形状であっても良い。また、第1及び第2の挿入孔17a及び17bを貫通孔とし、第1及び第2の上がり部14a及び14bの頂部を開口させるように構成しても良い。
【0047】
以上述べた実施形態は全て本発明を例示的に示すものであって限定的に示すものではなく、本発明は他の種々の変形態様及び変更態様で実施することができる。従って本発明の範囲は特許請求の範囲及びその均等範囲によってのみ規定されるものである。
【符号の説明】
【0048】
10、10′ 提げ手
11、11′、91 握り部
12a、12a′ 第1の下がり部
12b、12b′ 第2の下がり部
13a、13a′ 第1の紐乗せ部
13b、13b′ 第2の紐乗せ部
14a、14a′ 第1の上がり部
14b、14b′ 第2の上がり部
14a リップ部
15a、15a′ 第1の紐止め突出部
15b、15b′ 第2の紐止め突出部
16a、16a′ 第1の貫通孔
16b、16b′ 第2の貫通孔
17a、17a′ 第1の挿入孔
17b、17b′ 第2の挿入孔
18a、18a′ 第1の切り欠き開口
18b、18b′ 第2の切り欠き開口
19 横方向リブ
20 縦方向リブ
21a、21b 底面
60、61、62、63 金型部分
70 荷物
71 紐
71a 始端
71b 上側の紐
71c 終端
71d 輪
72 位置
93 紐乗せ部
94 上がり部
95 紐止め突出部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水平方向に伸長した握り部と、該握り部の伸長方向の両端に連続してそれぞれ設けられ、下方向に曲がって伸長している第1及び第2の下がり部と、該第1及び第2の下がり部の下端部に連続してそれぞれ設けられ、水平方向に伸長している第1及び第2の紐乗せ部と、前記第1及び第2の下がり部から離れた位置において前記第1及び第2の紐乗せ部に連続してそれぞれ設けられており、上方向に立ち上がっている中空の第1及び第2の上がり部と、該第1及び第2の上がり部の前記第1及び第2の下がり部に対向する面から該第1及び第2の下がり部の方向にそれぞれ突出した第1及び第2の紐止め突出部と、該第1及び第2の紐乗せ部にそれぞれ設けられた上下方向の第1及び第2の貫通孔とを備えており、前記中空の第1及び第2の上がり部の底面が開口することにより第1及び第2の挿入孔がそれぞれ形成されていることを特徴とする提げ手。
【請求項2】
前記第1及び第2の挿入孔が、上下方向に重畳される他の提げ手における第1及び第2の上がり部がそれぞれ挿入されるように構成されていることを特徴とする請求項1に記載の提げ手。
【請求項3】
前記第1及び第2の挿入孔の前記第1及び第2の紐乗せ部側の壁面の一部に、第1及び第2の切り欠き開口がそれぞれ設けられていることを特徴とする請求項1又は2に記載の提げ手。
【請求項4】
前記第1及び第2の上がり部が、前記握り部の伸長方向の軸を通る垂直平面に関して左右対称に構成されていることを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載の提げ手。
【請求項5】
前記第1及び第2の紐乗せ部並びに前記第1及び第2の上がり部の下端が、幅広の底面を構成していることを特徴とする請求項1から4のいずれか1項に記載の提げ手。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2012−115435(P2012−115435A)
【公開日】平成24年6月21日(2012.6.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−267338(P2010−267338)
【出願日】平成22年11月30日(2010.11.30)
【出願人】(591152207)アイキ産業株式会社 (2)
【Fターム(参考)】