説明

揚げ物用素材

【課題】調理後の経時変化が少なく、しかも保存後の電子レンジ耐性に優れた揚げ物を得ることができると共に、特に優れた風味を付与することができる揚げ物用素材の提供。
【解決手段】発酵調味料を含有することを特徴とする揚げ物用素材。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は揚げ物用素材、特に優れた経時変化耐性、電子レンジ耐性及び風味を付与することができる揚げ物用素材に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、食生活のバラエティ化に伴い種々の食品が上市されている。特に、最近は電子レンジ加熱食品が普及している。この電子レンジ加熱食品は調理済み食品を冷凍・冷蔵保存したものにマイクロ波を照射することで簡便かつ迅速に食事に供することができる利点がある。
しかしながら、例えばコロッケ、豚カツ、天ぷら等の揚げ物の場合、電子レンジ加熱すると、それら揚げ物の衣のクリスピー感(サクミ感)が失われ、べたついた食感になったり、食感が硬くなり、「ひき」が強くなったりして歯切れが悪くなる等の欠点がある。
【0003】
本発明者は、澱粉アミノ酸複合体を含有した揚げ物用素材を用いると、揚げ物類が優れたサクミを有し、その食感が時間を経過しても変化せず、かつ電子レンジで再加熱しても衣に「ひき」がなく優れた食感を有する揚げ物が得られることを見出し、先に出願した(特許文献1参照)。
上記の澱粉アミノ酸複合体を揚げ物のバッターや打ち粉として用いることによって、揚げ物の衣に十分な経時変化耐性と保存後の電子レンジ耐性を付与することができる。
しかしながら、上記複合体はアミノ酸が有する独特の呈味に影響された風味を有するため、優れた経時変化耐性や電子レンジ耐性という特性は保持しつつ、さらに風味もより優れた揚げ物用素材が求められていた。
【特許文献1】特開2004−350556号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、上記の如き従来の実状に鑑みてなされたものであり、調理後の経時変化が少なく、しかも保存後の電子レンジ耐性に優れた揚げ物を得ることができると共に、特に優れた風味を付与することができる揚げ物用素材を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者は、当該課題を解決すべく、種々研究を重ねた結果、発酵調味料を含有する揚げ物用素材を用いれば、調理後時間が経過しても良好な食感・風味を保持し、しかも保存後の電子レンジ加熱に対する耐性に優れた揚げ物が得られることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0006】
すなわち、本発明は、発酵調味料を含有する揚げ物用素材により上記課題を解決したものである。
【発明の効果】
【0007】
本発明の揚げ物用素材を用いてフライ食品や天ぷら等の揚げ物を製造すれば、得られたフライ食品や天ぷら等は調理後数時間放置しても食感が劣化せず、また冷蔵保存後に電子レンジで加熱しても良好な食感・風味を保持する。従って、本発明によれば調理後の経時変化が少なく、しかも保存後の電子レンジ耐性に優れた、風味良好な揚げ物を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
本発明における揚げ物用素材は、発酵調味料を含有する。ここで云う発酵調味料とは、微生物の発酵作用を利用して製造された調味料を指し、例えば小麦及び/又は大豆を原料とした味噌、醤油、みりん、食酢、核酸系調味料等の醸造調味料、あるいはビフィズス菌を含む乳酸菌の発酵代謝物を原料とした発酵調味料等が挙げられる。これらの発酵調味料は、1種又は2種以上を適宜混合して使用することができる。
【0009】
上記小麦及び/又は大豆を原料とした具体的な醸造調味料としては、例えば特許第3412929号公報に記載されているような、乾燥グルテン25〜100質量%および小麦75〜0質量%とから成る原料に、蒸気を直接添加して含水率を12〜18%の範囲内に調整して得た成型物90〜70質量%と、大豆類10〜30質量%とを配合した混合原料を用いて製麹・醸造した淡色調味液が特に好ましいものとして挙げることができる。
また、上記乳酸菌の発酵代謝物を原料とした具体的な発酵調味料としては、例えば乳の成分を原料としてビフィズス菌を培養した際の、ビフィズス菌の代謝産物を濃縮して得られる発酵調味料が特に好ましいものとして挙げることができる。
【0010】
発酵調味料は、通常は液状あるいはペースト状なので、そのまま用いても良いが、特に粉末状に加工し、発酵調味粉末として用いるのが好ましい。
発酵調味料を粉末状に加工する方法としては、食品工業分野で通常用いられる食品乾燥法で発酵調味料を乾燥し、乾物の粉末を得る方法であれば、種類の如何を問わない。
食品乾燥法としては、例えば、噴霧乾燥、天日乾燥、凍結乾燥、トンネル乾燥、気流乾燥、遠心薄膜乾燥、泡沫乾燥等が挙げられ、乾物の粉末を得る方法としては、例えば、乾物をターボミルやピンミル等の粉砕機で粉砕する方法、篩分けで粉末を採取する方法等が挙げられるが、例えば特許第3441219号公報に記載されているような、発酵調味液に、発酵調味液の固形物重量に対し、DE値6〜15のデキストリンとDE値1〜5のデキストリンから成り、かつDE値1〜5のデキストリン含有率が5〜60質量%であるデキストリンを100〜250質量%、およびゼラチンを3〜20質量%添加した後、噴霧乾燥する方法が好適に用いられる。
【0011】
本発明の揚げ物用素材中、発酵調味料の含有量は、固形分換算で2〜30質量%が好ましく、特に5〜20質量%が好ましい。この発酵調味料の含有量が2質量%より少ないと、食品に目的とする経時変化耐性と電子レンジ耐性を付与しにくくなり、他方、30質量%より多いと食品に発酵調味料の味が強く影響し易くなる。
また、発酵調味料中のナトリウム濃度は120mg/g以下であることが好ましく、特に1〜110mg/gが好ましく、さらに10〜110mg/gが好ましい。発酵調味料中のナトリウム濃度が120mg/gより大きいと、揚げ物が塩気を強く呈するようになり、風味上好ましくない。
【0012】
また、発酵調味料中の遊離アミノ酸濃度とナトリウム濃度の比、すなわち、[遊離アミノ酸濃度(mg/g)/ナトリウム濃度(mg/g)]が、1.0〜5.0であることが好ましい。発酵調味料中の遊離アミノ酸濃度とナトリウム濃度の比が1.0より小さいと塩味が強く旨みが弱く塩味過多となり易く、他方、その比が5.0より大きいと旨みが強く塩味が弱すぎて風味のバランスが悪くなり、好ましくない。
【0013】
発酵調味料中の遊離アミノ酸濃度は以下のようにして求めることができる。
すなわち、アルギニン、リジン、ヒスチジン、フェニルアラニン、チロシン、ロイシン、イソロイシン、メチオニン、バリン、アラニン、グリシン、プロリン、グルタミン酸、セリン、スレオニン、アスパラギン酸、シスチン等については、それぞれをアミノ酸自動分析法により測定し、トリプトファンについては、高速液体クロマトグラフ法により測定し、それらの総和を計算することにより求めることができる。
具体的には、試料1gを秤量し、これに10%スルホサリチル酸水溶液10ml加えて室温で1時間振とうし、次いで、3000回転/分で10分間遠心分離し、その上澄み液を集めて測定用試験溶液とする。
トリプトファンを除く各アミノ酸に関しては、この測定用試験溶液を適宜希釈し、株式会社日立製作所製L−8800形高速アミノ酸分析計を用いて、同社製日立カスタムイオン交換樹脂(カラム直径4.6mm×長さ60mm)に通液し、和光純薬工業株式会社製L−8500PF緩衝液を移動相、同社製ニンヒドリン試液を反応液として利用し、定量を行う。
一方、トリプトファンに関しては、上記測定用試験溶液を定溶、分取し、3mol/lの水酸化ナトリウム溶液を加えて微アルカリ性にし、次いで水で定容、その後、株式会社島津製作所製高速液体クロマトグラフLC−10ADを用い、同社製蛍光分光光度計RF−10AXLを検出器として、ジーエルサイエンス株式会社製カラム(InertsilODS−3V、直径4.6mm×長さ250mm)に通液して定量を行う。
【0014】
他方、ナトリウム濃度は、直接噴霧−フレーム原子吸光法により測定することができる。
具体的には以下のとおりである。
希酸抽出法に従い、均質化した試料2〜10gに1%塩酸200mlを加え、室温にて30分間振とう抽出する。抽出液を遠心管に移し、1500回転/分で15分間遠心分離し、その上澄み液を集めて測定用試験溶液とする。この測定用試験溶液をネブライザーで吸入噴霧し、その霧滴を株式会社島津製作所製原子吸光光度計AA−6700Fのアセチレン−空気フレームに導入し、ナトリウム用の中空陰極ランプを用いて、測定波長589nmにおける吸光度を測定する。その数値を、予め標準溶液によって作成した検量線にあてはめ、試料中のナトリウム濃度を求める。
【0015】
本発明の揚げ物用素材に用いられる発酵調味料以外の成分としては、特に制限されないが、例えば穀粉、小麦粉、澱粉類、熱処理澱粉類、化工澱粉類等の穀粉;植物性蛋白質、動物性蛋白質等の蛋白質;レシチン、脂肪酸エステル等の乳化剤;糖類、卵類、膨張剤、増粘剤、着色料、調味料、香辛料等が挙げられ、これらは適宜組み合わせて添加配合することができる。
【0016】
本発明の揚げ物用素材は、ミックス粉として、例えばバッター、打ち粉、春巻用の皮、アメリカンドックの衣等に好適に用いることができる。本発明の揚げ物用素材を用いた揚げ物は、揚げ物製造の常法に従って製造することができる。例えば天ぷらの場合、本発明の揚げ物用素材を所定量の水で溶いて得られるバッターに揚げ種を浸した後、170℃前後の油で油ちょうすることにより得られる。
【実施例】
【0017】
以下、本発明について実施例をあげて具体的に説明するが、本発明はこれらによって何等限定されるものではない。
【0018】
実施例1
殻、背腸を取ったエビ(15g/尾)に小麦粉の打ち粉を付着せしめた。また、小麦粉88.5質量部、発酵調味料(商品名「CBW30」:森永乳業株式会社製)10質量部及び膨張剤1.5質量部を混合したものに、冷水150質量部を混合した後、静かに攪拌して天ぷらバッターとした。上記発酵調味料の遊離アミノ酸濃度は25mg/g、ナトリウム濃度は20mg/gであり、その比は1.25であった。次いで、上記打ち粉付けしたエビを天ぷらバッターに浸して衣付けした後、それを170℃の油槽で3分間油ちょうし、エビ天ぷらを得た。なお、発酵調味料の遊離アミノ酸濃度及びナトリウム濃度は、上記記載の方法により求めた。
【0019】
試験例1
上記実施例1で得られたエビ天ぷら並びに下記表1に示した配合組成の天ぷらバッターを用いた以外は実施例1と同様にして得たエビ天ぷらをそれぞれ室温で30分間放置した後、冷蔵庫(4℃)で1時間30分保存した。保存後のエビ天ぷらについて下記表2に示す評価基準に従って、10名のパネラーで評価した。その結果の平均値は表1のとおりである。
また、油ちょう後24時間冷蔵保存したあと電子レンジ(500W)でエビ天ぷら1本あたり10秒間再加熱し、同様に下記表2に示す評価基準に従って、10名のパネラーで評価した。その結果の平均値は表1のとおりである。
【0020】
【表1】

【0021】
【表2】

【0022】
以上の結果より、発酵調味料を添加したバッター、特に発酵調味料を2〜30質量%添加したバッターを用いた天ぷらは、発酵調味料を添加せず調製したバッター(試験区No.1)はもとより、発酵調味料を2質量%未満添加したバッター(試験区No.2及び3)や発酵調味料を30質量%より多く添加したバッター(試験区No.9及び10)に比べ、油ちょう後数時間経過しても良好な食感・風味を保持し、しかも冷蔵保存した後の電子レンジ加熱に対しても十分な耐性を有していることを確認できた。一方、発酵調味料を30質量%より多く添加したバッター(試験区No.9及び10)にあっては、塩気が強く感じられ、風味上も特に好ましいものではなかった。
【0023】
試験例2
実施例1で用いた発酵調味料に代え、表3及び表4に示す所定量の発酵調味料をそれぞれ用いた以外は、実施例1と同様にしてそれぞれ得たエビ天ぷらについて試験例1と同様に評価した。その結果の平均値は表3及び表4のとおりである。尚、表3及び表4には表1の試験区No.1の結果も併せて記した。
【0024】
【表3】

【0025】
*1 「NS2粉末Y」:日清製粉株式会社製
*2 「コウジアジ」:味の素株式会社製
*3 「粉末発酵うまみ調味料S」:キッコーマン株式会社製
*4 「醇味T−154」:オリエンタル酵母工業株式会社製
*5 「味の素」:味の素株式会社製
*6 「粉末醤油K−1」:正田醤油株式会社製
【0026】
【表4】

【0027】
以上の結果から、発酵調味料を含有した揚げ物用素材を用いた天ぷらは、発酵調味料を添加しないで調製したバッター(試験区No.1)を用いた天ぷらに比べ、油ちょう後数時間経過しても衣のサクミ感が失われず、衣にひきがなく良好な食感を有していることを確認できた。中でも発酵調味料として、「CBW30」(試験区No.11、18)、「NS2」(試験区No.12、19)、「コウジアジ」(試験区No.13、20)、「粉末発酵うまみ調味料S」(試験区No.14、21)を用いた場合は、より良い効果が得られることを確認できた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
発酵調味料を含有することを特徴とする揚げ物用素材。
【請求項2】
前記発酵調味料の含有量が2〜30質量%であることを特徴とする請求項1記載の揚げ物用素材。
【請求項3】
前記発酵調味料が、小麦及び/又は大豆を原料とした醸造調味料、ビフィズス菌を含む乳酸菌の発酵代謝物を原料とした発酵調味料から選ばれる1種又は2種以上である請求項1又は2記載の揚げ物用素材。
【請求項4】
前記発酵調味料中のナトリウム濃度が、120mg/g以下であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項記載の揚げ物用素材。
【請求項5】
前記発酵調味料中の遊離アミノ酸濃度とナトリウム濃度の比が、1.0〜5.0であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項記載の揚げ物用素材。

【公開番号】特開2007−167000(P2007−167000A)
【公開日】平成19年7月5日(2007.7.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−370247(P2005−370247)
【出願日】平成17年12月22日(2005.12.22)
【出願人】(000226998)株式会社日清製粉グループ本社 (125)
【Fターム(参考)】