説明

揚重旋回制御装置

【課題】クレーンによる揚重に際して被揚重物の旋回を確実かつ安定に制御し得る有効適切な旋回制御装置を提供する。
【解決手段】互いに逆向きの偶力Fa、Fbを発生する2組の送風機群を吊り治具1に搭載し、各送風機2を駆動するための駆動源としての発電機3と、各送風機群を遠隔操作するための遠隔操作手段としてのリモートコントローラ4を備える。各組の送風機群をそれぞれ吊り治具の両端部に配置された少なくとも2台の送風機2により構成し、それら送風機をそれぞれ吊り治具の軸線方向に対して互いに逆向きの水平横方向に対して空気流を送風することによって吊り治具を被揚重物とともに水平面内において一方向に旋回させるための偶力を発生させる。あるいは、クレーンのフック5bに旋回治具を装着し、その装着治具に対して同様に2組の送風機群を搭載する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はクレーンによる揚重に際して被揚重物の水平旋回を制御するための装置に関する。
【背景技術】
【0002】
周知のように、クレーンによる揚重に際して被揚重物(吊り荷)の水平旋回を制御するためには、作業員が介錯ロープを操作することで人為的に行うことが通常であるが、そのような操作を機械的かつ自動的に行うものとしてはジャイロを利用した姿勢制御装置が知られており、これを吊り治具に搭載しておくことも行われている。
また、特許文献1や特許文献2には、旋回推進機としての送風機を遠隔操作することにより、送風機による風力を推進力として利用して吊り荷の姿勢を制御可能とした吊具および吊り治具についての提案がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】実開平3−38890号公報
【特許文献2】特許第30941475号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ジャイロによる姿勢制御装置は機構が複雑で高度の制御を必要とし、必然的にコスト高であるし、装置自重も大きいことから、広く普及するに至っていない。
また、特許文献1や特許文献2に示されるように送風機を推進機として利用する旋回吊り具は、簡単な機構で吊り荷の位置決めや構造物との干渉を回避し得る程度の制御は行い得るが、十分な旋回トルクを確保し難いものであって強風時等においては必ずしも十分な旋回防止機能を発揮できない場合もあり、その点では改良の余地を残しているものである。
【0005】
上記事情に鑑み、本発明は被揚重物の旋回を確実かつ安定に制御し得る有効適切な旋回制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
請求項1記載の発明は、クレーンが備えるフックにより長尺の吊り治具を略水平姿勢でかつ水平旋回可能に吊持して該吊り治具により被揚重物を吊持することにより、前記被揚重物を前記吊り治具を介して前記クレーンにより揚重するとともに、揚重時における前記被揚重物の水平旋回を制御するための揚重旋回制御装置であって、前記吊り治具に2組の送風機群を搭載するとともに、前記各送風機群を駆動するための駆動源および前記各送風機群を遠隔操作するための遠隔操作手段を備えてなり、前記各組の送風機群を、それぞれ前記吊り治具の両端部に配置した少なくとも2台の送風機により構成し、前記各組の送風機群における少なくとも2台の送風機を、それぞれ前記吊り治具の軸線方向に対して互いに逆向きの水平横方向に対して空気流を送風することによって該吊り治具を前記被揚重物とともに水平面内において一方向に旋回させるための偶力を発生可能とし、かつ各組の送風機群を前記吊り治具を互いに逆方向に旋回させるように互いに逆向きの偶力を発生可能に構成してなることを特徴とする。
【0007】
請求項2記載の発明は、クレーンが備えるフックにより被揚重物を水平旋回可能に吊持して該被揚重物を前記クレーンにより揚重するとともに、揚重時における前記被揚重物の水平旋回を制御するための揚重旋回制御装置であって、前記フックに対して長尺の旋回治具の軸方向中央部を支持して略水平姿勢で装着し、該旋回治具に2組の送風機群を搭載するとともに、前記各送風機群を駆動するための駆動源および前記各送風機群を遠隔操作するための遠隔操作手段を備えてなり、前記各組の送風機群を、それぞれ前記旋回治具の両端部に配置した少なくとも2台の送風機により構成し、前記各組の送風機群における少なくとも2台の送風機を、それぞれ前記旋回治具の軸線方向に対して互いに逆向きの水平横方向に対して空気流を送風することによって該旋回治具を前記フックおよび前記被揚重物とともに水平面内において一方向に旋回させるための偶力を発生可能とし、かつ各組の送風機群を前記旋回治具を互いに逆方向に旋回させるように互いに逆向きの偶力を発生可能に構成してなることを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明の揚重旋回制御装置によれば、吊り治具あるいは旋回治具に2組の送風機群を搭載するとともに、各送風機群を少なくとも2台の送風機により構成し、それら送風機による偶力によって吊り治具あるいは旋回治具を旋回させるようにしたので、いずれか一方の送風機群を作業員が選択的に操作することにより被揚重物を確実かつ安定に右旋回あるいは左旋回させることが可能であり、したがって吊り込みの際の位置決めを遠隔操作により確実かつ容易に行い得るし、揚重時に風の影響により旋回が生じた際にはそれを打ち消す方向に操作することで無用な旋回を抑制し防止することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】本発明の一実施形態である揚重旋回制御装置を示す図である。
【図2】同、概略構成図である。
【図3】同、変形例を示す図である。
【図4】同、変形例を示す図である。
【図5】同、変形例を示す図である。
【図6】同、変形例を示す図である。
【図7】同、変形例を示す図である。
【図8】本発明の他の実施形態である揚重旋回制御装置を示す図である。
【図9】同、概略構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の一実施形態である揚重旋回制御装置を図1〜図2に示す。
これは被揚重物(図示略)を吊り治具1を介してクレーン(本体の図示略)により揚重する場合において、吊り治具1に2組4台の送風機2(2a、2b)と、それら送風機2を駆動するための駆動源としての発電機3を搭載しておき、それらの送風機2および発電機3を無線による遠隔操作手段としてのリモートコントローラ4(図2(a)参照)により地表部から遠隔操作することによって、吊り治具1およびそれにより吊持されている被揚重物の水平旋回を制御するようにしたことを主眼とする。
【0011】
本実施形態における吊り治具1は、基本的には従来一般のこの種の吊り治具と同様に、クレーンが備えるフックブロック5からワイヤー6により吊持されるものであって、そのフックブロック5はシーブブロック5aに対してフック5bを旋回可能に支持していることから、揚重時にはフック5bとともに水平旋回可能なものである。
そして、図示例の吊り治具1は両端部に自動玉掛け玉外し装置7が設けられていて、玉掛けおよび玉外しも含めて揚重作業全体をほぼ完全自動的に行うことを想定しており、そのため、揚重時における吊り治具1の位置決めのための旋回操作も通常のように介錯ロープを人為的に操作することで行うことに代えて上記のように遠隔操作によって機械的に行うようにしている。
【0012】
具体的には、図2に示すように、吊り治具1の両端部に対して2台ずつ全4台の送風機2を設置するが、各送風機2を吊り治具1の軸線方向に対して直交する水平横方向に対して空気流を送風する軸流型の送風機として、それら4台の送風機2を1組2台の送風機2aによる右旋回用の送風機群と、同じく1組2台の送風機2bによる左旋回用の送風機群により構成している。
つまり、一方の端部に設置されている1台の送風機2aと他方の端部に設置されている1台の送風機2aとが1組となってそれらが同時に互いに逆方向に空気流を吹き出すことによって、それらの反力によって吊り治具1が右旋回するような偶力Faを発生可能とされている。同様に、一方の端部に設置されている他の1台の送風機2bと他方の端部に設置されている他の1台の送風機2bとが1組となってそれらが同時に互いに逆方向に空気流を吹き出すことによって、それらの反力によって吊り治具1が左旋回するような偶力Fbを発生可能とされている。
【0013】
本実施形態の揚重旋回制御装置によれば、作業員がリモートコントローラ4により地表部から2組の送風機群のいずれか一方を選択的に操作することにより、吊り治具1およびそれに吊持されている被揚重物を右旋回あるいは左旋回させることが可能であり、したがって、吊り込みの際の位置決めを遠隔操作により確実かつ容易に行い得るし、揚重時に風の影響により旋回が生じた際にはそれを打ち消す方向に操作することで無用な旋回を抑制し防止することが可能である。
【0014】
なお、送風機2による風力を推進力として利用して吊り治具1を旋回させること自体は特許文献1に示される吊具や特許文献2に示される旋回吊り具においても同様であるといえる。しかし、従来のものはいずれも吊り治具の片側に設置した1台の送風機による一方向の推進力を利用して旋回させるものであることから、十分な旋回トルクが得られないばかりでなく吊り治具に対して偏心力も作用するので必ずしも効率的に旋回させることができないのに対し、本実施形態では1組2台の送風機2を同期させて逆方向に駆動することによる偶力Fa、Fbによって十分な旋回トルクが得られて確実かつ安定に旋回させることが可能であり、その点で特許文献1や特許文献2に示されるものに比較して格段に有効である。
また、本実施形態の揚重旋回制御装置は、従来一般の吊り治具1に対して汎用の建設機材である単なる送風機2と発電機3とを設置することのみで構成可能であるので、従来のジャイロによる姿勢制御装置に比較すれば全体の構成が遙かに簡便であるし軽量でもあり、したがって十分に安価に製作可能であってこれを用いることによるコストアップは些少で済むし、一般的なクレーンによる揚重作業の際に支障なく適用することが可能である。
【0015】
以上で本発明の基本的な実施形態について説明したが、以下にその変形例を列挙する。
図1〜図2に示した実施形態では一方向に旋回させるための1組の送風機群を2台の送風機2により構成したが、図3に示す実施形態では各組の送風機群をそれぞれ4台の送風機2(すなわち右旋回用の4台の送風機2aと、左旋回用の4台の送風機2b)により構成し、したがって全体では2組8台の送風機2を搭載したものである。
この場合は旋回のための推進力としての風力を倍増させることが可能であるので、さらに速やかに旋回させることが可能であるし、強風時における旋回防止にも十分に対処可能となる。
なお、送風機2の台数を増大させることで発電機3の容量が不足する場合には、必要に応じて複数台の発電機3を吊り治具1に対してアンバランスとならない位置に搭載すれば良い。
【0016】
図1〜図2に示した実施形態では2組4台の送風機2をいずれも吊り治具1の両端部上部に並設したが、図4に示す実施形態では各組の送風機2を吊り治具1の上下に分散配置したもの、つまり、右旋回用の1組2台の送風機2aと左旋回用の1組2台の送風機2bとを吊り治具1の両端部の上下に対称的に設置したものであり、この場合も同様の効果が得られるし、吊り治具1の中心から各送風機2までの距離を均等にすることができる。
【0017】
図1〜図2に示した実施形態では駆動源としての発電機3を吊り治具1の中央部に搭載したが、図5に示す実施形態では発電機3をフックブロック5からワイヤー8により吊持したものである。この場合は吊り治具1に発電機3の荷重が作用しないので吊り治具1の強度や所要断面を軽減することが可能である。
【0018】
図1〜図2に示した実施形態は吊り治具1に自動玉掛け玉外し装置7が備えられている場合の適用例であるが、図6に示すように自動玉掛け玉外し装置7を省略した単なる吊り治具1に対しても同様に適用可能である。勿論、必要であれば吊り治具1に対して適宜の装置や機構を搭載することは任意である。
また、同じく図6に示しているように、送風機2および発電機3をいずれも吊り治具1の下部に吊り下げる形態で設置しても良い。
さらに、図7に示すように2本の吊り治具1をX状に交差させることでも良く、その場合には図示例のように交差部に発電機3を設置したうえでいずれか一方の吊り治具1に対してのみ上記各実施形態と同様に送風機2および発電機3を設置することでも良いし、あるいは2本の吊り治具1の双方に対して送風機2を設置することでも良い。
【0019】
以上で説明した各実施形態はいずれも被揚重物を長尺の吊り治具1を介して揚重する場合の適用例であることから、その吊り治具1に対して送風機2を搭載してその吊り治具1自体を旋回させることによって被揚重物を旋回させるようにしたのであるが、本発明はそのような吊り治具1を用いない場合においても適用可能であり、以下、その場合の実施形態について図8〜図9を参照して説明する。なお、図8〜図9に示す実施形態において、図1〜図2に示した実施形態と共通する要素については同一符号を付してある。
【0020】
図8〜図9に示す実施形態は、被揚重物が柱のような形態のものであることからそれを吊持する吊り治具10が長尺の形態のものではなく、したがって上記各実施形態のようにその吊り治具10に対して送風機2を搭載しても十分な旋回トルクが得られないので効率的に旋回させるための十分な偶力を発生させ難いことから、本実施形態ではフック5bに対して長尺の旋回治具11を装着し、その旋回治具11に対して上記各実施形態の場合と同様に送風機2および発電機3を搭載するようにしたものである。
【0021】
具体的には、シーブブロック5aに対して旋回可能に設けられているフック5bに対して長尺の旋回治具11の軸方向中央部を支持して略水平姿勢で装着し、その旋回治具11に対して上記各実施形態の場合と同様に互いに逆方向の偶力Fa、Fbを発生させるための2組の送風機群を搭載し、いずれかの送風機群を選択的にリモートコントローラ4により遠隔操作して旋回治具11をフック5bとともに右旋回あるいは左旋回させることによって、フック5bにより吊持している被揚重物を旋回させるようにしたものであり、これによっても上記各実施形態と同様の効果が得られるものである。
【0022】
なお、図8〜図9に示す実施形態では、図1〜図2に示した実施形態と同様に各組の送風機群を2台の送風機2により構成し、それら全4台の送風機2を旋回治具11の両端部上部に並設しているが、送風機2の台数やその配置については図3〜図7に示した各実施形態と同様に変更することも勿論可能である。
また、図8〜図9に示す実施形態では各組の2台の送風機2をそれぞれ1台の発電機3により駆動することとして、全2台の発電機3を旋回治具11の両端部下部に吊り下げる形態で搭載しているが、必ずしもそうすることはなく、図1〜図7に示した上記各実施形態の場合と同様に発電機3は1台とすることでも勿論良いし、必要であればさらに多数としても良く、アンバランスとならない範囲内であればそれらの設置位置も任意である。
【0023】
以上で本発明の実施形態について説明したが、本発明は上記各実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内であれば、吊り治具や旋回治具の形態はもとより、送風機や駆動源、遠隔操作手段の具体的な構成は、上記各実施形態の構成を様々に組み合わせることも含めてさらに様々な設計的変更や応用が可能であることはいうまでもない。
【符号の説明】
【0024】
1 吊り治具
2 送風機
2a 送風機(右旋回用)
2b 送風機(左旋回用)
3 発電機(駆動源)
4 リモートコントローラ(遠隔操作手段)
5 フックブロック
5a シーブブロック
5b フック
6 ワイヤー
7 自動玉掛け玉外し装置
8 ワイヤー
10 吊り治具
11 旋回治具

【特許請求の範囲】
【請求項1】
クレーンが備えるフックにより長尺の吊り治具を略水平姿勢でかつ水平旋回可能に吊持して該吊り治具により被揚重物を吊持することにより、前記被揚重物を前記吊り治具を介して前記クレーンにより揚重するとともに、揚重時における前記被揚重物の水平旋回を制御するための揚重旋回制御装置であって、
前記吊り治具に2組の送風機群を搭載するとともに、前記各送風機群を駆動するための駆動源および前記各送風機群を遠隔操作するための遠隔操作手段を備えてなり、
前記各組の送風機群を、それぞれ前記吊り治具の両端部に配置した少なくとも2台の送風機により構成し、
前記各組の送風機群における少なくとも2台の送風機を、それぞれ前記吊り治具の軸線方向に対して互いに逆向きの水平横方向に対して空気流を送風することによって該吊り治具を前記被揚重物とともに水平面内において一方向に旋回させるための偶力を発生可能とし、
かつ各組の送風機群を前記吊り治具を互いに逆方向に旋回させるように互いに逆向きの偶力を発生可能に構成してなることを特徴とする揚重旋回制御装置。
【請求項2】
クレーンが備えるフックにより被揚重物を水平旋回可能に吊持して該被揚重物を前記クレーンにより揚重するとともに、揚重時における前記被揚重物の水平旋回を制御するための揚重旋回制御装置であって、
前記フックに対して長尺の旋回治具の軸方向中央部を支持して略水平姿勢で装着し、該旋回治具に2組の送風機群を搭載するとともに、前記各送風機群を駆動するための駆動源および前記各送風機群を遠隔操作するための遠隔操作手段を備えてなり、
前記各組の送風機群を、それぞれ前記旋回治具の両端部に配置した少なくとも2台の送風機により構成し、
前記各組の送風機群における少なくとも2台の送風機を、それぞれ前記旋回治具の軸線方向に対して互いに逆向きの水平横方向に対して空気流を送風することによって該旋回治具を前記フックおよび前記被揚重物とともに水平面内において一方向に旋回させるための偶力を発生可能とし、
かつ各組の送風機群を前記旋回治具を互いに逆方向に旋回させるように互いに逆向きの偶力を発生可能に構成してなることを特徴とする揚重旋回制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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