説明

揮発性成分又は浮遊成分可視化方法及び揮発性成分又は浮遊成分可視化システム

【課題】揮発性成分又は浮遊成分に対する特異性を有することが可能であり、揮発性成分又は浮遊成分の存在及び流れを迅速に可視化することができる、揮発性成分又は浮遊成分可視化方法及び揮発性成分又は浮遊成分可視化システムを提供する。
【解決手段】揮発性成分又は浮遊成分可視化方法は雰囲気中に含まれる揮発性成分又は浮遊成分を、該揮発性成分又は浮遊成分と反応する感応体と反応させ、前記揮発性成分又は浮遊成分と感応体との反応を可視化する、揮発性成分又は浮遊成分可視化方法であって、前記感応体が固定された担体10が空間的に配列されてなり、前記可視化が、担体に固定化された化学発光物質、蛍光物質又は色素の発色を検出するか、又は感応体の反応熱を検出することにより実施される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、揮発性成分又は浮遊成分可視化方法及び揮発性成分又は浮遊成分可視化システムに関し、特には、匂い成分等の揮発性成分又は浮遊成分に対する特異性を有することが可能であり、揮発性成分又は浮遊成分の存在及び流れを迅速に可視化することができる揮発性成分又は浮遊成分の可視化方法、並びに揮発性成分又は浮遊成分可視化システムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、匂いの識別や評価は、実際に人間の嗅覚を用いて行われるのが一般的であった。しかしながら、実際に匂いを嗅ぐ人の個人差やその日の体調などにより嗅覚が変動する場合があり、客観的な結果を得るためには、パネラーを複数人確保する必要があり、手間と時間が膨大なものとなってしまう。また、このような配慮を行っても、人間の嗅覚は匂いに順応するという特性を有しているため、常に一定の基準で判断を下すことは容易でない。
【0003】
従って、客観的な匂いの識別や評価を行うためには、例えば、ガスクロマトグラフィーによる匂い成分の検出、定量が行われている。しかしながら、ガスクロマトグラフィーによる匂い成分の検出、定量によっては、多点計測、連続計測はできないという問題がある。
一方、匂い成分を検出するものとして、例えば、SnOやZnO等の半導体材料を用いた匂いセンサが知られている。このようなセンサは、匂い成分が検知面に付着することにより、センサの物理的特性(例えば、電気抵抗)、化学的特性が変化することを利用したものである。例えば、特許文献1及び特許文献2には、精度を向上させた半導体を用いた匂いセンサが開示されている。しかしながら、このような半導体を用いた匂いセンサは選択性が低いという問題があった。
【0004】
一方、匂いには種々のものが存在すると共に、匂いは目に見えず、また、空間的及び時間的に変動が大きいものである。匂いを可視化することにより、空間的及び時間的に匂い成分(揮発性成分)を検出することができるシステムが望まれており、例えば、特許文献3には、匂いを可視化するための装置が開示されている。特許文献3に開示された装置によれば、匂いを可視化することもできるが、該特許文献に開示された装置においても半導体センサが用いられており、特異性の面からは更に向上が望まれていた。
【0005】
【特許文献1】特開2007−178352号公報
【特許文献2】特開2006−64553号公報
【特許文献3】特開2001−91416号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従って、本発明の目的は、揮発性成分又は浮遊成分に対する特異性を有することが可能であり、揮発性成分又は浮遊成分の存在及び流れを迅速に可視化することができる、揮発性成分又は浮遊成分可視化方法及び揮発性成分又は浮遊成分システムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、本願発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、揮発性成分又は浮遊成分と反応する感応体を用いることにより、上記目的を達成し得るという知見を得た。
【0008】
本発明は、上記知見に基づいてなされたものであり、雰囲気中に含まれる揮発性成分又は浮遊成分を、該揮発性成分又は浮遊成分と反応する感応体と反応させ、前記揮発性成分又は浮遊成分と感応体との反応を可視化する、揮発性成分又は浮遊成分可視化方法であって、 前記感応体が固定された担体が空間的に配列されてなり、前記可視化が、担体に固定化された化学発光物質、蛍光物質若しくは色素の発色を検出すること、又は感応体の反応熱若しくは発煙を検出することにより実施される方法を提供するものである。
【0009】
前記感応体としては、例えば酵素及び抗体が挙げられる。
前記化学発光物質、蛍光物質又は色素としては、酵素反応又は抗体反応により産生されるか、酵素反応又は抗体反応により産生された物質と反応して発色するものが挙げられる。
前記担体としては柔軟な部材が挙げられる。
前記方法は、前記担体がミスト状に噴霧して用いられてもよい。
前記担体としては磁性粒子が挙げられる。
前記方法においては、担体に固定化された化学発光物質、蛍光物質又は色素の発色の検出を、CCDカメラにより撮影してもよい。
【0010】
また、本発明は、揮発性成分又は浮遊成分と反応する感応体と、揮発性成分又は浮遊成分が存在する場合に発色する物質とが固定化された担体を空間的に配列させてなる、揮発性成分又は浮遊成分可視化システムを提供する。
前記感応体としては、例えば酵素及び抗体が挙げられる。
前記化学発光物質、蛍光物質又は色素としては、酵素反応又は抗体反応により産生されるか、酵素反応又は抗体反応により産生された物質と反応して発色するものが挙げられる。
【0011】
前記揮発性成分又は浮遊成分が存在する場合に発色する物質としては、例えば化学発光物質、蛍光物質又は色素が挙げられる。
前記方法は、前記担体がミスト状に噴霧して用いられてもよい。
前記担体としては磁性粒子が挙げられる。
前記システムは、更にCCDカメラを含み、前記担体に固定化された化学発光物質、蛍光物質又は色素の発色の検出を、CCDカメラにより撮影するものであってもよい。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、揮発性成分又は浮遊成分に対する特異性を有することが可能であり、揮発性成分又は浮遊成分の存在及び流れを迅速に可視化することができる、揮発性成分又は浮遊成分可視化方法及び揮発性成分又は浮遊成分可視化システムが得られる。感応体として抗体を用いた場合、免疫反応によりカビ又はハウスダストなどの浮遊粒子の可視化方法及び浮遊粒子の可視化システムが得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下に、本発明を詳細に説明する。
本発明の揮発性成分又は浮遊成分可視化方法は、雰囲気中に含まれる揮発性成分又は浮遊成分を、該揮発性成分又は浮遊成分と反応する感応体と反応させ、前記揮発性成分又は浮遊成分と感応体との反応を可視化する方法であり、前記感応体が固定化された担体が空間的に配列されてなり、前記可視化が、担体に固定化された化学発光物質、蛍光物質又は色素の発色を検出するか、又は感応体の反応熱若しくは反応の結果生ずる発煙を検出することにより実施される。
【0014】
本発明の揮発性成分又は浮遊成分可視化方法は、雰囲気中に含まれる揮発性成分又は浮遊成分を、該揮発性成分又は浮遊成分と反応する感応体と反応させる。本発明において対象となる揮発性成分又は浮遊成分とは、例えば揮発性成分としては、エタノール、アンモニア、トリメチルアミン、トリエチルアミン、メチルメルカプタン、硫化ジメチル等の有臭気成分の他、過酸化水素、コリン、乳酸等の無臭気成分等が挙げられる。その他、感応体として抗体を用いた場合には、抗原となり得る物質を可視化することに用いることもできる。例えば、カビやハウスダスト等の浮遊粒子も、本発明の方法において検出、可視化することが可能である。
【0015】
本発明の揮発性成分又は浮遊成分可視化方法においては、感応体が固定化された担体が空間的に配列されてなる。「空間的に配列」とは、単に平面状に配列する場合のみならず、二次元的、又は三次元的に配列することを意味する。このように担体を配列することにより、揮発性成分又は浮遊成分がどのような位置に存在するか、どのように移動するかなどを立体的に可視化することが可能となる。また、空間的に配列は、担体をミスト状に噴霧して用いることによっても実施することができる。この場合、ミストの大きさとしては、噴霧した後にすぐに落下してしまわない程度に小さく、また体内に吸収されない程度に大きいものが好ましい。
【0016】
本発明の揮発性成分又は浮遊成分可視化方法において用いられる担体は、検出しようとする揮発性成分又は浮遊成分と反応する感応体と、揮発性成分又は浮遊成分が存在する場合に発色する物質(化学発光物質、蛍光物質又は色素)とが固定化されたものである。担体としては、柔軟な部材が好ましいが、揮発性成分又は浮遊成分を検出する目的として用いるので、揮発性成分又は浮遊成分が通過する程度の穴が開いているものが好ましい。穴の大きさは、揮発性成分又は浮遊成分の分子が通過できる程度でよい。このような柔軟な部材としては、特に制限なく用いることができるが、例えば、繊維状体が挙げられ、メッシュ状のプラスチック製の部材や、ガーゼ、紙、透析膜、中空糸膜等が好ましく用いられる。ガーゼを用いる場合、複数枚を用意し、重ね合わせたり種々の角度で配列させることにより、空間的に配列させることができる。ガーゼを用いた場合、ガーゼには、多数の隙間が空いており、この隙間を揮発性成分又は浮遊成分が通過するので、特に好ましく用いられる。また、柔軟な素材とは自由に折り曲げたりすることのできる部材であり、このようなものを用いることによって、測定しようとする場所の広さや形などを問わずに使用することが可能となる。
また、担体としては粒子状担体を用いてもよく、担体をミスト状に噴霧して用いることができるので、匂いの発生源に噴霧して揮発性成分又は浮遊成分を検出することができ、匂いがどの部位から発生しどのように流れているのかなどを検出することができる。
さらに担体には感応体を予め固定せず、中空糸膜などの管状の担体内に緩衝液に溶解した感応体を循環させても良い。
【0017】
また、担体としては磁性粒子を用いてもよい。磁性粒子としてはその大きさは前述した通りのものでよく、磁性粒子とは、磁性を有する粒子のことを意味し、質量、材料、構造(単一ドメイン、表面に種々の物質を被覆)、その性質(常磁性、超常磁性、強磁性等、フェリ磁性、磁力の大きさ)等は、適宜選択することができる。磁性粒子の材料としては、例えば、水酸化鉄、酸化鉄水和物、酸化鉄、混合酸化鉄、又は鉄、γ―Fe、Fe等が挙げられる。磁性粒子は、例えば、磁性細菌によって菌体内に生産される磁性細菌粒子を用いてもよい。担体として磁性粒子を用いた場合、磁力により磁化した鉄やニッケルなどの磁性体表面に担体を捉え、使用後に磁石等を用いて担体を回収し、再利用することも可能である。
【0018】
本発明の揮発性成分又は浮遊成分可視化方法においては、担体に感応体が固定化されている。感応体とは、例えば、酵素を意味するものであり、検出しようとする揮発性成分又は浮遊成分と反応する酵素が用いられる。検出しようとする匂い成分がエタノールである場合、エタノールと反応する酵素、例えば、エタノールオキシダーゼ、エタノール脱水素酵素などが用いられる。本発明において用いられる酵素としては、例えば、モノアミンオキシダーゼ−タイプA、フラビン含有モノオキゲナーゼ−タイプ1〜3、グルコースオキシダーゼ、グルタミン酸オキシダーゼ、乳酸オキシダーゼ等が挙げられる。また、感応体としては抗体が挙げられる。抗体を用いる場合には、空中に浮遊している、肉眼では見ることのできない微粒子、例えば、カビやハウスダスト等を可視化することができる。
【0019】
また、本発明の揮発性成分又は浮遊成分可視化方法においては、担体に、化学発光物質、蛍光物質又は色素が固定化されている。化学発光物質、蛍光物質又は色素は、酵素反応又は抗体反応により産生されるか、酵素反応又は抗体反応により産生された物質と反応して発色するものを用いることができる。
ここで、化学発光物質とは、化学反応により発光する物質であり、例えば、ルミノール、ロフィン、ルシゲニン等が挙げられる。ルミノールの場合で説明すると、例えば、エタノールを検出するための本発明の揮発性成分又は浮遊成分可視化方法において、エタノールがアルコールオキシダーゼの作用によりアセトアルデヒドと過酸化水素に分解され、生成した過酸化水素がルミノール及びOHと反応して3−アミノフタル酸を生成する。このアミノフタル酸は電子励起状態で試製するため、発光が生じる。この発光を検出することにより、揮発性成分又は浮遊成分の検出が可能となる。
【0020】
また、蛍光物質とは、特定波長の光(励起光)を吸収し、それにより励起された状態(励起状態)から元の状態(基底状態)に戻る際に光(蛍光)としてエネルギーを放出する特性をもつ物質であり、例えば、フルオレセインイソチオシアネート等が挙げられる。また、例えば、アルコール脱水素酵素を用いてエタノールを検出しようとする場合、アルコール脱水素酵素はNADを補酵素とし、酵素反応によりNADHが生成する。このNADHは340nmの紫外線を吸収するが、NADは340nmの紫外線を吸収しないという性質を利用し、基質であるエタノールを検出するものである。従って本明細書において、蛍光物質という場合には、アルコール脱水素酵素等の補酵素であるNADも含む概念とする。
【0021】
担体に酵素及び前記化学発光物質、蛍光物質又は色素を固定化させる方法としては、特に制限なくどのような方法を用いてもよい。例えば、担体としてガーゼ等の柔軟な部材を用いる場合、例えば光架橋性樹脂による包括法、架橋法、吸着法等が挙げられる。その中でも、光架橋性樹脂による包括法が一般的に用いられる。以下、光架橋製樹脂による包括法について説明する。本発明の揮発性成分又は浮遊成分可視化方法において用いられる担体を作成するのに用いられる光架橋性樹脂としては、例えばポリエチレングリコール、ポリビニルアルコール 等が挙げられ、ポリビニルアルコールにSbQの光感応基を組み合わせた、PVA−SbQ、SPP−H−13(Bio)、東洋合成工業(株)製等を用いることができる。酵素、前記化学発光物質、蛍光物質又は色素、及び光架橋性樹脂を適当な緩衝液(例えば、リン酸緩衝液)に溶解した後、柔軟な部材に塗布、含浸させ、上記光架橋性樹脂を架橋させることにより、酵素、及び前記化学発光物質、蛍光物質又は色素が固定化された担体が得られる。
【0022】
担体として磁性粒子を用いる場合、酵素、前記化学発光物質、蛍光物質又は色素を磁性粒子に固定化する方法としては、例えば、架橋剤を用いて共有結合により固定化する方法、静電的相互作用により固定する方法が挙げられる。
【0023】
本発明の揮発性成分又は浮遊成分可視化方法においては、揮発性成分又は浮遊成分の可視化を感応体(酵素等)の反応熱を検出することにより実施される。例えば、揮発性成分又は浮遊成分と、該揮発性成分又は浮遊成分を基質とする酵素が反応する際に発生する反応熱や反応の結果生じる発煙を検出するものである。このような反応熱は、例えば、サーモグラフィ又は光干渉法等を用いて測定することが可能である。
【0024】
本発明の揮発性成分又は浮遊成分可視化方法は、担体に結合した化学発光物質、蛍光物質又は色素の発色の検出を、CCDカメラにより撮影してもよい。CCDカメラで撮影することにより、高感度な画像が得られ、弱い発光の場合でも検出が可能となり、揮発性成分又は浮遊成分がわずかに存在する場合でも検出でき、また、発光が弱い場合には、明るい場所では検出が困難であるが、CCDカメラで撮影することにより、明るい場所でも揮発性成分又は浮遊成分の可視化が可能となる。CCDカメラで撮影された画像データを、コンピュータに送信し、かかるコンピュータにより画像データを解析することができる。また、この画像データは、前記コンピュータに接続されたディスプレイに映し出すことができる。コンピュータとディスプレイとの間には、CCDカメラで撮影された画像のアナログデータをデジタルデータに変換するビデオエンコーダを配列させてもよい。画像のアナログデータをデジタルデータに変換することにより、例えば、揮発性成分又は浮遊成分の濃度により、色を変えてディスプレイに表示させることも可能となる。また、動画により、揮発性成分又は浮遊成分の分布の経時変化を観察することもできる。更に、担体に複数の酵素を固定化することにより、複数の揮発性成分又は浮遊成分の検出、可視化が可能となり、複数種類の揮発性成分又は浮遊成分を色分けして表示することも可能である。
【0025】
本発明の揮発性成分又は浮遊成分可視化システムは、前述した本発明の揮発性成分又は浮遊成分可視化方法を実施するためのシステムであって、揮発性成分又は浮遊成分と反応する感応体と、揮発性成分又は浮遊成分が存在する場合に発色する物質とが固定化された担体を空間的に配列させてなる。
揮発性成分又は浮遊成分と反応する感応体、担体等については、前述した本発明の揮発性成分又は浮遊成分可視化方法と同様である。本発明の揮発性成分又は浮遊成分可視化システムにおける、発色する物質は、前述した本発明の揮発性成分又は浮遊成分可視化方法における、化学発光物質、蛍光物質又は色素であることを意味する。
【0026】
本発明の揮発性成分又は浮遊成分可視化システムを用いて揮発性成分又は浮遊成分を測定する方法について、図面を参照しつつ説明する。図1は、本発明に揮発性成分又は浮遊成分可視化システムを用いて揮発性成分又は浮遊成分を測定する方法の概略図である。図1においては、ガス発生器6から発生するガスの検出を行っている。ガス発生器6から発生するガスは、コンプレッサ2によって発生する空気によって、発生器6からガスが押し出され、ガス流量コントローラ8によって、その流量が調節されている。ガス流量コントローラ8により、流量が調節されるので、余ったガスが図1の左側に向いている矢印のように進み排出される。また、ガス発生器6とコンプレッサ2との間には活性炭フィルタ4を設け、コンプレッサから排出される不純物が除去される。
【0027】
ガス流量コントローラ8から排出されるガス(図1においては、エタノールガス、200ml/分)は、酵素が固定化された担体10に吹きかけられる。図1における担体は、アルコールオキシダーゼ、ホースラデッシュペルオキシダーゼ及びPVA−SbQを緩衝液に溶解し、ガーゼ上に塗布し、紫外線を照射して硬化させて作成されたものである。
【0028】
担体10には、アルコールオキシダーゼ及びホースラデッシュペルオキシダーゼが固定化されており、ルミノールを含む緩衝液にて湿潤させることで酵素を活性化させ、エタノールが吹きかけられた部分が発色するようになっている。担体上の発色を、高感度CCDカメラ12で撮影し、この画像データはコンピュータ14に取り込まれ、ビデオデコーダ16によりデジタル画像データに変換され、ディスプレイ18に映し出される。図1に示す揮発性成分又は浮遊成分可視化システムにおいては、ビデオデコーダ16により、画像データがデジタル画像データに変化されるので、例えば、揮発性成分又は浮遊成分の濃度により、色を変えてディスプレイ18に表示させることも可能となる。また、動画により、揮発性成分又は浮遊成分の分布の経時変化を観察することもできる。更に、担体に複数の酵素を固定化することにより、複数の揮発性成分又は浮遊成分の検出、可視化が可能となり、複数種類の揮発性成分又は浮遊成分を色分けして表示することも可能である。
【0029】
以上、本発明の揮発性成分又は浮遊成分可視化方法及び匂い成分可視化システムについて、エタノールを検出する場合について説明したが、本発明は、エタノールの検出に限定されるものではなく、種々の揮発性の匂い成分の検出に用いることができ、匂い成分を基質とする酵素、その酵素反応により産生されるか、酵素反応により産生された物質と反応して発色する物質との組み合わせにより、種々の匂い成分の可視化に適用可能である。
また、本発明の揮発性成分又は浮遊成分可視化方法及び揮発性成分又は浮遊成分可視化システムにおいては、酵素等の感応体を用いているので、基質に特異的であり、揮発性成分又は浮遊成分に特異的なものとなる。
【0030】
また、本発明においては、雰囲気中に浮遊する成分、例えば、カビやハウスダストの検出、可視化を実施するのに用いることも可能である。例えば、カビやハウスダストの匂いの元となる成分を特異的に分解する酵素を、感応体として用いることにより、カビ、ハウスダスト等の浮遊成分を検出、可視化することができる。また、カビやハウスダストに対する抗体を、感応体として用いることによっても、カビハウスダスト等の浮遊成分を検出、可視化することができる。
【0031】
本発明の揮発性成分又は浮遊成分可視化方法及び揮発性成分又は浮遊成分可視化システムによれば、雰囲気中に含まれる揮発性成分又は浮遊成分を可視化することができ、その発生源を可視化したり、動きを可視化することが可能となる。本発明の揮発性成分又は浮遊成分可視化方法及び揮発性成分又は浮遊成分可視化システムは、例えば、生体からの匂いの検出、可視化に用いることができる。例えば、癌細胞では過酸化水素が産生するので、例えば、身体にミスト状の担体を噴霧するか、又は、ガーゼを担体として用いたものを身体に巻き付け、過酸化水素の発生源を調べ、癌細胞の有無を調べることが可能となる。また、口臭の原因はメチルメルカプタン、硫化水素、ジメチルサルファイド等の揮発性イオウ化合物であることが知られている。従って、これらの揮発性イオウ化合物と酵素、発色物質の組み合わせにより、口臭を可視化するシステムを構築することもできる。特に、自分の口臭がどの程度なのか気になる場合に特に有用なものである。
また、嗅覚障害者の補助装置としても用いられ得る。その他、その人独特の匂いを可視化することにより、個人認証としても使用可能である。この場合、DNA鑑定ではわからない部分に関しても、匂いにより、個人を特定することができる。
【0032】
また、環境中の匂いの計測にも使用可能である。例えば、ホルムアルデヒド等により環境が汚染され、公害の原因となっていることは知られているが、本発明のシステムを用いることにより、ホルムアルデヒドの発生源を絞り込むことがリアルタイムで可能であり、公害の発生防止にも有用である。
更に、本発明の揮発性成分又は浮遊成分可視化方法及び揮発性成分又は浮遊成分可視化システムは、薬物、化学捜査の分野においても有用である。例えば、ミスト状に噴霧し、爆薬の匂いが存在するかどうかを計測することにより、テロの防止等に有用である。
【実施例】
【0033】
以下に、実施例を示して本発明を具体的に説明するが、これらにより本発明は何ら制限を受けるものではない。
実施例1
酵素固定化担体の製造
アルコールオキシダーゼ(量:100μl)、ホースラデッシュペルオキシダーゼ(量:10mg)及びPVA−SbQ(量:1320mg)をリン酸緩衝液(pH:7.0、濃度:50mmol/l、量:560μl)に溶解し、ガーゼ(大きさ:10×10平方cm)に塗布し、4℃に2時間静置した後、紫外線(蛍光灯)を2時間照射し、PVA−SbQを架橋させることにより、酵素が固定化された膜を得た。
【0034】
この膜を用い、図1に示す揮発性成分又は浮遊成分可視化システムを構築した。次いで、ルミノール(濃度:5mmol/l、量:1.5ml)を溶解した緩衝液を酵素固定化膜に塗布した後、エタノールガス(濃度:1000ppm)を200mL/分になるように、酵素固定化膜に吹きかけ、その発光の変化を高感度CCDカメラを用いて撮影した。
結果を図2に示す。図2は、エタノールガスを吹きかけた酵素固定化膜の発光した写真及びそのX軸及びY軸方向の強度を示す図である。図2に示すように、酵素固定化膜はエタノールガスを吹きかけた部位のみが発光したことがわかる。また、発光強度の経時変化を調べたグラフを図3に示す。エタノールガスは約20秒間吹きかけた。図3に示す。色の濃い部分がエタノールガスを吹きかけている時間を示す。図3に示すように、発光ピークは、吹きかけている時間よりもわずかに遅れるが、ほぼリアルタイムにエタノールガスを検出できることがわかる。エタノールガスを吹きかけるのを停止すると、発光強度は徐々に減少した。
【0035】
実施例2
エタノールガス濃度によって発光強度が変化するかどうかを調べた。実施例1と同様にして、エタノールガスを種々変化させて測定を行った。結果を図4に示す。図4は、種々の濃度のエタノールガスを吹きかけた場合の発光強度の経時変化を示すグラフである。図4に示すように、エタノールガスの濃度が高くなると発光強度が高くなることがわかった。このデータに従い、検量線を作成したのが図5のグラフである。図5において、横軸はエタノールガスの濃度、縦軸は発光強度の合計量を示す。図5より、エタノールガスの濃度が50〜1500ppmの範囲では発光強度が直線を示すことがわかった。
なお、図5に示す検量線は以下の式によって表され、相関係数は0.995であった。
発光強度=−11.77+0.45〔エタノール濃度(ppm)〕
【0036】
実施例3
実施例1で用いたのと同様の酵素固定化膜を用い、アルコール飲料を飲んだ人間(ビール、アルコール濃度:5.5%、500mL)が、直接酵素固定化膜に呼気を吹きかけ、その発光を観察した。図6に発光強度の経時変化を表わすグラフを示す。図5に示すように、飲酒30分後には、発光強度はかなり上昇しており、40分後にはピークに達した。その後、飲酒100分後には発光はほとんど消失した。また、飲酒40分後の呼気を吹きかけた際の画像を図7に示す。図7に示すように、発光は酵素固定膜のほぼ中央にのみ現れており、呼気を吹きかけた部位のみで発光していることがわかる。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】本発明に揮発性成分又は浮遊成分可視化システムを用いて揮発性成分又は浮遊成分を測定する方法の概略図である。
【図2】エタノールガスを吹きかけた酵素固定化膜の発光した写真である。
【図3】発光強度の経時変化を表すグラフである。
【図4】発光強度の経時変化を表すグラフである。
【図5】検量線を表すグラフである。
【図6】発光強度の経時変化を表すグラフである。
【図7】呼気を吹きかけた際の画像を示す写真である。
【符号の説明】
【0038】
2 コンプレッサ 4 活性炭フィルタ
6 ガス発生器 8 ガス流量コントローラ
10 担体 12 高感度CCDカメラ
14 コンピュータ 16 ビデオデコーダ
18 ディスプレイ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
雰囲気中に含まれる揮発性成分又は浮遊成分を、該揮発性成分又は浮遊成分と反応する感応体と反応させ、前記揮発性成分又は浮遊成分と感応体との反応を可視化する、揮発性成分又は浮遊成分可視化方法であって、
前記感応体が固定された担体が空間的に配列されてなり、
前記可視化が、担体に固定化された化学発光物質、蛍光物質若しくは色素の発色を検出すること、又は感応体の反応熱若しくは発煙を検出することにより実施される方法。
【請求項2】
前記感応体が酵素又は抗体である、請求項1記載の方法。
【請求項3】
前記化学発光物質、蛍光物質又は色素が、酵素反応又は抗体反応により産生されるか、酵素反応又は抗体反応により産生された物質と反応して発色するものである、請求項2記載の方法。
【請求項4】
前記担体がミスト状に噴霧して用いられる、請求項1〜3のいずれか1項記載の方法。
【請求項5】
前記担体が磁性粒子である、請求項1〜4のいずれか1項記載の方法。
【請求項6】
担体に固定化された化学発光物質、蛍光物質又は色素の発色の検出を、CCDカメラにより撮影する、請求項1〜5のいずれか1項記載の方法。
【請求項7】
揮発性成分又は浮遊成分と反応する感応体と、揮発性成分又は浮遊成分が存在する場合に発色する物質とが固定化された担体を空間的に配列させてなる、揮発性成分又は浮遊成分可視化システム。
【請求項8】
前記感応体が酵素又は抗体である、請求項7記載の揮発性成分又は浮遊成分可視化システム。
【請求項9】
前記揮発性成分又は浮遊成分が存在する場合に発色する物質が、化学発光物質、蛍光物質又は色素である、請求項7又は8記載の揮発性成分又は浮遊成分可視化システム。
【請求項10】
前記化学発光物質、蛍光物質又は色素が、酵素反応又は抗体反応により産生されるか、酵素反応又は抗体反応により産生された物質と反応して発色するものである、請求項7〜9のいずれか1項記載の揮発性成分又は浮遊成分可視化システム。
【請求項11】
前記担体がミスト状に噴霧して用いられる、請求項7〜10のいずれか1項記載の揮発性成分又は浮遊成分可視化システム。
【請求項12】
前記担体が磁性粒子である、請求項7〜11のいずれか1項記載の揮発性成分又は浮遊成分可視化システム。
【請求項13】
更にCCDカメラを含み、前記担体に固定化された化学発光物質、蛍光物質又は色素の発色の検出を、CCDカメラにより撮影する、請求項7〜12のいずれか1項記載の揮発性成分又は浮遊成分可視化システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2009−204589(P2009−204589A)
【公開日】平成21年9月10日(2009.9.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−50101(P2008−50101)
【出願日】平成20年2月29日(2008.2.29)
【出願人】(504179255)国立大学法人 東京医科歯科大学 (228)
【Fターム(参考)】