説明

揮発性有機ガスの濃度希釈方法

【課題】揮発性有機ガス中における揮発性有機化合物の濃度を高い状態のままで排出することなく、吸着層を小型化できる揮発性有機ガスの濃度希釈方法を提供すること。
【解決手段】通過方向切換え手段5は供給路2から吸着層3を通過して排出路4から排出する揮発性有機ガスの通過方向(以下、第1方向)を逆方向(以下、第2方向)に切換える。通過方向を切り換えた揮発性有機ガスは排出路4から吸着層3を通過して供給路2に流れ、次いで戻し路6を介して排出路4に戻る。さらに通過方向切換え手段5は通過方向を第2方向に切り換えた揮発性有機ガスの通過方向を第1方向に切り換え、その揮発性有機ガスを排出路4から戻し路6、その戻し路6の連通箇所から吸着層3までの供給路2の一部、吸着層3及び排出路4へと通過させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、揮発性有機ガスを吸着層に通過させることで揮発性有機ガス中における揮発性有機化合物の濃度を希釈する揮発性有機ガスの濃度希釈方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来発明として、滅菌作業後に滅菌器から排出される酸化エチレン等を含有する滅菌ガスと、その滅菌器を清浄なエアで置換した後に滅菌器から排出されるエアレーションガスとを燃焼処理して無毒化するため、それらガス(以下、揮発性有機ガス)を吸着層に通過させ、そのガスに含まれる揮発性有機化合物を吸着層の吸着材に吸着させることで、その濃度を燃焼処理可能な濃度に低減するものがある(特許文献1を参照)。
【0003】
【特許文献1】特開平08−215541号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来発明では吸着層を一旦通過した揮発性有機ガスをそのまま燃焼処理装置に供給するので、そのガスに含まれる揮発性有機化合物の総量(供給量)が吸着層の吸着可能な量を超えると、吸着層から濃度の高い揮発性有機化合物が排出される。この濃度が燃焼可能な濃度より高くなると、揮発性有機ガスを燃焼処理装置に供給しても揮発性有機ガスを燃焼処理で十分に無毒化できない事態が発生する。このような事態が生じないように、従来発明では、滅菌器から供給される揮発性有機ガスに含まれる揮発性有機化合物の総量に対して十分に安全な大型の吸着層を備えておかなければならない。
【0005】
本発明は、揮発性有機ガス中における揮発性有機化合物の濃度を高い状態のままで排出することなく、吸着層を小型化できる揮発性有機ガスの濃度希釈方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
請求項1に係る発明は、揮発性有機ガスに含まれる揮発性有機化合物を吸着する吸着材を備えた吸着層に前記揮発性有機ガスを通過させ、前記揮発性有機化合物の濃度を希釈する揮発性有機ガスの濃度希釈方法であって、前記揮発性有機ガスを前記吸着層に第1方向で通過させる第1方向通過ステップと、前記第1方向に対して逆方向である第2方向で前記揮発性有機ガスを前記吸着層に通過させる第2方向通過ステップとを備え、前記第1方向通過ステップと前記第2方向通過ステップとで少なくとも一回前記揮発性有機ガスを前記吸着層に通過させる。
【0007】
請求項2に係る発明は、請求項1に係る発明において、前記吸着層を前記第1方向で通過した前記揮発性有機ガス中における前記揮発性有機化合物の濃度を検出する第1方向検出ステップと、前記吸着層を前記第2方向で通過した前記揮発性有機ガス中における前記揮発性有機化合物の濃度を検出する第2方向検出ステップと、前記第1方向検出ステップにより検出された前記揮発性有機ガス中における前記揮発性有機化合物の濃度が所定濃度より高いときに、前記第1方向通過ステップから前記第2方向通過ステップに切換える第1切換えステップと、前記第2方向検出ステップにより検出された前記揮発性有機ガス中における前記揮発性有機化合物の濃度が所定濃度より高いときに、前記第2方向通過ステップから前記第1方向通過ステップに切換える第2切換えステップとを含む。
【0008】
請求項3に係る発明は、請求項1又は請求項2に係る発明において、前記吸着層を通過する前の揮発性有機ガス中における揮発性有機化合物の濃度が所定濃度より低い場合に、前記吸着層を通過する前の揮発性有機ガスを前記吸着層から迂回させる迂回ステップと、をさらに含む。
【0009】
請求項4に係る発明は、請求項1〜3のいずれかに係る発明において、前記第1方向通過ステップの前、前記第1方向通過ステップの後、前記第2方向通過ステップの前、前記第2方向通過ステップの後のうち少なくともいずれかの箇所で前記揮発性有機ガスに希釈ガスを供給する。
【0010】
請求項5に係る発明は、請求項1〜4のいずれかに係る発明において、前記吸着層は複数の吸着層から構成され、前記第1方向通過ステップにおいては前記揮発性有機ガスを前記各吸着層に前記第1方向で通過させ、前記第2方向通過ステップにおいては前記第2方向で前記揮発性有機ガスを前記各吸着層に通過させる。
【発明の効果】
【0011】
本発明では、揮発性有機ガスを吸着層に通過させる回数が従来のように一回に限定されず、揮発性有機ガス中における揮発性有機化合物の濃度を十分に希釈するまで何回でも揮発性有機ガスを吸着層に通過させることができる。このため従来に比べると吸着層当たりの吸着効率が高くなり、揮発性有機ガス中における揮発性有機化合物の濃度を高い状態のままで排出することなく吸着層を小型化することが可能になる。
【0012】
さらに、本発明では吸着層を従来より小さくできる分だけ、その吸着層内の温度を上げるのに必要な熱量が少なくなる。このため、吸着層内の温度は、揮発性有機ガス中の揮発性有機化合物が吸着材に吸着する際に生じる熱量だけで容易に上昇する。吸着材からの揮発性有機化合物の脱離速度は吸着層内の温度が高くなるにつれて上昇するので、上述のように吸着層内の温度が上昇している場合には吸着材から揮発性有機化合物を迅速に脱離でき、吸着層の再利用効率を向上させることができる。
【0013】
ここで揮発性有機ガスの処理量は、排出路から排出された揮発性有機ガス中における揮発性有機化合物の濃度と、その揮発性有機ガスの流量との積算値によって決定する。従って、排出された揮発性有機ガス中における揮発性有機化合物の濃度は燃焼処理が可能な範囲でなるべく高い方が揮発性有機ガスの処理量を増加させることができる。本発明の好適な実施形態は、揮発性有機ガス中における揮発性有機化合物の濃度が所定濃度より高くなるまで揮発性有機ガスの吸着層に対する通過方向を切り換えない。このため排出される揮発性有機ガス中における揮発性有機化合物の濃度を所定濃度近傍にまで高めて揮発性有機ガスの処理量を向上させることができる。
【0014】
本発明の好適な実施形態においては、希釈ガスを供給することにより揮発性有機ガス中における揮発性有機化合物の濃度を所定濃度近傍に維持する。これにより揮発性有機化合物の処理量を増やすことができる。
【0015】
本発明の好適な実施形態においては、新たに吸着層に供給される揮発性有機ガス中における揮発性有機化合物の濃度が所定濃度より低い場合には、その揮発性有機ガスを吸着層から迂回させる。このため吸着層には揮発性有機化合物の濃度が所定濃度より高い揮発性有機ガスのみを集中的に通過して揮発性有機ガスの処理効率を向上させることができる。
【0016】
本発明の好適な実施形態においては、複数の吸着層を用いることにより、単数の吸着層を用いる場合に比べると吸着層当たりの吸着材が減らす、すなわち吸着層を小型化できる。吸着材を小型化した分、吸着層を通過した揮発性有機化合物の濃度を所定濃度に増加させる時間が短くなり、本発明による処理量を迅速に向上させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、本発明の実施形態について図面に基いて説明する。
図1は、本発明の揮発性有機ガスの濃度希釈方法が使用する濃度希釈装置1の一例を簡略的に示す模式図である。
濃度希釈装置1は、供給路2と、吸着層3と、排出路4とを基本構成として備え、揮発性有機ガスを供給路2から吸着層3を介して排出路4へと通過させる。供給路2は揮発性有機ガス格納容器(図示せず)及び吸着層3に連通し、揮発性有機ガス格納容器からの揮発性有機ガスを吸着層3に供給する。吸着層3は揮発性有機ガスに含まれる揮発性有機化合物を吸着させる吸着材を有し、供給された揮発性有機ガス中における揮発性有機化合物の濃度を低減させる。吸着材は例えば活性炭、ゼオライト、シリカ、アルミナ、多孔吸着材等である。排出路4は吸着層3及び燃焼処理装置(図示せず)に連通し、吸着層3からの揮発性有機ガスを燃焼処理装置に排出する。
【0018】
濃度希釈装置1は、通過方向切換え手段5と、戻し路6と、希釈ガス供給手段7と、迂回路8とをさらに備える。通過方向切換え手段5は吸着層3を通過する揮発性有機ガスの通過方向を切り換える。戻し路6は供給路2及び排出路4に連通し、かつ吸着層3を迂回する。希釈ガス供給手段7は戻し路6を介して供給路2及び排出路4に希釈ガス(例えばエア)を供給する。迂回路8は、吸着層3を迂回し、供給路2における戻し路6の連通箇所より上流側に連通し、かつ排出路4における戻し路6の連通箇所より上流側に連通する。これら戻し路6及び迂回路8それぞれの連通箇所の間には供給路開閉弁9が設けられ、排出路4における迂回路8の連通箇所より上流側には排出路開閉弁10が設けられている。なお供給路開閉弁9及び排出路開閉弁10は制御部(図示せず)によって制御される。
【0019】
通過方向切換え手段5は供給路2から吸着層3を通過して排出路4から排出する揮発性有機ガスの通過方向(以下、第1方向(図1の矢印Aが示す方向))を逆方向(以下、第2方向(図1の矢印Bが示す方向))に切換える。通過方向を切り換えた揮発性有機ガスは吸着層3から供給路2に流れ、次いで戻し路6を介して排出路4に至る。さらに通過方向切換え手段5は通過方向を第2方向に切り換えた揮発性有機ガスの通過方向を再度逆方向(すなわち第1方向)に切り換え、その揮発性有機ガスを戻し路6から、その戻し路6の連通箇所から吸着層3までの供給路2の一部、吸着層3及び排出路4へと通過させる。揮発性有機ガスの通過方向の切換えを始めると供給路開閉弁9は閉弁される。通過方向切換え手段5が揮発性有機ガスの通過方向を第1方向から第2方向に切り換える場合、排出路開閉弁10は閉弁される。通過方向切換え手段5が揮発性有機ガスの通過方向を第2方向から第1方向に切り換える場合、排出路開閉弁10は開弁される。
【0020】
通過方向切換え手段5は、排出路4から排出した揮発性有機ガス中における揮発性有機化合物の濃度が所定濃度より高くなったとき(又は排出路4から排出した揮発性有機ガス中における揮発性有機化合物の濃度が所定濃度に一致したとき)に揮発性有機ガスの通過方向を切り換える。排出路4から排出した揮発性有機ガス中における揮発性有機化合物の濃度は排出路4の下流側に設けられた濃度検出部(図示せず)により検出される。濃度検出部は例えば排出路4に連通する燃焼処理装置の触媒内に設けられた温度センサであり、この温度センサは揮発性有機化合物の燃焼処理によって決定する触媒の温度を検出する。触媒の温度が揮発性有機ガス中における揮発性有機化合物の濃度に応じて変化することを利用して、温度センサによって検出された触媒の温度から揮発性有機ガス中における揮発性有機化合物の濃度を検出する。なお所定濃度は、揮発性有機ガスの通過方向の切り換えに要する時間やその時間に排出路4から排出される揮発性有機ガスの量等に基づいて、排出路4から排出される揮発性有機ガス中における揮発性有機化合物の濃度が予め定めた目標濃度を超えないように設定される。ここで目標濃度は燃焼処理装置が揮発性有機ガスを燃焼処理できる揮発性有機ガス中における揮発性有機化合物の濃度の少なくとも上限以下である。
【0021】
通過方向切換え手段5は、戻し路6に配置された第1ポンプ部11(例えば真空ポンプ)と、濃度調節路12と、濃度調節路12を開閉する調節路開閉弁13と、連通路14と、連通路14に配置された第2ポンプ部15(例えばエアポンプ)と、連通路開閉弁16と、戻し路開閉弁17とを有する。第1ポンプ部11、調節路開閉弁13、第2ポンプ部15及び連通路開閉弁16は、供給路開閉弁9及び排出路開閉弁10と同様に制御部によって制御される。
【0022】
濃度調節路12は、戻し路6において第1ポンプ部11の配置箇所より上流側で連通すると共に、希釈エアを供給する希釈エア供給源(図示せず)に接続する。この濃度調節路12には調節路開閉弁13が配置され、その開度を調整して戻し路6への希釈エアの供給量を調整する。連通路14は、戻し路6における濃度調節路12との連通箇所より上流側に連通すると共に、その上流側で濃度調節路12に合流して希釈エア供給源に接続する。連通路14においては第2ポンプ部15より下流側に連通路開閉弁16が配置されている。戻し路開閉弁17は、戻し路6における濃度調節路12の連通箇所と連通路14の連通箇所との間に配置されている。
【0023】
揮発性有機ガスの通過方向を第1方向から第2方向に切り換える場合、戻し路開閉弁17は開弁し、調節路開閉弁13及び連通路開閉弁16は閉弁し、第1ポンプ部11が吸引動作することにより揮発性有機ガスを吸着層3、吸着層3から戻し路6の連通箇所までの供給路2の一部、戻し路6及び排出路4の順に通過させる。
【0024】
揮発性有機ガスの通過方向を第2方向から第1方向に切り換える場合には、戻し路開閉弁17及び調節路開閉弁13は閉弁し、連通路開閉弁16は開弁し、第2ポンプ部15が希釈ガス供給源から希釈ガスを戻し路6に送出する。この希釈ガスは、戻し路6内を通過する揮発性有機ガスを吸着層3へと押圧する。この希釈ガスの押圧により揮発性有機ガスを戻し路6、戻し路6の連通箇所から吸着層3までの供給路2の一部、吸着層3、排出路4の順に通過させる。
【0025】
本実施形態では通過方向切換え手段5は希釈ガス供給手段7として機能する。すなわち供給路2に希釈ガスを供給する場合には、揮発性有機ガスの通過方向を第2方向から第1方向に切り換える場合と同様に、戻し路開閉弁17及び調節路開閉弁13は閉弁し、連通路開閉弁16は開弁した状態で、第2ポンプ部15が希釈ガス供給源から希釈ガスを戻し路6に送出することにより、希釈ガス供給源からの希釈ガスが戻し路6を介して供給路2に供給される。また排出路4に希釈ガスを供給する場合には、戻し路開閉弁17は閉弁し、調節路開閉弁13は開弁し、連通路開閉弁16は閉弁した状態で、第1ポンプ部11が吸引動作することにより希釈ガス供給源からの希釈ガスが戻し路6を介して排出路4に供給される。なお希釈ガス供給手段7は通過方向切換え手段5とは独立した構成にしてもよく、供給路2及び排出路4に新たに希釈ガス用に供給路2を連通させ、それら供給路2を介して希釈ガス供給源から希釈ガスを供給するようにしてもよい。
【0026】
迂回路8には閉弁状態の迂回路開閉弁18が設けられ、揮発性有機ガス格納容器からの揮発性有機ガス中における揮発性有機化合物の濃度が所定濃度より低くなったときに迂回路開閉弁18を開弁させ、揮発性有機ガスを迂回路8に通過させる。このとき供給路開閉弁9は閉弁されている。揮発性有機ガスを迂回路8に通過させることで供給路2の途中から吸着層3を迂回して排出路4に通過させる。揮発性有機ガス格納容器からの揮発性有機ガス中における揮発性有機化合物の濃度は揮発性有機ガス格納容器からの供給が始まってからその濃度が所定濃度になるまでの時間を予め計測し、その時間に迂回路開閉弁18を開弁させてもよい。また、供給路2における迂回路8の連通箇所より上流側に濃度センサを配置し、所定濃度より低い揮発性有機ガス中における揮発性有機化合物の濃度を濃度検出部が検出すると迂回路開閉弁18を開弁させるようにしてもよい。なお迂回路開閉弁18は供給路開閉弁9及び排出路開閉弁10と同様に制御部によって制御される。
【0027】
以下、上記濃度希釈装置1を使用する本発明の濃度希釈方法の一例を説明する。
まず揮発性有機ガス格納容器からの揮発性有機ガスを第1方向で吸着層3に供給する。すなわち揮発性有機ガスを供給路2を介して吸着層3に供給する。揮発性有機ガス中における揮発性有機化合物は吸着層3が備える吸着材に吸着し、吸着層3を通過した揮発性有機ガス中における揮発性有機化合物の濃度が低減する。この場合、供給路開閉弁9及び排出路開閉弁10は開弁し、戻し路開閉弁17、連通路開閉弁16及び迂回路開閉弁18は少なくとも閉弁している。
【0028】
図2は揮発性有機ガス中における揮発性有機化合物の濃度が時間的に変化する状況を簡略的に示したグラフ図であり、縦軸に揮発性有機ガス中における揮発性有機化合物の濃度を示し、横軸に時間tを示す。実線は排出路4から排出された揮発性有機ガス中における揮発性有機化合物の濃度Dを示す。
【0029】
揮発性有機ガスを吸着層3に通過させる初期状態においては、揮発性有機化合物は吸着層3に備えた吸着材の供給路2側に吸着する。その後、さらに揮発性有機ガスを吸着層3に通過させ続けると、新たに吸着層3を通過しようとする揮発性有機ガスにより供給路2側の吸着材に吸着していた揮発性有機化合物の一部がその吸着材から脱離する。次いで、脱離した揮発性有機化合物が吸着層3内において排出路4側に移動して再び吸着材に吸着する。以後、揮発性有機ガスを吸着層3に通過させ続けると、吸着層3内の吸着材において揮発性有機化合物の一部が排出路4側(すなわち第1方向)に移動していき、時間tにおいて吸着層3から排出し始める。このため図2に示されるように時間tにおいて濃度Dが逓増し始め、さらに揮発性有機ガスを吸着層3に通過させ続けると、濃度Dは所定濃度Dtに至る。ここで所定濃度Dtは、揮発性有機ガスの通過方向の切り換えに要する時間やその時間に排出路から排出される揮発性有機ガスの量等に基づいて、排出路から排出される揮発性有機ガス中における揮発性有機化合物の濃度が予め定めた目標濃度を超えないように設定されている。目標濃度は、燃焼処理装置が揮発性有機ガスを燃焼処理できる揮発性有機ガス中における揮発性有機化合物の濃度の少なくとも上限以下である。
【0030】
濃度Dが所定濃度Dtより高くなったときには、通過方向切換え手段5により吸着層3を通過する揮発性有機ガスの通過方向を第1方向から第2方向に切り換える(図2の時間t)。この切り換え時には供給路開閉弁9及び排出路開閉弁10は閉弁されている。その後、濃度Dは所定濃度Dtより低くなる。
【0031】
通過方向が第2方向に切り換えられた揮発性有機ガスは排出路4から吸着層3を通過し、次いで、吸着層3から戻し路6の連通箇所までの供給路2の一部、戻し路6を順に通過して排出路4に至る。この場合、通過方向切換え手段5においては、戻し路開閉弁17は開弁し、連通路開閉弁16及び調節路開閉弁13は閉弁し、第1ポンプ部11により揮発性有機ガスを第2方向に吸引動作している。なお第1ポンプ部11により揮発性有機ガスを吸引し続けると、排出路4から吸着層3を介して戻し路6までの区間が負圧になって揮発性有機ガスが第2方向で通過し難くなる。この負圧を解消するために、通過方向切換え手段5においては、一時的に、戻し路開閉弁17を閉弁し、連通路開閉弁16を開弁して第2ポンプ部15により希釈エアを戻し路6を介して吸着層3及び排出路4までの区間に供給するようにしている。
【0032】
なお通過方向切換え手段5により吸着層3を通過する揮発性有機ガスの通過方向を最初に切り換えた後は供給路開閉弁9が閉弁するので、揮発性有機ガス格納容器から新たに供給された揮発性有機ガスが吸着層3に通過することはない。このため揮発性有機ガスの通過方向を最初に切り換える時には、揮発性有機ガス格納容器からの新たな揮発性有機ガスを吸着層3に通過させないまま迂回路8を介して燃焼処理装置に排出して燃焼処理できることが処理効率の点から望ましい。そのためには、新たに供給される揮発性有機ガス中における揮発性有機化合物の濃度が所定濃度Dtより低くなる時間まで、濃度Dが所定濃度Dtより高くなる時間を延長する必要がある。本濃度希釈方法では、希釈ガス供給手段7により供給路2及び排出路4の少なくとも一方に希釈ガスを供給し、濃度Dが最初に所定濃度Dtより高くなる時間を延長する(例えば図2においては時間tを時間t’にする)。
【0033】
その後、時間tから濃度Dが再び増え始める時間tまでの間、吸着層3に第2方向で通過しようとする揮発性有機ガスにより吸着層3内の排出路4側の吸着材に吸着していた揮発性有機化合物の一部が脱離して、より供給路2側に移動しては再び吸着する。この脱離・吸着を繰り返すことで揮発性有機化合物の一部が吸着層3内の吸着材において排出路4側から供給路2側へと移動していく。そして時間tにおいて吸着していた揮発性有機化合物の一部が吸着層3内の吸着材の供給路2側から排出し始める。このため図2に示されるように時間tにおいて濃度Dが増加し始め、さらに揮発性有機ガスを吸着層3に第2方向で通過させ続けると、時間tにおいて濃度Dは所定濃度Dtに至る。
【0034】
濃度Dが所定濃度Dtより高くなったときには、通過方向切換え手段5により吸着層3を通過する揮発性有機ガスの通過方向を第2方向から第1方向に切り換える。この切り換えと共に、排出路開閉弁10は開弁する。通過方向が第1方向に切り換えられた揮発性有機ガスは供給路2から吸着層3を通過して排出路4に至る。この場合、通過方向切換え手段5においては、戻し路開閉弁17は閉弁し、連通路開閉弁16は開弁し、調節路開閉弁13は閉弁し、第2ポンプ部15により希釈ガスを戻し路6に供給して、その希釈ガスによって揮発性有機ガスを第1方向で吸着層3に通過させる。以後、濃度Dが所定濃度Dtより高くなる毎に通過方向切換え手段5により吸着層3を通過する揮発性有機ガスの通過方向を切り換える。
【0035】
ここで図2に示されるように揮発性有機ガスの通過方向を(例えば時間t及びtに)切り換えた直後から急に濃度Dが減少している。本濃度希釈方法による処理量は揮発性有機ガス中における揮発性有機化合物の濃度とその揮発性有機ガスの流量との積算値によって決まるので、揮発性有機ガスの通過方向切り換え時の上記濃度Dの減少は上記処理量を低減させることになる。これに対しては、希釈ガス供給手段7により供給路2及び排出路4の少なくとも一方に希釈ガスを供給することで揮発性有機ガスの移動を促進させて濃度Dを減少を抑制することができる(図2においては時間t’以降の一点鎖線を参照)。
【0036】
なお本実施形態では濃度希釈装置1が有する単数の吸着層3を用いて濃度希釈方法を説明してきたが、本発明はこれに限定されず、図3に示されるような二つの吸着層3を同時に用いてもよい。各吸着層3を同時に用いる以外は上記濃度希釈方法に変更はないが、吸着層3が複数であることに伴って濃度希釈装置1Aは図1の濃度希釈装置1とは以下の点において構成が異なる。すなわち供給路2は途中から分岐した各分岐供給路2aを有し、それら各分岐供給路2aが各吸着層3に連通する。各分岐供給路2aには各供給路開閉弁9がそれぞれ配置されている。排出路4は各吸着層3に連通する各分岐排出路4aと、各分岐排出路4aが合流して形成した合流排出路4bとから構成される。各分岐排出路4aには各排出路開閉弁10が配置されている。戻し路6は各分岐供給路2aに連通する各分岐戻し路6aと、各分岐戻し路6aが合流し、かつ合流排出路4bに連通する合流戻し路6bとから構成される。各分岐戻し路6aには戻し路開閉弁17がそれぞれ設けられ、第1ポンプ部11が合流戻し路6bに配置される。連通路14は第2ポンプ部15より下流側で分岐した分岐連通路14aを有し、各分岐連通路14aは各分岐戻し路6aに連通している。各分岐連通路14aには連通路開閉弁16がそれぞれ配置されている。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】本発明の揮発性有機ガスの濃度希釈方法が使用する濃度希釈装置の一例を簡略的に示す模式図である。
【図2】揮発性有機ガス中における揮発性有機化合物の濃度が時間的に変化する状況を簡略的に示したグラフ図である。
【図3】二つの吸着層を備えた濃度希釈装置の簡略的な構成図である。
【符号の説明】
【0038】
1…濃度希釈装置
2…供給路
3…吸着層
4…排出路
5…通過方向切換え手段
6…戻し路
7…希釈ガス供給手段
8…迂回路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
揮発性有機ガスに含まれる揮発性有機化合物を吸着する吸着材を備えた吸着層に前記揮発性有機ガスを通過させ、前記揮発性有機化合物の濃度を希釈する揮発性有機ガスの濃度希釈方法であって、
前記揮発性有機ガスを前記吸着層に第1方向で通過させる第1方向通過ステップと、
前記第1方向に対して逆方向である第2方向で前記揮発性有機ガスを前記吸着層に通過させる第2方向通過ステップとを備え、
前記第1方向通過ステップと前記第2方向通過ステップとで少なくとも一回前記揮発性有機ガスを前記吸着層に通過させる、揮発性有機ガスの濃度希釈方法。
【請求項2】
前記吸着層を前記第1方向で通過した前記揮発性有機ガス中における前記揮発性有機化合物の濃度を検出する第1方向検出ステップと、
前記吸着層を前記第2方向で通過した前記揮発性有機ガス中における前記揮発性有機化合物の濃度を検出する第2方向検出ステップと、
前記第1方向検出ステップにより検出された前記揮発性有機ガス中における前記揮発性有機化合物の濃度が所定濃度より高いときに、前記第1方向通過ステップから前記第2方向通過ステップに切換える第1切換えステップと、
前記第2方向検出ステップにより検出された前記揮発性有機ガス中における前記揮発性有機化合物の濃度が所定濃度より高いときに、前記第2方向通過ステップから前記第1方向通過ステップに切換える第2切換えステップとを含む、請求項1に記載の揮発性有機ガスの濃度希釈方法。
【請求項3】
前記吸着層を通過する前の揮発性有機ガス中における揮発性有機化合物の濃度が所定濃度より低い場合に、前記吸着層を通過する前の揮発性有機ガスを前記吸着層から迂回させる迂回ステップと、をさらに含む、請求項1又は請求項2に記載の揮発性有機ガスの濃度希釈方法。
【請求項4】
前記第1方向通過ステップの前、前記第1方向通過ステップの後、前記第2方向通過ステップの前、前記第2方向通過ステップの後のうち少なくともいずれかの箇所で前記揮発性有機ガスに希釈ガスを供給する、請求項1〜3のいずれかに記載の揮発性有機ガスの濃度希釈方法。
【請求項5】
前記吸着層は複数の吸着層から構成され、
前記第1方向通過ステップにおいては前記揮発性有機ガスを前記各吸着層に前記第1方向で通過させ、
前記第2方向通過ステップにおいては前記第2方向で前記揮発性有機ガスを前記各吸着層に通過させる、請求項1〜4に記載の揮発性有機ガスの濃度希釈方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2008−183533(P2008−183533A)
【公開日】平成20年8月14日(2008.8.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−20993(P2007−20993)
【出願日】平成19年1月31日(2007.1.31)
【出願人】(000114363)ムラキ株式会社 (11)
【Fターム(参考)】