説明

揮発性材料を持続放出するためのポリマー組成物

エーテル基を含む少なくとも1つのモノマーとエーテル基を含まない少なくとも1つのモノマーとから得られるコポリマー、相溶性可塑剤及び揮発性材料を含むポリマー組成物は、揮発性材料の持続供給を長時間にわたって提供することができる。これに加えて、揮発性材料が揮発性の異なるいくつかの構成成分で形成された組成物である場合、本発明の組成物は、揮発性材料の全ての構成成分の均一な放出も提供することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エーテル基を含む少なくとも1つのモノマーとエーテル基を含まない少なくとも1つのモノマーから得られるコポリマーをベースとする揮発性材料(例えば、香料)を組み込んで持続的に放出することが可能な、可塑化ポリマー組成物に関する。特に、前記揮発性材料が揮発性の異なるいくつかの構成成分で形成された組成物である場合、本発明の組成物は、前記揮発性材料の全ての構成成分を長時間にわたって均一に放出させることができる。揮発性の異なる多数の構成成分から典型的に構成された香料の場合、本発明は、構成成分の異なる揮発性に基づくそれらの分離を避けて、香料の特徴全てを長時間持続供給させることができる。本発明の組成物は、空気清浄装置、防臭剤、香りの良い物体、殺虫剤などのように、揮発性材料を環境に長期にわたって供給することが望まれる様々な用途を見出すことができる。
【背景技術】
【0002】
揮発性成分を吸収及び放出することができるポリマー組成物は、当該分野では特に香料の供給に関して周知である。
【0003】
GB1558960(ナガエ(Nagae))には、傘に用いられる、香料放射PVCフィルムが記載されている。
【0004】
US4618629(T・バーネット社(T.Burnett & Co,Inc))には、粒子状芳香剤−運搬樹脂が中に組み込まれた、芳香剤放射ポリウレタンフォームが記載されている。前記樹脂は、ポリマー類のリスト(ポリオレフィン類、ポリエステル、PVC及び類似物、ポリアミド類、セルロースポリマー類)から選択され得る。
【0005】
香料供給のためのポリマー組成物の通常の利用には、例えば、空気清浄装置が含まれる。これらは、典型的には、GB2286531(ケルコ(Kelco))やUS3969280(ジョンソン・アンド・ジョンソン(Johnson & Johnson))に記載されているもののように架橋多糖類ポリマー類(デンプン類、アルギネート類又はCMC)から通常得られる水性ゲルの形態である。
【0006】
前記及びその他の文献は揮発性材料の長持ちする供給を提供することを主張しているが、これらは多くの理由から、依然として決して十分に満足いくものではない。
【0007】
第一に、これらポリマー組成物は、殆どの場合は前記組成物の総重量の10%を超えない、非常に限定された量の揮発性材料しか通常は組み込んで放出することができない。
【0008】
第二に、これらポリマー組成物は、前記揮発性材料の異なる揮発性を有する様々な構成成分を均一に放出することはできない。例えば、10個を超える様々な構成成分を有し得る香料を考えると、より揮発性の高い構成成分が最初に放出され、少ししてから揮発性のより低い特徴のみが知覚されるため、使用者が香料の特徴全てを感知することはない。実際に、上述のポリマー組成物は、一般には、現代の香料産業に次第に望まれつつあるより高度な香料を単純に一貫して供給することができないため、典型的にはシトロネロールのように単一の揮発性物質から成る単純な香料類を供給するのに使用される。
【0009】
第三には、純粋なポリマー組成物は、変形し難く、しかも一般には成形するのに高温を要する。そのため、揮発性材料を溶融物に導入するときはいつも、大量の前記材料が高温のために失われる。
【0010】
第一及び第二の問題は、フィルメニッヒ(Firmenich)によりUS4734278で一部検討されており、前記特許には、揮発性活性物質(香料類、防臭剤類、殺虫剤類など)の持続放出を提供する、ブロックポリエーテル−アミド系樹脂(例えば、ペバックス(Pebax)(商標))の成形された本体が記載されている。アトケム(Atochem)によって改良が得られており、そのアトケムのPCT国際公開特許WO9726020A1には、ペバックス(Pebax)(商標)+複合香料(すなわち、5構成成分を超えるもの)で製造された改良された芳香性樹脂が記載されている。このような樹脂は、長期にわたって、揮発性成分の分離が低減された複合香料を供給することができる。
【0011】
第三の問題は可塑剤の使用によって一部分は解決されており、この可塑剤は、当業者に周知のように、ポリマー混合物の加工温度を低下させることができる。この解決策は、例えば、US4552693(エイボン(Avon))で適用されており、前記特許には、熱可塑性ポリアミド樹脂、スルホンアミド可塑剤を含む可塑剤/溶媒系、及び芳香剤を含む組成物から得られた芳香剤放射性の透明な物品が記載されている。これらの組成物において可塑剤を使用する利点は、前記組成物を比較的低温で加工(成形、押出し、フィルム化)する可能性である。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
しかしながら、従来技術の組成物は、最初の瞬間により大量の揮発性材料を放出して、経時的にその放射速度が低下する傾向がまだあるため、依然として十分に満足するものではない。また、前記の従来技術の組成物は、これより以前の組成物に比べると改良されてはいるが、揮発性材料の揮発性の異なる様々な構成成分を依然として均一に放出しない。そのため、揮発性の異なるいくつかの成分から構成された揮発性材料を組み込んで、放出中に前記成分が分離することなく長時間持続的に放出することができ、並びに容易に加工して物品に形成することも可能なポリマー材料が依然として必要である。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明は、
a)エーテル基を含む少なくとも1つのモノマーとエーテル基を含まない少なくとも1つのモノマーとから得られるコポリマー、
b)相溶性可塑剤、
c)揮発性材料
を含むポリマー組成物に関する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
驚くことに、a)エーテル基を含む少なくとも1つのモノマーとエーテル基を含まない少なくとも1つのモノマーとから得られるコポリマー、b)相溶性可塑剤及びc)揮発性材料を含む組成物は、従来技術の解決策と比べると、前記揮発性材料をより持続した様式で長時間、すなわち、より一定の放出速度で、またより長い期間、放出する能力を有することが分かった。
【0015】
本発明のポリマー組成物によってもたらされるもう1つの驚くべき利点は、前記揮発性材料が揮発性の異なるいくつかの構成成分で構成されている場合に、本発明の組成物が揮発性材料の全ての構成成分を、構成成分の異なる揮発性に基づくそれらの分離を避けて、長時間にわたってより均一に放出させることができることである。このことは、例えば、以下に報告する実施例6から分かる。
【0016】
本発明のポリマー組成物によってもたらされる別の非常に重要な利点は、はるかに広範な揮発性材料の導入の可能性である。
【0017】
従来技術の解決策には、ポリエーテル−ポリアミドブロックコポリマー類又は純粋なポリアミドポリマー類のような特定のポリマーをベースとするポリマー組成物が記載されていた。結果として、揮発性材料の選択は前記の特定のポリマーと溶解又は相溶できる成分に限られていた。
【0018】
驚くことに、本発明によるポリマー組成物は、エーテル基を含む少なくとも1つのモノマーとエーテル基を含まない少なくとも1つのモノマーとから得られるコポリマー及び相溶性可塑剤を含んでおり、同様の純粋なコポリマーよりも広い極性範囲の更に多数の揮発性材料を組み込んで有効に供給できることが分かった。
【0019】
従来技術とは異なって、本発明の組成物は、配合者が全てのコポリマーの中からエーテル基を含む少なくとも1つのモノマーとエーテル基を含まない少なくとも1つのモノマーとから得られる前記コポリマーを選択することができ、更に可塑剤も極性及び特性の異なる広範囲の好適な材料の中から選択できることから、供給され得る揮発性材料の組成の点から見るとはるかに柔軟性が高い。以下で詳細に説明するように、多数の添加物も前記配合に導入することができる。可塑化ポリマーマトリックス(コポリマー、可塑剤、任意に他のポリマー類又は添加物類)に対するこのような配合の柔軟性によって、その極性特徴を非常に正確に調整することが可能である。このことは、前記可塑化ポリマーマトリックスへ導入されることができるいかなる揮発性材料との相溶性をも最大限にすることができ、このように本発明によるポリマー組成物を得る。いかなる理論にも束縛されるものではないが、可塑化ポリマーマトリックスと揮発性材料との間でのある程度の極性の適合は、揮発性材料を上手く組み込んで持続供給を提供するために必要であると考えられる。
【0020】
従って、本発明のポリマー組成物のコポリマー及び相溶性可塑剤は、前記可塑化ポリマーマトリックスの極性が前記揮発性材料の極性と実質的に適合するように選択され得、それらの極性は当該分野で周知の方法のうちの1つで評価できる。
【0021】
エーテル基を含む少なくとも1つのモノマーとエーテル基を含まない少なくとも1つのモノマーとから得られる全てのコポリマー類が本発明に適している。
【0022】
「エーテル基を含むモノマー」という用語には、少なくとも1個の酸素原子が、別の酸素原子と結合していない2個の異なる炭素原子に結合しているモノマー全てが含まれ、例えば、エチレンオキシド、プロピレンオキシド及びテトラメチレンオキシドなどのような環式エポキシド構造中に酸素原子を含むものが挙げられる。「エーテル基を含むモノマー」という用語には、分子内にエーテル基を含み且つそれ以上に重合される可能性のある分子類、オリゴマー類又はポリマー類も含まれる。
【0023】
ほとんどの場合、前記コポリマー類は、ポリエーテル基及び非ポリエーテル基を含む。このようなコポリマー類は、ブロックコポリマーと非ブロックコポリマーの両方であり得、またポリマー構造上にポリエーテル基をグラフト化することによって形成されたコポリマー類、側鎖内又は架橋内に前記ポリエーテル基を含むコポリマー類、及びエーテルモノマー類を非エーテルモノマー類とランダムに共重合したコポリマー類も本発明に好適なコポリマー類である。エーテル基を含む少なくとも1つのモノマーとエーテル基を含まない少なくとも1つのモノマーとから得られる好ましいコポリマー類のうち、本発明に好適なものは、例えば、ポリエーテルアミドコポリマー類、ポリエーテルエステルコポリマー類、ポリエーテルウレタン類、スルホン化ポリエーテルエステルコポリマー類、ポリエーテルエステルアミドコポリマー類、ポリエーテルアクリレート類と他のアクリル性モノマー類/オリゴマー類との重合によって形成されるコポリマー類などである。
【0024】
ポリエーテル基が存在する場合、好ましいポリエーテル基は、2個を超える炭素原子を含有するモノマー類を有するものであり、より好ましくは、3個を超える炭素原子を含有するモノマー類を有するものである。最も好ましいポリエーテル含有基は、ポリプロピレングリコールであり、更により好ましくはポリテトラメチレングリコールである。
【0025】
本発明に好適なコポリマーにおけるエーテル基を含むモノマー類は、前記コポリマーの総重量の少なくとも5%、好ましくは少なくとも10%、より好ましくは少なくとも15%に相当する。
【0026】
本発明において好ましいコポリマー類は、ポリ−エーテル−アミドブロックコポリマー類(例えば、ペバックス(Pebax)(商標))、ポリ−エーテル−エステル−アミドブロックコポリマー類、ポリエーテルポリエステルブロックコポリマー類(例えば、ハイトレル(Hytrel)(商標))、ポリエーテルブロックを含有するポリウレタンコポリマー類(例えば、エスタン(Estane)(商標))又はこれらの混合物である。この種類の様々なコポリマー類のうち、好ましいのは、上述のように好ましいポリエーテル基を有するものである。従って、最も好ましいコポリマー類は、ポリエーテル基がポリプロピレングリコール又はポリテトラメチレングリコールであるものである。
【0027】
本発明のポリマー組成物のポリマーマトリックスにおける第2の必須成分は、エーテル基を含む少なくとも1つのモノマーとエーテル基を含まない少なくとも1つのモノマーとから得られるコポリマーと相溶する可塑剤である。
【0028】
本発明によるポリマー組成物で使用するのに好適な可塑剤類としては、クエン酸エステル類、低分子量ポリエステル類、ポリエーテル類、液体ロジンエステル類、芳香族スルホンアミド類、フタレート類、ベンゾエート類、スクロースエステル類、多官能性アルコールの誘導体類(ここで、多官能性とは2個以上のヒドロキシル基を有することを意味する)、アジぺート類、タータレート類、セバケート類、リン酸、脂肪酸及び二塩基酸のエステル類、脂肪族アルコール類及びジオール類、エポキシ化植物油類など、並びにこれらの混合物が挙げられる。既に上述したように、異なる相溶性可塑剤の異なる極性(当業者に既知のいかなる方法でも測定可能なもの、例えば水/オクタノール分配係数)は、揮発性材料の極性とのより良好な適合性を提供するためにポリマーマトリックスの極性を調整するのに使用できる。
【0029】
本発明の第3の必須成分は、本発明の組成物に組み込まれた後、本発明の組成物によって持続的に供給される揮発性材料である。
【0030】
本発明で使用できる揮発性材料は、例えば、フレーバー類、防臭剤類、殺虫剤類、フェロモン類、芳香類、防虫剤類、及び最も有利には、香料類である。
【0031】
本発明によってもたらされる利点は、揮発性材料が香料である場合に特に関連がある。香料類は、典型的に、揮発性の異なる多数の構成成分から構成される。本発明は、構成成分の異なる揮発性に基づくそれらの分離を避けて、香料の香り全てを長時間持続供給することが可能である。本発明の好ましい実施形態では、揮発性材料は、好ましくは複数の構成成分、より好ましくは5つを超える構成成分から構成される香料である。
【0032】
本明細書で使用するとき、香料という用語は、いかなる発香性物質をも意味する。一般的には、かかる材料は、室温において大気圧よりも低い蒸気圧で特徴付けられる。本明細書で使用される香料類は、ほとんどの場合、室温で液体であるが、当技術分野で既知の様々な樟脳系香料類のように固体であることもできる。アルデヒド類、ケトン類、エステル類、アルコール類及びテルペン類などの材料を含む多種多様な化学物質が、香料製造業での使用で知られている。様々な化学構成成分の複雑な混合物を含む天然起源の植物油及び動物油並び滲出物は香料としての使用で知られており、このような材料を本明細書で使用することができる。本明細書において、香料類は、それらの組成が比較的単純であり得るか、又は天然及び合成の化学構成成分の極めて高度で複雑な混合物を含むことができ、全てがいずれかの所望の香りをもたらすように選択される。
【0033】
本発明で使用できる典型的な香料類は、例えば、ビャクダン油、シベット及びパチョリ油などのような特殊材料を含有する木質/土壌質の基剤を含む。他の好適な香料類は、例えば淡い、花の芳香剤類、例えば、バラ抽出物、スミレ抽出物などである。香料類は、例えば、ライム、レモン及びオレンジなどのような所望の果実の香りを提供するように配合することもできる。
【0034】
要するに、心地よい香り又は他の望ましい香りを発するいかなる化学的に相溶する材料も、本発明において香料として使用することができる。
【0035】
香料物質類は、S・アークタンダー(S.Arctander)、香料フレーバー類及び化学物質類(Perfume Flavors and Chemicals.)、第I巻及び第II巻、アーサー(Aurthor)、ニュージャージー州モントクレア(Montclair,N.J.)及びメルク・インデックス(Merck Index)、第8版、メルク社(Merck & Co.,Inc.)、ニュージャージー州ローウェー(Rahway,N.J.)に、より十分に記載されている。
【0036】
好ましくは、本発明の揮発性材料は、前記揮発性材料を構成する化学物質が可塑化ポリマーマトリックス中に化学的に溶解するのを妨げない形態でポリマー組成物中に導入される。特に、非揮発性の種(例えば、副香料類(pro-perfumes))に共有結合された揮発性の種を含む、カプセル封入された揮発性材料及び化学物質は望ましくなく、好ましくは、本発明による揮発性材料としての本明細書での使用から除外される。いかなる理論にも束縛されるものではないが、本発明のポリマー組成物の有利な特性は、揮発性材料の放出が揮発性材料と可塑化ポリマーマトリックスとの間での分子レベルの相互作用と関係があることから、揮発性材料が可塑化ポリマーマトリックス中に可溶化されたときに見ることができると考えられる。従って、揮発性材料がポリマーマトリックスと分子レベルで混合するのを妨げるカプセル封入のような方式は、本発明における揮発性材料としての使用には好ましくはなく、好ましくは除外される。
【0037】
好ましくは、本発明のポリマー組成物は、前記ポリマー組成物の5重量%〜75重量%、より好ましくは10重量%〜50重量%の、エーテル基を含む少なくとも1つのモノマーとエーテル基を含まない少なくとも1つのモノマーとから得られるコポリマー、前記ポリマー組成物の5重量%〜60重量%、好ましくは10重量%〜40重量%の好適な可塑剤又は可塑剤類のブレンド、及び10%を超え、好ましくは20%を超え、より好ましくは30%を超える揮発性材料を含み、前記揮発性材料は、好ましくは前記ポリマー組成物の最大90重量%まで含まれる。
【0038】
本発明のポリマー組成物は、組成物の加工性、及びこのようなポリマー組成物から形成される物体の機械的特質、並びに粘着性、光、酸素及び熱によるエージングに対する耐性、目に見える外観などの、他の特質も更に改善するために、追加の任意成分を更に含んでもよい。
【0039】
このような任意成分には、配合物に含まれてその特性を向上させる(例えば、基材との接着性又は適合性を高める)ことができる他のコポリマー類が含まれる。この目的のために、好ましい任意のコポリマー類は、極性基と非極性基との両方を特徴とするものであって、例えば以下のものが挙げられる:エチレンと少なくとも1つの他のビニルもしくはアクリル性モノマーとのコポリマー類、スチレンと少なくとも1つの他のビニルもしくはアクリル性モノマーとのコポリマー類、ポリ(ビニルアルコール)のコポリマー類、ポリアミド類、ポリ(ビニルピロリドン)のコポリマー類、ポリアクリレート類、ポリビニルエーテルのコポリマー類)、アイオノマー類、ポリエステルアミドコポリマー類など。
【0040】
本発明のポリマー組成物は、好ましくは熱可塑性ポリマー組成物である。これらは、熱可塑性ポリマー組成物を製造するためのいかなる既知の方法を用いて製造することもでき、典型的には、前記ポリマーを溶融する工程と、その後可塑剤と揮発性材料とをブレンドして均質な塊を形成する工程とを含み、次いで前記塊を冷却すると本発明によるポリマー組成物が得られる。熱可塑性組成物の中でも好ましいのは、溶解温度と粘度とが低く、そのためにホットメルトとして加工することができるものである。これらの方式では、ブレンド時の揮発性材料の損失は最小限に抑えられる。
【0041】
本発明によるポリマー組成物が熱可塑性組成物であって、好ましくはホットメルトレオロジーを有する場合に好ましく使用され得る他の任意成分は、ロジン誘導体類、脂肪族樹脂類、芳香族樹脂類又は混合された脂肪族−芳香族樹脂のような粘着付与樹脂である。そこで、前記組成物は、揮発性材料を放出する能力に加えて、ホットメルト接着剤の特徴も有するように配合することができる。他のポリマー類又はコポリマー類、充填剤類、架橋剤類、顔料類、染料類、酸化防止剤類及び他の安定化剤などのような更なる任意成分を添加して前記組成物に所望の特性を与えることもできる。
【0042】
本発明のポリマー組成物は、中間工程又は最終工程のどちらかにおいて、ポリマー溶液を用いて調製されてもよい。この種の調製は当業者には周知であり、典型的には、選択されたポリマー、可塑剤及び揮発性材料を有効な溶媒に溶解する工程、並びに必要ならば加熱して溶液又はゲルを調整する工程を含む。前記溶媒は、その後、蒸発によって除去することができる。
【0043】
あるいは、本発明のポリマー組成物は、水性エマルション又は分散液の形態で調製することができる。
【0044】
ポリマー類の水性エマルション又は分散液を得る技術は当業者には周知である。例えば、選択されたポリマー、可塑剤及び揮発性材料を熱可塑性材料として一緒にブレンドすることができる。得られた溶融物はその後、好ましくはその融点を超える温度において、混合することによって水に分散することができる。当業者に既知の界面活性剤及び/又は安定化系を用いて、得られたエマルション又は分散液を安定化することができる。
【0045】
別の方法としては、前もって形成された水性ポリマー分散液又はエマルションを選択された可塑剤及び揮発性材料とブレンドすることができる。これは、成分をポリマー分散液もしくはエマルションに直接添加することによって、又は香料及び可塑剤の水性分散液を形成して、これをポリマー分散液もしくはエマルションとブレンドすることによって行うことができる。どちらの手順も、本発明によるポリマー組成物の水性分散液の形成をもたらす。
【0046】
本発明によるポリマー組成物は、揮発性材料の放出が望まれる場合いつでも、様々な用途を有してよい。例えば、前記ポリマー組成物は、空気清浄装置(室内清浄剤類、車内清浄剤類、トイレ用のリムブロック類など)、瓶類、箱類、袋類などのような包装内の芳香を放つヘッドスペース供給、洗浄/乾燥システム(タンブラー乾燥機類、食器洗浄機類、ドライクリーニングシステムなど)、洗濯洗剤類、衣類仕上げ剤、在宅ケア製品類、パーソナルケア製品類(防臭剤類、制汗剤類、シャンプー類、コンディショナー類、化粧品類、皮膚保湿剤類、メークアップ類など)、香りの良い芳香剤類、香りの良いコーティング類、フィルム類、ラミネート類、衛生物品類(女性用ケアパッド類、パンティライナー類、おむつ類、靴の中敷き類など)、香りの良いインク類、香りの良い3次元物体類、消毒剤類供給、殺虫剤類供給、防虫剤類供給、フレーバー供給などに使用することができる。
【実施例】
【0047】
(実施例1)
ペバックス(Pebax)(商標)2533(アトフィナ(Atofina)(フランス)から入手可能なポリエーテルアミドコポリマー)24.5部、フォラリン(Foralyn)(商標)5020F(イーストマン・ケミカル(Eastman Chemical)から入手可能なロジンエステル系可塑剤)12.5部及びイルガノックス(Irganox)(商標)B225(チバ・ガイギー(Ciba Geigy)(スイス)から入手可能な酸化防止剤)0.5部をシグマブレードミキサーに入れて、ポリマーの融点よりも約10〜20℃高い温度まで加熱した(ペバックス(Pebax)(商標)2533の場合、約160℃)。前記成分を、均質な塊が得られるまで混合した。次に、温度を、混合物がまだ溶融している程度、典型的には前記混合物の融点よりも約10〜20℃高いところまで下げた(この場合は約120℃)。12.5部のフォラリン(Foralyn)5020Fを、γ−メチルイオノン(インターナショナル・フレーバーズ・アンド・フレグランシーズ(International Flavors & Fragrances)から入手可能な香料物質)25部とブレンドし、このブレンドを可塑化ポリマー混合物に添加した。これらの成分を均質な混合物が得られるまで混合し、その後、得られた材料をミキサーから取り出し、香りを放つブロックとして形成して、室温まで冷却した。
【0048】
以下の全ての実施例でも同じ調製手順に従ったが、特に、いずれの場合も、可塑剤の総量の50%を最初の工程でポリマー及び他の添加物とブレンドし、その後、可塑剤の総量の残りの50%を第2の工程で揮発性材料(例えば、香料)と混合し、次いでこれら2つのブレンドを第3の工程で混合する。
【0049】
(実施例2)
実施例1で述べた手順に従って、以下の可塑化ポリマー組成物を調製した。
【0050】
【表1】

【0051】
ベンジルアセテートは、シグマ・アルドリッチ(Sigma Aldrich)から入手可能な香料物質である。
【0052】
(実施例3)
実施例1で述べた手順に従って、以下の可塑化ポリマー組成物を調製した。
【0053】
【表2】

【0054】
エスタン(Estane)(商標)58280は、ノベオン(Noveon)から入手可能なポリエーテルウレタンである。ジプロピレングリコールジベンゾエートは、ベルシコール(Velsicol)からベンゾフレックス(Benzoflex)(商標)988という商標名で入手可能なベンゾエート系可塑剤である。シス−3−ヘキセニルサリチレートは、インターナショナル・フレーバーズ・アンド・フレグランシーズ(International Flavors & Fragrances)から入手可能な香料物質である。
【0055】
(実施例4)
実施例1で述べた手順に従って、以下の可塑化ポリマー組成物を調製した。
【0056】
【表3】

【0057】
スプリング・フレッシュ(Spring Fresh)は、ジボダン(Givaudan)(フランス)から入手可能な香料ブレンドである。
【0058】
(実施例5)
15部のベンジルアセテートをアセチルトリブチルシトレート(ユングブンズラウアー(Jungbunzlauer)(スイス)からシトロフォル(Citrofol)(商標)BIIという商標名で入手可能なシトレート系可塑剤)15部とブレンドした。次いで、この液体を70部の脱イオン水に加え、その後、イカ・ヴェルケ(Ika Werke)(ドイツ)から入手可能なウルトラ・トゥラックス(Ultra Turrax)T50ベーシックミキサーを用いて高剪断攪拌に付した。不透明な白色分散液(固形分30%)が得られた。次に、これを、ロルフレックス(Rolflex)(商標)C89(チェサルピーニャ(Cesalpinia)(イタリア)から入手可能なポリエーテルウレタンの固形分30%の水分散液)100部に加えた。前記混合物を24時間攪拌させて、以下の組成(重量%)を有する可塑化ポリマー分散液を得た。
【0059】
【表4】

【0060】
(実施例6)
純粋な香料物質(すなわち、1つの揮発性構成成分のみを含む単一香料)を含む6つのポリマー組成物を調製した。配合物B、D及びFは、本発明に準じて、実施例1に述べた方法に従って調製した。配合物A、C及びEは、従来技術に基づいており(可塑剤を含まない純粋なポリマー)、ポリマーを約160℃に加熱して、均質な混合物が得られるまで香料を徐々に加え、その後、混合物を室温まで冷却した。使用された純粋な香料の原材料は、シグマ・アルドリッチ(Sigma Aldrich)から入手可能なD−リモネン、ジボダン(Givaudan)から入手可能なシス−3−ヘキセニルアセテート、及びフィルメニッヒ(Firmenich)から入手可能なメチルジヒドロジャスモネートであった。表2に、前記の3つの純粋な香料物質に関する物理的データを示すが、D−リモネン及びシス−3−ヘキセニルアセテートは、香料材料にしては比較的低い沸点を有し、当該業界ではより揮発性の香料成分と認識されており、メチルジヒドロジャスモネートは、より高い沸点を有し、揮発性のより低い成分と認識されている。
【0061】
様々な配合物の経時的な重量損失を熱重量分析(TGA)で測定した。用いた装置はTA−ウォーターズ(TA-Waters)製TGA Q500であった。るつぼ上に一定の窒素流量を適用した(平衡状態なし)。次の条件を使用した。
【0062】
・ サイクル時間:360分
・ 温度:37℃
・ るつぼ:アルミナ、直径4.55mm、高さ3.9mm
各試料において、360分後の重量損失を測定した。これは、配合物中に存在する唯一の揮発性材料である香料の蒸発として考えられる。その結果を表1に示す。
【0063】
【表5】

【0064】
熱重量分析結果は、同様の純粋なポリマーと比較した場合に、いかに本発明によるポリマー組成物が揮発性香料成分のより緩慢でそのためにより長持ちする放出を提供するかを表している。実施例はまた、本発明による組成物に組み込まれた場合に、いかに揮発性のより低い香料成分の放出が低減されないかも表している。その結果、揮発性香料成分と非揮発性香料成分との放出速度の差は、香料が本発明によるポリマー組成物に組み込まれた場合、はるかに小さい。揮発性の異なる多数の成分から構成される複合香料を考えた場合に、この事実が、完全な香料特徴の、より長持ちし且つより良好な供給をもたらすことが熟練者には明白である。
【0065】
【表6】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
a)エーテル基を含む少なくとも1つのモノマーとエーテル基を含まない少なくとも1つのモノマーとから得られるコポリマー、
b)相溶性可塑剤、及び
c)揮発性材料
を含むポリマー組成物。
【請求項2】
前記コポリマーが、ポリエーテル基及び非ポリエーテル基を含む、請求項1に記載のポリマー組成物。
【請求項3】
前記コポリマーがブロックコポリマーであり、少なくとも1つのポリエーテルブロック及び少なくとも1つの非ポリエーテルブロックを含む、請求項2に記載のポリマー組成物。
【請求項4】
前記コポリマー中に含まれる前記ポリエーテル基又はブロックが、ポリテトラメチレングリコール基又はブロックである、請求項2又は3に記載のポリマー組成物。
【請求項5】
前記コポリマーが、前記ポリマー組成物の5重量%〜75重量%、好ましくは10重量%〜50重量%であり、前記相溶性可塑剤が、前記ポリマー組成物の5重量%〜60重量%、好ましくは10重量%〜40重量%であり、前記揮発性材料が、前記組成物の総重量の10%を超え、好ましくは20%を超え、より好ましくは30%を超える、請求項1〜4のいずれか1項に記載のポリマー組成物。
【請求項6】
前記揮発性材料が、前記組成物の総重量の90%未満である、請求項5に記載のポリマー組成物。
【請求項7】
前記揮発性材料が香料である、請求項1〜6のいずれか1項に記載のポリマー組成物。
【請求項8】
前記香料が、アルデヒド、ケトン、アルコール、テルペン又はエステルを含む、請求項7に記載のポリマー組成物。
【請求項9】
エーテル基を含む前記モノマーが、前記コポリマーの総重量の少なくとも5%、好ましくは少なくとも10%、より好ましくは少なくとも15%に相当する、請求項1〜8のいずれか1項に記載のポリマー組成物。
【請求項10】
前記コポリマーが、ポリエーテルアミドコポリマー類、ポリエーテルエステルコポリマー類、ポリエーテルウレタン類、スルホン化ポリエーテルエステルコポリマー類、ポリエーテルエステルアミドコポリマー類、ポリエーテルアクリレート類と他のアクリル性モノマー類/オリゴマー類との重合によって形成されるコポリマー類から選択される、請求項1〜9のいずれか1項に記載のポリマー組成物。
【請求項11】
前記相溶性可塑剤が、クエン酸エステル類、低分子量ポリエステル類、ポリエーテル類、ロジンエステル類、芳香族スルホンアミド類、フタレート類、ベンゾエート類、スクロースエステル類、多官能性アルコール類の誘導体、アジペート類、タータレート類、セバケート類、リン酸、脂肪酸及び二塩基酸のエステル類、脂肪族アルコール類及びジオール類、エポキシ化植物油類並びにこれらの混合物から成る群より選択される、請求項1〜10のいずれか1項に記載のポリマー組成物。


【公表番号】特表2007−510805(P2007−510805A)
【公表日】平成19年4月26日(2007.4.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−539852(P2006−539852)
【出願日】平成16年11月12日(2004.11.12)
【国際出願番号】PCT/US2004/037630
【国際公開番号】WO2005/049717
【国際公開日】平成17年6月2日(2005.6.2)
【出願人】(590005058)ザ プロクター アンド ギャンブル カンパニー (2,280)
【Fターム(参考)】