説明

揮発物測定装置

【課題】本発明は、試験槽の気密性を確保することができ、正確にVOCを測定することができる揮発物測定装置を提供することを課題とする。
【解決手段】本発明は、気体を外部から試験槽10に導入して再び排出し、試験槽10内の試料からの揮発物の測定ができる揮発物測定装置1であって、試験槽10は、開口10fを有する本体部10cと、この開口10fを開閉する開閉扉10aと、本体部10c側に配される本体側密着部および開閉扉10a側に配される扉側密着部からなる環状の密着手段12とを備え、本体側密着部および扉側密着部のいずれか一方は、環状の突状の押付部材16であり、他方は、板状の被押付部材17であり、開閉扉10aが閉状態において押付部材16の先端が被押付部材17に密着されて開口10fの気密性が確保されることを特徴とした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、揮発性の有機化合物等の揮発物を測定するための装置である揮発物測定装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、シックハウス症候群と呼ばれる化学物質による過敏症が問題となっている。これは、建築材料にホルムアルデヒド、トルエンなどの揮発性有機化合物(VOC)が使用されており、この揮発性有機化合物が住宅内に放出されていることが一因とされている。
【0003】
このため、建材などに、揮発性有機化合物がどのくらい含まれているかを調査しておくことが行われている。また、建材以外にも自動車の内装品や家具などに用いられる素材でも揮発性有機化合物の調査が行われている。
【0004】
このような揮発性有機化合物を測定することができる揮発物測定装置は、試料を試験槽に入れ、この試験槽に空気を所定の流量だけ流入・排出させ、この排出した空気中に含まれる揮発性有機化合物を測定することができる。例えば特許文献1に、このような揮発物測定装置が開示されている。
【0005】
揮発物測定装置には、試験槽の気密性を管理するため、試験槽の開閉部分に気密性を確保する密着手段が設けられている。従来の揮発物測定装置では、開閉部分にシリコーンゴムからなるパッキンが取り付けられ、パッキン同士を密着させることによって試験槽の気密性を確保していた。また特許文献1に記載されているように、試験後に試験槽を高温にしてVOCを除去することが行われている。
【特許文献1】特開2005−257588号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
シリコーンゴムは、耐熱性を有するがVOCを放散してしまうため、シリコーンゴムからなるパッキンを、揮発物測定装置の試験槽に用いるのは望ましいことではなかった。またパッキン同士を互いに密着させる構成では、試験槽が高温雰囲気に晒された場合にパッキン同士が接着して離れなくなってしまい、試験槽を開閉できなくなるおそれがあった。
【0007】
そこで本発明は、試験槽の気密性を確保することができ、正確にVOCを測定することができる揮発物測定装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するため、請求項1の発明は、気体を外部から試験槽に導入して再び排出し、試験槽内の試料からの揮発物の測定ができる揮発物測定装置であって、試験槽は、開口を有する本体部と、この開口を開閉する開閉扉と、本体部側に配される本体側密着部および開閉扉側に配される扉側密着部からなる環状の密着手段とを備え、本体側密着部および扉側密着部のいずれか一方は、環状の突状の押付部材であり、他方は、板状の被押付部材であり、開閉扉が閉状態において押付部材の先端が被押付部材に密着されて開口の気密性が確保されることを特徴とした。
【0009】
請求項1の揮発物測定装置は、突状の押付部材を、板状の被押付部材に密着させて開口の気密性を確保することができる。
【0010】
また請求項2の発明は、気体を外部から試験槽に導入して再び排出し、試験槽内の試料からの揮発物の測定ができる揮発物測定装置であって、試験槽は、開口を有する本体部と、本体部の開口を左開口および右開口に分割する中柱と、この開口を開閉する開閉扉を備え、開閉扉は、観音開き構造によって開口を開閉する左開閉扉および右開閉扉を有し、中柱は、開閉扉が閉状態で左開閉扉と右開閉扉との境界位置に配置され、開閉扉が開状態で移動させて開口の大きさを変更可能であり、本体部および中柱には板状の被押付部材が貼付され、被押付部材は、左右の開口のそれぞれの外周で環状となっており、左開閉扉および右開閉扉のそれぞれには、環状の突状の押付部材が取り付けられ、左右の開閉扉が閉状態において、押付部材が被押付部材に押し付けられて左右の開口の気密性が確保されることを特徴とした。
【0011】
請求項2の揮発物測定装置は、左開閉扉および右開閉扉に取り付けられた押付部材を、本体部および中柱に貼付された被押付部材に押し付けることにより開口の気密性を確保することができる。
【0012】
本請求項の揮発物測定装置は、左右二つの開閉扉によって開口が開閉されるため、一つの開閉扉によって開口が開閉される場合に比べて、開閉扉の大きさを小さくすることができる。また扉開閉に必要となる装置前面のスペースを小さくすることができるので、設置場所の選択肢を広げることができる。
【0013】
また開口の大きさは、中柱によって分割されるので小さくなる。しかし本請求項の揮発物測定装置は、中柱を移動させて開口の大きさを調整することができる。例えば、開口面に沿って中柱をスライド移動させて、左開口および右開口のいずれか一方の開口を拡大させてもよいし、中柱を取り外して、左開口と右開口とをつなげて一つの開口としてもよい。
【0014】
請求項3の発明は、請求項2の発明において、本体部に貼付される被押付部材と、中柱に貼付される被押付部材とが境界部分において重なり合うことを特徴とした。
【0015】
開閉扉が閉状態においては、本体部に貼付される被押付部材と、中柱に貼付される被押付部材とが重なり合う部分が押付部材によって押し付けられる。これにより本体部に貼付される被押付部材と、中柱に貼付される被押付部材との境界部分における気密性が確保され、開口全体の気密性も向上される。
【0016】
請求項4の発明は、請求項1〜3のいずれかの発明において、開閉扉は、三以上の回動可能な軸芯を有する蝶番によって本体部に開閉可能に取り付けられていることを特徴とした。
【0017】
これにより請求項4の揮発物測定装置は、開閉扉の開閉角度および位置に自由度を持たせることができる。そのため通常の蝶番によって開閉扉が取り付けられた場合と異なり、密着の際に開閉扉全体を本体部に対して略均一に押し付けることができる。
【0018】
請求項5の発明は、請求項1〜4のいずれかの発明において、開閉扉は、矩形であって、開閉扉の各辺および本体部の対応する位置に、開閉扉を本体部に対して押し付けて固定する留め具が取り付けられていることを特徴とした。
【0019】
これにより押付部材と被押付部材とをより密着させて、押し付け状態を維持することができる。また開閉扉の各辺および本体部の対応する位置に留め具が取り付けられていることから、環状の押付部材全体を被押付部材に対して略均一に密着させることができる。
【0020】
請求項6の発明は、請求項1〜5のいずれかの発明において、被押付部材の材質は、フッ素ゴムであることを特徴とした。
【0021】
フッ素ゴム製の被押付部材は、200℃以上の耐熱性を有するとともに一定の弾性を有し、従来の揮発物測定装置で用いられたシリコーン製パッキンに比べてVOCの放散が極めて少ない。そのため、請求項6の揮発物測定装置は、試料から放散されるVOCを正確に測定することができる。
【0022】
請求項7の発明は、請求項1〜6のいずれかの発明において、被押付部材の表面にフッ素樹脂膜が形成されることを特徴とした。
【0023】
これにより、試験槽が高温雰囲気に晒されても、押付部材の先端は、被押付部材に接着するおそれがない。また被押付部材同士が重なる部分があったとしても、被押付部材同士が接着するおそれがない。
【0024】
請求項8の発明は、請求項1〜7のいずれかの発明において、押付部材は、先端が折り曲げられていることを特徴とした。
【0025】
請求項8の揮発物測定装置は、押付部材の先端が折り曲げられて曲面状となっているので、押付部材が局所的に強く押し付けられることがなく、被押付部材が破損するのを防止することができる。
【発明の効果】
【0026】
本発明の揮発物測定装置は、試験槽の気密性を確保することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0027】
(第1実施形態)
本発明の第1実施形態における揮発物測定装置について図面を参照しながら詳細に説明する。図1は、本発明の第1実施形態における揮発物測定装置の斜視図である。図2は、本発明の第1実施形態におけるインナーチャンバーの斜視図である。図3は、本発明の第1実施形態における密着手段を示す断面図である。
なお、以下の説明では、特に断りのない限り上下の位置関係については、図1や図2に図示するような通常の設置状態を基準とする。また前後左右の位置関係については、開口が設けられた手前側を前方、奥側を後方、蝶番が取り付けられた側を左側、その逆側を右側とする。
【0028】
本発明の第1実施形態の揮発物測定装置1は、図1に示されている。
揮発物測定装置1には、インナーチャンバー10とアウターチャンバー11が設けられている。インナーチャンバー10及びアウターチャンバー11は、直方体状であって内部空間10e、11eが設けられている。
【0029】
インナーチャンバー10には、内部空間10eにつながる開口10fを有する本体部10cと、開口10fを封鎖できる開閉扉10aが設けられている。また、アウターチャンバー11には、内部空間11eにつながる開口11fを有する本体部11cと、開口11fを封鎖できる開閉扉11aが設けられている。
【0030】
インナーチャンバー10は、アウターチャンバー11よりも小さく、アウターチャンバー11の内部空間11eの中にインナーチャンバー10が収容されている。そして、開閉扉10a、11aは、図1に示されるように、同じ側に設けられ、アウターチャンバー11の開閉扉11aを開けることにより、開閉扉10aを開けることが出来る。
【0031】
本実施形態の揮発物測定装置1では、インナーチャンバー10が試験槽となり、アウターチャンバー11の空間11e内であってインナーチャンバー10の外側に形成される空間が、温度調整空間となる。インナーチャンバー10には、温度調整空間との熱伝導が可能な面が前後左右上下の6面全てに設けられている。
【0032】
インナーチャンバー10(試験槽)はステンレス製であって内部空間10eと温度調整空間との間での熱伝導を行うことができる。また、アウターチャンバー11は、図示しない断熱層を有しており、外部との熱伝導を小さくするような構造となっている。
【0033】
インナーチャンバー10には、外部から空気を導入する導入口(図示せず)、外部へ空気を排出する排出口(図示せず)が設けられている。また、温度調整空間には外部から空気を導入する導入口(図示せず)と、外部へ空気を排出する排出口(図示せず)が設けられている。
【0034】
そして、インナーチャンバー10は、開閉扉10aを閉じるとほぼ密閉されて、導入口から空気を導入して、排出口から排出させることができる。また、温度調整空間は、アウターチャンバー11の開閉扉11aを閉じるとほぼ密閉されて、導入口から空気を導入して、排出口から排出させることができる。
【0035】
試料からの揮発物の測定は、試料をインナーチャンバー10の中に入れて、インナーチャンバー10およびアウターチャンバー11の開閉扉10a,11aを閉じて行われる。試料がインナーチャンバー10に収納されると、温度調整空間の温度が制御され、温度調整空間とインナーチャンバー10との間を熱伝導させて、インナーチャンバー10内が所定の試験温度となるように制御される。
【0036】
そして、所定の湿度であって清浄な空気が、導入口からインナーチャンバー10内に所定の流量だけ導入される。導入された空気は、インナーチャンバー10内で試料から発生したホルムアルデヒドなどの揮発性有機化合物と混合されて排出口から排出される。排出された空気の一部は、捕集管に取り込まれ、揮発性有機化合物のサンプリングが行われる。
【0037】
試料からの揮発物の量の測定は、試験温度、試験湿度、時間当たりの空気の置換量(空気流量)、試験時間などを所定の条件に合わせて行われる。
【0038】
そして、試験の終了後に、別の試料の試験を行う場合には、インナーチャンバー10内に付着した揮発性有機化合物を除去するため、インナーチャンバー10内を付着物除去温度まで高温にして付着物の除去が行われる。
【0039】
図2や図3に示すように、インナーチャンバー10の開閉扉10aと本体部10cとの間には、環状の密着手段12が設けられている。密着手段12は、押付部材16と被押付部材17とを備えている。押付部材16は、本体部10c側に配される環状の突状であり、本体部10cの開口10fを囲む。被押付部材17は、開閉扉10a側に配される板状の部材である。すなわち本実施形態では、押付部材16が本体側密着部として機能し、被押付部材17が扉側密着部として機能する。
【0040】
図3に示すように、押付部材16は、ステンレス等の金属板がクランク状に折り曲げられ、端から順に突状部16a、開口面固定部16b、側面固定部16cが形成されている。このとき突状部16aと側面固定部16cとは略平行であり、開口面固定部16bは、突状部16aおよび側面固定部16cのそれぞれに対して垂直である。
突状部16aは、金属板が折り返されて二重になっている。また突状部16aの先端は、金属板が折り曲げられた部分であり、曲面状である。
【0041】
押付部材16は、ビス18又は溶接等によって本体部10cに取り付けられる。このとき開口面固定部16bは、本体部10cの開口10fの周囲に位置する開口面10bに沿って配置され、押付部材16の側面固定部16cは、本体部10cの上下左右の側面10dに沿って配置される。
【0042】
図2に示すように、被押付部材17は、開閉扉10aの本体部10c側の面23に沿って取り付けられる面状の板材であり、中央に孔を設けて環状に形成されている。そして被押付部材17は、本体部10cに取り付けられた環状の突状である押付部材16に対応する位置に配置されている。
【0043】
被押付部材17の材質としては、フッ素ゴム、例えばバイトン(登録商標)を用いることが望ましい。また被押付部材17の表面は、フッ素樹脂膜19が形成されている。例えばフッ素樹脂膜19の形成は、被押付部材17の表面に、テフロン(登録商標)製フィルムを貼着して形成することができる。また溶剤に溶かしたテフロン(登録商標)を被押付部材17に噴霧・塗布して、被押付部材17の表面にテフロン(登録商標)被膜を形成してもよい。
【0044】
図3に示すように、開閉扉10aの本体部10c側の面23には、所定の位置に保持部材20が取り付けられている。保持部材20によって、被押付部材17の固定が行われる。保持部材20は、金属板を二度折り曲げてクランク状に形成されており、端から順に固定部20a、溝底部20bおよび溝側壁部20cに大別される。
【0045】
保持部材20は、開閉扉10aの本体部10c側の面23に固定部20aを溶接して取り付けられる。このとき開閉扉10aの本体部10c側の面23、保持部材20の溝底部20bおよび溝側壁部20cによって嵌込溝21が形成される。嵌込溝21の幅、即ち開閉扉10aの本体部10c側の面23から、保持部材20の溝側壁部20cまでの長さは、被押付部材17の厚さと略同じである。嵌込溝21の開口は、開閉扉10aの外周に向けられている。
【0046】
図3に示すように、本実施形態の被押付部材17は、一方の端部が嵌込溝21に嵌め込まれ、他方の端部がビス22によって開閉扉10aに固定されている。
【0047】
図2に示すように、開閉扉10aは、上側蝶番25,下側蝶番26を用いて本体部10cに開閉可能に取り付けられている。上側蝶番25および下側蝶番26は、インナーチャンバー10の左側の側面に上下に並べて取り付けられている。本実施形態の蝶番25,26は、図4に示すように三つの回動可能な軸芯30,31,32を持つ蝶番である。
【0048】
上側蝶番25は、開閉扉10aに取り付けられる扉側羽根板27、本体部10cに取り付けられる本体側羽根板28、扉側軸芯30、中軸芯31、本体側軸芯32、第一連結部材35および第二連結部材36を備えている。扉側羽根板27と本体側羽根板28との間に、第一連結部材35および第二連結部材36が配置される。
【0049】
扉側羽根板27および本体側羽根板28を、所定の間隔で上下方向に、上方領域A、中央領域B、下方領域Cと仮想的に分割すると、扉側羽根板27の上方領域Aおよび下方領域Cには、上方軸筒部37および下方軸筒部38が設けられており、本体側羽根板28の中央領域Bには、中央軸筒部40が設けられている。
【0050】
扉側軸芯30は、上方軸筒部37、第二連結部材36および下方軸筒部38を貫通し、扉側羽根板27と第二連結部材36とを回動自在に連結する。このとき第二連結部材36は、中央領域Bに配置され、扉側羽根板27の上方軸筒部37と扉側羽根板27の下方軸筒部38との間に挟まれている。
【0051】
中軸芯31は、第一連結部材35と第二連結部材36とを貫通し、第一連結部材35と第二連結部材36とを回動自在に連結している。このとき第一連結部材35は、上方領域Aに配置されている。
【0052】
本体側軸芯32は、第一連結部材35と中央軸筒部40とを貫通し、第一連結部材35と本体側羽根板28とを回動自在に連結する。このとき第一連結部材35と後述する第一同期板51との間に、中央軸筒部40および第二連結部材36が位置している。
【0053】
また図5に示すように下側蝶番26は、上側蝶番25と上下に対称な構造である。下側蝶番26は、軸芯30’,31’,32’を有しており、これらは、それぞれ上側蝶番25の軸芯30,31,32と同軸上にある。
【0054】
図5および図6に示すように、上側蝶番25および下側蝶番26は、同期手段50によって一体化されており、同一の動きをする。本実施形態において同期手段50は、第一同期板51と第二同期板52とを備えている。
【0055】
第一同期板51は、上側蝶番25と下側蝶番26とに挟まれて、本体部10c側に配置される細長い板材である。第一同期板51の上端部および下端部のそれぞれには、長手方向に伸びる軸穴53〜56が設けられている。そして第一同期板51の上端部の軸穴53,54に、上側蝶番25の本体側軸芯32および中軸芯31が挿入され、下端部の軸穴55,56に、下側蝶番26の本体側軸芯32’および中軸芯31’が挿入される。これにより上側蝶番25の本体側軸芯32および中軸芯31と、下側蝶番26の本体側軸芯32’および中軸芯31’とが、第一同期板51によって一体化される。
【0056】
また第二同期板52も第一同期板51と同様に細長い板材であり、上端部が、上側蝶番25の第二連結部材36に固定され、下端部が下側蝶番26の第二連結部材36’に固定されている。これにより上側蝶番25の第二連結部材36と、下側蝶番25の第二連結部材36’とが第二同期板52によって一体化される。
【0057】
すなわち同期手段50は、上側蝶番25の軸芯30,31,32と、下側蝶番26の軸芯30’,31’,32’のそれぞれがずれないように、上側蝶番25と下側蝶番26とを同期させることができる。
【0058】
図2に示すように、本実施形態のインナーチャンバー10には、本体部10cに対する扉10aの移動を制限する案内板60および突起65が取り付けられている。案内板60は、断面「コ」字状であって、開閉扉10a側に配置される直線部61と、本体部10c側に配置される曲線部62とからなる。本実施形態の案内板60は、曲線部62が円弧状に形成されており、円弧の中心が閉状態における蝶番25,26の中軸芯31の位置とほぼ一致している。
【0059】
案内板60の中央には、直線部61から曲線部62にかけて案内孔63が設けられている。そして案内板60の直線部61側の端部は、扉10aの上面の所定位置に固定されている。また本体部10cの上面の所定位置には、突起65が取り付けられており、案内板60の案内孔63にこの突起65が嵌入される。
【0060】
図2や図3に示すように、インナーチャンバー10の上下左右それぞれの面には、所定の位置に留め具66が複数取り付けられている。留め具66は、係合部67と被係合部68とからなり、係合部67を移動させて被係合部68と係合させ、係合部67を元の位置に戻すことによって両者を連結させることができる。本実施形態のインナーチャンバー10においては、開閉扉10aに留め具66の係合部67が取り付けられ、本体部10cに被係合部68が取り付けられている。なお、留め具66は、公知のものを採用することができる。
【0061】
本実施形態の揮発物測定装置1は、蝶番25,26を用いて本体部10cに対して開閉扉10aを回動させることによりインナーチャンバー10を開閉させることができる。
【0062】
従来のインナーチャンバー10のように蝶番の軸芯が一つだけであると開閉扉10aを本体部10cに均一に押し付けることが困難であり、蝶番側が強く押し付けられ、反対側の押し付けが不十分となる。そのため、このような蝶番を本実施形態のインナーチャンバー10に適用すると、被押付部材17が変形または破損したり、密着が不十分となる懸念があった。
【0063】
しかし本実施形態のインナーチャンバー10は、図7に示すように扉側軸芯30、中軸芯31および本体側軸芯32の三つの軸芯を有する蝶番25,26を用いて開閉扉10aが本体部10cに取り付けられている。これにより開閉扉10aの開閉角度および位置に自由度を持たせることができる。そのため軸芯が一つだけの蝶番によって開閉扉10aが取り付けられた場合と異なり、密着の際に開閉扉10a全体を本体部に対して略均一に押し付けることができる。
【0064】
また本実施形態のインナーチャンバー10には、図7に示すように案内板60および突起65が取り付けられている。開閉扉10aを本体部10c側に移動させると、案内孔63内に嵌入された突起65に沿って案内板60を移動させ、開閉扉10aの移動を制限させることができる。これにより開閉扉10aを本体部10cの所定の位置に配置でき、自動的に左右方向の位置合わせをさせることができる。
【0065】
本実施形態の案内板60は、開閉扉10a側が直線状の直線部61になっており、この直線部61は、開閉扉10aの本体部10c側の面に対して略垂直に交差している。そのため本実施形態のインナーチャンバー10は、押付部材16の先端が被押付部材17に接触し始めると、開閉扉10aを本体部10cの開口面10bに対して略垂直に平行移動させることができる。
【0066】
本実施形態のインナーチャンバー10は、所定の位置に留め具66が取り付けられており、開閉扉10aに取り付けられた係合部67を、本体部10cに取り付けられた被係合部68と連結させることによって所定の位置に配置された開閉扉10aを、本体部10cに対して押し付けて固定することができる。これにより押付部材16の突状部16aが被押付部材17に押し付けられて、開閉扉10aと本体部10cとの間の気密状態を維持する。また本実施形態のインナーチャンバー10は、上下左右それぞれの面に留め具が取り付けられているので、環状の押付部材16全体を被押付部材17に対して略均一に押し付けて密着させることができる。
【0067】
本実施形態のインナーチャンバー10において、被押付部材17に押し付けられる押付部材16の突状部16aは、先端が折り曲げられて曲面状になっている。これにより押付部材16が局所的に強く押し付けられることがなく、被押付部材17が破損するのを防止することができる。
【0068】
本実施形態の揮発物測定装置1は、被押付部材17の材質にフッ素ゴムであるバイトン(登録商標)を用いている。バイトン製の被押付部材17は、200℃以上の耐熱性を有するとともに一定の弾性を有し、従来の揮発物測定装置で用いられたシリコーン製パッキンに比べてVOCの放散が極めて少ない。そのため、本実施形態の揮発物測定装置1は、被押付部材17によってVOCの測定が影響を受けることはほとんどなく、試料から放散されるVOCを正確に測定することができる。
【0069】
また本実施形態の被押付部材17の表面には、フッ素樹脂膜19が形成されている。これによりインナーチャンバー10が高温雰囲気に晒されても、押付部材16の先端は、被押付部材17に接着されない。またフッ素樹脂膜19は、薄い膜状であり、押付部材16が押し付けられると被押付部材17とともに変形して気密性が確保される。
【0070】
上記実施形態では、押付部材16が本体部10cに取り付けれ、被押付部材17が開閉扉10aに取り付けられたが、本発明はこのような構成に限定されるわけではない。逆に押付部材16を開閉扉10aに取り付け、被押付部材17を本体部10cに取り付ける構成にしてもよい。
【0071】
上記実施形態では、案内板60の直線部61を開閉扉10a側に配置し、案内板60の案内孔63に嵌入される突起65を本体部10cに取り付けたが、本発明は、このような構成に限られるわけではない。例えば上記構成とは逆に、案内板60の直線部61を本体部10c側に配置し、突起65を開閉扉10aに取り付けてもよい。
【0072】
また上記実施形態において、案内板60は、インナーチャンバー10の上面に取り付けられたが、案内板60を取り付ける位置は、インナーチャンバー10の下面であってもよい。また上記実施形態において、案内板60の曲線部62は、円弧状に形成されたが、本発明はこのような形状に限定されるわけではない。例えば曲線部62の形状を楕円弧状に形成してもよい。
【0073】
上記実施形態において、押付部材16は、突状部16aの先端が折り曲げられて曲面状に構成されたが、本発明はこのような構成に限られるわけではない。押付部材16は、突状部16aを被押付部材17に密着させて気密性を確保することができればよく、例えば突状部16aは、先端を折り曲げない板状の構成であってもよく、先端断面を「V」字状に折り曲げて構成してもよい。
【0074】
(第2実施形態)
次に、第2実施形態について説明する。なお、本実施形態では、第1実施形態と同一部分については同一符号を付して詳しい説明を省略し、異なる部分についてのみ説明する。
第2実施形態の揮発物測定装置71も、第1実施形態の揮発物測定装置1と同様に、インナーチャンバー72とアウターチャンバー11とを備えている。そしてインナーチャンバー72はアウターチャンバー11の中に収容され、インナーチャンバー72の内側の空間72eが試験槽となり、アウターチャンバー11の内側であってインナーチャンバー72の外側である空間が温度調整空間となる。
【0075】
本実施形態の揮発物測定装置71は、第1実施形態の揮発物測定装置1に比べて試験槽の容積が大きく、大型の試料についてもVOCを測定することができる。
図8は、本実施形態におけるインナーチャンバー72の斜視図である。本実施形態のインナーチャンバー72は、本体部72c、左開閉扉73および右開閉扉75を備える。本体部72cは、内部空間72eにつながる開口72fを有する。開口72fは、長方形状であり、縦の長さは一定である。またこの開口72fを封鎖できる左開閉扉73、右開閉扉75は、観音開き構造になっている。
【0076】
また本実施形態のインナーチャンバー72は、可動式の中柱77を備えている。開閉扉が閉状態において、中柱77は、左開閉扉73と右開閉扉75との境界部分に配置され、本体部72cの開口72fを左開口80および右開口81に分割している。
【0077】
インナーチャンバー72の上下の内壁には、左右に伸びるレール82,83が開口72f近傍の所定位置に敷設されており、中柱77が上下のレール82,83間にスライド可能に取り付けられている。このとき中柱77の前面77aは、本体部72cの開口面72bと略面一になっている。
【0078】
本実施形態のインナーチャンバー72は、第1実施形態のインナーチャンバー10とは逆に、押付部材87が開閉扉73,75側に取り付けられ、被押付部材17が本体部72c側に取り付けられている。本実施形態の被押付部材17は、左開口80および右開口81のそれぞれの外周で環状になっている。被押付部材17は、本体部72cの開口面72bに沿って、開口72fを取り囲むように取り付けられる本体被押付部材85と、中柱77の前面77aに取り付けられる中柱被押付部材86とを備えている。
【0079】
図9に示すように、中柱被押付部材86の上端部および下端部は、本体被押付部材85の開口72f側の上下の端部と重なり合っている。なお図9においては、図面を見やすくするために本体被押付部材85および中柱被押付部材86についてはハッチングを省略している。
【0080】
本実施形態の被押付部材17は、図9(a)に示すように、中柱被押付部材86の上端部および下端部に傾斜面86aが形成されており、本体被押付部材85の開口72f側の上下の端部に、中柱被押付部材86の傾斜面86aとは逆向きの傾斜面85aが形成されている。そして中柱被押付部材86の傾斜面86aと、本体被押付部材85の傾斜面85aとがそれぞれ重なり合うように配置される。
【0081】
図8に示すように押付部材87は、左右の開閉扉73,75の本体部72c側の面88,89に形成される環状の突状であり、開閉扉73,75を閉じた状態において、本体部72cおよび中柱77に取り付けられた被押付部材17と重なる部分に取り付けられる。
【0082】
本実施形態のインナーチャンバー72は、内壁に設けられたレール82,83の間に中柱77が配置され、中柱77を開口72fに沿って左右にスライド移動させることができる。中柱77を左右のいずれか一方に移動させることにより、中柱77によって分割された左開口80および右開口81のいずれか一方が拡大される。これにより本実施形態のインナーチャンバー72は、大型の試料についても試験槽への出し入れが可能である。
【0083】
また本実施形態のインナーチャンバー72は、本体部72cおよび中柱77に取り付けられた被押付部材17に、左右の開閉扉73,75に取り付けられた押付部材87を押し付けることにより試験槽の気密状態を確保することができる。このとき本体被押付部材85の傾斜面85aと中柱被押付部材86の傾斜面86aとが重なる部分については、押付部材87が押し付けられることで両者を密着させることができ、気密性が向上される。
【0084】
本実施形態の本体被押付部材85および中柱被押付部材86の表面には、フッ素樹脂膜19が形成されている。そのためインナーチャンバー72が高温雰囲気に晒されても、本体被押付部材85と中柱被押付部材86とが重なる部分で、被押付部材85,86同士が接着するのを防止することができる。
【0085】
上記実施形態において、本体被押付部材85の開口72f側の上下の端部、および中柱被押付部材86の上端部および下端部には、それぞれ傾斜面が形成されたが、本発明はこのような構成に限られるものではない。本発明は、本体被押付部材85と中柱被押付部材86との境界部分において、それぞれが互いに重なり合えばよい。例えば、図9(b)に示すように、それぞれの端部を段状の段部85b、86bに形成してもよい。
【0086】
上記実施形態のインナーチャンバー72は、中柱77を開口72fに沿って左右のいずれか一方にスライド移動させて、左開口80および右開口81のいずれか一方を拡大する構成であったが、本発明は、このような構成に限られるわけではない。例えば、中柱77を、インナーチャンバー72の本体部72cに対して着脱可能に取り付ける構成にしてもよい。この場合、中柱77は、開閉扉が閉状態において、左開閉扉73と右開閉扉75との境界部分に配置され、本体部72cの開口72fを左開口80と右開口81とに分割する。そして中柱77は、開閉扉が開状態において、本体部72cから取り外して移動させることができ、これにより左開口80と右開口81とをつなげて一つの大きな開口72fにすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0087】
【図1】本発明の第1実施形態における揮発物測定装置の斜視図である。
【図2】第1実施形態におけるインナーチャンバーの斜視図である。
【図3】第1実施形態における密着手段を示す断面図である。
【図4】第1実施形態における上側蝶番の斜視図である。
【図5】第1実施形態における上側蝶番、下側蝶番および同期手段を示す分解斜視図である。
【図6】第1実施形態における上側蝶番、下側蝶番および同期手段を示す斜視図である。
【図7】第1実施形態におけるインナーチャンバーの平面図である。
【図8】第2実施形態におけるインナーチャンバーの斜視図である。
【図9】(a)は、端部に傾斜面が形成された本体部被押付部材および中柱被押付部材の境界部分を示す断面図であり、(b)は、端部に段部が形成された本体部被押付部材および中柱被押付部材の境界部分を示す断面図である。
【符号の説明】
【0088】
1,71 揮発物測定装置
10,72 インナーチャンバー
10a,72a 開閉扉
10c,72c 本体部
12 密着手段
16,87 押付部材
17 被押付部材
25 上側蝶番
26 下側蝶番
66 留め具
77 中柱

【特許請求の範囲】
【請求項1】
気体を外部から試験槽に導入して再び排出し、試験槽内の試料からの揮発物の測定ができる揮発物測定装置であって、
試験槽は、開口を有する本体部と、
この開口を開閉する開閉扉と、
本体部側に配される本体側密着部および開閉扉側に配される扉側密着部からなる環状の密着手段とを備え、
本体側密着部および扉側密着部のいずれか一方は、環状の突状の押付部材であり、
他方は、板状の被押付部材であり、
開閉扉が閉状態において押付部材の先端が被押付部材に密着されて開口の気密性が確保されることを特徴とする揮発物測定装置。
【請求項2】
気体を外部から試験槽に導入して再び排出し、試験槽内の試料からの揮発物の測定ができる揮発物測定装置であって、
試験槽は、開口を有する本体部と、
本体部の開口を左開口および右開口に分割する中柱と、
この開口を開閉する開閉扉を備え、
開閉扉は、観音開き構造によって開口を開閉する左開閉扉および右開閉扉を有し、
中柱は、開閉扉が閉状態で左開閉扉と右開閉扉との境界位置に配置され、開閉扉が開状態で移動させて開口の大きさを変更可能であり、
本体部および中柱には板状の被押付部材が貼付され、
被押付部材は、左右の開口のそれぞれの外周で環状となっており、
左開閉扉および右開閉扉のそれぞれには、環状の突状の押付部材が取り付けられ、
左右の開閉扉が閉状態において、押付部材が被押付部材に押し付けられて左右の開口の気密性が確保されることを特徴とする揮発物測定装置。
【請求項3】
本体部に貼付される被押付部材と、中柱に貼付される被押付部材とが境界部分において重なり合うことを特徴とする請求項2に記載の揮発物測定装置。
【請求項4】
開閉扉は、三以上の回動可能な軸芯を有する蝶番によって本体部に開閉可能に取り付けられていることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の揮発物測定装置。
【請求項5】
開閉扉は、矩形であって、開閉扉の各辺および本体部の対応する位置に、開閉扉を本体部に対して押し付けて固定する留め具が取り付けられていることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の揮発物測定装置。
【請求項6】
被押付部材の材質は、フッ素ゴムであることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の揮発物測定装置。
【請求項7】
被押付部材の表面にフッ素樹脂膜が形成されることを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載の揮発物測定装置。
【請求項8】
押付部材は、先端が折り曲げられていることを特徴とする請求項1〜7のいずれかに記載の揮発物測定装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2009−36688(P2009−36688A)
【公開日】平成21年2月19日(2009.2.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−202498(P2007−202498)
【出願日】平成19年8月3日(2007.8.3)
【出願人】(000108797)エスペック株式会社 (282)
【Fターム(参考)】