説明

搬送チェーン用のスプロケット

【課題】搬送チェーン用のスプロケットにつき、その熱膨張に伴う熱変形を抑え、それに起因する不具合の発生を防止することとした新規な構造を提案する。
【解決手段】湯等が使用される高温環境下に配置される搬送チェーン用のスプロケット1であって、前記スプロケット1は、前記搬送チェーンの係合部に係合するための係合歯4を有する樹脂製歯車部材2と、前記樹脂製歯車部材2に対し同心の配置にて取り付けられ、前記樹脂製歯車部材2の素材よりも熱膨張係数の小さい素材からなる補強部材10と、を具備する、搬送チェーン用のスプロケット1とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フラットトップチェーン等の搬送チェーンについて用いられるスプロケットの構造に関し、より詳しくは、高温環境下で使用される樹脂製のスプロケットを補強するための技術に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、缶飲料の製造ライン等において、アルミ缶等を載置して連続的に配置しつつ搬送する、いわゆる、搬送チェーンと称されるコンベア装置が知られている。
【0003】
この搬送チェーンは、アルミ缶等を載置するために、コンベア幅方向において、所定の幅を有しており、この幅は、各製造工程において適宜設定されることとなっている。例えば、或る製造工程において、アルミ缶が一つずつ搬送されてくる必要がある場合には、一列のアルミ缶を搬送するために、アルミ缶の直径と略等しい幅を有する搬送チェーンが使用されることになる。また、加熱工程(缶に熱を与える工程)においては、高温の湯をアルミ缶に散布する等して、ゆっくりと熱を加える必要がある。このため、多くのアルミ缶をコンベア幅方向に配置できる幅の広い搬送チェーンを利用し、該搬送チェーンをゆっくりと搬送することとし、ライン全体として要求される搬送スピードを確保することとしている。
【0004】
図6に示す例では、前記加熱工程において、低温の飲料製品が充填された数多くのアルミ缶31・31・・・を搬送チェーン32にて搬送させることを示している。そして、搬送方向Fの複数箇所において、搬送チェーン32の上方には、高温の湯の撒布装置33・33・・・が設けられており、この撒布装置33・33・・・から撒布される湯(例えば、45℃〜50℃)により、缶全体としての温度を徐々に上昇させ、常温に近づけることとしている。そして、前記搬送チェーン32は、その搬送方向Fにおいて端の位置に配置されるスプロケット34・34にて駆動されることになっている。
【0005】
ここで、図6の構成において、搬送チェーン32には数多くの缶製品が載置されることになるため、この搬送チェーン32の駆動には、大きな駆動力を要することになり、この駆動力をスプロケット34・34から搬送チェーン32に確実に伝達させるためには、スプロケット34・34と搬送チェーン32とを確実に噛合させる必要がある。つまり、図7に示すごとく、スプロケット34の歯34a・34aと、搬送チェーン32の係合歯32a・32aとを確実に噛合させ、歯飛びが発生しないようにする必要があるのである。
【0006】
しかし、図6及び図7の構成において、前記スプロケット34・34の素材が、搬送チェーン32に対応して樹脂で構成される場合には、高温環境下における長期間の使用により、スプロケット34・34が熱膨張をしてしまうことが確認されている。このような場合、長期間連続して運転していると、歯飛びが発生する危険性が極めて高くなる。この歯飛びの発生の可能性は、上述したように、スプロケット34・34と搬送チェーン32の間に大きな駆動力がかかっていることから考えると、高くなるものと考えられる。
【0007】
そして、このような歯飛びが一たび発生すると、搬送チェーン32の駆動が不安定となる。そして、数多くの缶製品を同時に搬送していることから、この加熱工程の上流・下流工程において、缶製品のいわゆるジャム(詰まり)が発生し、他の製造工程にも大きな影響を与えることになる。また、スプロケット34・34の交換、復旧には、多大な時間を要することになり、生産効率の著しい低下をもたらすことになる。
【0008】
尚、特許文献1には、合成樹脂ピニオンの補強構造についての開示があるが、補強のための金属製の円盤を備える構成とするものであり、全体としての重量が大きくなることや、係合歯(ギア)の部位についての熱膨張に関する課題の記載や示唆はされていないものである。
【特許文献1】実公平7−39622号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、以上の問題点に鑑み、搬送チェーン用のスプロケットにつき、その熱膨張に伴う熱変形を抑え、それに起因する不具合の発生を防止することとした新規な構造を提案するものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の解決しようとする課題は以上の如くであり、次にこの課題を解決するための手段を説明する。
【0011】
即ち、請求項1に記載のごとく、
湯等が使用される高温環境下に配置される搬送チェーン用のスプロケットであって、
前記スプロケットは、
前記搬送チェーンの係合部に係合するための係合歯を有する樹脂製歯車部材と、
前記樹脂製歯車部材に対し同心の配置にて取り付けられ、前記樹脂製歯車部材の素材よりも熱膨張係数の小さい素材からなる補強部材と、
を具備する、搬送チェーン用のスプロケットとするものである。
【0012】
また、請求項2に記載のごとく、
前記補強部材は、リング状に構成されることとするものである。
【0013】
また、請求項3に記載のごとく、
前記補強部材は、前記樹脂製歯車部材の歯底円よりも歯先円側に配置される係合歯補強部を具備することとするものである。
【0014】
また、請求項4に記載のごとく、
前記樹脂製歯車部材の少なくとも一つの側面には、円周溝が構成され、
前記円周溝に、前記補強部材が収容される構成とするものである。
【発明の効果】
【0015】
本発明の効果として、以下に示すような効果を奏する。
【0016】
即ち、請求項1に記載の発明においては、スプロケット全体としての熱膨張係数が小さく構成されることにより、スプロケットの熱膨張に起因する歯飛びといった不具合の発生を防止できることになる。
【0017】
また、請求項2に記載の発明においては、スプロケットにおける重量バランスが良好となり、また、樹脂製歯車部材及び補強部材に作用する応力バランスが良好となる(応力集中が生じない等)。
【0018】
また、請求項3に記載の発明においては、係合歯の部位においても、熱膨張による変形を効果的に防止することが可能となる。
【0019】
また、請求項4に記載の発明においては、樹脂製歯車部材と補強部材との間での接触面積を向上させることができ、これにより、スプロケット全体としての剛性を向上することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
次に、発明の実施の形態を説明する。
本発明の実施形態は、
湯等が使用される高温環境下に配置される搬送チェーン用のスプロケットであって、
前記スプロケットは、
前記搬送チェーンの係合部に係合するための係合歯を有する樹脂製歯車部材と、
前記樹脂製歯車部材に対し同心の配置にて取り付けられ、前記樹脂製歯車部材の素材よりも熱膨張係数の小さい素材からなる補強部材と、を具備する、搬送チェーン用のスプロケットとするものである。
尚、本発明でいう「高温環境下」とは、樹脂製歯車部材が周囲の熱を受けることにより、常温の設計寸法(製品規格に準じる)と比較して拡大し、熱膨張を起こし得る温度の環境下のことをいい、具体的な温度の数値は、その素材等に応じて定義されるものである。
以下、各実施例について、図を用いて説明する。
【実施例1】
【0021】
図1に示すごとく、本実施例のスプロケット1は、樹脂製歯車部材2に補強部材10を一体的に固定して構成されている。前記樹脂製歯車部材2は、本実施例では、ポリアミドナイロン樹脂を素材とし、その熱膨張係数を5.1×10−5/℃としている。
【0022】
また、図1及び図2に示すごとく、前記樹脂製歯車部材2は、その中心に駆動軸を貫装するための軸取付孔3が設けられ、また、その外周面において円周方向に所定の間隔を空けて複数の係合歯4・4・・・が形成されることにより、全体として歯車形状が構成されることとしている。
【0023】
また、図2に示すごとく、前記補強部材10は、矩形断面を有するリング状に構成されている。また、本実施例では、その素材をステンレス304とし、その熱膨張係数を17.3×10−6/℃としている。この熱膨張係数は、前記樹脂製歯車部材2のものよりも小さく設定されている。また、湯が散布される環境下であるため、補強部材10はステンレスを素材とすることで、錆びが生じないようにしている。また、リング状に構成することで、スプロケット1における重量バランスが良好となり、また、樹脂製歯車部材2及び補強部材10に作用する応力バランスが良好となる(応力集中が生じない等)。
【0024】
また、図2及び図3に示すごとく、樹脂製歯車部材2において、その軸取付孔3の中心軸線と直交する平面を構成する二つの側面構成部5・5には、前記軸取付孔3と同心の円周方向に円周溝6・6が形成されることとしている。また、この円周溝6の溝幅W(図3参照)は、円周溝6に対し前記補強部材10が嵌合するように、補強部材10のリング幅Dの寸法と対応して設定されることとしている。また、このように円周溝6を形成して前記補強部材10を収容する構成とすることにより、樹脂製歯車部材2と補強部材10との間での接触面積を向上させることができ、これにより、スプロケット1全体としての剛性を向上することが可能となる。
【0025】
また、図2に示すごとく、前記円周溝6には、軸取付孔3の軸方向に剪截されるタップ7・7・・・が円周方向において複数個所に設けられている。同様に、前記補強部材10には、前記タップ7・7・・・と対応可能な位置に、貫通孔8・8・・・が複数個所に設けられている。そして、図3に示すごとく、前記タップ7の位置に貫通孔8を合わせつつ、前記円周溝6に補強部材10を嵌合させるとともに、前記貫通孔8を介して前記タップ7に固定ボルト9を螺挿することにより、樹脂製歯車部材2に対して補強部材10が固定されるようになっている。
【0026】
以上のようにして樹脂製歯車部材2に対して補強部材10が固定されて構成されるスプロケット1においては、熱膨張係数の小さい補強部材10の存在により、それよりも熱膨張係数の大きい樹脂製歯車部材2を単体で構成する場合と比較して、全体として熱膨張係数が小さく構成されることになる。そして、このように、スプロケット1全体としての熱膨張係数が小さく構成されることにより、スプロケット1の熱膨張に起因する歯飛びといった不具合の発生を防止できることになる。
【0027】
そして、高温の湯が散布される前記加熱工程や、さらに高温の湯を用いた湯殺菌の工程において、スプロケット1が適用される場合においても、その熱膨張による変形が防止されることにより、歯飛びの不具合、及び、それに起因するライン停止や、交換作業といった不具合の発生を防止することができる。また、熱膨張による変形が抑制されることから、部品の長寿命化を図ることが可能となり、結果としてコスト削減を図ることが可能となる。また、湯に限らず、薬液や潤滑油といった液体が使用されてスプロケット1が高温の環境下に配置される場合や、殺菌用の高温雰囲気環境下に配置される場合などにおいても、本実施例は適用可能であり、上述の効果を発揮することができる。
【0028】
また、以上の構成において、図2及び図3に示すごとく、例えば、軸取付孔3の中心から係合歯4までの距離と、その温度変化に対する変形量を基に規定されるスプロケット1の全体としての熱膨張係数については、前記樹脂製歯車部材2、及び、補強部材10の素材の選定によって設計することができる他、図3に示すごとく、前記円周溝6の溝幅Wとリング幅Dの選定や、前記円周溝6の溝深さMとリング厚Nの選定によっても設計することができ、これらの要素を適宜選定することによって、スプロケット1の全体としての所望の熱膨張係数を設計することが可能となる。また、前記樹脂製歯車部材2、及び、補強部材10の素材については、本実施例に限定されるものではなく、明細書中の記載から把握できる特性を呈する素材であれば、本発明を適用できるものである。
【実施例2】
【0029】
本実施例では、上述の実施例1に加え、さらに、樹脂製歯車部材の係合歯の部位における補強の向上を図った構成とするものである。
即ち、図4及び図5(a)(b)に示すごとく、前記補強部材10Aは、前記樹脂製歯車部材2Aの歯底円R1よりも、歯先円R2側に配置される係合歯補強部11・11・・・を具備する構成としている。この係合歯補強部11・11・・・によって、前記係合歯4を構成している部位における全体的な熱膨張係数の低下を図り、熱膨張による変形を防止することとするものである。
【0030】
具体的には、図4に示すごとく、補強部材10Aは、リング状のベース部12と、前記ベース部12から前記各係合歯4・4・・・の配置と対応する複数箇所において半径方向外側へ突出する形態で設けられ、前記樹脂製歯車部材2Aの中心軸方向にて望む正面視において、前記係合歯4の輪郭内に収まる略歯形状をなす係合歯補強部11・11・・・とを具備する構成としている。
【0031】
また、図4及び図5(a)(b)に示すごとく、前記係合歯補強部11・11・・・は、切削加工等にてベース部12と一体的に設けられることとしている。また、各係合歯補強部11は、正面視において、係合歯4の輪郭内に収まるようにしており、その形状を前記係合歯4を縮小させてなる歯形状としている。これにより、補強部材10A全体として、略歯車形状をなすようになっている。
【0032】
また、図5(b)に示すごとく、前記係合歯補強部11は、リング状のベース部12と略同一の厚みを有し正面視において前記係合歯4の輪郭内に収まる歯形状部11aと、該歯形状部11aから樹脂製歯車部材2Aの厚み方向中心に向かって突出される係合凸部11bとを具備する構成としている。この係合凸部11bは、前記係合歯補強部11の加工の際に同時に設けてもよく、また、別体の構造物を前記係合歯補強部11に固着することで構成することとしてもよい。図5(b)に示される例では、前記係合歯補強部11を厚み方向に延長することで係合凸部11bを形成することとし、前記歯形状部11aと係合凸部11bとが一体的に構成されるようになっている。
【0033】
また、図4及び図5(b)に示すごとく、樹脂製歯車部材2Aにおいては、実施例1と同様に、リング状のベース部12を収容して嵌合させるための円周溝6Aが形成されるとともに、該円周溝6Aから各歯先に向かって歯先部溝6B・6B・・・が形成されている。さらに、前記各歯先部溝6Bから、樹脂製歯車部材2の厚み方向に向かって歯先部深溝6C(図5(b))が形成される。ここで、前記歯先部溝6Bは、前記係合歯補強部11の歯形状部11aを嵌装すべく構成され、また、前記歯先部深溝6Cは、前記係合歯補強部11の係合凸部11bを嵌装すべく構成されている。
【0034】
以上のように構成することで、図5(a)に示すごとく、スプロケット1の係合歯4の部位において前記係合歯補強部11が存在し、これにより、係合歯4の部位における全体としての(係合歯4と係合歯補強部11を合わせたもの)熱膨張係数の低下を図ることが可能となり、これにより、係合歯4の部位においても、熱膨張による変形を効果的に防止することが可能となる。
【0035】
さらに、係合歯4の部位における熱膨張による変形が抑制されることにより、各係合歯4・4同士の間のピッチPを規定の値に維持することが可能となり、このことによって、歯飛びをさらに効果的に抑制できることとなる。
【産業上の利用可能性】
【0036】
本発明は、特に、温水が撒布される等の高温環境下において使用される樹脂製のスプロケットに対して適用可能である。例えば、飲料等の製造ラインにおいて、缶(アルミ缶、スチール缶等)、瓶、ペットボトル等を搬送において、加熱工程を実施する搬送チェーン用のスプロケットに適用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】本発明の実施例1に係るスプロケットの構成について示す斜視図。
【図2】同じく樹脂製歯車部材及び補強部材の構成について示す正面図。
【図3】同じく樹脂製歯車部材及び補強部材の構成について示す前面断面図。
【図4】本発明の実施例2に係るスプロケットを構成する樹脂製歯車部材及び補強部材の構成について示す図。
【図5】(a)は、同じく歯先の部位の正面一部拡大図。(b)は、同じく歯先の部位の前面一部拡大断面図。
【図6】従来の搬送チェーンによる缶製品の搬送について示す図。
【図7】従来の搬送チェーンの係合歯とスプロケットの係合歯との関係について示す図。
【符号の説明】
【0038】
1 スプロケット
2 樹脂製歯車部材
3 軸取付孔
4 係合歯
5 側面構成部
6 円周溝
7 タップ
8 貫通孔
9 固定ボルト
10 補強部材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
湯等が使用される高温環境下に配置される搬送チェーン用のスプロケットであって、
前記スプロケットは、
前記搬送チェーンの係合部に係合するための係合歯を有する樹脂製歯車部材と、
前記樹脂製歯車部材に対し同心の配置にて取り付けられ、前記樹脂製歯車部材の素材よりも熱膨張係数の小さい素材からなる補強部材と、
を具備する、搬送チェーン用のスプロケット。
【請求項2】
前記補強部材は、リング状に構成される、
ことを特徴とする、請求項1に記載の搬送チェーン用のスプロケット。
【請求項3】
前記補強部材は、前記樹脂製歯車部材の歯底円よりも歯先円側に配置される係合歯補強部を具備する、
ことを特徴とする、請求項1又は請求項2に記載の搬送チェーン用のスプロケット。
【請求項4】
前記樹脂製歯車部材の少なくとも一つの側面には、円周溝が構成され、
前記円周溝に、前記補強部材が収容される構成とする、
ことを特徴とする、請求項1乃至請求項3のいずれか一項に記載の搬送チェーン用のスプロケット。



【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2009−29607(P2009−29607A)
【公開日】平成21年2月12日(2009.2.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−198197(P2007−198197)
【出願日】平成19年7月30日(2007.7.30)
【出願人】(000000055)アサヒビール株式会社 (535)