説明

搬送パレット

【課題】ワークの積み込み性及び取り出し性に優れ、ワークの損傷を防止でき、且つ、汎用性の高い搬送パレットを提供する。
【解決手段】ワーク収容部50の開口寸法を可変とする。これにより、ワークWの積み込み時及び取り出し時には、ワーク収容部50の開口寸法を広げることで作業性が高められ、ワーク収容部50にワークWを積み込んだ後、ワーク収容部50の開口寸法を狭めてワークWを前後両側から保持することで、搬送時のワークWのがたつきが抑えられ、ワークWの損傷を防止できる。また、ワーク収容部50に収容可能な大きさであれば、ワークWの形状を問わず搬送パレット上に固定することができるため、積み込み可能なワークWの種類が増え、搬送パレットの汎用性が高められる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数のパネル状のワークを立てて並べた状態で搬送する搬送パレットに関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、自動車のフードパネル、フェンダパネル、フロントピラー、あるいはクォーターピラー等のパネル状のワークは、プレス加工を施した後、搬送パレットに積み込まれて次の工程に搬送される。
【0003】
例えば特許文献1に示されている搬送パレットは、底枠上面に形成されたV字溝でワークの下部を係合保持すると共に、ワークの一側縁を固定受部の凹部で、他側縁を可動受部の凹部で係合保持することにより、ワークをパレット上に固定している。具体的には、ワークの下部を底枠上面のV字溝に嵌め込むと共に、ワークの一側縁を固定受部の凹部に係合保持し、この状態で可動受部を動かし(可動受部が取付けられた揺動アームを揺動させて)、可動受部の凹部でワークの他側縁を係合保持することで、ワークをパレット上に固定している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2003−261144号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記の搬送パレットにおいて、固定受部及び可動受部に設けられる凹部の溝幅が狭すぎると、ワークの積み込み時にワークを凹部に係合保持させる作業が困難となると共に、ワークの取りだし時にワークが凹部との接触により損傷しないように慎重に作業する必要が生じるため、ワークの積み込み性及び取り出し性が低下する。特に、上記の搬送パレットでは、可動受部に設けた複数の凹部を各ワークの他側縁に同時に係合保持させるため、各ワークの他側縁のピッチを可動受部の凹部のピッチに一致させる困難な作業が必要となり、積み込み性が大きく低下する。一方、凹部の溝幅が広すぎると、搬送時の振動によりパネル状ワークががたつき、ワークに傷や変形が生じる恐れがある。
【0006】
また、上記の搬送パレットでは、底枠上面のV字溝及び固定受部の凹部でワークの下部及び一側縁を係合保持した状態で、ワークの他側縁が可動受部の可動範囲内にあれば、ワークをパレット上に固定することができるが、ワークの他側縁が可動受部の可動範囲を越えていればワークをパレット上で固定することができない。この場合、別途の搬送パレットを製作する必要が生じ、コスト高を招く。
【0007】
本発明の解決すべき課題は、ワークの積み込み性及び取り出し性に優れ、ワークの損傷を防止でき、且つ、汎用性の高い搬送パレットを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記課題を解決するために、本発明は、両端部を上方で保持されて中間部を下方に吊り下げられた複数のシート部と、前記シート部の吊り下げ部分で区画され、上方を開口した複数のワーク収容部とを備え、前記ワーク収容部にそれぞれパネル状のワークを立てて並べた状態で保持する搬送パレットであって、前記ワーク収容部の上方開口部の水平方向寸法を可変とし、前記ワーク収容部にワークを収容した状態で前記上方開口部の水平方向寸法を狭めることでワークを保持することを特徴とする。
【0009】
このように、本発明の搬送パレットは、ワーク収容部の上方開口部の水平方向寸法(以下、「ワーク収容部の開口寸法」と言う)を可変としている。これにより、ワークの積み込み時及び取り出し時には、ワーク収容部の開口寸法を広げることで作業性が高められ、ワーク収容部にワークを積み込んだ後には、ワーク収容部の開口寸法を狭めてワークを保持することで、搬送時のワークのがたつきが抑えられ、ワークの損傷を防止できる。また、シート部で区画されたワーク収容部内にワークが配置されるため、ワーク収容部の上方開口部から挿入可能な大きさのワークであれば形状を問わず収容することができるため、上記特許文献1のようにワークの縁を保持する場合と比べて積み込み可能なワークの種類が増え、搬送パレットの汎用性が高められる。
【0010】
この搬送パレットは、例えば、前記シート部の各端部がそれぞれ固定され、水平方向でスライド可能に設けられた複数のスライド梁と、隣り合うスライド梁の間にそれぞれ設けられ、スライド梁の間隔を広げる方向に付勢する弾性部材とを備えた構成とすることができる。この構成によれば、隣り合うスライド梁の間隔を所定のピッチに設定することができ、例えば、各スライド梁の間に同じ強さの弾性部材を配すれば、スライド梁を常に等間隔に配することができる。また、複数のスライド梁が弾性部材を介して連結されているため、一方の端部のスライド梁をスライドさせることにより、弾性部材を介して他のスライド梁を同時にスライドさせることができる。これにより、各ワーク収容部の開口寸法を同時に変更することができるため、ワークの積み込み性及び取り出し性がさらに高められる。
【0011】
上記の搬送パレットでワークを搬送する際、ワークを収容したワーク収容部の下端部(すなわちシート部の下端部)が揺動すると、ワーク同士が衝突してワークが損傷したり、ワークとシート部との摺動によりシート部が摩耗したりする恐れがある。そこで、シート部の下方に支持部材を設け、この支持部材でシート部を下方から支持すれば、シート部の下端部の揺動が抑えられ、ワークの損傷やシート部の摩耗を防止できる。一方、ワーク収容部の開口寸法を変更する際にはシート部の下端部が水平移動する場合があるが、支持部材がシート部の下端部に接触したままではシート部の水平移動が阻害され、ワーク収容部の開口寸法の変更がスムーズに行われない恐れがある。よって、支持部材を昇降可能とし、ワーク収容部の開口寸法を変更する際には支持部材を降下させてシート部の下端部と離隔させることで、シート部の水平移動が阻害される事態が回避され、ワーク収容部の開口寸法をスムーズに変更することができる。
【発明の効果】
【0012】
以上のように、本発明によれば、ワークの積み込み性及び取り出し性に優れ、ワークの損傷を防止でき、且つ、汎用性の高い搬送パレットを得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】搬送パレットの側面図である。
【図2】搬送パレットの平面図である。
【図3】ラチェット機構の断面図である。
【図4】搬送パレットの側面図である(ワークを積み込んだ状態)。
【図5】搬送パレットの側面図である(支持部材を降下させた状態)。
【図6】搬送パレットの側面図である(スライド梁の間隔を狭めた状態)。
【図7】搬送パレットの側面図である(ワークの固定が完了した状態)。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。
【0015】
本実施形態にかかる搬送パレットは、図1及び図2に示すように、水平に設けられた矩形状の底板1と、底板1の四隅に立設された支柱2と、底板1の長辺方向(図2の左右方向)に対向する支柱2の間に掛け渡された一対の支持梁3と、両端を支持梁3にスライド可能に取付けられ、水平方向に平行に並べて配された複数のスライド梁4と、両端を上方で保持されて中間部を下方に吊り下げられたハンモック形状の複数のシート部5と、シート部5の下方に設けられた支持部材6とを有する。尚、以下では、説明の便宜上、底板1の長辺方向を前後方向、短辺方向を幅方向と言う。
【0016】
スライド梁4は、中心軸41と、中心軸41の外周面に固定された保持部材42とからなる。中心軸41は、両端部に形成された貫通穴に支持梁3が挿通され、これによりスライド梁4が前後方向でスライド可能とされる。保持部材42は、軟質材(例えば発泡ウレタン等)で円筒状に形成され、中心軸41のうち、両端部の貫通穴を除く幅方向中間部に設けられる。各スライド梁4の間にはそれぞれ弾性部材としてバネ43が配される。本実施形態では、各スライド梁4の間にバネ43が圧縮状態で配され、隣り合うスライド梁4の間隔を広げる方向に各スライド梁4を常に付勢している。また、各バネ43は同じ強さに設定され、これにより各スライド梁4が常に等間隔に配される。
【0017】
複数のスライド梁4のうち、一方の端部のスライド梁4a(図示例では右端のスライド梁4a)には、前方(図中左側)へのスライドを許容し、後方(図中右側)へのスライドを規制するラチェット機構70が設けられる。ラチェット機構70の具体的構成は特に限定されないが、例えば図3に示すように、支持梁3の上面に形成された無数の突起部71と、スライド梁4の中心軸41に支持部72を介して設けられた係止爪73とで構成することができる。スライド梁4aを前方にスライドさせると、支持部72が弾性変形しながら、係止爪73が突起部71の斜面71aを乗り越える。逆に、スライド梁4aを後方にスライドさせようとすると、係止爪73の垂直面73aと突起部71の垂直面71bとが係合し、スライド梁4aの後退が規制される。
【0018】
シート部5は、可撓性を有し、且つ、ワークを搭載可能な強度を有するシート状部材で形成され、例えば布や樹脂シートで形成される。シート部5は、両端部を隣り合うスライド梁4にそれぞれ固定され、中間部を下方に吊り下げられたハンモック形状を成している。本実施形態では、一枚の帯状のシート状部材のうち、長手方向中間部の複数箇所をそれぞれスライド梁4にボルト等で固定し、各固定部の間を下方に吊り下げることで、複数のシート部5が全て連続して設けられる。こうして、略U字形状に吊り下げられた各シート部5の内側に、上方を開口したワーク収容部50が形成される。
【0019】
支持部材6は、ワーク収容部50の内部にワークWを収容した状態で、シート部5の下端部と接触する高さ(図4参照)と接触しない高さ(図5参照)との間で昇降可能に設けられる。本実施形態の支持部材6は、底板1の上部に昇降可能に設けられ、具体的には、底板1の上面に弾性部材(図示例ではバネ61)を介して昇降可能に取付けられた支持板62と、支持板62の上面に固定された軟質材(例えば軟質のスポンジ)からなる緩衝部63とを備える。支持部材6には昇降手段として例えばペダル(図示省略)が設けられ、このペダルを作業者が踏むと支持部材6が水平状態を維持しながら降下し、作業者がペダルから足を外すとバネ61の弾性力で支持部材6が上昇する。
【0020】
以下に、上記構成の搬送パレットにパネル状のワークW(例えば自動車のフードパネル)を積み込む手順を説明する。
【0021】
図1及び図2に示す搬送パレットは、ワークWを積み込む前の状態であり、スライド梁4の間隔がバネ43で押し広げられて最大となっている。この状態の搬送パレットの各ワーク収容部50に、それぞれワークWを一個ずつ収容する(図4参照)と、ワークWの重みでシート部5の下端部が支持部材6の緩衝部63にめり込む。このとき、図示のように、隣り合うスライド梁4の間隔、すなわち各ワーク収容部50の上方開口部が大きく開いているため、ワークWをワーク収容部50の上方から容易に積み込むことができる。また、各ワーク収容部50はシート部5で遮断されているため、積み込み時に隣のワークWに接触する恐れが回避され、ワークの損傷を防止できる。さらに、シート部5の下端部が軟質材からなる緩衝部63で支持されているため、ワーク収容部50内にワークWを積み込む際、シート部5に過剰な負荷が加わることを防止できる。尚、本実施形態では、ワークWを積み込む前のシート部5が支持部材6と離隔している(図1参照)が、これに限らず、この状態でシート部5と支持部材6とを接触させても良い。
【0022】
次に、支持部材6をシート部5の下端部から離隔する位置まで降下させる(図5参照)。この状態で一方の端部(図中右端)のスライド梁4aを前方(図中左側)へ向けて押し込み、バネ43を圧縮しながら各スライド梁4aを前方にスライドさせ、隣り合うスライド梁4の間隔を狭める(図6参照)。このとき、各スライド梁4の間にそれぞれ同じ強さのバネ43を設けることで、各スライド梁4を常に等間隔に配することができる。また、ラチェット機構70により、所定の位置まで前進させたスライド梁4aの後退が規制され、この位置で全てのスライド梁4を固定することができる。
【0023】
こうして、隣り合う一対のスライド梁4で、その間に配されたワークWが前後両側から保持される。本実施形態では、スライド梁4に設けられた軟質材からなる保持部材42でワークWを前後両側から挟持しているため、パレット上でワークWを確実に固定することができる。尚、スライド梁4は必ずしもワークWに接触させる必要はなく、搬送時のがたつきが許容できる範囲内(ワークWが損傷しない範囲内)であれば、スライド梁4とワークWとの間に隙間が形成された状態でワークWを保持してもよい。
【0024】
上記のように、スライド梁4を前方にスライドさせると、スライド梁4のスライドに伴ってワークWの下端部(すなわちシート部5の下端部)もスライドするため、各ワークWを大きく傾かせることなく垂直に近い安定した姿勢で、隣り合うスライド梁4で保持することができる。また、支持部材6を降下させてシート部5の下端部から離隔させた状態でスライド梁4をスライドさせることで、シート部5の水平移動が支持部材6で阻害されることはなく、スライド梁4をスムーズにスライドさせることができる。
【0025】
その後、ペダルから足を外して支持部材6を上昇させ、図7に示すように、シート部5及びワークWの下端部を支持部材6で下方から支持する。このとき、支持部材6の緩衝部63にシート部5の下端部をめり込ませて前後方向の移動を規制すれば、搬送中もパネルを安定した状態で保持することができる。
【0026】
搬送パレットからのワークWの取り出しは、上記と逆の手順を経て行われる。すなわち、図7に示す状態から、支持部材6を押し下げ(図6参照)、ラチェット機構を解除しながら右端のスライド梁4を後方にスライドさせる(図5参照)。これにより、隣り合うスライド梁4によるワークWの保持が解除されると共に、ワーク収容部50の上方開口部が広げられるため、ワークWを容易に取り出すことができる。このとき、各スライド梁4の間に同じ強さのバネ43が配されているため、右端のスライド梁4の後方へのスライドに伴って、各スライド梁4が等間隔に広げられる。
【符号の説明】
【0027】
1 底板
2 支柱
3 支持梁
4 スライド梁
41 中心軸
42 保持部材
43 バネ
5 シート部
50 ワーク収容部
6 支持部材
61 バネ
62 支持板
63 緩衝部
70 ラチェット機構
W ワーク

【特許請求の範囲】
【請求項1】
両端部を上方で保持されて中間部を下方に吊り下げられた複数のシート部と、前記シート部の吊り下げ部分で区画され、上方を開口した複数のワーク収容部とを備え、前記ワーク収容部にそれぞれパネル状のワークを立てて並べた状態で保持する搬送パレットであって、
前記ワーク収容部の上方開口部の水平方向寸法を可変とし、前記ワーク収容部にワークを収容した状態で前記上方開口部の水平方向寸法を狭めることでワークを保持することを特徴とする搬送パレット。
【請求項2】
前記シート部の各端部がそれぞれ固定され、水平方向でスライド可能に設けられた複数のスライド梁と、隣り合うスライド梁の間にそれぞれ設けられ、スライド梁の間隔を広げる方向に付勢する弾性部材とを備えた請求項1記載の搬送パレット。
【請求項3】
前記シート部の下方に、前記シート部の下端部と接触する高さと接触しない高さとの間で昇降可能な支持部材を設けた請求項1又は2記載の搬送パレット。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2011−105347(P2011−105347A)
【公開日】平成23年6月2日(2011.6.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−262846(P2009−262846)
【出願日】平成21年11月18日(2009.11.18)
【出願人】(000002967)ダイハツ工業株式会社 (2,560)
【Fターム(参考)】