搬送ローラー、及び印刷装置
【課題】簡便な構成により確実に位置決めがされることで良好な送り精度を備えた搬送ローラー、及び印刷装置を提供する。
【解決手段】金属板の対向する一対の端面61a,61bが近接あるいは当接するように円筒状に形成され、前記一対の端面が軸方向に延在する継ぎ目80を有し、ローラー本体16の表面に高摩擦層50を有する印刷領域15Aが形成された搬送ローラー15である。ローラー本体16の駆動部30側の軸受26Bに対する位置決め部材が取り付けられる取付領域15Cには前記高摩擦層50が塗布されている。
【解決手段】金属板の対向する一対の端面61a,61bが近接あるいは当接するように円筒状に形成され、前記一対の端面が軸方向に延在する継ぎ目80を有し、ローラー本体16の表面に高摩擦層50を有する印刷領域15Aが形成された搬送ローラー15である。ローラー本体16の駆動部30側の軸受26Bに対する位置決め部材が取り付けられる取付領域15Cには前記高摩擦層50が塗布されている。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、搬送ローラー、及び印刷装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、シート状の記録媒体上に情報を印刷する印刷装置が用いられており、この印刷装置には記録媒体を搬送する搬送装置が設けられている。この搬送装置は、回転することで記録媒体を搬送する搬送ローラーと、当該搬送ローラーに付勢されて当接された従動ローラーとを有しており、搬送ローラーと従動ローラーとで記録媒体を挟持して搬送するようになっている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平10−67444号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、ローラーの軸方向における位置が変わってしまうと、搬送ローラーの端部に設けられたギアが駆動部から外れる(所謂ギア抜け)が発生し、記録媒体の送り動作ができなくなるおそれがある。そのため、搬送ローラーを簡便且つ確実に固定することのできる手法の提供が望まれていた。
【0005】
本発明はこのような事情に鑑みてなされたものであって、簡便な構成により確実に位置決めがされることで良好な送り精度を備えた搬送ローラー、及び印刷装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の課題を解決するために、本発明の搬送ローラーは、金属板の対向する一対の端面(61a,61b)が近接あるいは当接するように円筒状に形成され、前記一対の端面が軸方向に延在する継ぎ目(80)を有し、ローラー本体(16)の表面に高摩擦層(50)を有する印刷領域(15A)が形成された搬送ローラー(15)であって、前記ローラー本体の駆動部(30)側の軸受(26B)に対する位置決め部材(14)が取り付けられる取付領域には、前記高摩擦層が塗布されていることを特徴とする。
【0007】
本発明の搬送ローラーによれば、取付領域に高摩擦層が塗布されているので、位置決め部材とローラー本体との間に摩擦力が向上することで位置決め部材にガタツキが生じるのを防止できる。また、印刷領域に形成される高摩擦層を利用して位置決め部材の固定を行うため、位置決め部材を固定するために別途に、部品を用意する或いは表面処理を行うといった手間が不要となり、搬送ローラーにおける製造コストが増加するのを防止できる。よって、搬送ローラーを簡便且つ確実に所定位置に位置決めすることができるので、紙送りの精度を良好に確保することができる。
【0008】
また、上記搬送ローラーにおいては、前記位置決め部材は、ローラー本体に挿通されることで取り付けられているのが好ましい。
この構成によれば、ローラー本体の周方向の全周に亘って位置決め部材にガタツキが発生するのを防止できる。
【0009】
また、上記搬送ローラーにおいては、前記取付領域には、前記位置決め部材に設けられた突起部を嵌合させる開口部が形成されているのが好ましい。
この構成によれば、位置決め部材の突起部が開口部に嵌合することでローラー本体に対して位置決め部材を所定位置に良好に固定することができる。
【0010】
また、上記搬送ローラーにおいては、前記高摩擦層は無機粒子を含んでおり、該無機粒子が酸化アルミニウムから構成されるのが好ましい。
この構成によれば、酸化アルミニウムからなる微粒子が位置決め部材とローラー本体との間の隙間を埋めることで位置決め部材にガタツキが生じるのを防止できる。
【0011】
また、上記搬送ローラーにおいては、前記取付領域の高摩擦層における無機粒子の含有率は、前記印刷領域の高摩擦層における含有率に比べて低く設定されるのが好ましい。
このようにすれば、取付領域における微粒子の含有率が印刷領域に比べて低くなるので、取付領域においてローラー本体及び位置決め部材間の摩擦力が大きくなりすぎることで、位置決め部材の組み立て性が低下するのを防止できる。
【0012】
本発明の印刷装置は、上記搬送ローラーを備えたことを特徴とする。
本発明の印刷装置によれば、位置決め部材がローラー本体に良好に保持されてなる搬送ローラーを備えているので、この印刷装置自体も、高い送り精度を備えた信頼性の高いものとなる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の実施形態に係るインクジェットプリンターの側断面図。
【図2】(a)はインクジェットプリンターの搬送ユニットを示す平面図、(b)は搬送ユニットの駆動系を示す側面図。
【図3】(a)は搬送ローラー機構の概略構成を示す図、(b)は軸受の概略構成を示す図、(c)はローラー本体の要部を示す部分拡大図。
【図4】搬送ローラーの構成を示す側面図。
【図5】実施形態の搬送ローラーの製造装置の模式図。
【図6】本実施形態に係る抜き工程の工程断面図である。
【図7】第1プレス機によって抜き加工された金属板の平面図。
【図8】(a)〜(c)は第2プレス機による曲げ工程を示す側面図。
【図9】図8に続く第2プレス機による曲げ工程を示す側面図。
【図10】図9(a)〜図9(c)、図10(a)〜図10(c)に示す工程を経て平板部が段階的に円筒状に形成された金属板を示す平面図。
【図11】(a)〜(d)は本実施形態に係るロールレベラー工程の態様を示す工程図。
【図12】(a)ローラー本体の斜視図、(b)は繋ぎ目の側断面図、(c)はセンターレス研磨工程の工程図。
【図13】(a)〜(d)はローラー本体への高摩擦層の形成工程を示す図。
【図14】高摩擦層を形成するための塗装ブースの概略構成図。
【図15】ローラー本体の繋ぎ目とその近傍の要部拡大図。
【図16】(a)〜(d)はローラー本体の構成を示す概略図。
【図17】(a)〜(c)はローラー本体の構成を示す概略図。
【図18】(a)はローラー本体の要部斜視図、(b)は断面図。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照して説明する。
なお、以下の説明に用いる各図面では、各部材を認識可能な大きさとするため、各部材の縮尺を適宜変更している。
【0015】
図1は、本発明の実施形態に係るインクジェットプリンターの側断面図である。
図2(a)はインクジェットプリンターの搬送ユニットを示す平面図、図2(b)は搬送ユニットの駆動系を示す側面図である。
【0016】
図1に示すように、インクジェットプリンター(印刷装置)1は、プリンター本体3と、プリンター本体3の後側上部に設けられた給紙部5と、プリンター本体3の前側に設けられた排紙部7と、を備えている。
【0017】
給紙部5には給紙トレイ11が設けられており、給紙トレイ11には複数枚の記録紙(媒体、記録媒体、搬送媒体)Pが積載されるようになっている。ここで、記録紙Pとしては、普通紙、コート紙、OHP(オーバーヘッドプロジェクター)用シート、光沢紙、光沢フィルム等が用いられる。以下、記録紙Pの搬送経路において、給紙トレイ11側を上流側、排紙部7側を下流側という。給紙トレイ11の下流側には、給紙ローラー13が設けられている。
【0018】
給紙ローラー13は、対向する分離パッド(図示せず)との間で給紙トレイ11の最上部に位置する記録紙Pを挟圧し、下流側へ送り出すように構成されている。給紙ローラー13の下流側には、搬送ローラー機構19が設けられている。
【0019】
搬送ローラー機構19は、下側に配置された搬送ローラー15と、上側に配置された従動ローラー17とを備えている。
【0020】
搬送ローラー15は、従動ローラー17との間に記録紙Pを挟圧し、図2に示す駆動部30により回転駆動するように設けられている。これにより、搬送ローラー15は、記録紙Pを下流側に配置された記録ヘッド(印刷部)21へ、搬送印刷処理に伴う精密で正確な搬送(紙送り)動作により搬送することができるようになっている。
【0021】
記録ヘッド21はキャリッジ23に保持されており、キャリッジ23は給紙方向(記録紙Pの搬送方向)と直交する方向に往復移動するよう構成されている。記録ヘッド21による印字処理(印刷処理)は、制御部CONTによって制御されるようになっている。記録ヘッド21と対向する位置には、プラテン24が配設されている。
【0022】
プラテン24は、キャリッジ23の移動方向に沿って間隔をあけて配置された、複数のダイヤモンドリブ25によって構成されている。
【0023】
ダイヤモンドリブ25は、記録ヘッド21によって記録紙Pに印刷を行う際に記録紙Pを下側から支持するものであり、頂面が支持面として機能するようになっている。ダイヤモンドリブ25と記録ヘッド21との距離は、記録紙Pの厚さに応じて調節可能になっている。これにより、記録紙Pはダイヤモンドリブ25の頂面上を滑らかに通過することが可能となっている。ダイヤモンドリブ25及び記録ヘッド21の下流側には、排紙ローラー機構29が設けられている。
【0024】
排紙ローラー機構29は、下側に配置された排紙ローラー27と上側に配置された排紙ギザローラー28とを備え、排紙ローラー27の回転駆動によって記録紙Pを引き出し、排出するようになっている。
ここで、搬送ローラー機構19及び排紙ローラー機構29の駆動部30及び搬送ローラー15、排紙ローラー27の駆動速度の関係について説明する。
【0025】
プリンター本体3には、図2(a)及び図2(b)に示すように、制御部CONTの制御下で駆動される搬送モーター32が設けられている。この搬送モーター32の駆動軸にはピニオン33が設けられており、ピニオン33には搬送駆動ギア35が歯合しており、搬送駆動ギア35には搬送ローラー15が内挿されて連結されている。
このような構成のもとに搬送モーター32等は、搬送ローラー15を回転駆動する駆動部30となっている。
【0026】
また、搬送ローラー15には、その軸方向一方の端部側に搬送駆動ギア35と同軸にインナーギア39が設けられており、このインナーギア39には中間ギア41が歯合しており、中間ギア41には排紙駆動ギア43が歯合している。排紙駆動ギア43の回転軸は、図2(a)に示すように排紙ローラー27の軸体45となっている。
【0027】
このような構成のもとに、搬送ローラー機構19の搬送ローラー15と排紙ローラー機構29の排紙ローラー27とは、同一の駆動源である搬送モーター32からの回転駆動力を受け、駆動されるようになっている。
【0028】
なお、排紙ローラー27の回転速度は、各ギアのギア比を調整することにより、搬送ローラー15の回転速度より速くなるように設定されている。したがって、排紙ローラー機構29の排紙速度は、搬送ローラー機構19の搬送速度より増速率だけ速くなっている。
【0029】
また、搬送ローラー機構19による記録紙Pの挟持力(押圧力)は、排紙ローラー機構29による挟持力(押圧力)よりも大きく設定されている。したがって、搬送ローラー機構19と排紙ローラー機構29とが共に記録紙Pを挟持しているとき、その記録紙搬送速度は、排紙ローラー機構29の排紙速度とは関係なく、搬送ローラー機構19の搬送速度で規定されるようになっている。
【0030】
次に、搬送ローラー15及びこれを備える搬送ローラー機構19について説明する。
図3(a)は搬送ローラー機構の概略構成を示す図であり、図3(b)は軸受の概略構成を示す図であり、図3(c)はローラー本体16の要部を示す部分拡大図である。図4は搬送ローラー15の構成を示す側面図である。
搬送ローラー15は、中空円筒状のローラー本体(円筒軸)16と、ローラー本体16の表面の長手方向(軸方向)の一部に形成された高摩擦層(媒体支持領域)50とを有している。搬送ローラー15の外周面(表面)には、記録紙Pに接触する印刷領域15Aと、軸方向に沿う印刷領域15Aの両側に設けられる一対の支持領域15Bと、駆動部30側の支持領域15Bに近接して設けられる取付領域15Cと、が設定されている(図4参照)。
【0031】
取付領域15Cは、搬送ローラー15を所定位置に位置決めする位置決め部材14を取り付けるための領域である。位置決め部材14には開口部14aが形成されており、この開口部14aにローラー本体16を挿通させることで位置決め部材14が取付領域15Cに取り付けられている。なお、開口部14aの内径とローラー本体16との外径とは、略同じまたは僅かに開口部14aの内径の方が大きくなる(20μm程度)ように設定されている。
【0032】
なお、本実施形態においては、ローラー本体16は、端部16Aの位置が駆動部30と反対側に移動することが制限された状態でプリンター本体3内に組み込まれている。そのため、上記取付領域15Cの位置決め部材14は、ローラー本体16の端部16Bの位置が駆動部30側に位置ズレすることを防止するためのものである。
【0033】
位置決め部材14は搬送ローラー15が上記軸受26A,26Bに保持された際に、軸受26Bの壁面に当接する位置に取り付けられるようになっている。搬送ローラー15は、位置決め部材14が軸受26Bに当接することで、その軸方向(駆動部30側)における動きが規制されたものとなっている。
【0034】
高摩擦層50は、図3(a)及び図4に示すようにローラー本体16の軸方向両端部を除く中央部に選択的に形成されている。具体的に、上記高摩擦層50は印刷領域15Aから取付領域15Cに亘って形成されている。高摩擦層50の表面には、無機粒子の鋭く尖った部分が露出した状態で固定され、高い摩擦力を発揮するようになっている。
【0035】
高摩擦層50は、ローラー本体16の表面の所定領域に樹脂粒子を10μm〜30μm程度の均一な膜厚で選択的に塗布して樹脂膜を形成し、その樹脂膜の上に無機粒子を均一に散布した後、焼成することにより形成されている(図15参照)。樹脂粒子としては、エポキシ系樹脂やポリエステル系樹脂等からなる、直径10〜20μm程度の微粒子が好適に用いられる。また、無機粒子としては、破砕処理によって所定の粒径分布に調整された酸化アルミニウム(アルミナ;Al2O3)や炭化珪素(SiC)、二酸化珪素(SiO2)等のセラミックス粒子が好適に用いられる。中でもアルミナは、比較的硬度が高く摩擦抵抗を高める機能が良好に発揮され、また、比較的安価であってコストダウンを妨げることもないため、より好適に用いられる。したがって、本実施形態では無機粒子としてアルミナ粒子を用いるものとする。
【0036】
また、このアルミナ粒子としては、本実施形態では粒径が15μm以上90μm以下の範囲とされ、かつ、中心径となる加重平均の粒径(平均粒径)が、45μmとなるように調整されたものが用いられている。
【0037】
このように印刷領域15Aにおいては、高摩擦層50(無機粒子)の働きにより、記録紙Pを支持して高精度に搬送できるようになっている。一方、取付領域15Cにおいては、高摩擦層50(無機粒子)の働きにより、位置決め部材14とローラー本体16との摩擦力を向上させ、位置決め部材14にガタツキを生じさせることなくローラー本体16に挿通されたものとしている。よって、位置決め部材14は取付領域15Cに確実に保持されることとなり、位置決め部材14の取付位置にガタツキ或いは位置ズレが生じることで搬送ローラー15がローラー本体16の軸方向に沿って位置ズレを生じるといった不具合の発生を防止している。したがって、搬送ローラー15の一方の端部16Bに取り付けられた搬送駆動ギア35がピニオン33から外れる、或いは、インナーギア39が中間ギア41から外れるといった、所謂ギア外れに起因した搬送動作不良の発生が防止されたものとなっている。
【0038】
また、本実施形態では、取付領域15Cの高摩擦層50における無機粒子の含有率が印刷領域15Aの含有率に比べて低く設定されている。本実施形態では、後述のように、印刷領域15Aにおいては樹脂膜51の面積に対してアルミナ粒子95の占める面積を80%に設定し、取付領域15Cにおいては樹脂膜51の面積に対してアルミナ粒子95の占める面積を20%に設定した。この構成によれば、取付領域15Cにおいてローラー本体16と位置決め部材14との間で摩擦力が大きくなりすぎることで位置決め部材14をローラー本体16に挿通させる際の組み立て性が低下するのを防止できる。
【0039】
ローラー本体16は、亜鉛メッキ鋼板やステンレス鋼板等の金属板が巻回された鋼板コイルを母材として形成されている。ローラー本体16は、コイルを巻き戻した金属板の一対の各端面が対向するように曲げ加工され、コイルの内周面側であった面が内周面となる円筒状に形成された円筒軸である。すなわち、ローラー本体16を形成する金属板は、コイルによる巻きぐせが円筒の内周面側に反るように残った状態で円筒状に形成されている。
【0040】
また、ローラー本体16は、曲げ加工されて突き合わされた金属板の一対の端面61a,61b間に形成された継ぎ目80を有している。ローラー本体16は、周方向(曲げ方向)とコイルの巻回方向(金属板の圧延方向)とが同一となっており、継ぎ目80はローラー本体16の軸方向と略平行に形成されている。
【0041】
搬送ローラー15は、図3(a)及び図4に示すように、その両端(第1端部16f及び第2端部16s)がプラテン24(図1参照)に一体成形された軸受26A,26Bに回転可能に保持されている。図3(b)に示すように、軸受26A,26Bは、上方に開口するU字形に形成され、このU字形部位に搬送ローラー15を嵌め込むことで、搬送ローラー15を前後側及び下側の3方向から軸支する。そして、軸受26A,26Bと搬送ローラー15との接触面(搬送ローラー15の外周面)には、グリス等の潤滑油(潤滑剤)Gが供給(塗布)される。
【0042】
図3(a)及び図3(c)に示したように、搬送ローラー15を構成するローラー本体16(搬送ローラー15)は、継ぎ目80を形成する一対の端面61a,61bに、これら一対の端面61a,61bの一部を周方向に互いに係合させる係合部65が形成されている。係合部65は、ローラー本体16の軸方向における駆動部30側の第2端部16sに形成されている(図4参照)。
【0043】
具体的には、係合部65は、高摩擦層50が形成される領域(印刷領域15A及び取付領域15C間)及び軸受26A,26Bによって支持される領域(支持領域15B,15B)を避けた位置であって、ローラー本体16の軸方向一方の第2端部16s側に設けられたインナーギア39(図3(a))と、このインナーギア39に近い方の軸受26B(図3(a))との間に位置するように形成されており、なるべく駆動部30に近い位置に形成されることが望ましい。係合部65を印刷領域15Aに設けてしまうと画像の乱れや搬送精度の低下に繋がる。また、軸受26A,26B(図3(a))が配置される部分に設けてしまうと軸受26A,26Bの磨耗が激しくなるなど、不具合が生じるおそれがあるからである。
【0044】
係合部65は、継ぎ目80を形成する金属板の一対の端面61a,61bのうち、一方の端面61a側に形成された係合凹部65Aと、他方の端面61b側に形成され係合凹部65Aに係合される係合凸部65Bとにより鉤形に構成されている。係合凸部65Bは、搬送ローラー15の正転方向に向かって突出しており、係合凹部65Aに圧入された状態で係合している。このような係合部65を上述したように駆動部30に近い側に設けることで、回転トルクに対する強度が増すこととなり搬送ローラー15のねじれを防止し得る構成となっている。
【0045】
従動ローラー17は、複数(例えば6個)のローラー17aが同軸に配列されて構成されたもので、搬送ローラー15の高摩擦層50に対向しかつ当接する位置に配置されたものである。これらローラー17aからなる従動ローラー17には、付勢バネ(図示せず)が取り付けられており、これによって従動ローラー17は、搬送ローラー15側に付勢されている。
【0046】
したがって、従動ローラー17は、搬送ローラー15の高摩擦層50に所定の押圧力(記録紙Pに対する挟持力)で接し、搬送ローラー15の回転動作に従動して回転するようになっている。また、搬送ローラー15と従動ローラー17との間で記録紙Pを挟持する力が大きくなり、記録紙Pの搬送性がより良好になっている。
【0047】
なお、この従動ローラー17の各ローラー17aの表面には、高摩擦層50との摺接による損傷を緩和するため、フッ素樹脂塗装等の低摩耗処理が施されている。
【0048】
以上の搬送ローラー15、軸受26A,26B、駆動部30及び従動ローラー17等により、インクジェットプリンター1の搬送部20が構成されている。搬送部20は、上述のように高い搬送精度が得られる搬送ローラー15を一対の軸受26A,26Bにより支持して回転させ、高摩擦層50により記録紙Pを支持して高精度に搬送することができる。また、搬送部20は、高摩擦層50が形成された取付領域15Cに設けられた位置決め部材14により搬送ローラー15の軸方向の位置ズレが防止されたものとなっているので、ギア外れの発生を防止し、長期に亘って記録紙Pを高精度で搬送可能な信頼性の高いものとなる。また、ローラー本体16に位置決め部材14を保持する手段として高摩擦層50を利用することで、位置決め部材14を固定するために別途、部品を用意する或いは表面処理を行うといった手間を不要にしている。これにより、搬送ローラー15における製造コストが増加するのを防止できる。
【0049】
次に、インクジェットプリンター1の動作について、図1、図2を参照して説明する。
【0050】
インクジェットプリンター1は、給紙トレイ11の最上部に位置する記録紙Pを給紙ローラー13によって挟圧して下流側へ送り出す。送り出された記録紙Pは搬送ローラー機構19に至る。搬送ローラー機構19は、記録紙Pを搬送ローラー15と従動ローラー17との間で挟圧し、搬送ローラー15の回転駆動による紙送り動作で記録ヘッド21の下方に向けて定速で搬送する。記録ヘッド21の下方に搬送された記録紙Pは、ダイヤモンドリブ25の頂面上を滑らかに通過しつつ、記録ヘッド21によって高品質に印刷される。記録ヘッド21で印刷された記録紙Pは、排紙部7の排紙ローラー27によって順次排出される。
【0051】
排紙ローラー機構29の搬送速度は搬送ローラー機構19の搬送速度より速く設定されているため、記録紙Pはバックテンションが掛かった状態で搬送される。ただし、搬送ローラー機構19と排紙ローラー機構29とが共に記録紙Pを挟持しているときには、その記録紙搬送速度は搬送ローラー機構19の搬送速度で規定されている。したがって、このように排紙ローラー機構29と搬送ローラー機構19とによって排紙と搬送とを同時に行う際にも、その記録紙の搬送速度は搬送ローラー機構19の搬送速度で規定されている。
そのため、搬送ムラのない正確で安定した紙送り(搬送)がなされるようになる。
【0052】
ここで、搬送ローラー15の高摩擦層50において記録紙Pを支持して搬送する際には、ローラー本体16にトルクが作用する。すると、ローラー本体16を形成する金属板の一対の端面61a,61bの継ぎ目80(図4参照)が開く方向に応力が作用する。ローラー本体16の継ぎ目80が開くと、記録紙Pに対して搬送ローラー15が均一に接しなくなり、搬送ムラが発生する。
【0053】
しかし、本実施形態では、搬送ローラー15のローラー本体16においてその継ぎ目80の一部分がかぎ型となっており、上述したように、ローラー本体16の継ぎ目80を形成する金属板の端面61a,61bに係合部65が形成されている。これにより、ローラー本体16に回転トルクが作用しても端面61a,61bの継ぎ目80が開く方向に応力が作用するのを防止することができる。
【0054】
また、係合部65は、継ぎ目80を形成する一方の端面61bに正転方向(記録紙Pを繰り出す方向)へ突出するようにして形成された係合凸部65Bが、他方の端面61aの周方向で対向する位置に形成された係合凹部65Aに圧入された状態で嵌合されている。
このため、駆動部30からの最大トルクに耐えることができ、搬送ローラー15のねじれが防止されて継ぎ目80が開くなどの変形が生じるのを効果的に防止することができる。
【0055】
また、本実施形態では、搬送ローラー15の一方の端部(第2端部16s)側に1つの係合部65が形成されている。搬送ローラー15の両方の端部(第1端部16f、第2端部16s)に設けた場合、両方の端部が固定されているため、連続駆動等により搬送ローラー15に作用する軸回りの回転トルクが大きくなると搬送ローラー15に作用するねじれが大きくなり、ねじれによる大きなエネルギーが蓄積されてしまう。こうなると、トルクが作用しない状態になっても元に戻ることなく変形してしまう。これは、搬送ローラー15の軸方向で複数設けた場合も同様である。
【0056】
これに対し、本実施形態のように駆動部30に近い側に係合部65を1箇所だけ設けることで、駆動部30とは反対側の端部(16A)側の継ぎ目80部分において端部62a,62b(端面61a,61b)どうしが軸方向にずれるなどして応力を逃がすことが可能となる。そのため、このときの変形は搬送ローラー15の回転が停止した後の回転トルクがかかっていない状態において元に戻るものであり、搬送ローラー15にねじれ変形が残ることはない。
【0057】
また、係合部65は軸受分や印字領域を避けた領域に形成する必要があるので、両端に係合部65をそれぞれ設ける場合は、搬送ローラー15の軸方向での小型化は困難である。本実施形態では、搬送ローラー15の一端側に係合部65を一端側にのみ設けた構成としてあるので搬送ローラー15を短くすることができ、装置全体の小型化を実現することができる。
【0058】
また、係合部65は、係合凹部65Aに係合凸部65Bを圧入させているため、継ぎ目80の長さが係合部65のない従来の構成に比べて長くなる。このため、係合部65を複数設けてしまうと搬送ローラー15が軸方向に反りやすくなってしまう。このような搬送ローラー15の軸方向への反りを防ぐためにも係合部65の数は少ない方が適している。
【0059】
また、本実施形態では、搬送ローラー15のローラー本体16は、鋼板コイルによる巻きぐせが残った金属板により形成され、コイルの内周側であった面が内周面となる円筒状に形成されている。鋼板コイルによる金属板の巻きぐせは、鋼板コイルの内周面であった面が凹面となるような反りである。すなわち、ローラー本体16を形成する金属板には、ローラー本体16の内周面側に反るような巻きぐせが残っている。
【0060】
そのため、少なくともローラー本体16の継ぎ目80を開く方向には巻きぐせが作用しなくなる。したがって、ローラー本体16の外周面側に反るような巻きぐせが残っている場合と比較して、ローラー本体16の継ぎ目80を開き難くすることができる。すなわち、本実施形態によれば、ローラー本体16の継ぎ目80を開く方向に応力が作用した場合であっても、継ぎ目80が開くことを防止することができ、高い搬送精度が得られる搬送ローラー15を提供することができる。
【0061】
また、ローラー本体16の周方向(曲げ方向)と鋼板コイルの巻回方向(金属板の圧延方向)とが同一となっている。そのため、ローラー本体16を形成する金属板の曲げ方向と巻きぐせによる反りの方向とを一致させることができる。これにより、ローラー本体16を形成する金属板の巻きぐせが、ローラー本体16の継ぎ目80を閉じる方向に作用する。したがって、ローラー本体16の継ぎ目80の開きをより効果的に防止することができる。
【0062】
また、ローラー本体16に中空の円筒軸を採用することで、中実軸を用いる場合と比較して重量を大幅に減少させることができる。また、ローラー本体16に中実軸を用いる場合と比較して材料の切削性に対する要求が低くなる。したがって、ローラー本体16の材料として鉛等の有害物質を含まない材料を用いることが可能になり、環境負荷を低減することができる。
【0063】
また、搬送ローラー15には高摩擦層50が形成されており、従動ローラー17がこの高摩擦層50に当接する位置に配置されている。そのため、これら搬送ローラー15と従動ローラー17との間で記録紙Pを挟持する力が大きくなり、記録紙Pの搬送性がより良好になっている。また、搬送ローラー15における位置決め部材14が取り付けられる取付領域15Cには高摩擦層50が形成されているので、位置決め部材14がローラー本体16に良好に固定されることで搬送ローラー15の軸方向の位置ズレが防止されたものとなる。よって、ギア外れの発生を防止し、長期に亘って記録紙Pを高精度で搬送可能な信頼性の高いものとなる。このように、本実施形態のインクジェットプリンター1は、搬送部20によって記録紙Pを長期に亘って高精度に搬送することができ、記録紙Pに高い印刷精度で信頼性の高い印刷処理を行うことできる。
【0064】
次に、搬送ローラー15の製造装置について説明する。
図5は、本実施形態の搬送ローラー15の製造装置の模式図である。
図5に示すように、製造装置100は、アンコイラー110と、レベラー120と、第1プレス機130と、第2プレス機140とが、一方向に配置された構成となっている。
また、製造装置100は、コイルCから巻き戻された金属板Mを一方向に送る不図示の搬送部と、加工された円筒軸を金属板Mから切り離す不図示の切断部とを備えている。
アンコイラー110は、金属板Mが圧延方向に巻回された円筒状のコイル(鋼板コイル)Cを軸回りに回転可能に支持し、コイルCを巻き戻すためのものである。
【0065】
レベラー120は、上下に交互に配置された複数のワークロール121を備え、これら上下のワークロール121の間に金属板Mを通すことで、金属板Mを平坦化するように構成されている。本実施形態のレベラー120は、金属板MのコイルCによる巻きぐせ(反り)を完全には除去せず、第1プレス機130による加工が可能な程度に巻きぐせを調整するようになっている。
【0066】
第1プレス機130は雄型(パンチ)131と雌型(ダイ)132とを備え、プレスにより金属板Mを所定の形状に抜き加工するように構成されている。
第2プレス機140は、一方向に配置された複数の雌型(曲げダイ)141,143及び雄型(曲げパンチ)142,144、並びに、上型145及び下型146を備え、プレスにより金属板Mを曲げ加工をするように構成されている。そして、不図示の搬送部により金属板Mを一方向に間欠的に送りながら、順次、異なる型により曲げ加工を行うこと(順送)で、金属板Mを徐々に円筒に近づけるように構成されている。
【0067】
次に、搬送ローラー15の製造方法について説明する。
まず、板厚が0.8mm〜1.2mm程度の冷間圧延鋼板や電気亜鉛めっき鋼板等の金属板Mが圧延方向に巻回されたコイルCを用意する。そして、製造装置100のアンコイラー110によってコイルCを支持し、コイルCを軸回りに回転させて金属板Mを巻き戻す。コイルCから巻き戻された金属板Mは、コイルCの内周側の面C1が凹面、外周面側の面C2が凸面となる側面視で円弧状の巻きぐせが残った状態になっている。巻き戻された金属板Mは不図示の搬送部によって一方向(圧延方向)に搬送され、レベラー120に到達する。
【0068】
レベラー120に到達した金属板Mは、上下に配置された複数のワークロール121によって平坦化され、巻きぐせが調整される。これにより、金属板Mは第1プレス機130による加工が可能な程度まで平坦化されるが、コイルCの内周側の面C1が凹面となる巻きぐせは、ある程度残されている。レベラー120によって平坦化された金属板Mは、不図示の搬送部によって一方向に搬送され、第1プレス機130に到達する。
【0069】
第1プレス機130に到達した金属板Mは、雄型131と雌型132を用いたプレスにより抜き加工される。この抜き加工では、図6(a),図6(b)に示すような抜き加工によって型抜きされた金属板Mを母材として形成される。この際、平板部60の長辺60b,60bに係合凹部65Aと係合凸部65Bとをそれぞれ形成する。
【0070】
図7は、第1プレス機によって抜き加工された金属板Mの平面図である。
図7に示すように、金属板Mには、抜き加工により、搬送方向(圧延方向)に連続する枠部66と、搬送方向と交差する方向に延びる帯状の平板部60と、枠部66と平板部60とを連結する連結部67とが形成される。本実施形態では、平板部60は略長方形であり、短辺60aが圧延方向に平行で長辺60bが圧延方向と直交するように型抜きされている。上述したように長辺60b,60b側には、係合凹部65Aと係合凸部65Bとが形成されている。金属板Mを不図示の搬送部によって間欠的に搬送しながら繰り返しプレスを行うことで、平板部60と連結部67は金属板Mの搬送方向に等間隔に複数形成される。
【0071】
第1プレス機130によって抜き加工された金属板Mは、不図示の搬送部によって搬送され、図5に示す第2プレス機140に到達する。
【0072】
そして、ローラー本体16の母材である金属板Mは、図6(b)に示す上面C2が外周面となる円筒状に曲げ加工される。
【0073】
図8(a)〜図8(c)、図9(a)〜図9(c)は、第2プレス機による曲げ工程を示す側面図である。第2プレス機140に到達した金属板Mの平板部60は、プレスによって図7に示す短辺60aに平行な方向(圧延方向)に曲げ加工される。すなわち、平板部60の両側の長辺60b,60bに沿う一対の端面を近接させるように曲げ加工する。そして、図8(a)〜図8(c)、図9(a)〜図9(c)に示すように、これら一対の端面を対向させて突き合わせるように円筒状に形成する。
【0074】
具体的には、まず、図8(a)に示す雌型(曲げダイ)141と雄型(曲げパンチ)142とで金属板Mの平板部60をプレスし、平板部60の両端部62a,62bを円弧状(望ましくは略1/4円弧)に曲げる。なお、図8(a)においては、各部材を分かりやすくするため、平板部60と雌型141と雄型142との間にそれぞれ間隔を開けてこれらの部材を記しているが、この間隔は実際には存在せず、平板部60と雌型141、雄型142とはそれぞれの接触部においてほぼ密着している。これは、後述する図8(b)、図8(c)、図9(a)〜図9c)においても同様である。
【0075】
ここで、雄型142は、図5に示すコイルCにおいて内周側であった面C1(図8において平板部60の下側の面)に対向するように配置されている。また、雌型141は、図5に示すコイルCにおいて外周側であった面C2(図8において平板部60の上側の面)に対向するように配置されている。これにより、平板部60の両端部62a,62bはコイルCの内周面であった面C1側に曲げ加工される。
【0076】
次に、金属板Mを一方向に送った後、図8(b)に示す第2の雌型(曲げダイ)143と第2の雄型(曲げパンチ)144とで、平板部60の短辺方向(曲げ方向)における中央部をプレスする。そして、図6に示すコイルCにおいて内周側であった面C1側に、平板部60を円弧状(望ましくは略1/4円弧)に曲げる。
【0077】
次に、金属板Mを一方向に送った後、図8(c)に示すように、平板部60の内側に芯型147を配置する。そして、図8(c)に示す上型145と下型146とを用いて、図9(a)〜図9(c)に示すように、平板部60の両端部62a,62bの各端面61a,61bを近接させる。
【0078】
ここで、図8(c)および図9(a)〜図9(c)に示す芯型147の外径は、形成する中空円筒状のローラー本体16の内径と等しくしてある。また、図8(c)に示すように、下型146のプレス面146cの半径と上型145のプレス面145aの半径は、それぞれ、研磨代を考慮したローラー本体16の外径の半径と等しくしてある。また、図9(a)〜図9(c)に示すように下型146は左右一対の割型であり、これら割型146a,146bは、それぞれ独立して昇降可能に構成されている。
【0079】
すなわち、図8(c)に示す状態から、図9(a)に示すように左側の割型146aを上型145に近接させ、平板部60の一方の側をプレス加工し、略半円形状に曲げる。
なお、上型145も下型146と同様左右一対の割型とし(割面145b参照)、この図9(a)に示す工程の際に、同じ側の上型を割型146aに近接させてもよい。
【0080】
次いで、図9(b)に示すように、芯型147を少し(一方の側の端面61aと他方の側の端面61bとを近接させることができる程度に)上型145側へ移動させるとともに、他方の側の割型146bを上型145に近接させ、平板部60の他方の側をプレス加工し、略半円形状に曲げる。
【0081】
その後、図9(c)に示すように、芯型147および一対の割型146a,146bを共に上型145に近接させ、円筒状のローラー本体(中空パイプ)16を形成する。この状態で、左右両側の端面61a,61bは互いに対向して突き合わされた状態となる。
すなわち、この円筒状のローラー本体16にあっては、基材である金属板Mの平板部60の両側の端面61a,61bが互いに近接して、これらの端面61a,61b間に継ぎ目が形成されている。ここで、図5に示すコイルCの内周側であった面C1はローラー本体16の内周面となり、コイルCの外周側の面であったC2はローラー本体16の外周面となっている。このように、平板部60を芯型147に巻きつけるようにローラー本体16を形成する。
【0082】
図10は、図8(a)〜図8(c)、図9(a)〜図9(c)に示す工程を経て平板部60が段階的に円筒状に形成された金属板Mを示す平面図である。
図7に示すように型抜きされた金属板Mは、図5に示す第2プレス機140に到達し、一方向に間欠的に送られながら、図8(a)〜図8(c)、図9(a)〜図9(c)に示す工程により平板部60がプレスにより順次曲げ加工される(順送プレス)。そのため、第2プレス機140に到達した平板部60は、図10に示すように、金属板Mの搬送方向の前方ほど円筒に近くなっていく。平板部60が円筒状に形成された後は、不図示の切断部により連結部67が切断されて中空円筒状のローラー本体16となる。
【0083】
本実施形態では、金属板Mの一対の端面61a,61b(図7)を突き合わせて継ぎ目80(図9(c)等参照)を有するローラー本体16を形成する際に、係合凹部65Aと係合凸部65Bとを圧入させるようにして端面61a,61b同士を当接させ、鉤形の継ぎ目80を形成している。
これにより、回転駆動時のトルクなどにより継ぎ目80が開くなどの変形が生じるのを防止できる。また、係合凸部65Bが搬送ローラー15の正転方向に向かって突出していることから、負荷の大きい搬送ローラー15の回転トルクに対するねじれの防止効果が高い。
【0084】
また、抜き工程において図6(b)に示すように型抜きされた金属板Mに、ダレsd、せん断面sp、破断面bs、バリ(図示略)が形成された場合でも、比較的滑らかなダレsdが形成された上面C2を、ローラー本体16の外周側にすることが好ましい。言い換えれば、バリや破断面bsに連続する金属板Mの下面C1をローラー本体16の内周側にすることが好ましい。
【0085】
これにより、金属板Mの一対の端面61a,61bを突き合わせて継ぎ目80(図9(c)等参照)を有するローラー本体16を形成する際に、バリや破断面bsの凹凸が障害となって継ぎ目80が開くことを防止できる。
【0086】
次に、本実施形態では、形成されたローラー本体16に残留する応力を調整する工程(応力調整工程)を行う。この応力調整工程では、ローラー本体16の外周面16aのうち少なくとも高摩擦層50が形成される所定部分に押圧力を加える。本実施形態では、ローラー本体16の外周面16aのほぼ全面に対して押圧力を加える場合を例に挙げて説明する。応力調整工程では、以下の3つの工程のうち少なくとも1つを用いて、ローラー本体16に対して押圧力を加えることができる。
【0087】
(1)ロールレベラー工程
ロールレベラー工程では、複数の押圧ローラーが用いられる。ここでは、図11(a)に示すように、2つの押圧ローラーR1及びR2を用いた場合を例に挙げて説明する。押圧ローラーR1は、外周面が凸状に形成されている。また、押圧ローラーR2は、外周面が凹状に形成されている。
【0088】
まず、この押圧ローラーR1及びR2により、ローラー本体16を挟持する。ローラー本体16を挟持した後、当該2つの押圧ローラーR1及びR2によってローラー本体16を押圧しつつ、押圧ローラーR1及びR2を回転させる。この状態で、ローラー本体16と押圧ローラーR1及びR2とを、当該ローラー本体16の中心軸の方向に相対的に移動させる。
【0089】
押圧ローラーR1及びR2の位置を固定させておき、ローラー本体16が押圧ローラーR1と押圧ローラーR2との間を通過させる。これにより、ローラー本体16には、第1端部16fから第2端部16sへと順に押圧力が加えられることになる。この押圧力により、ローラー本体16に残留する応力が調整されることになる。
【0090】
(2)転造工程
次に、転造工程を行う場合を説明する。
転造工程は、2つの転造ローラー201,202を用いた所謂スルーフィード転造(歩み転造、通し転造とも呼ばれている)加工である。
【0091】
具体的には、図11(b)に示すように、ローラー本体16を挟むように配置された二つの転造ローラー201,202をローラー本体16に対して所定の圧力で押し付けた状態とする。この状態で、二つの転造ローラー201,202を同方向に回転させる。スルーフィード転造においては、転造ローラー201,202が回転することにより、ローラー本体16が転造ローラー201,202の回転方向とは逆方向に回転しながら、軸方向Hに移動する。
【0092】
転造ローラー201,202の表面には、高摩擦層50を形成するために、螺旋状の凹部201a,202aが形成されており、凹部201a,202aがローラー本体16の表面を変形させることにより、ローラー本体16の表面には、格子状の凹凸部203が形成される。
【0093】
このように、ローラー本体16の第1端部16fから第2端部16sへと順に凹凸部203が形成されていく。当該凹凸部203が形成されることにより、ローラー本体16に残留する応力が調整されることになる。なお、当該凹凸部203の深さ(凹凸の段差)については、5μm〜50μmの範囲で適宜設定することができる。
【0094】
なお、転造工程では、転造ローラー201、202の軸方向の寸法と、ローラー本体16の軸方向の寸法とを等しくすることにより、ローラー本体16の全体に押圧力が加えられることになる。この場合であっても、ローラー本体16に残留する応力が調整されることになる。
【0095】
(3)回転押圧工程
次に、回転押圧工程を行う場合を説明する。
回転押圧工程は、ローラー本体16に押圧部材を押圧した状態で当該ローラー本体16を回転させ、押圧部材とローラー本体16とを当該ローラー本体16の中心軸方向に相対的に移動させる工程である。
【0096】
回転押圧工程としては、図11(c)に示すようにローラー本体16を移動させる例が挙げられる。この場合、テーブルTBL上に押圧部材R3、R4を固定させておく。押圧部材R3と押圧部材R4との距離は、ローラー本体16の径よりもやや小さくなるように設定しておく。
【0097】
この状態で、ローラー本体16を回転させつつ、押圧部材R3と押圧部材R4との間にローラー本体16を通過させる。押圧部材R3及び押圧部材R4は、ローラー本体16に対して挟みつけるように押圧する。このため、ローラー本体16の第1端部16fから第2端部16sへと押圧力が加えられることになる。この押圧力により、ローラー本体16に残留する応力が調整される。
【0098】
また、回転押圧工程として、図11(d)に示すように、ローラー本体16を移動させずに押圧部材R5を移動させる例が挙げられる。この場合、ローラー本体16の位置を固定したまま中心軸を中心として回転させる。この状態で、押圧部材R5をローラー本体16に押し当て、押圧部材R5をローラー本体16の中心軸に沿って移動させる。
【0099】
このため、ローラー本体16の第1端部16fから第2端部16sへと押圧力が加えられることになる。この押圧力により、ローラー本体16に残留する応力が調整される。なお、押圧部材R5の先端(ローラー本体16に当接する部分)は、ローラー状に形成されていることが好ましい。
【0100】
なお、上記の(1)〜(3)の各工程を行う場合に、ローラー本体16の内部に芯部材(不図示)を挿入した状態で当該ローラー本体16に押圧力を加えるようにしても構わない。これにより、ローラー本体16が押圧力によって変形してしまうのを回避することができる。
【0101】
次いで、本実施形態では、形成したローラー本体16の真円度を高め、振れを少なくするべく、センターレス研磨加工を行う。この研磨工程では、図12(c)に示すように、円柱状(又は円筒状)に形成された砥石部材GDを用いてローラー本体16の外周面16aを研磨する。研磨工程では、ローラー本体16の表面から所定の深さ(30μm〜80μm程度の厚さ。以下、「研磨深さ」と表記)の部分が研磨されることになる。
【0102】
ローラー本体16の外径よりも小さい間隔を空けて配置された2つの砥石部材GDの間に当該ローラー本体16を配置させ、ローラー本体16が2つの砥石部材GDの外周部分に接した状態とする。その後、2つの砥石部材GDを同じ方向に回転させる。この2つの砥石部材GDの回転により、各砥石部材GDとローラー本体16との間に摩擦力が発生する。
【0103】
なお、2つの砥石部材GDとしては、ローラー本体16の長手方向の全体を一度に研磨できるように、長手方向(円柱の高さ方向)の寸法がローラー本体16よりも大きくなるように形成されたものを用いることが好ましい。また、砥石部材GDの回転時には、ローラー本体16の長手方向におけるマージンを確保するため、長手方向の全体が2つの砥石部材GDに接触するように、砥石部材GDの長手方向の中央部にローラー本体16を配置することが好ましい。
【0104】
砥石部材GDの回転によって発生した摩擦力により、ローラー本体16が当該砥石部材GDの回転方向とは反対方向に回転しつつ、当該ローラー本体16の外周面16aが研磨されることになる。このため、ローラー本体16の外周面16aのほぼ全面が満遍なく研磨され、研磨工程前に比べてローラー本体16の真円度がより良好になる。
【0105】
なお、応力調整工程において転造工程を行っている場合、ローラー本体16の外周面16aに形成される凹凸部203が研磨によって除去される。これを踏まえて、転造工程を行う際に、ローラー本体16のうち高摩擦層50が形成される部分については、研磨工程での研磨深さよりも深くなるように凹凸部203を形成しておく。また、高摩擦層50が形成されない部分については当該研磨深さよりも浅くなるように凹凸部203を形成しておく。
【0106】
この状態で研磨工程を行うと、ローラー本体16のうち高摩擦層50が形成される部分は凹凸部203の一部分が残った状態となる。また、ローラー本体16のうち高摩擦層50が形成されない部分は、凹凸部203が除去された状態となる。したがって、高摩擦層50を形成する工程においては、当該凹凸部203を用いることができるため、製造効率が高まることになる。
【0107】
研磨工程を行った後、真円度が高く、かつ、振れ量の小さいローラー本体16が得られる。なお、このローラー本体16にあっては、前記の両端面61a、61b間がより狭まることで、図12(a)に示すようにこれら両端面61a、61b間の隙間がより狭くされた継ぎ目80が形成される。
【0108】
なお、上記プレス加工や研磨工程では、平板部60の両端面61a、61b間の隙間が無くなるように、すなわち、両端面61a、61bが互いに当接するようにするのが好ましい。しかしながら、得られるローラー本体16の真円度や振れ量を良好にしつつ、この隙間を完全に無くすのは困難であり、現状ではある程度の隙間が形成されるようになる。
【0109】
この継ぎ目80は、前記平板部60の外周面と内周面とが同じ寸法(幅)であることにより、図12(b)に示すように、一対の端面61a、61b間の距離が、ローラー本体16の外周面16a側で相対的に広く、内周面16b側で相対的に狭くなっている。
【0110】
このようにして本発明に係る円筒軸となるローラー本体16を形成したら、このローラー本体16の表面に図3及び図4に示すような高摩擦層50を形成する。
【0111】
この高摩擦層50の形成方法としては、乾式法及び湿式法(またはこれらを併用した方法)が採用可能であるが、本実施形態では乾式法が好適に採用される。具体的には、まず、高摩擦層50の形成材料として、樹脂粒子と無機粒子とを用意する。樹脂粒子としては、エポキシ系樹脂やポリエステル系樹脂等からなる、直径10μm程度の微粒子が好適に用いられる。また、無機粒子としては、上述のように粒径が15μm以上90μm以下の範囲とされ、かつ、中心径となる加重平均の粒径(平均粒径)が、45μmとなるように調整されたアルミナ粒子が好適に用いられる。
【0112】
このアルミナ粒子としては、破砕処理によって所定の粒径分布に調整されたものが用いられる。破砕処理によって製造されることにより、このアルミナ粒子は端部が比較的鋭く尖ったものとなり、この鋭く尖った端部によって高い摩擦力を発揮するようになる。
【0113】
すなわち、本発明では、アルミナ粒子(無機粒子)としてその平均粒径(中心径)が、前述の継ぎ目80の外周面側での距離d1(30μm)より大となるものが用いられる。
また、特にその粒径分布(粒度範囲)については、継ぎ目80の外周面側での距離d1より小となり、かつ、内周面側での距離d2(10μm)より大となる粒子を含んでいるのが好ましい。さらに、その粒径分布における最小粒径が、継ぎ目80における一対の端面61a,61b間の最短距離、内周面側での距離d2より大であるのが好ましい。
【0114】
このような樹脂粒子と無機粒子とを用意したら、まず、ローラー本体16に前述の樹脂粒子を塗布する。すなわち、ローラー本体16を塗装ブース(図示せず)内に配置し、さらにこのローラー本体16を単体の状態で(マイナス)電位にしておく。
【0115】
そして、樹脂粒子を、静電塗装装置(図示せず)のトリボガンを用いてローラー本体16に向けて噴霧(噴出)し吹き付けつつ、この噴霧粒子(樹脂粒子)を+(プラス)高電位に帯電させる。すると、この帯電された樹脂粒子はローラー本体16の外周面に吸着され、樹脂膜を形成する。
【0116】
ここで、樹脂粒子の吹付による樹脂膜の形成は、図3及び図4に示した高摩擦層50の形成領域に対応させる。すなわち、ローラー本体16の全長に亘って行うことなく、その両端部をテープ等でマスキングしておくことにより、図13(a)に示すようにこの両端部を除いた上記印刷領域15Aから取付領域15Cに対応する領域にのみ、選択的に樹脂膜51を形成する。なお、図13(a)及び後述する図13(b)、(c)では、継ぎ目80については図示を省略している。
【0117】
樹脂膜51には、吹付塗装後に+0.5KV程度の微弱な静電気が残存する。なお、この吹付塗装に際しては、ローラー本体16を軸廻りに回転させることにより、その全周に亘って樹脂膜51をほぼ均一な厚さに形成する。この樹脂膜51の膜厚については、前述のアルミナ粒子の粉径を勘案して、10μm〜30μm程度に形成する。このような膜厚については、樹脂粒子の噴出量及び噴出時間等によって適宜に調整することができる。
【0118】
次いで、この樹脂膜51を形成したローラー本体16を前述の塗装ブースから取り出し、ハンドリングロボット(図示せず)によって図14に示す別の塗装ブース90に移す。
この塗装ブース90には、その下部に一対の回転駆動部材91、91が設けられており、これら回転駆動部材91、91には、ローラー本体16を略水平に支持するためのチャック92が設けられている。
【0119】
そして、ローラー本体16の両端部をチャック92、92に保持させて固定し、さらに回転駆動部材91によってチャック92、92を回転させる。これにより、ローラー本体16をその軸廻りに、100rpm〜500rpm程度の低速でゆっくり回転駆動させる。なお、ローラー本体16については、若干斜めに支持してもよいのはもちろんである。
【0120】
また、塗装ブース90には、その上部にコロナガン93が配置されており、このコロナガン93は、シャフト94上を図14中左右方向に移動するようになっている。また、塗装ブース90の底部には排気機構90aが設けられている。これにより、塗装ブース90内には下方に向かうゆっくりとした気流が形成されるようになっている。なお、この排気機構90aの吸引風量は適宜に設定されるようになっている。
【0121】
このような構成のもとに、ローラー本体16をその軸廻りに回転させつつ、コロナガン93から前述のアルミナ粒子95を噴霧し吹き付けることにより、ローラー本体16に形成した樹脂膜51上に、アルミナ粒子95を選択的に静電吸着させる。アルミナ粒子を樹脂膜51上に選択的に静電吸着させるには、樹脂膜51の形成と同様に、ローラー本体16の両端部をテープ等でマスキングしておくことで行う。
【0122】
この静電塗装時には、チャック92及び回転駆動部材91の表面電位が、ローラー本体16の電位とほぼ等しくなり、しかも塗装ブース90の内面電位が、電気的に中立で略零電位となるように設定する。コロナガン93からのアルミナ粒子95が、ローラー本体16以外の部位に吸着されないようにするためである。この塗装ブース90の内表面電位を電気的に中立に保持するためには、塗装ブース90を、内表面電気抵抗が1011Ω程度の鋼板を用いて製造するのが望ましい。
【0123】
そして、コロナガン93にかける電位を零Vとし、さらにこのコロナガン93に供給するエアーの圧力を0.2Mpa程度に低く設定する。次いで、このコロナガン93を図14中の左右方向に移動させつつ、上方より略零電位のアルミナ粒子95を吹き出させ、アルミナ粒子95を自重で鉛直方向に自然落下させる。
【0124】
すると、前述したように、ローラー本体16の樹脂膜51には、静電塗装によって形成されたことで微弱な静電気(約+0.5KV)が残存しているため、この静電気によってアルミナ粒子95が樹脂膜51の全周にほぼ均一に静電吸着する。このようにして静電吸着したアルミナ粒子95は、樹脂膜51表面に当接しさらに一部入り込んだ状態で、この樹脂膜51をバインダとしてローラー本体16の外周面に付着する。
【0125】
ここで、本実施形態では塗装ブース90の内面電位が電気的に中立で略零電位となっており、しかも塗装ブース90内の気流が下向きにゆっくりとした流れに形成されているので、アルミナ粒子95はその自重によって鉛直方向下方に自然落下する。落下方向の下方には、水平支持されたローラー本体16がその軸廻りにゆっくり回転しているので、このローラー本体16の外周面には、アルミナ粒子95がほぼ均一に散布される。
【0126】
ところで、本実施形態においては、取付領域15Cの高摩擦層50におけるアルミナ粒子95の含有率が印刷領域15Aの含有率に比べて低く設定するようにしている。そのため、塗装ブース90内において、取付領域15Cに対応する領域を覆うカバー部材101を設けるようにしている。このカバー部材101には開口部101aが形成されており、塗布されたアルミナ粒子95の一部を遮蔽することで選択的に透過させることが可能となっている。このようなカバー部材101を用いることで取付領域15Cにおけるアルミナ粒子95の付着率を制御可能となる。
【0127】
したがって、特にマスキング及びカバー部材101に覆われていない印刷領域15Aに対応する樹脂膜51の表面には密に付着したアルミナ粒子95が露出する。一方、カバー部材101に覆われている取付領域15Cに対応する樹脂膜51の表面には適度に分散した状態で付着したアルミナ粒子95が露出する。すなわち、アルミナ粒子95は、静電吸着力によって樹脂膜51に当接した際、この樹脂膜51中に一部が入り込み、残部が樹脂膜51の表面から突き出た状態になる。その際、アルミナ粒子95はローラー本体16の表面に対して垂直に立った状態になり易いため、アルミナ粒子95は均一に分布され、その殆どが鋭く尖った端部(頂部)を外側に向けて付着する。
【0128】
したがって、アルミナ粒子95は樹脂膜51の表面から突き出た端部により、高い摩擦力を発揮するようになる。ここで、アルミナ粒子95が記録紙Pに対して必要かつ十分な摩擦力を発揮するには、樹脂膜51の面積に対して、アルミナ粒子95の占める面積が20%〜80%となるようにするのが好ましい。本実施形態では、印刷領域15Aにおいては、樹脂膜51の面積に対してアルミナ粒子95の占める面積を80%に設定し、取付領域15Cにおいては、樹脂膜51の面積に対してアルミナ粒子95の占める面積を20%に設定した。
【0129】
このようにすれば、後の工程で取付領域15Cに位置決め部材14を取り付ける際に、取付領域15Cにおいてローラー本体16と位置決め部材14との間で摩擦力が大きくなり過ぎるといった不具合の発生を防止できる。よって、位置決め部材14をローラー本体16に挿通させる際の組み立て性が低下するのを防止できる。
【0130】
なお、このアルミナ粒子95の塗布(散布)については、アルミナ粒子95が鉛直方向下方にゆっくりと散布されるのであれば、静電塗装法による塗布に限定されるものではなく、スプレーガンを用いた塗布(散布)法であってもよい。
【0131】
また、カバー部材100としては、上述のような開口部100aが形成されたものに限定されることはない。例えば、開口部を有しないカバー部材をローラー本体16(取付領域15Cに対応する部分)に離間した状態で配置することでローラー本体16及びカバー部材間に生じた隙間を介してアルミナ粒子95を選択的に付着させる構成であっても構わない。なお、この構成では、上記隙間の大きさを調整することで取付領域15Cにおけるアルミナ粒子95の付着率を制御することができる。
【0132】
このようにしてアルミナ粒子95を樹脂膜51上に散布し付着させたら、このローラー本体16を180℃〜300℃程度の温度で20分〜30分間程度加熱し、樹脂膜51を焼成し硬化させる。これにより、アルミナ粒子95をローラー本体16に固着する。こうして、図13(c)に示すように樹脂膜51中にアルミナ粒子(無機粒子)95が分散し露出してなる高摩擦層50が印刷領域15A及び取付領域15Cに形成され、本発明に係る搬送ローラー15が得られる。
【0133】
なお、本実施形態では、樹脂粒子の塗布(吹付)とアルミナ粒子(無機粒子)の塗布(吹付)とを別々の塗装ブースで実施したが、同一の塗装ブース内で行ってもよいのはもちろんである。
【0134】
このようにして高摩擦層50を形成すると、特に継ぎ目80には、平板部60の端面61a、61b間の隙間に起因する溝が形成されることなく、端面61a、61b間の隙間が主にアルミナ粒子95によって埋め込まれる。
【0135】
すなわち、アルミナ粒子95としてその平均粒径が、継ぎ目80の、外周面側での距離d1より大となるものを用いているので、アルミナ粒子95はその大半が継ぎ目80内に入り込むことなく、図15に示すようにローラー本体16の外周面上に樹脂膜51を介して付着している。したがって、継ぎ目80には平板部60の端面61a、61b間に隙間が形成されているにもかかわらず、アルミナ粒子95がこの隙間上を覆うことにより、この隙間に起因する溝が実質的に形成されなくなる。
【0136】
また、アルミナ粒子95として、継ぎ目80の外周面側での距離d1(30μm)より小となり、かつ、内周面側での距離d2(10μm)より大となる粒子95aを含む粒径分布(粒度範囲)のものを用いているので、このような粒子95aが継ぎ目80に形成された隙間に入り込んでここに留まることにより、継ぎ目80による溝が確実に形成されなくなる。
【0137】
また、使用時等において、ローラー本体16(搬送ローラー15)に隙間を狭める方向に力が働いても、ここに入り込んだアルミナ粒子95aがこの力に抗するため、ローラー本体16(搬送ローラー15)の変形が抑えられる。したがって、この搬送ローラー15を備えた搬送ローラー機構19にあっては、搬送ローラー15の変形に起因する搬送ムラが防止される。
【0138】
さらに、アルミナ粒子95として、その粒径分布における最小粒径が、継ぎ目80における一対の端面61a、61b間の最短距離、つまり内周面側での距離d2より大であるものを用いているので、ローラー本体16の表面にアルミナ粒子95を配して高摩擦層50を形成した際、継ぎ目80に形成された隙間を通り抜けてローラー本体16内にアルミナ粒子95が入り込むことが無い。したがって、その後、ローラー本体16内を清浄化するなどの処理が軽減され、その分、生産性を向上することができる。
以上の工程を経て、図15に示すように樹脂膜51中にアルミナ粒子95が分散し露出してなる高摩擦層50が形成され、本実施形態の搬送ローラー15が得られる。
【0139】
以上のように、本実施形態では、金属板Mを抜き加工する際に平板部60の短辺方向両側に係合凹部65Aと係合凸部65Bとを形成し、ローラー本体16を曲げ加工によって形成する際に係合凹部65Aと係合凸部65Bとを圧入させるようにして端面61a,61b同士を当接させ、鉤形の継ぎ目80を形成している。これにより、継ぎ目80が開くような変形が防止され、高い搬送精度を長期的に維持することが可能となる。
【0140】
また、ローラー本体16を曲げ加工によって形成した後において、ローラー本体16の外周面16aのうち少なくとも高摩擦層50が形成される所定部分(印刷領域15A及び取付領域15C)に押圧力を加え、ローラー本体16に残留する応力を調整することとしたので、少なくとも当該所定部分において残留応力が均一化される。このため、当該所定部分におけるローラー本体16の形状変化を抑制することができる。これにより、安定した形状の搬送ローラー15を製造することができる。
【0141】
また、本実施形態によれば、応力調整工程において、ローラー本体16の外周面16aの全面に対して押圧力を加えることとしたので、ローラー本体16の全面における残留応力が均一に調整されることになる。これにより、搬送ローラー15全体の形状を安定化させることができる。
【0142】
また、応力調整工程においては、ローラー本体16の第1端部16fから第2端部16sに向けて順に押圧力を加えることとしたので、必ずしも大掛かりな装置を用いることなく当該工程を行うことができる。また、応力調整工程において、ローラー本体16の内部に芯部材を挿入した状態で押圧力を加える場合には、ローラー本体16の変形を抑制することができる。
【0143】
本発明の技術範囲は上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更を加えることができる。
【0144】
上記実施形態では、ローラー本体16における一方の端部16B側に取付領域15Cを1個だけ設ける構成について説明したが、ローラー本体16が駆動部30側及びその反対側に位置ズレを生じる場合には、駆動部30と反対側の支持領域15Bの近傍にも取付領域15Cを設けることができる。この構成によれば、ローラー本体16における両方の端部16A,16Bの位置が位置決め部材14により固定されるので、信頼性の高い搬送動作を行うことができる。
【0145】
また、上記実施形態においては、ローラー本体16は、亜鉛メッキ鋼板やステンレス鋼板等の金属板が巻回された鋼板コイルを母材として形成されている構成としたが、これに限られることは無い。平板状の金属板を母材とし、当該平板金属板から上記平板部60とほぼ同形同寸法の金属板を形成して、当該金属板を加工することでローラー本体16を形成しても構わない。したがって、上記説明あるいは以下の記載において、平板部60を当該金属板に置き換えた場合であっても適用可能である。
【0146】
また、ローラー本体16に形成された継ぎ目80の一部には、図16(a)に示すように、開口170が設けてもよい。
ローラー本体16に形成される継ぎ目80は、図16(b)に示すように、一対の端面61a,61bの内周側が密着し、外周側が離間した溝状になっている。或いは、継ぎ目80は、一対の端面61a,61b同士が当接することなく、端面61a,61bが僅かに離間して、隙間として形成される場合もある。そして、この継ぎ目80が搬送ローラー15の全長に亘って形成されるので、軸受26A,26Bに供給したグリスLが搬送ローラー15の表面に付着すると、グリスLは継ぎ目80を毛細管現象により伝わり流れるようになる。特に、搬送ローラー15の強度を向上させるため、継ぎ目80(端面61a,61bの最大距離d1)を小さくする程、グリスLの毛細管現象が強くなって、グリスLが継ぎ目80に沿って流れやすくなる。
【0147】
そこで、図16(c)に示すように、ローラー本体16に形成された継ぎ目80の一部には、開口170が設けられている。この開口170は、図16(c)に示すように、継ぎ目80を形成する一対の端面61a、61bにそれぞれ設けられた切欠部176,177により形成される。端面61a、61bを突き合わせたときに、切欠部176,177の間の最大距離d2が1mm程度以上となるように設定され、開口170として機能する。
【0148】
開口170は、搬送ローラー15(ローラー本体16)の全長に亘って形成された継ぎ目80のうち、高摩擦層50が形成された領域(印刷領域15A)と軸受26A,26Bに支持される領域(支持領域15B,15B)を除く領域に設けられる。つまり、高摩擦層50は搬送ローラー15のほぼ中央部に形成され、搬送ローラー15の両端側が軸受26A,26Bに支持されるので、搬送ローラー15には少なくとも2つの開口170が設けられる。
【0149】
開口170は、軸受26A,26Bに供給(塗布)されたグリスL(潤滑油)が継ぎ目80(端面61a、61bの隙間)に沿って高摩擦層50まで達することを防止する目的で設けられる。すなわち、継ぎ目80の一部に開口170を設けることで、グリスLの毛細管現象を止めている。具体的には、継ぎ目80のうち、軸受26A,26Bに支持される領域(支持領域15B,15B)と高摩擦層50が形成された領域(印刷領域15A)の間に開口170を設けることで、グリスLが高摩擦層50に達することを防止している。そして、開口170の大きさ(一対の切欠部176,177間の最大距離d2)を調整することで、グリスLの毛細管現象を確実に止めることができる。
【0150】
なお、継ぎ目80を形成する一対の端面61a、61bのそれぞれに、開口170を形成するための切欠部176,177を形成する場合に限らない。つまり、図16(d)に示すように、継ぎ目80を形成する一対の端面61a、61bの一方(端面61a)にのみに切欠部178を形成して、切欠部178と端面61bとにより開口170が形成される場合であってもよい。また、開口170の形状としては、矩形に限らず、円形等であってよい。
【0151】
また、ローラー本体16に形成される継ぎ目80の形状を、図17(a)に示すような形状にしてもよい。すなわち、継ぎ目80は、第1端面274と第2端面275とが、ローラー本体271の外周面271a側で互いに接している。第1端面274と第2端面275との間の隙間は、径方向外側から内側に向かうに従い漸次幅広となっている。
【0152】
また、第1端面274と外周面271aとで形成される第1角度α、及び第2端面275と外周面271aとで形成される第2角度βは、いずれも90°より小さく形成されている。
【0153】
継ぎ目80の第1端面274及び第2端面275は外周面271a側で互いに接しており、接続部276において外周面271a側の平滑度が向上している。そのため、搬送ローラー15が回転してもその外周面は記録紙Pと安定して接触することができる。このため、記録紙Pを高い精度で搬送することができる。
【0154】
継ぎ目80の形状は、図17(b)に示すように、継ぎ目80の第1端面274と外周面271aとで形成される第1角度αは、90°より小さく形成され、第2端面275と外周面271aとで形成される第2角度βは、90°以上の大きさで形成してもよい。すなわち、接続部276における第1端面274及び第2端面275が、周方向に関して所定の方向に傾いた形状としてもよい。
【0155】
なお、継ぎ目80の形状は、以下の工程を経て形成される。すなわち、順送プレス加工における打ち抜き加工によって金属板270を形成した後に、金属板270の第1端面274及び第2端面275に対して、端面調整加工を実施し、第1端面274及び第2端面275の、外周面271aに対する傾きを調整する。
【0156】
図17(c)に示すように、プレス加工によって第1端面274及び第2端面275の外周面271aに対する傾きを調整する。この調整により、第1端面274と外周面271aとで形成される第1角度α、及び第2端面275と外周面271aとで形成される第2角度βは、いずれも90°より小さくなる。
【0157】
したがって、金属板270を曲げ加工して円筒状のローラー本体271を成形したときに、第1端面274と第2端面275とは少なくとも外周面271a側で互いに接することになる。
【0158】
図18(a)、(b)に示すように、円筒状のパイプ(中空パイプ)からなるローラー本体16の取付領域15Cのうち位置決め部材14を固定する部分の相対向する位置、すなわちローラー本体16の直径を規定する二点の形成面に、それぞれ貫通孔71a、71aを形成し、これら一対の貫通孔71a、71aを含んでなる係合孔(開口部)71を形成することができる。また、位置決め部材14の内周面には、係合孔71に嵌合する突起部14bが形成されている。この構成によれば、突起部14bを係合孔71に嵌合することでローラー本体16に対して位置決め部材14を所定位置に良好に固定することができる。また、位置決め部材14は、上述の高摩擦層50に加え、突起部14bと係合孔71とが係合するため、ローラー本体16に対し、ローラーの軸方向における位置ズレが生じ難いものとなる。よって、長期に亘って良好な紙送り精度を得ることができる。
【0159】
以上、添付図面を参照しながら本発明に係る好適な実施形態について説明したが、本発明は係る例に限定されないことは言うまでもない。当業者であれば、特許請求の範囲に記載された技術的思想の範疇内において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【符号の説明】
【0160】
15…搬送ローラー、15A…印刷領域、15C…取付領域、16…ローラー本体、50…高摩擦層、71…係合孔(開口部)80…継ぎ目、95a…アルミナ粒子、101…カバー部材、270…金属板
【技術分野】
【0001】
本発明は、搬送ローラー、及び印刷装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、シート状の記録媒体上に情報を印刷する印刷装置が用いられており、この印刷装置には記録媒体を搬送する搬送装置が設けられている。この搬送装置は、回転することで記録媒体を搬送する搬送ローラーと、当該搬送ローラーに付勢されて当接された従動ローラーとを有しており、搬送ローラーと従動ローラーとで記録媒体を挟持して搬送するようになっている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平10−67444号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、ローラーの軸方向における位置が変わってしまうと、搬送ローラーの端部に設けられたギアが駆動部から外れる(所謂ギア抜け)が発生し、記録媒体の送り動作ができなくなるおそれがある。そのため、搬送ローラーを簡便且つ確実に固定することのできる手法の提供が望まれていた。
【0005】
本発明はこのような事情に鑑みてなされたものであって、簡便な構成により確実に位置決めがされることで良好な送り精度を備えた搬送ローラー、及び印刷装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の課題を解決するために、本発明の搬送ローラーは、金属板の対向する一対の端面(61a,61b)が近接あるいは当接するように円筒状に形成され、前記一対の端面が軸方向に延在する継ぎ目(80)を有し、ローラー本体(16)の表面に高摩擦層(50)を有する印刷領域(15A)が形成された搬送ローラー(15)であって、前記ローラー本体の駆動部(30)側の軸受(26B)に対する位置決め部材(14)が取り付けられる取付領域には、前記高摩擦層が塗布されていることを特徴とする。
【0007】
本発明の搬送ローラーによれば、取付領域に高摩擦層が塗布されているので、位置決め部材とローラー本体との間に摩擦力が向上することで位置決め部材にガタツキが生じるのを防止できる。また、印刷領域に形成される高摩擦層を利用して位置決め部材の固定を行うため、位置決め部材を固定するために別途に、部品を用意する或いは表面処理を行うといった手間が不要となり、搬送ローラーにおける製造コストが増加するのを防止できる。よって、搬送ローラーを簡便且つ確実に所定位置に位置決めすることができるので、紙送りの精度を良好に確保することができる。
【0008】
また、上記搬送ローラーにおいては、前記位置決め部材は、ローラー本体に挿通されることで取り付けられているのが好ましい。
この構成によれば、ローラー本体の周方向の全周に亘って位置決め部材にガタツキが発生するのを防止できる。
【0009】
また、上記搬送ローラーにおいては、前記取付領域には、前記位置決め部材に設けられた突起部を嵌合させる開口部が形成されているのが好ましい。
この構成によれば、位置決め部材の突起部が開口部に嵌合することでローラー本体に対して位置決め部材を所定位置に良好に固定することができる。
【0010】
また、上記搬送ローラーにおいては、前記高摩擦層は無機粒子を含んでおり、該無機粒子が酸化アルミニウムから構成されるのが好ましい。
この構成によれば、酸化アルミニウムからなる微粒子が位置決め部材とローラー本体との間の隙間を埋めることで位置決め部材にガタツキが生じるのを防止できる。
【0011】
また、上記搬送ローラーにおいては、前記取付領域の高摩擦層における無機粒子の含有率は、前記印刷領域の高摩擦層における含有率に比べて低く設定されるのが好ましい。
このようにすれば、取付領域における微粒子の含有率が印刷領域に比べて低くなるので、取付領域においてローラー本体及び位置決め部材間の摩擦力が大きくなりすぎることで、位置決め部材の組み立て性が低下するのを防止できる。
【0012】
本発明の印刷装置は、上記搬送ローラーを備えたことを特徴とする。
本発明の印刷装置によれば、位置決め部材がローラー本体に良好に保持されてなる搬送ローラーを備えているので、この印刷装置自体も、高い送り精度を備えた信頼性の高いものとなる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の実施形態に係るインクジェットプリンターの側断面図。
【図2】(a)はインクジェットプリンターの搬送ユニットを示す平面図、(b)は搬送ユニットの駆動系を示す側面図。
【図3】(a)は搬送ローラー機構の概略構成を示す図、(b)は軸受の概略構成を示す図、(c)はローラー本体の要部を示す部分拡大図。
【図4】搬送ローラーの構成を示す側面図。
【図5】実施形態の搬送ローラーの製造装置の模式図。
【図6】本実施形態に係る抜き工程の工程断面図である。
【図7】第1プレス機によって抜き加工された金属板の平面図。
【図8】(a)〜(c)は第2プレス機による曲げ工程を示す側面図。
【図9】図8に続く第2プレス機による曲げ工程を示す側面図。
【図10】図9(a)〜図9(c)、図10(a)〜図10(c)に示す工程を経て平板部が段階的に円筒状に形成された金属板を示す平面図。
【図11】(a)〜(d)は本実施形態に係るロールレベラー工程の態様を示す工程図。
【図12】(a)ローラー本体の斜視図、(b)は繋ぎ目の側断面図、(c)はセンターレス研磨工程の工程図。
【図13】(a)〜(d)はローラー本体への高摩擦層の形成工程を示す図。
【図14】高摩擦層を形成するための塗装ブースの概略構成図。
【図15】ローラー本体の繋ぎ目とその近傍の要部拡大図。
【図16】(a)〜(d)はローラー本体の構成を示す概略図。
【図17】(a)〜(c)はローラー本体の構成を示す概略図。
【図18】(a)はローラー本体の要部斜視図、(b)は断面図。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照して説明する。
なお、以下の説明に用いる各図面では、各部材を認識可能な大きさとするため、各部材の縮尺を適宜変更している。
【0015】
図1は、本発明の実施形態に係るインクジェットプリンターの側断面図である。
図2(a)はインクジェットプリンターの搬送ユニットを示す平面図、図2(b)は搬送ユニットの駆動系を示す側面図である。
【0016】
図1に示すように、インクジェットプリンター(印刷装置)1は、プリンター本体3と、プリンター本体3の後側上部に設けられた給紙部5と、プリンター本体3の前側に設けられた排紙部7と、を備えている。
【0017】
給紙部5には給紙トレイ11が設けられており、給紙トレイ11には複数枚の記録紙(媒体、記録媒体、搬送媒体)Pが積載されるようになっている。ここで、記録紙Pとしては、普通紙、コート紙、OHP(オーバーヘッドプロジェクター)用シート、光沢紙、光沢フィルム等が用いられる。以下、記録紙Pの搬送経路において、給紙トレイ11側を上流側、排紙部7側を下流側という。給紙トレイ11の下流側には、給紙ローラー13が設けられている。
【0018】
給紙ローラー13は、対向する分離パッド(図示せず)との間で給紙トレイ11の最上部に位置する記録紙Pを挟圧し、下流側へ送り出すように構成されている。給紙ローラー13の下流側には、搬送ローラー機構19が設けられている。
【0019】
搬送ローラー機構19は、下側に配置された搬送ローラー15と、上側に配置された従動ローラー17とを備えている。
【0020】
搬送ローラー15は、従動ローラー17との間に記録紙Pを挟圧し、図2に示す駆動部30により回転駆動するように設けられている。これにより、搬送ローラー15は、記録紙Pを下流側に配置された記録ヘッド(印刷部)21へ、搬送印刷処理に伴う精密で正確な搬送(紙送り)動作により搬送することができるようになっている。
【0021】
記録ヘッド21はキャリッジ23に保持されており、キャリッジ23は給紙方向(記録紙Pの搬送方向)と直交する方向に往復移動するよう構成されている。記録ヘッド21による印字処理(印刷処理)は、制御部CONTによって制御されるようになっている。記録ヘッド21と対向する位置には、プラテン24が配設されている。
【0022】
プラテン24は、キャリッジ23の移動方向に沿って間隔をあけて配置された、複数のダイヤモンドリブ25によって構成されている。
【0023】
ダイヤモンドリブ25は、記録ヘッド21によって記録紙Pに印刷を行う際に記録紙Pを下側から支持するものであり、頂面が支持面として機能するようになっている。ダイヤモンドリブ25と記録ヘッド21との距離は、記録紙Pの厚さに応じて調節可能になっている。これにより、記録紙Pはダイヤモンドリブ25の頂面上を滑らかに通過することが可能となっている。ダイヤモンドリブ25及び記録ヘッド21の下流側には、排紙ローラー機構29が設けられている。
【0024】
排紙ローラー機構29は、下側に配置された排紙ローラー27と上側に配置された排紙ギザローラー28とを備え、排紙ローラー27の回転駆動によって記録紙Pを引き出し、排出するようになっている。
ここで、搬送ローラー機構19及び排紙ローラー機構29の駆動部30及び搬送ローラー15、排紙ローラー27の駆動速度の関係について説明する。
【0025】
プリンター本体3には、図2(a)及び図2(b)に示すように、制御部CONTの制御下で駆動される搬送モーター32が設けられている。この搬送モーター32の駆動軸にはピニオン33が設けられており、ピニオン33には搬送駆動ギア35が歯合しており、搬送駆動ギア35には搬送ローラー15が内挿されて連結されている。
このような構成のもとに搬送モーター32等は、搬送ローラー15を回転駆動する駆動部30となっている。
【0026】
また、搬送ローラー15には、その軸方向一方の端部側に搬送駆動ギア35と同軸にインナーギア39が設けられており、このインナーギア39には中間ギア41が歯合しており、中間ギア41には排紙駆動ギア43が歯合している。排紙駆動ギア43の回転軸は、図2(a)に示すように排紙ローラー27の軸体45となっている。
【0027】
このような構成のもとに、搬送ローラー機構19の搬送ローラー15と排紙ローラー機構29の排紙ローラー27とは、同一の駆動源である搬送モーター32からの回転駆動力を受け、駆動されるようになっている。
【0028】
なお、排紙ローラー27の回転速度は、各ギアのギア比を調整することにより、搬送ローラー15の回転速度より速くなるように設定されている。したがって、排紙ローラー機構29の排紙速度は、搬送ローラー機構19の搬送速度より増速率だけ速くなっている。
【0029】
また、搬送ローラー機構19による記録紙Pの挟持力(押圧力)は、排紙ローラー機構29による挟持力(押圧力)よりも大きく設定されている。したがって、搬送ローラー機構19と排紙ローラー機構29とが共に記録紙Pを挟持しているとき、その記録紙搬送速度は、排紙ローラー機構29の排紙速度とは関係なく、搬送ローラー機構19の搬送速度で規定されるようになっている。
【0030】
次に、搬送ローラー15及びこれを備える搬送ローラー機構19について説明する。
図3(a)は搬送ローラー機構の概略構成を示す図であり、図3(b)は軸受の概略構成を示す図であり、図3(c)はローラー本体16の要部を示す部分拡大図である。図4は搬送ローラー15の構成を示す側面図である。
搬送ローラー15は、中空円筒状のローラー本体(円筒軸)16と、ローラー本体16の表面の長手方向(軸方向)の一部に形成された高摩擦層(媒体支持領域)50とを有している。搬送ローラー15の外周面(表面)には、記録紙Pに接触する印刷領域15Aと、軸方向に沿う印刷領域15Aの両側に設けられる一対の支持領域15Bと、駆動部30側の支持領域15Bに近接して設けられる取付領域15Cと、が設定されている(図4参照)。
【0031】
取付領域15Cは、搬送ローラー15を所定位置に位置決めする位置決め部材14を取り付けるための領域である。位置決め部材14には開口部14aが形成されており、この開口部14aにローラー本体16を挿通させることで位置決め部材14が取付領域15Cに取り付けられている。なお、開口部14aの内径とローラー本体16との外径とは、略同じまたは僅かに開口部14aの内径の方が大きくなる(20μm程度)ように設定されている。
【0032】
なお、本実施形態においては、ローラー本体16は、端部16Aの位置が駆動部30と反対側に移動することが制限された状態でプリンター本体3内に組み込まれている。そのため、上記取付領域15Cの位置決め部材14は、ローラー本体16の端部16Bの位置が駆動部30側に位置ズレすることを防止するためのものである。
【0033】
位置決め部材14は搬送ローラー15が上記軸受26A,26Bに保持された際に、軸受26Bの壁面に当接する位置に取り付けられるようになっている。搬送ローラー15は、位置決め部材14が軸受26Bに当接することで、その軸方向(駆動部30側)における動きが規制されたものとなっている。
【0034】
高摩擦層50は、図3(a)及び図4に示すようにローラー本体16の軸方向両端部を除く中央部に選択的に形成されている。具体的に、上記高摩擦層50は印刷領域15Aから取付領域15Cに亘って形成されている。高摩擦層50の表面には、無機粒子の鋭く尖った部分が露出した状態で固定され、高い摩擦力を発揮するようになっている。
【0035】
高摩擦層50は、ローラー本体16の表面の所定領域に樹脂粒子を10μm〜30μm程度の均一な膜厚で選択的に塗布して樹脂膜を形成し、その樹脂膜の上に無機粒子を均一に散布した後、焼成することにより形成されている(図15参照)。樹脂粒子としては、エポキシ系樹脂やポリエステル系樹脂等からなる、直径10〜20μm程度の微粒子が好適に用いられる。また、無機粒子としては、破砕処理によって所定の粒径分布に調整された酸化アルミニウム(アルミナ;Al2O3)や炭化珪素(SiC)、二酸化珪素(SiO2)等のセラミックス粒子が好適に用いられる。中でもアルミナは、比較的硬度が高く摩擦抵抗を高める機能が良好に発揮され、また、比較的安価であってコストダウンを妨げることもないため、より好適に用いられる。したがって、本実施形態では無機粒子としてアルミナ粒子を用いるものとする。
【0036】
また、このアルミナ粒子としては、本実施形態では粒径が15μm以上90μm以下の範囲とされ、かつ、中心径となる加重平均の粒径(平均粒径)が、45μmとなるように調整されたものが用いられている。
【0037】
このように印刷領域15Aにおいては、高摩擦層50(無機粒子)の働きにより、記録紙Pを支持して高精度に搬送できるようになっている。一方、取付領域15Cにおいては、高摩擦層50(無機粒子)の働きにより、位置決め部材14とローラー本体16との摩擦力を向上させ、位置決め部材14にガタツキを生じさせることなくローラー本体16に挿通されたものとしている。よって、位置決め部材14は取付領域15Cに確実に保持されることとなり、位置決め部材14の取付位置にガタツキ或いは位置ズレが生じることで搬送ローラー15がローラー本体16の軸方向に沿って位置ズレを生じるといった不具合の発生を防止している。したがって、搬送ローラー15の一方の端部16Bに取り付けられた搬送駆動ギア35がピニオン33から外れる、或いは、インナーギア39が中間ギア41から外れるといった、所謂ギア外れに起因した搬送動作不良の発生が防止されたものとなっている。
【0038】
また、本実施形態では、取付領域15Cの高摩擦層50における無機粒子の含有率が印刷領域15Aの含有率に比べて低く設定されている。本実施形態では、後述のように、印刷領域15Aにおいては樹脂膜51の面積に対してアルミナ粒子95の占める面積を80%に設定し、取付領域15Cにおいては樹脂膜51の面積に対してアルミナ粒子95の占める面積を20%に設定した。この構成によれば、取付領域15Cにおいてローラー本体16と位置決め部材14との間で摩擦力が大きくなりすぎることで位置決め部材14をローラー本体16に挿通させる際の組み立て性が低下するのを防止できる。
【0039】
ローラー本体16は、亜鉛メッキ鋼板やステンレス鋼板等の金属板が巻回された鋼板コイルを母材として形成されている。ローラー本体16は、コイルを巻き戻した金属板の一対の各端面が対向するように曲げ加工され、コイルの内周面側であった面が内周面となる円筒状に形成された円筒軸である。すなわち、ローラー本体16を形成する金属板は、コイルによる巻きぐせが円筒の内周面側に反るように残った状態で円筒状に形成されている。
【0040】
また、ローラー本体16は、曲げ加工されて突き合わされた金属板の一対の端面61a,61b間に形成された継ぎ目80を有している。ローラー本体16は、周方向(曲げ方向)とコイルの巻回方向(金属板の圧延方向)とが同一となっており、継ぎ目80はローラー本体16の軸方向と略平行に形成されている。
【0041】
搬送ローラー15は、図3(a)及び図4に示すように、その両端(第1端部16f及び第2端部16s)がプラテン24(図1参照)に一体成形された軸受26A,26Bに回転可能に保持されている。図3(b)に示すように、軸受26A,26Bは、上方に開口するU字形に形成され、このU字形部位に搬送ローラー15を嵌め込むことで、搬送ローラー15を前後側及び下側の3方向から軸支する。そして、軸受26A,26Bと搬送ローラー15との接触面(搬送ローラー15の外周面)には、グリス等の潤滑油(潤滑剤)Gが供給(塗布)される。
【0042】
図3(a)及び図3(c)に示したように、搬送ローラー15を構成するローラー本体16(搬送ローラー15)は、継ぎ目80を形成する一対の端面61a,61bに、これら一対の端面61a,61bの一部を周方向に互いに係合させる係合部65が形成されている。係合部65は、ローラー本体16の軸方向における駆動部30側の第2端部16sに形成されている(図4参照)。
【0043】
具体的には、係合部65は、高摩擦層50が形成される領域(印刷領域15A及び取付領域15C間)及び軸受26A,26Bによって支持される領域(支持領域15B,15B)を避けた位置であって、ローラー本体16の軸方向一方の第2端部16s側に設けられたインナーギア39(図3(a))と、このインナーギア39に近い方の軸受26B(図3(a))との間に位置するように形成されており、なるべく駆動部30に近い位置に形成されることが望ましい。係合部65を印刷領域15Aに設けてしまうと画像の乱れや搬送精度の低下に繋がる。また、軸受26A,26B(図3(a))が配置される部分に設けてしまうと軸受26A,26Bの磨耗が激しくなるなど、不具合が生じるおそれがあるからである。
【0044】
係合部65は、継ぎ目80を形成する金属板の一対の端面61a,61bのうち、一方の端面61a側に形成された係合凹部65Aと、他方の端面61b側に形成され係合凹部65Aに係合される係合凸部65Bとにより鉤形に構成されている。係合凸部65Bは、搬送ローラー15の正転方向に向かって突出しており、係合凹部65Aに圧入された状態で係合している。このような係合部65を上述したように駆動部30に近い側に設けることで、回転トルクに対する強度が増すこととなり搬送ローラー15のねじれを防止し得る構成となっている。
【0045】
従動ローラー17は、複数(例えば6個)のローラー17aが同軸に配列されて構成されたもので、搬送ローラー15の高摩擦層50に対向しかつ当接する位置に配置されたものである。これらローラー17aからなる従動ローラー17には、付勢バネ(図示せず)が取り付けられており、これによって従動ローラー17は、搬送ローラー15側に付勢されている。
【0046】
したがって、従動ローラー17は、搬送ローラー15の高摩擦層50に所定の押圧力(記録紙Pに対する挟持力)で接し、搬送ローラー15の回転動作に従動して回転するようになっている。また、搬送ローラー15と従動ローラー17との間で記録紙Pを挟持する力が大きくなり、記録紙Pの搬送性がより良好になっている。
【0047】
なお、この従動ローラー17の各ローラー17aの表面には、高摩擦層50との摺接による損傷を緩和するため、フッ素樹脂塗装等の低摩耗処理が施されている。
【0048】
以上の搬送ローラー15、軸受26A,26B、駆動部30及び従動ローラー17等により、インクジェットプリンター1の搬送部20が構成されている。搬送部20は、上述のように高い搬送精度が得られる搬送ローラー15を一対の軸受26A,26Bにより支持して回転させ、高摩擦層50により記録紙Pを支持して高精度に搬送することができる。また、搬送部20は、高摩擦層50が形成された取付領域15Cに設けられた位置決め部材14により搬送ローラー15の軸方向の位置ズレが防止されたものとなっているので、ギア外れの発生を防止し、長期に亘って記録紙Pを高精度で搬送可能な信頼性の高いものとなる。また、ローラー本体16に位置決め部材14を保持する手段として高摩擦層50を利用することで、位置決め部材14を固定するために別途、部品を用意する或いは表面処理を行うといった手間を不要にしている。これにより、搬送ローラー15における製造コストが増加するのを防止できる。
【0049】
次に、インクジェットプリンター1の動作について、図1、図2を参照して説明する。
【0050】
インクジェットプリンター1は、給紙トレイ11の最上部に位置する記録紙Pを給紙ローラー13によって挟圧して下流側へ送り出す。送り出された記録紙Pは搬送ローラー機構19に至る。搬送ローラー機構19は、記録紙Pを搬送ローラー15と従動ローラー17との間で挟圧し、搬送ローラー15の回転駆動による紙送り動作で記録ヘッド21の下方に向けて定速で搬送する。記録ヘッド21の下方に搬送された記録紙Pは、ダイヤモンドリブ25の頂面上を滑らかに通過しつつ、記録ヘッド21によって高品質に印刷される。記録ヘッド21で印刷された記録紙Pは、排紙部7の排紙ローラー27によって順次排出される。
【0051】
排紙ローラー機構29の搬送速度は搬送ローラー機構19の搬送速度より速く設定されているため、記録紙Pはバックテンションが掛かった状態で搬送される。ただし、搬送ローラー機構19と排紙ローラー機構29とが共に記録紙Pを挟持しているときには、その記録紙搬送速度は搬送ローラー機構19の搬送速度で規定されている。したがって、このように排紙ローラー機構29と搬送ローラー機構19とによって排紙と搬送とを同時に行う際にも、その記録紙の搬送速度は搬送ローラー機構19の搬送速度で規定されている。
そのため、搬送ムラのない正確で安定した紙送り(搬送)がなされるようになる。
【0052】
ここで、搬送ローラー15の高摩擦層50において記録紙Pを支持して搬送する際には、ローラー本体16にトルクが作用する。すると、ローラー本体16を形成する金属板の一対の端面61a,61bの継ぎ目80(図4参照)が開く方向に応力が作用する。ローラー本体16の継ぎ目80が開くと、記録紙Pに対して搬送ローラー15が均一に接しなくなり、搬送ムラが発生する。
【0053】
しかし、本実施形態では、搬送ローラー15のローラー本体16においてその継ぎ目80の一部分がかぎ型となっており、上述したように、ローラー本体16の継ぎ目80を形成する金属板の端面61a,61bに係合部65が形成されている。これにより、ローラー本体16に回転トルクが作用しても端面61a,61bの継ぎ目80が開く方向に応力が作用するのを防止することができる。
【0054】
また、係合部65は、継ぎ目80を形成する一方の端面61bに正転方向(記録紙Pを繰り出す方向)へ突出するようにして形成された係合凸部65Bが、他方の端面61aの周方向で対向する位置に形成された係合凹部65Aに圧入された状態で嵌合されている。
このため、駆動部30からの最大トルクに耐えることができ、搬送ローラー15のねじれが防止されて継ぎ目80が開くなどの変形が生じるのを効果的に防止することができる。
【0055】
また、本実施形態では、搬送ローラー15の一方の端部(第2端部16s)側に1つの係合部65が形成されている。搬送ローラー15の両方の端部(第1端部16f、第2端部16s)に設けた場合、両方の端部が固定されているため、連続駆動等により搬送ローラー15に作用する軸回りの回転トルクが大きくなると搬送ローラー15に作用するねじれが大きくなり、ねじれによる大きなエネルギーが蓄積されてしまう。こうなると、トルクが作用しない状態になっても元に戻ることなく変形してしまう。これは、搬送ローラー15の軸方向で複数設けた場合も同様である。
【0056】
これに対し、本実施形態のように駆動部30に近い側に係合部65を1箇所だけ設けることで、駆動部30とは反対側の端部(16A)側の継ぎ目80部分において端部62a,62b(端面61a,61b)どうしが軸方向にずれるなどして応力を逃がすことが可能となる。そのため、このときの変形は搬送ローラー15の回転が停止した後の回転トルクがかかっていない状態において元に戻るものであり、搬送ローラー15にねじれ変形が残ることはない。
【0057】
また、係合部65は軸受分や印字領域を避けた領域に形成する必要があるので、両端に係合部65をそれぞれ設ける場合は、搬送ローラー15の軸方向での小型化は困難である。本実施形態では、搬送ローラー15の一端側に係合部65を一端側にのみ設けた構成としてあるので搬送ローラー15を短くすることができ、装置全体の小型化を実現することができる。
【0058】
また、係合部65は、係合凹部65Aに係合凸部65Bを圧入させているため、継ぎ目80の長さが係合部65のない従来の構成に比べて長くなる。このため、係合部65を複数設けてしまうと搬送ローラー15が軸方向に反りやすくなってしまう。このような搬送ローラー15の軸方向への反りを防ぐためにも係合部65の数は少ない方が適している。
【0059】
また、本実施形態では、搬送ローラー15のローラー本体16は、鋼板コイルによる巻きぐせが残った金属板により形成され、コイルの内周側であった面が内周面となる円筒状に形成されている。鋼板コイルによる金属板の巻きぐせは、鋼板コイルの内周面であった面が凹面となるような反りである。すなわち、ローラー本体16を形成する金属板には、ローラー本体16の内周面側に反るような巻きぐせが残っている。
【0060】
そのため、少なくともローラー本体16の継ぎ目80を開く方向には巻きぐせが作用しなくなる。したがって、ローラー本体16の外周面側に反るような巻きぐせが残っている場合と比較して、ローラー本体16の継ぎ目80を開き難くすることができる。すなわち、本実施形態によれば、ローラー本体16の継ぎ目80を開く方向に応力が作用した場合であっても、継ぎ目80が開くことを防止することができ、高い搬送精度が得られる搬送ローラー15を提供することができる。
【0061】
また、ローラー本体16の周方向(曲げ方向)と鋼板コイルの巻回方向(金属板の圧延方向)とが同一となっている。そのため、ローラー本体16を形成する金属板の曲げ方向と巻きぐせによる反りの方向とを一致させることができる。これにより、ローラー本体16を形成する金属板の巻きぐせが、ローラー本体16の継ぎ目80を閉じる方向に作用する。したがって、ローラー本体16の継ぎ目80の開きをより効果的に防止することができる。
【0062】
また、ローラー本体16に中空の円筒軸を採用することで、中実軸を用いる場合と比較して重量を大幅に減少させることができる。また、ローラー本体16に中実軸を用いる場合と比較して材料の切削性に対する要求が低くなる。したがって、ローラー本体16の材料として鉛等の有害物質を含まない材料を用いることが可能になり、環境負荷を低減することができる。
【0063】
また、搬送ローラー15には高摩擦層50が形成されており、従動ローラー17がこの高摩擦層50に当接する位置に配置されている。そのため、これら搬送ローラー15と従動ローラー17との間で記録紙Pを挟持する力が大きくなり、記録紙Pの搬送性がより良好になっている。また、搬送ローラー15における位置決め部材14が取り付けられる取付領域15Cには高摩擦層50が形成されているので、位置決め部材14がローラー本体16に良好に固定されることで搬送ローラー15の軸方向の位置ズレが防止されたものとなる。よって、ギア外れの発生を防止し、長期に亘って記録紙Pを高精度で搬送可能な信頼性の高いものとなる。このように、本実施形態のインクジェットプリンター1は、搬送部20によって記録紙Pを長期に亘って高精度に搬送することができ、記録紙Pに高い印刷精度で信頼性の高い印刷処理を行うことできる。
【0064】
次に、搬送ローラー15の製造装置について説明する。
図5は、本実施形態の搬送ローラー15の製造装置の模式図である。
図5に示すように、製造装置100は、アンコイラー110と、レベラー120と、第1プレス機130と、第2プレス機140とが、一方向に配置された構成となっている。
また、製造装置100は、コイルCから巻き戻された金属板Mを一方向に送る不図示の搬送部と、加工された円筒軸を金属板Mから切り離す不図示の切断部とを備えている。
アンコイラー110は、金属板Mが圧延方向に巻回された円筒状のコイル(鋼板コイル)Cを軸回りに回転可能に支持し、コイルCを巻き戻すためのものである。
【0065】
レベラー120は、上下に交互に配置された複数のワークロール121を備え、これら上下のワークロール121の間に金属板Mを通すことで、金属板Mを平坦化するように構成されている。本実施形態のレベラー120は、金属板MのコイルCによる巻きぐせ(反り)を完全には除去せず、第1プレス機130による加工が可能な程度に巻きぐせを調整するようになっている。
【0066】
第1プレス機130は雄型(パンチ)131と雌型(ダイ)132とを備え、プレスにより金属板Mを所定の形状に抜き加工するように構成されている。
第2プレス機140は、一方向に配置された複数の雌型(曲げダイ)141,143及び雄型(曲げパンチ)142,144、並びに、上型145及び下型146を備え、プレスにより金属板Mを曲げ加工をするように構成されている。そして、不図示の搬送部により金属板Mを一方向に間欠的に送りながら、順次、異なる型により曲げ加工を行うこと(順送)で、金属板Mを徐々に円筒に近づけるように構成されている。
【0067】
次に、搬送ローラー15の製造方法について説明する。
まず、板厚が0.8mm〜1.2mm程度の冷間圧延鋼板や電気亜鉛めっき鋼板等の金属板Mが圧延方向に巻回されたコイルCを用意する。そして、製造装置100のアンコイラー110によってコイルCを支持し、コイルCを軸回りに回転させて金属板Mを巻き戻す。コイルCから巻き戻された金属板Mは、コイルCの内周側の面C1が凹面、外周面側の面C2が凸面となる側面視で円弧状の巻きぐせが残った状態になっている。巻き戻された金属板Mは不図示の搬送部によって一方向(圧延方向)に搬送され、レベラー120に到達する。
【0068】
レベラー120に到達した金属板Mは、上下に配置された複数のワークロール121によって平坦化され、巻きぐせが調整される。これにより、金属板Mは第1プレス機130による加工が可能な程度まで平坦化されるが、コイルCの内周側の面C1が凹面となる巻きぐせは、ある程度残されている。レベラー120によって平坦化された金属板Mは、不図示の搬送部によって一方向に搬送され、第1プレス機130に到達する。
【0069】
第1プレス機130に到達した金属板Mは、雄型131と雌型132を用いたプレスにより抜き加工される。この抜き加工では、図6(a),図6(b)に示すような抜き加工によって型抜きされた金属板Mを母材として形成される。この際、平板部60の長辺60b,60bに係合凹部65Aと係合凸部65Bとをそれぞれ形成する。
【0070】
図7は、第1プレス機によって抜き加工された金属板Mの平面図である。
図7に示すように、金属板Mには、抜き加工により、搬送方向(圧延方向)に連続する枠部66と、搬送方向と交差する方向に延びる帯状の平板部60と、枠部66と平板部60とを連結する連結部67とが形成される。本実施形態では、平板部60は略長方形であり、短辺60aが圧延方向に平行で長辺60bが圧延方向と直交するように型抜きされている。上述したように長辺60b,60b側には、係合凹部65Aと係合凸部65Bとが形成されている。金属板Mを不図示の搬送部によって間欠的に搬送しながら繰り返しプレスを行うことで、平板部60と連結部67は金属板Mの搬送方向に等間隔に複数形成される。
【0071】
第1プレス機130によって抜き加工された金属板Mは、不図示の搬送部によって搬送され、図5に示す第2プレス機140に到達する。
【0072】
そして、ローラー本体16の母材である金属板Mは、図6(b)に示す上面C2が外周面となる円筒状に曲げ加工される。
【0073】
図8(a)〜図8(c)、図9(a)〜図9(c)は、第2プレス機による曲げ工程を示す側面図である。第2プレス機140に到達した金属板Mの平板部60は、プレスによって図7に示す短辺60aに平行な方向(圧延方向)に曲げ加工される。すなわち、平板部60の両側の長辺60b,60bに沿う一対の端面を近接させるように曲げ加工する。そして、図8(a)〜図8(c)、図9(a)〜図9(c)に示すように、これら一対の端面を対向させて突き合わせるように円筒状に形成する。
【0074】
具体的には、まず、図8(a)に示す雌型(曲げダイ)141と雄型(曲げパンチ)142とで金属板Mの平板部60をプレスし、平板部60の両端部62a,62bを円弧状(望ましくは略1/4円弧)に曲げる。なお、図8(a)においては、各部材を分かりやすくするため、平板部60と雌型141と雄型142との間にそれぞれ間隔を開けてこれらの部材を記しているが、この間隔は実際には存在せず、平板部60と雌型141、雄型142とはそれぞれの接触部においてほぼ密着している。これは、後述する図8(b)、図8(c)、図9(a)〜図9c)においても同様である。
【0075】
ここで、雄型142は、図5に示すコイルCにおいて内周側であった面C1(図8において平板部60の下側の面)に対向するように配置されている。また、雌型141は、図5に示すコイルCにおいて外周側であった面C2(図8において平板部60の上側の面)に対向するように配置されている。これにより、平板部60の両端部62a,62bはコイルCの内周面であった面C1側に曲げ加工される。
【0076】
次に、金属板Mを一方向に送った後、図8(b)に示す第2の雌型(曲げダイ)143と第2の雄型(曲げパンチ)144とで、平板部60の短辺方向(曲げ方向)における中央部をプレスする。そして、図6に示すコイルCにおいて内周側であった面C1側に、平板部60を円弧状(望ましくは略1/4円弧)に曲げる。
【0077】
次に、金属板Mを一方向に送った後、図8(c)に示すように、平板部60の内側に芯型147を配置する。そして、図8(c)に示す上型145と下型146とを用いて、図9(a)〜図9(c)に示すように、平板部60の両端部62a,62bの各端面61a,61bを近接させる。
【0078】
ここで、図8(c)および図9(a)〜図9(c)に示す芯型147の外径は、形成する中空円筒状のローラー本体16の内径と等しくしてある。また、図8(c)に示すように、下型146のプレス面146cの半径と上型145のプレス面145aの半径は、それぞれ、研磨代を考慮したローラー本体16の外径の半径と等しくしてある。また、図9(a)〜図9(c)に示すように下型146は左右一対の割型であり、これら割型146a,146bは、それぞれ独立して昇降可能に構成されている。
【0079】
すなわち、図8(c)に示す状態から、図9(a)に示すように左側の割型146aを上型145に近接させ、平板部60の一方の側をプレス加工し、略半円形状に曲げる。
なお、上型145も下型146と同様左右一対の割型とし(割面145b参照)、この図9(a)に示す工程の際に、同じ側の上型を割型146aに近接させてもよい。
【0080】
次いで、図9(b)に示すように、芯型147を少し(一方の側の端面61aと他方の側の端面61bとを近接させることができる程度に)上型145側へ移動させるとともに、他方の側の割型146bを上型145に近接させ、平板部60の他方の側をプレス加工し、略半円形状に曲げる。
【0081】
その後、図9(c)に示すように、芯型147および一対の割型146a,146bを共に上型145に近接させ、円筒状のローラー本体(中空パイプ)16を形成する。この状態で、左右両側の端面61a,61bは互いに対向して突き合わされた状態となる。
すなわち、この円筒状のローラー本体16にあっては、基材である金属板Mの平板部60の両側の端面61a,61bが互いに近接して、これらの端面61a,61b間に継ぎ目が形成されている。ここで、図5に示すコイルCの内周側であった面C1はローラー本体16の内周面となり、コイルCの外周側の面であったC2はローラー本体16の外周面となっている。このように、平板部60を芯型147に巻きつけるようにローラー本体16を形成する。
【0082】
図10は、図8(a)〜図8(c)、図9(a)〜図9(c)に示す工程を経て平板部60が段階的に円筒状に形成された金属板Mを示す平面図である。
図7に示すように型抜きされた金属板Mは、図5に示す第2プレス機140に到達し、一方向に間欠的に送られながら、図8(a)〜図8(c)、図9(a)〜図9(c)に示す工程により平板部60がプレスにより順次曲げ加工される(順送プレス)。そのため、第2プレス機140に到達した平板部60は、図10に示すように、金属板Mの搬送方向の前方ほど円筒に近くなっていく。平板部60が円筒状に形成された後は、不図示の切断部により連結部67が切断されて中空円筒状のローラー本体16となる。
【0083】
本実施形態では、金属板Mの一対の端面61a,61b(図7)を突き合わせて継ぎ目80(図9(c)等参照)を有するローラー本体16を形成する際に、係合凹部65Aと係合凸部65Bとを圧入させるようにして端面61a,61b同士を当接させ、鉤形の継ぎ目80を形成している。
これにより、回転駆動時のトルクなどにより継ぎ目80が開くなどの変形が生じるのを防止できる。また、係合凸部65Bが搬送ローラー15の正転方向に向かって突出していることから、負荷の大きい搬送ローラー15の回転トルクに対するねじれの防止効果が高い。
【0084】
また、抜き工程において図6(b)に示すように型抜きされた金属板Mに、ダレsd、せん断面sp、破断面bs、バリ(図示略)が形成された場合でも、比較的滑らかなダレsdが形成された上面C2を、ローラー本体16の外周側にすることが好ましい。言い換えれば、バリや破断面bsに連続する金属板Mの下面C1をローラー本体16の内周側にすることが好ましい。
【0085】
これにより、金属板Mの一対の端面61a,61bを突き合わせて継ぎ目80(図9(c)等参照)を有するローラー本体16を形成する際に、バリや破断面bsの凹凸が障害となって継ぎ目80が開くことを防止できる。
【0086】
次に、本実施形態では、形成されたローラー本体16に残留する応力を調整する工程(応力調整工程)を行う。この応力調整工程では、ローラー本体16の外周面16aのうち少なくとも高摩擦層50が形成される所定部分に押圧力を加える。本実施形態では、ローラー本体16の外周面16aのほぼ全面に対して押圧力を加える場合を例に挙げて説明する。応力調整工程では、以下の3つの工程のうち少なくとも1つを用いて、ローラー本体16に対して押圧力を加えることができる。
【0087】
(1)ロールレベラー工程
ロールレベラー工程では、複数の押圧ローラーが用いられる。ここでは、図11(a)に示すように、2つの押圧ローラーR1及びR2を用いた場合を例に挙げて説明する。押圧ローラーR1は、外周面が凸状に形成されている。また、押圧ローラーR2は、外周面が凹状に形成されている。
【0088】
まず、この押圧ローラーR1及びR2により、ローラー本体16を挟持する。ローラー本体16を挟持した後、当該2つの押圧ローラーR1及びR2によってローラー本体16を押圧しつつ、押圧ローラーR1及びR2を回転させる。この状態で、ローラー本体16と押圧ローラーR1及びR2とを、当該ローラー本体16の中心軸の方向に相対的に移動させる。
【0089】
押圧ローラーR1及びR2の位置を固定させておき、ローラー本体16が押圧ローラーR1と押圧ローラーR2との間を通過させる。これにより、ローラー本体16には、第1端部16fから第2端部16sへと順に押圧力が加えられることになる。この押圧力により、ローラー本体16に残留する応力が調整されることになる。
【0090】
(2)転造工程
次に、転造工程を行う場合を説明する。
転造工程は、2つの転造ローラー201,202を用いた所謂スルーフィード転造(歩み転造、通し転造とも呼ばれている)加工である。
【0091】
具体的には、図11(b)に示すように、ローラー本体16を挟むように配置された二つの転造ローラー201,202をローラー本体16に対して所定の圧力で押し付けた状態とする。この状態で、二つの転造ローラー201,202を同方向に回転させる。スルーフィード転造においては、転造ローラー201,202が回転することにより、ローラー本体16が転造ローラー201,202の回転方向とは逆方向に回転しながら、軸方向Hに移動する。
【0092】
転造ローラー201,202の表面には、高摩擦層50を形成するために、螺旋状の凹部201a,202aが形成されており、凹部201a,202aがローラー本体16の表面を変形させることにより、ローラー本体16の表面には、格子状の凹凸部203が形成される。
【0093】
このように、ローラー本体16の第1端部16fから第2端部16sへと順に凹凸部203が形成されていく。当該凹凸部203が形成されることにより、ローラー本体16に残留する応力が調整されることになる。なお、当該凹凸部203の深さ(凹凸の段差)については、5μm〜50μmの範囲で適宜設定することができる。
【0094】
なお、転造工程では、転造ローラー201、202の軸方向の寸法と、ローラー本体16の軸方向の寸法とを等しくすることにより、ローラー本体16の全体に押圧力が加えられることになる。この場合であっても、ローラー本体16に残留する応力が調整されることになる。
【0095】
(3)回転押圧工程
次に、回転押圧工程を行う場合を説明する。
回転押圧工程は、ローラー本体16に押圧部材を押圧した状態で当該ローラー本体16を回転させ、押圧部材とローラー本体16とを当該ローラー本体16の中心軸方向に相対的に移動させる工程である。
【0096】
回転押圧工程としては、図11(c)に示すようにローラー本体16を移動させる例が挙げられる。この場合、テーブルTBL上に押圧部材R3、R4を固定させておく。押圧部材R3と押圧部材R4との距離は、ローラー本体16の径よりもやや小さくなるように設定しておく。
【0097】
この状態で、ローラー本体16を回転させつつ、押圧部材R3と押圧部材R4との間にローラー本体16を通過させる。押圧部材R3及び押圧部材R4は、ローラー本体16に対して挟みつけるように押圧する。このため、ローラー本体16の第1端部16fから第2端部16sへと押圧力が加えられることになる。この押圧力により、ローラー本体16に残留する応力が調整される。
【0098】
また、回転押圧工程として、図11(d)に示すように、ローラー本体16を移動させずに押圧部材R5を移動させる例が挙げられる。この場合、ローラー本体16の位置を固定したまま中心軸を中心として回転させる。この状態で、押圧部材R5をローラー本体16に押し当て、押圧部材R5をローラー本体16の中心軸に沿って移動させる。
【0099】
このため、ローラー本体16の第1端部16fから第2端部16sへと押圧力が加えられることになる。この押圧力により、ローラー本体16に残留する応力が調整される。なお、押圧部材R5の先端(ローラー本体16に当接する部分)は、ローラー状に形成されていることが好ましい。
【0100】
なお、上記の(1)〜(3)の各工程を行う場合に、ローラー本体16の内部に芯部材(不図示)を挿入した状態で当該ローラー本体16に押圧力を加えるようにしても構わない。これにより、ローラー本体16が押圧力によって変形してしまうのを回避することができる。
【0101】
次いで、本実施形態では、形成したローラー本体16の真円度を高め、振れを少なくするべく、センターレス研磨加工を行う。この研磨工程では、図12(c)に示すように、円柱状(又は円筒状)に形成された砥石部材GDを用いてローラー本体16の外周面16aを研磨する。研磨工程では、ローラー本体16の表面から所定の深さ(30μm〜80μm程度の厚さ。以下、「研磨深さ」と表記)の部分が研磨されることになる。
【0102】
ローラー本体16の外径よりも小さい間隔を空けて配置された2つの砥石部材GDの間に当該ローラー本体16を配置させ、ローラー本体16が2つの砥石部材GDの外周部分に接した状態とする。その後、2つの砥石部材GDを同じ方向に回転させる。この2つの砥石部材GDの回転により、各砥石部材GDとローラー本体16との間に摩擦力が発生する。
【0103】
なお、2つの砥石部材GDとしては、ローラー本体16の長手方向の全体を一度に研磨できるように、長手方向(円柱の高さ方向)の寸法がローラー本体16よりも大きくなるように形成されたものを用いることが好ましい。また、砥石部材GDの回転時には、ローラー本体16の長手方向におけるマージンを確保するため、長手方向の全体が2つの砥石部材GDに接触するように、砥石部材GDの長手方向の中央部にローラー本体16を配置することが好ましい。
【0104】
砥石部材GDの回転によって発生した摩擦力により、ローラー本体16が当該砥石部材GDの回転方向とは反対方向に回転しつつ、当該ローラー本体16の外周面16aが研磨されることになる。このため、ローラー本体16の外周面16aのほぼ全面が満遍なく研磨され、研磨工程前に比べてローラー本体16の真円度がより良好になる。
【0105】
なお、応力調整工程において転造工程を行っている場合、ローラー本体16の外周面16aに形成される凹凸部203が研磨によって除去される。これを踏まえて、転造工程を行う際に、ローラー本体16のうち高摩擦層50が形成される部分については、研磨工程での研磨深さよりも深くなるように凹凸部203を形成しておく。また、高摩擦層50が形成されない部分については当該研磨深さよりも浅くなるように凹凸部203を形成しておく。
【0106】
この状態で研磨工程を行うと、ローラー本体16のうち高摩擦層50が形成される部分は凹凸部203の一部分が残った状態となる。また、ローラー本体16のうち高摩擦層50が形成されない部分は、凹凸部203が除去された状態となる。したがって、高摩擦層50を形成する工程においては、当該凹凸部203を用いることができるため、製造効率が高まることになる。
【0107】
研磨工程を行った後、真円度が高く、かつ、振れ量の小さいローラー本体16が得られる。なお、このローラー本体16にあっては、前記の両端面61a、61b間がより狭まることで、図12(a)に示すようにこれら両端面61a、61b間の隙間がより狭くされた継ぎ目80が形成される。
【0108】
なお、上記プレス加工や研磨工程では、平板部60の両端面61a、61b間の隙間が無くなるように、すなわち、両端面61a、61bが互いに当接するようにするのが好ましい。しかしながら、得られるローラー本体16の真円度や振れ量を良好にしつつ、この隙間を完全に無くすのは困難であり、現状ではある程度の隙間が形成されるようになる。
【0109】
この継ぎ目80は、前記平板部60の外周面と内周面とが同じ寸法(幅)であることにより、図12(b)に示すように、一対の端面61a、61b間の距離が、ローラー本体16の外周面16a側で相対的に広く、内周面16b側で相対的に狭くなっている。
【0110】
このようにして本発明に係る円筒軸となるローラー本体16を形成したら、このローラー本体16の表面に図3及び図4に示すような高摩擦層50を形成する。
【0111】
この高摩擦層50の形成方法としては、乾式法及び湿式法(またはこれらを併用した方法)が採用可能であるが、本実施形態では乾式法が好適に採用される。具体的には、まず、高摩擦層50の形成材料として、樹脂粒子と無機粒子とを用意する。樹脂粒子としては、エポキシ系樹脂やポリエステル系樹脂等からなる、直径10μm程度の微粒子が好適に用いられる。また、無機粒子としては、上述のように粒径が15μm以上90μm以下の範囲とされ、かつ、中心径となる加重平均の粒径(平均粒径)が、45μmとなるように調整されたアルミナ粒子が好適に用いられる。
【0112】
このアルミナ粒子としては、破砕処理によって所定の粒径分布に調整されたものが用いられる。破砕処理によって製造されることにより、このアルミナ粒子は端部が比較的鋭く尖ったものとなり、この鋭く尖った端部によって高い摩擦力を発揮するようになる。
【0113】
すなわち、本発明では、アルミナ粒子(無機粒子)としてその平均粒径(中心径)が、前述の継ぎ目80の外周面側での距離d1(30μm)より大となるものが用いられる。
また、特にその粒径分布(粒度範囲)については、継ぎ目80の外周面側での距離d1より小となり、かつ、内周面側での距離d2(10μm)より大となる粒子を含んでいるのが好ましい。さらに、その粒径分布における最小粒径が、継ぎ目80における一対の端面61a,61b間の最短距離、内周面側での距離d2より大であるのが好ましい。
【0114】
このような樹脂粒子と無機粒子とを用意したら、まず、ローラー本体16に前述の樹脂粒子を塗布する。すなわち、ローラー本体16を塗装ブース(図示せず)内に配置し、さらにこのローラー本体16を単体の状態で(マイナス)電位にしておく。
【0115】
そして、樹脂粒子を、静電塗装装置(図示せず)のトリボガンを用いてローラー本体16に向けて噴霧(噴出)し吹き付けつつ、この噴霧粒子(樹脂粒子)を+(プラス)高電位に帯電させる。すると、この帯電された樹脂粒子はローラー本体16の外周面に吸着され、樹脂膜を形成する。
【0116】
ここで、樹脂粒子の吹付による樹脂膜の形成は、図3及び図4に示した高摩擦層50の形成領域に対応させる。すなわち、ローラー本体16の全長に亘って行うことなく、その両端部をテープ等でマスキングしておくことにより、図13(a)に示すようにこの両端部を除いた上記印刷領域15Aから取付領域15Cに対応する領域にのみ、選択的に樹脂膜51を形成する。なお、図13(a)及び後述する図13(b)、(c)では、継ぎ目80については図示を省略している。
【0117】
樹脂膜51には、吹付塗装後に+0.5KV程度の微弱な静電気が残存する。なお、この吹付塗装に際しては、ローラー本体16を軸廻りに回転させることにより、その全周に亘って樹脂膜51をほぼ均一な厚さに形成する。この樹脂膜51の膜厚については、前述のアルミナ粒子の粉径を勘案して、10μm〜30μm程度に形成する。このような膜厚については、樹脂粒子の噴出量及び噴出時間等によって適宜に調整することができる。
【0118】
次いで、この樹脂膜51を形成したローラー本体16を前述の塗装ブースから取り出し、ハンドリングロボット(図示せず)によって図14に示す別の塗装ブース90に移す。
この塗装ブース90には、その下部に一対の回転駆動部材91、91が設けられており、これら回転駆動部材91、91には、ローラー本体16を略水平に支持するためのチャック92が設けられている。
【0119】
そして、ローラー本体16の両端部をチャック92、92に保持させて固定し、さらに回転駆動部材91によってチャック92、92を回転させる。これにより、ローラー本体16をその軸廻りに、100rpm〜500rpm程度の低速でゆっくり回転駆動させる。なお、ローラー本体16については、若干斜めに支持してもよいのはもちろんである。
【0120】
また、塗装ブース90には、その上部にコロナガン93が配置されており、このコロナガン93は、シャフト94上を図14中左右方向に移動するようになっている。また、塗装ブース90の底部には排気機構90aが設けられている。これにより、塗装ブース90内には下方に向かうゆっくりとした気流が形成されるようになっている。なお、この排気機構90aの吸引風量は適宜に設定されるようになっている。
【0121】
このような構成のもとに、ローラー本体16をその軸廻りに回転させつつ、コロナガン93から前述のアルミナ粒子95を噴霧し吹き付けることにより、ローラー本体16に形成した樹脂膜51上に、アルミナ粒子95を選択的に静電吸着させる。アルミナ粒子を樹脂膜51上に選択的に静電吸着させるには、樹脂膜51の形成と同様に、ローラー本体16の両端部をテープ等でマスキングしておくことで行う。
【0122】
この静電塗装時には、チャック92及び回転駆動部材91の表面電位が、ローラー本体16の電位とほぼ等しくなり、しかも塗装ブース90の内面電位が、電気的に中立で略零電位となるように設定する。コロナガン93からのアルミナ粒子95が、ローラー本体16以外の部位に吸着されないようにするためである。この塗装ブース90の内表面電位を電気的に中立に保持するためには、塗装ブース90を、内表面電気抵抗が1011Ω程度の鋼板を用いて製造するのが望ましい。
【0123】
そして、コロナガン93にかける電位を零Vとし、さらにこのコロナガン93に供給するエアーの圧力を0.2Mpa程度に低く設定する。次いで、このコロナガン93を図14中の左右方向に移動させつつ、上方より略零電位のアルミナ粒子95を吹き出させ、アルミナ粒子95を自重で鉛直方向に自然落下させる。
【0124】
すると、前述したように、ローラー本体16の樹脂膜51には、静電塗装によって形成されたことで微弱な静電気(約+0.5KV)が残存しているため、この静電気によってアルミナ粒子95が樹脂膜51の全周にほぼ均一に静電吸着する。このようにして静電吸着したアルミナ粒子95は、樹脂膜51表面に当接しさらに一部入り込んだ状態で、この樹脂膜51をバインダとしてローラー本体16の外周面に付着する。
【0125】
ここで、本実施形態では塗装ブース90の内面電位が電気的に中立で略零電位となっており、しかも塗装ブース90内の気流が下向きにゆっくりとした流れに形成されているので、アルミナ粒子95はその自重によって鉛直方向下方に自然落下する。落下方向の下方には、水平支持されたローラー本体16がその軸廻りにゆっくり回転しているので、このローラー本体16の外周面には、アルミナ粒子95がほぼ均一に散布される。
【0126】
ところで、本実施形態においては、取付領域15Cの高摩擦層50におけるアルミナ粒子95の含有率が印刷領域15Aの含有率に比べて低く設定するようにしている。そのため、塗装ブース90内において、取付領域15Cに対応する領域を覆うカバー部材101を設けるようにしている。このカバー部材101には開口部101aが形成されており、塗布されたアルミナ粒子95の一部を遮蔽することで選択的に透過させることが可能となっている。このようなカバー部材101を用いることで取付領域15Cにおけるアルミナ粒子95の付着率を制御可能となる。
【0127】
したがって、特にマスキング及びカバー部材101に覆われていない印刷領域15Aに対応する樹脂膜51の表面には密に付着したアルミナ粒子95が露出する。一方、カバー部材101に覆われている取付領域15Cに対応する樹脂膜51の表面には適度に分散した状態で付着したアルミナ粒子95が露出する。すなわち、アルミナ粒子95は、静電吸着力によって樹脂膜51に当接した際、この樹脂膜51中に一部が入り込み、残部が樹脂膜51の表面から突き出た状態になる。その際、アルミナ粒子95はローラー本体16の表面に対して垂直に立った状態になり易いため、アルミナ粒子95は均一に分布され、その殆どが鋭く尖った端部(頂部)を外側に向けて付着する。
【0128】
したがって、アルミナ粒子95は樹脂膜51の表面から突き出た端部により、高い摩擦力を発揮するようになる。ここで、アルミナ粒子95が記録紙Pに対して必要かつ十分な摩擦力を発揮するには、樹脂膜51の面積に対して、アルミナ粒子95の占める面積が20%〜80%となるようにするのが好ましい。本実施形態では、印刷領域15Aにおいては、樹脂膜51の面積に対してアルミナ粒子95の占める面積を80%に設定し、取付領域15Cにおいては、樹脂膜51の面積に対してアルミナ粒子95の占める面積を20%に設定した。
【0129】
このようにすれば、後の工程で取付領域15Cに位置決め部材14を取り付ける際に、取付領域15Cにおいてローラー本体16と位置決め部材14との間で摩擦力が大きくなり過ぎるといった不具合の発生を防止できる。よって、位置決め部材14をローラー本体16に挿通させる際の組み立て性が低下するのを防止できる。
【0130】
なお、このアルミナ粒子95の塗布(散布)については、アルミナ粒子95が鉛直方向下方にゆっくりと散布されるのであれば、静電塗装法による塗布に限定されるものではなく、スプレーガンを用いた塗布(散布)法であってもよい。
【0131】
また、カバー部材100としては、上述のような開口部100aが形成されたものに限定されることはない。例えば、開口部を有しないカバー部材をローラー本体16(取付領域15Cに対応する部分)に離間した状態で配置することでローラー本体16及びカバー部材間に生じた隙間を介してアルミナ粒子95を選択的に付着させる構成であっても構わない。なお、この構成では、上記隙間の大きさを調整することで取付領域15Cにおけるアルミナ粒子95の付着率を制御することができる。
【0132】
このようにしてアルミナ粒子95を樹脂膜51上に散布し付着させたら、このローラー本体16を180℃〜300℃程度の温度で20分〜30分間程度加熱し、樹脂膜51を焼成し硬化させる。これにより、アルミナ粒子95をローラー本体16に固着する。こうして、図13(c)に示すように樹脂膜51中にアルミナ粒子(無機粒子)95が分散し露出してなる高摩擦層50が印刷領域15A及び取付領域15Cに形成され、本発明に係る搬送ローラー15が得られる。
【0133】
なお、本実施形態では、樹脂粒子の塗布(吹付)とアルミナ粒子(無機粒子)の塗布(吹付)とを別々の塗装ブースで実施したが、同一の塗装ブース内で行ってもよいのはもちろんである。
【0134】
このようにして高摩擦層50を形成すると、特に継ぎ目80には、平板部60の端面61a、61b間の隙間に起因する溝が形成されることなく、端面61a、61b間の隙間が主にアルミナ粒子95によって埋め込まれる。
【0135】
すなわち、アルミナ粒子95としてその平均粒径が、継ぎ目80の、外周面側での距離d1より大となるものを用いているので、アルミナ粒子95はその大半が継ぎ目80内に入り込むことなく、図15に示すようにローラー本体16の外周面上に樹脂膜51を介して付着している。したがって、継ぎ目80には平板部60の端面61a、61b間に隙間が形成されているにもかかわらず、アルミナ粒子95がこの隙間上を覆うことにより、この隙間に起因する溝が実質的に形成されなくなる。
【0136】
また、アルミナ粒子95として、継ぎ目80の外周面側での距離d1(30μm)より小となり、かつ、内周面側での距離d2(10μm)より大となる粒子95aを含む粒径分布(粒度範囲)のものを用いているので、このような粒子95aが継ぎ目80に形成された隙間に入り込んでここに留まることにより、継ぎ目80による溝が確実に形成されなくなる。
【0137】
また、使用時等において、ローラー本体16(搬送ローラー15)に隙間を狭める方向に力が働いても、ここに入り込んだアルミナ粒子95aがこの力に抗するため、ローラー本体16(搬送ローラー15)の変形が抑えられる。したがって、この搬送ローラー15を備えた搬送ローラー機構19にあっては、搬送ローラー15の変形に起因する搬送ムラが防止される。
【0138】
さらに、アルミナ粒子95として、その粒径分布における最小粒径が、継ぎ目80における一対の端面61a、61b間の最短距離、つまり内周面側での距離d2より大であるものを用いているので、ローラー本体16の表面にアルミナ粒子95を配して高摩擦層50を形成した際、継ぎ目80に形成された隙間を通り抜けてローラー本体16内にアルミナ粒子95が入り込むことが無い。したがって、その後、ローラー本体16内を清浄化するなどの処理が軽減され、その分、生産性を向上することができる。
以上の工程を経て、図15に示すように樹脂膜51中にアルミナ粒子95が分散し露出してなる高摩擦層50が形成され、本実施形態の搬送ローラー15が得られる。
【0139】
以上のように、本実施形態では、金属板Mを抜き加工する際に平板部60の短辺方向両側に係合凹部65Aと係合凸部65Bとを形成し、ローラー本体16を曲げ加工によって形成する際に係合凹部65Aと係合凸部65Bとを圧入させるようにして端面61a,61b同士を当接させ、鉤形の継ぎ目80を形成している。これにより、継ぎ目80が開くような変形が防止され、高い搬送精度を長期的に維持することが可能となる。
【0140】
また、ローラー本体16を曲げ加工によって形成した後において、ローラー本体16の外周面16aのうち少なくとも高摩擦層50が形成される所定部分(印刷領域15A及び取付領域15C)に押圧力を加え、ローラー本体16に残留する応力を調整することとしたので、少なくとも当該所定部分において残留応力が均一化される。このため、当該所定部分におけるローラー本体16の形状変化を抑制することができる。これにより、安定した形状の搬送ローラー15を製造することができる。
【0141】
また、本実施形態によれば、応力調整工程において、ローラー本体16の外周面16aの全面に対して押圧力を加えることとしたので、ローラー本体16の全面における残留応力が均一に調整されることになる。これにより、搬送ローラー15全体の形状を安定化させることができる。
【0142】
また、応力調整工程においては、ローラー本体16の第1端部16fから第2端部16sに向けて順に押圧力を加えることとしたので、必ずしも大掛かりな装置を用いることなく当該工程を行うことができる。また、応力調整工程において、ローラー本体16の内部に芯部材を挿入した状態で押圧力を加える場合には、ローラー本体16の変形を抑制することができる。
【0143】
本発明の技術範囲は上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更を加えることができる。
【0144】
上記実施形態では、ローラー本体16における一方の端部16B側に取付領域15Cを1個だけ設ける構成について説明したが、ローラー本体16が駆動部30側及びその反対側に位置ズレを生じる場合には、駆動部30と反対側の支持領域15Bの近傍にも取付領域15Cを設けることができる。この構成によれば、ローラー本体16における両方の端部16A,16Bの位置が位置決め部材14により固定されるので、信頼性の高い搬送動作を行うことができる。
【0145】
また、上記実施形態においては、ローラー本体16は、亜鉛メッキ鋼板やステンレス鋼板等の金属板が巻回された鋼板コイルを母材として形成されている構成としたが、これに限られることは無い。平板状の金属板を母材とし、当該平板金属板から上記平板部60とほぼ同形同寸法の金属板を形成して、当該金属板を加工することでローラー本体16を形成しても構わない。したがって、上記説明あるいは以下の記載において、平板部60を当該金属板に置き換えた場合であっても適用可能である。
【0146】
また、ローラー本体16に形成された継ぎ目80の一部には、図16(a)に示すように、開口170が設けてもよい。
ローラー本体16に形成される継ぎ目80は、図16(b)に示すように、一対の端面61a,61bの内周側が密着し、外周側が離間した溝状になっている。或いは、継ぎ目80は、一対の端面61a,61b同士が当接することなく、端面61a,61bが僅かに離間して、隙間として形成される場合もある。そして、この継ぎ目80が搬送ローラー15の全長に亘って形成されるので、軸受26A,26Bに供給したグリスLが搬送ローラー15の表面に付着すると、グリスLは継ぎ目80を毛細管現象により伝わり流れるようになる。特に、搬送ローラー15の強度を向上させるため、継ぎ目80(端面61a,61bの最大距離d1)を小さくする程、グリスLの毛細管現象が強くなって、グリスLが継ぎ目80に沿って流れやすくなる。
【0147】
そこで、図16(c)に示すように、ローラー本体16に形成された継ぎ目80の一部には、開口170が設けられている。この開口170は、図16(c)に示すように、継ぎ目80を形成する一対の端面61a、61bにそれぞれ設けられた切欠部176,177により形成される。端面61a、61bを突き合わせたときに、切欠部176,177の間の最大距離d2が1mm程度以上となるように設定され、開口170として機能する。
【0148】
開口170は、搬送ローラー15(ローラー本体16)の全長に亘って形成された継ぎ目80のうち、高摩擦層50が形成された領域(印刷領域15A)と軸受26A,26Bに支持される領域(支持領域15B,15B)を除く領域に設けられる。つまり、高摩擦層50は搬送ローラー15のほぼ中央部に形成され、搬送ローラー15の両端側が軸受26A,26Bに支持されるので、搬送ローラー15には少なくとも2つの開口170が設けられる。
【0149】
開口170は、軸受26A,26Bに供給(塗布)されたグリスL(潤滑油)が継ぎ目80(端面61a、61bの隙間)に沿って高摩擦層50まで達することを防止する目的で設けられる。すなわち、継ぎ目80の一部に開口170を設けることで、グリスLの毛細管現象を止めている。具体的には、継ぎ目80のうち、軸受26A,26Bに支持される領域(支持領域15B,15B)と高摩擦層50が形成された領域(印刷領域15A)の間に開口170を設けることで、グリスLが高摩擦層50に達することを防止している。そして、開口170の大きさ(一対の切欠部176,177間の最大距離d2)を調整することで、グリスLの毛細管現象を確実に止めることができる。
【0150】
なお、継ぎ目80を形成する一対の端面61a、61bのそれぞれに、開口170を形成するための切欠部176,177を形成する場合に限らない。つまり、図16(d)に示すように、継ぎ目80を形成する一対の端面61a、61bの一方(端面61a)にのみに切欠部178を形成して、切欠部178と端面61bとにより開口170が形成される場合であってもよい。また、開口170の形状としては、矩形に限らず、円形等であってよい。
【0151】
また、ローラー本体16に形成される継ぎ目80の形状を、図17(a)に示すような形状にしてもよい。すなわち、継ぎ目80は、第1端面274と第2端面275とが、ローラー本体271の外周面271a側で互いに接している。第1端面274と第2端面275との間の隙間は、径方向外側から内側に向かうに従い漸次幅広となっている。
【0152】
また、第1端面274と外周面271aとで形成される第1角度α、及び第2端面275と外周面271aとで形成される第2角度βは、いずれも90°より小さく形成されている。
【0153】
継ぎ目80の第1端面274及び第2端面275は外周面271a側で互いに接しており、接続部276において外周面271a側の平滑度が向上している。そのため、搬送ローラー15が回転してもその外周面は記録紙Pと安定して接触することができる。このため、記録紙Pを高い精度で搬送することができる。
【0154】
継ぎ目80の形状は、図17(b)に示すように、継ぎ目80の第1端面274と外周面271aとで形成される第1角度αは、90°より小さく形成され、第2端面275と外周面271aとで形成される第2角度βは、90°以上の大きさで形成してもよい。すなわち、接続部276における第1端面274及び第2端面275が、周方向に関して所定の方向に傾いた形状としてもよい。
【0155】
なお、継ぎ目80の形状は、以下の工程を経て形成される。すなわち、順送プレス加工における打ち抜き加工によって金属板270を形成した後に、金属板270の第1端面274及び第2端面275に対して、端面調整加工を実施し、第1端面274及び第2端面275の、外周面271aに対する傾きを調整する。
【0156】
図17(c)に示すように、プレス加工によって第1端面274及び第2端面275の外周面271aに対する傾きを調整する。この調整により、第1端面274と外周面271aとで形成される第1角度α、及び第2端面275と外周面271aとで形成される第2角度βは、いずれも90°より小さくなる。
【0157】
したがって、金属板270を曲げ加工して円筒状のローラー本体271を成形したときに、第1端面274と第2端面275とは少なくとも外周面271a側で互いに接することになる。
【0158】
図18(a)、(b)に示すように、円筒状のパイプ(中空パイプ)からなるローラー本体16の取付領域15Cのうち位置決め部材14を固定する部分の相対向する位置、すなわちローラー本体16の直径を規定する二点の形成面に、それぞれ貫通孔71a、71aを形成し、これら一対の貫通孔71a、71aを含んでなる係合孔(開口部)71を形成することができる。また、位置決め部材14の内周面には、係合孔71に嵌合する突起部14bが形成されている。この構成によれば、突起部14bを係合孔71に嵌合することでローラー本体16に対して位置決め部材14を所定位置に良好に固定することができる。また、位置決め部材14は、上述の高摩擦層50に加え、突起部14bと係合孔71とが係合するため、ローラー本体16に対し、ローラーの軸方向における位置ズレが生じ難いものとなる。よって、長期に亘って良好な紙送り精度を得ることができる。
【0159】
以上、添付図面を参照しながら本発明に係る好適な実施形態について説明したが、本発明は係る例に限定されないことは言うまでもない。当業者であれば、特許請求の範囲に記載された技術的思想の範疇内において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【符号の説明】
【0160】
15…搬送ローラー、15A…印刷領域、15C…取付領域、16…ローラー本体、50…高摩擦層、71…係合孔(開口部)80…継ぎ目、95a…アルミナ粒子、101…カバー部材、270…金属板
【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属板の対向する一対の端面が近接あるいは当接するように円筒状に形成され、前記一対の端面が軸方向に延在する継ぎ目を有し、ローラー本体の表面に高摩擦層を有する印刷領域が形成された搬送ローラーであって、
前記ローラー本体の駆動部側の軸受に対する位置決め部材が取り付けられる取付領域には、前記高摩擦層が塗布されていることを特徴とする搬送ローラー。
【請求項2】
前記位置決め部材は、ローラー本体に挿通されることで取り付けられていることを特徴とする請求項1に記載の搬送ローラー。
【請求項3】
前記取付領域には、前記位置決め部材に設けられた突起部を嵌合させる開口部が形成されていることを特徴とする請求項1又は2に記載の搬送ローラー。
【請求項4】
前記高摩擦層は無機粒子を含んでおり、該無機粒子が酸化アルミニウムから構成されることを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載の搬送ローラー。
【請求項5】
前記取付領域の高摩擦層における無機粒子の含有率は、前記印刷領域の高摩擦層における含有率に比べて低く設定されることを特徴とする請求項4に記載の搬送ローラー。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか一項に記載の搬送ローラーを備えたことを特徴とする印刷装置。
【請求項1】
金属板の対向する一対の端面が近接あるいは当接するように円筒状に形成され、前記一対の端面が軸方向に延在する継ぎ目を有し、ローラー本体の表面に高摩擦層を有する印刷領域が形成された搬送ローラーであって、
前記ローラー本体の駆動部側の軸受に対する位置決め部材が取り付けられる取付領域には、前記高摩擦層が塗布されていることを特徴とする搬送ローラー。
【請求項2】
前記位置決め部材は、ローラー本体に挿通されることで取り付けられていることを特徴とする請求項1に記載の搬送ローラー。
【請求項3】
前記取付領域には、前記位置決め部材に設けられた突起部を嵌合させる開口部が形成されていることを特徴とする請求項1又は2に記載の搬送ローラー。
【請求項4】
前記高摩擦層は無機粒子を含んでおり、該無機粒子が酸化アルミニウムから構成されることを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載の搬送ローラー。
【請求項5】
前記取付領域の高摩擦層における無機粒子の含有率は、前記印刷領域の高摩擦層における含有率に比べて低く設定されることを特徴とする請求項4に記載の搬送ローラー。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか一項に記載の搬送ローラーを備えたことを特徴とする印刷装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【公開番号】特開2012−121648(P2012−121648A)
【公開日】平成24年6月28日(2012.6.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−272279(P2010−272279)
【出願日】平成22年12月7日(2010.12.7)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年6月28日(2012.6.28)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年12月7日(2010.12.7)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】
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