説明

搬送時負荷算出方法及び搬送時負荷算出システム

【課題】設計された製品を示す製品データを用いて各ハンドリングツールの搬送時の負荷を算出し、不具合が発生するか否かの判断材料を得る搬送時負荷算出方法及び搬送時負荷算出システムを提供する。
【解決手段】製品を示す製品データを受け付け、受け付けた製品データで示された製品に対する複数の吸着カップの配置場所を定め、定めた複数の吸着カップの配置場所に対応させて、製品データで示された製品のエリアを複数の分割エリアに分割し、分割された各分割エリアにおける各吸着ステップのカップ搬送負荷を算出し、カップ搬送負荷と吸着カップ1個当たりのカップ許容負荷と、を比較し、各吸着カップの搬送可否を判断する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、搬送時負荷算出方法及び搬送時負荷算出システムに関する。詳しくは、製品を複数のハンドリングツールで保持して搬送する際の各ハンドリングツールの搬送時の負荷を算出する搬送時負荷算出方法及び搬送時負荷算出システムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、大型の金属パネル等の製品を金型でプレス成形するプレス成形装置間等においては、製品のプレス成形を完了したプレス成形装置から次に製品にプレス成形を施すプレス成形装置に製品を搬送する工程がある。
このような大型の金属パネル等の製品を搬送する工程で用いられる搬送装置として、特許文献1に開示された技術がある。特許文献1に開示された技術では、搬送装置は、基部と、基端側で基部に回転可能且つ上下にスライド可能に連結される従動アームと、基端側で基部に回転可能に連結される第1駆動アームと、基端側で第1駆動アームに回転可能に連結されると共に先端側で従動アームに回転可能に連結される第2駆動アームと、従動アームの先端側に設けられて製品を把持する把持装置と、を備える。この搬送装置により、装置の大型化を防ぎつつ、長い距離を高速で搬送できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2009−208935号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記特許文献1に開示された技術等の搬送装置では、把持装置として、通常、バキュームカップ等のハンドリングツールを製品の表面に複数当接して製品を搬送する。
ここで、搬送装置における製品の何処に何個のハンドリングツールを配置するかの設定は、設計者の経験に基づいていた。このため、新たに製品を搬送する工程を準備する場合には、搬送装置による製品の搬送速度がより速くなる等搬送装置の製品搬送時の負荷が高くなることもあり、設計者の経験に基づくハンドリングツールの配置では適切でなく、製品の落下等の不具合が発生することがある。このような不具合が搬送装置の試運転で見つかると、ハンドリングツールの配置を再設定する必要があり、大幅な工程再検討が必要になり効率的ではない。
また、新たに製品を搬送する工程を準備する場合には、ハンドリングツールを多数配置することで対応可能な場合がほとんどであるが、過剰なハンドリングツールの配置は、搬送装置等の設備コストが高くなってしまう。
そこで、製品に対して過剰とならない数で配置された各ハンドリングツールの搬送時の負荷を予め算出し、不具合が発生するか否かの判断材料を得ることが求められていた。
【0005】
本発明は上記課題を解決するもので、その目的は、設計された製品を示す製品データを用いて各ハンドリングツールの搬送時の負荷を算出し、不具合が発生するか否かの判断材料を得る搬送時負荷算出方法及び搬送時負荷算出システムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
(1)製品(例えば、後述する製品200)を複数のハンドリングツール(例えば、後述する吸着カップ100)で保持して搬送する際の各ハンドリングツールの搬送時の負荷を算出する搬送時負荷算出方法であって、前記製品を示す製品データを受け付ける受付ステップ(例えば、後述するステップS1)と、前記受付ステップで受け付けた前記製品データで示された前記製品に対する複数のハンドリングツールの配置場所を定めるツール配置ステップ(例えば、後述するステップS2)と、前記ツール配置ステップで定めた前記複数のハンドリングツールの配置場所に対応させて、前記製品データで示された前記製品のエリアを複数の分割エリアに分割するエリア分割ステップ(例えば、後述するステップS3)と、前記エリア分割ステップで分割された各分割エリアにおける各ハンドリングツールの搬送時の負荷を算出する負荷算出ステップ(例えば、後述するステップS5)と、を含むことを特徴とする搬送時負荷算出方法。
【0007】
(1)の発明によると、製品データで示された製品の各分割エリアにおける各ハンドリングツールの搬送時の負荷を算出するので、製品の落下等の不具合が発生するか否かの判断材料を得ることができる。これにより、新たに製品データで示された製品を搬送する工程を準備する前に、搬送装置による製品の搬送速度がより速くなる等搬送装置の製品搬送時の負荷が高くなることがあっても、算出された各ハンドリングツールの搬送時の負荷に基づいてハンドリングツールの配置を適切に行うことができる。したがって、不具合が搬送装置の試運転で見つかる可能性を低減し、ハンドリングツールの配置を再設定しなければならないおそれを低減し、大幅な工程再検討を避け、検討の効率化を図ることができる。
【0008】
(2)前記負荷算出ステップで算出された各ハンドリングツールの搬送時の負荷と、各ハンドリングツールの負荷の許容値と、を比較し、各ハンドリングツールの搬送可否を判断する搬送可否判断ステップ(例えば、後述するステップS6)を含むことを特徴とする(1)に記載の搬送時負荷算出方法。
【0009】
(2)の発明によると、算出された各ハンドリングツールの搬送時の負荷に基づいて各ハンドリングツールの搬送可否を判断できる。これにより、新たに製品データで示された製品を搬送する工程を準備する前に、搬送装置による製品の搬送速度がより速くなる等搬送装置の製品搬送時の負荷が高くなることがあっても、予め、製品の落下等の不具合が発生するか否かが簡単に判断でき、不具合が発生しないようにハンドリングツールの配置を適切に行うことができる。したがって、不具合が搬送装置の試運転で見つかる可能性を低減し、ハンドリングツールの配置を再設定しなければならないおそれをより低減し、大幅な工程再検討を避け、検討の効率化をより図ることができる。
また、製品設計の早期の段階で吸着カップの配置を検討できるので、製品形状の変更が必要な場合も容易に反映できる。
【0010】
(3)前記負荷算出ステップでは、各ハンドリングツールの搬送時の、自重負荷、慣性負荷、風圧負荷及び負圧負荷のうち少なくとも1つを算出して、各ハンドリングツールの搬送時の負荷として加算することを特徴とする(1)又は(2)に記載の搬送時負荷算出方法。
【0011】
(3)の発明によると、各ハンドリングツールの搬送時の、自重負荷、慣性負荷、風圧負荷及び負圧負荷のうち少なくとも1つを、各ハンドリングツールの搬送時の負荷として加算することで、各ハンドリングツールの搬送時の負荷を精度良く算出できる。
【0012】
(4)製品(例えば、後述する製品200)を複数のハンドリングツール(例えば、後述する吸着カップ100)で保持して搬送する際の各ハンドリングツールの搬送時の負荷を算出する搬送時負荷算出システム(例えば、後述する搬送時負荷算出システム1)であって、前記製品を示す製品データを受け付ける受付手段(例えば、後述する受付部2)と、前記受付手段で受け付けた前記製品データで示された前記製品に対する複数のハンドリングツールの配置場所を定めるツール配置手段(例えば、後述するカップレイアウト部3)と、前記ツール配置手段で定めた前記複数のハンドリングツールの配置場所に対応させて、前記製品データで示された前記製品のエリアを複数の分割エリアに分割するエリア分割手段(例えば、後述する製品分割部4)と、前記エリア分割手段で分割された各分割エリアにおける各ハンドリングツールの搬送時の負荷を算出する負荷算出手段(例えば、後述するカップ搬送負荷算出部6)と、を備えたことを特徴とする搬送時負荷算出システム。
【0013】
(4)の発明によると、(1)の発明と同様な効果を奏することができる。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、設計された製品を示す製品データを用いて各ハンドリングツールの搬送時の負荷を算出し、不具合が発生するか否かの判断材料を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の一実施形態に係る搬送時負荷算出システムの機能構成を示すブロック図である。
【図2】上記実施形態に係る製品の分割エリア設定例を示す模式図である。
【図3】上記実施形態に係る吸着カップに作用する力の関係を示す模式図である。
【図4】上記実施形態に係る搬送時負荷算出方法を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、図面を参照して本発明の一実施形態に係る搬送時負荷算出システムを説明する。
【0017】
本実施形態に係る搬送時負荷算出システム1が実施する搬送時負荷算出方法は、製品を複数のハンドリングツールである吸着カップで保持して搬送する際の各吸着カップの搬送時の負荷としてカップ搬送負荷を算出するものである。
搬送時負荷算出方法の概略は、搬送時負荷算出システム1で製品を示す製品データを受け付け、受け付けた製品データで示された製品に対する複数の吸着カップの配置場所を定め、定めた複数の吸着カップの配置場所に対応させて、製品のエリアを複数の分割エリアに分割し、各分割エリアにおけるカップ搬送負荷を算出し、各吸着カップの搬送可否を判断し、各吸着カップで搬送可能な場合に結果を表示するものである。
なお、ハンドリングツールは、所定の把持力を発揮できるツールであればよく、吸着力により把持力を発揮する吸着カップの他にもマグネット等の磁力により把持力を発揮するものであってもよい。
【0018】
本実施形態の搬送時負荷算出システム1は、コンピュータ及びその周辺装置によって実現される。搬送時負荷算出システム1における各機能は、コンピュータ及びその周辺装置が備えるハードウェア並びにハードウェアを制御するソフトウェアによって構成される。
【0019】
上記ハードウェアには、CPU等により構成される制御部の他、記憶部、通信部、表示部及び入力部が含まれる。記憶部としては、例えば、メモリやハードディスクドライブ等が挙げられる。通信部としては、例えば、各種有線及び無線インターフェース装置が挙げられる。表示部としては、例えば、液晶ディスプレイやプラズマディスプレイ等の各種ディスプレイが挙げられる。入力部としては、例えば、キーボードやマウス等が挙げられる。
【0020】
上記ソフトウェアには、上記ハードウェアを制御するプログラムやデータが含まれる。プログラムやデータは、記憶部により記憶され、制御部により適宜実行、参照される。また、プログラムやデータは、通信回線を介して配布したり、CD−ROM等のコンピュータ可読媒体に記録して配布したりすることもできる。
【0021】
図1は、本実施形態に係る搬送時負荷算出システム1の機能構成を示すブロック図である。搬送時負荷算出システム1は、記憶部と制御部と表示部とを備える。
搬送時負荷算出システム1の記憶部は、製品データDB(データベース)11と、吸着カップデータDB(データベース)12と、材料データDB(データベース)13と、モーションデータDB(データベース)14と、を備える。
また、搬送時負荷算出システム1の制御部は、受付手段としての受付部2と、ツール配置手段としてのカップレイアウト部3と、エリア分割手段としての製品分割部4と、1個当たりのカップ許容負荷算出部5と、負荷算出手段としてのカップ搬送負荷算出部6と、搬送可否判断手段としての搬送可否判別部7と、を備える。
また、搬送時負荷算出システム1の表示部は、結果表示部8を備える。
【0022】
製品データDB11は、既存の例えば車両の複数機種それぞれの車体用金属パネル等の製品を示す製品データと、当該製品に対する搬送装置における吸着カップのレイアウトと、を関連付けて、既存製品データとして記憶する。つまり、既存製品データは、既存製品に対して従来の搬送装置が採用していた吸着カップのレイアウトを、既存製品の製品データに関連付けたデータである。
吸着カップデータDB12は、搬送装置で用いられる複数種類の吸着カップで製品を保持した場合の各吸着カップの吸着力データを記憶する。
材料データDB13は、製品に用いられる複数種類の材料データを記憶する。
モーションデータDB14は、搬送装置のモーションデータを記憶する。搬送装置のモーションデータには、搬送装置の搬送軌跡や搬送速度等のデータも含まれる。
【0023】
受付部2は、新規の製品を示す新規の製品データの入力を受け付ける。具体的には、受付部2は、新規の製品情報と製品に関連する関連情報(例えば、作成対象部位の名称又は識別情報)との入力を、入力部を介して搬送時負荷算出システム1のオペレータから受け付ける。
また、受付部2は、新たに製品データで示された製品を搬送する工程を準備中であり、搬送装置の製品の搬送速度が速くなる予定で搬送装置の製品搬送時の負荷が高くなる場合等には、それら搬送条件の変更情報の入力を、入力部を介して搬送時負荷算出システム1のオペレータから受け付ける。
【0024】
カップレイアウト部3は、受付部2が受け付けた新規の製品データで示された製品に対する複数の吸着カップのカップレイアウト(配置場所)を、製品データDB11を用いて定める。
具体的には、カップレイアウト部3は、受付部2が受け付けた製品データの作成対象部位の情報から、新規の製品データにおける作成対象部位の設計情報を特定する。続いて、カップレイアウト部3は、特定した作成対象部位の設計情報に類似する設計情報を備える既存製品データを製品データDB11において特定する。さらに、カップレイアウト部3は、特定した既存製品データを製品データDB11から抽出する。そして、カップレイアウト部3は、特定した既存製品データで示された既存の製品における複数の吸着カップのカップレイアウトを参考に、受付部2が受け付けた製品データで示された製品における複数の吸着カップのカップレイアウトを決定する。
例えば、カップレイアウト部3は、既存の製品における複数の吸着カップのカップレイアウトを参考に、用いる吸着カップ数を同じにしたり、既存の製品の形状に一致する領域には同じ位置に吸着カップを配置したり、既存の製品の形状からはみ出す領域には新たな吸着カップを配置したり、既存の製品の形状と対比してその増減する面積に応じて吸着カップ数を増減させたり、搬送条件に応じて吸着カップ数を増減したりして、製品における複数の吸着カップのカップレイアウトを決定する。また、決定された製品における複数の吸着カップのカップレイアウトは、例えば、参考にした既存の製品における複数の吸着カップのカップレイアウトに対して増加する吸着カップ数の上限値を設定することによって吸着カップ数の増加を抑え、一度に過剰に吸着カップ数が増加することを禁止したものであってもよい。
【0025】
製品分割部4は、カップレイアウト部3で定めた複数の吸着カップのカップレイアウトに対応させて、受付部2が受け付けた新規の製品データが示す新規の製品のエリアを複数の分割エリアに分割する。
製品分割部4は、例えば、以下の手法を用いて新規の製品のエリアを複数の分割エリアに分割する。図2は、本実施形態に係る製品の分割エリア設定例を示す模式図である。本実施形態では、製品分割部4は、ボロノイ分割ツールを用いる。ボロノイ分割とは、搬送時負荷算出システム1上で表現される仮想平面上の新規の製品にカップレイアウト部3で定めた数の吸着カップを配置し、新規の製品のある位置がどの吸着カップに最も近いかによって領域分けした時の分割を指す。詳しくは、製品分割部4は、ボロノイ分割ツールを用いて、仮想平面上の新規の製品に分布する複数の吸着カップの任意の吸着カップを示す点Pと他の点Pを結ぶ直線の垂直二等分線を順次引き、その線上を隣り合う分割エリアの境界線とすることによって、図2に示すように新規の製品のエリアを複数の分割エリアに分割する。
なお、製品分割部4による新規の製品のエリアの分割は、上記のボロノイ分割ツールに限定されず、他の手法を用いるものであってもよい。
【0026】
1個当たりのカップ許容負荷算出部5は、各吸着カップの負荷の許容値としての吸着カップ1個当たりのカップ許容負荷を、吸着カップデータDB12を用いて算出する。
具体的には、吸着カップデータDB12から吸着カップの吸着力データを抽出し、抽出した吸着カップの吸着力データに許容負荷率を乗算することで算出する。例えば、吸着カップの吸着力データを158(N)、許容負荷率を0.85とすると、1個当たりのカップ許容負荷は、158(N)×0.85=134.3(N)と算出される。
【0027】
カップ搬送負荷算出部6は、各吸着カップの搬送時の負荷としてのカップ搬送負荷を、自重負荷、慣性負荷、風圧負荷及び金型から製品を引き剥がす際の製品−金型間の負圧負荷を加算して算出する。
カップ搬送負荷算出部6は、面積算出部61と、重量算出部62と、自重負荷算出部63と、慣性負荷算出部64と、風圧負荷算出部65と、負圧負荷タイプ判別部66と、負圧負荷算出部67と、負荷加算部68と、を備える。
【0028】
面積算出部61は、製品分割部4が分割した新規の製品の複数の分割エリアの各分割エリアの面積を算出する。
重量算出部62は、面積算出部61が算出した各分割エリアの面積と、材料データDB13から抽出された材料データと、によって、各分割エリアの面積に、単位面積当たりの材料重量を乗算することで各分割エリアの重量を算出する。
自重負荷算出部63は、重量算出部62が算出した各分割エリアの重量に、重力係数を乗算することで、各分割エリアに対応する各吸着カップの搬送時の自重負荷を算出する。
慣性負荷算出部64は、重量算出部62が算出した各分割エリアの重量と、モーションデータDB14から抽出されたモーションデータと、によって、各分割エリアに対応する各吸着カップの搬送時の慣性負荷を算出する。慣性負荷算出部64は、各分割エリアの重量、モーションデータの搬送速度情報、搬送軌跡情報等を用いて慣性負荷を算出する。
風圧負荷算出部65は、面積算出部61が算出した各分割エリアの面積と、モーションデータDB14から抽出されたモーションデータと、によって、各分割エリアに対応する各吸着カップの搬送時の風圧負荷を算出する。風圧負荷算出部65は、各分割エリアの面積、モーションデータの搬送速度情報、空気密度、風力形状係数等を用いて風圧負荷を算出する。
負圧負荷タイプ判別部66は、製品分割部4が分割した新規の製品の複数の分割エリアと、面積算出部61が算出した各分割エリアの面積と、によって、金型から製品を引き剥がす際の負圧負荷タイプを判別する。負圧負荷タイプ判別部66は、分割エリアの製品上の位置、分割エリアの面積の大きさ等を用いて負圧負荷タイプを判別する。
負圧負荷算出部67は、負圧負荷タイプ判別部66が判別した負圧負荷タイプによって、各分割エリアに対応する各吸着カップの搬送時の金型から製品を引き剥がす際の製品−金型間の負圧負荷を算出する。
負荷加算部68は、自重負荷算出部63が算出した自重負荷と、慣性負荷算出部64が算出した慣性負荷と、風圧負荷算出部65が算出した風圧負荷と、負圧負荷算出部67が算出した負圧負荷と、を全て加算する。
このように負荷加算部68が各種負荷を加算することで、カップ搬送負荷算出部6は、各吸着カップのカップ搬送負荷を算出する。例えば、自重負荷として自重負荷算出部63が算出したものが23.8(N)であって、慣性負荷として慣性負荷算出部64が算出したものが16.6(N)であって、風圧負荷として風圧負荷算出部65が算出したものが1(N)であって、負圧負荷として負圧負荷算出部67が算出したものが54.9(N)であったとすると、特定の吸着カップのカップ搬送負荷は23.8(N)+16.6(N)+1(N)+54.9(N)=96.3(N)と算出される。
【0029】
搬送可否判別部7は、カップ搬送負荷算出部6が算出する各吸着カップのカップ搬送負荷と、1個当たりのカップ許容負荷算出部5が算出する吸着カップ1個当たりのカップ許容負荷と、を比較し、各吸着カップの搬送可否を判断する。
図3は、本実施形態に係る吸着カップ100に作用する力の関係を示す模式図である。製品200はプレス成形装置で成形された後、下型101に張り付いているので、下型101に張り付いた状態で製品200に吸着カップ100を配置し、吸着カップ100によって下型101から製品200を引き剥がし搬送する。製品200を下型101から製品200を引き剥がす際には、図3に示すように、吸着カップ100が吸着する吸着力が上方を向き、製品200の自重及び慣性力、製品200に対する風圧及び製品200−下型101間の負圧が下方を向き、これら製品200自重及び慣性力、製品200に対する風圧及び製品200−下型101間の負圧が負荷となり製品200を引き剥がし難くする。このため、製品200を搬送可能とするには、これらの自重負荷、慣性負荷、風圧負荷及び負圧負荷を加算した特定の吸着カップのカップ搬送負荷が、吸着力に許容負荷率を乗算して余裕を持たせた吸着カップ1個当たりのカップ許容負荷以内とする必要がある。
具体的には、搬送可否判別部7は、カップ搬送負荷と吸着カップ1個当たりのカップ許容負荷とを比較し、カップ搬送負荷が吸着カップ1個当たりのカップ許容負荷未満であれば搬送可能と判定し、カップ搬送負荷が吸着カップ1個当たりのカップ許容負荷以上であれば搬送不可能と判定する。例えば、特定の吸着カップのカップ搬送負荷を96.3(N)、1個当たりのカップ許容負荷を134.3(N)とすると、96.3(N)<134.3(N)であるので、搬送可能と判定する。
搬送可否判別部7は、搬送不可能と判定した場合には、カップレイアウト部3に搬送不可能の情報及びそのときのカップレイアウト情報(及び関連する材料データ、モーションデータ等)を送信し、再度、カップレイアウト部3でカップレイアウトを行うよう指示する。
【0030】
結果表示部8は、搬送可否判別部7が搬送可能と判定した場合に、そのときのカップレイアウト情報(及び関連する材料データ、モーションデータ等)と搬送可能という結果とを表示する。
【0031】
図4は、本実施形態に係る搬送時負荷算出システム1における搬送時負荷算出方法を示すフローチャートである。
【0032】
ステップS1(受付ステップ)において、受付部2は、入力部を介して新規の製品を示す新規の製品データの入力を受け付ける。
【0033】
ステップS2(ツール配置ステップ)において、カップレイアウト部3は、ステップS1にて受け付けた新規の製品データで示される新規の製品に対する複数の吸着カップのカップレイアウト(配置場所)を、製品データDB11を用いて定める。
【0034】
ステップS3(エリア分割ステップ)において、製品分割部4は、カップレイアウト部3で定めた複数の吸着カップのカップレイアウトに対応させて、受付部2が受け付けた新規の製品データが示す新規の製品のエリアを複数の分割エリアに分割する。
【0035】
ステップS4(許容負荷算出ステップ)において、1個当たりのカップ許容負荷算出部5は、吸着カップ1個当たりのカップ許容負荷を、吸着カップデータDB12を用いて算出する。
【0036】
ステップS5(負荷算出ステップ)において、カップ搬送負荷算出部6は、各吸着カップのカップ搬送負荷を、自重負荷、慣性負荷、風圧負荷及び金型から製品を引き剥がす際の負圧負荷を加算して算出する。
【0037】
ステップS6(搬送可否判断ステップ)において、搬送可否判別部7は、カップ搬送負荷算出部6が算出する各吸着カップのカップ搬送負荷と、1個当たりのカップ許容負荷算出部5が算出する吸着カップ1個当たりのカップ許容負荷と、を比較し、各吸着カップの搬送可否を判断する。搬送可否判別部7は、カップ搬送負荷が吸着カップ1個当たりのカップ許容負荷未満であれば搬送可能と判定し、カップ搬送負荷が吸着カップ1個当たりのカップ許容負荷以上であれば搬送不可能と判定する。
ステップS6において、搬送可能であると肯定判定された場合にはステップS7に移行する。
一方、ステップS6において、搬送不可能であると否定判定された場合にはステップS2に移行する。ステップS6からステップS2に移行した場合には、先に決定された製品における複数の吸着カップのカップレイアウトに対して増加する吸着カップ数の上限値を例えば1つだけ増加させ、一度に過剰に吸着カップ数が増加することを禁止しながら、新たな製品における複数の吸着カップのカップレイアウトを定めるものであってよい。
【0038】
ステップS7(結果表示ステップ)において、結果表示部8は、搬送可否判別部7が搬送可能と判定した場合に、そのときのカップレイアウト情報(及び関連する材料データ、モーションデータ等)と搬送可能という結果とを表示する。
【0039】
本実施形態によると、以下のような効果を奏する。
(1)本実施形態によると、製品データで示された製品の各分割エリアにおける各吸着カップの搬送時の負荷を算出するので、製品の落下等の不具合が発生するか否かの判断材料を得ることができる。これにより、新たに製品データで示された製品を搬送する工程を準備する前に、搬送装置の製品の搬送速度がより速くなる等搬送装置の製品搬送時の負荷が高くなることがあっても、カップ搬送負荷算出部6が算出する各吸着カップのカップ搬送負荷に基づいて吸着カップの配置を適切に行うことができる。したがって、不具合が搬送装置の試運転で見つかる可能性を低減し、吸着カップの配置を再設定しなければならないおそれを低減し、大幅な工程再検討を避け、検討の効率化を図ることができる。
(2)本実施形態によると、カップ搬送負荷算出部6が算出する各吸着カップのカップ搬送負荷に基づいて各吸着カップの搬送可否を判断できる。これにより、新たに製品データで示された製品を搬送する工程を準備する前に、搬送装置の製品の搬送速度がより速くなる等搬送装置の製品搬送時の負荷が高くなることがあっても、予め、製品の落下等の不具合が発生するか否かが簡単に判断でき、不具合が発生しないように吸着カップの配置を適切に行うことができる。したがって、不具合が搬送装置の試運転で見つかる可能性を低減し、吸着カップの配置を再設定しなければならないおそれをより低減し、大幅な工程再検討を避け、検討の効率化をより図ることができる。
また、製品設計の早期の段階で吸着カップの配置を検討できるので、製品形状の変更が必要な場合も容易に反映できる。
(3)本実施形態によると、各吸着カップの搬送時の、自重負荷、慣性負荷、風圧負荷及び負圧負荷を、各吸着カップのカップ搬送負荷として加算することで、各吸着カップのカップ搬送負荷を精度良く算出できる。
【0040】
なお、本発明は上記実施形態に限定されず、本発明の目的を達成できる範囲の変形、改良等は本発明に包含される。
【符号の説明】
【0041】
1…搬送時負荷算出システム
2…受付部(受付手段)
3…カップレイアウト部(ツール配置手段)
4…製品分割部(エリア分割手段)
5…1個当たりのカップ許容負荷算出部
6…カップ搬送負荷算出部(負荷算出手段)
7…搬送可否判別部
8…結果表示部
11…製品データDB
12…吸着カップデータDB
13…材料データDB
14…モーションデータDB
100…吸着カップ
101…下型
200…製品

【特許請求の範囲】
【請求項1】
製品を複数のハンドリングツールで保持して搬送する際の各ハンドリングツールの搬送時の負荷を算出する搬送時負荷算出方法であって、
前記製品を示す製品データを受け付ける受付ステップと、
前記受付ステップで受け付けた前記製品データで示された前記製品に対する複数のハンドリングツールの配置場所を定めるツール配置ステップと、
前記ツール配置ステップで定めた前記複数のハンドリングツールの配置場所に対応させて、前記製品データで示された前記製品のエリアを複数の分割エリアに分割するエリア分割ステップと、
前記エリア分割ステップで分割された各分割エリアにおける各ハンドリングツールの搬送時の負荷を算出する負荷算出ステップと、を含むことを特徴とする搬送時負荷算出方法。
【請求項2】
前記負荷算出ステップで算出された各ハンドリングツールの搬送時の負荷と、各ハンドリングツールの負荷の許容値と、を比較し、各ハンドリングツールの搬送可否を判断する搬送可否判断ステップを含むことを特徴とする請求項1に記載の搬送時負荷算出方法。
【請求項3】
前記負荷算出ステップでは、各ハンドリングツールの搬送時の、自重負荷、慣性負荷、風圧負荷及び負圧負荷のうち少なくとも1つを算出して、各ハンドリングツールの搬送時の負荷として加算することを特徴とする請求項1又は2に記載の搬送時負荷算出方法。
【請求項4】
製品を複数のハンドリングツールで保持して搬送する際の各ハンドリングツールの搬送時の負荷を算出する搬送時負荷算出システムであって、
前記製品を示す製品データを受け付ける受付手段と、
前記受付手段で受け付けた前記製品データで示された前記製品に対する複数のハンドリングツールの配置場所を定めるツール配置手段と、
前記ツール配置手段で定めた前記複数のハンドリングツールの配置場所に対応させて、前記製品データで示された前記製品のエリアを複数の分割エリアに分割するエリア分割手段と、
前記エリア分割手段で分割された各分割エリアにおける各ハンドリングツールの搬送時の負荷を算出する負荷算出手段と、を備えたことを特徴とする搬送時負荷算出システム。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate


【公開番号】特開2013−94813(P2013−94813A)
【公開日】平成25年5月20日(2013.5.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−239460(P2011−239460)
【出願日】平成23年10月31日(2011.10.31)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)