説明

搬送用レール装置の吊り金具

【課題】アイシャフトから把持ブラケットが外れることがない搬送用レール装置の吊り金具を提供する。
【解決手段】走行レール120に案内されるトロリー121に対して横行レール130を吊り下げる搬送用レール装置100の吊り金具10であって、トロリー121に対して、左右軸周りに回動自在に支持されるアイシャフト20と、アイシャフト20に対して、上下軸周りについて回動自在に支持される軸部材30と、軸部材30に対して、前後軸周りに回動自在に支持され、一対となって、横行レール130を把持する把持ブラケット40・40と、を具備し、把持ブラケット40・40は、一対となって、アイシャフト20の支柱部22および軸部材30のストッパ部31を被装し、ストッパ部31の水平方向の断面積は、把持ブラケット40・40の開口部41の開口面積よりも大きいものとされる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、搬送用レール装置の吊り金具の技術に関する。
【背景技術】
【0002】
搬送用レール装置は、例えば自動車工場の天井付近に設置されている。搬送用レール装置は、クレーン等を、前後方向および左右方向に自在に移動させる装置である。搬送用レール装置は、前後方向に敷設された走行レールと、走行レールを走行するトロリーと、トロリーに吊り下げられる吊り金具と、吊り金具に把持され左右方向に敷設された横行レールと、横行レールを走行するトロリーと、トロリーに支持されるクレーンと、から構成されている。
【0003】
吊り金具は、トロリーに吊り下げられ、横行レールを把持するものである(例えば、特許文献1)。特許文献1に開示される吊り金具は、前後軸および上下軸(2軸)周りについて回動自在に構成されている。また、近年では、移動をスムーズにするため、前後軸、左右軸および上下軸(3軸)周りについて回動自在に構成される円錐型スイベル式吊り金具が用いられている。
【0004】
円錐型スイベル式吊り金具は、トロリーに支持されるアイシャフトと、横行レールを把持する把持ブラケットと、から構成されている。円錐型スイベル式吊り金具は、アイシャフトの下部において略球面形状に形成される円錐部と、円錐部を取り囲む把持ブラケットと、からなる構成によって、前後軸、左右軸および上下軸周りについて回動自在とするように構成されている。
【0005】
しかし、円錐型スイベル式吊り金具では、使用によって円錐部が摩耗し、摩耗によって円錐部の径が小さくなり、アイシャフトが把持ブラケットから外れることがあった。また、円錐部は、把持ブラケットに取り囲まれている構成であるため、吊り金具の外観からは摩耗しているかどうかの点検ができなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2000−127960号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の解決しようとする課題は、アイシャフトから把持ブラケットが外れることがない搬送用レール装置の吊り金具を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の解決しようとする課題は以上の如くであり、次にこの課題を解決するための手段を説明する。
【0009】
即ち、請求項1においては、走行レールに案内されるトロリーに対して横行レールを吊り下げる搬送用レール装置の吊り金具であって、前記トロリーに対して、左右軸周りに回動自在に支持されるアイシャフトと、前記アイシャフトに対して、上下軸周りについて回動自在に支持される軸部材と、前記軸部材に対して、前後軸周りに回動自在に支持され、一対となって、前記横行レールを把持する把持ブラケットと、を具備し、前記アイシャフトは、ヘッド部と、前記ヘッド部に形成される左右軸方向の貫通孔と、前記ヘッド部から下方へ延設される支柱部と、を具備し、前記軸部材は、略直方体に形成されるストッパ部と、前記ストッパ部に形成される上下軸方向の貫通孔と、前記ストッパ部の両側面からそれぞれ延設される軸部と、を具備し、前記把持ブラケットは、上面に形成される開口部と、両側面に形成される前後軸方向の貫通孔と、を具備し、前記アイシャフトの支柱部は、前記軸部材のストッパ部の上下軸方向の貫通孔に対して、上下軸周りについて回動自在に支持され、前記軸部材の軸部は、前記把持ブラケットの前後軸方向の貫通孔に対して、前後軸周りに回動自在に支持され、前記把持ブラケットは、一対となって、前記アイシャフトの支柱部および前記軸部材のストッパ部を被装し、前記ストッパ部の平面視の断面積は、前記把持ブラケットの開口部の開口面積よりも大きいものとされるものである。
【0010】
請求項2においては、請求項1記載の搬送用レール装置の吊り金具であって、前記把持ブラケットに被装される前記アイシャフトの支柱部には、印が付されるものである。
【発明の効果】
【0011】
本発明の搬送用レール装置の吊り金具によれば、アイシャフトから把持ブラケットが外れることがない。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】実施形態に係る搬送レールシステムの全体的な構成を示した模式図。
【図2】実施形態である吊り金具の斜視図。
【図3】同じく正面図。
【図4】同じく平面図。
【図5】同じく図4におけるAA断面図。
【発明を実施するための形態】
【0013】
図1を用いて、搬送用レール装置100について説明する。
なお、搬送用レール装置100については、図1に記載された前後方向および左右方向に従って説明する。
【0014】
搬送用レール装置100は、本発明の搬送用レール装置の吊り金具に係る実施形態である。搬送用レール装置100は、クレーン150にて吊り下げられたワーク(図示略)を、前後方向および左右方向に自在に移動させる装置である。搬送用レール装置100は、自動車工場に設置されているものとする。
【0015】
搬送用レール装置100の構成について説明する。
搬送用レール装置100は、梁110と、走行レール120と、横行レール130と、ホイスト140と、クレーン150と、を具備している。
【0016】
梁110は、搬送用レール装置100のベースとなるものである。梁110は、自動車工場の天井付近に架け渡されている。搬送用レール装置100では、2本の梁110が、左右方向に架け渡されている。
【0017】
走行レール120は、横行レール130、ホイスト140およびクレーン150を前後方向に移動させるレールである。本実施形態の搬送用レール装置100では、2本の走行レール120が、前後方向に敷設されている。走行レール120は、梁110に対して、ハンガー111によって、吊り下げられている。走行レール120の内部は、トロリー121が走行可能なように構成されている。
【0018】
横行レール130は、ホイスト140およびクレーン150を左右方向に移動させるレールである。本実施形態の搬送用レール装置100では、1本の横行レール130が、左右方向に敷設されている。横行レール130は、走行レール120内のトロリー121に対して、吊り金具10によって、吊り下げられている。横行レール130の内部は、横行トロリー131が走行可能なように構成されている。なお、吊り金具10について、詳しくは後述する。
【0019】
ホイスト140は、荷物を吊り上げる小型の巻き上げ装置である。本実施形態のホイスト140は、電気ホイストであって、小型の電動機と、巻き胴と、荷物を保持する電磁ブレーキと、荷物を降ろすときの速度を調節する荷重ブレーキと、を具備している。ホイスト140は、横行トロリー131に対して、吊り下げられている。
【0020】
クレーン150は、ワークを吊り上げて運ぶものである。クレーン150は、ホイスト140に対して、吊り下げられている。
【0021】
搬送用レール装置100の作用について説明する。
搬送用レール装置100は、走行レール120の内部にトロリー121を走行させることによって、クレーン150に吊り下げられたワークを前後方向に移動させる。また、搬送用レール装置100は、横行レール130の内部に横行トロリー131を走行させることによって、クレーン150に吊り下げられたワークを左右方向に移動させる。さらに、搬送用レール装置100は、ホイスト140によって、クレーン150に吊り下げられたワークを上下方向に移動させる。
【0022】
図2〜5を用いて、吊り金具10について説明する。
なお、吊り金具10については、図2に記載された前後軸周り方向、左右軸周り方向および上下軸周り方向に従って説明する。また、図5は、図4のAA断面図を示している。
【0023】
吊り金具10は、本発明の搬送用レール装置の吊り金具の実施形態である。吊り金具10は、走行レール120内のトロリー121に対して、横行レール130を吊り下げるため、トロリー121と横行レール130とを接続するものである。
【0024】
吊り金具10の構成について説明する。
吊り金具10は、アイシャフト20と、軸部材30と、把持ブラケット40と、を具備している。
【0025】
アイシャフト20は、ヘッド部21と、支柱部22と、貫通孔23と、を具備している。ヘッド部21は、アイシャフト20の上部を構成するものである。ヘッド部21は、アイシャフト20の正面視では、略菱形状に形成されている。支柱部22は、アイシャフト20の下部を構成するものである。支柱部22は、ヘッド部21から下方へ延設されている。支柱部22は、略円柱形状に形成されている。支柱部22の下部には、ナット55が螺合されるように、ネジ部が形成されている。貫通孔23は、ヘッド部21に形成されている。貫通孔23は、左右軸方向に形成されている。
【0026】
アイシャフト20は、貫通孔23と、トロリー121(図1参照、図2〜図5では図示略)の貫通孔と、がピン(図示略)によって軸支されることによって、トロリー121に対して、左右軸周りに回動自在に支持されている。
【0027】
軸部材30は、ストッパ部31と、軸部32と、貫通孔33と、凹部34と、を具備している。ストッパ部31は、略直方体に形成されている。軸部32は、ストッパ部31の両側面からそれぞれ延設されている。軸部32の端側には、ナット52が螺合されるように、ネジ部が形成されている。貫通孔33は、ストッパ部31の中央に形成されている。貫通孔33は、上下軸方向に形成されている。凹部34は、ストッパ部31の中央底面に形成されている。
【0028】
軸部材30は、2つのスラストベアリング56・56を介して、貫通孔33が支柱部22によって軸支されることによって、アイシャフト20に対して、上下軸周りについて回動自在に支持されている。下側のスラストベアリング56は、凹部34に配置されている。
【0029】
把持ブラケット40・40は、一対のボルト53・53およびナット54・54によって連結された、一対の部材となって構成されている。把持ブラケット40・40は、一対となって、横行レール130(図1参照、図2〜図5では図示略)を把持するものである。それぞれの把持ブラケット40は、正面視にて、略コの字形状に形成されている。把持ブラケット40・40は、一対となって、アイシャフト20の支柱部22および軸部材30のストッパ部31を被装している。
【0030】
把持ブラケット40は、開口部41と、貫通孔42と、を具備している。開口部41は、把持ブラケット40・40が互いに連結されて一対となるときに、把持ブラケット40・40の上面中央に略方形に形成される。貫通孔42は、それぞれの把持ブラケット40の両側面の中央にそれぞれ形成されている。ここで、特記すべき事項として、ストッパ部31の平面視の断面積は、把持ブラケット40・40が一対となるときの開口部41の開口面積よりも大きいものとされている。
【0031】
把持ブラケット40は、カラー51を介して、貫通孔42が軸部32によって軸支されることによって、軸部材30に対して、前後軸周りに回動自在に支持されている。
【0032】
吊り金具10の作用について説明する。
アイシャフト20は、トロリー121に対して、左右軸周りに回動自在に支持される。また、軸部材30は、アイシャフト20に対して、上下軸周りについて回動自在に支持される。さらに、把持ブラケット40・40は、一対となって、軸部材30に対して、前後軸周りに回動自在に支持され、横行レール130を把持する。つまり、トロリー121は、吊り金具10を介して、横行レール130を、前後、左右および上下軸回りに回動自在となるように吊り下げている。
【0033】
トロリー121が、吊り金具10を介して、横行レール130を吊り下げているときには、横行レール130、ホイスト140、クレーン150およびワークの重量が吊り金具10に荷重として作用する。吊り金具10に作用する荷重を部材別に分析すると、アイシャフト20では、貫通孔23の上側部分M1(図5における黒塗り部分)に荷重が作用する。軸部材30では、凹部34の上側部分M2(図5における黒塗り部分)に荷重が作用する。把持ブラケット40では、貫通孔42の上側部分M3に荷重が作用する(図5における黒塗り部分)。
【0034】
吊り金具10は、横行レール130、ホイスト140、クレーン150およびワークの重量が荷重として作用する箇所を、アイシャフト20の貫通孔23の上側部分M1と、軸部材30の凹部34の上側部分M2と、把持ブラケット40の貫通孔42の上側部分M3と、に分散することによって、経年使用による摩耗箇所を分散している。
【0035】
ここで、上側部分M1、上側部分M2および上側部分M3が摩耗した場合について想定する。上述したように、軸部材30のストッパ部31の平面視の断面積は、把持ブラケット40が一対となるときの開口部41の開口面積よりも大きい。さらに、ストッパ部31の平面視の外周は、経年使用によっても摩耗することがない。そのため、経年使用によっても、ストッパ部31が開口部41から抜けることはない。
【0036】
また、軸部材30の軸部32に螺合されるナット52が外れた場合について想定する。上述したように、軸部材30のストッパ部31の水平方向の断面積は、把持ブラケット40が一対となるときの開口部41の開口面積よりも大きい。さらに、把持ブラケット40・40は、一対のボルト53・53およびナット54・54によって、一対となって構成されている。そのため、軸部材30の軸部32に螺合されるナット52が外れた場合でも、ストッパ部31が開口部41から抜けることはない。
【0037】
吊り金具10の効果について説明する。
吊り金具10によれば、アイシャフト20から把持ブラケット40が外れることがない。
【0038】
図5を用いて、印としてのケガキ線50について説明する。
ケガキ線50の位置について説明する。
ケガキ線50は、アイシャフト20の支柱部22に描かれている。ケガキ線50は、支柱部22において、把持ブラケット40・40によって被装されている部分のうち、上側のスラストベアリング56よりも上方に描かれている。
【0039】
ケガキ線50の作用について説明する。
ここで、軸部材30の凹部34の上側部分M2と、把持ブラケット40の貫通孔42の上側部分M3と、が経年使用によって摩耗した場合を想定する。このとき、アイシャフト20は、軸部材30および把持ブラケット40に対して、相対的に上方へ移動することになる。そして、所定量だけ摩耗すると、すなわち、所定量だけアイシャフト20が上方へ移動すると、ケガキ線50が、把持ブラケット40・40の開口部41よりも上方に位置することになる。
【0040】
言い換えれば、作業者がケガキ線50を視認するときは、ケガキ線50が開口部41よりも上方に位置したときである。また、ケガキ線50が開口部41よりも上方に位置したときは、軸部材30の凹部34の上側部分M2と、把持ブラケット40の貫通孔42の上側部分M3と、が経年使用によって摩耗したときである。
【0041】
ケガキ線50の効果について説明する。
ケガキ線50によれば、吊り金具10を分解することなく外部から摩耗しているかどうかの点検ができる。
【0042】
なお、本実施形態では、アイシャフト20の支柱部22にケガキ線50が描かれる構成としたが、これに限定されない。例えば、刻印や目印など作業者が視認できる構成であれば良い。
【0043】
また、本実施形態では、吊り金具10が経年使用によって摩耗したときを、ケガキ線50が把持ブラケット40の開口部41よりも上方に位置するときとする構成としたが、これに限定されない。把持ブラケット40に対するケガキ線50の相対位置が確認できる構成であれば良い。例えば、アイシャフト20の支柱部22における把持ブラケット40の上面位置に対するケガキ線50の相対位置が確認できる構成であっても良い。
【0044】
また、本実施形態では、ホイスト140を電気ホイストとする構成としたが、これに限定されない。例えば、エア式ホイストまたはバネ式バランサとする構成であっても良い。
【0045】
また、本実施形態では、搬送用レール装置100を自動車工場に設置する構成としたが、これに限定されない。例えば、重量物を搬送する工場に設置する構成であっても良い。
【符号の説明】
【0046】
10 吊り金具
20 アイシャフト
21 ヘッド部
22 支柱部
23 貫通孔
30 軸部材
31 ストッパ部
32 軸部
33 貫通孔
40 把持ブラケット
41 開口部
42 貫通孔
100 搬送用レール装置
120 走行レール
121 トロリー
130 横行レール

【特許請求の範囲】
【請求項1】
走行レールに案内されるトロリーに対して横行レールを吊り下げる搬送用レール装置の吊り金具であって、
前記トロリーに対して、左右軸周りに回動自在に支持されるアイシャフトと、
前記アイシャフトに対して、上下軸周りについて回動自在に支持される軸部材と、
前記軸部材に対して、前後軸周りに回動自在に支持され、一対となって、前記横行レールを把持する把持ブラケットと、
を具備し、
前記アイシャフトは、
ヘッド部と、
前記ヘッド部に形成される左右軸方向の貫通孔と、
前記ヘッド部から下方へ延設される支柱部と、
を具備し、
前記軸部材は、
略直方体に形成されるストッパ部と、
前記ストッパ部に形成される上下軸方向の貫通孔と、
前記ストッパ部の両側面からそれぞれ延設される軸部と、
を具備し、
前記把持ブラケットは、
上面に形成される開口部と、
両側面に形成される前後軸方向の貫通孔と、
を具備し、
前記アイシャフトの支柱部は、
前記軸部材のストッパ部の上下軸方向の貫通孔に対して、上下軸周りについて回動自在に支持され、
前記軸部材の軸部は、
前記把持ブラケットの前後軸方向の貫通孔に対して、前後軸周りに回動自在に支持され、
前記把持ブラケットは、
一対となって、前記アイシャフトの支柱部および前記軸部材のストッパ部を被装し、
前記ストッパ部の平面視の断面積は、
前記把持ブラケットの開口部の開口面積よりも大きいものとされる、
搬送用レール装置の吊り金具。
【請求項2】
請求項1記載の搬送用レール装置の吊り金具であって、
前記把持ブラケットに被装される前記アイシャフトの支柱部には、印が付される、
搬送用レール装置の吊り金具。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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