説明

搬送装置、及び、搬送方法

【課題】搬送装置で、搬送の精度を落とすことなく、搬送開始から搬送終了までに要する
時間を短くする。
【解決手段】(A)媒体を搬送する搬送機構と、(B)前記搬送機構が前記媒体の搬送を
開始して前記媒体の搬送速度を加速する際の動作である加速動作、及び、前記搬送機構が
前記媒体の搬送速度を減速して前記媒体の搬送を停止する際の動作である減速動作につい
て、前記媒体の搬送開始から前記媒体の搬送停止までの間で、前記加速動作に要する時間
よりも前記減速動作に要する時間を長くする、制御部と、を備える搬送装置であって、前
記制御部は、前記減速動作が開始されるまで、前記搬送機構に前記加速動作を行わせる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、搬送装置、及び、搬送方法に関する。
【背景技術】
【0002】
所定の方向に媒体を搬送する搬送装置が知られている。このような搬送装置では、非常
に高精度な搬送動作を要求される場合がある。例えば、プリンターにおいて印刷用紙を搬
送するために用いられる搬送装置では、印字ズレ等を防止するために、印刷用紙の搬送量
を正確に制御する必要がある。特に、正確な搬送を実現するためには、搬送される媒体を
目標の停止位置に正確に停止させなければならない。つまり、搬送されている媒体を停止
させる際の減速時の動作の正確性が重要となる。
【0003】
これに対して、媒体搬送時の減速動作において、減速開始時直後の減速加速度を大きく
して、停止直前の減速加速度を小さくすることによって、媒体を目標停止位置に正確に停
止させる技術が提案されている(例えば特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2006−262571号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1の搬送方法によれば、媒体が高速度で搬送されているような場合であっても
、搬送停止直前では減速加速度が小さくなることから、速度が早すぎることによって媒体
が目標停止位置を通過してしまうようなことはなく、媒体を正確に目標停止位置に停止さ
せることができる。
【0006】
しかし、このような方法では、減速時において、搬送速度がゆっくりと減速していくこ
とになるため、減速を開始してから停止するまでに要する時間がより長くなる。すなわち
、媒体の搬送を開始してから搬送を終了するまでに要する全体の搬送時間が長くなり、搬
送装置のスループットが低下するという問題が生じる
本発明では、搬送装置で、搬送の精度を落とすことなく、搬送開始から搬送終了までに
要する時間を短くすることを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するための主たる発明は、(A)媒体を搬送する搬送機構と、(B)前
記搬送機構が前記媒体の搬送を開始して前記媒体の搬送速度を加速する際の動作である加
速動作、及び、前記搬送機構が前記媒体の搬送速度を減速して前記媒体の搬送を停止する
際の動作である減速動作について、前記媒体の搬送開始から前記媒体の搬送停止までの間
で、前記加速動作に要する時間よりも前記減速動作に要する時間を長くする、制御部と、
を備える搬送装置であって、前記制御部は、前記減速動作が開始されるまで、前記搬送機
構に前記加速動作を行わせることを特徴とする搬送装置である。
【0008】
本発明の他の特徴については、本明細書及び添付図面の記載により明らかにする。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】搬送装置10の構成を説明する図である。
【図2】搬送装置10におけるDCモーターを用いる駆動系と制御系の関係を示す図である。
【図3】従来の媒体搬送動作時に用いられる搬送速度の速度プロファイルを説明する図である。
【図4】比較例2における搬送速度の速度プロファイルを示す図である。
【図5】第1実施形態における搬送速度の速度プロファイルを示す図である。
【図6】第1実施形態の変形例における搬送速度の速度プロファイルを示す図である。
【図7】第2実施形態において、あらかじめ設定される減速用プロファイルのパターンの例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本明細書及び添付図面の記載により、少なくとも、以下の事項が明らかとなる。
(A)媒体を搬送する搬送機構と、(B)前記搬送機構が前記媒体の搬送を開始して前
記媒体の搬送速度を加速する際の動作である加速動作、及び、前記搬送機構が前記媒体の
搬送速度を減速して前記媒体の搬送を停止する際の動作である減速動作について、前記媒
体の搬送開始から前記媒体の搬送停止までの間で、前記加速動作に要する時間よりも前記
減速動作に要する時間を長くする、制御部と、を備える搬送装置であって、前記制御部は
、前記減速動作が開始されるまで、前記搬送機構に前記加速動作を行わせることを特徴と
する搬送装置。
このような搬送装置によれば、搬送の精度を落とすことなく、搬送開始から搬送終了ま
でに要する時間を短くすることができる。
【0011】
かかる搬送装置であって、前記減速動作を行う際には、時間の経過と共に減速度が小さ
くなることが望ましい。
このような搬送装置によれば、媒体搬送時の減速動作において。停止直前になるほど搬
送速度を遅くすることができるので、媒体の搬送精度をより向上させることができる。
【0012】
かかる搬送装置であって、前記減速動作は、第1減速動作と第2減速動作とを有し、前
記第1減速動作では、前記加速動作から移行する際に、所定の減速度で減速動作を行い、
前記第2減速動作では、前記第1減速動作から移行する際に、前記所定の減速動作よりも
大きな減速度で減速動作を行うことが望ましい。
このような搬送装置によれば、加速度が大きな場合でも、減速動作へ移行する際の速度
変動を小さくすることができるので、速度制御がしやすく、媒体の搬送精度を向上させる
ことができる。
【0013】
かかる搬送装置であって、記減速動作を規定する速度プロファイルを複数種類有し、前
記制御部は、前記搬送機構に前記加速動作を行わせた際の条件に応じて、複数の前記速度
プロファイルの中から、最適な速度プロファイルを選択し、選択された前記速度プロファ
イルに基づいて、前記搬送機構に前記減速動作を行わせることが望ましい。
このような搬送装置によれば、実際の加速動作に合わせて最適な減速動作を実行するこ
とができるようになるので、短い搬送時間で、より正確な媒体搬送を行なうことができる

【0014】
かかる搬送装置であって、前記制御部は、前記搬送機構に前記加速動作を行わせた際の
、搬送開始から、所定の搬送速度に達するまでの時間に応じて、複数の前記速度プロファ
イルの中から、最適な速度プロファイルを選択し、選択された前記速度プロファイルに基
づいて、前記搬送機構に前記減速動作を行わせることが望ましい。
このような搬送装置によれば、実際の加速時間を基準として最適な減速動作を実行する
ことができるようになるので、短い搬送時間で、より正確な媒体搬送を行なうことができ
る。
【0015】
また、(A)搬送機構によって媒体を搬送することと、(B)前記搬送機構が前記媒体
の搬送を開始して前記媒体の搬送速度を加速する際の動作である加速動作、及び、前記搬
送機構が前記媒体の搬送速度を減速して前記媒体の搬送を停止する際の動作である減速動
作について、前記媒体の搬送開始から前記媒体の搬送停止までの間で、前記加速動作に要
する時間よりも前記減速動作に要する時間を長くする、制御部によって、前記減速動作が
開始されるまで、前記搬送機構に前記加速動作を行わせることを有する搬送方法が明らか
となる。
【0016】
===搬送装置の基本的構成===
本実施形態において用いられる搬送装置10及びその駆動方法について説明する。本実
施形態の搬送装置10は、紙や薄板等の被搬送媒体を所定の方向(以下、搬送方向とも呼
ぶ)に搬送することができる搬送装置である。
以下、本明細書においては、搬送方向をX方向、搬送方向に直行する方向(媒体幅方向
とも呼ぶ)をY方向とする。
【0017】
<搬送装置10の構成について>
図1は、本実施形態にかかる搬送装置10の構成を説明する概略図である。図2は、搬
送装置10におけるDCモーターを用いる駆動系と制御系との関係を示す図である。
搬送装置10は、媒体搬送機構30と、コントローラー60とから構成される。
【0018】
媒体搬送機構30は媒体を搬送方向に搬送する。媒体搬送機構30は搬送ローラー対3
1とギア輪列32とPFモーター33と回転検出部34とを有する。
【0019】
搬送ローラー対31は、搬送ローラー31aと、従動ローラー31bとを具備していて
、これらの間で、被搬送媒体(例えば用紙P)を挟持可能となっている。なお、本実施形
態の搬送装置10における媒体搬送機構30ではローラーを回転させることによって媒体
を搬送しているが、媒体搬送機構30の搬送方法はローラーを用いた方法には限られず、
ベルトを用いた搬送方法等であってもよい。
【0020】
PFモーター33は、搬送ローラー31aに対して、ギア輪列32を介して駆動力(回
転力)を与えるものである(図2)。すなわち、PFモーター33は、搬送ローラー31
aを回転させる駆動力を与える駆動部に相当する。PFモーター33は回転方向を自在に
変更することができる。以下において、媒体を搬送方向に送り出す際のPFモーター33
の回転の向きを正転方向とし、その逆方向の回転を逆転方向と称する。本実施形態の搬送
装置10では、PFモーター33を逆転方向に回転させることによって、媒体を搬送方向
とは逆の方向に搬送することも可能である。なお、搬送ローラー31aを駆動する駆動部
は、PFモーター33のような「モーター」には限られず、油圧によって作動するアクチ
ュエーター等を用いてもよい。
【0021】
回転検出部34はPFモーター33又は搬送ローラー31aの回転速度や回転位置を検
出する。これにより、媒体の搬送量や搬送方向を監視・制御することができる。本実施形
態では回転検出部34としてロータリーエンコーダーを用いている。回転検出部34(ロ
ータリーエンコーダー)は、円盤状スケール34aと、ロータリーセンサー34bとを具
備している。円盤状スケール34aは、その周方向に沿って一定の間隔毎に、光を透過さ
せる透光部と、光の透過を遮断する遮光部とを有しており、PFモーター33の出力軸上
に設けられ、PFモーター33と同期して回転する。ロータリーセンサー34bは、不図
示の発光素子と、同じく不図示の受光素子及び信号処理回路を主要な構成要素とし、円盤
状スケール34a(PFモーター33)の現在の回転速度及び回転位置を検出して、出力
信号Senをコントローラー60に送信する。なお、回転検出部34を搬送ローラー31
aの回転軸上に設けて、搬送ローラー31aの回転速度や回転位置を直接検出するように
してもよい。
【0022】
また、媒体搬送機構30は、搬送ローラー対31と同様のローラー対を複数備えていて
もよい。例えば、図1に示されるように、搬送ローラー対31の搬送方向下流側に、搬送
後の媒体を搬送装置10の外側に排出するための排出ローラー対35を備えていても良い
。排出ローラー対35は搬送ローラー対31と同様の構成を有し、搬送ローラー31aの
回転に合わせて回転することで、媒体を排出する。排出ローラー対35も駆動部となるモ
ーターや、駆動力を伝達するギア輪列、回転検出部を有する(全て不図示)。
【0023】
そして、搬送装置10では、搬送ローラー対31と排出ローラー対35との間の領域で
、搬送される媒体に対して何らかの作業を行うことも可能である。例えば、この領域にお
いて、媒体にインクを噴出することによって印刷を行ったり、レーザー計測によって媒体
の大きさや厚さを測定したりすることができる。
【0024】
媒体搬送機構30の搬送方向上流側には、媒体を搬送機構30の位置に供給する媒体供
給部や、媒体を供給する際に媒体を支持し、搬送時における媒体の幅方向(Y方向)位置
を調整する媒体支持部等が設けられてもよい。また、媒体搬送機構30の搬送方向下流側
には、搬送後の媒体を排出する際に媒体を支持する排出トレイ(不図示)が設けられても
よい。
【0025】
コントローラー60は、搬送ローラー31aや排紙ローラー35aの回転速度や回転方
向を制御し、媒体を搬送させる制御部である。図2に示すように、コントローラー60は
、CPU61、ROM62、RAM63、PROM64、ASIC65、モータードライ
バー66等を具備していて、これらが例えばバス等の伝送路67を介して相互に接続され
ている。また、コントローラー60は、コンピューターCOMに接続されている。そして
、これらのハードウエアと、ROM62やPROM64に記憶されているソフトウエア及
び/又はデータの協働、又は特有の処理を行う回路や構成要素の追加等によって、PFモ
ーター33等の制御が行われる。
【0026】
===比較例===
<比較例1>
搬送装置10を用いて媒体を搬送する際に、従来の方法で搬送速度の制御を行なう場合
の制御方法に関して比較例1として説明する。
【0027】
<媒体搬送時の搬送速度について>
図3に、従来の媒体搬送動作時に用いられる搬送速度の速度プロファイルを説明する図
を示す。図3の縦軸は媒体搬送時の搬送速度を示し、横軸は媒体の搬送に要する時間(搬
送時間)を表す。
【0028】
搬送速度プロファイル(図3)は、加速域、定速域、及び、減速域における媒体搬送動
作の搬送時間に対する搬送速度の関係を表している。加速域では、搬送機構30が停止状
態の媒体の搬送を開始してから、媒体の搬送速度を所定の速度Vccまで加速する際の動
作である加速動作が行われる。定速域では、媒体を一定の速度Vccで搬送する動作であ
る定速動作が行われる。そして、減速域では、搬送機構30が前記搬送速度Vccで搬送
される媒体の搬送速度を減速して媒体の搬送を停止する際の動作である減速動作が行われ
る。
【0029】
加速域においては、右上がりの傾きが大きいほど加速度が大きいことを示し、減速域に
おいては、右下がりの傾きが大きいほど減速度が大きいことを示している。そして、該搬
送速度プロファイルを規定するパラメーターとして、加速動作に要する時間を表す加速時
間Tacc、定速搬送動作に要する時間を表す定速搬送時間Tc、減速動作に要する時間
を表す減速時間Tbcc、及び、搬送速度Vccからなる搬送速度プロファイルテーブル
がROM62に記録されている。これらパラメーターが、コントローラー60内に設けら
れた目標回転速度発生回路(不図示)へと送信され、該パラメーターに基づいて目標回転
速度発生回路(不図示)が搬送速度プロファイルを形成する。なお、これらのパラメータ
ーは、搬送装置10の製造段階においてROM62に記録される。
【0030】
媒体の搬送動作において、ロータリーエンコーダー34からの出力信号Senが制御部
であるコントローラー60に入力されると、該出力信号Senに基づいて、搬送モーター
33(または搬送ローラー31a)の現行回転位置Pと現行回転速度Vとがそれぞれ算出
される。そして、目標回転位置Ptと現行回転位置Pとの偏差△Pが求められ、この回転
位置偏差△Pに応じた目標回転速度Vtが、図3に示す搬送速度プロファイルに基づいて
発生する。
【0031】
図3の搬送速度プロファイルにおいて、媒体は搬送開始後、時間Taccの間に一様に
加速され、搬送速度Vccに達する(加速域)。Vccに達した後は、加速度がゼロにな
り、時間Tcの間、搬送速度Vccの状態で一定速度の搬送が行なわれる(定速域)。そ
して、定速で搬送が行なわれた後、減速が開始され、時間Tbccの間に一様に減速され
て速度がゼロとなり、搬送を停止する(減速域)。これにより、時間Tt(=Tacc+
Tc+Tbcc)の間に媒体の搬送動作が行われる。つまり、Ttが全体の搬送時間とな
る。
【0032】
なお、図3の加速域、定速域、及び減速域の区間で表される斜線部の面積の合計が、一
連の搬送動作における媒体の「搬送量」を表している。
【0033】
このような搬送プロファイルに基づいて速度制御を行なう場合、加速域及び減速域にお
いて、傾きが急であるほど、加速度または減速度が大きくなり、搬送される媒体に働く慣
性力も大きくなる。特に、減速動作時において減速度が大きい場合は問題となる。例えば
、搬送開始から時間Tt経過時において、プロファイル上では速度がゼロとなっていたと
しても、実際には慣性力が働き、媒体の搬送動作を急に停止することはできないため、媒
体は目標停止位置を通り過ぎてしまうおそれがある。つまり、減速度が大きいほど慣性力
が大きくなることから、停止精度が悪化して正確な搬送が行なえなくなる。
【0034】
<比較例2>
そこで、比較例1のように搬送精度が悪化することを抑制する方法について、比較例2
として説明する、図4に、比較例2における搬送速度の速度プロファイルを示す。なお、
図4においても、図3と同様、斜線部で表される領域の面積が媒体の搬送量を示している
。比較例1と比較例2で媒体の搬送量を同じ条件とするために、図3及び図4で示される
速度プロファイルの斜線部分の領域の面積は等しいものとする。また、参考として、比較
例1の速度プロファイルを破線で示す。
【0035】
比較例2の速度プロファイルでは、加速域における加速動作、及び、定速域における定
速動作は比較例1と同様であり、減速域における減速の仕方が異なる(破線部参照)。具
体的には、搬送時間Ttの間で、加速時間Taccよりも減速時間Tbccを長くする。
そして、減速域において、定速動作から減速動作に移行した直後は、大きな減速度で減速
を開始し、時間の経過と共に徐々に減速度を小さくしながら、搬送動作の停止直前に減速
度が最も小さくなるようにする。すなわち、図4の減速域で表されるように、搬送速度が
緩やかに減少していくような速度プロファイルとする。これにより、媒体搬送の停止直前
の領域では搬送速度が非常に小さくなるので、媒体にかかる慣性力も非常に小さくなる。
したがって、搬送される媒体が目標停止位置を通り過ぎてしまうというような問題は発生
せず、比較例1の場合よりも停止精度を向上させることができる。
【0036】
一方で、比較例2の場合、図4に示されるように減速時間Tbccが長くなるため、搬
送開始から搬送終了までの搬送動作全体の時間Tt(=Tacc+Tc+Tbcc)も長
くなる。したがって、同じ距離を搬送するために要する搬送時間Ttが長くなり、搬送装
置10のスループットを低下させることになる。
【0037】
===第1実施形態===
第1実施形態では、搬送装置10のスループットを低下させることなく、停止精度を向
上させることができる速度プロファイルを用いて媒体の搬送を行なう。
図5に、第1実施形態における搬送速度の速度プロファイルを示す。図5の実線で示さ
れるのが本実施形態の速度プロファイルであり、参考として、比較例1の図3で説明した
プロファイルを破線で示している。
【0038】
第1実施形態では、加速域において前述の比較例1・2の場合よりも加速度を大きくし
、減速域においては比較例2の場合と同様に、減速開始直後の減速度を大きくして、時間
の経過と共に徐々に減速度を小さくしていく。そして、本実施形態では定速域を設けずに
、加速動作から直接減速動作へと移行させる。
【0039】
加速域では、停止状態から所定の加速度で媒体の搬送を開始し、最高速度Vmaxに達
するまで加速を行なう。ここで、図5に示されるように、加速度の傾きは比較例1や比較
例2で説明した加速度(破線部分の傾き)よりも大きなっており、大きな加速度によって
Vmaxに達するまでの加速時間Taccがなるべく短くなるようにしている。
【0040】
また、減速域を加速域よりも長く設けることで、比較例2の場合と同様に減速動作を緩
やかにする。すなわち、減速時間Tabbを加速時間Taccよりも長くなるようにする
。そして、減速開始直後は大きな減速度で減速を開始して、時間の経過と共に減速度を小
さくしていき、停止直前には減速度が最も小さくなるようにして減速動作が行われる。こ
れにより、減速動作の開始と共に減速度が徐々に小さくなり、ゆっくりと搬送速度が低下
していくので、停止精度を向上させることができる。
【0041】
そして、本実施形態では、搬送速度がVmaxに達した後、定速搬送を行なわずに、す
ぐに減速動作を開始する。つまり、減速動作が開始されるまで加速動作が行われる。これ
により、全体の搬送時間Tt(=Tacc+Tc+Tbcc)のうちの定速域の時間Tc
がゼロになり、Tt=(Tacc+Tbcc)と表されるようになるので、前述の比較例
の場合よりも搬送時間Ttを短くすることができる。
【0042】
なお、搬送量は図5の斜線部の面積で表される。前述の比較例の場合の搬送量と等しく
するため、図5の斜線部の面積は図3、図4の斜線部の面積と等しくする必要がある。し
たがって、搬送時間Ttを短くした分は、最高速度Vmaxの大きさや、図5の減速域に
おける減速カーブの形状を変化させることによって斜線部の面積を変更し、媒体の搬送量
を調整する。
【0043】
<第1実施形態の効果>
第1実施形態では、搬送動作の減速域において、加速時間よりも減速時間を長くして、
減速度が徐々に低下していくように速度制御を行なう。すなわち、搬送速度を緩やかに減
少させる。また、搬送動作の加速域において、従来よりも大きな加速度で加速を行なう。
そして、最高速度に達した後は、定速搬送に移行することなく、すぐに減速を開始させる
。言い換えると、減速動作が開始されるまで加速動作が行われる。
【0044】
これにより、停止直前の搬送速度を極力小さくして、媒体を目標停止位置に精度良く停
止させることができる。つまり、搬送装置の搬送精度を向上させることが出来る。搬送精
度(停止精度)を向上させれば、ロータリーエンコーダー等の検出装置の分解能を落とし
ても所望の搬送精度を確保することが可能なため、該検出装置のコストを低く抑えること
ができ、省スペース化を図ることもできる。また、最高速度に達するまでに要する加速時
間を短くし、さらに、定速動作を行うために要する時間を削減することによって、全体の
搬送時間を短くすることができる。
【0045】
つまり、第1実施形態の方法によれば、搬送精度を確保しつつ搬送を開始してから停止
するまでの搬送動作全体に要する時間を短縮することが可能となるため、搬送装置の搬送
精度とスループットをともに向上させることができる。
【0046】
<第1実施形態の変形例>
第1実施形態では、減速動作が開始されるまで加速動作が行われるような速度プロファ
イル(図5参照)に基づいて、速度制御が行なわれていた。つまり、定速域を設けないよ
うにすることで、全体の搬送時間の短縮を図っていた。また、加速域における加速度を従
来よりも大きくすることで加速時間の短縮を図っていた。
【0047】
ここで、加速度が非常に大きい場合、加速動作から減速動作に切り替えるタイミングに
おいて、短時間の間で加速の方向が急激に変化することから、速度制御に発振が生じ、正
確な搬送ができなくなる場合がある。また、このような速度の急激な変動は媒体搬送機構
30に非常に大きな負荷を与えるので、搬送装置10自体が故障するおそれもある。
【0048】
そこで、減速域において、減速動作を段階的に変化させることにより、加速動作から減
速動作に移行する際の速度の変動をなるべく小さくする速度プロファイルを用いる場合に
ついて説明する。図6に第1実施形態の変形例における搬送速度の速度プロファイルを示
す。
【0049】
図6では、減速域が第1減速域と第2減速域との二つの領域に分かれている。
加速域に隣接する第1減速域では減速度が小さく、媒体搬送時の搬送速度の変化が緩や
かである。加速動作から減速動作に移行する際に、大きな加速度から大きな減速度へと急
激に変化させるのではなく、まずは大きな加速度から小さな減速度へと緩やかに変化させ
ることで、急激な速度の変動を抑える。すなわち、第1減速域は、加速動作から減速動作
に移行する際に、大きく速度が変動するのを和らげる緩衝領域のような役割を有し、速度
変化の制御を容易にする。ただし、このような緩やかな速度減少(第1減速域)が長時間
続くと全体の搬送時間Ttが長くなってしまうので、所定のタイミングでさらに減速度を
変化させ(第2減速域)、減速時間Tbccの合計(第1減速域と第2減速域との合計の
時間)が短くなるようにする。
【0050】
第1減速域に隣接する第2減速域では、はじめは減速度を大きく、停止直前には減速度
を小さくする。これにより、第2減速域の長さ(時間)がなるべく短くなるようにしつつ
、前述の第1実施形態における減速域と同様に搬送速度を徐々に低下させ、媒体を目標停
止位置に緩やかに停止させるようにしている。
【0051】
本変形例の減速域において、第1減速域から第2減速域に移行する際は、小さな減速度
から大きな減速度へと減速動作が連続的に変化する。そのため、大きな加速度の加速動作
から大きな減速度の減速動作へと変化する場合と比較して、その速度変動の割合が小さく
なり、発振等も生じにくくなる。
【0052】
このように、加速度が大きな場合には、加速域から減速域へ移行する際に、減速域にお
いて緩衝領域となる部分を設け、段階的な減速を行って急激な速度変動を抑制する。これ
により、搬送装置10の速度変化制御についての連続的制御を容易にしたり、機器が故障
することを抑制したりすることができる。
【0053】
なお、図6の例では、減速域において2段階の減速動作(第1・第2減速域)を行って
いたが、減速動作を3段階以上に分けてもよい。
【0054】
===第2実施形態===
第2実施形態では、前述の第1実施形態で説明したような速度プロファイルのうち、減
速動作を規定する減速用プロファイルが複数ある。そして、搬送速度が最高速度Vmax
に到達した時点の条件に応じて、そのようなプロファイルの中から最適な減速用プロファ
イルを選択することによって速度制御が行なわれる。
【0055】
前述のように、搬送速度の制御は、搬送速度プロファイルに基づいて発生された目標回
転速度Vtに基づいて行なわれる。しかし、実際に媒体の搬送が行われた状態において、
実際の搬送速度が目標速度と比べてズレたり、加速度が大きすぎて正確な制御ができなか
ったりする問題が生じる場合がある。そのような場合に、元の搬送速度プロファイルに基
づいて減速動作を行おうとすると、搬送機構30に過大な負荷をかけたり、搬送量が不正
確になったりするおそれがある。そこで、加速動作から減速動作に移行するタイミングで
、あらかじめ設定された複数の減速用プロファイルのパターンの中から最適な減速動作を
行えるパターンを選択して減速動作を行う。
【0056】
図7に、あらかじめ設定される減速用プロファイルのパターンの例を示す。図では、プ
ロファイルA〜Cの3パターンの減速用プロファイルの例が示されている。プロファイル
Aを標準的なプロファイル例とすると、プロファイルBは加速時間が長くなった場合の例
を、プロファイルCは加速時間が短くなった場合の例を表す。これらのプロファイルは、
搬送装置10の製造段階において設定され、コントローラー60のROM62に保存され
ている。なお、設定される速度プロファイルの数は任意であり、搬送装置10の用途や稼
動条件を考慮して決定される。
【0057】
本実施形態では、搬送開始から加速を開始して搬送速度が最高速度Vmaxに到達する
までの加速時間Tacc(到達時間)を検出して、その検出された時間を基準として減速
用プロファイルの選択が行なわれる。例えば、検出された到達時間がaである場合には、
コントローラー60は図7の減速用プロファイルA(実線で描かれたプロファイル)を選
択して減速動作を行う。減速用プロファイルAは第1実施形態で説明したように、減速開
始時には大きな減速度により急減速を行い、その後、時間の経過と共に徐々に減速度を小
さくしていく。そして搬送動作の停止直前には最も搬送速度が小さくなるようにすること
で、搬送精度を確保しつつ、搬送時間がなるべく短くなるようにしている。
【0058】
また、検出された到達時間がb(a<b)である場合には、コントローラー60は図7
の減速用プロファイルB(一点鎖線で描かれたプロファイル)を選択して減速動作を行う
。最高速度に到達するまでの時間bがaよりも長いということは、それだけ加速域におけ
る傾きが緩くなり加速度が小さくなるということなので、減速動作に移行する際の減速度
をプロファイルAの場合よりも大きくすることができる。そのようにしても、急激な速度
変動にはなりにくいので、搬送機構30に過大な負荷がかかることがないからである。一
方、加速動作のためにより長い時間を要することとなるので、その分減速時間を短くする
ことで全体の搬送時間Ttを短く保っている。すなわち、加速動作から減速動作に移行す
る際には、より大きな減速度で減速を開始し、時間の経過と共に徐々に加速度を小さくし
ていき、最終的には緩やかに停止するようにする。これにより、正確な搬送動作を実現し
つつ全体の搬送時間を短くすることが可能になる。
【0059】
また、検出された到達時間がc(c<a)である場合には、コントローラー60は図7
の減速用プロファイルC(二点鎖線で描かれたプロファイル)を選択して減速動作を行う
。最高速度に到達するまでの時間cがaよりも短いということは、それだけ傾きが急にな
り加速度も大きくなるということなので、減速動作に移行する際の減速度をプロファイル
Aの場合よりも小さくしなければならない。そうしないと、急激な速度変動が生じて搬送
機構30に過大な負荷がかかることになるからである。一方、加速動作のために要する時
間はより短くなるので、その分、減速時間を長くとることができる。したがって、減速動
作は前述の図6に示されるように2段階の減速とし、はじめは小さな減速度で減速を開始
し、次に大きな減速度で減速を行い、そこから徐々に減速度を小さくしていく。これによ
り、搬送をゆっくりと停止させることができるので、正確な搬送量を実現しつつ、全体の
搬送時間を短くすることができる。
【0060】
なお、上述の例では、搬送動作において、搬送開始から搬送速度が最高速度Vmaxに
到達するまでの経過時間を基準として減速用プロファイルの選択を行なっていたが、他の
パラメーターを基準として減速用プロファイルの選択を行なってもよい。例えば、搬送速
度が最高速度Vmaxに到達した時点における媒体の搬送量や、所定の搬送速度に達する
までの時間に応じて速用プロファイルの選択が行われてもよい。
【0061】
<第2実施形態の効果>
第2実施形態では、あらかじめ複数の減速用プロファイルを用意しておき、加速動作か
ら減速動作に移行する際の実際の搬送動作の条件に応じて、最適な減速用プロファイルを
選択して減速動作を行う。
実際の加速動作に基づいて減速動作を適切に選択できるので、より正確な媒体搬送を実
現しつつ、全体の搬送時間が短くなるようにコントロールすることができる。
【0062】
===その他の実施形態===
一実施形態としての搬送装置を説明したが、上記の実施形態は、本発明の理解を容易に
するためのものであり、本発明を限定して解釈するためのものではない。本発明は、その
趣旨を逸脱することなく、変更、改良され得ると共に、本発明にはその等価物が含まれる
ことは言うまでもない。特に、以下に述べる実施形態であっても、本発明に含まれるもの
である。
【0063】
<媒体について>
上述の各実施形態において、被搬送媒体を紙等として説明しているが、媒体搬送機構に
よって搬送可能なシート状のものであれば「紙」以外の媒体を使用しても良い。例えば、
フィルム状の部材、樹脂製のシート、アルミ箔等を媒体として用いることができる。
【0064】
<制御部について>
コントローラー60は、上述の実施の形態のものには限られず、例えばASIC65の
みでPFモーター33の制御を司るように構成しても良く、また、これら以外に種々の周
辺機器が組み込まれた1チップマイコン等を組み合わせて、コントローラー60を構成す
るようにしても良い。
【符号の説明】
【0065】
10 搬送装置、
30 媒体搬送機構、31 搬送ローラー対、32 ギア輪列、
33 PFモーター、34 回転検出部、35 排出ローラー対、
60 コントローラー

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)媒体を搬送する搬送機構と、
(B)前記搬送機構が前記媒体の搬送を開始して前記媒体の搬送速度を加速する際の動作
である加速動作、及び、前記搬送機構が前記媒体の搬送速度を減速して前記媒体の搬送を
停止する際の動作である減速動作について、
前記媒体の搬送開始から前記媒体の搬送停止までの間で、前記加速動作に要する時間よ
りも前記減速動作に要する時間を長くする、制御部と、
を備える搬送装置であって、
前記制御部は、前記減速動作が開始されるまで、前記搬送機構に前記加速動作を行わせ
ることを特徴とする搬送装置。
【請求項2】
請求項1に記載の搬送装置であって、
前記減速動作を行う際には、時間の経過と共に減速度が小さくなることを特徴とする搬
送装置。
【請求項3】
請求項1または2に記載の搬送装置であって、
前記減速動作は、第1減速動作と第2減速動作とを有し、
前記第1減速動作では、前記加速動作から移行する際に、所定の減速度で減速動作を行
い、
前記第2減速動作では、前記第1減速動作から移行する際に、前記所定の減速動作より
も大きな減速度で減速動作を行うことを特徴とする搬送装置。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかに記載の搬送装置であって、
記減速動作を規定する速度プロファイルを複数種類有し、
前記制御部は、前記搬送機構に前記加速動作を行わせた際の条件に応じて、
複数の前記速度プロファイルの中から、最適な速度プロファイルを選択し、
選択された前記速度プロファイルに基づいて、前記搬送機構に前記減速動作を行わせる
ことを特徴とする搬送装置。
【請求項5】
請求項4に記載の搬送装置であって、
前記制御部は、前記搬送機構に前記加速動作を行わせた際の、搬送開始から、所定の搬
送速度に達するまでの時間に応じて、
複数の前記速度プロファイルの中から、最適な速度プロファイルを選択し、
選択された前記速度プロファイルに基づいて、前記搬送機構に前記減速動作を行わせる
ことを特徴とする搬送装置。
【請求項6】
(A)搬送機構によって媒体を搬送することと、
(B)前記搬送機構が前記媒体の搬送を開始して前記媒体の搬送速度を加速する際の動作
である加速動作、及び、前記搬送機構が前記媒体の搬送速度を減速して前記媒体の搬送を
停止する際の動作である減速動作について、
前記媒体の搬送開始から前記媒体の搬送停止までの間で、前記加速動作に要する時間よ
りも前記減速動作に要する時間を長くする、
制御部によって、
前記減速動作が開始されるまで、前記搬送機構に前記加速動作を行わせることを有する
搬送方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate