説明

搬送装置

【課題】簡便に搬送ベルトの張り具合を調整できる搬送装置を提供する。
【解決手段】右側前後搬送装置30は、駆動プーリーと従動プーリー61とに巻き掛けられて張持された歯付搬送ベルトを、前後に送ることにより本体部を前後に移動させるようになっており、前後に延びたガイドレール36と、歯付搬送ベルトの送りに応じて本体部をガイドレール36に沿って移動させるスライダー45、スライドプレート46と、歯付搬送ベルトに作用する前後方向の張力を調整する張力調整ユニット60とを備えて構成され、張力調整ユニット60は、従動プーリー61を回転自在に支持するとともに、前後に移動自在に設けられたユニット枠70と、前後方向におけるユニット枠70の位置を調整可能な調整ねじ66とを有して構成され、調整ねじ66によりユニット枠70の位置を調整して、歯付搬送ベルトに作用する張力を調整する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、搬送対象物をスライド移動させる搬送装置に関する。
【背景技術】
【0002】
上記搬送装置を用いて構成された機器の一例として、板状の印刷媒体を平らなテーブルに載置して固定しておき、この印刷媒体にプリンタヘッドを対向させた状態でインクを吐出させて印刷を行ういわゆるフラットベッドタイプのプリンタ装置が知られている。これ以外にも、テーブルに固定された板状の被加工媒体に対して、カット加工を施すように構成されたカッティング装置も知られている。例えば上記プリンタ装置は、プリンタヘッドが左右へ移動可能に搭載されて構成された搬送対象物としての印刷部を、搬送装置により上記テーブルに対して前後に移動させるように構成されている。この構成から、印刷部においてプリンタヘッドを左右に移動させる制御と、テーブルに対して印刷部を前後に移動させる制御とを組み合わせて行いながら、プリンタヘッドからインクを吐出させることにより、所望の印刷を施すことができる。
【0003】
上記の印刷部をテーブルに対して前後に移動させる搬送装置として、例えば無端リング状の歯付搬送ベルトが、前後に延びてテーブルの左右両端部に配設された構成が知られている。この2つの歯付搬送ベルトは、前後駆動モータにより回転駆動される駆動プーリー、および回転自在に支持された従動プーリーにより張持されている。また、この歯付搬送ベルトに対して印刷部が連結されている。この構成より、駆動プーリーを回転駆動させて歯付搬送ベルトを前後に送ることにより、この歯付搬送ベルトに連結された印刷部を前後へスライド移動させることができる。
【0004】
ところで、この歯付搬送ベルトの張り具合(テンション)が弱すぎると、歯付搬送ベルトがたるんで「遊び」が大きくなり、前後方向に対する印刷部の位置精度を確保することが困難となる。これとは逆に張り具合が強すぎると、前後駆動モータに過度な負担がかかり好ましくない。このような理由から、歯付搬送ベルトは適度な張り具合に調整されていることが望ましい。例えば特許文献1の図1には、タイミングプーリープレート23を、シャーシ22に形成された溝22aに沿って移動させることにより、タイミングベルト2の張り具合を調整可能な構成が開示されている。これ以外にも、例えば特許文献2の図1には、シリアルプリンタのベルトテンション調整装置が開示されている。
【0005】
また、駆動プーリーおよび従動プーリーの軸方向が、歯付搬送ベルトの送り方向に対して直交する方向(左右方向)と一致していない場合、歯付搬送ベルトを真っ直ぐ前後に送ることが困難となって、上記と同様に印刷部の位置精度を確保できなくなる虞がある。そのため従来、プリンタ装置には、歯付搬送ベルトの張り具合および各プーリーの平行度合いを調整するためのベルト調整機構が搭載されている。
【0006】
図9に、従来のプリンタ装置に搭載されたベルト調整機構500を示す。このベルト調整機構500は、従動プーリー520、支持軸530、および調整ねじ540R,540Lを主体に構成される。左右に延びた支持軸530に対して、従動プーリー520が回転自在に支持されており、この従動プーリー520と駆動プーリー(図示せず)とに、無端リング状の歯付搬送ベルト550が巻き掛けられて張持されている。この支持軸530の左右端部が、枠部材510に形成された長穴511,511に対して、前後に移動可能に挿入されている。支持軸530には、前後に貫通したねじ穴(図示せず)が形成されており、このねじ穴に対して調整ねじ540R,540Lが前後に挿入されている。
【0007】
この構成より、調整ねじ540R,540Lの締め具合を調整して、枠部材510に対して支持軸530(従動プーリー520)を前後に移動させることにより、歯付搬送ベルト550の張り具合を調整するようになっている。所定の張り具合になったか否かは、例えば超音波式テンションメーターを用いて確認することができる。また、調整ねじ540R,540Lの締め具合を個別に調整することにより、支持軸530が左右に向くように調整して、歯付搬送ベルト550を真っ直ぐ前後に送ることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平2−86483号公報
【特許文献2】特開昭62−94858号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
ところで、上記ベルト調整機構500においては、調整ねじ540R,540Lの締め具合を個別に調整することによって、支持軸530が左右に向くように調整できる反面、例えば歯付搬送ベルト550の張り具合を調整しようとして、調整ねじ540R,540Lの締め具合を調整することにより、支持軸530の向きが左右方向に対してずれてしまうことがある。そのため、ベルト調整機構500により調整を行った後に、所定の張り具合になったか否かの確認を行い、さらに実際に歯付搬送ベルト550を真っ直ぐ前後に送ることができるか否かの確認を行う必要がある。このように、ベルト調整機構500を用いて歯付搬送ベルト550の張り具合の調整を行う場合、歯付搬送ベルト550を真っ直ぐ前後に送ることができることを併せて確認する必要があり、調整作業が煩雑になるという虞があった。
【0010】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであり、簡便に搬送ベルトの張り具合を調整できる搬送装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的を達成するため、本発明に係る搬送装置は、回転駆動される駆動輪(例えば、実施形態における駆動プーリー34)と回転自在に支持された従動輪(例えば、実施形態における従動プーリー61)とに巻き掛けられて張持され搬送方向に延びた無端リング状の搬送用部材(例えば、実施形態における歯付搬送ベルト38)を、前記搬送方向に送ることにより前記搬送用部材に連結された搬送対象物(例えば、実施形態における本体部40)を前記搬送方向に移動させる搬送装置(例えば、実施形態における左側前後搬送装置20、右側前後搬送装置30)であって、前記搬送方向に延びて設けられたガイドレールと、前記搬送用部材と前記搬送対象物とを連結するとともに前記ガイドレールに沿って移動自在に設けられ、前記ガイドレール上において前記搬送用部材の送りに応じて前記搬送対象物を移動させる連結スライド部材(例えば、実施形態におけるスライダー45、スライドプレート46)と、前記搬送用部材に作用する前記搬送方向の張力を調整する張力調整ユニットとを備えて構成され、前記張力調整ユニットは、前記従動輪を回転自在に支持するとともに、前記搬送方向に移動自在に設けられたボディ部(例えば、実施形態におけるユニット枠70)と、前記搬送方向における前記ボディ部の位置を調整可能な調整用部材(例えば、実施形態における調整ねじ66)とを有して構成され、前記調整用部材により前記ボディ部の位置を調整して、前記搬送用部材に作用する張力を調整するように構成される。
【0012】
なお、上記搬送装置において、前記ボディ部が、前記ガイドレールに取り付けられて前記搬送方向に移動自在となった構成が好ましい。
【0013】
また、上記搬送装置において、前記張力調整ユニットが、前記従動輪の軸方向を前記搬送方向に対して直交する直交方向と一致させるように調整可能な角度調整機構(例えば、実施形態における傾斜角調整ねじ83、スプリングプランジャー87)を備えたことが好ましい。
【0014】
さらに、2つの前記搬送装置が、加工対象物を支持する平板状の対象物支持手段の側方において前記対象物支持手段を挟むように位置して前記搬送方向に延びて設けられ、前記搬送対象物が、前記2つの搬送装置における前記搬送用部材のそれぞれに連結されて前記対象物支持手段に対向している構成が好ましい。
【発明の効果】
【0015】
本発明に係る搬送装置は、搬送用部材に作用する張力を調整する張力調整ユニットが、
従動輪を回転自在に支持して搬送方向に移動自在なボディ部と、このボディ部の搬送方向位置を調整可能な調整用部材とを有して構成される。この構成から、搬送用部材の張力調整時に、従動輪の向き(軸方向)を変化させることなく、搬送方向におけるボディ部の位置を微調整することができる。よって、搬送用部材の張力調整時に従動輪の向きが変化せず、張力調整後に搬送用部材を確実に真っ直ぐ搬送方向に送ることが可能となる。そのために、張力調整後に搬送用部材が真っ直ぐ搬送方向に送られるか否かの確認が不要となり、張力調整を簡便に行うことができる。
【0016】
なお、ボディ部が、ガイドレールに取り付けられて搬送方向に移動自在となった構成が好ましい。この場合には、搬送対象物に連結された連結スライド部材とボディ部とを、同一のガイドレールに取り付けて構成できる。よって、搬送装置をコンパクトに構成できるとともに、部材点数を減らして製造コストの低減を図ることが可能となる。
【0017】
また、張力調整ユニットが、従動輪の軸方向を搬送方向に対して直交する直交方向と一致させるように調整可能な角度調整機構を備えたことが好ましい。このように構成すると、例えば何らかの原因で従動輪の向きが変化して、搬送用部材が真っ直ぐ搬送方向に送ることができなくなった場合、この角度調整機構を利用することにより、搬送用部材が真っ直ぐ搬送方向に送られるように修正することが可能となる。
【0018】
さらに、2つの搬送装置が、対象物支持手段を挟むように位置して搬送方向に延びて設けられ、搬送対象物が、搬送用部材のそれぞれに連結されて対象物支持手段に対向した構成が好ましい。この構成を、例えば加工対象物に印刷を施すプリンタ装置に適用した場合、2つの搬送装置の各々の張力調整を簡易且つ精度良く(細かく)行うことができるので、2つの搬送装置の各々の張力が互いに同一となるように揃える調整が可能となる。そのため、このように張力調整された2つの搬送装置によって搬送対象物を真っ直ぐ搬送方向に移動させることにより、位置精度の確保された印刷が可能となる。また、この構成を、例えば加工対象物にカット加工を施すカッティング装置に適用した場合、上記と同様に位置精度の確保されたカット加工が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明に係る搬送装置を適用したプリンタ装置の斜視図である。
【図2】上記プリンタ装置の平面図である。
【図3】図2中のIII−III部分を示した断面図である。
【図4】張力調整ユニットの斜視図(一部省略)である。
【図5】張力調整ユニットの平面図である。
【図6】図5中のVI−VI部分を示した断面図である。
【図7】ユニット枠の斜視図である。
【図8】別の実施例に係る張力調整ユニットの平面図である。
【図9】従来のベルト調整機構を示した平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、図面を参照しながら、本発明の実施形態について説明する。以下の実施形態においては、本発明に係る搬送装置を適用したプリンタ装置を例示している。説明の便宜上、各図面に示す矢印方向を前後、左右および上下と定義して説明を行う。
【0021】
まず、図1〜7を参照しながら、本発明を適用したプリンタ装置10の構成について説明する。なお、このプリンタ装置10は、印刷対象である板状の印刷媒体Bに対して印刷可能なフラットベッドタイプのプリンタ装置である。
【0022】
プリンタ装置10は、図1に示すように、下部に設けられた支持部2と、この支持部2に対して前後に移動自在に取り付けられた印刷部3とを主体に構成される。支持部2は、複数の支持脚11、この支持脚11により水平に支持されたにテーブル12、およびテーブル12の左右端部に設けられて前後に延びる左側前後搬送装置20、右側前後搬送装置30を主体に構成される。この右側前後搬送装置30(左側前後搬送装置20)の構成については後述する。なお、テーブル12は左右幅約2mで前後幅約4mの大きさに形成され、このテーブル12の前後幅に応じて左側前後搬送装置20および右側前後搬送装置30が形成されている。また、テーブル12の上面には、印刷媒体Bを支持する支持面(図示せず)が形成されている。
【0023】
テーブル12の下側(裏側)には、減圧室(図示せず)が形成されており、テーブル12の表面と減圧室とが、上下に貫通した複数の給排孔(図示せず)により連通されている。図示しない給排ブロワーにより、上記減圧室の空気を吸引したり、減圧室に空気を送り込むことができるようになっている。例えば、減圧室の空気を吸引することにより給排孔から減圧室へ空気を吸引し、テーブル12の表面に載置された印刷媒体Bをテーブル12に吸着させて固定できるようになっている。
【0024】
印刷部3は、上記テーブル12の上方を跨ぐとともに左右に延びて形成された本体部40、およびこの本体部40に内部に搭載された印刷ユニット44を主体に構成される。印刷ユニット44は、本体部40の内部に左右に延びて設けられたガイドレール42に取り付けられて、このガイドレール42に沿って左右に移動自在となっている。本体部40の左部前面側には、操作スイッチ類や表示装置類等からなる操作部41が設けられている。
【0025】
本体部40の左端側内部にはコントローラ43が搭載されており、このコントローラ43は、操作部41および後述する各構成部材と電気接続されている。このコントローラ43は、操作部41からの操作信号が入力されるとともに、各構成部材に作動信号を出力してこれらの作動制御を行うようになっている。具体的には、後述する左側前後駆動モータ21および右側前後駆動モータ31等の駆動制御を行うようになっている。
【0026】
印刷ユニット44は、左右へ移動自在にガイドレール42に取り付けられたキャリッジ(図示せず)、およびこのキャリッジに搭載された複数のプリンタヘッド(図示せず)を主体に構成される。プリンタヘッドの下面には、下方に向けて開口した吐出ノズル(図示せず)が形成されており、この吐出ノズルからインクが吐出される。この印刷ユニット44は、図示しない左右移動装置より、ガイドレール42に沿って左右へ移動されるように構成されている。なお、この左右移動装置として、種々の周知技術を用いることが可能であり、本明細書ではその説明を省略する。
【0027】
図2は、プリンタ装置10のうち、左側前後搬送装置20および右側前後搬送装置30を中心に示している。この図2から分かるように、左側前後搬送装置20と右側前後搬送装置30とは、同一部材を用いて左右対称に配置されている。そのため、以下においては、左側前後搬送装置20についての説明は省略し、右側前後搬送装置30の構成について説明する。
【0028】
右側前後搬送装置30は、図2および図3に示すように、右側前後駆動モータ31、歯付ベルト32、駆動軸33、駆動プーリー34、歯付搬送ベルト38、および張力調整ユニット60を主体に構成される。内部が中空となって前後に延びた取付台39の上面に、断面視略L字状の段差が形成されて前後に延びたベース部材37が固定されるとともに、このベース部材37の段差部分にガイドレール36が固定されている(図4および図6参照)。歯付搬送ベルト38は、その内周面に複数の係合歯38aが形成されており、駆動プーリー34と張力調整ユニット60に搭載された従動プーリー61とに巻き掛けられて張持されている。
【0029】
また、図3に示すように、歯付搬送ベルト38の上段部分には、歯付搬送ベルト38を上下から挟持するように、2つのスライダー45およびスライドプレート46が取り付けられて固定されている。このスライダー45は、ガイドレール36に取り付けられており、ガイドレール36に沿って前後に移動自在となっている。スライドプレート46の上面には、印刷部3が載置されて固定されている。
【0030】
図4および図5には、右側前後搬送装置30の前端部に設けられた張力調整ユニット60を示している。なお、図4は張力調整ユニット60の構造を分かりやすく示すため、歯付搬送ベルト38を図示せず省略するとともに、後述するユニット枠70を2点鎖線で示している。
【0031】
張力調整ユニット60は、ユニット枠70、従動プーリー61、スライダー64、およびL形アングル65に取り付けられた調整ねじ66を主体に構成される。従動プーリー61は、その中心部に軸受け62が取り付けられており、支持軸63により回転自在に支持されている。また、従動プーリー61の外周面には、歯付搬送ベルト38の内周面に形成された係合歯38aと係合可能な係合溝61aが複数形成されている。なお、支持軸63の左右端部には、止め輪63aが取り付けられており、ユニット枠70に対して左右にずれないようになっている。スライダー64は、ガイドレール36に取り付けられており、ガイドレール36に沿って前後に移動自在となっている。
【0032】
ユニット枠70は、図7に示すように、例えば板状の金属材料をプレス加工等することにより形成され、上部に形成された上壁71、この上壁71の端部を下方に向けて折曲することにより形成された後壁76、左壁81および右壁85を主体に構成される。上壁71の前端部には、前後に延びたプーリー用開口部72が形成されるとともに、後部には上記スライダー64を固定するための取付孔73が(4つ)形成されている。また、上壁71には、2つの位置決めピン74(図4等を参照)が取り付けられており、この位置決めピン74は上壁71の下面側に突出している。後壁76は、後述する調整ねじ66の前端部が当接するようになっている。左壁81および右壁85の前端部には、それぞれ前後に延びた軸用開口部82,86が形成されている。
【0033】
また、後壁76と左壁81とは、溶接部79において溶接されて接合されている。このように溶接されることにより、後述するように、調整ねじ66によって後壁76が前方に押圧された状態においても、後壁76が変形しないようになっている。なお、図4に示すように、ユニット枠70の前方下部には保護板99が取り付けられており、この保護板99によりユニット枠70が略箱状に形成される。
【0034】
上記ユニット枠70の下面にスライダー64を取り付ける際、図5および図6に示すように、2つの位置決めピン74に対してスライダー64の左側面を当接させた状態で、取付孔73に固定ねじ64aを挿入して締めることにより、ユニット枠70とスライダー64とを固定する。従動プーリー61は、軸用開口部82,86に対して前方から支持軸63を挿入するようにして、ユニット枠70に取り付けられる。このようにして組み立てることにより、ユニット枠70の中心軸Cに対して、スライダー64および従動プーリー61の中心軸を一致させることができるようになっている(図5参照)。なお、この中心軸Cは、ガイドレール36の中心軸と一致している。
【0035】
上述のようにして組み立てられた張力調整ユニット60のスライダー64が、ガイドレール36に取り付けられている。歯付搬送ベルト38は、駆動プーリー34と従動プーリー61とに巻き掛けられて、所定の張り具合に調整されて張持されている。このとき、歯付搬送ベルト38の上段部分はユニット枠70の上方に、歯付搬送ベルト38の下段部分は取付台39の中空部に位置している(図6参照)。
【0036】
図4および図5に示すように、張力調整ユニット60の後側には、ガイドレール36の左側にL形アングル65、ガイドレール36の右側にストッパー68が配設されている。これらL形アングル65およびストッパー68は、ベース部材37に固定されている。L形アングル65に、前後に延びるように調整ねじ66が取り付けられており、この調整ねじ66には固定用ナット67が取り付けられている。この固定用ナット67を締結することにより、L形アングル65に対して調整ねじ66を固定することができる。ストッパー68の後部には、例えば樹脂材料により形成された当接部68aが固定されている。
【0037】
図4に示すように、スライダー45には当接部47が固定されている。上記ストッパー68の当接部68aと、スライダー45の当接部47とが当接することにより、スライダー45(印刷部3)が限界位置を越えて前方に移動しないように規制できる構成となっている。また、ベース部材37の前端部には、ストッパーねじ69が取り付けられている。このストッパーねじ69にスライダー64が当接することにより、スライダー64(張力調整ユニット60)が限界位置を越えて前方に移動することを規制でき、スライダー64(張力調整ユニット60)がガイドレール36から外れることを防止できる。
【0038】
以上、プリンタ装置10の構成について説明した。以下において、上述のように構成されたプリンタ装置10を用いて、印刷媒体Bに印刷を施すときの作動について説明する。
【0039】
まず、図1に示すように、印刷媒体Bをテーブル12に載置し、減圧室の空気を吸引することで、印刷媒体Bをテーブル12に吸着させて固定する。そして、印刷部3を前方にスライド移動させて、印刷ユニット44と印刷媒体Bとを対向させる。このとき、コントローラ43からの作動信号に基づいて、左側前後駆動モータ21および右側前後駆動モータ31が同期するように駆動され、歯付ベルト32を介して駆動軸33が回転駆動されるとともに、この駆動軸33に固定された駆動プーリー34が回転駆動される。
【0040】
駆動プーリー34が回転駆動されることにより、駆動プーリー34の係合溝(図示せず)に係合した歯付搬送ベルト38が前方に搬送される。そして、この歯付搬送ベルト38に固定された印刷部3が、歯付搬送ベルト38の前方への搬送距離だけガイドレール36に沿って真っ直ぐ前方にスライド移動され、印刷ユニット44と印刷媒体Bとを対向させることができる。その状態で、左右移動装置により、印刷ユニット44をガイドレール42に沿って左右に移動させながら、プリンタヘッドからインクを吐出させて、所望のパターンで印刷媒体Bにインクを付着させて印刷を施す。
【0041】
上記の作動を行いながら、所定回数だけ印刷ユニット44をガイドレール42に沿って左右に往復移動させた後、左側前後搬送装置20および右側前後搬送装置30により印刷部3を所定距離だけ前方に移動させる。印刷部3を前方に移動させた後、再び印刷ユニット44を所定回数だけ左右に往復移動させながら、プリンタヘッドからインクを吐出させる。このような作動を繰り返して行うことにより、印刷媒体Bの全体に対して所望の印刷を施すことができる。
【0042】
ところで、上述のように、歯付搬送ベルト38を前後に搬送させながら長期間印刷を行うと、例えば歯付搬送ベルト38が前後方向に伸びることにより、張り具合が弱くなる場合がある。このように、歯付搬送ベルト38の張り具合が弱い状態で印刷を行うと、印刷部3(印刷ユニット44)の前後方向への位置精度が低下して、印刷品質に影響を及ぼすことがある。そのため、歯付搬送ベルト38の張り具合が弱くなった場合には、張力調整ユニット60を利用して、歯付搬送ベルト38が所定の張り具合になるように張力調整を行う。この張力調整について、以下に説明する。
【0043】
歯付搬送ベルト38の張り具合を強めるように張力調整を行うときには、調整ねじ66を回しL形アングル65に対して調整ねじ66を前方に突出させて、後壁76を前方に押圧する。そうすることにより、張力調整ユニット60(従動プーリー61)を前方に移動させて、歯付搬送ベルト38の張り具合を強める張力調整を行うことができる。このとき、張力調整ユニット60は、スライダー64によりガイドレール36に沿って真っ直ぐ前後に移動するように構成されているので、調整ねじ66により押圧されて真っ直ぐ前方へ移動される。よって、1つの調整ねじ66を回すという簡便な方法でありながら、支持軸63は左右に向けられたままであり、歯付搬送ベルト38を真っ直ぐ前後に送ることが可能である。
【0044】
また、調整ねじ66により押圧される後壁76は、上述したように溶接部79において左壁81と溶接されて補強されている。そのため、後壁76は、調整ねじ66により前方に押圧されても前後方向に変形することなく、調整ねじ66による押圧力を張力調整ユニット60の前方移動に確実に反映させることができて、精度良く張力調整を行うことが可能である。
【0045】
このようにして、歯付搬送ベルト38の張り具合が強くなるように張力調整を行った後、所定の張り具合に調整されたか否かは、例えば超音波式テンションメーターを用いて確認することができる。そして、所定の張り具合に調整できたことが確認された後、固定用ナット67を締結することにより、L形アングル65に対して調整ねじ66が回転しないように固定する。以上のように張力調整を行うことで、歯付搬送ベルト38を所定の張り具合に維持することができ、印刷部3の前後方向への位置精度を確保した高品質な印刷が可能となる。
【0046】
プリンタ装置10は、テーブル12を挟むように位置して対となった左および右側前後搬送装置20,30を用いて構成されており、印刷部3を真っ直ぐ前後にスライド移動させるためには、左および右側前後搬送装置20,30の歯付搬送ベルト38の張り具合が同じになるように揃えておく必要がある。このプリンタ装置10は、上述したように前後幅約4mの大型の装置であり、左右の2つの歯付搬送ベルト38の張り具合を揃える調整は小型のプリンタ装置と比較して難しく、且つ張り具合の差は印刷品質に大きく影響する。このことに対して、左および右側前後搬送装置20,30の各々において、張力調整ユニット60を利用して歯付搬送ベルト38の張り具合を細かく調整することができるので、2つの歯付搬送ベルト38の張り具合を揃える(一致させる)ことが可能である。よって、印刷部3を精度良く前後にスライド移動させることができ、位置精度が確保された高品質な印刷が可能となる。
【0047】
上述の張力調整ユニット60に代えて、図8に示す張力調整ユニット90を用いることも可能である。なお、図8においては、張力調整ユニット60と同一部材には同一番号を付している。以下において、張力調整ユニット90の構成のうち、張力調整ユニット60とは異なる部分を中心に説明する。
【0048】
ユニット枠70(上壁71)には、長穴75が形成されている。また、上壁71に対して位置決めピン74fが回転可能に挿入されるとともに、位置決めピン74bが長穴75に沿って移動可能に挿入されている。左壁81には、左右に向けて傾斜角調整ねじ83が挿入され、この傾斜角調整ねじ83の先端部が位置決めピン74bと当接している。一方、右壁85の内側には、スプリングプランジャー87が取り付けられている。スプリングプランジャー87にはスプリング(図示せず)が内蔵されており、このスプリングにより、先端の押圧部87aが突出するように付勢されている。この先端部87aは、スライダー64の右側面に当接して押圧している。よって、スライダー64は、右方からスプリングプランジャー87により押圧されるとともに、左方から位置決めピン74b(傾斜角調整ねじ83)により支持されている。なお、固定用ナット84により、左壁81に対して傾斜角調整ねじ83を固定できるようになっている。
【0049】
ところで、従動プーリー61(支持軸63)の向きがずれて駆動プーリー34に対して平行ではなくなった場合、歯付搬送ベルト38を真っ直ぐ前後に送ることができなくなり、印刷部3の前後への位置精度を確保することが困難となる。そこで、このような場合には、傾斜角調整ねじ83を利用して、従動プーリー61が真っ直ぐ左右に向くように(駆動プーリー34に対して平行となるように)調整を行う。具体的には、スライダー64にユニット枠70を固定する4つの固定ねじ64aを緩めた状態で傾斜角調整ねじ83を回すことにより、ガイドレール36に対して張力調整ユニット90を傾けて(位置決めピン74fを中心に張力調整ユニット90を回転させて)調整を行う。そして、従動プーリー61が真っ直ぐ左右に向くように調整した状態で、緩めておいた4つの固定ねじ64aを締めてスライダー64に対してユニット枠70を固定するとともに、固定用ナット84を締めて傾斜角調整ねじ83を左壁81に固定する。このように、傾斜角調整ねじ83およびスプリングプランジャー87が追加された張力調整ユニット90とすることにより、上述の張力調整ユニット60の効果に加えて、万が一従動プーリー61の向きが変化した場合にも、駆動プーリー34に対して平行となるように調整可能となる。
【0050】
上述の実施形態において、歯付搬送ベルト38を前後にスライド移動させる構成を例示したが、この構成に限定されない。例えば、歯付搬送ベルト38に代えてチェーン、プーリー34,61に代えてスプロケットを用いて、このチェーンを前後にスライド移動させる構成も可能である。
【0051】
また、上述の実施形態において、本発明に係る搬送装置を適用したプリンタ装置10を例示して説明したが、本発明に係る搬送装置の適用対象はプリンタ装置に限定されない。例えば板状の被加工媒体に対して、カット加工(切削加工)を施すカッティング装置に対しても、本発明に係る搬送装置を適用可能である。具体的には図1において、印刷ユニット44に代えて、被加工媒体に対してカット加工を施すカッター刃(図示せず)を備えたカッティングユニット(図示せず)を、本体部40に左右へ移動可能に搭載してカッティング装置を構成する。そして、この本体部40を前後に移動させる機構として、本発明に係る左側前後搬送装置20および右側前後搬送装置30を用いることができる。
【符号の説明】
【0052】
B 印刷媒体(加工対象物)
12 ベッド(対象物支持手段)
20 左側前後搬送装置(搬送装置)
30 右側前後搬送装置(搬送装置)
34 駆動プーリー(駆動輪)
36 ガイドレール
38 歯付搬送ベルト(搬送用部材)
40 本体部(搬送対象物)
45 スライダー(連結スライド部材)
46 スライドプレート(連結スライド部材)
60 張力調整ユニット
61 従動プーリー(従動輪)
66 調整ねじ(送り部材)
70 ユニット枠(ボディ部)
83 傾斜角調整ねじ(角度調整機構)
87 スプリングプランジャー(角度調整機構)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転駆動される駆動輪と回転自在に支持された従動輪とに巻き掛けられて張持され搬送方向に延びた無端リング状の搬送用部材を、前記搬送方向に送ることにより前記搬送用部材に連結された搬送対象物を前記搬送方向に移動させる搬送装置であって、
前記搬送方向に延びて設けられたガイドレールと、
前記搬送用部材と前記搬送対象物とを連結するとともに前記ガイドレールに沿って移動自在に設けられ、前記ガイドレール上において前記搬送用部材の送りに応じて前記搬送対象物を移動させる連結スライド部材と、
前記搬送用部材に作用する前記搬送方向の張力を調整する張力調整ユニットとを備えて構成され、
前記張力調整ユニットは、
前記従動輪を回転自在に支持するとともに、前記搬送方向に移動自在に設けられたボディ部と、
前記搬送方向における前記ボディ部の位置を調整可能な調整用部材とを有して構成され、
前記調整用部材により前記ボディ部の位置を調整して、前記搬送用部材に作用する張力を調整することを特徴とする搬送装置。
【請求項2】
前記ボディ部が、前記ガイドレールに取り付けられて前記搬送方向に移動自在に構成されたことを特徴とする請求項1に記載の搬送装置。
【請求項3】
前記張力調整ユニットが、前記従動輪の軸方向を前記搬送方向に対して直交する直交方向と一致させるように調整可能な角度調整機構を備えたことを特徴とする請求項1または2に記載の搬送装置。
【請求項4】
2つの前記搬送装置が、加工対象物を支持する平板状の対象物支持手段の側方において前記対象物支持手段を挟むように位置して前記搬送方向に延びて設けられ、
前記搬送対象物が、前記2つの搬送装置における前記搬送用部材のそれぞれに連結されて前記対象物支持手段に対向していることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の搬送装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2010−269896(P2010−269896A)
【公開日】平成22年12月2日(2010.12.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−123453(P2009−123453)
【出願日】平成21年5月21日(2009.5.21)
【出願人】(000137823)株式会社ミマキエンジニアリング (437)
【Fターム(参考)】