説明

搬送装置

【課題】被搬送物を所定経路に沿って一定速度で移動させているときに、搬送速度を所定経路の一部の区間でのみ変速させることが可能な搬送装置を提供する。
【解決手段】所定経路が上流側に繋がる第1経路A1〜A2と、下流側に繋がる第3経路A4〜A5と、これらの経路の間で繋がる第2経路A3とを有して構成され、線状部材Lの移動に伴って、第1経路A1〜A2および第3経路A4〜A5の各経路長の合算値を一定に維持しながら、第1経路A1〜A2および第3経路A4〜A5の各経路長を連続的に変化させる経路長変更手段を備え、線状部材Lを所定経路に沿って移動させているときに、経路長変更手段により第1経路A1〜A2および第3経路A4〜A5の各経路長を連続的に変更することで、線状部材Lにおいて第2経路A3に係る部分の移動速度を可変にする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば製造ライン等の工程間で被搬送物を連続的に搬送するための搬送装置に関する。
【背景技術】
【0002】
上記のような目的の搬送装置は様々な分野で利用され、例えば製造ラインにおいては加工、組立、塗装等を施すための製品や材料などの搬送に広く利用されている。このような搬送装置は従来から種々の形式のものが提案されており、例えば、閉ループをなす搬送経路に沿って無端環状の搬送用チェーンが複数のスプロケットによって所定の張力を受けた状態で張設され、この搬送用チェーンを搬送経路に沿って循環移動させることで、被搬送物を各工程間に渡って搬送するように構成したチェーンコンベア式の搬送装置が知られている(例えば、特許文献1を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平11−320664号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ここで、図7に上記従来のチェーンコンベア式の搬送装置100を模式的に示す。搬送装置100は、図7に示すように、複数のスプロケット111〜114に掛け渡された無端環状の搬送用チェーン100に所定のピッチで多数の搬送部材120(図7では3つのみを示している)を係止させ、この搬送用チェーン110を所定の搬送経路に沿って図示の矢印方向に循環移動させることで、搬送部材120に載置された被搬送物(図示せず)を工程OP101〜工程OP105間に渡って連続的に搬送するように構成されている。例えば、工程OP101で被搬送物を搬送部材120に供給し、工程OP102〜OP104間において被搬送物に対して組立・塗装等の所要の処理が施され、工程OP105において被搬送物を搬送用チェーン110の系外へ排出する態様を例示する。
【0005】
このような搬送装置は、搬送経路において被搬送物の流れを止めることなく一連の作業(工程OP101〜OP105)を行うものであり、この被搬送物の搬送速度に応じた処理条件でタクトタイム運転がなされるようになっている。そのため、工程OP101,OP105において被搬送物の積み替えを行う際にも搬送部材120が走行している状態で行わなければならならず、オペレータが手作業で被搬送物を走行中の搬送部材120に正確な位置にセットすることは非常に困難である。一方、産業用ロボット等の自動機を用いて被搬送物の積み替えを行うことも考えられるが、幾ら自動機の位置決め精度が高くても、搬送用チェーン110の移動速度が高い場合には搬送用チェーン110の動作と完全に同期化させることは難しい。従って、各工程間を結ぶ搬送経路において、搬送用チェーン110を常時駆動させながらも、被搬送物の積み替え等を行うための一部の経路でのみ搬送用チェーンを減速や停止させることが可能な構成の搬送装置の開発が望まれている。
【0006】
本発明は、このような課題に鑑みてなされたものであり、被搬送物を所定経路に沿って一定速度で移動させているときに、その搬送速度を当該所定経路の一部の区間でのみ変速させることが可能な構成の搬送装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記課題を解決するために、本発明に係る搬送装置は、上流側から連続的に送り出される線状部材を所定経路に沿って下流側に移動させて、線状部材に保持された被搬送物を搬送するように構成した搬送装置であって、所定経路が、上流側に繋がる第1経路と、下流側に繋がる第3経路と、第1経路及び第3経路の間で繋がる第2経路とを有して構成され、線状部材の移動に伴って、第1経路および第3経路の各経路長の合算値を一定に維持しながら、第1経路および第3経路の各経路長を連続的に変化させる経路長変更手段を備え、線状部材を所定経路に沿って移動させているときに、経路長変更手段により第1経路および第3経路の各経路長を連続的に変更することで、線状部材において第2経路に係る部分の移動速度を可変にするように構成されている。
【0008】
なお、上述の発明において、第1経路における線状部材の移動を案内する第1動滑車と、第2経路における線状部材の移動を案内する複数の定滑車と、第3経路における線状部材の移動を案内する第2動滑車とを更に備え、線状部材は、第1および第2動滑車と複数の定滑車との間に掛け渡されており、経路長変更手段が、第1及び第2動滑車と、第1及び第2動滑車の軸心間距離を一定に維持しながら、第1および第2動滑車を当該軸間方向に往復移動させる移動機構とを備え、経路長変更手段が、第1及び第2動滑車を当該軸間方向に往復移動させることにより、第1経路及び第3経路の各経路長を変更させて、線状部材における第2経路に係る部分の移動速度を可変にすることが好ましい。
【0009】
さらに、上述の発明において、経路変更手段において、所定時間内における第1経路及び第3経路の経路長の各変化量を、所定時間内における上流側及び下流側に係る部分の線状部材の移動量と等しくすることにより、線状部材において第2経路に係る部分の移動を停止させることが好ましい。
【0010】
また、上述の発明において、経路長変更手段において、第1及び第2動滑車を、線状部材における上流側および下流側に係る部分の半分の移動速度で移動させることにより、線状部材において第2経路に係る部分の移動を停止させることが好ましい。
【0011】
さらに、上述の実施形態において、第1及び第2動滑車を所定の間隔において連続的に往復移動するように構成して、所定間隔の距離をK、第1及び第2動滑車を所定間隔で一往復させるための所要時間内における線状部材の移動距離をP、線状部材における上流側および下流側に係る部分の移動速度をV、第1及び第2動滑車の往路における移動速度をV1、第1及び第2動滑車における復路での移動速度をV2としたとき、次式V1=V/2及びV2=KV/(P−2K)の条件を満足することが好ましい。
【0012】
また、上述の発明において、上流側に配設された上流側滑車と、下流側に配設された下流側滑車とを更に備え、線状部材が、第1及び第2動滑車と、複数の定滑車と、上流側および下流側滑車との間に掛け渡されて無端環状に形成されていることが好ましい。
【発明の効果】
【0013】
本発明に係る搬送装置によれば、線状部材に保持された被搬送物を所定経路に沿って一定速度で移動させているときに、その搬送速度を当該所定経路の一部の区間である第2経路でのみ変速させることができる。従って、この搬送装置が適用される製造ライン等において、各工程で要求される被搬送物の搬送速度が異なる場合であっても、被搬送物をこの要求に応じた搬送速度で搬送することができるため、各工程の作業条件や処理条件に適合させた搬送を実現することが可能であるとともに、工程ごとに搬送速度を変えるために各工程間に1台ずつ搬送装置を設ける必要がなく、製造コストの低減やスペースの有効活用を図ることもできる。
【0014】
また、経路長変更手段において第1及び第2動滑車を当該軸間方向に往復移動させることにより、第1経路及び第3経路の各経路長を変更させて、線状部材における第2経路に係る部分の移動速度を可変にする構成とすることで、簡便な構成により、所定経路の一部の区間で被搬送物の搬送速度を変速できるため、製造コストをより低減することが可能になる。
【0015】
さらに、所定時間内における第1経路及び第3経路の経路長の各変化量を、所定時間内における上流側及び下流側に係る部分の線状部材の移動量と等しくすることにより、線状部材において第2経路に係る部分の移動を停止させる構成とすることで、上流側および下流側などでは被搬送物の搬送速度を一定に維持しながら、第2経路に係る部分では一時的に停止させることが可能となる。よって、搬送経路(上流側から下流側への経路)に沿って移動する1本の線状部材に対して、一定速度で移動している部分と停止している部分との相反する状態を作り上げることができるため、この搬送装置が適用される製造ライン等において、被搬送物たるワークが移動していないと作り込み等ができない工程と、ワークが停止していないと作り込み等ができない工程とが混在している場合でも、この要求に適合させる搬送を実現することが可能である。例えば第2経路において被搬送物の積み替えを行う場合には、この区間では線状部材が停止しているため、被搬送物を高精度に位置決めすることができるとともに、作業の安全性を確保できる。また、線状部材の移動量と第1経路及び第3経路の経路長の変化量とを正確に制御することで、線状部材における第2経路に係る部分の停止位置を高精度に位置決めすることが可能である。
【0016】
また、動滑車の原理に従い、第1及び第2動滑車を、線状部材における上流側および下流側に係る部分の半分の移動速度で移動させることにより、線状部材において第2経路に係る部分の移動を停止させる構成とすることで、より簡便な構成により、搬送経路において、線状部材が一定速度で移動している部分と、停止している部分とを作り上げることができる。
【0017】
さらに、所定間隔の距離をK、第1及び第2動滑車を所定間隔で一往復させるための所要時間内における線状部材の移動距離をP、線状部材における上流側および下流側に係る部分の移動速度をV、第1及び第2動滑車の往路における移動速度をV1、第1及び第2動滑車における復路での移動速度をV2としたとき、次式V1=V/2及びV2=KV/(P−2K)の条件を満足する構成とすることで、搬送装置が適用される製造ライン等において、第2経路では間欠運転をさせつつもライン全体でのサイクルバランスを維持して、上記所定時間でのタクトタイム運転を行うことが可能である。
【0018】
また、線状部材が、第1及び第2動滑車と、複数の定滑車と、上流側および下流側滑車との間に掛け渡されて無端環状に形成されている構成とすることで、閉ループの搬送経路において線状部材を循環移動させることができるため、この搬送装置が適用される製造ライン等で各工程において要求される被搬送物の搬送速度を満たしながら、搬送経路を循環移動することが可能となる、より付加価値の高い搬送装置を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明に係る搬送装置の作動原理を説明するための模式図である。
【図2】本発明の一実施形態に係る搬送装置の概略平面図である。
【図3】上記搬送装置の要部を示す平面図である。
【図4】上記搬送装置の一部を構成する車台の側面図である。
【図5】上記搬送装置において往復動スプロケットの往路を説明するための模式図である。
【図6】上記搬送装置において往復動スプロケットの復路を説明するための模式図である。
【図7】従来のチェーンコンベア式の搬送装置を示す概略平面図である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下、図面を参照して本発明の好ましい実施形態について説明する。まず、図1を参照して、本発明に係る搬送装置の作動原理に関して概要説明する。
【0021】
搬送装置は、所定の搬送経路に沿って長尺可撓性の線状部材Lを連続的に移動させて、この線状部材Lに保持された被搬送物(図示せず)を所定の位置まで搬送するように構成されている。線状部材Lの形態は特に限定されず、チェーンやベルト、ワイヤーなどが適宜用いられ、無端環状に形成しても、各端部を繰出側及び巻取側に接続するための有端状に形成しても適用可能である。
【0022】
搬送経路には、線状部材Lの移動を案内するための複数の滑車(定滑車T、動滑車D)が自身の軸心を中心に各々回転可能に支持されており、これら複数の滑車T,Dに対して線状部材Lが所定の張力を受けた状態で張設されている。滑車T,Dとしては、例えばスプロケットやプーリ、歯車等が例示されるが、これに限定されるものではなく、線状部材Lとの適切な組み合わせに応じて適宜な滑車要素が用いられる。
【0023】
搬送装置は、図示しないが、線状部材Lを駆動するための駆動源を備えており、この駆動源からの駆動力が線状部材Lに伝達されることで、無端環状又は有端状の線状部材Lを複数の滑車T,Dによって案内しながら搬送経路に沿って移動させることができる。
【0024】
定滑車T1〜T4は、その軸心位置が各々固定されており、線状部材Lの移動に伴ってその位置で回転運動を行う。動滑車D1,D2は、左右に所定の軸間距離Jを隔てた状態で回転可能にそれぞれ軸支されており、図示省略する駆動ユニットにより、相互の軸間距離Jを一定に維持しながら一体となって、原点位置G1,G2と折返位置G11,G12との間を軸間方向(図1に示す左右方向)に往復移動可能になっている。ここで、動滑車D1,D2の往復移動において、原点位置G1,G2は動滑車D1,D2の右方への移動(往路)の起点であり、折返位置G11,G12は動滑車D1,D2の左方への移動(復路)の起点である。
【0025】
なお、説明の便宜のため、線状部材Lの搬送経路において、滑車T1,D1間の部分を区間A1、滑車D1,T2間の部分を区間A2、滑車T2,T3間の部分を区間A3、滑車T3,D2間の部分を区間A4、滑車D2,T4間の部分を区間A5と称する。ここで、区間A1,A2,A4,A5の距離は動滑車D1,D2の往復移動に応じて長短変化し、区間A3の距離は動滑車D1,D2の移動の有無に拘らず一定である。
【0026】
線状部材Lは、搬送経路において上流側から、定滑車T1→動滑車D1→定滑車T2→定滑車T3→動滑車D2→定滑車T4の順に案内されて下流側へ移動するようになっている。前述したように、動滑車D1,D2の軸間距離Jは往復移動に拘らず常に一定に保たれるため、搬送経路の全長(線状部材Lの全移動距離)は常に一定であり、線状部材Lは各滑車T,Dに対して離脱することなく所定の張力で巻回された状態を保持する。
【0027】
このように構成される搬送装置は、駆動源からの駆動力が線状部材Lに伝達されることで、この線状部材Lを搬送経路に沿って所定の移動速度(「基準搬送速度V」と称する)で移動させることができるが、この線状部材Lの基準搬送速度Vに対して、線状部材Lのうち区間A3の部分の移動速度を動滑車D1,D2の作動状態に応じて可変にすることが可能である。それでは以下において、I)動滑車D1,D2の往復移動を停止させたときと、II〜III)動滑車D1,D2を往復移動させたときについて詳細に説明する。
【0028】
I)動滑車Dの往復移動を停止させたとき
各動滑車D1,D2を例えば原点位置G1,G2で停止させている場合、線状部材Lの搬送経路において、各滑車T,Dの軸心位置によって定まる各区間A1〜A5の距離は常に一定であり、線状部材Lは、駆動源から駆動力が付与されることにより、各滑車T,Dによって順次案内されながら、この搬送経路に沿って全区間A1〜A5を同一速度(基準搬送速度V)で移動する。なお、線状部材Lを基準搬送速度Vで一定時間Tだけ移動させたときの移動量(送出量)をWとしたとき、「W=VT」である。
【0029】
II)動滑車Dを右方向に軸移動させたとき(動滑車Dの往路)
線状部材Lが所定の張力を受けている状態で動滑車D1,D2を移動させると、区間A1,A2,A4,A5の距離は長短変化する。つまり、動滑車D1,D2の右方への移動(往路)では、区間A1,A2の距離は動滑車D1,D2の移動量だけ長くなり、区間A4,A5の距離は動滑車D1,D2の移動量だけ短くなる。一方、定滑車T2,T3の軸心位置は固定であるため、この定滑車T2,T3間(区間A3)の距離については動滑車D1,D2の移動量とは無関係に一定である。そのため、区間A1,A2での距離の増加量と区間A4,A5での距離の減少量とが完全に相殺されて、動滑車D1,D2の位置が変位しても、各区間A1〜A5の合計距離は常に一定であり、ひいては搬送経路の全長距離も常に一定に維持される。
【0030】
このように線状部材Lは各滑車T,Dに所定の張力で張設されており、搬送経路の全長距離は常に一定に維持されているため、動滑車D1,D2を送り速度V1(V1≦V)で移動させると、この動滑車D1,D2に巻き掛けられた部分はこの動滑車D1,D2の移動に同期するようにして同方向(右方向)に引っ張られ、動滑車D1,D2の原理に従って、線状部材Lにおける区間A1〜A2の部分の距離は動滑車D1,D2の移動量に対して2倍の変位量で増加し、区間A4〜A5の部分の距離は動滑車D1,D2の移動量に対して2倍の変位量で減少する。従って、動滑車D1の側に関しては、上流側から送出されてくる線状部材Lに対して区間A1,A2の距離が増加するため、線状部材Lの送出量Wのうちの一部が区間A1,A2の距離の増加分によって吸収され、区間A3への線状部材Lの送出量がその増加分だけ減少する。そのため、動滑車D1,D2の移動によって、線状部材Lにおける区間A3の部分の移動速度が減速されることになる。なお、動滑車D1,D2の送り速度V1を高くするほど区間A1〜A2での距離変化は大きくなるため、それだけ区間A3での線状部材Lの減速量も大きくなるが、動滑車D1,D2の送り速度V1は基準搬送速度Vの半分(V/2)を超えない範囲で設定する。このとき、区間A3から区間A2への線状部材Lの逆戻りを抑止するため、例えば、定滑車T2の回転を適宜制動するブレーキ手段を設けてもよい。
【0031】
一方、動滑車D2の側において区間A4〜A5の距離は減少するため、区間A3からの線状部材Lの送出量が減少していても、区間A4,A5の距離の減少分(=区間A1,A2の距離の増加分)だけ大きな送出量を付加することができ、一定時間Tに基準搬送速度Vに応じた送出量Lを下流側に送り出すことができる。そのため、線状部材Lにおいて、上流側〜区間A2の途中、区間A4の途中〜下流側の部分の移動速度を基準搬送速度Vに一致させながら、区間A3(区間A2の途中〜区間A4の途中)の部分の移動速度を減速することが可能になる。
【0032】
また、動滑車D1,D2の送り速度V1に応じて、線状部材Lにおける区間A3の部分の移動速度(減速量)が変更されるが、この動滑車D1,D2の往路において、動滑車D1,D2の送り速度V1を線状部材Lの基準搬送速度Vの半分に設定すると、すなわち、一定時間T当たりの動滑車D1,D2の移動量を線状部材Lの送出量Wの半分にすることで、動滑車の原理に従って、上流側からの線状部材Lの送出量の全量が動滑車D1,D2の移動に伴う区間A1,A2の距離の増加量で吸収されるため、この期間、線状部材Lが区間A2から区間A3へは送り出されず、線状部材Lにおける区間A3の部分を停止させた状態にすることができる。このとき動滑車D2の側では、線状部材Lのうち動滑車D2に巻き掛けられた部分は、所定の張力によって動滑車D2の移動に追従するように巻回された状態を維持し、動滑車D2の移動に伴う区間A4,A5の距離の減少量(=区間A1,A2で吸収された分)を線状部材Lの送出量として、すなわち、線状部材Lを基準搬送速度Vで区間A5よりも下流側に送り出すことができる。従って、線状部材Lが上流側から下流側へ基準搬送速度Vで送り出されているにも拘らず、動滑車D1,D2が送り速度V1=V/2で移動している間は、搬送経路における区間A3では、線状部材Lを停止させた状態にすることが可能になる。
【0033】
III)動滑車Dを左方に軸移動させたとき(動滑車Dの復路)
動滑車D1,D2を折返位置G11,G12から原点位置G1,G2に移動させる場合(復路)を考えると、この間において線状部材Lは、基準搬送速度Vによる送出量(本来の送出量)の他に、動滑車の原理に従って、動滑車D1,D2の移動量の2倍の送出量(区間A1〜A2の距離の減少量)を更に区間A3へ送り出すことになる。従って、線状部材Lを区間A3では基準搬送速度Vよりも高速で移動させることができる。このとき、動滑車D2の側では、区間A3から区間A4へ基準搬送速度Vに応じた送出量を超える量が送り出されてくるが、動滑車D2の移動に伴う区間A4,A5の距離の増加量により、区間A3から送り出されてくる超過量分を吸収することができるため、下流側へは基準搬送速度Vに応じた送出量を正確に送り出すことができる。
【0034】
以上説明した作動原理に従えば、無端環状又は有端状の1本の線状部材Lを用いて搬送経路を形成した場合であっても、動滑車D1,D2の往復移動に際して、線状部材Lにおける上流側および下流側の部分の移動速度を常に基準搬送速度Vで維持しながら、区間A3での移動速度を可変調整(減速、停止、増速)することが可能になる。
【0035】
次に、本実施形態に係る搬送装置を組み込んだ塗装ラインの概要平面図を図2に示すとともに塗装ラインの要部平面図を図3に示しており、先ずこの図2及び図3を参照して塗装ラインについて概要説明する。塗装ライン1は、大別的には反時計廻りに工程OP1〜OP7の順に、被塗装物(被搬送物)を搬送装置に取り付けるためのローディング装置11、被塗装物表面を除塵するための静電除塵装置12、被塗装物にUV硬化樹脂(紫外線硬化樹脂)を塗装するためのレシプロ塗装装置13、被塗装物を乾燥させるための乾燥装置14、被塗装物を冷却するための冷却給気装置15、被塗装物に付着したUV硬化樹脂を硬化させるための紫外線照射装置16、被塗装物を搬送装置から取り出すためのアンローディング装置17、被塗装物を各工程に搬送するための搬送装置20、及び塗装ライン1全体の作動を制御する制御ユニット60とを備え、例えば24時間無人運転可能な全自動化ラインとして構成されている。
【0036】
搬送装置20は、塗装ライン1における工程OP1〜OP7の作業区間に形成された搬送経路に沿って配設されており、この搬送経路に沿って被塗装物を等間隔に配列した状態で搬送するように構成される。この搬送装置20は、各機構の取り付けベースとなる支持フレーム21(図3を参照)と、水平面内において略矩形状の閉ループを形成するチェーン機構30とを主体に構成されている。
【0037】
チェーン機構30は、搬送経路に沿って配設された複数のスプロケット31〜38と、これらスプロケット31〜38に掛け渡された無端環状の搬送用チェーン40とを備えている。
【0038】
搬送用チェーン40は、チェーン駆動用の駆動モータ49と連動する駆動スプロケット31と、自由回転可能に支持フレーム21に軸支された従動スプロケット32〜36と、自由回転可能且つ水平面内において往復移動可能に設けられた往復動スプロケット37,38との間に所定の張力を受けた状態で掛け渡されており、駆動モータ49によって駆動されて工程OP1〜OP7の搬送経路を図示の矢印F方向に循環的に走行する。
【0039】
駆動モータ49は、制御ユニット60からの駆動信号に基づいて正逆両方向に回転駆動可能に構成されており、その回転駆動力が動力伝達機構(図示せず)を介して駆動スプロケット31に伝達され、この駆動スプロケット31が回転駆動されて搬送用チェーン40は基準搬送速度Vで矢印F方向に駆動される。
【0040】
従動スプロケット32〜36は、支持フレーム21上に自由回転可能に軸支されて定滑車として機能しており、搬送用チェーン40の移動に伴って従動回転するようになっている。
【0041】
往復動スプロケット37,38は、左右に所定の軸間距離を隔てた状態で自由回転可能にそれぞれ軸支されており、次述する駆動ユニット50により、相互の軸間距離を一定に維持しながら一体となって、原点位置G1,G2と折返位置G11,G12との間を軸間方向(左右方向)に往復移動可能になっている。なお、この往復動スプロケット37,38の往路及び復路における片道の移動距離(つまり、G1〜G11,G2〜G12の直線距離)をKとする。
【0042】
駆動ユニット50は、往復動スプロケット37,38を回転可能に支持するスライド部材51と、支持フレーム21に固設されスライド部材51を左右に往復移動可能に係合させるガイドレール機構52と、正逆両方向に回転駆動可能な駆動モータ53と、駆動モータ53の回転運動をスライド部材51の直線運動(往復移動)に変換するボールネジ機構54と、駆動モータ53の回転駆動力をボールネジ機構54に伝達する駆動力伝達機構55とを備えて構成されており、制御ユニット60から駆動モータ53に送出される駆動信号(駆動制御値)に応じた送り速度で往復動スプロケット37,38を往復移動させる。なお、このような送り機構は周知であり、他の形態の送り機構を採用して構成してもよい。
【0043】
搬送用チェーン40には、多数個の搬送部材としての車台41(図2,3では5個のみを図示し、その他を省略している)が所定の間隔(搬送ピッチ)Pを隔てて取り付けられており、これら車台41が搬送経路に沿って配設された搬送レール(図示せず)に係合して案内され、この搬送チェーン40の移動に伴って搬送経路(工程OP1〜OP7間)を循環的に搬送するようになっている。
【0044】
ここで、車台41の右側面図を図4に示している。車台41は、図4に示すように、略直方体状の基体42と、基体42の上面側に設けられ被塗装物を位置決めした状態で支持可能な支持部43と、基体42の左右の側方に水平軸を中心に回転自在に支持された4つの走行ローラ44と、基体42の左右の側方に鉛直軸を中心に回転自在に支持された4つの案内ローラ45とを備えて構成されており、各車台41は連結ピン46を介して搬送用レール40に連結されている。また、車台41の基体42は、鉄系材料により形成されても、射出成形品(例えば耐熱性樹脂)であってもよい。走行ローラ44及び案内ローラ45は、例えばカムフォロアなどから構成されている。なお、図4においては、車台41に対して、各々4つの走行ローラ44及び案内ローラ45のうちの各2つのローラ(右側面側のローラ)のみが図示されている。
【0045】
一方、搬送レールは、断面視において略コ字状に形成された一対のレール部材を備えて構成されており、各レール部材の開口側(車台41の走行路側)が対面するようにして設けられている。レール部材の開口側に車台41の搬送ローラ44及び案内ローラ45が摺動可能(転動可能)な案内面(走行ローラ44に対しては内側の上下底面、案内ローラ45に対しては内側の左右側面)が形成されており、搬送用チェーン40の移動に伴って車台41の走行ローラ44及び案内ローラ45が搬送レールの各案内面に沿って回転しながら走行するようになっている。車台41の各ローラ44,45と走行レールの各案内面とのクリアランスは例えば0.1mm以内に抑えられている。なお、各車台41の支持部43に保持された隣接する被塗装物同士の間隔は車台41の間隔(搬送ピッチ)Pと同一になるように設定されている。
【0046】
また、ローディング装置11およびアンローディング装置17の前面側(作業面側)には、この前面側に車台41が停止したときに、両者の位置関係のズレ等を強制的に修正(車台41を位置決め)するための位置決め機構18が設けられている。位置決め機構18は、車台41に対して進退自在に構成された略テーパ形状のガイドピン18aを備えており、このガイドピン18aを進出させて車台41の外側面(ガイドピン18aに対向する面)に形成された係合孔47に係合させることで、車台41を正確に位置決めすることができるようになっている。
【0047】
制御ユニット60は、処理を実行するCPU(中央演算処置装置)、塗装ライン1の制御プログラムや制御データ等が設定記憶されたROM(リード・オン・メモリ)、搬送条件等を一時記憶するRAM(ランダム・アクセス・メモリ)等からなる所謂マイクロコンピュータを有して構成されており、塗装ライン1の作動を統括的に制御する。この制御ユニット60には、図示しないが、キーボードやスイッチ等の入出力機器が設けられた操作パネルや、操作画面等を表示させるための表示パネル等が設けられており、操作パネルにおいてプログラムの設定や条件選択、動作指令等の入力が行われる。
【0048】
このように構成される搬送装置20において、制御ユニット60からの駆動信号に基づいて駆動モータ49が回転駆動し、この回転駆動力が動力伝達機構(図示せず)を介して駆動スプロケット31に伝達されると、駆動スプロケット31が回転駆動して、これにより搬送用チェーン40が基準搬送速度Vで矢印F方向に循環移動される。この搬送用チェーン40の駆動に伴って、この搬送用チェーン40に多数連結された車台41も搬送経路に沿って工程OP1〜OP7間を移動する。
【0049】
制御ユニット60から電動モータ53に停止信号が出力され、往復動スプロケット37,38が原点位置G1,G2で停止している状態では、搬送用チェーン40は各スプロケット31〜38に案内されながら搬送経路に沿って、OP1〜OP7の全区間を同一速度(つまり、基準搬送速度V)で循環的に移動する。よって、この状態で搬送装置1は、搬送用チェーン40を搬送経路の全区間に渡って等速で駆動する従来構成の搬送装置として機能する。
【0050】
塗装ライン1においては、ローディング装置(例えば、搬送用ロボット)11から被塗装物が車台41の支持部43にセットされ、その後、搬送用チェーン40の移動に伴って、この被塗装物に除塵、塗装、乾燥、冷却、UV硬化などの一連の処理が行われた上で、この被塗装物がアンローディング装置(例えば、搬送用ロボット)17によって系外に排出される。この塗装ライン1では、前述したように各車台41(被塗装物)は間隔Pのピッチで搬送用チェーン40に取り付けられ、搬送用チェーン40は基準搬送速度Vで移動するため、塗装ライン1では時間T(T=P/V)でタクトタイム運転をしていることになる。
【0051】
以下においては説明の便宜上、搬送経路におけるスプロケット31,37間を区間B1、スプロケット37,32間を区間B2、スプロケット32,33間を区間B3、スプロケット33,38間を区間B4、スプロケット38,34間を区間B5、スプロケット34,35間を区間B6、スプロケット35,36間を区間B7、スプロケット36,31間を区間B8と称する。
【0052】
続いて、搬送装置1において往復動スプロケット37,38を作動させる場合について図5及び図6を追加参照して説明する。なお、図5において往復動スプロケット37,38の往路を示し、図6において往復動スプロケット37,38の復路を示している。ここでは、搬送用チェーン40における区間B3部分を間欠運転させる場合を例示する。本実施形態においては、往復動スプロケット37,38を作動させるときに、この往復動スプロケット37,38と搬送用チェーン40の同期化を図るために、搬送装置1を所定の初期状態(例えば、往復動スプロケット37,38を原点位置G1,G2に待機させ、搬送用チェーン40を所定の駆動開始位置に復帰させた状態)にして、両者の位置関係を整合させてからその作動が開始される。
【0053】
制御ユニット60からの駆動信号に基づいて駆動ユニット50(電動モータ53)が駆動されると、往復動スプロケット37,38が左右方向への往復移動を開始する。このとき、制御ユニット60から送出される駆動制御値に応じて往復動スプロケット37,38の送り速度が決定され、往復動スプロケット37,38の往路において搬送用チェーン40における区間B3の部分を停止させる場合には、前述した作動原理からも明らかなように、当該往路における往復動スプロケット37,38の送り速度V1を搬送用チェーン40の基準搬送速度Vに対して1/2の値(V1=V/2)に設定する。
【0054】
往復動スプロケット37,38は、その往路において送り速度V1で距離Kだけ直線移動するため、この移動時間T1(T1=K/V1)の期間だけ、搬送用チェーン40における区間B3の部分(及びこの区間B3に位置する複数の車台41)を停止させておくことができる。そのため、往復動スプロケット37,38が原点位置G1,G2に位置しているときに、ローディング装置11およびアンローディング装置17の作業面側の所定の停止位置に車台41が位置していれば、往復動スプロケット37,38の往路において当該車台41を時間T1だけ装置11,17の前に停止させて、被塗装物の着脱を簡単且つ高精度に行うことが可能になる。なお、その際に、各位置決め機構18により駆動されたガイドピン18aが当該車台41の係合孔47に係合して、車台41が装置11,17に対して精度良く位置決めされた状態で静止する。そのため、ローディング装置11およびアンローディング装置17による被塗装物の着脱の精度をより高めることが可能である。
【0055】
また、この時間T1内において、搬送用チェーン40における区間B6〜B8(工程OP2〜工程OP6)の部分では基準搬送速度Vに従って移動を継続して行い、この区間を走行する車台41に載置された被塗装物に対して、静電除塵装置12による除塵(OP2)、レシプロ塗装装置13による塗装(OP3)、乾燥装置14による乾燥(OP4)、冷却給気装置15による冷却(OP5)、UV照射装置16によるUV硬化(OP6)が施されていく。このように搬送用チェーン40の一部の区間B3を停止させたときでも、工程OP2〜OP6に対応する区間B6〜B8において搬送用チェーン40を基準搬送速度Vで移動させることができるため、タクトタイムの時間T(T=P/V)に応じて設定された各装置12〜16の処理条件等に適合させることができる。
【0056】
ここで、往復動スプロケット37,38の往路における送り速度V1は基準搬送速度Vの半分の値であるため、搬送用チェーン40における区間B3部分の停止時間T1は、T1=K/V1=2K/Vとなる。当然ながら、搬送用チェーン40の停止時間T1はタクトタイムTを超えない範囲(0<T1<T)で設定しなければならないため、0<2K/V<P/Vを満足する範囲、すなわち往復動スプロケット37,38の片道の移動距離Kを車台41の間隔Pの半分未満で設定すればよい。この範囲(0<K<P/2)内で往復動スプロケット37,38の移動距離Kを適宜設定することで、タクトタイムTを超えない範囲で搬送用チェーン40の停止時間T1を任意に設定することが可能になる。
【0057】
次いで、往復動スプロケット37,38の復路(折返位置G11,12→原点位置G1,G2)について考える。往復動スプロケット37,38の往復移動の時間をタクトタイムTに合わせるためには(すなわち往復動の1サイクルの時間をタクトタイムTに合わせるためには)、この復路に対して往復動スプロケット37,38を、タクトタイムTから停止時間T1を減算した残りの時間T2(T2=T−T1)内で移動するように設定すればよい。よって、往路における往復動スプロケット37,38の移動時間T2は、
T2=T−T1=P/V−2K/V=(P−2K)/V
となる。よって、往復動スプロケット37,38の復路における送り速度V2は、
V2=K/T2=KV/(P−2K)
で設定される。このときの往復動スプロケット37,38の送り速度V2は、上記式において、P/3<K<P/2のときにV<V2であり移動搬送速度Vよりも高速となり、K=P/3のときにV2=Vであり基準搬送速度Vと同一速度となり、K<P/3のときにV2<Vであり基準搬送速度Vよりも低速になる。
【0058】
続いて、往復動スプロケット37,38を折返位置G11,G12から原点位置G1,G2までを上記で求めた送り速度V2で移動させる場合を考える。往復動スプロケット37,38が送り速度V2で復路を移動しているとき、往復動スプロケット37の側では、この往復動スプロケット37の移動に伴って各区間B1,B2の距離が減少しており、時間T2に対する区間B1〜B2の距離の減少量R1分だけ搬送チェーン40が区間B3へ送り出されるとともに、区間B1において搬送用チェーン40が基準搬送速度Vで移動することによってこの移動量R2が時間T2の間に押し出される。つまり、往復動スプロケット37,38の移動時間T2において、搬送用チェーン40が減少量R1と移動量R2との合算量Rだけ区間3へと送り出されることになる。ここで、区間B1〜B2の距離の減少量R1は、動滑車の原理に従って、往復動スプロケット37,38の移動量の2倍の値(R1=2K)であり、移動量R2は、搬送用チェーン40を基準搬送速度Vで移動時間T2だけ移動させた距離に等しい値(R2=V×T2)である。よって、この合算量Rは以下のようになる。
R=R21+R22
=2K+V×T2
=2K+V×(P−2K)/V
=2K+(P−2K)
=P
【0059】
従って、往復動スプロケット37,38の移動時間T2において、区間B3の部分には搬送用チェーン40が長さPだけ送り出されることになる。そのため、タクトタイム運転で考えると、往復動スプロケット37,38の停止時間T1では区間B3への搬送用チェーン40の送出量はゼロであり、往復動スプロケット37,38の移動時間T2では区間B3への搬送用チェーン40の送出量はPであるため、この区間B3においてもタクトタイムT内で搬送用チェーン40を搬送ピッチとなる長さPだけ送り出した状態にすることができる。よって、搬送用チェーンに距離Pの間隔で配設された各車台41(被塗装物)を、タクトタイムTごとにローディング装置11及びアンローディング装置17に対する所定の停止位置に位置決めすることが可能である。
【0060】
一方、このとき往復動スプロケット38の側においては、連続的に区間B3から区間B4へ送り出される搬送用チェーン40の送出量の一部を往復動スプロケット37,38の移動による区間B4〜B5の距離の増加量で吸収して、基準搬送速度Vに応じた送出量を下流側の区間6(工程OP2)以降に常に送り出すことができる。
【0061】
このように、搬送経路の各区間B1〜B8全てにおいて、搬送用チェーン40がタクトタイムTの間に搬送ピッチP分の距離だけ移動することになり、ライン全体としては搬送用チェーン40を常に基準搬送速度Vで循環移動させているのと同じ状態を作り上げることができ、ライン全体のサイクルバランスを高精度に維持することが可能である。よって、搬送経路の全区間B1〜B8において、正確にタクトタイム運転を実施することができる。
【0062】
以上のように構成される本実施形態に係る搬送装置20によれば、搬送用チェーン40に保持された被塗装物を搬送経路に沿って基準搬送速度Vで移動させているときに、その搬送速度を当該所定経路の一部の区間B3でのみ変速(減速、停止、加速)させることができる。従って、この搬送装置20が適用される塗装ライン1において、各工程OP1〜OP7で要求される被塗装物の搬送速度が異なる場合であっても、被搬送物をこの要求に応じた搬送速度で搬送することができるため、各工程の作業条件や処理条件に適合させた搬送を実現することが可能であるとともに、工程ごとに搬送速度を変えるために各工程間に1台ずつ搬送装置を設ける必要がなく、製造コストの低減やスペースの有効活用を図ることもできる。
【0063】
また、往復動スプロケット37,38の往復移動を上記所定の条件(V1=V/2,V2=KV/(P−2K))で連続的に行うことで、1本の無端環状の搬送用チェーン40のみで、被搬送物が移動している部分と停止している部分とを作り上げるという相反する状態を実現させることが可能になり、搬送用チェーン40を区間B6〜区間B8の各処理工程においては基準搬送速度Vで連続運転させながらも、区間B3の積み替え工程においては間欠運転することが可能になるため、その停止時間中に被塗装物の積み替えを高精度に行うことができるとともに、作業の安全性を確保することができる。
【0064】
更に、制御ユニット60によって、搬送用チェーン20の駆動と往復動スプロケット37,38の駆動とを正確に同期制御することで、区間B3において搬送用チェーン40を所要の停止位置に精度良く停止させることができる。このとき、搬送用チェーン40に歪み(伸び、縮み)などが生じることで、搬送用チェーン40のみでは被塗装物の停止位置の精度を良好に確保できない場合でも、位置決め機構18のガイドピン18aを車台41の係合孔47に係合させて搬送用チェーン40による位置ずれを吸収することで、車台41を所要の停止位置に位置決めして、被塗装物の積み替えを正確に行なうことができる。
【0065】
さらに、搬送用チェーン40に連動して搬送レールに沿って走行する車台41を設ける構成とし、車台41は走行ローラ44及び案内ローラ45が搬送レールに沿って走行方向に対して上下左右方向の走行位置を規制されながら移動するため、車台41の挙動を抑えて被搬送物を高い位置精度で搬送することができる。
【0066】
これまで本発明の好ましい実施形態について説明してきたが、本発明の範囲はこれに限定されるものではない。例えば、上述の実施形態における塗装ライン1では略矩形環状の搬送経路を例示して説明したが、これに限定されるものではなく、この搬送装置が適用される製造ライン等の配置や運用などに応じて適宜変更しても同様の効果を得ることができる。
【0067】
また、上述の実施形態において、車台41は連結ピン46を介して搬送用チェーン40に固定されているが、これに限定されるものではなく、例えば車台41を搬送用チェーン40に着脱可能に設けてもよい。被搬送物を車台41ごと搬送用チェーン40から搬出することができれば、車台41を搬送用チェーン40から一旦取り外して所定の処理を施した上で、更に搬送用チェーン40上の同じ位置に復帰させることで、搬送装置の用途の幅を格段に広げることができる。例えば、上記塗装ライン1において乾燥装置などで、搬送用ロボットを利用して車台41を搬送用チェーン40から取り外して乾燥装置内に投入し、乾燥処理が完了した後に搬送用チェーン40に戻すこととしてもよい。このとき、車台41を1個ずつ処理しても、複数個まとめて処理するようにしてもよい。なお、この場合には、搬送経路における乾燥装置の区間で本発明に係る搬送装置を適用させることもできる。
【0068】
さらに上述のように、車台41を搬送用チェーン40から着脱可能に構成することで、例えば上述の実施形態において例示した塗装ライン1において、塗装ライン1の上流に成形ラインがあり、塗装ライン1の下流に検査ラインがあるような場合、この車台41を全ラインで共通化することにより、各ライン間で被搬送物を積み替え無しに車台41ごと次のラインに搬入することができる。そのため、製造ラインにおいて素材から完成までを一貫した流れをもって被搬送物たるワークを流動させることができ、各工程間及び各ライン間における仕掛品を削減できるとともに、製造コストの低減や製造ラインにおける省スペース化を図ることも可能である。
【0069】
なお、上述の実施形態において、本発明に係る搬送装置として塗装ライン1に適用させた場合を例示して説明したが、これに限定されるものではなく、例えば、加工ラインや組立ライン、検査ラインなどの各種の製造ライン等であってもよく、被搬送物を所定の搬送経路に沿って搬送するための搬送装置であれば、本発明を適用可能である。従って、本発明によれば、汎用性及び付加価値の非常に高い搬送装置を提供することができる。
【符号の説明】
【0070】
1 塗装ライン
20 搬送装置
31 駆動スプロケット(上流側滑車)
32 従動スプロケット(定滑車)
33 従動スプロケット(定滑車)
34 従動スプロケット(下流側滑車)
37 往復動スプロケット(動滑車)
38 往復動スプロケット(動滑車)
40 搬送用チェーン(線状部材)
50 駆動ユニット(経路長変更手段)
L 線状部材
D 動滑車
T 定滑車

【特許請求の範囲】
【請求項1】
上流側から連続的に送り出される線状部材を所定経路に沿って下流側に移動させて、前記線状部材に保持された被搬送物を搬送するように構成した搬送装置であって、
前記所定経路が、上流側に繋がる第1経路と、下流側に繋がる第3経路と、前記第1経路及び前記第3経路の間で繋がる第2経路とを有して構成され、
前記線状部材の移動に伴って、前記第1経路および前記第3経路の各経路長の合算値を一定に維持しながら、前記第1経路および前記第3経路の各経路長を連続的に変化させる経路長変更手段を備え、
前記線状部材を前記所定経路に沿って移動させているときに、前記経路長変更手段により前記第1経路および前記第3経路の各経路長を連続的に変更することで、前記線状部材において前記第2経路に係る部分の移動速度を可変にすることを特徴とする搬送装置。
【請求項2】
前記第1経路における前記線状部材の移動を案内する第1動滑車と、前記第2経路における前記線状部材の移動を案内する複数の定滑車と、前記第3経路における前記線状部材の移動を案内する第2動滑車とを更に備え、
前記線状部材は、前記第1および第2動滑車と前記複数の定滑車との間に掛け渡されており、
前記経路長変更手段が、前記第1及び第2動滑車と、前記第1及び第2動滑車の軸心間距離を一定に維持しながら、前記第1および第2動滑車を当該軸間方向に往復移動させる移動機構とを備え、
前記経路長変更手段が、前記第1及び第2動滑車を当該軸間方向に往復移動させることにより、前記第1経路及び前記第3経路の各経路長を変更させて、前記線状部材における第2経路に係る部分の移動速度を可変にすることを特徴とする請求項1に記載の搬送装置。
【請求項3】
前記経路変更手段において、所定時間内における前記第1経路及び前記第3経路の経路長の各変化量を、前記所定時間内における上流側及び下流側に係る部分の前記線状部材の移動量と等しくすることにより、前記線状部材において前記第2経路に係る部分の移動を停止させることを特徴とする請求項1または2に記載の搬送装置。
【請求項4】
前記経路長変更手段において、前記第1及び第2動滑車を、前記線状部材における上流側および下流側に係る部分の半分の移動速度で移動させることにより、前記線状部材において前記第2経路に係る部分の移動を停止させることを特徴とする請求項3に記載の搬送装置。
【請求項5】
前記第1及び第2動滑車を所定の間隔において連続的に往復移動するように構成して、前記所定間隔の距離をK、前記第1及び第2動滑車を前記所定間隔で一往復させるための所要時間内における前記線状部材の移動距離をP、前記線状部材における上流側および下流側に係る部分の移動速度をV、前記第1及び第2動滑車の往路における移動速度をV1、前記第1及び第2動滑車における復路での移動速度をV2としたとき、次式
V1=V/2
V2=KV/(P−2K)
の条件を満足することを特徴とする請求項2〜4のいずれかに記載の搬送装置。
【請求項6】
上流側に配設された上流側滑車と、下流側に配設された下流側滑車とを更に備え、
前記線状部材が、前記第1及び第2動滑車と、前記複数の定滑車と、前記上流側および下流側滑車との間に掛け渡されて無端環状に形成されていることを特徴とする請求項2〜5のいずれかに記載の搬送装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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