説明

携帯型の経頭蓋自己刺激装置および装置の制御および調節方法

携帯型の経頭蓋自己刺激装置および装置を制御および調節する方法。本発明は、必要に応じて制御される携帯型の限局された脳構造および脳系の経頭蓋自己刺激装置、ならびに、装置を制御および調節する方法に関する。本発明は、特に、以下の構成要素:−頭皮に正確に位置決めするための固定手段を有する電極および電気接続線、ならびに−電流発生器、制御部、使用者インターフェース、電気エネルギー貯蔵装置、および、別個の電気エネルギー貯蔵装置を有する監視・安全モジュールを有する可搬式小型刺激発生器を含む経頭蓋電流刺激装置に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、限局された脳構造および脳系の携帯型の要求駆動経頭蓋自己刺激装置、および装置の制御および調節方法に関する。
【背景技術】
【0002】
限局された脳構造および脳系の携帯型の要求駆動自己刺激装置は、行動を制御するために、どの使用者も自己調節方式で場所に左右されずに使用することができ、神経刺激方法に使用される経頭蓋電気刺激(TES)装置を意味するものと理解すべきである。自己刺激の用語は、装置の使用者が自分自身を刺激するという意味に理解すべきであり、そのため、医療技術装置の特徴、特に、装置の安全な操作に関する特徴が得られる。
【0003】
限局された脳構造は、全体として、機能単位を形成し、個々の神経認知過程(例えば、恐怖調節の過程)を制御する脳構造を意味するものと理解すべきである。限局された脳構造は、必ずしも空間的意味に限局される必要はなく、比較的広い領域にネットワーク状に広がってもよく、脳の深部および表層部領域はネットワークの一部である。刺激に考慮できるのは、主として、関連するネットワークの表層部領域であり、これらの領域は、頭蓋冠の真下にあり、経頭蓋刺激で到達することができる。脳の経頭蓋神経刺激は、脳構造および脳系、ならびにその中で進行する神経過程に、特に神経細胞の膜電位および発火頻度を的確に変化させることにより影響を及ぼす。
【0004】
影響を受ける過程は、主に、注意の神経調節などの行動調節における神経認知過程、恐怖調節における過程、ならびに対象追求および対象遮断の神経認知過程であり、行為の意図の遮断または増幅が、競合する行為の意図に対して起こる。ごく一般的に言えば、行動調節における神経認知過程は、多くの行動において、例えば、様々な要求に対して注意能力を調節するとき、行為の意図を効率的に実現するとき、恐怖を効率的に調節するとき、もしくは他の感情状態を調節するとき、または、うつ病などの様々な精神障害の場合などに重要な役割を果たす。さらに、物質乱用および依存、もしくは物質の脱離の場合(例えば、タバコ製品、アルコール、薬物などの場合)、摂食行動の場合、または賭博癖および危険行動の場合には、効率的な行動制御に影響が及んでいる。
【0005】
脳構造の神経刺激の分野で、様々な概念が知られている。これらには、深部電気刺激、経頭蓋磁気刺激(TMS)および経頭蓋電気刺激(TES)、特に、経頭蓋直流電気刺激(tDCS)および経頭蓋ランダムノイズ刺激(tRNS)が挙げられる。特に、次の方法および装置が知られており、侵襲的方法と非侵襲的方法を区別することができる。
【0006】
侵襲的方法では、狭心症の場合の脊髄硬膜外の神経刺激を行うための刺激装置が開示されているが、この刺激装置は手術で埋め込まれる。
【0007】
さらに、従来技術では、12の脳神経のうちの1つである迷走神経の刺激装置が開示されており、この刺激装置は、重度のうつの場合に使用され、同様に手術で埋め込まれる(Fiedler U.&BajBouj,M.,2007,Neuromodulation durch Vagusnervstimulation bei Depression[Neuromodulation as result of vagus nerve stimulation in the case of depression],Journal fuer Neurologie,Neurochirurgie und Psychiatrie[Journal for neurology,neurosurgery and psychiatry],8(4),22−28)。
【0008】
さらに、重度の治療抵抗性うつの場合の手術によって脳の深部領域に挿入される深部電極が開示されている。
【0009】
脳の非侵襲的神経刺激方法として知られているのは、主に、経頭蓋磁気および電気脳刺激方法である。経頭蓋磁気刺激(TMS)の場合、頭部表面の磁気コイルを使用して、1ミリ秒(ms)未満の持続時間のごく短い磁界を印加する。この磁界の強さは、約1〜2テスラである。磁界は頭蓋を通過し、ごく短時間電流を誘導する。これによって、また、数立方センチメートルの狭い限られた領域に神経放電が生じる。このようにして、コイル電流は、まず、磁気エネルギーに変換された後、神経細胞の電流に転換される。この前述の単一パルスTMSの他に、反復TMS(rTMS)が知られている。rTMSでは、多数のパルスが規定のシーケンスで印加される。高い繰り返し周波数では、皮質興奮性が増大し、例えば1ヘルツの低い繰り返し周波数では、皮質興奮性が抑制される。
【0010】
経頭蓋直流電気刺激(tDCS)の場合、頭皮上の面積の大きい2つの電極によって微弱な連続的直流電流が印加される。これは、皮質神経細胞の膜電位の小さいシフトと発火頻度の変化を引き起こし、従って、その興奮性のレベルに影響を及ぼす、正確には、刺激の極性によって興奮性が高くなるかまたは低くなる。陽極刺激の(陽極が細胞体または樹状突起の近傍にある)場合、膜電位および発火頻度の増大により脱分極が起こり、従って、興奮性が高くなる。陰極刺激の場合、膜電位および発火頻度の低下により神経細胞が過分極し、興奮性が低くなる。
【0011】
経頭蓋ランダムノイズ刺激(tRNS)の場合、例えば、1mAの電流、および、例えば0.1〜640Hzのランダム分布周波数(これはサンプリング率に依存する)を有する信号には、発振スペクトルが使用される。ここで、周波数スペクトルの全ての係数が同じ大きさを有する(「ホワイトノイズ)」)。これは、陽極tDCSに匹敵する効果、即ち、脳の限局された領域の興奮性の増大を達成する。利点には、電流の流れる方向が皮質脳回にあまり依存しないことが挙げられる。発振のため分極が起こらないので、さらに、使用者が時折電流の流れに僅かに気付く程度にすることは不可能に近い。
【0012】
いわゆる持続的な興奮性の変化が、実際の使用に関して特に重要である。反復経頭蓋磁気刺激(rTMS)および経頭蓋電気刺激(tDCS、tRNS)の場合、興奮性の変化は反復TMS刺激の数または電気刺激の持続時間に比例する。しかし、それらは、後効果または長時間効果により、刺激持続時間の後、限られた時間、維持される。このことから、神経細胞の興奮性の変化に関係する印加の場合、例えば、神経機能不全の場合、幾分長い時間にわたって影響を及ぼす。約15分の陽極直流電気刺激の場合、これによって、2時間までの興奮性の増大が可能になり、10分の陰極直流電気刺激で1時間までの長時間効果を誘導することができる。
【0013】
この後効果の長さは、tDCSの場合は全誘導電荷に、rTMSの場合は繰り返しパルス数に依存する。tDMSにおける全誘導電荷は、電流、電極面積、および刺激持続時間から、次式:
全誘導電荷=電流/電極面積×刺激持続時間
に従って組み合わせると得られる。
【0014】
直流電気刺激の場合、中断を含まない15分の最大刺激持続時間を達成することができるが、現在、安全性のため、この刺激持続時間を超えてはならない。そのため、陰極誘導の場合、パルスの繰り返しなしに現在達成可能な最大作用持続時間は約1時間であり、陽極誘導の場合、それは約2時間であり、このため、使用が著しく限定される。
【0015】
機能不全の場合に中枢神経系に経頭蓋的に影響を及ぼす装置が、欧州特許第0497933B1号明細書に記載されている。特に、てんかんを治療するためにてんかん焦点を鎮静(compensating)するために、それに磁界が使用される。低周波数(2〜7ヘルツ)、低強度(0.5〜7.5ピコテスラ)の磁界が使用される。特殊なヘッドギアに複数の電磁石を配置することによって、必要に応じて、局所的に磁界を印加することができる。発生器は、電磁石の動作に必要なエネルギーを制御し、発生させる。
【0016】
従来技術の他の既知の非侵襲的刺激装置は、さらに、当該技術分野に熟練した医療従事者が手動でそれぞれ適した刺激パラメータを治療用の機器に設定しなければならないため、当該技術分野に熟練した予め訓練された医療従事者ではない人はそれを使用できないという点で不利である。さらに、侵襲的刺激方法の場合、外科的介入に伴うかなりの負担や潜在的リスクが重大な欠点である。
【0017】
特殊な電極配置による経頭蓋神経刺激装置が、米国特許出願公開第2006/0173510A1号明細書に開示されている。
非侵襲的機器および方法の重大な欠点は、装置の一部として据置型機器を必要とすることであり、従って、その使用は特定の場所に拘束される。切実な刺激の必要性があっても、これは、刺激を加えられる人が刺激装置のすぐ近くにいる場合しか実現できない。刺激を加えられる人がその場所から離れると、後効果を使用することしかできず、後効果が持続するのは、刺激に応じて、2時間以下である。刺激装置から離れる場合、従って、機器の場所および得ることができる最大の効果持続時間(最大後効果)によって、使用時間や使用者の移動範囲も制限される。反復刺激(安全性のため15分後に休止する)は、機器から離れるため可能ではない。従って、現在達成できる最大の効果持続時間は、一日のうち使用者が起きている時間全部にわたる必要があるため、想定される目的に適していない。
【0018】
米国特許第6,445,955B1号明細書および独国特許第102006053427A1号明細書によれば、従来技術は、可搬式であり移動して使用できる経皮的筋肉刺激装置を開示している。しかし、この経皮的神経刺激機器は、理学療法およびスポーツ医学の処置として、ならびに手術後などの筋肉の回復のために筋肉刺激が行われるように設計されている。技術的および医学的観点から、この機器は、適した装置およびヒトの脳に対するその効果に関して質的に非常に様々な要求がある経頭蓋神経刺激に適していない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0019】
本発明の目的は、経頭蓋自己刺激装置、ならびに装置の制御および調節方法を提供することであり、それは、技術的に、経皮的電気刺激とは異なり、規定の標的領域の神経細胞膜電位に効果的に影響を及ぼすように、且つ、装置の非常に高い動作安全性の他に、装置の使用者の移動性も得られるように設計されている。
【課題を解決するための手段】
【0020】
概念によれは、目的は、以下の構成要素:
−頭皮に正確に位置決めするための装着手段を有する電極および電気接続線、ならびに
−電流発生器、制御部、使用者インターフェース、電気エネルギーリザーバ、および、別個の電気エネルギーリザーバを有する監視・安全モジュールを有する可搬式小型刺激発生器、
を含む携帯型の経頭蓋自己刺激装置によって達成される。
【0021】
概念によれば、刺激発生器の制御部は、標的領域の神経細胞膜電位の意図した変化を生じさせるため、電流発生器によって発せられるパルスを、標的領域におよび意図した用途に許容される且つ必要な電気的、局所解剖学的、および時間的パラメータの値の範囲に関して決定するための少なくとも1つのプログラムを含む。特に、この目的には5つのパラメータ:電流、刺激持続時間、電極面積および電極位置、ならびに、場合によっては、電界を配向させるための電極の極性−陽極または陰極、が使用される。全電荷量および電流密度はこれらの変数から得られる。目的とする用途に応じて、制御部に様々なプログラムを保存し、それらを呼び出すことができるようにするが、そのプログラムは、例えば、様々な臨床像に使用され、このために、パラメータの値を正確に決定することによって、様々な標的部位に有効に到達するようにしなければならない。
【0022】
刺激発生器の使用者インターフェースはプログラム選択ボタンを有し、これを使用して、各臨床像のためのプログラムを選択する。
【0023】
医療の素人が携帯型装置を使用する場合、独自に且つ必要に応じてプログラムの中から刺激プロトコルを選択することができる。このために、使用者インターフェースに機能呼び出しボタンが設けられている。
使用者インターフェースは表示器によって完全なものとなる。
監視・安全モジュールは、装置の全体的な概念において非常に重要である:前記モジュールは、装置の適正な動作モードを監視、制御、および調節する。監視・安全モジュールは、最大限の監視安全性を確保するため、別個の電気エネルギーリザーバを備える。
【0024】
本発明の装置の特別な利点は、不可欠の経頭蓋刺激機能をなくすことなく、装置を使用者自身が自己刺激として要求駆動自己刺激を行うために使用できることであり、これは、簡単に且つ高い動作信頼性で場所に左右されずに移動して非常に様々な使用状況で行うことができる。
概念によれば、装置は、日常的に使用できるように、予め訓練された医療従事者を必要としないように設計され、安全対策がなされている。これは、従来技術で既知の他の装置と比較して重要な利点である。
【0025】
監視・安全モジュールのマイクロコントローラは、簡単であるが効率的で非常に省エネの電流供給を備え、これは、誤動作の場合の動作電流から独立したバッテリーバックアップ電流供給を有する。監視装置は、プログラムの流れにおける誤動作または刺激手順における制御アルゴリズムからの逸脱および制御ソフトウェアのクラッシュから保護する。このために、監視・安全モジュールはウォッチドッグシステムを備え、これは、ある時間単位毎に、例えば、10ms毎にプログラムから正確に設定された信号列を要求する。信号列が正常でない場合、監視装置は制御をリセットし、必要に応じて、ソフトウェアを再起動させる。
【0026】
本発明の好ましい実施形態では、経頭蓋直流電気刺激を印加する。ここでは、電流発生器は直流発生器として具体化され、2つの電極が頭皮に装着される。
陽極の電流の流れる方向の配向では、神経細胞放電率、従って標的領域における活動性および興奮性が増大し、陰極の電流の流れる方向の配向では、抑制される。
【0027】
本発明の有利な実施形態では、使用者がプログラムから刺激プロトコルを呼び出すための機能呼び出しボタン、または使用者インターフェース全体が、刺激発生器の遠隔操作装置として設計される。そのため、本装置の使用者は、それによって、機能呼び出しボタンで簡単に直接、操作機能を行うことができる。この場合、遠隔操作装置は、無線または有線の実施形態を有し、無線の実施形態は、日常の状況で本装置を特に目立たずに使用することを可能にする。有利には、スマートフォン、携帯電話、またはPDAも遠隔操作装置として使用することができ、そのボタンは機能呼び出しボタンとして割り当てられ、それらの機器は、作成したプログラムを実行できる対応するインターフェースを有する。
【0028】
監視・安全モジュールは、好ましくは、別個のマイクロコントローラを有し、誤動作の場合のバッテリーバックアップ電流供給のための別個のエネルギーリザーバとしてコンデンサを使用する。
【0029】
電極の面積は、一般に、それぞれ25〜35cmである。
本発明の特に有利な発展形態(development)によれば、電極は、25cm未満の面積を有する電極部分面積から形成される。ここでは、多数の電極部分面積が格子状に配置され、電極の役割を果たす面積は、1つ以上の電極部分面積を作動させることによって形成される。
【0030】
この実施形態は、特に有利には、電極部分面積をヘッドギアに一体化することによって発展しているが、その理由は、様々な使用部品が多数の電極部分領域を含む万能ヘッドギアと接続しており、装置および装置に接続している医療上の使用が部外者に見えないようになっているからである。
刺激発生器は、接続線で、ヘッドギア内にある格子状に配置された多数の電極部分面積に接続されている。この場合、制御部は、実施されるプログラムに従って、刺激が加えられる領域の電極部分面積だけを作動させるように設計されている。
【0031】
ヘッドギアは、最も広い意味で、ヘッドギアに一体化されている電極を局所に正確に位置決めすることを可能にする実施形態を意味するものと理解すべきである。ここでは、例えば、バンド構成、帽子、キャップ、およびヘルメットが挙げられる。
【0032】
他の有利な実施形態では、刺激発生器はヘッドギアに一体化されているか、あるいは、電極もしくは電極部分面積と一緒にその中に一体化されている。この場合、ヘッドギアは、十分な安定性を確保するために、便宜上ヘルメット状に設計されている。本発明のこの実施形態では、ヘッドギアを取り外す必要なく刺激発生器を操作することができるように、使用者インターフェースは、有利には、無線接続されている別個の遠隔操作装置内に配置されている。
【0033】
経頭蓋電気刺激の技術的前提条件の他に、経頭蓋電気刺激装置が、ヘッドフォンまたは拡声器を有する音声モジュールを含むことがさらに有利であり、音声モジュールは、好ましくは、刺激発生器に一体化されているか、または刺激発生器とは別々になっているように設計されており、いずれの場合も、刺激プロトコルに結合している。現在の電気刺激パラメータに適合したオーディオシーケンスが刺激プロトコルに保存され、刺激の印加および作用を助ける。
これによって、治療および行動プログラムからの音声指示と経頭蓋刺激との組み合わせが可能になり、これによって装置の特に効果的な使用が可能になる。
【0034】
本発明の有利な発展形態では、刺激発生器は、それを使用者の身体に、例えば、使用者の上腕、手、もしくは手首に、または胸部に装着するための装着バンドを有する。使用者インターフェースは、機能呼び出しボタンを有する無線遠隔操作装置と一緒に、制御部に作用するように設計されており、刺激発生器と一緒に、接続線によって電極に接続されている。
【0035】
本発明の有利な実施形態によれば、刺激発生器は、それを使用者の手首に装着するためのアームバンドとして具体化されている装着バンドを有するように設計されており、使用者インターフェースは刺激発生器に一体化されており、これは接続線で電極に接続されている。あるいは、有利には、刺激発生器の制御部に対する無線遠隔操作装置を備え、この遠隔操作装置は少なくとも機能呼び出しボタンを有する。
【0036】
装置を制御および調節するために、電極または電極部分面積は、有利には、接触抵抗を測定するためのセンサとして設計され、これらのセンサからの信号は監視・安全モジュールによって処理される。
そのため、治療に必要な最適電極面積は、選択されたプログラムに応じて、制御部によって算出され、切り換えられる。従って、治療の種類に応じた電極サイズに関する誤操作が起こらないようになっている。
さらに、標的領域に全誘導電荷を正確に集中させるため、接触抵抗を考慮に入れて必要な最適電極面積を算出することにより、許容される最小全電極面積で必要な刺激電流の強さが得られる。
【0037】
本発明に至った実質的な意外な知見は、経頭蓋刺激の医療結果が、刺激の電気的パラメータの監視および安全対策の技術的実現に反映されることである。経頭蓋自己刺激はヒトの脳内で直接行われるため、刺激および使用されるパラメータの正確な制御および監視は最も重要である。
この知見には、3つの態様がある。第1に、装置は、(1)膜電位に必要な影響を及ぼすことができる、(2)危険を伴わずに使用者自身が装置を使用できる、(3)装置がその機能性に関して高い安全性を有する、ように設計されなければならない。
【0038】
第1および第2の態様は、主として、制御モジュール、ならびに、プログラム選択ボタンおよび機能呼び出しボタンを有する装置の技術的実施形態によって実現される。
第3の態様−使用中の監視および安全対策−は、装置を制御および調節する方法によって実施され、その方法により、刺激の持続時間および強さがそれぞれ許容される変数に関して監視される。刺激手順および含まれる全ての要素、例えば、電極抵抗が監視され、必要に応じてシステムを初期化する。
【0039】
本方法は、
a)使用者インターフェースのプログラム選択ボタンでプログラムを選択する工程、
b)機能呼び出しボタンを使用して、刺激装置の刺激プロトコルを選択して呼び出し、それによって、その印加行うのに決まった標的皮質領域で、所望の可能な強度で所望の許容される持続時間、神経細胞膜電位および発火頻度の変化を引き起こす工程、
c)刺激発生器の監視・安全モジュールで刺激を監視および制限する工程、
を含む。
このシステムでは、電流、電圧、刺激持続時間、電極位置および電極面積などのパラメータは、直接測定することができ且つ影響を及ぼすことができるパラメータであり、これらを互いに調整して全電荷量および最大電流密度を超えないようにする。
【0040】
例えば、監視中に数分間または数秒間にわたって電極抵抗が徐々に増加する場合、電極の外れが検出される可能性がある。この場合、電流密度を一定に保つため、および、過剰な電流密度によって組織の損傷が起こらないようにするため、その分だけ刺激電流を低減しなければならない。規定の制限値を超えた場合、システムは停止される。
【0041】
電極抵抗のパルス変化(pulsed change)から、断線または接触の緩みがあるという結論が引き出される可能性がある。この場合もそれに注意する必要がある。直流電流の場合よりもパルス刺激の場合の方が、損傷、疼痛、および炎症(irritation)の閾値がずっと低いため、短時間切断した場合には刺激電流を著しく低減するかまたは電源を切る。
他の誘導パラメータには、刺激に使用される全電荷量がある。特定の刺激動作の残りの刺激持続時間を算出するため、およびオーバーシュートが生じないようにするため、全誘導電荷量を常時測定することが必要である。
【0042】
本発明の方法の他の実施形態では、ヘルメット内に格子状に配置され、センサとして設計されている電極は接触抵抗を測定し、その測定値は制御部に報告され、処理される。刺激を加えるため、必要な刺激電流強度が得られるように、格子状に配置された多数の電極のうちの適切な数を作動させる。
【0043】
要約すると、本発明の背景としての医療概念は、次のように説明することができる:
本発明の装置を使用して、主に次のパラメータ、即ち、パルス持続時間、パルス強度、電極面積、および電荷量、ならびに、電界を配向させるための電極位置および電極極性によって特徴付けられる刺激プロトコルを生成することができる。そのため、特定の脳領域および神経回路を、印加の目的およびその基礎をなしている神経過程に応じて、有効に活性化もしくは不活性化させる、または抑制する。
例えば、これは、背外側前頭前皮質(DLPC)、腹内側前頭前皮質(vmPC)、側頭皮質(TK)、または島に関する。
【0044】
実質的な利点およびそれと関連する特徴は次の通りである:

誤動作の場合の動作電流から独立したバッテリーバックアップ電流供給を有する、監視・安全システムの一部としての非常に省電流のウォッチドッグシステム、別個の操作装置、および特殊なコントローラによる小型の設計、
その使用の利点は、場所に左右されないこと(移動性)、時間や空間に制限されずに移動して使用できること、ならびに、隠して身体に装着できることによってもたらされる。

プログラムの実行中に様々な特性を有する電気パルスの簡単で確実な呼び出しを行うための機能呼び出しボタン、互いに系統的に適合している複数のボタンによる簡単な操作性、
その使用の利点は、使用者が簡単で安全に自己刺激を印加できることによってもたらされる、

それぞれ適した刺激のパラメータが正確に設定されている個々の要求駆動の刺激プロトコル、
その使用の利点は、使用者が安全に個々に要求駆動の自己刺激を加えることができることによってもたらされる、

使用者インターフェースまたは遠隔操作装置の中心的機能部としての別個の機能呼び出しボタン;
その使用の利点は、状況に全く左右されずに使用できること、例えば、職場で使用できることによってもたらされ、刺激発生器はヘッドギアにまたは身体に隠して装着することができる。

電極パターンまたは電極配列を可変に作動させることができ、自動インピーダンス監視が行われる、
その使用の利点は、個々に適宜行われる電極位置の選択、高い効果、および予め選択されたプログラムに応じた柔軟な作動によってもたらされる、

小型刺激発生器および機能部としてヘッドギアに一体化された電極配列。
【0045】
装置の医療上の使用は、例えば、経頭蓋直流電気刺激では、次のように行われる:
確実に標的領域に到達するように正確に位置決めされなければならない面積の広い電極を頭皮と接触させる。微弱な連続的電流の流れ−直流パルスによって静電界が発生する:前記電界を使用して、脳内のまたは標的領域内の神経細胞の活動性を変化させる。神経細胞が電界に応答して、膜電位の小さいシフトと発火頻度の変化が起こり、それによって興奮性が変化する。陽極刺激の場合、静止電位、発火頻度、および興奮性が増大し、陰極刺激の場合それらは低減する。
【0046】
興奮性におけるこれらの抑制性または興奮性の膜電位のシフトまたは変化は、限局された、即ち、空間的にまたは機能的に限定された神経回路および領域に的確に影響を及ぼすために使用されるが、その神経回路および領域は、ここに関係のある行動、例えば、注意の調節、対象追求および対象遮断、恐怖の調節、物質乱用、および物質脱離、または摂食行動などの基礎をなしている。これらの回路の機能の活性化または抑制過程が誘導または増幅され、機能不全の活性化または抑制過程が抑制または遮断される。
【0047】
行動調節の過程の基礎をなしている神経回路は、皮質の表面の近傍にある領域に有効な影響を及ぼすことができる。例えば、現在、例示的に記載する行動調節過程に関して、次のことが提案されている:
物質乱用:
アルコール摂取の制御:DLPCの陽極刺激、
ニコチン:DLPCの陽極刺激、島(下PFC/側頭皮質)の陰極刺激、
摂食行動の制御:
過食症:島の陰極刺激、
拒食症:島の陽極刺激、
注意の神経調節:DLPCの陽極刺激、
注意および作動記憶:下前頭回(IFG)の陽極刺激。
【0048】
本発明の装置を適用する利点は、行動調節における神経認知過程の改善、効率的な行動制御の実施、例えば、物質乱用または物質脱離(喫煙、アルコール、薬物)の場合、および摂食行動の場合の効率的な行動制御、ならびに、恐怖状態の制御および抑制(効率的な恐怖調節)、および、さらに注意の神経調節である。
【0049】
特に強調されるべきことは、以下の通りである。
・神経過程を選択的に活性化または抑制することができる、
・全誘導電荷量の限界値未満で制限なく刺激を繰り返すことができる、
・小型の設計および動作電流から独立した監視・安全システムのため、移動して制限なく、時間や場所に左右されずに使用することができる、
・無線接続を有する別個の機能呼び出しボタンにより、日常生活でも状況に左右されずに使用することができる、
・厳密に要求駆動の自己刺激が可能である
(注意の神経調節、対象追求および対象遮断の神経認知過程、恐怖調節の過程、物質依存または摂食障害の場合の行動制御などの特殊な治療プログラムの柔軟な選択、要求に即した個々の刺激プロトコルを呼び出すことができること、電極位置の柔軟な個々の選択)、および
・刺激を任意の回数繰り返すことができるため、例えば、後効果を使用した場合と比較して低い投与量で済む。
【図面の簡単な説明】
【0050】
【図1】経頭蓋直流電気刺激の場合の電極の配置を示す図である。
【図2】電極を配置した後頭部を示す図である。
【図3】使用者インターフェース、制御部、および直流発生器を有する電気刺激装置の図である。
【図4】使用者の上腕に電気刺激装置を配置することを示す図である。
【図5】ヘルメットの帽子内に電極と共に電気刺激装置を配置することを示す図である。
【図6】遠隔操作装置としての操作部を示す図である。
【図7】電気刺激装置の機能系統図である。
【発明を実施するための形態】
【0051】
本発明の他の詳細、特徴および利点は、添付の図面を参照して、以下の例示的実施形態の説明から明らかになる。
【0052】
図1は、陰極および陽極として切り替えられる印加電極3、および、直流発生器(図示せず)から電極3に直流パルスを送るのに必要な接続線4を有する直流電気刺激装置の使用者の頭部を示す。電極3の正確な配置は、電界が各印加に適した脳領域にできるだけ正確に到達するようにそのつど設定される。各印加に必要な正確な位置決めは、既知の方法に従って、ニューロナビゲータを使用してまたは目印を用いて行うことができる。標的領域の設定は、電気刺激装置の操作指示書に詳述されており、使用者によって行われる。それに、各印加状況に合わせて提供され制御部(図示せず)に記憶されている制御プログラムに規定されているパルス特性、電流および刺激持続時間を表す刺激プロトコルを適合させる。
【0053】
安全な操作のために、一実施形態(図示せず)では、中に電極3が取り付けられたヘッドギアとしてヘルメットが提供され、ヘルメットは使用者の頭部に装着される。ヘルメットは、内部に帽子を有し、帽子は使用者の頭部に被嵌され、電極3を正確に位置決めするのに使用される。有利な実施形態では、ヘルメットは格子状に配置された多数の電極部分面積を有する。電極3は、ヘルメットの定位置に取り付けられ、電極部分面積がパルスによって個々にまたはグループで作動するように直流発生器に接続されている。制御部およびその中に保存されたプログラムは、脳内の標的領域を刺激するように相互接続を行う方法を決定する。
有利な実施形態では、さらに、電極または電極部分面積が接触抵抗を測定するためのセンサとして設計されており、制御部はそのパラメータを使用して、様々な接触抵抗の場合の電極部分面積の作動の最適化を算出する。
【0054】
次いで、選択されたプログラムおよび呼び出された刺激プロトコルに従って、活性作動電極に電気エネルギーを供給し、特定の大きさと一定時間の電流によって形成されるインパルスを、頭皮を介して関連する限局された脳領域に送る。電極キャップ中の他方の不活性電極はこのフェーズでは機能を有しておらず、適宜、異なるプログラムまたは別の刺激プロトコルを実行する際に使用される。電気接続ラインの経路が短くなるように、刺激発生器を電極キャップに一体化することが特に有利である。刺激発生器は、機能呼び出しボタンを有する使用者インターフェースが配置されている遠隔操作装置で操作される。
【0055】
図2は、電極3が配置されている装置の使用者の後頭部を示し、いわゆる目印の使用を示す。例えば、目印を使用する場合、イニオン7(頭蓋の下端と頚椎の上端との間の触知できる柔らかい点)とナシオン(鼻背と前頭との間の移行部)との間の線が、各印加を行うために固定される電極3の位置を測定するための始点として使用される。
【0056】
図示されている実施例では、陰極はイニオン7の3.5cm上に配置され、陽極6は陰極5の4.5cm右に配置される。この例示的実施形態では、視覚系の刺激が可能になる。
【0057】
図示されている実施形態では、正確に位置決めされなければならない面積の大きい電極3を頭皮と接触させる。次いで、所定の領域で、直流パルスの形態の微弱な連続的電流によって、皮質細胞の膜電位の小さいシフトが誘導される。この膜電位のシフトにより、電流の流れる方向に応じて、陽極の配向では神経細胞放電率の増加が起こり、または、陰極の配向ではこれらが抑制される。電流方向と電極位置の他に、これらの活性化または不活性化過程は、暴露持続時間、有効電流密度、および電流密度ベクトルに対する神経細胞の主な位置に依存する。従って、この経頭蓋直流電気刺激(tDCS)の作用は電気的パラメータで調節することができ、電極配置で局限することができる。刺激電流は、約0.001〜0.002アンペアであり、陽極または陰極に分極可能である。しかし、他のパラメータによっては、0.005アンペアまで増加させてもよい。
【0058】
図3は、直流発生器、制御部、および使用者インターフェースを含み、装着バンド8を備えている刺激発生器16の実施形態を示す。装着バンド8は、刺激発生器16を使用者の前腕に装着するためのアームバンドとして、または、それを使用者の身体に固定するためのベルトとして設計されている。図示されている例示的実施形態では、刺激発生器16は、さらに、2つのコネクタ11を有する。電極3への接続線4(ここでは図示せず)は、好適な接続プラグによってそれに取り付けられており、電極3は刺激発生器16の直流発生器に接続されている。
【0059】
使用者インターフェースが機能呼び出しボタン15を含むため、刺激発生器16を外部操作するための遠隔操作装置を必要としない。その場合、使用者インターフェースのプログラム選択ボタン9と同様に同じ面で機能呼び出しボタン15を操作することができる。この実施形態の変形では、刺激プロトコルを、直接、刺激発生器16の機能呼び出しボタン15で呼び出すことができる。例えば、ストレス状態にある使用者による誤操作を回避するために、プログラム選択ボタンはさらに、コードで保護された設計を有する。
【0060】
刺激プログラムを作動させるか、または複数のプログラムが使用可能な場合、使用者インターフェースのプログラム選択ボタン9で所望のプログラムを選択する。プログラム自体の数およびプログラムの関連する特定のパラメータは装置の製造業者によって規定され且つ予め設定されており、不適切な変更から装置の意図された使用を保護するため、通常の符号化法によって保護される。
【0061】
様々な日常の状況で秘密裏に使用するのにとりわけ適している高い操作快適性を有する代替の実施形態(図示せず)では、刺激プロトコルを呼び出すための機能呼び出しボタンを有する外部遠隔操作装置が使用され、その遠隔操作装置を使用して、各使用状況に適し且つプログラムに設定されている、刺激プロトコルに従ったパルス特性が呼び出される。安全性と妨害操作の理由から、遠隔操作装置の信号は、別の遠隔操作装置または類似の信号の影響を受けないように暗号化される。
【0062】
装置の制御部は、刺激発生器16に一体化され、刺激および電流調節器を制御し、使用プロトコルを実行する。
【0063】
しかし、監視・安全モジュールの操作は、特に省エネで、独立しており、誤動作の場合、刺激発生器のエネルギー源に依存しないように設計されている。
【0064】
外部遠隔操作装置または刺激発生器に一体化された使用者インターフェースで装置を操作するとき、使用者は、機能呼び出しボタン15の1つを押すことによって刺激を開始するが、その機能呼び出しボタン15のそれぞれが、設定されたプログラムによって規定された値の範囲内の様々な量の個別の全誘導電荷を可能にし、この呼び出しを可能にする。
【0065】
さらに、遠隔操作装置または使用者インターフェースから情報を呼び出し、それを表示器10に表示させることが可能である。表示器10は、実行中の刺激プログラムおよび場合によっては他のパラメータ(例えば、最大電荷量のパーセンテージ、治療持続時間、パルスの持続時間、パルスの種類、およびバッテリーの充電状態等)の現在の操作行為を目視で確認するための情報を表示する。
【0066】
図4は、経頭蓋ランダムノイズ刺激(tRNS)用の神経刺激装置1を装着した使用者を概略的に示し、刺激発生器16は上腕に装着されている。この場合、遠隔操作装置を使用し、遠隔操作装置でプログラムを開始することができ、機能呼び出しボタンでパルス持続時間およびパルス強度を選択することができる。安全性のため、遠隔操作装置からの信号は、別の遠隔操作装置または類似の受信信号の影響を受けないように、当業者に既知の暗号化方法で暗号化されている。
アームバンドとして設計されている装着バンド8を使用して、使用者の上腕に刺激装置16を装着する。電極3は、使用者の頭部の、使用の目的のために定められた位置に配置される。刺激装置16に一体化された電流発生器と電極3は電気接続線4で接続され、それによって電流発生器からの刺激電流は電極3に送られる。
【0067】
前述のtRNSを使用すると、標的領域の皮質興奮性を増大させることができる。この効果は、例えば、100〜640Hzの比較的高い周波数で、正確には、細胞のナトリウムチャネル(Na+)が繰り返し迅速に開放されることによって、特によく達成することができる。この場合、例えば、20cmの比較的小さい刺激電極を標的領域に配置し、例えば、80cmの比較的大きい参照電極を反対側に配置する。規定の電流密度制限値の場合の電流(1mA)および刺激持続時間(10分)のパラメータは、制御モジュールによって生成および制限され、監視・安全モジュールによって記憶される。移動して使用されるtRNSの特別な利点は、陰極/陽極刺激と比較して標的領域(脳回(folding))の特定の構造にあまり依存せず、標的領域における興奮性効果(Na+チャネルの複数の開放)の場合の効率が高いことである。最後に、非分極電流は、原則的に比較的安全であると思われるため、監視される安全性の態様は危険性が少ない。しかし、tDCSと比較した制約の1つは、tRNSは現在、刺激のためにしか効率的に使用できず、標的領域の活動性の抑制には比較的効率が低いことである。
【0068】
図5は、本発明の特に有利な実施形態を示し、この実施形態では、刺激発生器16は電極3と共に、ヘルメット14として具体化されているヘッドギアに一体化されており、電極3は、ヘルメット14の一部であり頭部に被せられる帽子に取り付けられている。
【0069】
電極3は、ヘルメット14の帽子への取り付けにより既に位置決めされており、そのため、使用者の神経刺激装置1の操作が容易になる。刺激発生器16は、遠隔操作装置で操作される。これは、例えば、使用者の手首に装着され、接続線4でまたは無線でヘルメット14内の刺激発生器16の制御部に接続されている。プログラム可能な携帯電話、PDAまたはスマートフォンを遠隔操作装置として使用することができる。
【0070】
有利な発展形態(詳細には図示せず)では、ヘルメット14は複数の電極部分面積2を有し、これらは全て刺激装発生置16に接続されており、個々に作動させることができる。電極部分面積2が中に取り付けられており、使用者の頭部に被せられるヘルメット14は、頭皮への電極3の位置決めが行われないため、刺激装置1の安全な操作に特に適している。好ましい実施形態では、500個の電極部分面積2は、ヘルメット14に、縦方向に25個の電極部分面積2と横方向に20個の電極部分面積2からなる格子状に収容されており、各電極部分面積は、1辺が8〜18ミリメートルの適切なサイズを有する正方形である。そのため、選択されるプログラムに応じて、刺激発生器16によって刺激が加えられる領域で複数の電極部分面積2を自動的に作動させることによって使用者に全く関係なく電極3を位置決めすることが可能である。
有利には、電極部分面積2によって形成される全電極面積としての作動電極3の数および位置によって決まるのは、刺激の位置だけではない。好ましい発展形態によれば、1つの位置で作動する電極部分面積2の数は、さらに、使用者の電極抵抗(インピーダンズ)などの境界条件に対応する。電気抵抗が高い場合、必要なインパルス強度を印加するために、電極抵抗が低い場合よりも多くの電極部分面積2を刺激発生器16で作動させる。少なくとも個々の電極部分面積2は、電極抵抗を測定するためのセンサとして設計および接続され、測定された測定値は制御部で処理される。
電極抵抗を考慮するための制御アルゴリズムは、安全システム(これについてはさらに詳述する)と相互作用する。従って、この構成により、そのつど印加に適している標的領域の膜電位に意図した影響を及ぼすことを柔軟に達成することができる。例えば、禁煙治療のために前頭前皮質を刺激することができるが、必要に応じて、さらに島を刺激することも可能である。他の例は、この実施形態の利点を明確にする。例えば、標的領域のより限局的な刺激の達成を目的とする場合、比較的小さい電極面積に切り換えて、比較的高い電流密度を達成することができるが、これは、全誘導電荷量の残りのパラメータで調整されなければならない。
【0071】
図6は、機能呼び出しボタン15および表示器10を有する遠隔操作装置12を示す。遠隔操作装置12は、コネクタ11が接続線(図示せず)によって刺激発生器16に接続されている。
しかし、遠隔操作装置12は、好ましくは、刺激発生器16が無線操作されるように設計されており、アンテナ13を有する送信部および受信部、ならびに電源を有する。
【0072】
図7は、刺激発生器の制御および調節アルゴリズムの概観を示す。
使用者インターフェースを使用してプログラムおよび刺激プロトコルを選択し、これらを制御部および電流発生器、および場合によっては音声モジュールで刺激出力のための信号に変換する。パラメータを使用プロトコルに記録し、センサからの信号と共に処理するために監視・安全モジュールに送信する。データは評価およびチェックされた後、使用者インターフェースの表示器に出力され、刺激発生器の制御部にフィードバックされる。
【0073】
装置の操作概念では、1つ以上の刺激プログラムを対応する電気的、局所解剖学的、および時間的パラメータと共に制御部に保存し、前記プログラムを呼び出すことができるようにする。
使用される標準パルスは、電流および電圧のパラメータによって決まる。他のパラメータは、刺激持続時間、電極面積、標的領域の活動性に目的とする影響を及ぼすための電極位置、電荷量および電流密度である。
意図された用途の刺激プロトコルに規定された各特性を有する好適なパルスは、0.001アンペア〜0.002アンペア、場合によっては0.005アンペアまでの電流、および900秒以下の刺激持続時間である。
【0074】
安全性の理由から、刺激制御部と監視・安全モジュールは、使用者インターフェースおよび遠隔操作装置から機能的に分離される。
制御部は、また、監視・安全モジュールと直接相互作用する。刺激アルゴリズムの進行(run−through)は、安全性のリスクに関して常に監視される。これは、プログラムまたはハードウェアの誤動作によって起こる、大きさまたは持続時間に関する刺激の過剰投与として存在する。さらに、有害なサージの発生によるリスクもある。電極の正確な取り付け具合は、接触抵抗を監視することによってチェックされる。従って、最大電流、最大刺激時間、全電荷量および最大電流密度などの1つ以上の制限値を超える前に、安全対策システムの作動により刺激を中断することができる。さらに、充電式バッテリーの充電機能がチェックされ、これは過充電によって破壊しないように安全対策がなされている。
【0075】
使用プロトコルは、刺激の経過を記憶する。これを使用して、最後の刺激に関する情報を呼び出すことができる。しかし、これは、時間積分変数を監視するためにも必要である。これは特に、刺激に使用される電荷量の制限に当てはまる。使用プロトコルからの報告は、使用者インターフェースに送られ、表示器から読み取ることができる。
電流調節器は、刺激出力の上流で切り換えられ、同様に使用プロトコルに接続される。
【0076】
刺激は、使用者が選択するプログラムに従って制御される。制御は、監視・安全モジュールによって監視され、これは次の機能を果たす:
・この装置は、電流および導入される電力を監視および制限する。これによって、損傷が起こらなくなり、電流が刺激閾値未満になることが確実になる。
・電極の接触抵抗を監視して、接触抵抗の増加時に損傷が起こらないようにする。接触抵抗の増加の原因は、電極の一部または全部の外れの可能性もある。この場合、さらに好適な電極面積に切り換えることによって刺激中の電流密度を制限しなければならず、さもなければ、刺激は中断される。
・誤操作または欠陥により、刺激が強くなり過ぎる可能性がある。これと共に組織に過剰に高い電解質負荷が生じ、イオン輸送によって組織が損傷を受けることがないようにしなければならない。このため、装置は、1時間あたり移送される電荷量および全電荷量を監視し、制限する。
・ケーブルが断線した場合または電極が外れた場合、パルス刺激が起こり得る。パルス電流は刺激閾値が著しく低く、低電流でも痛みを伴う場合がある。このため、装置は、制御部を使用することによって接続の緩みを識別し、この場合刺激を中断する。
・マイクロコントローラは、簡単であるが効率的で非常に省エネの監視装置を備え、この監視装置は、プログラム進行中のエラーまたは刺激手順における制御アルゴリズムからの逸脱に対して、および制御ソフトウェアのクラッシュに対して、誤動作の場合の動作電流から独立したバッテリーバックアップを有する。監視・安全モジュールのマイクロコントローラはウォッチドッグシステムを備え、これは、ある時間単位毎に、例えば、10ms毎にプログラムから正確に定められた信号列を必要とする。信号列が正常でない場合、監視装置は制御をリセットし、必要に応じて、ソフトウェアを再起動させる。
・制御プログラムが、欠陥、プログラムエラー、または高エネルギー放射線のため、未定義の状態に達した場合、それは、最悪の場合のシナリオでは10ms後に中断され、必要に応じて、再起動される。従って、制御ソフトウェアが複雑で、使用条件が過酷な場合でも、危険な状態が起こらないようになっている。
・安全性に関連する制御機能はジャーナリング原理に従って働き、自動使用プロトコルは、全ての刺激手順が追跡可能であるように実行される。例えば、刺激プログラムが刺激電流の増加を規定する場合、プログラムはログにエントリを作成し、そのエントリは現在のアルゴリズムプログラムステップおよび電流の増加を含む。最後に、実施された変更をログに追加する。このようにして、制御ソフトウェアの再起動により、移行や情報の損失が起こることなく、安全性に関連する全ての機能が継続する。電流調節器は刺激出力の上流で切り換えられる。
・遠隔操作装置は暗号化手段によって保護され、送信部は他の制御部から物理的に分離される。これによって、他の遠隔操作装置により刺激が起こらないことが確実になる。
【0077】
以下は、刺激発生器の他の技術的パラメータである:
充電式バッテリーで作動し、マイクロコントローラで制御される携帯型の経頭蓋刺激発生器
寸法:80×60×25mm。
好ましい実施形態では、電荷量は、2時間で600mAに制限される。
欠陥または機械的破壊の場合、電流は、動作電流から独立した別個のバッテリーバックアップエネルギー供給を有するハードウェアおよびマイクロコントローラによって制限される。
損傷を回避するため、および電極の外れを識別するために接触抵抗を監視する。
充電式バッテリーの充電状態を表示し、任意に警告信号を有する。
1回の充電による使用時間は24時間より長い。
電流供給が正常に行われない場合でも使用プロトコルが維持される。
遠隔操作装置によって、非常に様々な通常の日常の状況でも、妨げられない常に使用可能な自己刺激が使用者に提供される。
そのため、使用者の移動の自由が様々な適用分野の要求に最適に適合する。
【符号の説明】
【0078】
1 神経刺激装置
2 格子状に配置された電極部分面積
3 面積の大きい電極
4 電気接続線
5 陰極
6 陽極
7 イニオン
8 装着バンド
9 プログラム選択ボタン、電源ボタン、使用プロトコルの呼び出しボタン
10 使用者インターフェースまたは遠隔操作装置の表示器
11 コネクタ
12 遠隔操作装置としての操作部
13 アンテナを有する送信器/受信器
14 ヘルメット
15 機能呼び出しボタン
16 刺激発生器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
携帯型の経頭蓋自己刺激装置であって、
−頭皮に正確に位置決めするための装着手段を有する電極(3)および電気接続線(4)、ならびに
−可搬式小型刺激発生器(16)であって、
−電流発生器、
−前記電流発生器によって発せられるパルスを、電気的、局所解剖学的、および時間的パラメータの値の範囲に関して決定するための少なくとも1つのプログラムを記憶することができる制御部、
−使用者インターフェースであって、
−前記制御部に記憶されたプログラムを選択するためのプログラム選択ボタン(9)と、
−前記刺激プロトコルを選択するための機能呼び出しボタン(15)と、
−表示器(10)と
を有する使用者インターフェース、
−電気エネルギーリザーバ、および
−電流、刺激持続時間、電極位置および電極面積をチェックおよび制限するための監視・安全モジュールであって、別個の電気エネルギーリザーバを有する監視・安全モジュール、
を有する可搬式小型刺激発生器、
を含む装置。
【請求項2】
使用者がプログラムから刺激プロトコルを呼び出すための前記機能呼び出しボタン(15)または前記使用者インターフェース全体が、前記刺激発生器(16)の遠隔操作装置(12)として設計されていることを特徴とする、請求項1に記載の装置。
【請求項3】
前記監視・安全モジュールが、別個のマイクロコントローラ、および、誤動作の場合のバッテリーバックアップ電流供給のための別個のエネルギーリザーバとしてコンデンサを有することを特徴とする、請求項1または2に記載の装置。
【請求項4】
前記電極(3)が25cm未満の面積を有する電極部分面積(2)から形成され、多数の電極部分面積(2)が格子状に配置され、前記電極(3)は1つ以上の電極部分面積(2)を作動させることによって形成することができることを特徴とする、請求項1〜3のいずれか1項に記載の装置。
【請求項5】
前記電極(3)の装着手段がヘッドギアとして設計されており、前記電極(3)が前記ヘッドギアに一体化されていることを特徴とする、請求項1〜4のいずれか1項に記載の装置。
【請求項6】
前記刺激発生器(16)が前記ヘッドギアに一体化されていることを特徴とする、請求項1〜5のいずれか1項に記載の装置。
【請求項7】
音声モジュールが前記刺激発生器(16)に設けられているか、または刺激発生器(16)とは別々になっており、前記音声モジュールで、前記刺激プロトコルによって結合された音声コマンドをヘッドフォンで出力できることを特徴とする、請求項1〜6のいずれか1項に記載の装置。
【請求項8】
前記刺激発生器(16)が、それを使用者の上腕、手または胸部に装着するための装着バンド(8)を有し、前記機能呼び出しボタン(15)を有する前記遠隔操作装置(12)が、前記刺激発生器(16)の制御部に無線で作用するように設計されていることを特徴とする、請求項2〜5のいずれか1項に記載の装置。
【請求項9】
前記電極(3)または前記電極部分面積(2)が、接触抵抗を測定するためのセンサとして設計されていることを特徴とする、請求項1〜8のいずれか1項に記載の装置。
【請求項10】
a)前記使用者インターフェースのプログラム選択ボタン(9)でプログラムを選択する工程、
b)前記機能呼び出しボタン(15)で、刺激プロトコルを選択する工程、
c)前記刺激発生器(16)の前記監視・安全モジュールで刺激を監視および制限する工程であって、全電荷量および最大電流密度を超えないように、電流、電圧、刺激持続時間、電極位置および電極面積のパラメータを互いに調整する工程、
を特徴とする、請求項1〜9のいずれか1項に記載の携帯型の経頭蓋自己刺激装置を制御および調節する方法。
【請求項11】
工程c)で、正確に設定された信号列の存在を前記制御部でチェックし、順連続的に監視し、エラーを検出した場合、前記プログラムの停止または再起動を強制的に行うことを特徴とする、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
工程c)で、センサとして設計された電極(3)で接触抵抗を測定し、前記測定値を前記制御部に報告および処理し、刺激を加えるために、最小限の全電極面積で正確に集中させるために必要な刺激電流強度が得られるように、前記格子状に配置された多数の電極部分面積のうちの対応する数を作動させることを特徴とする、請求項10または11に記載の方法。
【請求項13】
工程c)で、許容される電流の範囲が0.001A〜0.005Aであることを特徴とする、請求項10〜12のいずれか1項に記載の方法。
【請求項14】
方法c)で、許容される刺激時間の範囲が900s以下であることを特徴とする、請求項10〜13のいずれか1項に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公表番号】特表2012−509121(P2012−509121A)
【公表日】平成24年4月19日(2012.4.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−536882(P2011−536882)
【出願日】平成21年11月20日(2009.11.20)
【国際出願番号】PCT/EP2009/065588
【国際公開番号】WO2010/057998
【国際公開日】平成22年5月27日(2010.5.27)
【出願人】(511122248)
【Fターム(参考)】