説明

携帯型酸素切断機

【課題】酸素溶断棒の交換を容易に行うことができるのみでなく、作業の確実性あるいは安定性が向上し、強度的にも着火性の面でも優れた携帯型酸素切断機を提供する。
【解決手段】酸素溶断棒Sを保持するワンタッチ継手26を有するホルダー22に、ガイドキャップ27を取り付けると共に、ガイドキャップ27の先端部に、酸素溶断棒Sを支持する支持部材28を設けたことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、事故や災害などの緊急事態が発生した現場などで使用する携帯型酸素切断機に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、携帯型酸素切断機は、犯罪が発生した家屋の扉あるいは壁などを速やかに切断破壊するために使用される。使用に当たっては、酸素ボンベからの酸素を圧力調整器、酸素ホース及びホルダーを介して酸素溶断棒に供給し、バッテリーに接続した電気コード先端の着火体と酸素溶断棒の先端との間でスパークを発生させて着火し、酸素溶断棒の先端から着火発熱ガスを対象物に向かって噴射し、壁などを溶解切断する。
【0003】
この着火発熱ガスは、高温(約4000℃)であり、水中でも溶解切断が可能であることから、災害などの現場や土木工事などにおいて各種対象物の切断に利用されている(下記特許文献1参照)。
【0004】
このような携帯型酸素切断機は、比較的取り扱い操作も簡単であるが、携帯用として使用するため、軽量化しなければならず、携帯する酸素ボンベも小型のものが使用されている。この結果、切断作業時間も2〜3分程度であり、比較的短時間の内に溶解切断作業を行わなければならない。
【0005】
また、作業の迅速性も要求され、酸素溶断棒の交換も素早く行うことができるように、ホルダーにワンタッチ継手が設けられ、酸素溶断棒を抜き差しする操作のみで交換可能となっている。
【0006】
この酸素溶断棒に関しても、金属管(例えば、炭素を含有する鉄製の管)の中心部に孔が形成され、この孔の周りに複数の孔が管軸方向に平行に形成されている、直径7mm程度の多孔管が使用され、燃焼が容易になるようにしている(下記特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2009−119493号公報
【特許文献2】特許第3021371号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ところが、このようなワンタッチ継手を使用する従来の携帯型切断機では、酸素溶断棒の保持乃至支持が、酸素溶断棒の基端をホルダー内において1箇所のみであるため、酸素溶断棒があらゆる場合において安定的に保持乃至支持されないおそれがある。特に、酸素溶断棒は、細くて長尺なものであることから、酸素溶断棒の先端、つまり作業部分の位置が安定しないことは好ましくない。しかも、ホルダーから細い酸素溶断棒が直接突出するので、強度的にも問題である。
【0009】
また、酸素溶断棒は、上述のように単一金属からなる多孔管であるため、着火の容易性に欠けるという問題もある。特に、緊急事態が発生した現場では、迅速な作業が要求されることから、この点でも改良も求められている。
【0010】
本発明は、上述した課題を解決するためになされたものであり、酸素溶断棒の交換を容易に行うことができるのみでなく、作業の確実性あるいは安定性が向上し、強度的にも着火容易性の面でも優れた携帯型酸素切断機を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的を達成する本発明の携帯型酸素切断機は、酸素溶断棒を保持するワンタッチ継手を有するホルダーに、ガイドキャップを取り付けると共に、当該ガイドキャップの先端部に、前記酸素溶断棒を支持する支持部材を設けたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
請求項1の発明によれば、ワンタッチ継手を有するホルダーのガイドキャップ先端部に支持部材を設け、酸素溶断棒を支持するようにしたので、酸素溶断棒は、基端がワンタッチ継手に支持され、この基端から離れた部分が支持部材により支持されることになり、極めて安定的に保持され、細長い酸素溶断棒であっても先端が安定的となり、溶断作業も安定的にかつ確実に行うことができる。しかも、細長い酸素溶断棒の基部がガイドキャップに覆われるので、強度的にも優れたものとなる。
【0013】
請求項2に記載の発明によれば、前記支持部材が、前記酸素溶断棒をワンタッチ継手からリリースするリリース部材を押圧可能に設けたので、支持部材により酸素溶断棒の脱着も容易に行うことができる。
【0014】
請求項3に記載の発明によれば、前記支持部材が、軸方向に離間した少なくとも一対のスライド部材と、これらスライド部材間に設けられたスペーサ部材とから構成され、前記ガイドキャップの先端に設けられた内方突部が前記スライド部材間に突出するように構成されているので、前記酸素溶断棒を支持する箇所が、ワンタッチ継手の部分と、少なくとも一対のスライド部材となり、酸素溶断棒の支持が軸方向に離間する複数の箇所で行なわれることになり、さらに酸素溶断棒の支持が確実になる。したがって、仮に横方向からの力が作用することがあっても容易に変形あるいは破損することがなく、また、酸素溶断棒の基部はガイドキャップにより保護されることにもなるので、総じて強度的に優れたものとなる。
【0015】
請求項4に記載の発明によれば、ホルダーに設けられているオンーオフ弁の操作レバーと前記支持部材とを近接配置したので、ホルダーを把持した状態で支持部材を操作でき、片手操作も可能となり、利便性が向上する。
【0016】
請求項5に記載の発明によれば、前記酸素溶断棒は、外部筒体内に、鉄製の第1燃焼棒と、炭素繊維からなる第2燃焼棒を酸素用隙間が存在するように混在して設けたので、着火性能が向上するのみでなく、燃焼性も高めることができ、溶断速度が向上し、短時間の作業時間でもより多くの作業を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の実施形態を示す概略図である。
【図2】本実施形態のホルダーにおける断面図である。
【図3】酸素溶断棒の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、図面を参照して、本発明の実施の形態を説明する。
【0019】
本実施形態に係る携帯型酸素切断機10は、図1に示すように、概して、ジャケット1の背部に取り付けられた酸素ボンベ11と、酸素溶断作業を行う溶断部20と、酸素溶断開始時に使用する着火部50と、を有している。以下、これらについて個々に詳述する。
【0020】
酸素ボンベ11は、FRPなどのような軽量で強度を有する材料により形成され、人が容易に持ち運ぶことができる小型で軽量なものであり、ジャケット1に取り付けられた取付板12に支持されている。酸素ボンベ11の下端には、酸素充填用バルブ14、分配バルブ15、圧力計(不図示)などを有する操作グリップ16が設けられている。なお、使用後は、酸素充填用バルブ14を利用して再充填し、再使用する。
【0021】
溶断部20は、酸素ボンベ11の分配バルブ15と酸素ホース21を介して連結されたホルダー22と、ホルダー22の先端に取り付けられた酸素溶断棒Sと、を有している。
【0022】
ホルダー22は、図2に示すように、内部に酸素通路23が形成された本体24と、本体24の先端部に設けられた筒状収容部25と、筒状収容部25内に設けられ、酸素溶断棒Sの基端を保持乃至支持するワンタッチ継手26と、筒状収容部25に基端が取り付けられ、先端が酸素溶断棒Sの基部(基端より離間した位置の部分)を覆う位置まで突出されたガイドキャップ27と、ガイドキャップ27の先端部に軸線方向に摺動可能に設けられた支持部材28と、を有している。
【0023】
なお、ワンタッチ継手26は、酸素溶断棒Sを把持するチャッキング部材29、チャッキング部材29の基端を保持するコレット30と、ガイド部材31と、チャッキング部材29による酸素溶断棒Sの把持をリリースするリリース部材32と、を有している。
【0024】
特に、本実施形態の支持部材28は、軸方向に離間した一対のスライド部材33と、これらスライド部材33間に設けられたスペーサ部材34とを有し、ガイドキャップ27の先端に形成された内方突部35がスライド部材33間に突出するように設けられている。
【0025】
したがって、スライド部材33がガイドキャップ27の先端でスライドすると、ワンタッチ継手26のリリース部材32を押圧することができることになり、また、その内周面が酸素溶断棒Sの外周面と接し、酸素溶断棒Sを支持するようになる。この結果、酸素溶断棒Sは、基端でのチャッキング部材29による支持のみでなく、スライド部材33の内周面によっても支持されることになり、細長い酸素溶断棒Sであっても安定的に支持されることになる。また、酸素溶断棒Sのワンタッチ継手26からのリリースも支持部材28により行うことができ、利便性が向上する。
【0026】
なお、ガイドキャップ27には窓などを設けないことが好ましい。外部からのごみなどの侵入が防止できるからである。
【0027】
ホルダー22の基端部には、一端が分配バルブ15に取り付けられている酸素ホース21の他端が取り付けられているが、酸素ホース21から給送される酸素の流量を調整する酸素調整弁35も設けられている。また、酸素調整弁35の近傍には、酸素通路23内を流れる酸素流を断続させるオンーオフ弁36も設けられている。このオンーオフ弁36は、操作レバー37により開閉操作されるが、この操作レバー37と、前述した支持部材28とは相互に近接配置され、操作レバー37と支持部材28とを片手操作可能としている。
【0028】
なお、図中、「38」はパッキンである。
【0029】
本実施形態の酸素溶断棒Sは、図3に示すように、外部筒体40内に、鉄製の第1燃焼棒41と、炭素繊維からなる第2燃焼棒42(図面ではハッチングした部分)が、これら燃焼棒41,42間に酸素用隙間43が存在するように混在して多数設けられている。このように構成すれば、炭素繊維からなる第2燃焼棒42の着火性が良いので、酸素溶断棒S全体としての着火性能が向上するのみでなく、燃焼性も高めることができ、溶断速度が向上し、短時間の作業時間でもより多くの作業を行うことができる。
【0030】
着火部50は、図1に示すように、ジャケット1の前身頃2に設けられたポケットに収容されたバッテリー51と、バッテリー51と電気コード52を介して接続された着火体53と、を有している。着火体53は、プラス電極54とマイナス電極55とを有し、両電極間でスパークを生じさせ、酸素溶断棒Sに着火する。
【0031】
次に作用を説明する。
【0032】
まず、溶断作業を開始する前に、酸素溶断棒Sをホルダー22に取り付ける。この取り付けは、酸素溶断棒Sを支持部材28に挿通すると共に、ホルダー22内のパッキン38も挿通し、本体24の酸素通路23と連通する位置まで入れる。これにより酸素溶断棒Sは、ワンタッチ継手26のチャッキング部材29を放射方向外方に押し広げ、その弾性により保持され、抜け止めされる。また、本実施形態では、酸素溶断棒Sの基部が、支持部材28における相互に軸方向に離間した一対のスライド部材33の内周面によっても支持される。したがって、細長い酸素溶断棒Sであっても安定的に支持され、先端もブレる可能性が少なく、安定的な作業を可能にすることになる。
【0033】
ホルダー22に酸素溶断棒Sが取り付けられると、着火用として少量の酸素が酸素溶断棒Sに導く。つまり、操作グリップ16を操作するとともに、酸素調整弁35も操作し酸素の流量を調整し、少量の酸素が酸素溶断棒Sに流れるようにする。これにより酸素がホルダー22の酸素通路23内に導かれるが、オンーオフ弁36は、常閉であるため、酸素が酸素溶断棒Sに流れることはない。
【0034】
そして、酸素溶断棒Sの先端を着火部50のプラス電極54とマイナス電極55に近接させた状態で、着火部50の電源をオンし、電気コード52を介して着火体53に電気を導き、プラス電極54とマイナス電極55間でスパークを生じさせるとともに、オンーオフ弁36の操作レバー37を握り、押し下げ、少量の酸素を酸素溶断棒Sに流す。
【0035】
これにより酸素溶断棒Sに着火される。本実施形態では、酸素溶断棒Sに着火性が良い炭素繊維からなる第2燃焼棒42が設けられているので、速やかに着火されることになり、酸素溶断棒S全体としての着火性能も向上する。
【0036】
そして、一旦着火すると、酸素調整弁38を操作し、所定量の酸素を流し、溶断作業を行う。このような定常状態の燃焼においても、炭素繊維からなる第2燃焼棒42を有する本実施形態の酸素溶断棒Sは速やかに燃焼することになり、燃焼性が向上する。この結果、溶断速度が向上し、短時間の作業時間でもより多くの作業を行うことができる。
【0037】
本発明は、上述した実施形態のみに限定されるものではなく、特許請求の範囲の範囲内で種々改変することができる。例えば、上述した実施形態では、支持部材28は、軸方向に離間した一対のスライド部材を有するものであるが、さらに多数のスライド部材を有するものを使用してもよい。また、前記実施形態の酸素溶断棒Sは、鉄製の第1燃焼棒と炭素繊維からなる第2燃焼棒とを外部筒体内に多数混在させたものであるが、これのみでなく、鉄製の第1燃焼棒に含有される炭素量を増大させたものを使用してもよい。
【産業上の利用可能性】
【0038】
本発明は、例えば、犯罪発生した家屋の扉あるいは壁などを速やかに切断破壊する緊急用の切断機として利用可能である。
【符号の説明】
【0039】
11…酸素ボンベ、
22…ホルダー、
23…酸素通路、
24…本体、
25…筒状収容部、
26…ワンタッチ継手、
27…ガイドキャップ、
28…支持部材、
32…リリース部材、
33…スライド部材、
34…スペーサ部材、
35…内方突部、
36…オンーオフ弁、
37…操作レバー、
40…外部筒体、
41…第1燃焼棒、
42…第2燃焼棒、
43…酸素用隙間、
53…着火体、
S…酸素溶断棒。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸素溶断棒を保持するワンタッチ継手を有するホルダーに、酸素ボンベからの酸素を供給しつつ、前記酸素溶断棒の先端と着火体との間でスパークを発生させて着火し、当該酸素溶断棒の先端から噴射される着火発熱ガスにより対象物を溶解切断する携帯型酸素切断機であって、
前記ホルダーは、本体と、当該本体に基端が取り付けられ先端が前記酸素溶断棒の基部を覆う位置まで突出されたガイドキャップと、当該ガイドキャップの先端部に軸方向摺動可能に設けられた支持部材と、を有し、当該支持部材が前記酸素溶断棒を支持するようにしたことを特徴とする携帯型酸素切断機。
【請求項2】
前記支持部材は、前記酸素溶断棒をワンタッチ継手からリリースするリリース部材を押圧可能に設けたことを特徴とする請求項1に記載の携帯型酸素切断機。
【請求項3】
前記支持部材は、軸方向に離間した少なくとも一対のスライド部材と、これらスライド部材間に設けられたスペーサ部材とを有し、前記ガイドキャップの先端に設けられた内方突部が前記スライド部材間に突出するようにしたことを特徴とする請求項1又は2に記載の携帯型酸素切断機。
【請求項4】
前記ホルダーは、前記本体内に設けられた酸素通路内を流れる酸素流の前記筒状収容部への流れを断続させるオンーオフ弁を有し、当該オンーオフ弁の操作レバーと前記支持部材とを近接配置したことを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の携帯型酸素切断機。
【請求項5】
前記酸素溶断棒は、外部筒体内に、鉄製の第1燃焼棒と、炭素繊維からなる第2燃焼棒とを、これら燃焼棒間に酸素用隙間が存在するように混在して設けたことを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の携帯型酸素切断機。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2013−59796(P2013−59796A)
【公開日】平成25年4月4日(2013.4.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−200505(P2011−200505)
【出願日】平成23年9月14日(2011.9.14)
【出願人】(599077409)日本特装株式会社 (7)