説明

携行型引抜試験器

【課題】構造が簡単で、既存のドライバ及び電動ドライバー等の工具を利用して簡単な操作で使用可能であり、木造住宅の狭い床下や、足下の不安定な小屋裏等でもしかも測定精度の低下しない、木材等の内部の劣化程度を容易に調べることのできる携行型引抜試験器を実現する
【解決手段】携行型引抜試験器1の複合型木ねじプローブ6は、駆動用ねじ部14と、木ねじ部15と、軸部16とを備え、ねじ頭がドライバで回転されることで、複合型木ねじプローブ6が測定対象物である木材9にねじ込まれ、引抜用長ナット7が電動ドライバ18で回転されることで、ねじ込まれた複合型木ねじプローブ6が引き抜かれ、引き抜かれる際に引抜用長ナット7がロードセル3に作用する荷重を測定することで、引き抜き抵抗を測定し対象物の劣化度合を検査可能とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、携行型引抜試験器に関し、ねじと一体化された木ねじ状のプローブを木材等中にねじ込んだ後、プローブの引き抜き抵抗(荷重)を測定することで、木材等の内部の劣化程度を調べることのできる携行型引抜試験器に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、木材等の内部の劣化程度を調べる手段として、木ねじ状のプローブの引き抜き抵抗を測定する構成が知られている。
【0003】
この場合、1つの木材等31の中に空けた測定用の先穴32に対して、木材等31の一番目の深さ位置での測定(図7(a)に示す浅い位置での測定)、二番目の深さでの測定(図7(b)に示す深い位置での測定)等、木材等の中のさまざまな深さにおける木ねじ状のプローブ33の引き抜き抵抗(「引き抜き強度」ともいう。)を測定することにより、木材等の断面内における引き抜き強度の分布を測定できる。
【0004】
なお、図7(c)〜(e)は、木ねじ状のプローブ33を木材等31の測定用の先穴32から引き抜いて測定する方法を模式的に説明する図である。図7(c)は木材等31の片側から引き抜いて測定する方法であり、図7(d)は木材等31の1ヶ所の測定用の先穴32の両側から引き抜いて測定する方法であり、図7(e)は木材等31の2ヶ所の測定用の先穴32の両側から引き抜いて測定する方法である。
【0005】
図8(a)は、木材等31の引き抜き強度の測定試験の測定ポイント(測定位置)を説明する図であり、図8(b)は、木材等31の2ヶ所の測定用の先穴32から引き抜いて測定する方法(図7(e)参照)によって行った引き抜き強度の測定試験の結果の測定強度分布を示す図である。ここで、縦軸は、引き抜き強度を測定した木材等31の一直線上の測定のポイントの基点からの距離mmを示し、横軸は引き抜き強度を示している。
【0006】
図8(b)において、アは木材等が健全の場合の分布であり、イは木材等が劣化した場合の分布である。このように木材等31の複数の位置における引き抜き試験をして引き抜き強度の分布を作成することで、木材等31の健全又は劣化の状態を検査することができる。
【0007】
このような引抜試験に使用可能な機器としては、従来は、木材にねじ込まれたビスをレバー操作される油圧ポンプによって油圧を利用して引き抜き、その引抜力をものが知られている(特許文献1参照)。さらに、木材等にねじ込んだビスをトルクレンチで引き抜く際に加えられる検出トルク(引き抜き力)を表示する試験機(特許文献2参照)が用いられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平10−267922号公報
【特許文献2】特開2005−283295号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
このような引き抜き強度の分布を測定する用途に対して、従来の木ねじ状のプローブと、使用可能と考えられる従来の試験機には、以下に示す問題が存在した。
【0010】
(1)上記特許文献1、2に示すような試験器、或いは引き抜き強度の分布を測定する用途に転用可能な仕上げ材や塗料の剥離試験等に用いる引抜試験器は、いずれも装置が複雑で上部の重量が大きく転倒しやすい。横向きや上向きに使用したり、片手で操作することも困難であった。特に、上記従来の装置は可搬型ではあるが、引き抜き強度の分布を測定する用途に対しては、木造住宅の狭い床下や、足下の不安定な小屋裏では、これらの既存の装置は、使用することが困難である。
【0011】
(2)従来の試験機では、木ねじ状のプローブと引抜試験器がそれぞれ独立していたために、木ねじ状のプローブを木材等の中にねじ込んだ後に、引抜試験器を装着して、それから引き抜き抵抗を測定する必要があった。1つの測定位置(1つの穴)に対して、複数回(4〜8回)、木ねじ状のプローブのねじ込みと、引抜試験器の装着と、引き抜き抵抗の測定を繰り返し実施することは、極めて煩雑で効率が悪く、引抜試験器の引っ張り軸と木ねじ状プローブの軸が、各測定毎に微妙にずれるため、測定結果の精度が低下する原因にもなっていた。
【0012】
本発明は、上記従来の問題点を解決することを目的とし、構造が簡単で、既存のドライバ及び電動ドライバ等の工具を利用して簡単な操作で使用可能であり、木造住宅の狭い床下や、足下の不安定な小屋裏等でもしかも測定精度の低下しない、木材等の内部の劣化程度を容易に調べることができる携行型引抜試験器を実現することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明は上記課題を解決するために、測定対象物に当接する台座、台座上に設けられたロードセル、複合型木ねじプローブ及び引抜用長ナットを備えた携行型引抜試験器であって、複合型木ねじプローブは、引抜用長ナットに螺合し基端にねじ頭を有する駆動用ねじ部と、先端の木ねじ部と、駆動用ねじ部と木ねじ部との間に伸びる軸部とを備え、前記台座及びロードセルを貫通するとともに、前記木ねじ部が測定対象物の表面に対向可能なように配置されており、前記ねじ頭がドライバで回転されることで、複合型木ねじプローブが測定対象物にねじ込まれ、引抜用長ナットがドライバで回転されることで、ねじ込まれた複合型木ねじプローブが引き抜かれ、該引き抜かれる際に引抜用長ナットがロードセルに作用する荷重を測定することで、引き抜き抵抗を測定し対象物の劣化度合を検査可能とすることを特徴とする携行型引抜試験器を提供する。
【0014】
前記引抜用長ナットとロードセルの間には、ベアリングが設けられていることが好ましい。
【0015】
前記ねじ頭及び引抜用長ナットは、それぞれソケットを付けた電動又は手動のドライバに係合可能であり、前記ねじ頭に係合可能なソケットの径より、前記引抜用長ナットに係合可能なソケットは、ソケットの径が大きい構成としてもよい。
【0016】
前記複合型木ねじプローブには、ねじ込み深さ指示板が取り付けられており、台座にはねじ込み深さ指示板で指示する目盛が付されている構成とすることが好ましい。
【0017】
前記ロードセルには、ロードセルで検出される荷重を表示する表示計が接続されている構成とすることが好ましい。
【0018】
複合型木ねじプローブの木ねじ部に、対象物に固定されている木ねじに係合するアダプタを着脱可能に取り付けられる構成とすることで、対象物に固定されている木ねじの該対象物に対する固定強度の測定にも利用可能とする構成としてもよい。
【発明の効果】
【0019】
本発明に係る携行型引抜試験器によれば、構造が簡単で、既存の電動ドライバー等の工具を利用できるので、木造住宅の狭い床下や、足下の不安定な小屋裏等でも簡単な操作で使用可能であり、しかも測定精度が低下することなく、木材等の内部の劣化程度を調べることのできる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明の実施例の携行型引抜試験器の構成を説明する図である。
【図2】上記実施例の携行型引抜試験器の使用に際して、複合型木ねじプローブをねじ込む状態を説明する図であり、(a)は手動ドライバを利用し、(b)は電動ドライバを利用した場合の図である。
【図3】上記実施例の携行型引抜試験器の使用に際して、(a)は複合型木ねじプローブを抜き取る状態を説明する図であり、(b)は引抜用長ナットを戻している状態を説明する図である。
【図4】上記実施例の携行型引抜試験器の変形例を説明する図であり、(a)は全体構成を、(b)、(c)はそれぞれ要部を説明する図である。
【図5】上記実施例の携行型引抜試験器の要部を説明する図であり、(a)は複合型木ねじプローブの構成例を説明する平面図及び側面であり、(b)はねじ込み深さ指示板及びその取り付け部の側面図を示し、(c)はねじ込み深さ指示板の平面図である。
【図6】本発明の特徴的構成である引抜用長ナットの意義、効果を、通常の短ナットと比較して説明する模式図であり、(a)は短ナットを用いた場合、(b)は本発明の引抜用長ナットを用いた場合を説明する図である。
【図7】技術背景、本発明の課題等を説明する図であり、(a)、(b)は深さの異なる測定例を説明する図であり、(c)〜(e)は、木ねじ状のプローブを木材等から引き抜いて測定する異なる方法を模式的に説明する図である。
【図8】(a)は引き抜き強度の測定対象である木材等の測定ポイントを示す図であり、(b)は引き抜き強度の分布を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明に係る携行型引抜試験器を実施するための最良の形態を実施例に基づき図面を参照して、以下説明する。本発明に係る携行型引抜試験器では、測定対象物としては、木材の他、プラスチック等の部材でもよいが、以下の実施例では、木材を測定対象物として説明する。
【実施例】
【0022】
本発明に係る携行型引抜試験器の実施例を図1〜6において説明する。図1は、本発明の実施例の携行型引抜試験器1を、使用に際して測定対象物である木材に当接(この実施例では載置して当接)した状態を示す図である。
【0023】
携行型引抜試験器1は、台座2(本体フレーム)と、台座2上に載置されたロードセル3と、ロードセル3に接続されたアンプ表示計4と、ロードセル3上の載置されたスラストベアリング5(例.スラスト玉軸受)と、複合型木ねじプローブ6と、引抜用長ナット7と、ねじ込み深さ指示板8と、を備えている。
【0024】
台座2は、全体として略門型に形成されており、測定対象物である木材9に当接する下面が平坦な脚部10と、ロードセル3を載置する上面が平坦な頭部11を備えている。頭部11には、その中央部に、上下方向に貫通され、複合型木ねじプローブ6をその軸方向に移動可能に挿通する挿通孔12が形成されている。また、脚部10の正面には、複合型木ねじプローブ6について後記するねじ込み深さを指示する目盛13が付されている。
【0025】
ロードセル3は、例えば、荷重により生じるひずみをひずみゲージで検出してひずみから荷重の大きさを求めるゲージ式ロードセル等の通常市販されているものを使用すればよい。このロードセル3は、その上面に作用された荷重を検出し、検出信号をアンプ表示計4に出力するように構成されている。ロードセル3の中央部にも、複合型木ねじプローブ6をその軸方向に移動可能に挿通する挿通孔が形成されている。
【0026】
スラストベアリング5は、ロードセル3と引抜用長ナット7の間に配置されている。引抜用長ナット7は、スラストベアリング5上に当接し、スラストベアリング5を介してロードセル3に対して、軸心を中心になめらかに回転することが可能である。スラストベアリング5の中央部にも、複合型木ねじプローブ6をその軸方向に移動可能に挿通する挿通孔が形成されている。
【0027】
複合型木ねじプローブ6は、複合型木ねじプローブ6全体を軸方向に移動するために必要な駆動用ねじ部14と、先端においてプローブとして機能する木ねじ部15という、互いに全く異なる機能を奏する2つの部分が一体となって複合化している構造であるので、そのような名称とした。
【0028】
具体的には、複合型木ねじプローブ6は、図5(a)に示すように、駆動用ねじ部14、木ねじ部15(木ねじプローブ)及び軸部16が一体化されて構成されており、全体が鋼材等の金属、強化樹脂等の材料で形成されている。「木ねじ部15」は、測定対象物である木材等にねじ込まれる部分を意味しており、材料自体が必ずしも「木」という意味ではない。
【0029】
軸部16は、駆動用ねじ部14と駆動用ねじ部14の間を結合するように伸びる軸部分である。複合型木ねじプローブ6の基端には、駆動用ねじ部14のねじ頭が形成されている。詳細は後記するが、図5(a)は、ねじ頭の構造の異なる4つの複合型木ねじプローブ6の構成例を示している。
【0030】
複合型木ねじプローブ6の木ねじ部15は、木材の劣化程度を調べるためのプローブとして機能するものであり、複合型木ねじプローブ6のねじ込みによって木材にめり込み、引き抜き時に木材の部分を破壊することにより、引き抜き抵抗(引き抜き強度)を生み出す機能を有する。軸部16は、木ねじ部15より細くすることにより、木材に空けた測定用の先穴24(図1〜3参照)との側面抵抗の発生を抑制する。
【0031】
駆動用ねじ部14は、木ねじ部15を木材から引き抜くために、引抜用長ナット7が螺合して複合型木ねじプローブ6の駆動部を構成している。引抜用長ナット7は、ねじ孔17が形成されており、このねじ孔17が複合型木ねじプローブ6の駆動用ねじ部14に螺合している。
【0032】
引抜用長ナット7をその軸心を中心にして回転すると、引抜用長ナット7がその軸方向への移動が規制(拘束)されている場合は、駆動用ねじ部14を相対的に軸方向に移動させる。引抜用長ナット7は、通常のナットとは異なり、軸方向に長い筒状であり、その外面は断面六角状に形成されており、図3(a)に示すように、電動ドライバ18の先端部に取り付けた大径のソケット21に係合するように形成されている。なお、本発明において引抜用長ナット7を軸方向に長いナットを用いた点の意義及び効果については後記する。
【0033】
引抜用長ナット7が電動ドライバ18で回転駆動されると、引抜用長ナット7は、スラストベアリング5及びロードセル3を介して台座2によってその軸方向の移動が規制されているから、駆動用ねじ部14乃至複合型木ねじプローブ6全体を、測定対象物の木材9から引き抜き方向の動きに変換する。
【0034】
この引抜用長ナット7が、スラストベアリング5及びロードセル3を介して台座2によってその軸方向の移動が規制されるので、引抜用長ナット7は、上記のように木ねじ部15を引き抜く際に生じる引き抜き抵抗に応じた荷重(反力)をロードセル3に作用することとなる。
【0035】
引抜用長ナット7は、上記のとおり軸方向に長い筒状に形成されているが、この点は、本発明において、きわめて特徴的な構成であり、次の(1)〜(3)に説明するとおり、きわめて大きな意義を有し、多大の効果を奏する。
【0036】
(1)螺合部分の損傷を防ぐ
通常のナット(短ナット)では、駆動用ねじ部14と螺合する螺合部分であるねじの長さが短いために、このねじが損傷しやすい。これに対して本発明の引抜用長ナット7は、駆動用ねじ部14と螺合する螺合部分であるねじが十分に長いために、このねじの損傷が生じにくいという利点が得られる。
【0037】
(2)手で回しやすい
後記する本発明の作用において説明するが、複合型木ねじプローブ6を最初にセットする場合に、台座2から下の複合型木ねじプローブ6の長さを調節する必要がある。この場合に、引抜用長ナット7を手で回すが、通常のナットよりも、軸方向に長い本発明の引抜用長ナット7にすることにより、格段に手で回しやすくなる。
【0038】
(3)駆動用ねじ部14のねじ頭22と大径のソケット21の接触を防ぐ
電動ドライバ18の大径のソケット21を回して複合型木ねじプローブ6を引き抜く場合、同じ引抜のストロークでも、通常の短いナット7’(長さL1)を使用すると図6(a)に示すように、駆動用ねじ部14の頂端(ねじ頭)が短いナット7’から突き出てしまい、大径のソケット21の底までの距離が小さい(S1)ので、さらに引き抜くとやがて大径のソケット21の底に当たることになる。要するに、引抜可能な最大のストロークが小さいので厚い木材には適用できない。
【0039】
しかしながら、本発明の引抜用長ナット7(長さL2)では、軸方向の長さが長いので、図6(b)に示すように、さらに大径のソケット21の底までの距離を長く(S2)でき、引抜可能な最大のストロークを拡大することができ、厚い木材にも適用可能となる。なお、図6(a)、(b)では、駆動用ねじ部14に大きな径のねじ頭がない構成とし模式的な説明図とした。
【0040】
ところで、複合型木ねじプローブ6をその軸心を中心に回転させるためには、そのねじ頭22に、図2(a)に示すように手動ドライバ19の先端部に取り付けた小径のソケット20を係合し、又は図2(b)に示すように電動ドライバ18の先端部に取り付けた小径のソケット21’(図3(a)に示す大径のソケット21より小径のソケット)を係合して回転すればよい。複合型木ねじプローブ6の駆動用ねじ部14は、手動ドライバ19の先端部に取り付ける係合具(例.小径のソケット20)又は電動ドライバ18の先端部に取り付ける係合具(例.小径のソケット21’)の形状に応じて、異なる形状のねじ頭22を備えている。
【0041】
ねじ頭22の構造の異なる4つの構成例について、図5(a)に示す。駆動用ねじ部14のねじ頭22のドライバとの係合部として、図5(a)の平面図に示すように、マイナス溝、プラス溝、レンチ用の四角状の突起、六角状突起などがある。六角状突起のねじ頭22は、駆動用ねじ部14の上端の小径ねじ部に装着及び分離可能なナット状の構成としている。複合型木ねじプローブ6は、手動ドライバ19の先端部の小径のソケット20又は電動ドライバ18の先端部に取り付けられた小径のソケット21’(図2(b)参照)と係合して駆動され、その軸心を中心に回転する。
【0042】
なお、これらの異なる形状の係合部を付加するためのキャップを駆動用ねじ部14の頭部に装着する構成としてもよい。このような構成とすれば、複合型木ねじプローブ6全体を、手動ドライバ19の先端部の係合具(例.小径のソケット20)又は電動ドライバ18の先端部の係合具(例.小径のソケット21’)に応じてねじ頭の構造の異なる構造のものに付け替えすることなく、木ねじ部15(プローブ)の木材9へのねじ込みと引き抜き作業を実施できる。
【0043】
ねじ込み深さ指示板8は、図5(b)、(c)に示すように、駆動用ねじ部14に装着された上下2枚のナット23の間に挟持されている。ねじ込み深さ指示板8は、駆動用ねじ部14に対して螺合されておらず遊嵌されているので、駆動用ねじ部14に対して相対的に回転自由であり、複合型木ねじプローブ6及び上下2枚のナット23とともに、上下に移動する。
【0044】
複合型木ねじプローブ6の木ねじ部15を木材9にねじ込んだ際に、ねじ込み開始後は、複合型木ねじプローブ6の先端位置は、外部から確認できない。しかし、ねじ込み深さ指示板8が指示する目盛13の位置が、複合型木ねじプローブ6先端のねじ込み深さ位置を示している。これにより、使用者は、ねじ込み位置の調整を簡単に行うことができる。
【0045】
(作用)
本発明に係る上記実施例の携行型引抜試験器1の作用について、木材の引き抜き抵抗(引き抜き強度)の測定の手順に沿って、以下順次説明する。
【0046】
(1)携行型引抜試験器のセット
測定対象物である木材9の表面に先穴24を形成し、木材9上に携行型引抜試験器1を当接(図1では載置して当接)して、複合型木ねじプローブ6の先端の木ねじ部15を先穴24内に挿入することで、携行型引抜試験器1をセットする(図1参照)。
【0047】
(2)木ねじ部のねじ込み操作
携行型引抜試験器1に複合型木ねじプローブ6を取り付けたまま、手動ドライバ19で小径のソケット20を右回転させて、複合型木ねじプローブ6をねじ込む。この時、ねじ込み深さ指示板8の示す位置を参考にして、所定のねじ込み深さを調整する(図2(a)参照)。なお、図2(b)に示すように、先端部に小径のソケット21’を取り付けた電動ドライバ18で、複合型木ねじプローブ6を先穴24内にねじ込むようにしてもよい。
【0048】
(3)所定のねじ込み深さでの引抜試験
上記のとおり複合型木ねじプローブ6を先穴24内に所定のねじ込み深さまでねじ込んだ状態で、手動ドライバ19又は先端部に小径のソケット21’を取り付けた電動ドライバ18を、先端部に大径のソケット21を取り付けた電動ドライバ18に交換して引抜用長ナット7に係合し、図3(a)に示すように、定速で引抜用長ナット7を右回転させる。すると、引抜用長ナット7は、スラストベアリング5及びロードセル3を介して台座2によってその軸方向の移動が規制されているから、複合型木ねじプローブ6全体を、測定対象物の木材9から引き抜き方向の直線的に移動させる。
【0049】
この際に、複合型木ねじプローブ6の木ねじ部15と木材9との間の摩擦力等により引き抜き抵抗が生じる。この引き抜き抵抗に応じて、回転する引抜用長ナット7がロードセル3に作用する軸方向の荷重が変化する。本発明の携行型引抜試験器1の特徴は、引抜用長ナット7がロードセル3に作用する軸方向の荷重を測定することで、引き抜き抵抗を測定可能とする構成にある。ロードセル3に作用した荷重は、アンプ表示計4でモニタされ、その最大値が測定されたら、電動ドライバ18ーの回転を止める。
【0050】
(4)別の所定のねじ込み深さでの引抜試験
次に、電動ドライバ18又は手によってさらに引抜用長ナット7を、図3(b)に示すように左(逆)回転し、引抜用長ナット7を図1とほぼ同様の上方の位置に戻す。そして、大径のソケット19を付けた電動ドライバ18から、小径のソケット20を取り付けた手動ドライバ19又は小径のソケット21’を取り付けた電動ドライバ18に取り替える。
【0051】
そして、上記(2)と同様の操作により、手動ドライバ19又は小径のソケット21’を取り付けた電動ドライバ18を右回転させて、複合型木ねじプローブ6をねじ込み、ねじ込み深さ指示板8の示す位置を参考にして、別の所定のねじ込み深さに調整する。そして、大径のソケット19を取り付けた電動ドライバ18によって、上記(3)と同様な操作により、引き抜き抵抗の最大値を測定する。
【0052】
同様にして、複数のねじ込み深さにおける引抜試験を繰り返して、複数のねじ込み深さにおける測定対象物である木材9からの木ねじ部15の引き抜き抵抗の最大値を測定する。このように、引き抜き抵抗の最大値を測定することで、木材の一直線上の各部位における引き抜き強度の分布を測定することができ、この分布状態から木材の劣化の度合いが把握可能となる(図8(b)参照)。
【0053】
(変形例)
図4(b)は、本発明の携行型引抜試験器1の実施例の変形例の要部を示す図である。この変形例は、上記実施例の携行型引抜試験器1を、その木ねじ部15に、木ねじ引き抜き用のアダプタ25を装着することで、木材9の劣化度合いを検査に加えて、家屋の一部である木材9にすでに固定されている状態の木ネジ26(例えば、手すり等を家屋一部の木材に固定している木ねじ)の固定強度を検査する試験器としても活用できるようにした構成である。
【0054】
アダプタ25は、全体的に略筒体として形成され、図4(c)に示すように、取り付け用ねじ部30と、木ねじ26の皿状の頭27に係合する平面視でU字型の係合部28と、を備えている。取り付け用ねじ部30は、複合型木ねじプローブ6の木ねじ部15に螺着してアダプタ25を取り付ける部分である。U字型の係合部28は、固定強度の検査対象である木ねじ26を引き抜くため木ねじ26の頭27に係合する部分であり、係合部28の係合面29は木ねじ26の皿状の頭27に沿うように皿状に形成されている。
【0055】
アダプタ25の係合部28の係合面29をこのような構成とすることにより、木ねじ26の引き抜きの際にアダプタ25の中心と木ねじ26の頭27のそれぞれの軸心が互いにずれる(偏心する)ことがなく、ほぼ一致していので、ずれることによる引抜試験への悪影響がなく、引抜試験の精度を向上することが可能となるという多大の効果を有する。
【0056】
即ち、木ねじ26の頭27にアダプタ25を介して引き抜き力を加えるに従い、係合面29の効果により木ねじ26とアダプター25の軸心が徐々に一致する。軸心が一致しない場合は、引き抜き力の増加に従い、木ねじ26の頭27がアダプター25の側面の穴28からすべり出る。また、軸心が一致しない場合に測定された引き抜き力は、木ねじ26に偏心力が加わっており、正しい引き抜き力ではないので正確な測定ができない。
【0057】
変形例の携行型引抜試験器1の使用に際しては、家屋等の木材9にねじ込まれている木ねじ26の頭に、アダプタ25の係合部28を引っかけるようにして係合し、電動ドライバ18で引抜用長ナット7を右回転する。すると、複合型木ねじプローブ6全体を木ねじ26を木材9から抜き取る方向に移動させるが、その際に、引抜用長ナット7がロードセル3に作用する荷重を測定する。
【0058】
この荷重が小さいと、木材9から木ねじ26を抜き取る際の抜き取り抵抗が小さいので、木ねじ26の木材9への固定強度が小さく、荷重が大きいと抜き取り抵抗が大きく、固定強度が大きいことが検査できる。
【0059】
以上、本発明に係る携行型引抜試験器を実施するための最良の形態を実施例に基づいて説明したが、本発明はこのような実施例に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された技術的事項の範囲内でいろいろな実施例があることは言うまでもない。
【産業上の利用可能性】
【0060】
本発明に係る携行型引抜試験器は上記のような構成であるから、木造家屋の構造部材、その他の部材として使用されている木材の劣化度合いのチェックに利用可能であり、また建築物の各構成に使用されている樹脂材や木材以外の部材の劣化度合いのチェックにも利用可能である。
【符号の説明】
【0061】
1 携行型引抜試験器
2 台座
3 ロードセル
4 アンプ表示計
5 スラストベアリング
6 複合型木ねじプローブ
7 引抜用長ナット
8 ねじ込み深さ指示板
9 木材
10 脚部
11 頭部
12 挿通孔
13 目盛
14 複合型木ねじプローブの駆動用ねじ部
15 複合型木ねじプローブの木ねじ部
16 複合型木ねじプローブの軸部
17 引抜用長ナットのねじ孔
18 電動ドライバ
19 手動ドライバ
20 手動ドライバの先端部に取り付けた小径のソケット
21 電動ドライバの先端部に取り付けた大径のソケット
21’ 電動ドライバの先端部に取り付けた小径のソケット
22 駆動用ねじ部のねじ頭
23 ねじ込み深さ指示板のナット
24 先穴
25 木ねじ引き抜き用のアダプタ
26 木ネジ
27 木ネジの頭
28 U字型の係合部
29 係合部の係合面
30 取り付けようねじ部
31 木材等
32 先穴
33 木ねじ状のプローブ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
測定対象物に当接する台座、台座上に設けられたロードセル、複合型木ねじプローブ及び引抜用長ナットを備えた携行型引抜試験器であって、
複合型木ねじプローブは、引抜用長ナットに螺合し基端にねじ頭を有する駆動用ねじ部と、先端の木ねじ部と、駆動用ねじ部と木ねじ部との間に伸びる軸部とを備え、前記台座及びロードセルを貫通するとともに、前記木ねじ部が測定対象物の表面に対向可能なように配置されており、
前記ねじ頭がドライバで回転されることで、複合型木ねじプローブが測定対象物にねじ込まれ、引抜用長ナットがドライバで回転されることで、ねじ込まれた複合型木ねじプローブが引き抜かれ、該引き抜かれる際に引抜用長ナットがロードセルに作用する荷重を測定することで、引き抜き抵抗を測定し対象物の劣化度合を検査可能とすることを特徴とする携行型引抜試験器。
【請求項2】
前記引抜用長ナットとロードセルの間には、ベアリングが設けられていることを特徴とする請求項1記載の携行型引抜試験器。
【請求項3】
前記ねじ頭及び引抜用長ナットは、それぞれソケットを付けた電動又は手動のドライバに係合可能であり、前記ねじ頭に係合可能なソケットの径より、前記引抜用長ナットに係合可能なソケットは、ソケットの径が大きいことを特徴とする請求項1又は2記載の携行型引抜試験器。
【請求項4】
前記複合型木ねじプローブには、ねじ込み深さ指示板が取り付けられており、台座にはねじ込み深さ指示板で指示する目盛が付されていることを特徴とする請求項1、2又は3記載の携行型引抜試験器。
【請求項5】
前記ロードセルには、ロードセルで検出される荷重を表示する表示計が接続されていることを特徴とする請求項1、2、3又は4記載の携行型引抜試験器。
【請求項6】
複合型木ねじプローブの木ねじ部に、対象物に固定されている木ねじに係合するアダプタを着脱可能に取り付けられる構成とすることで、対象物に固定されている木ねじの該対象物に対する固定強度の測定にも利用可能とすることを特徴とする請求項1、2、3、4又は5記載の携行型引抜試験器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2010−160077(P2010−160077A)
【公開日】平成22年7月22日(2010.7.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−2933(P2009−2933)
【出願日】平成21年1月8日(2009.1.8)
【出願人】(501267357)独立行政法人建築研究所 (28)