説明

搾乳器

【課題】使用者が操作することでその操作量に応じて負圧(吸引圧)を急勾配とならないようなリニアな状態で調整することができ、搾乳中であっても負圧の調整を容易に行うことができる搾乳器を提供すること。
【解決手段】搾乳器20は、搾乳部22と接続され、負圧状態と、この負圧状態よりも高い圧力として少なくとも大気圧状態とを交互に生じさせる圧力変更手段41と、搾乳部22が搾乳に際して、使用者の乳房に当接されることにより形成される密閉空間もしくは密閉空間と連通した空間と、圧力変更手段41と、を液密的に分離するように配置されて前記圧力変更手段により変更された圧力を伝達して前記搾乳部の前記負圧状態を調整するために柔軟に変形可能な変形部材145と、変形部材145の変形量を調整して負圧の調整をする圧力調整手段44と、を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、母乳を搾るための搾乳器の改良に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から用いられている搾乳器は、例えば、乳房に当接させるためのラッパ部と、このラッパ部に乳房を当接することで形成される空間に負圧を作るためのポンプなどの負圧形成手段を備えている。前記負圧空間に吸引された母乳は、ボトルなどに落とし込むことで貯留され、前記負圧形成空間と前記ポンプは通路により接続されている(特許文献1を参照)。
【0003】
このような構造の搾乳器は、搾乳に際して圧力を伝達する圧力伝達部を有しており、圧力伝達部のケースには通気路が接続されている。この通気路の途中には、圧力調整手段が配置されており、圧力調整手段は、通気路の途中に直接設けられており、圧力調整手段のつまみ(ダイヤル)を回動調整して通気路の途中に形成した外部と連通する開口の開口径(開口面積)を変更することで、開口から外部へ出る空気のリ―ク量を調整することができる。これにより、使用者はラッパ部に乳房を当接することで形成される負圧形成空間内の負圧を調整することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2006−102220号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、図10は、このような従来の搾乳器におけるダイヤル回転角度と吸引圧(負圧)の関係を示しており、使用者がダイヤルを回してダイヤルの回転角度が増加すると、図示されているように、吸引圧は急勾配で変化し、急激に増加してしまう傾向がある。逆に、使用者がダイヤルを逆方向に回してダイヤルの回転角度が減少すると、吸引圧は急激に減少してしまう傾向がある。
このため、空気のリーク量はそもそもわずかな量なので、その空気のリーク量を調整する場合に、使用者がダイヤルの回転角度を少しずつ増加させても、吸引圧は急激に増加してしまうので、搾乳中に空気のリーク量の調整が難しく負圧形成空間内の負圧を調整することが難しく、負圧調整操作の再現性が悪い。
そこで、本発明は、使用者が操作することでその操作量に応じて負圧(吸引圧)を急勾配とならないようなリニアな状態で調整することができ、搾乳中であっても負圧の調整を容易に行うことができる搾乳器を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的は、請求項1の発明によれば、使用者の乳房に当接されるほぼ円錐状の搾乳部と、前記搾乳部を含み、ボトルと連通するように着脱される搾乳器本体を有する搾乳器であって、前記搾乳部と接続され、負圧状態と、この負圧状態よりも高い圧力として少なくとも大気圧状態とを交互に生じさせる圧力変更手段と、前記搾乳部が、使用者の乳房に当接されることにより形成される密閉空間もしくは前記密閉空間と連通した空間と、前記圧力変更手段とが液密的に分離するように配置されて、かつ前記圧力変更手段により変更された圧力が伝達されることで前記搾乳部の前記負圧状態を調整するために変形可能な変形部材と、前記変形部材の変形量を変更して前記負圧の調整をする圧力調整手段とを備える搾乳器搾乳器により達成される。
【0007】
請求項1の構成によれば、従来の圧力調整手段のように、微小な開口でなるリーク孔径を調整するといったような微調整することが事実上困難な構造とは異なり、前記変形部材の変形量を変更することで、負圧形成量そのものを調整しているので、使用者が操作することでその操作量に応じて負圧(吸引圧)を急勾配とならないようなリニアな状態で調整整することができ、搾乳中であっても負圧の調整を容易に行うことができる。
【0008】
請求項2の発明は、請求項1の構成において、前記圧力調整手段は、基部と、前記基部に設けられて前記使用者が回転可能な調整ダイヤルと、前記変形部材内に配置されて、前記調整ダイヤルを回転させることで前記基部に対して移動させて前記変形部材の変形量を調整するストッパと、を有することを特徴とする。
請求項2の構成によれば、使用者は調整ダイヤルを回転させるだけで、ストッパは変形部材内に突出させて、使用者はストッパの突出量に対して負圧(吸引圧)を急勾配とならないようなリニアな状態で調整することができるので、搾乳中であっても負圧の調整が容易になる。
【0009】
請求項3の発明は、請求項1または2の構成において、前記圧力調整手段は、前記変形部材内に起立する壁部分を有する基部と、前記基部に設けられて前記使用者が回転可能な調整ダイヤルと、前記変形部材内に配置されて、前記調整ダイヤルを回転させることで、前記基部の前記壁部分に重なる状態から回動して前記壁部分から前記変形部材内に突出させて前記変形部材の変形量を調整する部分円筒部と、を有することを特徴とする。
請求項3の構成によれば、使用者は調整ダイヤルを回転させるだけで、部分円筒部は壁部分から変形部材内に突出させて、使用者は部分円筒部の回転量に対して負圧(吸引圧)を急勾配とならないようなリニアな状態で調整することができるので、搾乳中であっても負圧の調整が容易になる。
【発明の効果】
【0010】
以上説明したように、本発明によれば、使用者が操作することでその操作量に応じて負圧(吸引圧)を急勾配とならないようなリニアな状態で調整することができ、搾乳中であっても負圧の調整を容易に行うことができる搾乳器を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明の実施形態に係る搾乳器の構成を示す斜視図。
【図2】搾乳器を示す一部断面を有する側面図。
【図3】搾乳器を示す一部断面を有する側面図。
【図4】延長部と圧力調整手段と着脱部とヘッド部の付近を示す一部断面を有する斜視図。
【図5】圧力調整手段の調整ダイヤル付近を示す斜視図。
【図6】圧力調整手段の動作前の状態を示し、図2に対応している斜視図。
【図7】圧力調整手段の動作後の状態を示し、図3に対応している斜視図。
【図8】本発明の別の実施形態を示す斜視図。
【図9】ストッパの底部がカップの内底面から離れる距離(mm)と、吸引圧(mmHg)の関係例を測定した結果、すなわちカップの圧力調整例を示している図。
【図10】従来例の搾乳器におけるダイヤル回転角度と吸引圧の関係を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の好適な実施の形態を添付図面に基づいて詳細に説明する。
なお、以下に述べる実施の形態は、本発明の好適な具体例であるから、技術的に好ましい種々の限定が付されているが、本発明の範囲は、以下の説明において特に本発明を限定する旨の記載がない限り、これらの形態に限られるものではない。
【0013】
図1は、本発明の実施形態に係る搾乳器(以下、「搾乳器」という)の構成を示す斜視図である。図2と図3は、この搾乳器を示す一部断面を有する側面図である。
図1〜図3は、搾乳器20の全体を示している。図1に示すように、搾乳器20は、搾乳した母乳を貯留するための容器であるボトル47と、このボトル47に対して着脱できる搾乳器本体21(以下、「本体」という)を備えている。
【0014】
図1の本体21は、例えば、全体が、比較的軽く、丈夫な合成樹脂材料により成形されており、例えば、ポリカーボネート、ポリシクロオレフィン、ポリエーテルサルフォン、ポリアミド、ポリプロピレン等により形成されている。本体21は、搾乳した母乳を貯留するためのボトル47と着脱する着脱部25と、ケース110と、搾乳部22を備えている。この着脱部25は、例えば図2に示すように、偏平な筒状部分であって、内側に雌ネジ部25aを備えており、ボトル47の瓶口の周囲に形成された雄ネジ部22bと螺合される。尚、ボトル47は、搾乳器20の専用品でもよいし、着脱部25に適合した汎用の哺乳瓶等を利用してもよい。
【0015】
図2に示すように、本体21の着脱部25の上部には、斜めに傾斜した状態で外方に開く円錐状もしくはラッパ状の搾乳部22が設けられている。搾乳部22は、通気路23を構成するやや拡開した開き通路11と、開き通路11の先端側に一体に設けられ、ラッパ状に大きく拡開した開き先端部12とを備えている。これらは本体21と同じ材料で成形され、比較的高い剛性を有していて変形しにくい。
【0016】
また、図2に示す開き先端部12の内側には、開き先端部12と略同じ形状とされた筒状の変形部材13が設けられている。変形部材13は、基端側の係止部17と、開口M3の縁部を回り込むように覆う先端係止部16により、開き先端部12の内側に着脱される。この変形部材12は、シリコーンゴムやエラストマー、天然ゴム等の弾性体で形成されている。
【0017】
変形部材13には、図2に示すようにその周方向の2箇所で、ここでは上下方向に内方に突出する凸状刺激部14,14が形成されており、これら凸状刺激部14,14が設けられていない周方向の2箇所に変形案内部15,15が形成されている。
図2に示す凸状刺激部14は、密閉空間の負圧が高まった際に乳房と当接して押圧し、搾乳に伴う好ましい刺激を与え、マッサージ効果を発揮する。変形案内部15は、当該箇所が薄肉に形成されており、他の領域より剛性が低く変形しやすい。
【0018】
図2に示すように、搾乳部22の搾乳部通気路23は、通気及び搾乳した母乳の通路とされ、斜め上方に向けて徐々に拡大した筒状であり、搾乳部通気路23の下端部は垂直下方に曲折してボトル47側に向かう。搾乳部22の搾乳部通気路23の開口M1は、本体21とボトル47との着脱部25の内側に通じており、開口M1付近には小さな空間である小室26が取付けられている。この小室26はボトル47内において下向きに突出している。
搾乳部通気路23と隣接して、もうひとつの通気路27が設けられている。しかも、通気路27の下端開口M2は、図2に示すように小室26を介して搾乳部通気路23と連通しており、通気路27の上端は上方に延びて圧力伝達部30のケース110に通じている。
【0019】
図2に示すように、小室26は、シリコーンゴムやエラストマー、天然ゴム等の弾性体で形成されたキャップ状の形態であり、小室26の両側壁26b,26cは下端に向けて互いに幅が徐々に接近するように形成された弾性体の傾斜壁でなる微小動作可能な弁体となっている。両側壁26b,26cの接近した下端には、スリット26dが設けられており、搾乳した母乳が小室26aに所定量まで貯留されると、母乳の重量や、後述するように負圧が解除された際の圧力の変化に伴い、両側壁26b,26cの先端側のスリット26dが開いて、母乳はボトル47内に落とされるようになっている。また、傾斜壁の下端にスリット26dを形成したことにより、負圧時にボトル47内の空気が小室26に入ることを防ぐ空気弁としても機能するようになっている。
【0020】
図2に示すように、ケース110の上には、駆動手段としての例えば、モータ41と、このモータ41により駆動されて負圧を形成するための負圧形成手段としての例えばダイヤフラム45と、モータ41を駆動するための電源であるバッテリBを収容したヘッド部99が配置されている。
ダイヤフラム45から延びる吸排気管は、通気路43を構成しており、該通気路43の下端部43Mは、圧力伝達部30のケース110内の変形部材145の内部に通じるように接続されている。圧力伝達部30のケース110内に変形部材145を介在させることにより、ケース110の通気路27と搾乳部通気路23は、圧力変更手段としてのダイヤフラム45と通気路43から、空気的に密閉された状態となっている。
このダイヤフラム45を駆動するモータ41には、スイッチ46が接続されている。スイッチ46はスイッチレバー46Lに設けられており、使用者がスイッチレバー46Lを操作することでスイッチ46のオンオフ操作ができる。
これにより、使用者の好みに応じてスイッチのオン・オフが可能であり、好みのタイミングで脈動させることができる。
勿論、所定の回路を組み込んだ駆動制御部を設けることも可能であり、その場合、使用者は自分でモータ駆動のオン・オフのタイミングを決めなくても、予め決められた脈動を得ることができる利点がある。
しかしながら、駆動制御部を設けない場合は、その分製造コストを低減できる。
【0021】
これにより、図2に示すスイッチ46がオンされると、モータ41およびダイヤフラム45が駆動されることにより、連通する空間、すなわち、ケース110の内部空間と搾乳部通気路23と通気路27と小室26で形成される負圧形成空間を負圧(吸引圧)に引くことができるようになっている。
この場合、上述の駆動制御部を設けた場合には、その制御態様により、オン、オフを一定周期で行うことで、脈動状態を形成することができる。あるいは、本実施形態のように、使用者の実行するスイッチングのタイミングにより、それにあわせた脈動を形成してもよい。いずれも、圧力を変動させて、負圧状態から少なくとも大気圧状態までの変動を連続して行う、脈動となる圧力変動を行うことが好ましい。
【0022】
図2に示す圧力伝達部30のケース110は、例えば縦方向に長い筒体であり、このケース110内には変形部材145が収容されている。ケース110は、ヘッド部99と着脱部25の間に形成されている。このケース110内に配置された変形部材145は、例えば、一端に開口51を有し、他端が閉止された底部52とされた有底の筒体であり、ある程度可撓性のあるシリコーンなどの合成樹脂による成形品で形成されている。
【0023】
変形部材145の開口51が上方に開放され、変形部材145の外周囲は、ケース110の内周面に密に接している。
これにより、本体21にあっては、搾乳部22に乳房が当接されてその開口M3を塞ぐと、それより内側になる搾乳部通気路23、小室26、通気路27、ケース110内の変形部材145の底部52は密閉空間を形成することなる。そして、変形部材145の開口51の外周囲がケース110の内周面に対してシールされていることにより、上記密閉空間とモータ41およびダイヤフラム45側は完全に気体も液体も漏れないように気密および液密的に封止されている。
【0024】
図2に示すように、ケース110内には圧力調整手段44が配置されている。
この圧力調整手段44は、調整ダイヤル100を有しており、例えば使用者がその調整ダイヤル100を任意に回動調整することにより、搾乳部通気路23と通気路27とケース110内の負圧(吸引圧)を微調整して変更することができるようになっている。
【0025】
次に、この圧力調整手段44について、図2〜図7を参照して説明する。
図2と図3では、圧力調整手段44の動作の変化を示しており、図4は、ケース110と圧力調整手段44と着脱部25とヘッド部99の付近を示す一部断面を有する斜視図である。図5は、圧力調整手段44の調整ダイヤル100付近を示す斜視図である。図6は、圧力調整手段44の動作前の状態を示し、図2に対応している斜視図であり、図7は、圧力調整手段44の動作後の状態を示し、図3に対応している斜視図である。
図2に示すケース110は、着脱部25の上側に上方へ突出して形成されており、ケース110はほぼ円筒状部分である。ケース110内の変形部材145の底部52側の内部空間は通気路27がつながっている。
【0026】
図6と図7を参照して圧力調整手段44の構造を説明する。圧力調整手段44は、通気路27内の逆流防止用の変形部材145の容積量を調整して、搾乳部22の負圧状態を調整、すなわちラッパ部に乳房を当接することで形成される負圧形成空間(搾乳部通気路23と通気路27とケース110の内部空間)内の負圧(母乳の吸引圧)を急勾配とならないリニアな変化を呈するように微調整することができるようになっている。
まず、図2と図4に示す変形部材145について説明する。この変形部材145は、すでに説明したように柔軟性と形状復元性を有する材質、例えばシリコーンにより形成され、図4に示すように、変形部材145の上部51は開口され、下部は塞がれて底部52になっている断面ほぼU字型の部材であり、ケース110内に配置されている。変形部材145の上部51のフランジ部は、ケース110の上端部110Aと基部130の取付部133の内面との間に挟まれて固定されている。
【0027】
図6と図7に示すように、圧力調整手段44は、ほぼ円形状の基部130と、回転部材131と、ストッパ部材132と、調整ダイヤル100を有している。図6と図7では、基部130と回転部材131とストッパ部材132は、内部形状を示すために縦方向に切断されている。基部130は、全周方向に沿って取付部133を有している。すでに説明したように、図4に示す取付部133がケース110の上端部110Aに対して嵌め込まれることでケース110の上端部110Aを塞ぐようにして固定されている。
図6に示すように、基部130の上面には、調整ダイヤル100が中心軸CLを中心に回転可能に取り付けられている。この調整ダイヤル100の外周囲には全周にわたってギア134が形成されている。基部130は、円筒状のケース分136を有する。
【0028】
図6に示す回転部材131は円筒状の部材であり、回転部材131の外周部の上部位置には全周にわたってギア135が形成されている。このギア135と調整ダイヤル100の外周のギア134が噛み合っている。回転部材131の下部位置137は、基部130のケース分136内において軸Rを中心軸として回転可能に取り付けられている。この下部位置137とケース分136の間には、O−リング138が密閉のために配置されている。中心軸CLと中心軸Rは平行であり、上下方向である。回転部材131の内周部には、メネジ部139が形成されている。
【0029】
図6に示すストッパ部材132は、特に材質は限定されないが、例えば、ABS、ポリカーボネード、ポリプロピレン等硬い部材を用いると圧力調整の再現性が良好となる。
ストッパ部材132は、円柱部249とオネジ部140と円筒状の周囲部分141と底面部142を有する。オネジ部140は、円柱部249の外周面の上端部から下端部まで形成されている。オネジ部140は、メネジ部139に噛み合っている。周囲部分141の内側にはケース分136が入り込める大きさの空間部136Sを有している。
これにより、使用者が調整ダイヤル100を指で適宜回転させることで、調整ダイヤル100は回転部材131を調整ダイヤル100の回転とは逆方向に回転させることができる。従って、回転部材131の回転により、ストッパ部材132の位置は図6に示す状態から図7に示す状態のようにZ1方向に上昇させることができる。
【0030】
ストッパ部材132は、図2と図4に示す変形部材145内に位置されており、ストッパ部材132は変形部材145の上下方向Zに関する位置を保持するほぼ円筒状のストッパである。すなわち、図2と図6に示すように、ストッパ部材132が最も下の位置L1に位置されている場合には、変形部材145の外形形状はケース110内の底部の位置まで確実に保持される。
しかし、図3と図7に示すように、ストッパ132部材が最も上の位置L2にまで上昇して位置されている場合には、ストッパ部材132の底部は変形部材145の底部から離れるので、変形部材145の外形形状は負圧の変化により自由に弾性変形することができるようになっている。
これにより、使用者がその調整ダイヤル100を回転調整することにより、ストッパ部材132がZ方向に上下移動して位置決めされ、変形部材145の変形できる容積量を変更できるので、その結果、搾乳部通気路23と通気路27とケース110内の変形部材145の底部52により形成される密閉空間の負圧(母乳の吸引圧)を微調整して変更することができる。
【0031】
上述したように、本実施形態の搾乳器20は以上のように構成されており、その主要な動作を説明する。
図2のように、使用者の乳房Mが搾乳部22内に当接されると密閉空間が形成される。図2では、モータ41およびダイヤフラム45が吸引動作をする前の状態を示しており、図3では、モータ41およびダイヤフラム45が吸引動作をしており、しかも圧力調整手段44は、搾乳部通気路23,27内の負圧を調整している様子の例を示している。
図2に示す変形部材145は、密閉空間の一部であるケース110の内部空間内で大きな体積を占めている。
【0032】
図3に示すように、モータ41およびダイヤフラム45が駆動されて真空吸引すると、通気路43と変形部材145の開口51を介して、変形部材145の内部の気圧が低下する。このため、図3に示すように、外側の空間との気圧差により、変形部材145の内部空間は押し潰されるよう開口51側に底部52が近接するので、変形部材145が変形する。
【0033】
かくして、図2の状態から図3に示す状態のように、変形部材145は底部52が開口51に近接するように変位して、変形部材145内の容積を大きく減らすので、内部空間と連通している密閉空間(搾乳部通気路23と通気路27とケース110内の変形部材145の底部52により形成される密閉空間)内は、気圧が大きく減じることになる。すなわち、内部空間と連接した密閉空間内では負圧が増大することから、乳房Mから母乳が吸引され、搾乳された母乳は通気路23内を通って小室26内に落ちる。しかも、この時、圧力差に伴って変形部材13の凸状刺激部14が乳房側に変形し、乳輪近傍等を押圧して刺激するため、より母乳の分泌を促すことができる。
【0034】
次いで、図3に示すモータ41およびダイヤフラム45の動作により、通気路43内の負圧状態が解除されると、ふたたび図3の状態から図2の状態のように、変形部材145がその底部52を開口51から離れて下がり、底部52は変形部材145の形態を復元するよう変位する。これにより、ケース110内では変形部材145は容積を増大させることができるので、密閉空間内の気圧が高まり、母乳の吸引圧は低下する。
以上のように、図3に示す負圧生成動作と図2に示す負圧生成解除動作を繰り返すことにより、圧力変更手段としてのモータ41およびダイヤフラム45の動作は、変形部材145の動きにより密閉空間に伝えられ、密閉空間の負圧が増減されることで、乳幼児の哺乳動作に近い状態を実現させ、ボトル47に搾乳した母乳を貯留させることができる。
【0035】
圧力伝達部30の変形部材145がケース110内に密に接するように配置されているので、搾乳部22の密閉空間と、モータ41およびダイヤフラム45などの圧力変更手段とを完全に液密的及び気密的に分離している。このため、小室26などに滞留した母乳や霧状となった母乳がモータ41およびダイヤフラム45に回り込むことが有効に防止される。このため、モータ41およびダイヤフラム45などの圧力変更手段側が母乳に直接触れることがなく、腐食や破損を生じたり、汚れて非衛生な状態となることが有効に防止される。
【0036】
ところで、図2と図3に示すような負圧生成動作を行っている際に、使用者は、図5と図6に示す圧力調整手段44の調整ダイヤル100を指で任意にW方向に回転操作することにより、搾乳部通気路23、通気路27とケース110内の変形部材145の底部52により形成される密閉空間内の負圧(吸引圧)を、任意に急勾配とならないリニア(直線的)な状態で微調整して変更することができる。
例えば、図2と図6に示す状態では、ストッパ部材132が最も下の位置L1に位置されており、変形部材145の外形形状は、ストッパ部材132によりケース110内の底部の位置まで確実に保持されている。このため、ストッパ部材132は変形部材145の圧力の変化による自由な弾性変形を行えなくして、吸引圧による変形部材145の収縮を機械的に制限する。
【0037】
そこで、使用者は吸引圧が弱いと感じる場合には、使用者が指で調整ダイヤル100を中心軸CLを中心として基部130に対して回転操作すると、調整ダイヤル100の回転により、回転部材131が基部130に対して中心軸Rを中心として回転する。これにより、ストッパ部材132のオネジ部140と回転部材131のメネジ部139との噛み合いにより、図2の状態から図3の状態、および図6の状態から図7の状態で示すように、ストッパ部材132がZ1方向に上昇していく。このストッパ部材132のZ1方向への上昇量は、調整ダイヤル100の回転量に比例している。
【0038】
これにより、図3に示すようにストッパ部材132は最も下の位置L1と最も上の位置L2の間で高さ位置の調整を行うことができるので、ストッパ部材132の位置によりストッパ部材132の底部は変形部材145の底部52から離れるので、変形部材145の外形形状はストッパ部材132により拘束されなくなる。このため、変形部材145の外形形状は圧力の変化により自由に弾性変形することができ、吸引圧による変形部材145の収縮が行える。従って、使用者がその調整ダイヤル100を回動調整することにより、ストッパ部材132がZ方向に上下移動して位置決めできるので、搾乳部通気路23と通気路27とケース110内の変形部材145の底部52により形成される密閉空間内の圧力をリニアに微調整して変更することができる。
【0039】
このように、使用者は母乳を搾乳中に、調整ダイヤル100を回転操作するだけで、吸引圧の下降調整を容易にしかも確実に行うことができる。しかも、調整ダイヤル100の回転量に比例してストッパ部材132のZ1方向の上昇量を変化させて、この結果、吸引圧をリニアに微調整して上げることができる。
また、調整ダイヤル100を逆方向に回転操作するだけで、吸引圧の下降調整を容易にしかも確実に行うことができる。しかも、調整ダイヤル100の回転量に比例してストッパ部材132のZ2方向の下降量を変化させて、吸引圧をリニアに微調整して下げることができる。
【0040】
図9は、ストッパ部材132の底部132Tが変形部材145の内底面145Dから離れる距離G(mm)と、吸引圧(−mmHg)との関係例を測定した結果、すなわち変形部材145の圧力調整例を示している図である。
図9では、距離Gと吸引圧は、ほぼ比例していることを示している。この理由としては、すでに説明したように、調整ダイヤル100のギア134が回転部材131のギア135に噛み合っており、しかもストッパ部材132のオネジ部140と回転部材131のメネジ部139との噛み合っていることから、使用者が調整ダイヤル100を基部130に対して中心軸CLを中心にして回転操作すると、回転部材131が中心軸Rを中心として連れ回りする。
【0041】
従って、ストッパ部材132のオネジ部140と回転部材131のメネジ部139との噛み合いにより、図2から図3、および図6から図7に示すように、ストッパ部材132がZ1方向に上昇していく。このストッパ部材132のZ1方向への上昇量は、調整ダイヤル100の回転量に比例している。また、使用者が調整ダイヤル100を、中心軸CLを中心として逆回転操作させると、図7に示すストッパ部材132のZ2方向へ下降していくが、この際のストッパ部材132の下降量は、同様にして調整ダイヤル100の回転量に比例している。
これにより、図10に示す従来例とは異なり、使用者は、調整ダイヤル100の回転操作量に比例して、変形部材145が変形できる容積量を変更することができる。すなわち吸引圧を急勾配とならないようなリニアな状態で調整することが容易にでき、使用者は吸引圧を上げたり下げたりする操作が感覚的に正確にしかも容易にできる。
使用者が調整ダイヤル100を操作することで、その操作量に応じて負圧(吸引圧)を急勾配とならないようなリニアな状態で調整することができ、搾乳中であっても負圧の調整を容易に行うことができる。すなわち、使用者は調整ダイヤル100を回転させるだけで、ストッパ部材132は変形部材145内に突出させて、使用者はストッパ145の突出量に対して負圧(吸引圧)を急勾配とならないようなリニアな状態で調整することができるので、搾乳中であっても負圧の減少および上昇調整が容易になる。
【0042】
次に、図8を参照して、本発明の別の実施形態を説明する。
図8は、本発明の別の実施形態である圧力調整手段44Aを示しており、図8(A)は、変形部材145の内部で、回転体であるストッパ部材232が基部230の壁部分239と重なった状態を示している。
ストッパ部材232は、上から見るとほぼ半円形であり、壁部分239は、上から見るとストッパ部材232に内接する半円形である。
図8(B)は、ストッパ部材232が基部230の壁部分239に対し、中心軸Rを中心としてC方向にせり出している状態を示している。図8の圧力調整手段44Aは、すでに説明した図2と図3に示す圧力調整手段44に代えて用いることができる。
図8(A)に示すように、圧力調整手段44Aは、ほぼ円形状の基部230と、回転部材231と、ストッパ部材232と、調整ダイヤル100を有している。基部230は、全周方向に沿って取付部233を有しており、取付部233が図4に示すケース110の上端部110Aに対して嵌め込まれることで、ケース110の上端部を塞ぐようにして固定されている。基部230の上面には、調整ダイヤル100が中心軸CLを中心に回転可能に取り付けられている。この調整ダイヤル100の外周囲には全周にわたってギア134が形成されている。基部230は、円筒状のケース分236と、例えば1/4円筒状の壁部分239を有する。ケース分236と壁部分239は、中心軸Rを中心として同心円状に形成されている。
【0043】
図8の回転部材231は円柱状の部材であり、回転部材231の外周部の上部位置には全周にわたってギア235が形成されている。このギア235とギア134が噛み合っている。回転部材231の外周部の下部位置237は、基部230のケース部236に対して、中心軸Rを中心として回転可能に取り付けられている。回転部材231の下部位置237はストッパ部材232の円柱部249の上端部に対してタッピングで接合されて一体に動くようにされている。回転部材231の下部位置237とケース部236とストッパ部材232の中心部分249の上端部には、O−リング238が密閉のために配置されている。中心軸CLと中心軸Rは平行であり、上下方向である。
【0044】
図8に示すストッパ部材232は、特に材質は限定されないが、例えば、ABS、ポリカーボネード、ポリプロピレン等硬い部材を用いると圧力調整の再現性が良好となる。
ストッパ部材232は、円柱部249と円筒状の部分円筒部241を有する。ストッパ部材232の部分円筒部241は、基部230の壁部分239の外側に位置されており、部分円筒部241と壁部分239は中心軸Rを中心として同軸状に形成されている。この部分円筒部241は、図2に示す変形部材145の内側に配置されている。
これにより、使用者が調整ダイヤル100を指でW方向に適宜回転させることで、調整ダイヤル100は回転部材231を、調整ダイヤル100の回転方向とは逆方向に回転させることができる。従って、回転部材231の回転により、ストッパ部材232の部分円筒部241は図8(A)に示す状態から図8(B)に示す状態のように、C方向に沿って壁部分239からせり出すことができる。
【0045】
ストッパ部材232は、図2と図4に示す変形部材145内に位置されている。図8(A)に示す状態では、ストッパ部材232は、吸引圧により変形部材145の外形形状がその容積の約半分程度弾性変形できる状態にしている。しかし、図8(B)に示す状態では、ストッパ部材232の部分円筒部241がC方向にせり出すことで、変形部材145は、その内部で、ストッパ部材232の部分円筒が例えば1/4周程度、内接量を増加させていることで、該変形部材145の弾性変形できる容積が減少している。すなわち、変形を制限している。
すなわち、ストッパ部材232の部分円筒部241は、図8(A)に示す状態から図8(B)に示す状態のようにC方向に沿って任意の長さだけ壁部分239からせり出すようにしているので、この壁部分239からせり出された部分円筒部241が変形部材145の内底面に当たることで、吸引圧による変形部材145の外形形状の変形を阻止できる。
【0046】
このように、図8に示す圧力調整手段44Aは、変形部材145内に起立する壁部分239を有する基部230と、基部230に設けられて使用者が回転可能な調整ダイヤル100と、調整ダイヤル100を回転させることで基部230の壁部分239に重なる状態から回動して壁部分239から変形部材145内に突出して変形部材145の変形量を調整する部分円筒部241とを有する.これにより、図10に示す従来例とは異なり、使用者は、調整ダイヤル100の回転操作量に比例して、すなわち吸引圧を急勾配とならないようなリニアな状態で調整することが容易にでき、使用者は吸引圧を上げたり下げたりする操作が感覚的に容易にできる。使用者が操作することでその操作量に応じて負圧(吸引圧)を急勾配とならないようなリニアな状態で調整することができ、搾乳中であっても負圧の調整を容易に行うことができる。すなわち、使用者は調整ダイヤルを回転させるだけで、部分円筒部は壁部分から変形部材内に突出させて、使用者は部分円筒部の回転量に対して負圧(吸引圧)を急勾配とならないようなリニアな状態で調整することができるので、搾乳中であっても負圧の調整が容易になる。
【0047】
ところで本発明は上記実施の形態に限定されるものではない。
例えば、図6に示す調整ダイヤル100に代えてレバーを設けて、このレバーを回転操作することで回転部材131を回転できるようにしても良い。圧力伝達部30の配置位置は、図示例に限定されず任意に変更できる。変形部の壁面における脆弱部は、部分的に肉厚を薄くすることや、柔軟な素材を配置することで設けてもよい。
なお、上述の各実施形態、変形例の個別の構成は、必要により省略したり、説明しない他の構成と組み合わせてもよい。
【符号の説明】
【0048】
20・・・搾乳器、21・・・搾乳器本体、22・・・搾乳部、30・・・圧力伝達部、41・・・モータ、44・・・圧力調整手段、45・・・ダイヤフラム、47・・・ボトル、51・・・変形部材の開口、52・・・変形部材の底部、100・・・調整ダイヤル、130…基部、132…ストッパ部材、145…変形部材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
使用者の乳房に当接されるほぼ円錐状の搾乳部と、前記搾乳部を含み、ボトルと連通するように着脱される搾乳器本体を有する搾乳器であって、
前記搾乳部と接続され、負圧状態と、この負圧状態よりも高い圧力として少なくとも大気圧状態とを交互に生じさせる圧力変更手段と、
前記搾乳部が、使用者の乳房に当接されることにより形成される密閉空間もしくは前記密閉空間と連通した空間と、前記圧力変更手段とが液密的に分離するように配置されて、かつ前記圧力変更手段により変更された圧力が伝達されることで前記搾乳部の前記負圧状態を調整するために変形可能な変形部材と、
前記変形部材の変形量を変更して前記負圧の調整をする圧力調整手段と
を備えることを特徴とする搾乳器。
【請求項2】
前記圧力調整手段は、基部と、前記基部に設けられて前記使用者が回転可能な調整ダイヤルと、前記変形部材内に配置されて、前記調整ダイヤルを回転させることで前記基部に対して移動させて前記変形部材の変形量を調整するストッパとを有することを特徴とする請求項1に記載の搾乳器。
【請求項3】
前記圧力調整手段は、前記変形部材内に起立する壁部分を有する基部と、前記基部に設けられて前記使用者が回転可能な調整ダイヤルと、前記変形部材内に配置されて、前記調整ダイヤルを回転させることで、前記基部の前記壁部分に重なる状態から回動して前記壁部分から前記変形部材内に突出させて前記変形部材の変形量を調整する部分円筒部と、を有することを特徴とする請求項1または2のいずれかに記載の搾乳器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2011−10821(P2011−10821A)
【公開日】平成23年1月20日(2011.1.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−156881(P2009−156881)
【出願日】平成21年7月1日(2009.7.1)
【出願人】(000112288)ピジョン株式会社 (144)
【Fターム(参考)】