説明

摂食障害を治療するための選択的神経刺激

摂食障害を患っている患者を治療するための方法および装置は、摂食障害の症状に関係した脳の選択された野を直接的あるいは間接的に刺激する。刺激計画は、過食症あるいはその他の摂食障害の少なくとも一つの症状を改善するために、医師が刺激信号パラメータを最適化できるようにプログラムできる。いくつかの実施の形態は、脳深部刺激および/あるいはセンシングを、脳神経の刺激および/あるいはセンシングとともに用いている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、摂食障害を治療するために脳の選択された領野における神経組織の電気的活性を変調することによって、脳のある領野を刺激する方法および装置に関する。
【背景技術】
【0002】
人の摂食行動がその人間の肉体的な健康に悪影響を与える程度にまで異常を来したときに、その状態は摂食障害と呼ばれる。もっとも一般的なタイプの摂食障害は、神経性過食症や神経性拒食症である。神経性過食症(“過食症”)とは、人が食べ物に対する飽くことなき渇望を頻繁に経験し、その結果、しばしば大食いをし、そのあと体重の増加を避けるための不適切な補償的行動を伴うような摂食障害のことである。不適切な補償的行動には、一般に、自ら導いた嘔吐、断食、過度な運動、そして下剤や利尿薬の使用が含まれる。過食症を患っている人間は、一般に、大食いと不適切な補償的行動を平均で1週間に2回の割合で3ヶ月以上の期間にわたって行う。大学生世代の女性の17%が、通常、かれらの体重が普通か、若干多めなだけであるのに、過食症行動に陥っているという報告がされている。神経性拒食症は、運動ストレスと組み合わさった自発的な飢餓で特徴付けられる。拒食症の人間は、年齢や身長に対する正常値の下限以下に体重を維持しようとする。補償的な排出行動を伴わない大食いも、隠れて大量の食べ物を摂取したり不適切な食べ物を摂取したりして体重が増えることを特徴とするタイプの摂食障害である。
【0003】
摂食障害は身体的と心理的の両方の要素を有しており、また摂食障害は食べ物に関することではなく、食べ物は摂食障害を有する人間が乱用する手段であるというように言われてきた。摂食障害の結果として、厳しい医学的複雑さが生じる可能性がある。摂食障害はある人間では穏やかであり、別の人間では耐え難い、あるいは生命を脅かすようなものになり得る。一般的には、患っている人間は彼らの異常な行動を他人から隠そうとするであろう。また、摂食障害の診断を拒否したり、治療を避けたりするかもしれない。
【0004】
人体においては、食品の摂取は内部刺激と外部刺激の複雑な相互作用によって制御されている。胃から脳の満腹中枢への求心性情報を仲介するときに迷走神経がある役割を果たしていることは周知のことである。米国特許第5,188,104号(サイバーロニックス,インコーポレーテッド)および米国特許第5,263,480号(サイバーロニックス,インコーポレーテッド)には、過食症を含めた摂食障害を治療する方法が開示されている。これらの方法は、予め決められた期間に患者が消費した食品の量を検出する段階と、もしその期間において消費が予め決められたレベルを越えると、その患者の迷走神経へ刺激信号を印加する段階とを含んでいる。ニューロスティミュレータの刺激発生器の出力信号パラメータは、過剰なレベルの食品消費を検出したら(すなわち、選択された時間間隔においいて、その間隔にわたって食べ物を飲み込む数を積算することによって予め決められたレベルを越えると)、患者の胃が満腹であるという感覚を引き起こすように迷走神経の活動を刺激するようにプログラムされている。
【0005】
米国特許第5,540,734号(サイバーロニックス,インコーポレーテッド)には、患者の三叉神経や舌咽神経の一方、あるいは両方への変調電気信号を印加することによって、いくつかの医学的、精神病理学的、あるいは神経的な障害の治療や制御、あるいは防止が実現できることが記載されている。治療可能な障害としては、神経性拒食症や、過食症、および強迫性過食を含めた摂食障害がある。
【0006】
米国特許第5,782,798号(メドトロニック,インコーポレーテッド)には、摂食と満腹を制御する脳の神経回路には、外側視床下部(摂食)と視床下部腹内側部(満腹)中のニューロンが含まれるという報告がある。薬物や、インプラント式信号発生器と電極、インプラント式ポンプ、カテーテルを用いた摂食障害を治療するための電気刺激を用いたいくつかの方法が開示されている。薬物を注入するためにカテーテルが脳の中に手術によって移植され、電極が脳の中に移植されて電気刺激が与えられる。脳の中の刺激箇所には、外側視床下部や傍室核、腹側中央視床下部が含まれる。
【0007】
米国特許願No.2005/0027284号(アドバンスト・ニューロモデュレーション・システムズ,インコーポレーテッド)は、膝下帯状領域(subgenual cingulate area)、梁下回視野、腹側/中央前頭前野、腹側/中央白質、ブロードマン野24、ブロードマン野25、および/あるいはブロードマン野10などの、脳の梁下野を刺激することによって気分および/あるいは切望の障害を緩和あるいは変調することが提案されている。
【0008】
従来の治療法では十分な効果がない重大な、あるいは生命を脅かすような障害を患っている患者を治療するための新たな方法が求められている。
【特許文献1】米国特許第5,188,104号明細書
【特許文献2】米国特許第5,263,480号明細書
【特許文献3】米国特許第5,540,734号明細書
【特許文献4】米国特許第5,782,798号明細書
【特許文献5】米国特許願No.2005/0027284号明細書
【発明の開示】
【0009】
この発明は、特に、脳のある領野あるいは領域を選択的に刺激すると選択的脳深部刺激が過食症やその他の摂食障害を治療するために効果的であるということを提案している。治療のために選択される脳の領野は、拒食症やその他の摂食障害の症状に関係している。さらに詳しく説明すると、この方法は、島、梁下野、帯状回、視床、前頭前野大脳皮質、脳幹、小脳および脳の前述した領野へつながる白質路を直接的あるいは間接的に刺激する。
【0010】
従って、この発明によるいくつかの実施の形態は、深刻な摂食障害を患っている患者を治療するための脳深部刺激(DBS)法を提供している。この方法は、島、梁下野、帯状回、視床、前頭前野大脳皮質、脳幹、小脳および前述した領野へつながる白質路から成るグループから選択されたその人間の脳の領野における神経組織から成る予め決められた刺激箇所へ連結された第1のスティミュレータへ第1の治療刺激信号を印加する段階を有している。第1の刺激信号によって、神経組織のニューロン活動が変調され、ニューロン活動の変調によって摂食障害の症状が緩和される。いくつかの実施の形態においては、第1のスティミュレータは電極を有し、第1の治療刺激信号は第1の予め決められた電気信号を有している。この方法は、電極をその人間の脳の選択された領野へ連結する段階と、第1の予め決められた電気信号を電極へ印加して神経組織のニューロン活動を修正する段階とを有し、ニューロン活動のそうした変調によって摂食障害の症状が緩和される。
【0011】
上述した実施の形態のいくつかにおいては、第1の治療刺激信号は、急性刺激成分と慢性刺激成分とを有する。これら成分の各々は電気パラメータ(電流、パルス幅、周波数)のセットと、オン/オフ時間と、刺激持続時間から成っている。いくつかの実施の形態においては、急性刺激成分は、慢性刺激成分よりも高い刺激強度レベルと、短い持続時間を有している。高い強度レベルの刺激は、高い電気パラメータと、オン/オフ時間、および持続時間を有している。いくつかの実施の形態においては、急性刺激成分は1から6ヶ月の持続時間を有している。
【0012】
上述した実施の形態のいくつかにおいては、この方法は脳神経刺激も含んでいる。いくつかの実施の形態においては、この方法は、a)第1のスティミュレータを、島、梁下野、帯状回(cingulate)、視床、前頭前野大脳皮質、脳幹、小脳および前述した領野へつながる白質路から成るグループから選択された、人間の脳の領野へ連結する段階と、b)第2のスティミュレータをその人間の脳神経へ連結する段階と、c)第1の予め決められた刺激信号を第1のスティミュレータへ印加する段階と、d)第2の予め決められた刺激信号を第2のスティミュレータへ印加する段階とを有する。第1および第2の信号を印加することによって神経組織のニューロン活動が変調され、摂食障害が改善される。これらの実施の形態のいくつかでは、第2の治療刺激信号は第2の急性刺激成分と第2の慢性刺激成分とを有する。いくつかの実施の形態においては、第2の急性刺激成分は、第2の慢性刺激成分よりも高い刺激強度レベルと短い持続時間を有している。
【0013】
上述した方法のある実施の形態においては、摂食障害は過食症であり、ある場合には第2の治療刺激信号によって強化される第1の治療刺激信号を印加することによって、人の大食いおよび/あるいは排出行動が緩和される。いくつかの実施の形態においては、信号を印加することによってその人間に満腹感を誘起する。いくつかの実施の形態においては、脳の選択される領野は、少なくとも島の一部、あるいは島の一部へつながる白質路から成っている。いくつかの実施の形態においては、選択領野は、左右および前後の島および前障から成るグループから選択される。いくつかの実施の形態においては、選択領野は、梁下野、あるいは梁下野につながる白質路から成っている。いくつかの実施の形態においては、脳の選択領野は、ブロードマン野24およびブロードマン野25から成るグループから選択される帯状回内部のブロードマン野の少なくとも一部から成っているか、あるいは選択領野は前記ブロードマン野につながる白質路から成っている。いくつかの実施の形態においては、脳の選択領野は、前頭前野皮質内部のブロードマン野の少なくとも一部か、あるいはそのブロードマン野へつながる白質路を含んでいる。例えば、選択領野は、眼窩前頭皮質および/あるいはブロードマン野8〜11のうちの少なくとも任意の一部から成っている。さらに別の実施の形態においては、脳の選択領野は、視床、脳幹、小脳、あるいは中脳、あるいはその中の少なくとも一つの核、あるいは核につながる白質路から成っている。いくつかの実施の形態においては、選択領野は、青班核、NTS、背側縫線、あるいはPBNなどの脳橋核、あるいは延髄核から成っている。いくつかの実施の形態においては、選択領野は束傍核を含んでいる。
【0014】
この発明による上述した方法のいくつかの実施の形態では、脳の選択された領野の化学的刺激も用いられる。いくつかの実施の形態においては、第1のスティミュレータはポンプに連通したカテーテルを含む化学薬品供給アセンブリを有しており、第1の治療刺激信号は予め決められたポンプ信号から成っている。この方法は、カテーテルを人間の脳の選択された領野へ連結する段階と、第1の予め決められたポンプ信号を化学薬品供給アセンブリへ印加して、化学薬品をカテーテルによって供給して神経組織と接触させる段階を有する。こうして、神経組織のニューロン活動が修正され、ニューロン活動のそうした修正によって摂食障害の症状が緩和される。
【0015】
この発明のさらに別の実施の形態においては、摂食障害を患っている人間を治療するために、脳深部センシングといっしょにした脳神経刺激が用いられる。例えば、代表的な治療方法は、(a)第1の電極および第2の電極とつながった信号発生器およびプロセッサを有するコントローラを提供する段階と、(b)第1の電極をその人間の脳神経へ連結する段階と、(c)第2の電極を、島、梁下野、帯状回、視床、前頭前野大脳皮質、脳幹、小脳および前述した領野へつながる白質路から成るグループから選択されたその人間の脳の領野へ連結する段階と、(d)予め決められた電気信号を第1の電極へ印加する段階と、(e)第2の電極によって脳の選択領野における電気活性を検出する段階と、(f)その結果検出された電気活性を、選択領野の予め決められた電気状態と比較する段階と、(g)この比較から、第1の電極への予め決められた電気信号の印加によってその脳の領野の電気活性に、摂食障害の症状の緩和に対応した変調が引き起こされるかどうか判断する段階とを有する。ある実施の形態においては、脳神経は、迷走神経、舌下神経、三叉神経、および副神経から成るグループから選択される。
【0016】
この発明のある実施の形態においては、摂食障害を患っている人間を脳深部刺激と脳神経センシングによって治療する方法も提供されている。この方法は、(a)第1の電極および第2の電極とつながった信号発生器およびプロセッサを有するコントローラを提供する段階と、(b)第1の電極をその人間の脳神経へ連結する段階と、(c)第2の電極を、島、梁下野、帯状回、視床、前頭前野大脳皮質、脳幹、小脳および前述した領野へつながる白質路から成るグループから選択されたその人間の脳の領野へ連結する段階と、(d)予め決められた電気信号を第2の電極へ印加して、脳の選択領野のニューロン活動を変調する段階と、(e)第1の電極によって脳神経における電気活性を検出する段階と、(f)その結果検出された電気活性を、神経の予め決められた電気状態と比較する段階と、(g)この比較から、第2の電極への予め決められた電気信号の印加によってその脳神経の電気活性に変調が引き起こされるかどうか判断する段階とを有する。
【0017】
この発明のいくつかの実施の形態においては、過食症などの摂食障害を治療するための方法が提供されている。この方法は、基端および刺激部分を有する電気刺激リードを、移植のあと刺激部分が選択された梁下野あるいは梁下野へつながる白質路とつながるように、手術によって移植する段階と、リードの基端を信号発生器へ連結する段階と、信号発生器で電気信号を発生する段階とを有しており、信号が選択領野を電気的に刺激して、過食症あるいはその他の摂食障害を治療する。いくつかの実施の形態においては、この方法はさらに、ポンプへ連結された基端と薬剤を注入するためのディスチャージ部分とを有するカテーテルを、移植のあとカテーテルのディスチャージ部分が選択された梁下野あるいは梁下野につながる白質路とつながるように、手術によって移植する段階と、ポンプを駆動してカテーテルのディスチャージ部分を介して薬剤を、選択された梁下野、あるいは白質路の中へ放出して摂食障害を治療する段階とを有する。
【0018】
この発明の別の実施の形態においては、摂食障害を治療する方法は、基端および刺激部分を有する電気刺激リードを、移植のあと刺激部分が選択されたブロードマン野25とつながるように、手術によって移植する段階と、リードの基端を信号発生器へ連結する段階と、信号発生器で電気信号を発生する段階とを有しており、信号が電気的にブロードマン野25を刺激して摂食障害を治療する。いくつかの実施の形態においては、ブロードマン野25を電気刺激する結果、ブロードマン野25におけるニューロン活動が変調される。いくつかの実施の形態においては、ブロードマン野25を電気刺激する結果、ブロードマン野9におけるニューロン活動が変調される。いくつかの実施の形態においては、ブロードマン野25を電気刺激する結果、ブロードマン野24におけるニューロン活動が変調される。
【0019】
いくつかの実施の形態においては、上述した方法はさらに、ポンプへ連結された基端と薬剤を注入するためのディスチャージ部分とを有するカテーテルを、移植のあとカテーテルのディスチャージ部分が選択されたブロードマン野25とつながるように、手術によって移植する段階と、ポンプを駆動してカテーテルのディスチャージ部分を介して薬剤をブロードマン野25の中へ放出して摂食障害を治療する段階とを有する。いくつかの実施の形態においては、薬剤は、抑制性神経伝達物質の作用薬および拮抗薬、興奮性神経伝達物質の作用薬および拮抗薬、抑制性神経伝達物質のレベルを高める薬剤、興奮性神経伝達物質のレベルを下げる薬剤、および局所麻酔薬から成るグループから選択される。
【0020】
この発明のある実施の形態においては、基端および刺激部分を有する電気刺激リードを、移植のあと刺激部分が選択された膝下帯状領域あるいは膝下帯状領域へつながる白質路とつながるように、手術によって移植する段階と、リードの基端を信号発生器へ連結する段階と、信号発生器で電気信号を発生する段階とを有するような摂食障害を治療する方法であって、前記信号が選択された膝下帯状領域を電気的に刺激して摂食障害を治療するような方法も提供されている。
【0021】
さらに、この発明のある実施の形態においては、基端および刺激部分を有する電気刺激リードを、移植のあと刺激部分が脳神経か、梁下野か、あるいは梁下野につながる白質路とつながるように、手術によって移植する段階と、ポンプへ連結された基端と、薬剤を注入するためのディスチャージ部分とを有するカテーテルを、移植のあとカテーテルのディスチャージ部分が選択された梁下野あるいは白質路とつながるように、手術によって移植する段階と、リードの基端を信号発生器へ連結する段階と、信号発生器で電気信号を発生する段階と、ポンプを駆動してカテーテルのディスチャージ部分を介して薬剤を選択された梁下野あるいは白質路の中へ放出して摂食障害を治療する段階とを有するような摂食障害を治療する方法も提供されている。
【0022】
この発明のさらに別の実施の形態においては、基端および刺激部分を有する電気刺激リードを、移植のあと刺激部分がブロードマン野25、あるいはその領野につながる白質路とつながるように、手術によって移植する段階と、ポンプへ連結された基端と、薬剤を注入するためのディスチャージ部分とを有するカテーテルを、移植のあとカテーテルのディスチャージ部分が選択されたブロードマン野25あるいはその領野とつながる白質路とつながるように、手術によって移植する段階と、リードの基端を信号発生器へ連結する段階と、信号発生器で電気信号を発生して前記信号がブロードマン野25を電気的に刺激するようにする段階と、ポンプを駆動してカテーテルのディスチャージ部分を介して薬剤を選択されたブロードマン野25あるいはその領野へつながる白質路の中へ放出して摂食障害を治療する段階とを有するような摂食障害を治療する方法も提供されている。
【0023】
上述した方法のいずれにおいてもいくつかの実施の形態においては、センサが設けられていて、センシングが硬膜外、硬膜下、あるいは頭皮上で行われる。
【0024】
上述した方法のいくつかの実施の形態においては、脳の選択した領野を選択的に変調して(例えば抑制、興奮、あるいはブロック)、治療効果を得るために、双方の迷走神経を同期的、あるいは非同期的に刺激するように電気パラメータが調節される。例えば、デバイスを調節して、双方の電気刺激バーストのタイミングをとり、脳の選択領野におけるニューロン活動を抑制する。パラメータを調節して、脳神経の選択した副交感求心性神経を都合よく変調して、味覚経路、臭神経、炎症促進あるいは炎症抑制経路、呼吸経路、心臓経路、受圧容器経路、体知覚経路、および満腹経路を変調する。同様に、脳神経刺激によって、ノルアドレナリン作動性、セロトニン作動性、ドーパミン作動性、コリン作動性の経路などの神経伝達物質経路に影響を与える。
【0025】
上述した方法のある実施の形態においては、移植される、刺激用および/あるいは検出用の電極および/あるいは複数の電極が、脳神経の一つおよび/あるいは人の脳の神経組織へ接触するか、あるいは近接する。脳神経は、三叉神経、舌下神経および/あるいは副神経であることが好ましい。この神経はそれに沿った、あるいは神経枝の一つに沿った任意の箇所で接触される。脳神経の一つあるいは複数が刺激/変調され、これは双方に、すなわち左と右の迷走神経の両方で行われる。
【0026】
上述した方法においては、生理学的活動や、生理学的事象、生理学的閾値、人体あるいは脳の状態を測定し、検出し、記録し、モニタするための内部あるいは外部のデバイスあるいはシステムを有するシステムが用いられている。これは、脳の中の、あるいは脳からの、神経あるいは神経組織における電気活性(活動電位)を検出することによって実現される。
【0027】
上述した方法のいくつかの実施の形態は、アダプティブラーニングに基づいて治療パラメータを変えることができるデバイス、装置あるいはシステムを用いており、刺激のあとのニューロン活動をデバイスが検出して、自動的にコントローラを調節し、最適化された治療を供給するようになっている。また、コントローラは有害な刺激の結果も検出して、その刺激を調節して患者の有害な反応を防止する。
【0028】
この発明のさらに別の実施の形態においては、生きた人間の神経組織を変調するためのシステムが提供されており、このシステムは、神経組織へ電気的に連結される第1の電極と、患者の脳神経へ電気的に連結される第2の電極と、電源と、この電源と第1および第2の電極へ連結された信号発生器と、信号発生器とつながったプログラマブル電子回路パッケージを有している。このシステムは、第1の電極によって第1の治療電気信号を神経組織へ印加するとともに、第2の電極によって第2の治療電気信号を脳組織へ印加するようになっている。第1および第2の電気信号によって、神経組織のニューロン活動が変調される。いくつかの実施の形態においては、第1の信号は第1の急性電気信号成分と、第1の慢性電気信号成分とを有している。いくつかの実施の形態においては、第2の信号は第2の急性電気信号成分と、第2の慢性電気信号成分とを有している。
【0029】
この発明のいくつかの実施の形態においては、生きた人間の神経組織を変調するためのシステムであって、神経組織へ電気的に連結される第1の電極と、患者の脳神経へ電気的に連結される第2の電極と、電源と、この電源と第1および第2の電極へ連結された信号発生器と、信号発生器とつながったプログラマブル電子回路パッケージを有していて、第1の電極によって第1の治療電気信号を神経組織へ印加するとともに、第2の電極によって第2の治療電気信号を脳組織へ印加するようになっており、第1および第2の電気信号が選択されて神経組織のニューロン活動を変調するようなシステムが提供されている。
【0030】
この発明のいくつかの実施の形態においては、生きた人間の脳内における神経組織の中のニューロン活動を変調するためのシステムであって、(a)脳神経組織の選択された領野へ電気的に連結された第1の電極と、(b)患者の脳神経へ電気的に連結された第2の電極と、電源と、(c)電源と第1および第2の電極へ連結された信号発生器を有するコントローラと、(d)コントローラとつながったプログラマブル電子回路パッケージを有するようなシステムが提供されている。コントローラは第2の電極によって脳神経へ治療電気信号を印加するとともに、第1の電極によって脳神経組織の電気活性を検出する。プログラマブル電子回路パッケージは、脳組織において検出された電気活性を、脳組織の予め決められた電気状態と比較するためのコンパレータを有している。いくつかの実施の形態においては、第2の電気信号は、脳神経組織のニューロン活動を変調するように選択される。上述した、またそれ以外の実施の形態や、特徴、および利点は、以下の説明や図面から明らかになるであろう。
【発明を実施するための最良の形態】
【0031】
定義
【0032】
“摂食障害”とは、神経性拒食症、神経性過食症、および大食い過食障害を含む任意の症候群を指しているが、それらに限定されるわけではない。それらは、摂食の極端な中断や、体重あるいは体のサイズに対する強い気遣いを特徴とする。
【0033】
ここで使用されるとき、“刺激用”および“スティミュレータ”という用語は、一般に神経組織(例えば脳の神経組織あるいは神経)のニューロン活動に影響を与えるために信号、刺激あるいはインパルスを供給することを指している。ニューロン活動に対するそうした刺激の効果は、“変調”という用語で表される。しかし、簡単のために、“刺激用”および“変調用”、およびそれらの変形が、ここではときどき相互に交換可能な形で使用されている。神経組織への信号の供給の効果は興奮性であったり抑制性であったりし、ニューロン活動における急性の、および/あるいは長時間の変化を可能にする。例えば、神経組織を“刺激する”あるいは“変調する”効果は、以下の効果の一つあるいは複数から成る。(a)活動電位を開始するための神経組織における変化(双方向あるいは単方向)、(b)活動電位の伝導の抑制(内因性あるいは外部から刺激される)、あるいは活動電位の伝導のブロッキング(過分極あるいは衝突ブロッキング)、(c)神経伝達物質/神経修飾物質の解放あるいは摂取、レセプタ、興奮性、抑制性、あるいはブロッキング特性を有することのできるゲート式イオンチャンネルあるいはシナプスにおける変化、および(d)脳組織の神経−柔軟性あるいは神経発生における変化。
【0034】
“脳深部刺激”(DBS)は脳内部の領野に刺激を直接的あるいは間接的に印加することを指している。こうした刺激は電気的でも、化学的(例えば薬物あるいは薬剤)でも、あるいは磁気的でもよく、また脳の神経組織へ直接的に、あるいは間接的に印加される。同様に、脳深部センシングは脳内部からの電気的あるいは化学的な信号の検出を指している。
【0035】
参照を容易にするために、“脳神経刺激”はここではときどき単に“VNS”と呼ばれている。
【0036】
“連結(couple)”、“連結(couples)”、“連結された”、および“連結している”は、間接的あるいは直接的な連結のどちらかを指している。
【0037】
“予め決められた電気信号”は、パルス電流やパルス幅、周波数、オン時間、およびオフ時間などの定義されたパラメータを有する電気パルスあるいは電気パルスのパターンを指している。
【0038】
“満腹”は、食物摂取が十分であるという感覚や、飲食を続けたいという欲望の不快ではない欠如、腹が一杯という感覚を指している。
【0039】
“化学的刺激”および“化学薬品”は、そうした薬品にさらされた神経あるいは神経組織におけるニューロン活動を刺激することができる化学薬品、薬物、薬剤のどれかを指している。そうした薬品の例は、抑制性神経伝達物質作用薬、興奮性神経伝達物質拮抗薬、抑制性神経伝達物質のレベルを上昇させる薬品、興奮性神経伝達物質のレベルを低下させる薬品、局所麻酔薬である。
【0040】
説明
本発明人は、満腹に関係する、また過食症やその他の摂食障害の症状に関係する脳の神経回路を、これまでは摂食障害の原因あるいは抑制と関連付けられてこなかった脳領野のニューロンから構成することを提案している。これらの領野には、島、梁下野、帯状回、視床、前頭前野大脳皮質、脳幹、小脳および脳の前述した領野あるいはブロードマン野へつながる白質路、あるいはその中の核が含まれる。これらの領野は、摂食障害の兆候に関係する神経回路中の節(node)を有していると考えられており、変調すると、人における摂食障害の存在、欠如、あるいはその程度に影響を与える。また、神経刺激システムの刺激パラメータを改良、あるいは修正するために、また個々の患者の摂食障害を治療するための治療計画を最適化するために、脳のこれらの領野の一つあるいは複数の変調と組み合わせてニューロン活動のセンシングを用いることも提案されている。
【0041】
摂食障害を治療するための脳深部刺激(DBS)
図1を参照する。図には、患者34(極細線で示されている)の過食症やその他の摂食障害を、その障害の症状に関係する脳の選択された領野の電気活性を変調することによって治療するニューロスティミュレータシステム1が示されている。システム1は一般に好ましくは電極である少なくとも一つのインプラント式スティミュレータデバイス(スティミュレータ)36を含んでいる。電極は刺激信号を発生するためにマイクロプロセッサをベースにしたコントロールデバイス(コントローラ)10とつながっている。
【0042】
スティミュレータ
参照を容易にするために、スティミュレータあるいは刺激アプリケータは、ここではときどき単に“電極”と呼ばれている。しかし、神経あるいは神経組織の刺激は、電気的、磁気的、あるいは化学的/薬剤的に仲介されたもの、あるいはこれらモードの任意の組み合わせ、あるいはそれらのすべてであり得る。電極は、必要に応じて、刺激および/あるいは検出を行うために、脳神経組織と直接接触して設置するように設計されている。別の場合には、少なくとも一つの電極が、ターゲットとする神経組織に近接して設置するのに適したものが選択される。電気刺激モードに対しては、コントローラ10は経頭蓋のリード線37によって各電極36へ連結されており、コントローラ10の信号発生ユニット15を用いて、選択領野へ電気信号を印加するように設計されている(図2を参照のこと)。リード線37、39はヘッダ40のコネクタ50でコントローラへ取り付けられている。このタイプの電極/リード線アセンブリは周知のサプライヤから市販で入手可能である。別の場合には、リード線37は省略されており、少なくとも一つのインプラント式電極が誘導式レシーバを有していて、コントローラ10は外部の送信機を介してテレメトリによってターゲットの神経組織を遠隔的に変調するような構造になっている。このタイプの適当な電極が周知のサプライヤから市販で入手可能である。
【0043】
センサ
このシステムは少なくとも一つのインプラント式検出用電極(センサ)38を有している。センサは、内因性神経活動、あるいはコントローラ10の動作を介した変調によって引き起こされた活動を測定するように設計されており、リード線39を介してコントローラ10とつながっている。従って、このシステムは、以下でより詳しく説明するように、検出される生理学的活動や、外部アクチュエータ、脳の画像データ、あるいは医師もしくは患者の入力からの、予め決められたトリガ事象に応じて刺激信号を印加するようになっている。適した検出用電極や、生理学的パラメータを検出することができる他のセンシングデバイスは、周知の供給元から市販で入手可能である。
【0044】
コントローラ
コントローラによって発生される刺激のいくつかのパラメータはプログラム可能である。システム1は、生理学的活動、生理学的事象、生理学的閾値、人体あるいは脳の状態を測定、検出、記録、モニタすることのできる内部あるいは外部のシステムから成っている。さらに、このシステムはアダプティブラーニングに基づいて治療パラメータを変更するように設計されていて、デバイスが刺激のあとの活動あるいは生理学的変化を検出し、自動的にコントローラを調節して最適な治療を供給するようになっていてもよい。その場合には、コントローラは有害な刺激の結果も検出できて、患者の有害な反応を防止するために刺激を調節することができる。
【0045】
図1に示されているように、インプラント式電気医療デバイスに対しては、通常のやりかたで外部プログラミングシステム150が用いられる。外部プログラミングシステム150はコントローラ10と無線(例えば高周波)で通信可能になっていて、コンピュータ160と、RF送受信機を有するワンド170を有していることが好ましい。コンピュータ160は保健提供者によって操作可能なハンドヘルドコンピュータから成っていてもよい。ワンド170はコントローラ10内の受信機および送信機と通信が可能であり、コントローラ10とデータの送受信をするために使用される。
【0046】
別の場合には、インプラント式コントローラ10はプログラマブル電子回路パッケージ14を有する。プログラマブル電子回路パッケージ14は、信号発生器15と、適宜、移植された電極およびセンサとの間で制御信号を伝送するためのモニタリングユニット(モニタ)16と、生理学的データを記録、測定、検出、あるいはモニタし、それを、蓄積されている値、ベースライン値、参照値、あるいは期待値と比較し、そして最良な治療パラメータに基づいて計算を実行する処理ユニット(プロセッサ)18を含んでいる(図5に図示されている)。コントローラ10には電源12も含まれている。プログラマブルプロセッサは、障害を治療するために刺激パラメータを調節し、それをスティミュレータアセンブリへ送る。モニタ用データは先々での処理や診断のためにデジタル形式で蓄積することができる。この発明のシステムおよび方法において使用されるインプラント式コントローラ/パルス発生器に一般的に適した形態が、本出願人と同じ譲受人に譲渡された米国特許第5,154,172号に開示されている(このデバイスはニューロサイバネティック,プロスシーシスあるいはNCPデバイス(NCPは米国テキサス州、ヒューストンのサイバーロニックス,インコーポレーテッドの登録商標である)とも呼ばれる)。
【0047】
電気的、化学的、磁気的な刺激
ターゲット神経組織へ電気信号を供給するための刺激印加デバイス(スティミュレータ)としては少なくとも一つの電極を使用することが好ましいけれども、ニューロスティミュレータシステムは、神経組織の活動を変調して摂食障害を改善するのに有効なターゲット神経組織への治療刺激を印加するための化学的あるいは薬剤のアプリケータを、その代わりに、あるいは追加的に有していてもよい。化学的刺激印加デバイス60は、カテーテル62と、薬品が充填された貯蔵器64と、移植可能であるか、あるいはインプラント式部材(カテーテル)と外部部材(ポンプ)の両方を有しているポンプ66を有している。あるいは任意の適当な供給デバイスをシステムの中に含めてもよい(図3を参照のこと)。ポンプはコントローラ10とつながっている。用いるのに都合のよい薬品あるいは薬物のタイプの例は、抑制性神経伝達物質作用薬、興奮性神経伝達物質拮抗薬、抑制性神経伝達物質のレベルを上昇させる薬品、興奮性神経伝達物質のレベルを低下させる薬品、局所麻酔薬である。神経上の電極、あるいは脳の中の電極あるいはセンサとの間で、あるいは化学的供給デバイスおよび/あるいはセンサから、あるいはテレメトリを介して、および/あるいはプログラマブル回路の中に設けられた導電性リードを介した信号によって、内部あるいは外部のモニタリングユニットから制御信号が伝送される。
【0048】
ニューロスティミュレータの別の形態においては、スティミュレータは省略されていて、システムは、この分野においては周知であるように、経頭蓋磁気式スティミュレータ(図示されていない)を介して外部源から、選択された神経あるいは神経組織へ磁気刺激を非侵襲的に印加するように設計されている。従って、神経組織の変調は、電気的、磁気的、あるいは化学的/薬剤的に行うことができることを理解すべきである。
【0049】
ニューロスティミュレータのさらに別の形態は、脳深部移植用の電極を用いる代わりに、眼窩前頭皮質などの脳の領野に隣接する硬膜あるいは硬膜下設置するように設計された電極を用いる。硬膜あるいは硬膜下電極は、電気刺激を印加するように、あるいは電気活性を検出するように、あるいは両方のために設計されている。
【0050】
このシステムのさらに別の形態も図1に示されている。この神経刺激システムは少なくとも一つの脳神経へ、好ましくは三叉神経、舌下神経、迷走神経および副神経へ、直接的に、あるいは間接的に連結される少なくとも一つのスティミュレータおよび/あるいはセンサを有している。これとは違って、横隔膜の箇所に近い(例えば横隔膜上あるいは横隔膜下)左および/あるいは右の迷走神経の上に、あるいはそれに近接して設置するのに適した電極をシステムに含めてもよい。これらは刺激用および/あるいは検出用の電極であることが可能である。
【0051】
プログラマブルコントロール
制御デバイスは、制御信号が内部あるいは外部のモニタリングユニットから電極および/あるいはセンサへ伝送されるように設計されている。このシステムは、間欠的、周期的、ランダム、ペアパルス、コード化あるいはパターン化されたものであるような刺激を供給することができる。例えば、電気刺激の周波数は0.1から2500Hz、パルス幅は1〜2000マイクロ秒、電流振幅は0.1mAから10mAが可能である。刺激は陰(-)電極か陽(+)電極のどちらでも発生することができる。
【0052】
神経刺激システム1は、ターゲット刺激組織へ、間欠的、周期的、ランダム、ペアパルス、コード化あるいはパターン化されたものであるような刺激電気信号を供給できることが好ましい。刺激周波数は0.1から2500Hz、パルス幅は1〜2000マイクロ秒、電流振幅は0.1mAから10mAが可能である。刺激は陰(-)電極か陽(+)電極のどちらでも発生することができる。
【0053】
手動による駆動/停止
このシステムの設計は、コントローラ10と協働する手動式の駆動あるいは停止スイッチを設けるように変更することもできる。インプラント式医療デバイスを手動および自動で駆動するための同様のデバイスが第5,304,206号(サイバーロニックス・インコーポレーテッド)などに開示されている。例えば、信号発生器の手動による駆動あるいは停止は、コントローラハウジングの内側表面へ取り付けられた加速度計あるいは圧電素子などのデバイスを用いて実現され、患者の体内におけるコントローラ移植箇所の上を患者が軽くたたくのを検出するようになっている。この設計によれば、デバイスの動作は医師が適切と判断した程度に制限されるが、患者が手軽に制御できる。
【0054】
摂食障害を治療する方法
図1は、ペースメーカのパルス発生器が移植されるのとちょうど同じように移植医によって患者の胸の、皮膚の直下に形成されたキャビティの中に移植されるコントローラ10の好ましい場所を示している。深刻な摂食障害(例えば大食いと排出の繰り返し事象)を患者が克服するのを補助するための代表的な治療計画は、一般に、神経組織の予め決められた領野のニューロン活動を変調するような構造を有していて、そのようにプログラムされるか、プログラムが可能な上述した神経刺激システムを入手する段階を有する。
【0055】
深刻な摂食障害に対する治療の必要性から、少なくとも一つのスティミュレータ36(例えば電極、カテーテル)が患者の脳の中に手術によって移植される。当該分野において周知の適切な手術法を用いて小さな開口部が頭蓋に形成され、その患者の摂食障害の症状と関係する神経回路の中の“節”を有する脳の領野の中に、あるいはそれに近接してスティミュレータが設置される。例えば、ターゲット領野は患者の満腹感と関係したものである。代表的なスティミュレータ移植場所は、図4Aに示されているような島の中の箇所である。左右の前後の島、および前障が好ましい変調箇所である。その他の好ましいスティミュレータ移植箇所は、梁下野、帯状回、視床、前頭前野皮質、小脳、中脳、および脳幹、およびこれらの領野内の核あるいはブロードマン野、およびこれらの領野へつながる白質路である(図4B参照のこと)。ブロードマン野24、25、および32、あるいはこれらのものの任意の一部が好ましい刺激箇所である。束傍核は別の好ましい箇所である。ブロードマン野8、9、10、および11、および眼窩前頭皮質、あるいはこれらの領野の一つあるいは複数の一部も好ましい箇所である。脳橋および延髄も適した移植箇所である。ここでの図面や説明は脳の半球に焦点を当てているが、脳のどちらか、あるいは両方の側における類似した構造の刺激および/あるいはセンシングも同じように可能であることを理解すべきである。刺激および/あるいはセンシングは一方あるいは両方の半球の箇所に施すことができ、また同時に、あるいは異なる時間に実行することができ、同じ、あるいは異なる刺激から構成できる。それらに限定されるわけではないが、刺激および/あるいはセンシングの箇所として関心のある脳の領野には、正中中心多束(cetromedian fascicular complex)や海馬、腹側中央ヴィム視床核、束傍複合体、視床のその他の部分、視床の全体、視床下核(STN)、尾状核被殻、その他の基礎神経節成分、帯状回、その他の視床下核、青斑核、網様体の大脳脚橋核、赤核、黒質、その他の脳幹構造、小脳、内包、外包、皮質脊髄路、錐体路、レンズ核わな、パペズ(Papez)の辺縁系、前頭骨神経節視床皮質システム(fronto-basal ganglionic-thalamocorticalsystem)、白質路、運動皮質、前運動皮質、体性感覚皮質、その他の感覚皮質野、ブローカ野、ウェルニッケ野、脳室領域、傍脳室領域、その他の中枢神経系構造、その他の末梢神経系構造がある。皮質、辺縁系および網様体系、前頭前野皮質、眼窩前頭皮質、内包の前肢、側坐核、腹側線条体、視床の腹側淡蒼球前核、扁桃、海馬、乳頭体、外側視床下部、青班、背側縫線核、傍小脳脚核(PBN)、弧束核(NTS)、尾側延髄腹外側野(CVL)、吻側延髄腹外側野(RVL)、視床下部の傍室核、束傍核、分界条のbed nucleus、前頭前野皮質、視索上核、前脳脳室周囲器官、腹側被蓋、黒質、緻密部、および網状組織。
【0056】
電気的刺激モードにおいては、移植された電極はコントローラ10の信号発生器へ連結される。図3に概要が示されているように、化学的/薬物的刺激モードに対しては、カテーテルが、ターゲット組織を、コントローラ10とつながった化学的/薬剤的供給アセンブリ(ポンプ)へ連結する。リード線37、39は、頭蓋の下で、移植されたコントローラ10へつながれていることが好ましいが、それらは移植されている、あるいは外部のコントローラへ外側でつなぐこともできる。カテーテルも同じように、移植されたポンプ、あるいは外部に配置されたポンプへつながれている。これも少なくとも一つの電極を有するカテーテルを、望むなら用いることもできる。
【0057】
このシステムは、脳の選択された領野あるいは神経組織における電気的あるいは化学的活性を検出する検出能力を有しており、コントローラへフィードバックを行って、刺激信号(例えばパルス電流、パルス幅、周波数、およびオン時間あるいはオフ時間などの、一つあるいは複数のパラメータ)を自動的に調節し、それによって摂食障害の治療を向上させる。検出のために好ましい脳の領野は、島、梁下野、帯状回、視床、視床下部、前頭前野皮質、小脳、中脳、および脳幹、これらの領野内の核、および前記領野へつながる白質路である。刺激電極は検出用電極としても働く。脳の領野のセンシングは、硬膜外や硬膜下、あるいは患者の頭蓋の上で行われるのが好ましい。別の場合には、少なくとも一つの検出用電極26あるいはその他の検出用デバイスが、脳神経27の一つへ接触して、あるいはこれに近接して設置される。センサはリード線22を介してコントローラ10へ連結される(図1を参照のこと)。選択される脳神経は、三叉神経、舌下神経、迷走神経および/あるいは副神経であることが好ましい。神経はそれに沿った、あるいは神経枝の一つに沿った任意の箇所で接触される。
【0058】
移植手術から十分に治癒したあと、医師は神経刺激システム1を駆動して適切な刺激信号を選択することによって、その患者の脳の選択された領野を脳深部刺激するためのプログラムされた計画による電気インパルスの形の電気刺激を発生する。電極の移植手術のとき、医師はパルス信号の電流レベルをチェックして、電流がその患者に有害な影響が起きる閾値よりも少なくとも若干低い大きさに調節されていることを確認する。デバイスのパラメータの設定は患者ごとに異なるであろうが、一般的には、患者がDBS治療のために著しく大きな悪影響を被らないように刺激レベルがプログラムされる。適切な安全マージンを設けつつ有益な効果(例えば食べ過ぎに対する欲望の抑制)が得られるまで、いずれにしても電流の最大振幅はそれに応じて調節される必要がある。有害な影響および/あるいは有益な影響の閾値は、移植したあとの経過によって著しく変わるかもしれない。従って、移植のあと、最初の数日が経過したら再びレベルをチェックして、効果的な計画を維持するために何か調節が必要かどうか判断することが好ましい。DBS計画は、一連の繰り返しパルスが脳の選択された神経組織を刺激するために発生される間欠的なパターンから成る期間を有しており、そのあとに、パルスが発生されない期間が続くのが好ましい。これら刺激のあるのと刺激のないのとの交互の期間から成るオン/オフのデューティサイクルは、オフ時間がオン時間の長さの約1.8倍であるような比を有している。また、各パルスの幅は、約500ミリ秒を超えない値に設定され、パルス繰り返し周波数は約130Hzの範囲にプログラムされる。DBSに対して使用される刺激信号の上述した電気パラメータおよびタイミングパラメータは単に例であり、この発明の範囲を制限するものではない。
【0059】
特定の患者の治療計画に対してこのシステムのプログラミングを調節したり、刺激信号パラメータを最適化したりするための補助として、選択的脳深部センシングを伴う脳神経刺激プログラムを用いてもよい。この方法は、電極を脳神経の一つ(好ましくは患者の首の左側迷走神経)へ接触させて、あるいはそれへ近接させて設置する段階と、検出用電極を、島、梁下野、帯状回、視床、前頭前野大脳皮質、脳幹、小脳および脳の前述した領野へつながる白質路などの、患者の脳の選択された領野と接触させる段階とを有する。両方の電極とも、上述したようにコントローラ/刺激発生器/プロセッサユニットとつながっている。予め決められた電気信号が脳神経電極へ印加されて、その脳神経からの電気刺激を受け取る神経組織の電気活性を刺激したり、抑制(変調)したりする。神経へ印加するために信号発生器によって発生される信号の関連パラメータを明らかにするのに有用な、信号発生器の理想化された電気出力信号波形が図5に示されている。コントローラ/あるいはプロセッサのプログラミングおよび設定を調節して、神経への電気刺激バーストのタイミングをとり、脳神経の副交感求心神経を選択的に刺激して、それによって味覚経路、臭神経、炎症促進あるいは炎症抑制経路、呼吸経路、心臓経路、受圧容器経路、体知覚経路、および満腹経路を都合よく活性化し、脳の種々の領野における神経活動の応答を抑制する。同様に、脳神経刺激によってノルアドレナリン作動性、セロトニン作動性、ドーパミン作動性、コリン作動性の経路などの神経伝達経路に影響を与えることもできる。
【0060】
移植された電極が接触する患者の脳の領野におけるニューロン組織の電気活性における反応の変調あるいは変化は、検出されて、コントローラ10へ伝送される。別の場合には、患者の治療計画に対するシステムのプログラミングと、刺激信号パラメータの最適化には、選択的脳深部センシングを伴った選択的DBSのプログラムを実行する段階が含まれる。例えば、梁下野につながるようにセンサを移植し、次にシステムを動作させて梁下野における電気的あるいは化学的活性を検出し、コントローラへフィードバックを行って、患者の摂食障害を治療するために刺激を最適な形に調節する。刺激データや検出データをプロセッサで解析して、特定の電気信号を印加することによって生じた脳の選択領野の電気活性における変化を求める。このようにして、医師の監視のもとで信号パラメータを調節し、脳の選択領野における神経活動を抑制する。脳の選択領野における電気活性のそうした変調は、観察される、あるいは期待される患者の摂食障害症状の緩和と、プロセッサによって関係付けられる。
【0061】
患者の摂食行動は、DBS計画を実際に処方するまえのおおよその術前レベルに安定化させられなければならない。24時間ごとに施される慢性的な間欠的電気刺激の形の治療によって、最初は、患者の不適切な摂食/排出行動に変化が観察されないかもしれない。しかし、数日間のこのDBS計画のあとでは、大食い/過食/排出に対する関心の喪失が認識されるであろう。一般的な結果としては、食事時間の摂取がその患者の術前行動において観察されたものよりもかなり長い期間まで伸び、1回の食事の間における食物摂取の量がより少なくなり、食事の間の摂取を行わない間隔がより長くなるということであろう。DBS治療は、患者の生活のその他の側面における通常の行動には悪影響を与えないことが期待される。DBS計画を完全に中止すると、それ以前の過食症行動へすぐに戻ってしまうと予想され、そのあとDBS計画を再開することになる。深刻な摂食障害を患っている人間の脳のある領野に対するDBS刺激は、過食症やその他の摂食障害を患っている人間の不適切な摂食パターンや行動をより効果的に治療し、また変えるための実行可能なオプションになり得ることが提案されている。
【0062】
梁下野の選択的刺激 代表的な治療計画では、予め決められた刺激信号(例えば電気信号)が人間の脳の梁下野へ印加され、そうした梁下野の刺激によって、膝下帯状領域におけるニューロン活動が変調される。別の予め決められた刺激信号を印加することによって、選択された梁下野が刺激され、図4Bに示されているようなブロードマン野32、ブロードマン野25、ブロードマン野24、ブロードマン野10、およびブロードマン野9から成るグループから選択された領野におけるニューロン活動が変調される。選択された梁下野のそうしたニューロン変調の結果、患者の大食い/排出に対する欲望の頻度は減少する。例えば、刺激部分(電極)がブロードマン野25とつながり、電気信号がブロードマン野25を刺激すると、その結果、ブロードマン野25のニューロン活動が変調され、それによって患者は満腹感を味わい、かつ/あるいは大食い/排出に対する衝動が低下する。別の治療計画では、予め決められた電気信号をブロードマン野25へ印加する結果、ブロードマン野9におけるニューロン活動が変調される。さらに別の予め決められた電気信号はブロードマン野32、ブロードマン野25へ印加される結果、ブロードマン野24におけるニューロン活動が変調される。
【0063】
化学的/薬剤的刺激モードにおいては、医師は、ポンプへ連結された基端と、薬品あるいは薬物を投与するためのディスチャージ部分とを有するカテーテルを、移植のあとカテーテルのディスチャージ部分が梁下野へつながるように、手術によって移植する。予め決められた刺激信号の印加は、ポンプを駆動してカテーテルのディスチャージ部分を介して薬品/薬物を梁下野の中に放出し、摂食障害を治療する段階を有する。上述した電気的刺激モードと同様に、選択された化学的/薬剤的刺激信号に応じて、ターゲットにされる神経組織と、影響を受ける(変調される)神経組織は同じでもよいし、異なっていてもよい。例えば、このプロトコルは、ポンプへ連結された基端と、薬剤を投与するためのディスチャージ部分とを有するカテーテルを、移植のあとカテーテルのディスチャージ部分が患者の脳のブロードマン野25とつながるように、手術によって移植する段階を有する。ポンプを駆動してカテーテルのディスチャージ部分を介して薬品/薬物をブロードマン野25の中に放出することによって、予め決められた刺激信号が印加され、脳のその部分における神経活動が変調されて摂食障害の症状が改善する。いくつかの適用可能な薬品および/あるいは薬剤のタイプには、抑制性神経伝達物質作用薬、興奮性神経伝達物質拮抗薬、抑制性神経伝達物質のレベルを上昇させる薬剤、興奮性神経伝達物質のレベルを低下させる薬剤、および局所麻酔薬が含まれる。
【0064】
島領野の選択的刺激 図4Aに示されているように、別の治療計画は、深刻な摂食障害を患っている患者の脳の中に、基端と刺激部分とを有する刺激リード線を、移植のあと刺激部分が島の部分とつながるように、手術によって移植する段階を有する。リード線の基端は予め決められた電気刺激信号を発生する信号発生器に連結されており、その信号が選択された島領野を電気的に刺激して、影響を受ける組織のニューロン活動を変調して摂食障害を改善する。
【0065】
膝下帯状領域の選択的刺激 図4Bに示されているように、別の治療計画は、基端と刺激部分とを有する刺激リード線を、移植のあと刺激部分が膝下帯状領域とつながるように、手術によって移植する段階を有する。リード線の基端は予め決められた電気刺激信号を発生する信号発生器に連結されており、その信号が選択された膝下帯状領域を電気的に刺激して、影響を受ける組織のニューロン活動を変調して摂食障害を改善する。
【0066】
選択的2モード刺激−電気的/化学的DBS 別の治療計画は電気的刺激モードと化学的刺激モードの両方を含んでいる。医師は、基端と刺激部分とを有する電気刺激リード線を、移植のあと刺激部分がその人間の脳の梁下野とつながるように、手術によって移植する段階を有する。医師はまた、ポンプへ連結された基端と、薬品あるいは薬物を投与するためのディスチャージ部分とを有するカテーテルを、移植のあとカテーテルのディスチャージ部分が選択された梁下野へつながるように、手術によって移植する。リード線の基端は信号発生器に連結されており、信号発生器によって予め決められた電気刺激信号が発生されて、選択された梁下野が刺激される。さらに、ポンプを駆動してカテーテルのディスチャージ部分を介して薬品/薬物を梁下野の中に放出することによって、薬品あるいは薬物によって梁下野をさらに刺激して、摂食障害の緩和を強化する。
【0067】
DBSと脳神経刺激をいっしょに用いる手順の例は、摂食障害の症状に関係することがわかっているか、あるいは予想される患者の脳の選択領野(例えば帯状回あるいは島領野)へ第1の電極を連結する段階を有する。第2の電極は患者の脳神経へ連結される。予め決められた治療電気信号が第1の電極へ印加されて神経組織を刺激し、第2の予め決められた治療電気信号が第2の電極へ印加される。第1および第2の信号から成る二つ信号を印加する結果、神経組織の選択された領野のニューロン活動が都合よく変調され、過食症やその他の摂食障害を改善する。
【0068】
別の2モード刺激計画はブロードマン野25と直接的あるいは間接的につながるように刺激電極を手術によって移植する段階を有する。ポンプへ連結された基端と、薬剤を投与するためのディスチャージ部分とを有するカテーテルを手術によって移植して、カテーテルのディスチャージ部分もブロードマン野25とつなげる。ブロードマン野25を刺激するために、予め決められた電気信号を電極へ印加する。さらに、ポンプを駆動してカテーテルのディスチャージ部分を介して薬物をブロードマン野25の中に放出することによって、ブロードマン野25をさらに刺激して、摂食障害の緩和を増強する。医師が決めたように、電気的刺激と化学的刺激を同時に、あるいは順番に印加する。
【0069】
フィードバックセンシングを用いた選択的DBS 検出性能を有する場合には、生理学的活動、生理学的事象、生理学的閾値、人体あるいは脳の状態を測定、検出、記録、モニタするために、移植可能な、あるいは外部のプロセッサがさらに設けられる。これは、例えば、脳や心臓、胃腸、膵臓、あるいは迷走神経が分布するその他の器官へ出入りする神経の電気活性(活動電位)を検出することによって実現される。プロセッサおよびコントローラは、アダプティブラーニングに基づいて治療パラメータを変更あるいは調節できるようになっていて、刺激のあとの活性あるいは生理学的変化をシステムが検出して、自動的にコントローラを調節して最適化された治療を供給するようになっている。コントローラ/プロセッサは有害な刺激の結果も判断でき、刺激を調節して患者の有害な反応を防止することができる。
【0070】
アダプティブな脳刺激システムの一例は、少なくとも第1の脳領域、あるいは第1の脳領域セットの、現在の状態を検出するために、患者へ連結された少なくとも一つの生物学的センサを有している。患者の第1の脳領域、あるいは第1の脳領域セットへは第1の電極によって少なくとも一つの刺激回路が連結されて、刺激パラメータセットに従って刺激を実行する。このシステムは、現在の状態に関係したデータを受け取り、現在のデータセットを参照状態セットと比較するためにセンサへ連結されているコンパレータも有している。このとき、比較の結果は、肯定的な出力にも、否定的な出力にもなり得る。肯定的な出力とは、有益な効果、および/あるいは許容不能な悪影響がないことである。前記少なくとも一つの刺激回路と連結された少なくとも一つの制御回路は、現在の状態と参照状態とを比較した出力に従って調節して、刺激パラメータセットを制御することができる。
【0071】
選択的脳深部センシングを用いた脳神経刺激 前述した2モード刺激方法の変形においては、脳深部刺激(DBS)の代わりに、あるいはそれに加えて脳神経刺激(VNS)が用いられる。この変形の方法においては、梁下野を電気的に刺激する代わりに脳神経の一つが電気的に刺激される。脳神経の一つと接触して、あるいはそれと近接して少なくとも一つの刺激電極あるいは化学的/薬物的刺激アセンブリが設置される。選択される脳神経は、三叉神経、舌下神経、迷走神経あるいは副神経であることが好ましい。神経はそれに沿った、あるいは神経枝に沿った任意の箇所で接触される。例えば、図1に示されているように、電極26は、米国特許第4,573,481号(ブラーラ)に開示されている好ましくは螺旋タイプの2極性刺激電極であることが好ましい。電極アセンブリは、患者の首の、迷走神経27の上に手術によって移植される。別の例としては、医師は左および右の迷走神経の上に一対の刺激電極を手術によって移植し、刺激信号パラメータを調節して両方の迷走神経を同期的に、あるいは非同期的に双方に刺激して、脳の選択領野を選択的に抑制、励振、あるいはブロックして過食症症状を緩和する。コントローラ/プロセッサを調節して、双方の電気刺激バーストのタイミングをとり、脳の選択領野におけるニューロン活動を抑制して、所望の結果を得る。信号パラメータを調節して、脳神経の副交感求心神経を選択的に刺激して、味覚経路、臭神経、炎症促進あるいは炎症抑制経路、呼吸経路、心臓経路、受圧容器経路、体知覚経路、および満腹経路のうちの一つあるいは複数を都合よく変調する。同様に、脳神経刺激によって、ノルアドレナリン作動性、セロトニン作動性、ドーパミン作動性、コリン作動性の経路などの神経伝達物質経路に影響を与える。
【0072】
脳神経刺激構成は、上述したような刺激信号パラメータを最適化するのに特に有用である。例えば、電極26を人の脳神経(例えば、迷走神経、舌下神経、三叉神経、あるいは副神経)へ連結して、リード線22を介してコントローラ10とつなぐ。別の電極38、すなわち検出用電極あるいは“センサ”を、島、梁下野、帯状回、視床、視床下部、前頭前野大脳皮質、脳幹、小脳および脳の前述した領野へつながる白質路の一部、あるいはその内部の核など、患者の脳の選択された領野へ連結する。脳の中の選択された箇所の位置に応じて、深部電極よりもより侵襲性の低い硬膜下電極を使用してもよい。電極38もコントローラ/刺激発生器/プロセッサユニットとつながっている。予め決められた電気信号を脳神経電極へ印加して、その脳神経から電気刺激を受け取る神経組織の電気活性を刺激あるいは抑制(変調)する。移植された電極によってニューロン組織の電気活性における反応性変調あるいは変化が検出されて、コントローラ/プロセッサ10へ伝送される。その選択された脳の領野の電気活性に変化が生じるかどうか判断するために、データはプロセッサの中で解析される。選択領野の電気活性のそうした変調は、プロセッサによって、摂食障害の症状の緩和を示す主観的あるいは客観的なデータと関連付けられる。
【0073】
DBSとVNSの組み合わせ 脳深部刺激(DBS)と脳神経刺激(VNS)がいっしょに用いられる手順の一例は、第1の電極を患者の脳神経へ連結する段階を有する。図1は首のところで患者の左側迷走神経へ連結された電極を示している。一つあるいは複数の電極に対する別の配置は、周知のように、また文献に記載されているように、横隔膜の上方あるいは下方で、左および/あるいは右の迷走神経上の横隔膜に近い位置である。第2の電極は、摂食障害の症状と関係があることが知られている、あるいは予想される患者の脳の選択領野(例えば梁下野)へ連結される。予め決められた治療電気信号が第1の電極へ印加されて脳神経を刺激し、第2の予め決められた治療電気信号が第2の電極へ印加されて神経組織を刺激する。第1および第2の信号から成る二つの信号を印加する結果、神経組織の選択領野のニューロン活動が都合よく変調されて、過食症やその他の摂食障害が改善する。刺激パラメータを調節して、両方の迷走神経を双方に同期的に、あるいは非同期的に刺激して、脳の選択領野を選択的に変調(例えば抑制、励振、ブロック)し、摂食障害の症状を望むように緩和する。コントローラを調節して、双方の電気刺激バーストのタイミングをとって、脳の選択領野における神経活動を抑制する。
【0074】
DBS/VNSの組み合わせ−2モードの電気的/化学的刺激
別の代表的なDBS/VNSの組み合わせ治療は、電極と、基端および刺激部分とを有するリードアセンブリを、移植のあと刺激部分(例えば電極)が脳神経あるいは梁下野とつながるように、手術によって移植する段階を有する。医師はまた、ポンプへ連結された基端と薬品を注入するためのディスチャージ部分とを有するカテーテルを、移植のあとカテーテルのディスチャージ部分は選択された梁下野とつながるように、手術によって移植する。医師はリード線の基端を信号発生器へ連結する。信号発生器を使って適当な電気信号を発生し、電極およびリードアセンブリを介して印加して、その信号で梁下野を電気的に刺激する。電気刺激と協働するように、ポンプを駆動して薬品をカテーテルのディスチャージ部分を介して選択された梁下野の中へ放出して摂食障害を治療する。
【0075】
同様に、移植のあと刺激部分がブロードマン野25とつながるように、医師は電極/リードアセンブリを手術によって移植する。同様に、カテーテルのディスチャージ部分もブロードマン野25とつながるように設置される。電気信号がブロードマン野25を電気的に刺激しつつ、ポンプが薬品をブロードマン野25の中へ放出して、摂食障害に対する2モード組み合わせ式治療を提供する。
【0076】
トリガによる駆動/停止 希望する刺激や、その結果としての変調は、予め決められた事象あるいは条件を検出することによって、あるいは外部デバイス、あるいは医師の入力、あるいは患者の入力による手動式の駆動によってトリガをかけることができる。上述した手動式駆動スイッチが移植式コントローラに含まれており、医師がその患者はデバイスに対する制御を制限するのが適切であると判断した場合には、コントローラが患者からの必要な手動入力を検出すると信号発生器が予め決められた刺激信号を出せるようにプロセッサのプログラミングが調節される。
【0077】
磁気刺激 手術によるDBSスティミュレータの移植に対する別の形として、眼窩前頭皮質などの脳の領野を経頭蓋磁気刺激を用いて刺激するようにしてもよい。このように、刺激は、電気的、化学的/薬物的、あるいは磁気的、あるいはそれらモードの任意の組み合わせが可能である。
【0078】
上述した方法は、制御できない深刻な大食い/排出行動を患っている患者の適切な治療計画を医師が練るのに有用であると考えられる。過食症は、同じような脳深部刺激治療に対して望ましい反応を示すその他の摂食障害の代表的なものと考えられる。
【0079】
これ以上詳しく説明しなくても、当該分野の技術者には、ここでの記述を用いて本発明を十分に活用することができるであろう。上述した実施の形態は図示されているように構成されているが、いかなる意味でも本明細書の残りの部分を拘束するものではない。この発明の実施の形態を示して、説明してきたが、発明の精神および教示から逸脱することなく、当該分野の技術者は実施の形態の修正を行うことができる。例えば、ここに記述されている種々の刺激や検出、および駆動のモード、プログラム可能な特徴などは、配置しなおすことや、ここで例として挙げられているものとは違った組み合わせで用いることもできる。ここで説明した実施の形態の多くの変形や修正が可能であり、それらは本発明の範囲内である。従って、保護の範囲は、上述した説明によって制限されるわけではなく、添付の請求項のみによって制限される。本発明の範囲は、請求項の主項のすべての等価物を含んでいる。ここでの言及を補佐する例示的、手続き的、あるいはその他の詳細を提供してくれるという点で、ここで引用されているすべての特許、特許願、および刊行物の内容は参照されている。
【図面の簡単な説明】
【0080】
【図1】この発明におけるある実施の形態に基づいた、摂食障害を治療するための電極およびニューロスティミュレータの設置の仕方を示す略図である。
【図2】この発明におけるある実施の形態に基づいた、摂食障害を治療するために使用されるバッテリおよびプログラマブル電子回路パッケージ(ブロック図で示されている)を有するコントローラの部分図である。
【図3】この発明のある実施の形態による化学的刺激アセンブリを示すブロック図である。
【図4A−B】この発明のいくつかの実施の形態に基づいた、摂食障害を治療するために患者の脳の選択された領野の中にスティミュレータを設置する箇所を示す図である。図4Aは脳のサジタル断面図であり、代表的な脳の島の刺激箇所を描いている。また、図4Bは脳のコロナル断面図であり、代表的な脳の前頭前野皮質、帯状回、視床、および脳幹の治療箇所を描いている。
【図5】この発明のある実施の形態に基づいた、脳へ印加するために信号発生器によって発生される信号の関連パラメータを明らかにするのに有用な、図1の信号発生器の電気出力信号波形を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
摂食障害を患っている人間を治療する方法であって、
予め決められた刺激箇所へ連結された第1のスティミュレータへ第1の治療刺激信号を印加する段階を有し、前記予め決められた刺激箇所が、島、梁下野、帯状回、視床、前頭前野大脳皮質、脳幹、小脳および前述した領野へつながる白質路から成るグループから選択されたその人間の脳の領野における神経組織であり、前記第1の刺激信号によって前記神経組織のニューロン活動が変調され、このニューロン活動の変調によって摂食障害の症状が緩和される方法。
【請求項2】
前記第1のスティミュレータが電極を有し、前記第1の治療刺激信号が第1の予め決められた電気信号を有し、さらに、
前記電極を前記人間の脳の領野へ連結する段階と、
前記第1の予め決められた電気信号を前記電極へ印加して前記神経組織のニューロン活動を修正する段階と、
が設けられており、前記ニューロン活動の修正によって摂食障害の症状が緩和される方法。
【請求項3】
前記第1の治療刺激信号が、急性刺激成分と慢性刺激成分とを有している請求項1記載の方法。
【請求項4】
前記急性刺激成分が、前記慢性刺激成分よりも、高い強度レベルの刺激と短い持続期間を有する請求項3記載の方法。
【請求項5】
前記急性刺激成分が1ヶ月から6ヶ月の持続期間を有している請求項3記載の方法。
【請求項6】
前記第1の刺激信号によって、前記予め決められた刺激箇所以外の前記人間の神経組織におけるニューロン活動が変調される請求項1記載の方法。
【請求項7】
前記第1のスティミュレータを、島、梁下野、帯状回、視床、前頭前野大脳皮質、脳幹、小脳および前述した領野へつながる白質路から成るグループから選択されたその人間の脳の領野へ連結する段階と、
第2のスティミュレータをその人間の脳神経へ連結する段階と、
前記第1の予め決められた刺激信号を前記第1のスティミュレータへ印加する段階と、
第2の予め決められた刺激信号を前記第2のスティミュレータへ印加する段階と、
が設けられており、前記第1および第2の信号を印加することによって、前記神経組織のニューロン活動が変調されて摂食障害が緩和される請求項1記載の方法。
【請求項8】
前記第2の刺激信号が、急性刺激成分と慢性刺激成分とを有している請求項7記載の方法。
【請求項9】
前記急性刺激成分が、前記慢性刺激成分よりも、高い強度レベルの刺激と短い持続期間を有する請求項8記載の方法。
【請求項10】
前記摂食障害が過食症であり、前記第1の治療刺激信号の前記印加によって前記人間における大食い、および/あるいは排出行動が緩和される請求項1記載の方法。
【請求項11】
前記第1の治療刺激信号の前記印加によって、前記人間に満腹感が誘起される請求項1記載の方法。
【請求項12】
前記領野が、少なくとも島の一部、あるいは島の一部へつながる白質路から成る請求項1記載の方法。
【請求項13】
前記領野が、左右および前後の島、および前障から成るグループから選択された島の一部、あるいは島の一部へつながる白質路から成る請求項12記載の方法。
【請求項14】
前記領野が、少なくとも梁下野の一部、あるいは梁下野の一部へつながる白質路から成る請求項1記載の方法。
【請求項15】
前記領野が、少なくとも帯状回の一部、あるいは帯状回の一部へつながる白質路から成る請求項1記載の方法。
【請求項16】
前記領野が、ブロードマン野24、ブロードマン野25およびブロードマン野32から成るグループから選択されたブロードマン野の少なくとも一部から成る請求項15記載の方法。
【請求項17】
前記領野が、少なくとも前頭前野皮質の一部、あるいはこの前頭前野皮質の一部へつながる白質路から成る請求項1記載の方法。
【請求項18】
前記領野が、ブロードマン野8、ブロードマン野9、ブロードマン野10、およびブロードマン野11から成るグループから選択されたブロードマン野の少なくとも一部から成る請求項17記載の方法。
【請求項19】
前記領野が、視床の中の少なくとも一つの核、あるいは視床の中の核につながる白質路から成る請求項1記載の方法。
【請求項20】
摂食障害を患っている人間を治療する方法であって、
第1の電極および第2の電極とつながった信号発生器およびプロセッサを有するコントローラを提供する段階と、
前記第1の電極を前記人間の脳神経へ連結する段階と、
前記第2の電極を、島、梁下野、帯状回、視床、視床下部、前頭前野大脳皮質、脳幹、小脳および前述した領野へつながる白質路から成るグループから選択されたその人間の脳の領野へ連結する段階と、
前記第1の電極へ予め決められた電気信号を印加する段階と、
前記第2の電極によって、脳の前記選択された領野における電気活性を検出する段階と、
前記検出された電気活性を、前記選択された領野の予め決められた電気状態と比較して、比較結果を提供する段階と、
前記比較結果から、前記第1の電極への前記予め決められた電気信号の前記印加によって前記脳の領野の電気活性が変調されるか判断する段階と、
を有し、電気活性の前記変調が摂食障害の症状の緩和に対応している方法。
【請求項21】
前記第1の電気信号が調節可能な電気パラメータを有し、さらに、前記第1の電気信号の少なくとも一つのパラメータを前記比較結果に基づいて調節する段階が設けられている請求項20記載の方法。
【請求項22】
前記第2の電極によって脳の前記選択された領野における電気活性を検出する前記段階が、硬膜下センシングから成る請求項20記載の方法。
【請求項23】
前記脳神経が、迷走神経、舌下神経、三叉神経、および副神経から成るグループから選択される請求項20記載の方法。
【請求項24】
摂食障害を患っている人間を治療する方法であって、
第1の電極および第2の電極とつながった信号発生器およびプロセッサを有するコントローラを提供する段階と、
前記第1の電極を前記人間の脳神経へ連結する段階と、
前記第2の電極を、島、梁下野、帯状回、視床、前頭前野大脳皮質、脳幹、小脳および前述した領野へつながる白質路から成るグループから選択されたその人間の脳の領野へ連結する段階と、
前記第2の電極へ予め決められた電気信号を印加して、脳の前記選択された領野のニューロン活動を変調する段階と、
前記第1の電極によって、前記脳神経における電気活性を検出する段階と、
前記検出された電気活性を、前記神経の予め決められた電気状態と比較して、比較結果を出す段階と、
前記比較結果から、前記第2の電極への前記予め決められた電気信号の前記印加によって前記脳神経の電気活性が変調されるか判断する段階と、
を有する方法。
【請求項25】
前記第2の電気信号が調節可能な電気パラメータを有し、さらに、前記第2の電気信号の少なくとも一つのパラメータを前記比較結果に基づいて調節する段階が設けられている請求項24記載の方法。
【請求項26】
摂食障害を患っている患者を治療するためのアダプティブ脳刺激方法であって、
(a)少なくとも第1の脳領域あるいは脳領域のセットの現在の状態を検出するために前記患者の状態表示箇所と連結される少なくとも一つのセンサと、少なくとも一つの刺激電極によって少なくとも前記第1の脳領域あるいは脳領域のセットと連結していて第1の刺激パラメータセットに従って刺激を実行する第1の刺激回路と、前記少なくとも一つのセンサと連結されていて現在の状態に関するデータを受け取って前記現在の状態データを参照状態データと比較し、その比較の結果、肯定的な出力あるいは否定的な出力を発生するコンパレータと、少なくとも前記第1の刺激回路と連結されていて前記現在の状態と参照状態との比較の出力に従って調節が行われる少なくとも一つの制御回路とを有するシステムを提供する段階と、
(b)前記少なくとも一つのセンサを前記患者の状態表示箇所と連結する段階と、
(c)前記患者の少なくとも第1の脳領域あるいは脳領域のセットを、第1の刺激パラメータセットに従って刺激する段階と、
(d)前記患者の現在の状態を検出して検出データを提供する段階と、
(e)前記検出データを参照状態データと比較して比較結果を出す段階と、
(f)前記比較結果から、刺激パラメータに変更が必要かどうか判断する段階と、
(g)もし前記変更が必要であれば、前記刺激パラメータにどのような変更を行うべきか決定する段階と、
(h)前記段階(f)において決定されたように前記第1の刺激パラメータセットを変更する段階と、
(i)前記段階(g)において変更が必要でなくなるまで、前記変更された刺激パラメータで前記段階(c)〜(h)を繰り返す段階と、
を有し、変更された刺激パラメータセットに従った刺激によって前記摂食障害の症状が緩和されたときに変更する必要がなくなる方法。
【請求項27】
反応信号によって治療に効果がもたらされていることを前記比較結果が示していれば、患者の第2の脳領域あるいは第2の脳領域セットを刺激する段階が設けられる請求項26記載の方法。
【請求項28】
前記第2の脳領域あるいは第2の脳領域セットを刺激する段階によって有益な治療効果が得られる請求項27記載の方法。
【請求項29】
前記段階(d)が、末梢脳神経のニューロン活動を検出する段階を有する請求項26記載の方法。
【請求項30】
前記段階(g)において、前記刺激パラメータを変更する段階が、脳神経の副交感求心神経を選択的に刺激する刺激信号を提供して、味覚経路、臭神経、炎症促進あるいは炎症抑制経路、呼吸経路、心臓経路、受圧容器経路、体知覚経路、満腹経路、およびノルアドレナリン作動性、セロトニン作動性、ドーパミン作動性、コリン作動性の経路などの神経伝達物質経路から成るグループから選択された少なくとも一つの脳神経経路を活性化する段階を有する請求項26記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4A】
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【図4B】
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【図5】
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【公表番号】特表2009−502315(P2009−502315A)
【公表日】平成21年1月29日(2009.1.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−523891(P2008−523891)
【出願日】平成18年6月26日(2006.6.26)
【国際出願番号】PCT/US2006/025064
【国際公開番号】WO2007/018797
【国際公開日】平成19年2月15日(2007.2.15)
【出願人】(508025585)サイバーロニックス,インコーポレーテッド (6)
【Fターム(参考)】