説明

摩擦伝動ベルト

【課題】ベルト駆動部分が被水した時に生じるスリップ騒音を抑制し、優れた屈曲疲労性を有し、更に簡便な作業工程によって製造することができる摩擦伝動ベルトを提供する。
【解決手段】エチレン−α−オレフィンエラストマー、短繊維及びシリカを含有し、かつ、単層構造を有する圧縮ゴム層から構成し、短繊維の含有量は、エチレン−α−オレフィンエラストマー100質量部に対して5〜25質量部であり、シリカの含有量は、エチレン−α−オレフィンエラストマー100質量部に対して5質量部以上60質量部未満であり、かつ、短繊維及びシリカの合計含有量は、エチレン−α−オレフィンエラストマー100質量部に対して30〜65質量部である摩擦伝動ベルト。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、摩擦伝動ベルトに関する。
【背景技術】
【0002】
自動車の補助駆動用等に用いられる動力伝達用の摩擦伝動ベルトにおいて、従来よりベルト駆動時に発生するスリップ音は騒音とされ、自動車の静粛化のためには改善しなければならない問題であった。このベルトから発生する騒音の種類の一つに、エンジンルーム内に水が入って、ベルトが被水した時に生じるスリップ音がある。この被水時のスリップ音を改善するために従来から用いられている技術として、ベルトリブ部に短繊維を混入したり、撥水剤をベルトリブ部表面に塗布したりすること等が行われている。
【0003】
しかし、ベルトリブ部に短繊維を混入させた伝動ベルトでは、短繊維を使用することによって被水時のスリップ音を改善させることが出来るものの、短繊維とゴムとの弾性率が極端に違うため、屈曲疲労を受けたときに短繊維とゴムとの界面に応力が集中して亀裂開始点となり、亀裂が成長して製品寿命が短くなる。
【0004】
一方、ベルトリブ部に撥水剤を塗布する方法は、リブ形状を成形させた後で、撥水剤を塗布するといった作業工程が増えることで、ベルトの製造コストが増加するといった問題点がある。また、表面の撥水剤は、リブ部、圧縮ゴムの摩耗等の経時変化により、安定して存在させることは困難である。
また上述の方法とは別に、プーリと接触するゴムにシリカを配合させることにより、被水時のスリップ音等を抑制する試みもなされている。
【0005】
例えば、特許文献1では、リブ部側表面の少なくとも一部がエチレン−α−オレフィンエラストマー、シリカ及び短繊維を配合したゴム配合物で構成されることにより、注水時におこるスリップによる騒音の発生を改善したVリブドベルトが開示されている。ここでは、リブ部がシリカを配合しないゴム層、シリカを配合したゴム層及びシリカを配合しないゴム層からなる3層構造を有するものが開示されているだけであり、このような3層構造中のシリカを配合したゴム層をベルトリブ部の一部分に設ける場合に、異なる配合のゴムを用いなければならず、作業工程が煩わしくなるといった問題点がある。
【0006】
特許文献2では、特定量の表面処理シリカとカーボンブラック、加硫促進剤、加硫剤、短繊維を配合した特定の物性を示すクロロプレンゴム組成物を圧縮ゴム層に使用することにより、補強効果を失うことなく粘着摩耗を抑制し、走行時の騒音を減少させた伝動ベルトが開示されている。特許文献3では、不飽和カルボン酸金属塩を含有した水素化ニトリルゴムに対して、シリカ及び共架橋剤を添加し、有機過酸化物により架橋したゴムからなる伝動ベルトが開示されている。しかし、これらの文献では、圧縮ゴム層にエチレン−α−オレフィンエラストマーを用いる場合について詳細に検討されているわけではない。
【0007】
従って、動力伝達用の摩擦伝動ベルトにおいて、製造における作業工程が容易で、ベルト駆動部分が被水した時に生じるスリップ騒音を抑制し、かつベルト走行時の屈曲疲労性に優れる摩擦伝動ベルトが必要とされていた。
【0008】
【特許文献1】特開2003−247604号公報
【特許文献2】特開2002−69240号公報
【特許文献3】特開2003−221470号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、上記現状を鑑みて、ベルト駆動部分が被水した時に生じるスリップ騒音を抑制し、優れた屈曲疲労性を有し、更に簡便な作業工程によって製造することができる摩擦伝動ベルトを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、エチレン−α−オレフィンエラストマー、短繊維及びシリカを含有し、かつ、単層構造を有する圧縮ゴム層からなることを特徴とする摩擦伝動ベルトである。
【0011】
上記短繊維の含有量は、上記エチレン−α−オレフィンエラストマー100質量部に対して5〜25質量部であり、上記シリカの含有量は、上記エチレン−α−オレフィンエラストマー100質量部に対して5質量部以上60質量部未満であり、かつ、上記短繊維及び上記シリカの合計含有量は、上記エチレン−α−オレフィンエラストマー100質量部に対して30〜65質量部であることが好ましい。
上記摩擦伝動ベルトは、Vリブドベルト、ローエッジ型ベルト又は平ベルトであることが好ましい。
以下、本発明を詳細に説明する。
【0012】
本発明は、エチレン−α−オレフィンエラストマー、短繊維及びシリカを含有し、かつ、単層構造を有する圧縮ゴム層からなることを特徴とする摩擦伝動ベルトである。このため、ベルト駆動部分が被水した時に生じるスリップ騒音が抑制され、かつベルト走行時の屈曲疲労性に優れる。また、上記圧縮ゴム層は、単層構造を有するものである。このため、3層構造等の多層構造からなる圧縮ゴム層を有する摩擦伝動ベルトを製造する場合に比べて、簡便にベルトを製造することができる。
【0013】
通常、摩擦伝動ベルトにおいて、ベルトリブ部に短繊維を混入させることにより被水時のスリップ音は改善されるが、屈曲疲労を受けたときに亀裂ができやすくなる。本発明では、圧縮ゴム層に含有される短繊維の量を減らして、シリカを添加することにより、屈曲を受けたときの応力集中の偏る部分が少なくなって亀裂が発生しにくくなり、かつ、ベルト表面に適度な粗さを与えてスリップ音の発生を抑制することができる。従って、本発明の摩擦伝動ベルトは、優れたスリップ音の発生抑制と屈曲疲労性を両立したものである。
【0014】
摩擦伝動ベルトに水が被水した場合に発生する注水スリップ音は、圧縮ゴム層表面とプーリとの界面に水が介在してスティックスリップが発生することによって生じるが、本発明では、シリカを添加することによって、圧縮ゴム表面の表面粗さを粗くすることで、そのような注水時の水膜が形成されにくくなり、その結果、注水時のスリップも抑制されて、注水スリップ音の発生を抑制することができる。
【0015】
上記圧縮ゴム層は、エチレン−α−オレフィンエラストマー、短繊維及びシリカを含有するものである。
上記エチレン−α−オレフィンエラストマーとしては、エチレンを除くα−オレフィンとエチレンとジエン(非共役ジエン)の共重合体からなるゴム、それらの一部ハロゲン置換物、又はこれらの2種以上の混合物が用いられ、上記エチレンを除くα−オレフィンとしては、好ましくは、プロピレン、ブテン、ヘキセン及びオクテンから選ばれる少なくとも1種が用いられる。なかでも、スリップ音を抑制し、かつ優れた屈曲疲労性を有することができる点から、エチレン−プロピレン−ジエン系ゴム(以下、EPDMと略す)がより好ましい。また、これらのハロゲン置換物や、他のゴムをブレンドしたものでも良い。ジエン種は、エチリデンノルボルネン(ENB)であることが本発明の効果を得る点で好ましい。またジエン成分が含まれていないエチレン−プロピレン系ゴム(EPR)も選択可能である。
【0016】
上記エチレン−α−オレフィンエラストマーのエチレン含量(エチレン−α−オレフィンエラストマー中におけるエチレン由来の構成単位の含有量)は、上記エチレン−α−オレフィン−ジエンゴムを構成するエチレン−α−オレフィン及びジエンの合計量100質量%中55〜70質量%であることが好ましい。上記エチレン含量が上記範囲であるエチレン−α−オレフィンエラストマーを、シリカ及び短繊維とともに用いた場合には、ゴム硬度が高く、充分なベルト硬度を得ることができるとともに、注水スリップ音を充分に抑制することができる。このため、上記エチレン−α−オレフィンエラストマーを用いる場合には、注水スリップ音をより好適に抑制できるとともに、より優れた屈曲疲労性を摩擦伝動ベルトに付与することができる。
【0017】
上記エチレン含量が55質量%未満であると、ゴムが柔らかくなるおそれがある。70質量%を超えると、ゴムが硬すぎてベルトに適用出来ないおそれがある。上記エチレン含量は、55〜65質量%であることがより好ましい。
【0018】
上記エチレン−α−オレフィンエラストマーの市販品としては、例えば、ノーデルIP4640(デュポンダウエラストマー社製)等を挙げることができる。
【0019】
上記圧縮ゴム層は、上記エチレン−α−オレフィンエラストマー以外に、本発明の効果を阻害しない範囲内で、水素化ニトリルゴム、クロロプレンゴム、天然ゴム、CSM、SBR等のその他のポリマーを含有するものであってもよい。
【0020】
上記短繊維としては、ナイロン6、ナイロン66、ポリエステル、綿、アラミド等からなる短繊維を挙げることができる。
上記短繊維の長さ又は形状等を適宜調整することにより、スリップ音の抑制を向上させることができるが、通常、上記短繊維の長さは、0.5〜3.0mmであることが好ましい。
【0021】
上記圧縮ゴム層において、上記短繊維の含有量は、上記エチレン−α−オレフィンエラストマー100質量部(固形分)に対して、5〜25質量部であることが好ましい。5質量部未満であると、ゴムが柔らかくなるおそれがある。25質量部を超えると、屈曲を受けたときの応力集中により亀裂が発生しやすくなるおそれがある。
【0022】
上記シリカとしては特に限定されず、従来公知のものを使用することができ、例えば、乾式シリカ、湿式シリカ、表面処理したシリカ等を挙げることができる。上記湿式シリカ(含水ケイ酸)は、一般にはケイ酸ナトリウムと鉱酸及び塩類を水溶液中で反応させる方法で得ることができ、乾式シリカに比べ正面に多数のシラノール基を有するために高い極性をもつ。また湿式シリカは、乾式シリカに比べコストが低く、加工性が良好であるといった長所を有している。上記表面処理したシリカは、乾式シリカや湿式シリカをシランカップリング剤で表面処理して分散性を向上させたものである。
【0023】
上記圧縮ゴム層において、上記シリカの含有量は、上記エチレン−α−オレフィンエラストマー100質量部(固形分)に対して5質量部以上60質量部未満であることが好ましい。含有量が上記範囲内のシリカを含有することにより、優れた注水スリップ音の発生抑制と屈曲疲労性を両立させることができる。5質量部未満であると、ゴム表面の粗さが小さくなり、水膜を形成し、スティックスリップが生じやすくなるおそれがある。60質量部以上であると、ゴムが硬くなり過ぎて、走行による屈曲疲労によりクラックが発生しやすくなり、ベルト寿命が低下するおそれがある。
【0024】
上記圧縮ゴム層において、上記シリカ及び上記短繊維の合計含有量は、上記エチレン−α−オレフィンエラストマー100質量部(固形分)に対して、30〜65質量部であることが好ましい。シリカ及び短繊維の合計含有量が上記範囲内にあると、優れたスリップ音の抑制と屈曲疲労性を両立することができる。30質量部未満であると、スリップ音の抑制効果が無いおそれがある。65質量部を超えると、屈曲寿命が低下するおそれがある。上記圧縮ゴム層において、シリカ及び短繊維の含有量と、シリカ及び短繊維の合計含有量とを上記範囲に規定することによって、スリップ音の抑制及び屈曲疲労性をより向上させることができる。
【0025】
上記シリカは、上記圧縮ゴム層の全体に分散しているものであってもよい。圧縮ゴム層の全体に分散しているとは、上記単層構造の圧縮ゴム層中において、シリカが略均一に分散して存在していることを意味し、シリカが圧縮ゴム層における中心部や表面部等に局在して存在していることを意味しない。このような全体にシリカが分散している圧縮ゴム層は、エチレン−α−オレフィンエラストマー、短繊維、シリカ及び必要に応じて他の成分を含有する配合物を使用して、従来公知の方法によって単層構造を有する圧縮ゴム層を製造することによって得ることができる。
【0026】
上記圧縮ゴム層は、シランカップリング剤を含有するものであってもよい。シリカを含有すると剛性が高くなり、クラックが発生しやすくなるが、シランカップリング剤を含有することにより、クラックの発生を抑制することができる。
上記シランカップリング剤としては、3−アミノプロピルトリエトキシシラン、3−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−β−(アミノエチル)γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、3−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、γ−ウレイドプロピルトリエトキシシラン、3−シアノプロピルジメチルクロロシラン、3−[N−アリル−N−(2−アミノエチル)]アミノプロピルトリメトキシシラン、P−[N−(2−アミノエチル)アミノメチル]フェネチルトリメトキシシラン、N−(2−アミノメチル)−3−アミノプロピルメチルジメトキシシラン、1−(3−アミノプロピル)−1,1,3,3,3−ペンタメチルジシロキサン、3−アミノプロピルトリス(トリメチルシロキシ)シラン、α,ω−ビス(3−アミノプロピル)ポリジメチルシロキサン、α,ω−ビス(3−アミノプロピル)ポリジメチルシロキサン、1,3−ビス(3−アミノプロピル)−1,1,3,3−テトラメチルジシロキサン、α,ω−ビス(メルカプトメチル)ポリジメチルシロキサン、α,ω−ビス(メルカプトメチル)ポリジメチルシロキサン、1,3−ビス(メルカプトメチル)−1,1,3,3−テトラメチルジシロキサン、α,ω−ビス(3−メルカプトプロピル)ポリジメチルシロキサン、α,ω−ビス(3−メルカプトプロピル)ポリジメチルシロキサン、1,3−ビス(3−メルカプトメチル)−1,1,3,3−テトラメチルジシロキサン、N,N−ビス[(メチルジメトキシシリル)プロピル]アミン、N,N−ビス[3−(メチルジメトキシシリル)プロピル]エチレンジアミンN,N−ビス[3−(トリメトキシシリル)プロピル]アミン、N,N−ビス[3−(トリメトキシシリル)プロピル]エチレンジアミン、3−メルカプトプロピルトリス(トリメチルシロキシ)シラン、1−トリメトキシシル−4,7,10−トリアザデカン、N−[(3−トリメトキシシリル)プロピル]トリエチレンテトラミン、N−3−トリメトキシシリルプロピル−m−フェニレンジアミン等を挙げることができる。
【0027】
上記圧縮ゴム層を形成するためのゴム配合物は、硫黄又は過酸化物によって架橋することができる。
上記架橋のための過酸化物としては、特に限定されるものではないが、通常の有機過酸化物が使用され、例えば、ジクミルパーオキサイド、ジ−t−ブチルパーオキサイド、t−ブチルクミルパーオキサイド、ベンゾイルパーオキサイド、1,3−ビス(t−ブチルパーオキシイソプロピル)ベンゼン、2,5−ジメチル−2,5−ジ(t−ブチルパーオキシ)ヘキシン−3,2,5−ジメチル−2,5−(ベンゾイルパーオキシ)へキサン、2,5−ジメチル−2,5−モノ(t−ブチルパーオキシ)ヘキサン等を挙げることができる。上記有機過酸化物の添加量は、有機過酸化物の官能基量や分子量又はEPDMのジエン量等に合わせて適宜設定すればよいが、通常、単独もしくは混合物として、エチレン−α−オレフィンエラストマー100gに対して0.5〜5gの範囲で使用される。
【0028】
上記過酸化物架橋の場合はまた、架橋助剤を配合してもよい。架橋助剤を配合することによって、架橋密度を上げて接着力をさらに安定させ、粘着摩耗性等の問題を防止することができる。上記架橋助剤としては、トリアリルイソシアヌレート(TAIC)、トリアリルシアヌレート(TAC)、1,2ポリブタジエン、不飽和カルボン酸の金属塩、オキシム類、グアニジン、トリメチロールプロパントリメタクリレート、エチレングリコールジメタクリレート、N,N’−m−フェニレンビスマレイミド、硫黄等通常パーオキサイド架橋に用いるものを挙げることができる。
【0029】
硫黄加硫の場合、硫黄の添加量は、エチレン−α−オレフィンエラストマー100質量部に対して1〜3質量部であることが好ましい。
硫黄加硫の場合はまた、加硫促進剤を配合してもよい。加硫促進剤を配合することによって、架橋密度を上げて粘着摩耗等の問題を防止することができる。上記加硫促進剤としては、一般的に加硫促進剤として使用されるものであればよく、例えば、N−オキシジエチレンベンゾチアゾール−2−スルフェンアミド(OBS)、テトラメチルチウラムジスルフィド(TMTD)、テトラエチルチウラムジスルフィド(TETD)、ジメチルジチオカルバミン酸亜鉛(ZnMDC)、ジエチルジチオカルバミン酸亜鉛(ZnEDC)、N−シクロヘキシルベンゾチアゾール−2−スルフェンアミド、2−メルカプトベンゾチアゾール、ジベンゾチアゾリルジスルフィド等を挙げることができる。
【0030】
本発明において、上記圧縮ゴム層を形成するためのエチレン−α−オレフィンエラストマー、短繊維及びシリカを含有する配合物は、上述した成分と共に、必要に応じて、カーボンブラック、炭酸カルシウム、タルク等の充填剤、可塑剤、安定剤、加工補助剤、老化防止剤、着色剤等の通常のゴム工業で用いられる種々の薬剤を含有していてもよい。
【0031】
上記圧縮ゴム層を形成するための配合物は、エチレン−α−オレフィンエラストマーを、必要に応じて、上述したような薬剤と共に、ロール、バンバリー等、通常の混合手段を用いて均一に混合することによって得ることができる。
【0032】
本発明の摩擦伝動ベルトにおいて、上記圧縮ゴム層は、かつ、単層構造を有するものである。上記単層構造とは、上記圧縮ゴム層が1層のゴム層のみから形成されていることを意味する。上記単層構造の圧縮ゴム層は、エチレン−α−オレフィンエラストマー、短繊維、シリカ及び必要に応じて他の成分を含有する1種類の配合物を使用して圧縮ゴム層を製造することによって得ることができる。
【0033】
本発明の摩擦伝動ベルトとしては、例えば、上記圧縮ゴム層と、上記圧縮ゴム層に接し、ベルト長手方向に沿って心線が埋設されている接着ゴム層と、上記接着ゴム層と接する上帆布層とから構成されるものを挙げることができる。
また、本発明の摩擦伝動ベルトは、上記接着ゴム層を有しないものであってもよい。
【0034】
上記接着ゴム層を形成するためのゴム成分としては、例えば、上記圧縮ゴム層で用いられるものと同じものを使用することができる。
また接着ゴム層を形成するための配合物は、上記圧縮ゴム層と同様に、上述した他の成分を含有していてもよい。また、上記接着ゴム層を形成するための配合物は、上記圧縮ゴム層と同様の方法により得ることができる。
【0035】
上記上帆布層としては、例えば、綿、ポリアミド、ポリエチレンフタラート、アラミド繊維からなる糸を用いて、平織、綾織、朱子織等に製織した布を用いることができる。
上記心線としては、ポリエステル心線、ナイロン心線、ビニロン心線、アラミド心線等が好適に用いられるが、なかでも、上記ポリエステル心線としてはポリエチレンテレフタレートやポリエチレンナフタレート等が、上記ナイロン心線としては6,6−ナイロン(ポリヘキサメチレンアジパミド)、6ナイロンが好適に用いられる。上記アラミド心線としてはコポリパラフェニレン・3,4′オキシジフェニレン・テレフタルアミドやポリパラフェニレンテレフタルアミドやポリメタフェニレンイソフタルアミド等が好適に用いられる。これらの心線は、レゾルシン−ホルマリン−ラテックス接着剤組成物(以下、RFL接着剤ということがある。)等で接着処理されて、上記接着ゴム層内に埋設されていることが好ましい。
【0036】
本発明の摩擦伝動ベルトは、Vリブドベルト、ローエッジ型ベルト又は平ベルトであることが好ましい。
上記Vリブドベルト、ローエッジ型ベルト及び平ベルトの例を、図1〜3を用いて説明する。
【0037】
図1は、本発明のVリブドベルトの一例の横断面図(ベルト長手方向に直角な面)を示し、ベルトの上面は、単層又は複数層の上帆布層1が形成されており、この内側に隣接して、接着ゴム層3が積層されている。この接着ゴム層3には、繊維コードからなる複数の低伸度の心線2が間隔を置いてベルト長手方向に延びるように埋設されている。更に、この接着ゴム層の内側に隣接して、単層構造を有する圧縮ゴム層5が積層されている。この圧縮ゴム層は、ベルト長手方向に延びるように相互に間隔を有するリブ4に形成されている。圧縮ゴム層5には、その耐側圧性を高めるために、ベルトの幅方向に配向して短繊維6が分散されている。
【0038】
図2は、本発明のローエッジ型ベルトの一例の横断面図を示し、ベルトの上面は、上記と同様に、単層又は複数層の上帆布層1が形成されており、必要に応じて、上ゴム層7が積層され、この内側に隣接して、上記と同様に心線2が埋設された接着ゴム層3が積層され、更に、この内側に隣接して、圧縮ゴム層5が積層されている。多くの場合、圧縮ゴム層5には、その耐側圧性を高めるために、ベルトの幅方向に配向して短繊維6が分散されている。圧縮ゴム層の内側に隣接して通常、単層又は複数層の上帆布層1が積層されている。
図3は、本発明の平ベルトの一例の横断面図を示し、上記と同様、上帆布層1、接着ゴム層3及び単層構造を有する圧縮ゴム層5が積層されている。
【0039】
本発明による摩擦伝動ベルトは、従来より知られている通常の方法によって製造することができる。例えば、Vリブドベルトに例をとれば、表面が平滑な円筒状の成形ドラムの周面に1枚又は複数枚の上帆布と接着ゴム層を形成するためのゴム配合物未加硫シートを巻き付ける。次いで、その上にポリエステル心線を螺旋状にスピニングし、更に、その上に接着ゴム層を形成するためのゴム配合物未加硫シートを巻き付けた後、圧縮ゴム層を形成するためのゴム配合物未加硫シートを巻き付けて積層体とし、これを加硫缶中にて加熱加圧し、加硫して、環状物を得る。次に、この環状物を駆動ロールと従動ロールとの間に掛け渡して、所定の張力の下で走行させながら、これに研削砥石にて表面に複数のリブを形成する。この後、この環状物を更に別の駆動ロールと従動ロールとの間に掛け渡して走行させながら、所定の幅に裁断すれば、製品としてのVリブドベルトを得ることができる。
【0040】
本発明の摩擦伝動ベルトは、圧縮ゴム層が、エチレン−α−オレフィンエラストマー、シリカ及び短繊維を含有し、単層構造を有するものである。このため、ベルトに要する強度を保持し、走行時における亀裂発生を抑制でき、屈曲寿命を保持したままで被水時のベルトスリップ音を改善することができる。また、簡便にベルトを製造することができる。
【発明の効果】
【0041】
本発明の摩擦伝動ベルトは、上記構成からなるものであるため、ベルト被水時に発生するスリップ音が抑制され、かつ屈曲疲労性に優れるものである。また、簡便な作業工程で製造することができるものである。従って、本発明の摩擦伝動ベルトは、自動車用補機(ダイナモ、エヤコン、パワステ等)の駆動用等の動力伝動用ベルトとして好適に適用される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0042】
以下に本発明について実施例を掲げて更に詳しく説明するが、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。また実施例中、「部」、「%」は特に断りのない限り「質量部」、「質量%」を意味する。
【0043】
(実施例1〜5、比較例1、2)
まず、表1に示す配合組成にて構成した圧縮ゴム層用ゴム配合物未加硫シートを作製した。表1の配合組成の値は「質量部」で示す。なお、用いた市販品は、以下のとおりである。
エチレン−プロピレン−ジエンゴム(EPDM):
ノーデルIP4640(エチレン含量55%、ジエン種ENB、デュポンダウエラストマー社製)
クロロプレンゴム(CR):ネオプレンGRT(イオウ変性タイプクロロプレンゴム、デュポンダウエラストマー社製)
カーボンブラック:HAFカーボン(三菱化学社製)
シリカ:トクシールGU(トクヤマ社製)
シランカップリング剤:Si−69(デグサ社製)
軟化剤:サンフレックス2280(パラフィンオイル、日本サン化学社製)
加硫助剤:ステアリン酸(花王社製)、酸化亜鉛(堺化学工業社製)
老化防止剤:ノクラック224(大内新興化学社製)
有機過酸化物:パークミルD(ジクミルパーオキサイド、日本油脂社製)
短繊維:66ナイロン繊維、6de×1mm
【0044】
接着ゴム層については、下記の成分を配合してバンバリーミキサーで混練後、カレンダーロールで圧延し、同様に接着ゴム層用ゴム配合物未加硫シートを作製した。
エチレン−プロピレン−ジエンゴム(エチレン含量56質量%、プロピレン含量36.1質量%、エチリデンノルボルネン(ENB)5.5質量%、ジシクロペンタジエン(DCPD)2.4質量%、ムーニー粘度ML1+4(100℃)60) 100質量部
HAFカーボン(三菱化学社製) 50質量部
シリカ(「トクシールGu」、トクヤマ社製) 20質量部
パラフィンオイル(「サンフレックス2280」、日本サン化学社製) 20質量部
加硫剤(オイル硫黄、細井化学社製)3質量部、加硫促進剤(「DM」、大内新興化学社製) 1.4質量部
加硫促進剤(「EZ」、大内新興化学社製) 0.6質量部
加硫促進剤(「TT」、大内新興化学社製) 0.6質量部
加流助剤(ステアリン酸、花王社製) 1質量部
加硫助剤(酸化亜鉛、堺化学工業社製) 5質量部
老化防止剤(「ノクラック224」、大内新興化学社製) 2質量部
老化防止剤(「MB」、大内新興化学社製) 1質量部
粘着付与剤(「石油樹脂クイントンA−100」、日本ゼオン社製) 5質量部
【0045】
伝動ベルトの作製
帆布と上記接着ゴム層用ゴム配合物未加硫シートを、表面が平滑な円筒状の成形ドラムの周辺に巻き付けた後、この上にポリエステル心線(ポリエステルコード、1000デニール、/2×3、上撚り9.5T/10cm(Z)、下撚り2.19T/10cm、帝人社製)を螺旋状にスピニングした。更に、その上に上記接着ゴム層用ゴム配合物未加硫シートを巻き付けた後、圧縮ゴム層用ゴム配合物未加硫シートを巻き付けて積層体とし、これを内庄6kgf/cm、外圧9kgf/cm、温度165℃、時間35分間、加硫缶中にて加熱加圧し、蒸気加硫して、環状物を得た。次いで、この環状物を駆動ロールと従動ロールとからなる第1の駆動システムに取り付けて、所定の張力の下で走行させながら、これに研削砥石にて表面に複数のリブを形成し、この後、この環状物を更に別の駆動ロールと従動ロールとからなる第2の駆動システムに取り付けて、走行させながら、所定の幅に裁断して、リブ数3、周長さ1000mmの製品としてのVリブドベルト(圧縮ゴム層は単層構造)を得た。
【0046】
上記で得られたVリブドベルトのベルト屈曲寿命及びスリップ音について下記の方法で評価した。それぞれの結果を表1に示す。
【0047】
<ベルト屈曲寿命>
図4は、Vリブドベルトの耐久評価用のベルト走行試験機のレイアウトを示す。このベルト走行試験機は、上下に配設されたプーリ径120mmの大径のリブプーリ(上側が従動プーリ11、下側が駆動プーリ12)と、それらの上下方向中間の右方に配されたプーリ径45mmの小径のリブプーリ13とからなる。小径のリブプーリ13は、ベルト巻き付け角度が90°となるように位置付けられている。
上記で得られた各Vリブドベルトについて、3つのリブプーリ11〜13に巻き掛け、且つ834Nのセットウェイトが負荷されるように小径のリブプーリ13を側方に引っ張り、雰囲気温度23℃の下で駆動プーリである下側のリブプーリ12を4900rpmの回転速度で回転させるベルト走行試験を実施した。そして、ベルトが破損するまでの時間を計測し、その時間をベルト屈曲寿命とした。
【0048】
<スリップ音>
図4において、ベルト走行中、駆動プーリ12に注水(2000cc/分)を行った時のスリップ音の有無にて評価した。
【0049】
【表1】

【0050】
表1より、実施例のベルトは、スリップ音がしないか又は「中」で、ベルト屈曲寿命も良好なものであった。しかし、比較例のベルトは、スリップ音、ベルト屈曲寿命について共に良好なものはなかった。また、圧縮ゴム層が単層構造であるため、簡便にベルトを製造することができた。
【産業上の利用可能性】
【0051】
本発明の摩擦伝動ベルトは、自動車用補機(ダイナモ、エヤコン、パワステ等)の駆動用等の動力伝動用ベルトとして好適に適用される。
【図面の簡単な説明】
【0052】
【図1】Vリブドベルトの一例の横断面図を示す。
【図2】ローエッジ型ベルトの一例の横断面図を示す。
【図3】平ベルトの一例の横断面図を示す。
【図4】ベルト走行試験機のレイアウト図を示す。
【符号の説明】
【0053】
1 上帆布層
2 心線
3 接着ゴム層
4 リブ
5 圧縮ゴム層
6 短繊維
7 上ゴム層
11 従動プーリ
12 駆動プーリ
13 リブプーリ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エチレン−α−オレフィンエラストマー、短繊維及びシリカを含有し、かつ、単層構造を有する圧縮ゴム層から構成されることを特徴とする摩擦伝動ベルト。
【請求項2】
短繊維の含有量は、エチレン−α−オレフィンエラストマー100質量部に対して5〜25質量部であり、
シリカの含有量は、エチレン−α−オレフィンエラストマー100質量部に対して5質量部以上60質量部未満であり、かつ、
短繊維及びシリカの合計含有量は、エチレン−α−オレフィンエラストマー100質量部に対して30〜65質量部である
請求項1記載の摩擦伝動ベルト。
【請求項3】
摩擦伝動ベルトは、Vリブドベルト、ローエッジ型ベルト又は平ベルトである請求項1又は2記載の摩擦伝動ベルト。



【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2006−194322(P2006−194322A)
【公開日】平成18年7月27日(2006.7.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−5498(P2005−5498)
【出願日】平成17年1月12日(2005.1.12)
【出願人】(000005061)バンドー化学株式会社 (429)