説明

摩擦抵抗測定キットおよび摩擦抵抗測定方法

【課題】実際の歩行環境により即した詳細な評価を、容易かつ低コストにて行うことができ、その他にも2つの部材の相対的な摩擦抵抗の測定に使用することができる摩擦抵抗測定キットおよび摩擦抵抗測定方法を提供すること。
【解決手段】平坦面とシート材との摩擦抵抗を測定する摩擦抵抗測定キットであって、傾斜面12aを有し平坦面上に設置される傾斜台10と、傾斜台10の傾斜面12aに沿って落下させる錘20と、シート材30と、平坦面上における傾斜台10の近傍にシート材30を介して設置される荷重測定器40とを備え、荷重測定器40は、傾斜台10の傾斜面12aに沿って落下する錘20と衝突する当接部42と、錘20から当接部42に加えられた最大荷重を平坦面とシート材30との摩擦抵抗値として測定する測定部と、測定部にて測定された最大荷重を表示する表示部43とを具備することを特徴とする摩擦抵抗測定キット。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、平坦面とシート材との摩擦抵抗を測定する摩擦抵抗測定キットおよび摩擦抵抗測定方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
建物の内部や周囲を土足で歩行する人工的に設けられた歩行面、裸足で歩く浴室床面等は、水分や油分が付着すると滑り易くなり、滑りやすくなった歩行面を歩行者が歩くと転倒事故がしばしば生じている。よって、不特定多数の歩行者が歩行する歩行面を所有する所有者または管理する管理会社等は、転倒事故を防止するための必要性を迫られている。
そのため、まず、歩行面が歩行者にとってどの程度滑り易いのかを調べる必要があるが、我が国ではその規定がないため、従来は被験者(測定者)が実際に歩行面を歩いて滑り易さを体感することにより評価することが一般的であった。しかし、この方法では、同一の歩行面であっても被験者によって滑り易さの評価にばらつきがあるため、客観的に評価することができず、また多段階で評価することも困難であった。
【0003】
歩行面の滑り具合(滑り度合い)を客観的に測定する装置として、例えば、英国振り子試験器(英国WESSEX社製の「スキッドレジスタンステスタ」)が挙げられ、これはアメリカ規格の「英国振り子試験器を使用する表面摩擦特性測定に関する標準方法(ASTM E303−83)」に採用されており、日本では株式会社トキメック自動建機が販売している(非特許文献1参照)。なお、この測定器具による測定結果は、摩擦抵抗等を評価する他の評価方法とは無関係である。
【0004】
英国振り子試験器による摩擦特性の測定の概要は、まず、この振り子試験器を摩擦特性を測定したいあるいは滑り易さの評価を実施したい歩行面上に設置し、振り子先端にゴム製スライダを取り付けた振り子アームを水平位置にセットし、解除ボタンを押すことにより振り子アームをスウィングさせ、ゴム製スライダを歩行面に摺接させる。そして、スタート位置とは90°以上反対側へスウィングした振り子アームの最高位置がBPN値としてポインタにて表示される。歩行面の摩擦抵抗が大きい程、振り子アームのスウィングは小さくなり、BPN値は大きくなる。
そして、同一の設置位置での測定を複数回行ってそれらの平均値を取り、歩行面の周辺箇所でも同様に測定し、複数箇所での平均値を取ることによって、測定対象範囲の測定値を求めることができる。
【非特許文献1】株式会社トキメック自動建機のホームページ、インターネット<URL:http://www.tokimec.co.jp/const/j/index.html>
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、英国振り子試験器は非常に高価であるため、歩行面の滑り易さを評価するコストが高くついてしまい、歩行面滑り易さ評価を広く実施する上での障害となる。
また、この英国振り子試験器は、本来、舗装路面に対する自動車のタイヤのスリップ事故防止を目的に開発されたものと思われ、ゴム製スライダにはRoad Research Laboratory(道路調査研究所)の条件に合致する天然ゴム、または規格E-501に規定される通りの合成ゴムが使用されなければならない。
したがって、英国振り子試験器は、例えば、同一歩行面での乾燥した時と濡れた時の滑り易さの相対的な評価はできるが、歩行面が濡れた時に歩行者の履物の種類によって歩行面がどの程度滑り易さが変わるのかということや、歩行面および履物の材質による摩擦抵抗の関係など、実際の歩行環境により即した詳細な評価をするには不向きである。
【0006】
そこで、本発明は、実際の歩行環境により即した詳細な評価を、容易かつ低コストにて行うことができ、その他にも2つの部材の相対的な摩擦抵抗の測定に使用することができる摩擦抵抗測定キットおよび摩擦抵抗測定方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
かくして、本発明によれば、平坦面とシート材との摩擦抵抗を測定する摩擦抵抗測定キットであって、傾斜面を有し前記平坦面上に設置される傾斜台と、前記傾斜台の傾斜面に沿って落下させる錘と、前記シート材と、平坦面上における前記傾斜台の近傍にシート材を介して設置される荷重測定器とを備え、前記荷重測定器は、前記傾斜台の傾斜面に沿って落下する前記錘と衝突する当接部と、錘から当接部に加えられた最大荷重を平坦面とシート材との摩擦抵抗値として測定する測定部と、該測定部にて測定された最大荷重を表示する表示部とを具備する摩擦抵抗測定キットが提供される。
【0008】
また、本発明の別の観点によれば、平坦面とシート材との摩擦抵抗を測定する摩擦抵抗測定方法であって、前記平坦面上に傾斜台を設置し、かつ前記平坦面上における前記傾斜台の近傍にシート材を介して荷重測定器を設置し、傾斜台の傾斜面に沿って錘を落下させて前記荷重測定器の当接部に衝突させることにより、荷重測定器によって錘から荷重測定器に加えられた最大荷重を平坦面とシート材との摩擦抵抗値として測定しかつ表示させる摩擦抵抗測定方法が提供される。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、傾斜台、錘、シート材および荷重測定器という簡素な道具を用いて、被測定対象である平坦面とシート材の相対的な摩擦抵抗を客観的に容易かつ低コストにて測定することができる。
また、本発明は、平坦面とシート材の組み合わせにより、様々な物品の摩擦抵抗測定が可能であるため、利用範囲が極めて広い。
例えば、平坦面としての歩行面と、シート材としての履物の底部材との組み合わせでは、歩行面と履物の底部材との相対的な摩擦抵抗を調べることができ、これによって履物に対する歩行面の滑り易さ、および歩行面に対する履物の滑り易さを調べることができ、歩行面を滑り難くする滑り防止薬剤の開発および効果の検証、滑り難い履物の底部材の開発および効果の検証などに本発明を使用することができる。
さらに、本発明によれば、荷重測定器が錘と衝突することにより移動するため、その移動の程度によって視覚的に瞬時に大凡の滑り易さを判断することができる利点もある。
また、本発明によれば、容易に測定場所へと摩擦抵抗測定キットを持ち運ぶ事ができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明の摩擦抵抗測定キットは、平坦面とシート材との摩擦抵抗を測定する摩擦抵抗測定キットであって、傾斜面を有し前記平坦面上に設置される傾斜台と、前記傾斜台の傾斜面に沿って落下させる錘と、前記シート材と、平坦面上における前記傾斜台の近傍にシート材を介して設置される荷重測定器とを備え、前記荷重測定器は、前記傾斜台の傾斜面に沿って落下する前記錘と衝突する当接部と、錘から当接部に加えられた最大荷重を平坦面とシート材との摩擦抵抗値として測定する測定部と、該測定部にて測定された最大荷重を表示する表示部とを具備することを特徴とする。
【0011】
本発明において、「平坦面」とは、シート材との摩擦抵抗が評価されるべき一方の被測定対象物であって、特に限定されるものではない。また、「シート材」とは、平坦面との摩擦抵抗が評価されるべき他方の被測定対象物であって、特に限定されるものではない。
本発明の摩擦抵抗測定キットは、例えば、歩行面の滑り易さを評価する測定キットとして好適である。
【0012】
この場合、「平坦面」としては、例えば、履物を履いた歩行者または素足の歩行者が歩く歩行面、すなわち、歩行面を形成する歩行面形成材の平坦面が挙げられる。また、「歩行面」としては、建造物の内外を問わず人が一般に歩行する面であり、例えば、建造物のエントランス、アプローチ、ロビー、廊下の床面、階段の踏み板(踏み面)、スロープ、厨房の床面、浴室・浴場の床面、浴槽の底面、プールサイドの床面、大型商業施設や駅等のコンコース、建物周辺の公開空地、スポーツ関連施設のトラックやテニスコートなど、人工的に設けられた面が挙げられる。
このような歩行面を形成する歩行面形成材としては、例えば、タイル(磁器タイル、陶器タイル等)、石材(大理石、花崗岩等)のような無機材質、木材、ゴム、塩化ビニル、コンポジションのような有機材質などが挙げられる。
なお、本発明において、歩行面形成材は、実際に敷設されて歩行面を形成しているものでも、未使用のものでもよい。
【0013】
一方、歩行面との摩擦抵抗が測定されるべき「シート材」としては、例えば、前記歩行面を歩く歩行者の履物の底部材が挙げられ、「履物の底部材」としては、靴、サンダル、ビーチサンダル、スリッパ、長靴等の歩行面と接触する履物の底部材、天然ゴム、クロロプレンゴム、ニトリルゴム、シリコンゴム、フッ素ゴム等のゴム材質、天然皮革、合成皮革、ポリウレタンといった高分子化合物からなるシートが挙げられる。
また、例えば、素足で歩行する場合を想定したシート材としては、人工皮膚といった合成皮革からなるシートが挙げられる。
【0014】
また、本発明の摩擦抵抗測定キットは、2つの部材の相対的な摩擦抵抗を測定することができるため、例えば、歩行面用滑り止め薬剤の評価、歩行面に対して滑り難い履物の底部材の開発、機械の相互に摺接する静止部と可動部の摩擦抵抗を低減するために摺接部分の表面処理をした後の摩擦低減効果および効果持続性の評価、新素材の摩擦抵抗測定等に使用することもできる。
【0015】
さらに、本発明の摩擦抵抗測定キットは、荷重測定器にて測定した最大荷重(摩擦抵抗)を評価する評価表を具備していてもよい。この評価表は、主として、錘の重量、傾斜面の傾斜角度、錘が荷重測定器に当たるまでの走行距離の組み合わせで得られた最大荷重が、どの程度の平坦面とシート材の相対的な滑り易さを意味するものであるのかを示す表である。これについて、詳しくは後述する。
以下、本発明の実施形態の一例として、歩行面滑り易さの判定用の摩擦抵抗測定キットおよび摩擦抵抗測定方法について図面を参照しながら詳説する。
【0016】
(実施形態1)
図1は本発明の摩擦抵抗測定キットの実施形態1を示す使用状態の一部断面図であり、図2は図1に示す摩擦抵抗測定キットの平面図である。
この摩擦抵抗測定キットは、傾斜台10と、球形の錘20と、シート材30と、荷重測定器40と、シート材30を荷重測定器40の下面に着脱可能に装着するための装着具としての面状ファスナ51(図3参照)とを備える。また、図示しないが、摩擦抵抗測定キットは、上述の評価表も具備している。
【0017】
<傾斜台>
傾斜台10は、平面視コの字形の基板部11と、基板部11の切欠き部分の上方に傾斜状に配置された長方形板状の傾斜板部12と、傾斜板部12を基板部11上に所定の傾斜角度で固定する連結部13と、傾斜板部12の傾斜面12a上に取り付けられて錘20を傾斜面12aに沿って直線的に落下させるようにガイドする一対のガイド部材14とを有し、一方の被測定対象である歩行面F上に設置される。
傾斜台10は、例えば、外力による変形や破損がし難ければ、その材質は特に限定されるものではなく、例えば、鉄、ステンレス等の金属、ポリ塩化ビニル、ポリプロピレン、ポリエチレン、フッ素樹脂等のプラスチックまたは高分子化合物にて作製することができる。
【0018】
一対のガイド部材14は、球形の錘20の直径より僅かに広い間隔で、かつ傾斜面12aの左右幅方向のほぼ中間位置に垂直に起立した状態で対向している。この一対のガイド部材14によって、傾斜面12a上に錘20が直線的に転落するためのコースが形成され、それによって常に一定の荷重を荷重測定器40に与えることができるようにしている。
また、傾斜面12aの上部には、錘20のセット位置となる浅い球面状凹部12bが形成されている。なお、この球面状凹部12bの代りに、傾斜面12aの上部に、錘20のスタート位置を決める位置決め片12cをガイド部材14に形成してもよい(図5参照)。
【0019】
この傾斜台10は、傾斜板部12の傾斜面12aの下端と、基板部11の中間部の上面11aとが近接しているため、傾斜面12aを転がり落ちる錘20は基板部11の上面11aへ直進を維持しながら飛び跳ねることなくスムーズに移動することができる。基板部11の上面11aに対する傾斜面12aの傾斜角度θとしては、5〜85°の範囲とすることができるが、錘20の適度な荷重(運動エネルギー)を荷重測定器40へ効率よく伝えるのには10〜60°が好ましく、20〜50°がより好ましい。
なお、錘20によって荷重測定器40へ加える最大荷重としては、荷重測定器40が高精度に測定可能な荷重範囲内であればよい。
【0020】
<錘>
錘20は、一定角度および一定距離を走行して一定荷重を荷重測定器40に加える必要がある。そのため、錘20は、測定器40との衝突や不意に歩行面へ落としても変形せず、かつ破損して重量変化してしまわない強度および硬度を有するものが好ましく、例えば、鉄、ステンレス、チタン、銅等の金属からなるものが好適である。
また、錘20の重量は、荷重測定器40が高精度に測定可能な荷重範囲、傾斜台10の傾斜面12aの傾斜角度θ、傾斜台10を転落する錘20が測定器40に当たるまでの走行距離等を考慮した上で設定すればよく、例えば、50〜5000gとすることができ、作業性、携帯性の面から100〜2000gが好ましい。
【0021】
また、錘20は、歩行面Fの材質、シート材30の材質等によって大きく異なる摩擦抵抗に応じて適宜選択できるよう、重量が異なる複数種類が備えられてもよい。例えば、摩擦抵抗が小さいと予測される被測定対象に対しては軽い錘を使用すれば最大荷重を小さくすることができ、反対に、摩擦抵抗が大きいと予測される被測定対象に対しては重い錘を使用すれば最大荷重を大きくすることができ、共通の傾斜台10を用いて(傾斜角度θを変えることなく)荷重測定器40に加える最大荷重を増減することができる。このようにすれば、荷重測定器40に過剰な荷重をかけずに済み、荷重測定器40への負担を低減することができる。
そのため、錘20は、例えば、100〜1000gもしくは100〜2000gの範囲内で100g単位で重量が異なる10もしくは20種類が用意されていてもよい。この場合、同一の歩行面Fおよびシート材30であっても錘20の重量によって荷重測定器40が示す最大荷重値が変化するため、滑り易さ判定の際には使用した錘20の重量を考慮する必要がある。なお、これについて詳しくは後述する。
【0022】
また、錘20の形状としては、余計な抵抗を受けることが無く傾斜台10の傾斜面12aの上を滑走できるように表面が滑らかな形状が好ましく、このような形状としては球形または円柱形等が挙げられ、実施形態1では球形の錘20を例示している。
【0023】
<シート材>
実施形態1の場合、シート材30としては、靴、サンダル、ビーチサンダル、スリッパ、長靴、下駄、足袋等の歩行面と接触する各種の履物の底部材が用いられる。このような履物の底部材は、市販の履物を分解したものあるいは履物メーカーから取り寄せた素材を使用することができる。
このように、各種履物の底部材をシート材30として用いる理由は、実際の歩行環境に応じた歩行面と履物の底部材の摩擦抵抗値を測定するためであり、一方の被測定対象である歩行面を歩く歩行者が履いている履物と同種の底部材を、他方の被測定対象であるシート材30として選択することができる。
シート材30として、実際の履物の底部材の替わりとしては、例えば、天然ゴム、クロロプレンゴム、ニトリルゴム、シリコンゴム、フッ素ゴム等のゴム材質、天然皮革、合成皮革、ポリウレタンといった高分子化合物からなるシートや、木、綿、笹の葉等の草類からなるシートを用いることができる。
このシート材30は、傾斜台10、錘20および荷重測定器40の1セットに対して、複数種類が備えられていてもよい。
【0024】
このシート材30は、歩行面Fとの接触面積を一定とするために所定サイズに決められており、例えば、荷重測定器40の下面に取り付けてもはみ出さないサイズである。なお、履物の底部材の多くは、歩行面との接触面に各種形状の滑り止め用凹凸パターンを有しているため、厳密には底部材の種類によって接触面積は異なるが、本発明ではサイズを一定とすることにより接触面積を一定にするとみなしている。
また、シート材30の厚みは特に限定されないが、各種のシート材30が一定重量となるような厚みとすることが好ましい。
【0025】
<荷重測定器>
荷重測定器40は、歩行面F上における傾斜台10の近傍にシート材30を介して設置される。
この荷重測定器40は、測定器本体41と、傾斜台10の傾斜面12aに沿って落下する錘20と衝突する当接部42と、錘20から当接部42に加えられた最大荷重を歩行面Fとシート材30との摩擦抵抗値として測定する測定部と、測定部にて測定された最大荷重を表示する表示部43と、荷重測定器40をON/OFFさせる電源スイッチと、図示しない電源(バッテリ)とを備えている。
【0026】
測定器本体41は、直方体形であり、内部に前記測定部および電源が内蔵されている。
当接部42は、測定器本体41の長手方向一端面から垂直方向に突出した軸部42aと、軸部42aの先端に連設されて錘20を受ける受部42bとを有し、受部42bは測定器本体41の一端面と略平行な受面を有している。なお、この受面は凹面状であってもよい。
また、受部42の軸部42aとの接合部分は、受面に加わった荷重を軸部42aに確実に伝え、かつ接合部分の強度を確保するために、受面全体から軸部42aへ集束する形状に形成されていてもよい。
【0027】
この荷重測定器40は、当接部42の受面に荷重が加わることにより、その最大荷重のみを表示するものであり、荷重が断続的に加わっても最大荷重より小さい荷重は表示されない。最大荷重は、例えば、ニュートン(N)、ダイン(dyn)、重量キログラム(kgw)、重量ポンド(lbw)、パウンダル(pdl)を単位として表示部にて数値が表示される。なお、所望の単位表示に切り替え可能なように荷重測定器40を構成してもよく、表示部にて複数の単位表示ができるように構成してもよい。
なお、荷重測定器40は、市販品として例えば、株式会社エー・アンド・デー社製のデジタルフォースゲージを用いることができる。
【0028】
<装着具>
図3に示すように、装着具は、荷重測定器40の下面にシート材30を着脱可能に装着するものであり、例えば、面状ファスナ51と、両面テープ52とから構成される。
面状ファスナ51は、基材の一面に多数のフック状繊維が設けられたフック部51aと、他の基材の一面に多数のループ部状繊維が設けられたループ部51bとからなる。
実施形態1の場合、フック部51aの基材の他面に両面テープ52が貼り付けられ、シート材30の歩行面と接触しない非接触面30aに両面テープ52を介してフック部51aが貼り付けられている。また、ループ部51bの基材の他面に両面テープ52が貼り付けられ、荷重測定器40の下面41a(表示部43と反対側の面)に両面テープ52を介してループ部51bが貼り付けられている。
【0029】
そして、シート材30側のフック部51aと荷重測定器40側のループ部51bとを圧接させることにより、フック部51aのフック状繊維がループ部51bのループ状繊維に引っ掛かり、それによってシート材30が荷重測定器40に固定される。
この装着具は、シート材30を荷重測定器40の下面に安定してかつ強固に取り付けることができれば、シート材30と荷重測定器40との間の1箇所に配置されていればよいが、複数箇所に配置されてもよい。
摩擦抵抗測定キットが装着具を備えることによって、摩耗して正確な測定に使用できなくなったシート材30を新しいものと容易に交換することができる。また、歩行環境に応じた種類のシート材30を荷重測定器40に付け替えることも容易となる。
【0030】
また、装着具としては、面状ファスナ51を省略し、両面テープ52のみで荷重測定器40とシート材30とを直接接着してもよい。
【0031】
<評価表>
実施形態1において、ある歩行面Fの滑り易さを判定する際、錘20は所定重量のものが1つ選択され、シート材30は歩行面Fに応じたものが1つ選択され、傾斜台10の傾斜板部12は所定の傾斜角度θに固定されており、錘20の走行距離は傾斜面12aの球面状凹部12bから所定のセット位置にセットされた荷重測定器40の当接部42までの距離である。つまり、歩行面Fの種類、錘20の重量、シート材30の種類、傾斜面12aの傾斜角度θ、錘20が荷重測定器40に当たるまでの走行距離の組み合わせ(測定条件)は1通りである。
【0032】
したがって、評価表には、所定の測定条件のときの荷重測定器40にて測定した最大荷重が、どの程度の歩行面Fとシート材30の相対的な滑り易さを意味するものであるのかを示しており、錘20の重量およびシート材30の種類を変えた組み合わせ(測定条件)の場合の最大荷重の滑り易さ判定基準が示されていることが好ましい。
つまり、例えば、荷重測定器40が最大荷重を単位ニュートン(N)で表示する場合、「滑り易い」と「滑り難い」の境界値となる判定基準値(単位:ニュートン)が、所定の測定条件と共に評価表に記されており、各種測定条件とその判定基準値が記載されていることが好ましい。なお、評価表には、複数の単位で最大荷重が記されていてもよい。
【0033】
このように、評価表に、上述のように各種測定条件と、測定条件に応じた評価基準値が記載されていれば、滑り易さを判断したい歩行面Fに適した測定条件(錘20の重量およびシート材30の種類)を悩まずに選択することができるため、評価表はこの摩擦抵抗測定キットを使用する使用者にとってのマニュアルになり、かつデータベースとなる。
例えば、建造物の床材とプールサイドの床材とでは、床材の材質および歩行者の履物が全く異なるため、建造物の床材の場合はシート材A(例えば革靴の底部材)および500〜1000gの錘を選択し、プールサイドの床材の場合はシート材B(例えばビーチサンダルの底部材)および500〜1000gの錘を選択した場合の測定条件および評価基準値が、評価表に記載されている。また、浴室、浴場、浴槽の底面などの滑り易さを調べる場合は、シート材として非値の肌に近い天然皮革または合成皮革を選択した測定条件および評価基準値が評価表に記載されている。
なお、本発明において、歩行面形成材の種類とシート材の種類は必ず適合させなければならないというものではなく、評価表で示された適合はあくまで目安となるものである。
【0034】
<判定基準の決定方法>
本発明において、最大荷重が所定値(N)未満の場合は滑り易く、所定値(N)以上の場合は滑り難いとする判定は、例えば、アメリカ規格のASTM E303-83に基いている。
ASTM E303-83によれば、英国振り子試験器を用いて被測定対象物である平坦面(例えば、床面)を複数回測定し、測定数値(単位:BPN)の平均値をその平坦面の滑り具合(滑り度合い)とみなし、25BPN未満であれば滑り易いと判定し、25BPN以上であれば滑り難いと判定している。
【0035】
本発明において、例えば、歩行面の滑り易さを評価する判定基準を決定する際、まず、判定基準決定用の歩行面形成材を用意する。判定基準決定用の歩行面形成材(以下、基準歩行面材と略称する)としては、タイル(磁器タイル、陶器タイル等)、石材(大理石、花崗岩等)のような無機材質、木材、ゴム、塩化ビニル、コンポジションのような有機材質、ラッピングフィルムのような高分子材質シートにミクロングレードの精密粒度管理された酸化アルミニウムや酸化クロム等の砥粒がコーティングされたものなどからなる平板を採用することができ、複数種類の歩行面形成材についての判定基準を取得することが好ましい。
【0036】
次に、英国WESSEX社製の「スキッドレジスタンステスタ」を用い、ASTM E303-83に準拠して、基準歩行面材の滑り易さを測定し、ASTM E303-83で規定されている「滑り易い」と「滑り難い」の境界となる表面摩擦抵抗が約25BPNのときの表面状態を有する基準歩行面材を取得する。このときの基準歩行面材が、本発明の摩擦抵抗測定キットの判定基準標本となる。
この際、何の表面処理もしていない乾燥した基準歩行面材の表面摩擦抵抗が約25BPNであることは稀である。そのため、基準歩行面材の表面摩擦抵抗が約25BPNとなるまで、基準歩行面材の表面状態を少しずつ変化させる。
【0037】
例えば、基準歩行面材の表面をスリップ処理し、スリップ処理した基準歩行面材を用いて滑り易さを複数回測定していく。初めは、スリップ処理の効果により、測定結果は25BPNよりも低い数値が示される。したがって、スリップ処理した基準歩行面材の表面を均一に、例えば布やブラシで擦って少しずつスリップ効果を弱めていき、表面摩擦抵抗が約25BPNとなったところで測定を終了し、その時点の基準歩行面材を本発明の摩擦抵抗測定キットの判定基準標本とする。
なお、スリップ処理は、基準歩行面材の表面に、例えば、植物性油、動物性油等の油類の塗布による油膜形成処理、エポキシ樹脂、ポリアクリル酸等の塗布によるポリマーコーティング処理、微小粒子等の固体の散布、または微粒子の研磨剤を使用した表面研磨処理により行うことができる。
【0038】
次に、判定基準標本となった歩行面材(以下、歩行面材標本と称する)を用いて、本発明の摩擦抵抗測定キットの判定基準を次のようにして決定する。
まず、歩行面材標本と摩擦させるための判定基準決標本となるシート材(以下、シート材標本)を用意する。このシート材標本としては、例えば、革靴、ハイヒールシューズ、運動靴などの底部材を採用することができ、複数種類の底部材をシート材標本として選択してもよい。
次に、所定サイズにカットしたシート材標本を荷重測定器40に取り付け、水平な台上に設置した歩行面材標本上に傾斜台10およびシート材標本を取り付けた荷重測定器40をセットする(図5参照)。なお、セット方法について詳しくは後述する。
【0039】
続いて、錘20を傾斜台10の球面状凹部12bから傾斜面12aを転がして荷重測定器40の当接部42の受部42bに衝突させる。これにより、当接部42に錘20が衝突したときの最大荷重が荷重測定器40により測定され、その数値が表示部に表示される。
この際、歩行面材標本とシート材標本の摩擦抵抗が小さい程、シート材標本は歩行面材標本を滑り易くなるため、錘20との衝突によって瞬間的に荷重測定器40が傾斜台10から離れる方向に移動し、それによって衝撃力が緩和されて当接部42に加わる荷重が減少する傾向にある。反対に、歩行面材標本とシート材標本の摩擦抵抗が大きい程、シート材標本は歩行面材標本を滑り難くなるため、錘20との衝突によっても荷重測定器40が傾斜台10から離れる方向にほとんど移動しなくなり、そのため衝撃力が緩和されず当接部42に加わる荷重が増大する傾向にある。
【0040】
ここで、測定に際しての注意点は、適切な使用した錘20が適切な重量でなかった場合、測定した最大荷重を測定結果として採用すべきでないことである。言い換えると、錘20と衝突した荷重測定器40がある程度(例えば5〜20mm)移動したときの最大荷重を採用しなければならない。つまり、選択した錘20が軽すぎた場合、測定値が適切な値か否か判断することが難しいため、錘20と衝突した荷重測定器40がある程度移動した時の測定値を採用するように統一しておくことで、軽すぎた錘20による誤判定を防止することができる。
重量が異なる複数種類の錘20を取り揃えることは、このように適切な重量の錘20を選択できるようにすることを主たる目的としている。したがって、測定の準備段階として、適正な重量の錘20を選択するために、まず、適当に選択した錘で試して荷重測定器40がある程度移動するか否かを調べることが好ましい。
【0041】
なお、傾斜台10は、傾斜面12aから基板部11の上面11aに錘20が転がるように構成されているが、これは錘20を歩行面Fに転がさないようにするためである。つまり、歩行面Fによっては、表面に細かな溝や凹凸を有しているため、錘20を歩行面Fに転がすと受部42bに対して斜めに向かったり、あるいは凹凸によって錘20が跳ねたりする事態が予測され、このような事態によって高精度な測定が困難となるおそれがあるため、錘20を基板部11の上面11aに転がして荷重測定器40の受部42bへ真っ直ぐに向かわせるためである。
また、錘20を基板部11の上面11aに転がすことにより、水平方向に移動する錘20を荷重測定器40の受部42bに衝突させることができ、高精度な最大荷重を測定することができる。
【0042】
これら歩行面材標本とシート材標本の摩擦抵抗値は、このように最大荷重値として得られ、本発明においては、この最大荷重値(摩擦抵抗値)が「滑り易い」と「滑り難い」の判定基準値(境界値)となる。
この最大荷重値は各種単位で示すと2.5N、2.5×105dyn、0.25kgf、0.56lbf、18pdlであり、本発明ではこれら各種単位の値を、ASTM E303-83に規定する「滑り易い」と「滑り難い」の境界値となる25BPNと同等であるとみなしている。つまり、本発明では、これら各種単位で示された最大荷重値以上であれば「滑り難い」と判定し、最大荷重値未満であれば「滑りやすい」と判定する判定基準を、ASTM E303-83に基いて決定している。
但し、判定基準値は、歩行面Fの種類およびシート材30の種類およびそれらの組み合わせ等によって異なる。したがって、様々な歩行環境により近づいた詳細な滑り易さを判定するには、様々な種類(材質)の歩行面Fとシート材30を組み合わせた場合の判定基準値を取得することが好ましい。
【0043】
<摩擦抵抗測定方法>
【0044】
上述の摩擦抵抗測定キットを用いる摩擦抵抗測定方法では、図1および図2に示すように、まず、滑り易さを測定しようとする歩行面F上に傾斜台10を設置し、かつ歩行面F上における傾斜台10の近傍にシート材30を介して荷重測定器40を設置し、荷重測定器40の電源をONにする。シート材30は、上述のシート材標本自体またはそれと同種のシート材とされる。
この際、例えば、測定器本体41の当接部42側の一端面の位置を、傾斜台10の基板部11の端面の位置に一致させることにより、傾斜台10と荷重測定器40とのセット位置を決定する。また、セット位置では、荷重測定器40の当接部42の軸部42aが、傾斜面12aの錘落下コースの中心延長線上に配置されていることが、落下する錘20からの荷重をダイレクトに軸部42aに伝える上で好ましい。
【0045】
このセット位置は、正確な滑り易さを判定するために、上述の判定基準を決定する際のセット位置と同じである必要がある。また、セット位置は、複数回の測定を行う場合に、錘20の走行距離を毎回同じにするためにも定められている必要がある。
なお、実施形態1では、測定器本体41の当接部42側の一端面の位置と、傾斜台10の基板部11の端面の位置とを一致させたセット位置を例示したが、これに限定されるものではない。
【0046】
傾斜台10および荷重測定器40を歩行面Fに設置した後、錘20を球面状凹部12bの位置に指で押えて設置し、図4に示すように、傾斜台10の傾斜面12aに沿って錘20を落下させて荷重測定器40の当接部42に衝突させることにより、荷重測定器40によって錘20から荷重測定器40に加えられた最大荷重を、歩行面Fとシート材30との摩擦抵抗として測定しかつその数値を表示させる。
その後、1回目の歩行面Fの測定箇所の周辺複数箇所について、同様に測定を行い、それら複数箇所についての最大荷重値の平均値を、歩行面Fの滑り易さの指標となる最大荷重値とする。
そして、その最大荷重値と評価表の評価とを照らし合わせて、歩行面Fの滑り易さを判定する。例えば、最大荷重値が単位ニュートンで表示される場合、2.5N未満であれば歩行面Fは滑り易いと判定し、2.5N以上であれば歩行面Fは滑り難いと判定する。
【0047】
なお、歩行面Fは、乾燥している場合と濡れている場合とでは滑り易さが大きく変化するため、第1段階の測定では乾燥した歩行面Fで測定し、第2段階の測定では、歩行面Fに水を散布して濡れた歩行面Fを測定することが好ましい。そして、乾燥時および濡れ時の少なくとも一方で滑り易いと判定された場合は、その歩行面Fの表面に滑り止め処理を施すことが好ましい。
【0048】
また、本発明による歩行面の滑り易さ判定は、基本的に水平な歩行面Fで行われるが、測定しようとする歩行面Fが傾斜している場合がある。この場合、歩行面Fの傾斜方向に錘20が傾斜面12aを走行する向きに傾斜台10および荷重測定器40を設置すると、歩行面Fの傾斜が大きい程、荷重測定器40にかかる荷重への影響が大きくなり、正確な判定が困難となる。つまり、第1に、傾斜面12aの水平面に対する傾斜角度θが変化してしまうことであるが、これは歩行面Fの傾斜角度分を傾斜台10の傾斜角度θに対して増減して考えることにより解消できる。第2に、例えば、錘20を歩行面Fの傾斜に向かって登る方向に走行させると、水平な歩行面での測定時よりも荷重測定器40が移動し難くなるため最大荷重値が大きく測定され易くなり、反対に、錘20を歩行面Fの傾斜に向かって下る方向に走行させると、水平な歩行面での測定時よりも荷重測定器40が移動し易くなるため最大荷重値が小さく測定され易くなる。
【0049】
よって、歩行面Fの傾斜方向と直交する方向に錘20を走行させる向きに傾斜台10および荷重測定器40を設置すれば、上述の第1および第2の影響はほとんど受けずに滑り易さ判定を行うことができるため好ましい。この場合、ガイド部材14によって錘20は直進走行し、慣性によって基板部11の上面11aを荷重測定器40の当接部42に向かって直進して衝突するため問題はない。このようにすれば、歩行面Fの傾斜がある程度(例えば、5°以下)までは判定にほとんど影響しない。
なお、歩行面Fの傾斜の有無および向きを容易に認識できるよう、コンパクトな水平器が傾斜台10の基板部11の上面11aに取り付けられてもよい。
【0050】
(実施形態2)
実施形態2の摩擦抵抗測定キットは、図5に示すように、実施形態1と概ね同様の構成に加えて、一方の被測定対象である平坦面を形成するための平板60をさらに備えている。なお、図5において、実施形態1と同様の要素には同一の符号を付している。
実施形態2において、傾斜台110は、傾斜板部12上に取り付けられた一対のガイド部材14の上端間に、錘120のスタート位置を決める当接片12cが設けられたこと以外は、実施形態1と同様である。この当接片12cは、例えば、一方のガイド部材14の一部または傾斜板部12の一部として一体的に設けられている。
なお、実施形態2の場合、錘120は、一対のガイド部材14間よりも僅かに薄い厚みを有する一定径の金属製円盤である。
【0051】
実施形態2の摩擦抵抗測定キットは、例えば、歩行面に対して滑り難い履物の底部材を研究開発するために、前記平板60として歩行面形成材が用いられる。歩行面形成材としては、上述のタイル(磁器タイル、陶器タイル等)、石材(大理石、花崗岩等)のような無機材質、木材、ゴム、塩化ビニル、コンポジションのような有機材質、ラッピングフィルムのような高分子材質シートにミクロングレードの精密粒度管理された酸化アルミニウムや酸化クロム等の砥粒がコーティングされたものなどからなる平板を使用することができ、複数種類の歩行面形成材が備えられてもよい。
また、シート材30としては、実施形態1と同様のものに加えて、履物用に研究している新たな素材を用いることができる。
実施形態2において、その他の構成は実施形態1と同様である。
【0052】
この摩擦抵抗測定キットでの摩擦抵抗測定では、図5に示すように、例えば、研究室内の実験台上あるいは床面上に傾斜台110および平板60を設置し、平板60上にシート材20を介して荷重測定器40を設置し、錘120を当接片12cに接触させたスタート位置から傾斜面12a上を転がして荷重測定器40の当接部42に衝突させ、荷重測定器40によってそのときの最大荷重値を測定することによって、平板60とシート材20の摩擦抵抗(滑り易さ)を判定することができる。
この場合も、乾燥時と濡れ時の摩擦抵抗を測定することが好ましい。
【0053】
実施形態2によれば、特定の室内において、各種の歩行面形成材(平板60)とシート材30とを組み合わせた場合の摩擦抵抗値を測定することができるため、特定の歩行面形成材に対する滑り(滑り難さ・滑り易さの両方)に関する履物の底部材の研究開発(材料、滑り防止用凹凸パターン等の研究開発)を効率よく行うことができる。
なお、測定の際、荷重測定器40が錘120との衝突によって移動し、それに伴って平板60が動くようであれば、平板60を動かないように固定する必要がある。
【0054】
(実施形態3)
図6(A)は実施形態3の摩擦抵抗測定キットの傾斜台を示す側面図であり、図6(B)は図6(A)に示す傾斜台の断面図である。なお、図6において、実施形態1と同様の要素には同一の符号を付している。
実施形態3は、傾斜台210が傾斜板部12の傾斜角度θを変更可能に構成されたものである。また、実施形態3の評価表は、複数の傾斜角度(例えば10°〜65°の範囲の5°毎)と錘20の重量の組み合わせに対応した評価基準値が記されており、歩行面の種類とシート材の種類がさらに組み合わせた評価基準値が記されていることが好ましい。実施形態3において、その他の構成は実施形態1と同様である。
【0055】
実施形態3の傾斜台210は、実施形態1と同様の基板部11と傾斜板部12と一対のガイド部材14を有し、さらに、ヒンジ部材115と、一対の支持壁部116と、角度調整部117とを有している。
ヒンジ部115は、傾斜板部12の上端側を上下方向に揺動可能なように、傾斜板部12の下端面と基板部11の上面11aとを連結しており、一対のガイド部材14の両側2箇所に設けられている。
各支持壁部116は、L字形の板材であり、傾斜板部12の両側に配置されて基板部11の上面に取り付けられている。また、各支持壁部116には、円弧状スリット116aが形成されると共に、少なくとも一方の支持壁部116の外面における円弧状スリット116aの周辺には、基板部11の上面11aに対する傾斜板部112の傾斜面12aの傾斜角度θを表示する目盛りが付されている。実施形態3の場合、目盛りは、10°〜65°の範囲の5°毎に付されている。
【0056】
角度調整部117は、両端に雄ネジ部を有し一対の支持壁部116の各円弧状スリット116aに水平状に通される1本の支持バー117aと、支持バー117aにおける各支持壁部116の内面近傍位置に固着された固定ブロック117b(例えばナット)と、支持バー117aにおける各支持壁部116から外側に突出した雄ネジ部に取り付けられる座金117cおよび蝶ナット117dとを備え、支持バー117aにて傾斜状態の傾斜板部112を支持している。
【0057】
このように構成された傾斜台210によれば、一対の蝶ナット117を緩めることにより、支持バー117aは自由に円弧状スリット116aに沿って移動することができる。よって、角度調整の際は、支持バー117aの高さ位置を調整することによって傾斜面12aの傾斜角度θを所望の角度に調整し、その位置で各蝶ナット117dを締め付けることによって、座金117cを介して蝶ナット117dと固定ブロック117bとで支持壁部116を挟圧し、それによって支持バー117aが所定高さに固定され、傾斜板部12が所定角度に維持される。
【0058】
実施形態3によれば、錘20の重量の選択に加えて、傾斜面12aの傾斜角度θの増減調整によって、錘20の重量と傾斜角度の組み合わせが可能となる。また、同一の錘20であっても、傾斜角度θを変化させることにより荷重測定器40へ加える荷重を変化させることができる。これにより、非常に滑り易い又は滑り難い歩行面・靴底等の幅広い条件の摩擦抵抗の測定を容易に実施することが出来るようになる。
実施形態1では、傾斜面12aの傾斜角度θ(図1参照)が一定であるため、適正な重量の錘20を選択することで、錘との衝突時に荷重測定器40がある程度移動させて適正な測定結果を取得している。
これに対し、実施形態3では、実施形態1と同様にも行えるが、さらに、傾斜面12aの傾斜角度θを調整することによって、適当に選択した錘20でも、錘との衝突時に荷重測定器40がある程度移動させて適正な測定結果を取得することができる。
【0059】
(実施形態4)
実施形態4は、重量が異なる複数の荷重測定器40を備えたものであり、重量が、例えば500g〜3000gの範囲の500g毎の6種類の荷重測定器40を備える。つまり、実施形態4では、荷重測定器40の重量を調整できるようにしている。この場合、例えば、同一の荷重測定器40を6個用意し、500g〜3000gの範囲の500g毎の6種類の板形の重量調整用錘を1つずつ各荷重測定器40の上面または下面に一体的に接着する。
あるいは、1つの荷重測定器40に、前記複数種類の重量調整用錘を着脱可能に装着してもよい。この場合、選択した重量の重量調整用錘を、例えば両面テープにて荷重測定器40の上面または下面に貼り付ける。
【0060】
また、実施形態4において、評価表は、荷重測定器40の重量、錘20の重量および傾斜面12aの傾斜角度θの組み合わせに対応した評価基準値が記されており、歩行面の種類とシート材の種類がさらに組み合わされた評価基準値が記されていることが好ましい。実施形態4において、その他の構成は実施形態1〜3と同様である。
【0061】
実施形態4によれば、錘20の重量、傾斜面12aの傾斜角度θの選択に加えて、荷重測定器40の重量の増減調整によって、錘20の重量と傾斜角度θおよび荷重測定器40の重量の組み合わせが可能となる。また、同一の錘20や傾斜角度θであっても、荷重測定器40の重量を変化させることにより、より滑り易さを判定できる範囲が広くなる。
実施形態1では、傾斜面12aの傾斜角度θ(図1参照)が一定であるため、適正な重量の錘20を選択することで、錘との衝突時に荷重測定器40をある程度移動させることで適正な測定結果を取得している。また実施形態3では、傾斜面12aの傾斜角度θを調整することによって、適当に選択した錘20でも、錘との衝突時に荷重測定器40をある程度移動させて測定結果を得る。
これに対し、実施形態4では実施形態1および実施形態3と同様にも行えるが、さらに、荷重測定器40の重量を変化させることによって適正な測定結果を取得することができる。
【0062】
(他の実施形態)
1.実施形態1では、面状ファスナ51および両面テープ52を用いた装着具にてシート材30を荷重測定器40に着脱可能に取り付けた場合を例示したが、シート材30が荷重測定器40に対して容易にずれたり剥がれたりしないのであれば、両面テープあるいはゲル状のエラストマーシートのみでシート材30を荷重測定器40に取り付けてもよい。
また、シート材30を頻繁に交換する必要がないのであれば、接着剤を用いてシート材30を荷重測定器40に固定してもよい。
2.実施形態1〜4では、錘20が傾斜面12aを真っ直ぐに落下できるようガイドするガイド部材14を設けた場合を例示したが、ガイド部材を省略し、底面が湾曲または平坦なガイド溝を傾斜面12aにストレートに形成してもよい。
3.実施形態3における傾斜台210の傾斜面12aの傾斜角度θは、角度調整部117の支持バー117aを直接手で持って上げ下げすることにより行われるが、例えば、支持バーをジャッキ機構を用いて上げ下げするように構成してもよい。
4.各実施形態は組み合わせ可能であり、例えば、傾斜角度を調整可能な傾斜台210を有する実施形態3の摩擦抵抗測定キットが、実施形態2における平板60を具備してもよい。
5.実施形態1〜4では、荷重測定器40の受部42bは測定器本体41の一端面と略平行な受面を有している形状であるが、この形状が凹面状であってもよい。また、受部42bの形状を変更可能とするために、軸部42aがネジ型等で接合できる形状となっていてもよい。
【実施例】
【0063】
歩行面モデル(以下、歩行面モデルAと称する)として、珪素を主成分とする29cm×29cmの大きさの乳白色磁器タイル(INAX社製)を用意した。
また、滑り止め処理した歩行面モデル(以下、歩行面モデルBと称する)として、前記歩行面モデルAの表面に滑り止め薬液5mlを散布して5分間ブラシにて擦りつけ、薬液をタイル表面に接触させた後、タイル上に残留する薬液を水で洗い流して乾燥させることにより作製したものを用意した。
滑り止め薬液として、6%の塩酸、8%の硫酸、12%の酸性フッ化アンモン、15%のアルキルグリコール系溶剤(プロピレングリコール)、1%のノニオン系界面活性剤を含有しているものを選択し、これを水で5倍に希釈したものを用いた。なお、滑り止め薬液の散布量5mlは、この薬液を用いて歩行面を滑り止め処理する従来方法の標準的な単位面積あたりの使用量と同等である。
【0064】
(実施例A1)
実施形態3(図5参照)で説明した構成の傾斜角度30°の傾斜台110と、重量1000g、直径70mm、厚さ33mmのステンレス製の円盤形錘120と、荷重測定器40としての株式会社エー・アンド・デー社製のデジタルフォースゲージと、シート材30として面積15000mm2の天然ゴムシートとを用意した。
図5に示すように、実験台上に傾斜台110および乾いた歩行面モデルAを設置し、シート材30を取り付けた荷重測定器40を歩行面モデルA上に設置して電源スイッチをONにした。この際、セット位置から荷重測定器40に衝突するまでの錘120の走行距離を300mmに設定した。
【0065】
その後、錘120を傾斜台110の傾斜面12a上のスタート位置にセットし、錘120を傾斜面12a上に転落させて荷重測定器40の当接部42に衝突させ、その最大荷重を測定し、その結果を表1に示した。また、錘120との衝突によって荷重測定器40が移動した距離を測定し、その結果も表1に示した。
歩行面モデルAの判定では、測定した最大荷重値が2.5N以上の場合を「○:滑り難い」と判定し、2.5N未満の場合を「×:滑り易い」と判定し、その結果も表1に示した。
【0066】
(実施例A2)
歩行面モデルAの表面を水で十分濡らした状態としたこと以外は、実施例A1と同様にして歩行面モデルAの滑り易さを判定し、その結果を表1に示した。
【0067】
(実施例B1)
乾いた歩行面モデルBを用いたこと以外は、実施例A1と同様にして歩行面モデルAの滑り易さを判定し、その結果を表1に示した。
【0068】
(実施例B2)
歩行面モデルBの表面を水で十分濡らした状態としたこと以外は、実施例A1と同様にして歩行面モデルAの滑り易さを判定し、その結果を表1に示した。
【0069】
(比較例A1)
英国WESSEX社製の「スキッドレジスタンステスタ」を用い、ASTM E303-83に準拠して、乾いた歩行面モデルAの滑り易さを判定し、その結果を表1に示した。この場合の判定では、測定した最大荷重値が25BPN以上の場合を「滑り難い」と判定し、25BPN未満の場合を「滑り易い」と判定した。
【0070】
(比較例A2)
歩行面モデルAの表面を水で十分濡らした状態としたこと以外は、比較例A1と同様にして歩行面モデルAの滑り易さを判定し、その結果を表1に示した。
【0071】
(比較例B1)
乾いた歩行面モデルBを用いたこと以外は、比較例A1と同様にして歩行面モデルBの滑り易さを判定し、その結果を表1に示した。
【0072】
(比較例B2)
歩行面モデルBの表面を水で十分濡らした状態としたこと以外は、比較例A1と同様にして歩行面モデルBの滑り易さを判定し、その結果を表1に示した。
【0073】
【表1】

【0074】
滑り止め処理していない歩行面モデルAを用いた実施例A1、A2および比較例A1、A2の結果から、本発明による摩擦抵抗測定方法とASTM E303-83の方法はいずれも、歩行面モデルAが乾いた状態では滑り難く、濡れた状態では滑り易いとの判定であった。
また、滑り止め処理した歩行面モデルBを用いた実施例B1、B2および比較例B1、B2の結果から、本発明による摩擦抵抗測定方法とASTM E303-83の方法はいずれも、歩行面モデルBは乾いた状態でも濡れた状態でも滑り難いとの判定であった。
【0075】
これらのことから、本発明による摩擦抵抗測定方法とASTM E303-83の方法は、歩行面の滑り易さ判定について差がなく、本発明による摩擦抵抗測定方法での滑り易さ判定は有効であり信頼できるものであることが確認できた。
また、本発明による摩擦抵抗測定方法によれば、荷重測定器の移動の程度から歩行面の大凡の滑り易さを目視にて瞬時に判断することができる。しかし、振り子式の測定器を用いるASTM E303-83の方法ではこのような瞬時の判断はできないことも確認できた。
【産業上の利用可能性】
【0076】
本発明は、2つの部材の相対的な摩擦抵抗を測定することができるため、例えば、建造物の内外を問わず人が一般に歩行する歩行面の滑り易さの判定、歩行面用滑り止め薬剤の評価、歩行面に対して滑り難い履物の底部材の開発、機械の相互に摺接する静止部と可動部の摩擦抵抗を低減するために摺接部分の表面処理をした後の摩擦低減効果および効果持続性の評価、新素材の摩擦抵抗測定等に使用することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0077】
【図1】図1は本発明の摩擦抵抗測定キットの実施形態1を示す使用状態の一部断面図である。
【図2】図2は図1に示す摩擦抵抗測定キットの平面図である。
【図3】図3は実施形態1の摩擦抵抗測定キットにおける装着具を示す説明図である。
【図4】図4は実施形態1の摩擦抵抗測定キットの使用状態を示す一部断面図である。
【図5】図5は実施形態2の摩擦抵抗測定キットの使用状態を示す一部断面図である。
【図6】図6(A)は実施形態3の摩擦抵抗測定キットの傾斜台を示す側面図であり、図6(B)は図6(A)に示す傾斜台の断面図である。
【符号の説明】
【0078】
10、110、210 傾斜台
12 傾斜板部
12a 傾斜面
14 ガイド部材
20、120 錘
30 シート材
40 荷重測定器
41 測定器本体
42 当接部
43 表示部
51 面状ファスナ
60 平板
115 ヒンジ部
116 支持壁部
117 角度調整部
F 歩行面
θ 傾斜角度

【特許請求の範囲】
【請求項1】
平坦面とシート材との摩擦抵抗を測定する摩擦抵抗測定キットであって、傾斜面を有し前記平坦面上に設置される傾斜台と、前記傾斜台の傾斜面に沿って落下させる錘と、前記シート材と、平坦面上における前記傾斜台の近傍にシート材を介して設置される荷重測定器とを備え、
前記荷重測定器は、前記傾斜台の傾斜面に沿って落下する前記錘と衝突する当接部と、錘から当接部に加えられた最大荷重を平坦面とシート材との摩擦抵抗値として測定する測定部と、該測定部にて測定された最大荷重を表示する表示部とを具備することを特徴とする摩擦抵抗測定キット。
【請求項2】
前記平坦面が歩行面であり、前記シート材が歩行面と接触する履物の底部材である請求項1に記載の摩擦抵抗測定キット。
【請求項3】
前記シート材を荷重測定器の下面に着脱可能に装着するための装着具をさらに有する請求項1または2に記載の摩擦抵抗測定キット。
【請求項4】
前記平坦面を形成するための標準となる平板をさらに備えた請求項1〜3のいずれか1つに記載の摩擦抵抗測定キット。
【請求項5】
前記平板が歩行面形成材である請求項1〜4のいずれか1つに記載の摩擦抵抗測定キット。
【請求項6】
前記傾斜台が、傾斜面の角度を変更可能に構成された請求項1〜5のいずれか1つに記載の摩擦抵抗測定キット。
【請求項7】
前記錘が球形または円柱形であり、前記傾斜台が傾斜面に沿って錘を直線的に落下させるようにガイドするガイド部材を有する請求項1〜6のいずれか1つに記載の摩擦抵抗測定キット。
【請求項8】
前記荷重測定器にて測定した最大荷重を評価する評価表をさらに備えた請求項1〜7のいずれか1つに記載の摩擦抵抗測定キット。
【請求項9】
平坦面とシート材との摩擦抵抗を測定する摩擦抵抗測定方法であって、前記平坦面上に傾斜台を設置し、かつ前記平坦面上における前記傾斜台の近傍にシート材を介して荷重測定器を設置し、傾斜台の傾斜面に沿って錘を落下させて前記荷重測定器の当接部に衝突させることにより、荷重測定器によって錘から荷重測定器に加えられた最大荷重を平坦面とシート材との摩擦抵抗値として測定しかつ表示させることを特徴とする摩擦抵抗測定方法。
【請求項10】
平坦面としての歩行面上に、前記傾斜台を設置し、かつシート材を介して前記荷重測定器を設置し、歩行面とシート材の摩擦抵抗を測定する請求項9に記載の摩擦抵抗測定方法。
【請求項11】
平坦面として平面を有する歩行面形成材を用意し、この歩行面形成材上に傾斜台を設置し、かつシート材を介して荷重測定器を設置し、歩行面形成材とシート材の摩擦抵抗を測定する請求項9に記載の摩擦抵抗測定方法。
【請求項12】
シート材として履物の底部材を用いる請求項10または11に記載の摩擦抵抗測定方法。
【請求項13】
前記平坦面の種類に応じた履物の底部材を選択する請求項12に記載の摩擦抵抗測定方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate


【公開番号】特開2010−85350(P2010−85350A)
【公開日】平成22年4月15日(2010.4.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−257181(P2008−257181)
【出願日】平成20年10月2日(2008.10.2)
【出願人】(390016540)内外化学製品株式会社 (8)