説明

摩擦攪拌プロセスに用いるツールおよび摩擦攪拌プロセス

【課題】摩擦攪拌プロセスで使用するツールに掛ける荷重を減少することができる、形状が単純で寿命の長いツールを提供することである。
【解決手段】ツールの底面に凹み穴を形成して、被処理材の接合時または表面処理時にツール底面が被処理材と接触する実質面積をプロセス条件に応じて減少させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は摩擦攪拌プロセスに用いるツールおよびそのツールを用いた摩擦攪拌プロセス、特に鋳鉄材や鉄鋼材の表面硬化処理に用いるツールに関する。
【背景技術】
【0002】
摩擦攪拌接合は比較的新しい接合法であり、初期においては、アルミニウム合金、マグネシウム合金、銅合金などの接合に向けての研究が進められ、現在までにアルミニウム合金をはじめとする融点の低い軽金属の接合に実用化されている。その後はこれまで接合が困難とされてきた軽金属の鋳物材、複合材、異材接合、さらに鉄鋼材を中心とする高融点材料の接合や接合のメカニズムについての研究に展開しつつある。
【0003】
一方、この摩擦攪拌接合技術は発生する摩擦熱を利用して金属材料の表面改質にも応用されてきており、特許文献1にはその一例が示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2009−077419号公報。
【0005】
摩擦攪拌プロセスは、ツールと呼ばれる工具を接合材または表面改質材に接触させながら回転させて摩擦熱を発生させ、ツールを所定の位置まで材料に圧入させた状態で接合材または改質材料の流動を伴いつつツールを接合方向または改質領域で移動させながら接合また改質を行う方法である。
【0006】
図1は摩擦攪拌プロセスを利用した表面硬化処理法の概略を示しており、表面硬化処理しようとする例えば鋳鉄材のような被処理材1にツール2を加圧状態で接触させながらA 方向に回転させつつB方向に移動させていく。3はツール2に荷重を掛けながら回転、移動する工作機械などの駆動装置である。4はツール2が通過して硬化処理された処理部、5は処理部4が深さ方向に及んでいることを示す。
【0007】
摩擦攪拌プロセスに用いられるツール2は、一般的に、図2に示すように全体が円柱状で、底面に小径の円柱状のプローブ21を有しており、プローブの長さを変化させることにより硬化部の厚さを変化させることが可能である。大径部の下端縁はショルダ2aと呼ばれている。プローブ21の回転により材料に摩擦熱が発生し、材料が攪拌され、その際はみ出た材料をショルダ2aで押さえつけてバリの発生を抑えるようにしている。ツールの形状によって表面処理の状態が大きく変ることがよく知られており、様々な形状のツールが開発されている。
【0008】
一方、摩擦攪拌プロセスを利用して材料の表面を改質する表面改質処理法では、図2に示したツール2のプローブ21のない底面が平坦なツールが実験的に使用されている。
【0009】
いずれの場合も、摩擦攪拌プロセスは、図3に示すように、ツール2を被処理材1の表面に対して移動方向B後方に角度(前進角)θ°だけ傾斜させた状態で白矢印Dで示す方向に荷重を掛けながら、被処理材1に押し付けた状態で図1に矢印Aで示すように回転させながら矢印Bの方向に移動させて行われる。
θはおおむね0〜10°である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかし、この摩擦攪拌接合プロセスを鉄系材料の表面硬化処理に適用するに当たっては、応力の集中を抑え、ツール寿命の長期化を図るためにツール形状の単純化が望ましく、単純な形状、構造で強度がありかつ硬化処理上効率のよいツールが望まれている。
本発明は上記の点にかんがみてなされたもので、比較的単純な形状で、寿命が長くかつ処理効率に優れたツールおよびそのツールを用いた摩擦攪拌プロセスを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するために、本発明は、摩擦攪拌プロセスに用いるツールの底面に凹み穴を形成した。
【0012】
さらに、底面に凹み穴を形成したツールの底面と被処理材との接触面積の減少程度をプロセス条件、例えばツールに掛ける荷重に応じて変えるようにした。
【0013】
また、本発明においては、摩擦攪拌プロセスにより被処理材の表面硬化処理をするに当たり、底面に凹み穴を形成したツールを用いることとした。
【0014】
本発明による摩擦攪拌プロセスは鋳鉄材、鉄鋼材、その他の材料の表面硬化処理に用いられる。
【0015】
本発明の一実施形態によれば、ツールの底面に形成する凹み穴の面積は、ツールの回転速度をN(rpm)、ツールの移動速度をV(mm/分)、ツールへの加圧荷重をL(kg)、ツールの試料との接触面積率(平坦ツールの底面積と平坦ツールの底面積から凹み穴の面積を引いた残りの面積との比率)をR(0<R<1)としたとき、表面硬化処理される被処理材がパーライト系片状黒鉛鋳鉄である場合は、式12500<N×L/VR<150000を満足するR の値に基いて決定される。
【0016】
また本発明の摩擦攪拌プロセスにおいては、底面に凹み穴を形成したツールを用いる。
【0017】
本発明による摩擦攪拌プロセスを鋳鉄材や鉄鋼材の表面硬化処理に用いる場合、特にパーライト系片状黒鉛鋳鉄の表面硬化処理に用いる場合、そのプロセス条件が下記の式を満足することが好ましい。
【0018】
ツールの回転速度をN(rpm)、ツールの移動速度をV(mm/分)、ツールへの加圧荷重をL(kg)、ツールの被処理材との接触面積率(平坦ツールの底面積と平坦ツールの底面積から凹み穴の面積を引いた残りの面積との比率)をR(0<R<1)としたとき、12500<N×L/VR<150000。
【0019】
さらに、ツールの直径D(mm)を考慮すると、プロセス条件が式312500<N×L×D /VR<3750000を満足することが好ましい。
【0020】
また別の実施態様において、本発明による摩擦攪拌プロセスをパーライト系球状黒鉛鋳鉄の表面硬化処理に用いる場合、プロセス条件が式11250<N×L/VR<75000を満足することが好ましい。
【0021】
さらに、ツールの直径D(mm)を考慮すると、プロセス条件が式281250<N×L×D /VR<1875000を満足することが好ましい。
【0022】
また別の実施態様において、本発明による摩擦攪拌プロセスをフェライト系片状黒鉛鋳鉄の表面硬化処理に用いる場合、プロセス条件が式45000<N×L/VR<210000を満足することが好ましい。
【0023】
さらに、ツールの直径D(mm)を考慮すると、プロセス条件が式1125000<N×L×D /VR<5250000を満足することが好ましい。
【0024】
また別の実施態様において、本発明による摩擦攪拌プロセスをフェライト系球状黒鉛鋳鉄の表面硬化処理に用いる場合、プロセス条件が式30000<N×L/VR<150000を満足することが好ましい。
【0025】
さらに、ツールの直径D(mm)を考慮すると、プロセス条件が式750000<N×L×D /VR<3750000を満足することが好ましい。
【発明の効果】
【0026】
本発明によれば、ツールの形状が比較的単純なので製作が容易であり、寿命も長く、その上ツールに掛ける比較的少ない荷重で摩擦攪拌プロセスが可能となる。
【0027】
本発明による底面に凹み穴を形成した円柱状のツールをたとえばパーライト系片状黒鉛鋳鉄の表面硬化処理に用いた場合、凹φ10ツールを使用する場合においては、4kgf/mm以上の加圧力のもとでは、底面が平坦なツールに掛ける荷重を16%減らしてもそれと同等の硬化層が得られた。また凹φ15ツールを使用する場合は、6kgf/mm以上の加圧力のもとでは、底面が平坦なツールに掛ける荷重を36%減らしてもそれと同等の硬化層が得られた。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】摩擦攪拌プロセスによる表面硬化処理の実施状態の概略を示す。
【図2】従来の摩擦攪拌プロセスで使用されているツールの代表例を示す
【図3】摩擦攪拌プロセスにおけるツールの動作状態を示す。
【図4】摩擦攪拌ロセスで使用される本発明によるツールの一例を示しており、(a)はツールの斜視図、(b)はツールの平坦面、(c)は直径10mmの凹み穴を有するツールの底面図、(d)は直径15mmの凹み穴を有するツールの底面図、(e)は直径20mmの凹み穴を有するツールの底面図である。
【図5】底面が平坦なツールと底面に直径10mmの円形凹み穴のあるツールを用いて表面硬化処理をした供試材料の断面の硬度をビッカース硬度で示すカラー硬度分布図である。
【図6】底面が平坦なツールと底面に直径15mmの円形凹み穴のあるツールを用いて表面硬化処理をした供試材料の断面の硬度をビッカース硬度で示すカラー硬度分布図である。
【図7】底面が平坦なツールと底面に直径20mmの円形凹み穴のあるツールを用いて表面硬化処理をした供試材料の断面の硬度をビッカース硬度で示すカラー硬度分布図である。
【図8】供試材料の硬化層の厚さのツール圧力依存性を示す。
【図9】供試材料の硬化層の厚さの荷重依存性を示す。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照して詳細に説明する。
【0030】
本発明ではツールの形状が被処理材の表面硬化処理に与える影響を調べるべく、以下の実験を行った。
実 験 例 1
供試材料:パーライト系片状黒鉛鋳鉄(FC300)
供試材料は下記の化学分析値および寸法を有する。
【0031】

化学分析値(重量%)
C Si Mn P S Mg
FC 300 3.02 1.60 0.75 0.07 0.042 −

寸 法(mm)
長さ 幅 厚さ
100 300 5

プロセス前の供試材料(FC300)のビッカース硬度は220〜250HVであり、基地組織はすべてパーライト組織であった。
実 験
FC300を供試材料とし、図4(a)に示すような底面中心に円形の凹み穴2bを形成した超硬合金製の直径25mm、長さ30mmのツールを用いた。凹み穴2bの直径として、図4(c)に示すような10mmのもの、図4(d)に示すような15mmのもの、図4(e)に示すような20mmのものを用い、比較のために図4(b)に示すような底面が平坦なものの4種類を用いた。
【0032】
ツール2に掛ける荷重はツール底面にかかる圧力が同等になるように設定した。実験条件の一覧を下に示し、この条件でツールの回転速度を1000rpm、ツールの移動速度を100mm/分、ツールの前進角を3°として実験を行った。
【0033】

ツール形状 底面平坦 底面の凹み穴
凹み穴の直径 − 10mm 15mm 20mm
底面の表面積(mm2) 490.87 412.33 314.16 176.71
面積比 100% 84% 64% 36%
圧力2kg/mm2 荷重 981kgf 825kgf 628kgf 353kgf
圧力4kg/mm2 荷重 1963 1649 1257 707
圧力6kg/mm2 荷重 2944 2474 1886 1060
圧力8kg/mm2 荷重 3925 3299 2513 1414
圧力10kg/mm2 荷重 4906 4123 3142 1767
圧力12kg/mm2 荷重 − 4948 3770 2121

図5、図6、図7は実験結果を示す。
【0034】
図5は、底面が平坦なツール(以下平坦ツールと略す)と底面に直径10mmの円形凹み穴のあるツール(以下凹φ10ツールと略す)を用いて表面硬化処理をした場合の供試材料の断面の硬度をビッカース硬度で示すカラー硬度分布図、図6は、平坦ツールと底面に直径15mmの円形凹みのあるツール(以下凹φ15ツールと略す)を用いた場合の供試材料の断面の硬度をビッカース硬度で示すカラー硬度分布図、図7は、平坦ツールと底面に直径20mmの円形凹みのあるツール(以下凹φ20ツールと略す)を用いた場合の供試材料の断面の硬度をビッカース硬度で示すカラー硬度分布図である。
【0035】
このカラー硬度分布図は、ビッカース硬さ試験を広い範囲で行いその値を色分けしたものであり、横軸は試料(供試材料)中心からの距離(mm)、縦軸は試料(供試材料)の表面からの深さ(mm)を示している。各図には硬度の指標となるビッカース硬さHVのカラーバーをつけてあるが、このバーは右に行くほど黄色からオレンジ色、さらには赤に近いオレンジ色となり、バーの右端の硬度はビッカース硬度900である。各図において、試料の表面近くの色とその広がりをこのカラーバーを参照してご覧いただきたい。
【0036】
まず図5を参照すると、ツール圧力が4kgf/mm以上の条件では、同じ圧力では凹φ10ツールを用いても平坦ツールと同程度またはそれ以上の硬化層を得ることができることが分かる。
【0037】
一方、平坦ツールの圧力10kgf/mmと凹φ10ツールの圧力12kgf/mmについて比較すると、凹φ10ツールを用いた方がより深くまで硬化させることができる。しかしながら圧力2kgf/mmの条件では、どちらのツールを用いても、これまで適正と判断した1mm以上の硬化層を得ることが出来なかった。
【0038】
以上のことから、圧力4kgf/mm以上の条件であれば、凹φ10ツールを用いることで平坦ツールと比較してツールに掛ける荷重を16%減らしても平坦ツールと同程度の硬化層が得られると結論できる。しかし圧力4kgf/mm以下の条件では凹φ10ツールを用いても平坦ツールと同等の結果は得られない。
【0039】
次に図6を参照すると、ツール圧力が6kgf/mm以上の条件では、同じ圧力では凹φ15ツールを用いても平坦ツールと同程度またはそれ以上の硬化層を得ることができることが分かる。
【0040】
一方、平坦ツールの圧力8kgf/mmと凹φ15ツールの圧力12kgf/mmについて比較すると、凹φ15ツールを用いた方がより深くまで硬化させることができる。しかしながら圧力4kgf/mmの条件では、平坦ツールと比較すると、凹φ15ツールを用いた方が硬化層が浅くなっている。また凹φ10ツールの場合と同様に、ツール圧力2kgf/mmの条件では、どちらのツールを用いても、これまで適正と判断した1mm以上の硬化層を得ることが出来なかった。
【0041】
凹φ10ツールでは、ツール圧力4kgf/mm以上の条件で、平坦ツールと同程度の硬化層を得ることが出来ているため、ツールに掛ける荷重を減らすことのできる条件範囲は狭くなっている。しかし凹φ15ツールを用いることで減らすことのできる過重は36%であるため、凹φ10ツールの16%よりもその効果は大きい。
【0042】
図7を参照すると、この実験では凹φ20ツールでは上述した他の直径の凹み穴付きツールと違って、ツール圧力が12kgf/mmの条件では適正条件としている1mm以上の硬化層は得られているものの、ツール圧力が10kgf/mm以下の条件では平坦ツールよりも硬化深さはかなり小さくなっており、ツール圧力が2kgf/mmの条件では硬化層を得ることが出来なかった。この場合はプロセス中に温度が変態点に達していなかったと考えられる。この凹φ20ツールを用いた場合には、同程度の荷重である平坦ツール圧力4kgf/mmと凹φ20ツール圧力12kgf/mmの硬度分布を比較しても凹φ20ツールを用いた方が硬化層の深さは浅い。
【0043】
以上のことから、凹φ20ツールを用いた場合は平坦ツールと同等な効果を得ることは困難である。
【0044】
以上の実験結果を総じて考察するに、凹φ20ツールを用いた場合は、硬化幅は他のツールを用いた場合と同程度であるものの、硬化深さが不十分となっている。その他のツールを用いた場合は、ツール圧力が4kgf/mm以上の条件で適正範囲である1mm以上の硬化層を均一に得ることができた。しかし平坦ツールと比較すると、凹φ10ツールでは圧力4kgf/mm以下で、凹φ15ツールでは圧力6kgf/mm以下で硬化範囲が狭くなっている。凹み穴径ごとに安定した入熱が得られる条件が異なるが、安定した入熱が得られる条件下では硬化層は基本的には圧力に依存するということが明らかになった。
【0045】
ここでツールの回転速度をN(rpm)、ツールの移動速度をV(mm/分)、ツールへの加圧荷重をL(kg)、ツールの直径をD(mm)、ツールの被処理材(供試材料)との接触面積率(平坦ツールの底面積と平坦ツールの底面積から凹み穴の面積を引いた残りの面積との比率)をR(0<R<1)とすると、上記実験結果に基づき厚さが1mm以下でも実用に供する硬化層が得られるプロセス条件は、パーライト系片状黒鉛鋳鉄に対しては次の関係式(1)または(2)を満足すればよいとの結論に達した。
【0046】

1000×5000/400<N×L×D/VR<1500×5000/50

つまり12500<N×L/VR<150000 ・・・ (1)

またツールの直径D(mm)を考慮すると、

1000×5000×25/400<N×L×D/VR<1500×5000×25/50

つまり312500<N×L×D /VR<3750000 ・・・ (2)

以上をまとめると、次のようになる。
(1)ツール底面に凹み穴を設けた凹み穴付きツールを用いることで、低荷重のプロセス条件(つまり、凹φ10ツールでは平坦ツールの16%減、凹φ15ツールでは平坦ツールの36%減)でも、平坦ツールと同等の硬化層を得ることができる。これは大幅な省エネであり、ロボット等を使用する際に、それに必要とされる剛性が低減される。
(2)ツール圧力が小さ過ぎる場合は、入熱量の不足によりプロセス中に発生したばりがツール下面の凹み穴に進入して完全に流動せず、ばりが凹み穴を塞ぎ、平坦ツールのような働きをしてしまうため、荷重を減らすことはできない。
(3)直径25mmのツールに対して直径20mmという凹み割合の大きいツールを用いると、ツールが試料に接触する面積が極端に小さくなり、ツールがあたかも切削工具のような働きをするために平坦ツールと同等の結果は得られない。
【0047】
次に、これらの供給材料ついて、ビッカース試験により約700HVの硬度が得られた深さ(硬化層の厚さ)のツール圧力依存性および荷重依存性を図8および図9にそれぞれ示した。
【0048】
これらの図から、約700HVの硬度が得られた深さ(硬化層の厚さ)は、ツール圧力が大きくなるとツール圧力に依存し、ツール圧力が小さくなるとツールに掛ける荷重に依存する傾向があることが分かる。これは、高圧力条件では適切な入熱量を得ることができ、プロセス中の温度が高いためプロセス中に発生したばりが仮にツール下面の凹み穴に進入したとしても、その中で流動するからである。そのため凹み穴を塞ぐことなく本来の凹み穴付きツールが有効に機能し、硬化層は圧力に依存すると考えられる。
【0049】
一方、低圧力条件では、入熱量の不足により、プロセス中に発生したばりがツール底面の凹み穴に進入した場合には、その中で十分に流動しておらず、ツールの凹み穴を塞ぎ平坦ツールと同様な働きをするため、硬化層は荷重に依存すると考えられる。
【0050】
以上の実験ではツール底面に形成する円形凹み穴の直径は10mm、15mm、20mmの3例についてのみ例示したが、これらとは異なる径の凹み穴についてもツールに掛ける荷重との関係において好ましい穴径すなわちツールと被処理材との接触面積の減少割合が導き出せると考えられる。また凹み穴は必ずしも円形である必要はない。
【0051】
本発明者らは、さらに、上記実験例と同じプロセス条件で、同寸法のフェライト系片状黒鉛鋳鉄、フェライト系球状黒鉛鋳鉄、パーライト系球状黒鉛鋳鉄を供試材料として用いて表面硬化処理の実験を行った(実験例2、3、4)。その結果、厚さが1mm以下でも実用に供する硬化層が得られるプロセス条件はそれぞれの供試材料について関係式(3)〜(8)を満足すればよいとの結論に達した。
実 験 例 2
供試材料:フェライト系片状黒鉛鋳鉄

1500×3000/100<N×L/VR<3500×3000/50

つまり45000<N×L/VR<210000 ・・・ (3)

またツールの直径D(mm)を考慮すると、

1500×3000×25/100<N×L×D/VR<3500×3000×25/50

つまり1125000<N×L×D /VR<5250000 ・・・(4)

実 験 例 3
供試材料:フェライト系球状黒鉛鋳鉄

1000×3000/100<N×L/VR<1500×5000/50

つまり30000<N×L/VR<150000 ・・・ (5)

またツールの直径D(mm)を考慮すると、

1000×3000×25/100<N×L×D/VR<1500×5000×25/50

つまり750000<N×L×D /VR<3750000 ・・・ (6)

実 験 例 4
供試材料:パーライト系球状黒鉛鋳鉄

900×5000/400<N×L/VR<1500×5000/100

つまり11250<N×L/VR<75000 ・・・ (7)

またツールの直径D(mm)を考慮すると、

900×5000×25/400<N×L×D/VR<1500×5000×25/100

つまり281250<N×L×D /VR<1875000 ・・ (8)

以上は摩擦攪拌プロセスを用いてフェライト系およびパーライト系の片状および球状黒鉛鋳鉄の表面硬化処理をする場合を例示してツールの様々な形状、つまりツールの底面に異なる直径の凹み穴を形成したツールを用いた例につき説明したが、本発明はさらに他の鋳鉄材、鋼鉄材、合金材、複合材、異材接合材などの接合についてもまた表面処理についても適用し、さらにツールの底面に設ける凹み穴の径や形状を変えても同様な結果が得られることは当業者であれば容易に考えられる。
【産業上の利用可能性】
【0052】
本発明はによるツールは、鋳鉄材、鋼鉄材、合金材、複合材、異材接合材などの接合または表面処理に用いられる摩擦攪拌プロセスで用いられる。
【符号の説明】
【0053】
1 被処理材
2 ツール
21 プローブ
2a ショルダ
2b 凹み穴
3 加圧・回転・移動装置
4 処理部
5 深さ部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
摩擦攪拌プロセスに用いるツールの底面に凹み穴を形成したことを特徴とするツール。
【請求項2】
平坦な底面に凹み穴を形成したツールの底面と被処理材との接触面積の減少程度を摩擦攪拌プロセスのプロセス条件に応じて変えることを特徴とする請求項1に記載のツール。
【請求項3】
ツールの底面に形成する凹み穴の面積は、ツールの回転速度をN(rpm)、ツールの移動速度をV(mm/分)、ツールへの加圧荷重をL(kg)、ツールの試料との接触面積率(平坦ツールの底面積と平坦ツールの底面積から凹み穴の面積を引いた残りの面積との比率)をR(0<R<1)としたとき、表面硬化処理される被処理材がパーライト系片状黒鉛鋳鉄である場合は、下記の式を満足するR の値に基いて決定されることを特徴とする請求項1または2に記載のツール。

12500<N×L/VR<150000
【請求項4】
請求項1ないし3のいずれか1項に記載の底面に凹み穴を形成したツールを用いることを特徴とする摩擦攪拌プロセス。
【請求項5】
鋳鉄材や鉄鋼材の表面硬化処理に用いる請求項4に記載の摩擦攪拌プロセス。
【請求項6】
表面硬化処理される被処理材がパーライト系片状黒鉛鋳鉄である場合のプロセス条件が下記の式を満足することを特徴とする請求項4または5に記載の摩擦攪拌プロセス。

ツールの回転速度をN(rpm)、ツールの移動速度をV(mm/分)、ツールへの加圧荷重をL(kg)、ツールの試料との接触面積率(平坦ツールの底面積と平坦ツールの底面積から凹み穴の面積を引いた残りの面積との比率)をR(0<R<1)とすると、

12500<N×L/VR<150000
【請求項7】
請求項6に記載の摩擦攪拌プロセスにおいて、ツールの直径をD(mm)とすると、プロセス条件が下記の式を満足することを特徴とする摩擦攪拌プロセス。

312500<N×L×D /VR<3750000
【請求項8】
表面硬化処理される被処理材がパーライト系球状黒鉛鋳鉄である場合のプロセス条件が下記の式を満足することを特徴とする請求項4または5に記載の摩擦攪拌プロセス。

ツールの回転速度をN(rpm)、ツールの移動速度をV(mm/分)、ツールへの加圧荷重をL(kg)、ツールの試料との接触面積率(平坦ツールの底面積と平坦ツールの底面積から凹み穴の面積を引いた残りの面積との比率)をR(0<R<1)とすると、

11250<N×L/VR<75000
【請求項9】
請求項8に記載の摩擦攪拌プロセスにおいて、ツールの直径をD(mm)とすると、プロセス条件が下記の式を満足することを特徴とする摩擦攪拌プロセス。

281250<N×L×D /VR<1875000
【請求項10】
表面硬化処理される被処理材がフェライト系片状黒鉛鋳鉄である場合のプロセス条件が下記の式を満足することを特徴とする請求項4または5に記載の摩擦攪拌プロセス。

ツールの回転速度をN(rpm)、ツールの移動速度をV(mm/分)、ツールへの加圧荷重をL(kg)、ツールの試料との接触面積率(平坦ツールの底面積と平坦ツールの底面積から凹み穴の面積を引いた残りの面積との比率)をR(0<R<1)とすると、

45000<N×L/VR<210000
【請求項11】
請求項10に記載の摩擦攪拌プロセスにおいて、ツールの直径をD(mm)とすると、プロセス条件が下記の式を満足することを特徴とする摩擦攪拌プロセス。

1125000<N×L×D /VR<5250000
【請求項12】
表面硬化処理される被処理材がフェライト系球状黒鉛鋳鉄である場合のプロセス条件が下記の式を満足することを特徴とする請求項4または5に記載の摩擦攪拌プロセス。

ツールの回転速度をN(rpm)、ツールの移動速度をV(mm/分)、ツールへの加圧荷重をL(kg)、ツールの試料との接触面積率(平坦ツールの底面積と平坦ツールの底面積から凹み穴の面積を引いた残りの面積との比率)をR(0<R<1)とすると、

30000<N×L/VR<150000
【請求項13】
請求項12に記載の摩擦攪拌プロセスにおいて、ツールの直径をD(mm)とすると、プロセス条件が下記の式を満足することを特徴とする摩擦攪拌プロセス。

750000<N×L×D /VR<3750000

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2012−66287(P2012−66287A)
【公開日】平成24年4月5日(2012.4.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−213898(P2010−213898)
【出願日】平成22年9月24日(2010.9.24)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成21年度、近畿経済産業局、平成21年度戦略的基盤技術高度化支援事業「高速回転ツールを用いた鋳物の表面硬化技術の開発」に係る委託研究、産業技術強力法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(504176911)国立大学法人大阪大学 (1,536)
【出願人】(000155366)株式会社木村鋳造所 (23)
【Fターム(参考)】