説明

摩擦攪拌接合方法

【課題】接合する際の金属部材の損傷を抑えるとともに好適に接合することができる摩擦攪拌接合方法を提供することを課題とする。
【解決手段】攪拌ピンF2を備えた本接合用回転ツールFを用いて二つの金属部材1,2を接合する摩擦攪拌接合方法であって、金属部材1,2同士を角度をつけて突き合わせて突合部J1を形成する突合工程と、金属部材1,2同士の内隅に回転した攪拌ピンF2を挿入し、攪拌ピンF2のみを金属部材1,2に接触させた状態で突合部Jの摩擦攪拌接合を行う本接合工程と、を含むことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、摩擦攪拌接合方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、直角に突き合わせた二つの金属部材の内隅に内隅摩擦攪拌接合用回転ツールを挿入して摩擦攪拌接合する技術が開示されている。図24は、従来の摩擦攪拌接合方法を示す断面図である。従来の摩擦攪拌接合方法では、金属部材101の端面と、金属部材102の側面とを突き合わせて形成した突合部Jを内隅摩擦攪拌接合用回転ツール110によって摩擦攪拌接合する。内隅摩擦攪拌接合用回転ツール110は、三角柱を呈する押さえブロック111と、押さえブロック111を貫通した状態でこの押さえブロック111に対して回転可能な攪拌ピン112と、を備えている。接合する際には、押さえブロック111を金属部材101,102の各側面に当接させた状態で、攪拌ピン112を回転させる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平11−320128号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来の摩擦攪拌接合では、押さえブロック111を金属部材101,102に押圧しながら接合するため、押さえブロック111によって金属部材101,102が削れてしまうおそれがあった。また、押さえブロック111があるため、接合部分を視認することができなかった。
【0005】
また、図24に示すように、金属部材101,102の内隅を接合する前に、外隅を構成する面側から仮接合を行うことも考えられる。金属部材101,102の厚さが大きい場合、仮接合によって形成された塑性化領域Waと、内隅に形成された塑性化領域Wbとの間に隙間ができてしまうという問題があった。
【0006】
このような観点から、本発明は、接合する際の金属部材の損傷を抑えるとともに好適に接合することができる摩擦攪拌接合方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
このような課題を解決するために本発明は、攪拌ピンを備えた回転ツールを用いて二つの金属部材を接合する摩擦攪拌接合方法であって、前記金属部材同士を角度をつけて突き合わせて突合部を形成する突合工程と、回転した前記攪拌ピンを前記金属部材同士の内隅に挿入し、前記攪拌ピンのみを前記両金属部材に接触させた状態で前記突合部の摩擦攪拌接合を行う本接合工程と、を含むことを特徴とする。
【0008】
また、本発明は、攪拌ピンを備えた回転ツールを用いて二つの金属部材を接合する摩擦攪拌接合方法であって、前記金属部材同士を角度をつけて突き合わせて突合部を形成する突合工程と、回転した前記攪拌ピンを前記金属部材同士の内隅に挿入し、前記攪拌ピンのみを前記両金属部材に接触させた状態で前記突合部の摩擦攪拌接合を行う第一の本接合工程と、回転した前記攪拌ピンを前記金属部材同士の外隅を構成する面側に挿入し、前記攪拌ピンのみを前記両金属部材に接触させた状態で前記突合部の摩擦攪拌接合を行う第二の本接合工程と、を含むことを特徴とする。
【0009】
かかる接合方法によれば、攪拌ピンのみを金属部材に接触させるため、接合する際の金属部材の側面の損傷を抑えることができる。また、従来のように回転ツールに押さえブロックを用いないため、接合部分を視認することができる。これにより、作業性を高めることができる。
【0010】
また、前記第一の本接合工程で形成された塑性化領域と、前記第二の本接合工程で形成された塑性化領域とを重複させることが好ましい。かかる接合方法によれば、突合部の隙間が無くなるため、気密性及び水密性を高めることができる。
【0011】
また、前記突合工程では、一方の前記金属部材の側面と、他方の前記金属部材の端面とを突き合わせ、一方の前記金属部材の側面と他方の前記金属部材の側面とでなす内隅の角度がαである場合に、前記本接合工程では、前記側面同士の交線に挿入された前記回転ツールの回転中心軸が、前記交線を通り前記側面とのなす角度がα/2となる仮想基準面と前記一方の前記金属部材の側面との間に位置することが好ましい。
【0012】
一方の前記金属部材側に回転ツールを傾かせることで、突合部の深い位置まで攪拌ピンを挿入することができるため、突合部の深い位置まで接合することができる。
【0013】
また、前記本接合工程の前に、回転した回転ツールを前記金属部材同士の外隅を構成する面側に挿入し、前記突合部の仮接合を行う仮接合工程を含むことが好ましい。かかる接合方法によれば、本接合工程を行う際に、金属部材同士が離間するのを防ぐことができる。
【0014】
また、前記本接合工程では、前記仮接合工程で形成された塑性化領域と前記本接合工程で形成された塑性化領域とを重複させることが好ましい。かかる接合方法によれば、塑性化領域同士を重複させることで、突合部の隙間が無くなるため気密性及び水密性を高めることができる。
【0015】
また、前記本接合工程で形成された塑性化領域の上に肉盛溶接を行うことが好ましい。かかる接合方法によれば、本接合工程による金属の不足分を補充することができる。
【発明の効果】
【0016】
本発明に係る摩擦攪拌接合方法によれば、接合する際の金属部材の損傷を抑えるとともに好適に接合することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】(a)は本実施形態の本接合用回転ツールを示した側面図であり、(b)は本接合用回転ツールの接合形態を示した断面図である。
【図2】(a)は本実施形態の仮接合用回転ツールを示した側面図であり、(b)は仮接合用回転ツールの接合形態を示した断面図である。
【図3】(a)は第一実施形態に係る準備工程を示した斜視図、(b)は第一実施形態に係る予備工程を示した斜視図である。
【図4】第一実施形態に係る本接合工程を示した図であって、(a)は斜視図であり、(b)は断面図である。
【図5】第一実施形態に係る補修工程を示した断面図である。
【図6】(a)は第二実施形態に係る第一の本接合工程を示す断面図であり、(b)は第二実施形態に係る第二の本接合工程を示す断面図である。
【図7】実施例で用いる本接合用回転ツールの基本形状を示した側面図である。
【図8】実施例で用いる本接合用回転ツールの1シリーズと2シリーズを示す側面図である。
【図9】実施例で用いる本接合用回転ツールの3シリーズと4シリーズを示す側面図である。
【図10】(a)は実施例の隅肉部減肉量を示す模式図である。(b)は実施例のネジ断面積を示す模式図である。
【図11】実施例1における1シリーズと2シリーズの結果を示した断面図である。
【図12】実施例1における3シリーズと4シリーズの結果を示した断面図である。
【図13】実施例2における1シリーズと2シリーズの結果を示した断面図である。
【図14】実施例2における3シリーズと4シリーズの結果を示した断面図である。
【図15】実施例1におけるネジ断面積と隅肉部減肉量との関係を示したグラフである。
【図16】実施例2におけるネジ断面積と隅肉部減肉量との関係を示したグラフである。
【図17】実施例3において、本接合用回転ツールB−1の回転数を1000rpmに設定し、接合速度を100mm/min、200mm/min、300mm/min、500mm/minに設定した場合の結果を示す断面図である。
【図18】実施例3において、本接合用回転ツールC−1の回転数を1000rpmに設定し、接合速度を100mm/min、200mm/min、300mm/min、500mm/minに設定した場合の結果を示す断面図である。
【図19】実施例3において、本接合用回転ツールA−4の回転数を1000rpmに設定し、接合速度を100mm/min、200mm/min、300mm/min、500mm/minに設定した場合の結果を示す断面図である。
【図20】実施例3において、回転数を1000rpmに固定するとともに接合速度を100mm/minとした場合の結果を示す断面図である。
【図21】実施例3において、回転数を1000rpmに固定するとともに接合速度を200mm/minとした場合の結果を示す断面図である。
【図22】実施例3において、回転数を1000rpmに固定するとともに接合速度を300mm/minとした場合の結果を示す断面図である。
【図23】実施例3において、回転数を1000rpmに固定するとともに接合速度を500mm/minとした場合の結果を示す断面図である。
【図24】従来の摩擦攪拌接合方法を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明の実施形態について、図面を参照して詳細に説明する。まずは、本実施形態で用いる本接合用回転ツール及び仮接合用回転ツールについて説明する。
【0019】
本接合用回転ツールFは、図1の(a)に示すように、連結部F1と、攪拌ピンF2とで構成されている。本接合用回転ツールFは、例えば工具鋼で形成されている。連結部F1は、図1の(b)に示す摩擦攪拌装置の回転軸Dに連結される部位である。連結部F1は円柱状を呈し、ボルトが締結されるネジ孔B,Bが形成されている。
【0020】
攪拌ピンF2は、連結部F1から垂下しており、連結部F1と同軸になっている。攪拌ピンF2は連結部F1から離間するにつれて先細りになっている。攪拌ピンF2の外周面には螺旋溝F3が刻設されている。
【0021】
図1の(b)に示すように、本接合用回転ツールFを用いて摩擦攪拌接合をする際には、金属部材1に回転した攪拌ピンF2のみを挿入し、金属部材1,2と連結部F1とは離間させつつ移動させる。言い換えると、攪拌ピンF2の基端部は露出させた状態で摩擦攪拌接合を行う。本接合用回転ツールFの移動軌跡には摩擦攪拌された金属が硬化することにより塑性化領域Wが形成される。
【0022】
仮接合用回転ツールGは、図2の(a)に示すように、ショルダ部G1と、攪拌ピンG2とで構成されている。仮接合用回転ツールGは、例えば工具鋼で形成されている。ショルダ部G1は、図2の(b)に示すように、摩擦攪拌装置の回転軸Dに連結される部位であるとともに、塑性流動化した金属を押える部位である。ショルダ部G1は円柱状を呈する。ショルダ部G1の下端面は、流動化した金属が外部へ流出するのを防ぐために凹状になっている。
【0023】
攪拌ピンG2は、ショルダ部G1から垂下しており、ショルダ部G1と同軸になっている。攪拌ピンG2はショルダ部G1から離間するにつれて先細りになっている。攪拌ピンG2の外周面には螺旋溝G3が刻設されている。
【0024】
図2の(b)に示すように、仮接合用回転ツールGを用いて摩擦攪拌接合をする際には、回転した攪拌ピンG2とショルダ部G1の下端を金属部材1,2に挿入しつつ移動させる。仮接合用回転ツールGの移動軌跡には摩擦攪拌された金属が硬化することにより塑性化領域wが形成される。
【0025】
<第一実施形態>
次に、本発明の第一実施形態に係る摩擦攪拌接合方法について説明する。第一実施形態では、(1)準備工程、(2)予備工程、(3)本接合工程、(4)補修工程を含んでいる。
【0026】
(1)準備工程
図3を参照して準備工程を説明する。本実施形態に係る準備工程は、接合すべき金属部材1,2を突き合せる突合工程と、金属部材1,2の突合部J1の端部にタブ材3を配置するタブ材配置工程と、タブ材3を溶接により金属部材1,2に仮接合する溶接工程とを具備している。
【0027】
突合工程では、図3の(a)に示すように、接合すべき金属部材1の側面1bと金属部材2の端面2aとを突き合わせるとともに、金属部材1の端面1aと金属部材2の側面2cとが面一になるようにする。つまり、突合工程では、金属部材1,2を垂直に突き合わせ、側面視してL字状になるようにする。金属部材1,2は、摩擦攪拌可能な金属であればよいが、本実施形態ではアルミニウム合金を用いる。
【0028】
タブ材配置工程では、図3の(b)に示すように、金属部材1,2の突合部J1の一端側にタブ材3を配置してタブ材3を金属部材1の側面1d及び金属部材2の側面2dに当接させる。タブ材3の表面3aと、金属部材2の側面2c及び金属部材1の端面1aとが面一になるように配置する。
【0029】
溶接工程では、金属部材1,2とタブ材3とを溶接し、金属部材1,2とタブ材3とを接合する。
【0030】
準備工程が終了したら、金属部材1,2及びタブ材3を図示せぬ摩擦攪拌装置の架台に載置し、クランプ等の図示せぬ治具を用いて移動不能に拘束する。
【0031】
(2)予備工程
予備工程は、金属部材1,2の突合部J1を仮接合する仮接合工程を具備している。具体的には、図3の(b)に示すように、タブ材3に仮接合用回転ツールGを挿入し、金属部材1,2の外側(外隅を構成する面側)から突合部J1に対して摩擦攪拌接合を行う。仮接合工程においては、図2の(b)を参照するように、ショルダ部G1の下面を金属部材1,2に押し込んだ状態で、仮接合用回転ツールGを移動させる。突合部J1の全部又は一部を接合したら、金属部材1,2からタブ材3を切削する。なお、本実施形態では仮接合工程を摩擦攪拌接合により行ったが、例えば溶接で金属部材1,2の仮接合を行ってもよい。
【0032】
(3)本接合工程
予備工程が終了したら、金属部材1,2の突合部J1を本格的に接合する本接合工程を実行する。本実施形態に係る本接合工程では、まず、図4の(a)に示すように、金属部材1,2の外隅を構成する面に裏当材Tを配置する。裏当材Tは、平面視L字状を呈する金属製の部材であって、金属部材1の側面1c、端面1a及び金属部材2の側面2cに接触させる。そして、金属部材1,2及び裏当材Tを図示せぬ摩擦攪拌装置の架台に載置し、クランプ等の図示せぬ治具を用いて移動不能に拘束する。
【0033】
次に、本接合工程では、金属部材1と金属部材2の内隅(側面1bと側面2bとで構成される隅部)に回転した本接合用回転ツールFを挿入し、突合部J1に対して摩擦攪拌接合を行う。本接合工程では、図4の(a)及び(b)に示すように、本接合用回転ツールFの連結部F1と金属部材1,2とを離間させて、攪拌ピンF2のみを突合部J1に挿入する。
【0034】
また、本接合工程では、図4の(b)に示すように、本接合用回転ツールFの回転中心軸Fcを傾けて摩擦攪拌接合を行う。つまり、本接合工程では、側面1bと側面2bとの交線C1に挿入された本接合用回転ツールFの回転中心軸Fcが、交線C1を通り側面1bと側面2bとのなす角度がα/2(本実施形態ではα=90°)となる仮想基準面Cと金属部材1の側面1bとの間に位置するように設定する。本接合工程では、本接合工程で形成された塑性化領域W1と、仮接合工程で形成された塑性化領域wとが重複するようにする。なお、回転中心軸Fcの位置は、側面1b及び仮想基準面Cに重なる位置は含まない。
【0035】
(4)補修工程
本接合工程が終了したら、本接合工程によって金属部材1,2に形成された塑性化領域W1に対して補修工程を実行する。本実施形態に係る補修工程では、図5に示すように、塑性化領域W1の上面に肉盛溶接を行う。
【0036】
本接合工程によって、塑性化領域W1の上面(表面)は金属が不足して溝ができる傾向にあるが、肉盛溶接を行うことで不足した金属を補充することができる。図5に示すように、金属部材1の側面1b及び金属部材2の側面2bと、肉盛溶接によって形成された溶接金属Nとが面一になるようにすることが好ましい。なお、肉盛溶接を行う前に、塑性化領域W1の上面を削って予め凹溝を形成し、この凹溝に肉盛溶接を行ってもよい。また、溝が比較的浅い場合には、肉盛溶接を省略して、金属部材1の側面1b及び金属部材2の側面2bに面削加工を施すことで、摩擦攪拌接合によって形成された溝を除去してもよい。
【0037】
以上説明した本実施形態に係る摩擦攪拌接合によれば、金属部材1,2の内隅を接合する本接合工程において、攪拌ピンF2のみを金属部材1,2に接触させるため、接合する際の金属部材1の側面1b及び金属部材2の側面2bの損傷を抑えることができる。また、従来のように押さえブロックを用いないため、接合部分を視認することができる。これにより、接合状況等を把握することができるため作業性を高めることができる。
【0038】
また、本接合工程では、仮接合工程で形成された塑性化領域wと本接合工程で形成された塑性化領域W1とを重複させることにより、気密性及び水密性を高めることができる。また、本接合用回転ツールFよりも小さい仮接合用回転ツールGを用いて仮接合工程を行うことで、本接合工程の際に、金属部材1,2が離間するのを防ぐことができる。
【0039】
また、本接合工程では、一方の金属部材1側に本接合用回転ツールFを傾かせることで、例えば、図4の(b)に示す仮想基準面Cに沿って攪拌ピンF2を挿入する場合、つまり、垂直である金属部材1,2に対して側面1b,2bと回転中心軸Fcとのなす角度が45°となるように挿入する場合に比べて、突合部J1の深い位置まで攪拌ピンF2を挿入することができる。これにより、突合部J1の深い位置まで接合することができる。
【0040】
また、本接合工程で形成された塑性化領域W2の上に肉盛溶接を行うことで、本接合工程における金属の不足分を補充することができる。
【0041】
<第二実施形態>
次に、本発明の第二実施形態に係る摩擦攪拌接合方法について説明する。第二実施形態では、(1)準備工程、(2)予備工程、(3)第一の本接合工程、(4)第二の本接合工程、(5)補修工程を含んでいる。第二実施形態は、第一実施形態よりも厚い金属部材1,2を接合する場合を例示する。第二実施形態は、本接合工程を二回行う点で第一実施形態と相違する。なお、(1)準備工程、(2)予備工程は、第一実施形態と同等であるため、詳細な説明は省略する。
【0042】
(4)第一の本接合工程
第一の本接合工程では、図6の(a)に示すように、前記した第一実施形態の本接合工程と略同等の要領で、突合部J1に対して金属部材1,2の内隅に回転した本接合用回転ツールFを挿入して、摩擦攪拌接合を行う。第二実施形態では、金属部材1,2の厚さが大きいため、本接合用回転ツールFの挿入角度を金属部材1側に傾けたとしても、本接合工程で形成された塑性化領域W1と、仮接合工程で形成された塑性化領域wとを重複させることができない。
【0043】
(5)第二の本接合工程
第二の本接合工程では、金属部材1,2の外隅を構成する面側から本接合用回転ツールFを用いて摩擦攪拌接合を行う。具体的には、図6の(b)に示すように、金属部材1の端面1aと金属部材2の側面2c側から回転した本接合用回転ツールFの攪拌ピンF2を挿入し、突合部J1に沿って移動させる。第二の本接合工程では、本接合用回転ツールFの連結部F1と金属部材1,2とを離間させて、攪拌ピンF2のみを突合部J1に挿入する。第二の本接合工程で形成された塑性化領域W2は、第一の本接合工程で形成された塑性化領域W1と重複させる。本実施形態の第二の本接合工程では、塑性化領域W1に攪拌ピンF2が達するようにする。これにより、より確実に突合部J1を接合できる。
【0044】
なお、第二の本接合工程では、金属部材1,2にタブ材を適宜設けて摩擦攪拌接合を行ってもよい。仮接合工程の際に使用したタブ材を切削除去せずに、第二の本接合工程で利用してもよい。
【0045】
(6)補修工程
補修工程では、第一実施形態の補修工程と同じ要領で、第一の本接合工程で形成された塑性化領域W1と第二の本接合工程で形成された塑性化領域W2の上面に肉盛溶接を行って、不足した金属を補充する。
【0046】
以上説明した、第二実施形態によれば、第一実施形態と略同等の効果が得られるとともに、第二の本接合工程を行うことで、金属部材1,2が厚い場合であっても、突合部J1の全長に亘って摩擦攪拌接合を行うことができるため、気密性及び水密性を高めることができる。また、本接合用回転ツールFによれば、摩擦攪拌装置にかかる負荷を抑制しつつ、攪拌ピンF2を深い位置まで挿入することができる。
【0047】
なお、第二本接合工程は、本実施形態では本接合用回転ツールFを用いて行ったが、これに限定されるものではなく、例えば、ショルダ部及び攪拌ピンを備えた回転ツールであって、攪拌ピンの長さが長いものを用いてもよい。
【0048】
以上本発明の実施形態について説明したが、本発明の趣旨に反しない範囲において適宜設計変更が可能である。例えば、本実施形態では金属部材1,2を直角に突き合わせたが、金属部材1の側面1bと金属部材2の側面2bとのなす角度が180度以外であれば何度で突き合わせてもよい。また、例えば金属部材1の端面1aと金属部材2の端面2aとを斜めに切り欠いて金属部材1,2を突き合わせてもよい。
【実施例】
【0049】
実施例では、図7に示すように、ピン角度(回転軸と攪拌ピンの外周面との角度)が5種類と、ネジの深さ及びネジピッチが4種類の合計20個の本接合用回転ツールを用意して、それぞれの接合状況について調査した。
【0050】
図7に示すように、接合する金属部材Zは、アルミニウム合金製であって、断面V字状のV字溝Zaが形成されている。V字溝Zaの角度は90度になっている。各実施例においては、V字溝Zaに各本接合用回転ツールの攪拌ピンのみを所定の深さで挿入し、V字溝Zaの長手方向に所定の長さで移動させた。攪拌ピンの挿入深さは各実施例ごとに共通の深さとした。
【0051】
図8及び図9の縦方向に示すように、本接合用回転ツールのAシリーズはピン角度が9.5度であり、Bシリーズはピン角度が14度であり、Cシリーズはピン角度が18.4度であり、Dシリーズはピン角度が23度であり、Eシリーズはピン角度が27.6度になっている。
【0052】
また、図8及び図9の横方向に示すように、1シリーズはネジ深さが0.4mm、ネジピッチが0.5mmであり、2シリーズはネジ深さが1.0mm、ネジピッチが1.0mmであり、3シリーズはネジ深さが1.8mm、ネジピッチが2.0mmであり、4シリーズはネジ深さが2.5mm、ネジピッチが3.0mmである。例えば、図8に示すように、「本接合用回転ツールC−2」は、ピン角度が18.4度、ネジ深さが1.0mm及びネジピッチが1.0mmになっている。
【0053】
また、後記する「隅肉部減肉量(mm)」とは、図10の(a)に示すように、摩擦攪拌接合を行った後の塑性化領域Wの上面Z1と、金属部材Zの側壁Z2,Z2と、V字溝Zaの仮想延長線Z3とで囲まれた領域の断面積のことを意味する。なお、塑性化領域Wの内部に接合欠陥が存在する場合には、この接合欠陥の領域の断面積も「隅肉部減肉量(mm)」として加算した。
【0054】
また、後記する「ネジ断面積(mm)」とは、図10の(b)に示すように、攪拌ピンF2の外周面を通る仮想線F4と螺旋溝F3とで囲まれた領域の断面積の和(ハッチが描画された部分)のことを意味する。
【0055】
<実施例1>
実施例1では、前記した本接合用回転ツールA―1〜A―4、本接合用回転ツールB―1〜B―4、本接合用回転ツールC―1〜C―4、本接合用回転ツールD―1〜D―4、本接合用回転ツールE―1〜E―4の合計20種類の本接合用回転ツールを用いて回転数1000rpm、接合速度(移動速度)100mm/minに設定して摩擦攪拌接合を行った。
【0056】
図11及び図12に示すように、ピン角度が大きくなるにつれて、塑性化領域Wの断面積が大きくなっていることがわかる。また、ネジ深さ及びネジピッチが大きくなるにつれて塑性化領域Wが深い位置に形成されるとともに、隅肉部減肉量が大きくなっていることがわかる。
【0057】
また、図11及び図12に示すように、本接合用回転ツールA−1では、接合欠陥Qが発生している。本接合用回転ツールB−2では、減肉量が多く接合不良になっている。本接合用回転ツールA−1、B−2以外は、接合状況が概ね良好であることがわかる。
【0058】
図12に示す、4シリーズ(A−4,B−4,C−4,D−4)では、金属部材Zの下面が下方に突出するように変形していることがわかる。また、1シリーズ及び4シリーズではバリが多く発生していることがわかる。
【0059】
<実施例2>
実施例2では、前記した20種類の本接合用回転ツールを用いて回転数1000rpm、接合速度200mm/minに設定して摩擦攪拌接合を行った。
【0060】
図13及び図14に示すように、本接合用回転ツールA−1、B−1、C−1、D−1、B−2、C−2では、接合欠陥Qが形成されていることがわかる。また、本接合用回転ツールA−2では減肉量が多く接合不良になっていることがわかる。その他の本接合用回転ツールについては接合状況が概ね良好であることがわかる。
【0061】
実施例1と実施例2を総合的に観察すると、接合速度が遅い方(実施例1)が、接合欠陥Qの発生率が低いことがわかる。また、ネジ深さ及びネジピッチが大きくなるにつれて、減肉量は多くなってしまうが、接合欠陥の発生率が低いことが分かる。
【0062】
図15は、実施例1におけるネジ断面積と隅肉部減肉量との関係を示したグラフである。図16は、実施例2におけるネジ断面積と隅肉部減肉量との関係を示したグラフである。ネジ断面積が小さすぎると接合欠陥Qが発生しやすい傾向がある。一方、ネジ断面積が大き過ぎると隅肉部減肉量が大きくなる傾向がある。したがって、ネジ断面積は50〜180mmが好ましく、100〜150mmであるとより好ましい。
【0063】
<実施例3>
実施例3では、平板状の金属部材Z(V字溝無し)に対して前記した20種類の本接合用回転ツールを移動させて形成された塑性化領域の断面を観察した。実施例3では、回転数を1000rpmに固定するとともに接合速度を100mm/min、200mm/min、300mm/min、500mm/minに可変させた。
【0064】
図17は、実施例3において、本接合用回転ツールB−1の回転数を1000rpmに設定し、接合速度を100mm/min、200mm/min、300mm/min、500mm/minに設定した場合の結果を示す断面図である。
図18は、実施例3において、本接合用回転ツールC−1の回転数を1000rpmに設定し、接合速度を100mm/min、200mm/min、300mm/min、500mm/minに設定した場合の結果を示す断面図である。
図19は、実施例3において、本接合用回転ツールA−4の回転数を1000rpmに設定し、接合速度を100mm/min、200mm/min、300mm/min、500mm/minに設定した場合の結果を示す断面図である。
【0065】
図17及び図18を見ると、接合速度が上がるほど、接合欠陥Qが大きくなることがわかる。また、図17〜19を見ると、接合速度が上がるほどバリの量が多くなることがわかる。
【0066】
図20は、実施例3において、回転数を1000rpmに固定するとともに接合速度を100mm/minとした場合の結果を示す断面図である。
図21は、実施例3において、回転数を1000rpmに固定するとともに接合速度を200mm/minとした場合の結果を示す断面図である。
図22は、実施例3において、回転数を1000rpmに固定するとともに接合速度を300mm/minとした場合の結果を示す断面図である。
図23は、実施例3において、回転数を1000rpmに固定するとともに接合速度を500mm/minとした場合の結果を示す断面図である。
【0067】
図20〜23を総合的に判断すると、接合速度については遅い方が好ましく、ネジ深さ及びネジピッチについては大きい方が好ましいことがわかる。
【符号の説明】
【0068】
1 金属部材
1a 端面
1b 側面
1c 側面
1d 側面
2 金属部材
2a 端面
2b 側面
2c 側面
2d 側面
3 タブ材
C 仮想基準面
C1 交線
F 本接合用回転ツール
F1 連結部
F2 攪拌ピン
G 仮接合用回転ツール
G1 ショルダ部
G2 攪拌ピン
J1 突合部
W1〜W2 塑性化領域
w 塑性化領域

【特許請求の範囲】
【請求項1】
攪拌ピンを備えた回転ツールを用いて二つの金属部材を接合する摩擦攪拌接合方法であって、
前記金属部材同士を角度をつけて突き合わせて突合部を形成する突合工程と、
回転した前記攪拌ピンを前記金属部材同士の内隅に挿入し、前記攪拌ピンのみを前記両金属部材に接触させた状態で前記突合部の摩擦攪拌接合を行う本接合工程と、を含むことを特徴とする摩擦攪拌接合方法。
【請求項2】
攪拌ピンを備えた回転ツールを用いて二つの金属部材を接合する摩擦攪拌接合方法であって、
前記金属部材同士を角度をつけて突き合わせて突合部を形成する突合工程と、
回転した前記攪拌ピンを前記金属部材同士の内隅に挿入し、前記攪拌ピンのみを前記両金属部材に接触させた状態で前記突合部の摩擦攪拌接合を行う第一の本接合工程と、
回転した前記攪拌ピンを前記金属部材同士の外隅を構成する面側に挿入し、前記攪拌ピンのみを前記両金属部材に接触させた状態で前記突合部の摩擦攪拌接合を行う第二の本接合工程と、を含むことを特徴とする摩擦攪拌接合方法。
【請求項3】
前記第一の本接合工程で形成された塑性化領域と、前記第二の本接合工程で形成された塑性化領域とを重複させることを特徴とする請求項2に記載の摩擦攪拌接合方法。
【請求項4】
前記突合工程では、一方の前記金属部材の側面と、他方の前記金属部材の端面とを突き合わせ、一方の前記金属部材の側面と他方の前記金属部材の側面とでなす内隅の角度がαである場合に、
前記本接合工程では、前記側面同士の交線に挿入された前記回転ツールの回転中心軸が、前記交線を通り前記側面とのなす角度がα/2となる仮想基準面と前記一方の前記金属部材の側面との間に位置することを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれか一項に記載の摩擦攪拌接合方法。
【請求項5】
前記本接合工程の前に、回転した回転ツールを前記金属部材同士の外隅を構成する面側に挿入し、前記突合部の仮接合を行う仮接合工程を含むことを特徴とする請求項1乃至請求項4のいずれか一項に記載の摩擦攪拌接合方法。
【請求項6】
前記本接合工程では、前記仮接合工程で形成された塑性化領域と前記本接合工程で形成された塑性化領域とを重複させることを特徴とする請求項5に記載の摩擦攪拌接合方法。
【請求項7】
前記本接合工程で形成された塑性化領域の上に肉盛溶接を行うことを特徴とする請求項1乃至請求項6のいずれか一項に記載の摩擦攪拌接合方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図10】
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【図24】
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【図8】
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【図9】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【公開番号】特開2013−49072(P2013−49072A)
【公開日】平成25年3月14日(2013.3.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−187916(P2011−187916)
【出願日】平成23年8月30日(2011.8.30)
【出願人】(000004743)日本軽金属株式会社 (627)
【Fターム(参考)】