説明

摩擦材の平面度矯正治具及び摩擦材の平面度矯正方法

【課題】摩擦材の平面度矯正方法において、摩擦材の矯正後の平面度が確実に0.5mm以下となり、充分な摩擦材の平面度を確保できること。
【解決手段】生産工程または使用によって反りの生じた摩擦材としてのクラッチフェーシング3を20枚、反りの方向を揃えて重ね、その上下に平面度矯正治具1のテーパーの方向がクラッチフェーシング3の反りの方向と逆になるように設置して、加圧した後に加熱する。摩擦材の平面度矯正治具1のテーパー角度α=1.3度で、加重圧力2トン(約20kN)で加圧した後に、加熱温度100℃、加熱処理時間1.5時間で加熱処理した。このような条件で矯正処理した摩擦材3の矯正後平面度は、最大でも0.40mmであり、摩擦材3に必要とされる平面度0.5mm以下という条件を満たしている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車用クラッチフェーシング等の摩擦材の反りを矯正するための平面度矯正治具及び平面度矯正方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
自動車用クラッチフェーシングにおいては、摩擦面に複数の溝が設けられており、その裏面は溝がない平坦面であるため、これらの溝の存在及びクラッチフェーシングを構成する材料の収縮率の違い等に起因して、一定方向に反りが発生して平面度が悪化する。これによって、摩擦面のクラッチ当りが悪くなってクラッチ機能が低下する恐れがあるため、かかる場合には、クラッチフェーシングの平面度を矯正する処理が行われる。
【0003】
従来の平面度矯正方法について、図6を参照して説明する。図6(a)は従来の平面度矯正方法に用いられる平面度矯正治具としてのフラットリングを示す平面図、(b)は(a)のB−B断面図、(c)はクラッチフェーシングの平面度を矯正する処理を示す模式図である。
【0004】
図6(a),(b)に示されるように、平面度矯正には鋼板からなる平面度矯正治具としての厚さ約15mmのフラットリング10が用いられ、図6(c)に示されるように、このフラットリング10を2枚使用して、反りの方向を揃えて重ねた20枚のクラッチフェーシング3を上下から挟んで、2トン(約20kN)の加重を加えた後に約120℃で加熱する。このようにして、使用によって反りの生じたクラッチフェーシング3の平面度を矯正していた。
【0005】
これに対して、特許文献1においては、繊維基材と有機結合材と摩擦調整剤等よりなるクラッチフェーシング部材を熱圧成形した後、非酸化性雰囲気にて有機結合材の分解温度以上で熱処理した成形体と、円環状のバックアップ材とを接合してなるクラッチ被動板の発明について開示されている。これによって、使用によって反りの生ずることがないクラッチ被動板を得ることができるとしている。
【0006】
しかし、特許文献1にかかるクラッチ被動板は、製造工程が複雑な上に材料コストもかかるため高価なものになってしまい、現在用いられているクラッチフェーシングの代替品には為り得ない。したがって、従来通りの安価なクラッチフェーシングを用いて、生産工程や使用によって反りが生じた場合には、上述したような方法によって平面度を矯正する方が実用的である。
【特許文献1】特開平4−95615号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、このような従来の摩擦材の平面度矯正方法によっては、平面度0.5mm以下という必要とされる摩擦材の平面度を確実に得ることができないという問題点があった。
【0008】
そこで、本発明は、充分な摩擦材の平面度を確保することができる摩擦材の平面度矯正治具及び摩擦材の平面度矯正方法を提供することを課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
請求項1の発明にかかる摩擦材の平面度矯正治具は、反りを生じた1枚または複数枚の摩擦材を両側から挟んで加圧した後に加熱することによって、前記摩擦材の平面度を矯正するための硬質の金属材料からなる治具であって、前記摩擦材とほぼ同じリング形状と大きさを有し、表面と裏面とが平行になるようにテーパーが付けられているものである。
【0010】
請求項2の発明にかかる摩擦材の平面度矯正治具は、請求項1の構成において、前記テーパーの大きさは0.9度〜2.0度の範囲内であるものである。
【0011】
請求項3の発明にかかる摩擦材の平面度矯正治具は、請求項1または請求項2の構成において、前記テーパーを付ける方法は前記硬質の金属材料を削り出す方法によるものである。
【0012】
請求項4の発明にかかる摩擦材の平面度矯正方法は、反りを生じた1枚または複数枚の摩擦材に加圧することによって前記摩擦材の平面度を矯正するための摩擦材の平面度矯正方法であって、前記摩擦材とほぼ同じリング形状と大きさを有し表面と裏面とが平行になるようにテーパーが付けられた硬質の金属材料からなる平面度矯正治具を前記1枚または複数枚の摩擦材に生じた反りの方向と前記テーパーの方向とが逆になるように前記反りの方向を合わせて重ねた前記1枚または複数枚の摩擦材を両側から挟んで加圧した後に加熱するものである。
【0013】
請求項5の発明にかかる摩擦材の平面度矯正方法は、請求項4の構成において、前記平面度矯正治具の前記テーパーの大きさは0.9度〜2.0度の範囲内であるものである。
【0014】
請求項6の発明にかかる摩擦材の平面度矯正方法は、請求項4または請求項5の構成において、前記1枚または複数枚の摩擦材の枚数は1枚以上30枚以下であるものである。
【0015】
請求項7の発明にかかる摩擦材の平面度矯正方法は、請求項4乃至請求項6のいずれか1つの構成において、前記加熱の温度は80℃以上120℃以下であるものである。
【0016】
請求項8の発明にかかる摩擦材の平面度矯正方法は、請求項4乃至請求項7のいずれか1つの構成において、前記加圧する加重の大きさは1トン以上3トン以下であるものである。
【発明の効果】
【0017】
請求項1の発明にかかる摩擦材の平面度矯正治具は、反りを生じた1枚または複数枚の摩擦材を両側から挟んで加圧した後に加熱することによって、摩擦材の平面度を矯正するための硬質の金属材料からなる治具であって、摩擦材とほぼ同じリング形状と大きさを有し、表面と裏面とが平行になるようにテーパーが付けられている。
【0018】
このような平面度矯正治具を、テーパーの方向を生産工程または使用により反りを生じた1枚または複数枚の摩擦材の反りの方向とは逆方向に向けて、上下から挟んで加圧した後に加熱することによって、反りの方向とは反対の方向にまで曲げ応力が働くため、より効果的な矯正の効果が得られてより優れた平面度に矯正することができる。
【0019】
このようにして、充分な摩擦材の平面度を確保することができる摩擦材の平面度矯正治具となる。
【0020】
請求項2の発明にかかる摩擦材の平面度矯正治具は、テーパーの大きさが0.9度〜2.0度の範囲内である。本発明者が摩擦材の平面度矯正治具のテーパーの大きさの適正範囲について、鋭意実験研究を積み重ねた結果、テーパーの大きさ(テーパー角度)が0.9度〜2.0度の範囲内である場合に、摩擦材の矯正後の平面度が確実に0.5mm以下となることを見出し、この知見に基いて本発明を完成したものである。
【0021】
このようにして、摩擦材の矯正後の平面度が確実に0.5mm以下となり、充分な摩擦材の平面度を確保することができる摩擦材の平面度矯正治具となる。
【0022】
請求項3の発明にかかる摩擦材の平面度矯正治具は、テーパーを付ける方法は硬質の金属材料を削り出す方法による。摩擦材の平面度矯正治具にテーパーを付ける方法としては、平面のリングに加重を掛けてテーパーを付ける方法も考えられるが、この方法では平面度矯正治具に歪みが残るとともに、精密なテーパー角度の制御が困難である。
【0023】
これに対して、硬質の金属材料を削り出す方法によってテーパーの付いたリングを作製する方法によれば、平面度矯正治具に歪みは殆ど残らず、テーパー角度を所望の角度に精密に作製することができる。したがって、テーパー角度を適正な角度にすることができ、確実に摩擦材の平面度を矯正することができる。
【0024】
このようにして、充分な摩擦材の平面度を確保することができる摩擦材の平面度矯正治具となる。
【0025】
請求項4の発明にかかる摩擦材の平面度矯正方法は、反りを生じた1枚または複数枚の摩擦材に加圧することによって摩擦材の平面度を矯正するための摩擦材の平面度矯正方法であって、摩擦材とほぼ同じリング形状と大きさを有し表面と裏面とが平行になるようにテーパーが付けられた硬質の金属材料からなる平面度矯正治具を1枚または複数枚の摩擦材に生じた反りの方向とテーパーの方向とが逆になるように反りの方向を合わせて重ねた1枚または複数枚の摩擦材を両側から挟んで加圧した後に加熱する。
【0026】
これによって、摩擦材の反りの方向とは反対の方向にまで曲げ応力が働くため、より効果的な矯正の効果が得られてより優れた平面度に矯正することができる。
【0027】
このようにして、充分な摩擦材の平面度を確保することができる摩擦材の平面度矯正方法となる。
【0028】
請求項5の発明にかかる摩擦材の平面度矯正方法は、平面度矯正治具のテーパーの大きさが0.9度〜2.0度の範囲内である。本発明者が摩擦材の平面度矯正治具のテーパーの大きさの適正範囲について、鋭意実験研究を積み重ねた結果、テーパーの大きさ(テーパー角度)が0.9度〜2.0度の範囲内である場合に、摩擦材の矯正後の平面度が確実に0.5mm以下となることを見出し、この知見に基いて本発明を完成したものである。
【0029】
このようにして、摩擦材の矯正後の平面度が確実に0.5mm以下となり、充分な摩擦材の平面度を確保することができる摩擦材の平面度矯正方法となる。
【0030】
請求項6の発明にかかる摩擦材の平面度矯正方法は、1枚または複数枚の摩擦材の枚数が1枚以上30枚以下である。本発明者が一度に平面度矯正処理を行うことのできる摩擦材の最大枚数について、鋭意実験研究を積み重ねた結果、摩擦材が30枚以下であれば摩擦材の矯正後の平面度が確実に0.5mm以下となることを見出し、この知見に基いて本発明を完成したものである。
【0031】
このようにして、摩擦材の矯正後の平面度が確実に0.5mm以下となり、充分な摩擦材の平面度を確保することができる摩擦材の平面度矯正方法となる。
【0032】
請求項7の発明にかかる摩擦材の平面度矯正方法は、加熱の温度が80℃以上120℃以下である。本発明者が平面度矯正処理の適切な処理温度範囲について、鋭意実験研究を積み重ねた結果、加熱温度が80℃未満になると充分な平面度矯正効果が得られず、また加熱温度が120℃を超えると摩擦材3が変性してしまう恐れがあることを見出し、この知見に基いて本発明を完成したものである。
【0033】
このようにして、摩擦材の矯正後の平面度が確実に0.5mm以下となり、充分な摩擦材の平面度を確保することができる摩擦材の平面度矯正方法となる。
【0034】
請求項8の発明にかかる摩擦材の平面度矯正方法は、加圧する加重の大きさが1トン以上3トン以下である。本発明者が平面度矯正処理の適切な加重圧力範囲について、鋭意実験研究を積み重ねた結果、加重圧力が1トン未満であると充分な平面度矯正効果が得られず、また加重圧力が3トンを超えると摩擦材3が変形してしまう恐れがあることを見出し、この知見に基いて本発明を完成したものである。
【0035】
このようにして、摩擦材の矯正後の平面度が確実に0.5mm以下となり、充分な摩擦材の平面度を確保することができる摩擦材の平面度矯正方法となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0036】
以下、本発明の実施の形態について、図1乃至図5を参照して説明する。
【0037】
図1(a)は本発明の実施の形態にかかる摩擦材の平面度矯正治具としてのテーパーリングを示す平面図、(b)は(a)のA−A断面図、(c)は本発明の実施の形態にかかる摩擦材の平面度矯正方法を示す模式図である。図2は本発明の実施の形態にかかる摩擦材の平面度矯正方法による矯正後平面度を従来の平面度矯正方法による矯正後平面度と比較して示す図である。
【0038】
図3は本発明の実施の形態にかかる摩擦材の平面度矯正方法において、摩擦材の平面度矯正治具のテーパー角度を変化させて得られた矯正後平面度を示す図である。図4は本発明の実施の形態にかかる摩擦材の平面度矯正方法において摩擦材の仕込み枚数を変化させて得られた矯正後平面度を示す図である。図5は本発明の実施の形態にかかる摩擦材の平面度矯正方法において水浸工程を加えた場合の矯正後平面度を従来の平面度矯正方法による矯正後平面度と比較して示す図である。
【0039】
まず、本実施の形態にかかる摩擦材の平面度矯正治具及び摩擦材の平面度矯正方法の概略について、図1を参照して説明する。
【0040】
図1(a),(b)に示されるように、本実施の形態にかかる摩擦材の平面度矯正治具1は、摩擦材とほぼ同一のリング形状と大きさを有し、厚さ約15mmの鋼板からなるテーパーリングであって、そのテーパー面2は角度αのテーパー角度を有するように、鋼板から削り出すことによって製造されるものである。本実施の形態にかかる摩擦材の平面度矯正方法に用いられる摩擦材としてのクラッチフェーシング3の大きさが、外径236mmφ、内径150mmφであることから、摩擦材の平面度矯正治具1も同様の大きさとした。
【0041】
なお、テーパー角度αは最大でも2.0度であり、図1(b)に示されるテーパー角度より実際にはずっと小さいが、テーパー角度を有することを強調するために図1(a),(b)のように図示したものである。
【0042】
このような本実施の形態にかかる摩擦材の平面度矯正治具1を、図1(c)に示されるように、生産工程または使用によって反りの生じた摩擦材としてのクラッチフェーシング3を20枚、反りの方向を揃えて重ね、その上下に平面度矯正治具1のテーパーの方向がクラッチフェーシング3の反りの方向と逆になるように設置して、加圧した後に加熱する。摩擦材の平面度矯正治具1のテーパー角度α=1.3度で、加重圧力2トン(約20kN)で加圧した後に、加熱温度100℃、加熱処理時間1.5時間で加熱処理した。
【0043】
本実施の形態にかかる摩擦材の平面度矯正方法の矯正条件(実施例1)を、従来の図6で説明した平面度矯正方法の矯正条件(比較例1)と合わせて、表1に示す。
【0044】
【表1】

【0045】
これらの実施例1及び比較例1に示される矯正条件で処理した摩擦材3の矯正後平面度の分布を、図2に示す。図2に示されるように、実施例1の摩擦材の平面度矯正方法で矯正した摩擦材3の矯正後平面度は、最大でも0.40mmであり、摩擦材3に必要とされる平面度0.5mm以下という条件を満たしている。これに対して、比較例1の平面度矯正方法で矯正した摩擦材3の矯正後平面度は、最小でも0.40mm、最大では0.70mmに達しており、摩擦材3に必要とされる平面度0.5mm以下という条件を満たしていないものがある。
【0046】
このようにして、本実施の形態にかかる摩擦材の平面度矯正治具1を用いた摩擦材の平面度矯正方法においては、摩擦材3の矯正後平面度が最大でも0.40mmであり、摩擦材3に必要とされる平面度0.5mm以下という条件を確実に満たすことができる。
【0047】
次に、本実施の形態にかかる摩擦材の平面度矯正治具1のテーパー角度αの最適範囲について検討するための実験を行った。即ち、テーパー角度α=0.7度,1.3度,2.0度の3種類の摩擦材の平面度矯正治具1を作製して、表2に示されるような条件で摩擦材3の平面度矯正を実施した。
【0048】
【表2】

【0049】
表2に示されるように、生産工程または使用によって反りの生じた摩擦材としてのクラッチフェーシング3を20枚、反りの方向を揃えて重ね、その上下に平面度矯正治具1のテーパーの方向がクラッチフェーシング3の反りの方向と逆になるように設置して、加重圧力2トン(約20kN)で加圧した後に、処理加熱温度100℃、処理時間1.5時間の条件で加熱した。即ち、テーパー角度αが異なる以外は、上記実施例1と同じ処理条件である。
【0050】
表2に示される矯正条件で処理した摩擦材3の矯正後平面度の分布を、図3に示す。図3に示されるように、摩擦材3に必要とされる平面度0.5mm以下という結果を全ての摩擦材3について得るためには、テーパー角度α=0.9度〜2.0度の範囲内であることが必要であることが判明した。
【0051】
次に、本実施の形態にかかる摩擦材の平面度矯正治具1を用いた摩擦材の平面度矯正方法における一段当りの最大処理可能枚数を検討するために、実験を行った。ここで、「一段当り」とは、2枚の平面度矯正治具1で挟まれた複数枚の摩擦材3を一段として、この一段を単位として複数段重ねて加圧加熱処理する場合も含む意味である。表3に示されるような条件で摩擦材3の平面度矯正を実施した。
【0052】
【表3】

【0053】
表3に示されるように、使用によって反りの生じた摩擦材としてのクラッチフェーシング3を20枚・30枚・50枚・100枚の4種類、反りの方向を揃えて重ね、その上下に平面度矯正治具1のテーパーの方向がクラッチフェーシング3の反りの方向と逆になるように設置して、加重圧力2トン(約20kN)で加圧した後に、処理加熱温度100℃、処理時間1.5時間の条件で加熱した。即ち、仕込み枚数が異なる以外は、上記実施例1と同じ処理条件である。
【0054】
表3に示される矯正条件で処理した摩擦材3の矯正後平面度の分布を、図4に示す。図4に示されるように、摩擦材3に必要とされる平面度0.5mm以下という結果を全ての摩擦材3について得るためには、一段当りの仕込み枚数は最大30枚が限度であることが判明した。なお、段数については、5段までは問題ないことが判明した。したがって、一度に摩擦材の平面度矯正処理を行うことができる最大枚数は、30枚×5段=150枚となる。
【0055】
次に、本実施の形態にかかる摩擦材の平面度矯正治具1を用いた摩擦材の平面度矯正方法において、摩擦材を水に浸してから平面度矯正処理を行った場合の効果について、図5を参照して説明する。
【0056】
本実施の形態にかかる摩擦材の平面度矯正治具1を用いた摩擦材の平面度矯正方法の実施例2として、摩擦材としてのクラッチフェーシング3を水に10分間浸した後に、平面度矯正治具1を用いて平面度矯正処理を行った。比較のために、比較例2としてクラッチフェーシング3を水に10分間浸した後に、従来の平面度矯正治具10を用いて同様に平面度矯正処理を行った。実施例2及び比較例2の処理条件を、表4に示す。
【0057】
【表4】

【0058】
表4に示されるように、水に10分間浸漬した後、仕込み枚数20枚、加重圧力2トン(約20kN)で加圧した後に、処理温度120℃で1.5時間加熱処理することによって、平面度矯正処理を行った。即ち、水に10分間浸漬することと処理温度が120℃であること以外は、それぞれ上記実施例1及び比較例1と同様の条件である。
【0059】
これらの実施例2及び比較例2に示される矯正条件で処理した摩擦材3の矯正後平面度の分布を、図5に示す。図5に示されるように、実施例2の摩擦材の平面度矯正方法で矯正した摩擦材3の矯正後平面度は最大でも0.40mmであり、摩擦材3に必要とされる平面度0.5mm以下という条件を満たしている。これに対して、比較例2の平面度矯正方法で矯正した摩擦材3の矯正後平面度は最小でも0.40mm、最大では0.70mmに達しており、摩擦材3に必要とされる平面度0.5mm以下という条件を満たしていないものがある。
【0060】
さらに、図5に示される実験結果は、図2に示される実験結果と全く同一であり、水浸処理を行っても行わなくても同一の結果が得られることが分かった。したがって、水浸処理工程が不要になるため、平面度矯正処理工程を短縮することができる。
【0061】
本実施の形態においては、摩擦材としてクラッチフェーシングの平面度を矯正する場合について説明したが、生産工程または使用によって平面度が悪化する摩擦材であれば、その他の摩擦材についても適用することができる。
【0062】
また、本実施の形態においては、加熱温度を100℃または120℃として平面度矯正処理を行った場合について説明したが、加熱温度は80℃〜120℃の範囲内であれば良い。加熱温度が80℃未満になると充分な平面度矯正効果が得られず、また加熱温度が120℃を超えると摩擦材3が変性してしまう恐れがある。
【0063】
さらに、本実施の形態においては、加重圧力を2トンとした場合について説明したが、加重圧力は1トン〜3トンの範囲内であれば良い。加重圧力が1トン未満であると充分な平面度矯正効果が得られず、また加重圧力が3トンを超えると摩擦材3が変形してしまう恐れがある。
【0064】
摩擦材の平面度矯正治具のその他の部分の構成、厚さ、材質、大きさ、形状等についても、また摩擦材の平面度矯正方法のその他の工程についても、本実施の形態に限定されるものではない。
【図面の簡単な説明】
【0065】
【図1】図1(a)は本発明の実施の形態にかかる摩擦材の平面度矯正治具としてのテーパーリングを示す平面図、(b)は(a)のA−A断面図、(c)は本発明の実施の形態にかかる摩擦材の平面度矯正方法を示す模式図である。
【図2】図2は本発明の実施の形態にかかる摩擦材の平面度矯正方法による矯正後平面度を従来の平面度矯正方法による矯正後平面度と比較して示す図である。
【図3】図3は本発明の実施の形態にかかる摩擦材の平面度矯正方法において、摩擦材の平面度矯正治具のテーパー角度を変化させて得られた矯正後平面度を示す図である。
【図4】図4は本発明の実施の形態にかかる摩擦材の平面度矯正方法において摩擦材の仕込み枚数を変化させて得られた矯正後平面度を示す図である。
【図5】図5は本発明の実施の形態にかかる摩擦材の平面度矯正方法において水浸工程を加えた場合の矯正後平面度を従来の平面度矯正方法による矯正後平面度と比較して示す図である。
【図6】図6(a)は従来の平面度矯正方法に用いられる平面度矯正治具としてのフラットリングを示す平面図、(b)は(a)のB−B断面図、(c)はクラッチフェーシングの平面度を矯正する処理を示す模式図である。
【符号の説明】
【0066】
1 摩擦材の平面度矯正治具
2 テーパー面
3 摩擦材
α テーパー角度

【特許請求の範囲】
【請求項1】
反りを生じた1枚または複数枚の摩擦材を、両側から挟んで加圧した後に加熱することによって、前記摩擦材の平面度を矯正するための硬質の金属材料からなる治具であって、
前記摩擦材とほぼ同じリング形状と大きさを有し、
表面と裏面とが平行になるようにテーパーが付けられていることを特徴とする摩擦材の平面度矯正治具。
【請求項2】
前記テーパーの大きさは0.9度〜2.0度の範囲内であることを特徴とする請求項1に記載の摩擦材の平面度矯正治具。
【請求項3】
前記テーパーを付ける方法は前記硬質の金属材料を削り出す方法によることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の摩擦材の平面度矯正治具。
【請求項4】
反りを生じた1枚または複数枚の摩擦材を加圧することによって前記摩擦材の平面度を矯正するための摩擦材の平面度矯正方法であって、
前記摩擦材とほぼ同じリング形状と大きさを有し、表面と裏面とが平行になるようにテーパーが付けられた硬質の金属材料からなる平面度矯正治具を前記1枚または複数枚の摩擦材に生じた反りの方向と前記テーパーの方向とが逆になるように前記反りの方向を合わせて重ねた前記1枚または複数枚の摩擦材を両側から挟んで加圧した後に加熱することを特徴とする摩擦材の平面度矯正方法。
【請求項5】
前記平面度矯正治具の前記テーパーの大きさは0.9度〜2.0度の範囲内であることを特徴とする請求項4に記載の摩擦材の平面度矯正方法。
【請求項6】
前記1枚または複数枚の摩擦材の枚数は1枚以上30枚以下であることを特徴とする請求項5または請求項6に記載の摩擦材の平面度矯正方法。
【請求項7】
前記加熱の温度は80℃以上120℃以下であることを特徴とする請求項5乃至請求項7のいずれか1つに記載の摩擦材の平面度矯正方法。
【請求項8】
前記加圧する加重の大きさは1トン以上3トン以下であることを特徴とする請求項5乃至請求項8のいずれか1つに記載の摩擦材の平面度矯正方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2007−152367(P2007−152367A)
【公開日】平成19年6月21日(2007.6.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−347909(P2005−347909)
【出願日】平成17年12月1日(2005.12.1)
【出願人】(000100780)アイシン化工株式会社 (171)
【Fターム(参考)】