説明

摺動部材および画像定着装置

【課題】織布の強度を損なうことなく潤滑剤の保持性が高められた摺動部材を提供する。
【解決手段】フッ素樹脂の繊維束を含む糸で織られた布を有し、前記布に潤滑剤が付着している摺動部材を構成する。前記フッ素樹脂がポリテトラフルオロエチレン(延伸ポリテトラフルオロエチレン)である摺動部材を構成する。潤滑剤としてオイルを用いる。この摺動部材を画像定着装置に用いる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、機械部品の摺動部分に用いられる摺動部材に関するものである。より詳細には、機械部品の摺動面に配置されるシート状摺動部材であり、オイルなど液状の潤滑剤と共存して使用される摺動部材である。この摺動部材は、例えば複写機、プリンター、ファクシミリ等の画像定着装置に好適に使用される。
【背景技術】
【0002】
例えば複写装置では、ドラム状に形成された感光体を一様に帯電させ、この感光体を画像情報に基づいて制御された光で露光し、感光体上に静電潜像(トナー)を形成し、画像定着装置によって、このトナーを紙等の記録媒体上に未定着の状態で転写させ、加熱/加圧することにより記録媒体に定着させるものである。
【0003】
例えば、特許文献1には、回転可能に配設される加圧ロールと、この加圧ロールに回転可能に圧接配置された筒状のエンドレスベルトとを備えた画像定着装置が記載されている。エンドレスベルトの内側には、加圧ロール側に向けてエンドレスベルトを押圧する加圧部材が設けられ、加圧部材とエンドレスベルトと間には、潤滑剤を含んだ多孔質樹脂部材(摺動部材)が設けられており、エンドレスベルトを円滑に回転させる役割を担っている。
【0004】
摺動部材として使用する材料の例として、特許文献2には、多孔質糸により織られた布を用いることが記載されている。特許文献2では、延伸法による多孔質PTFE繊維が用いられており、延伸法による多孔質PTFE繊維の製造方法は、特許文献3に記載されている方法が挙げられている。
【0005】
特許文献3には、PTFE糸状物を得る主な方法として、3つの方法が記載されている。すなわち、第1の方法は、PTFEディスパージョン又はPTFEディスパージョンとアルギン酸やビスコース等のマトリクス重合体との複合液を硫酸水溶液のような凝固浴中に吐出させて糸状物とするエマルジョン紡糸法であり、第2の方法は、PTFEファインパウダーのペースト押出物を押出助剤除去後に延伸して得られる多孔質延伸PTFEのスリットテープを再延伸して糸状化させるスリットヤーン法であり、そして、第3の方法は、PTFEのパーフルオロ炭素化合物溶剤による溶液を口金から不活性気体や不活性液体中に押出して紡糸する溶液紡糸法である。
【0006】
特許文献2および3で使用されている糸は、いわゆる単一糸(モノフィラメント)であり、摺動部材として機能させるために供給された潤滑剤は織布の糸と糸の隙間に保持されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2001−228731号公報(第1図)
【特許文献2】特開2003−191389号公報(段落0008等)
【特許文献3】特開平07−102413号公報(段落0002等)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、摺動部材を使用しているうちに摺動部材表面の凸部(1本の糸の山部に対応する)は徐々に削られて平滑化してくる。そうすると、特許文献2に記載された布を使用し続けた場合、潤滑剤を保持できる糸同士の間隔が開くため、潤滑剤が保持される部位がなくなり、必要とする部位への潤滑剤の供給不足となる。そのため、摺動部材の摩擦抵抗(以下、「摺動抵抗」とも記載する)が増加し、装置負荷の増大による故障やエンドレスベルト等の可動部材表面の摩耗、消費電力の増加、発熱など、様々な問題が生じてくる。そのため、画像定着装置の寿命に達する前に摺動部材を交換する必要が生じることもある。
【0009】
潤滑剤の保持性を高めるため、より細い単一糸を用いて織布を作成して糸と糸の間隔を狭くすることも考えられるが、この場合は、織布自体の強度が不足する問題があった。糸が細い場合は、1本1本の糸が切れ易いために、トータルの繊度(デニール数)が同じでも、強度が低くなるものと考えられる。また糸が細い場合、摩耗により織布表面の凹凸が小さくなり、摺動時の接触面積が大きくなるため、使用開始後のかなり早い段階から摩擦抵抗が高くなってしまう問題があった。
【0010】
本発明は上記の様な状況のもとになされたものであって、織布の強度を損なうことなく潤滑剤の保持性が高められた摺動部材を提供すること、及び、該摺動部材により、長期に渡って低摩擦抵抗の運転が可能となる画像定着装置を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的を達し得た本発明の摺動部材は、フッ素樹脂の繊維束を含む糸で織られた布を有し、前記布に潤滑剤が付着しているものである。
【0012】
上記摺動部材において、フッ素樹脂をポリテトラフルオロエチレンとする態様、或いは、ポリテトラフルオロエチレンが延伸ポリテトラフルオロエチレンである態様をとることが好ましい。
【0013】
上記摺動部材において、潤滑剤としてオイルを用いる態様をとることが好ましい。
【0014】
上記摺動部材において、必要に応じて布の片面に樹脂フィルムを固着して一体化すること、また必要に応じ、その布または前記樹脂フィルムと一体化された布の、片面または両面に多孔質フィルムを設ける。
【0015】
上記目的を達し得た本発明の画像定着装置は、上記摺動部材を備えたものである。
【発明の効果】
【0016】
本発明では、フッ素樹脂の繊維束を含む糸により織られた布に潤滑剤を付着させることにより潤滑剤が繊維間に入り込み、潤滑剤の保持性が高いため、長期に使用しても潤滑剤の安定供給が可能な摺動部材を提供することができる。しかも、本発明の構成では、意外にも織布自体の強度を低下させることがないことが判明した。この摺動部材により、長期に渡って低摩擦抵抗の運転が可能となる画像定着装置を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】図1は、本発明の実施の形態1における画像定着装置の断面図である。
【図2】図2は、本発明の実施例における摺動部材断面の顕微鏡観察像のスケッチである。
【図3】図3は、本発明の実施例および比較例における布の摺動抵抗と測定時間との関係を示すグラフである。
【図4】図4は、本発明の実施例および比較例における布の強度(引張強度(応力))と引張変位の関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
(実施の形態1)
以下、本発明の実施の形態1にかかる画像定着装置について図面に基づいて説明するが、実施の形態1は、本発明の摺動部材の使用例を説明することを主目的としたものであり、本発明の摺動部材を使用した画像定着装置がこれに限定されるものではない。本発明の摺動部材は、摺動部材を必要とする一般的な画像定着装置のいずれにも使用される。
【0019】
図1は、本発明の摺動部材を用いた画像定着装置の断面図である。図1において、画像定着装置は、定着ロール1と加熱ロール2とが、矢印の方向に回転しながら相互に押圧される構成を備えている。定着ロール1と加熱ロール2との間には、トナー9(未定着)を付着させた紙8が挟み込まれて加熱/押圧されることにより、トナー9が定着する。
【0020】
定着ロール1は、エンドレスベルト1aと、その内部に形成される押圧部5とを有している。エンドレスベルト1aの外表面には、例えばパーフルオロアルコキシフッ素樹脂(PFA)、ポリテトラフルオロエチレン樹脂(PTFE)等のような、離型性に優れた材料が形成されている。
【0021】
エンドレスベルト1aの内側には、エンドレスベルト1aに対して回転自在にコア部材4が設けられている。コア部材4には押圧部5が固定されており、押圧部5の先端には、織布で形成された摺動部材6が固定されている。すなわち摺動部材6は、押圧部5とエンドレスベルト1aの内側面に挟まれる位置にあり、押圧部5に固定されているものの、エンドレスベルト1aに対しては押し付けられているだけであり、摺動自在となっている。摺動部材6を構成する織布には潤滑剤が付着しておりエンドレスベルト1aとの間の摺動性を高めている。摺動部材6については、後述の実施の形態2において詳しく説明する。
【0022】
さらにコア部材4には、潤滑剤を含浸した多孔質物質の潤滑剤供給部材7が取り付けられている。潤滑剤供給部材7内の潤滑剤は、エンドレスベルト1aの回転により順次摺動部材6に供給される。
【0023】
加熱ロール2には、外周部に形成された円筒部2a(内側から順にステンレス層/弾性層/離型層)が備えられている。また、円筒部2aの内側部には、加熱源としてのハロゲンランプ3が配設されている。なお、上記弾性層の構成材料としては、シリコーンゴム、フッ素ゴムなどが挙げられる
【0024】
以上が、本発明の摺動部材を用いた画像定着装置の概略である。次に本発明の摺動部材について、詳細に説明する。
【0025】
(実施の形態2)
以下、本発明の実施の形態2にかかる摺動部材について説明する。本発明の摺動部材は、上記したようにフッ素樹脂の繊維束を含む糸で織られた布(以下、「織布」、或いは単に「布」と記載する)を有し、この織布に潤滑剤が付着しているものである。
【0026】
(フッ素樹脂繊維)
フッ素樹脂の繊維としては、例えば、多孔質ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)繊維、非多孔質PTFE繊維、テトラフルオロエチレン/パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA)繊維、テトラフルオロエチレン/ヘキサフルオロピルビレン共重合体(FEP)繊維、テトラフルオロエチレン/エチレン共重合体(ETFE)繊維、ポリクロロトリフルオロエチレン(PCTFE)繊維、クロロトリフルオロエチレン/エチレン共重合体(ECTFE)繊維、ポリビニリデンフルオライド(PVDF)繊維、ポリビニルフルオライド(PVF)繊維等が挙げられる。その他、これらのフッ素樹脂繊維同士、又はこれらのフッ素樹脂繊維と他の有機繊維(ナイロン、ポリエステル、アラミド等)、無機繊維を適宜組み合わせたものを用いることができる。これらの中でも、摺動性、耐摩耗性を高める観点から、ポリテトラフルオロエチレンを用いることが好ましい。また、繊維の強度を高める観点から、ポリテトラフルオロエチレンは、延伸されたものを用いることが好ましい。
【0027】
例えば多孔質ポリテトラフルオロエチレンは、PTFEのファインパウダーと成形助剤を混合成形し、成形助剤を除去した後、高温高速度で延伸し、さらに必要に応じて焼成することによって得られる。得られた多孔質ポリテトラフルオロエチレンを延伸方向に沿って細かく引き裂くことにより繊維状物を形成することができる。
【0028】
フッ素樹脂繊維は、最低限の強度を保つため、例えば10デニール以上(より好ましくは20デニール以上、さらに好ましくは30デニール以上)とすることが望ましい。また本発明では、潤滑剤が、フッ素樹脂繊維の束と束の間だけでなくフッ素樹脂繊維とフッ素樹脂繊維との間に入り込むことにより潤滑剤の保持性が良好になる。このような効果を一層有効に発揮させるためには、フッ素樹脂繊維は、例えば100デニール以下(より好ましくは80デニール以下、さらに好ましくは70デニール以下)とすることが望ましい。
【0029】
(繊維束)
フッ素樹脂の短繊維を複数本(2本以上、好ましくは8本以上、さらに好ましくは15本以上、100本以下、好ましくは80本以下、さらに好ましくは50本以下)集めて束状にしたものであり、例えば短繊維を単に束ねたものや、短繊維を撚って束ねたものが含まれる。
【0030】
1本の繊維の太さと、繊維束に含まれる繊維の本数のバランスを考慮すると、10〜100デニールの延伸フッ素樹脂繊維を束ね、繊維束1本を200デニール以上とすることが好ましい。更に、最適な範囲としては、30〜70デニールの繊維(延伸PTFE繊維)を10〜50本束ね、繊維束1本を200〜1000デニールとすることが、強度と潤滑剤の保持性のバランスが良い。
【0031】
(織布)
上記繊維束により織られた布であり、その織り方に特に制限はないが、例示として、平織、朱子織、綾織、からみ織、模紗織を挙げることができる。本発明の場合、耐摩耗性、摺動性の点から、平織又は朱子織が好ましい。織布の強度、取扱い性の点から、織布の厚みは0.1〜1mmであり、より好ましくは0.2〜0.5mmである。
【0032】
なお、本発明における織布を平織により構成する場合、経糸、緯糸の少なくともいずれか一方を撚糸とすることが望ましい。
【0033】
(潤滑剤)
潤滑剤には、オイルやグリースが包含されるが、潤滑性の点からオイルを用いるのが好ましい。オイルの場合、シリコーンオイルやフッ素オイル等が用いられるが、性能面からフッ素オイルが好ましく用いられる。シリコーンオイルを用いる場合には、アミノ変性シリコーンオイル、ジメチルシリコーンオイル、メルカプト変性シリコーンオイル、ヒンダードアミンオイル等の変性シリコーンオイルが摺動性、耐久性に優れ好ましい。この場合のシリコーンオイルにおいて、その粘度(常温)は、50cps以上(より好ましくは100cps以上、さらに好ましくは300cps以上)、3000cps以下(より好ましくは1000cps以下、さらに好ましくは500cps以下)であることが望ましい。粘度が50cps未満では、シリコーンオイルの蒸発が大きくなり、粘度が3000cpsを超えると摺動抵抗が増大し、潤滑剤を用いる効果が得られないからである。
【0034】
(樹脂フィルム)
また、織布の片面(押圧部5側であり、摺動面とは反対側)に樹脂フィルムを固着して一体化したものを摺動部材として用いてもよい。この樹脂フィルムは、織布の変形防止に有効である。樹脂フィルムを用いない場合には、織布は長時間の使用により変形し、様々な不都合を生じる可能性があるが、樹脂フィルムの使用により、このような不都合の発生を防止することができる。織布の変形量は、織布の材質、組織構造によって異なるが、変形の大きいものほど樹脂フィルムを用いることによる効果が顕著であり、当該樹脂フィルムを用いることにより、変形量が比較的大きい織布を用いた場合であっても、経時安定性がよい。
【0035】
本発明で用いる樹脂フィルムとしては、多孔質及び非多孔質の各種の樹脂フィルム、金属フィルム等が用いられるが、潤滑剤遮断性、加工性、コストの点から、非多孔質樹脂フィルムを用いるのが好ましい。非多孔質樹脂フィルムを用いれば、本発明で用いる織布に潤滑剤が保持された場合、この織布の下部に、例えばシリコーンゴムで構成された押圧部5が使用されても、樹脂フィルムが潤滑剤のバリア層として機能し、潤滑剤が押圧部5を濡らし、押圧部5の膨潤、劣化を引き起こす現象を防止できる。樹脂フィルムに用いる材料の具体例を示すと、例えば、PTFE、PFA、FEP、ETFE等のフッ素樹脂の他、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリイミド(PI)、ポリエーテルイミド(PEI)、ポリエーテルサルホン(PES)、ポリフェニレンサルファイド(PPS)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、液晶ポリマー(LCP)等が挙げられる。
【0036】
(多孔質フィルム)
織布、または、前記樹脂フィルムと一体化された織布の片面(摺動面側)または両面には、摺動抵抗の低減、耐摩耗性の向上の点から、多孔質膜(多孔質フィルム)を積層接着させてもよい。この多孔質フィルムとしては、潤滑剤を保持することが可能で、摺動材の使用温度に耐えるものであれば特に制約されないが、摺動性に優れた各種のフッ素樹脂多孔質フィルムが好ましく用いられる。本発明の場合、耐熱性、耐摩耗性、摺動性、オイル保持性の点から、特に、多孔質PTFEを用いることが好ましい。多孔質フィルムの厚みは1〜1000μmであるが、そのフィルムとしての取扱い性、強度、コストの点から、5〜150μmが好ましい。その多孔質フィルムの最大孔径は、耐摩耗性、摺動性、潤滑剤保持性の点から、0.01μm以上が好ましい。その最大孔径が0.01μmより小さくなると、そのフィルムの潤滑剤保持性が低下してしまう。最大孔径の上限値については、潤滑剤保持性、耐摩耗性、摺動性が損なわれなければよく、特に制約されない。前記多孔質PTFEフィルムは、延伸法、溶剤抽出法、キャスティング法等、従来公知の方法により製造することができる。延伸法によって製造される延伸多孔質PTFEフィルムは、高強度で耐摩耗性に優れており、特に好ましく用いられる。延伸法による多孔質PTFEフィルムの製造方法は、特開昭46−7284号、特開昭50−22881号、特表平03−504876号等の各公報に開示されている、従来公知の方法を用いることができる。
【実施例】
【0037】
以下、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はもとより下記実施例によって制限を受けるものではなく、前・後記の趣旨に適合し得る範囲で適当に変更を加えて実施することも勿論可能であり、それらはいずれも本発明の技術的範囲に包含される。
【0038】
1.試料の作成
本発明の実施例で用いる繊維束(糸)として、ジャパンゴアテックス株式会社製(品番:Y006TO)を用いた。これは、延伸された多孔質ポリテトラフルオロエチレンを延伸方向に細かく引き裂くことにより作成された繊維を使用したものである。引き裂かれた延伸多孔質PTFE繊維は、平均40デニールである。このような延伸多孔質PTFE繊維が平均で15本束ねられ、600デニールの繊維束(1本の糸)が構成されている。
【0039】
本実施例では、この繊維束を平織にすることにより厚さ0.35mmの織布を作成し、この織布100cmあたり1.2gのフッ素オイルを付着させることにより摺動部材を得た。
【0040】
この様にして得られた摺動部材を切断し、その断面を走査型電子顕微鏡で観察した。しかし高いコントラストの像は得られなかったため観察エリアのスケッチをとった。図2は、そのスケッチである。図2によると、繊維の断面は、幅約80μm、高さ約7μmの扁平形状であった。
【0041】
2.摺動抵抗の測定
上記のようにして作成された摺動部材(以下、「布A」と記載する)を、実際に富士ゼロックス株式会社製カラーレーザープリンター(DocuPrintC3530)の定着ユニットに装着し、摺動部材の摺動抵抗(回転方向)を測定した(図3)。測定には、図1に示した画像定着装置の加熱ロール2を連続的に回転させるためのトルクを測定した。比較のために用いた布Bは、布Aとは異なり繊維束(糸)を用いたものではなく、単一の糸(モノフィラメント)で織られたものである。しかし、構成材料が多孔質ポリテトラフルオロエチレンであることや、糸の繊度(デニール)や布の打込数は変わらない。さらに、比較のために用いた布Cは、上記画像定着装置の定着ユニットに付属されていたPTFE含浸ガラスクロスである。摺動抵抗測定試験の詳細な条件は、次の通りである。なお、布A、布B、布Cいずれも、潤滑剤としてソルベイソレクシス株式会社製のFomblin(商品名)[品番:Y−LVAC 25/6]を用いた。
【0042】
試験温度:170℃
用紙の線速:6.7m/分
ニップ圧:1.5MPa
測定時間:300時間
潤滑剤:無補給(評価開始時点での含浸分のみ)
【0043】
図3から分かるように、多孔質ポリテトラフルオロエチレンの繊維束で作成された布Aでは、布B、布Cに比べて長時間に亘って摺動抵抗が低く保たれている。しかし、単一糸(モノフィラメント)で織られた布Bではエンドレスベルトに対する接点が小さいことから評価開始時点でこそ摺動抵抗値は比較的低いものの、摩耗により織布表面の凹凸が小さくなり、摺動時の接触面積が大きくなるため、使用開始後のかなり早い段階から摺動抵抗が高くなってしまっている。布Cでは、摺動抵抗の観点では布Bよりも優れているが、布Aには及ばない。
【0044】
3.強度評価
布Aおよび布BのそれぞれをJIS−K7127の5号ダンベル形状に加工して、JIS−K7161に準拠して引張強度(引張速度:50mm/分)を測定した。その結果を図4に示す。図4から分かるように、布Aの構成繊維は細いにもかかわらず布Bに比べて引張強度は落ちていない(最大引張応力はむしろ上がっている)ことが確認された。
【符号の説明】
【0045】
1 定着ロール
1a エンドレスベルト
2 加熱ロール
2a 円筒部
3 ハロゲンランプ
4 コア部材
5 押圧部
6 摺動部材
7 潤滑剤供給部材
8 紙
9 トナー
11 繊維
12 繊維束

【特許請求の範囲】
【請求項1】
フッ素樹脂の繊維束を含む糸で織られた布を有し、前記布に潤滑剤が付着している摺動部材。
【請求項2】
前記フッ素樹脂がポリテトラフルオロエチレンである請求項1に記載の摺動部材。
【請求項3】
前記ポリテトラフルオロエチレンが延伸ポリテトラフルオロエチレンである請求項2に記載の摺動部材。
【請求項4】
前記潤滑剤がオイルである請求項1〜3のいずれかに記載の摺動部材。
【請求項5】
前記布の片面に樹脂フィルムを固着して一体化している請求項1〜4のいずれかに記載の摺動部材。
【請求項6】
前記布または前記樹脂フィルムと一体化された布の片面または両面に多孔質フィルムが設けられた請求項1〜5のいずれかに記載の摺動部材。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれかに記載された摺動部材を備えた画像定着装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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