説明

摺動部材および画像定着装置

【課題】摩耗に対する耐性が高く破れにくい画像定着装置用のシート状摺動部材を提供する。
【解決手段】フッ素樹脂の繊維を含む糸で織られた布の状態で当該フッ素樹脂の融点以上の温度で加熱処理を施すことにより糸と糸の交点において融着を起こさせ、糸同士の擦れ合いによる織布の摩耗の進行を抑えたシート状摺動部材6である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、機械部品の摺動部分に用いられる摺動部材に関するものである。より詳細には、機械部品の摺動面に配置されるシート状摺動部材であり、例えばオイルなど液状の潤滑剤と共存して使用される摺動部材である。この摺動部材は、例えば複写機、プリンター、ファクシミリ等の画像定着装置に好適に使用される。
【背景技術】
【0002】
例えば複写装置では、ドラム状に形成された感光体を一様に帯電させ、この感光体を画像情報に基づいて制御された光で露光し、感光体上に静電潜像(トナー)を形成し、画像定着装置によって、このトナーを紙等の記録媒体上に未定着の状態で転写させ、加熱/加圧することにより記録媒体に定着させるものである。
【0003】
例えば、特許文献1には、回転可能に配設される加圧ロールと、この加圧ロールに回転可能に圧接配置された筒状のエンドレスベルトとを備えた画像定着装置が記載されている。エンドレスベルトの内側には、加圧ロール側に向けてエンドレスベルトを押圧する加圧部材が設けられ、加圧部材とエンドレスベルトと間には、潤滑剤を含んだ多孔質樹脂部材(摺動部材)が設けられており、エンドレスベルトを円滑に回転させる役割を担っている。
【0004】
摺動部材として使用する材料の例として、特許文献2には、多孔質糸により織られた布を用いることが記載されている。特許文献2では、延伸法による多孔質PTFE繊維が用いられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2001−228731号公報(第1図)
【特許文献2】特開2003−191389号公報(段落0008等)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、上記のような従来の摺動部材では、使用を継続していくうちに摩耗により摺動部材に破れが発生してしまうことがあった。
【0007】
本発明は上記の様な状況のもとになされたものであって、摩耗に対する耐性が高いために破れにくい摺動部材を提供することを目的とする。また、該摺動部材を用いることにより、長期にわたって故障なく運転可能な画像定着装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達し得た本発明の摺動部材は、フッ素樹脂の繊維を含む糸で織られた布を有する摺動部材であって、前記布は加熱処理を施されたものである。
【0009】
上記摺動部材において、前記糸がポリテトラフルオロエチレンの繊維を含み、前記加熱処理の温度を327度(℃)以上、400度(℃)以下とする態様とすることができる。
【0010】
上記摺動部材において、前記糸がポリテトラフルオロエチレンの繊維を含み、前記加熱処理の温度を240度以上、327度未満とする態様とすることができる。
【0011】
上記摺動部材において、前記ポリテトラフルオロエチレンとして延伸ポリテトラフルオロエチレンを用いることが望ましい。
【0012】
上記摺動部材において、前記繊維が2種以上のフッ素樹脂を含むことが望ましい。
【0013】
上記摺動部材において、前記糸が複数の繊維を含む束であり、前記布に潤滑剤が付着していることが望ましい。
【0014】
上記目的を達し得た本発明の画像定着装置は、上記摺動部材を備えたものである。
【発明の効果】
【0015】
本発明では、フッ素樹脂の繊維を含む糸で織られた布を有する摺動部材であって、前記布は加熱処理を施されたものである。この摺動部材により、長期にわたって低摩擦抵抗の運転が可能となる画像定着装置を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】図1は、本発明の実施の形態1における画像定着装置の断面図である。
【図2】図2は、本発明の実施例における摺動部材断面の顕微鏡観察像のスケッチである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
(実施の形態1)
以下、本発明の実施の形態1にかかる画像定着装置について図面に基づいて説明するが、実施の形態1は、本発明の摺動部材の使用例を説明することを主目的としたものであり、本発明の摺動部材を使用した画像定着装置がこれに限定されるものではない。本発明の摺動部材は、摺動部材を必要とする一般的な画像定着装置のいずれにも使用される。
【0018】
図1は、本発明の摺動部材を用いた画像定着装置の断面図である。図1において、画像定着装置は、定着ロール1と加熱ロール2とが、矢印の方向に回転しながら相互に押圧される構成を備えている。定着ロール1と加熱ロール2との間には、トナー9(未定着)を付着させた紙8が挟み込まれて加熱/押圧されることにより、トナー9が定着する。
【0019】
定着ロール1は、エンドレスベルト1aと、その内部に形成される押圧部5とを有している。エンドレスベルト1aの外表面には、例えばパーフルオロアルコキシフッ素樹脂(PFA)、ポリテトラフルオロエチレン樹脂(PTFE)等のような、離型性に優れた材料が形成されている。
【0020】
エンドレスベルト1aの内側には、エンドレスベルト1aに対して回転自在にコア部材4が設けられている。コア部材4には押圧部5が固定されており、押圧部5の先端には、織布で形成された摺動部材6が固定されている。すなわち摺動部材6は、押圧部5とエンドレスベルト1aの内側面に挟まれる位置にあり、押圧部5に固定されているものの、エンドレスベルト1aに対しては押し付けられているだけであり、摺動自在となっている。摺動部材6を構成する織布には潤滑剤が付着しておりエンドレスベルト1aとの間の摺動性を高めている。摺動部材6については、後述の実施の形態2において詳しく説明する。
【0021】
さらにコア部材4には、潤滑剤を含浸した多孔質物質の潤滑剤供給部材7が取り付けられている。潤滑剤供給部材7内の潤滑剤は、エンドレスベルト1aの回転により順次摺動部材6に供給される。
【0022】
加熱ロール2には、外周部に形成された円筒部2a(内側から順にステンレス層/弾性層/離型層)が備えられている。また、円筒部2aの内側部には、加熱源としてのハロゲンランプ3が配設されている。なお、上記弾性層の構成材料としては、シリコーンゴム、フッ素ゴムなどが挙げられる。
【0023】
以上が、本発明の摺動部材を用いた画像定着装置の概略である。次に本発明の摺動部材について、詳細に説明する。
【0024】
(実施の形態2)
以下、本発明の実施の形態2にかかる摺動部材について説明する。本発明の摺動部材は、上記したようにフッ素樹脂の繊維を含む糸で織られた布を有する摺動部材であって、前記布は加熱処理を施されたものである。よって、以下、(1)フッ素樹脂の繊維を含む糸、(2)織られた布、(3)加熱処理について順を追って説明する。
【0025】
(1)フッ素樹脂繊維
本発明で用いられる織布の糸は、フッ素樹脂の繊維を含むものである。フッ素樹脂の繊維としては、例えば、多孔質ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)繊維、非多孔質PTFE繊維、テトラフルオロエチレン/パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA)繊維、テトラフルオロエチレン/ヘキサフルオロピルビレン共重合体(FEP)繊維、テトラフルオロエチレン/エチレン共重合体(ETFE)繊維、ポリクロロトリフルオロエチレン(PCTFE)繊維、クロロトリフルオロエチレン/エチレン共重合体(ECTFE)繊維、ポリビニリデンフルオライド(PVDF)繊維、ポリビニルフルオライド(PVF)繊維等が挙げられる。その他、これらのフッ素樹脂繊維同士、又はこれらのフッ素樹脂繊維と他の有機繊維(ナイロン、ポリエステル、アラミド等)、無機繊維を2種類以上、適宜組み合わせたものを用いることができる。これらの中でも、摺動性、耐摩耗性を高める観点から、ポリテトラフルオロエチレンを用いることが好ましい。また、繊維の強度を高める観点から、ポリテトラフルオロエチレンは、延伸されたものを用いることが好ましい。
【0026】
例えば多孔質ポリテトラフルオロエチレン(多孔質PTFE)は、PTFEのファインパウダーと成形助剤を混合成形し、成形助剤を除去した後、高温高速度で延伸し、さらに必要に応じて焼成することによって得られる。得られた多孔質ポリテトラフルオロエチレンを延伸方向に沿って細かく引き割くことにより繊維状物を形成することができる。
【0027】
フッ素樹脂繊維は、最低限の強度を保つため、例えば10デニール以上(より好ましくは20デニール以上、さらに好ましくは30デニール以上)とすることが望ましい(0.9デニールは1デシテックスである)。また後述するが、フッ素樹脂繊維を束にして作製された糸を用いて織布を構成すれば、潤滑剤が、フッ素樹脂繊維の束と束の間だけでなくフッ素樹脂繊維とフッ素樹脂繊維との間に入り込むことにより潤滑剤の保持性が良好になる。このような効果を一層有効に発揮させるためには、フッ素樹脂繊維は、例えば100デニール以下(より好ましくは80デニール以下、さらに好ましくは70デニール以下)とすることが望ましい。
【0028】
(2)織布
本発明の摺動部材は、上記したようにフッ素樹脂の繊維を含む糸で織られた布(以下、「織布」、或いは単に「布」と記載する場合がある)を有するものである。なお、摺動性の向上の観点から、通常はこの織布にオイルなどの潤滑剤を付着させる。
【0029】
本発明に用いる布は上記フッ素樹脂繊維を含む糸で織られた布であり、その織り方に特に制限はないが、例示として、平織、朱子織、綾織、からみ織、模紗織を挙げることができる。本発明の場合、耐摩耗性、摺動性の点から、平織又は朱子織が好ましい。織布の強度、取扱い性の点から、織布の厚みは0.1〜1mmであり、より好ましくは0.2〜0.5mmである。
【0030】
なお、本発明における織布を平織により構成する場合、経糸、緯糸の少なくともいずれか一方を撚糸とすることが望ましい。
【0031】
(3)加熱処理
本発明における織布は加熱処理が施されたものである。すなわち加熱処理が施される対象は布である。したがって本発明は、布の状態に織る前の糸に対する加熱処理を何ら規定するものではなく、布の状態に織った後の加熱処理を規定しているものである。フッ素樹脂の繊維を含む糸で織られた布に加熱処理を施すと、糸が収縮することによって織布全体が引き締まるように糸同士が強固に接合し合うこと、及び、織布の重量すなわち目付け量が増加すること等により破れに対する耐性が向上する。
【0032】
糸がポリテトラフルオロエチレンの繊維で構成される場合、加熱処理の温度をポリテトラフルオロエチレンの融点以上、すなわち327度以上とすれば、糸と糸の交点において融着が起こるため、糸同士の擦れ合いによる織布の摩耗の進行を抑えることができる。このような効果を一層確実に発揮させるために加熱処理の温度は、好ましくは350度以上、より好ましくは360度以上とする。一方、加熱処理の温度が高すぎる場合には織布の織目が消滅する、あるいは織布の表面が波打つ(うねる)ため、加熱処理温度の上限は400度(好ましくは390度、より好ましくは380度)とする。
【0033】
もちろん、加熱処理の温度はポリテトラフルオロエチレンの融点未満の温度であってもよい。その場合には糸同士の融着は起こらないが、上記したように糸が収縮することによって破れに対する耐性が向上する。このような効果を一層確実に発揮させるために加熱処理の温度は、例えば240度以上とする。好ましくは250度以上、より好ましくは260度以上である。
【0034】
織布を加熱処理する方法は特には限定されないが、例えば、帯状の織布を準備し、内部にヒーターを有する回転体(加熱回転体)にその織布を接触させつつ巻き取りロールを用いて順次巻き替えていくことにより、織布を連続して加熱処理する方法がある。この方法では、生産の効率と安定性が高いという利点がある。その際、織布を加熱回転体に均一に接触させ、織布を均等に収縮させることが望ましい。また、金属製の円筒状物に織布を複数周巻付け、これを恒温槽に一定時間入れておくことにより加熱処理を行う方法を採っても良い。
【0035】
以上のように、フッ素樹脂の繊維を含む糸で織られた布を加熱処理することにより、長時間に亘る使用によっても破れが発生しにくい摺動部材を得ることができる。このような摺動部材を基本的構成とし、以下に説明する特徴を更に付与することにより、一層優れた特性を有する摺動部材を得ることができる。
【0036】
(潤滑剤)
上記したように、摺動部材に潤滑剤を保持させることにより摺動部材の摺動抵抗を下げることができる。潤滑剤には、オイルやグリースが包含されるが、潤滑性の点からオイルを用いるのが好ましい。オイルの場合、シリコーンオイルやフッ素オイル等が用いられるが、性能面からフッ素オイルが好ましく用いられる。シリコーンオイルを用いる場合には、アミノ変性シリコーンオイル、ジメチルシリコーンオイル、メルカプト変性シリコーンオイル、ヒンダードアミンオイル等の変性シリコーンオイルが摺動性、耐久性に優れ好ましい。この場合のシリコーンオイルにおいて、その粘度(常温)は、50cps以上(より好ましくは100cps以上、さらに好ましくは300cps以上)、3000cps以下(より好ましくは1000cps以下、さらに好ましくは500cps以下)であることが望ましい。粘度が50cps未満では、シリコーンオイルの蒸発が大きくなり、粘度が3000cpsを超えると摺動抵抗が増大し、潤滑剤を用いる効果が得られないからである。
【0037】
(繊維束)
本発明で用いる糸は、上記したようにフッ素樹脂繊維を含む糸であるが、繊維を束状とすれば、繊維と繊維の間に潤滑剤が入り込んで保持されやすくなる。なお潤滑剤の保持性を高めるためには、より細い単一糸を用いて織布を作製して糸と糸の間隔を狭くすることも考えられるが、この場合は、織布自体の強度が不足する問題がある。糸が細い場合は、1本1本の糸が切れ易いために、トータルの繊度(デニール数)が同じでも、強度が低くなるものと考えられる。また糸が細い場合、摩耗により織布表面の凹凸が小さくなり、摺動時の接触面積が大きくなるため、使用開始後のかなり早い段階から摩擦抵抗が高くなってしまう。そのため、本発明では、繊維束を用いることとした。
【0038】
より詳細には、繊維束とはフッ素樹脂の短繊維を複数本(2本以上(好ましくは8本以上、さらに好ましくは15本以上)、100本以下(好ましくは80本以下、さらに好ましくは50本以下))集めて束状にしたものであり、例えば短繊維を単に束ねたものや、短繊維を撚って束ねたものが含まれる。
【0039】
1本の繊維の太さと、繊維束に含まれる繊維の本数のバランスを考慮すると、10〜100デニールの延伸フッ素樹脂繊維を束ね、繊維束1本を200デニール以上とすることが好ましい。更に、最適な範囲としては、30〜70デニールの繊維(延伸PTFE繊維)を10〜50本束ね、繊維束1本を200〜1000デニールとすることが、強度と潤滑剤の保持性のバランスが良い。
【0040】
(樹脂フィルム)
また、織布の片面(押圧部5側であり、摺動面とは反対側)に樹脂フィルムを固着して一体化したものを摺動部材として用いてもよい。この樹脂フィルムは、織布の変形防止に有効である。樹脂フィルムを用いない場合には、織布は長時間の使用により変形し、様々な不都合を生じる可能性があるが、樹脂フィルムの使用により、このような不都合の発生を防止することができる。織布の変形量は、織布の材質、組織構造によって異なるが、変形の大きいものほど樹脂フィルムを用いることによる効果が顕著であり、当該樹脂フィルムを用いることにより、変形量が比較的大きい織布を用いた場合であっても、経時安定性がよい。
【0041】
本発明で用いる樹脂フィルムとしては、多孔質及び非多孔質の各種の樹脂フィルム、金属フィルム等が用いられるが、潤滑剤遮断性、加工性、コストの点から、非多孔質樹脂フィルムを用いるのが好ましい。非多孔質樹脂フィルムを用いれば、本発明で用いる織布に潤滑剤が保持された場合、この織布の下部に、例えばシリコーンゴムで構成された押圧部5が使用されても、樹脂フィルムが潤滑剤のバリア層として機能し、潤滑剤が押圧部5を濡らし、押圧部5の膨潤、劣化を引き起こす現象を防止できる。樹脂フィルムに用いる材料の具体例を示すと、例えば、PTFE、PFA、FEP、ETFE等のフッ素樹脂の他、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリイミド(PI)、ポリエーテルイミド(PEI)、ポリエーテルサルホン(PES)、ポリフェニレンサルファイド(PPS)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、液晶ポリマー(LCP)等が挙げられる。
【0042】
(多孔質フィルム)
織布、または、前記樹脂フィルムと一体化された織布の片面(摺動面側)または両面には、摺動抵抗の低減、耐摩耗性の向上の点から、多孔質膜(多孔質フィルム)を積層接着させてもよい。この多孔質フィルムとしては、潤滑剤を保持することが可能で、摺動部材の使用温度に耐えるものであれば特に制約されないが、摺動性に優れた各種のフッ素樹脂多孔質フィルムが好ましく用いられる。本発明の場合、耐熱性、耐摩耗性、摺動性、オイル保持性の点から、特に、多孔質PTFEを用いることが好ましい。多孔質フィルムの厚みは1〜1000μmであるが、そのフィルムとしての取扱い性、強度、コストの点から、5〜150μmが好ましい。その多孔質フィルムの最大孔径は、耐摩耗性、摺動性、潤滑剤保持性の点から、0.01μm以上が好ましい。その最大孔径が0.01μmより小さくなると、そのフィルムの潤滑剤保持性が低下してしまう。最大孔径の上限値については、潤滑剤保持性、耐摩耗性、摺動性が損なわれなければよく、特に制約されない。前記多孔質PTFEフィルムは、延伸法、溶剤抽出法、キャスティング法等、従来公知の方法により製造することができる。延伸法によって製造される延伸多孔質PTFEフィルムは、高強度で耐摩耗性に優れており、特に好ましく用いられる。延伸法による多孔質PTFEフィルムの製造方法は、特開昭46−7284号公報、特開昭50−22881号公報、特表平03−504876号公報等に開示されている、従来公知の方法を用いることができる。
【実施例】
【0043】
以下、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はもとより下記実施例によって制限を受けるものではなく、前・後記の趣旨に適合し得る範囲で適当に変更を加えて実施することも勿論可能であり、それらはいずれも本発明の技術的範囲に包含される。
【0044】
1.サンプルの作製
本発明の実施例で用いる繊維束(糸)として、ジャパンゴアテックス株式会社製(品番:Y006TO)を用いた。これは、延伸された多孔質ポリテトラフルオロチレンを延伸方向に細かく引き裂くことにより作製された繊維を使用したものである。引き裂かれた延伸多孔質ポリテトラフルオロチレン繊維は平均40デニールである。このような多孔質ポリテトラフルオロチレン繊維が平均で15本束ねられ、600デニールの繊維束(1本の糸)Aが構成されている。参考に、摺動部材断面の顕微鏡観察像のスケッチ(繊維11で構成される繊維束12を拡大したもの)を図2に示す。
【0045】
また、多孔質ポリテトラフルオロチレン繊維が平均20デニールとなるように多孔質ポリテトラフルオロチレンを引き裂き、得られた繊維を平均15本束ねて300デニールの繊維束(1本の糸)Bを構成した。
【0046】
また、多孔質ポリテトラフルオロチレンを引き裂かずにそのまま糸Cとして用いた。
【0047】
これらの繊維束A、B、或いは糸Cを用いて下記比較例、実施例の織布のサンプルを作製した。
【0048】
(比較例1)
繊維束Aを平織にして厚さ0.3〜0.4mmの織布を作製した。
【0049】
(比較例2)
繊維束Bを平織にして厚さ0.2〜0.3mmの織布を作製した。
【0050】
(比較例3)
糸Cを平織にして厚さ0.35〜0.45mmの織布を作製した。
【0051】
(実施例1)
比較例1と同様にして作製した織布(繊維束A使用)を、表面温度が360度となる加熱回転体に、0.1m/minの処理速度にて均等に2分間接触させ、連続処理を施した。これにより延伸多孔質ポリテトラフルオロエチレンの融点よりも高い温度で加熱処理された織布となった。
【0052】
(実施例2)
比較例2と同様にして作製した織布(繊維束B使用)を用い、その他の条件は実施例1と同様に加熱処理を施した。
【0053】
(実施例3)
糸Cを平織にして厚さ0.35〜0.45mmの織布を作製し、これを実施例1と同様に加熱処理を施した。
【0054】
(実施例4)
比較例1と同様にして作製した織布を、表面温度が250度となる加熱回転体に均等に接触させ、0.1m/minの処理速度にて連続処理を施した。そのことにより延伸多孔質ポリテトラフルオロエチレンに微小な収縮が発生した。
【0055】
(実施例5)
比較例2と同様にして作製した織布を用い、その他の条件は実施例4と同様に加熱処理を施した。
【0056】
2.摩耗試験
実施例1〜5、比較例1〜3の織布のそれぞれを幅25mm×長さ80mmのサイズに切断し、長さ方向の中間部位に荷重がかかるようR45mmの曲面部材に設置し、これに荷重300g重を加えて摩擦相手部材に押し付けた。摩擦相手部材として水平移動可能なステージを用いた。測定対象の織布と接触させるステージ上の部位にはポリイミドフィルムを設置した。摩耗試験は、ステージを100mm長のストロークで往復させることにより行った。
【0057】
【表1】

【0058】
表1から分かるように、比較例1〜3ではステージを2万回往復させるまでに織布に破断が発生した。これに対して、織布に加熱処理を施した実施例1〜5では、加熱処理の温度がポリテトラフルオロエチレンの融点以上であったか融点未満であったかにかかわらず、2万回往復した後でも破断が発生せず、耐摩耗性が向上していることが確認された。ただし、加熱処理が240度以上(織布に顕著に収縮が発生する温度)ではあるが融点未満であり、かつ比較的細い繊維により構成された繊維束Bを用いた実施例5では、繊維同士の擦れによるためか、ステージを更に1万回(合計3万回)往復した後には破れが発生していた。
【0059】
以上のように、フッ素樹脂の繊維を含む糸で織られた布を加熱処理することにより、非常に有用な摺動部材が得られることが確認された。
【0060】
サンプル織布の引張試験も行ったので、その結果も表1に表示している。試験方法は次の通りである。織布のサンプルのそれぞれをJIS−K7127の5号ダンベル形状に加工して、JIS−K7161に準拠して引張強度(引張速度:50mm/分)を測定した。表1から分かるように、加熱処理を施した実施例1、4は、加熱処理を施していない比較例1と比べ引張強度が向上していることが確認された。同様に、加熱処理を施した実施例2、実施例5の場合は、加熱処理を施していない比較例2の場合に比べて引張強度が高く、また、加熱処理を施した実施例3の場合は、加熱処理を施していない比較例3の場合に比べて引張強度が高いことが確認された。
【0061】
また、ポリテトラフルオロエチレンの融点以上の加熱処理を施した実施例1では、ポリテトラフルオロエチレンに収縮が発生する程度であって融点未満の加熱処理を施した実施例4と比べて引張強度が高いことが確認された。また、600デニールの繊維束Aを用いた実施例1、実施例4では、300デニールの繊維束Bを用いた実施例2、5の場合と比べて引張強度が高いことが確認された。
【符号の説明】
【0062】
1 定着ロール
1a エンドレスベルト
2 加熱ロール
2a 円筒部
3 ハロゲンランプ
4 コア部材
5 押圧部
6 摺動部材
7 潤滑剤供給部材
8 紙
9 トナー
11 繊維
12 繊維束

【特許請求の範囲】
【請求項1】
フッ素樹脂の繊維を含む糸で織られた布を有する摺動部材であって、前記布は加熱処理を施されたものである摺動部材。
【請求項2】
前記糸がポリテトラフルオロエチレンの繊維を含み、前記加熱処理の温度が327度以上、400度以下である請求項1に記載の摺動部材。
【請求項3】
前記糸がポリテトラフルオロエチレンの繊維を含み、前記加熱処理の温度が240度以上、327度未満である請求項1に記載の摺動部材。
【請求項4】
前記ポリテトラフルオロエチレンが延伸ポリテトラフルオロエチレンである請求項2または3に記載の摺動部材。
【請求項5】
前記繊維が2種以上のフッ素樹脂を含む請求項1〜4のいずれかに記載の摺動部材。
【請求項6】
前記糸が複数の繊維を含む束であり、前記布に潤滑剤が付着している請求項1〜5のいずれかに記載の摺動部材。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれかに記載された摺動部材を備えた画像定着装置。



【図1】
image rotate

【図2】
image rotate


【公開番号】特開2011−191691(P2011−191691A)
【公開日】平成23年9月29日(2011.9.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−59854(P2010−59854)
【出願日】平成22年3月16日(2010.3.16)
【出願人】(000107387)日本ゴア株式会社 (121)
【Fターム(参考)】