説明

撚糸織物

【課題】熱セット性に優れるナイロン糸を用いて、撚糸織物特有のシャリ感と共に軽量感、ソフト感、弾力感、発色性といった基本特性をも併せ持つ、従来にないナイロン糸使いの撚糸織物を提供する。
【解決手段】ナイロン11フィラメント糸を用いてなる織物であって、該フィラメント糸に撚係数5000〜20000の撚りが付されている撚糸織物。特に前記ナイロン11フィラメント糸を構成するナイロン11のモノマー含有量が0.35未満であること、織物表面にシボを有することがそれぞれ好ましい態様として含まれる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ナイロン11フィラメント糸を使用した撚糸織物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
古くから、ナイロン6、ナイロン66といったナイロンフィラメント糸を使用した織物が知られ、衣料だけでなく資材分野においても広く使用されている。
【0003】
しかし、ナイロンフィラメント糸は、織物表面にシボその他の変化を与えることや織物にシャリ感に富む風合いを与えるのが困難であるとされている。つまり、中〜強撚域で撚糸された糸を使用しても所望のシボ感やシャリ感が十分に得られない。そのため、撚糸された糸を用いるときは、一般に甘撚りと呼ばれる撚係数3000以下の領域で使用しているのが実情である。
【0004】
そこで、このような点を解決するため、例えば特許文献1では、アルカリ溶出成分を特定量含んだナイロン6複合繊維からなるフィラメント糸を使用することが提案されている。このフィラメント糸は、通常のナイロン6フィラメント糸よりも撚止めセット効果に優れているため、これを用いることにより、織物に変化に富むシボ感を与えることができる。
【特許文献1】特開平8−35145号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ナイロンフィラメント糸の熱セット性を向上させるには、上記のように繊維中にナイロン以外の成分を含有させる手段が一般的に有効とされている。これは、他成分を利用して、繊維全体ひいてはフィラメント糸全体としての熱セット性を向上させようというものである。
【0006】
衣料用織物には、軽量感、ソフト感、弾力感、発色性といった特性が欠かせず、いうまでもなく、通常のナイロンフィラメント糸を用いればこのような特性を織物に同時に付与することはできる。しかしながら、繊維内にナイロン以外の成分を含ませることにより、織物からこれらの特性の一部が奪われることがある。例えば、発色性を例に取ると、鮮明で堅牢性ある色彩は、染料を繊維内部へ十分吸尽させることにより達成されるところ、他成分が含まれているとその部分には染料が吸尽されないから、結果して所望の発色性は得られない。
【0007】
熱セット性とは、基本的に繊維を形成する高分子組成物の基質に由来する特性である。したがって、上記のような手段を採用しないのであれば、ナイロン自身の改質以外に手段がないのが実情である。ところが、ナイロン自身を改質して熱セット性を向上させようという試みは、未だ行われていない。
【0008】
本発明は、このような点を鑑みなされたもので、熱セット性に優れるナイロン糸を用いて、撚糸織物特有のシャリ感と共に軽量感、ソフト感、弾力感、発色性といった基本特性をも併せ持つ、従来にないナイロン糸使いの撚糸織物を提供することを課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、上記課題を解決するため鋭意研究の結果、本発明に到達した。
【0010】
すなわち、本発明は、ナイロン11フィラメント糸を用いてなる織物であって、該フィラメント糸に撚係数5000〜20000の撚りが付されていることを特徴とする撚糸織物を要旨とするものであり、前記ナイロン11フィラメント糸を構成するナイロン11のモノマー含有量が0.35未満であること、織物表面にシボを有することをそれぞれ好ましい態様として含むものである。
【発明の効果】
【0011】
本発明の撚糸織物は、ナイロン11フィラメント糸の優れた熱セット性を利用したものであり、撚糸織物特有のシャリ感を有すると共に、軽量感、ソフト感、弾力感、発色性といった基本特性をも併せ持つ織物である。本発明の撚糸織物は、これらの特性を有するがゆえに、ナイロン織物とって従来適用し難いとされていたアウター用途への適用が可能であり、さらなる用途展開も期待される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0013】
本発明ではナイロン11フィラメント糸を用いる。この糸の原材料たるナイロン11とは、11−アミノウンデカン酸を重縮合することにより得られるものである。11−アミノウンデカン酸はヒマ(トウゴマ)の種子から抽出されたひまし油を元に生成されるものであるため、ナイロン11は、植物由来成分といえる。ナイロン11中には、少量であればε−カプロラクタムやヘキサメチレンジアンモニウムアジペートなどの他のポリアミド形成単量体が共重合されていてもよく、また、ナイロン6やナイロン66など他のポリアミドがブレンドされていてもよい。さらに、ナイロン11中には、効果を損なわない範囲であれば、酸化防止剤、可塑剤、難燃剤、艶消剤、無機充填剤、補強剤、耐熱剤、着色剤、顔料などの各種添加剤が含有されていてもよい。
【0014】
ナイロン11は、いうまでもなく高分子組成物であるところ、低分子組成物(モノマー)を必然的に含んでいる。このモノマーの量を通常よりも少なくすると、繊維を得る際に溶融紡糸、延伸条件などを厳しく制御せずとも、強伸度に優れたナイロン11フィラメント糸を操業性よく得ることができる。したがって、ナイロン11中に含まれるモノマー量としては、0.35%未満であることが好ましい。
【0015】
ナイロン11のモノマー量の測定は、以下のようにして行う。まず、ナイロン11チップを凍結粉砕して1mm角以下になるようにし、これを0.5g分精秤し、純水10mlを添加して、60℃のウォーターバス中で2時間抽出する。次に、0.45μmのフィルターでろ過し、GC/MS測定用試料とし、以下に示す条件でGC/MSの測定を行う。
【0016】
装置:GC:アジレント6890N、MS:アジレント 5975C
カラム:5%−ジフェニル−95%−ジメチルポリシロキサン
カラム温度:50℃、昇温測定 20℃/分
キャリアガス:ヘリウム
注入口温度:250℃、注入量1μリットル、スプリット比 10:1
検出器温度:280℃
ナイロン11中のモノマー量を0.35%未満となすには、チップとイオン交換水を向流で接触させ、浴比(チップ/イオン交換水=1/10〜1/4)、97℃で8〜16時間、抽出処理を行う方法などがあげられる。
【0017】
ナイロン11フィラメント糸を構成する繊維(ナイロン11繊維)の断面形状としては、特に限定されるものでなく、丸断面、異形断面、中空断面など任意の形状が採用できる。
【0018】
また、ナイロン11繊維の比重は1.03g/cm程度と、ナイロン6繊維の1.14g/cmなどと比べて小さく、このため、中実繊維のままでも所望の軽量感を得ることがでる。つまり、本発明では、中空繊維(中空断面の繊維)の使用をなんら制限するものではないが、従来のように、織物に軽量感を与えるため、強度を犠牲にしてでも中空繊維を採用するといったことをしなくても、織物に所望の軽量感を付与しうるのである。
【0019】
フィラメント糸の単糸繊度については、10dtex以下とするのが好ましい。10dtexを超えると、織物に軽量感やソフト感などを与え難くなり、好ましくない。なお、単糸繊度の下限については特に限定されないものの、織物に張り腰感を付与する観点から、0.5dtex以上が好ましい。
【0020】
本発明の撚糸織物は、以上のナイロン11フィラメント糸を用いてなるものであるが、本発明の効果を損なわない限りにおいてこれ以外の糸を含んでいてもよい。他の糸としては、特に限定こそされないものの、例えば、ナイロン11が植物由来成分である点を考慮すれば、綿、羊毛、レーヨンなどの他、ポリ乳酸繊維糸などが好ましく、また、織物風合いを考慮すれば、ポリエステル繊維糸が好ましいといえる。他の糸の織物中に占める割合としては、具体的に40質量%以下が好ましい。
【0021】
そして、本発明の撚糸織物においては、上記のナイロン11フィラメント糸に中撚域以上の撚りが付されている。これにより、トルクが発現し、変化に富む表面感を有する織物、例えば表面にシボを有する織物が得られる。
【0022】
具体的には、撚係数として5000〜20000の範囲で撚りが付されている必要がある。撚係数が5000未満になると、糸に十分なトルクを発生させることができなくなる。つまり、撚係数が5000未満では、織物の表面感として、経緯糸に84dtexクラスの仮撚加工糸を配してなるポンジー織物などに見られる、変化に乏しいシボ感しか得られず、風合いとしても撚糸織物特有のシャリ感は得られない。一方、20000を超えると、糸にトルクが過度に発生し、これを低減させるために軟化点近くまでセット温度を上げなければなくなる。そうすると、糸が過度に熱セットされるので、染色加工時に十分なトルクを発生させることができなくなり、織物表面にシボ感を与えることができないか、又はできたとしても変化に乏しいシボ感しか与えることができなくなってしまう。
【0023】
ここで、撚係数とは、撚係数=撚数(T/M)×(繊度(dtex)/1.11)1/2なる式で定義されるものである。
【0024】
本発明にかかる撚糸織物の最大の特徴は、熱セット性に優れている点にある。ナイロンの場合、鎖状分子は、繊維内で隣接分子のOH間水素結合距離が最小となるように配位され、エネルギー的に安定な状態にある。ここで、糸に撚りをかけると、隣接分子のOH間水素結合距離が伸び、分子間に歪みエネルギーが貯えられ構造が不安定となる。このとき、糸に熱を加えると、不安定な水素結合が切断され、エネルギー的に安定な状態で隣接分子間に水素結合が再生し、その状態で繊維が固定される。この固定が熱セットである。
【0025】
ナイロン6やナイロン66などは、分子内にアミド基が比較的密に配されている。このため、糸に撚りをかけた後、これをエネルギー的に安定な構造となすには、より高い温度で熱セットする必要がある。つまり、ナイロン6やナイロン66などからなるフィラメント糸の場合、撚糸後高温で熱セットする必要があり、その結果、糸が過度に熱セットされ、後に織物を染色加工しても変化に富むシボ感が得られないのである。そこで、本発明者は、試行錯誤の末、分子内においてアミド基が比較的粗に配されているナイロン11フィラメント糸を用いれば、次工程たる製織工程で糸のビリつきを抑えうる程度の弱い熱セットが可能であることを見出し、ひいてはそれが織物表面へ変化に富むシボ感を与える上で有用であることを知見し、本発明をなすに至った。
【0026】
次に、本発明の撚糸織物を製造する好ましい方法について説明する。
【0027】
まず、好ましくはモノマー量を0.35%未満としたナイロン11チップを用意し、このチップの水分率を0.05質量%に調整した後、エクストルーダー型溶融押出機に供給し、紡糸温度230℃で溶融紡糸する。次いでこれを延伸ローラーにより延伸し、速度約4000m/分で巻き取ることにより、ナイロン11フィラメント糸を得ることができる。
【0028】
その後、リング撚糸機やダブルツイスターなどの撚糸機を用いて、得られたフィラメント糸を撚糸する。このときの撚係数は、前記したとおりである。
【0029】
撚糸した後は、糸を熱セットする。セット手段としては、特に限定されないが、乾熱ヒーターによるセットやスチームによるセットが好ましく採用される。熱セットとしては、前述したように、過度の熱セットは織物表面へ変化に富むシボ感を与える上で不利となるため、好ましくは、次工程たる製織工程において、糸のビリつきを抑制できる程度のものが好ましい。そのためセット温度としては、乾熱ヒーターによる場合は、100〜130℃が、スチームによる場合は、90〜125℃がそれぞれ好ましい。
【0030】
熱セット後は、市販の織機を用いて製織し、その後、通常の条件に基づいて染色加工すれることにより、目的の撚糸織物が得られる。
【実施例】
【0031】
(実施例1)
相対粘度(96%硫酸を触媒として、濃度1g/dl、温度25℃で測定)が2.01、モノマー量が0.25%で、耐熱剤及び酸化防止剤を含むナイロン11チップを準備し、このチップの水分率を0.05質量%に調整した後、エクストルーダー型溶融押出機に供給し、紡糸温度230℃で溶融した。そして、所定の紡糸口金よりナイロン11を吐出し、延伸操作した後、速度4000m/分で巻き取り、130dtex120fのナイロン11フィラメント糸を得た。
【0032】
次いで、村田機械(株)製ダブルツイスター302型を用いて、上記ナイロン11フィラメント糸をZ1500T/M(撚係数17103)で撚糸し、チーズ形状のパッケージとして巻き取った。
【0033】
そして、非接触式ヒーター(乾熱ヒーターの一種)、フィード部、デリベリ部及び巻き取り部を備えてなる熱処理装置のフィード部に上記パッケージを設置し、オーバーフィード率0%、速度150m/分、温度120℃なる条件にてナイロン11フィラメント糸を熱セットした。
【0034】
次に、熱セットされたナイロン11フィラメント糸を経緯糸に用い、経糸密度84本/2.54cm、緯糸密度69本/2.54cmで梨地組織の生機を製織した。なお、経糸準備から製織に至る一連の工程において、目立ったトラブルは認められなかった。
【0035】
その後、得られた生機を60℃で精練し、乾燥後、160℃でプレセットし、さらに130℃で染色した後ファイナルセットすることにより、目的の撚糸織物を得た。
【0036】
得られた織物は、表面感として変化に富むシボ感を有しており、また、風合いとして適度なシャリ感、ソフト感、軽量感などを有するものであった。
【0037】
(実施例2)
実施例1で用いたナイロン11チップを同例と同一の方法で溶融した後、同例とは別の紡糸口金よりナイロン11を吐出し、速度1000m/分で巻き取り、延伸操作して90dtex66fのナイロン11フィラメント糸を得た。
【0038】
そして、撚数をSZ2000T/M(撚係数18973)に変更すること、並びに熱セット条件のうち、速度を180m/分、温度を125℃に変更した以外は、実施例1と同様にして、上記ナイロン11フィラメント糸を撚糸及び熱セットした。
【0039】
次に、熱セットされたナイロン11フィラメント糸が経緯いずれの方向にもSZ2本交互で配されるよう製織し、経糸密度90本/2.54cm、緯糸密度77本/2.54cmで平組織の生機を得た。なお、経糸準備から製織に至る一連の工程において、目立ったトラブルは認められなかった。
【0040】
その後、得られた生機を実施例1と同様の条件で染色加工し、目的の撚糸織物を得た。
【0041】
得られた織物は、表面感として変化に富むシボ感を有しており、また、風合いとして適度なシャリ感、ソフト感、軽量感などを有するものであった。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
ナイロン11フィラメント糸を用いてなる織物であって、該フィラメント糸に撚係数5000〜20000の撚りが付されていることを特徴とする撚糸織物。
【請求項2】
前記ナイロン11フィラメント糸を構成するナイロン11のモノマー含有量が、0.35未満であることを特徴とする請求項1記載の撚糸織物。
【請求項3】
表面にシボを有することを特徴とする請求項1又は2記載の撚糸織物。


【公開番号】特開2010−133047(P2010−133047A)
【公開日】平成22年6月17日(2010.6.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−308595(P2008−308595)
【出願日】平成20年12月3日(2008.12.3)
【出願人】(592197315)ユニチカトレーディング株式会社 (84)
【Fターム(参考)】